JP3996671B2 - N−アルコキシカルボニル化、n−アルケニルオキシカルボニル化またはn−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸類の製造方法 - Google Patents
N−アルコキシカルボニル化、n−アルケニルオキシカルボニル化またはn−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸類の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、N−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化された、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
遊離のアミノ基もしくはイミノ基を有するアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドに、例えばジ−t−ブチルジカーボネートを反応させてこの遊離のアミノ基またはイミノ基をt−ブトキシカルボニル基(以下t−Bocと略称する)で保護したアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドは、それらが有するカルボキシル基を反応部位とする反応の出発物質として有用であり、アミノ酸誘導体、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗生物質、アミノ配糖体等の合成反応の重要な出発物質または中間体化合物である。
従来、遊離のアミノ基もしくはイミノ基を有するアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドから、このアミノ基もしくはイミノ基がN−アルコキシカルボニル化されて保護された構造を有するアミノ酸誘導体又はペプチド、例えばt−Boc−アミノ酸、t−Boc−ペプチドなどを合成する方法としては、反応試薬としてジカーボネート化合物、例えばジ−t−ブチルジカーボネートを用いる方法が知られているが、このものは水への溶解性に乏しいために、反応に当たっては水とアルコールの混合溶媒中で塩基の存在下にアミノ酸と反応させる方法(Organic Syntheses 63,160-170,(1985))、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、ケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒中で塩基の存在下にアミノ酸またはそのエステルと反応させる方法(特開平6−41031、特開平6−166669、特開平7−101935、特開平7−126240、特開平8−157431)がとられており、またこの反応において反応の終了後に、晶析して得られる目的物中に未反応のジ−t−ブチルジカーボネートが混入するのでこれを30〜90℃の温度で分解すること(特開平7−25831)が行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、アミノ基もしくはイミノ基がN−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸誘導体又はペプチドを製造する従来方法にあっては、遊離のアミノ基もしくはイミノ基を有するアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドと、ジカーボネート化合物、例えばジ−t−ブチルジカーボネートとの反応は、水と有機溶媒との混合物中又は有機溶媒中で行なわれている。
【0004】
しかしながらこの方法では、
(1) 反応後の有機溶媒の回収及び再生が必要となること、
(2) 目的のN−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸誘導体又はペプチドを反応混合物から単離した後で有機溶媒を回収する場合には、目的物の1次収率が低く、収率向上のために分離母液から目的物を回収しようとすると、その精製及び有機溶媒の回収に煩雑な操作を必要とすること、
(3) この反応操作によって得られる目的物には未反応のジカーボネート化合物が混入しやすく、これを避けるために反応後に熱を加えてジカーボネート化合物を分解すると同時に目的物の分解やラセミ化が起こり、かなりの量の目的物を失うことになること
などの多くの問題点を有している。
【0005】
また、有機溶媒を用いない水だけの反応系ではジカーボネート化合物、例えばジ−t−ブチルジカーボネートは水に対する溶解度に乏しいために反応は進行しない。
したがって、有機溶媒の回収を要しない、水を用いる反応系で、しかも反応が容易に進行する反応条件の解明が求められる所である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記した課題を解決するために鋭意研究の結果、遊離のアミノ基もしくはイミノ基を有するアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドと、ジカーボネート化合物とを、水中で、無機塩基の存在下に、相間移動触媒を添加して反応させることにより、容易にアミノ基(またはイミノ基)がN−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸誘導体又はペプチドが生成すること、及びこのようにして生成したアミノ基(またはイミノ基)がN−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化されたアミノ酸誘導体又はペプチドは反応液に酸を加えて中和又は酸性化することにより容易に単離できることを見出して本発明を完成したのである。
【0007】
すなわち本発明は、アミノ酸、アミノ基もしくははイミノ基が遊離の状態で存在するアミノ酸誘導体またはアミノ基もしくはイミノ基が遊離の状態で存在するペプチドと、一般式(1)
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖低級アルキル基、炭素数2〜6の直鎖または分枝鎖低級アルケニル基、またはアルキレン基部分が炭素数1〜4のアリールアルキル基を示す)
で表されるジカーボネート化合物とを、相間移動触媒の添加の下に、水を溶媒とし、無機塩基の存在下に反応させて、N−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化された、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドを製造する方法に関する。
【0008】
また本発明は、上記した反応後に於いて、反応混合物を酸で中和又は酸性化し、得られたN−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化された、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドを分離する方法にも関する。
【0009】
本発明で用いられるアミノ酸には、アミノ基とカルボキシル基の両者を同一の分子内に有する有機化合物およびアミノ基の水素原子が分子内の側鎖部分と置換して環状構造をとったイミノ酸(たとえばプロリン、ヒドロキシプロリン)が含まれ、アミノ基の結合位置がα−炭素から順番にβ−、γ−、δ−と移るのに従って、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸と呼ばれるが、これらの全てが本発明で用いることが可能である。またα−アミノ酸はグリシンを除きそのα−炭素原子が不斉炭素原子となるため、光学活性を有するL−形構造およびD−形構造を取り得るが、そのいずれの構造のアミノ酸も、またラセミ体のアミノ酸も本発明で用い得るものである。
【0010】
そしてこれらのアミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、β−アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ジヨードチロシン、トレオニン、セリン、ホモセリン、イソセリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、ホモメチオニン、シスチン、ホモシスチン、システイン、ホモシステイン、α−アミノ酪酸、β−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、α−アミノイソ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ホモグルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、オルニチン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、アンチカプシン、N−イミノエチルオルニチン、α−アミノ−β−(2−イミダゾリジニル)プロピオン酸、N−メチルグリシン、タウリン、γ−ホルミル−N−メチルノルバリン、N−トシルアルギニン、N−ベンジルオシカルボニル−アルギニン、アスパラギン酸−β−ベンジルエステル、S−アセトアミドメチル−システイン、S−ベンジル−システイン、グルタミン酸−γ−ベンジルエステル、N−ベンジルオキシカルボニル−ヒスチジン、N−ベンジルオキシカルボニル−リジン、N−ベンジルオキシカルボニル−オルニチン、O−ベンジル−セリン、O−ベンジル−トレオニン、N−ホルミル−トリプトファン、2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−メトキシイミノ酢酸、2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテン酸、ピペコリン酸、トランス−4−アミノメチル−1−シクロヘキサンカルボン酸、γ−アミノ−β−ヒドロキシ酪酸、フェニルグリシン、4−ヒドロキシフェニルグリシン、L−ドパ(3−ヒドロキシ−L−チロシン)などを挙げることが出来る。これらのアミノ酸にはそのカルボキシル基が適当な保護基で保護されたもの、例えばエステル化されたものを含むものとする。上記したアミノ酸はその側鎖に官能基を有する場合にはその官能基が保護されたものであってもよい。
【0011】
また本発明で用いられるペプチドには、上記したアミノ酸が2個または3個以上アミド結合によって連結されたものであって、遊離のアミノ基またはイミノ基を有するものが含まれる。これらの具体例には、グリシルグリシン、グリシルアラニン、グリシルロイシン、グリシルイソロイシン、グリシルフェニルアラニン、グリシルチロシン、グリシルトリプトファン、グリシルプロリン、グリシルメチオニン、グリシルシスチン、グリシルセリン、グリシルトレオニン、グリシルグルタミン、グリシルグルタミン酸、グリシルヒスチジン、グリシルアスパラギン、グリシルアスパラギン酸、グリシルリジン、グリシルアルギニン、アラニルグリシン、アラニルアラニン、アラニルロイシン、アラニルイソロイシン、アラニルフェニルアラニン、アラニルチロシン、アラニルトリプトファン、アラニルプロリン、アラニルメチオニン、アラニルシスチン、アラニルセリン、アラニルトレオニン、アラニルグルタミン、アラニルグルタミン酸、アラニルヒスチジン、アラニルアスパラギン、アラニルアスパラギン酸、アラニルリジン、アラニルアルギニン、ロイシルグリシン、ロイシルアラニン、ロイシルロイシン、ロイシルイソロイシン、ロイシルフェニルアラニン、ロイシルチロシン、ロイシルトリプトファン、ロイシルプロリン、ロイシルメチオニン、ロイシルシスチン、ロイシルセリン、ロイシルトレオニン、ロイシルグルタミン、ロイシルグルタミン酸、ロイシルヒスチジン、ロイシルアスパラギン、ロイシルアスパラギン酸、ロイシルリジン、ロイシルアルギニン、イソロイシルグリシン、イソロイシルアラニン、イソロイシルロイシン、イソロイシルイソロイシン、フェニルアラニン、イソロイシルチロシン、トリプトファン、プロリン、イソロイシルメチオニン、イソロイシルシスチン、イソロイシルセリン、イソロイシルトレオニン、イソロイシルグルタミン、イソロイシルグルタミン酸、イソロイシルヒスチジン、イソロイシルアスパラギン、イソロイシルアスパラギン酸、イソロイシルリジン、イソロイシルアルギニン、バリルグリシン、バリルアラニン、バリルロイシン、バリルイソロイシン、バリルフェニルアラニン、バリルチロシン、バリルトリプトファン、バリルプロリン、バリルメチオニン、バリルシスチン、バリルセリン、バリルトレオニン、バリルグルタミン、バリルグルタミン酸、バリルヒスチジン、バリルアスパラギン、バリルアスパラギン酸、バリルリジン、バリルアルギニン、フェニルアラニルグリシン、フェニルアラニルアラニン、フェニルアラニルロイシン、フェニルアラニルイソロイシン、フェニルアラニルフェニルアラニン、フェニルアラニルチロシン、フェニルアラニルトリプトファン、フェニルアラニルプロリン、フェニルアラニルメチオニン、フェニルアラニルシスチン、フェニルアラニルセリン、フェニルアラニルトレオニン、フェニルアラニルグルタミン、フェニルアラニルグルタミン酸、フェニルアラニルヒスチジン、フェニルアラニルアスパラギン、フェニルアラニルアスパラギン酸、フェニルアラニルリジン、フェニルアラニルアルギニン、チロシルグリシン、チロシルアラニン、チロシルロイシン、チロシルイソロイシン、チロシルフェニルアラニン、チロシルチロシン、チロシルトリプトファン、チロシルプロリン、チロシルメチオニン、チロシルシスチン、チロシルセリン、チロシルトレオニン、チロシルグルタミン、チロシルグルタミン酸、チロシルヒスチジン、チロシルアスパラギン、チロシルアスパラギン酸、チロシルリジン、チロシルアルギニン、トリプトファニルグリシン、トリプトファニルアラニン、トリプトファニルロイシン、トリプトファニルイソロイシン、トリプトファニルフェニルアラニン、チロシン、トリプトファニルトリプトファン、トリプトファニルプロリン、トリプトファニルメチオニン、トリプトファニルシスチン、トリプトファニルセリン、トリプトファニルトレオニン、トリプトファニルグルタミン、トリプトファニルグルタミン酸、トリプトファニルヒスチジン、トリプトファニルアスパラギン、トリプトファニルアスパラギン酸、トリプトファニルリジン、トリプトファニルアルギニン、プロリルグリシン、プロリルアラニン、プロリルロイシン、プロリルイソロイシン、プロリルフェニルアラニン、プロリルチロシン、プロリルトリプトファン、プロリルプロリン、プロリルメチオニン、プロリルシスチン、プロリルセリン、プロリルトレオニン、プロリルグルタミン、プロリルグルタミン酸、プロリルヒスチジン、プロリルアスパラギン、プロリルアスパラギン酸、プロリルリジン、プロリルアルギニン、メチオニルグリシン、メチオニルアラニン、メチオニルロイシン、メチオニルイソロイシン、メチオニルフェニルアラニン、メチオニルチロシン、メチオニルトリプトファン、メチオニルプロリン、メチオニルメチオニン、メチオニルシスチン、メチオニルセリン、メチオニルトレオニン、メチオニルグルタミン、メチオニルグルタミン酸、メチオニルヒスチジン、メチオニルアスパラギン、メチオニルアスパラギン酸、メチオニルリジン、メチオニルアルギニン、セリルグリシン、セリルアラニン、セリルロイシン、セリルイソロイシン、セリルフェニルアラニン、セリルチロシン、セリルトリプトファン、セリルプロリン、セリルメチオニン、セリルシスチン、セリルセリン、セリルトレオニン、セリルグルタミン、セリルグルタミン酸、セリルヒスチジン、セリルアスパラギン、セリルアスパラギン酸、セリルリジン、セリルアルギニン、トレオニルグリシン、トレオニルアラニン、トレオニルロイシン、トレオニルイソロイシン、トレオニルフェニルアラニン、トレオニルチロシン、トレオニルトリプトファン、トレオニルプロリン、トレオニルメチオニン、トレオニルシスチン、トレオニルセリン、トレオニルトレオニン、トレオニルグルタミン、トレオニルグルタミン酸、トレオニルヒスチジン、トレオニルアスパラギン、トレオニルアスパラギン酸、トレオニルリジン、トレオニルアルギニン、アスパラギルグリシン、アスパラギルアラニン、アスパラギルロイシン、アスパラギルイソロイシン、アスパラギルフェニルアラニン、アスパラギルチロシン、アスパラギルトリプトファン、アスパラギルプロリン、アスパラギルメチオニン、アスパラギルシスチン、アスパラギルセリン、アスパラギルトレオニン、アスパラギルグルタミン、アスパラギルグルタミン酸、アスパラギルヒスチジン、アスパラギルアスパラギン、アスパラギルアスパラギン酸、アスパラギルリジン、アスパラギルアルギニン、グルタミルグリシン、グルタミルアラニン、グルタミルロイシン、グルタミルイソロイシン、グルタミルフェニルアラニン、グルタミルチロシン、グルタミルトリプトファン、グルタミルプロリン、グルタミルメチオニン、グルタミルシスチン、グルタミルセリン、グルタミルトレオニン、グルタミルグルタミン、グルタミルグルタミン酸、グルタミルヒスチジン、グルタミルアスパラギン、グルタミルアスパラギン酸、グルタミルリジン、グルタミルアルギニン、リジルグリシン、リジルアラニン、リジルロイシン、リジルイソロイシン、リジルフェニルアラニン、リジルチロシン、リジルトリプトファン、リジルプロリン、リジルメチオニン、リジルシスチン、リジルセリン、リジルトレオニン、リジルグルタミン、リジルグルタミン酸、リジルヒスチジン、リジルアスパラギン、リジルアスパラギン酸、リジルリジン、リジルアルギニン、アルギニルグシン、アルギニルアラニン、アルギニルロイシン、アルギニルイソロイシン、アルギニルフェニルアラニン、アルギニルチロシン、アルギニルトリプトファン、アルギニルプロリン、アルギニルメチオニン、アルギニルシスチン、アルギニルセリン、アルギニルトレオニン、アルギニルグルタミン、アルギニルグルタミン酸、アルギニルヒスチジン、アルギニルアスパラギン、アルギニルアスパラギン酸、アルギニルリジン、アルギニルアルギニン、グリシルグリシルグリシン、グリシルグリシルアラニン、グリシルグリシルロイシン、グリシルグリシルイソロイシン、グリシルグリシルフェニルアラニン、グリシルグリシルチロシン、グルシルグリシルトリプトファン、グリシルグリスルプロリン、グリシルグリシルメチオニン、グリシルグリシルシスチン、グリシルグリシルセリン、アラニルアラニルグリシン、アラニルアラニルアラニン、アラニルアラニルロイシン、アラニルアラニルイソロイシン、アラニルアラニルフェニルアラニン、アラニルアラニルチロシン、アラニルアラニルトリプトファン、アラニルアラニルプロリン、アラニルアラニルメチオニン、アラニルアラニルシスチン、アラニルアラニルセリン、アラニルアラニルトレオニン、アラニルアラニルグルタミン、アラニルアラニルグルタミン酸、アラニルアラニルヒスチジン、アラニルアラニルアスパラギン、アラニルアラニルアスパラギン酸、アラニルアラニルリジン、アラニルアラニルアルギニン、その他の多くのジ−またはトリ−ペプチドが挙げられる。
【0012】
本発明で用いられるジカーボネート化合物は上記した一般式(1)で示される化合物であるが、式中、Rで示されるアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンル基(t−アミル基)などの低級アルキル基が挙げられ、アルケニル基にはアリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基などが挙げられ、またアリールアルキル基にはベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0013】
そして本発明において好適に用いられるジカーボネート化合物の具体例としては、ジメチルジカーボネート、ジエチルジカーボネート、ジイソプロピルジカーボネート、ジ−t−ブチルジカーボネート、ジ−t−アミルジカーボネート、ジアリルジカーボネート、ジベンジルジカーボネートを挙げることが出来るが、殊にジ−t−ブチルジカーボネート、ジ−t−アミルジカーボネート、ジベンジルジカーボネートが好ましい。
【0014】
アミノ酸またはペプチドに対するカーボネート化合物の使用量は、アミノ酸またはペプチド中の保護したいアミノ基またはイミノ基1当量に対して通常0.5〜5当量、好ましくは0.8〜2当量、さらに好ましくは0.9〜1.1当量の範囲の量で選ぶことが出来る。
【0015】
本発明で用いられる無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩などを挙げることが出来る。
これらの無機塩基は、アミノ酸またはペプチド中のアミノ基またはイミノ基1当量に対して通常0.1〜10当量、好ましくは0.5〜5当量、さらに好ましくは1.0〜2.0当量の範囲の量で選ぶことが出来る。
【0016】
本発明で用いられる相間移動触媒は、異なった相中に存在することになるアミノ酸またはペプチドとカーボネート化合物との反応を接触するきわめて重要な役割を本方法において果たすものであって、相間移動触媒として知られた化合物のすべてが本発明においても用いることが出来る。そしてこれらの相間移動触媒の具体例としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリ−n−ブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルトリ−n−ブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリ−n−ブチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム化合物、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6などのクラウンエーテル、クリプタンド〔1.1.1〕、クリプタンド〔1.1.2〕、クリプタンド〔2.2.2〕、クリプタンド〔2.2.1〕などのクリプタンドが挙げられるが、その他相間移動触媒活性を有するアミン、ホスホニウムのハロゲン化物などのカチオンQ+を有し、より親油性の高いアニオンY-を水相から抽出しうる化合物も相間移動触媒として用いられる。
これらの相間移動触媒の使用量はアミノ酸またはペプチドの1当量に対して0.00001〜1当量、好ましくは0.0001〜0.1当量、さらに好ましくは0.0005〜0.05当量の範囲から選ばれる。
【0017】
本発明の方法では、反応は水中で行われるが、ここで用いる水の量は、アミノ酸またはペプチドを溶解または懸濁しうる量であってかつ無機塩基を溶解または懸濁しうる量であればよく、その量に特段の制限はないが、必要以上の多量の水の使用は反応後の処理に問題があり好ましくはない。
【0018】
本発明の方法に於ける反応温度に特段の制限はなく、水の沸点までの温度で行われるが、高すぎる場合には原料であるジカーボネート化合物及び生成物のカーボネート化合物が分解したりラセミ化したりするため、通常、0〜80℃、好ましくは10〜40℃の範囲が好適である。
反応時間はジカーボネート化合物、アミノ酸またはペプチドの種類、及び相間移動触媒添加量によって異なり得るが、通常は30分〜10時間の範囲の時間内に行われ得る。また反応速度は相間移動触媒量及び反応温度により制御出来る。
【0019】
本発明の方法では、カーボネート化反応の終了後の反応液を中和または酸性化することにより水性相中のカーボネート化生成物を分離することが出来る。上記した反応液の中和または酸性化に先立って、ジカーボネート化合物、無機塩基化合物などを含む未反応の反応体が反応液中に溶解することなく存在している場合にはこれらを濾過等によって予め除去しておくことが好ましい。 この中和または酸性化のために用いられる酸は、溶液の中和または酸性化のために用いられる公知のものであってよく、これらの具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム等の水溶液を挙げることが出来る。これらの酸の使用量は、反応に用いた塩基を中和するのに十分な量であればよいが、反応液を酸性化するためには中和量よりも過剰に用いられる。
【0020】
この反応液の中和または酸性化は0℃〜40℃程度の温度において行われるが、生成物の分離にあたっては生成物の水への溶解度を考慮して0℃〜10℃のような低い温度での操作が好ましい。
カーボネート化されたアミノ酸またはペプチドの種類によっては結晶化し難いものもあるが、その場合には公知の溶媒抽出、濃縮などの操作で目的物を得ることができる。
【0021】
【実施例】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を単に具体例に則して説明するだけの目的で記載するものであって、本発明がこれら実施例によって限定されるものではないことに留意すべきである。
【0022】
〔実施例1〕
撹拌機及び温度計付きの300mlの四つ口フラスコに、水100ml、ジ−t−ブチルジカーボネート43.7g(0.2モル)、L−プロリン23.0g(0.2モル)及び18−クラウン−6 500mgを装入し、混合物の温度を25℃とした。この温度を保ちながら48%水酸化ナトリウム水溶液32.2gを15分かけて滴下して加え、さらにこの温度で3時間反応させた。反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、L−プロリンは検出されなかった。この反応液に35%塩酸40.6gを30分をかけて滴下して加えたところ結晶の析出が認められた。温度を5℃まで冷却放置して結晶の析出を完了させた。次いで得られた結晶を濾過して取り出し、水洗の後乾燥してN−t−ブトキシカルボニル−L−プロリン42.6gを得た。純度99.0%、収率99.0%。
【0023】
〔比較例1〕
撹拌機及び温度計付きの300mlの四つ口フラスコに、水100ml、ジ−t−ブチルジカーボネート43.7g(0.2モル)、L−プロリン23.0g(0.2モル)及びt−ブチルアルコール50.0gを装入し、混合物の温度を25℃とした。この温度を保ちながら48%水酸化ナトリウム水溶液32.2gを15分をかけて滴下して加え、さらにこの温度で3時間反応させた。次いで反応系内を60Torrまでの減圧にし、温度35℃でt−ブチルアルコールの回収を行い、反応液に35%塩酸40.6gを30分かけて滴下して加えた。内温を5℃まで冷却間放置して結晶の析出を完了させた。次いで得られた結晶を濾過して取り出し、水洗の後乾燥してN−t−ブトキシカルボニル−L−プロリン35.8gを得た。純度98.8%、収率83.2%。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−バリン23.4g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−バリン42.4gを得た。純度99.2%、収率97.7%。
【0025】
〔実施例3〕
実施例1と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−アラニン17.8g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−アラニン37.1gを得た。純度99.1%、収率98.0%。
【0026】
〔実施例4〕
実施例1と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−フェニルアラニン33.0g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−フェニルアラニン52.5gを得た。純度99.5%、収率99.0%。
【0027】
〔実施例5〕
撹拌機及び温度計付きの300mlの四つ口フラスコに、水100ml、ジ−t−ブチルジカーボネート43.7g(0.2モル)、L−プロリン23.0g(0.2モル)及び塩化ベンジルトリエチルアンモニウム228mgを装入し、混合物の温度を25℃とした。この温度を保ちながら48%水酸化ナトリウム水溶液32.2gを15分かけて滴下して加え、さらにこの温度で3時間反応させた。反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、L−プロリンは検出されなかった。この反応液に35%塩酸40.6gを30分かけて滴下して加えたところ結晶の析出が認められた。温度を5℃まで冷却放置して結晶の析出を完了させた。次いで得られた結晶を濾過して取り出し、水洗の後乾燥してN−t−ブトキシカルボニル−L−プロリン42.5gを得た。純度99.7%、収率98.7%。
【0028】
〔実施例6〕
実施例5と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−バリン23.4g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−バリン42.3gを得た。純度99.4%、収率97.4%。
【0029】
〔実施例7〕
実施例5と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−アラニン17.8g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−アラニン37.2gを得た。純度99.0%、収率98.3%。
【0030】
〔実施例8〕
実施例5と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−フェニルアラニン33.0g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−フェニルアラニン52.5gを得た。純度99.3%、収率99.0%。
【0031】
〔実施例9〕
撹拌機及び温度計付きの300mlの四つ口フラスコに、水100ml、ジ−t−ブチルジカーボネート43.7g(0.2モル)、L−プロリン23.0g(0.2モル)及び臭化ベンジルトリエチルアンモニウム272mgを装入し、混合物の温度を25℃とした。この温度を保ちながら48%水酸化ナトリウム水溶液32.2gを15分かけて滴下して加え、さらにこの温度で3時間反応させた。反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、L−プロリンは検出されなかった。この反応液に35%塩酸40.6gを30分かけて滴下して加えたところ結晶の析出が認められた。温度を5℃まで冷却して結晶の析出を完了させた。次いで得られた結晶を濾過して取り出し、水洗の後乾燥してN−t−ブトキシカルボニル−L−プロリン42.6gを得た。純度99.1%、収率99.0%。
【0032】
〔実施例10〕
実施例9と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−バリン23.4g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−バリン42.3gを得た。純度99.2%、収率97.4%。
【0033】
〔実施例11〕
実施例9と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−アラニン17.8g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−アラニン37.1gを得た。純度99.1%、収率98.1%。
【0034】
〔実施例12〕
実施例9と同一の条件で、但しL−プロリンに代えてL−フェニルアラニン33.0g(0.2モル)を用いて反応を行い、N−t−ブトキシカルボニル−L−フェニルアラニン1252.9gを得た。純度99.1%、収率98.8%。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、ジカーボネート化合物とアミノ酸またはペプチドとを、複雑な有機溶媒を使用せずに水中で無機塩基および相間移動触媒の存在下に反応させてカーボネート化合物を生成させることが出来る。反応終了後の反応液に公知の酸を加えて中和又は酸性化することで高純度のカーボネート化合物を極めて高収率に得られた。そして未反応のジカーボネート化合物が反応系内に残らないため得られるカーボネート化合物中にジカーボネート化合物が混入するリスクを避けることが出来る。また有機溶媒を使用しないことで溶媒回収及び溶媒の再生、母液からのカーボネート化合物の回収及び精製などの複雑な操作は全て不必要となった。したがって、本発明はアミノ酸のアミノ基が保護された構造を有するカーボネート化合物を得る方法として工業的にも1ポット化され極めて有用である。
Claims (2)
- アミノ酸、アミノ基もしくはイミノ基が遊離の状態で存在するアミノ酸誘導体またはアミノ基もしくはイミノ基が遊離の状態で存在するペプチドと、ジカーボネート化合物との反応後に於いて、反応混合物を酸で中和又は酸性化して、N−アルコキシカルボニル化、N−アルケニルオキシカルボニル化、またはN−アリールアルコキシカルボニル化された、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドを分離する請求項1に記載の方法。
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