JP3992602B2 - 断熱構造体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ビル、集合住宅、戸建住宅等の建築物外壁面を構成する断熱構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビル、集合住宅、戸建住宅等の建築物においては、屋外の温度変化が屋内に直接影響することを抑制すること、あるいは屋内の気密性を高めることなどを目的として、外壁面構造に断熱性を付与することが行われている。このような断熱性外壁面としては、外壁面の室内側にフェノールフォーム、グラスウール等の各種断熱材を設けたものや、外壁面を構成する基材自体が断熱性を有するもの等が用いられている。
【0003】
一方、建築物外壁面においては、意匠性を付与するために、様々な塗材が塗付形成されている。このうち、その被膜層が可とう性を有する厚塗り塗料、例えば可とう性厚付け仕上塗材等は、立体感のある意匠性が表出されるとともに、下地のコンクリートやモルタル等の微細なひび割れに追従できる性能を有することから、好んで使用されている。ここで、一般に厚塗り塗料は、骨材を含有し、その被膜層表面は粗面となり、且つ、艶消し乃至3分艶の状態であるが、近年、ニーズの多様化により、半艶乃至艶有り仕上げや、被膜層表面をより滑らかな仕上りにすることを要望される場合があり、この場合、各種の上塗材が塗装されている。
【0004】
また、厚塗り塗料から形成される被膜層は、屋外において長期にわたり曝露されると、太陽光、降雨、粉塵等の影響により劣化や汚染が進行してしまう。このため、塗り替えの必要が生じ、各種の上塗材が塗装される。また、劣化が進行してなくても、前述の如く、色や形状等の意匠性を変更する要望がある場合には、上塗材による塗り替えが行われる。(例えば、特許文献1等。)
【0005】
【特許文献1】
特開平6−306305号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のような厚塗り塗料から形成される被膜層は、その膜厚が概ね1〜10mmとかなり厚く、水分、造膜助剤及び高沸点溶剤等の塗材中の成分が被膜層内に残存しやすい傾向がある。さらに、被膜層表面が外気に直接曝されていると、劣化の進行とともに降雨等による水分が被膜層表面から吸収される場合や、水洗等により水分が被膜層表面から吸収される場合、また建築物基材側から水分が吸収される場合もあり、それらの水分が被膜層内に滞留しやすくなる。
【0007】
このように、厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層内部には、水分、造膜助剤及び高沸点溶剤等の気化性成分が含まれるおそれがある。そのような被膜層を断熱性外壁面に適用すると、太陽光の照射等によって被膜層の温度が上昇し、さらにその高温状態が長時間にわたって続くため、被膜層内部に存在する気化性成分の気化による体積膨張等の作用により、被膜層が経時的に膨れ、剥離等を生じ、美観を損う場合がある。
特に、断熱性を有する層上に積層された厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層においては、断熱性を有する層と該被膜層の界面付近に熱がこもり易い傾向があり、前記の問題がより発生しやすくなる。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、水分、造膜助剤及び高沸点溶剤等が残存しやすい厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層において、被膜層の膨れ、剥離等が生じることのない断熱性を有する断熱構造体を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するため本発明者らは鋭意検討を行った結果、厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層に、少なくとも赤外線反射性粉体、合成樹脂、及び中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層を積層することにより、温度上昇の原因のひとつとなる赤外線を反射し、被膜層の温度上昇を抑え、気化性成分の気化を抑えることができ、被膜層の膨れ、剥離等が生じることのない断熱性を有する断熱構造体を見出し、
さらに、赤外線反射性塗料から形成される被膜層が特定の水蒸気透過性を有することにより、厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層中に残存する水分等の気化性成分が、被膜層外に拡散、放散され、被膜層の膨れ、剥離等をより防ぐことができる断熱性を有する断熱構造体を見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、断熱層(A)、基材層(B)、
厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層(C)、
少なくとも(a)赤外線反射性粉体、(b)合成樹脂、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層(D)、
を有することを特徴とする断熱構造体。
2.建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、断熱性基材層(B’)、
厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層(C)、
少なくとも(a)赤外線反射性粉体、(b)合成樹脂、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層(D)、
を有することを特徴とする断熱構造体。
3.被膜層(D)のJIS K 5400 8.17−1990による水蒸気透過度が40g/m2・24h以上であることを特徴とする1.または2.に記載の断熱構造体。
4.さらに、屋外側に、水性塗料から形成され、JIS K 5400 8.17−1990による水蒸気透過度が40g/m2・24h以上である被膜層(E)を有することを特徴とする1.から3.いずれかに記載の断熱構造体。
5.被膜層(D)が、(a)赤外線反射性粉体、(b)ガラス転移温度が−50〜50℃であり、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成されることを特徴とする1.から4.のいずれかに記載の断熱構造体。
6.被膜層(D)を形成する赤外線反射性塗料における各成分の重量比率が、(b)成分の固形分100重量部に対し(a)成分1〜400重量部、(c)成分0.5〜200重量部であることを特徴とする1.から5.のいずれかに記載の断熱構造体。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の断熱構造体は、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、断熱層(A)、基材層(B)、厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層(C)、少なくとも(a)赤外線反射性粉体、(b)合成樹脂、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層(D)、を有することを特徴とする。
【0012】
[断熱層]
断熱層(以下「(A)層」ともいう)は、本発明の断熱構造体において最も屋内側に位置するものであり、屋外の温度変化が屋内に直接影響することを抑制すること、あるいは屋内の気密性を高めることなどの効果を得るために設けられる層である。このような(A)層を構成するものとしては、例えば、ポリスチレン発泡体、ポリウレタン発泡体、アクリル樹脂発泡体、フェノール樹脂発泡体、グラスウール、ロックウール、発泡セラミック等、あるいはこれらの複合体等があげられる。各種基材にサンドイッチされた空気層も(A)層に含まれる。このような(A)層は、具体的には熱伝導率が0.5kcal/m・hr・℃以下の断熱性を有するものであることが望ましい。
【0013】
[基材層]
本発明における基材層(以下「(B)層」ともいう)としては、建築物外壁面を構成するものである限り特に限定されないが、例えば、コンクリート、モルタル、セメントボード、押出成形板、スレート板、PC板、ALC板、繊維強化セメント板、金属ボード、磁器タイル、金属系サイディングボード、窯業系サイディングボード、セラミック板、石膏ボード、プラスチックボード、硬質木片セメント板、塩ビ押出サイディングボード、合板等、あるいはこれらの複合体等があげられる。
このような基材層は、予め何らかの表面処理層(例えば、シーラー層、サーフェーサー層等)を有するものであってもよく、既に被膜層が形成されたものでもよい。
【0014】
[断熱性基材層]
本発明における断熱性基材層(以下「(B’)層」ともいう)とは、上述の基材層のうち、具体的には熱伝導率が0.5kcal/m・hr・℃以下の断熱性を有するものを言う。このような(B’)層はそれ自体が断熱性を有するので、断熱層を省略することができる。(B’)層を構成する基材としては、例えば、軽量モルタル、軽量コンクリート、発泡コンクリート板、けい酸カルシウム板、パーライトセメント板、石膏ボード、ロックウール板、グラスウール保温板等、あるいはこれらの複合体等があげられる。このような(B’)層は、上述の基材層と同様に何らかの表面処理層を有するものであってもよい。
【0015】
[被膜層(C)]
本発明における被膜層(C)(以下「(C)層」ともいう)は、その被膜が厚塗り塗料から形成され、可とう性を有するものであり、本発明の断熱構造体に凹凸形状の立体模様を付与するとともに、基材層の微細なひび割れに追従できる性能を有するものである。
【0016】
なお、可とう性を有する被膜層(C)としては、ガラス転移温度(以下「Tg」と略す。)が概ね−50〜30℃、好ましくは−30〜20℃、さらに好ましくは−15〜10℃程度の熱可塑性樹脂を結合剤とする厚塗り塗料から形成される被膜層を好適に用いることができる。
なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。
【0017】
この被膜を形成する厚塗り塗料は、例えば、JIS A 6909に規定されている厚付け仕上塗材に可とう性が付与されたものの他、以下に示すような配合成分から構成される塗料を、概ね1.5〜15kg/m2で塗付し、形成された被膜の膜厚(但し、頂部の膜厚を指す。)が概ね1〜10mmとなるものである。この厚塗り塗料は、一般に塗料として広く認識されているフラットペイントの塗付量:0.2〜0.3kg/m2、膜厚:50〜100μmと比べ、かなり厚塗りになるものである。
【0018】
このような厚塗り塗料は、主に、結合剤、骨材、無機質粉体、顔料及び溶剤等を構成成分とするものである。
【0019】
結合剤としては、例えば、水分散型、水可溶型、弱溶剤可溶型、溶剤可溶型、NAD型等の合成樹脂を用いることができ、特に水分散型、水可溶型が好適に用いられる。合成樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂、石油樹脂、ポリアミド樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン等の塩素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンコポリマー等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、エチルセルロース等のセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0020】
骨材としては、例えば、大理石、御影石、石灰岩、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、珪石、珪砂、砂等の粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、金属粒等や、それらの表面を着色コーティングしたもの等が挙げられる。
【0021】
無機質粉体としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、けい藻土、ホワイトカーボン、タルク、バライト粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、ウォラストナイト、マイカ、クレー等が挙げられる。
【0022】
顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、黒鉛、べんがら、黄色酸化鉄、オーカー、クロムグリーン、群青等の無機顔料、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系、ベンツイミダゾロン系等の不溶性アゾ顔料、パーマネントレッド、レーキレッド等の溶性アゾ顔料、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系等の縮合多環顔料、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー等のモノアゾ系顔料、パーマネントイエロー等のジスアゾ系顔料、イソインドリノンイエロー等の縮合アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン系イエロー顔料、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット等の有機顔料等が挙げられる。
【0023】
溶剤としては、水と有機溶剤が挙げられ、有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール類、n−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、イソパラフィン、シクロヘキサノン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類等またはそれらの混合物等が挙げられる。
【0024】
その他、一般に塗料用添加剤として用いられる造膜助剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤等を、本発明の効果を損ねない程度で、適宜配合することができる。
【0025】
このような厚塗り塗料は、例えば、合成樹脂のTgや、各成分の配合比率を調整することによって、(C)層の可とう性を付与することができる。
例えば、合成樹脂のTgは、通常−50〜30℃、好ましくは−30〜20℃、さらに好ましくは−15〜10℃程度であればよい。
【0026】
(C)層の積層は、例えば、厚塗り塗料を塗付形成することにより積層することができる。
厚塗り塗料の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ガン、ローラー、刷毛、コテ等を使用することができる。塗装時には水を用いて塗料を希釈することができる。水の混合量は、使用する塗装器具、所望の表面形状等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
(C)層の膜厚は、通常1〜10mmであり、その断面が玉状、台形状等の凹凸形状を有するものであってもよい。一般に、断面が玉状となる被膜層は吹放し仕上げによって形成することができ、断面が台形状となる被膜層は、吹放し仕上げを行った後にローラー、鏝、刷毛等を用いて凸部を押える処理を施すことにより形成することができる。
【0028】
[被膜層(D)]
本発明における被膜層(D)(以下「(D)層」ともいう)は、少なくとも(a)赤外線反射性粉体(以下「(a)成分」という)、(b)合成樹脂(以下「(b)成分」という)、及び(c)中空粒子(以下「(c)成分」という)を含有する赤外線反射性塗料から形成されることを特徴とする。
【0029】
(a)成分を含有することにより、太陽光等による赤外線を反射し、(C)層及び(D)層の温度上昇を抑制することができる。
【0030】
(a)成分としては、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、アルミナ等が挙げられる(但し、(c)成分を除く)。これらは1種または2種以上で使用することができる。このうち、本発明では酸化チタン、酸化亜鉛から選ばれる1種以上が好適である。
【0031】
このような(a)成分は、波長800〜2100nmの光に対する分光反射率を測定し、その平均値を算出することにより得られる値が20%以上(好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上)であるものが好適である。
【0032】
なお、分光反射率は、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3100)により、波長800〜2100nmの領域で測定した値であり、硫酸バリウムの微粉末を固めた白板の分光反射率を100%として、その相対値で示した値である。
【0033】
(a)成分の平均粒子径は通常0.1〜10μm、さらには0.1〜1μmであることが好ましい。平均粒子径がこのような範囲であることにより、赤外線反射性をより高めることができる。
【0034】
(a)成分の重量比率は、後述する(b)成分の固形分100重量部に対し、1〜400重量部(好ましくは2〜200重量部)であることが好ましい。このような比率で混合することにより、赤外線反射性に優れるとともに、十分な被膜強度を有する被膜層を形成することが可能となる。(a)成分が1重量部より少ない場合は、太陽光等によって被膜層が温度上昇しやすくなる。また、十分な被膜強度が得られず、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。400重量部より多い場合は、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。
【0035】
(b)成分は、赤外線反射性塗料における結合剤として作用するもので、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン樹脂等の水分散型、水可溶型、弱溶剤可溶型、溶剤可溶型、NAD型等の1種または2種以上を混合して用いることができる。本発明では、特に水分散型、水可溶型等の1種または2種以上と混合して用いることが好ましい。
【0036】
特に本発明では、合成樹脂エマルションを使用することが好ましく、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルウレタン樹脂エマルション、シリコン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、ポリビニルアルコール樹脂エマルション、エチレン樹脂エマルション等の1種または2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0037】
このような(b)成分のうち、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルションを使用すれば、被膜層形成時または被膜層形成後において、該反応性官能基と反応可能な官能基との反応によって架橋構造を形成し、強固な被膜層を形成することができ、被膜層の膨れ、剥れを防止することができる。該反応性官能基と反応可能な官能基は、(b)成分中に含まれていてもよいし、別途混合する架橋剤中に含まれていてもよい。
【0038】
このような反応性官能基の組合せとしては、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、アルコキシル基どうし等があげられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0039】
また、(b)成分のTgは−50〜50℃、さらには−40〜20℃に設定することが好ましい。Tgが−50℃より低い場合は、(D)層の強度が不十分となり、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。Tgが50℃より高い場合は、十分な密着性能が得られず、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。また、(C)層への追従性が低下し、割れが発生しやすくなる。
(b)成分における合成樹脂エマルションの平均粒子径は、通常0.05〜0.2μm程度であればよい。
【0040】
(b)成分を構成するモノマーとしては、種々のモノマーを使用することができる。使用可能なモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;
アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等のカルボキシル基含有モノマー;
N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等のアミノ基含有モノマー;
ビニルピリジン等のピリジン系モノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;
アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;
スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族モノマー;
アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー;
塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
その他、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、クロロプレン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0041】
本発明では、(b)成分においてそのTgを特定の値とし、さらに反応性官能基による架橋構造を形成させることにより、(D)層の強度が向上し、かつ(D)層における水蒸気透過性が高まり、被膜層中の水分等の気化性成分を拡散、放散する効果が高まる。さらに、反応性官能基による架橋反応性は、上塗塗料を塗付する場合には、上塗塗料との密着性を高める効果も有する。本発明では、このような効果によって、膨れ、剥れ等を防止するすることが可能となる。また、本発明では(b)成分のうち、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルションを使用することにより、強度、耐水性、耐衝撃性、耐アルカリ性等の被膜物性を高めることもできる。
【0042】
本発明において好適な(b)成分のひとつとして、(b−1)エポキシ基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション(以下「(b−1)成分」という)が挙げられる。(b−1)成分は、上記モノマーのうち、エポキシ基含有モノマーを必須成分として共重合することにより得ることができる。エポキシ基と反応可能な官能基としては、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。
【0043】
上記(b−1)成分の他に、本発明において好適な(b)成分としては、(b−2)エポキシ基と反応可能な官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション(以下「(b−2)成分」という)が挙げられる。(b−2)成分は、上記モノマーのうちカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマーから選ばれる1種以上を必須成分として共重合することにより得ることができる。
【0044】
(b−2)成分を使用する場合は、エポキシ基含有架橋剤を併用することができる。このようなエポキシ基含有架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0045】
本発明において最も好適な(b)成分としては、(b−3)少なくともコア部及びシェル部の2層を含み、前記シェル部のTgが−20〜50℃(好ましくは−20〜20℃)、前記コア部のTgが−50〜0℃(好ましくは−40〜0℃)で、前記シェル部のTgが前記コア部のTgよりも高く、前記コア部にエポキシ基を有し、前記シェル部に該エポキシ基と反応可能な官能基を有する架橋反応型多層構造エマルション(以下「(b−3)成分」という)が挙げられる。
【0046】
この(b−3)成分は、少なくともコア部及びシェル部の2層を含む多層構造エマルションである。ここで言うコア部とは、多層構造エマルションの内層部を意味し、最外層部以外の層である。シェル部とは、多層構造エマルションの最外層部を意味するものである。この(b−3)成分は、コア部とシェル部の間に中間部を有する3層構造でもよいし、さらに複数の中間部を有する多層構造であってもよい。
本発明では、(b−3)成分を使用することにより、(D)層の強度や水蒸気透過性、さらには上塗塗料との密着性を向上させることができ、膨れ、剥れ等を防止する効果をいっそう高めることが可能となる。
【0047】
(b−3)成分のコア部にエポキシ基を生成させるためには、コア部を構成するモノマーとして、上記モノマーのうちエポキシ基含有モノマーを使用すればよい。エポキシ基含有モノマーとしては、特にグリシジルメタクリレートが好適である。
【0048】
(b−3)成分のシェル部にエポキシ基と反応可能な官能基を生成させるためには、シェル部を構成するモノマーとして、上記モノマーのうちカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマーから選ばれる1種以上を使用すればよい。このうち、本発明ではカルボキシル基含有モノマーが好適である。カルボキシル基含有モノマーとしては、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。
【0049】
また、シェル部を構成するモノマーとしてカルボキシル基含有モノマー等を使用する場合は、アミド基含有モノマーを併用することが望ましい。このようなアミド基含有モノマーを使用することにより、塗料貯蔵中におけるエポキシ基の反応が十分に抑制され、膨れ、剥れ等を防止する点においても有利となる。アミド基含有モノマーとしては、特に、アクリルアミド、メタクリルアミドから選ばれる1種以上が好適である。
【0050】
エポキシ基含有モノマーの使用量は、多層構造エマルションを構成する全モノマー量に対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%とする。
エポキシ基と反応可能な官能基を有するモノマーの使用量は、多層構造エマルションを構成する全モノマー量に対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%とする。
シェル部においてアミド基含有モノマーを使用する場合、その使用量は、多層構造エマルションを構成する全モノマー量に対し0.5〜5重量%が好適である。
【0051】
コア部にエポキシ基を有し、シェル部に該エポキシ基と反応可能な官能基を有するエマルションにおいて、コア部とシェル部の中間に、エポキシ基及び該エポキシ樹脂と反応可能な官能基のいずれにも不活性な共重合体からなる中間部を設けることによって、塗料の貯蔵安定性を高めることもできる。エポキシ基及び該エポキシ樹脂と反応可能な官能基のいずれにも不活性な共重合体を構成するモノマーとしては、上記モノマーのうち(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、水酸基含有モノマー、ビニルエステル系モノマー、ニトリル基含有モノマー、芳香族モノマー、アミド基含有モノマー、ハロゲン化ビニリデン系モノマー等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0052】
(b)成分の製造方法は、特に限定されず公知の方法で製造できる。例えば、乳化重合、シード乳化重合、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、懸濁重合、分散重合、シード分散重合、フィード分散重合、溶液重合、酸化還元重合等で製造することができ、必要に応じ、多段階重合で製造することもできる。また重合後、水性媒体、親水性媒体に分散させることによって製造することもできる。この際に、必要に応じ、適宜、開始剤、乳化剤、分散剤、連鎖移動剤、緩衝剤等またはその他の添加剤等を加えることができる。
【0053】
開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリルおよびその塩酸塩;クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物:これらの過硫酸塩または過酸化物と鉄イオン等の金属イオンおよびナトリウムスルボキシレート、ホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、L−アスコルビン酸等の還元剤との組合せによるレドックス開始剤などがあげられる。これらの使用量は、特に限定されないが、単量体混合物100重量部に対して、0.1〜5重量部程度とすればよい。
【0054】
乳化剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン性乳化剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン性乳化剤;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライト、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライト、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライト等のカチオン性乳化剤等があげられる。また、エチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を使用すると、被膜層の耐水性等を向上させることができ、好ましい。使用される乳化剤の量は、特に限定されないが、単量体混合物100重量部に対して、0.01〜20重量部程度とすればよい。
【0055】
(c)成分は、赤外線反射性を有するとともに、断熱性を付与する成分である。(c)成分を含有することにより、太陽光等による赤外線を反射するとともに、外部の温度等を断熱し、被膜層の温度上昇を抑制することができるため、被膜層の膨れ、剥れ等を防止することができる。
【0056】
(c)成分としては、例えば、中空セラミックビーズ、中空樹脂ビーズ等が挙げられる。中空セラミックビーズを構成するセラミック成分としては、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、カーボン、アルミナ、シラス、黒曜石等が挙げられる。中空樹脂ビーズを構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。(c)成分の構成成分が樹脂成分であるものは、熱伝導率が低い点で有利である。
(c)成分の形状としては、球形、楕円球形、偏平球形等が挙げられる。
【0057】
(c)成分は中空構造を有するものであり、その構造に着目すると開気泡型中空粒子と閉気泡型中空粒子に分類される。このうち本発明では、閉気泡型中空粒子が好適である。閉気泡型中空粒子を用いた場合は、気泡中への樹脂成分等の侵入を防止することができるため、高い断熱性能を発揮することができる。閉気泡型中空粒子の内部構造は、粒子1個当たり1個の中空を有する単一中空型であってもよいし、粒子1個当たり2個以上の中空を有する多中空型であってもよい。
【0058】
(c)成分の中空部分には通常、気体が充填されているが、中空部分が真空であるものを使用することも可能である。中空部分に充填可能な気体としては、例えば、空気、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素、揮発性モノマー等が挙げられる。このうち脂肪族炭化水素が好適である。
【0059】
(c)成分の平均粒子径は通常0.1〜200μm、好ましくは1〜150μmである。平均粒子径がこのような範囲であることにより、平滑性が高い被膜層を形成することができる。また、隠ぺい性、赤外反射性等を高めることもできる。
【0060】
(c)成分の密度は通常0.01〜1g/cm3、好ましくは0.01〜0.5g/cm3である。密度がこのような範囲であることにより、断熱性、軽量性等を高めることができる。
【0061】
(c)成分の重量比率は、(b)成分の固形分100重量部に対し、0.5〜200重量部、さらには1〜100重量部であることが好ましい。
(c)成分が0.5重量部より少ない場合は、十分な赤外線反射性能、断熱性能を得ることが困難となる。200重量部より多い場合は、膨れ、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。
【0062】
さらに赤外線反射性塗料は、(d)多孔質粉体(以下「(d)成分」という)を含有することが好ましい。
【0063】
(d)成分は、水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有する成分である。(d)成分は、大気中の水分や(C)層中の水分を吸着し、温度の上昇とともに水分を脱離することができる。その際、水分の蒸発潜熱により熱が奪われるため、温度の上昇を抑えることができる。さらに、このヒステリシス特性によって、夜間等の温度の低い状態において大気中の水分や(C)層中の水分を吸着し、温度が高い昼の間に脱離による温度上昇の抑制効果を発揮することができる。
【0064】
(d)成分としては、多孔質である限り特に限定されないが、例えば、シリカゲル、ゼオライト、硫酸ナトリウム、アルミナ、活性炭、アロフェン等の粘土鉱物の多孔質粉体を使用することができる。(d)成分としてはシリカゲル、ゼオライト、活性炭、アロフェンから選ばれる1種以上が好ましく、この中でもシリカゲルが最も好ましい。
【0065】
(d)成分の比表面積は100m2/g以上(好ましくは200m2/g以上、さらに好ましくは300m2/g以上)であることが好ましく、このような比表面積を有することにより高い温度上昇の抑制効果を発揮することができる。なお、比表面積は、BET法により測定される値である。
【0066】
(d)成分の重量比率は(b)成分の固形分100重量部に対して、10〜600重量部であることが好ましい。(d)成分の混合量が10重量部より小さい場合は、十分な吸脱着性能、ヒステリシス特性を得ることができない。600重量部を超えると(D)層が脆くなりやすく、クラック発生のおそれが高くなる。
【0067】
本発明の赤外反射性塗料では、上述の成分以外に、通常塗料に配合可能な添加剤を本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、水、溶剤、架橋剤、触媒、顔料、染料、骨材、艶消し剤、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0068】
(D)層の積層は、例えば、赤外反射性塗料を塗付形成することにより積層することができる。このような赤外反射性塗料は、上述のような成分を各種混合機によって均一に混合し、公知の塗装器具を用いて塗付し、被膜層を形成することができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ガン、ローラー、刷毛、コテ等を使用することができる。プレコートを行う場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いることもできる。塗装時には水を用いて塗料を希釈することができる。水の混合量は、使用する塗装器具、所望の表面形状等に応じて適宜設定すればよい。
【0069】
本発明における赤外反射性塗料は、適度なチクソトロピー性を有するものであるため、mmオーダーの厚みの被膜層を少ない塗り回数で形成することができる。この際、壁面等の垂直面に塗装を行っても、たれ発生等を十分に防止することができる。赤外反射性塗料による形成被膜の乾燥膜厚は、通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmである。
【0070】
(D)層の形成は、(C)層が形成された後、任意の時期に積層することが可能である。
特に、本発明の赤外反射性塗料は各種既存被膜層との密着性にも優れるため、改修・改装用として好適に使用することができる。この際、本発明の赤外反射性塗料は、下地調整を行う機能と表面形状を整える機能とを発揮することができ、既存被膜層の表面形状と異なる形状に仕上げることも可能である。
赤外反射性塗料による形成被膜の表面形状としては、例えば、平滑状、ゆず肌状、吹付タイル状、さざ波状等が挙げられる。
【0071】
本発明の(D)層は、水蒸気透過性を有していることが好ましく、例えば、JIS K5400「塗料一般試験方法」8.17−1990の水蒸気透過度が40g/m2・24h以上(好ましくは60g/m2・24h以上)であることが好ましい。
(D)層の水蒸気透過度が40g/m2・24h以上であることにより、(C)層から発生するする気化性成分が被膜層外に拡散、放散され、被膜層の膨れ、剥離等をより防止することができる。(D)層の水蒸気透過度が40g/m2・24h未満の場合は、被膜層に膨れや剥離が発生しやすくなる。
【0072】
また、(D)層は、適度な伸び性を有していることが好ましく、例えば、20℃での伸び率(以下、単に「伸び率」ともいう)が5〜500%、さらには30〜300%であることが好ましい。(D)層が適度な伸び性を有していることにより、割れの発生が抑制される。伸び率が500%より大きい場合は、膨れや剥離が発生するおそれがある。伸び率が5%未満の場合は、割れ発生のおそれがある。
【0073】
また、(D)層の(C)層に対する付着強さは、0.3N/mm2以上であることが望ましい。このような付着強さを有することにより、密着性を長期にわたり維持することができる。
【0074】
また、(D)層の分光反射率は、波長800〜2100nmの領域で20%以上(好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上)であることが好ましい。
(D)層の分光反射率が20%以上であることにより、赤外線を効率よく反射することができ、温度上昇を抑制し、被膜層の膨れ、剥れ等を防止することができる。
【0075】
なお、分光反射率は、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3100)により、波長800〜2100nmの領域で測定した値であり、硫酸バリウムの微粉末を固めた白板の分光反射率を100%として、その相対値で示した値である。
【0076】
[被膜層(E)]
本発明では、(D)層を積層した後、水性塗料から形成される水蒸気透過性を有する被膜層(E)(以下「(E)層」ともいう)を積層することもできる。
【0077】
このような(E)層は、具体的には、JIS K5400「塗料一般試験方法」8.17−1990の水蒸気透過度が、40g/m2・24h以上、さらには60g/m2・24h以上であることが好ましい。
(E)層がこのような水蒸気透過性を有することより、被膜層中の水分等の気化性成分が被膜層外に拡散、放散され、被膜層の膨れ発生、剥れ発生等を防止することが可能となる。さらに、被膜層の耐候性が高まり、長期にわたって優れた断熱性能を発揮することも可能となる。
【0078】
本発明における(E)層は、水性塗料から形成されるものであり、例えば、(p)合成樹脂エマルション、(q)赤外線反射性粉体及び/または赤外線透過性粉体を含有することが望ましい。
【0079】
(p)合成樹脂エマルション(以下「(p)成分」という)としては、例えば、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルウレタン樹脂エマルション、シリコン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、ポリビニルアルコール樹脂エマルション、エチレン樹脂エマルション等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。このような(p)成分は、樹脂中に架橋構造を有するもの、あるいは被膜形成後に架橋構造を生じるもの等であってもよい。このような架橋構造によって、水蒸気透過性、密着性、耐候性、耐水性、耐薬品性等を高めることができる。
【0080】
本発明では(p)成分として、(p−1)固形分中のシリコン成分量がSiO2換算で0.1〜50重量%である合成樹脂エマルションを好適に使用することができる。このような(p−1)成分を使用すれば、(E)層の水蒸気透過性、(E)層と(D)層との密着性が向上し、被膜層の膨れ、剥れ等をより十分に防止することが可能となる。また、(p−1)成分は、排気ガス等に由来する汚染物質の付着を抑制する性質を有するため、これら汚染物質による蓄熱を防止することもできる。(p−1)成分は、反応性シリル基含有化合物を必須成分として得られるものである。
【0081】
(p−1)成分としては、例えば、
▲1▼モノマー成分として反応性シリル基含有モノマーを含む合成樹脂エマルション
▲2▼モノマー成分として反応性シリル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、及びカルボキシル基含有モノマーから選ばれる少なくとも1種以上のモノマーを含む樹脂に、シラン化合物を反応させてなる合成樹脂エマルション、
▲3▼樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤とを反応させてなる合成樹脂エマルション、
▲4▼樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤とを反応させ、さらにシラン化合物を反応させてなる合成樹脂エマルション、
等が挙げられる。このうち、本発明では▲2▼または▲4▼のいずれかが好適である。
【0082】
反応性シリル基としては、珪素原子にアルコキシル基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン等が結合したものである。本発明では、珪素原子にアルコキシル基が結合したアルコキシシリル基が好適である。
【0083】
▲1▼、▲2▼における反応性シリル基含有モノマーは、反応性シリル基と重合性二重結合を含有する化合物であり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテル等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0084】
▲2▼における水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
▲2▼におけるカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0085】
▲2▼、▲4▼におけるシラン化合物としては、反応性シリル基を一分子中に2個以上有するものが用いられ、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能アルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルコキシシラン類;テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン等のクロロシラン類;テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン等のアセトキシシラン類等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、反応性シリル基を一分子中に1個有する化合物を併用することもできる。本発明では、特に、3官能アルコキシシラン類と2官能アルコキシシラン類とを併用することが望ましい。
【0086】
▲3▼、▲4▼における官能基の組み合わせとしては、水酸基とイソシアネート基、アミノ基とイソシアネート基、カルボキシル基とエポキシ基、アミノ基とエポキシ基、アルコキシシリル基どうし等が挙げられる。シランカップリング剤は、例えば、一分子中に、少なくとも1個以上の反応性シリル基とそのほかの置換基を有する化合物であり、具体的には、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート官能性シラン等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0087】
(p−1)成分の共重合モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系モノマー;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有モノマー;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;エチレン、プロピレン、イソブチレン等を使用することができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。この他、エチレン性不飽和二重結合含有紫外線吸収剤、エチレン性不飽和二重結合含有光安定剤等を用いることもできる。
【0088】
(p−1)成分の重量平均分子量は30000以上、さらには50000以上であることが望ましい。分子量が30000以上であることにより、耐候性、硬度、耐汚染性、耐水性等を向上させることができる。また、(p−1)成分のTgは通常−10〜100℃、好ましくは0〜80℃である。Tgが−10℃より低い場合は汚染物質が付着しやく、(E)層が蓄熱しやすくなる。100℃より高い場合は(E)層に割れが生じやすくなる。
【0089】
(p−1)成分におけるシリコン成分量は、(p−1)成分の固形分中にSiO2換算で0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。シリコン成分量がこのような範囲であることにより、十分な耐候性を有する被膜層が形成される。(p−1)成分のシリコン成分が少ない場合は、汚染物質が付着しやすく、被膜層が蓄熱しやすくなる。また耐候性が低下する傾向となる。シリコン成分が多い場合は、密着性不良や、割れ発生等を引き起こすおそれがある。
【0090】
なお、SiO2換算とは、Si−O結合をもつ化合物を、完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO2)となって残る重量分にて表したものである。
一般に、アルコキシシランやシリケート等は、水と反応して加水分解反応が起こりシラノールとなり、さらにシラノールどうしやシラノールとアルコキシにより縮合反応を起こす性質を持っている。この反応を究極まで行うと、シリカ(SiO2)となる。これらの反応は一般式、
RO(Si(OR)2O)nR+(n+1)H2O→nSiO2+(2n+2)ROH
という反応式で表されるが、この反応式をもとに残るシリカ成分の量を換算したものである。
【0091】
本発明における水性塗料は、(q)赤外線反射性粉体及び/または赤外線透過性粉体(以下「(q)成分」という)を含有することが望ましい。このような(q)成分を含有することにより、太陽光による(E)層の温度上昇を抑制しつつ、(E)層を所望の色に着色することが可能となる。
【0092】
(q)成分のうち赤外線反射性粉体としては、赤外線反射性塗料の(a)成分と同様のものを使用することができ、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、アルミナ等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0093】
(q)成分のうち赤外線透過性粉体としては、例えば、ペリレン顔料、アゾ顔料、黄鉛、弁柄、朱、チタニウムレッド、カドミウムレッド、キナクリドンレッド、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、コバルトブルー、インダスレンブルー、群青、紺青等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。(q)成分として赤外線反射性粉体を使用するのみでは、表出可能な色相に限界があるが、これら赤外線透過性粉体を適宜組み合わせることにより、様々な色相の被膜層を形成することが可能となる。
【0094】
赤外線透過性粉体としては、波長800〜2100nmの光に対する分光透過率を測定し、その平均値を算出することにより得られる値が20%以上(好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上)であるものが好適である。
【0095】
なお、分光透過率は、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−3100)により、波長800〜2100nmの領域で測定した値である。
【0096】
(q)成分の含有量は、(p)成分の固形分100重量部に対し1〜40重量部であることが望ましい。(q)成分が40重量部より多い場合は、剥れ、割れ等が発生するおそれがある。
【0097】
水性塗料においては、上述の成分以外に、通常塗料に配合可能な添加剤を本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、水、溶剤、架橋剤、触媒、艶消し剤、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0098】
(E)層の積層は、例えば、水性塗料を塗付形成することにより積層することができる。
水性塗料の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ガン、ローラー、刷毛等を使用することができる。プレコートを行う場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いることもできる。塗装時には水を用いて塗料を希釈することができる。水の混合量は、使用する塗装器具等に応じて適宜設定すればよい。
水性塗料による形成被膜(D)層の乾燥膜厚は、通常5〜200μmである。
【0099】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0100】
−厚塗り塗料の製造−
(厚塗り塗料1)
アクリル樹脂エマルション(固形分50%、Tg0℃)30重量部、酸化チタン5重量部、重質炭酸カルシウム20重量部、寒水石・ゴム粉35重量部、添加剤(造膜助剤、凍結防止剤、増粘剤、消泡剤)10重量部を混合し、厚塗り塗料1を得た。
【0101】
−赤外線反射性塗料の製造−
(赤外線反射性塗料1)
まず、表1に示す合成例1のモノマー組成比で、以下に示す方法にて、多層構造エマルション1を得た。
反応容器に、脱イオン水70重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2重量部を仕込み、攪拌及び窒素置換を行いながら70℃まで昇温し、過硫酸アンモニウム0.4重量部を添加した。これに、別途用意したコア部形成用乳化モノマー(脱イオン水20重量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1重量部を溶解させた水溶液に、スチレン21.0重量部、n−ブチルアクリレート55.0重量部、グリシジルメタクリレート2.5重量部を乳化分散させたもの)を3時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後2時間熟成を行った後、シェル部形成用乳化モノマー(脱イオン水10重量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1重量部を溶解させた水溶液に、スチレン5.0重量部、n−ブチルアクリレート14.0重量部、メタクリル酸1.5重量部、アクリルアミド2.0重量部を乳化分散させたもの)を2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後2時間熟成を行った。次いで、アンモニア水を添加してpHを7.5に調整した後、200メッシュの金網にてろ過することにより多層構造エマルションを製造した。
次に、合成例1によって得られた多層構造エマルションに対し、中空粒子、赤外線反射性粉体等を表2に示す比率で混合して均一に攪拌することにより赤外線反射性塗料1を得た。
なお、赤外線反射性塗料1から形成される被膜の乾燥膜厚1mmでの分光反射率は、82%であった。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
なお、赤外線反射性塗料1に使用した原料は以下の通りである。
・中空粒子:閉気泡型中空樹脂ビーズ(アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、平均粒子径45μm、密度0.025g/cm3)
・赤外線反射性粉体:酸化チタン(平均粒子径0.3μm、分光反射率85%)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤:ポリカルボン酸系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0105】
(赤外線反射性塗料2)
表1に示す合成例2のモノマー組成比、表2に示す原料配合以外は、赤外線反射性塗料1と同様の方法で赤外線反射性塗料2を得た。
【0106】
(赤外線反射性塗料3)
まず、表1に示す合成例3のモノマー組成比で、以下に示す方法にて、エマルションを得た。
反応容器に、脱イオン水70重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2重量部を仕込み、攪拌及び窒素置換を行いながら70℃まで昇温し、過硫酸アンモニウム0.4重量部を添加した。これに、別途用意した乳化モノマー(脱イオン水20重量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1重量部を溶解させた水溶液に、スチレン26.5重量部、n−ブチルアクリレート68.5重量部、メタクリル酸3.0重量部、アクリルアミド2.0重量部を乳化分散させたもの)を3時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後2時間熟成を行った。次いで、アンモニア水を添加してpHを7.5に調整した後、200メッシュの金網にてろ過することによりエマルションを製造した。
次に、合成例3によって得られたエマルションに対し、中空粒子、赤外線反射性粉体等を表2に示す比率で混合して均一に攪拌することにより赤外線反射性塗料3を得た。
【0107】
(赤外線反射性塗料4)
表2に示す原料配合以外は、赤外線反射性塗料2と同様の方法で赤外線反射性塗料4を製造した。
【0108】
(赤外線反射性塗料5)
表2に示す原料配合以外は、赤外線反射性塗料3と同様の方法で赤外線反射性塗料5を製造した。
【0109】
−水性塗料の製造−
(水性塗料1)
合成樹脂エマルション1の200重量部に対し、ペリレンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、フタロシアニンブルーの混合物を20重量部、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを10重量部、ウレタン系増粘剤を2.5重量部、シリコーン系消泡剤を0.5重量部混合することにより水性塗料1を製造した。
【0110】
なお、水性塗料1に使用した合成樹脂エマルション1は以下の通りである。
・合成樹脂エマルション1:アクリルシリコン樹脂エマルション(Tg25℃、固形分50重量%、pH7、シリコン成分量(SiO2換算)3重量%、モノマー組成:メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン)
【0111】
(水性塗料2)
合成樹脂エマルション1に代えて合成樹脂エマルション2を使用した以外は水性塗料1と同様にして水性塗料2を得た。
【0112】
なお、水性塗料2に使用した合成樹脂エマルション2は以下の通りである。
・合成樹脂エマルション2:アクリルシリコン樹脂エマルション(Tg25℃、固形分50重量%、pH8、シリコン成分量(SiO2換算)0.5重量%、モノマー組成:メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル酸)
【0113】
<水蒸気透過度試験>
赤外線反射性塗料の水蒸気透過度試験
離型紙を貼ったガラス板の上にろ紙を置き、このろ紙上に乾燥膜厚が1.0mmとなるように各赤外線反射性塗料をそれぞれ塗付し、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下(以下、標準状態という)で1週間養生を行った。養生後、各赤外線反射性塗料がそれぞれ塗付されたろ紙を剥がし、その水蒸気透過度をJIS K5400 8.17−1990「水蒸気透過度」に準じて測定した。結果は、表3に示す。
◎:水蒸気透過度が60g/m2・24h以上
○:水蒸気透過度が40g/m2・24h以上60g/m2・24h未満
×:40g/m2・24h未満
【0114】
【表3】
【0115】
水性塗料の水蒸気透過度試験
離型紙を貼ったガラス板の上にろ紙を置き、このろ紙上に乾燥膜厚が50μmとなるように各水性塗料をそれぞれ塗付し、標準状態で1週間養生を行った。養生後、各赤水性塗料がそれぞれ塗付されたろ紙を剥がし、その水蒸気透過度をJIS K5400 8.17−1990「水蒸気透過度」に準じて測定した。結果は、表3に示す。
◎:水蒸気透過度が60g/m2・24h以上
○:水蒸気透過度が40g/m2・24h以上60g/m2・24h未満
×:40g/m2・24h未満
【0116】
(実施例1)
フェノール樹脂発泡体(25mm厚)の片面に、シーラー処理を施したスレート板(12mm厚)を貼着し、スレート板が外側になるように、450×450×450mmのボックスを作製した。次にボックス表面に、厚塗り塗料1を、万能ガンで、玉状に吹付けた後、ミネラルスピリットを付けたプラスチックローラーで玉の凸部を押え、断面が台形状の凹凸を有する4〜8mmの被膜層(C)を形成させ、試験体1を作製した。
試験体1を作製した後、大阪府茨木市で、3ヶ月間、屋外に設置した後、エアブローによりほこり等を除去し、水で洗浄し、十分乾燥させた後、赤外線反射性塗料1を万能ガンで吹付け、標準状態で8時間乾燥後、水性塗料1をスプレー塗装し、さらに14日間養生したした。このとき、赤外線反射性塗料1は乾燥膜厚が1mm、水性塗料1は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。
【0117】
(被膜の膨れ・剥れ試験)
塗装後、大阪府茨木市で、屋外暴露を実施し、12ヶ月後の被膜層の表面状態の変化を目視にて観察した。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがなく、また、汚れも目立たず、美観性にも優れていた。
【0118】
【表4】
【0119】
(実施例2)
表4に示すように、赤外線反射性塗料1を赤外線反射性塗料2に替えた以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがなく、また、汚れも目立たず、美観性にも優れていた。
【0120】
(実施例3)
表4に示すように、赤外線反射性塗料1を赤外線反射性塗料3に替えた以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがほとんどなく、また、汚れも目立たず、美観性も良好であった。
【0121】
(実施例4)
表4に示すように、水性塗料1を水性塗料2に替えた以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがほとんどなく、また、汚れも目立たず、美観性も良好であった。
【0122】
(実施例5)
表4に示すように、水性塗料1を塗装しなかった以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがなく、また、汚れもほとんど目立たなかった。
【0123】
(実施例6)
シーラー処理を施した軽量モルタル板(25mm厚)を用いて、450×450×450mmのボックスを作製し、その表面に、厚塗り塗料1を、万能ガンで、玉状に吹付けた後、ミネラルスピリットを付けたプラスチックローラーで玉の凸部を押え、断面が台形状の凹凸を有する4〜8mmの被膜層(C)を形成させ、試験体2を作製した。
試験体2を作製した後、大阪府茨木市で、3ヶ月間、屋外に設置した後、エアブローによりほこり等を除去し、水で洗浄し、十分乾燥させた後、赤外線反射性塗料1を万能ガンで吹付け、標準状態で8時間乾燥後、水性塗料1をスプレー塗装し、さらに14日間養生したした。このとき、赤外線反射性塗料1は乾燥膜厚が1mm、水性塗料1は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。
塗装後、被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった結果、塗膜層の膨れ、剥れがなく、また、汚れも目立たず、美観性にも優れていた。
【0124】
(比較例1)
表4に示すように、赤外線反射性塗料1を赤外線反射性塗料4に替えた以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがみられた。
【0125】
(比較例2)
表4に示すように、赤外線反射性塗料1を赤外線反射性塗料5に変えた以外は、実施例1と同様の方法で被膜層の膨れ・剥れ試験を行なった。その結果、塗膜層の膨れ、剥れがみられた。
【0126】
【発明の効果】
本発明の断熱構造体は、経時的に膨れ、剥離等が生じることなく、長期にわたりその美観性を維持することができる。
Claims (4)
- 建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、断熱層(A)、基材層(B)、
厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層(C)、
少なくとも(a)赤外線反射性粉体、(b)合成樹脂、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層(D)、
を有することを特徴とする断熱構造体。 - 建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、断熱性基材層(B’)、
厚塗り塗料から形成される可とう性を有する被膜層(C)、
少なくとも(a)赤外線反射性粉体、(b)合成樹脂、及び(c)中空粒子を含有する赤外線反射性塗料から形成される被膜層(D)、
を有することを特徴とする断熱構造体。 - 被膜層(D)のJIS K 5400 8.17−1990による水蒸気透過度が40g/m2・24h以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の断熱構造体。
- さらに、屋外側に、水性塗料から形成され、JIS K 54008.17−1990による水蒸気透過度が40g/m2・24h以上である被膜層(E)を有することを特徴とする請求項1から請求項3いずれかに記載の断熱構造体。
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