JP3806856B2 - A−1211物質 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対して阻害活性を有し、医薬品として有用な新規なナフトフラノン化合物及びその塩に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞増殖のシグナル伝達系に関しては、従来よりプロテインキナーゼ(protein kinase)の役割について研究が進展してきたが、近年プロテインフォスファターゼ(protein phosphatase)も重要な役割を果たしている事が明らかになってきた。一群のリン酸化酵素の中でもサイクリン依存性キナーゼ[Cyclin dependent kinase (Cdk)]は細胞周期進行の鍵となる酵素として知られており、サイクリンD等の癌化作用や癌細胞での過剰発現、並びに癌抑制遺伝子作用を有するp16、p21等といったCdkに結合する細胞内阻害蛋白(CDKI)の癌細胞における発現低下などの知見から、Cdkの活性上昇と癌細胞増殖との関わりが示唆されている。多くの癌細胞では細胞周期の制御機構に異常が生じており、Cdkは細胞周期の制御において最も重要な因子であることから、Cdkの制御物質は新しいタイプの抗腫瘍剤になると考えられている [メイジャー著 トレンド イン セル バイオロギー (Meijer, L.: Trends in cell Biology), 6, 393−397, 1996]。さらにCdkはCyclinとの結合によって活性化されて他の分子をリン酸化するが、同時にCdk自身もリン酸化と脱リン酸化を受けて活性が制御される。リン酸化されたCdkは不活性酵素となるが、これをさらに脱リン酸化し、酵素を再活性化するのがCdc25フォスファターゼである。したがって、リン酸化酵素と脱リン酸化酵素の阻害剤も、細胞周期の阻害を作用機序とする新しいタイプの抗腫瘍剤になると期待される(長田著:癌と化学療法, 24, 1541−1546, 1997)。
【0003】
現在、プロテインキナーゼ類が関与する疾患において、この酵素に対する特異的な阻害剤が求められているが、十分な物質は得られていないのが現状である。特に乳癌、頭頸部癌、胃癌等の人癌組織において、Cdc25A又はBフォスファターゼの過剰発現による癌化作用を有し、リン酸化されたCdkを基質としてチロシンのリン酸基を脱離させるCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)を特異的に抑制する阻害剤は得られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる実情を鑑みて開発されたものであり、Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対して優れた阻害活性を有する物質を提供することを目的とするものである。また本発明は、当該物質を微生物を用いて生産する方法に関し、かかる生産に有用な微生物を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは土壌より新たに数多くの微生物を分離し、それらが生産する代謝産物について医薬品として有用な新規物質の探索を続けていたところ、ノカルジア(Nocardia)属に属する一放線菌TP−A0248株の培養物中に、優れたCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ阻害活性を有し、抗真菌活性と抗腫瘍活性とを併せ持つ新規化合物が生産されていることを見い出し、その活性物質を単離し、その物理化学的性質及び構造を確定する事により本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は次の一般式(1)
【0007】
【化2】
【0008】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表されるナフトフラノン(Naphthofuranone)化合物又はその塩に係わるものである。
【0009】
従来、本発明のナフトフラノン化合物に類似する構造を有する微生物代謝産物としては、MS-444物質[ザ ジャーナル オブ アンチバイオティクス(The journal of antibiotics), 48, 94 8−953, 1995]がミオシンライトチェインキナーゼ(myosin light chain kinase)阻害剤として報告されている。
【0010】
また、本発明の化合物に類似する構造を有するものとして、ストレプトカプスデュニー(Streptocapus dunnii)の葉から分離されたデュニオン(Dunnione)とその類縁体、及びラパコ(Lapacho)樹木から分離されたβ−ラパコン(β-Lapachone)が挙げられる。これらの化合物は制癌剤として使用でき[国際出願特許公開番号WO97/31936、キャンサー リサーチ(Cancer Research), 57, 620−627, 1997]、また、デュニオン(Dunnione)については更に抗真菌剤として使用できる[国際出願特許公開番号WO97/16970]ことが報告されている。
【0011】
また、欧州特許公開番号EP0413224には、本発明の化合物と同じ基本骨格を有するナフトキノン誘導体が抗真菌剤として記載されている。しかしながら、当該公報には本発明の化合物を具体的に開示する記載はなく、よって本発明のナフトフラノン化合物は従来未知の新規化合物である。
【0012】
本発明はまた、ノカルジア(Nocardia)属に属し、上記のナフトフラノン化合物またはその塩を生産する能力を有する菌株を培地で培養し、培養物から該化合物などを分離回収することを特徴とするナフトフラノン化合物またはその塩の製造法に係わる。
【0013】
また本発明は、該ナフトフラノン化合物またはその塩を有効成分とする医薬、より具体的には真菌感染症治療剤又は腫瘍治療剤に係わるものである。
【0014】
更に、本発明は上記ナフトフラノン化合物またはその塩及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物に係わるものである。
【0015】
更にまた、本発明は上記ナフトフラノン化合物またはその塩を産生する能力を有する菌株に係わるものである。
【0016】
なお、以下本発明において上記ナフトフラノン化合物またはその塩を、便宜上「A−1211物質」と総称し、該物質を産生する菌を「A−1211物質生産菌」と称する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明のA−1211物質は次の一般式(1)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される。ここで、式中Rが水素原子である場合には、塩の態様も包含される。この塩は、特に限定されないが、薬学的に許容される塩基性化合物を作用させた塩基塩が好ましい。この塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。
【0020】
また、上記A−1211物質には光学異性体が存在し、本発明はかかる異性体及びそれらの混合物を全て包含するものである。また、上記A−1211物質は、無水の状態でもまた適当な割合で水和したものであってもよい。また結晶形のものでもアモルファス状のものであってもよい。
【0021】
一般式(1)中、Rが水素原子である本発明のA−1211物質(以下、A−1211−a物質という。)の物理化学的性質を以下に示す。
【0022】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:115〜120℃
3)分子式:C13H10O4
4)分子量:230(高分解能エレクトロンインパクトマススペクトロメトリー(HREI-MS) 法によりC13H10O4 [M+]として実験値230.0570、計算値230.0579を示す。)
5)比旋光度:クロロホルム中、C=0.25 % の濃度で測定。 [α] D 26 = −85.4°
6)紫外部吸収スペクトル:メタノール、0.001N-HCl含有メタノール、及び0.001N-NaOH含有メタノール中でそれぞれ10μg/mlの濃度で測定した:
λmax MeOH (nm) (ε): 203(16,400), 237(15,100), 259(18,000), 291(sh, 5,700), 416(br, 4,900);
λmax MeOH/HCl (nm) (ε): 202(8,500) 237(sh), 259(18,300), 293(sh, 5,800), 415(br, 5,000);
λmax MeOH/NaOH (nm) (ε): 205(15,500), 238(sh, 16,300), 259(14,400), 296(sh, 5,100), 474(br, 6,100)
7)赤外線吸収スペクトル:KBr錠剤法
IRνmax (KBr) cm-1:1640, 1620, 1580, 1450, 1410, 1320, 1270, 1030(図1)
8)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400MHz 1H−NMRスペクトル(図2)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
9)溶解性:メタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジメチルスルホキシドに可溶、水に難溶、エーテルに不溶
10)薄層クロマトグラフィー上でのRf値:キーゼルゲルプレート60F254(Merck製、 Art. 5175)を用い、展開溶媒クロロホルムで展開の場合、Rf値0.25, クロロホルム/酢酸エチル(10:1)で展開の場合、Rf値0.42を示す。
【0025】
11)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d.,GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.5.9分にピークとして検出される。
【0026】
次に、一般式(1)中、Rがメチル基である本発明のA−1211物質(以下、A−1211−b物質という。)の物理化学的性質を以下に示す。
【0027】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:79〜81℃
3)分子式:C14H12O4
4)分子量:244(エレクトロンインパクトマススペクトル(EI-MS)法。)
5)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図3)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.6.3分にピークとして検出される。
【0030】
本発明のA−1211物質は、例えば、本物質の生産能力を有する菌株(A−1211物質生産菌)を下記に示すような適当な条件下で培養することによって製造することができる。本発明はこのA−1211物質生産菌をも包含するものである。
【0031】
A−1211物質生産菌としては、ノカルジア(Nocardia)属に属する菌株が挙げられる。本発明には当該ノカルジア属に属する菌株を培地で培養し、得られる培養物から分離回収することによって得ることができるA−1211物質が包含される。
【0032】
ノカルジア属に属する菌株の一例としてはノカルジア エスピー. TP−A0248(Nocardia sp. TP-A0248) 株が例示できる。この菌株は本発明者らが富山県小杉町の土壌から新たに分離したノカルジア属に属する菌株であり、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、1998年5月25日に微生物の表示、(寄託者が付した識別のための表示)「Nocardia sp.TP−A0248」、(受託番号)「FERM BP−6372」として寄託されている。
【0033】
TP−A0248(Nocardia sp. TP-A0248) 株について、インターナショナル ストレプトミセス プロジェクト(International Streptomyces Project;ISP) が推奨したシーリングとゴットリーブの方法[インターナショナル ジャーナル オブ システィマティク バクテリオロジー (Shirling, E. B. & D. Gottlieb: International Journal of Systematic Bacteriology), 16(3), 313−340 , 1966]に準じ、培地としてワックスマン[ワックスマン著、ザ アクチノミセテス (Waksman, S. A.(Ed.): The Actinomycetes), 2, 328−334, 1961, The Williams & Wilkins Co.,発行]及び新井[新井著、カルチャー メディアフォー アクチノミセテス(Arai, T.(Ed.): Culture media for Actinomycetes), 1975, The Society for Actinomycetes発行]によって記載されたものを使用して検討したTP−A0248株の菌学的性質は次の通りである。
【0034】
(a)形態
1)胞子形成の分岐法;単純分岐
2)胞子形成の形態;円筒状の胞子が直線状に連鎖する
3)胞子の数;4〜6個
4)胞子の表面構造;細かい皺が認められる
5)胞子の大きさ;0.4〜0.6 × 1.0〜1.3μm
6)鞭毛胞子の有無;認められない
7)胞子柄の着生位置;気中菌糸より着生する
8)菌核形成性の有無;認められない
9)基生菌糸の分断の有無;認められない。
【0035】
(b)各種培地上における生育状態:7種類の培地における生育状態を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表中に記載の培養性状に関する色調名は新色名辞典(日本色研事業(株)1987年発行)に基づいて示し、色調コード番号を括弧内に付け加えた。
【0038】
本菌株は各種培地上で良く生育し、基生菌糸は明るいオレンジ色から赤褐色を呈し、成熟した粉状の気菌糸は白色から淡白色を示す。特徴的な可溶性色素の生成は認められない。
【0039】
(c)生理的性質
1)生育温度範囲;(酵母エキス/スターチ寒天培地);17〜45℃の範囲で良く生育する
2)ゼラチンの液化(グルコース/ペプトン/ゼラチン培地、27℃); 陰性
3)ゼラチンの液化(単純ゼラチン培地、20℃); 陰性
4)ミルクの凝固(37℃); 陰性
5)ミルクのペプトン化(37℃); 陰性
6)メラニン様色素の生成; チロシン寒天(ISP−7)培地上で陽性、トリプトン/酵母エキス /ブロス(ISP−1)培地上で陰性
7)澱粉の加水分解(スターチ/無機塩寒天、ISP−4培地); 陰性
8)硝酸塩の還元(1%硝酸カリウム含有ブイヨン、ISP−8培地); 陽性
9)セルロースの分解; 陰性
10)耐塩性;(酵母エキス/スターチ寒天培地);4%塩化ナトリウム存在下まで生育する。
【0040】
(d)炭素源の利用性(プリードハム/ゴトリーブ寒天、ISP−9培地): D−グルコース、D−フルクトース、グリセロールをを利用してよく生育するが、ラフィノース、D−キシロース、D−マンニトール、L−アラビノース、シュークロース、イノシトール、及びL−ラムノースは利用できない。
【0041】
(e)菌体成分の化学分類学的性質
放線菌の同定実験法[日本放線菌学会編, 62−70, 1985]、並びにレチェバリエら[ザ アクチノマイセテス(Lechevalier, H. A. & M. P. Lechevalier; The Actitinomycetes (H. Prauser, ed.), 393−405, 1970, Jena, Gustav Fischer Verlag発行]及びスタネックら[アップライド マイクロバイオロジー(Stanech, J. l.& G. D. Roberts: Applied Microbiology), 28, 226−231, 1974]によって記載された薄層クロマトグラフィー法により全菌体中の酸加水分解物を分析した結果、meso型のジアミノピメリン酸、ガラクトースおよびアラビノースの存在が確認された。このことから、本菌株の細胞壁はIV-A型に分類された。
【0042】
レチェバリエら[バイオケミカル システィマティック エコロジー( Lechevalier、M. P.、C. Debievre & H. A. Lechevalier: Biochemical systematic Ecology), 5, 249−260, 1977]によって記載された方法に従って行ったリン脂質分析からホスファチジールイノシトール、ホスファチジールエタノールアミン及びジホスファチジールグリセロールが検出された。このことからP-II型に分類された。
【0043】
コリンズら[ジャーナル オブ アップライド マイクロバイオロジー(Collins, M. D.; H. N. Shah, & D. E. Minnikin: Journal of Appilied Microbiology), 48, 277−282, 1980]によって記載された方法に従って行った本菌株の主要メナキノンはMK-8(H4)が86.6%、 MK-8(H2)が13.1%であった。
【0044】
鈴木ら[インターナショナル ジャーナル オブ システィマティック バクテリオロジー(Suzuki, K. & K. Komagata: International Journal of Systematic Bacteriology), 33, 188−200, 1983]によって記載された方法による主要脂肪酸の分析結果はhexadecanoate 23 %, 14-methylhexadecanoate 16 %, heptadecanoate 15 %, tuberculostearate 14 %, pentadecanoate 10 %, 13-methyltetradecanoate 10 %であった。
【0045】
さらに内田ら[ジャーナル オブ ジェネラル アップライド マイクロバイオロジー (Uchid, K. & K. Aida: Journal of General Applied Microbiology), 44, 193−203, 1994]によって記載された方法に従って行ったグリコレイト試験、及び矢野ら[ (矢野郁也, 富安郁子著) ミコール酸;日本放線菌学会編 放線菌の同定実験法, 104−130, 1985]によって記載された方法に従って行ったミコール酸試験はいずれも陽性の結果であった。
【0046】
以上に示したTP−A0248株の形態観察、生理学的性質、各種培地上における生育性状、菌体成分の化学分類学的性状などの分類学的性質、特にその中でも、基生菌糸より胞子の連鎖を有する気菌糸を形成すること、細胞壁組成がIV−A型であること、リン脂質がP−II型であること、主要メナキノンがMK-8(H4)であること、ミコール酸試験及びグリコレイト試験がともに陽性であること、並びに鞭毛胞子や胞子嚢等を形成しないといった性質から、本菌株はノカルジア属に属することが明らかとなった。よって本菌株をノカルジア エスピー.(Nocardia sp.) TP−A0248と称することとした。
【0047】
本発明のA−1211物質は、例えば上記TP−A0248株又はその変異株などのノカルジア属に属する各種のA−1211物質生産菌を適当な培地で培養し、次に得られる培養液から本発明物質を含む粗抽出物を分離し、更に粗抽出物からA−1211物質を単離、精製することにより製造することができる。
【0048】
上記微生物の培養は原則的に一般の微生物の培養に準じて行われるが、通常液体培養による振盪培養法、通気撹拌培養法等の好気的条件下で行うのが好ましい。
【0049】
培養に用いられる培地としては、 A−1211物質生産菌が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、天然培地等をいずれも用いることができる。培地の炭素源としてはグルコース、シュークロース、フラクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、有機酸等を単独又は二種以上組み合わせたものが;窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、尿素などの有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独又は二種以上組み合わせたものが用いられる。また、培地にはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、その他の重金属塩などが必要に応じて適宜添加される。
【0050】
なお、培養中発泡の著しい時は、例えば大豆油、亜麻仁油等の植物油、オクタデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール等の高級アルコール類、各種シリコン化合物などの消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
【0051】
培地のpHは中性付近、好ましくはpH6〜8とするのが望ましい。培養温度はA−1211物質生産菌が良好に生育する温度、通常25〜40℃、特に27〜35℃付近に保つのがよい。培養時間は、液体振盪培養及び通気撹拌培養のいずれの場合も3〜7日間程度が好ましい。
【0052】
上述した各種の培養条件は使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、またそれぞれに応じて上記範囲から最適条件を適宜選択、調節することができる。
【0053】
培養液からのA−1211物質を含む粗抽出物の分離は、発酵生産物を採取する一般的な方法に準じて行うことができ、例えば溶媒抽出、クロマトグラフィー、結晶化等の通常の手段を単独又は二種以上を任意の順序に組み合わせて用いることができる。より詳しくは、以下の方法を用いることができる。
【0054】
すなわち、上記培養により生産されるA−1211物質は主として培養濾液及び菌体中に存在するので、常法に従い、まず濾過、遠心分離等を行って、培養濾液と菌体固形分とを分離し、得られたA−1211物質を含む菌体固形分についてメタノール、アセトン等の溶媒を用いてA−1211物質の溶出を行う。次いで、減圧下に溶媒を留去すればA−1211物質を含む粗濃縮液を得ることができる。この粗濃縮液に酢酸エチル、クロロホルム、ブタノール等の水と混合しない有機溶媒を加えてA−1211物質を有機溶媒層に転溶させ、得られた溶媒層に芒硝を加えて脱水した後、溶媒を減圧下で留去すればA−1211物質を含む粗抽出物を得ることができる。更に培養濾液についても有機溶媒層に転溶させる前述と同様の操作をすれば粗抽出物を得ることができる。また、必要に応じて水酸化ナトリウム又は塩酸にてpHを調節したり、工業用食塩を加えることにより、抽出効率を高くしたり、エマルジョン生成防止などの方法を講じることができる。
【0055】
更に、粗抽出物からA−1211物質を単離、精製するためには、通常の脂溶性低分子物質の単離、精製手段、例えば活性炭、シリカゲル、アルミナ、マクロポーラス非イオン系吸着樹脂等の吸着剤による種々の吸着クロマトグラフィー又はODS−結合型シリカゲル等を用いる逆相クロマトグラフィー等が使用できる。これらのうち、溶出溶媒にクロロホルム、クロロホルム/酢酸エチル、クロロホルム/メタノール、クロロホルム/アセトン、ベンゼン/アセトン等の混合溶媒系を用いるシリカゲルクロマトグラフィー、及びアセトニトリル又はメタノール/0.05%トリフルオロ酢酸又は10mMリン酸一カリウム等の混合溶媒系を溶出に用いる逆相クロマトグラフィーが特に好ましい。また、更に精製を必要とする場合には、上記クロマトグラフィーを繰り返し行うかまたは溶出溶媒としてクロロホルム、メタノール等を用いたセファデックスLH−20(ファルマシア社製)によるカラムクロマトグラフィー等を適宜組み合わせて行うことにより、高純度のA−1211物質を得ることができる。
【0056】
なお、精製工程中のA−1211物質の確認は、Candida albicansに対する抗真菌活性又はCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性といった生理活性や薬理活性を測定する方法と、薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー等を用いた該物質の物理的性状に基づく検出方法とを併用して行うのがよい。
【0057】
Candida albicansに対する抗真菌活性、及びCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性を測定するための具体的方法については、実施例及び試験例中に記載する。また試験例に示すように、本発明のA−1211物質は、Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性、抗真菌活性、抗腫瘍活性を有している。このため本発明の物質は、上記酵素の阻害剤として有用であると共に該酵素が関連する疾患の予防・治療剤、並びに真菌感染症や腫瘍に対する予防・治療剤の有効成分として有用である。
【0058】
かかる観点から、本発明はまた、以上のように製造、精製されるA−1211物質を有効成分とする医薬組成物を提供する。
【0059】
本発明のA−1211物質は、後述する試験例で示すように、特にアスペルギルス(Aspergillus)属、トリコフィトン(Trichophyton)属等に属する糸状菌;カンジタ(Candida)属、クリーベロミセス(Kluyveromyces)属に属する菌;クリプトコッカス(Cryptococcus)属等に属する菌等の真菌に対して抗菌活性を有する。従って、本発明の真菌感染症治療剤は、かかる真菌が原因菌となる疾病に対して広く適用することができる。例えば、適用疾病として、呼吸器アスペルギルス症,全身性アスペルギルス症,皮膚や爪のアスペルギルス症等を含むアスペルギルス症;トリコフィトン属による白癬症;口腔カンジダ症,気管支・肺カンジダ症,膣炎,尿路感染症,髄膜炎,敗血症等を含むカンジダ症;髄膜炎,肺真菌症,皮膚クリプトコッカス症等を含むクリプトコッカス症を挙げることができる。
【0060】
また、本発明のA−1211物質は、後述する試験例で示すように、U937(人組織球性リンパ腫)の癌細胞に対して抗腫瘍活性を示し、またP388(マウス白血病細胞)、HeLa(人由来子宮頚部扁平上皮癌細胞)、KB(人由来口腔表皮扁平上皮癌細胞)、SBC-5(人由来非小細胞性肺癌細胞)の癌細胞に対しても同様に抗腫瘍活性を示す。従って、本発明の抗腫瘍剤は、主に肺癌、乳癌、胃癌、子宮癌、大腸癌等の上皮性悪性腫瘍;肉腫等の非上皮性悪性腫瘍;悪性リンパ腫;白血病等の疾病に対して適用することができる。
【0061】
A−1211物質を医薬組成物として使用する際の投与形態は目的に応じて各種の薬学的投与形態を広く採用でき、該形態として具体的には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、丸剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤;注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、エアゾール剤、点眼剤等の非経口剤等が例示される。これら投与形態は、それぞれ当業者に公知慣用の製造方法により製造できる。
【0062】
経口用固形製剤は、本発明の有効成分A−1211物質に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えて、常法に従って錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤等として製造することができる。賦形剤としては、例えば乳糖、蔗糖、澱粉、タルク、ステアリン酸マグネシウム、結晶セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム及びアラビアゴム等が、結合剤としてはポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、アラビアゴム、シェラック及び白糖等が、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド及び乳糖等が、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム及びタルク等が、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸及び酒石酸等が使用できる。その他、着色剤、矯臭剤等として通常公知のものを用いることができる。なお、錠剤は周知の方法によりコーティングしてもよい。
【0063】
経口用液体製剤は、本発明の有効成分A−1211物質に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法に従って内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等として製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム及びゼラチン等が使用できる。
注射剤は、本発明の有効成分A−1211物質にpH調製剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤及び局所麻酔剤等を添加し、常法に従って調製することにより、静脈内、筋肉内、皮下、皮内並びに腹腔内用の注射剤が製造できる。pH調製剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びリン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸及びチオ乳酸等が使用できる。等張化剤としては塩化ナトリウム及びブドウ糖等が、局所麻酔剤としては塩酸プロカイン及び塩酸リドカイン等が使用できる。
【0064】
坐剤は、本発明の有効成分A−1211物質に基剤、さらに必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法に従って調製することで製造できる。基剤としては、例えばマクロゴール、ラノリン、カカオ油、脂肪酸トリグリセライド、ウィテップゾール(ダイナマイトノーベルズ社製)等の油性基剤を用いることができる。
【0065】
軟膏剤は、本発明の有効成分A−1211物質に通常使用される基剤、安定化剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合し、常法により混合して製剤化される。基剤としては流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール及びパラフィン等が、保存剤としてはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピル等が使用できる。
【0066】
貼付剤は、通常の支持体に前記本発明の有効成分を含む軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布することによって製造できる。支持体としては綿、スフ、化学繊維からなる織布や不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが使用できる。
【0067】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明有効成分A−1211物質の量は、これを適用すべき患者の症状や年齢・体重により、あるいはその剤型等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり経口剤では約1〜1000mg、注射剤では約0.1〜500mg、坐剤では約5〜1000mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別、その他の条件等に応じて適宜選択されるが、通常成人1日あたり約0.1〜1000mg/kg、好ましくは約1〜100mg/kgとすれば良く、これを1日1回又は2〜4回程度に分けて投与することができる。
【0068】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げて更に具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
実施例1. A−1221−a物質の製造
(a)培養工程
可溶性デンプン 1.0%、グルコース 0.5%、エヌゼットケース(NZ-case) 0.3%、酵母エキス 0.2%、トリプトン 0.5%、リン酸水素ニカリウム 0.1%、硫酸マグネシウム・七水和物 0.05%、沈降性炭酸カルシウム 0.3%より成る培地(pH7.0)100mlを500ml容のK型フラスコに分注し、滅菌(121℃、20分間)後、ノカルジア エスピー.TPーA0248株(受託番号FERM BP−6372)を一白菌耳接種し、30℃で4日間振盪培養して、種菌とした(毎分200回転)。次にグルコース 0.5%、グリセロール 2.0%、可溶性デンプン 2.0%、ファーマメディア 1.5%、酵母エキス 0.2%、ダイアイオンHP−20(Diaion HP−20、三菱化成製)1.0%よりなる培地(pH7.0)を500ml容のK型フラスコに分注し、100mlずつ分注し、滅菌(121℃、20分間)後、上記の種菌を5%(v/v)の割合で加え、30℃で6日間回転振盪培養した(毎分200回転)。
【0070】
(b)分離工程
培養終了後、直ちに培養液を遠心(8000回転、15分間)分離後、菌体部分と瀘液部分に分離した。得られた培養瀘液(4.5リットル、pH6.5)を希塩酸でpH2〜3に調整し、酢酸エチル(2.2リットル)二回攪拌抽出した。また菌体部分はメタノール (2.5リットル) で3回攪拌抽出し、瀘過後、このメタノール抽出液を減圧濃縮してメタノールを留去し、酢酸エチル(0.5リットル)で2回攪拌抽出した。この2つの酢酸エチル抽出液を合わせ、無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮して褐色油状の粗抽出物 (4.83 g) を得た。
【0071】
(c)単離、精製工程
上記粗抽出物をクロロホルム(5ml)に溶解し、シリカゲル(メルク社製、キーゼルゲル、270 x 45 mm, i.d.) カラムに吸着させ、溶出溶媒にクロロホルムを用い40mlずつ分画した。溶出画分の薄層クロマトグラフィー法及び高速液体クロマトグラフィー法での検出、 Candida albicansに対する抗真菌活性を調べることにより、A−1211−a物質を含む活性画分を確認した。この活性画分を集め、溶媒を留去後乾固して褐色油状物質(160mg)を得た。
【0072】
A−1211物質を含む活性画分を検出するための Candida albicans に対する抗真菌活性の測定は以下に示すようなペーパーディスク法により行った。
【0073】
すなわち、イーストナイトロジェンベース(yeast nitrogen base, Difco社製)0.65%、グルコース0.5%、リン酸水素二カリウム0.36%、リン酸水素二ナトリウム0.57%、寒天1.3%から成る培地(pH7.0)で下層寒天平板を作り固化後、上層にCandida albicansの菌液(0.1%)を含む同培地の寒天平板を作成後、固化する。
【0074】
A−1211物質を含む画分を市販ペーパーディスクにしみ込ませ、寒天平板上に載せ、37℃で18時間培養後に現れる Candida albicans に対する阻止円直径を測定することにより検出した。
【0075】
得られた褐色油状物質をメタノール(5ml)に溶解し、その一部を逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/10mMリン酸二水素ナトリウム(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)7.6分を示すピークを分取精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去し、水溶液を酢酸エチル(100ml)で2回攪拌抽出した。有機溶媒を減圧下留去後、 A−1221-a物質精製品(8.0mg)を得た。
【0076】
得られたA−1221-a物質の物理化学的性質を以下に示す。
【0077】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:115〜120℃
3)分子式:C13H10O4
4)分子量:230(高分解能エレクトロンインパクトマススペクトロメトリー(HREI-MS) 法によりC13H10O4 [M+]として実験値230.0570、計算値230.0579を示す。)
5)比旋光度:クロロホルム中、C=0.25 % の濃度で測定。 [α] D 26 = −85.4°
6)紫外部吸収スペクトル:メタノール、0.001N-HCl含有メタノール、及び0.001N-NaOH含有メタノール中でそれぞれ10μg/mlの濃度で測定した:
λmax MeOH (nm) (ε): 203(16,400), 237(15,100), 259(18,000), 291(sh, 5,700), 416(br, 4,900);
λmax MeOH/HCl (nm) (ε): 202(8,500) 237(sh), 259(18,300), 293(sh, 5,800), 415(br, 5,000);
λmax MeOH/NaOH (nm) (ε): 205(15,500), 238(sh, 16,300), 259(14,400), 296(sh, 5,100), 474(br, 6,100)
7)赤外線吸収スペクトル:KBr錠剤法:
IRνmax (KBr) cm-1:1640, 1620,1580, 1450, 1410, 1320, 1270, 1030(図1)
8)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図2)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
上記位置を下記構造式に示す。
【0080】
【化4】
【0081】
9)溶解性:メタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジメチルスルホキシドに可溶、水に難溶、エーテルに不溶
10)薄層クロマトグラフィー上でのRf値:キーゼルゲルプレート60F254(Merck製、 Art. 5175)を用い、展開溶媒クロロホルムで展開の場合、Rf値0.25, クロロホルム/酢酸エチル(10:1)で展開の場合、Rf値0.42を示す11)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.5.9分にピークとして検出される。
【0082】
実施例2.A−1221 -a 物質及びA−1221 -b 物質の製造
(a)培養工程
実施例 1と同様の条件にて、30℃、6日間の回転振盪培養(毎分200回転)を実施した。
【0083】
(b)分離工程
培養終了後、直ちに培養液を遠心(8000回転、15分間)分離後、菌体部分と瀘液部分に分離した。得られた培養瀘液(10.7リットル、pH 6.5)を希塩酸でpH2〜3に調整し、酢酸エチル(3.0リットル)で二回攪拌抽出した。また菌体部分はメタノール (3.0リットル) で3回攪拌抽出し、瀘過後、このメタノール抽出液を減圧濃縮してメタノールを留去し、酢酸エチル(1リットル)で2回攪拌抽出した。この2つの酢酸エチル抽出液を合わせ、無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮して褐色油状の粗抽出物 (8.38 g) を得た。
【0084】
(c)単離、精製工程
上記粗抽出物をクロロホルム(15 ml)に溶解し、シリカゲル(メルク社製、キーゼルゲル、370 x 65 mm, i.d.) カラムに吸着させ、溶出溶媒にクロロホルムを用い60 mlずつ分画した。溶出画分の薄層クロマトグラフィー法及び高速液体クロマトグラフィー法での検出、 Candida albicansに対する抗真菌活性を調べることにより、A−1211−a物質及びA−1211−b物質を含む活性画分をそれぞれ確認した。この活性画分をそれぞれ集め、溶媒を留去後乾固して褐色油状粗物質としてA−1211−a物質画分(700mg)及びA−1211−b物質画分(60mg)を得た。
【0085】
A−1211−a物質画分はクロロホルム/メタノール(1:1)6mlに溶解し、その1/3容量をセファデックス LH−20(ファルマシア製、950x23mm,i.d.)に吸着させ、溶出溶媒クロロホルム/メタノール(1:1)を用いて溶出、分画を行った。前述したHPLC法並びにCandida albicansに対する抗菌活性を調べることによりA−1211−a物質を含む活性画分を検出し、活性画分を集め、有機溶媒を減圧下留去後、褐色物質(78.6 mg)を得た。
【0086】
得られた褐色物質をメタノール(2ml)に溶解し、逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)7.6分を示すピークを繰り返し分取することにより精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去した後、水溶液を凍結乾燥し、 A−1221-a物質精製品(24.5mg)を得た。
【0087】
得られたA−1221-a物質の物理化学的性質は実施例1.で得られたA−1221-a物質のデータと一致した。
【0088】
次に、 A−1211−b物質画分はクロロホルム/メタノール(1:1)6mlに溶解し、その1/3容量をセファデックス LH−20(ファルマシア製、950x23 mm,i.d.)に吸着させ、溶出溶媒クロロホルム/メタノール(1:1)を用いて溶出、分画を行った。前述したHPLC法並びにCandida albicansに対する抗菌活性を調べることによりA−1211−b物質を含む活性画分を検出し、活性画分を集め、有機溶媒を減圧下留去後、褐色物質(12.6 mg)を得た。
【0089】
得られた褐色物質をメタノール(2ml)に溶解し、逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)8.5分を示すピークを繰り返し分取することにより精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去した後、水溶液を凍結乾燥し、 A−1221-b物質精製品(1.2mg)を得た。
【0090】
得られたA−1221-b物質の物理化学的性質を以下に示す。
【0091】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:79〜81℃
3)分子式:C14H12O4
4)分子量:244(エレクトロンインパクトマススペクトル(EI-MS)法。)
5)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図3)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
上記位置を下記構造式に示す。
【0094】
【化5】
【0095】
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.6.3分にピークとして検出される。
【0096】
【試験例】
試験例1.酵素阻害活性の測定
本発明のA−1211−a物質のCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対する阻害活性の測定は以下のように行った。
【0097】
すなわち、適当な濃度にジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide)で希釈した検体を含む50 mM塩化ナトリウム(Sodium chlolide)、5mMジチオスレイトール(Dithiothreitol)からなる10mM HEPES緩衝液(N-2-hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethansulfonic acid, pH8.0)、50μl;200 mM パラ-ニトロフェニールリン酸二ナトリウム六水塩(Disodium p-nitrophenylphosphate hexahydrate)、25μl;Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase、200mU/ml)、25μlを加えて、37℃で60分間インキュベートした。反応終了後、マイクロプレートリーダー(Microplate reader)にてOD415nmの吸光度を測定した。対照として、阻害剤を添加しない酵素反応系を作成し、次式により酵素阻害活性を算出した。
【0098】
酵素阻害活性(%)= [1−(B−D/A−C)]× 100
ここでAは阻害物質を含まない反応系での吸光度、Bは各種濃度の阻害物質を含む反応系での吸光度、C、DはA、Bそれぞれの酵素を添加しない反応系での吸光度を示す。
【0099】
各種濃度の阻害物質により得られた阻害率は縦軸にプロビット、横軸に濃度の対数をとったグラフに挿入し、各点を結んだ直線が得られれば、この直線から50%阻害濃度を求めた。
【0100】
本発明のA−1211−a物質のCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対する阻害活性を測定した結果、その50%阻害濃度(IC50)は17μMであった。
【0101】
試験例2.抗真菌活性の測定
本発明の物質の酵母及び糸状菌といった真菌類に対する抗真菌活性を系列寒天平板希釈法により以下の様に測定した。A−1211−a物質をジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide)で10mg/mlに溶解後、適当な濃度になるように2段階希釈系列を作り、 A−1211−a物質を含むサブロー(Sabouraud)寒天平板培地(日水製薬社製)を作製した。そして、各種被験菌(約106細胞/ml)に対する抗真菌活性を、30℃における、酵母類に対して18時間、糸状菌に対して36時間の培養後の最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)でもって表示した。その結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
試験例3.抗腫瘍活性
U937細胞(組織球性リンパ腫患者の胸水由来の樹立細胞株)に対する50%増殖阻害濃度(IC50)を以下のように測定した。10% 仔牛血清を添加したアールピーエムアイ1640培地(RPMI 1640 medium、日水製薬社製)を用い、U937細胞を5%炭酸ガスインキュベーター中37℃で培養し、5×104細胞/mlを調製した。そしてA−1211−a物質をジメチルスルホキシドに溶解後、適当な濃度になるように培地50μlとともに96穴アッセイプレート1穴当たりに2段階希釈系列を作り、細胞懸濁液50μlとともに2日間培養した。各々1穴ごとにMTT溶液25μlを添加し4時間反応後、培養上清100μlを捨て、アシッドプロパノール(Acid propanol)100μlを加え、590 nmの吸光度をマイクロプレイトリーダー(Microplate reader)で測定し、無処理群との比較によりIC50値を求めた。その結果、A−1211−a物質の50%増殖阻止濃度(IC50値)は0.22μg/mlを示した。
【0104】
【製剤例】
製剤例1.カプセル剤
A−1211−a物質 10mg
乳糖 50mg
トウモロコシデンプン 47mg
結晶セルロース 50mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
1カプセル当たり 160mg
上記配合割合で、常法に従いカプセル剤を調製した。
【0105】
製剤例2.注射剤
A−1211−a物質 5mg
注射用蒸留水 適量
1アンプル中 5ml
上記配合割合で、常法に従い注射剤を調製した。
【0106】
製剤例3.坐剤
A−1211−a物質 20mg
ウィテップゾールW−35 1380mg
(登録商標、ダイナマイトノーベル社製)
1個当たり 1400mg
上記配合割合で、常法に従い坐剤を調製した。
【0107】
【発明の効果】
本発明のA−1211物質は、優れたCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ阻害活性を有し、真菌感染症又は腫瘍の予防薬、治療薬として有用である。
【0108】
また本発明のA−1211物質は、抗腫瘍活性と抗真菌活性とを兼ね備えていることから、制癌治療(他の制ガン剤との併用も含む)における免疫の低下に伴って併発する真菌感染症の予防薬としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2で得られた本発明のA−1211−a物質の赤外吸収スペクトル図である。
【図2】実施例2で得られた本発明のA−1211−a物質の1H−NMRスペクトル図である。
【図3】実施例2で得られた本発明のA−1211−b物質の1H−NMRスペクトル図である。
【発明の属する技術分野】
本発明はCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対して阻害活性を有し、医薬品として有用な新規なナフトフラノン化合物及びその塩に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞増殖のシグナル伝達系に関しては、従来よりプロテインキナーゼ(protein kinase)の役割について研究が進展してきたが、近年プロテインフォスファターゼ(protein phosphatase)も重要な役割を果たしている事が明らかになってきた。一群のリン酸化酵素の中でもサイクリン依存性キナーゼ[Cyclin dependent kinase (Cdk)]は細胞周期進行の鍵となる酵素として知られており、サイクリンD等の癌化作用や癌細胞での過剰発現、並びに癌抑制遺伝子作用を有するp16、p21等といったCdkに結合する細胞内阻害蛋白(CDKI)の癌細胞における発現低下などの知見から、Cdkの活性上昇と癌細胞増殖との関わりが示唆されている。多くの癌細胞では細胞周期の制御機構に異常が生じており、Cdkは細胞周期の制御において最も重要な因子であることから、Cdkの制御物質は新しいタイプの抗腫瘍剤になると考えられている [メイジャー著 トレンド イン セル バイオロギー (Meijer, L.: Trends in cell Biology), 6, 393−397, 1996]。さらにCdkはCyclinとの結合によって活性化されて他の分子をリン酸化するが、同時にCdk自身もリン酸化と脱リン酸化を受けて活性が制御される。リン酸化されたCdkは不活性酵素となるが、これをさらに脱リン酸化し、酵素を再活性化するのがCdc25フォスファターゼである。したがって、リン酸化酵素と脱リン酸化酵素の阻害剤も、細胞周期の阻害を作用機序とする新しいタイプの抗腫瘍剤になると期待される(長田著:癌と化学療法, 24, 1541−1546, 1997)。
【0003】
現在、プロテインキナーゼ類が関与する疾患において、この酵素に対する特異的な阻害剤が求められているが、十分な物質は得られていないのが現状である。特に乳癌、頭頸部癌、胃癌等の人癌組織において、Cdc25A又はBフォスファターゼの過剰発現による癌化作用を有し、リン酸化されたCdkを基質としてチロシンのリン酸基を脱離させるCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)を特異的に抑制する阻害剤は得られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる実情を鑑みて開発されたものであり、Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対して優れた阻害活性を有する物質を提供することを目的とするものである。また本発明は、当該物質を微生物を用いて生産する方法に関し、かかる生産に有用な微生物を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは土壌より新たに数多くの微生物を分離し、それらが生産する代謝産物について医薬品として有用な新規物質の探索を続けていたところ、ノカルジア(Nocardia)属に属する一放線菌TP−A0248株の培養物中に、優れたCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ阻害活性を有し、抗真菌活性と抗腫瘍活性とを併せ持つ新規化合物が生産されていることを見い出し、その活性物質を単離し、その物理化学的性質及び構造を確定する事により本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は次の一般式(1)
【0007】
【化2】
【0008】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表されるナフトフラノン(Naphthofuranone)化合物又はその塩に係わるものである。
【0009】
従来、本発明のナフトフラノン化合物に類似する構造を有する微生物代謝産物としては、MS-444物質[ザ ジャーナル オブ アンチバイオティクス(The journal of antibiotics), 48, 94 8−953, 1995]がミオシンライトチェインキナーゼ(myosin light chain kinase)阻害剤として報告されている。
【0010】
また、本発明の化合物に類似する構造を有するものとして、ストレプトカプスデュニー(Streptocapus dunnii)の葉から分離されたデュニオン(Dunnione)とその類縁体、及びラパコ(Lapacho)樹木から分離されたβ−ラパコン(β-Lapachone)が挙げられる。これらの化合物は制癌剤として使用でき[国際出願特許公開番号WO97/31936、キャンサー リサーチ(Cancer Research), 57, 620−627, 1997]、また、デュニオン(Dunnione)については更に抗真菌剤として使用できる[国際出願特許公開番号WO97/16970]ことが報告されている。
【0011】
また、欧州特許公開番号EP0413224には、本発明の化合物と同じ基本骨格を有するナフトキノン誘導体が抗真菌剤として記載されている。しかしながら、当該公報には本発明の化合物を具体的に開示する記載はなく、よって本発明のナフトフラノン化合物は従来未知の新規化合物である。
【0012】
本発明はまた、ノカルジア(Nocardia)属に属し、上記のナフトフラノン化合物またはその塩を生産する能力を有する菌株を培地で培養し、培養物から該化合物などを分離回収することを特徴とするナフトフラノン化合物またはその塩の製造法に係わる。
【0013】
また本発明は、該ナフトフラノン化合物またはその塩を有効成分とする医薬、より具体的には真菌感染症治療剤又は腫瘍治療剤に係わるものである。
【0014】
更に、本発明は上記ナフトフラノン化合物またはその塩及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物に係わるものである。
【0015】
更にまた、本発明は上記ナフトフラノン化合物またはその塩を産生する能力を有する菌株に係わるものである。
【0016】
なお、以下本発明において上記ナフトフラノン化合物またはその塩を、便宜上「A−1211物質」と総称し、該物質を産生する菌を「A−1211物質生産菌」と称する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明のA−1211物質は次の一般式(1)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される。ここで、式中Rが水素原子である場合には、塩の態様も包含される。この塩は、特に限定されないが、薬学的に許容される塩基性化合物を作用させた塩基塩が好ましい。この塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。
【0020】
また、上記A−1211物質には光学異性体が存在し、本発明はかかる異性体及びそれらの混合物を全て包含するものである。また、上記A−1211物質は、無水の状態でもまた適当な割合で水和したものであってもよい。また結晶形のものでもアモルファス状のものであってもよい。
【0021】
一般式(1)中、Rが水素原子である本発明のA−1211物質(以下、A−1211−a物質という。)の物理化学的性質を以下に示す。
【0022】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:115〜120℃
3)分子式:C13H10O4
4)分子量:230(高分解能エレクトロンインパクトマススペクトロメトリー(HREI-MS) 法によりC13H10O4 [M+]として実験値230.0570、計算値230.0579を示す。)
5)比旋光度:クロロホルム中、C=0.25 % の濃度で測定。 [α] D 26 = −85.4°
6)紫外部吸収スペクトル:メタノール、0.001N-HCl含有メタノール、及び0.001N-NaOH含有メタノール中でそれぞれ10μg/mlの濃度で測定した:
λmax MeOH (nm) (ε): 203(16,400), 237(15,100), 259(18,000), 291(sh, 5,700), 416(br, 4,900);
λmax MeOH/HCl (nm) (ε): 202(8,500) 237(sh), 259(18,300), 293(sh, 5,800), 415(br, 5,000);
λmax MeOH/NaOH (nm) (ε): 205(15,500), 238(sh, 16,300), 259(14,400), 296(sh, 5,100), 474(br, 6,100)
7)赤外線吸収スペクトル:KBr錠剤法
IRνmax (KBr) cm-1:1640, 1620, 1580, 1450, 1410, 1320, 1270, 1030(図1)
8)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400MHz 1H−NMRスペクトル(図2)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
9)溶解性:メタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジメチルスルホキシドに可溶、水に難溶、エーテルに不溶
10)薄層クロマトグラフィー上でのRf値:キーゼルゲルプレート60F254(Merck製、 Art. 5175)を用い、展開溶媒クロロホルムで展開の場合、Rf値0.25, クロロホルム/酢酸エチル(10:1)で展開の場合、Rf値0.42を示す。
【0025】
11)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d.,GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.5.9分にピークとして検出される。
【0026】
次に、一般式(1)中、Rがメチル基である本発明のA−1211物質(以下、A−1211−b物質という。)の物理化学的性質を以下に示す。
【0027】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:79〜81℃
3)分子式:C14H12O4
4)分子量:244(エレクトロンインパクトマススペクトル(EI-MS)法。)
5)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図3)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.6.3分にピークとして検出される。
【0030】
本発明のA−1211物質は、例えば、本物質の生産能力を有する菌株(A−1211物質生産菌)を下記に示すような適当な条件下で培養することによって製造することができる。本発明はこのA−1211物質生産菌をも包含するものである。
【0031】
A−1211物質生産菌としては、ノカルジア(Nocardia)属に属する菌株が挙げられる。本発明には当該ノカルジア属に属する菌株を培地で培養し、得られる培養物から分離回収することによって得ることができるA−1211物質が包含される。
【0032】
ノカルジア属に属する菌株の一例としてはノカルジア エスピー. TP−A0248(Nocardia sp. TP-A0248) 株が例示できる。この菌株は本発明者らが富山県小杉町の土壌から新たに分離したノカルジア属に属する菌株であり、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、1998年5月25日に微生物の表示、(寄託者が付した識別のための表示)「Nocardia sp.TP−A0248」、(受託番号)「FERM BP−6372」として寄託されている。
【0033】
TP−A0248(Nocardia sp. TP-A0248) 株について、インターナショナル ストレプトミセス プロジェクト(International Streptomyces Project;ISP) が推奨したシーリングとゴットリーブの方法[インターナショナル ジャーナル オブ システィマティク バクテリオロジー (Shirling, E. B. & D. Gottlieb: International Journal of Systematic Bacteriology), 16(3), 313−340 , 1966]に準じ、培地としてワックスマン[ワックスマン著、ザ アクチノミセテス (Waksman, S. A.(Ed.): The Actinomycetes), 2, 328−334, 1961, The Williams & Wilkins Co.,発行]及び新井[新井著、カルチャー メディアフォー アクチノミセテス(Arai, T.(Ed.): Culture media for Actinomycetes), 1975, The Society for Actinomycetes発行]によって記載されたものを使用して検討したTP−A0248株の菌学的性質は次の通りである。
【0034】
(a)形態
1)胞子形成の分岐法;単純分岐
2)胞子形成の形態;円筒状の胞子が直線状に連鎖する
3)胞子の数;4〜6個
4)胞子の表面構造;細かい皺が認められる
5)胞子の大きさ;0.4〜0.6 × 1.0〜1.3μm
6)鞭毛胞子の有無;認められない
7)胞子柄の着生位置;気中菌糸より着生する
8)菌核形成性の有無;認められない
9)基生菌糸の分断の有無;認められない。
【0035】
(b)各種培地上における生育状態:7種類の培地における生育状態を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表中に記載の培養性状に関する色調名は新色名辞典(日本色研事業(株)1987年発行)に基づいて示し、色調コード番号を括弧内に付け加えた。
【0038】
本菌株は各種培地上で良く生育し、基生菌糸は明るいオレンジ色から赤褐色を呈し、成熟した粉状の気菌糸は白色から淡白色を示す。特徴的な可溶性色素の生成は認められない。
【0039】
(c)生理的性質
1)生育温度範囲;(酵母エキス/スターチ寒天培地);17〜45℃の範囲で良く生育する
2)ゼラチンの液化(グルコース/ペプトン/ゼラチン培地、27℃); 陰性
3)ゼラチンの液化(単純ゼラチン培地、20℃); 陰性
4)ミルクの凝固(37℃); 陰性
5)ミルクのペプトン化(37℃); 陰性
6)メラニン様色素の生成; チロシン寒天(ISP−7)培地上で陽性、トリプトン/酵母エキス /ブロス(ISP−1)培地上で陰性
7)澱粉の加水分解(スターチ/無機塩寒天、ISP−4培地); 陰性
8)硝酸塩の還元(1%硝酸カリウム含有ブイヨン、ISP−8培地); 陽性
9)セルロースの分解; 陰性
10)耐塩性;(酵母エキス/スターチ寒天培地);4%塩化ナトリウム存在下まで生育する。
【0040】
(d)炭素源の利用性(プリードハム/ゴトリーブ寒天、ISP−9培地): D−グルコース、D−フルクトース、グリセロールをを利用してよく生育するが、ラフィノース、D−キシロース、D−マンニトール、L−アラビノース、シュークロース、イノシトール、及びL−ラムノースは利用できない。
【0041】
(e)菌体成分の化学分類学的性質
放線菌の同定実験法[日本放線菌学会編, 62−70, 1985]、並びにレチェバリエら[ザ アクチノマイセテス(Lechevalier, H. A. & M. P. Lechevalier; The Actitinomycetes (H. Prauser, ed.), 393−405, 1970, Jena, Gustav Fischer Verlag発行]及びスタネックら[アップライド マイクロバイオロジー(Stanech, J. l.& G. D. Roberts: Applied Microbiology), 28, 226−231, 1974]によって記載された薄層クロマトグラフィー法により全菌体中の酸加水分解物を分析した結果、meso型のジアミノピメリン酸、ガラクトースおよびアラビノースの存在が確認された。このことから、本菌株の細胞壁はIV-A型に分類された。
【0042】
レチェバリエら[バイオケミカル システィマティック エコロジー( Lechevalier、M. P.、C. Debievre & H. A. Lechevalier: Biochemical systematic Ecology), 5, 249−260, 1977]によって記載された方法に従って行ったリン脂質分析からホスファチジールイノシトール、ホスファチジールエタノールアミン及びジホスファチジールグリセロールが検出された。このことからP-II型に分類された。
【0043】
コリンズら[ジャーナル オブ アップライド マイクロバイオロジー(Collins, M. D.; H. N. Shah, & D. E. Minnikin: Journal of Appilied Microbiology), 48, 277−282, 1980]によって記載された方法に従って行った本菌株の主要メナキノンはMK-8(H4)が86.6%、 MK-8(H2)が13.1%であった。
【0044】
鈴木ら[インターナショナル ジャーナル オブ システィマティック バクテリオロジー(Suzuki, K. & K. Komagata: International Journal of Systematic Bacteriology), 33, 188−200, 1983]によって記載された方法による主要脂肪酸の分析結果はhexadecanoate 23 %, 14-methylhexadecanoate 16 %, heptadecanoate 15 %, tuberculostearate 14 %, pentadecanoate 10 %, 13-methyltetradecanoate 10 %であった。
【0045】
さらに内田ら[ジャーナル オブ ジェネラル アップライド マイクロバイオロジー (Uchid, K. & K. Aida: Journal of General Applied Microbiology), 44, 193−203, 1994]によって記載された方法に従って行ったグリコレイト試験、及び矢野ら[ (矢野郁也, 富安郁子著) ミコール酸;日本放線菌学会編 放線菌の同定実験法, 104−130, 1985]によって記載された方法に従って行ったミコール酸試験はいずれも陽性の結果であった。
【0046】
以上に示したTP−A0248株の形態観察、生理学的性質、各種培地上における生育性状、菌体成分の化学分類学的性状などの分類学的性質、特にその中でも、基生菌糸より胞子の連鎖を有する気菌糸を形成すること、細胞壁組成がIV−A型であること、リン脂質がP−II型であること、主要メナキノンがMK-8(H4)であること、ミコール酸試験及びグリコレイト試験がともに陽性であること、並びに鞭毛胞子や胞子嚢等を形成しないといった性質から、本菌株はノカルジア属に属することが明らかとなった。よって本菌株をノカルジア エスピー.(Nocardia sp.) TP−A0248と称することとした。
【0047】
本発明のA−1211物質は、例えば上記TP−A0248株又はその変異株などのノカルジア属に属する各種のA−1211物質生産菌を適当な培地で培養し、次に得られる培養液から本発明物質を含む粗抽出物を分離し、更に粗抽出物からA−1211物質を単離、精製することにより製造することができる。
【0048】
上記微生物の培養は原則的に一般の微生物の培養に準じて行われるが、通常液体培養による振盪培養法、通気撹拌培養法等の好気的条件下で行うのが好ましい。
【0049】
培養に用いられる培地としては、 A−1211物質生産菌が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、天然培地等をいずれも用いることができる。培地の炭素源としてはグルコース、シュークロース、フラクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、有機酸等を単独又は二種以上組み合わせたものが;窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、尿素などの有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独又は二種以上組み合わせたものが用いられる。また、培地にはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、その他の重金属塩などが必要に応じて適宜添加される。
【0050】
なお、培養中発泡の著しい時は、例えば大豆油、亜麻仁油等の植物油、オクタデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール等の高級アルコール類、各種シリコン化合物などの消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
【0051】
培地のpHは中性付近、好ましくはpH6〜8とするのが望ましい。培養温度はA−1211物質生産菌が良好に生育する温度、通常25〜40℃、特に27〜35℃付近に保つのがよい。培養時間は、液体振盪培養及び通気撹拌培養のいずれの場合も3〜7日間程度が好ましい。
【0052】
上述した各種の培養条件は使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、またそれぞれに応じて上記範囲から最適条件を適宜選択、調節することができる。
【0053】
培養液からのA−1211物質を含む粗抽出物の分離は、発酵生産物を採取する一般的な方法に準じて行うことができ、例えば溶媒抽出、クロマトグラフィー、結晶化等の通常の手段を単独又は二種以上を任意の順序に組み合わせて用いることができる。より詳しくは、以下の方法を用いることができる。
【0054】
すなわち、上記培養により生産されるA−1211物質は主として培養濾液及び菌体中に存在するので、常法に従い、まず濾過、遠心分離等を行って、培養濾液と菌体固形分とを分離し、得られたA−1211物質を含む菌体固形分についてメタノール、アセトン等の溶媒を用いてA−1211物質の溶出を行う。次いで、減圧下に溶媒を留去すればA−1211物質を含む粗濃縮液を得ることができる。この粗濃縮液に酢酸エチル、クロロホルム、ブタノール等の水と混合しない有機溶媒を加えてA−1211物質を有機溶媒層に転溶させ、得られた溶媒層に芒硝を加えて脱水した後、溶媒を減圧下で留去すればA−1211物質を含む粗抽出物を得ることができる。更に培養濾液についても有機溶媒層に転溶させる前述と同様の操作をすれば粗抽出物を得ることができる。また、必要に応じて水酸化ナトリウム又は塩酸にてpHを調節したり、工業用食塩を加えることにより、抽出効率を高くしたり、エマルジョン生成防止などの方法を講じることができる。
【0055】
更に、粗抽出物からA−1211物質を単離、精製するためには、通常の脂溶性低分子物質の単離、精製手段、例えば活性炭、シリカゲル、アルミナ、マクロポーラス非イオン系吸着樹脂等の吸着剤による種々の吸着クロマトグラフィー又はODS−結合型シリカゲル等を用いる逆相クロマトグラフィー等が使用できる。これらのうち、溶出溶媒にクロロホルム、クロロホルム/酢酸エチル、クロロホルム/メタノール、クロロホルム/アセトン、ベンゼン/アセトン等の混合溶媒系を用いるシリカゲルクロマトグラフィー、及びアセトニトリル又はメタノール/0.05%トリフルオロ酢酸又は10mMリン酸一カリウム等の混合溶媒系を溶出に用いる逆相クロマトグラフィーが特に好ましい。また、更に精製を必要とする場合には、上記クロマトグラフィーを繰り返し行うかまたは溶出溶媒としてクロロホルム、メタノール等を用いたセファデックスLH−20(ファルマシア社製)によるカラムクロマトグラフィー等を適宜組み合わせて行うことにより、高純度のA−1211物質を得ることができる。
【0056】
なお、精製工程中のA−1211物質の確認は、Candida albicansに対する抗真菌活性又はCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性といった生理活性や薬理活性を測定する方法と、薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー等を用いた該物質の物理的性状に基づく検出方法とを併用して行うのがよい。
【0057】
Candida albicansに対する抗真菌活性、及びCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性を測定するための具体的方法については、実施例及び試験例中に記載する。また試験例に示すように、本発明のA−1211物質は、Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼに対する阻害活性、抗真菌活性、抗腫瘍活性を有している。このため本発明の物質は、上記酵素の阻害剤として有用であると共に該酵素が関連する疾患の予防・治療剤、並びに真菌感染症や腫瘍に対する予防・治療剤の有効成分として有用である。
【0058】
かかる観点から、本発明はまた、以上のように製造、精製されるA−1211物質を有効成分とする医薬組成物を提供する。
【0059】
本発明のA−1211物質は、後述する試験例で示すように、特にアスペルギルス(Aspergillus)属、トリコフィトン(Trichophyton)属等に属する糸状菌;カンジタ(Candida)属、クリーベロミセス(Kluyveromyces)属に属する菌;クリプトコッカス(Cryptococcus)属等に属する菌等の真菌に対して抗菌活性を有する。従って、本発明の真菌感染症治療剤は、かかる真菌が原因菌となる疾病に対して広く適用することができる。例えば、適用疾病として、呼吸器アスペルギルス症,全身性アスペルギルス症,皮膚や爪のアスペルギルス症等を含むアスペルギルス症;トリコフィトン属による白癬症;口腔カンジダ症,気管支・肺カンジダ症,膣炎,尿路感染症,髄膜炎,敗血症等を含むカンジダ症;髄膜炎,肺真菌症,皮膚クリプトコッカス症等を含むクリプトコッカス症を挙げることができる。
【0060】
また、本発明のA−1211物質は、後述する試験例で示すように、U937(人組織球性リンパ腫)の癌細胞に対して抗腫瘍活性を示し、またP388(マウス白血病細胞)、HeLa(人由来子宮頚部扁平上皮癌細胞)、KB(人由来口腔表皮扁平上皮癌細胞)、SBC-5(人由来非小細胞性肺癌細胞)の癌細胞に対しても同様に抗腫瘍活性を示す。従って、本発明の抗腫瘍剤は、主に肺癌、乳癌、胃癌、子宮癌、大腸癌等の上皮性悪性腫瘍;肉腫等の非上皮性悪性腫瘍;悪性リンパ腫;白血病等の疾病に対して適用することができる。
【0061】
A−1211物質を医薬組成物として使用する際の投与形態は目的に応じて各種の薬学的投与形態を広く採用でき、該形態として具体的には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、丸剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤;注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、エアゾール剤、点眼剤等の非経口剤等が例示される。これら投与形態は、それぞれ当業者に公知慣用の製造方法により製造できる。
【0062】
経口用固形製剤は、本発明の有効成分A−1211物質に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えて、常法に従って錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤等として製造することができる。賦形剤としては、例えば乳糖、蔗糖、澱粉、タルク、ステアリン酸マグネシウム、結晶セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム及びアラビアゴム等が、結合剤としてはポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、アラビアゴム、シェラック及び白糖等が、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド及び乳糖等が、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム及びタルク等が、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸及び酒石酸等が使用できる。その他、着色剤、矯臭剤等として通常公知のものを用いることができる。なお、錠剤は周知の方法によりコーティングしてもよい。
【0063】
経口用液体製剤は、本発明の有効成分A−1211物質に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法に従って内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等として製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム及びゼラチン等が使用できる。
注射剤は、本発明の有効成分A−1211物質にpH調製剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤及び局所麻酔剤等を添加し、常法に従って調製することにより、静脈内、筋肉内、皮下、皮内並びに腹腔内用の注射剤が製造できる。pH調製剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びリン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸及びチオ乳酸等が使用できる。等張化剤としては塩化ナトリウム及びブドウ糖等が、局所麻酔剤としては塩酸プロカイン及び塩酸リドカイン等が使用できる。
【0064】
坐剤は、本発明の有効成分A−1211物質に基剤、さらに必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法に従って調製することで製造できる。基剤としては、例えばマクロゴール、ラノリン、カカオ油、脂肪酸トリグリセライド、ウィテップゾール(ダイナマイトノーベルズ社製)等の油性基剤を用いることができる。
【0065】
軟膏剤は、本発明の有効成分A−1211物質に通常使用される基剤、安定化剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合し、常法により混合して製剤化される。基剤としては流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール及びパラフィン等が、保存剤としてはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピル等が使用できる。
【0066】
貼付剤は、通常の支持体に前記本発明の有効成分を含む軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布することによって製造できる。支持体としては綿、スフ、化学繊維からなる織布や不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが使用できる。
【0067】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明有効成分A−1211物質の量は、これを適用すべき患者の症状や年齢・体重により、あるいはその剤型等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり経口剤では約1〜1000mg、注射剤では約0.1〜500mg、坐剤では約5〜1000mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別、その他の条件等に応じて適宜選択されるが、通常成人1日あたり約0.1〜1000mg/kg、好ましくは約1〜100mg/kgとすれば良く、これを1日1回又は2〜4回程度に分けて投与することができる。
【0068】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げて更に具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
実施例1. A−1221−a物質の製造
(a)培養工程
可溶性デンプン 1.0%、グルコース 0.5%、エヌゼットケース(NZ-case) 0.3%、酵母エキス 0.2%、トリプトン 0.5%、リン酸水素ニカリウム 0.1%、硫酸マグネシウム・七水和物 0.05%、沈降性炭酸カルシウム 0.3%より成る培地(pH7.0)100mlを500ml容のK型フラスコに分注し、滅菌(121℃、20分間)後、ノカルジア エスピー.TPーA0248株(受託番号FERM BP−6372)を一白菌耳接種し、30℃で4日間振盪培養して、種菌とした(毎分200回転)。次にグルコース 0.5%、グリセロール 2.0%、可溶性デンプン 2.0%、ファーマメディア 1.5%、酵母エキス 0.2%、ダイアイオンHP−20(Diaion HP−20、三菱化成製)1.0%よりなる培地(pH7.0)を500ml容のK型フラスコに分注し、100mlずつ分注し、滅菌(121℃、20分間)後、上記の種菌を5%(v/v)の割合で加え、30℃で6日間回転振盪培養した(毎分200回転)。
【0070】
(b)分離工程
培養終了後、直ちに培養液を遠心(8000回転、15分間)分離後、菌体部分と瀘液部分に分離した。得られた培養瀘液(4.5リットル、pH6.5)を希塩酸でpH2〜3に調整し、酢酸エチル(2.2リットル)二回攪拌抽出した。また菌体部分はメタノール (2.5リットル) で3回攪拌抽出し、瀘過後、このメタノール抽出液を減圧濃縮してメタノールを留去し、酢酸エチル(0.5リットル)で2回攪拌抽出した。この2つの酢酸エチル抽出液を合わせ、無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮して褐色油状の粗抽出物 (4.83 g) を得た。
【0071】
(c)単離、精製工程
上記粗抽出物をクロロホルム(5ml)に溶解し、シリカゲル(メルク社製、キーゼルゲル、270 x 45 mm, i.d.) カラムに吸着させ、溶出溶媒にクロロホルムを用い40mlずつ分画した。溶出画分の薄層クロマトグラフィー法及び高速液体クロマトグラフィー法での検出、 Candida albicansに対する抗真菌活性を調べることにより、A−1211−a物質を含む活性画分を確認した。この活性画分を集め、溶媒を留去後乾固して褐色油状物質(160mg)を得た。
【0072】
A−1211物質を含む活性画分を検出するための Candida albicans に対する抗真菌活性の測定は以下に示すようなペーパーディスク法により行った。
【0073】
すなわち、イーストナイトロジェンベース(yeast nitrogen base, Difco社製)0.65%、グルコース0.5%、リン酸水素二カリウム0.36%、リン酸水素二ナトリウム0.57%、寒天1.3%から成る培地(pH7.0)で下層寒天平板を作り固化後、上層にCandida albicansの菌液(0.1%)を含む同培地の寒天平板を作成後、固化する。
【0074】
A−1211物質を含む画分を市販ペーパーディスクにしみ込ませ、寒天平板上に載せ、37℃で18時間培養後に現れる Candida albicans に対する阻止円直径を測定することにより検出した。
【0075】
得られた褐色油状物質をメタノール(5ml)に溶解し、その一部を逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/10mMリン酸二水素ナトリウム(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)7.6分を示すピークを分取精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去し、水溶液を酢酸エチル(100ml)で2回攪拌抽出した。有機溶媒を減圧下留去後、 A−1221-a物質精製品(8.0mg)を得た。
【0076】
得られたA−1221-a物質の物理化学的性質を以下に示す。
【0077】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:115〜120℃
3)分子式:C13H10O4
4)分子量:230(高分解能エレクトロンインパクトマススペクトロメトリー(HREI-MS) 法によりC13H10O4 [M+]として実験値230.0570、計算値230.0579を示す。)
5)比旋光度:クロロホルム中、C=0.25 % の濃度で測定。 [α] D 26 = −85.4°
6)紫外部吸収スペクトル:メタノール、0.001N-HCl含有メタノール、及び0.001N-NaOH含有メタノール中でそれぞれ10μg/mlの濃度で測定した:
λmax MeOH (nm) (ε): 203(16,400), 237(15,100), 259(18,000), 291(sh, 5,700), 416(br, 4,900);
λmax MeOH/HCl (nm) (ε): 202(8,500) 237(sh), 259(18,300), 293(sh, 5,800), 415(br, 5,000);
λmax MeOH/NaOH (nm) (ε): 205(15,500), 238(sh, 16,300), 259(14,400), 296(sh, 5,100), 474(br, 6,100)
7)赤外線吸収スペクトル:KBr錠剤法:
IRνmax (KBr) cm-1:1640, 1620,1580, 1450, 1410, 1320, 1270, 1030(図1)
8)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図2)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
上記位置を下記構造式に示す。
【0080】
【化4】
【0081】
9)溶解性:メタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジメチルスルホキシドに可溶、水に難溶、エーテルに不溶
10)薄層クロマトグラフィー上でのRf値:キーゼルゲルプレート60F254(Merck製、 Art. 5175)を用い、展開溶媒クロロホルムで展開の場合、Rf値0.25, クロロホルム/酢酸エチル(10:1)で展開の場合、Rf値0.42を示す11)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.5.9分にピークとして検出される。
【0082】
実施例2.A−1221 -a 物質及びA−1221 -b 物質の製造
(a)培養工程
実施例 1と同様の条件にて、30℃、6日間の回転振盪培養(毎分200回転)を実施した。
【0083】
(b)分離工程
培養終了後、直ちに培養液を遠心(8000回転、15分間)分離後、菌体部分と瀘液部分に分離した。得られた培養瀘液(10.7リットル、pH 6.5)を希塩酸でpH2〜3に調整し、酢酸エチル(3.0リットル)で二回攪拌抽出した。また菌体部分はメタノール (3.0リットル) で3回攪拌抽出し、瀘過後、このメタノール抽出液を減圧濃縮してメタノールを留去し、酢酸エチル(1リットル)で2回攪拌抽出した。この2つの酢酸エチル抽出液を合わせ、無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮して褐色油状の粗抽出物 (8.38 g) を得た。
【0084】
(c)単離、精製工程
上記粗抽出物をクロロホルム(15 ml)に溶解し、シリカゲル(メルク社製、キーゼルゲル、370 x 65 mm, i.d.) カラムに吸着させ、溶出溶媒にクロロホルムを用い60 mlずつ分画した。溶出画分の薄層クロマトグラフィー法及び高速液体クロマトグラフィー法での検出、 Candida albicansに対する抗真菌活性を調べることにより、A−1211−a物質及びA−1211−b物質を含む活性画分をそれぞれ確認した。この活性画分をそれぞれ集め、溶媒を留去後乾固して褐色油状粗物質としてA−1211−a物質画分(700mg)及びA−1211−b物質画分(60mg)を得た。
【0085】
A−1211−a物質画分はクロロホルム/メタノール(1:1)6mlに溶解し、その1/3容量をセファデックス LH−20(ファルマシア製、950x23mm,i.d.)に吸着させ、溶出溶媒クロロホルム/メタノール(1:1)を用いて溶出、分画を行った。前述したHPLC法並びにCandida albicansに対する抗菌活性を調べることによりA−1211−a物質を含む活性画分を検出し、活性画分を集め、有機溶媒を減圧下留去後、褐色物質(78.6 mg)を得た。
【0086】
得られた褐色物質をメタノール(2ml)に溶解し、逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)7.6分を示すピークを繰り返し分取することにより精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去した後、水溶液を凍結乾燥し、 A−1221-a物質精製品(24.5mg)を得た。
【0087】
得られたA−1221-a物質の物理化学的性質は実施例1.で得られたA−1221-a物質のデータと一致した。
【0088】
次に、 A−1211−b物質画分はクロロホルム/メタノール(1:1)6mlに溶解し、その1/3容量をセファデックス LH−20(ファルマシア製、950x23 mm,i.d.)に吸着させ、溶出溶媒クロロホルム/メタノール(1:1)を用いて溶出、分画を行った。前述したHPLC法並びにCandida albicansに対する抗菌活性を調べることによりA−1211−b物質を含む活性画分を検出し、活性画分を集め、有機溶媒を減圧下留去後、褐色物質(12.6 mg)を得た。
【0089】
得られた褐色物質をメタノール(2ml)に溶解し、逆相型シリカゲルカラム(GLサイエンス製、Inertsil ODS−2,250x4.6 mm,i.d.)を用いた高速液体クロマトグラフィーによって、移動相;アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速;4.0ml/min、検出;230nmの条件下で、保持時間(Rt)8.5分を示すピークを繰り返し分取することにより精製した。溶出画分を集め、有機溶媒を減圧下留去した後、水溶液を凍結乾燥し、 A−1221-b物質精製品(1.2mg)を得た。
【0090】
得られたA−1221-b物質の物理化学的性質を以下に示す。
【0091】
1)形状:赤褐色粉末
2)融点:79〜81℃
3)分子式:C14H12O4
4)分子量:244(エレクトロンインパクトマススペクトル(EI-MS)法。)
5)核磁気共鳴スペクトル:重クロロホルム中30℃で測定した400 MHz 1H−NMRスペクトル(図3)及び100MHz 13C-NMRスペクトルの化学シフトを表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
上記位置を下記構造式に示す。
【0094】
【化5】
【0095】
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における保持時間(Rt):逆相系ODSシリカゲルカラム(Inertsil ODS-2, 250 x 4.6 mm, I.d., GLサイエンス製)を用い、移動相アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(60:40)、流速0.8ml/min、検出230nmで分析すると、Rt.6.3分にピークとして検出される。
【0096】
【試験例】
試験例1.酵素阻害活性の測定
本発明のA−1211−a物質のCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対する阻害活性の測定は以下のように行った。
【0097】
すなわち、適当な濃度にジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide)で希釈した検体を含む50 mM塩化ナトリウム(Sodium chlolide)、5mMジチオスレイトール(Dithiothreitol)からなる10mM HEPES緩衝液(N-2-hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethansulfonic acid, pH8.0)、50μl;200 mM パラ-ニトロフェニールリン酸二ナトリウム六水塩(Disodium p-nitrophenylphosphate hexahydrate)、25μl;Cdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase、200mU/ml)、25μlを加えて、37℃で60分間インキュベートした。反応終了後、マイクロプレートリーダー(Microplate reader)にてOD415nmの吸光度を測定した。対照として、阻害剤を添加しない酵素反応系を作成し、次式により酵素阻害活性を算出した。
【0098】
酵素阻害活性(%)= [1−(B−D/A−C)]× 100
ここでAは阻害物質を含まない反応系での吸光度、Bは各種濃度の阻害物質を含む反応系での吸光度、C、DはA、Bそれぞれの酵素を添加しない反応系での吸光度を示す。
【0099】
各種濃度の阻害物質により得られた阻害率は縦軸にプロビット、横軸に濃度の対数をとったグラフに挿入し、各点を結んだ直線が得られれば、この直線から50%阻害濃度を求めた。
【0100】
本発明のA−1211−a物質のCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)に対する阻害活性を測定した結果、その50%阻害濃度(IC50)は17μMであった。
【0101】
試験例2.抗真菌活性の測定
本発明の物質の酵母及び糸状菌といった真菌類に対する抗真菌活性を系列寒天平板希釈法により以下の様に測定した。A−1211−a物質をジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide)で10mg/mlに溶解後、適当な濃度になるように2段階希釈系列を作り、 A−1211−a物質を含むサブロー(Sabouraud)寒天平板培地(日水製薬社製)を作製した。そして、各種被験菌(約106細胞/ml)に対する抗真菌活性を、30℃における、酵母類に対して18時間、糸状菌に対して36時間の培養後の最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)でもって表示した。その結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
試験例3.抗腫瘍活性
U937細胞(組織球性リンパ腫患者の胸水由来の樹立細胞株)に対する50%増殖阻害濃度(IC50)を以下のように測定した。10% 仔牛血清を添加したアールピーエムアイ1640培地(RPMI 1640 medium、日水製薬社製)を用い、U937細胞を5%炭酸ガスインキュベーター中37℃で培養し、5×104細胞/mlを調製した。そしてA−1211−a物質をジメチルスルホキシドに溶解後、適当な濃度になるように培地50μlとともに96穴アッセイプレート1穴当たりに2段階希釈系列を作り、細胞懸濁液50μlとともに2日間培養した。各々1穴ごとにMTT溶液25μlを添加し4時間反応後、培養上清100μlを捨て、アシッドプロパノール(Acid propanol)100μlを加え、590 nmの吸光度をマイクロプレイトリーダー(Microplate reader)で測定し、無処理群との比較によりIC50値を求めた。その結果、A−1211−a物質の50%増殖阻止濃度(IC50値)は0.22μg/mlを示した。
【0104】
【製剤例】
製剤例1.カプセル剤
A−1211−a物質 10mg
乳糖 50mg
トウモロコシデンプン 47mg
結晶セルロース 50mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
1カプセル当たり 160mg
上記配合割合で、常法に従いカプセル剤を調製した。
【0105】
製剤例2.注射剤
A−1211−a物質 5mg
注射用蒸留水 適量
1アンプル中 5ml
上記配合割合で、常法に従い注射剤を調製した。
【0106】
製剤例3.坐剤
A−1211−a物質 20mg
ウィテップゾールW−35 1380mg
(登録商標、ダイナマイトノーベル社製)
1個当たり 1400mg
上記配合割合で、常法に従い坐剤を調製した。
【0107】
【発明の効果】
本発明のA−1211物質は、優れたCdc25Bプロテインチロシンフォスファターゼ阻害活性を有し、真菌感染症又は腫瘍の予防薬、治療薬として有用である。
【0108】
また本発明のA−1211物質は、抗腫瘍活性と抗真菌活性とを兼ね備えていることから、制癌治療(他の制ガン剤との併用も含む)における免疫の低下に伴って併発する真菌感染症の予防薬としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2で得られた本発明のA−1211−a物質の赤外吸収スペクトル図である。
【図2】実施例2で得られた本発明のA−1211−a物質の1H−NMRスペクトル図である。
【図3】実施例2で得られた本発明のA−1211−b物質の1H−NMRスペクトル図である。
Claims (10)
- ノカルジア(Nocardia)属に属し、請求項1記載のナフトフラノン化合物又はその塩を生産する能力を有する菌株を培地に培養し、培養物から該化合物又はその塩を分離することを特徴とする請求項1記載のナフトフラノン化合物又はその塩の製造法。
- 菌株がノカルジア エスピー.TP−A0248(Nocardia sp.TP-A0248)株又はその変異株である請求項2記載のナフトフラノン化合物又はその塩の製造法。
- 請求項1記載のナフトフラノン化合物又はその塩を有効成分とする医薬。
- 真菌感染症治療剤である請求項4記載の医薬。
- 有効量の請求項1記載のナフトフラノン化合物又はその塩及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
- 真菌感染症治療用である請求項6記載の医薬組成物。
- 請求項1記載のナフトフラノン化合物又はその塩を産生する能力を有する菌株。
- ノカルジア(Nocardia)属に属する請求項8記載の菌株。
- ノカルジア エスピー.TP−A0248(Nocardia sp. TP-A0248)株又はその変異株である請求項8又は請求項9記載の菌株。
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