JP4060620B2 - 無鉛性カチオン電着塗料を用いる電着塗装方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被塗物、特に被塗物として亜鉛鋼板を塗装する際にも外観不良を生じ難い、短時間電着可能な高つきまわり性の無鉛性カチオン電着塗料を電着塗装する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いことから経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
これまで電着塗料には、塗膜の耐食性を改良するため、鉛が添加されてきた。近年、鉛が環境に対して悪影響を与えることから、電着塗料に使用する鉛を削減することが要求されている。
【0004】
他方、塗装コストの低減の為、塗料自体の使用量の減少も望まれている。
【0005】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜の増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。
【0006】
その結果、当該部位への塗料の析出は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被着部分に塗料固形分が被着して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質をつきまわり性という。
【0007】
カチオン電着塗装においては、上述したように被塗物表面に絶縁性の塗膜が順次形成されていくので理論的には無限のつきまわり性を有しており、被塗物の全ての部分に均一に塗膜を形成することができるはずである。
【0008】
しかしながら、被塗物の未着部位においては、被着部位と比較して浴中で印加される電圧が弱くなるため塗料固形分が着き難く、電着塗料のつきまわり性が必ずしも充分ではなく、膜厚のムラが生じる。
【0009】
カチオン電着塗装は、通常は下塗り塗装に使用され、防錆等を主目的として行なわれることから、複雑な構造を有する被塗物であっても、すべての部位でその塗膜の膜厚を所定値以上にする必要がある。そのために膜厚にムラがあると、厚い部分は塗り過ぎであり、塗料が過剰に使用されていることになる。従って、塗料の使用量を減少させるためには、電着塗料のつきまわり性を向上する必要がある。
【0010】
カチオン電着塗料の被塗物は、従来から自動車車体等に用いられる鋼鈑が大部分を占めている。鋼鈑は、防錆油が塗られて保管されている。この防錆油をアルカリ等で脱脂し、表面処理を行った後の鋼鈑が、通常被塗物として用いられる。
【0011】
しかしながら、近年では、鋼鈑の表面に亜鉛がめっきされた亜鉛鋼鈑に電着塗装を施すことも多くなってきた。亜鉛鋼鈑は、通常の鋼鈑と比べて防錆性に優れ、被塗物として用いると、より高い防錆性を実現できる。他方、亜鉛鋼鈑を被塗物として用いると、得られた電着塗膜にピンホールやクレータが発生し易く、外観不良が生じやすい問題がある。その理由は、亜鉛鋼鈑はカチオン電着塗装時の被塗物側で発生する水素ガスの放電電圧が鉄鋼鈑よりも低いため、水素ガス中で火花放電が生じ易くなるためではないかと考えられている。
【0012】
また近年では、生産性向上のため、短時間で電着塗装がおこなえることが要望されているが、電着時間を短くするとつきまわり性が低下する問題があった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、被塗物として亜鉛鋼鈑を用いる場合でも塗膜にピンホールやクレーターが生じ難く、また、電着塗料自体の使用量も少なくて済むために経済性に優れ、さらに環境に与える影響が少ない短時間電着可能な高つきまわり性の無鉛性カチオン電着塗料の塗装方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂、中和酸、有機溶媒、金属触媒を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物であって、
該バインダー樹脂が、100gに含まれるスルホニウム塩基のミリ当量数が7〜45であるスルホニウム変性エポキシ樹脂、分子量が700〜6000であるアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂、およびブロックイソシアネート硬化剤を含むものであり、
該無鉛性カチオン電着塗料組成物中有機溶媒中の揮発性有機分の含有量が1重量%以下であり、
該無鉛性カチオン電着塗料組成物の塗料液伝導度が1000〜2500μS/cmであり、
被塗物に電着された塗膜の最低造膜温度が20〜35℃である、無鉛性カチオン電着塗料組成物を提供する工程;
該無鉛性カチオン電着塗料組成物の温度を該最低造膜温度よりも2℃低い温度以上でかつ、該最低造膜温度よりも6℃高い温度以下に調節する工程;
該被塗物を該無鉛性カチオン電着塗料組成物に浸漬する工程;及び
該被塗物を陰極として、上記温度条件で電着塗装を行う工程;
を包含する電着塗装方法を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0015】
この方法は、前記バインダー樹脂がアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を更に含む方法であってもよい。
そして、前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のアミノ基を中和するのに必要な中和酸のミリ当量数が、前記バインダー樹脂100gに対し、7〜45であることが好ましい。
また、前記スルホニウム変性エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂と式
【0016】
【化3】
HO−R−S−R'−OH
【0017】
[式中、R及びR'はそれぞれ独立して炭素数2〜8の直鎖又は分枝鎖アルキレン基である。]
で表されるスルフィド化合物とを反応させて得られたものであることが好ましい。
そして、そのスルフィド化合物が1−(2ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノ−ルであることが好ましい。
一方、前記中和酸が酢酸、乳酸、ギ酸、スルファミン酸、ジメチロールプロピオン酸、およびメチロール酸からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
また、前記アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂が、1級アミン、2級アミンと式
【0018】
【化4】
【0019】
[式中R、R'およびR''はそれぞれ独立して水素又は、炭素数1〜5の直鎖または分枝鎖アルキレン基である。また繰り返し単位nは、0〜25である。]
であらわされるエポキシ樹脂とを反応して得られたものであることが好ましい。
また、前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と前記スルホニウム変性エポキシ樹脂との重量比が0/100〜90/10の範囲であることが好ましい。
更に顔料を含み、前記無鉛性カチオン電着塗料組成物中に含まれる顔料と樹脂固形分との重量比が1/9以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、無鉛性とは、実質上鉛を含まないことをいい、環境に悪影響を与えるような量で鉛を含まないことを意味する。具体的には、電着浴中の鉛化合物濃度が50ppm、好ましくは20ppmを超える量で鉛を含有しないことをいう。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するかまたは溶解した、バインダー樹脂、、中和酸、有機溶媒、金属触媒等種々の添加剤を含有する。バインダー樹脂は、スルフォニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤とを含む。好ましくは、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂も同時にバインダー樹脂に含まれる。水性媒体としては、イオン交換水等が一般に用いられる。
【0022】
本発明で使用される無鉛性カチオン電着塗料組成物では、バインダー樹脂に含まれるカチオン性樹脂としてスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を用い、好ましくはアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂も同時に用いる。
【0023】
スルホニウム変性エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂にスルフィド化合物及び中和酸を反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にスルホニウム塩基が導入された樹脂をいう。
【0024】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂とは、ノボラック型エポキシ樹脂にアミンを反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にアミノ基が導入された樹脂をいう。。
【0025】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノール型エポキシ樹脂にアミンを反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にアミノ基が導入された樹脂をいう。
【0026】
また、ブロックイソシアネート硬化剤としては、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロックしたブロックポリイソシアネートを用いることが望ましい。
【0027】
スルホニウム変性エポキシ樹脂
本発明で用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物には、スルフィド化合物で変性されたエポキシ樹脂が含まれる。このスルホニウム変性エポキシ樹脂は、例えば、特開平6−128351号公報、特開平7−206968号公報などに記載されているような従来公知のものであってよい。スルホニウム変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をスルフィド化合物及び中和酸で開環して製造される。
【0028】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂
本発明で用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物には、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれる。このアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えば、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されているような従来公知のものでよい。アミン変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0029】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0030】
特開平5−306327号公報第0004段落の式、化3に記載のような、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。つきまわり性に優れた電着塗料が得られ、また、耐熱性および耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0031】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0032】
特に好ましいビスフェノール型エポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性および耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0033】
2官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体的製造方法は、例えば、特開2001−128959号公報第0012〜0047段に記載されている。
【0034】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0035】
ビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンには、1級アミン、2級アミンが含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0036】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0037】
エポキシ樹脂と反応させるスルフィド化合物は、エポキシ基と反応し、かつ妨害基を含まない全てのスルフィド化合物が含まれる。尚、エポキシ樹脂とスルフィド化合物との反応は中和酸の存在下で行う必要があり、その結果、エポキシ樹脂にスルホニウム基が導入される。
【0038】
スルフィド化合物の具体例としては、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィドまたは環状スルフィドであり得る。使用しうるスルフィド化合物の例には、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド等が挙げられる。
【0039】
特に好ましいスルフィド化合物は、式
【0040】
【化5】
HO−R−S−R'−OH
【0041】
[式中、R及びR'はそれぞれ独立して炭素数2〜8の直鎖又は分枝鎖アルキレン基である。]
で表されるチオジアルコールである。かかるスルホニウム変性エポキシ樹脂は電着開始直後の短時間(約10秒間)塗膜抵抗の形成を遅くする機能を有し、かつバインダー樹脂に水分散安定性を付与する。
【0042】
チオジアルコールの例には、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノ−ル、及び1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノールなどがある。最も好ましくは、スルフィド化合物は、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノールである。
【0043】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂
本発明で用いるアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、典型的にはノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。ノボラック型エポキシ樹脂としては、式
【0044】
【化6】
【0045】
[式中R、R'およびR''はそれぞれ独立して水素又は、炭素数1〜5の直鎖または分枝鎖アルキレン基である。また繰り返し単位nは、0〜25である。]
で表わされるものを使用できる。
【0046】
ノボラック型エポキシ樹脂の典型例は、フェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂である。前者の市販品としては、YDPN−638(東都化成社製)、後者の市販品としては、YDCN−701(同)、YDCN−704(同)などがある。
【0047】
ノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンには、1級アミン、2級アミンが含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0048】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0049】
また、ノボラック型エポキシ樹脂に複数存在するエポキシ環には、酢酸などのカルボン酸類、アリルアルコールなどのアルコール類、ノニルフェノールのようなフェノール類を一部付加させてもよい。
【0050】
エポキシ樹脂とスルフィド化合物又はアミンとの反応は、当業者で知られている方法および条件で行えばよい。エポキシ樹脂とスルフィド化合物との反応については、例えば、特開平6−128351号公報、特開平7−206968号公報に記載されている。エポキシ樹脂とアミンとの反応については、例えば、特開平5−306327号公報、及び特開平2000−128959号公報に記載されている。また、中和酸を用いてこれらをカチオン化する反応も、当業者に知られている方法および条件下でおこなえば良い。
【0051】
本発明において特に好ましい態様は、スルホニウム変性エポキシ樹脂と、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を、バインダー樹脂に含む様態である。この場合、被塗物として亜鉛鋼鈑を用いる場合でも塗膜にピンホールやクレーターが生じ難くなり、得られる電着塗料組成物の亜鉛鋼鈑適性が特に向上する。また、短時間で電着をおこなった際でも、つきまわり性を確保できる。
【0052】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上含有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちいずれのものであってもよい。
【0053】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリインジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化合物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種類以上併用することができる。
【0054】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応して得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0055】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0056】
ブロック剤としては、ε―カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、環境への影響を少なくするため、ブロックイソシアネート硬化剤の使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0057】
顔料
一般に、電着塗料組成物には着色剤として顔料を含有させる。しかしながら、本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物には顔料を含有させないことが好ましい。塗料のつきまわり性が向上するからである。
【0058】
塗膜に着色や耐食性を付与するため、着色顔料、防錆顔料、体質顔料等を含有させる場合は、塗料組成物中に含まれる顔料と顔料固形分との重量比(P/V)が1/9以下になる量とする。塗料組成物中の顔料の量が樹脂固形分との重量比1/9を超えると塗料固形分の析出性が低下するため、つきまわり性が低下する。また、塗膜比重が大きくなり使用量の増加をまねく。
【0059】
本発明で使用される無鉛性カチオン電着塗料に含有させてよい顔料の例としては、通常用いられる顔料であれば特に制限はなく、酸化チタン及びカーボンブラックのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料があげられる。
【0060】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体中に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料ペーストという。
【0061】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂と顔料との配合比(顔料分散樹脂/顔料)は、固形分重量基準で10/100〜50/100である。
【0062】
金属触媒
本発明で使用される無鉛性カチオン電着塗料組成物には塗膜の耐食性を改良するための触媒として、金属触媒を金属イオンとして含有させてよい。金属イオンとしては、セリウムイオン、ビスマスイオン、銅イオン、亜鉛イオンが好ましい。これらは適当な酸と組み合わせた塩や金属イオンを含有する顔料からの溶出物として電着塗料組成物に配合される。酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸のいずれかであればよい。好ましい酸は酢酸である。
【0063】
電着塗料組成物
本発明で使用される無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上に述べた金属触媒、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及び必要であれば顔料分散ペーストを水性媒体中に分散または水溶化することによって調製される。また、通常、水性媒体には、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を水媒体中に安定に分散または水溶化するために中和酸を含有させる。中和酸は、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0064】
本発明で使用される電着塗料組成物では、スルホニウム変性エポキシ樹脂の合計100gに含まれるスルホニウム塩基のミリ当量数は7〜45、好ましくは10〜35とする。スルホニウム塩基のミリ当量数が5ミリ当量未満であるとスルホニウム変性エポキシ樹脂の親水性が不充分となり、塗料の分散安定性が維持できないこととなり、45ミリ当量を超えると塗料のつきまわり性が劣ることとなる。
【0065】
またアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の合計100gを中和するのに必要な中和酸のミリ当量数は、7〜45、好ましくは、10〜35とする。中和酸の量が7ミリ当量未満であるとアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の親水性が不充分となり、塗料の分散安定性が維持できないこととなり、45ミリ当量を超えると塗料のつきまわり性が劣ることとなる。
【0066】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂及びスルホニウム変性エポキシ樹脂、及び硬化剤としてブロックイソシアネートを配合し、水性媒体にこれらを分散させる方法については、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、スルホニウム変性エポキシ樹脂それぞれ、又はいずれかひとつにブロックイソシアネートを溶液状態で混合し、それぞれをエマルションとし、その後それぞれのエマルションを混合してよく、又はアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびスルホニウム変性エポキシ樹脂を予め溶液状態で混合しておき、これにブロックイソシアネートを加えた混合溶液を、エマルションにしてもよい。
【0067】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、中和酸により中和され用いることができる。中和酸の量は特に限定されない。水性媒体中で安定に分散できる最低量以上が必要であるが、付加させるアミンの種類および中和酸の種類により異なる。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、カチオン電着塗料組成物の液伝導度を、つきまわり性に優れかつ亜鉛鋼鈑適性を損なわない最適範囲に調整する役割をもっている。
【0068】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂とスルホニウム変性エポキシ樹脂との混合割合は、重量比で、0/100〜90/10、好ましくは30/70〜70/30の範囲である。両者の混合割合が、90/10を超えると亜鉛鋼鈑における塗膜の外観不良が解消され難くなる。
【0069】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の含有量は特には規定されないが、カチオン電着塗料組成物の液伝導度が1000〜2500μS/cmとなる範囲とする。カチオン電着塗料組成物の液伝導度が1000μS/cm未満であると、短時間でのつきまわり性が劣る。2500μS/cmを超えると、亜鉛鋼鈑における塗膜の外観不良が解消され難くなる。
【0070】
本発明で使用される電着塗料組成物では、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の分子量は、700〜6000とする。好ましくは、1500〜5000である。アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の分子量が700未満だと、理由は不明だが亜鉛鋼鈑適性が劣る。また、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の分子量が6000を超えると焼き付け時の粘度が高くなり、仕上がり外観が低下する。
【0071】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を水性媒体に分散または水溶化する方法については、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を溶融もしくは適当な溶剤により液状化させたのち、予め中和酸を含ませた水性媒体を攪拌しながら加えることにより得られる。このとき加えた溶剤は、後工程で脱溶剤を行い除去することが好ましい。
【0072】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にスルホニウム変性エポキシ樹脂中の1級水酸基、2級水酸基、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の1級アミノ基、2級アミノ基、1級水酸基、2級水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに充分でなければならず、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の合計とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して、1/1〜9/1、好ましくは2/1〜4/1の範囲である。
【0073】
塗料組成物は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開劣触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないため、その量は、樹脂固形分の0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0074】
有機溶媒はアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、スルホニウム変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、アミン変性ノボラックエポキシ樹脂、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。従って、樹脂成分からこれらの有機溶媒を完全に除去する必要はなく、また、別途有機溶媒を加えてもよい。
【0075】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等があげられる。
従って、従来、樹脂成分からこれらの有機溶媒を完全に除去せず、また、別途有機溶媒を加えることにより、電着塗料のVOC(揮発性有機分含有量)で表現されている、揮発性有機分とは、沸点250℃以下の有機溶媒のことをいい、上記で具体的に列挙したものをいう。
これにたいし、本発明で使用される無鉛性カチオン電着塗料組成物では、有機溶媒の含有量を従来と比較して低くすることが好ましい。環境に対して悪影響を与えるのを防止するためである。具体的には、塗料組成物のVOCを1重量%以下、好ましくは0.5〜0.8重量%、より好ましくは0.2〜0.5重量%とする。塗料組成物のVOCが1重量%を越えると環境に対して与える影響が大きくなり、また、析出塗膜に対する流動性改良により塗膜抵抗値も減少するので、塗料のつきまわり性も低下する。
【0076】
VOCを1重量%以下にする方法としては、反応時の粘度調整に使用される有機溶媒については、反応温度を上げ低溶剤または無溶剤で反応させることで削減する。また、反応時にどうしても必要な有機溶媒については、脱ソルベントなどの工程で回収されるような低沸点の溶媒を使用するなどして、最終製品の揮発性有機分含有量を削減することができる。塗装時の粘度調整などに用いる有機溶媒については、ソフトセグメントによる変性等、樹脂を低粘度化するなどして、その含有量を削減することができる。
【0077】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0078】
本発明で使用される無鉛性カチオン電着組成物は当業者に周知の方法で被塗物に電着塗装され、電着塗膜(未硬化)を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼鈑、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成形物等をあげることができる。
【0079】
好ましい被塗物は亜鉛鋼鈑である。本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は電着開始後の短時間(約10秒間)、塗膜抵抗の形成を遅くすることで、亜鉛鋼鈑に塗装した場合でも塗膜にピンホールやクレーターが発生し難く、優れた外観の塗装物を提供できるからである。
【0080】
電着塗膜の膜厚は10〜20μmとすることが好ましい。膜厚が10μm未満であると、防錆性が不充分であり、20μmを超えると、塗料の浪費につながる。また、被塗物に電着された塗膜の最低造膜温度(MFT)は従来のものよりも高くすること好ましい。電着塗料のつきまわり性が改善されるからである。
【0081】
具体的には、電着塗膜のMFTは20〜35℃とする。電着塗膜のMFTが20℃未満であると、少ない熱でフローを起こす特性より膜厚が厚くなりやすくつきまわり性不適となり、35℃を超えると熱によるフローが充分でなく外観が劣ることとなる。電着塗膜のMFTは、好ましくは22〜32℃である。
【0082】
電着塗料のMFTを従来のものと比較して高くすることによりカチオン電着塗料組成物のつきまわり性が改善される理由は明確ではないが、塗装時の浴温と最低造膜温度が接近していることにより、膜厚の不必要な増加が抑えられ、内外板比率が向上するためではないかと考えられている。電着塗膜のMFTの調節は当業者に周知の方法により行えば足りる。例えば、樹脂の配合を変化させる。析出膜のTgを変化させる、溶剤量を変化させる等である。
【0083】
MFTとは熱可塑性有機樹脂粒子が結合して造膜するのに最低必要な温度を意味する。MFTの測定方法は以下の通りである。電着塗料中に、同一組成の被塗物を、一定面積浸漬させ、電着浴温度を10〜40℃まで1℃毎に変化させ、塗装電圧200Vで3分間通電したものを所の定焼き付け条件で乾燥させた後の塗膜重量を測定する。この一定面積あたりの塗膜重量が最低となる浴温度を最低造膜温度(MFT)とする。
【0084】
本発明においては、塗装時の電着浴温度はMFTよりも2℃低い温度以上でMFTよりも6℃高い温度以下の範囲である。より好ましい電着浴温度の範囲はMFTよりも1℃低い温度以上で、MFTよりも5℃高い温度以下の範囲にあることである。
【0085】
電着浴温度が、MFTよりも2℃低い温度よりも低い場合及び、MFTよりも6℃高い温度よりも高い場合は、つきまわり性が低下する。塗装時の電着浴温と最低造膜温度が離れてしまうことが原因であると考えられる。
【0086】
上述のようにして得られる電着塗膜は、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは160〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させる。
【0087】
【発明の効果】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料塗装方法は、被塗物として亜鉛鋼鈑を用いる場合でも外観不良が生じ難く、また、つきまわり性に優れ、電着塗料自体の使用量も少なくて済み、かつ短時間電着可能なために生産性、経済性に優れ、環境に与える影響が少ない。
【0088】
【実施例】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0089】
製造例1
ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0090】
製造例2
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0091】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0092】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン79部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0093】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるよう蟻酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0094】
製造例3
スルホニウム変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0095】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0096】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、SHP−100(1−(2―ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、三洋化成製)52部、イオン交換水21部、88%乳酸39部を加え、80℃で反応させた。反応は酸価が5を下回るまで継続し、3級スルホニウム塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0097】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、イオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを得た。またこのエマルションの樹脂固形分100g当たりの塩基のミリ当量は20であった。
【0098】
製造例4
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を装備したフラスコにMIBK204部を仕込み100℃まで昇温させる。そこにクレゾールノボラック樹脂YD−CN703(東都化成製、エポキシ当量204)204部をすこしづつ加え溶解し、エポキシ樹脂の50%溶液を得た。続いて、攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した先のフラスコとは別のフラスコに、N−メチルエタノールアミン75.1部およびMIBK32.2部を仕込み120℃まで昇温した。先に得られたエポキシ樹脂の50%溶液408部を3時間かけて滴下した。その後、120℃で2時間保持した。のち、80℃まで冷却した。
さらに、88%ギ酸24.8部をイオン交換水15.9部で希釈した水溶液を加えて30分間80℃で混合した。引き続いて、脱イオン水489.4部を加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が34%のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を得た。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂についてGPCによる分子量測定を行なった結果、数平均分子量は3500であった。
【0099】
製造例5
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂の製造
フラスコにてMIBK167部とビスフェノールF型樹脂YDF−170(東都化成製、エポキシ当量167)167部を攪拌混合して、エポキシ樹脂の50%溶液を得た。続いて、攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した先のフラスコとは別のフラスコに、N−メチルエタノールアミン75.1部およびMIBK32.2部を仕込み120℃まで昇温した。先に得られたエポキシ樹脂の50%溶液334部を3時間かけて滴下した。その後、120℃で2時間保持した。のち、80℃まで冷却した。
さらに、88%ギ酸24.8部をイオン交換水15.9部で希釈した水溶液を加えて30分間80℃で混合した。引き続いて、脱イオン水489.4部を加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が34%のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を得た。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂についてGPCによる分子量測定を行なった結果、数平均分子量は500であった。
【0100】
製造例6
顔料分散樹脂の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウリート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0101】
次いで適当な反応容器に、ジメチルエタノール87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0102】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させて、次いで、120℃に冷却した後、先に調整した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0103】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0104】
製造例7
顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例6で得た顔料分散樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た。(固形分48%)
【0105】
実施例1
製造例2で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを固形分比で50/50で混合し、製造例4で得られたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を両エマルションの固形分合計100部に対して固形分として3部加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この塗料の最低造膜温度を測定したところ30℃であった。また、塗料液伝導度は、1600μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも2℃高い温度(すなわち32℃)で電着塗装し、つきまわり性および亜鉛鋼鈑適性を後述の方法により評価した。結果については、表1に示した。
【0106】
実施例2
製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションに、製造例4で得られたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を、スルホニウム変性樹脂エマルションの固形分合計100部に対して固形分として6部加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。アミン変性樹脂エマルションは用いなかった。この塗料の最低造膜温度を測定したところ33℃であった。また、塗料液伝導度は、2000μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTと同じ温度(すなわち33℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0107】
実施例3
実施例2と同じ比率で混合されたカチオン電着樹脂組成物に対して、製造例7の顔料分散ペーストを顔料分と樹脂分の固形分比率で1/10となるように顔料分散樹脂ペーストを添加し、イオン交換水を加えて固形分が20%である実施例3のカチオン電着塗料組成物を得た。またこの塗料の最低造膜温度を測定したところ32℃であった。また塗料液伝導度は、1900μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも4℃高い温度(すなわち36℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0108】
実施例4
製造例2で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを固形分比で70/30で混合し、製造例4で得られたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を両エマルションの固形分合計100部に対して固形分として2.5部加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この塗料の最低造膜温度を測定したところ30℃であった。また、塗料液伝導度は、1600μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも2℃低い温度(すなわち28℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0109】
比較例1
製造例2で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを固形分比で50/50で混合した。アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は加えなかった。ジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この塗料の最低造膜温度を測定したところ30℃であった。また、塗料液伝導度は、900μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも2℃高い温度(すなわち32℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0110】
比較例2
実施例1で得られたカチオン電着塗料組成物にn−ヘキシルセロソルブを樹脂固形分に対し5重量%分添加した。この塗膜の最低造膜温度を測定したところ18℃であった。また塗料液伝導度は1550μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも12℃高い温度(すなわち30℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0111】
比較例3
製造例2で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを固形分比で50/50で混合し、製造例4で得られたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を両エマルションの固形分合計100部に対して固形分として8部加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この塗料の最低造膜温度を測定したところ34℃であった。また、塗料液伝導度は、3000μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTと同じ温度(すなわち34℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0112】
比較例4
製造例2で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを固形分比で50/50で混合し、製造例5で得られたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を両エマルションの固形分合計100部に対して固形分として2.5部加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この塗料の最低造膜温度を測定したところ28℃であった。また、塗料液伝導度は、1650μS/cmであった。得られたカチオン電着塗料組成物について、電着浴温度をMFTよりも2℃高い温度(すなわち30℃)で電着塗装し、実施例1と同様にして評価した。結果については、表1に示した。
【0113】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物と焼き付けて得られたカチオン電着塗膜については以下の方法により評価を行なった。
【0114】
<つきまわり性>
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0115】
カチオン電着塗料4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0116】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、鋼鈑にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間、短時間電着では115秒間その電圧を維持することにより行った。
【0117】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。この値が50%を超えた場合を良好(凡例;○)、この値が50%以下の場合を不良(凡例;×)と判断した。
【0118】
<亜鉛鋼鈑適性>
化成処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑に、220Vまで5秒で昇圧後、175秒で電着したのち水洗し、170℃で25分間焼き付けし、塗膜状態を観察した。塗膜異常が認められない場合を良好(凡例;○)、わずかに異常が認められる場合を、異常あり(凡例;△)、著しい異常が認められる場合を不良(凡例;×)と判断した。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例の結果により、本願発明のカチオン電着塗料塗装方法は亜鉛鋼鈑適性が良好で、かつ短時間電着時のつきまわり性が良好であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】 つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】 つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
10・・・ボックス、
11〜14・・・リン酸亜鉛処理鋼板、
15・・・貫通穴、
20・・・電着塗装容器、
21・・・電着塗料、
22・・・対極。
Claims (8)
- 水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂、中和酸、有機溶媒、金属触媒を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物であって、
該バインダー樹脂が、100gに含まれるスルホニウム塩基のミリ当量数が7〜45であるスルホニウム変性エポキシ樹脂、分子量が700〜6000であるアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂、およびブロックイソシアネート硬化剤を含むものであり、
該アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂が、1級アミン、2級アミンと式
であらわされるエポキシ樹脂とを反応して得られたものであり、
該無鉛性カチオン電着塗料組成物中有機溶媒中の揮発性有機分の含有量が1重量%以下であり、
該無鉛性カチオン電着塗料組成物の塗料液伝導度が1000〜2500μS/cmであり、
被塗物に電着された塗膜の最低造膜温度が20〜35℃である、無鉛性カチオン電着塗料組成物を提供する工程;
該無鉛性カチオン電着塗料組成物の温度を該最低造膜温度よりも2℃低い温度以上でかつ、該最低造膜温度よりも6℃高い温度以下に調節する工程;
該被塗物を該無鉛性カチオン電着塗料組成物に浸漬する工程;及び
該被塗物を陰極として、上記温度条件で電着塗装を行う工程;
を包含する電着塗装方法。 - 前記バインダー樹脂がアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を更に含む請求項1記載の方法。
- 前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のアミノ基を中和するのに必要な中和酸のミリ当量数が、前記バインダー樹脂100gに対し、7〜45である請求項2記載の方法。
- 前記スルホニウム変性エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂と式
【化2】
HO−R−S−R'−OH
[式中、R及びR'はそれぞれ独立して炭素数2〜8の直鎖又は分枝鎖アルキレン基である。]
で表されるスルフィド化合物とを反応させて得られたものである請求項1〜3いずれかひとつに記載の方法。 - 前記スルフィド化合物が1−(2ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノ−ルである請求項4記載の方法。
- 前記中和酸が酢酸、乳酸、ギ酸、スルファミン酸、ジメチロールプロピオン酸、およびメチロール酸からなる群から選択される1種以上である請求項1〜5いずれかひとつに記載の方法。
- 前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と前記スルホニウム変性エポキシ樹脂との重量比が0/100〜90/10の範囲である請求項2〜6いずれかひとつ記載の方法。
- 更に顔料を含み、前記無鉛性カチオン電着塗料組成物中に含まれる顔料と樹脂固形分との重量比が1/9以下である請求項1〜7いずれかひとつに記載の方法
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