JP3830015B2 - ウリジン5’−ジリン酸ガラクトースの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オリゴ糖合成の重要な基質である糖ヌクレオチド、ウリジン5’−ジリン酸ガラクトース(UDP−Gal)の効率的な製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖鎖についての研究が急速に進み、その機能が明らかになるにつれ、生理活性を有するオリゴ糖の医薬品または機能性素材としての用途開発が注目を集めている。しかし、現在市販されているオリゴ糖はごく限られた種類のものしかなく、しかも極めて高価である。また、そのようなオリゴ糖は試薬レベルでしか製造できず、必ずしもその大量製造法が確立されているとは限らない。
従来、オリゴ糖の製造は天然物からの抽出法、化学合成法あるいは酵素合成法、さらにはそれらの併用により行われていたが、その中でも酵素合成法が大量製造に適した方法であると考えられている。すなわち、(1)酵素合成法が化学合成法にみられる保護、脱保護といった煩雑な手順を必要とせず、速やかに目的のオリゴ糖を合成できる点、(2)酵素の基質特異性により、きわめて構造特異性の高いオリゴ糖を合成できる点などが他の方法より有利と考えられるためである。さらに、近年のDNA組換え技術の発達により種々の合成酵素が安価にしかも大量に生産できるようになりつつあることが、酵素合成法の優位性をさらに押し上げる結果となっている。
【0003】
酵素合成法によりオリゴ糖を合成する方法としては、オリゴ糖の加水分解酵素の逆反応を利用する方法および糖転移酵素を利用する方法の2通りの方法が考えられている。前者の方法は、基質として単価の安い単糖を用いることができるという利点はあるものの、反応自体は分解反応の逆反応を利用するものであり、合成収率や複雑な構造を持つオリゴ糖合成への応用といった点では必ずしも最良の方法とは考えられていない。
一方、後者は糖転移酵素を用いる合成法であり、合成収率や複雑な構造を持つオリゴ糖合成への応用といった点で前者の方法よりも有利であると考えられており、また、近年のDNA組換え技術の進歩により各種糖転移酵素の量産化も該技術の実現化への後押しとなっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、糖転移酵素を利用した合成法で用いる糖供与体である糖ヌクレオチドは、一部のものを除き依然として高価で、量的にも試薬レベルのわずかな供給量でしか提供し得ないのが現状である。多くの生理活性糖鎖のコア部分に含まれるガラクトース残基の供与体であるUDP−Galについても、Candida属酵母を用いる方法(Proc. IV IFS: Ferment. Technol. Today, p. 463 (1972)、Agric. Biol. Chem., 37, 1741 (1973))などが報告されている。しかし、Candida属酵母などを用いてUDP−Galを製造する方法は、該酵母菌体の培養及び乾燥菌体の調製が不可欠であることから多大な設備と労力が必要であり、また、合成収率も必ずしも満足ゆくものではないことから、実際には実施されるに至っていない。
【0005】
最近、小泉らにより、オロチン酸からウリジン5’−トリリン酸(UTP)への変換を行うコリネバクテリウム属に属する微生物、UTPからUDP―グルコースへの変換を触媒する酵素群、UDP−グルコースからUDP―ガラクトースへの変換を触媒する酵素群(ガラクトキナーゼ、ガラクトース1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼなど)などを生産できるように遺伝子組換えにより育種した大腸菌を混合させることによるUDP−Galの製造法(WO98/12343)が報告されているものの、各種酵素を取得するための複数種の大腸菌の培養が煩雑であると共に、それを実施するための大型の設備を準備しなければならず、必ずしも簡便な方法とは言い難い面を有していた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは酵母菌体を用いたUDP−Galの簡便で実用的な製造法を見いだすべく研究を重ねた結果、市販のパン酵母菌体、ウリジン5’−モノリン酸(UMP)、グルコースおよびガラクトースを含有する反応系に、ガラクトキナーゼおよびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物を添加し、反応させることでUDP−Galを効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、1〜5%(w/v)の市販パン酵母菌体と、UMP、グルコースおよびガラクトースを含有する反応系に、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物を添加することを特徴とするUDP−Galの製造法に関するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
反応系に添加する、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物としては、動物由来、植物由来、微生物由来など特定の由来のものに限定されず、すべての由来のものを使用することができる。しかし、酵素調製の簡便性などの点から微生物由来の酵素調製物を使用するのが好都合である。
微生物由来のガラクトキナーゼ及びヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼおよびそれらの調製法に関しては、大腸菌や酵母に属する微生物などにおいて既に報告がなされている(H.M. Kalckar, Advan. Enzymol., 20, 111 (1958), E. S. Maxwell, et al., Methods in Enzymol.,vol. 5, pp. 174-189 (1961))。
【0008】
また、ガラクトキナーゼ遺伝子およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ遺伝子は既にクローン化されており(Nucleic Acids Res.,13(6),1841-1853(1985)、Nucleic Acids Res.,14(19),7705-7711(1986))、該クローン化された遺伝子の塩基配列に基づき、公知の組換えDNA手法などで当該酵素を高生産された形質転換体、当該形質転換体の処理物または該形質転換体より得られた酵素タンパク質などを酵素調製物として用いることも可能である。
また、ガラクトキナーゼ遺伝子およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ遺伝子を共発現させて得られるガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性の両方を有する酵素タンパク質を酵素調製物として用いることも可能である。
遺伝子のクローニング、クローン化したDNA断片を用いた発現ベクターの調製、発現ベクターを用いた目的とする酵素活性を有する酵素タンパク質の調製などは、分子生物学の分野に属する技術者にとっては周知の技術であり、具体的には、例えば「Molecular Cloning」(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor、New York(1982))に記載の方法に従って行うことができる。
【0009】
たとえば、報告されている塩基配列をもとにプローブを合成し、微生物の染色体DNAより目的とする酵素活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子を含有するDNA断片をクローニングすればよい。クローン化に用いる宿主は特に限定されないが、操作性及び簡便性から大腸菌を宿主とするのが適当である。
クローン化した遺伝子の高発現系を構築するためには、たとえばマキザムーギルバートの方法(Methods in Enzymology,65,499(1980))もしくはダイデオキシチェインターミネーター法(Methods in Enzymology,101,20(1983))などを応用してクローン化したDNA断片の塩基配列を解析して該遺伝子のコーディング領域を特定し、宿主微生物に応じて該遺伝子が微生物菌体中で自発現可能となるように発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)をその上流に連結した組換え発現ベクターを作製する。
【0010】
目的とする酵素活性を有するタンパク質を大腸菌内で大量発現させるために使用する発現制御シグナルとしては、人為的制御が可能で、目的とする酵素活性を有するタンパク質の発現量を飛躍的に上昇させるような強力な転写開始並びに翻訳開始シグナルを用いることが望ましい。このような転写開始シグナルとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80,21(1983)、Gene,20,231(1982))、trcプロモーター(J.Biol.Chem.,260,3539(1985))などを例示することができる。
【0011】
ベクターとしては、種々のプラスミドべクター、ファージベクターなどが使用可能であるが、大腸菌菌体内で複製可能であり、適当な薬剤耐性マーカーと特定の制限酵素切断部位を有し、菌体内のコピー数の高いプラスミドベクターを使用するのが望ましい。具体的には、pBR322(Gene,2,95(1975))、pUC18,pUC19(Gene、33,103(1985))などを例示することができる。
作製した組換えべクターを用いて大腸菌を形質転換する。宿主となる大腸菌としては、例えば組換えDNA実験に使用されるK12株、C600菌、JM105菌、JM109菌(Gene, 33, 103-119(1985))などが使用可能である。
大腸菌を形質転換する方法はすでに多くの方法が報告されており、低温下、塩化カルシウム処理して菌体内にプラスミドを導入する方法(J.Mol.Biol.,53,159(1970))などにより大腸菌を形質転換することができる。
【0012】
得られた形質転換体は、当該微生物が増殖可能な培地中で増殖させ、さらにクローン化した目的とする酵素活性を有するタンパク質の発現を誘導して菌体内に当該酵素タンパク質が大量に蓄積するまで培養を行う。形質転換体の培養は、炭素源、窒素源などの当該微生物の増殖に必要な栄養源を含有する培地を用いて常法に従って行えばよい。例えば、培地としてブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%食塩)または2×YT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%食塩)などの大腸菌の培養に常用されている培地を用い、30〜50℃の培養温度で10〜50時間程度必要により通気攪拌しながら培養することができる。また、ベクターとしてプラスミドを用いた場合には、培養中におけるプラスミドの脱落を防ぐために適当な抗生物質(プラスミドの薬剤耐性マーカーに応じ、アンピシリン、カナマイシンなど)の薬剤を適当量培養液に加えて培養する。
【0013】
培養中に目的とする酵素活性を有する酵素タンパク質の発現を誘導する必要がある場合には、用いたプロモーターで常用されている方法で該遺伝子の発現を誘導する。例えば、lacプロモーターやtacプロモーターなどを使用した場合には、培養中期に発現誘導剤であるイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を適当量添加する。また、使用するプロモーターが構成的に転写活性を有する場合には、特に発現誘導剤を添加する必要はない。
【0014】
酵素調製物として形質転換体そのものを利用する場合には、上記の方法で得られる培養液から遠心分離、膜分離などの固液分離手段で回収した微生物の菌体を利用すればよい。また、該形質転換体の処理物、該処理物から得られる酵素タンパク質を酵素調製物として利用することもできる。
形質転換体の処理物としては、上記回収した微生物菌体を、機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消化、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる菌体処理物または菌体の細胞壁もしくは細胞膜の変性物を例示することができる。
酵素タンパク質としては、上記菌体処理物から当該酵素活性を有する画分を通常の酵素の精製手段(塩析処理、等電点沈澱処理、有機溶媒沈澱処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理など)を施して得られる粗酵素または精製酵素を例示することができる。
【0015】
このような酵素調製物を添加するUDP−Gal合成系は、酵母菌体、UMP、グルコースおよびガラクトースより構成される。
使用する酵母としては、市販のパン酵母、あるいはワイン酵母菌体でよく、酵母菌体製造の過程が省略できる点で極めて有利である。また、酵母生菌体、酵母乾燥菌体いずれの形態も利用可能であるが、反応収率、取扱いの容易性などの点からは乾燥酵母菌体を用いるのが好ましい。酵母菌体の使用濃度としては、乾燥重量として1〜5%(w/v)の範囲から適宜設定することができる。
【0016】
また、UMP、グルコースおよびガラクトースは市販されており、この市販品を使用することができる。使用濃度としては、たとえばそれぞれ1〜400mM、好ましくは10〜200mMの範囲から適宜設定することができる。
UDP−Galの合成は、酵母菌体、UMP、グルコースおよびガラクトースよりなるUDP−Gal合成系に、上記のガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物をそれぞれ0.0001ユニット/ml以上、好ましくは0.001〜10ユニット/ml程度になるように添加し、5〜37℃、好ましくは16〜28℃の温度で1〜72時間程度、必要により撹拌しながら反応させることにより実施することができる。
【0017】
上記UDP−Gal合成系には、必要に応じて無機リン酸、マグネシウムおよびエネルギー源を添加するのが好ましい。
無機リン酸としては、リン酸カリウムなどをそのまま使用することもできるが、好ましくはリン酸緩衝液の形態で使用するのが好ましい。使用濃度は、たとえば10〜500mM、好ましくは10〜300mMの範囲から適宜設定することができる。また、リン酸緩衝液の形式で使用する場合、緩衝液のpHは6〜9の範囲から適宜設定すればよい。
マグネシウムとしては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機酸のマグネシウム塩、クエン酸マグネシウム等の有機酸のマグネシウム塩を使用することができ、その使用濃度としては5〜50mMの範囲から適宜設定することができる。
エネルギー源としては、グルコース、フラクトース、ショ糖などの糖類、酢酸、クエン酸などの有機酸を使用することができ、その使用濃度としては、10〜1000mM、好ましくは約100〜800mMの範囲から適宜設定することができる。
【0018】
UDP−Gal合成反応終了後、生成したUDP−Galは糖ヌクレオチドの精製法として通常使用されている方法によって分離精製することができる。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過法など各種のクロマトグラフィー、向流分配、向流抽出など二液相間の分配を利用する方法、濃縮、冷却、有機溶媒添加など溶解度の差を利用する方法などの糖ヌクレオチドの分離精製で使用されている一般的な方法を単独で、あるいは適宜組み合わせて行えばよい。
【0019】
【発明の効果】
本発明により、多大な菌体培養設備、菌体乾燥設備及び煩雑な工程を必要とせずに、極めて簡便な手段でUDP−Galを効率よく製造することが可能となった。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。なお、実施例において、反応液中のUDP−Galの定量にはHPLC法により行った。すなわち、分離にはYMC社製のODS−AQ312カラムを用い、溶出液として0.5M リン酸一カリウム溶液、検出波長は260nmを用いた。また、実施例におけるDNAの調製、制限酵素による切断、T4DNAリガーゼによるDNA連結、並びに大腸菌の形質転換法は全て「Molecular cloning」(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratort, Cold Spring Harbor, New York (1982))に従って行った。また、制限酵素、AmpliTaqDNAポリメラーゼ、T4DNAリガーゼは宝酒造(株)より入手した。
【0021】
実施例1
(1)大腸菌ガラクトキナーゼをコードするgalK遺伝子のクローニング
大腸菌JM109株(宝酒造(株)より入手)の染色体DNAを斉藤と三浦の方法(Biochemica et Biophysica Acta., 72, 619 (1963))で調製した。このDNAを鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、PCR法により大腸菌galK遺伝子(EMBL/GENEBANK/DDBJ DATA BANKS、Accession No. D90714 AB001340)を増幅した。
プライマー(A):5’-GATATCCATTTTCGCGAATTCGGAGTGTAA-3’
プライマー(B):5’-ACGGCTGACCATCGGGATCCAGTGCGGA-3’
PCRによるgalK遺伝子の増幅は、反応液100μl中(50mM 塩化カリウム、10mM トリス塩酸(pH8.3)、1.5mM 塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTP、鋳型DNA 0.1μg、プライマーDNA(A)(B)各々 0.2μM、AmpliTaqDNAポリメラーゼ 2.5ユニット)をPerkin−Elmer Cetus Instrument社製 DNA Thermal Cyclerを用いて、熱変性(94℃、30秒)、アニーリング(55℃、15秒)、伸長反応(72℃、1分20秒)のステップを30回繰り返すことにより行った。
【0022】
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し、水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを文献(Molecular Cloning、前述)の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、1.2kb相当のDNA断片を精製した。該DNAを制限酵素EcoRI及びHindIIIで切断し、同じく制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化したプラスミドpTrc99A(Pharmacia Biotech.社より入手)とT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌(E.coli)K−12株ME8417菌(FERM BP−6847:平成11年8月18日 生命工学工業技術研究所に寄託)を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrc−galKを単離した。
pTrc−galKは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のEcoRI−HindIII切断部位に大腸菌galK構造遺伝子およびリボソーム結合部位を含有するEcoRI−HindIIIDNA断片が挿入されたものである。
【0023】
(2)ガラクトキナーゼ活性を有する酵素タンパク質の調整
プラスミドpTrc−galKを保持する大腸菌ME8417菌を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地100mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108個/mlに達した時点で、培養液に最終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で6時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、10mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.5)、5mM EDTA)に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。
このように得られた上清画分を酵素調製物とし、酵素調製物におけるガラクトキナーゼ活性を測定した結果を対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌K−12株ME8417)と共に下記表1に示す。なお、本発明におけるガラクトキナーゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法でATPとガラクトースからのガラクトース1−リン酸の合成活性を測定、算出したものである。
【0024】
(ガラクトキナーゼ活性の測定と単位の算出法)
100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)、5mM 塩化マグネシウム、10mM ATP、20mMガラクトースを含む溶液に酵素調製物を添加して,37℃で10〜30分反応させる。反応液を2分間の煮沸にて反応を停止させ、HPLCによる分析を行い、反応液中の消費されたATP量を算出して、ガラクトース1−リン酸の生成量を求めた。37℃で1分間に1μmoleのガラクトース1−リン酸を生成する活性を1単位(ユニット)とする。
【表1】
【0025】
(3)大腸菌ヘキソース―1―リン酸ウリジリルトランスフェラーゼをコードするgalT遺伝子のクローニング
以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、上記(1)と同様の方法でPCR法により大腸菌galT遺伝子(EMBL/GENBANK/DDBJ DATA BANKS, Accession No. D90714 AB001340)を増幅した。
プライマー(C):5’-TATCCCGATTAAGGAATTCCCATGACGCAA-3’
プライマー(D):5’-AGAGATTGTGTTTAAGCTTTCAGACTCATT-3’
【0026】
遺伝子増幅後,反応液から1.2kb相当のDNA断片を,上記(1)と同様に精製した。該DNAを制限酵素EcoRI及びBamHIで切断し、同じく制限酵素EcoRI及びBamHIで消化したプラスミドpTrc99A(Pharmacia Biotech.社より入手)とT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌ME8417菌を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrc−galTを単離した。pTrc−galTは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のEcoRI−BamHI切断部位に大腸菌galT構造遺伝子およびリボソーム結合部位を含有するEcoRI−BamHIDNA断片が挿入されたものである。
【0027】
(4)ヘキソース―1―リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素タンパク質の調製
プラスミドpTrc−galTを保持する大腸菌K−12株ME8417を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地100mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108個/mlに達した時点で、培養液に最終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で5時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、10mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.5))に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。
このように得られた上清画分を酵素調製物とし、酵素調製物におけるヘキソース―1―リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を測定した。その結果を対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌K−12株ME8417)と共に下記表2に示す。なお、酵素活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法でUDP―グルコースとガラクトース1−リン酸からのUDP−Galの合成活性を測定、算出したものである。
【0028】
(ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性の測定と単位の算出法)
100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.8)、5mM 塩化マグネシウム、10mM UDP−グルコース、10mM ガラクトース1−リン酸を含む溶液に酵素調製物を添加し、37℃で20〜30分間反応させる。反応液を2分間の煮沸にて反応を停止させ、HPLCによる分析を行った。HPLC分析結果から反応液中のUDP−Gal量を算出し,37℃で1分間に1μmoleのUDP−Galを生成する活性を1単位(ユニット)とする。
【表2】
【0029】
(5)大腸菌galK遺伝子および大腸菌galT遺伝子の共発現系の構築
プラスミドpTrc−galTを鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、PCR法により大腸菌galT遺伝子を含む領域を増幅した。
プライマー(E):5’-ATAGATCTGCATAATTCGTGTCGCTCAAGGC-3’
プライマー(F):5’-TAAGATCTGTAGAAACGCAAAAAGGCCATCCGTCA-3’
PCRによるgalT遺伝子の増幅は、上記(1)と同じ反応組成、反応器を用いて、熱変性(94℃、30秒)、アニーリング(50℃、20秒)、伸長反応(72℃、3分)のステップを30回繰り返すことにより行った。
【0030】
遺伝子増幅後、反応液から1.9kb相当のDNA断片を,上記(1)と同様に精製した。該DNAを制限酵素BglIIおよびHindIIIで切断し、同じく制限酵素BamHIおよびHindIIIで消化したプラスミドpTrc−galKとT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTGKTを単離した。
pTGKTは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のEcoRI−BamHI切断部位に大腸菌galK構造遺伝子およびリボソーム結合部位を含有するEcoRI−BamHIDNA断片が挿入され、その下流にtrcプロモーター、大腸菌galT構造遺伝子およびリボソーム結合部位を有するBglII−HindIII断片が挿入されたものである。
【0031】
(6)ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース―1―リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素タンパク質の調製
プラスミドpTGKTを保持する大腸菌K−12株JM109を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地100mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108個/mlに達した時点で、培養液に最終濃度0.2mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で6時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、10mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.5))に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。
このように得られた上清画分を酵素調製物とし、酵素調製物におけるガラクトキナーゼ活性およびヘキソース―1―リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を測定した。その結果を下記表3に示す。なお、酵素活性の単位(ユニット)は、上記(2)および(4)と同様に算出したものである。
【表3】
【0032】
(7)UDP−Galの合成
200mMリン酸緩衝液(pH8.0),20mM塩化マグネシウム,50mM 5’−UMP,100mMガラクトース,200mMグルコースを含む溶液5mlに,上記(2)で調製したガラクトキナーゼ活性を有する酵素調製物(0.65units/ml反応液)、(4)で調製したヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物(0.16units/ml反応液)および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)0.1gを添加し,28℃で撹拌しつつ反応を行った。反応開始4、9、23、31時間後にグルコースを200mMずつ添加した。
【0033】
経時的に反応液の分析を行った結果を図1に示す。図1から明らかなように、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する2種類の酵素調製物を添加しない反応液、およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物を添加した反応液においては、反応48時間で3.5mMのUDP−Galしか生成しなかったのに対し、ガラクトキナーゼ活性を有する酵素調製物を添加した反応液においては10.9mMのUDP−Galが、両酵素活性を有する酵素調製物を添加した反応液においては23.7mMのUDP−Galが生成することが認められた。
【0034】
実施例2;UDP−Galの合成(その2)
200mMリン酸緩衝液(pH8.0),20mM塩化マグネシウム,100mM 5’−UMP,100mM ガラクトース,200mM グルコースを含む溶液5mlに,上記(6)により調製したガラクトキナーゼ活性(2.08units/ml反応液)およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性(3.36units/ml反応液)を有する酵素調製物および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)0.25gを添加し,28℃で撹拌しつつ反応を行った。反応開始4、9,23、30時間後にグルコースを200mMずつ添加した。
経時的に反応液の分析を行った結果を図2に示す。反応47時間後には84.74mMのUDP−Galが生成することが認められた。
【0035】
実施例3;UDP−Galの合成(その3)
200mMリン酸緩衝液(pH8.0),20mM塩化マグネシウム,85mM 5’−UMP,100mM ガラクトース,200mM グルコースを含む溶液2000mlに,上記(6)により調製した所定活性量のガラクトキナーゼ活性(2.25units/ml反応液)およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性(3.25units/ml反応液)を有する酵素調製物および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)100gを添加し,28℃で通気・撹拌しつつ反応を行った。反応開始4、9,23時間後にグルコースを200mMずつ添加した。
経時的に反応液の分析を行った結果を図3に示す。反応開始27時間後には80.88mMのUDP−Galが生成することが認められた。
【0036】
【配列表】
【0037】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、ガラクトキナーゼ活性を有する酵素調製物およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物の添加の有無によるUDP-Gal生成量の経時変化を示したものである。図中、■はガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する2種類の酵素調製物を添加したときの結果を、△はガラクトキナーゼ活性を有する酵素調製物を添加したときの結果を、▲はヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物を添加したときの結果を、○は酵素調製物を添加しないときの結果を示したものである。
【図2】図2は、5ml反応液において、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性の両方を有する酵素調製物の添加によるUDP-Gal生成量の経時変化を示したものである。
【図3】図3は、2000ml反応液において、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性の両方を有する酵素調製物の添加によるUDP-Gal生産量の経時変化を示したものである。
【0038】
【受託証】
Claims (1)
- 1〜5%(w/v)の市販パン酵母菌体と、ウリジン5’−モノリン酸(UMP)、グルコースおよびガラクトースを含有する反応系に、ガラクトキナーゼ活性およびヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素調製物を添加することを特徴とするウリジン5’−ジリン酸ガラクトース(UDP−Gal)の製造法。
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