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JP3872630B2 - 動圧流体軸受装置及び電動機 - Google Patents

動圧流体軸受装置及び電動機 Download PDF

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JP3872630B2 JP2000086041A JP2000086041A JP3872630B2 JP 3872630 B2 JP3872630 B2 JP 3872630B2 JP 2000086041 A JP2000086041 A JP 2000086041A JP 2000086041 A JP2000086041 A JP 2000086041A JP 3872630 B2 JP3872630 B2 JP 3872630B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸部から張り出したスラスト板部を有してなる軸体とスリーブ体との一方に対し他方が潤滑液を介し回転自在に支持されてなる動圧流体軸受装置及びその動圧軸受装置を備えた電動機に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスク駆動用のスピンドルモータ等の電動機においては、高速化並びに低振動(騒音)を目的に、軸受装置として動圧流体軸受を使用したものが提案されている。図5はこの種の動圧流体軸受装置を備えたハードディスク駆動用のスピンドルモータ(電動機)についての断面図を示したものである。
【0003】
図5における軸受装置は、軸部aの下端にスラスト板部bを有する上下方向の回転軸体cが、軸部aにスリーブ嵌合したスリーブ部dとスラスト板部bに外嵌した半径方向内方開口の環状のスラスト溝部eとを有し下端部が閉塞されてなる固定スリーブ体fに対し、潤滑液を介し回転自在に支持されてなる。
【0004】
スリーブ部dと軸部aの間には、それぞれ動圧発生用のヘリングボーン溝部が設けられた上ラジアル軸受部g及び下ラジアル軸受部hが形成され、両者の間に半径方向間隙拡大部iが設けられている。この間隙拡大部iは、固定スリーブ体fに設けられた通気孔jを介して外部(スピンドルモータ内における固定スリーブ体fの外部)に連通し、ロータkとブラケットlの間隙mを介して外気に通じている。
【0005】
また、間隙拡大部iは、回転軸体cに設けられた半径方向通気孔n及び軸線方向通気孔oを介して回転軸体cの下端の凹部pに連通している。スラスト板部bと軸部aの間には軸線方向の呼吸孔qが設けられ、スラスト板部b内には、呼吸孔qの軸線方向中間位置とスラスト板部bの外周面を連通する呼吸孔rが設けられている。
【0006】
スラスト板部bの上下面とスラスト溝部eの上下面の間には、それぞれ動圧発生用のヘリングボーン溝部が設けられたスラスト軸受部sが形成されている。
【0007】
上ラジアル軸受部gにおける潤滑液に混在する気泡は、その上部においてスリーブ部dの上端と軸部aの間から、また下部において間隙拡大部i及び通気孔jを介して、それぞれ外部に解放される。下ラジアル軸受部hにおける潤滑液に混在する気泡は、その上部において間隙拡大部i及び通気孔jを介して、下部において呼吸孔q、凹部p、軸線方向通気孔o、半径方向通気孔n、間隙拡大部i及び通気孔jを介してそれぞれ外部に解放される。また、各スラスト軸受部sにおける潤滑液中に混在する気泡は、呼吸孔q、凹部p、軸線方向通気孔o、半径方向通気孔n、間隙拡大部i及び通気孔jを介して外部に解放される。このように、各ラジアル軸受部の軸線方向両端及び各スラスト軸受部の半径方向両端、すなわち動圧発生用溝部による圧力が最低となる部分をそれぞれ外気に通じさせ、それらの部分において潤滑液中の気泡を外部に解放することにより、温度上昇や気圧低下時の気泡膨張による潤滑液の流出・散逸を防いでいる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このようなハードディスク駆動用スピンドルモータにあっては、回転軸体cの軸部aに、ハードディスクのクランプ等のためのディスククランプ用の雌ねじ部tが設けられることがあるが、軸線方向通気孔oや半径方向通気孔n等と軸部a内のスペースの取り合いになり、設計面の自由度が低下し、加工上の難点となる場合もある。さらに、上記のように必要な通気孔及び呼吸孔の数が多いことは、製造コストの増大要因となっていた。特に、スラスト板部bに上記のような呼吸孔q及び呼吸孔rを設ける必要があることは、コストアップは勿論、軸部aとスラスト板部bからなる回転軸部cを一体物とすることを困難としていた。
【0009】
また、たとえ潤滑液中の気泡を通気孔等を通じて外部に解放することにより、温度上昇や気圧低下時の気泡膨張による潤滑液の流出・散逸を防ぐことが可能であるとしても、温度上昇時の蒸発や各軸受部を構成する部材の表面に沿って軸受部から潤滑液の無い(存在しない)部分に拡散しようとするいわゆるオイルマイグレーション現象等による潤滑液の減少まで防ぐものではないため、使用される潤滑液の粘性や蒸発率等によって多少の差異はあるものの、長期間にわたって安定した軸支持力を得ることは困難である。
【0010】
本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に留意してなされたものであり、その目的とするところは、潤滑液中に混在し得る気泡を外部に円滑に解放するための通気孔を容易に形成することでコストメリットを得ることができると共に、長期間にわたって安定した軸支持力を得ることができる動圧流体軸受装置及びその動圧流体軸受装置を備えた電動機を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するために、本発明は、軸部とその軸部よりも半径方向外方へ張り出した1枚のスラスト板部とを有する軸体と、前記軸部にスリーブ嵌合したスリーブ部と前記スラスト板部に外嵌したスラスト支持部とを有するスリーブ体と、前記軸体とスリーブ体との間の間隙に充填された潤滑液とを備えてなり、前記軸部とスリーブ部が半径方向に相対する1又は2以上のラジアル軸受部、及び前記スラスト板部が軸線方向における両側において前記スラスト支持部とそれぞれ軸線方向に相対する両スラスト軸受部において、前記軸体とスリーブ体の一方に対し他方が前記潤滑液を介して相対回転自在に支持されてなる動圧流体軸受装置であって、前記ラジアル軸受部の1つは前記両スラスト軸受部の一方に隣接し、そのラジアル軸受部に、前記潤滑液を前記隣接するスラスト軸受部に向かう方向にポンピングするよう軸線方向に不平衡に形成された動圧発生用のヘリングボーン溝部を有し、前記ラジアル軸受部に隣接するスラスト軸受部に、前記潤滑液を半径方向内方にポンピングする動圧発生用のスパイラル溝部を有し、前記スラスト板部と前記スラスト支持部との間の間隙における前記スラスト板部の外周側には、前記両スラスト軸受部に連続して前記潤滑液が充填され、前記スリーブ体は、前記ラジアル軸受部及び該ラジアル軸受部側のスラスト軸受部の一部を構成する内筒部と該内筒部に外嵌固定された外筒部とを備えてなると共に、該内筒部の外周面もしくは該外筒部の内周面のうち少なくとも一面には、スラスト軸受部の半径方向外方に隣接する部分からスラスト軸受側の端部とは軸方向に反対側の端部まで軸線方向に連続する切欠が設けられ、該切欠は前記スラスト軸受部の半径方向外方に隣接する部分から前記スラスト軸受部側と軸方向に反対側の前記端部までを軸線方向に連通するスラスト部通気孔を形成し、前記スラスト部通気孔は少なくとも前記スラスト板部側が該スラスト板部より離れるにつれて間隙が大となる構造でありかつ前記スリーブ体の他方の端部において大気に解放されており、該スラスト部通気孔において潤滑液と大気の境界が前記スラスト板部から離れて位置していることを特徴とする(請求項1)。
【0012】
軸体及びスリーブ体の一方に対し他方が回転することにより、スラスト軸受部に隣接するラジアル軸受部における潤滑液に、軸体及びスリーブ体の一方に対する他方の調芯に必要な動圧が発生する。潤滑液に混入し得る気泡は軸受部における圧力が低くなる側に移送されるため、この部分を外部に解放することが必要であり、気泡の排出を円滑に行うことが可能となる。スラスト軸受部における潤滑液の気泡はスラスト軸受部の外周側に移送され、スラスト板部より外周側に開口したスラスト部通気孔より外部に排出される。
【0013】
潤滑液としては、例えばスピンドル油等の各種潤滑油を用いることができる。潤滑液は、ラジアル軸受部に充填されると共に、両スラスト軸受部とスラスト支持部とスラスト板部との間隙におけるスラスト板部の外周側とに連続して充填され、この外周側に連通したスラスト部通気孔に存在する潤滑液が必要に応じスラスト軸受部及び前記外周側に補給され得る。
【0014】
ここで、スラスト部通気孔における潤滑液と外部との境界面がスラスト板部に近接していると、静止時及び低速回転時には問題はないが、高速回転時には、スラスト板部のスラスト支持部に対する相対的な周速が大となり、その回転表面への空気の付着力が無視できず、この回転表面に潤滑液界面の空気が引きずられてスラスト板部の外周側に空気が溜まる可能性がある。特に、スラスト部通気孔がスラスト板部外周端つまりスラスト支持部の最外周より半径方向内方側に偏倚した位置に開口している場合には、スラスト板部外周端にスラスト部通気孔の開口端近傍の空気が存在し、さらにこの外周側にスラスト板部外周の潤滑液が存在していることになり、スラスト板部の外周端には潤滑液と空気とが境界を有して共存していることになる。従って、このような構造では、スラスト板部の周速が大になると、スラスト板部への空気の付着力によって界面の空気が引きずられ、スラスト板部の外周側に環状に空気部分が生じてしまう。そうなるとスラスト軸受部には潤滑液が不足気味となり、必要な負荷能力、剛性に不足を来たし、或いは焼き付きを起こす可能性もある。
【0015】
スリーブ体に形成されたスラスト部通気孔は、スラスト板部とスラスト支持部との間の間隙においてスラスト板部より半径方向外方において開口されて大気に解放されているため、スラスト板部の周速によるスラスト部通気孔への影響が回避され、しかも、スラスト部通気孔における潤滑液と大気との境界面はスラスト板部から離れて位置しているため、スラスト板部の周速によりこの境界面の空気がスラスト板部の外周側に空気が入り込むことは皆無で、潤滑液で満たされることになり、上述した空気混入による不具合を発生することがない。
【0016】
軸体を構成する軸部とスラスト板部は、一体に形成されたものであってもよく、別体の部品を結合してなるものであってもよい。通常、軸部は軸心線に対し回転対称状をなす略円柱形状であり、スラスト板部は軸心線に対し垂直で回転対称状をなす環状板形状である。
【0017】
スリーブ体は、軸線方向における一方において軸体(例えば軸部)との間が全周に渡り外部に実質上解放され、他方において軸体(例えばスラスト板部)を内部に実質上閉塞するものとすることができる。例えば、軸体が軸部の一端に略円板状のスラスト板部を有するものである場合、スラスト支持部は、略円板状のスラスト板部のうち軸部突出部分を除く全体に対し軸線方向及び半径方向に外嵌したものとすることができる。
【0018】
また、スリーブ体は、軸線方向における両方において軸体(例えば軸部)との間が全周にわたり外部に実質上開放されたものとすることもできる。この場合、スラスト支持部は、例えばスラスト板部のうち軸部よりも半径方向外方に張り出した環状部分に外嵌した半径方向内方開口の環状溝形状とすることができる。
【0019】
この場合、スリーブ体を、ラジアル軸受部及びラジアル軸受部側のスラスト軸受部の一部を構成する内筒部と内筒部に外嵌固定された外筒部とを備えて構成し、かつ、この内筒部と外筒部との間にスリーブ体を軸線方向に貫通する形でスラスト部通気孔を設けることが望ましい。
【0020】
スリーブ体を内筒部と外筒部とで構成することにより、特に内筒部は簡単な円筒で構成することが可能で、複雑な形状とならず、加工コストを低減することができる。また、高硬度の加工し難い材料であっても容易に適用できることとなるため、軸受の耐久性を向上することができる。
【0021】
上述した動圧流体軸受装置において、ラジアル軸受部の1つは前記両スラスト軸受部の一方に隣接し、そのラジアル軸受部に、前記潤滑液を隣接するスラスト軸受部に向かう方向にポンピングするよう軸線方向に不平衡に形成された動圧発生用のヘリングボーン溝部を有し、ラジアル軸受部に隣接するスラスト軸受部に、前記潤滑液を半径方向内方にポンピングする動圧発生用のスパイラル溝部を有するものとすることができる。
【0022】
ポンプイン型のスパイラル溝部は、動圧発生の効率がよく、ヘリングボーン溝に比べて潤滑液の粘性抵抗が小さいため、スラスト軸受部における損失を減少させることができる。また、動圧発生の効率がよいためスラスト板部を小径化することが可能であり、そのような小径化によってスラスト板部の周速に比例する傾向があるスラスト軸受部における損失を一層減少させることができる。
【0023】
上記動圧流体軸受装置において、前記スラスト軸受部に隣接するラジアル軸受部の該隣接するスラスト軸受部側とは逆の側に、別のラジアル軸受部を有し、それらのラジアル軸受部同士の間に、軸部の外周面とスリーブ部の内周面との半径方向間隙が両ラジアル軸受部よりも大きい環状の中間半径方向間隙拡大部を有し、該中間半径方向間隙拡大部に開口して外部に連通する中間通気孔を有するものとすることができる(請求項2)
【0024】
スラスト軸受部に隣接するラジアル軸受部において潤滑液中の気泡は潤滑液の圧力が最も低くなる側、すなわち軸線方向における前記隣接スラスト軸受部とは逆の側へ集まりやすく、中間半径方向間隙拡大部を経て中間通気孔を通じて外部に開放される。隣接するスラスト軸受部の側から気泡を開放する必要がないので、スラスト板部内や軸部内に通気孔を設けて隣接スラスト軸受部の側を外部に通じさせる必要もない。中間通気孔は、製造容易性の点でスリーブ体内に設けることが望ましい。
【0025】
中間半径方向間隙拡大部は、少なくとも軸線方向両端部が、両ラジアル軸受部に向かって半径方向間隙が漸次縮小するものとし、各半径方向間隙漸次縮小部にそれぞれ潤滑液の界面が位置するものとすることが望ましい。さらに、各半径方向間隙漸次縮小部に十分な半径方向間隙を形成して十分な量の潤滑液を保持し、両ラジアル軸受部(及びスラスト軸受部に隣接するラジアル軸受部を通じてその隣接スラスト軸受部)に対し潤滑液が十分補給されるようにすることが望ましい。中間半径方向間隙拡大部は、軸線方向のまわりに回転対称状に形成することができる。
【0026】
前記の別のラジアル軸受部は、潤滑液の圧力を高める動圧発生用溝を有するものとすることが好ましく、その動圧発生用溝としては、例えば発生する圧力が軸線方向中央を中心として軸線方向に対称に形成されたヘリングボーン溝を採用し得る。この別のラジアル軸受部における軸線方向一方側は、中間半径方向間隙拡大部に臨む。他方側はスリーブ体の軸線方向における一方と軸体との間の全周にわたり外部に実質上開放された部分を経て外部に通じるものとすることができる。
【0027】
この別のラジアル軸受部の軸線方向における前記中間半径方向間隙拡大部とは逆の側は、表面張力により潤滑液を各軸受部に保持し得るよう漸次半径方向間隙を拡大させる半径方向間隙拡大部とし、これらの半径方向間隙拡大部に潤滑液の界面を有するものとすることが望ましい。このラジアル軸受部における潤滑液中に混在し得る気泡は、中間半径方向間隙拡大部を経てスリーブ体内の中間通気孔を通じて外部に開放されるか、或いは、例えばスリーブ体の軸線方向における一方と軸体との間の全周にわたり外部に実質上開放された部分を経て外部に開放される。
【0028】
中間通気孔は、中間半径方向間隙拡大部に周方向に1又は2以上開口するものとすることができる。その開口位置は、中間半径方向間隙拡大部における半径方向間隙が最大の位置とすることが好ましい。
【0029】
上記動圧流体軸受装置において、前記内筒部は外周部の一部に平面状かつ傾斜状の部分を有するよう形成されており、該平面状かつ傾斜状の部分を用いて前記スラスト部通気孔を形成することができる(請求項3)
【0030】
スリーブ部に設けるスラスト部通気孔を内筒部外周部の一部に平面状かつ傾斜状の部分を設けることで構成することが可能となり、通気孔に対する加工が内筒部外周部の切欠加工のみでよくなり、構成並びに加工が簡単になり、低コスト化をはかることが可能となる。
【0031】
上記動圧流体軸受装置において、前記スラスト部通気孔の前記スラスト軸受部側の開口の直径並びに前記スラスト板部の外周と前記スラスト支持部との間の間隙の寸法は約0.05mm乃至約0.1mmとすることが望ましい(請求項4)
【0032】
スラスト板部とスラスト支持部との間の半径方向間隙並びにスラスト部通気孔のスラスト軸受部側開口の寸法をほぼ同一とすることで、スラスト部通気孔のスラスト軸受部側開口内にはスラスト板部とスラスト支持部との間の半径方向間隙に連続して潤滑液が保持されることとなり、スラスト軸受部又はスラスト板部の半径方向外方付近の潤滑液の保持量が回転時のスラスト軸受部に形成されたスパイラル溝部のポンピング作用あるいはその他の要因(外的な振動や衝撃の印加等)によって減少した場合にも、このスラスト部通気孔の開口内に保持された潤滑液が円滑にスラスト軸受部方向に移動し供給されることとなる。
【0033】
この場合、スラスト板部の半径方向外周部付近並びにスラスト部通気孔内での潤滑液の保持量あるいはスラスト部通気孔の開口内での潤滑液の表面張力による保持力等を考慮すると、スラスト板部とスラスト支持部との間の半径方向間隙及びスラスト部通気孔の開口の寸法を、約0.05mm乃至約0.1mmとすることでこれらの要求を満足することができる。
【0034】
上記動圧流体軸受装置において、前記スラスト部通気孔の前記スラスト軸受部側とは反対側の開口は、前記軸体並びに前記内筒部と間隙を介して対向する環状プレート部材によって覆われており、該環状プレート部材の半径方向内周面と軸体の外周面との間の間隙は該スラスト部通気孔のスラスト軸受部とは反対側の開口並びに該環状プレート部材と内筒部との間の間隙よりも小なる寸法を有する間隙を介して対向する環状プレート部材によって覆われるものとすることが望ましい(請求項5)
【0035】
スラスト部通気孔のスラスト軸受部側とは反対側の開口を、軸体の外周面との間にスラスト部通気孔の開口並びに内筒部との間の間隙よりも小なる間隙寸法を有する半径方向間隙を介して対向する環状プレート部材によって覆うことで、回転時に環状プレート部材と軸体との間に規定される間隙とスラスト部通気孔の開口並びに内筒部との間の間隙部分とで発生する空気流の流速に差異が生じ、潤滑液が気化することで発生した蒸気の外部への流出抵抗を大にしてスリーブ体と軸部と環状プレート部材によって規定する空間内における潤滑液の蒸気圧を高く保てるので更なる潤滑液の蒸散が有効に阻止され、安定した軸支持力を長期間にわたって維持することができる。
【0036】
軸部と環状プレート部材との間の半径方向の間隙寸法を内筒部と環状プレート部材との間の軸線方向の間隙寸法よりも可能な限り小に設定することによって、潤滑液の蒸散防止効果を更に高めることができる。
【0037】
また、オイルマイグレーション現象によってスラスト軸受部側とは反対側のラジアル軸受部の端部及びスラスト部通気孔の開口より滲出した潤滑液は、この環状プレート部材によって捕捉され、回転時の遠心力によって軸受の外部への開放部分である環状プレート部材の内周面と軸部の外周面との間の間隙から遠離るよう半径方向外方に移動するため潤滑液の減少が防止され、早期の潤滑液の枯渇による軸受の耐久性及び信頼性の低下が防止される。
【0038】
この場合、上記スラスト部通気孔のスラスト軸受部とは反対側の開口並びに前記環状プレート部材と内筒部との間の間隙の寸法は約0.2mm乃至約0.3mmとし、また前記環状プレート部材の半径方向内周面と軸体の外周面との間の間隙寸法は0.05mm以下とすること(請求項6)で、これらの要求を満足することが可能となる。
【0039】
本発明の電動機は、上記動圧流体軸受装置を備え、軸体がロータと一体的に回転する(請求項7)又はスリーブ体がロータと一体的に回転する(請求項9)するものである。この電動機は、ハードディスク等の磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM等の光ディスクを始めとする記録媒体、特に円盤状記録媒体を駆動するためのスピンドルモータの他、種々の電動機として用いることができる。
【0040】
また、本発明の電動機は、外筒部がベース部材と一体的に構成されたものとすることも可能である(請求項8)
【0041】
外筒部を電動機のベース部材と一体的に構成することで、構造がさらに簡略化され部品点数、加工並びに組立に要するコストを削減することができ、電動機をより安価にすることができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る実施形態について図1?図4を参照して説明する。
【0043】
図1乃至図3は、本発明の実施の形態の一例としての動圧流体軸受装置についてのものであって、そのうち図1は断面図、図2は図1におけるスリーブ形成体のA−A線断面図、図3は図1におけるスリーブ形成体の底面図である。図4は図1乃至図3の動圧流体軸受装置を備えたハードディスク駆動用のスピンドルモータ(電動機)の断面図である。尤も、この動圧流体軸受装置は、他の電動機や種々の機械器具にも利用し得る。
【0044】
回転軸体12は、上下方向の軸部12aと、その軸部12aの下端部に環状板状に同軸状に張り出してなる円板状のスラスト板部12bからなる一体物である。軸部12aの外周面の上下中間部には断面円弧状の環状円弧凹部12a1が形成されている。軸部12aの上端部は、上方に向かって漸次縮径された後、一定の径の小径部12a2に縮径されている。軸部12aには、上方開口の軸線方向の雌ねじ部13が設けられている。
【0045】
回転軸体12には、スリーブ形成体14aと固定スラスト板14bからなる固定スリーブ体14が外嵌されている。スリーブ形成体14aは、セラミック等の耐摩耗性材料により構成されスリーブ部を構成する円筒状の内筒部14a1と、ステンレス等の加工性の良好な材料により構成され内筒部14a1に外嵌固定された円筒状の外筒部14a2とからなり、内筒部14a1が軸部12aのうちスラスト板部12bと上端の小径部12a2との間の部分にスリーブ嵌合している。内筒部14a1と外筒部14a2との結合は、圧入、焼き嵌め、超音波接合、接着固定等の手段により行うことができ、この場合、潤滑液Vの漏れ防止のために、少なくともスラスト板部12bとの反対側の接合部には接着剤などでシールすることが望ましい。
【0046】
外筒部14a2はその下端部が内筒部14a1より幾分長く形成されており、内筒部14a1直下の外筒部14a2の下端部内周面に内筒部14a1の内周面より順次拡径された中内径部14a3及び大内径部14a4が形成されている。この大内径部14a4に円板状の固定スラスト板14bが内嵌固定されることにより、スラスト板部12bに対し半径方向及び軸部12aを除く軸線方向に外嵌したスラスト支持部16が形成されている。また、内筒部14a1直上の外筒部14a2の上端部内周面には、軸線方向内面が内筒部14a1の上端面との間に間隙を介して対向すると共に半径方向内面が回転軸体12の外周面との間に微小間隙を介して対向する環状プレート部材17が接着あるいは圧入等の手段によって固着されている。なお、この環状プレート部材17は、樹脂材からあるいは薄板状の金属部材をプレスによる打抜加工等によって形成される。
【0047】
内筒部14a1の内周面の上下中間部は、溝底の断面が平坦な環状凹部14a5が形成され、環状円弧凹部12a1と相対し、両者の間に環状の中間半径方向間隙拡大部18が形成されている。また、両端が環状凹部14a5の上下中間位置と内筒部14a1の外周面にそれぞれ開口する半径方向の中間通気孔19が内筒部14a1に設けられている。
【0048】
中間半径方向間隙拡大部18の上下における内筒部14a1と軸部12aの間には、それぞれ上ラジアル軸受部20及び下ラジアル軸受部22が形成されている。上ラジアル軸受部20における内筒部14a1の内周面には、中心(溝の折曲位置)をその上ラジアル軸受部20の上下中間位置に位置させて上下対称状に形成した動圧発生用のヘリングボーン溝20a(図1には破線で模式的に示されている)が設けられている。回転軸体12の回転時には、ヘリングボーン溝20aによって、上ラジアル軸受部20に充填された潤滑液Vに、上下中間位置に向かって上下均衡して圧力が高まるように動圧が発生し、上下端において最も圧力が低くなる。
【0049】
一方、下ラジアル軸受部22における内筒部14a1の内周面には、中心(溝の折曲位置)を下方に偏心させ、潤滑液Vを下方にポンピングするよう軸線方向に不平衡に形成した動圧発生用のヘリングボーン溝22a(図1には破線で模式的に示されている)が設けられている。回転軸体12の回転時にヘリングボーン溝22aによって下ラジアル軸受部22に充填された潤滑液Vに発生する動圧は、下ラジアル軸受部22の上端において最も低くなる。
【0050】
上ラジアル軸受部20の上側は、軸部12aが漸次縮径されて内筒部14a1との間隙を漸次拡大させる半径方向間隙拡大部24に臨み、上ラジアル軸受部20に充填された潤滑液Vの上方界面は、表面張力により半径方向間隙拡大部24に位置する。上ラジアル軸受部20の下側は、中間半径方向間隙拡大部18に臨み、上ラジアル軸受部20に充填された潤滑液Vの下方界面は、表面張力により中間半径方向間隙拡大部18の上半部における中間通気孔19の開口部よりも上方(上方に向かって漸次半径方向間隙が縮小する部分)に位置する。
【0051】
下ラジアル軸受部22の上側は、中間半径方向間隙拡大部18に臨み、下ラジアル軸受部22に充填された潤滑液Vの上方界面は、表面張力により中間半径方向間隙拡大部18の下半部における中間通気孔19の開口部よりも下方(下方に向かって漸次半径方向間隙が縮小する部分)に位置する。
【0052】
中間半径方向間隙拡大部18の上下にはそれぞれ十分な量の潤滑液Vが保持され、上ラジアル軸受部20及び下ラジアル軸受部22に対し潤滑液Vが十分に補給され得る。
【0053】
スラスト支持部16の上面は平坦な平面に形成されているが、スラスト支持部16の下面は、上面と実質上平行に構成された内周側から外周側に向かって内外中間位置において漸次下方に傾斜して離隔した後、再び実質上平行になる。スラスト支持部16の上下面のうち実質上平行に構成された内周側とスラスト板部12bの上下面の間に、それぞれ上スラスト軸受部26及び下スラスト軸受部28が形成され、そのスラスト支持部16の上下面のうち実質上平行に構成された内周側には、それぞれ動圧発生用のポンプイン型のスパイラル溝26a,28a(図1には破線で模式的に示されている)が設けられている。回転軸体12の回転時には、スパイラル溝26a,28aによって、上スラスト軸受部26及び下スラスト軸受部28にそれぞれ充填された潤滑液Vに、矢示(破線)のように半径方向内方に向かって圧力が高まるように動圧が発生する。潤滑液Vに発生する動圧は、上スラスト軸受部26及び下スラスト軸受部28の外周側において最も低くなる。
【0054】
潤滑液Vは、下ラジアル軸受部22の上方界面から下ラジアル軸受部22、上スラスト軸受部26、スラスト板部12bの外周側、下スラスト軸受部28、及びその半径方向内方に至るまで、実質上連続した状態で充填されている。中間半径方向間隙拡大部18に保持された潤滑液Vは、下ラジアル軸受部22を通じて上スラスト軸受部26に補給され得る。
【0055】
固定スリーブ体14に形成されるスラスト部通気孔34は、スラスト支持部16の上面におけるスラスト板部12bの外周縁より半径方向外方の部分(最外周端)に一端を開口して軸線方向に設けられている。すなわち、内筒部14a1の外周面には、中間通気孔19が開口する位置にこの中間通気孔19に連通する平面状の傾斜面34aが、内筒部14a1の下端面から上端面に至るまで形成され、この傾斜面34aと外筒部14a2の内周面とによりスラスト部通気孔34が形成されている。中間半径方向間隙拡大部18に保持されたこの中間通気孔19がスラスト部通気孔34に連通することでスラスト部通気孔34を通して外部に開放されている。
【0056】
スラスト部通気孔34は、その下部つまりスラスト板部12b側が、傾斜面34aを形成することによりスラスト板部12bより離れるにつれて間隙が大となる構造になっており、スラスト支持部16に充填された潤滑液Vがスラスト部通気孔34の傾斜面34aまで充填され、潤滑液Vと大気の境界がスラスト板部12bより離れて位置している。スラスト部通気孔34における潤滑液Vの界面は傾斜面34aにおいてその表面張力によって中間部半径方向間隙拡大部18側の界面とバランスして保持され、余分な潤滑液Vが保持され得、上下スラスト軸受部26,28(及び上スラスト軸受部26に隣接する下ラジアル軸受部22)に対しその潤滑液Vを補給することができる。
【0057】
このとき、スラスト板部12bの外周面とスラスト支持部16の内周面との間の半径方向間隙及びスラスト部通気孔23の上スラスト軸受部26側開口の寸法を、ほぼ同一の寸法、好ましくは約0.05mm乃至約0.1mmとする。
【0058】
また、スラスト部通気孔34の内筒部14a1の上端面側の開口並びに環状プレート部材17と内筒部14a1の上端面との間の間隙の寸法は約0.2mm乃至約0.3mmとし、更に、環状プレート部材17の半径方向内周面と回転軸体12の外周面との間の間隙寸法は0.05mm以下とするのが好ましい。
【0059】
このように、スラスト板部12bの外周面とスラスト支持部16の内周面との間の半径方向間隙並びにスラスト部通気孔34の上スラスト軸受部26側開口の寸法をほぼ同一とすることで、スラスト部通気孔34の上スラスト軸受部26側開口内にはスラスト板部12bの外周面とスラスト支持部16の内周面との間の半径方向間隙に連続して潤滑液Vが保持されることとなり、上下スラスト軸受部26,28又はスラスト板部12bの半径方向外方付近の潤滑液Vの保持量が回転時の上下スラスト軸受部26,28に形成されたスパイラル溝26a,28aのポンピング作用あるいはその他の要因(外的な振動や衝撃の印加等)によって減少した場合にも、このスラスト部通気孔34の開口内に保持された潤滑液Vが円滑に上下スラスト軸受部26,28方向に移動し供給されることとなる。
【0060】
また、回転軸体12の外周面と環状プレート部材17の半径方向内周面との間の間隙寸法を、スラスト部通気孔34の内筒部14a1の上端面側の開口及び内筒部14a1の上端面と環状プレート部材17との間の軸線方向の間隙寸法よりも可能な限り小に設定することによって、回転時に環状プレート部材17の内周面と回転軸体12の外周面との間に規定される間隙とスラスト部通気孔34の開口並びに環状プレート部材17と内筒部14a1との間の間隙部分とで発生する空気流の流速に差異が生じることで、潤滑液Vが気化することによって発生した蒸気の外部への流出抵抗を大にして固定スリーブ体14と回転軸体12と環状プレート部材17とによって規定される空間内における潤滑液Vの蒸気圧を高く保てるので更なる潤滑液Vの蒸散が有効に阻止され、安定した軸受の軸支持力を長期間にわたって維持することができる。
【0061】
また、オイルマイグレーション現象によって半径方向間隙拡大部24を規定する回転軸体12の外周面及び内筒部14a1の内周面あるいはスラスト部通気孔34の内筒部14a1側開口を規定する表面に沿って滲出した潤滑液Vは、この環状プレート部材17によって捕捉され、回転時の遠心力によって外部への開放部分である環状プレート部材17の内周面と回転軸体12の外周面との間の間隙から遠離るよう半径方向外方に移動するため潤滑液Vの減少が防止され、早期の潤滑液Vの枯渇による軸受の耐久性及び信頼性の低下が防止される。
【0062】
図4に示されるように、固定スリーブ体14の下部がハードディスク駆動装置のベース又はこのベースに取り付けられるブラケット等のモータ支持部材36の内周結合孔36に同軸状に内嵌固定され、回転軸体12の軸部12aの上端の小径部12a2にカップ形のロータハブ38がその中央嵌合孔38aにおいて嵌合固定され、固定スリーブ体14の外周面つまり外筒部14a2の外周面に外嵌固定されたステータ40とロータハブ38の外周壁部38bに内嵌固定された円筒状のロータマグネット42が半径方向に相対することにより、軸回転型のスピンドルモータ44が構成される。固定スリーブ体14の外周部における中間通気孔19の開口部は、外筒部14a2の上方においてスピンドルモータ44内に通じており、さらにモータ支持部材36とロータハブ38の間隙46を通じて外気に通じている。
【0063】
ハードディスク(図示せず)は、ロータハブ38に外嵌され、雌ねじ部13にねじ止めされるクランプ部材(図示せず)により保持される。
【0064】
ロータハブ38の回転による回転軸体12の回転時には、上ラジアル軸受部20における潤滑液Vの圧力は上下中間位置に向かって上下均衡して圧力が高まるので、潤滑液V中に混在し得る気泡は、中間半径方向間隙拡大部18を経てスリーブ体14の外部すなわち外気に開放されるか、或いは半径方向間隙拡大部24を経て外部に開放される。
【0065】
また、回転軸体12の回転時には、下ラジアル軸受部22における潤滑液Vにヘリングボーン溝22aによって下ラジアル軸受部22の下端に近い位置に偏って圧力が高まるように動圧が発生すると共に、上スラスト軸受部26における潤滑液Vに、スパイラル溝26aによって半径方向内方に向かって圧力が高まるように動圧が発生するので、下ラジアル軸受部22において調芯に必要な動圧が潤滑液Vに発生すると共に、上スラスト軸受部26における潤滑液Vに軸線方向の負荷を支持し得る動圧が発生する。同時に、下スラスト軸受部28の半径方向内方側は閉じた空間であるので、下スラスト軸受部28における潤滑液Vに軸線方向の負荷を支持し得る動圧が発生する。上下スラスト軸受部26,28におけるポンプイン型のスパイラル溝26a,28aは、動圧発生の効率が良く、ヘリングボーン溝に比べて回転軸体12の回転時における潤滑液Vの粘性抵抗が小さいため、上下スラスト軸受部26,28における損失を減少させることができると共に、ヘリングボーン溝を用いる場合に比しスラスト板部12bが小径化されているので、回転による損失を一層減少させることができ、スピンドルモータ44の駆動電流の電流値を低減させることができる。
【0066】
下ラジアル軸受部22の潤滑液Vに発生する動圧は下ラジアル軸受部22の上端において最も低くなり、上スラスト軸受部26の潤滑液Vに発生する動圧は、上スラスト軸受部26の外周側において最も低くなる。下ラジアル軸受部22又は上スラスト軸受部26における潤滑液V中に混在し得る気泡は、潤滑液Vが低圧である側、すなわち下ラジアル軸受部22における上方又は上スラスト軸受部26における半径方向外方へ移動し、下ラジアル軸受部22から中間半径方向間隙拡大部18を経て中間通気孔19及びスラスト部通気孔34を通じて外部に開放されると共に、上スラスト軸受部26から内筒部14a1の下面30とスラスト板部12bの上面との間隙を経てスラスト部通気孔34を通じて確実性高く外部に解放される。また、下スラスト軸受部28における潤滑液V中に混在し得る気泡は、軸線方向間隙拡大部32を経てスラスト部通気孔34を通じて確実性高く外部に解放される。
【0067】
このように、潤滑液Vに混在し得る気泡を、固定スリーブ体14に設けた中間通気孔19及びスラスト部通気孔34を通じて確実性高く外部に解放させ得るので、温度上昇や気圧低下等による気泡の膨張による潤滑液Vの流出、散逸を防止することができる。しかも、通気孔の数が少なく回転軸体12を一体物とすることができるので、製造工程が容易で製造コストを大きく削減し得る。
【0068】
特に、スラスト部通気孔34は、スラスト支持部16におけるスラスト板部12bより外周側であってその最外周端に開口しているため、潤滑液V中に混在する気泡がスラスト板部12bの高速回転時にスラスト板部12b表面に引きずられて外周側に移送されても、上述したようにこの気泡はその外周部からスラスト部通気孔34に案内されて大気に解放され、しかもスラスト部通気孔34におけるスラスト板部12bより離れて潤滑液Vと大気との境界面を位置させているため、この境界面がスラスト支持部16の外周側に引き寄せられて境界面の空気が潤滑液V内部に引き込まれるといった不具合を生じることがない。
【0069】
一方、上記のスリーブ形成体14aは、内筒部14a1と外筒部14a2とを組み合わせて構成されており、しかもラジアル軸受部20,22及びスラスト軸受部26を構成する内筒部14a1は単なる円筒体に半径方向の孔加工(中間通気孔19)と外周部の切欠加工(傾斜面34a)を施すのみでよいため、加工し難い材料でも適用可能であり、高価な材料を使用したとしてもスリーブ形成体全体をこの種材料で構成する場合に比較して格段に安価になる。その上、スリーブ形成体14aに形成するスラスト部通気孔34を内筒部14a1と外筒部14a2との2パーツ構造を利用し内筒部14a1に切欠加工するのみで形成でき、スラスト部通気孔34の形成が容易となる。
【0070】
なお、例えば図1乃至図4に示される動圧流体軸受装置は軸回転型のスピンドルモータに適用した場合を示しているが、これに限らず、動圧流体軸受装置における回転軸体12の上端部を電動機のブラケット等のモータ支持部材に固定して固定軸体とすると共に固定スリーブ体14を回転スリーブ体とすることにより、固定軸体に対して回転スリーブ体が回転自在に支持された動圧流体軸受装置を構成することが可能であり、その回転スリーブ体と共に回転するロータを設けることにより、軸固定型の電動機を構成することができる。
【0071】
また、外筒部14a2は、ベース又はブラケット等のモータ支持部材44にこれの一部として一体に形成された環状壁部とすることも可能である。
【0072】
このようにスリーブ形成体14aを単なる円筒体である内筒部14a1とモータ支持部材44に一体の外筒部14a2とで構成することで、構成が簡単になる上、部品点数の削減が図れ、スピンドルモータ44の低コスト化に一層寄与することが可能となる。
【0073】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているため、つぎに記載するような効果を奏する。
【0074】
請求項1記載の動圧流体軸受装置においては、スリーブ体に軸線方向に形成したスラスト部通気孔を、スラスト支持部とスラスト板部との間隙においてスラスト板部より半径方向外方において開口すると共に、少なくともスラスト板部側をこれより離れるにつれて間隙が大となりかつ潤滑液と大気との境界をスラスト板部から離れて位置させているため、高速回転によっても潤滑液中の気泡やスラスト部通気孔の空気が外周方向に引き込まれることがなく、円滑にスラスト部通気孔より大気に解放され、スラスト支持部のスラスト板部より外周側に充填された潤滑液中に空気部分が生じることがなくなり、潤滑液不足もなく、安定した軸受機能を発揮し得るものである。
【0075】
また、スリーブ体を内筒部と外筒部とで構成することにより、特に内筒部は簡単な円筒で構成することが可能で、複雑な形状とならず、加工コストを低減することができる。また、高硬度の加工し難い材料であっても容易に適用できることとなるため、軸受の耐久性を向上することができる。
【0076】
さらに、ラジアル軸受部の1つをこれが隣接するスラスト軸受部に向かう方向に潤滑液をポンピングするよう軸線方向に不平衡なヘリングボーン溝部とすると共に、この隣接スラスト軸受部に半径方向に潤滑液をポンピングするスパイラル溝部としたため、動圧発生の効率が良く、回転時の潤滑液の粘性抵抗が小さくなるような仕様としてスラスト軸受部における損失を減少させることができ、加えて、動圧発生の効率が良くなることによりスラスト板部の小径化が可能となり、スラスト板部の周速に比例する傾向にあるスラスト軸受部における損失を一層減少させることが可能となる。
【0077】
請求項2記載の動圧流体軸受装置においては、複数のラジアル軸受部の間に間隙の大きい環状の中間半径方向間隙拡大部を設け、これを外部に連通する中間通気孔を設けるようにしたため、ラジアル軸受部における潤滑液中の気泡を外部に確実に解放することができる。
【0078】
請求項3記載の動圧流体軸受装置においては、スリーブ部に設けるスラスト部通気孔を内筒部外周部の一部に平面状かつ傾斜状の部分を設け、この内筒部に外嵌固定される外筒部の内周面との間に間隙を設けることで構成することが可能となり、通気孔に対する加工が内筒部外周部の切り欠き加工のみでよくなり、構成並びに加工が簡単になり、低コスト化をはかることが可能となる。
【0079】
請求項4記載の動圧流体軸受装置においては、スラスト板部の半径方向外周部付近並びにスラスト部通気孔内での潤滑液の保持量あるいはスラスト部通気孔の開口内での潤滑液の表面張力による保持力等を十分に確保することが可能となる。
【0080】
請求項5記載の動圧流体軸受装置においては、回転時に環状プレート部材と軸体との間に規定される間隙とスラスト部通気孔の開口並びに内筒部との間の間隙部分とで発生する空気流の流速に差異が生じることで、潤滑液が気化することによって発生した蒸気の外部への流出抵抗を大にしてスリーブ体と軸部と環状プレート部材とによって規定される空間内における潤滑液の蒸気圧を高く保てるので更なる潤滑液の蒸散が有効に阻止され、安定した軸受の軸支持力を長期間にわたって維持することができると共に、オイルマイグレーション現象によってスラスト軸受部側とは反対側のラジアル軸受部の端部及びスラスト部通気孔の開口より滲出した潤滑液は、この環状プレート部材によって捕捉され、回転時の遠心力によって軸受の外部への開放部分である環状プレート部材の内周面と軸部の外周面との間の間隙から遠離るよう半径方向外方に移動するため、このオイルマイグレーション現象による潤滑液の減少が防止され、早期の潤滑液の枯渇による軸受の耐久性及び信頼性の低下が防止される。
【0081】
請求項6記載の動圧流体軸受装置においては、軸部と環状プレート部材との間の半径方向の間隙寸法を内筒部と環状プレート部材との間の軸線方向の間隙寸法よりも可能な限り小に設定することによって、潤滑液の蒸散防止効果を更に高めることができる。
【0082】
請求項7記載の電動機においては、請求項1乃至6の動圧流体軸受装置を備え、軸体とロータとを一体的に回転させるため、必要な負荷能力、剛性を確保し、焼き付き等の不具合を生じることなく、高速回転に適した電動機を提供できるものである。
【0083】
請求項8記載の電動機においては、外筒部を電動機のベース部材と一体的に構成することで、構造がさらに簡略化され部品点数、加工並びに組立に要するコストを削減することができ、電動機をより安価にすることができる。
【0084】
請求項9記載の電動機においては、請求項1乃至6の動圧流体軸受装置を備え、スリーブ体とロータとを一体的に回転させるため、必要な負荷能力、剛性を確保し、焼き付き等の不具合を生じることなく、高速回転に適した電動機を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動圧流体軸受装置の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1におけるスリーブ形成体のA−A線断面図である。
【図3】図1におけるスリーブ形成体の底面図である。
【図4】図1の動圧流体軸受装置を用いた本発明の電動機の実施の形態を示すハードディスク駆動用のスピンドルモータについての断面図である。
【図5】ハードディスク駆動用のスピンドルモータの従来例についての断面図である。
【符号の説明】
12 回転軸体
12a 軸部
12b スラスト板部
14 固定スリーブ体
14a スリーブ形成体
14a1 内筒部
14a2 外筒部
14b 固定スラスト板
16 スラスト支持部
17 環状プレート部材
18 中間半径方向間隙拡大部
19 中間通気孔
20,22 ラジアル軸受部
26,28 スラスト軸受部
34 スラスト部通気孔
34a 傾斜面
36 モータ支持部材
38 ロータハブ
44 スピンドルモータ

Claims (9)

  1. 軸部とその軸部よりも半径方向外方へ張り出した1枚のスラスト板部とを有する軸体と、前記軸部にスリーブ嵌合したスリーブ部と前記スラスト板部に外嵌したスラスト支持部とを有するスリーブ体と、前記軸体とスリーブ体との間の間隙に充填された潤滑液とを備えてなり、
    前記軸部とスリーブ部が半径方向に相対する1又は2以上のラジアル軸受部、及び前記スラスト板部が軸線方向における両側において前記スラスト支持部とそれぞれ軸線方向に相対する両スラスト軸受部において、前記軸体とスリーブ体の一方に対し他方が前記潤滑液を介して相対回転自在に支持されてなる動圧流体軸受装置であって、
    前記ラジアル軸受部の1つは前記両スラスト軸受部の一方に隣接し、そのラジアル軸受部に、前記潤滑液を前記隣接するスラスト軸受部に向かう方向にポンピングするよう軸線方向に不平衡に形成された動圧発生用のヘリングボーン溝部を有し、前記ラジアル軸受部に隣接するスラスト軸受部に、前記潤滑液を半径方向内方にポンピングする動圧発生用のスパイラル溝部を有し、
    前記スラスト板部と前記スラスト支持部との間の間隙における前記スラスト板部の外周側には、前記両スラスト軸受部に連続して前記潤滑液が充填され、前記スリーブ体は、前記ラジアル軸受部及び該ラジアル軸受部側のスラスト軸受部の一部を構成する内筒部と該内筒部に外嵌固定された外筒部とを備えてなると共に、
    該内筒部の外周面もしくは該外筒部の内周面のうち少なくとも一面には、スラスト軸受部の半径方向外方に隣接する部分からスラスト軸受側の端部とは軸方向に反対側の端部まで軸線方向に連続する切欠が設けられ、該切欠は前記スラスト軸受部の半径方向外方に隣接する部分から前記スラスト軸受部側と軸方向に反対側の前記端部までを軸線方向に連通するスラスト部通気孔を形成し、
    前記スラスト部通気孔は少なくとも前記スラスト板部側が該スラスト板部より離れるにつれて間隙が大となる構造でありかつ前記スリーブ体の他方の端部において大気に解放されており、該スラスト部通気孔において潤滑液と大気の境界が前記スラスト板部から離れて位置していることを特徴とする動圧流体軸受装置。
  2. 前記スラスト軸受部に隣接するラジアル軸受部の該隣接するスラスト軸受部側とは逆の側に別のラジアル軸受部を有し、それらのラジアル軸受部同士の間に、前記軸体の外周面と前記スリーブ体の内周面との半径方向間隙が両ラジアル軸受部よりも大きい環状の中間半径方向間隙拡大部を有し、前記スリーブ体は該中間半径方向間隙拡大部と前記スラスト部通気孔との間を連通する中間通気孔を有する請求項1に記載の動圧流体軸受装置。
  3. 前記内筒部の外周部の一部は平面状かつ傾斜状に形成され、該平面状かつ傾斜状の部分を用いて前記スラスト部通気孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の動圧流体軸受装置。
  4. 前記スラスト部通気孔の前記スラスト軸受部側の開口の直径並びに前記スラスト板部の外周と前記スラスト支持部との間の間隙の寸法は約0.05mm乃至約0.1mmとすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の動圧流体軸受装置。
  5. 前記スラスト部通気孔の前記スラスト軸受部側とは反対側の開口は前記軸体並びに前記内筒部と間隙を介して対向する環状プレート部材によって覆われており、該環状プレート部材の半径方向内周面と軸体の外周面との間の間隙は前記スラスト部通気孔の開口並びに該環状プレート部材と内筒部との間の間隙よりも小なる間隙寸法を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の動圧流体軸受装置。
  6. 前記スラスト部通気孔のスラスト軸受部とは反対側の開口並びに前記環状プレート部材と内筒部との間の間隙の寸法は約0.2mm乃至約0.3mmとし、また前記環状プレート部材の半径方向内周面と軸体の外周面との間の間隙寸法は0.05mm以下とすることを特徴とする請求項5記載の動圧流体軸受装置。
  7. 請求項1,2,3,4,5又は6記載の動圧流体軸受装置を備え、前記軸体がロータと一体的に回転する電動機。
  8. 前記外筒部がベース部材と一体的に構成されてなる請求項7記載の電動機。
  9. 請求項1,2,3,4,5又は6記載の動圧流体軸受装置を備え、前記スリーブ体がロータと一体的に回転する電動機。
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