JP3856119B2 - ノズルプレート及びその製造方法並びにインクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインクを吐出させるインクジェット式記録ヘッド等に用いられるノズルプレート及びその製造方法並びにインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
また、このような従来のインクジェット式記録ヘッドは、一般的に、圧力発生室を形成した流路形成基板に、インク滴を吐出するための複数のノズル開口を穿設したノズルプレートが接着剤によって接合された構造となっている。
【0007】
さらに、ノズルプレートの流路形成基板とは反対側の面には、樹脂材料からなる撥水膜が形成されている。この撥水膜は、ノズル開口から吐出したインクがノズルプレートの表面に付着することを防止している。
【0008】
このような撥水膜は、ノズル開口を一時的にレジストで埋めたノズルプレートの表面に、例えば、フッ素樹脂等の樹脂材料からなる塗布液を塗布し、その後、レジストを除去することで形成される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ノズル開口が高密度に穿設されたノズルプレートに撥水膜を形成する場合、ノズル開口の内径が実質的に小さくなるため、そのノズル開口をレジストで埋めるという作業が比較的困難であるという問題がある。
【0010】
また、ノズル開口がレジストで確実に埋められていないノズルプレートの表面に樹脂材料を塗布すると、その樹脂材料がノズル開口内に入り込んでノズル詰りが発生するという問題となる。
【0011】
さらに、ノズルプレートの表面は、所定のタイミングでワイピング処理するが、このとき、撥水膜の表面にキズ等の損傷が発生してしまい、撥水膜の耐久性や撥水性が低減するという問題がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑み、ノズル詰りを防止して撥水膜の耐久性及び撥水性を向上できるノズルプレート及びその製造方法並びにインクジェット式記録ヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出する複数個のノズル開口を有し、該ノズル開口と連通する流路が形成された流路形成基板に接合されるノズルプレートにおいて、前記ノズル開口が設けられ且つ前記流路形成基板に接合されるノズルプレート本体を具備し、当該ノズルプレート本体の前記流路形成基板とは反対側の面の少なくとも前記ノズル開口の周囲に、前記ノズルプレート本体より誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜が設けられ、前記無機化合物が酸化マグネシウム又は酸化シリコンであり且つ前記無機化合物が分子内に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換したものであることを特徴とするノズルプレートにある。
【0014】
かかる第1の態様では、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用が低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。また、撥水膜の剛性を高くすることで耐久性が向上する。また、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用が低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。さらに、撥水膜の剛性を高くすることで耐久性が向上する。また、親水性を示すヒドロキシ基がフッ素に置換されて撥水性が更に向上する。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記無機化合物の誘電率εがε<10であることを特徴とする第1の態様のノズルプレートにある。
【0016】
かかる第2の態様では、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用が低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。
【0023】
本発明の第3の態様は、前記撥水膜の厚さが0.05〜10μmであることを特徴とする第1又は2の態様のノズルプレートにある。
【0024】
かかる第3の態様では、撥水膜の強度を確保することができる。
【0025】
本発明の第4の態様は、前記ノズルプレート本体がケイ素又はステンレス鋼からなることを特徴とする第1〜3の何れかの態様のノズルプレートにある。
【0026】
かかる第4の態様では、ノズルプレート本体の強度を確保することができる。
【0027】
本発明の第5の態様は、ノズル開口が設けられたノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ノズルプレートの前記流路形成基板とは反対側の面の少なくとも前記ノズル開口の周囲に、前記ノズルプレートより誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜が設けられ、前記無機化合物が酸化マグネシウム又は酸化シリコンであり且つ前記無機化合物が分子内に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換したものであることを特徴とするインクジェト式記録ヘッドにある。
【0028】
かかる第5の態様では、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用を低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。また、撥水膜の剛性を高くすることで耐久性が向上する。さらに、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用を低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。また、親水性を示すヒドロキシ基がフッ素に置換されて撥水性が更に向上する。
【0029】
本発明の第6の態様は、前記無機化合物の誘電率εがε<10であることを特徴とする第5の態様のインクジェット式記録ヘッドにある。
【0030】
かかる第6の態様では、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用が低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。
【0037】
本発明の第7の態様は、前記撥水膜の厚さが0.05〜10μmであることを特徴とする第5又は6の態様のインクジェット式記録ヘッドにある。
【0038】
かかる第7の態様では、撥水膜の強度を確保することができる。
【0039】
本発明の第8の態様は、前記ノズルプレートがケイ素又はステンレス鋼からなることを特徴とする第5〜7の何れかの態様のインクジェット式記録ヘッドにある。
【0040】
かかる第8の態様では、ノズルプレート本体の強度を確保することができる。
【0041】
本発明の第9の態様は、液滴を吐出する複数個のノズル開口を有し、該ノズル開口と連通する流路が形成された流路形成基板に接合されるノズルプレートの製造方法において、前記ノズル開口が設けられたノズルプレート本体の前記流路形成基板との接合面とは反対側の面に酸化膜を形成する工程と、前記酸化膜の表面に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換することによって前記ノズルプレート本体の表面に当該ノズルプレート本体より誘電率が低い撥水膜を形成する工程とを具備することを特徴とするノズルプレートの製造方法にある。
【0042】
かかる第9の態様では、液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用が低く抑えられて、撥水膜の撥水性が向上する。また、撥水膜の剛性を高くすることで耐久性が向上する。さらには、ノズル開口をレジストで埋めずに撥水膜を形成することができ、ノズル詰りが防止される。
【0043】
本発明の第10の態様は、前記酸化膜をスパッタリング法によって形成することを特徴とする第9の態様のノズルプレートの製造方法にある。
【0044】
かかる第10の態様では、ノズル開口をレジストで埋めずに撥水膜を形成することができ、ノズル詰りが防止される。
【0045】
本発明の第11の態様は、前記酸化膜を前記ノズル開口の周囲を熱酸化することによって形成することを特徴とする第9又は10の態様のノズルプレートの製造方法にある。
【0046】
かかる第11の態様では、ノズル開口をレジストで埋めずに撥水膜を形成することができ、作業工程が簡略化される。また、製造コストが低く抑えられる。
【0047】
本発明は、ノズルプレート本体より誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜を設けることを特徴とする。このような無機化合物で撥水膜を形成することによって、インク等の液滴と撥水膜との間の電気的な相互作用を低く抑えることができる。
【0048】
このような無機化合物は、誘電率εがノズルプレート本体より低いものであれば特に限定されないが、例えば、誘電率εが10より小さい無機化合物であり、具体的には、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物や、窒化ケイ素等の窒化物を挙げることができる。
【0049】
本発明の撥水膜は、ノズルプレートの表面に、例えば、スパッタリング法等を用いて、堆積された無機化合物層からなるようにしてもよいし、ノズルプレートの表面を熱酸化等して形成した酸化膜からなるようにしてもよい。
【0050】
また、撥水膜が酸化物で形成される場合は、その分子のヒドロキシ基が表面に存在して親水性を示す。このため、このようなヒドロキシ基をフッ素に置換して撥水性処理することが望ましい。これにより、撥水性を更に向上させることができる。
【0051】
また、例えば、金属酸化物や窒化ケイ素等の無機化合物からなる撥水膜をノズルプレートの表面に形成する場合、無機化合物がノズル開口内に付着する虞はないので、ノズル開口をレジスト等で埋める必要がない。従って、製造コストを低く抑えることができるという効果を奏する。
【0052】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0053】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。
【0054】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、100〜300μm程度の厚さのものが用いられ、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ配列密度を高くする場合には、厚さの薄いものを用いることが望ましい。
【0055】
流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0056】
一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、後述するリザーバ形成基板のリザーバ部に連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0057】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0058】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入する顔料インクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0059】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
【0060】
なお、ノズルプレート20は、本実施形態では、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるステンレス鋼(SUS)等の金属材料、シリコン(Si)、ガラスセラミックス及び不錆鋼等を挙げることができる。
【0061】
このようなノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。なお、本実施形態では、ノズルプレートの材質にシリコンを用いた。
【0062】
さらに、ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。
【0063】
このようなノズルプレート20の流路形成基板10とは反対側の面には、ノズルプレート20より誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜100が設けられている。なお、撥水膜100の膜厚は、0.05〜10μm程度である。
【0064】
この撥水膜の誘電率εは、低いほど好ましく、具体的には、誘電率εがε<10であることが望ましい。
【0065】
また、撥水膜100を形成する無機化合物としては、例えば、酸化シリコン、酸化マグネシウム等の酸化物、窒化ケイ素等の窒化物を挙げることができる。ここで、酸化シリコンや酸化マグネシウムの誘電率εは3〜4であり、窒化ケイ素の誘電率εは8である。
【0066】
例えば、本実施形態では、ノズルプレート20の表面を熱酸化することにより酸化シリコンからなる撥水膜100を形成した。
【0067】
このような無機化合物は、誘電率εがε<10であるため、インク滴との間の電気的な相互作用を低く抑えることができる。
【0068】
なお、本実施形態のように、無機化合物が酸化物である場合には、分子内に親水性基であるヒドロキシ基が存在している。従って、このような酸化物で撥水膜を形成する場合には、親水性基をフッ素に置換することが望ましい。これにより、撥水性を更に向上することができる。なお、低誘電率εの無機化合物からなる撥水膜が所望の撥水性を発揮すれば、親水性基をフッ素に置換しなくてもよい。
【0069】
このように、本実施形態の撥水膜100は、ノズルプレートより誘電率εが低い無機化合物で形成されているので、インク滴との間の電気的な相互作用が低く抑えられる。従って、撥水性を向上させることができる。
【0070】
また、撥水膜100は、無機化合物で形成されているため、例えば、樹脂材料等の有機化合物で形成された撥水膜に比べて耐久性を向上させることができる。すなわち、無機化合物からなる撥水膜100は、樹脂材料で形成されたものよりも剛性が高いため、ワイピングした際に、インクに含まれる顔料粒子が接触して、撥水膜100の表面に発生するキズ等の損傷を低減することができ、撥水膜100の耐久性が向上する。
【0071】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0072】
また、流路形成基板10の圧電素子300側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110を構成している。
【0073】
このリザーバ形成基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0074】
また、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32が設けられ、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。
【0075】
ここで、各圧電素子300を構成すると共に複数の圧電素子300に共通する共通電極である下電極膜60は、リザーバ形成基板30が接合される領域まで延設されている。例えば、本実施形態では、下電極膜60は、圧力発生室12に対向する領域からリザーバ110とは反対側の周壁上まで延設されている。そして、リザーバ形成基板30の一部がこの下電極膜60に対向する領域で、流路形成基板10と接合されている。
【0076】
なお、リザーバ形成基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ110に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ110の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止され、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部33となっている。
【0077】
また、このリザーバ110の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ110にインクを供給するためのインク導入口35が形成されている。さらに、リザーバ形成基板30には、インク導入口35とリザーバ110の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0078】
なお、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口35からインクを取り込み、リザーバ110からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0079】
ここで、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図5を参照して説明する。なお、図3〜図5は、圧力発生室12の長手方向の一部を示す断面図である。
【0080】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0081】
次に、図3(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0082】
次に、図3(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0083】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0084】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0085】
次に、図4(a)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0086】
次いで、図4(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0087】
なお、本実施形態では、リザーバ110が形成される領域の周縁部の一部に、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を残すことにより、リザーバ110の周縁部の剛性を向上させている。
【0088】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、図4(c)に示すように、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0089】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に、リザーバ形成基板30を接着剤等を介して接合する。
【0090】
次いで、図5(b)に示すように、流路形成基板10のリザーバ形成基板30とは反対側の面に、ノズル開口の周囲に撥水膜100が形成されたノズルプレート20を接合する。
【0091】
ここで、ノズルプレート20の表面に撥水膜100を形成する方法について図6を参照しながら説明する。なお、図6は、本発明の実施形態1に係るノズルプレートの要部断面図である。
【0092】
まず、図6(a)に示すように、ノズル開口21が複数個設けられたノズルプレート20の表面を熱酸化することにより酸化膜101を形成する。なお、本実施形態では、ノズルプレート20の材質としてシリコンを用いたので、酸化膜101は酸化シリコンである。
【0093】
次に、図6(b)に示すように、酸化膜101の表面にフッ素化合物102を付着させて、酸化膜101の表面に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換する。詳しくは、濃硫酸及び二クロム酸カリウムを含有する溶液に、酸化膜101の表面を浸した後、その酸化膜101の表面に、フッ素化合物102であるフッ化リチウム(LiF)を付着する。これにより、酸化膜101の表面に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換することができる。
【0094】
なお、フッ素化合物としては、フッ化リチウム(LiF)の他に、例えば、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)等を用いるようにしてもよい。
【0095】
このように、本実施形態では、ノズルプレート20の表面を熱酸化することで酸化膜を形成するので、ノズル開口21の内径が比較的小さくても、確実に撥水膜100を形成することができる。また、このような内径が小さいノズル開口21をレジスト等で埋める必要がないため、作業工程を簡略化できる。従って、製造コストを低く抑えることができる。
【0096】
また、このように製造されたノズルプレート20は、ノズル開口21をレジスト等で埋めたり、或いは、樹脂材料を塗布したりして撥水膜を形成しないため、ノズル詰りが発生することがない。従って、インクをノズル開口21から確実に吐出させることができる。
【0097】
なお、本実施形態では、撥水膜100は、ノズルプレート20の全面に形成するようにしたが、これに限定されず、ノズル開口21の周囲だけに形成するようにしてもよい。この場合、撥水膜を形成する領域以外の部分を、例えば、レジスト等で被覆した状態で形成すればよい。
【0098】
また、ノズル開口21を有するノズルプレート20に撥水膜100を形成するようにしたが、これに限定されず、酸化膜を形成した後にノズル開口を形成するようにしてもよいし、撥水膜を形成した後にノズル開口を形成してもよいし、
その後、リザーバ形成基板30上にコンプライアンス基板40を接合することにより、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドが形成される(図5(b)参照)。
【0099】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、リザーバ形成基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化することによってインクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0100】
ここで、下記実施例及び比較例のノズルプレートを作製し、撥水性を比較する試験を行った。その結果について説明する。
【0101】
(実施例)
シリコンからなるノズルプレート本体を用意して、そのノズルプレート本体の表面を熱酸化することによって酸化膜を形成する。その後、二クロム酸カリウムを濃硫酸で溶かした溶液を70℃に加熱し、その溶液にノズルプレート本体の酸化膜の表面を浸す。
【0102】
続いて、ノズルプレート本体を冷却した後、酸化膜の表面を微量のLiFで被覆する。このようにして無機化合物で形成された撥水膜を有する実施例のノズルプレートを形成した。
【0103】
(比較例)
実施例と同じノズルプレート本体を用意し、そのノズルプレート本体の表面に、ポリフッ化エチレン系の樹脂材料を塗布した後、その樹脂材料を硬化することで撥水膜を形成した。このようにして有機化合物で形成された撥水膜を有するノズルプレート本体を比較例のノズルプレートとした。
【0104】
(試験例)
上述した実施例及び比較例のノズルプレートの撥水膜の表面に、同一のインク滴を10mgずつ付着させて、図7に示すように、インク滴と撥水膜との接触角(θ1)及びインク滴が移動する傾斜の角度を表す転落角(θ2)を測定した。その結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
上記表1に示すように、実施例のノズルプレートは、インク滴と撥水膜との接触角は比較例のノズルプレートと同程度であり、インク滴が移動する転落角は非常に小さく、実施例のノズルプレートが、比較例に比べて優れた撥水性を有していることは明らかである。
【0107】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0108】
例えば、上述した実施形態1では、ノズルプレート20の表面を熱酸化することで撥水膜100を形成するようにしたが、これに限定されず、スパッタリング法を用いて、ノズルプレートの表面に無機化合物からなる撥水膜を形成してもよい。
【0109】
このようなスパッタリング法を用いて撥水膜を形成することで、上述した実施形態1と同様の効果を得られる他、窒化ケイ素等の無機材料で撥水膜を形成することができる。
【0110】
このように、スパッタリング法を用いて撥水膜を形成する場合、無機化合物がノズル開口内に付着する虞はない。このため、上述した実施形態1と同様に、作業工程を簡略化して、製造コストを低く抑えることができる。
【0111】
また、上述の実施形態1では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0112】
【発明の効果】
以上説明したように本発明では、ノズルプレートの流路形成基板との接合面とは反対側の面の少なくともノズル開口の周囲に、ノズルプレートより誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜を設けるようにしたため、撥水膜の耐久性及び撥水性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るノズルプレートの製造方法を説明する概略断面図である。
【図7】接触角(θ1)及び転落角(θ2)を示す図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
12 圧力発生室
20 ノズルプレート
21 ノズル開口
30 リザーバ形成基板
40 コンプライアンス基板
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
100 撥水膜
101 酸化膜
102 フッ素化合物
110 リザーバ
300 圧電素子
Claims (11)
- 液滴を吐出する複数個のノズル開口を有し、該ノズル開口と連通する流路が形成された流路形成基板に接合されるノズルプレートにおいて、
前記ノズル開口が設けられ且つ前記流路形成基板に接合されるノズルプレート本体を具備し、当該ノズルプレート本体の前記流路形成基板とは反対側の面の少なくとも前記ノズル開口の周囲に、前記ノズルプレート本体より誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜が設けられ、前記無機化合物が酸化マグネシウム又は酸化シリコンであり且つ前記無機化合物が分子内に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換したものであることを特徴とするノズルプレート。 - 前記無機化合物の誘電率εがε<10であることを特徴とする請求項1に記載のノズルプレート。
- 前記撥水膜の厚さが0.05〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のノズルプレート。
- 前記ノズルプレート本体がケイ素又はステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のノズルプレート。
- ノズル開口が設けられたノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記ノズルプレートの前記流路形成基板とは反対側の面の少なくとも前記ノズル開口の周囲に、前記ノズルプレートより誘電率が低い無機化合物からなる撥水膜が設けられ、前記無機化合物が酸化マグネシウム又は酸化シリコンであり且つ前記無機化合物が分子内に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換したものであることを特徴とするインクジェト式記録ヘッド。 - 前記無機化合物の誘電率εがε<10であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記撥水膜の厚さが0.05〜10μmであることを特徴とする請求項5又は6に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記ノズルプレートがケイ素又はステンレス鋼からなることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 液滴を吐出する複数個のノズル開口を有し、該ノズル開口と連通する流路が形成された流路形成基板に接合されるノズルプレートの製造方法において、
前記ノズル開口が設けられたノズルプレート本体の前記流路形成基板との接合面とは反対側の面に酸化膜を形成する工程と、前記酸化膜の表面に存在するヒドロキシ基をフッ素に置換することによって前記ノズルプレート本体の表面に当該ノズルプレート本体より誘電率が低い撥水膜を形成する工程とを具備することを特徴とするノズルプレートの製造方法。 - 前記酸化膜をスパッタリング法によって形成することを特徴とする請求項9に記載のノズルプレートの製造方法。
- 前記酸化膜を前記ノズル開口の周囲を熱酸化することによって形成することを特徴とする請求項9又は10に記載のノズルプレートの製造方法。
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