JP3952650B2 - 車両の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変速機の変速時に車両の駆動力が低下することを、電動機のトルクにより抑制することのできる車両の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、駆動力源から変速機に至るトルクの伝達経路に、自動的に係合・解放されるクラッチが設けられている同期噛み合い式の変速機がある。このような変速機には、運転者の手動操作により変速をおこなうとともに、この変速に連動してクラッチの係合・解放を自動的におこなうセミオート式と、自動的変速をおこない、かつ、変速に連動してクラッチの係合・解放を自動的におこなうフルオート式とがある。前記セミオート式の場合には、運転者が自分の意志で変速操作をおこなうために、変速時にクラッチが解放されて駆動力が低下したとしても、違和感にはならない。これに対して、フルオート式の場合は、運転者の意志とは無関係に変速がおこなわれるため、変速時にクラッチが解放されることにともなう駆動力の低下により、運転者が違和感をもつ可能性がある。
【0003】
このように、運転者が違和感をもつことを抑制することのできる自動車用変速機の一例が、特開平11−141665号公報に記載されている。この公報に記載された変速機は入力軸と出力軸とを有しており、この入力軸および出力軸ならびにその近傍には、前進段の第1速ないし第5速と、後進段とを設定するための各種のギヤが設けられている。また、各種の歯車と入力軸および出力軸との間におけるトルクの伝達経路を接続・遮断するために、複数の同期噛み合い機構が設けられている。さらに、出力軸に対してトルク伝達可能に接続された電動機が設けられている。また、エンジンのクランク軸と変速機の入力軸との間にはクラッチが設けられている。さらにまた、エンジン、同期噛み合い機構、クラッチ、電動機などを制御するコントローラが設けられており、コントローラに対して、シフトポジションセンサの信号、アクセル開度センサの信号、車速センサの信号などが入力されるように構成されている。
【0004】
上記公報に記載された自動車用変速機においては、エンジントルクが車輪に伝達されて車両が走行している際に、アクセル開度および車速などの情報に基づいて、コントローラから変速信号が出力される。すると、エンジンと変速機との間に設けられているクラッチが解放されるとともに、電動機が駆動されてそのトルクが出力軸に伝達される。また、クラッチが解放されることにともない、同期噛み合い機構が動作して変速がおこなわれる。その後、クラッチが係合されるとともに電動機が停止され、エンジントルクが車輪に伝達される状態に復帰する。このように、上記公報に記載された自動車用変速機においては、変速時にクラッチが解放されてエンジントルクが車輪に伝達されなくなる間、電動機のトルクを車輪に伝達することにより駆動力の低下が抑制され、変速にともなう運転者の違和感を回避している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報に記載された自動車用変速機においては、バッテリ(蓄電装置)の電力により電動機を駆動しているため、バッテリの充電量が低下した場合は、変速時に電動機から車輪に対して伝達するべきトルクを確保することができなくなる現象、いわゆるトルク抜けが生じて駆動力の低下を招き、運転者が違和感をもつ可能性があった。
【0006】
この発明は、上記の事情を背景としてなされたものであり、車輪にトルクを伝達する電動機に供給する電力の低下を抑制することのできる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するため請求項1の発明は、駆動力源から変速機に至るトルクの伝達経路にクラッチが設けられており、前記変速機の変速にともない前記クラッチを解放し、かつ、車輪に伝達するトルクを電動機によってアシストする車両の制御装置において、前記電動機用の蓄電装置の充電状態に基づいて、前記変速機の変速時に前記電動機から前記車輪に対して所定トルクを出力することが可能であるか否かを判断する充電状態判断手段と、前記充電状態判断手段により、前記変速機の変速時に前記電動機から前記車輪に対して所定トルクを出力することが不可能であると判断された場合に、前記変速機の変速中に、前記駆動力源により発電機を駆動させて電力を発生させ、この電力を前記電動機に供給する電力供給手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項1の発明によれば、変速機の変速時に車輪に伝達するべき所定トルクを、電動機から出力することが不可能である場合は、変速機の変速中に、駆動力源により発電機を駆動させて電力を発生させ、この電力が電動機に供給される。したがって、変速時にクラッチが解放されても、車輪に伝達するべきトルクの低下が抑制される。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記発電機は、車両に搭載されている補機装置を駆動する補機駆動用電動機としての機能を備えており、前記電力供給手段は、前記発電機を駆動させて電力を発生させる際に、前記発電機により前記補機装置を駆動することを禁止する機能を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の作用が生じるほかに、発電機を駆動させて電力を発生させる際には、発電機により補機装置を駆動することが禁止される。したがって、電動機に供給される電力の発電効率が向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を図面に基づいて説明する。図2は、この発明を適用した四輪駆動車の概略構成を示す平面図、図3は、図2に示す四輪駆動車の前輪に対応するパワープラントおよびその制御系統を示すブロック図、図4は、図3に示されたパワープラントの具体的な構成を示すスケルトン図である。車両の前部にはエンジン1が搭載されており、このエンジン1としては、内燃機関、例えば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンを用いることができる。
【0016】
以下の説明においては、エンジン1としてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。このエンジン1は、吸気・排気装置(図示せず)、燃料噴射装置(図示せず)、点火装置(図示せず)、冷却装置(図示せず)などを備えた公知の構造のものである。エンジン1の吸気管には電子スロットルバルブ(図示せず)が設けられているとともに、この電子スロットルバルブの開度を制御する電子スロットルアクチュエータ2が設けられている。
【0017】
また、エンジン1のクランクシャフト3は車両の幅方向に沿って配置されており、クランクシャフト3には、クラッチ4を介してモータ・ジェネレータ(MG)5がトルク伝達可能に接続されている。このモータ・ジェネレータ5は、発電機としての機能と、補機駆動用電動機としての機能とを備えている。また、このモータ・ジェネレータ5には、クラッチ6を介して補機装置7がトルク伝達可能に接続されている。この補機装置7としては、例えば、エアコン用コンプレッサ、デフォッガ、冷却ファンなどが挙げられる。さらに、モータ・ジェネレータ5は、インバータ(図示せず)を介してバッテリ8に電気的に接続されている。バッテリ8は、電槽と極板と電解液とを有する公知のものである。
【0018】
前記エンジン1の出力側には、変速機9が設けられている。この変速機9は相互に平行に配置され、かつ、車両の幅方向に配置された入力軸10および出力軸11とを備えている。この入力軸10には、第1速用入力ギヤ12と第2速用入力ギヤ13と第5速用入力ギヤ14と後進段用入力ギヤ15とが、入力軸10と一体回転するように形成されている。入力軸10には、この入力軸10と相対回転可能な中空軸16,17が取り付けられている。中空軸16には第3速用入力ギヤ18およびギヤ19が形成され、中空軸17には第4速用入力ギヤ20およびギヤ21が形成されている。また、入力軸10における中空軸16と中空軸17との間には、入力軸10と一体回転し、かつ、入力軸10の軸線方向に移動可能なスリーブ22が取り付けられている。このスリーブ22の内周にはギヤ(図示せず)が形成されている。なお、入力軸10の外周には、スリーブ22のギヤとギヤ19,21との噛み合いを円滑におこなうために、同期噛み合い機構(図示せず)が設けられている。
【0019】
前記出力軸11には、第3速用出力ギヤ23と第4速用出力ギヤ24とが、出力軸11と一体回転するように形成されている。また出力軸11には、この出力軸11と相対回転可能な中空軸25,26,27,28が取り付けられている。中空軸25には第1速用出力ギヤ29およびギヤ30が形成され、中空軸26には第2速用出力ギヤ31およびギヤ32が形成されている。
【0020】
また、出力軸11における中空軸25と中空軸26との間には、出力軸11と一体回転し、かつ、出力軸11の軸線方向に移動可能なスリーブ33が取り付けられている。このスリーブ33の内周にはギヤ(図示せず)が形成されている。さらに、第1速用出力ギヤ29と第1速用入力ギヤ12とが噛合され、第2速用出力ギヤ31と第2速用入力ギヤ13とが噛合されている。また、第3速用出力ギヤ23と第3速用入力ギヤ18とが噛合され、第4速用出力ギヤ24と第4速用入力ギヤ20とが噛合されている。
【0021】
さらにまた、出力軸11における中空軸27と中空軸28との間には、出力軸11と一体回転し、かつ、出力軸11の軸線方向に移動可能なスリーブ34が取り付けられている。このスリーブ34の内周にはギヤ(図示せず)が形成されている。前記中空軸27には第3速用出力ギヤ35およびギヤ36が形成され、中空軸28には後進段用出力ギヤ37およびギヤ38が形成されている。そして、第5速用出力ギヤ35と第5速用入力ギヤ14とが噛合され、後進段用出力ギヤ37および後進段用入力ギヤ15とアイドラギヤ39とが噛合されている。なお、各スリーブ22,33,34の動作を別個に制御する変速用アクチュエータ40が設けられている。
【0022】
上記のように構成された変速機9においては、スリーブ33が出力軸11の軸線方向に移動して、スリーブ33のギヤとギヤ30とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、第1速用入力ギヤ12および第1速用出力ギヤ29によりトルク伝達可能に連結され、第1速が設定される。また、スリーブ33が出力軸11の軸線方向に移動して、スリーブ33のギヤとギヤ32とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、第2速用入力ギヤ13および第2速用出力ギヤ31によりトルク伝達可能に連結され、第2速が設定される。
【0023】
さらに、スリーブ22が入力軸10の軸線方向に移動して、スリーブ22のギヤとギヤ19とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、第3速用入力ギヤ18および第3速用出力ギヤ23によりトルク伝達可能に連結され、第3速が設定される。さらにまた、スリーブ22が入力軸10の軸線方向に移動して、スリーブ22のギヤとギヤ21とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、第4速用入力ギヤ20および第4速用出力ギヤ24によりトルク伝達可能に連結され、第4速が設定される。
【0024】
また、スリーブ34が出力軸11の軸線方向に移動して、スリーブ34のギヤとギヤ36とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、第5速用入力ギヤ14および第5速用出力ギヤ35によりトルク伝達可能に連結され、第5速が設定される。さらに、スリーブ34が出力軸11の軸線方向に移動して、スリーブ34のギヤとギヤ38とが噛合することにより、入力軸10と出力軸11とが、後進段用入力ギヤ15およびアイドラギヤ39ならびに後進段用出力ギヤ37によりトルク伝達可能に連結され、後進段が設定される。
【0025】
ところで、前記クランクシャフト3と入力軸10とは同心状に配置されており、そのトルク伝達経路にクラッチ41が設けられている。また、このクラッチ41の係合・解放を制御するクラッチアクチュエータ41Aが設けられている。さらに、出力軸11の出力側には、フロントデファレンシャル42およびフロントドライブシャフト43を介して左右の前輪44がトルク伝達可能に接続されている。
【0026】
さらに、変速機9に隣接してモータ・ジェネレータ(MG)45が設けられている。このモータ・ジェネレータ45は、発電機としての機能と電動機としての機能とを備えている。このモータ・ジェネレータ45の出力ギヤ46と第4速用入力ギヤ20とが噛合されている。このモータ・ジェネレータ45は、インバータ(図示せず)を介して前記バッテリ8に電気的に接続されているとともに、モータ・ジェネレータ45は前記モータ・ジェネレータ5に対して電気的に接続されている。さらにまた、モータ・ジェネレータ5により発電した電力を、モータ・ジェネレータ45に直接供給すること、またはモータ・ジェネレータ5の駆動により発生した電力をバッテリ8に充電することのいずれかを選択することのできるスイッチ(図示せず)が設けられている。
【0027】
さらに、車両の室内側には、運転者により操作されるシフトレバー47が設けられている。図5は、シフトレバー47の操作により選択されるシフトポジションの一例を平面的に示す概念図である。すなわち、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、4ポジション、3ポジション、2ポジション、Lポジションの各シフトポジションを、ここに示す順序で相互に切り換えることができる。
【0028】
上記Dポジションが選択されている場合は、変速機9の変速比を、前進段の第1速ないし第5速のいずれかに自動的に制御することができる。4ポジションでは、前進段の第1速ないし第4速のいずれかを自動的に設定することができる。3ポジションでは、前進段の第1速ないし第3速のいずれかを自動的に設定することができる。2ポジションでは、前進段の第1速または第2速を自動的に設定することができる。Lポジションでは前進段の第1速に固定される。
【0029】
一方、車両の後部にはモータ・ジェネレータ48が搭載されている。このモータ・ジェネレータ48は、発電機および電動機(駆動力源)として機能させることができる。このモータ・ジェネレータ48には、インバータ(図示せず)を介してバッテリ49が電気的に接続されている。このモータ・ジェネレータ48には、リヤデファレンシャル50およびリヤドライブシャフト51を介して左右の後輪52がトルク伝達可能に接続されている。さらに、前輪44および後輪52にはそれぞれホイールシリンダなどのブレーキ装置53が設けられている。
【0030】
そして、車両全体を制御するコントローラとしての電子制御装置(ECU)54が設けられている。この電子制御装置54は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。図6には、電子制御装置54に入力される信号と、電子制御装置54から出力される信号とが示されている。
【0031】
この電子制御装置54に対しては、ABS(アンチロックブレーキシステム)コンピュータの信号、四輪駆動状態と二輪駆動状態とを切り換える4WDマニュアルスイッチの信号、エンジン回転数を示す信号、エンジン水温を示す信号、イグニッションスイッチの信号、バッテリ8,49の充電量(SOC;State of charge)を示す信号、ヘッドライトのオン・オフ信号、デフォッガのオン・オフ信号、エアコンのオン・オフ信号、車速信号(出力軸回転数センサ55の信号)、クラッチ油温の信号、シフトレバー47の操作を検出するシフトポジションセンサ56の信号、サイドブレーキのオン・オフ信号、フットブレーキ57の操作を検出するフットブレーキセンサ58の信号、触媒(排気浄化触媒)温度、アクセルペダル59の操作を検出するアクセル開度センサ60の信号、カム角センサの信号、変速機9により設定されている変速段を示す信号、車両加速度センサの信号などが入力される。
【0032】
また、電子制御装置54からの出力信号の例を挙げると、点火装置に対する制御信号、燃料噴射装置に対する制御信号、クラッチ4,41の係合・解放を制御するクラッチコントロールソレノイド(つまりクラッチアクチュエータ41A)に対する信号、モータ・ジェネレータ5,45,48を制御する信号、電子スロットルバルブを制御する電子スロットルアクチュエータ2に対する信号、変速アクチュエータ40を制御する信号、ABSアクチュエータを制御する信号、クラッチ6および補機装置7を制御する信号などである。
【0033】
ここで、この実施形態の構成とこの発明の構成との対応関係を説明する。エンジン1がこの発明の駆動力源に相当し、クラッチ41がこの発明のクラッチに相当し、モータ・ジェネレータ45,48がこの発明の電動機に相当し、モータ・ジェネレータ5がこの発明の発電機に相当し、前輪44および後輪52がこの発明の車輪に相当し、バッテリ8がこの発明の蓄電装置に相当する。
【0034】
つぎに、上記構成を有する四輪駆動車の制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。なお、ここでは、4WDマニュアルスイッチにより二輪駆動状態が選択されている場合を例として説明する。イグニッションスイッチの操作によりシステムが起動されると、電子制御装置54において、入力信号の処理がおこなわれるとともに(ステップS1)、運転者の始動操作に基づいてクラッチ4が係合され、かつ、バッテリ8の電力によりモータ・ジェネレータ5が駆動される。すると、モータ・ジェネレータ5の動力がクランクシャフト3に伝達されてエンジン1が始動する。そして、運転者の操作によりシフトレバー47がNポジションからDポジションに切り換えられると、このシフトレバー47の操作がシフトポジションセンサ56により検出され、つぎのようにして車両の発進制御がおこなわれる。
【0035】
まず、クラッチ41が解放されるとともに、スリーブ33が出力軸11の軸線方向に移動して、第1速用出力ギヤ29と出力軸11とが連結され、第1速が設定される。ついで、アクセルペダル59が踏み込まれると電子スロットルバルブの開度が増加してエンジン回転数が上昇するとともに、クラッチ41が徐々に係合される。つまり、エンジン1のトルクが前輪44に伝達されて駆動力が発生する。
【0036】
一方、電子制御装置54には、変速機9の変速比を制御するために変速マップが記憶されており、その変速マップの一例と駆動力源制御マップの一例とが図7に総括して示されている。図7の変速マップは、シフトレバー47の操作によりDポジションが選択されている場合において、変速機9により設定することのできる第1速ないし第5速の各領域を示している。この変速マップによれば、アクセル開度および車速を基準として、破線で示すアップシフト点により、第1速ないし第5速の各領域が区画されている。そして、車速およびアクセル開度が、第1速に対応する領域から第2速に対応する領域に変化すると、変速機9の変速段を第1速から第2速にアップシフトするための変速信号が電子制御装置54から出力される。ここで、変速動作は、アクセルペダル59が踏み込まれた状態のままおこなわれる。なお、駆動力源制御マップについては後述する。
【0037】
電子制御装置54から変速信号が出力されると、クラッチ41が解放されるとともに、電子スロットルアクチュエータ2の動作により電子スロットルバルブが閉じられてエンジン回転数が低下する。これと同時に、モータ・ジェネレータ45が駆動され、そのトルクが第4速用入力ギヤ20および第4速用出力ギヤ24を介して出力軸11に伝達される。ここで、モータ・ジェネレータ45から出力するべきトルクは、アクセル開度に基づいて算出され、その算出結果に対応するトルクがモータ・ジェネレータ45から出力されるように、その電流値が制御される。具体的には、アクセルペダル59の踏み込み量が大きいほど、大きな電流値となるように制御される。このため、変速中にモータ・ジェネレータ45の駆動により発生する車両の加速力は、運転者の意志に適合したものとなる。したがって、変速中に運転者がアクセルペダル59の踏み込み量を変更した場合は、モータ・ジェネレータ45のトルクもそれに応じて変更される。
【0038】
このように、変速時にはクラッチ41が解放されて、エンジントルクが入力軸10に伝達されない状態になるが、モータ・ジェネレータ45のトルクが、出力軸11およびフロントデファレンシャル42を経由して前輪44に伝達される(つまりトルクのアシストがおこなわれる)ため、変速中も前輪44による駆動力が生じることになる。
【0039】
ところで、クラッチ41の解放に並行して、変速アクチュエータ40の動作によりスリーブ33が出力軸11の軸線方向に移動し、出力軸11と第2速用出力ギヤ31とがトルク伝達可能に連結される。その後、クラッチ41が係合されるとともに、エンジン1の電子スロットルバルブが、アクセル開度に応じた開度に制御され、エンジン1のトルクが変速機9に伝達される。これと同時にモータ・ジェネレータ45の駆動が停止され、エンジン1による車両の駆動状態に移行する。
【0040】
以上の説明は、第1速から第2速へのアップシフトにともなう制御の説明であるが、第2速ないし第5速における相互のアップシフトについても同様の制御がおこなわれる。このように、車両の駆動力の中断をともなうことなく、変速機9の変速制御をおこなうことができる。したがって、加速中のアップシフト時において、前輪44に伝達されるトルクが低下する、いわゆるトルク抜けが防止され、運転者が違和感をもつことを抑制することができる。
【0041】
なお、後進段を設定する場合は、スリーブ34を出力軸11の軸線方向に移動することにより、入力軸10のトルクが、後進段用入力ギヤ15およびアイドラギヤ39ならびに後進段用出力ギヤ37を介して出力軸11に伝達することのできる状態に制御される他は、前述の第1速により車両を発進させる場合と同様の制御がおこなわれる。
【0042】
このように、図2ないし図4に示す変速機9は、変速マップに基づいて変速判断がおこなわれるとともに、変速にともなうスリーブ22,33,34の動作、およびクラッチ41の係合・解放が自動的におこなわれる、いわゆるフルオート式の自動変速機である。なお、エンジン1の運転中においては、補機装置7の駆動要求に基づいて、クラッチ6を係合させてエンジントルクを補機装置7に伝達し、補機装置7を駆動することができる。
【0043】
ところで、電子制御装置54においては、前記ステップS1についで、バッテリ8のSOCが所定値Lo%以下であるか否かが判断される(ステップS2)。前述のように、変速時には、入力軸10とエンジン1との間のトルク伝達経路を遮断するとともに、モータ・ジェネレータ45のトルクにより駆動力の低下を補う制御がおこなわれている。この所定値Lo%は、現在設定されている変速段から所定の変速段にアップシフトする際に、駆動力の低下を補うために必要な所定トルクをモータ・ジェネレータ45から出力するための電力量、すなわち、必要最低限の電力量に相当する。このため、バッテリ8のSOCが所定値Lo%以下になることは好ましくないが、連続的な変速などが生じた場合には、バッテリ8の電力が低下してこのような状態になる可能性もある。なお、所定の変速段からから所定の変速段にアップシフトする場合に必要な電力量である所定値Lo%は、各変速段ごとに電子制御装置54に記憶されている。
【0044】
ステップS2で肯定的に判断された場合は、図7に示す変速マップに基づいて、変速がおこなわれるか否かを判断する(ステップS3)。このステップS3で肯定的に判断された場合は、上記のように変速を実行するとともに、クラッチ4を係合してエンジントルクによりモータ・ジェネレータ5を発電状態とし、その電力を直接モータ・ジェネレータ45に供給してモータ・ジェネレータ45を駆動する(ステップS4)。
【0045】
ここで、前述のように、変速時にはクラッチ41が解放されているため、エンジントルクがモータ・ジェネレータ5の駆動に供されても、車両の駆動力に悪影響がおよぶことはない。これに対して、クラッチ41が係合され、かつ、車両の加速中にエンジントルクの一部がモータ・ジェネレータ5に伝達された場合は、加速性能が低下するため、エンジントルクによりモータ・ジェネレータ5を発電機として駆動させる制御はおこなわない。なお、ステップS4においては、モータ・ジェネレータ5の発電により得られた電力を、直接モータ・ジェネレータ45に供給することなく、バッテリ8を経由してモータ・ジェネレータ45に供給することもできる。
【0046】
また、上記のように、モータ・ジェネレータ5により発電する場合は、クラッチ6を解放してモータ・ジェネレータ5により補機装置7を駆動することを一時的に禁止し(ステップS5)、リターンする。この禁止には、駆動している補機装置7の駆動を中止する制御と、駆動していない駆動装置7を駆動させる信号が生じた場合でも、その駆動を禁止する制御とが例示される。このように、モータ・ジェネレータ5を発電機としてのみ機能させることにより、その発電効率を向上させることができる。なお、ステップS5で駆動が禁止される補機装置7としては、一時的にその機能が停止しても問題のないエアコン、デフォッガ、冷却ファンなどが例示される。これに対して、ステップS5で駆動が禁止される補機装置7には、ヘッドライトやステレオなどは含まれない。
【0047】
ところで、ステップS3で否定的に判断された場合は、車両が被駆動状態(言い換えれば惰力走行状態)または停止状態にあるか否かが判断される(ステップS6)。このステップS6は、変速がおこなわれる以前にバッテリ8に充電する際に、エンジントルクをモータ・ジェネレータ5に伝達しても支障がない状態、要はエンジントルクにより車両が駆動される状態にないことを判断するためのものである。そして、ステップS6で肯定的に判断された場合は、エンジントルクによりモータ・ジェネレータ5が発電をおこない、その電力をバッテリ8に充電して(ステップS7)、リターンされる。この場合、エンジン1の出力を、モータ・ジェネレータ5を、非発電状態から発電状態に切り換える分に対応して増加させる必要があるため、電子スロットルバルブの開度を増加させ、エンジントルクを上昇させる。これに対して、ステップS6で否定的に判断された場合は、例えば車両の加速中などにおいて、エンジントルクの一部がモータ・ジェネレータ5の発電に供されて加速性能が低下する可能性があるため、そのままリターンされる。
【0048】
前記ステップS2で否定的に判断された場合は、図7の変速マップに基づいて変速がおこなわれるか否かが判断される(ステップS8)。このステップS8で肯定的に判断された場合は、変速と同時にバッテリ8の電力によりモータ・ジェネレータ45を駆動し、そのトルクを前輪44に伝達して駆動力の低下を抑制する。
【0049】
ここで、図1のフローチャートに示された機能的手段とこの発明の構成との対応関係を説明する。すなわち、ステップS2がこの発明の充電状態判断手段に相当し、ステップS3ないしステップS5がこの発明の電力供給手段に相当する。
【0050】
以上のように、図1の制御例によれば、変速機9の変速に備えて、具体的には、変速中、または変速中以外の状態において、モータ・ジェネレータ45に供給される電力が増加される。このため、変速時にモータ・ジェネレータ45から車輪44に伝達するべきトルクの低下、いわゆるトルク抜けが抑制される。したがって、変速にともなう駆動力の低下を回避することができ、運転者が違和感をもつことを防止することができる。
【0051】
また、モータ・ジェネレータ5により発電する際には、モータ・ジェネレータ5により補機装置7を駆動することが禁止される。したがって、モータ・ジェネレータ5の発電効率が高められ、変速に備えてモータ・ジェネレータ45の出力トルクを確保する機能が一層向上する。
【0052】
ところで、この実施形態において、変速中にモータ・ジェネレータ45を制御する電流値は、アクセルペダル59の踏み込み量に応じて制御するほか、変速の種類によって電流値を異ならせることもできる。すなわち、一般に第1速から第2速に変速する場合よりも、第2速から第3速に変速する場合の方が車両の加速力が低下する。このため、変速中におけるモータ・ジェネレータ45の出力トルクも、第1速から第2速に変速する場合よりも、第2速から第3速に変速する場合の方が低くてよいことになる。したがって、モータ・ジェネレータ45を制御する電流値は、アクセルペダル59の踏み込み量、変速前および変速後の変速段、車速などの情報に基づいて、変速直前の車両加速度をできるだけ維持することができるようなモータ・ジェネレータ45のトルクとなるように設定される。
【0053】
また、シフトレバー47がLポジションに操作され、かつ、アクセル開度が零になった場合は、例えば第4速から第3速に自動変速するなどのことにより、エンジンブレーキ力を強める制御がおこなわれる。このような制御と同時に、前輪44から入力される動力を、出力軸11を経由してモータ・ジェネレータ45に伝達することにより、モータ・ジェネレータ45を発電機として機能させることで、制動力を向上させるとともに、モータ・ジェネレータ45の発電により得られた電気エネルギをバッテリ8に充電することができる。つまり、従来は車輪から入力される動力を熱エネルギに変換して捨てていたが、この実施形態においては、車輪から入力される動力の一部を、電気エネルギに変換してバッテリ8に充電する、いわゆるエネルギの回生がおこなわれる。なお、モータ・ジェネレータ45を発電機として機能させる制御は、シフトレバー47の操作とは別に、ブレーキセンサ58の信号によりフットブレーキペダル57が踏み込まれていることが検出されている場合に、自動的におこなうこともできる。
【0054】
ところで、図2ないし図4に示された四輪駆動車においては、モータ・ジェネレータ45を、車両の発進時の駆動力源として用いたり、加速時の駆動力補助として用いることもできる。具体的には、図7に示す駆動力源制御マップにおいて、車両の発進時、例えばアクセル開度および車速が“MG”で示す領域にある場合は、モータ・ジェネレータ45のみを駆動させ、アクセル開度および車速が、“MG”以外の領域、つまり“エンジン”で示す領域にある場合は、エンジン1のみを駆動させることができる。
【0055】
また、図7に示すエンジン駆動領域において、アクセルペダル59の踏み込み量に応じて、モータ・ジェネレータ45に電流を供給することにより、要求駆動力に対するエンジントルクの不足分を、モータ・ジェネレータ45のトルクにより補うこともできる。なお、このように変速時以外にもモータ・ジェネレータ45を駆動力源として用いる場合は、バッテリ8の電力消費が大きくなるため、クラッチ41が係合されている状態において、モータ・ジェネレータ45を必要に応じて発電機に切り換えて、その電力をバッテリ8に充電することもできる。
【0056】
ところで、図2ないし図4に示す四輪駆動車は、4WDマニュアルスイッチの操作により四輪駆動状態を選択することができる。この場合は、モータ・ジェネレータ48が電動機として駆動され、そのトルクがリヤデファレンシャル50およびリヤドライブシャフト51を介して後輪52に伝達される。このように、図1ないし図4に示された四輪駆動車は、エンジン1およびモータ・ジェネレータ45,48を駆動力源として用いることのできる、いわゆるハイブリッド車である。また、モータ・ジェネレータ5の発電により、その電気エネルギをバッテリ49に充電したり、もしくはモータ・ジェネレータ48に直接供給することができるように構成することもできる。
【0057】
そして、この四輪駆動状態が選択されている場合、または前述した二輪駆動状態が選択されている場合に、変速時にクラッチ41を解放する制御に並行して、モータ・ジェネレータ48のトルクを増加させる制御をおこなうことにより、車両の駆動力の低下を補うこともできる。そして、変速時に必要な所定トルクをモータ・ジェネレータ48から出力することができない場合、つまり、バッテリ49の充電量が所定値以下であると判断された場合に、エンジントルクによりモータ・ジェネレータ5を発電機として機能させ、その電力をモータ・ジェネレータ48に直接供給したり、バッテリ49に充電したりすることにより、変速時のトルク抜けを防止することもできる。なお、車両の惰力走行時には、後輪52の動力をリヤデファレンシャル50を介してモータ・ジェネレータ48に伝達して発電し、その電力をバッテリ49に充電することもできる。
【0058】
なお、この実施形態における蓄電装置としては、バッテリに代えてキャパシタを用いることもできる。このキャパシタは、相互に直列に接続された複数のコンデンサ(セル)と、相互に直列に配置された複数の抵抗とを有する公知のものである。また、この実施形態において、モータ・ジェネレータ45に対して電力を供給する発電機としては、エンジン1により駆動されるモータ・ジェネレータ5またはオルタネータのほか、燃料電池(フューエルセル)などを用いることもできる。この燃料電池は、燃料極および電解質ならびに空気極などを有する公知のものであり、燃料ガスと空気中の酸素とを電気化学的に反応させて発電するシステムである。
【0059】
また、図1の制御例は、セミオート式の変速機、つまり、シフトレバーの手動操作により変速をおこない、変速機とエンジンとの間に設けられているクラッチの係合・解放を自動的におこなう変速機を搭載した車両に対しても適用することができる。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1の発明によれば、変速時にともないクラッチが解放されて、駆動力源のトルクが車輪に伝達されなくなった場合に、変速機の変速中に、駆動力源により発電機を駆動させて電力を発生させることにより、この電力を電動機に供給することができ、車輪に伝達するトルクを電動機により確実にアシストすることができる。したがって、変速にともなう車両の駆動力の低下が抑制され、運転者の違和感を確実に防止することができる。
【0062】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られるほか、発電機を駆動させて電力を発生させる際には、発電機により補機装置を駆動することが禁止される。したがって、電動機に供給される電力の発電効率が向上し、変速時における電動機のトルクの低下を、一層確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る車両の制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】 この発明の一実施形態である四輪駆動車の概略構成を模式的に示す平面図である。
【図3】 図2に示す四輪駆動車の前輪に対応するパワープラントおよびその制御系統を示す示すブロック図である。
【図4】 図3に示す四輪駆動車の前輪に対応するパワープラントのスケルトン図である。
【図5】 図3に示すシフトレバーの操作により選択されるシフトポジションを示す概念図である。
【図6】 図2,図3の電子制御装置における入出力信号を示す図である。
【図7】 この発明において、変速機の変速マップと、エンジンおよびモータ・ジェネレータの駆動・停止制御領域とを総括的に示す図である。
【符号の説明】
1…駆動力源、 5,45,48…モータ・ジェネレータ、 7…補機装置、8,49…バッテリ、 9…変速機、 41…クラッチ、 44…前輪、 52…後輪。
Claims (2)
- 駆動力源から変速機に至るトルクの伝達経路にクラッチが設けられており、前記変速機の変速にともない前記クラッチを解放し、かつ、車輪に伝達するトルクを電動機によってアシストする車両の制御装置において、
前記電動機用の蓄電装置の充電状態に基づいて、前記変速機の変速時に前記電動機から前記車輪に対して所定トルクを出力することが可能であるか否かを判断する充電状態判断手段と、
前記充電状態判断手段により、前記変速機の変速時に前記電動機から前記車輪に対して所定トルクを出力することが不可能であると判断された場合に、前記変速機の変速中に、前記駆動力源により発電機を駆動させて電力を発生させ、この電力を前記電動機に供給する電力供給手段と
を備えていることを特徴とする車両の制御装置。 - 前記発電機は、車両に搭載されている補機装置を駆動する補機駆動用電動機としての機能を備えており、前記電力供給手段は、前記発電機を駆動させて電力を発生させる際に、前記発電機により前記補機装置を駆動することを禁止する機能を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
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