JP4076348B2 - 同期機の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、同期機又は同期発電機のトルクや速度を制御する制御装置において、電圧飽和による制御不能状態を回避するとともに、簡単な構成で高速な応答を行う技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図3に、一例として従来の技術による永久磁石型同期電動機の制御装置のブロック図を示し、以下この図に基づいて従来の技術を説明する。
電流制御器3は、永久磁石型同期電動機1の一次電流のd軸電流idとq軸電流iqとがそれぞれd軸電流指令id*とq軸電流指令iq*とに追従するような電圧指令を電力変換器2に出力する。電力変換器2は、電圧指令通りの電圧を永久磁石型同期電動機1に印加する。
【0003】
q軸電流指令演算器11は、永久磁石型同期電動機1のトルク指令T*とd軸電流指令id*とからq軸電流指令iq*を出力する。永久磁石型同期電動機1の出力トルクTは、次式(1)に示す
【0004】
【数1】
【0005】
で表されることから、(1)式をq軸電流iqについて解いた式をq軸電流指令iq*として次式(2)で演算される。
【0006】
【数2】
【0007】
ここで、φは永久磁石型同期電動機1の永久磁石の磁束、LdとLqはd軸とq軸インダクタンスである。よって、永久磁石型同期電動機1の出力トルクTはq軸電流指令iq*を(2)式とすることで、トルク指令T*通りに追従することが出来る。
【0008】
フィルタ12は、q軸電流指令iq*を低域通過フィルタに通したiqfを出力する。高効率d軸電流C演算器13は、次式(3)に示される
【0009】
【数3】
【0010】
を用いて最大効率で運転できるd軸電流電流指令CとなるidCを演算する。
(3)式は、公知技術であり、永久磁石型同期電動機1を最大効率運転する条件式である。
【0011】
高効率d軸電流C演算器13にq軸電流指令iq*をフィルタ12に通したiqfを用いる理由を説明する。
トルク指令T*が変化すると、(2)式よりq軸電流指令iq*が変化する。
(3)式のiqfの代わりにiq*を用いると、q軸電流指令iq*が変化すると、id*=idCの場合にd軸電流id*が変化する。(2)式よりid*が変化するとiq*が変化し、さらにid*が変化することになり不安定になる恐れがある。よって、上記不安定性を抑制するために、iq*が急変してもゆっくりと変化するiqfを(3)式に用いる。
【0012】
飽和検出器8は、電力変換器2が出力できる最大電圧Vcよりも入力した電圧指令が大きい場合には電圧飽和信号を−1とし、そうでない場合は電圧飽和信号を1として出力する。つまり、電圧飽和信号が−1の場合は電圧飽和状態で、電圧飽和信号が1の場合は電圧飽和でない状態である。
【0013】
d軸電流指令生成器14は、飽和検出器8の出力が1の場合は正の固定値を時間積分し、飽和検出器8の出力が−1の場合は負の固定値を時間積分するd軸電流idxを求め、idxと高効率d軸電流C演算器13の出力idCとを比較し負の方向に大きい方を選択してd軸電流指令id*として出力する。その時間積分の際の初期値はd軸電流指令生成器14の出力のd軸電流指令id*とする。またidxは上限が0に制限される。
【0014】
次に、d軸電流指令生成器14の動作について説明する。
永久磁石型同期電動機1の電圧方程式は次式(4)、(5)で表される。
【0015】
【数4】
【0016】
ここで、vdとvqはd軸、q軸電圧、Rは永久磁石型同期電動機1の電機子巻線抵抗、pは微分演算子、ωは永久磁石型同期電動機1の回転速度である。高効率d軸電流C演算器13の出力idCは、負の値である。電圧飽和でない場合は、idxはd軸電流指令id*を初期値として最大で0まで正の固定値を時間積分する。よって、通常はidx>idCなのでd軸電流指令生成器14は負の方向に大きいidCをid*として出力し、永久磁石型同期電動機1は高効率に運転される。
【0017】
電圧飽和の場合は、d軸電流指令id*を初期値として負の固定値を時間積分する。よって、idx<idCなのでd軸電流指令生成器14は負の方向に大きいidxをid*として出力する。
(5)式より分かるように、d軸電流idを負の方向に増加すればq軸電圧vqの大きさは減る。よって、電圧飽和の場合に負の固定値を時間積分することで徐々にd軸電流を負の方向に増加させ、電圧指令を電力変換器2の出力可能な最大電圧Vcまで減らし、電圧飽和を回避するようにしている。
【0018】
ここで、idxを求める際に最大値を0で制限するのは、Ld<Lqの関係があることから(1)式第2項のリラクタンストルクが負となり、永久磁石型同期電動機1が出力するトルクTが減少するためである。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
永久磁石型同期電動機のトルクは、(1)式から分かるように、第1項の永久磁石による磁石トルクと第2項のインダクタンス差によるリラクタンストルクとに分けられる。同期電動機の一次電流の大きさに制限がある場合、永久磁石の磁束φが小さな永久磁石型同期電動機や又は永久磁石のないシンクロナスリラクタンスモータのような同期電動機を高速な応答が得られるようにするには、リラクタンストルクを用いなければならない。リラクタンストルクにはd軸電流も必要である。
高効率d軸電流C演算器13の出力idCをd軸電流指令id*に用いる場合、q軸電流指令iq*をフィルタに通したiqfを用いて演算している。すると、トルク指令T*の変化に対してiqfの変化は遅いためid*は高速に変化することが出来ず、同期電動機の高速なトルク応答が得られない。
【0020】
また、電圧飽和時にはd軸電流を徐々に負の方向に増加させている。こうすることによって、(5)式から分かるようにvqの大きさが小さくなることが分かる。しかし、d軸電流を負の方向に増加し続けると、(4)式から分かるようにvdの大きさが増加するので、vd、vqを成分とする電圧ベクトルの大きさである電圧は逆に増加するようになる。特に、永久磁石の磁束φが小さな永久磁石型同期電動機や又は永久磁石のないシンクロナスリラクタンスモータのような同期電動機は、その傾向が強い。
【0021】
本発明は上述した点に鑑みて創案されたもので、その目的とするところは、同期機を最大効率で運転できるd軸電流をトルク指令で決定し、さらに同期機に出力可能な電圧によってd軸電流とトルクを制限することで上記問題点を解決するものである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、請求項1に示す如く、同期電動機に電力を供給する電力変換器と、前記同期電動機の一次電流を前記同期電動機の界磁極の方向であるd軸とそれと直交する方向であるq軸とに分離し各々をd軸電流指令とq軸電流指令に追従するように独立に調整して前記同期電動機のトルクや速度を制御するための電圧指令を前記電力変換器に出力する電流制御器と前記電圧指令が前記電力変換器で出力可能な最大電圧を越えた時は−1となり、超えない時は1となる電圧飽和信号を出力する飽和検出器と、前記飽和検出器の出力が1の時は正の固定値を時間積分し、前記飽和検出器の出力が−1の時は前記d軸電流指令を初期値として負の固定値を時間積分し、0から前記最大d軸電流演算器の出力までの範囲に制限して出力する飽和積分器とを有する同期機の制御装置において、
前記電力変換器が前記同期電動機に出力可能な最大電圧と前記同期電動機の回転速度とから前記最大電圧で前記同期電動機の最大トルクを得るためd軸電流の負の最大制限値を出力する最大d軸電流演算器と、
前記最大d軸電流演算器の出力と前記最大電圧と前記回転速度とから前記最大電圧で前記同期電動機が出力可能なトルクを求め該トルクを前記同期電動機のトルクの制限値として出力するトルク制限値演算器と、
前記同期電動機のトルク指令を前記トルク制限値演算器の出力に制限するトルク指令制限器と、
前記トルク指令制限器の出力の絶対値に高効率ゲインを乗ずることで前記同期電動機を最大効率で運転するためのd軸電流指令Aを出力する高効率d軸電流演算器と、
前記飽和積分器の出力と前記高効率d軸電流演算器の出力とを比較して負の方向に大きい方の出力を選択して前記d軸電流指令として出力するd軸電流指令選択器と、
前記トルク指令制限器の出力と前記d軸電流指令選択器の出力とから前記q軸電流指令を出力するq軸電流指令演算器とを具備し、
前記d軸電流指令選択器の出力は前記飽和積分器とq軸電流指令演算器と電流制御器へ伝達されるよう構成したものである。
【0023】
また、請求項2に示す如く、前記高効率ゲインを前記トルク指令制限器の出力と前記q軸電流指令演算器の出力とから求める前記高効率d軸電流演算器を具備する請求項1記載のものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
図1は、請求項1を表す本発明の一実施例を示すブロック線図であり、この図に基づいて説明するが、従来の技術と同一部分は説明を省略する。
図1において、最大d軸電流演算器4は、永久磁石型同期電動機1の回転速度ωと電力変換器2の出力可能な最大電圧Vcとを入力して、最大電圧Vcで最大トルクが得られるd軸電流の負の最大値idmを出力する。
【0026】
定常状態で電機子巻線抵抗Rの項を無視したvd、vqを成分とする電圧ベクトルの大きさが最大電圧Vcに等しいとすると、(4)式と(5)式とにより、次式(6)
【0027】
【数5】
【0028】
となる。
(6)式の平方根は永久磁石型同期電動機1の一次磁束の大きさを表し、(6)式を一次磁束の大きさについて解いたものは永久磁石型同期電動機1が最大電圧Vcで出力できる次式(7)に示す一次磁束の大きさの最大値φ1mとなる。
【0029】
【数6】
【0030】
(7)式に(1)式を代入し、トルクTの2乗について解くと、次式(8)で表される
【0031】
【数7】
【0032】
となり、次式(9)、
【0033】
【数8】
【0034】
を満たすidがd軸電流の負の最大値idmとなる。よって、最大d軸電流演算器4では、最大電圧Vcと回転速度ωとを入力して、(9)式をidについて解いた負の最大値idmを出力する。
【0035】
トルク制限値演算器5は、最大d軸電流演算器4の出力idmと回転速度ωと最大電圧Vcとから最大電圧Vcで永久磁石型同期電動機1が出力可能なトルクの制限値Tmを出力する。(8)式にidmとωとVcとを代入し平方根をとったものが出力可能なトルクの制限値Tmとなる。
【0036】
トルク指令制限器6は、永久磁石型同期電動機1のトルク指令T*’の絶対値をトルク制限値演算器5の出力Tmに制限したものを新たなトルク指令T*として出力する。こうすることによって、トルク指令T*は最大電圧Vcで出力可能なトルクTmに制限されるため、電圧飽和で不安定になることを抑制することが出来る。
【0037】
高効率d軸電流演算器7は、トルク指令制限器6の出力T*の絶対値に高効率ゲインCを乗じて永久磁石型同期電動機1を最大効率で運転するためのd軸電流指令AであるidAを出力する。
【0038】
永久磁石型同期電動機1の一次電流の大きさIは次式(10)で表される。
【0039】
【数9】
【0040】
(10)式に(1)式を代入すると、
【0041】
【数10】
【0042】
となり、次式(12)
【0043】
【数11】
【0044】
を満たすidが最大効率条件のidAとなる。
よって、高効率ゲインCはid=C・Tを(12)式に代入した式を満たす値である。こうして求めた高効率ゲインCを用いることによって、高効率d軸電流演算器7は、トルク指令制限器6の出力T*の絶対値を入力して、永久磁石型同期電動機1を最大効率で運転するためのd軸電流指令AであるidAを出力することが出来る。
【0045】
飽和積分器9は、飽和検出器8の出力である電圧飽和信号が1の場合は正の固定値を時間積分し、電圧飽和信号が−1の場合はid*を初期値として負の固定値を時間積分し、0から最大d軸電流演算器4の出力であるidmまでの範囲に制限したidBを出力する。
【0046】
d軸電流指令選択器10は、飽和積分器の出力idBと高効率d軸電流演算器7の出力idAとを比較して、負の方向に大きい方をd軸電流指令id*として出力する。
【0047】
ここで、飽和積分器9とd軸電流指令選択器10の動作について説明する。
まず電圧飽和になると、飽和積分器9は速やかに電圧飽和を回避するために、d軸電流指令id*を初期値として負の固定値を時間積分する。こうすることによって、d軸電流指令選択器10は負の方向に大きい飽和積分器9の出力であるidBを選択し、電圧飽和を回避することが出来る。
【0048】
従来技術のように電圧飽和でない場合もd軸電流指令id*を初期値として正の固定値を時間積分すると、idBはidAより少し正の方向に大きな値となる。トルク指令T*が大きな値から小さな値に急変すると、idAは最大が0で正の方向に増加する。すると、トルク指令T*の変化速度と正の固定値を時間積分する速度との関係によっては、idA>idBとなる。そうすると、d軸電流指令選択器10はidBを選択し、トルク指令T*が急変しているにも拘わらずid*がなかなか変化しないため、応答性が悪くなるとともに高効率な運転が不可能となる。そのために、電圧飽和でない場合は初期値をid*としないで正の固定値を時間積分する。
【0049】
飽和積分器9の出力は、0からidmの間に制限している。まず、飽和積分器9の出力を0で制限するのは、前述したように出力トルクTの減少を防ぐためである。また、飽和積分器9の出力をidmに制限するのは、idが負に増加しすぎて最大電圧Vcで最大トルクTmが得られるd軸電流の負の最大値を超えないようにするためである。
【0050】
図2は、請求項2を表す本発明の一実施例を示すブロック線図であり、この図に基づいて説明するが、従来の技術と図1で示した本発明の実施例と同一部分は説明を省略する。
高効率ゲイン演算器15は、トルク指令制限器6の出力とq軸電流指令演算器11の出力とを入力して、永久磁石型同期電動機1を最大効率で運転するためのd軸電流指令Aをトルク指令T*の絶対値に高効率ゲインCを乗じて演算する際のその高効率ゲインCを出力する。
【0051】
高効率ゲインCは、上述したようにid=C・Tを(12)式に代入した式を満たす値であるが、id=C・Tを(12)式に代入した式をCで解くことは困難なので、高効率ゲインCはニュートン法などの数値解析手法で求めなければならなくなる。そこで、(3)式の最大効率条件式よりidC=C・Tを満たす高効率ゲインCを高効率ゲイン演算器15で次式(13)で求める。
【0052】
【数12】
【0053】
ここで、iqfはq軸電流指令iqfを低域通過フィルタに通した値で、Tf*はトルク指令T*の絶対値を低域通過フィルタに通した値である。(13)式にiq*とT*とを用いると、トルク指令T*が変化するとid*も変化する。するとiq*が変化しさらにid*が変化して不安定となるために、(13)式にはゆっくりと変化する低域通過フィルタを通したiqfとTf*とを用いる。
【0054】
本発明の一例として永久磁石型同期電動機について説明したが、この制御装置は永久磁石のないシンクロリラクタンスモータ等の同期電動機にも有効に適用できることは明らかである。
【0055】
また、同期電動機を同期発電機としても同様である。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、電圧飽和により制御不可能状態を回避することが可能となり、さらに高速な応答特性を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1を表す本発明の1実施例を表したブロック図である。
【図2】請求項2を表す本発明の1実施例を表したブロック図である。
【図3】従来の技術による永久磁石型同期電動機の制御装置のブロック図である。
【符号の説明】
1 永久磁石型同期電動機
2 電力変換器
3 電流制御器
4 最大d軸電流演算器
5 トルク制限値演算器
6 トルク指令制限器
7 高効率d軸電流演算器
8 飽和検出器
9 飽和積分器
10 d軸電流指令選択器
11 q軸電流指令演算器
12 フィルタ
13 高効率d軸電流C演算器
14 d軸電流指令生成器
15 高効率ゲイン演算器
Claims (2)
- 同期電動機に電力を供給する電力変換器と、前記同期電動機の一次電流を前記同期電動機の界磁極の方向であるd軸とそれと直交する方向であるq軸とに分離し各々をd軸電流指令とq軸電流指令に追従するように独立に調整して前記同期電動機のトルクや速度を制御するための電圧指令を前記電力変換器に出力する電流制御器と前記電圧指令が前記電力変換器で出力可能な最大電圧を越えた時は−1となり、超えない時は1となる電圧飽和信号を出力する飽和検出器と、前記飽和検出器の出力が1の時は正の固定値を時間積分し、前記飽和検出器の出力が−1の時は前記d軸電流指令を初期値として負の固定値を時間積分し、0から前記最大d軸電流演算器の出力までの範囲に制限して出力する飽和積分器とを有する同期機の制御装置において、
前記電力変換器が前記同期電動機に出力可能な最大電圧と前記同期電動機の回転速度とから前記最大電圧で前記同期電動機の最大トルクを得るためd軸電流の負の最大制限値を出力する最大d軸電流演算器と、
前記最大d軸電流演算器の出力と前記最大電圧と前記回転速度とから前記最大電圧で前記同期電動機が出力可能なトルクを求め該トルクを前記同期電動機のトルクの制限値として出力するトルク制限値演算器と、
前記同期電動機のトルク指令を前記トルク制限値演算器の出力に制限するトルク指令制限器と、
前記トルク指令制限器の出力の絶対値に高効率ゲインを乗ずることで前記同期電動機を最大効率で運転するためのd軸電流指令Aを出力する高効率d軸電流演算器と、
前記飽和積分器の出力と前記高効率d軸電流演算器の出力とを比較して負の方向に大きい方の出力を選択して前記d軸電流指令として出力するd軸電流指令選択器と、
前記トルク指令制限器の出力と前記d軸電流指令選択器の出力とから前記q軸電流指令を出力するq軸電流指令演算器とを具備し、
前記d軸電流指令選択器の出力は前記飽和積分器とq軸電流指令演算器と電流制御器へ伝達されるよう構成したことを特徴とする同期機の制御装置。 - 前記高効率ゲインを前記トルク指令制限器の出力と前記q軸電流指令演算器の出力とから求める前記高効率d軸電流演算器とする請求項1記載の同期機の制御装置。
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