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JP4067901B2 - 車両用操舵制御システム - Google Patents

車両用操舵制御システム Download PDF

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JP4067901B2
JP4067901B2 JP2002217814A JP2002217814A JP4067901B2 JP 4067901 B2 JP4067901 B2 JP 4067901B2 JP 2002217814 A JP2002217814 A JP 2002217814A JP 2002217814 A JP2002217814 A JP 2002217814A JP 4067901 B2 JP4067901 B2 JP 4067901B2
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  • Mechanical Engineering (AREA)
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  • Power Steering Mechanism (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車等の車両の操舵制御システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の操舵装置、特に自動車用の操舵装置において、近年、その更なる高機能化の一端として、操舵ハンドルの操作角(ハンドル操作角)と車輪操舵角とを1:1比率に固定せず、ハンドル操作角の車輪操舵角への変換比(舵角変換比)を車両の運転状態に応じて可変とした、いわゆる可変舵角変換比機構を搭載したものが開発されている。車両の運転状態としては、例えば、車両速度(車速)を例示でき、高速運転時においては舵角変換比を小さくすることにより、ハンドル操作角の増加に対して操舵角が急激に大きくならないようにすれば、高速走行の安定化を図ることができる。他方、低速走行時には、逆に舵角変換比を大きくすることで、一杯まで切るのに必要なハンドルの回転数を減少させることができ、車庫入れや縦列駐車あるいは幅寄せなど、操舵角の大きい運転操作を非常に簡便に行うことができる。
【0003】
舵角変換比を可変化する機構としては、例えば特開平11−334604号公報に開示されているように、ハンドル軸と車輪操舵軸とを、ギア比が可変な歯車式伝達部にて直結したタイプのものがあるが、この構成は、歯車式伝達部のギア比変更機構が複雑になる欠点がある。そこで、ハンドル軸と車輪操舵軸とを分離し、モータ等のアクチュエータにより車輪操舵軸を回転駆動するタイプのものが、例えば特開平11−334628号公報等に提案されている。具体的には、角度検出部が検出するハンドル操作角と車両運転状態とに応じて定まる舵角変換比とに基づいて、コンピュータ処理により最終的に必要な車輪操舵角を演算し、その演算された車輪操舵角が得られるように、ハンドル軸から機械的に切り離された車輪操舵軸をアクチュエータ(モータ)により回転駆動する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の方式ではハンドル軸と車輪操舵軸とが機械的に分離されているために、以下のような不具合が生ずる場合がある。すなわち、ハンドルをある角度に切った状態で車両の運転を終了すると、車輪操舵軸のアクチュエータは、その運転終了時の角度位置にて回転動作を停止する。運転終了時の角度位置はアクチュエータの制御部内に記憶しておき、運転を再開するときには、その記憶された最終角度位置を初期角度位置とする形で、アクチュエータによる車輪操舵軸の駆動を再開する。しかし、何らかの要因により制御部が終了角度位置を野書込みに失敗すると、該アクチュエータによる車輪操舵軸の駆動制御を正常に再開できなくなる惧れがある。
【0005】
本発明は、前回車両運転終了時に終了角度位置の書込み失敗にしたか否かを、で的確に識別することができる操舵制御システムを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
本発明は、操舵用のハンドル軸と車輪操舵軸とが機械的に分離されてなり、ハンドル軸の操作角と車両の運転状態とに応じて車輪操舵軸に与えるべき操舵角を決定し、当該操舵角が得られるように車輪操舵軸をアクチュエータにより回転駆動するようにした車両用操舵制御システムにおいて、上記の課題を解決するために、
ハンドル軸の角度位置を検出するハンドル軸角度検出部と、
車輪操舵軸の角度位置を検出する操舵軸角度検出部と、
車両の運転状態を検出する運転状態検出部と、
検出されたハンドル軸角度位置と車両の運転状態とに基づいて車輪操舵軸の目標角度位置を決定し、該操舵軸角度位置が目標角度位置に近づくように、アクチュエータの動作を制御する操舵制御部とを備え、
該操舵制御部は、車両の運転停止中においても記憶内容を保持可能に構成され、車両運転終了時の車輪操舵軸の角度位置である終了角度位置を記憶する終了角度位置記憶部と、
車両の運転停止中においても記憶内容を保持可能に構成され、終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込み完了を示す第一の記憶状態と、同じく書込み失敗を示す第二の記憶状態との間で記憶内容が切り替え可能な書込み完了情報記憶部と、
車両運転終了時に終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込み処理がなされるのに対応して、書込み完了情報記憶部の記憶内容を第一の記憶状態に設定する書込み完了情報記憶制御手段と、
車両の運転を一旦終了した後、運転を再開する際に、書込み完了情報記憶部の記憶内容を参照し、終了角度位置記憶部に記憶された終了角度位置を、記憶内容が第一の記憶状態となっている場合には、車輪操舵軸の初期角度位置として採用することを許容し、他方、第二の記憶状態となっている場合には、車輪操舵軸の初期角度位置として採用することを禁止する初期角度位置設定制御手段と、
を有することを特徴とする。
【0007】
上記本発明の車両用操舵制御システムは、操舵用のハンドル軸と車輪操舵軸とが機械的に分離され、ハンドル軸の操作角(以下、ハンドル角ともいう)と車両の運転状態とに応じて車輪操舵軸に与えるべき操舵角(以下、車輪操舵角ともいう)を決定し、当該操舵角が得られるように車輪操舵軸をアクチュエータにより回転駆動する。例えば、車両の運転状態に応じて定まる舵角変換比によりハンドル角を車輪操舵角に変換し、当該車輪操舵角が得られるように車輪操舵軸のアクチュエータを駆動制御する。そして、車両運転終了時においては、車輪操舵軸の終了角度位置を終了角度位置記憶部に記憶し、次回運転開始時には、その終了角度位置記憶部に記憶された終了角度位置を用いて車輪操舵軸の初期角度位置を決定することにより、アクチュエータによる車輪操舵軸の駆動を再開できる。
【0008】
しかし、上記終了角度位置記憶部への初期角度位置の書込みが、何らかのトラブルにより不能となったり、あるいは正常に完了できなくなる場合がある。例えば、運転終了時において終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込み処理を行う際に、CPUの暴走等が発生すると、書込み自体がなされなかったり、あるいは終了角度位置とは無関係な情報が書込まれたりする。いずれの場合も、操舵制御部は終了角度位置を見失ってしまうことになり、次回運転開始時にアクチュエータによる車輪操舵軸の駆動制御を正常に再開できなくなる。
【0009】
そこで、本発明では次のような点に着目して、上記の不具合の解決を図った。すなわち、操舵制御部に、終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込みの完了/失敗を示す第一/第二の記憶状態の間で記憶内容の切り替えが可能な書込み完了情報記憶部を設け、車両運転終了時において、終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込みを行う。そして、これに対応して、書込み完了情報記憶部の記憶内容を第一の記憶状態に設定する。また、次回車両運転開始時においては、操舵制御部は、まず書込み完了情報記憶部の記憶内容を参照することで終了角度位置記憶部に格納されている終了角度位置が正当な値であるか否かを判断し、その結果に基づいて該終了角度位置を初期角度位置として採用するか否かを決定し、該終了角度位置が採用された場合のみ、アクチュエータによる車輪操舵軸の駆動制御を開始する。つまり、前回車両運転終了時に終了角度位置の書込みに失敗したか否かを、書込み完了情報記憶部の内容を参照することで的確に識別することができ、ひいては該書込み失敗により終了角度位置記憶部に正しい終了角度位置が記憶されていない場合においても、操舵制御部が初期角度位置として不当な値を採用することを阻止することができる。
【0010】
書込み完了情報記憶制御手段は、車両運転開始時に、書込み完了情報記憶部を第二の記憶状態に設定し、車両運転終了時において、終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込み処理が完了した場合には、第一の記憶状態となるように書込み完了情報記憶部の内容を書き換えるものであり、他方、終了角度位置の書込み処理が完了しなかった場合には書き換えを行わないものとすることができる。書込み失敗が発生する状況では、CPU暴走など、正常なコンピュータ処理がなされる可能性は極めて低い。従って、終了角度位置の書込み失敗時に、書込み完了情報記憶制御手段が、書込み完了情報記憶部を書込み失敗を示す内容に自力で書き換える、といったことも期待するべきではない。従って、書込み失敗が発生するような状況では、終了角度位置記憶部の書込みあるいは書き換え処理がなされなくとも、書込み失敗の履歴を確実に記録できるようにしておくことが有効である。上記の方法によると、車両運転開始時にまず、書込み完了情報記憶部を、書込み失敗を示す第二の記憶状態に設定する。正常終了の場合は、書込み完了情報記憶制御手段も当然正常に動作できるから、終了角度位置記憶部への終了角度位置の書込み処理が完了するとともに、書込み完了情報記憶部の内容を、書込み完了を示す第一の記憶状態に問題なく書き換えることができる。他方、終了角度位置の書込み処理が完了しなかった場合には、書き換えを行わないようにすることで、車両運転開始時に設定した第二の記憶状態がそのまま残るので、書込み失敗を確実に識別することができる。
【0011】
操舵制御部は、CPUとそのワークエリアとなるRAMを有し、かつ、該RAM内には、車両の運転中に操舵軸角度位置の検出結果を随時記憶する操舵軸角度位置記憶部が形成されてなり、車両の運転停止に伴い、CPUとRAMとは、車載バッテリーからの電力供給が遮断されるように構成することができる。運転停止中にCPUとRAMとを電源切断することにより、バッテリーの電圧低下を抑制することができる。RAMが電源切断されれば、ワークエリア内の操舵軸角度位置の検出結果は運転停止とともに失われる。しかし、本発明においては、操舵軸の終了角度位置を終了角度位置記憶部に記憶するから、ワークエリア内の情報が失われても、運転再開時に初期角度位置を適格に設定することができる。また、終了角度位置記憶部への終了角度位置書込みに失敗した場合は、書込み完了情報記憶部の内容を参照することにより、失敗発生を確実に認識でき、ひいては、信頼できない終了角度位置記憶部の内容が初期角度位置として使用される不具合も生じない。
【0012】
この場合、終了角度位置記憶部と書込み完了情報記憶部とは、CPUがRAMに対するデータ読出し/書込みを行う第一の動作電圧においては、データの読出しのみが可能であり、他方、第一の動作電圧とは異なる第二の動作電圧を設定することによりデータの書込み(書き換えを概念として含む)が可能となるPROM(Programmable Read-Only Memory)にて構成することができる。例えば、制御部に含まれるCPUは、ノイズ等による誤動作により暴走することがある。そこで、終了角度位置を記憶する終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部を、ワークメモリをなすRAMとは異なる動作電圧においてのみ書込み可能となるPROMにて構成しておけば、CPUが暴走等により誤動作しても、終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部の内容が誤って書き換えられたりする心配がない。特に、前述の、終了角度位置の書込み処理が完了しなかった場合に書込み完了情報記憶部の内容を書き換えない構成では、CPUが暴走等により誤動作したとき、CPUが第一の動作電圧により書込み可能なRAMの内容を書き換えることはあっても、第二の動作電圧でしか書き換えできないPROMの内容を壊すことはまずありえない。従って、書込み失敗を示す情報(第二の記憶状態)を、書込み完了情報記憶部に確実に留めることができる。
【0013】
なお、上記のようなPROMは電気的に記憶内容の変更が可能なPROMであり、さらには記憶保持に外部電源(つまりバッテリー)による電力供給を必要としないものが望ましい。例えば、周知のEEPROMあるいはフラッシュメモリを使用できる。本発明のような車両用操舵制御システムにおいては、角度位置等、サイズのそれほど大きくないデータを頻繁に書き換える必要があるため、データの書き換え可能単位がフラッシュメモリよりも小さいEEPROM(バイト単位でデータ書き換えが可能)がより好適である。
【0014】
また、本発明の操舵制御システムは、以下のように構成することもできる。すなわち、車両全体の電力源をなすバッテリーから操舵制御部への電力経路上に、車両の運転駆動をON/OFFする運転駆動スイッチ(自動車の場合、イグニッションスイッチ)が車両運転停止のために操作されるに伴い、該バッテリーと操舵制御部とを接続状態と遮断状態との間で切り替える電源スイッチを設ける。そして、電源スイッチによる電力経路の遮断によりバッテリーによる電力供給が途絶えた後も、終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部の内容書き換え処理のために、操舵制御部への電力供給を一定時間継続させる延長受電期間を設けるためのバックアップ電源部を設ける。車両の運転停止を最も簡便かつ確実に認識する方法は、運転駆動スイッチのOFFを検出することである。しかし、運転駆動スイッチがOFFされるに伴い、操舵制御部の動作が直ちに停止してしまうと、終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部の内容書き換え処理を行う時間を確保することができない。そこで、上記のようなバックアップ電源部を設けることにより、運転駆動スイッチOFF後も延長受電期間として操舵制御部への電力供給が一定時間継続されるので、終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部の内容書き換えを問題なく行うことができる。
【0015】
該バックアップ電源部は、電源スイッチにより電力経路が遮断されるに伴い、バッテリーから受ける電源電圧を一定時間だけCPUの動作電圧以上に保持する蓄電手段(例えばコンデンサ)を有するものとして構成しておくと、最小限の部品追加により延長受電期間を容易に確保できる。該蓄電手段は電力経路に並列に接続することができる。また、CPUが電力経路によりバッテリーからの電源電圧を、安定化電源回路を経て受電するようになっている場合、蓄電手段は、バッテリーと安定化電源回路との間、又は安定化電源回路とCPUとの間のいずれに設けてもよい。後者においては、蓄電手段によるバックアップ電圧が、安定化電源回路の出力電圧以下に限定され、CPUの動作保証電圧の上限値までのマージンはそれほど広く確保できない。しかし、前者においては、蓄電手段によるバックアップ電圧は、バッテリー電圧(例えば+7〜+14V)から、安定化電源回路の入力電圧の許容上限値(例えば出力電圧が+5Vなら、ステップアップ昇圧を行わない場合は+5Vまで、ステップアップ昇圧を考慮できる場合は+3V程度まで)までの、広い電圧マージンを確保できる利点がある。
【0016】
操舵制御部は、車輪操舵軸のアクチュエータの動作制御主体をなす主CPUと、該主CPUの処理動作のうち、少なくとも操舵軸角度位置の検出処理を主CPUと並行して行う副CPUと、該副CPUのワークメモリとなる副CPU側RAMとを有するものとして構成できる。バックアップ電源部により副CPUに対しても延長受電期間が設定されていれば、確率としては小さいが、延長受電期間中に万一、暴走等により主CPUが正常に動作しなくなった場合、副CPUにそのリセットを検出させ、副CPU側RAMに記憶されている最後の角度位置検出結果を終了角度位置として終了角度位置記憶部に記憶させることができる。このようにCPUを2つ設け、主CPUが行うのと同じ操舵軸角度位置の検出処理を副CPUにも実行させれば、延長受電期間中に主CPUと副CPUとにリセット等のトラブルが同時に発生する確率は極めて小さいから、終了角度位置の書込み失敗の確率を小さくすることが可能となる。
【0017】
【発明の実施形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明が適用される車両用操舵制御システムの、全体構成の一例を模式的に示したものである(なお、本実施形態において「車両」は自動車とするが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない)。該車両用操舵制御システム1は、操舵用ハンドル2に直結されたハンドル軸3と、車輪操舵軸8とが機械的に分離された構成を有する。車輪操舵軸8はアクチュエータとしてのモータ6により回転駆動される。車輪操舵軸8の先端はステアリングギアボックス9内に延び、該車輪操舵軸8とともに回転するピニオン10がラックバー11を軸線方向に往復動させることにより、車輪13,13の転舵角が変化する。なお、本実施形態の車両用操舵制御システム1においては、ラックバー11の往復動が、周知の油圧式、電動式あるいは電動油圧式のパワーアシスト機構12により駆動補助されるパワーステアリングが採用されている。
【0018】
ハンドル軸3の角度位置φは、ロータリエンコーダ等の周知の角度検出部からなるハンドル軸角度検出部101により検出される。他方、車輪操舵軸8の角度位置θは、同じくロータリエンコーダ等の角度検出部からなる操舵軸角度検出部103により検出される。また、本実施形態においては、自動車の運転状態を検出する運転状態検出部として、車速Vを検出する車速検出部(車速センサ)102が設けられている。車速検出部102は、例えば車輪13の回転を検出する回転検出部(例えばロータリエンコーダやタコジェネレータ)で構成される。そして、操舵制御部100が、検出されたハンドル軸3の角度位置φと車速Vとに基づいて、車輪操舵軸8の目標角度位置θ’を決定し、該車輪操舵軸8の角度位置θが目標角度位置θ’に近づくように、モータドライバ18を介して、モータ6の動作を制御する。
【0019】
なお、ハンドル軸3と車輪操舵軸8との間には、両者を一体回転可能にロック結合したロック状態と、該ロック結合を解除したアンロック状態との間で切り替え可能なロック機構19が設けられている。ロック状態では、ハンドル軸3の回転角が変換されることなく(つまり、舵角変換比が1:1)車輪操舵軸8に伝達され、マニュアルステアリングが可能となる。該ロック機構19のロック状態への切り替えは、異常発生時などにおいて操舵制御部100からの指令によりなされる。
【0020】
図2は、モータ6による車輪操舵軸8の駆動部ユニットの構成例を、自動車への取付状態にて示すものである。該駆動部ユニット14において、ハンドル2(図1)の操作によりハンドル軸3を回転させると、モータケース33がその内側に組み付けられたモータ6とともに一体的に回転するようになっている。本実施形態においては、ハンドル軸3は、ユニバーサルジョイント319を介して入力軸20に連結され、該入力軸20がボルト21,21を介して第一カップリング部材22に結合されている。この第一カップリング部材22にはピン31が一体化されている。他方、ピン31は、第二カップリング部材32の一方の板面中央から後方に延びるスリーブ32a内に係合してはめ込まれている。他方、筒状のモータケース33は、第二カップリング部材32の他方の板面側に一体化されている。なお、符号44はゴムあるいは樹脂にて構成されたカバーであり、ハンドル軸3と一体的に回転する。また、符号46は、コックピットパネル48に一体化された駆動部ユニット14を収容するためのケースであり、符号45は、カバー44とケース46との間をシールするシールリングである。
【0021】
モータケース33の内側には、コイル35,35を含むモータ6のステータ部分23が一体的に組み付けられている。該ステータ部分23の内側には、モータ出力軸36がベアリング41を介して回転可能に組み付けられている。また、モータ出力軸36の外周面には永久磁石からなる電機子34が一体化されており、この電機子34を挟む形でコイル35,35が配置されている。なお、コイル35,35からは、モータケース33の後端面に連なるように給電端子50が取り出され、該給電端子50において給電ケーブル42によりコイル35,35に給電がなされる。
【0022】
後述の通り、本実施形態においてモータ6はブラシレスモータであり、給電ケーブル42は、該ブラシレスモータの各相のコイル35,35に個別に給電する素線を集合させた帯状の集合ケーブルとして構成されている。そして、モータケース33の後端側に隣接する形でハブ43aを有するケーブルケース43が設けられ、その中に給電ケーブル42が、ハブ43aに対してゼンマイ状に巻かれた形で収容されている。給電ケーブル42の、給電端子50に接続されているのと反対の端部は、ケーブルケース43のハブ43aに固定されている。そして、ハンドル軸3がモータケース33ひいては給電端子50とともに正方向又は逆方向に回転すると、ケーブルケース43内の給電ケーブル42は、ハブ43aへの巻き付き又は繰り出しを生じさせることにより、上記モータケース33の回転を吸収する役割を果たす。
【0023】
モータ出力軸36の回転は、減速機構7を介して所定比率(例えば1/50)に減速された上で車輪操舵軸8に伝達される。本実施形態において減速機構7は、ハーモニックドライブ減速機にて構成してある。すなわち、モータ出力軸36には、楕円型のインナーレース付ベアリング37が一体化され、その外側に変形可能な薄肉の外歯車38がはめ込まれている。そして、この外歯車38の外側に、カップリング40を介して車輪操舵軸8が一体化された内歯車39,139が噛み合っている。内歯車39,139は、同軸的に配置された内歯車(以下、第一内歯車ともいう)39と内歯車(以下、第二内歯車ともいう)139とからなり、第一内歯車39がモータケース33に固定されて該モータケース33と一体回転する一方、第二内歯車139はモータケース33に非固定とされ、該モータケース33に対して相対回転可能とされている。第一内歯車39はこれと噛み合う外歯車38との歯数差がゼロであり、外歯車38との間での相対回転を生じない(つまり、回転するモータ出力軸36に対して、第一内歯車39ひいてはモータケース33及びハンドル軸3が、遊転可能に結合されているともいえる)。他方、第二内歯車139は外歯車38よりも歯数が大きく(例えば2)、内歯車139の歯数をN、外歯車38と内歯車139との歯数差をnとすると、モータ出力軸36の回転をn/Nに減速した形で車輪操舵軸8に伝達する。また、内歯車39,139は、本実施形態においては、コンパクト化を図るために、ハンドル軸3の入力軸20、モータ出力軸36及び車輪操舵軸8が同軸的に配置されている。
【0024】
次に、ロック機構19は、ハンドル軸3に対して相対回転不能なロックベース部(本実施形態においてはモータケース33)側に固定されたロック部材51と、ロック受けベース部(本実施形態においては、モータ出力軸36側)に設けられたロック受け部材52とを有する。図3に示すように、ロック部材51は、ロック受け部材52に形成されたロック受け部53に係合するロック位置と、該ロック受け部53から退避したアンロック位置との間で進退可能に設けられている。本実施形態においては、車輪操舵軸8と一体的に回転するロック受け部材52の周方向にロック受け部53が所定の間隔で複数形成され、ロック部材51の先端に設けられたロック部51aが、車輪操舵軸8の回転角位相に応じて、それら複数のロック受け部53の任意の1つのものに選択的に係合するようになっている。ハンドル軸3はモータケース33に対し(本実施形態では、カップリング22及びピンにより)相対回転不能に結合されている。ロック部材51とロック受け部材52とが非係合(非ロック状態)の場合は、モータ出力軸36はモータケース33に対して回転し、その回転が外歯車38を経て第一内歯車39及び第二内歯車139にそれぞれ伝達される。モータケース33に固定された第一内歯車39は、前述の通り外歯車38に対して相対回転しないので、結果的にハンドル軸3と同速で回転する(つまり、ハンドル操作に追従して回転する)。また、第二内歯車139は、モータ出力軸36の回転を車輪操舵軸8に減速して伝達し、車輪操舵軸8の回転駆動を担う。他方、ロック部材51とロック受け部材52とが係合してロック状態になると、モータ出力軸36はモータケース33に対して相対回転不能となる。そして、減速機構7の内歯車39,139のうち、第一内歯車39がモータケース33に固定されているから、第一内歯車39、外歯車38及び第二内歯車139の順でハンドル軸3の回転が車輪操舵軸8に直接伝達されることとなる。
【0025】
なお、本実施形態においては、ロック受け部材52は、モータ出力軸36の一端の外周面に取り付けられ、各ロック受け部53は、該ロック受け部材52の外周面から半径方向に切れ込む凹状に形成されている。また、図2に示すように、ロック部材51は、モータケース33に設けられた回転ベース300に対し、車輪操舵軸8とほぼ平行な軸線周りに回転可能に取り付けられ、その後端部55aが結合されている。また、ソレノイド55の付勢が解除されたときに、ロック部材51を元の位置に弾性復帰させる弾性部材54が設けられている。ソレノイド55の付勢及び付勢解除の動作により、ソレノイド55aの先端に設けられた凸部55aとロック部材51の一端部51bに形成された溝部を介してロック部材51の先端に形成されたロック部51aが、前記したロック/アンロックのためにロック受け部材52に対し接近/離間する。なお、ソレノイド55の付勢時がロック状態となるかアンロック状態となるかは選択可能であるが、本実施形態では、ソレノイド55の付勢時にアンロックとなるように定めてある。これによると、電源遮断時等においてソレノイド55が付勢解除されたとき、弾性部材54の作用によりロック状態となり、マニュアル操舵が可能となる。
【0026】
図4は、操舵制御部100の電気的構成の一例を示すブロック図である。操舵制御部100の要部をなすのは2つのマイコン110及び120である。主マイコン110は、主CPU111、制御プログラムを格納したROM112、CPU111のワークエリアとなる主CPU側RAM113及び入出力インターフェース114を有する。また、副マイコン120は、副CPU121、制御プログラムを格納したROM122、副CPU121のワークエリアとなる副CPU側RAM123及び入出力インターフェース124を有する。車輪操舵軸8を駆動するモータ6(アクチュエータ)の動作制御を直接行うのは主マイコン110であり、副マイコン120は、必要なパラメータ演算等、モータ6の動作制御に必要なデータ処理を主マイコン110と並行して行うとともに、そのデータ処理結果を主マイコン110との間で通信することにより、主マイコン110の動作が正常であるかどうかを監視・確認し、必要に応じて情報の補完を行う補助制御部としての機能を果たす。本実施形態において主マイコン110と副マイコン120とのデータ通信は、入出力インターフェース114,124間の通信によりなされる。なお自動車の運転時、すなわち操舵制御時においては、両マイコン110及び120へ、バッテリー57からのバッテリー電圧(例えば+7〜12V)を安定化電源回路212により変換した電源電圧Vcc(例えば+5V)が供給される。また、自動車の運転終了(すなわち、イグニッションOFF)に際しては、バッテリー57から両マイコン110及び120への電圧供給が途絶えた後に、両マイコン110及び120へ動作電圧以上の電圧がバックアップ電源211により一定時間供給され(後述)、その後、両マイコン110及び120へは全ての電圧供給が途絶える仕組みとなっている。
【0027】
ハンドル軸角度検出部101、車速検出部102及び操舵軸角度検出部103の各出力は、主マイコン110及び副マイコン120の入出力インターフェース114,124にそれぞれ分配入力される。本実施形態では、いずれの検出部もロータリエンコーダで構成され、そのエンコーダからの計数信号が図示しないシュミットトリガ部を経て入出力インターフェース114,124のデジタルデータポートに直接入力されている。また、主マイコン110の入出力インターフェース114には、前述のロック機構19の駆動部をなすソレノイド55が、ソレノイドドライバ56を介して接続されている。
【0028】
モータ6はブラシレスモータ、本実施形態では3相ブラシレスモータにて構成され、PWM制御により回転速度が調整される。また、モータドライバ18には、モータ6の電源となる車載バッテリー57が接続されている。モータドライバ18が受電するバッテリー57の電圧(電源電圧)Vsは、自動車の各所に分散した負荷の状態や、オルタ−ネータの発電状態により随時変化する(例えば+7〜+14V)。本実施形態においては、このような変動するバッテリー電圧Vsを、安定化電源回路212を介さず、モータ電源電圧として直接使用する。操舵制御部100は、このように相当幅にて変動する電源電圧Vsの使用を前提として、モータ6の制御を行うので、電源電圧Vsの測定部が設けられている。本実施形態では、モータ6への通電経路(ドライバ18の直前)から電圧測定用の分岐経路が引き出され、そこに設けられた分圧抵抗60,60を経て電圧測定信号を取り出している。該電圧測定信号はコンデンサ61により平滑化された後、電圧フォロワ62を経て入出力インターフェース114,124のA/D変換機能付入力ポート(以下、A/Dポートという)に入力される。
【0029】
また、過電流発生の有無など、モータ6の通電状態を監視するために、モータ6への通電経路上に電流検出部が設けられている。具体的には、経路上に設けられたシャント抵抗(電流検出抵抗)58の両端電圧差を電流センサ70により測定し、該両端電圧差に基づく電流Isの測定信号を入出力インターフェース114,124のA/Dポートに入力するようにしている。なお、シャント抵抗以外にも、ホール素子や電流検出コイルなど、電磁的な原理に基づいて電流検出するプローブを用いてもよい。
【0030】
図4に戻り、両マイコン110,120のRAM113,123には、それぞれ以下のようなメモリエリアが形成されている。
▲1▼車速測定値メモリ:車速センサ102からの現在の車速の測定値を記憶する。▲2▼ハンドル軸角度位置(φ)カウンタメモリ:ハンドル軸角度位置検出部101をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、ハンドル軸角度位置φを示すそのカウント値を記憶する。なお、ロータリエンコーダは回転方向の識別が可能なものを使用し、正方向回転の場合はカウンタをインクリメントし、逆方向回転の場合はデクリメントする。
▲3▼舵角変換比(α)算出値メモリ:車速測定値に基づいて算出された舵角変換比αを記憶する。
▲4▼目標操舵軸角度位置(θ’)算出値メモリ:現在のハンドル軸角度位置φと舵角変換比αとの値から、例えばφ×αにより算出された操舵軸角度位置の目標値、すなわち目標操舵軸角度位置θ’の値を記憶する。
▲5▼操舵軸角度位置(θ)カウンタメモリ:操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、操舵軸角度位置θを示すそのカウント値を記憶する。操舵軸角度検出部103は、回転方向の識別が可能なインクリメント型ロータリエンコーダとして構成され、車輪操舵軸8の回転方向が正であれば上記のカウンタをインクリメントし、逆であればカウンタをデクリメントする。
▲6▼Δθ算出値メモリ:目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの隔たりΔθ(≡θ’−θ)の算出値を記憶する。
▲7▼電源電圧(Vs)測定値メモリ:モータ6の電源電圧Vsの測定値を記憶する。
▲8▼デューティ比(η)決定値メモリ:モータ6をPWM通電するための、Δθと電源電圧Vsとに基づいて決定されたデューティ比ηを記憶する。
▲9▼電流(Is)測定値メモリ:電流センサ70による電流Isの測定値を記憶する。
【0031】
また、主マイコン110には、EEPROM115(PROM)が設けられている。該EEPROM115内には、運転終了時(つまり、イグニッションOFF時)における車輪操舵軸8の角度位置、すなわち終了角度位置を記憶する終了角度位置記憶部と、該終了角度位置記憶部への終了角度位置書込みの完了/失敗を示す情報(以下、書込み完了フラグという)を記憶する書込み完了情報記憶部とが形成されている。書込み完了フラグは、例えばビットフラグであり、書込み完了を表す場合にフラグセットされ(有効化状態:「1」:第一の記憶状態である)、書込み失敗を表す場合にフラグクリア(無効化状態:「0」:第二の記憶状態である)とされる。EEPROM115は、主CPU111が主CPU側RAM112に対するデータ読出し/書込みを行う第一の動作電圧(+5V)においては、主CPU111によるデータの読出しのみが可能であり、他方、第一の動作電圧(+5V)とは異なる第二の動作電圧(本実施形態では、第一の動作電圧より高い電圧が採用される:例えば+7V)を設定することにより主CPU111によるデータの書込みが可能となるものであり、主CPU111が暴走しても内容が誤って書き換えられることがない。第二の動作電圧は、EEPROM115と入出力インターフェース114との間に介在する図示しない昇圧回路によって生成される。なお、主CPU111は、書込み完了情報記憶制御手段と初期角度位置設定制御手段とを構成する。
【0032】
図13は、操舵制御部100への電力供給系統をより詳細に示したブロック図である(従って、電力供給系統以外の部分は、図4よりも簡略化して描いている)。操舵制御部100は、車両全体の電力源をなすバッテリー57から、電力経路IGLにより、安定化電源回路(本実施形態では+5V出力)212を経て動作電力をVcc端子にて受電する。安定化電源回路212は、ツェナーダイオード、三端子レギュレータあるいはDC−DCコンバータを使用した周知の構成のものである。電力経路IGLは、電源スイッチ201により接続/遮断が切り替えられる。電源スイッチ201は、車両の運転駆動をON/OFFする運転駆動スイッチ、すなわちイグニッションスイッチが車両運転停止のために操作されるに伴い、主電力経路IGLを直接遮断状態とする。本実施形態では主電源スイッチ201はイグニッションスイッチと同一の実体をなすスイッチとしているが、イグニッションスイッチと連動動作する別スイッチとして構成してもよい。
【0033】
主電源スイッチ201がOFFとなって電力経路IGLが遮断されると、その遮断状態が電力経路遮断検出手段によって検出される。本実施形態において電力経路遮断検出手段は、主力経路IGLを介して安定化電源回路212に印加されるバッテリー電圧情報(VB)に基づき、電力経路IGLの遮断状態を検出するものとされている。電源スイッチ201がOFFになると、電力経路IGLはオープンとなり、バッテリー電圧VBがこれに対応して大きく低下するので、電力経路IGLの遮断状態を簡単かつ確実に検出できる。具体的には、(バッテリー57から見て)電源スイッチ201よりも後段側で電力経路IGLより分岐するバッテリー電圧検出経路VDLが設けられ、抵抗208,209により分圧調整された後、イグニッション(IG)モニタ電圧VMとして操舵制御部100の入出力インターフェース114(A/D変換ポート)に入力される。なお、後述のバックアップ電源部211側からバッテリー電圧検出経路VDLへの逆流電流はダイオード214により阻止されている。そして、このIGモニタ電圧VMが予め定められた基準値(例えば3V)以下となったときに、操舵制御部100のCPU111により、主電力経路遮断と判定される。すなわち、CPU111が電力経路遮断検出手段の主体をなしている。
【0034】
次に、バックアップ電源212は、運転停止のために電源スイッチ201がOFFになり、バッテリー57から操舵制御部100への電圧供給が途絶えたときに、操舵制御部100の動作電圧を確保するためのものであり、電力経路IGL上にてバッテリー57と安定化電源回路212との間、具体的には、スイッチ201よりも後段に設けられている。バックアップ電源211は、電力経路IGLに並列接続された蓄電手段としてのコンデンサ213を主体に構成されている。また、前述の通り、バッテリー電圧検出経路VDL側へのコンデンサ213の放電を阻止するために、該経路VDLの分岐点とコンデンサ213の分岐点との間に、ダイオード214が設けられている。コンデンサ213は、常時はダイオード214を経てバッテリー57から電力供給を受けることにより充電状態を維持している。そして、電源スイッチ201がOFFになって、バッテリー57からの電力供給が途絶えると、コンデンサ213は、操舵制御部100の動作電圧を一定時間(すなわち、延長受電期間)だけ延長保持する。延長受電期間の長さは、コンデンサ213の静電容量を適当に設定することにより、後述する終了角度位置記憶部及び書込み完了情報記憶部の内容書換え処理に必要十分なだけ確保される。なお、バックアップ電源211は、電力経路IGL上にて安定化電源回路212と操舵制御部100との間に配置してもよい。
【0035】
以下、車両用操舵制御システム1の動作について説明する。
図8には、主マイコン110による制御プログラムの主ルーチンの処理の流れを示すものである。S1は初期化処理であり、図10に示すように、前回イグニッションスイッチをOFFにしたときの終了処理にてEEPROM115に書込まれている書込み完了フラグを読出し、該フラグがセットされている場合は、該EEPROM115に書込まれている車輪操舵軸8の終了角度位置を読み出し、該終了角度位置を、処理開始に際しての車輪操舵軸8の初期角度位置として採用する。具体的には、終了角度位置を示すカウンタ値を、前述の操舵軸角度位置カウンタメモリにセットする。なお、この時点でEEPROM115内の書込み完了フラグはクリアしておく(つまり、第一の記憶状態とする)。
【0036】
一方、書込み完了フラグがセットされていない場合は、該EEPROM115に書込まれている車輪操舵軸8の終了角度位置を不採用として、異常対応処理を行う。本実施形態では、S104において異常対応処理の一つして警報処理を行う。これは、例えば自動車のコックピットパネル等に配置された警報ランプを点灯したり、あるいは音声による警報出力を行ったりする処理である。また、異常対応処理は、基本的には自動車を修理工場に持ち込んで、マイコン設定等をやり直す処理が中心となるが、修理が終わるまで自動車の運転が不能になると、修理工場への自動車の搬送等が甚だ面倒になる。そこで、車速等に応じて舵角変換比を変更しない、マニュアルステアリングを最小限の機能として確保できるように構成しておけば、自動車の運転を継続できる。そこで、本実施形態ではS105において、このマニュアルステアリングを可能とするルーチンを起動して処理を終了するようにしている。該ルーチンにおいては、図1のロック機構19(具体的には図4のロック用ソレノイド55)を作動させ、ハンドル軸3と車輪操舵軸8とを一体回転可能にロック結合した状態とする。
【0037】
初期化処理が終了すれば、S2に進んで操舵制御処理となる。該操舵制御処理は、パラメータサンプリングの間隔を均一化するために、一定の周期(例えば数百μs)にて繰り返し実行される。その詳細を、図9により説明する。S201においては、現在の車速Vの測定値をリードし、次いでS202ではハンドル軸角度位置φをリードする。そして、S203においては、車速Vの算出値から、ハンドル軸角度位置φを目標操舵軸角度位置θ’に変換するための舵角変換比αを決定する。舵角変換比αは、車速Vに応じて異なる値が設定される。具体的には、図6に示すように、車速Vが一定以上に大きい状態では、舵角変換比αは小さく設定され、車速Vが一定以下に小さい低速走行時には舵角変換比αは大きく設定される。本実施形態では、図5に示すような、種々の車速Vに対応した舵角変換比αの設定値を与えるテーブル130をROM112(122)に格納しておき、このテーブル130を参照して現在の車速Vに対応する舵角変換比αを補間法により算出する。なお、本実施形態においては、車両の運転状態を示す情報として車速Vを用いているが、これ以外にも、車両が受ける横圧や路面の傾斜角等を車両の運転状態を示す情報としてセンサにより検出し、その検出値に応じて舵角変換比αを特有の値に設定することが可能である。また、車速Vに応じて舵角変換比αの基本値を決定し、上記のような車速以外の情報に基づいて、その基本値を随時補正して使用することも可能である。
【0038】
S204では、検出されたハンドル軸角度位置φに、決定された舵角変換比αを乗じて目標操舵軸角度位置θ’を算出する。そして、S205において、現在の操舵軸角度位置θを読み取る。S206では、操舵軸角度位置カウンタから求められた現在の操舵軸角度位置θと目標操舵軸角度位置θ’との隔たりΔθ(=θ’−θ)を算出する。さらにS207においては、現在の電源電圧Vsの測定値を読み取る。
【0039】
モータ6は、目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの差(Δθ)が縮小するように車輪操舵軸8を回転駆動する。そして、操舵軸角度位置θが目標操舵軸角度位置θ’に迅速かつスムーズに近づくことができるように、Δθが大きいときはモータ6の回転速度を大きくし、逆にΔθが小さいときはモータ6の回転速度を小さくする。基本的にはΔθをパラメータとした比例制御であるが、オーバーシュートやハンチング等を抑制し、制御の安定化を図るために、Δθの微分あるいは積分を考慮した周知のPID制御を行うことが望ましい。
【0040】
モータ6は前述の通りPWM制御されており、回転速度は、そのデューティ比ηを変更することにより調整される。電源電圧Vsが一定であれば、デューティ比により回転速度をほぼ一義的に調整できるが、本実施形態では前述の通り電源電圧Vsは一定でない。従って、電源電圧Vsも考慮してデューティ比ηを定めるようにする。例えば、図7に示すように、種々の電源電圧VsとΔθとの各組み合わせに対応したデューティ比ηを与える二次元のデューティ比変換テーブル131をROM112(122)に格納しておき、電源電圧Vsの測定値とΔθの算出値に対応するデューティ比ηの値を読み取って用いることができる。なお、モータ6の回転速度は負荷によっても変動する。この場合、電流センサ70によるモータ電流Isの測定値を元に、モータ負荷の状態を推定し、デューティ比ηを補正して用いることも可能である。
【0041】
ここまでの処理は、図4の主マイコン110と副マイコン120との双方にて並列的に実行される。例えば、主マイコン110の動作が正常であるかどうかは、主マイコン110のRAM113に記憶された各パラメータの演算結果を副マイコン120に随時転送し、副マイコン120側にて、RAM123の記憶内容と照合することにより、異常発生の有無を監視させることができる。他方、主マイコン110側では、決定されたデューティ比ηを元にPWM信号を生成する。そして、操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの信号を参照してモータドライバ18に該PWM信号を出力することにより、モータ6をPWM制御する。
【0042】
図8に戻り、S3では、IGモニタ電圧VMが予め定められた基準値(例えば3V)以下となったかどうかにより、イグニッションOFFになったかどうかを確認し、もしOFFの場合はS4の終了処理となる。なお、イグニッションOFFになると、図13にて電源スイッチ201がOFFとなり、バッテリー57から操舵制御部100への電圧供給が途絶える。従って、該終了処理は、バックアップ電源211によりCPU111の動作電圧が確保された延長受電期間中に完了するように実行される。図11は、終了処理の流れを示すフローチャートである。イグニッションOFFになっている場合は、自動車の運転が終了したことを意味するから、主マイコン110において主CPU側RAM113に記憶されている車輪操舵軸8の終了角度位置を読み出し、これをEEPROM115の終了角度位置記憶部に格納し、さらに、同じEEPROM115に設けられたデータ書込み完了フラグをセットして(つまり、第一の記憶状態として)処理を終了する。
【0043】
なお、終了処理において、主CPU111に暴走等の異常が発生すると、主CPU111がEEPROM(PROM)115に終了角度位置を書込まなかったり、または実際の終了角度位置θとは異なる値を書込んだりする可能性がある。この場合は、副マイコン120のRAM123内の最後の操舵軸角度位置を、終了角度位置として採用し、EEPROM115にこれを書込んで終了する処理とすることもできる。このような処理を可能にするには、当然、延長受電期間中に副マイコン120の動作も合わせて確保する必要がある(RAM123のバックアップを含む)。図4に示すように、安定化電源回路212は、2つのマイコン110,120に共用化されているので、図13に示すように、バッテリー57と安定化電源回路212との間にバックアップ電源部211設けることで、両マイコン110,120を一括してバックアップすることができる。
【0044】
図12は、その処理の一例を示すフローチャートである。まず、S401において、主CPU111のリセットを副CPU121が検出しているかどうかを確認する。そして、もし検出している場合はS403に進み、副CPU側RAM123に記憶されている最後の角度位置θの検出結果を、終了角度位置θEとしてEEPROM115に記憶した後、S404にてデータ書込み完了フラグをセットする。なお、S401において、主CPU111のリセットが検出されなかった場合は、通常通り、主マイコン110側のRAM113に記憶された最後の角度位置θの検出結果を、終了角度位置θEとしてEEPROM115に記憶し、S404にてデータ書込み完了フラグをセットする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両用操舵制御システムの全体構成を模式的に示す図。
【図2】駆動部ユニットの一実施例を示す縦断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】本発明の車両用操舵制御システムの電気的構成の一例を示すブロック図。
【図5】舵角変換比と車速との関係を与えるテーブルの模式図。
【図6】車速に応じて舵角変換比を変化させるパターンの一例を示す模式図。
【図7】モータ電源電圧と角度偏差Δθとによりデューティ比を決定するための二次元テーブルの模式図。
【図8】本発明の車両用操舵制御システムにおけるコンピュータ処理の主ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図9】図8の操舵制御処理の詳細の一例を示すフローチャート。
【図10】図8の初期化処理を、本発明の第一の実施形態として構成した例を示すフローチャート。
【図11】図8の初期化処理を、本発明の第二の実施形態として構成した例を示すフローチャート。
【図12】図8の終了処理を本発明の実施形態として構成した例を示すフローチャート。
【図13】操舵制御部の電力供給系統の一例を示すブロック図。
【符号の説明】
3 ハンドル軸
6 モータ(アクチュエータ)
8 車輪操舵軸
57 バッテリー
100 操舵制御部
101 ハンドル軸角度検出部
103 操舵軸角度検出部
111 主CPU(書込み完了情報記憶制御手段、初期角度位置設定制御手段)
115 EEPROM(終了角度位置記憶部、書込み完了情報記憶部)
113 主CPU側RAM
121 副CPU
123 副CPU側RAM
IGL 電力経路
201 電源スイッチ
213 コンデンサ(蓄電手段)

Claims (8)

  1. 操舵用のハンドル軸と車輪操舵軸とが機械的に分離されてなり、ハンドル軸の操作角と車両の運転状態とに応じて前記車輪操舵軸に与えるべき操舵角を決定し、当該操舵角が得られるように前記車輪操舵軸をアクチュエータにより回転駆動するようにした車両用操舵制御システムにおいて、
    前記ハンドル軸の角度位置(以下、ハンドル軸角度位置とする)を検出するハンドル軸角度検出部と、
    前記車輪操舵軸の角度位置(以下、操舵軸角度位置とする)を検出する操舵軸角度検出部と、
    前記車両の運転状態を検出する運転状態検出部と、
    検出された前記ハンドル軸角度位置と前記車両の運転状態とに基づいて前記車輪操舵軸の目標角度位置を決定し、該操舵軸角度位置が前記目標角度位置に近づくように、前記アクチュエータの動作を制御する操舵制御部とを備え、該操舵制御部は、
    前記車両の運転停止中においても記憶内容を保持可能に構成され、車両運転終了時の前記車輪操舵軸の角度位置である終了角度位置を記憶する終了角度位置記憶部と、
    前記車両の運転停止中においても記憶内容を保持可能に構成され、前記終了角度位置記憶部への前記終了角度位置の書込み完了を示す第一の記憶状態と、同じく書込み失敗を示す第二の記憶状態との間で記憶内容が切り替え可能な書込み完了情報記憶部と、
    車両運転終了時に前記終了角度位置記憶部への前記終了角度位置の書込み処理がなされるのに対応して、前記書込み完了情報記憶部の記憶内容を前記第一の記憶状態に設定する書込み完了情報記憶制御手段と、
    前記車両の運転を一旦終了した後、運転を再開する際に、前記書込み完了情報記憶部の記憶内容を参照し、前記終了角度位置記憶部に記憶された前記終了角度位置を、前記記憶内容が前記第一の記憶状態となっている場合には、前記車輪操舵軸の初期角度位置として採用することを許容し、他方、前記第二の記憶状態となっている場合には、前記車輪操舵軸の初期角度位置として採用することを禁止する初期角度位置設定制御手段と、
    を有することを特徴とする車両用操舵制御システム。
  2. 前記書込み完了情報記憶制御手段は、前記車両の運転開始時に、前記書込み完了情報記憶部を前記第二の記憶状態に設定し、前記車両の運転終了時において、前記終了角度位置記憶部への前記終了角度位置の書込み処理が完了した場合には、前記第一の記憶状態となるように前記書込み完了情報記憶部の内容を書き換えるものであり、他方、前記終了角度位置の書込み処理が完了しなかった場合には書き換えを行わないものである請求項1に記載の車両用操舵制御システム。
  3. 前記操舵制御部は、CPUとそのワークエリアとなるRAMを有し、かつ、該RAM内には、前記車両の運転中に前記操舵軸角度位置の検出結果を随時記憶する操舵軸角度位置記憶部が形成されてなり、前記車両の運転停止に伴い、前記CPUと前記RAMとは、車載バッテリーからの電力供給が遮断されるように構成されてなる請求項1又は2に記載の車両用操舵制御システム。
  4. 前記終了角度位置記憶部と前記書込み完了情報記憶部とは、前記CPUが前記RAMに対するデータ読出し/書込みを行う第一の動作電圧においては、データの読出しのみが可能であり、他方、前記第一の動作電圧とは異なる第二の動作電圧を設定することによりデータの書込みが可能となるPROMにて構成されている請求項3記載の車両用操舵制御システム。
  5. 車両全体の電力源をなすバッテリーから前記操舵制御部へ電力を供給する電力経路上に、前記車両の運転駆動をON/OFFする運転駆動スイッチが車両運転停止のために操作されるに伴い、該バッテリーと前記操舵制御部とを接続状態と遮断状態との間で切り替える電源スイッチが設けられ、前記電源スイッチによる前記電力経路の遮断により前記バッテリーによる電力供給が途絶えた後も、前記終了角度位置記憶部及び前記書込み完了情報記憶部の内容書き換え処理のために、前記操舵制御部への電力供給を一定時間継続させる延長受電期間を設けるためのバックアップ電源部を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用操舵制御システム。
  6. 前記バックアップ電源部は、電源スイッチにより前記電力経路が遮断されるに伴い、前記バッテリーから受ける電源電圧を一定時間だけ前記CPUの動作電圧以上に保持する蓄電手段を有する請求項5記載の車両用操舵制御システム。
  7. 前記CPUは、前記電力経路により前記バッテリーからの電源電圧を、安定化電源回路を経て受電するようになっており、前記蓄電手段は、前記バッテリーと前記安定化電源回路との間において前記電力経路に対し並列接続されてなる請求項6記載の車両用操舵制御システム。
  8. 前記操舵制御部は、前記車輪操舵軸のアクチュエータの動作制御主体をなす主CPUと、該主CPUの処理動作のうち、少なくとも前記操舵軸角度位置の検出処理を前記主CPUと並行して行う副CPUと、該副CPUのワークメモリとなる副CPU側RAMとを有し、
    前記バックアップ電源部により該副CPUに対しても前記延長受電期間が設定され、
    該延長受電期間中において、前記主CPUのリセットを前記副CPUが検出した場合、副CPU側RAMに記憶されている最後の角度位置検出結果を前記終了角度位置として前記終了角度位置記憶部に記憶する請求項5ないし7のいずれか1項に記載の車両用操舵制御システム。
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