JP2004242641A - 血糖値の上昇を抑制した飲食物およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを主たる糖質源とする飲食物。
α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の比率が10〜20%の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンは、澱粉をα−アミラーゼによる酵素液化した後、β−アミラーゼによる糖化を行い、生成する分解物よりブドウ糖や低分子オリゴ糖をカラムクロマトグラフィーによって分離除去して得られる。この澱粉由来のデキストリンを主なる糖質源とする飲食品は、血糖値の上昇を抑制し得る食品である。しかも大量に摂取しても安全で、食味の点でもさまざまな食品に利用可能であり、それ自体がゆっくりと消化される糖質を主なる糖質源とする、血糖値の上昇を抑制し得る食品となる。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血糖値の上昇し難い飲食物およびその製造方法に関する。詳しくは、主たる糖質源としてα−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを含む飲食物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
糖質は我々のエネルギー源として最も普遍的に利用されら栄養源であり、必須な物質であり、消化されると小腸からブドウ糖として吸収されて血糖値を上昇させるが、血糖値は膵臓で生産されるインスリンの作用で低下する。したがって、インスリンを多量に生産できる健常者では、糖質を摂取しても血糖値はさほど上昇しない。しかし、このインスリンが生産されなかったり、分泌量の少なかったり、すなわちインスリンが有効に作用しなくなったりした状態が糖尿病である。糖尿病には、遺伝的にインスリンの生産できないI型糖尿病と、肥満、運動不足などによるインスリン生産能力の退化、あるいは過食、糖分の取りすぎなどで連続的に多量のインスリンを生産していると、だんだんインスリンが利かなくなって来る、生活習慣に由来する、II型糖尿病があり、糖尿病患者の90%以上がII型糖尿病である。II型糖尿病は、生活習慣、特に、食生活を改善することで治療したり、発症を遅らせることができると考えられている。
【0003】
現在の食品工業で使用される、精製した澱粉や、デキストリン、水飴などは、ブドウ糖と同じように消化吸収が速く、急速な血糖値の上昇をきたす。一方、玄米食や穀粒をそのまま食べれば、もちろん消化が遅いので血糖値の上昇は低くなる。しかし、古代人のように食事に1時間以上かけて玄米や全穀粒を食べることは、現実的な解決策とは云えない。
糖質が必須の栄養素であるだけに、糖尿病患者、糖尿病予備軍と云われる人にとっては、糖質を含みながら、血糖値の上がりにくい食品の開発は極めて有用なことである。
【0004】
従来、糖質を食べても血糖値を上昇させない方法が幾つか知られている。例えば、
1.糖質を多量の不溶性食物繊維と一緒に摂取する方法は、胃から小腸への食物の移行速度を遅くすることにより、ゆっくり消化させる方法で最も安全な方法ではあるが、不溶性食物繊維は液状食品では沈殿を生じ、ざらついた食感があり、どのような食品にでも応用できる方法ではない。
2. 糖質を水溶性食物繊維と共に摂取する方法は、水溶性食物繊維が小腸管壁に固定した消化酵素と食物との接触を妨害し、消化を遅らせると考えられている。水溶性食物繊維の種類によって効果はさまざまで、少量の食物繊維で効果のあるものもあり、適切な使用量の選定が必要である。
また、水溶性食物繊維には多少とも緩下作用があるため、現代の加工食品にはさまざまな緩下作用のある難消化性オリゴ糖が使用されていることもあり、全体としての摂取量が過大にならないように、使用量には注意が必要である。
3、小腸の消化酵素を薬品で阻害することにより、消化を遅らせる方法もある。これは非常に効果的ではあるが、使用量を間違えれば全く消化できなくなるため、ほとんど医療用での利用に限られる。
このように、糖質食品の消化速度を遅らせる方法は種々存在しても、それぞれに欠点を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、上記のような現状に鑑み、薬剤や添加物を加えることなく血糖値の上昇を抑制し得る食品を開発することを課題として研究した。その結果、血糖値の上昇を抑制し得る食品であって、しかも食品として大量に摂取しても安全で、食味の点でもさまざまな食品に利用可能であり、それ自体がゆっくりと消化される糖質を主なる糖質源とする、血糖値の上昇を抑制し得る食品を提供する本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
澱粉を酵素や酸で加水分解して、デキストリンや水飴、ブドウ糖、糖液を生産する澱粉工業の従業者にとって水飴の中に酵素によって加水分解され難い成分が存在することは周知であったが、この加水分解され難い成分だけ取り出して、酵素により分解され難い性質を利用した製品が製造されることはなかった。本発明者等は、酵素により分解され難い成分は、酵素糖化水飴の中に約20%存在すること、この成分はもともと澱粉の成分の一部であるから、最終的に消化管内で消化されるものであることに着目し、本発明を完成した。
したがって、本発明は、α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを主たる糖質源とする飲食物、特に、α−1・6グルコシド結合のα−1・4グルコシド結合に対する比率が10〜20%の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを糖質源とし、消化管内でゆっくりと消化され、血糖値の上昇し難い飲食物およびその製造方法に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
澱粉はブドウ糖分子が直鎖状につながったアミロースと、樹脂状のアミロペクチンの混合物であり、この澱粉を酵素α−アミラーゼにより液化した後、β−アミラーゼによる糖化を行うと、ブドウ糖や低分子のオリゴ糖のほかに、多くの分岐を含んだデキストリンが生成される。この分岐はブドウ糖のα−1・4グルコシド結合の主鎖に、ブドウ糖がα−1・6グルコシド結合して分岐を形成している。
α−1・4グルコシド結合に対するα−1・6グルコシド結合の比率は、低分子化するにつれて多くなり、分岐の比率は大きくなる。α−1・6グルコシド結合の比率は、アミロペクチンでは約4%、分岐デキストリンで約8%である。本発明で用いる成分は高度に分岐したデキストリンであって、好ましくはα−1・6グルコシド結合の比率が10〜20%の高度に分岐したデキストリンである。
【0008】
また、酵素糖化の水飴の製造に使用されるα−アミラーゼとβ−アミラーゼの組み合わせだけでなく、α−アミラーゼ、α−グルコシダーゼにより加水分解され難い成分も、消化酵素により通常のデキストリンよりも加水分解され難い。
【0009】
本発明の飲食物の主たる糖質源として用いる成分は、α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の比率が大きい、特に10〜20%の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリン(以下、CESと記載する)は、澱粉を酵素液化した後、β−アミラーゼによる糖化を行い、生成する分解物よりブドウ糖や低分子オリゴ糖をカラムクロマトグラフィーによって分離除去してCES画分が得られる。このCESの製造工程において必要に応じて、糖化液の活性炭脱色、イオン交換精製、濃縮を行い、さらに、得られたCES画分の活性炭脱色、イオン交換精製、乾燥粉末化してCESを得る。
【0010】
得られたCESは、平均分子量が約2,000、30%水溶液の40℃における粘度が約10CP、甘味度は対砂糖の約10%である。
CESは、後記する試験例より明らかなように通常のデキストリンより消化酵素による分解が遅く、ゆっくり消化され血糖値の上昇が抑制される特性がある。さらに、粘度が低く高濃度での使用が可能なこと、僅かな甘味以外に味が無く自由に味付けができること、緩下作用を持たず大量に摂取しても下痢や腹部膨満感を覚えることがないこと、完全に精製されていて緩衝作用をもたないこと、酸、熱に対して安定で食品化工条件では変質しないこと、などの特性をもっている。
これらの特性は、食品を設計する上で最も重要な特性で自由な食品の設計を助けるものであり、種々の食品に利用可能である。例えば、CESを主なる糖質源とする食品として、プリン、ゼリー、スープ、しる粉、ヨーグルトなどの製造に好ましく用いることができる。特に卵や牛乳などと糖質とを配合して製造されるミルクゼリー、カスタードプリンなどが特に好ましい例として例示することができる。
【0011】
また、CESを主なる糖質として食品を設計する場合は、その食品100gあたり50kcal以上摂取できるように設計するのが望ましい。
【0012】
消化性のよい糖質を摂取する機会が多く、膵臓が多量のインスリン生産を強いられて、糖尿病やその予備軍を生み出しやすい現状の食生活において、主なる糖質としてCESを含む食品は、血糖値の上がり過ぎを抑制することができ、糖尿病患者やその予備軍のみならず、健常者にとっても好ましい食品となる。
以下、実施例、試験例を挙げて本発明をさらに説明する。以下の実施例は本発明を説明するためのものであって本発明をこれらに限定するものではない。
【0013】
【試験例1】
分岐度15%のCES、分岐度3%の通常のデキストリン、分岐度8%の分岐デキストリンの消化酵素よる分解速度を測定した。分岐デキストリンは澱粉をα−アミラーゼでDE25まで分解後、デキストリンを分離したものを用いた。
測定方法
試料1gに内部標準としてエリスリトール1g、およびM/100燐酸緩衝液20mlを加え、pH6.0に調整する。
ねじ口沈殿管に試料の全量を移し、パンクレアスα−アミラーゼ3mgは水で100倍に希釈し、ラット小腸アセトンパウダー100mgは粉末でそのまま添加する。
38℃において、旋回攪拌装置上で、ゆっくりと旋回攪拌しながら反応させる。反応開始後、0分、30分、60分、120分、180分に2mlずつサンプルを採取し、塩酸で反応を停止して、液体クロマトグラフィーまたはソモギ−ネルソン法で経時的に生成還元糖を測定する。
結果を図1に示した。CESは他の2つのデキストリンに比べて分解速度が著しく遅いことが証された。
【0014】
【実施例1】
ミルクゼリーの調製
下記表1に示す割合で材料を配合してミルクゼリーを次の手順で調製した。
まず、寒天とCESおよび人工甘味料をよく混ぜ合わせておき、鍋にマルチソルブ70/70(参松工業社製糖アルコール(1g/2.2kcal)固形分70%)、水、牛乳を入れて、次いで、予め寒天とCESをよく混ぜ合わせた混合物を掻き混ぜながら少しずつ入れ、これを掻き混ぜながら火にかけて沸騰させ、火を止めて、容器100gずつに流し込み冷やしてミルクゼリーを調製した。なお、このミルクゼリーは101kcal/100gに調整し、CESから70%のカロリーを摂取できるように設計されている。
なお、CESは試験例1で使用した分岐度15%のCESを用いた。
【0015】
【表1】
【0016】
【試験例2】
実施例1で調製したミルクゼリー100gを被験者に食してもらい血糖値の上昇を調べた。被験者には、朝食はできるだけ軽い食事とし、試験前の血糖値が120mg/100ml以上の場合は測定を延期または中止し、同じ試験を3回行った。
無作為に選定した7名の被験者は午前10時〜10時30分に実施例1で調製したミルクゼリーを摂取し、15分おきに血糖値を測定した。被験者7名の平均値を図2に示した。また、対照として、同じ被験者にCESに代えて通常のデキストリン(試験例1で使用した分岐度3%のデキストリン)を糖質とするミルクゼリーを摂取した場合についても血糖値の変化を測定した。あわせて図2に示した。
なお、血糖値の測定は血中ブドウ糖測定キット、アドバンテージII(ロッシュ社製)を用いた。
図1に示されるように、本発明ミルクゼリーを摂取したあとの血糖値の上昇は、対照の通常のデキストリンゼリーを摂取した場合に比べ、有意に抑制されていた。
【0017】
【実施例2】
カスタードプリンの調製
下記表2に示す割合で材料を配合して、カスタードプリンを次の手順で調製した。
鍋にマルチソルブ70/70(参松工業社製糖アルコール(1g/2.2kcal)固形分70%)、牛乳を入れて、掻き混ぜながらCES(実験例1で使用した分岐度3%のCES)および人工甘味料を少しずつ入れ、掻き混ぜながら火にかけて沸騰直前まで暖める。これに予めよくときほぐした全卵と卵黄を少しずついれて掻き混ぜて濾した。これを容器に入れて、150℃で40分焼いてカスタードプリンを調製した。なお、このカスタードプリンは170kcal/100gに調整し、CESから50%のカロリーを摂取できるように設計されている。
【0018】
【表2】
【0019】
【試験例3】
実施例2で調製したカスタードプリン100gを被験者に摂取してもらい、試験例2と同様に、血糖値の上昇を調べた。結果を図3に示した。また、対照としてCESに代えて通常のデキストリン(試験例1で使用した分岐度3%のデキストリン)を糖質とするプリンを摂取した場合についても血糖値の変化を測定した。結果をあわせて図3に示した。
図3に示されるように、本発明カスタードプリンを摂取したあとの血糖値の上昇は、対照カスタードプリンを摂取した場合に比べ、有意に抑制されていた。
CESの使用量は、摂取したプリン100g中20g、80kcalと、試験例2のミルクゼリーより多いにかかわらず、きわめて低い血糖値を示している。これは食品の形態によって吸収速度に大きな差があることを示している。
これら試験例から、CESでは通常のデキストリンよりさらに低い血糖値の上昇を抑制しながら、多くの糖質を摂取できることを示している。
【0020】
【発明の効果】
CESは天然由来の糖質でありながら、その消化吸収速度は遅く、血糖値の上昇は抑えられ、食品として大量に摂取しても安全である。さらにCESの有する食品素材としての食品を設計する上での特性から、種々の食品に利用できる。CESを主なる糖質とする食品によって、薬剤や添加物を使用することなく、糖質の摂取が可能となり、糖尿病患者や予備軍のみならず健常者にとっても健康管理上きわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】分岐度の異なるデキストリンの消化酵素による分解速度を示すグラフ(通常デキストリン;分岐度3%、分岐デキストリン;分岐度8%、CES;分岐度15%)。
【図2】本発明ミルクゼリー摂取時の血糖値の変化を示すグラフ。
【図3】本発明カスタードプリン摂取時の血糖値を示すグラフ。
Claims (5)
- α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを主たる糖質源とする飲食物。
- 請求項1に記載のデキストリンが、α−1・6グルコシド結合のα−1・4グルコシド結合に対する比率が10〜20%である請求項1に記載の飲食物。
- α−1・4グリコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンが、消化管内でゆっくりと消化し、血糖値の上昇し難いデキストリンである請求項1または2に記載の飲食物。
- 飲食物が、ミルクゼリーまたはカスタードプリンである請求項1ないし3のいずれかに記載の飲食物。
- α−1・4グルコシド結合の主鎖に、α−1・6グルコシド結合の高度に分岐した構造を持つ澱粉由来のデキストリンを主たる糖質源とする飲食物の製造方法。
Priority Applications (1)
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JP2003038755A JP2004242641A (ja) | 2003-02-17 | 2003-02-17 | 血糖値の上昇を抑制した飲食物およびその製造方法 |
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JP2003038755A JP2004242641A (ja) | 2003-02-17 | 2003-02-17 | 血糖値の上昇を抑制した飲食物およびその製造方法 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006160849A (ja) * | 2004-12-06 | 2006-06-22 | Sasaki Shoji Kk | 効率の改善された分枝デキストリンの製造法 |
-
2003
- 2003-02-17 JP JP2003038755A patent/JP2004242641A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2006160849A (ja) * | 2004-12-06 | 2006-06-22 | Sasaki Shoji Kk | 効率の改善された分枝デキストリンの製造法 |
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