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JP6369003B2 - 鋼材およびその製造方法 - Google Patents

鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材およびその製造方法に関する。
LNGなどの低温物質の貯槽タンクには、安全性を確保するため、優れた破壊靱性を有する鋼材が用いられる。例えば、9%Ni鋼などである。
従来、9%Ni鋼においては、P、Sなどの不純物の低減、Cの低減、さらには3段熱処理法、即ち、「焼入れ(Q)、二相域焼入れ(L)および焼戻し(T)」という熱処理の採用など、種々の改善が行われてきた。一方で、含Ni鋼の強度および靱性向上に有効な合金元素としてMoの添加が検討されてきた。
近年、合金元素価格の高騰などで鋼材の価格が急騰しており、9%Ni鋼と同等以上の性能(例えば、靱性)を有する、Ni含有量を低減した鋼材の開発が必要となってきている。このような低Ni型鋼材に関する従来技術としては下記のものがある。
特許文献1には、4.0〜7.5%のNiを含有し、Ms点が370℃以下となる低温用鋼が開示されている。特許文献2および3には、1.5〜9.5%のNiと0.02〜0.08%のMoを含有する鋼が開示されている。特許文献4には5.0〜10.0のNiと0.0015〜0.0040%を含有する低温用鋼が開示されている。
特開平6−136483号公報 特開平9−302445号公報 特開2002−129280号公報 特開2013−14811号公報
特許文献1に記載されるのは、Nを含有しない鋼材であり、また、700〜900℃での圧下率を20〜90%にすることが記載されているが、1パス当たりの圧下率は明示されていない。
特許文献2および3に記載されるのは、Nを含有しない鋼材であり、400℃以下で水冷を停止するDQ−LTの製造法が開示されているが、加熱温度や圧延の条件は不明である。
特許文献4には、Cr:1.5%以下、Mo:0.5%以下と広範な化学組成が記載されているが、具体例では、Crは最大0.51%、Moは最大0.17%の含有にとどまっている。
あらゆる構造物において、脆性破壊による崩壊は瞬時に構造物全体が崩壊し甚大な被害が想定されることから、絶対に避けるべき破壊形態である。したがって、貯蔵タンク等の建造物は脆性破壊の発生を避けるべく設計がなされているものの、設計を上回る外力の発生や施工に起因する欠陥など、設計者の想定外の異常事態に起因して脆性破壊が発生してしまう場合を考慮する必要がある。脆性破壊が発生すると極めて高速のき裂伝ぱにより脆性破壊が構造物全体に広がって構造物全体が破壊してしまう。したがって、万が一脆性き裂が発生しても発生した脆性き裂伝ぱを停止させることができる特性が求められる。この特性を一般的に「アレスト特性」と呼ぶ。簡易的にアレスト特性を知るには、三面スリットシャルピー吸収エネルギーを測定するのがよい。
優れた特性を有する低温用鋼を合理的に製造する方法を開発することは極めて重要である。しかし、特性を追求するあまり、特異な製造条件により製品不良が生じた場合、Ni量低減によるコストダウンを相殺してしまう。そのため歩留まり率および特性が良好となる最良な成分、製造方法を開発することが求められている。特許文献1〜4には、製造時の歩留まりに関する記述はない。
本発明は、9%Ni鋼よりも少ないNi含有量で、9%Ni鋼と同等の性能を有する鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。より具体的には、降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上の高強度と、極低温環境下でも9%Ni鋼並みの低温靭性とを有し、疵の発生を抑制したNi低減型の極低温用鋼材(特に、厚鋼板)およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、「降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上」にまで高強度化できれば、LNGタンク鋼板の薄肉化に貢献でき、LNGタンク製造コスト低下のメリットがある。また、母材強度を溶接金属強度に比べて十分に高くすることで、万一設計応力以上の応力がタンクに付与され、き裂が発生した場合でも、き裂が母材ではなく溶接金属に侵入し無害化できる効果がある。
極低温用とは、−60℃以下の低温領域、とりわけ−165℃以下の低温環境での用途を意味する。また、厚鋼板とは、3mm以上の厚みを有する鋼板、とりわけ5〜50mmの厚みを有する鋼板を意味する。
本発明者は、上記の目的を達成するために研究を重ねた結果、以下の(a)〜(c)の知見を得た。
(a)CrおよびMoを含有させれば、焼入性が増加し、強度を上昇できる一方、靭性を損なわせない。
(b)鋼板表面の傷は、歩留まり低下をもたらし、Ni量低減によるコスト合理化を相殺してしまう。AlおよびN量を調整し、加熱中におけるAlNの析出を抑制すれば、鋼板表面傷の発生を抑え、歩留まり低減が可能となる。
(c)鋼板中の残留オーステナイトが、体積分率で、4.0%以上含まれていれば、極低温環境下で高い靭性を得ることができる。残留オーステナイトの体積分率はX線回折法により評価できる。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の極低温用厚鋼板および極低温用厚鋼板の製造方法をその要旨とする。
(A)化学組成が、質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.10〜0.6%、Mn:0.3〜2.0%、Ni:6.03%以上8%未満、Cr:0.6〜1.0%、Mo:0.01〜0.5%、sol.Al:0.002〜0.08%、N:0.0005〜0.005%、Cu:0〜2.0%、V:0〜0.08%、Nb:0〜0.08%、Ti:0〜0.03%、B:0〜0.0030%、Ca:0〜0.0050%、Mg:0〜0.0050%およびREM:0〜0.0020%、残部:Feおよび不純物であり、下記の(1)式を満たす、降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上、三面スリットシャルピー衝撃試験における−196℃での破面の吸収エネルギーsE −196 が20J以上である、鋼材。
sol.Al×N≦8.6×10−5・・・(1)
ただし、(1)式中の元素記号はその元素の含有量(質量%)を示す。
(B)前記化学組成が、質量%で、Cu:0.05〜2.0%、V:0.005〜0.08%、Nb:0.005〜0.08%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0002〜0.0030%、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%およびREM:0.0002〜0.0020%から選択される1種以上を含有する上記(A)の鋼材。
(C)金属組織が、体積%で、4.0%以上の残留オーステナイトを含む上記(A)または(B)の鋼材。
(D)上記(A)または(B)の化学組成を有する鋼片を850℃以上1140℃未満の温度に加熱し、700℃以上830℃以下の温度で、1パス当たり5%以上、累積圧下率25%以上の圧延を行い(但し、圧延仕上温度は、700℃以上800℃以下)、直ちに200℃以下の温度まで加速冷却を行い、その後、650℃以下の温度で焼戻しをする鋼材の製造方法であって、前記加速冷却における冷却開始温度から600℃までの平均冷却速度が10℃/s以上であり、冷却開始温度から200℃までの平均冷却速度が5℃/s以上であり、降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上、三面スリットシャルピー衝撃試験における−196℃での破面の吸収エネルギーsE −196 が20J以上である、鋼材の製造方法。
(E)前記加速冷却後、600℃以上800℃以下に加熱し、200℃以下までの平均
冷却速度が5℃/s以上となるように冷却する二相域熱処理を行った後に、前記焼戻しをする上記(D)の鋼材の製造方法。
本発明によれば、5%を超えて8%未満という低いNi含有量であっても、9%のNiを含む鋼と同等以上の機械的性質を有する鋼材が得られる。この鋼材は安価でありながら低温靱性に優れているので、LNGのような低温物質の貯蔵タンク等の構造材料として好適である。
本発明において鋼材の化学組成および金属組織ならびに製造条件を上述のように規定した理由について、以下に詳述する。なお、鋼材の成分含有量についての「%」は「質量%」である。
C:0.01〜0.1%
Cは、強度を確保するのに有効な元素であり、0.01%以上含有させる。Cには、Mf点を低下させ、オーステナイト量を増加させて靱性を改善する効果があるものの、マルテンサイト素地そのものを硬化させる。よって、その含有量が過剰な場合、かえって靱性を劣化させる。よって、C含有量は0.01〜0.1%とする。好ましい下限は0.03%であり、好ましい上限は0.07%である。
Si:0.005〜0.6%
Siは、脱酸元素として有効であり、また、セメンタイトの析出を抑制し、焼戻しでのオーステナイトを安定化する元素であるので、0.005%以上含有させる。しかし、Siの含有量が過剰な場合には靱性を劣化させる。従って、含有量を0.005〜0.6%とする。好ましい下限は、0.03%であり、より好ましいのは0.1%である。また、好ましい上限は0.5%であり、より好ましいのは0.3%である。
Mn:0.3〜2.0%
Mnは、Mf点を低下させてオーステナイトを安定化するのに有効であり、その含有量が多いほど多量のオーステナイトが得られるので、0.3%以上含有させる。しかし、Mn含有量が過剰になると、マルテンサイト素地の靱性を劣化させる。従って、その含有量を0.3〜2.0%とする。好ましい下限は、0.5%であり、より好ましいのは0.7%である。また、好ましい上限は1.5%であり、より好ましいのは1.0%である。
Ni:5%を超えて8%未満
Niは、鋼の強度を上昇させるとともに、オースナイトの安定化するので、5%を超えて含有させる。Ni含有量は、多いほど強度が上昇するとともに、Mf点が低下して残留オーステナイト量が増加するが、Niを多量に含有させることはコスト上昇を招く。よって、Ni含有量は、5%を超えて8%未満とする。好ましい上限は7.5%であり、より好ましい下限は5.5%である。
sol.Al(酸可溶Al):0.002〜0.08%
Alは、Siと同様に脱酸元素として、また、セメンタイトの析出を抑制して焼戻しでのオーステナイトを安定化する。さらにAlは、Nと結合してAlNとなり加熱時のオーステナイト粒の微細化に寄与する効果も有する。従って、sol.Alとして0.005%以上の含有が必要である。しかし、Al含有量が多すぎると靱性劣化を引き起こす。従って、含有量をsol.Alとして0.005〜0.05%とする。より望ましい含有量の範囲は、0.02%〜0.04%である。
N:0.0005〜0.005%
Nは、オーステナイトの安定化に寄与する元素であり、また、Alと結合してAlNとなり加熱時のオーステナイト粒の微細化に効果を発揮する。これらの効果を得るには0.0005%以上の含有が必要である。しかし、過剰なNは、マルテンサイト素地を劣化させる。よって、その含有量は0.0005〜0.005%とする。好ましい下限は、0.002%であり、好ましい上限は0.004%である。
なお、sol.AlおよびNをそれぞれ上記に定める範囲としても、そのバランスが適正ではない場合には鋼板表面に疵を発生させ、歩留まりを低下させる。このため、「(sol.Al×N)を25×10−5以下に管理する必要がある。表面疵の有無は、圧延後の鋼板を目視検査等することにより判別できる。
Mo:0.01〜0.5%
Moは、低温域ではオーステナイト安定化元素として、オーステナイト量の増加に有効である。この効果を得るには0.01%以上の含有が望ましい。しかし、Moの含有量が0.5%を超えるとマルテンサイト素地の劣化を通して靱性が低下する。よって、その含有量は0.01〜0.5%とする。望ましい下限は0.02%である。望ましい上限は0.45%であり、より望ましい上限は0.40%である。
Cr:0.1〜1.0%
Crは、強度上昇に有効な元素であり、0.1%以上含有させる。しかしながら、その含有量が1.0%を超えると靱性が劣化する。よって、Cr含有量は0.1〜1.0%とする。
Cu:0〜2.0%
Cuは、固溶状態でオーステナイトを安定化させる元素であるので、含有させてもよい。しかし、過剰なCuは、焼戻し処理によって固溶Cuがε−Cuとして析出するので、高強度化には有効であるが靱性を劣化させる。よって、Cuを含有させる場合には、その含有量を2.0%以下とする。Cu含有量の好ましい下限は0.05%である。
V:0〜0.08%
Vは、鋼の高強度化に有効な元素であり、焼戻し処理によって析出物となり鋼を強化すので、含有させてもよい。しかし、過剰なVは、過剰な析出物により靱性を劣化させる。よって、Vを含有させる場合には、その含有量を0.08%以下とする。V含有量の好ましい下限は0.005%である。
Nb:0〜0.08%
Nbは、圧延での未再結晶温度域を拡大し、圧延後の組織微細化と高靱化に有効であるので、含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰な場合、靱性が劣化する。よって、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.08%以下とする。Nb含有量の好ましい下限は0.005%である。
Ti:0〜0.03%
Tiは、スラブのひび割れ防止に有効な元素であるので、含有させてもよい。しかし、Ti含有量が過剰な場合、靱性が劣化する。よって、Tiを含有させる場合には、その含有量を0.03%以下とする。Ti含有量の好ましい下限は0.005%である。
B:0〜0.0030%
Bは強度上昇に有効な元素であるので、含有させてもよい。しかし、Bの含有量が過剰な場合、靱性が劣化する。よって、Bを含有させる場合には、その含有量を0.0030%以下とする。B含有量の好ましい下限は0.0002%である。
Ca:0〜0.0050%
Caは靱性改善に有効な元素であるので、含有させてもよい。しかし、Caの含有量が過剰な場合、靱性が劣化する。よって、Caを含有させる場合には、その含有量を0.0050%以下とする。Ca含有量の好ましい下限は0.0002%である。
Mg:0〜0.0050%
Mgは靱性改善に有効な元素であるので、含有させてもよい。しかし、Mgの含有量が過剰な場合、靱性が劣化する。よって、Mgを含有させる場合には、その含有量を0.0050%以下とする。Mg含有量の好ましい下限は0.0002%である。
REM:0〜0.0020%
REM(希土類元素)は、溶接熱影響部の組織を微細化し、またSを固定する効果があるので、含有させてもよい。ただし、REMを含有させると介在物を形成し、その介在物が過剰な場合には清浄度を低下させるが、この介在物は比較的靱性劣化への影響が小さいため、REMの含有量は0.002%まで許容できる。好ましい上限は0.001%である。上記の効果は0.0002%以上含有させた場合に顕著となる。特に、REMは0.0003%以上含有させるのがより好ましい。なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。
本発明の鋼材は、上記の成分のほか、残部がFeと不純物とからなるものである。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
残留オーステナイト量:
厚鋼板中の残留γは、脆性き裂発生を抑制し、き裂伝ぱを停止するのに有効であり、低温環境下での靭性を向上させる効果がある。この効果は、鋼中の残留γ含有量が4.0体積%以上である場合に顕著となる。一方、残留γ含有量が25.0体積%を超えると、降伏応力が低下するおそれがある。好ましい下限は5.5体積%であり、好ましい上限は20.0体積%である。
次に上記の鋼材の製造方法について述べる。
(1)鋼片の加熱
鋼材の靱性向上のためには、初期オーステナイト粒、即ち、圧延前の鋼片でのオーステナイト粒の微細化が重要であり、このオーステナイト粒の微細化は、残留オーステナイト量の増加にも寄与する。従って、圧延前の鋼片の加熱温度を850℃以上1140℃未満とする。850℃より低温での加熱では強度が不足し、また、1140℃以上の温度での加熱では靱性が劣化する。好ましい下限は900℃であり、好ましい上限は1000℃である。
(2)圧延
組織微細化とオーステナイト量を増加させるためには、オーステナイトの未再結晶域で十分な圧延を行わなければならない。このためには、700℃以上830℃以下の温度域で、1パス当たり5%以上、累積圧下率25%以上の圧延を行うのが有効である。このような圧延であれば、未再結晶オーステナイト温度域でオーステナイト中に格子欠陥(転位)を導入し、未変態オーステナイトのマルテンサイトへの変態を抑制できるからである。このとき、700〜800℃の温度で圧延を仕上げる必要がある。圧延仕上温度が700℃よりも低いと鋼材の異方性が顕著になる。また、圧延仕上温度が800℃を超えると靭性が劣化する。
(3)冷却
圧延終了後は、直ちに200℃以下の温度域まで加速冷却を行う必要がある。このとき、冷却開始温度から600℃までの平均冷却速度を10℃/s以上とする必要がある。これは、仕上圧延で導入された格子欠陥(転位)をなるべく多く残すためである。一方、マルテンサイト組織が得られるようにするため、冷却開始温度から200℃までの平均冷却速度を5℃/s以上とする必要がある。200℃よりも高温で加速冷却を停止した場合は、十分にマルテンサイトが得られず強度が劣化する。圧延仕上げから水冷開始までの時間は短い方がよく、圧延終了から水冷開始までを30秒以内とするのが望ましい。
(4)焼戻し
加速冷却後は、650℃以下の温度で焼戻す必要がある。これにより冷却処理、すなわち、焼入れによって生成したマルテンサイトを焼戻すことができ、強度を調整するとともに、靱性を改善することができる。650℃を超える温度で焼戻しを行うと強度が低下する。
(5)二相域加熱
残留オーステナイト量をさらに増加させるためには、焼戻しの前にフェライトとオーステナイトの二相域に加熱するのが望ましい。よって、前記加速冷却および焼戻しの間に、600℃以上800℃以下に加熱し、200℃以下までの平均冷却速度が5℃/s以上となるように冷却する二相域熱処理を行うことが好ましい。二相域熱処理の加熱温度は、その下限を680℃とするのが好ましく、その上限を750℃とするのが好ましい。
表1および2に示す化学組成を有する供試材を溶製し、板厚は20mmの鋼板を試作した。製造条件を表3に示す。鋼板から試験片を採取し、下記の各種測定を行った。その結果を表3に併記する。
<残留γ量>
厚鋼板の1/4t(t:板厚)の位置から試験片を採取し、X線回折法により測定した。なお、いずれの厚鋼板においても、主たる金属組織がマルテンサイト組織で構成されていたため、面心立方構造を有する残留γと体心立方構造を有するマルテンサイトの格子構造の違いを利用して、X線ピークの積分強度比から残留γ量を測定した。
<引張試験>
厚鋼板の1/4t(t:板厚)の位置、圧延方向からJISZ2241に規定される4号引張試験片を採取し、常温での引張試験を行った。なお、JISG3127(低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板)において、SL7N590はYS≧590MPa、690≦TS≦830MPaと規定されているが、本発明では、常温における降伏強度(YS)は620MPa以上、引張強度(TS)は720MPa以上を目標とする。
<三面スリットシャルピー衝撃試験>
厚鋼板の1/4t(t:板厚)の位置、巾方向から三面スリットシャルピー衝撃試験片を採取し、−196℃での破面の吸収エネルギーsE−196(J)(3本の平均値)を調べた。三面スリットシャルピー吸収エネルギーsE−196は20J以上を目標とする。
Figure 0006369003
Figure 0006369003
Figure 0006369003
表3に示すように、本発明で規定される条件を全て満足する試験No.1〜41は、常温における降伏強度が620MPa以上、引張強度TSが720MPa以上であるともに、三面ノッチシャルピー吸収エネルギーsE−196が20J以上と高い値を示し、耐破壊安全性に優れていた。
これに対して、試験No.44〜51は、化学組成が本発明で規定される範囲を外れるため、常温での降伏強度、三面スリットシャルピー吸収エネルギーが劣化するか、または表面疵の発生が見られた。 試験No.52は、化学組成は本発明で規定される範囲内であるが、Al×Nが範囲を外れるため、表面疵が発生した。
本発明によれば、5%を超えて8%未満という低いNi含有量であっても、9%のNiを含む鋼と同等以上の機械的性質を有する鋼材が得られる。この鋼材は安価でありながら低温靱性に優れているので、LNGのような低温物質の貯蔵タンク等の構造材料として好適である。

Claims (5)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.1%、
    Si:0.10〜0.6%、
    Mn:0.3〜2.0%、
    Ni:6.03%以上8%未満、
    Cr:0.6〜1.0%、
    Mo:0.01〜0.5%、
    sol.Al:0.002〜0.08%、
    N:0.0005〜0.005%、
    Cu:0〜2.0%、
    V:0〜0.08%、
    Nb:0〜0.08%、
    Ti:0〜0.03%、
    B:0〜0.0030%、
    Ca:0〜0.0050%、
    Mg:0〜0.0050%および
    REM:0〜0.0020%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記の(1)式を満たす、降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上、三面スリットシャルピー衝撃試験における−196℃での破面の吸収エネルギーsE −196 が20J以上である、鋼材。
    sol.Al×N≦8.6×10−5・・・(1)
    ただし、(1)式中の元素記号はその元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Cu:0.05〜2.0%、
    V:0.005〜0.08%、
    Nb:0.005〜0.08%、
    Ti:0.005〜0.03%、
    B:0.0002〜0.0030%、
    Ca:0.0002〜0.0050%、
    Mg:0.0002〜0.0050%および
    REM:0.0002〜0.0020%から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の鋼材。
  3. 金属組織が、体積%で、4.0%以上の残留オーステナイトを含む請求項1または2に記載の鋼材。
  4. 請求項1または2に記載の化学組成を有する鋼片を850℃以上1140℃未満の温度に加熱し、700℃以上830℃以下の温度で、1パス当たり5%以上、累積圧下率25%以上の圧延を行い(但し、圧延仕上温度は、700℃以上800℃以下)、直ちに200℃以下の温度まで加速冷却を行い、その後、650℃以下の温度で焼戻しをする鋼材の製造方法であって、
    前記加速冷却における冷却開始温度から600℃までの平均冷却速度が10℃/s以上であり、冷却開始温度から200℃までの平均冷却速度が5℃/s以上であり、降伏強度が620MPa以上、引張強度が720MPa以上、三面スリットシャルピー衝撃試験における−196℃での破面の吸収エネルギーsE −196 が20J以上である、鋼材の製造方法。
  5. 前記加速冷却後、600℃以上800℃以下に加熱し、200℃以下までの平均冷却速度が5℃/s以上となるように冷却する二相域熱処理を行った後に、前記焼戻しをする請求項4に記載の鋼材の製造方法。
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