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JP3887435B2 - スフェロイド形成促進剤 - Google Patents

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JP3887435B2 JP20287696A JP20287696A JP3887435B2 JP 3887435 B2 JP3887435 B2 JP 3887435B2 JP 20287696 A JP20287696 A JP 20287696A JP 20287696 A JP20287696 A JP 20287696A JP 3887435 B2 JP3887435 B2 JP 3887435B2
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第一製薬株式会社
和守 船津
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スフェロイド形成促進剤に関する。さらに本発明は、スフェロイド形成促進剤を用いた、人工肝臓に関する。本発明により、短期間で効率的に人工肝臓の基礎となる肝細胞スフェロイドを形成することができ、効率のよい人工肝臓を提供することができる。尚本発明でいうスフェロイドとは、肝細胞が 100個以上集合して組織構造をとった集合体である。
【0002】
【従来の技術】
現在、国内において肝炎、肝臓癌等の肝疾患に罹患している患者は約 160万人に達するとも言われており、その治療のために、人工肝臓の開発が切望されている。人工肝臓は、心臓におけるポンプ機能を補う人工心臓や、腎臓における透析機能を補う人工腎臓のような単純なものではなく、生命維持に不可欠な物質の合成貯蔵や、毒性物質の解毒排泄等に携わる 500種以上にも及ぶ複雑な機能を要求される。このため、近年では、広範な肝機能を有する培養肝細胞そのものを何らかの方法で固定化し、これに肝機能補助を行わせるというハイブリッド型人工肝臓の研究開発が主流となっている。これにより、一時的な肝機能補助が可能となり、その結果肝再生による肝機能回復や、肝移植までの延命が行えるものと期待される。又、最近では動物愛護の観点から、各種動物実験の見直しが検討されており、その中で臓器シミュレーターの概念が提案され、これが動物実験代替法(臓器シミュレーター)になり得るものとして期待されている。
【0003】
劇症肝炎では、経過中に意識障害をはじめとする重篤な肝不全症状が現れ、短期間のうちに死亡する予後不良な病態を示し、死亡率は80〜90%にものぼる。しかしこの場合、2週間という短期間でも人工肝臓を用いて悪化した肝臓を休ませることができれば、発病初期において肝臓内に生存する十分な数の正常細胞が増殖して悪化した細胞を更新し、肝機能の再生が可能であると言われている。これが可能になるためには、ヒト肝臓機能の数分の一に相当する機能を有し、且つそれが2週間以上持続する装置(人工肝臓)を開発することが必要である。
【0004】
人工肝臓製造の試みとして、遊離肝細胞浮遊培養法として、犬遊離肝細胞封入PMMA膜モジュールを用いるにより成犬が最長86時間生存した例(葛西ら、人工臓器、14巻、 228頁、1985年)、遊離肝細胞単層培養法として、犬培養肝細胞平板積層型人工肝をを用いることにより成犬が65時間生存した例(J.Uchino et al., ASAIO Trans., Vol.34, p972 (1988))、ゲルビーズ被包化肝細胞培養法として、アルギニン酸カルシウムゲルビーズ被包化肝細胞が7日間肝機能を維持した例(Y.Miura et al., Artificial Organs, Vol.10, p460 (1986))、及び回転ディスク型人工肝により6時間以上肝機能が維持された例(大島ら、人工臓器、18巻、1273頁、1989年)、バイオマトリックス培養法として、プロテオグリカンコートによる肝細胞スフェロイドが培養により2週間以上、及びアルギン酸カルシウムゲルによるカプセル化肝細胞スフェロイドが液噴流層培養により64時間以上肝機能が維持された例(N.Koide et al., Exp.Cell Res., Vol.186, p227 (1990))、PVFを用いた肝細胞が高密度培養により50時間以上肝機能が維持された例(大島ら、人工臓器、20巻、162 頁、1991年)、ポリリジンコートした肝スフェロイドが培養により3週間以上肝機能が維持された例(鈴木ら、化学工学論文集、17巻、667 頁、1991年)、或いは本発明者らによるPUF(ポリウレタンフォーム)孔内の肝細胞スフェロイドが培養により3週間以上肝機能が維持された例(T.Matushima et al., Appl.Microbiol.Biotechnol., Vol.36, p324 (1991) 等)等が報告されている。このように、現在までに様々な人工肝臓の製造の試みがなされてきたが、この中でも特に本発明者らによるPUFを用いた方法が簡便且つ効率的であることがわかる。又、本発明者らは多細管型PUF/スフェロイド充填層人工肝臓を用いることにより、血中アンモニアの解毒代謝を良好に行うことができるという知見(松下ら、人工臓器、24巻、3号、815-820 頁、1995年) も得ている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの状況に鑑み、本発明者らは、肝細胞スフェロイドの形成を促進する物質を求めて鋭意探索した結果、肝細胞増殖因子であるTCF−II(以下、TCFと略記することもある)と上皮細胞増殖因子(EGF)を組み合わせて用いることにより、従来と比較して飛躍的に肝細胞スフェロイドの形成を促進することを見出した。即ち本発明は、新規な肝細胞スフェロイドの形成促進剤を提供することを目的とする。さらに、具体的には、肝細胞増殖因子及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有するスフェロイド形成促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、スフェロイド形成促進剤を用いた、効率的な人工肝臓を提供することを課題とする。
【0006】
【発明を解決するための手段】
本発明は、肝細胞増殖因子及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有することを特徴とするスフェロイド形成促進剤に関する。本発明における肝細胞増殖因子としては、TCF−II (腫瘍細胞障害因子) 、HGF、TGF−β、インシュリン、IGF等が用いられるが、その活性からみてTCF−IIを用いることが望ましい。
また、本発明は、前記のスフェロイド形成促進剤を含有させた人工肝臓に関する。
本発明により、人工肝臓の基礎となる肝細胞スフェロイドの形成を短期間で効率的に行なうことができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるTCF−IIは、ヒト線維芽細胞由来の公知の蛋白質であり、ヒト線維芽細胞由来のものは下記の特性を有する。
Figure 0003887435
【0008】
上記TCF−IIは、ヒト線維芽細胞培養液を濃縮しイオン交換体に吸着させ、その溶出液をアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製する方法(WO90/10651号公報)や、或いは遺伝子工学的手法(WO92/01053号公報)によって得られる。この時、宿主細胞又は微生物の違いによる糖鎖の異なったものや、糖鎖の結合していないものであっても使用可能である。しかし、糖鎖は生体内の代謝速度に関係しているため、糖鎖の結合しているものを用いることが望ましい。これらの方法により得られたTCF−IIは、通常の単離精製法によってさらに濃縮、精製することができる。例えば、有機溶媒による沈殿法、塩析、ゲル濾過、モノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマト、電気泳動法等が挙げられる。モノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマトによる精製は、特開平5−97号公報に開示されているモノクローナル抗体を用いて精製することができる。得られた精製TCF−IIは、凍結乾燥或いは凍結保存することができる。
【0009】
又、上皮細胞増殖因子(EGF)については、広く市販されており、一般に入手可能である。
本発明のスフェロイド形成促進剤における肝細胞増殖因子と上皮細胞増殖因子との使用割合は前者10〜10,000に対し、後者 0〜50とすることが望ましい。従って、本発明のスフェロイド形成促進剤は、肝細胞増殖因子10〜10,000と上皮細胞増殖因子 0〜50とを液剤のような剤の形態とすることが好ましい。
人工肝臓としては、従来知られている人工肝臓であればどのようなものでも使用できるが、特に本発明者らによって開発された前記した多細管型ポリウレタンフォーム(PUF)/スフェロイド充填層人工肝臓に用いることが望ましい。
【0010】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0011】
【実施例1】
TCF− II の精製
WO90/10651号公報に開示された方法及び東尾らの方法(Higashio,K. et al, B.B.R.C., vol.170, pp397-404 (1990)) に準じて細胞を培養し、精製TCF−IIを得た。ヒト繊維芽細胞IMR-90(ATCC CCL 186) 細胞を5%仔牛血清を含むDMEM培地100ml をいれたローラーボトルに3×106 個移植し、 0.5〜2回転/分の回転速度で回転させながら7日間培養を続けた。総細胞数が1×107 個になったところでトリプシンにより細胞を剥離し細胞をボトル底面に集め、5〜9メッシュのセラミック100g(東芝セラミック社製)を殺菌して投入し、24時間静置して培養した。その後、上記培養液を500ml 加え、培養を継続した。7〜10日ごとに培地を全量回収し、新鮮培地を補給した。このようにして2ヵ月間生産を継続し、ローラーボトル一本当たり4lの培養液を回収した。このようにして得た培養液当たりの比活性は32u/mlであった。培養液750lをメンブランフィルター(MW6000カット;アミコン社製)処理によりUF濃縮し、CMセファデックスC−50(ファルマシア社製)、Con Aセファロース(ファルマシア社製)、MonoSカラム(ファルマシア社製)、ヘパリンセファロース(ファルマシア社製)による4段階のクロマト精製を行い、精製TCF−IIを得た。
【0012】
【実施例2】
遺伝子組換TCF− II の生産
WO92/01053号公報に開示された方法に従い、TCF−II遺伝子を組み込んだ細胞を培養し、精製TCF−IIを得た。形質転換ナマルバ(Namalwa) 細胞を培養し、培養液 20lを得た。この培養液をCM−セファデックスC−50クロマト(ファルマシア社製)、Con −AセファロースCL−6Bクロマト(ファルマシア社製)、MonoSカラム(ファルマシア社製)を装着したHPLCの順に処理を行い、約11mgの活性TCF−IIを得た。
【0013】
【実施例3】
肝細胞スフェロイド形成の評価
ラット初代肝細胞を用いて、ポリウレタンフォーム(PUF)を用いた培養における肝細胞スフェロイドの形成を確認した。即ち、Wistar系雄性ラットからコラゲナーゼ還流により調製した 3×106 個のラット初代肝細胞を、PUFシート (25×25×1mm)を入れた培養ディッシュ(直径35mm、岩城硝子社)に播種し、HDM培地(William's 培地E(シグマ社)10.8g/L に、50ng/ml EGF、10mg/Lインシュリン(シグマ社)、0.1 μM 硫酸銅・5水和物(和光純薬社)、3 μg/L セレン酸(和光純薬社)、50pM硫酸亜鉛・7水和物(和光純薬社)、50mg/Lリノレン酸(シグマ社)、58.8mg/Lペニシリン(明治製菓社)、100mg/L ストレプトマイシン(明治製菓社)、1mg/L アムホテリシンB(シグマ社)、1.05g/L 炭酸水素ナトリウム(和光純薬社)、1.19g/L HEPES(同人堂社)を加えた培地)を用いて37℃で培養した。この時、EGFと実施例2で得られたTCF−IIを表1の濃度に従って添加し、肝細胞スフェロイドの形成を表2に従って経時的に評価した。結果を表3及び図1〜図4に示す。又、TCF無添加で、EGFを無添加又は50ng/ml 添加した時のスフェロイド形成の結果を、表4に示す。
【0014】
【表1】
Figure 0003887435
【0015】
【表2】
Figure 0003887435
【0016】
【表3】
Figure 0003887435
【0017】
【表4】
Figure 0003887435
【0018】
表4の結果より、EGFを添加することにより、肝細胞スフェロイドの形成が促進された。さらに表3及び図1〜4の結果より、TCFとEGFを添加することにより、EGFのみを添加した系と比較しスフェロイドの形成が促進され、これは50ng/ml EGF存在下でTCF濃度が100〜10000ng/mlの時に顕著であった。又、TCFのみを添加した系では、TCFとEGFを両方添加した系に比較して、若干スフェロイドの形成が遅かった。これらの結果より、TCFとEGFを共存させることにより、肝細胞スフェロイドの形成が促進されることが確認された。
【0019】
【実施例4】
アルブミン合成分泌活性の測定
実施例3と同様の方法によりラット初代肝細胞を播種し、PUFシートに入れた培養ディッシュにHDM培地を用いて培養した培地内のアルブミン活性を測定した。即ち、2日間培養した培地に含まれるアルブミン濃度を、ELISAmate (Kirkegaad & Perry Laboratories, Inc) によって測定した。この時、一次抗体としてヤギ由来IgG画分を、二次抗体としてヒツジ由来ペルオキシダーゼ標識IgG画分(いずれもOrganon Teknika 社)を用いた。結果を図2に示す。
【0020】
図5(B)の結果より、TCFとEGFを添加することにより、TCFのみを添加した系と比較して、著明にアルブミン合成が促進された。又、 図5(A )の結果より、アルブミン合成は50ng/ml EGF存在下でTCF濃度が100〜10000ng/mlの時に特に顕著であった。この結果、TCFとEGFを共存させることにより、肝細胞スフェロイドの形成が促進され、それらが機能していることが確認された。
【0021】
【発明の効果】
これらの結果より、本発明により肝細胞増殖因子及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有することを特徴とする、スフェロイド形成促進剤が提供される。詳しくは、肝細胞増殖因子TCF−II及び上皮細胞増殖因子を有効成分として含有することを特徴とする、スフェロイド形成促進剤が提供される。さらに本発明により、スフェロイド形成促進剤を用いた人工肝臓が提供される。本発明により、人工肝臓の基礎となる肝細胞スフェロイドを、短期間で効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3において、EGF 50ng/mlのみを加えて、ポリウレタンフォームでラット初代肝細胞を培養した時の、1.19日経過後のスフェロイド形成の状態を示す。
【図2】実施例3において、TCF−II 100ng/ml とEGF 50ng/mlを加えて、ポリウレタンフォームでラット初代肝細胞を培養した時の、1.19日経過後のスフェロイド形成の状態を示す。
【図3】実施例3において、EGF 50ng/mlのみを加えて、ポリウレタンフォームでラット初代肝細胞を培養した時の、2.66日経過後のスフェロイド形成の状態を示す。
【図4】実施例3において、TCF−II 100ng/ml とEGF 50ng/mlを加えて、ポリウレタンフォームでラット初代肝細胞を培養した時の、2.66日経過後のスフェロイド形成の状態を示す。
【図5】実施例4で培養した時の肝細胞のアルブミン合成分泌活性を示す。
(A)TCF−IIとEGFとを併用した時
(B)TCF−IIとEGFとを併用あるいはTCF−II単独添加の時

Claims (4)

  1. 腫瘍細胞障害因子(TCF−II)及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有するスフェロイド形成促進剤。
  2. 上皮細胞増殖因子(EGF)の50重量濃度に対し腫瘍細胞障害因子(TCF−II)が100〜10000重量濃度であることを特徴とする腫瘍細胞障害因子(TCF−II)及びEGFを有効成分として含有するスフェロイド形成促進剤。
  3. ポリウレタンフォーム(PUF)に肝細胞を播種する工程と、腫瘍細胞障害因子(TCF−II)及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有するスフェロイド形成促進剤を用いてスフェロイドを形成する工程を含む人工肝臓の製造方法。
  4. ポリウレタンフォーム(PUF)に肝細胞を播種し、腫瘍細胞障害因子(TCF−II)及び上皮細胞増殖因子(EGF)を有効成分として含有するスフェロイド形成促進剤を用いてスフェロイドを形成し作成された人工肝臓。
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