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JP3961157B2 - 高分岐デキストリン及びその製造法 - Google Patents

高分岐デキストリン及びその製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分岐構造を多く含む新規な高分岐デキストリン及びその製造方法に関する。
本発明の高分岐デキストリンは、従来のデキストリンにくらべて分岐構造を多く含み、消化を受け難く、これを投与すると消化性を調整し血糖値の上昇を抑制することができる。従って、血糖値上昇を抑制する機能をもつ飲食品あるいは栄養剤として糖尿病患者又はそのおそれのある人達に有用である。
【0002】
【従来の技術】
生体が澱粉や砂糖等の炭水化物を摂取すると、消化管内で消化されて澱粉は、ぶどう糖に、砂糖はぶどう糖と果糖となって小腸から吸収される。吸収された糖は血液中に入り全身のエネルギーとして利用されるが、一時的には糖濃度は上昇する。しかし、健全な生体では糖濃度の上昇に従ってインシュリンが膵臓より供給され、これによりぶどう糖は肝臓でグリコーゲンに合成されてぶどう糖濃度を下げるように働く。空腹時には逆に、このグリコーゲンがぶどう糖に分解されて血中に供給される。このようにして血中糖濃度は極めて狭い範囲に常にコントロールされている。
【0003】
近年糖尿病及び糖尿病予備軍が急速に増加していることが知られている。糖尿病患者ではインシュリンの生産が悪く、炭水化物を摂取すると血中糖濃度の上昇を抑制することができない。
このような血中糖濃度の高い状態が続くと、微細血管や神経に損傷を与え、数々の合併症を惹起することが知られている。
しかし、生体にとって最も重要なカロリー源である、炭水化物を全く摂取しない訳にはいかず、果糖を用いたりあるいは大量の繊維質と共に摂取して、炭水化物の吸収を遅くする等の方法がとられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、インシュリンの生産力の低下した糖尿病患者が摂取しても、血糖値の上昇を抑制し、しかも十分なカロリーをぶどう糖として消化管から吸収できる新規な高分岐デキストリン及びその製造法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、澱粉が均一な組織を持つものでなく、人の消化酵素で速やかに分解される部分と、ゆっくりと分解される部分とがあり、酵素の特性を利用して分解すると、ゆっくり分解される部分だけはぶどう糖が 100個前後結合した高分子のままで残り、分解され易い部分はぶどう糖が15個以下の低分子にまで分解するので、この分子の大きさを利用して、大分子の成分と、小分子の成分の2つの成分に分割することが可能であることを見出した。
【0006】
更にこの大分子の成分は分岐構造を多く含み (高分岐デキストリン) 、消化酵素による分解速度は通常のデキストリンに比べてはるかに遅く、糖質を全てこのデキストリンに変えてラットに与えた場合に、コーンスターチのデキストリンやワキシースターチのデキストリンに比べて、血糖値の上昇をほとんど抑制することが確認された。
【0007】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであって次のとおりの高分岐デキストリンに関する。澱粉をα−アミラーゼ又は酸で分解し分解した後、分解生成物中のぶどう糖が15個以下の低分子成分を除去することによって得られる、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合 ) 10 %未満の分岐の多いデキストリンを、更にβ−アミラーゼ又はα−アミラーゼとβ−アミラーゼとの混合物で分解し、分解生成物中の分岐のマルトースおよびマルトトリオースを主成分とする画分を除去することによって得られる、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)(%)が10〜20%である高分岐デキストリン。また、本発明は、次のとおりの高分岐デキストリンの製造法に関する。澱粉をα−アミラーゼ又は酸で分解した後、分解生成物中のぶどう糖が15個以下の低分子成分を除去することによって得られるぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合 ) 10 %未満の分岐の多いデキストリンを、更にβ−アミラーゼ又はα−アミラーゼとβ−アミラーゼとの混合物で分解し、分解生成物中の分岐のマルトースおよびマルトトリオースを主成分とする画分を除去することによって、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)(%)が10〜20%である高分岐デキストリンを採取することを特徴とする高分岐デキストリンの製造法。
【0008】
本発明においては、まず澱粉をαアミラーゼまたは酸で分解してぶどう糖がα1・4結合で直線状に結合した箇所を分解する。このように分解した後、さらにβ−アミラーゼあるいはα−アミラーゼとβ−アミラーゼの混合物で分解し、α1・4結合を分解する。このようにすると平均分子量約10,000であって、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)(%) が10〜20%の大分子量の分子を多く含むデキストリン画分と、さらに分解された分岐のマルトースおよびマルトトリオースを主成分とする画分とが生成される。本発明ではこの生成物を両画分に分画し、前者の分岐の高いデキストリン画分を採取する。
【0009】
澱粉はぶどう糖が数千個のα1・4結合で直線状に結合したアミロースと直線状のα1・4結合の所々にα1・6結合の枝分かれを持ったアミロペクチンからなることが知られている。
アミロペクチンの枝分かれは非常に密に枝分かれした部分と枝分かれのほとんど無い部分とがあり、α−アミラーゼのようにα1・4結合をランダムに切断する酵素でも、澱粉に作用させた場合には分岐の影響でその作用点はランダムでは無い。
表1にコーンスターチをα−アミラーゼで分解した場合の成分組成を澱粉の分解度に従って示した。
ここで示されるDEは澱粉中の全グルコシド結合の内の分解を受けたグルコシド結合を 100分率 (%) で示したものである。
【0010】
【表1】
Figure 0003961157
【0011】
表1に示すごとく、澱粉をα−アミラーゼで分解した場合非常に大きな分子量を持つ大分子成分と小分子成分とに大きく分かれることがわかる。
例えば、表1のDE20の分解物では、11糖類までの小分子成分にはほとんど分岐構造が無く、それ以上分解が進むに従い小分子成分に分岐した成分が徐々に増加することがわかった。
このことは、α−アミラーゼで澱粉を分解度、DE20まで分解して、小分子成分を分離除去すれば、効率良く分岐した成分のみを調製できることを示している。ちなみに、DE20の分解物の大分子の部分の分子量の平均は約20,000、小分子成分の分子量の平均は約1,000 であり大きな開きがある。本発明ではこの大分子の部分をさらにβ−アミラーゼあるいはα−アミラーゼとβ−アミラーゼの混合物によって分解し、平均分子量約10,000の分岐度の高い画分を得る。この分岐度は、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)(%) が10〜20%である。
【0012】
分子量による分画については幾つかの方法が知られている、分画しようとする物質の分子量に大きな開きの無い場合は、クロマトグラフィーによる分画が有効である。また2成分に大きな開きのある場合は、膜による濾過、溶媒による沈澱等があり、本発明においては、分画方法には特に制約されない。
【0013】
次に実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例により何等限定されるものではない。
【実施例1】
(1) コーンスターチ1kgを3lの精製水に分散し、塩化カルシウム400mg とα−アミラーゼ (ノボ社製 ターマミル(登録商標)120L) 1mlを加え、pH6.5 に調整した。連続液化装置によって105 ℃5分加熱後、100 ℃にて3時間反応させた。塩酸を加えpH3.5 に調整して 100℃に保持して、α−アミラーゼを失活させ反応を停止させた。この時の反応液のDEは23.3、糖組成は次のようであった。
ぶどう糖 1.6 %マルトース 9.3マルトトリオース 11.9マルトテトラオース 7.7マルトペンタオース 9.8デキストリン 59.7溶液は常法に従い、濾過、活性炭による脱色、イオン交換樹脂による脱塩を行なって精製液とした。精製液はビスキング透析膜により流水中で透析し、小分子成分を除去すると、大分子のデキストリンのみチューブの中に残存した。この大分子デキストリン (分岐デキストリン) のDEは 1.2、分子量は約20,000であった。この分岐デキストリンのぶどう糖の1・6結合/1・4結合を測定したところ1.7/19.1=0.089 (8.9%) であった。
【0014】
(2) 前記の方法で得られた反応液 (約40%分岐デキストリン含有) 10lを、塩酸でpH6.0 に調整し、β−アミラーゼ#1500(商品名;ナガセ生化学工業社製) 1gを添加し、60℃で30時間反応させた。
反応液をクロマトグラフィーによって処理して大分子量の画分を分離し、モノベット法で精製し、濃縮・乾燥して平均分子量約10,000の高分岐デキストリンを得た。この高分岐デキストリンのぶどう糖の1・6結合/1・4結合(グルコースの1・4結合に対する1・6結合の割合)は17/111=0.15 (15%) であった。
【0015】
(3) これらのデキストリン及び市販のアミロペクチン (ぶどう糖の1・6結合/1・4結合= 17/325 =0.045 (4.5%))の概念図を図1〜3に示した。
前記(2) で得られた本発明の高分岐デキストリン、前記(1) で得られた分岐デキストリン (参考例) 及び前記市販のワキシーコーン澱粉 (参考例) の酵素分解デキストリンの液体クロマトグラムを図4〜6に示す。高分岐デキストリンはほとんど単一のピークを示し、分岐デキストリンと同様に不純物の少ないものであった。
これらの各種デキストリンの粘度を図7に示す。図7は、各種デキストリンの一定濃度における粘度CPを30℃においてB型粘度計で測定したものであるが、高分岐デキストリンの粘度は、分岐デキストリンの粘度と酵素分解デキストリンの中間にあった。
【0016】
また、これらの各種デキストリンの分子量分布を図8に示した。
高分岐デキストリンの平均分子量は約10,000を、分岐デキストリンの平均分子量は約20,000をまたワキシ−コーン澱粉の酵素分解物の平均分子量は約4,500 を示した。
【0017】
【実施例2】
コーンスターチ1kgを3l の水に溶解し、蓚酸4gを添加した。この澱粉乳のpHは 2.1であった。連続液化装置によって、 130℃において15分間滞留する速度で澱粉乳を処理した。この液化液のDEは14.1であった液化液はpHを5.5 に調整し、マルトチーム(登録商標)(長瀬生化学製)(β−アミラーゼ製剤)0.1%を添加し65℃で40時間糖化した。糖化後の糖組成は下のようであった。
ぶどう糖 4.5 %マルトース 52.0マルトトリオース 13.5デキストリン 31.0糖化液を精製し、特許第1815698 号に準じて4塔式擬似移動床クロマト分離装置によりデキストリン部 250g を分離した。分離したデキストリンのDEは11.3であった。また、このデキストリンの平均分子量は約1,600 で、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合 0.15(15%)であった。
【0018】
次に本発明の高分岐デキストリンの生化学的な試験結果を示す。
【試験例1】 膵液アミラーゼによる分解度
膵液のα−アミラーゼ(α−amylase from porcine pancreas. (商品名) シグマ社製)200mg を50mMリン酸緩衝液(pH7.0) 4 mlに溶解し0.45μのフィルターで濾過した濾液を酵素として使用した。実際の使用に当たってはこの酵素液を10倍に希釈して使用した。
基質として実施例1(2) で得られた高分岐デキストリン (本発明品) 、実施例1(1) で得られた分岐デキストリン(参考例)、ワキシーコーン澱粉の酵素分解物 (市販品)(参考例) を使用した。これらの基質を50mMリン酸緩衝液(pH7.0) 5ml に 1%濃度になるように溶解し、前記10倍に希釈した酵素液 100μl を加え30℃で 0分、10分、1時間、2時間、4時間及び6時間反応を行ない、酵素処理液を100 ℃で5分加熱して失活させた。この0.2 mlを採取し、それぞれの試料の分解率をソモジー・ネルソン法により測定した。その結果を図9に示した。
【0019】
【試験例2】 腸管アセトンパウダーのアミラーゼの分解速度
腸管アセトンパウダーは、シグマ社製のものを使用した(商品名 Intestinal Aceton powder(Rat)) 。基質としては〔試験例1〕と同様の高分岐デキストリン、分岐デキストリン、ワキシーコーンスターチ酵素分解物を使用した。
これらの基質を50mMリン酸緩衝液 (pH7.0)で50mlになるように溶解し、腸管アセトンパウダー約50mgを加えて振盪しながら酵素反応を行ない、30℃で 0分、10分、1時間、2時間、4時間、6時間毎に反応液を5mlづつサンプリングし、100 ℃に 5分間加熱して失活させた。この反応液を0.45μのフィルターで濾過し、それぞれ0.2 mlを摂取してソモジーネルソン法により測定した。その結果を図10に示した。
【0020】
【試験例3】
試験例1及び2で得られた6時間反応液の試料について東洋ソーダ製分析用充填剤TSK-SCX-Na型の2本のカラムを用いて分子量分布を測定した。その結果を図11〜13及び14〜16に示した。
これらの結果(図9及び10)をみてみると、高分岐デキストリンは、他のデキストリンにくらべて膵液α−アミラーゼと腸管アセトンパウダーによって分解を受けにくいことが明らかである。従って、高分岐デキストリンを投与すると血中のグルコース濃度は急激に増加することはない。
なお、分岐デキストリンとワキシーコーンスターチの酵素分解物は、膵液のα−アミラーゼに対して明らかな差がみられたが、腸管のアセトンパウダーに対しては大きな差がみられなかった。特に反応初期ではほとんど分解速度は同じであった。
【0021】
また、図11〜13及び図14〜16から分かるように膵液アミラーゼを作用させてもあるいは腸管アセトンパウダーを作用させても高分岐デキストリンは、グルコースまでほとんど分解されない。
このことからみて、本発明の高分岐デキストリンは、これを飲食品、例えばカプセル剤、ドリンク剤あるいは経腸栄養剤の炭水化物の全部又は一部として投与すると澱粉、通常のデキストリン等を投与した場合にくらべて血糖値の上昇を抑制し、糖尿病患者あるいは糖尿病予備群の人々の栄養管理に有意義である。
【0022】
【発明の効果】
本発明によると、新規な高分岐デキストリン及びその製造方法を提供することができる。本発明の高分岐デキストリンはぶどう糖の1・4結合に対する1・6結合の割合が高いので分岐度が高く、体内で分解し難いので摂食後の血中の糖度を高めることを抑制することができる。
従って、この性質を利用して糖尿病患者またはその疾病に罹るおそれのある人々の炭水化物源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】アミロペクチン中のぶどう糖の1・6結合と1・4結合を模式的に示す。
【符号の説明】━ はぶどう糖1分子を示す。
【図2】分岐デキストリン(実施例1(1))中のぶどう糖の1・6結合と1・4結合を模式的に示す。
【符号の説明】━ はぶどう糖1分子を示す。
【図3】本発明の高分岐デキストリン(実施例1(2))中のぶどう糖の1・6結合と1・4結合を模式的に示す。
【符号の説明】━ はぶどう糖1分子を示す。
【図4】 本発明の高分岐デキストリン(実施例1(2))の液体クロマトグラフィーによる糖組成を示す。
【図5】参考例の高分岐デキストリン(実施例1(1))の液体クロマトグラフィーによる糖組成を示す。
【図6】参考例のワキシ−コーンデキストリンの液体クロマトグラフィーによる糖組成を示す。
【図7】各種デキストリンの粘度を示す。
【図8】高分岐デキストリン、分岐デキストリン、ワキシ−コーンデキストリンのクロマトグラフィーによる保持時間(Retention time) を示す。
【図9】試験例1の各種デキストリンの膵液α−アミラーゼによる分解率を示す。
【図10】試験例2の各種デキストリンの腸管アセトンパウダーによる分解率を示す。
【図11】 試験例1の高分岐デキストリンの膵液α−アミラーゼ処理分解物のクロマトグラムを示す。
【図12】試験例1の高分岐デキストリンの膵液α−アミラーゼ処理分解物のクロマトグラムを示す。
【図13】試験例1のワキシ−コーンデキストリンの膵液α−アミラーゼ処理分解物のクロマトグラムを示す。
【図14】試験例2の高分岐デキストリンの腸管のアセトンパウダー処理分解物のクロマトグラムを示す。
【図15】試験例2の分岐デキストリンの腸管のアセトンパウダー処理分解物のクロマトグラムを示す。
【図16】試験例2のワキシ−コーンデキストリンの腸管のアセトンパウダー処理分解物のクロマトグラムを示す。

Claims (2)

  1. 澱粉をα−アミラーゼ又は酸で分解した後、分解生成物中のぶどう糖が15個以下の低分子成分を除去することによって得られるぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合 ) 10 %未満の分岐の多いデキストリンを、さらにβ−アミラーゼ又はα−アミラーゼとβ−アミラーゼとの混合物で分解し、分解生成物中の分岐のマルトースおよびマルトトリオースを主成分とする画分を除去することによって得られる、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)が10%以上20%以下である高分岐デキストリン。
  2. 澱粉をα−アミラーゼ又は酸で分解した後、分解生成物中のぶどう糖が15個以下の低分子成分を除去することによって得られる、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合) が10%未満の分岐の多いデキストリンを、さらにβ−アミラーゼ又はα−アミラーゼとβ−アミラーゼとの混合物で分解し、分解生成物中の分岐のマルトースおよびマルトトリオースを主成分とする画分を除去することによって、ぶどう糖の1・6結合/1・4結合(1・4結合に対する1・6結合の割合)が10%以上20%以下である高分岐デキストリンを採取することを特徴とする高分子デキストリンの製造法。
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