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JP4084581B2 - 高耐衝撃性鋼管の製造方法およびその方法により製造された高耐衝撃性鋼管 - Google Patents

高耐衝撃性鋼管の製造方法およびその方法により製造された高耐衝撃性鋼管 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のドアインパクトビーム、バンパー用材料、バンパー補強用材料等の衝撃吸収エネルギーを必要とされる部材として用いられる高耐衝撃性鋼管の製造方法およびその方法により製造された高耐衝撃性鋼管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の側面衝突時の衝撃吸収を目的とするドアインパクトビーム用の鋼管には、引張強度が大きく、かつ耐力(降伏応力)が小さいことが求められる。この衝撃吸収特性は、耐力と引張強度との比として定義される降伏比で表現される。ところが一般に鋼管の引張強度を上げると耐力も大きくなり、従来品では引張強度1500〜1600MPa、降伏比70〜80%が限界となっていた。このため更に軽量化を図り、衝突安全性を高めるために、一段と高強度、低降伏比の鋼管が求められていた。
【0003】
なお従来一般に耐力は、JISに規定されている通り試験片に0.2%の永久歪みを生ずる応力を測定する方法により求められ、この0.2%耐力に基づいて降伏比が算出されている。図1は鋼の応力-歪み曲線を模式的に示した図であり、衝突時に衝撃吸収部材が変形することにより吸収できる衝撃エネルギーはハッチング部分の面積で表される。上記のように従来は0.2%耐力による評価がなされていたため、右下がりのハッチング部分の面積を衝撃エネルギーの吸収能力として設計がなされていた。ところが本発明者の研究によれば、降伏点が明確に現れないいわばなで肩の応力-歪み曲線を持つ鋼材の場合には、図1に示すように衝突時に鋼管は0.2%の永久歪みを生ずるまでにかなりの衝撃エネルギーを吸収するため、このJISに規定される0.2%耐力を用いた降伏比は、衝撃吸収特性を過小評価していたことが判明した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、従来品よりも更に高強度、低降伏比の材料特性を備え、超軽量と高衝突安全性を兼ね備えた新規な高耐衝撃性鋼管及びその製造方法を提供するためになされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明の高耐衝撃性鋼管の製造方法は、質量比で、C:0.19〜0 . 35%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.6%、P:0.025%以下、S:0.02%以下、Al:0.010〜0.050%、B:2〜35ppm、Ti:0.005〜0 . 05%を必須成分として含有し、さらにNb:0 . 005〜0 . 050%、V:0 . 005〜0 . 070%、Cu:0 . 005〜0 . 5%、Cr:0 . 005〜0 . 5%、Mo:0 . 1〜0 . 5%、Ni:0 . 1〜0 . 5%、Ca:0 . 01%以下、希土類元素(REM):0 . 1%以下のグループ中から選択された1種以上の選択成分を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる組成を有する電縫鋼管を、900℃以上に加熱したうえで、冷却速度100℃/sec以上、冷却水温35℃以下の条件で水冷焼入することを特徴とするものである。
【0006】
また本発明の高耐衝撃性鋼管は、何れも請求項1の方法によって製造されたものであり、請求項2の高耐衝撃性鋼管は、引張強度TSが1700MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが72%以下であることを特徴とする。また請求項3の高耐衝撃性鋼管は、引張強度TSが1800MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが70%以下であることを特徴とする。また請求項4の高耐衝撃性鋼管は、引張強度TSが1900MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが68%以下であることを特徴とする。また請求項5の高耐衝撃性鋼管は、引張強度TSが2000MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが66%以下であることを特徴とする。
【0007】
さらに請求項6の高耐衝撃性鋼管は、請求項2〜5の何れかに記載の高耐衝撃性鋼管であって、転位密度が101014mm-2であることを特徴とするものである。
【0008】
上記のように本発明は、従来品に比較して一段と高TS、低YRの材料特性を狙って開発されたものである。一般にこのような高TSの材料は、加熱後に水冷焼入を施し組織をマルテンサイト化することによって得られる。従来は硬質のマルテンサイト組織中に、軟質のオーステナイトやフェライトを一部残留させることによって耐力を低下させ、低降伏比の材料特性を得ていた。しかしこのような従来の手法では、前記したように強度が1500〜1600MPa、降伏比が70〜80%が限界であった。
【0009】
これに対して本発明では、マルテンサイト組織中の残留オーステナイトや残留フェライトをなくして従来品に比較して一段と高TSを実現する一方、硬質のマルテンサイト組織中の転位密度を従来品よりも格段に高め、応力下における変形を生じ易くしてYS,YRを低減させている。本発明品の転位密度は101014mm-2であり、従来品の転位密度が1089mm-2であるのに比べて、極めて高密度となっている。このような高転位密度を実現したことにより、本発明の高耐衝撃性鋼管は従来品に比較して一段と高TSでありながら、低YRとなる。しかもYRを算出するためのYS値として従来は用いられていなかった0.1%耐力を採用したため、材料特性が衝撃吸収特性をより正しく反映したものとなり、ドアインパクトビームの設計に際しては限界付近までの軽量化を図ることが可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の内容について詳細に説明する。
本発明の高耐衝撃性鋼管は、請求項1に記載したように、鋼中に質量比で、C:0.19〜0.35%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.6%、P:0.025%以下、S:0.02%以下、Al:0.010〜0.050%、B:2〜35ppm、Ti:0.005〜0.05%を必須成分として含有し、Nb:0.005〜0.050%、V:0.005〜0.070%、Cu:0.005〜0.5%、Cr:0.005〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜0.5%、Ca:0.01%以下、希土類元素(REM):0.1%以下のグループ中から選択された選択成分を含有させた電縫鋼管を誘導加熱したうえ、水冷焼入することにより製造される。各成分の数値限定の理由は次のとおりである。
【0011】
Cはマルテンサイト自体を強化して硬さを向上させるための必須成分であり、1700MPa以上のTSを得るためには少なくとも0.19%が必要である。しかしCが過剰になるとマルテンサイト組織が脆くなり焼入れの際に破壊する焼割れを招くので、0.35%以下とする。なお請求項2のTSが1700MPa以上でYRが72%以下である鋼管を得るためにはCを0.21%程度とし、請求項3のTSが1800MPa以上、YRが70%以下である鋼管を得るためにはCを0.24%程度とし、請求項4のTSが1900MPa以上、YRが68%以下である鋼管を得るためにはCを0.28%程度とし、請求項5のTSが2000MPa以上、YRが66%以下である鋼管を得るためにはCを0.30%程度とすることが好ましい。
【0012】
Si、Mn、Tiは何れも焼入れ時におけるオーステナイトからのマルテンサイト変態を促進する成分であり、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.6%、Ti:0.005〜0.05%の各数値限定範囲よりも少ないと焼入れ性が低下して残留オーステナイトや残留フェライトを生じ、所期の材料特性を得られない。逆に上記の数値限定範囲を超えると、焼割れや偏析の原因となるので好ましくない。なおTiはNを固定することにより、焼入れ性を向上させる作用を持つ。
【0013】
Bはフェライトの析出を抑制する成分であるが、鋼中にガス成分として含まれるNと結合してBNとなるとその効果が失われるため、2ppm以上とする。しかし35ppmを超えると偏析介在物となる。PとSは偏析介在物となりマルテンサイト組織を脆くするため、P:0.025%以下、S:0.02%以下とする必要がある。Alは脱酸剤であり0.010%未満では脱酸効果が不十分となり、0.050%を超えるとその酸化物が結晶間介在物となるので好ましくない。
【0014】
NbとVはマルテンサイト組織中に析出物を生じて転位の通過を妨げることにより、強度を向上させる析出強化成分である。Cu、Cr、Mo、Niはマルテンサイト結晶中に固溶されて転位の通過を妨げることにより、強度を向上させる固溶強化成分である。なおCr、Moは析出強化成分としても作用する。これらの成分は強度増加に寄与するが、コストアップ要因となるうえ過剰の添加は偏析介在物となるため、Nb:0.005〜0.050%、V:0.005〜0.070%、Cu:0.005〜0.5%、Cr:0.005〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜0.5%が適当である。
【0015】
Caと希土類元素(REM)は介在物の形態制御に寄与する成分であるが、過剰の添加はマルテンサイト組織の破壊につながる有害な偏析を招くので、Ca:0.01%以下、REM:0.1%以下が適当である。なおこれらのNb、V、Cu、Cr、Mo、Ni、Ca、希土類元素(REM)は必須成分ではなく、必要に応じて添加される選択成分である。希土類元素(REM)としては例えばY、La、Ce、Smを用いることができる。
【0016】
本発明では、上記組成の鋼からなる鋼管を電縫溶接により製造したのち、高周波加熱用のワークコイルに通して900℃以上に誘導加熱し、オーステナイト状態から水冷焼入する。このとき鋼管をコンベヤ上で連続搬送しながら固定されたワークコイル及び水冷焼入装置に通しても、鋼管を固定しておきワークコイル及び水冷焼入装置を移動させる方法を採用してもよい。
【0017】
この水冷焼入によりオーステナイトからマルテンサイトへの変態が瞬時に生ずると同時に、変態歪みに伴い7〜8%程度の膨張が発生し、マルテンサイト組織中の転位密度が急激に増加する。なお転位密度の測定は、JISによる引張試験を行なった後の試験片を透過電子顕微鏡により観察し、1μm×1μmの視野当たりの転位数を10視野で測定し、その平均値を取る方法で行なわれる。転位密度は単位体積当たりの転位長さで表すので、その単位はmm-2となる。
【0018】
前記したように本発明品の転位密度は101014mm-2であり、従来品の転位密度が1089mm-2であるのに比べて、極めて高密度となっている。このような高転位密度を実現したことにより降伏点が低下し、本発明の高耐衝撃性鋼管は従来品に比較して高TSでありながら、低YRとなる。
【0019】
このように高TS、低YRの高耐衝撃性鋼管を得るためには、水冷焼入の冷却速度を100℃/sec以上とすることが好ましい。図2は冷却速度とYRとの関係を示すグラフであり、100℃/sec以上とすることによってYRの急激な低下が見られる。これは急冷によって急激に変態歪みが発生し、転位密度を増加させるためと考えられる。
【0020】
また高TS、低YRの高耐衝撃性鋼管を得るためには、水冷焼入の冷却水温を35℃以下とすることが好ましい。図3に示すように、冷却水温が上昇するとYRが上昇する。これは冷却水温の上昇とともに焼入れが不十分となり、理想的なマルテンサイト変態が実現できなくなるためと考えられる。
【0021】
このようにして得られた本発明の高耐衝撃性鋼管は、従来品に比較してはるかに高強度でありながら低YRであるから、自動車のドアインパクトビーム、バンパー用材料、バンパー補強用材料等の衝撃吸収エネルギーを必要とされる部材として用いれば、優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。また従来品とは異なり0.1%耐力を採用したため、0.2%耐力に基づいて算出されていた衝撃吸収能力に比較して、図1に水平ハッチングで示す面積分だけ衝撃吸収能力が増加することとなり、実際の衝突時における衝撃吸収性能との相関がより的確になる。このため高強度であることとあいまって、限界付近までの軽量化を図ることができる。このため超軽量、高衝突安全性を兼ね備えた衝撃吸収部材を提供することが可能となる。
以下に本発明の実施例を示す。
【0022】
【実施例】
表1に示す各組成の鋼からなる電縫鋼管を製造し、コンベヤ上を一定速度で移動させてワークコイルに通すことにより誘導加熱したうえ隣接する水冷焼入装置で常温まで急冷した。冷却速度と冷却水温は表2に示した。切り出した試験片を引張試験機にかけて0.1%耐力と破断強度を測定した。また引張試験後の試験片を透過電子顕微鏡により観察し、転位密度を測定した結果も表2に示した。
【0023】
【表1】
Figure 0004084581
【0024】
【表2】
Figure 0004084581
【0025】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の高耐衝撃性鋼管は従来品よりも高強度、低降伏比の材料特性を備えたものであるうえ、0.1%耐力を採用したことにより衝撃吸収特性を正しく反映したものとなるから、限界付近までの軽量化を図った超軽量、高衝突安全性のドアインパクトビーム、バンパー用材料、バンパー補強用材料等の衝撃吸収エネルギーを必要とされる部材に適したものとなる。また本発明の製造方法によれば、このような高耐衝撃性鋼管を安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼の応力-歪み曲線を示す模式図である。
【図2】冷却速度とYRとの関係を示すグラフである。
【図3】冷却水温とYRとの関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 質量比で、C:0.19〜0.35%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.6%、P:0.025%以下、S:0.02%以下、Al:0.010〜0.050%、B:2〜35ppm、Ti:0.005〜0.05%を必須成分として含有し、さらにNb:0.005〜0.050%、V:0.005〜0.070%、Cu:0.005〜0.5%、Cr:0.005〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜0.5%、Ca:0.01%以下、希土類元素(REM):0.1%以下のグループ中から選択された1種以上の選択成分を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる組成を有する電縫鋼管を、900℃以上に加熱したうえで、冷却速度100℃/sec以上、冷却水温35℃以下の条件で水冷焼入することを特徴とする高耐衝撃性鋼管の製造方法。
  2. 請求項1の方法によって製造され、引張強度TSが1700MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが72%以下であることを特徴とする高耐衝撃性鋼管。
  3. 請求項1の方法によって製造され、引張強度TSが1800MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが70%以下であることを特徴とする高耐衝撃性鋼管。
  4. 請求項1の方法によって製造され、引張強度TSが1900MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが68%以下であることを特徴とする高耐衝撃性鋼管。
  5. 請求項1の方法によって製造され、引張強度TSが2000MPa以上であり、0.1%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YRが66%以下であることを特徴とする高耐衝撃性鋼管。
  6. 転位密度が101014mm-2である請求項2〜5の何れかに記載の高耐衝撃性鋼管。
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