JP3936656B2 - 非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、家電用、建材用、自動車用等に用いられる、6価クロム(あるいは3価クロム)を含有しない、耐食性に優れた非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
亜鉛めっき鋼板あるいは亜鉛合金めっき鋼板(ここではこれらを総称して「亜鉛系めっき鋼板」と称する)は、海水等の塩分を含む雰囲気又は高温多湿の雰囲気では、表面に白錆が発生して外観を著しく損ねたり、素地鉄面に対する防錆力が低下したりする。
【0003】
この白錆の防止には、従来よりクロメート系の防錆処理剤が利用されており、例えば特開平3−131370号公報には、オレフィン−α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体樹脂ディスパージョンに水分散性クロム化合物と水分散性シリカを含有させた樹脂系処理剤が記載されている。
【0004】
このようなクロメート系処理剤による皮膜は、既知の処理剤の中で耐食性が最も良好なものとして認識されている。とは言え、クロメート処理による皮膜は有害元素であることが知られている6価クロムを含有しており、そのため6価クロムを含有しない表面処理鋼板への要求が高まっている。
【0005】
有害なクロムを含まないノンクロム防錆処理剤として、これまでに、様々なものが提案されている。例えば、防錆成分として硫化物やイオウを用いたものが、特開平8−239776号公報、特開平8−67834号公報に記載されている。これらの処理剤に含まれる硫化物やイオウに特有の臭気や毒性のない、トリアジンチオール化合物を用いた処理剤が、例えば特開昭53−31737号公報、特開平10−195345号公報に開示されている。特開昭61−223062号公報には、防錆成分としてのチオカルボニル基含有化合物と、水に難溶又は不溶性の有機化合物を混合して得られる金属との反応性エマルジョンが記載されている。
【0006】
このほかに、特開昭54−71734号公報には、ミオイノシトールの2〜6個の結合りん酸エステル又はその塩類と、チタン弗化物及びジルコニウム弗化物のうちの少なくとも一方と、チオ尿素又はその誘導体とを含有する水溶液で、亜鉛又は亜鉛合金を表面処理する方法が記載されている。特開平3−226584号公報では、Ni2+とCo2+の一方又は両方と、アンモニア及び1級アミン基を有する化合物のうちの少なくとも1種とを含有しているpH5〜10の水溶液である表面処理剤が使用されている。
【0007】
上記の従来の防錆皮膜形成用の表面処理剤は、一般に、インヒビター(あるいは防錆インヒビター)と呼ばれる防錆成分のほかに、有機樹脂及びシリカを含有していて、前処理を施した亜鉛めっき鋼板あるいは亜鉛合金めっき鋼板の表面に適用されて防錆皮膜を形成する。めっき鋼板表面の前処理には、酸洗、アルカリ洗浄、そしてリン酸塩処理が含まれる。
【0008】
最近になって、非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板に対するユーザーからのいろいろな要求を満たすために、硬さの向上した皮膜や潤滑性を持つ皮膜が必要とされるようになり、それにつれて、めっき鋼板表面に位置する接着層と、その上の機能性有機(又は無機)被覆層を備えた表面処理めっき鋼板が知られるようになってきた。このような表面処理めっき鋼板においては、接着層が、下地のめっき鋼板と上層の機能性被覆層との間に介在して、機能性被覆層の下地めっき鋼板への付着性や、めっき鋼板の耐食性を向上させている。
【0009】
下層の接着層は、有機系のものと無機系のものに大別される。有機系の接着層には、有機樹脂とシランカップリング剤とを含有するコーティング剤から形成されるものと、有機樹脂と反応性有機化合物(例えばタンニン酸)とを含有するコーティング剤から形成されるものがある。有機系接着層を形成するコーティング剤は、シリカを含有していることもある。無機系の接着層としては、反応性無機化合物(例えば六フッ化チタン酸(H3TiF6))をベースにしたものなどが知られている。
【0010】
上層の機能性被覆層を形成するコーティング剤としては、表面処理亜鉛系めっき鋼板の用途に応じ、既存の各種のコーティング剤から選ばれたものが用いられる。
【0011】
【特許文献1】
特開平3−131370号公報
【特許文献2】
特開平8−239776号公報
【特許文献3】
特開平8−67834号公報
【特許文献4】
特開昭53−31737号公報
【特許文献5】
特開平10−195345号公報
【特許文献6】
特開昭61−223062号公報
【特許文献7】
特開昭54−71734号公報
【特許文献8】
特開平3−226584号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
下層の接着層と上層の機能性被覆層から構成されるこのような2層構造の表面処理皮膜は、下層接着層用のコーティング剤の塗布とその後の接着層の形成のための処理、そして上層機能性被覆層用コーティング剤の塗布とその後の機能性被覆層の形成のための処理の、2段階の処理を経て形成される。この2段階処理のうちの、第2段階の機能性被覆層形成のための処理は、コーティング剤として従来から知られたものを使用できるため、従来と同様に行うことができる。それに対して、第1段階の接着層形成のための処理は、最近になって知られるようになった接着層形成用の新しいコーティング剤を使用するため、製造プロセスとしてなお開発段階にある。
【0013】
本発明の発明者らは、有機樹脂、反応性有機化合物としてのタンニン酸、及び防錆インヒビターとしてのシリカを含む有機系の接着層形成用コーティング剤を使って下層接着層を形成し、次いで上層被覆層を形成することにより製造した2層構造の表面処理皮膜を備えた亜鉛系めっき鋼板は、上層被覆層の密着性にばらつきがあることを見いだした。
【0014】
本発明は、かかる問題の解決を目指してなされたものであり、すなわち、下層接着層形成用のコーティング剤としてタンニン酸を含む有機系のものを使用して、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板上に2段階の塗装処理を経て下層接着層と上層被覆層から構成される2層構造の表面処理皮膜を形成することにより、耐食性に優れた非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板を再現性よく製造することができる新しい方法の提供を目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、タンニン酸を含む有機系コーティング剤を使用して下層接着層を形成し、その上に機能性被覆層を形成することにより製造される2層構造の表面処理皮膜を備えた、耐食性に優れた非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板を再現性よく製造するには、上層の機能性被覆層を形成する前の、最初に形成した下層接着層中の残留タンニン酸量を制御するのが重要であることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0016】
具体的に言えば、本発明の非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板の上に、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤を含むコーティング剤により接着層を形成し、次いでこの接着層の上に、有機被覆層形成用のコーティング剤により有機被覆層を形成することにより非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板に接着層を形成するコーティング剤を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を50〜200℃の温度で焼付け、該接着層を形成する塗膜の焼付けと水冷の間、又は水冷とその後の乾燥の間にアルカリ洗浄処理を施して接着層を形成し、該アルカリ洗浄処理を、接着層中の残留未反応タンニン酸量を制御するように、pHが9〜12及び温度が60℃以下の洗浄浴条件にて0.5〜10秒間行い、引き続き有機被覆層を形成することを特徴とする、非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法である。
【0017】
接着層を形成するコーティング剤は、固形分換算で、有機樹脂を2〜50wt%、タンニン酸を2〜60wt%、シリカを2〜50wt%、シランカップリング剤を2〜60wt%含有するのが好ましい。
【0018】
下層接着層を形成する塗膜の焼付け温度は、120〜150℃であるのが最も好ましい。
【0019】
接着層を形成するための塗膜のアルカリ洗浄処理は、下層接着層を形成する塗膜の焼付けと水冷の間、又は水冷とその後の乾燥の間、又は塗膜の乾燥と機能性有機被覆層形成用コーティング剤塗布の間において、当該塗膜又は塗膜から形成した接着層に施すことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の方法で使用する接着層形成用のコーティング剤は、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤を含有する。
【0021】
接着層用のコーティング剤における有機樹脂としては、アクリル、フェノール、ウレタン、エポキシ及びポリエステル等の単独重合化合物、あるいはこれらの共重合化合物、又はそれらの単独重合化合物もしくは共重合化合物の混合物などを使用することができる。コーティング剤における有機樹脂の含有量は、固形分換算で、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤の合計質量の2〜50wt%であるのが好ましい。2wt%未満では、コーティング剤の成膜性が不足し、50wt%を超えると、コーティング剤により形成した塗膜の接着性、耐食性が不十分になる。より好ましい有機樹脂含有量は10〜30wt%である。
【0022】
タンニン酸は、シリカ粒子及びシランカップリング剤と組み合わせて使用することにより、相乗的に塗膜の密着性を飛躍的に向上させる。本発明で用いるタンニン酸は、加水分解できるタンニンでも縮合タンニンでもよく、これらの一部が分解されたものでもよい。例を挙げるとすれば、本発明で用いるタンニン酸は、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキンなど出よく、特に限定するものではないが、「タンニン酸:AL」(富士化学工業製)を使用すると塗膜の加工密着性は特に向上する。タンニン酸の含有量は、固形分換算で、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤の合計質量の2〜60%であるのが好ましい。2wt%未満では、十分な耐食性や塗膜密着性を確保できず、60wt%を超えると、かえって耐食性や塗膜密着性が低下したり、水溶液中に溶解しなくなるなどの不都合が起こりかねず、また塗膜の黒変の原因となりかねない。好ましいタンニン酸含有量は10〜30wt%である。
【0023】
シリカとしては、気相シリカあるいはコロイダルシリカ(液相シリカ)のいずれを使用することもできる。気相シリカの代表例としては、日本アエロジル社のA−100、A−200、A−300、R−972などの製品を挙げることができる。コロイダルシリカの代表例としては、日産化学社のスノーテックスO、スノーテックスOX、スノーテックスOL、スノーテックスOXX、スノーテックスN、スノーテックスNS、スノーテックスCなどを挙げることができる。シリカの含有量は、固形分換算で、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤の合計質量の2〜50%であるのが好ましい。2wt%未満では、コーティング剤から形成した塗膜の耐食性が十分でなく、50wt%を超えると、塗膜が脆くなり、脆性破壊を起こして密着性が低下する。より好ましいシリカ含有量は10〜30wt%である。
【0024】
シランカップリング剤としては、例えばγ−(2 −アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2 −アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2 −アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2 −アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3 −(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3 −(メチルジメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3 −(トリエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3 −(メチルジエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどを挙げることができるが、グリシジルエーテル基を有するγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを使用すると、塗膜の加工密着性は特に向上する。さらに、トリエトキシタイプのシランカップリング剤を使用すると、下地処理剤の保存安定性を向上させることができる。これは、トリエトキシシランが水溶液中で比較的安定であり、重合速度が遅いためであると考えられる。シランカップリング剤の含有量は、固形分換算で、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤の合計質量の2〜60%であるのが好ましい。2wt%未満では、形成した塗膜の密着性が不十分となり、60wt%を超えると、塗膜の密着性を向上させるというシランカップリング剤の効果が飽和に近くなるとともに、コーティング剤の貯蔵安定性が低下する。より好ましいシランカップリング剤含有量は30〜50wt%である。
【0025】
接着層を形成するためのコーティング剤は、上記の固形成分(有機樹脂、タンニン酸、シリカ、シランカップリング剤)のほかに、コーティング剤の下地めっき鋼板への塗布を可能にする溶媒としての水を含む。固形成分と水は、コーティング剤を塗布してその後の焼付けで所望の接着層を形成できる限り、どのような混合割合で混合してもよい。とは言え、コーティング剤の固形分濃度は1〜20wt%程度であるのが一般的である。
【0026】
コーティング剤を塗布する方法は、特に限定されず、例えばロールコート、カーテンコート、スプレーコート、バーコート、浸漬などの、一般的な方法を使用可能である。
【0027】
コーティング剤の塗布により形成した塗膜からは、焼付けにより接着層を形成することができる。焼付けは、50〜200℃の温度範囲内で行うことができる。50℃より低い温度での焼付けでは、接着層の形成に時間がかかり(焼付けは、一般に10秒以内の時間で完了するのが好ましい)、また、乾燥が不十分な場合には、残留する水に、接着層の上に形成する有機被覆層形成用のコーティング剤が溶けて接着層がうまく形成できないことがあり、あるいは処理中の鋼板の搬送途中でロールに接着層の一部が付着することがあるなどの不都合が生じかねない。200℃を超える焼付け温度は、有機成分(有機樹脂、タンニン酸)の熱分解の原因となりかねず、好ましくない。最も好ましい焼付け温度は120〜150℃である。
【0028】
焼付けは、表面処理鋼板の製造において一般に使用されている方法で行うことができる。そのような方法の例を挙げると、熱風吹き付け(熱風乾燥炉)、赤外線加熱、誘導加熱などである。
【0029】
本発明の非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法では、形成した接着層中に残留するタンニン酸量をアルカリ洗浄処理により制限するようにしている。タンニン酸は、シリカ粒子及びシランカップリング剤と併用することにより、相乗的に塗膜の密着性を向上させる成分であるが、接着剤層中に未反応のタンニン酸が多量に残存すると、生成したタンニン酸の金属塩が、処理後の製品めっき鋼板の変色の原因となり、あるいはアルコールなどに対する耐溶剤性の低下を招く原因となる。そこで、本発明では、接着層中の未反応タンニン酸量を制限するためにアルカリ洗浄処理を行う。
【0030】
アルカリ洗浄処理は、下層接着層を形成する塗膜の焼付けと水冷の間、又は水冷とその後の乾燥の間、又は塗膜の乾燥と機能性有機被覆層形成用コーティング剤塗布の間で行うことができる。アルカリ洗浄浴としては、炭酸ナトリウムを主成分とする洗浄液(炭酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを含有)を使用することができる。洗浄浴には、濡れ性向上のために、非イオン系あるいはカチオン系の界面活性剤などを添加してもよい。このような洗浄浴を使用してのアルカリ洗浄処理は、スプレー法、浸漬法、あるいはそれらを併用して行うことができる。
【0031】
本発明の方法で用いられるアルカリ洗浄浴は、pHが9〜12、温度が60℃以下であるのが好ましい。浴のpHが9未満では洗浄効果が挙がらず、12より高くなると塗膜が膨潤して密着性低下の原因となり、また下地鋼板のめっき層を溶かすことになる。浴温度が60℃を超えるとやはり塗膜が膨潤し、めっき層の溶解を招きかねない。アルカリ洗浄の所要時間は、使用する浴の条件に依存するが、一般的な処理時間は0.5〜10秒程度である。
【0032】
本発明の方法では、接着層用のコーティング剤から焼き付けにより形成した塗膜の水冷は、アルカリ洗浄前に行ってもよく、あるいはアルカリ洗浄後に行ってもよい。この水冷は、表面処理鋼板の製造で一般に使用されている方法で行うことができる。そのような方法の例としては、浸漬、スプレー、エアーアトマイズ、カーテン法などを挙げることができる。
【0033】
塗膜の水冷(あるいはアルカリ洗浄)後の乾燥も、表面処理鋼板の製造において一般に使用されている方法で行うことができる。そのような方法の例を挙げると、熱風吹き付け(熱風乾燥炉)、赤外線加熱、誘導加熱などである。
【0034】
接着層は、0.05〜0.4μmの厚さで形成するのが好適である。0.05μm未満の厚さでは、めっき鋼板の耐食性が低下し、また厚さが0.4μmを超えると、接着層の脆性破壊が起こりやすくなり、そのため塗膜の剥離が起きやすくなる。
【0035】
また、本発明の方法で用いる接着層形成用のコーティング剤には、形成する接着層の特性に特に不利にならない限り、上記の有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤以外の成分、例えば、有機樹脂の水への溶解を助けるアルコールやセロソルブ(商品名)などの有機助剤や、増粘剤(例えばポリアクリル酸)などを随意に添加することができる。
【0036】
接着層の上に形成する機能性有機被覆層のためのコーティング剤としては、表面処理鋼板の製造に従来から用いられているいずれのコーティング剤を使用してもよい。その塗布、焼付け、水冷、乾燥のいずれも、従来からの方法及び装置で行うことができる。また、機能性被覆層の厚さも、特に限定されず、接着層との合計の厚さが通常の表面処理鋼板における被覆層の厚さである0.6〜2.0μm程度となるようにすることができる。
【0037】
本発明の方法を適用可能な亜鉛系めっき鋼板は、表面に亜鉛めっきを施した鋼板、あるいは亜鉛とFe、Ni、Co、Cr、Mg、Al、Si、Mn等の1種又は2種以上の金属とからなる亜鉛合金めっきを施した鋼板である。めっき方法は、特に限定されるものではなく、電気めっき法、溶融めっき法、真空めっき法等いずれでもよい。めっきを施す鋼板は、特に限定されず、冷延鋼板あるいは熱延鋼板のいずれでもよい。
【0038】
【実施例】
次に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜19、比較例20〜37)
試験板の下地鋼板として、日本テストパネル社製電気亜鉛めっき鋼板(70×150×0.8mm)を使用した。
【0040】
表1に示した固形成分を表2に示した分量で水に溶解又は分散させて、固形分濃度20wt%の接着層用コーティング剤を調製した。これらのコーティング剤を下地鋼板にバーコーターで、表2に「下層厚み」として示した乾燥膜厚になるように塗布し、同表に示した接着層焼付け温度で焼付け、そして表2に示した条件でアルカリ洗浄して、接着層を形成した。アルカリ洗浄には、日本パーカライジング社の脱脂剤FC4326にNaOH又はH2SO4を添加してpHを調整して得た洗浄液を使用した。
【0041】
【表1】
【0042】
次に、機能性有機被覆層形成用のアクリル系エマルジョンコーティング剤のメタルコートKD(日本ペイント社より入手)を、接着層の上に1μmの乾燥膜厚となるようにバーコーターで塗布し、鋼板到達温度150℃となるよう焼き付けて水冷乾燥し、試験板を作製した。
【0043】
各試験板について、成膜性、密着性及び耐食性を評価した。
成膜性の評価は、接着層(下層)を形成し、機能性被覆層(上層)を形成する前の試験板について、JIS K 5400に準じて行った。エリクセン試験機で試験板に10mmの押出し部を作り、押出し部の先端にセロテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼付し、その後テープを引き剥がして行った。テープに試験板から剥離した塗膜が付着していない試験板を良好(表2中、○印で表記)、付着していたものを不良(表2中、×印で表記)と判定した。
【0044】
密着性の評価は、機能性被覆層(上層)まで形成した試験板について、上記の成膜性評価と同じエリクセン試験機により、10mmのエリクセン加工を施して試験を行い、テープに試験板から剥離した塗膜が付着していない試験板を良好(表2中、○印で表記)、付着していたものを不良(表2中、×印で表記)と判定した。
【0045】
耐食性の評価は、JIS Z 3271に規定された塩水噴霧試験により行い、雰囲気温度35℃で、5%のNaCl水溶液を試験板に吹き付け、240時間後の錆発生率を測定して、錆発生面積が試験板表面積の50%以下であるものを良好(表2中、○印で表記)、50%を超えるものを不良(表2中、×印で表記)と判定した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から明らかなように、本発明の実施例1〜19の試験板では、成膜性、密着性及び耐食性の全ての評価項目について良好な結果が得られた。それに対し、比較例20〜29、31〜37の試験板では、三つの評価項目のうちの一つ以上について不十分な結果が示された。比較例30では、評価項目のいずれについても良好な結果が得られたけれども、接着層形成用コーティング剤のシランカップリング剤含有量が多いため、コーティング剤の貯蔵安定性が悪かった。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、タンニン酸を含む有機系コーティング剤から形成した下層接着層と、上層機能性被覆層とからなる2層構造の表面処理皮膜を備え、機能性被覆層の密着性が向上した、高耐食性の非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板を再現性よく製造することが可能になる。
Claims (3)
- 亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板の上に、有機樹脂、タンニン酸、シリカ及びシランカップリング剤を含むコーティング剤により接着層を形成し、次いでこの接着層の上に、有機被覆層形成用のコーティング剤により有機被覆層を形成することにより非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板に接着層を形成するコーティング剤を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を50〜200℃の温度で焼付け、該接着層を形成する塗膜の焼付けと水冷の間、又は水冷とその後の乾燥の間にアルカリ洗浄処理を施して接着層を形成し、該アルカリ洗浄処理を、接着層中の残留未反応タンニン酸量を制御するように、pHが9〜12及び温度が60℃以下の洗浄浴条件にて0.5〜10秒間行い、引き続き有機被覆層を形成することを特徴とする非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
- 前記接着層を形成するコーティング剤が、固形分換算で、有機樹脂を2〜50wt%、タンニン酸を2〜60wt%、シリカを2〜50wt%、シランカップリング剤を2〜60wt%含有する、請求項1記載の非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
- 前記下層接着層を形成する塗膜の焼付け温度を120〜150℃とする、請求項1又は2記載の非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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