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JP3908890B2 - 非水系二次電池の負極用黒鉛粒子 - Google Patents

非水系二次電池の負極用黒鉛粒子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、非水系二次電池の負極に使用する黒鉛粒子に関するものであり、特に放電負荷特性と充放電サイクル寿命特性を向上させることが可能な負極用黒鉛粒子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
非水系二次電池、例えばリチウムイオン二次電池の負極活物質としては、炭素粒子のメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)や難黒鉛化炭素が主として用いられている。また、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂に代表されるフッ素系樹脂が主として用いられ、これらの樹脂をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を溶媒として負極活物質と共に混練することにより、リチウムイオン二次電池の負極塗膜形成用スラリーとする。リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池は、ノート形パソコンや携帯電話などの充電可能な電源として普及しているが、さらにその適用範囲を拡大するために電池の高容量化や高電圧化を図ることが望まれている。
このような二次電池の高容量化に対する要求を満たすためには、負極材料を高容量化することが必須である。しかしながら、従来、負極活物質として使用されているMCMBは黒鉛化が不十分であるために、得られる放電容量は320mAh/g程度にとどまっている。
【0003】
そのため、電池(負極材料)の高容量化の要求を充足する方策として、負極活物質として黒鉛粒子を用いる検討が進められている。これは、黒鉛粒子は結晶性が高く、理論的な充放電容量である372mAh/gに近い値のものを得ることができ、また電池の高電圧化にも適しているからである。
このように天然黒鉛をリチウムイオン二次電池などの非水系二次電池の負極用材料として使用することは種々試みられている。例えば、特開平6−52860号公報には、実質的に10μm未満の黒鉛粉末を含まない黒鉛材料を用いることが、また特開平6−295725号公報には、平均粒子径を10〜30μm、比表面積(BET値)を1〜10m/gの範囲にして、かつ10μm以下およびまたは30μm以上の黒鉛粒子の含有量を10%以下にする負極用の黒鉛材料が開示されている。
一方、特開平9−249407号公報には、黒鉛粒子とLi、Al、Sn、Pb、Cd等の固体元素粒子を用いてメカノケミカル的に黒鉛複合物を形成したリチウム電池の負極材が開示されている。また、特開平10−158005号公報には、黒鉛化可能な骨材または黒鉛と黒鉛化可能なバインダに黒鉛化触媒を添加して、焼成、粉砕することにより、複数の扁平状粒子を、配向面が非平行となるように集合または結合させた黒鉛粒子が開示されている。加えて、特開平11−45715号公報には、リン片状黒鉛粒子を微粉砕する過程で生成した、角取りされたディスク状またはタブレット状の黒鉛粒子が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
黒鉛結晶が発達している天然黒鉛粒子は、c軸方向の結晶の層間結合力が結晶の面方向の結合に比べて弱いため、粉砕により黒鉛層間の結合が切れ、アスペクト比が大きい、いわゆるリン状またはリン片状の黒鉛粒子となる。このリン状またはリン片状の黒鉛粒子を、前述のようにスラリー化し、集電体である銅箔上に塗布して電極を作製すると、リン状またはリン片状の黒鉛粒子は集電体の面方向に配向するようになる。
その結果、黒鉛結晶に対するリチウムイオンの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下するという問題が生ずると共に、急速充放電特性が劣化する傾向がある。
【0005】
さらに、アスペクト比が大きいリン状またはリン片状の黒鉛粒子は比表面積が大きいため、場合によっては、得られる非水系二次電池の第一サイクルにおける不可逆容量が大きいばかりでなく、集電体である銅箔との密着性が悪く、結着剤を多量に必要とするという問題点がある。銅箔との密着性が悪いと集電効果が低下し、放電容量、急速充放電特性、サイクル特性などが低下する問題が生ずる。
更に、乾式粉砕によって得られた黒鉛材料においては、サイクロンによる回収や篩い分けによって粒度調整を行っても、二次凝集体として粒度を調整したものであるから、微細な粒子を含有したり、表面活性点が多く存在しており、それらが電解液の分解を促進して、充放電効率の低下や高温保存特性の低下を引き起こす。
したがって、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池の急速充放電特性およびサイクル特性を向上させ、また、第一サイクルにおける不可逆容量を小さくし、高温保存性を向上させることができる負極用黒鉛粒子が求められている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明の非水系二次電池の負極用黒鉛粒子は、リン状またはリン片状の天然黒鉛粒子からなる塊状黒鉛粒子群を用いた非水系二次電池の負極用黒鉛粒子において、この塊状黒鉛粒子群は、静置法による見掛け密度が0.25g/cc以上、タップ法による見掛け密度が0.55g/cc以上であり、かつタップ法による見掛け密度は静置法による見掛け密度の1.8倍〜2.5倍の範囲であり、更にC10を基本構造とする澱粉の誘導体、C10を基本構造とする粘性多糖類、C10を基本構造とする水溶性セルロース誘導体、ポリウロニドおよび水溶性合成樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の界面活性効果材料を、この塊状黒鉛粒子群に対して0.01〜10重量%吸着または被覆させていることが特徴である。
また、この負極用黒鉛粒子は、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、この黒鉛粒子に対し50〜30,000ppmの範囲で含有させたものである。
加えて、この負極用黒鉛粒子は、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が5重量%以下であり、同法による累積50%径(D50径)の値は同法による累積10%径(D10径)の値の2.0倍〜3.5倍の範囲であり、同法による累積90%径(D90径)の値は同法による累積50%径(D50径)の値の2.0倍〜2.7倍の範囲であるとしたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
この発明の非水系二次電池の負極用黒鉛粒子における第一の特徴は、リン状またはリン片状の天然黒鉛粒子からなる塊状黒鉛粒子群は、静置法による見掛け密度が0.25g/cc以上、タップ法による見掛け密度が0.55g/cc以上であり、かつタップ法による見掛け密度は静置法による見掛け密度の1.8倍〜2.5倍の範囲であり、C10を基本構造とする澱粉の誘導体、C10を基本構造とする粘性多糖類、C10を基本構造とする水溶性セルロース誘導体、ポリウロニドおよび水溶性合成樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の界面活性効果材料を、この塊状黒鉛粒子群に対して0.01〜10重量%吸着または被覆させていることである。
静置法による見掛け密度およびタップ法による見掛け密度の測定方法は、顔料試験方法(JIS K 5101)に記載されているが、この発明における静置法およびタップ法による見掛け密度は、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスターPT−R型を用いて測定したものである。
静置法による見掛け密度の測定方法は、篩網を通して受器に試料を入れ、容積が100ccになったときの質量を測定するものである。これに対して、タップ法による見掛け密度の測定方法は、試料を受器に投入しながら受器を180回タッピングした後、容積100cc当たりの質量を測定する。
【0008】
静置法による見掛け密度の0.25g/ccおよびタップ法による見掛け密度の0.55g/ccの値は、この発明に適用される黒鉛粒子群の下限値である。リチウムイオン電池の高エネルギー密度化の要求に対しては、活物質の充填密度を高めること、言い換えれば塗膜の高密度化が必須であり、そのためには、できるだけ厚い塗膜を形成することが必要である。
発明者らは、検討の結果、塗膜を形成するためのスラリー固形分が40重量%以上であれば良好な塗膜を形成し得ることを見出した。また、その固形分含量を達成するためには、静置法による見掛け密度として0.25g/cc以上、タップ法による見掛け密度として0.55g/cc以上の値が必要であることが分かった。すなわち、見掛け密度がこれらの値より小さいときは、塗工時の膜厚の変動が大きくなり、十分な密着強度を得るために必要な結着剤の配合量も多くなり、実効容量の低下を引き起こす。
【0009】
上記測定方法のとおり、タップ法による見掛け密度の測定においては、受器に振動を与えるため受器内の試料は充填が密になるので、静置法による見掛け密度と比べるとその値は高くなる。この発明のさらに他の特徴は、タップ法による見掛け密度が静置法による見掛け密度の1.8倍〜2.5倍の範囲にあるという点である。すなわち、タッピングにより受器内の黒鉛粒子群の充填が進まないもの、および進みすぎるものは、この発明の範囲外である。
前記密度の比が1.8未満のものは、タッピングによる充填が進まない材料であり、実際の負極塗膜形成工程では塗膜のプレスによる密度制御が困難になる。
逆に、密度の比が2.5を超えるものは、タッピングによる充填が進みすぎる材料であり、乾燥条件等により塗膜厚さが変動し易く、プレスによる塗膜密度上昇時にも変動が生じ易く、更に、プレスによる残留応力が大きいために、銅箔界面から剥離し易くなる。
【0010】
加えて、この発明の他の特徴は、C10を基本構造とする澱粉の誘導体、C10を基本構造とする粘性多糖類、C10を基本構造とする水溶性セルロース誘導体、ポリウロニドおよび水溶性合成樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の界面活性効果材料を、この塊状黒鉛粒子群に対して0.01〜10重量%吸着または被覆させていることである。
この黒鉛粒子群に吸着または被覆させる界面活性効果材料としては、C10を基本構造とする澱粉の誘導体である酢酸澱粉、リン酸澱粉、カルボキシメチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉などのヒドロキシアルキル澱粉類;C10を基本構造としたプルランやデキストリンなどの粘性多糖類;C10を基本構造とした水溶性セルロース誘導体であるカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど;ペクチン酸、アルギン酸などに代表されるポリウロニド;および水溶性の合成樹脂である水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0011】
塊状黒鉛粒子群の表面全体を覆うように吸着または被覆させるために必要な界面活性効果材料の量は、塊状黒鉛粒子群の表面積にも依存するが、塊状黒鉛粒子群に対して0.01〜10重量%が好ましい。
塊状黒鉛粒子群に対する界面活性効果材料の吸着量または被覆量が0.01重量%末満では、界面活性効果を得る量として少ないために、塊状黒鉛粒子群の表面に存在する活性点の全てを覆うことができないので、この発明の目的を達成することができない。
塊状黒鉛粒子群に対する界面活性効果材料の吸着量または被覆量が増加するに従って、非水系二次電池の負極用黒鉛粒子としての特性は良好になるが、10重量%を越えると塊状黒鉛粒子群本来の導電性ならびに塊状黒鉛粒子群のリチウムイオン吸蔵量が低下するために、非水系二次電池の負極用黒鉛粒子としての特性が低下する。
【0012】
なお、これら界面活性効果材料を塊状黒鉛粒子群へ吸着または被覆させる方法は以下のとおりである。
前述の界面活性効果を有する材料の1つ以上を水に溶解して水溶液を調製し、この水溶液中に塊状黒鉛粒子群を投入して攪拌し、分散処理を行うと、微細な一次粒子が凝集して生成した二次粒子が水溶液中で一次粒子に分散する。それと共に、一次粒子の表面に多数存在する活性点に界面活性効果材料が電気的および化学的に吸着しまたはこれを被覆し、塊状黒鉛粒子群の表面全体が界面活性効果材料で覆われるようになる。なお、吸着量または被覆量が過少であるときは、水溶液中に塊状黒鉛粒子群を分散させることができないので、処理液中に塊状黒鉛粒子群が浮遊しているか否かを観察することにより、界面活性効果材料の量が十分であるか否かの判断を容易に行うことができる。
また、塊状黒鉛粒子群に界面活性効果材料を吸着または被覆させる量は、水溶液の濃度を調整することによって変化させることができる。また、水溶液の濃度を高く設定した場合においても、濾過物を水洗いする方法により吸着または被覆する量を調整することができる。なお、濾過した後の乾燥処理は、吸着または被覆させた界面活性効果材料が熱分解を起こさない程度の温度で行うことが必要である。また、黒鉛粒子の用途により、水性の塗料その他の添加剤を適用し得る場合には、処理液中に添加剤などを配合することができる。
【0013】
一方、塊状黒鉛粒子群に対する界面活性効果材料の吸着量または被覆量は、X線光電子分光分析法(XPS)によって定量化することができる。すなわち、吸着または被覆処理を施していない塊状黒鉛粒子群についてX線光電子分光分析を行うと、C1SとO1Sの表面原子濃度比率はC1Sが95〜100原子%、O1Sが0〜5原子%であるのに対し、この発明の表面に吸着または被覆させた黒鉛粒子では、C1Sが85〜95原子%、O1Sが5〜15原子%である。これは、黒鉛粒子の表面に存在している界面活性効果材料に含まれるカルボキシル基、カルボン酸基、エステル基、水酸基などの官能基によるものである。
【0014】
この発明の第二の特徴は、この負極用黒鉛粒子にリチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、塊状黒鉛粒子群に対し50〜30,000ppmの範囲で含有させたことである。
上記の界面活性効果材料を吸着または被覆させた黒鉛粒子に、さらに前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有させることにより、リチウムイオンの放電容量を改善することができる。放電容量の改善に有効な上記元素の含有量が50ppm未満では含有効果は認められず、また30,000ppmを越える場合には、むしろ放電容量が低下する。この理由については末だ明確にされていないが、以下のように考えられる。
すなわち、上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の元素が塊状黒鉛粒子群の表面に適当量吸着されると、黒鉛粒子の表面に吸着または被覆させた界面活性効果材料の負の電荷を帯びた部分に、これらの金属元素のイオン(陽イオン)が電気的に結合し、黒鉛粒子の表面が電気的に安定化された状態になる。したがって、リチウムイオンの吸蔵および放出が円滑になると共に、不可逆的なリチウム化合物の生成が抑制される。
【0015】
このように、界面活性効果材料を吸着または被覆させた黒鉛粒子に、さらに上記元素を含有させる方法としては、用いる水に、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有させておくことにより達成することができる。具体的には、蒸留水、イオン交換水、温泉水や地下水などのミネラル水、または井戸水や水道水などの飲料水に、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムの水酸化物、塩化物、硫化物、臭化物、酸化物、ヨウ化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、チオ硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、クエン酸塩、四ホウ酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、乳酸塩、亜硫酸塩、酒石酸塩、亜硝酸塩、ヨウ素酸塩などの塩類、または、C10を基本構造とした澱粉誘導体の塩、C10を基本構造とした粘性多糖類の塩、C10を基本構造としたセルロース誘導体の塩、ペクチン酸の塩、アルギン酸の塩、水溶性アクリル樹脂の塩、水溶性エポキシ樹脂の塩、水溶性ポリエステル樹脂の塩、水溶性ポリアミド樹脂の塩などの少なくとも1種を溶解させる。あるいは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、およびカリウムのいずれか1種以上が溶存するイオン交換水、温泉水、地下水、井戸水または水道水を用いてもよい。
これらの水または水溶液を用いて、前記界面活性効果材料を吸着または被覆させる場合と同様の処理操作を行うことにより、上記元素を含有した負極用黒鉛粒子が得られる。すなわち、これらの元素は前記水中にイオンの形で存在しているので、分散処理の過程で界面活性効果材料と共に塊状黒鉛粒子群に含有される結果となり、この発明の黒鉛粒子が得られる。
【0016】
この発明の第三の特徴は、この負極用黒鉛粒子のレーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が5重量%以下であり、同法によるD50径の値はD10径の値の2.0倍〜3.5倍の範囲であり、D90径の値はD50径の値の2.0倍〜2.7倍の範囲にしたことである。
レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が5重量%を超える場合、言い換えれば粒度分布の点から見て6μm以下の微細粒子の存在率(重量比)が5重量%を超える状態になると、微細粒子が多量に存在することになり、電解液を分解する表面が増加するため、不可逆容量が大きくなるので好ましくない。
【0017】
また、D50径の値がD10径の値の2.0倍未満の場合には、形成した塗膜中の粒子の充填性が悪く、得られる塗膜の電気抵抗値が高くなり、充放電負荷特性が劣化すると共に密着性も低下する。
一方、D50径の値がD10径の値の3.5倍を越える場合、粒子の充填性が過度に高まり電解液の浸透性が悪くなり、また充放電サイクルにおいて初回から高い容量を得ることができず、さらに最大容量に達するまでのサイクル数が多くなる。
また、D90径の値がD50径の値の2.0倍未満の場合も、前述の理由と同様に、形成した塗膜中の粒子の充填性が悪く、得られる塗膜の電気抵抗値が高くなり、充放電負荷特性が劣化すると共に密着性も低下する。
さらに、D90径の値がD50径の値の2.7倍を越える場合には、粗大粒子が多くなり、平滑な塗膜を形成し難く、局部的なリチウムの析出を起こし易くなると共に密着性の低下を引き起こすので好ましくない。
【0018】
【実施例】
発明を実施するための最良の形態として、次に実施例を挙げて、この発明を詳しく説明するが、この発明は以下の実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
(評価方法)
(1)黒鉛粒子に対する界面活性効果材料の吸着被覆量
後述のように黒鉛粒子に対し界面活性効果材料の吸着被覆処理を行って得た乾燥粉の重量(W)およびそれらに大気中において400℃で1時間熱処理を施した後の重量(W)から、次式により熱減耗量を算出し、黒鉛粒子に対する界面活性効果材料の吸着被覆量とした。
吸着被覆量[重量%]=〔(W−W)/W〕×100
(2)金属成分の定量
後述の黒鉛粒子に添加した金属イオンの含有量は、蛍光X線を用いる定量分析により求めた。
(3)試料の調製
塊状の黒鉛粒子に吸着被覆処理を行って得た処理粉90重量部に対して、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、呉羽化学工業(株)製、商品名:KF1000)10重量部を結着剤とし、N-メチル−2−ピロリドン(NMP、試薬特級)120重量部を溶媒として用い、スラリーを調製した。
次いで、これらのスラリーを集電体となる圧延銅箔の上に、ギャップ200μmのドクターブレードを用いて塗布し、120℃で10分間乾燥し、1ton/cmの圧力でプレスを行い負極塗膜とした。
(4)密着性
上記負極塗膜上に幅18mmのセロファンテープを貼って2kgの荷重で圧着した後、セロファンテープを引き剥がすために必要な荷重をプッシュプルゲージで測定した。また、負極塗膜の剥離(破壊)状態を観察した。
(5)電極特性
上記負極塗膜を銅箔と共にポンチで打ち抜いて電極を作製した。対極として金属リチウムを用い、電解液としてLiPF/EC+DMC(富山薬品(株)製、商品名:LI−PASTE1)を用いたコイン形モデルセルを作製し、0.5mA/cmの電流密度で0.01V(vs.Li/Li)まで定電流でリチウムを負極内に吸蔵(充電)させ充電容量を求めた。また初回の放電容量は、0.5mA/cmの定電流で1.1V(vs.Li/Li)まで放電させて求めた。さらに、0.5mA/cmで充電を行った後、6mA/cmの電流密度で1.1V(vs.Li/Li)まで放電させたときの放電容量を求め、0.5mA/cmで放電したときの容量との比率を求め、放電負荷特性(放電レート)を評価した。
【0019】
<実施例1>
純水1リットルに対し、澱粉の誘導体であるリン酸澱粉を所定量加えて溶解し、静置法による見掛け密度が0.26g/cc、タップ法による見掛け密度が0.56g/cc(両密度の比:2.15)、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が7重量%、D50径(平均粒子径)が9.0μm、D10径が2.6μm、D90径が24.1μm(粒度分布の比:D50/D10=3.46,D90/D50=2.68)の塊状黒鉛粒子群を100g投入し、ホモジナイザーで60分間攪拌し、分散処理を行った。これらの処理液を#5Bの濾紙を用いて濾過した。
なお、試料番号13と15の試料については、濾紙上の処理粉について純水で水洗いを行い、黒鉛粒子に吸着または被覆させたリン酸澱粉の量を減少させた。その後、これらを120℃の恒温槽中で3時間乾燥して黒鉛粒子として評価を行った。黒鉛粒子の性状ならびにこれらの黒鉛粒子を用いた評価の結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0003908890
【0021】
黒鉛粒子に対しリン酸澱粉を吸着または被覆させた量(吸着被覆量)が0.01重量%未満である、未処理粉(試料番号10)ならびに黒鉛粒子(試料番号11)においては、電解液の分解が多く、充放電効率が低い。これに対し、リン酸澱粉の吸着被覆量が0.01重量%に近い場合、あるいはさらに大きい場合には(試料番号12〜15)充放電効率が改善される。しかしながら、吸着被覆量が14.5重量%(試料番号16)の場合には、塗膜の導電性が不良で、リチウムイオンの吸蔵・放出が困難であり、放電容量が低下すると共に放電負荷も劣る結果を示している。
【0022】
<実施例2>
純水1リットルに対し、粘性多糖類としてプルランを所定量加えて溶解し、静置法による見掛け密度が0.29g/cc、タップ法による見掛け密度が0.60g/cc(両密度の比:2.06)、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が4重量%、D50径が12.5μm、D10径が5.1μm、D90径が32.4μm(粒度分布の比:D50/D10=2.45,D90/D50=2.59)の塊状黒鉛粒子群を100g投入し、ホモジナイザーで30分間撹拌し、分散処理を行った。これらの処理液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターにより濾過し、媒体と処理粉とに分離した。
なお、試料番号25については、メンブレンフィルター上の処理粉について水洗いを行い、黒鉛粒子の表面に吸着または被覆させたプルランの量を減少させた。その後、これらの処理粉を凍結乾燥法で乾燥し、実施例1と同様に評価を行った。処理粉へのプルランの吸着被覆量の実測値ならびにそれぞれの処理粉を用いて行った評価の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
Figure 0003908890
【0024】
この場合も実施例1と同様、界面活性効果材料であるプルランの吸着被覆量が0.015重量%(試料番号22)から9.4重量%(試料番号25)の範囲では放電容量および充放電効率が高く、電池として用いた場合に特性の向上が期待される。これに対し、吸着被覆量が10.6重量%(試料番号26)の場合には、塗膜の導電性が低く、リチウムイオンの吸蔵・放出が困難であり、放電容量が低下するとと共に放電負荷も劣る結果を示すので好ましくない。
【0025】
<実施例3>
純水1リットルに対し、水溶性セルロースの誘導体であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)を所定量加えて溶解し、静置法による見掛け密度が0.31g/cc、タップ法による見掛け密度が0.63g/cc(両密度の比:2.03)、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が5重量%、D50径が13.1μm、D10径が3.9μm、D90径が33.6μm(粒度分布の比:D50/D10=3.36,D90/D50=2.56)の塊状黒鉛粒子群を100g投入し、プロペラ型攪拌機で60分間撹拌し、分散処理を行った。これらの処理液について、スプレードライヤーを用いて乾燥粉とし、実施例1と同様に評価を行った。処理粉へのHECの吸着被覆量の実測値ならびにそれぞれの処理粉を用いて行った評価の結果を表3に示す。
【0026】
【表3】
Figure 0003908890
【0027】
この場合においても、界面活性効果材料であるHECの吸着被覆量が0.01重量%未満(試料番号30、31)のものは電解液の分解が多く、充放電効率が低いのに対し、HECの吸着被覆量が0.01重量%から10重量%の範囲にある(試料番号32〜35)ものでは放電容量および充放電効率が高く、電池として用いた場合に特性の向上が期待される。
【0028】
<実施例4>
澱粉の誘導体である酢酸澱粉と水溶性合成樹脂としてのアクリル樹脂を重量比1:1で混合し、純水1リットルに対して所定量を加えて溶解し、静置法による見掛け密度が0.30g/cc、タップ法による見掛け密度が0.56g/cc(両密度の比:1.87)、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が3重量%、D50径が12.6μm、D10径が5.6μm、D90径が25.6μm(粒度分布の比:D50/D10=2.25,D90/D50=2.03)の塊状黒鉛粒子群を100g投入し、ホモジナイザーで120分間撹拌し、分散処理を行った。これらの処理液を#5Bの濾紙により濾過し、媒体と処理粉とに分離した。
その後、これらの処理粉をスプレードライヤーにより乾燥し、実施例1と同様に評価を行った。処理粉への界面活性効果材料の吸着被覆量の実測値ならびにそれぞれの処理粉を用いて行った評価の結果を表4に示す。
【0029】
【表4】
Figure 0003908890
【0030】
この場合においても、界面活性効果材料の吸着被覆量が0.01重量%未満(試料番号40、41)のものは電解液の分解が多く、充放電効率が低いのに対し、界面活性効果材料の吸着被覆量が0.01重量%から10重量%の範囲にある(試料番号42〜45)ものでは放電容量および充放電効率が高く、電池として用いた場合に特性の向上が期待される。
【0031】
<実施例5>
所定の水1リットルに対し、ポリウロニド類であるアルギン酸のプロピレングリコールエステル3gを加えて溶解し、静置法による見掛け密度が0.29g/cc、タップ法による見掛け密度が0.60g/cc、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が7重量%、D50径が14.9μmの塊状黒鉛粒子群を100g投入し、ホモジナイザーで30分間攪拌し、分散処理を行った。これらの処理液を12時間放置して上澄みを分離し、スラリーを回収して乾燥し、篩分けを行った後、黒鉛粒子として評価を行った。
得られた黒鉛粒子は、静置法による見掛け密度が0.35g/cc、タップ法による見掛け密度が0.70/cc(両密度の比:2.0)、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が2重量%、D50径が17.6μm、D10径が5.6μm、D90径が38.6μm(粒度分布の比:D50/D10=3.14,D90/D50=2.19)であった。
なお、試料番号50は原料の塊状黒鉛粒子群自体を評価したものであり、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の添加も、アルギン酸プロピレングリコールエステルの吸着被覆も行っていない。アルギン酸プロピレングリコールエステルの吸着被覆量は、試料番号50以外のいずれの試料においても0.5重量%程度であった。また、塗膜の剥離状態は全て凝集破壊であり、塗膜の密着強度は40〜45gf、プレス後の塗膜密度は1.5g/cc程度であった。黒鉛粒子への前記金属元素含有量の実測値ならびに各黒鉛粒子を用いて行った放電容量の評価の結果を表5に示す。
【0032】
【表5】
Figure 0003908890
【0033】
試料番号50は、アルギン酸プロピレングリコールエステルを吸着被覆していない塊状黒鉛粒子群自体であり、400℃における揮発成分は0.005重量%であり、塊状黒鉛粒子群自体にもわずかではあるが金属元素成分が不純物として含有されていることが分かる。
試料番号51のものは、他の実施例と同様に、水媒体は純水であり、アルギン酸プロピレングリコールエステルのみの効果を示すものである。充放電効率の点において、界面活性効果材料を吸着または被覆させた効果が認められる。
これに対し、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの化合物を含有する水溶液で処理を行った試料番号52、53、55、56および57においては、純水で処理したものよりも充放電効率が向上すると共に、放電負荷性能も向上している。
一方、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムあるいはカリウムを多量(30,000ppm以上)に含有した黒鉛粉末(試料番号54および58)は、放電容量が低下する結果を示している。
なお、表5の試料番号52〜58の「用いた水媒体」の欄には、主として使用したアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を示す。
【0034】
【発明の効果】
本発明の負極用黒鉛粒子を用いることにより、塗膜強度および塗膜密度が向上し、かつ各種電極特性に優れた非水系二次電池の負極を得ることができる。

Claims (2)

  1. リン状またはリン片状の天然黒鉛粒子からなる塊状黒鉛粒子群を用いた非水系二次電池の負極用黒鉛粒子において、
    該塊状黒鉛粒子群は、静置法による見掛け密度が0.25g/cc以上、タップ法による見掛け密度が0.55g/cc以上であり、かつタップ法による見掛け密度は静置法による見掛け密度の1.8倍〜2.5倍の範囲であり、
    また、該黒鉛粒子は、レーザー光回折法による6μm以下の粒子含有率が5重量%以下であり、同法による累積50%径(D50径)の値は同法による累積10%径(D10径)の値の2 . 0倍〜3 . 5倍の範囲であり、
    同法による累積90%径(D90径)の値は該累積50%径(D50径)の値の2 . 0倍〜2 . 7倍の範囲であり、
    更にC10を基本構造とする澱粉の誘導体、C10を基本構造とする粘性多糖類、C10を基本構造とする水溶性セルロース誘導体、ポリウロニドおよび水溶性合成樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の界面活性効果材料を、該塊状黒鉛粒子群に対して0.01〜10重量%吸着または被覆させてなる非水系二次電池の負極用黒鉛粒子。
  2. 前記負極用黒鉛粒子に更にリチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、該黒鉛粒子に対し50〜30,000ppmの範囲で含有させた請求項1記載の非水系二次電池の負極用黒鉛粒子。
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