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JP3984541B2 - 星型ポリオキサゾリンからなる粒子およびその製造方法 - Google Patents

星型ポリオキサゾリンからなる粒子およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な星型ポリオキサゾリンおよび該星型ポリオキサゾリンからなるコロイド粒子ならびにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体高分子は、その生成と共に、ある一定形、すなわち一定の階層を有する組織体へ自発的に集合する。このことは、生体系における最も合理的な過程であり、また生命の営みの根本でもある。このような生体系の自己組織化過程を模倣することは、合成化学の究極の課題の一つである。
【0003】
しかし、非特許文献1に「数多くの事例から見れば、確かに、自己組織化により形成される階層構造は従来の合成化学的手段からは引き起こすことはできない」と記載されているとおり、反応容器中で生成した分子がそのまま該反応容器中で自発的に階層構造へと組織化することは、未だかつて報告例がない。
【0004】
1990年代に入って盛んに研究されている分子の自己組織化は、幾つかの過程により実現されている。すなわちそれは、
(1)分子の一次構造において、水素結合部位、疎水性・親水性部位、π−π結合部位などの特定構造部位を有する分子の合成、
(2)得られた分子の反応系からの分離精製、
(3)得られた高純度生成物のある一定の条件下における自発的な組織化への誘導、
などの多段階の過程から成り立っている。
【0005】
例えば高分子化合物から階層構造を形成する技術として、高分子ミセル、高分子ベシクル、高分子ミクロン相分離、高分子ナノ粒子三次元パッキングなどの技術が、ここ数年の間、飛躍的な進歩を遂げている。しかしながら、高分子化合物からこれらの階層構造を形成するためには、階層構造に必要となる一次構造における分子構築が不可欠である。すなわち、直鎖状の高分子化合物の一次構造において、相互に相溶性のない、あるいは骨格物性の異なる2つのブロックが結合された高分子化合物を用いることが前提条件となる。そして、そのブロック重合体を合成する工程、該ブロック重合体を反応系から分離精製する工程、さらに階層組織化の工程を経て、一定の形の超構造体へと組織化することができる。
【0006】
例えば、このような高分子化合物の一次構造として、疎水性と親水性のような両親媒性、またはロッドとコイルとのような構造ドメインを有するブロックポリマーを、高次構造へと成長させるためには、一定の外部条件、すなわち、相反する2つのブロック(例えば、AブロックとBブロックとする)のそれぞれの異なる性質が、同一の反応溶媒系で発現できる条件が必要である。
【0007】
より具体的に説明すれば、例えば水性溶媒中、Aブロックは溶解性を示すがBブロックは不溶性を示す場合、疎水性のBブロック同士が会合することで、両親媒性ブロックポリマーは自己組織化し、ミセル、ベシクル、チューブ、多重ラメラ等の一定のコロイド形状体に成長する。
しかし、通常のブロックポリマーの合成反応条件では、いずれのブロックも、合成に用いられた反応溶媒に溶解するものであるため、2つのブロックが同一の反応溶液中で異なる性質を示すようなものは、合成そのものが困難であった。すなわち、従来の自己組織化という概念は、高分子化合物の一次構造上に、相反する構造単位が共有結合で連結されていることが前提条件として要求されていた。このため、高分子化合物の自己組織化を、該高分子化合物の反応溶液中で発現させることは、不可能であった。
【0008】
一方、この数年、大きな注目を集めているナノ粒子の合成において、重合反応の進行によるナノ粒子の形成が提示されている。
この分野において、超構造体へ自己組織化する高分子化合物として、星型ポリマーが知られている。星型ポリマーとは、コアとなる中心骨格の周囲に、ポリマー鎖からなる複数のアームが放射状に延在した分子構造を有する高分子化合物である。
【0009】
非特許文献2には、星型ポリマーの物理化学的理論計算によって、星型ポリマーの分子中の密度分布に由来する傾斜構造の特徴が記載されている。この文献によれば、星型ポリマーでは、中心骨格から一定の範囲の領域が高密度領域となり、高密度領域の外側は低密度領域となって、分子内に傾斜構造が発現される。その結果、高密度領域では星型ポリマーの濃度がどのように変化するとしても分子鎖は依然として単一の孤立分子のような状態を維持しようとするが、低密度領域では分子鎖はポリマーの濃度によって揺らぎ、星型ポリマーのアームは、線状ポリマーと同様に、分子間の絡み合いで強く相互作用して超構造体へと組織化するものと指摘している。
【0010】
この理論モデルは、物理化学者らの大きな注目を浴びながらも、その広範囲にわたる潜在的な意義には関心が示されなかった。ここ数年になって、星型ポリマーに関する物理化学的実験および理論的研究において、星型ポリマーの高分子としての性質と、コロイド粒子としての性質の二重性が明確に提唱されるに至り、星型ポリマーからの階層構造の自己組織化への可能性が予見された(非特許文献3参照)。
【0011】
但し、この予見に用いられた星型ポリマーは、50〜100個以上の数多くのアームを有するものが前提となっている。合成的な見地から見て、これほど多数のアームを導入するには、コアとなる中心骨格は、高分子とする必要がある。言い換えれば、高分子であるコアに、高分子であるアームを多数結合した星型ポリマーとする必要がある。従って、これは星型構造を有するとしても、その骨格構成から見れば、球状のポリマーと線状のポリマーとのブロック共重合体に等しい。このような星型ポリマーは合成的な見地からみても実用的ではない。さらに、このような星型ポリマーから超構造体を得ることを考慮すると、まず中心骨格となる化合物を合成して分離精製し、得られた中心骨格化合物にアーム部分を導入して星型ポリマーを生成させ、分離精製後、星型ポリマーを適切な溶媒中で自己組織化させるという多段階の工程が必要になるものと考えられる。
【0012】
一方、中心骨格の分子が小さく、中心骨格にわずか数個のアームが結合された星型ポリマーが自己組織化してコロイドの組織体を与える可能性については、理論的にも物理化学実験的にも全く例がなかった。
【0013】
【非特許文献1】
Chem.Britain、2000年、第7号、26頁
【非特許文献2】
J.Physique、1982年、第43巻、531〜538頁
【非特許文献3】
Europhys.Lett.、1988年、第42巻、271〜276頁
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、ナノからミクロンオーダーの結晶構造を有するコロイド粒子を形成する星型ポリオキサゾリンを提供することにある。
また、該星型ポリオキサゾリンからなるコロイド粒子および、それらの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、環構造を有する低分子化合物を重合開始剤とし、オキサゾリン化合物をリビングカチオン重合させて得られる星型ポリオキサゾリンが、重合反応溶液中で自発的に階層構造へと組織化し、ナノからミクロンオーダーの結晶構造を有するコロイド粒子を形成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち本発明は、式(1)
【0017】
【化3】
Figure 0003984541
【0018】
(ただし式中、Xは芳香族環状炭化水素を表し、Pは互いに独立にポリオキサゾリン鎖を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するポリオキサゾリン鎖の数を表し3〜18の整数である。)で表される星型ポリオキサゾリンからなり、複数の星型ポリオキサゾリン分子の会合によって形成される粒径10μm以下の粒子であって、結晶層と非結晶層とを有することを特徴とする粒子を提供する。
【0022】
また、本発明は、式(2)
【0023】
【化4】
Figure 0003984541
【0024】
(ただし式中、Xは芳香族環状炭化水素を表し、Aは互いに独立にハロゲン原子のいずれか又はスルホン酸アシル基から選択される一種又は複数種の置換基を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するAで表される置換基の数を表し3〜18の整数である。)で表される重合開始剤の存在下で、オキサゾリン、アルキルオキサゾリン、アルケニルオキサゾリン、アリールオキサゾリンから選択される一種又は複数種のオキサゾリン化合物をリビングカチオン重合させ、反応後の溶液を室温で放置して粒子を成長させた後、貧溶媒を添加することによって粒子の成長を停止させることを特徴とする前記粒子の製造方法を提供する。
【0028】
【発明の実施の形態】
1分子中において、分子内のモノマー単位密度の傾斜構造を有効に発現させるためには、星型ポリマーの中心骨格を最小限まで縮小し、この中心骨格に最大限の本数のアームを結合させることが重要である。例えばベンゼン環を中心骨格とした場合、合成的な見地から、導入可能なアームの数は最大6個である。しかし、中心骨格におけるアームの数は決して少なくない。なぜならば、ベンゼン環の周囲に最大6本のアームが結合することで、中心骨格の付近にモノマー単位が密集するからである。従って、星型ポリマーにおけるモノマー単位の密度は中心骨格付近では高く、中心骨格から離れたところでは大きく低下することになる。
【0029】
図1に示すように、星形ポリマーである星型ポリオキサゾリン11のコアとなる中心骨格を最小限まで小さくし、それに最大限度数のアームを結合させることによって、アーム中の中心骨格から一定の範囲の領域が配向して、高密度かつ剛直な内部配向部分4となり、この内部配向部分4の外側は、低密度かつコイル状の柔軟な部分5となって、分子内に傾斜構造が発現される。このように、1分子のポリマー中に、モノマー単位密度の傾斜構造を、極めて有効に発現させることができる(図1の符号1)。
【0030】
さらに、中心骨格を最小限まで低分子量化し、極性の高いポリオキサゾリンを該中心骨格へ導入した星型ポリマーは、重合反応による反応溶液中での該星型ポリマー濃度の増加に伴ってポリマー同士が絡み合う、いわゆるオーバーラッピングによる高分子の分子間会合によって、固い内部と軟らかい外表面を有する分子間会合体12を与える(図1の符号2)。そして分子間会合体12は、その軟らかい外表面同士がさらに会合しあうことにより、反応溶液系中で、結晶層6と非結晶層7とが混在した、より安定な階層構造を有するコロイド粒子13に誘導される(図1の符号3)。
【0031】
本発明における星型ポリマーの自己組織化は、星型ポリオキサゾリンの高密度の構造部分と、その周囲の低密度の構造部分に起因する。アームを構成する分子の一次構造がホモポリマーであってもブロック共重合体などの共重合体であっても同様に発現しうる。
【0032】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の星型ポリオキサゾリンは式(1)
【0033】
【化5】
Figure 0003984541
【0034】
(ただし式中、Xは芳香族環状炭化水素を表し、Pは互いに独立にポリオキサゾリン鎖を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するポリオキサゾリン鎖の数を表し3〜18の整数である。)で表される。
【0035】
芳香族環状炭化水素は、具体的には炭素数6〜40の単環または縮合環構造を有する芳香環である。
芳香環としては、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、ビフェニレン環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、アントラセン環、トリフェニレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、プレイアデン環、ピセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ペンタセン環、テトラフェニレン環、ヘキサフェン環、ヘキサセン環、ルビセン環、コロネン環、トリナフチレン環、ヘプタフェン環、ヘプタセン環、ピラントレン環、オバレン環などが例示される。中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレン環が好ましい。
【0036】
上記芳香族環状炭化水素に結合しているポリオキサゾリン鎖としては、具体的には式(3)
【0037】
【化6】
Figure 0003984541
【0038】
で表される、オキサゾリン、アルキルオキサゾリン、アルケニルオキサゾリン、アリールオキサゾリンの線状ポリマーが挙げられる。
Rとしては、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基などの低級アルキル基;ビニル基、アリル基、α−メチルビニル基などの低級アルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基などから選択される一種以上のものが挙げられる。このうち、Rが水素原子またはメチル基であるものが特に好ましい。
【0039】
ポリオキサゾリン鎖は、ホモポリマーであってもよく、また上記の置換基Rを有するオキサゾリン化合物の中から選択される2種類以上をモノマー単位として有するランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体であってもよい。
ポリオキサゾリン鎖の重合度mは、好ましくは10〜1000であり、より好ましくは50〜500、さらに好ましくは100〜300である。重合度mが上記範囲内であれば、星型ポリオキサゾリンの密度分布が、分子の中心付近の高密度領域と、その外側の低密度領域とに由来する最適な傾斜構造をとるようになり、星型ポリオキサゾリンが自己組織化しやすくなる。
【0040】
前記芳香族環状炭化水素に置換するポリオキサゾリン鎖の個数(アームの本数)nは、少なくとも3以上であり、中心骨格の小型化の観点からは18以下が好ましい。ポリオキサゾリン鎖の個数が2個以下(すなわち、一般式X−P、または、P−X−Pで表される構造)では、ポリマーが線状となり、星型とならないので不適である。
反応時間の短縮とモノマー単位密度の傾斜構造の最適化の観点から、3〜10であることが好ましく、特に4〜6が好ましい。
【0041】
本発明の星型ポリオキサゾリンは、芳香族環状炭化水素に結合している少なくとも3本のポリオキサゾリン鎖が、該芳香族環状炭化水素を構成する炭素原子のうち連続した5つ以内の位置番号の炭素原子に結合していることが好ましい。
「該芳香族環状炭化水素を構成する炭素原子のうち連続した5つ以内の位置番号の炭素原子」とは、例えばXがベンゼン環の場合、式(4)
【0042】
【化7】
Figure 0003984541
【0043】
に示す位置番号1〜5で表される5個の炭素原子であり、本発明の星型ポリオキサゾリンは、例えばこのような位置番号1〜5の炭素原子のうちの任意の3個の炭素原子のそれぞれにポリオキサゾリン鎖が結合したものである。
【0044】
また、例えばXがナフタレン環の場合、例えば式(5)
【0045】
【化8】
Figure 0003984541
【0046】
に示す位置番号1〜5で表される5個の炭素原子である。本発明の星型ポリオキサゾリンは、例えばこのような位置番号1〜5の炭素原子のうちの任意の3個の炭素原子のそれぞれにポリオキサゾリン鎖が結合したものである。
【0047】
本発明の星型ポリオキサゾリンは、反応溶液中で剛直な性質を示す分子内密度の高い部分と、柔軟な性質を示す分子内密度の低い部分とを有しており、複数の星型ポリオキサゾリン分子の高密度領域同士および低密度領域同士がそれぞれ互いに誘導しあって会合することにより、星型ポリオキサゾリンの分子が自己組織化し、結晶層と非結晶層とを有する結晶性のコロイド粒子を形成する。
コロイド粒子の粒径は反応速度の増加に従って大きくすることができるが、おおむね1〜10μmの範囲である。
【0048】
次に、本発明の星型ポリオキサゾリンの製造方法およびコロイド粒子の製造方法について説明する。
上記の星型ポリオキサゾリンを合成する方法は、例えば、式(2)
【0049】
【化9】
Figure 0003984541
【0050】
(ただしXは芳香族環状炭化水素を表し、Aは互いに独立にハロゲン原子のいずれか又はスルホン酸アシル基から選択される一種又は複数種の置換基を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するAで表される置換基の数を表し3〜18の整数である。)で表される化合物を重合開始剤として用い、オキサゾリン化合物のカチオンリビング重合によって合成することができる。
ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等が例示される。
スルホン酸アシル基としては、p−トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニル基等が例示される。
【0051】
オキサゾリン化合物は、例えば一般式(6)
【0052】
【化10】
Figure 0003984541
【0053】
で表される化合物であり、無置換(R=H)の2−オキサゾリンの他、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリンのごとき2−アルキル−2−オキサゾリン;2−ビニル−2−オキサゾリン、2−プロペニル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−α−メチルビニル−2−オキサゾリンのごとき2−アルケニル−2−オキサゾリン;2−フェニル−2−オキサゾリン、2−p−トリル−2−オキサゾリンのごとき2−アリール−2−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0054】
より具体的に説明すれば、アームとなるポリオキサゾリン鎖がホモポリマーである場合には、上記式(2)で表される化合物を重合開始剤として用い、これを適当な極性溶媒に溶解し、得られた溶液に対して前記重合開始剤の好ましくは10〜1000倍モルのオキサゾリン化合物を加えた後、好ましくは40℃以上の温度で撹拌しながらオキサゾリン化合物を重合させることにより、線状のポリオキサゾリン鎖をアームとして有する星型ポリオキサゾリンを合成、製造することができる。
【0055】
アームとなるポリオキサゾリン鎖がブロック共重合体である場合には、上記と同様にして、まず第1のオキサゾリン化合物を反応モノマーとして重合させ、第1のオキサゾリン化合物の消費後、続いて第1のオキサゾリン化合物とは異なる第2のオキサゾリン化合物を反応溶液に添加して、第1のオキサゾリン化合物を重合させたときの温度と、好ましくは等しいかそれ以上の温度で撹拌しながら重合反応を継続して行うことにより、異なるセグメントを有するブロック共重合体からなる線状ポリオキサゾリン鎖をアームとして有する星型ポリオキサゾリンを合成、製造することができる。
【0056】
アームとなるポリオキサゾリン鎖がランダム共重合体である場合には、上記式(2)で表される化合物を重合開始剤として用い、これを適当な極性溶媒に溶解し、得られた溶液に対して前記重合開始剤の好ましくは100〜200倍モルの異なる2種以上のオキサゾリン化合物の混合物を加えた後、好ましくは40℃以上の温度で撹拌しながらオキサゾリン化合物を重合させることにより、ランダム共重合体からなるポリオキサゾリン鎖をアームとして有する星型ポリオキサゾリンを合成、製造することができる。
【0057】
反応に用いられる極性溶媒としては、公知の非プロトン性有機溶媒を用いることができ、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル、フェニルアセトニトリルなどのニトリル系有機溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系有機溶媒などが例示される。
【0058】
重合温度は、反応に用いる極性溶媒によって、それぞれ適切な温度条件を設定することが望ましい。例えばアセトニトリルを用いた場合は反応温度を60〜80℃の範囲内とすることが望ましい。フェニルアセトニトリルを用いた場合は反応温度を80〜140℃の範囲内とすることが望ましい。反応温度の設定は、用いるモノマーおよび反応溶媒の沸点以下に設定される。
【0059】
以上のようにして、式(2)で表される重合開始剤と、式(6)で表されるオキサゾリン化合物との重合反応により、式(7)
【0060】
【化11】
Figure 0003984541
【0061】
で表される重合活性を有する星型ポリオキサゾリンを製造することができる。
【0062】
さらに、式(7)で表される星型ポリオキサゾリンを、一般式(8)
【0063】
【化12】
Figure 0003984541
【0064】
で表されるプロトン性化合物[例えば水(Yは水酸基)、アルコール(Yはアルキル基など)、一級アミン(Yはアルキルアミノ基など)など]と反応させることにより、式(9)
【0065】
【化13】
Figure 0003984541
【0066】
で表される星型ポリオキサゾリンを製造することができる。
【0067】
上記式(7)、(9)で表される星型ポリオキサゾリンは、いずれも式(1)で表される本発明の星型ポリオキサゾリンに包含される。また、他の末端基を有する星型ポリオキサゾリンも本発明の星型ポリオキサゾリンに包含される。
なお、上記式(7)、(9)において、ポリオキサゾリン鎖の重合度mは、それぞれ異なっていてもよく、また等しいものであってもよい。
重合度mが10〜1000である場合、星型ポリオキサゾリンのXと反対側の末端基の影響はさほど大きくなく、いずれも同様な性質を有するものとなる。
【0068】
また、重合反応終了後、式(7)で表される重合活性を有する星型ポリオキサゾリンを含む透明な反応溶液を室温(具体的には15〜35℃)で一定時間、たとえば2〜24時間放置することで、反応溶液中に星型ポリオキサゾリンからなるコロイド粒子が懸濁状態で分散したコロイド液を得ることができる。
【0069】
このようにして得られるコロイド液中のコロイド粒子は、詳しくは後述の実施例で説明するが、反応溶媒で濡れたまま測定した広角X線回折分析により、結晶性を示すことが明らかにされている。
またコロイド粒子を単離して乾燥後、乾燥状態での広角X線回折分析によって、濡れたままの状態とほとんど同様の回折パターンを示すことから、乾燥に対しても安定な結晶性を有していることがわかっている。
【0070】
上述の重合反応溶液の放置により得られるコロイド液を、さらに長時間(例えば一日〜一週間程度)放置することによって、コロイド粒子間の自発的な会合により、パッキング結晶体が成長した固体のコロイド塊を得ることができる。本明細書において「コロイド塊」とは、上述のコロイド粒子が容器の形状に沿って三次元的に充填して形成された塊状の集合体である。
【0071】
上記コロイド塊は、容器壁の形状に合わせて成長することから、容器形状に応じた種々の形状に成形することができる。例えば、金属やガラス、プラスチック等からなる金型に上記コロイド液を注ぎ、コロイド粒子が自発的にパッキングすることにより、金型形状に合ったコロイド塊を得ることができる。また、コロイド液を基板材料の表面にキャストまたはスピンコーティングすることにより、コロイド粒子が膜状に集合してなるコロイド膜を得ることもできる。
【0072】
懸濁状態のコロイド液から得られるコロイド塊およびコロイド膜は、極性有機溶媒には難溶である。通常の線状ポリオキサゾリンからなる固体状物質は極性有機溶媒に溶解しやすいことを考慮すると、本発明の星型ポリオキサゾリンは、極性有機溶媒に対する特異的な耐性を呈することがわかる。
【0073】
さらにコロイド液に対して、酢酸エチル等のエステル類や、テトラヒドロフラン等のエーテル類などから選択される適当な溶媒を貧溶媒として添加することにより、コロイド粒子をコロイド液から単離して、微粉末状の球状固体粒子として得ることもできる。上記固体粒子の粒径は、重合反応の終了後、コロイド液中の粒子成長の時間により決定され、貧溶媒を添加してコロイド粒子の成長を停止することにより、ナノオーダーからミクロンオーダーまで種々の大きさに制御することができる。例えば、コロイド液中のコロイド粒子の成長を反応直後に停止させると、平均粒径10nm以下の粒子が得られる。
また、1μm程度のコロイド粒子であれば、コロイド液を室温で6〜18時間程度放置してコロイド粒子を成長させた後、貧溶媒を添加してコロイド粒子の成長を停止させることにより得ることができる。
さらに、数μm程度のコロイド粒子であれば、コロイド液を室温で2〜4日程度放置してコロイド粒子を成長させた後、貧溶媒を添加してコロイド粒子の成長を停止させることにより得ることができる。
【0074】
上述した球状コロイド粒子の平均粒径の制御は、成長時間を種々に振り分けた同一反応系のモデル実験を行い、得られた結果の粒径を測定して、反応条件や反応時間と粒径との関数を予め検討しておくことにより適宜行うことができる。
コロイド液から単離されたコロイド粒子は、水溶性ではあるが、例えば相対湿度80%以上の空気中に放置しても粒子の形状は変形せず、吸湿性を示さない。通常のポリオキサゾリン粉末が湿潤空気中で吸湿し、粘状流体になることとは異なる。このことからも、本発明のコロイド粒子は結晶性が高いことが示唆される。
【0075】
詳しくは後述する実施例で説明するが、上記球状粒子を熱分析した結果から、本発明の球状粒子は、180〜200℃の範囲で融点を示すことが明らかとなった。通常のポリオキサゾリン類は60〜80℃の範囲でガラス転移温度を有するが、本発明の星型ポリオキサゾリンはその温度範囲内での熱変化が小さい。星型ポリオキサゾリンを一旦融点以上に加熱した後、冷却して固化したものは、100℃以下でガラス転移を示したことから、溶融によりポリマーの結晶構造が分解され、無規則な構造状態になることが示唆された。
【0076】
以上説明したように、本発明は、溶液重合反応系において、同一の反応溶液で星型ポリオキサゾリンを生成し、さらに星型ポリオキサゾリンがナノからミクロンオーダーの結晶構造を有するコロイド粒子へ自己組織化するものである。すなわち、原料のインプットから組織化された形状体のアウトプットまでの過程を、一つの反応容器中でワンバッチにて行うことができる。
【0077】
本発明の星型ポリオキサゾリンからなる結晶性のコロイド粒子は、極性溶媒に対して優れた耐性を示し、しかも平均粒径を容易に制御することができるものであるから、化学、物理学、生物化学、化学エンジニアリングなどの幅広い分野での素材として有用である。特に、ポリオキサゾリンが広範な物質と高い相溶性を有することから、本発明の星型ポリオキサゾリンからなる結晶性のコロイド粒子は、色素類、金属類の物質分散とハイブリッド調製などに有用であり、それらを水性塗料、粉体顔料、記録材料としての応用展開に期待が持たれる。
【0078】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0079】
[分子量測定法]
東ソー株式会社製高速液体クロマトグラフィー「HLC−8000」(GPC、検出器:RI、カラム:TSKgel2000×1+3000H×1+5000H×1+guardcolumnH×1、移動相:N,N−ジメチルホルムアミド、流速1.0ml/分、温度40℃)を用い、ポリエチレンオキシド換算にて算出した。
【0080】
[反応溶液中コロイド粒子の観測]
重合反応終了後の反応溶液一滴をホール型ガラススライド(ホール:1mm×10mm)に落とし、そのホールをガラスカバーでふたをした。スライドをオリンパス光学工業株式会社製ビデオ付き光学顕微鏡「BX−60」にて観察し、反応溶液中で形成したコロイド粒子の画像イメージを記録した。
【0081】
[コロイド粒子のキャストにより得られるコロイド膜の観測]
懸濁状態の反応溶液をフラスコから取り出し、そのままガラススライド上にキャストし、得られたコロイド膜の状態を前記ビデオ付き光学顕微鏡にて観察した。
【0082】
[単離乾燥した粉末粒子の観測]
懸濁状態の反応溶液中に貧溶媒として酢酸エチルを加え、コロイド粒子そのものを沈降させ、単離したコロイド粒子を窒素雰囲気中乾燥した。得られた粉末粒子をガラススライドに載せ、前記ビデオ付き光学顕微鏡にて観察した。
【0083】
[単離乾燥したコロイド粒子の溶媒中分散]
少量の単離乾燥されたコロイド粒子をDMF中に分散させ、その分散液一滴をガラススライドに落とし、ガラスカバーをした後、DMFに濡れた状態のまま、前記ビデオ付き光学顕微鏡にて観察した。
【0084】
[X線回折法による単離乾燥したコロイド粒子の分析]
単離乾燥したコロイド粒子を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultima」にセットし、X線Cu/Kα40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜40°の条件で測定を行った。
【0085】
[示差熱走査熱量法による単離乾燥したコロイド粒子の分析]
単離乾燥したコロイド粒子を測定パッチに正確に秤量し、それをPerkinElmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、50℃から250℃の温度範囲にて測定を行った。
【0086】
(実施例1)ベンゼン環を中心とする6個アームの星型ポリメチルオキサゾリン(R:メチル、n=6)の合成および反応容器中でのコロイド粒子の自発的形成
(1−1)重合反応
磁気攪拌子がセットされたスリ口試験管中に、重合開始剤としてヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン0.021g(0.033mmol)を入れ、試験管の口に三方コックをつけた後、真空状態にしてから窒素置換を行った。窒素気流下で三方コックの導入口からシリンジを用いて2−メチル−2−オキサゾリン2.0ml(24mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド4.0mlを順次加えた。試験管をオイルバス上で60℃まで加熱し、30分間保ったところ、混合液は透明になった。透明混合液をさらに100℃まで加熱し、その温度で20時間攪拌した。攪拌後のモノマーの転化率は98%であり、反応溶液の透明度もやや低下していた。試験管を室温にて6時間放置したところ、反応溶液は自発的に懸濁状態の白い不透明流体となっていた。
【0087】
上記の懸濁状態の白い不透明流体数滴をシリンジで抜き出し、それに一滴の水を加えると、全体的に完全に透明な液体になった。それをDMFで希釈後、分子量を測定したところ、ポリマーの質量平均分子量は22700であり、分子量分布は1.6であった。
【0088】
(1−2)懸濁状態反応溶液の形態
上記の懸濁状態の白い不透明流体一滴をホールスライドに載せ、それを一滴のN,N−ジメチルアセトアミドで薄めてからガラスカバーをし、光学顕微鏡で観察した。流体状態の反応溶液中には、光学顕微鏡の分解能が限られた条件でも、多くの球状のミセルがブラウン運動していることが観測された。
粒径1μm以上の球状コロイド粒子に焦点を合わせ、その形態を観測したところ、コロイド粒子の構造には屈折率の異なるドメインが観察され、図2に示すように、コロイド粒子は内外の層状構造を有することが確認された。
さらに、明暗のコントラストの繰り返しであるその層状構造は、図3に示すように、粒径の増大に伴って層数が増大するタマネギ状の多層構造であることが確認された。
光学顕微鏡の分解能の限界であり、精度は劣るが、図3の明暗の多層構造が均等な厚みで形成されたとすれば、一層の厚みは平均0.67μmであると推定される。
【0089】
(1−3)
上記の懸濁状態の白い不透明流体から一滴を取り出し、約60°の傾斜角で傾斜させて立てたガラススライド上にキャストすることにより、該ガラススライド上にキャスト膜を形成した。得られたキャスト膜の表面を光学顕微鏡で観察したところ、図4の光学顕微鏡写真に示すように、キャスト膜は球状のコロイド粒子から形成されていることが明らかとなった。
【0090】
(1−4)懸濁状態液からのコロイド粉末の単離
上記の懸濁状態の白い不透明流体6mlに貧溶媒である酢酸エチル20mlを添加して完全なコロイド分散液を得た。この分散液を窒素雰囲気下、ガラスフィルタ−を用いてろ過した後、酢酸エチルで繰り返し洗浄した。得られた固形物を窒素雰囲気下、室温で乾燥させた後、真空状態にて一晩乾燥させたところ、微粉末状のコロイド粒子を単離することができた。この微粉末状のコロイド粒子は、通常の線状ポリメチルオキサゾリンの溶液に酢酸エチルを添加して沈殿させることで得られる無規則な固体状の固形物とは全く異なる外観を呈するものであった。
また、星型ポリオキサゾリンから得られた上記微粉末は、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、アセトニトリルのいずれの極性溶剤にも不溶であった。この性質は上記極性溶媒に容易に溶解されるという通常の線状ポリメチルオキサゾリンの固体の性質とは全く異なるものであった。
【0091】
単離後乾燥させた上記コロイド粒子をガラススライド上にのせ、これを光学顕微鏡で観察した。この粉末は図5に示すように、基本的に球状粒子からなり、その大きさは5μm前後であった。さらに、乾燥した微粉末をN,N−ジメチルホルムアミド中分散し、その分散液を一滴ガラススライドに垂らしてガラスカバーをした後、光学顕微鏡で観察したところ、粒子はブラウン運動を繰り返し、また、図6に示すように、個々の粒子は非常に明るく部分と、比較的暗い部分との明暗構造が観察された。
【0092】
さらに、球状粒子粉末の広角X線回折を行ったところ、図7に示すように、2θの角度が、14.8°、19.0°、23.4°、27.9°、30.5°、34.1°のところに、強くてシャープな回折ピーク、もしくは弱くてブロードな回折ピークが現れた。この結果は、高分子の結晶構造がコロイド粒子中に存在することを強く示唆するものであった。
【0093】
さらに、示差走査熱量分析計(DSC)を用いてコロイド粒子の熱分析を行った。結果を図8に示すように、ガラス転移温度はほとんど現れず、184℃をピークとする融点が示された。このことはコロイド粒子の高い結晶度を強く示唆するものであった。
【0094】
(実施例2)ベンゼン環を中心とする6個アームのポリメチルオキサゾリン-block-ポリエチルオキサゾリンの合成および反応容器中でのコロイド粒子の自発形成。
(2−1)重合反応
磁気撹拌子がセットされたスリ口試験管に、重合開始剤としてヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン0.021g(0.033mol)を加え、試験管の口に三方コックを装着した後、真空状態にしてから窒素を導入し、雰囲気を窒素雰囲気に置換した。窒素気流下、三方コックの導入口からシリンジにて、第一モノマーとしての2−メチル−2−オキサゾリン1.5ml(18mmol)と、反応溶媒としてのN,N−ジメチルアセトアミド5.0mlを順次添加した。その混合物をオイルバスにて60℃まで加熱し、10分間保持したところ、透明な混合物となった。この透明混合物をさらに100℃まで加熱し、その温度で20時間攪拌し反応溶液を得た。
【0095】
この時点でモノマーは1H−NMR測定により、ほぼ定量的に転化したことが確認された。反応溶液から極少量取り出したサンプルの分子量を測定したところ、質量平均分子量は2140であり、分子量分布は1.65であった。
【0096】
この反応溶液を室温にて一晩放置したところ、全体が懸濁状態の白い不透明な流体となっていた。続けてこの懸濁状態の白い不透明な反応溶液に、第二モノマーとして、2−エチル−2−オキサゾリン1.0ml(9.9mmol)を加え、良く攪拌してから、オイルバスにて100℃まで加熱した。得られた反応溶液は不透明の懸濁状液のままであった。引き続き、得られた反応溶液を24時間攪拌しながら100℃を保持して加熱したあと、室温に一晩放置したところ、重合液の粘性は増大し、クリーム状となった。
【0097】
そのクリーム状の生成物を取り出し、ガラススライド上にのせ、それを光学顕微鏡で観察した。その結果、図9に示すように、クリーム状の生成物は、反応溶液中に多量のコロイド粒子を含む混合物であることが明らかとなった。また、この状態で、2−エチル−2−オキサゾリンは、1H−NMRにより、ほぼ定量的に転化したことが確認された。
クリーム状の生成物を水に溶解させ、DMFで希釈した後、分子量を測定したところ、質量平均分子量は29000であり、分子量分布は1.69であった。すなわち、懸濁状態の不均一系の状態であるにもかかわらず、2−エチル−2−オキサゾリンの重合反応はスムーズに進行し、それがクリーム状の生成物を与えたことがわかった。
【0098】
その重合反応の結果は、第1モノマーの重合から成長して得られた懸濁状態で、その重合成長末端は重合活性を維持したままであり、そこに第2モノマーを添加するとリビング重合を継続して行うことができ、懸濁状態を維持した形でのブロック共重合体の生成が可能であることを示唆するものである。
【0099】
クリーム状の生成物を酢酸エチルで洗浄し、これを窒素雰囲気下でろ過することにより、固体の粉末が得られた。
【0100】
上記のクリーム状の生成物と、固体粉末とをそれぞれ広角X線で分析した結果、図10に示すように、クリーム状の生成物中のコロイド粒子においても、単離乾燥後の固体粉末状のコロイド粒子においても、全く同様な結晶構造に由来する回折パターンを示した。また、これらの回折ピークは図7のものと一致した。すなわち、反応系から形成したホモポリマーの星型ポリオキサゾリンは結晶構造を有し、その結晶構造は、ブロックポリマーに成長しても保たれたままであり、それを単離乾燥しても結晶構造はなにも変わらないことが強く示唆された。
【0101】
上記単離乾燥したブロック共重合体の粒子粉末の熱分析により、このブロック共重合体の融点は、図11に示すように、163℃と184℃の2つのピークとして現れた。これは、ブロック共重合体の結晶性に依存する結果であると考えられる。
【0102】
重水中の1H−NMRの測定結果により、ブロック共重合体の組成比を推測したところ、メチルオキサゾリンは61mol%であり、エチルオキサゾリンは39mol%であった。これは、共重合反応系におけるメチルオキサゾリン(65mol%)とエチルオキサゾリン(35mol%)の仕込み比とほぼ一致した。
【0103】
(実施例3) ベンゼン環を中心とする4個アームのポリメチルオキサゾリン-block-ポリフェニルオキサゾリンの合成および反応容器中でのコロイド粒子の自発形成。
(3−1)重合反応
磁気撹拌子がセットされたスリ口試験管に、重合開始剤としてテトラキス(ブロモメチル)ベンゼン0.015g(0.033mol)を加え、試験管の口に三方コックを装着した後、真空状態にしてから窒素を導入し、雰囲気を窒素雰囲気に置換した。窒素気流下、三方コックの導入口からシリンジにて2−メチル−2−オキサゾリン2.0ml(24mmol)、2−フェニル−2−オキサゾリン2.4ml(18.2mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド4.0mlを順次添加した。その混合物をオイルバスにて60℃まで加熱し、その温度で攪拌しながら65時間保持した。攪拌後、メチルオキサゾリンの転化率は51%であり、ポリマーの質量平均分子量は16300であり、分子量分布は1.33であった。
【0104】
しかし、フェニルオキサゾリンの転化率は測定下限以下であった。反応溶液をさらに100℃まで加熱し、その温度で26時間攪拌した。ふたたびモノマーの転化率を測定したところ、メチルオキサゾリンは完全に重合し、フェニルオキサゾリンの転化率は16%であった。このときのポリマーの質量平均分子量は20600、分子量分布は1.65であった。
【0105】
この反応溶液を室温にて一晩放置したところ、全体が懸濁状態の流体となっていた。この懸濁状態の流体に酢酸エチルを加え、それをガラスフィルターにてろ過し、固形分を酢酸エチルで繰り返し洗浄した。得られた固形物を窒素雰囲気下、室温で乾燥させた後、真空状態にて一晩乾燥させたところ、微粉末状のコロイド粒子が得られた。この微粉末を重水素化クロロホルム中溶解させ、1H−NMRにて共重合体の組成比を推測したところ、メチルオキサゾリンは86mol%であり、フェニルオキサゾリンは14mol%であった。
【0106】
乾燥した微粉末状のコロイド粒子は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、アセトニトリルなどの極性有機溶媒では溶解せず、分散状態となることが分かった。上記コロイド粒子をDMFに分散してその分散液をガラススライド上にのせ、ガラスカバーをしてこれを光学顕微鏡で観察した。その結果を図12に示す。コロイド粒子のブラウン運動が観察された。また、図12に示すように、個々のコロイド粒子は、非常に明るいドメインと比較的暗いドメインとからなる明確なドメイン構造が観察された。
【0107】
【発明の効果】
本発明によれば、新規かつ特異な構造を有するポリマーである星型ポリオキサゾリンを生成し、さらに該星型ポリオキサゾリンの自発的な高次構造への組織化により、ナノからミクロンのオーダーの多層構造を有するコロイド粒子を一個の反応容器内で製造することができる。
このようにして得られた星型ポリオキサゾリンおよびコロイド粒子は、極性溶媒に対して優れた耐性を示し、平均粒径を容易に制御することができるものであるから、化学、物理学、生物化学、化学エンジニアリングなどの幅広い分野での素材として有用である。特に、ポリオキサゾリンが広範な物質と高い相溶性を有することから、本発明の星型ポリオキサゾリンからなる結晶性のコロイド粒子は、色素類、金属類の物質分散とハイブリッド調製などに有用であり、それらを水性塗料、粉体顔料、記録材料としての応用展開に期待が持たれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の星型ポリオキサゾリンが多層構造を有するコロイド粒子に自己組織化する過程を表す模式図である。
【図2】 DMFで希釈された懸濁液中の層状構造を有するコロイド粒子に関する光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図3】 DMFで希釈された懸濁液中の多層構造を有するコロイド粒子に関する光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図4】 実施例1の懸濁液をガラススライド上にキャストしたコロイド膜に関する光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図5】 実施例1の懸濁液から単離された粒径5μm以下の小麦粉状のコロイド粒子に関する光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図6】 実施例1で得られた固体粉末をDMF中に分散させた状態におけるコロイド粒子に関する光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図7】 実施例1で得られたコロイド粒子の広角X線回折スペクトル。
【図8】 実施例1で得られたコロイド粒子の示差走査熱量分析のプロフィル(昇温温度は10℃/分)。
【図9】 実施例2における懸濁状液を酢酸エチルで希釈した後、ガラススライドにキャストした光学顕微鏡写真(スケールバー:10μm)。
【図10】 実施例2で得られた濡れ状態のコロイド粒子(a)および単離乾燥後のコロイド粒子(b)の広角X線回折スペクトル。
【図11】 実施例2で得られたコロイド粒子の示差走査熱量分析のプロフィル(昇温温度は10℃/分)。
【図12】 実施例3で得られたコロイド粒子をDMF中分散させた状態での光学顕微鏡写真(スケールバー:50μm)。
【符号の説明】
1 星型ポリオキサゾリンの溶液中での分子内配向
2 配向した星型ポリオキサゾリンの分子間会合
3 星型ポリオキサゾリンの分子間会合体の自己組織化(階層化)
4 配向した星型ポリオキサゾリン分子中の剛直な内部配向部分
5 コイル状の柔軟な部分
6 結晶層
7 非結晶層
11 星型ポリオキサゾリン
12 星型ポリオキサゾリンの分子間会合体
13 星型ポリオキサゾリンからなるコロイド粒子

Claims (6)

  1. 式(1)
    Figure 0003984541
    (ただし式中、Xは芳香族環状炭化水素を表し、Pは互いに独立にポリオキサゾリン鎖を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するポリオキサゾリン鎖の数を表し3〜18の整数である。)で表される星型ポリオキサゾリンからなり、複数の星型ポリオキサゾリン分子の会合によって形成される粒径10μm以下の粒子であって、結晶層と非結晶層とを有することを特徴とする粒子
  2. 前記星型ポリオキサゾリンにおける前記ポリオキサゾリン鎖のうち少なくとも3つは、前記芳香族環状炭化水素を構成する炭素原子のうち連続した5つ以内の位置番号の炭素原子に結合している請求項1に記載の粒子
  3. 前記星型ポリオキサゾリンにおける前記ポリオキサゾリン鎖が、オキサゾリン、アルキルオキサゾリン、アルケニルオキサゾリン、アリールオキサゾリンから選択される一種または複数種のオキサゾリン化合物の重合体または共重合体である請求項1または2に記載の粒子
  4. 前記星型ポリオキサゾリンにおける前記芳香族環状炭化水素が、ベンゼン、ナフタレン、ピレンから選択される芳香族環状炭化水素である請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子
  5. 前記星型ポリオキサゾリンにおける前記ポリオキサゾリン鎖の重合度が10〜1000である請求項1〜4のいずれかに記載の粒子
  6. 式(2)
    Figure 0003984541
    (ただし式中、Xは芳香族環状炭化水素を表し、Aは互いに独立にハロゲン原子のいずれか又はスルホン酸アシル基から選択される一種又は複数種の置換基を表し、nは芳香族環状炭化水素に置換するAで表される置換基の数を表し3〜18の整数である。)で示される重合開始剤の存在下で、オキサゾリン、アルキルオキサゾリン、アルケニルオキサゾリン、アリールオキサゾリンから選択される一種又は複数種のオキサゾリン化合物をリビングカチオン重合させ、反応後の溶液を室温で放置して粒子を成長させた後、貧溶媒を添加することによって粒子の成長を停止させることを特徴とする請求項1に記載の粒子の製造方法。
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