JP3786178B2 - インクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を介して圧電素子を設けて、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のインクジェット式記録ヘッドでは、圧力発生室が流路形成基板を貫通して形成されているため、圧力発生室の配列密度を高くすると、圧力発生室を区画する隔壁の厚みが薄くなり、隣接する圧力発生室間でクロストークが発生するという問題がある。
【0007】
このような問題を解決するために、流路形成基板の厚さを薄くすることが望ましいが、流路形成基板自体の剛性が低くなり、製造過程においてクラック等が派生するという問題がある。
【0008】
また、このようなインクジェット式記録ヘッドでは、インク滴を吐出するための複数のノズル開口を穿設したノズルプレートが用いられ、このノズルプレートがノズル開口と圧力発生室とを連通するように流路形成基板に接着剤等によって接合されている。このため、圧力発生室を高密度に配設すると、ノズルプレートと流路形成基板との接着面積が小さくなるため、接着剤が圧力発生室内に過度に流れ出し、特性劣化が生じる虞がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、流路形成基板の厚さを薄くできると共に破損を防止でき、良好なインク吐出特性を保持できるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口が穿設されたノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が画成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に対応する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ノズルプレートと前記流路形成基板とが単結晶シリコンからなり、これらが接着剤を用いることなく酸化シリコン膜を介して接合されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0011】
かかる第1の態様では、流路形成基板とノズルプレートとが酸化シリコン膜によって良好に接合されて一体構造となり、流路形成基板の剛性が向上すると共にインク吐出特性が良好に保持される。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記圧力発生室及び前記ノズル開口の内面に前記酸化シリコン膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0013】
かかる第2の態様では、流路形成基板とノズルプレートとを熱酸化することによって形成された酸化シリコン膜で接合した結果、圧力発生室及びノズル開口の内面に酸化シリコン膜が形成される。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記酸化シリコン膜内には、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの何れか一方の接合面から他方の接合面まで突出する複数の突起部が埋設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0015】
かかる第3の態様では、突起部を挟んで流路形成基板とノズルプレートとを酸化シリコン膜によって接合した結果、酸化シリコン膜内に突起部が埋設される。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0017】
かかる第4の態様では、比較的容易に圧力発生室を高精度且つ高密度に形成することができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0019】
かかる第5の態様では、常に良好なインク吐出特性が得られ、信頼性を向上したインクジェット式記録装置を実現できる。
【0020】
本発明の第6の態様は、単結晶シリコンからなりノズル開口が穿設されたノズルプレートと、単結晶シリコンからなり前記ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、この圧力発生室の一部を構成する振動板を介して前記圧力発生室に対応する領域に形成された圧電素子とを備えたインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記流路形成基板の一方面に前記振動板の少なくとも一部を構成する弾性膜を形成する第1の工程と、前記流路形成基板の他方面側からエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する第2の工程と、前記流路形成基板の開口面側と前記ノズルプレートとを所定の間隔を空けた状態で前記流路形成基板と前記ノズルプレートとを熱酸化して両者を酸化シリコン膜によって接合する第3の工程と、前記圧電素子を形成する第4の工程とを有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法にある。
【0021】
かかる第6の態様では、流路形成基板とノズルプレートとを酸化シリコン膜によって、容易且つ良好に接合することができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記第3の工程は、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの少なくとも何れか一方の接合面に、一定の高さで突出する複数の突起部を形成する工程を含み、前記突起部を他方の接合面と当接させることにより前記流路形成基板と前記ノズルプレートとの間に空間を確保した状態で両者を熱酸化して接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法にある。
【0023】
かかる第7の態様では、流路形成基板及びノズルプレートのそれぞれの接合面に形成される酸化シリコン膜によって両者が接合される。
【0024】
本発明の第8の態様は、第6の態様において、前記第3の工程では、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの何れか一方の表面に一体的に形成された酸化シリコン膜に他方の接合面を当接させた状態で熱酸化して両者を接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法にある。
【0025】
かかる第8の態様では、他方の接合面に酸化シリコン膜が形成されて、両者が接合される。
【0026】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記第2の工程では、前記流路形成基板の表面に形成された酸化シリコン膜をマスクとして前記流路形成基板のエッチングを行い、前記第3の工程では、前記ノズルプレートの接合面をマスクとして用いた酸化シリコン膜に当接させた状態で熱酸化して両者を接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法にある。
【0027】
かかる第9の態様では、圧力発生室を形成するためのマスクとして用いられる酸化シリコン膜を用いて流路形成基板とノズルプレートとを接合するため、製造工程が簡略化される。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。
【0030】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、流路形成基板10には、その一方の面から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に並設されている。また、圧力発生室12の長手方向外側には、後述するリザーバ形成基板のリザーバとの間の中継室となる連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0031】
また、この流路形成基板10の他方の面には、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)からなる第1の弾性膜50と、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる第2の弾性膜51が形成されている。
【0032】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0033】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して第1の弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、第1の弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0034】
なお、このような流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択する。例えば、180dpi程度の解像度が得られるように圧力発生室12を配置する場合、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度の解像度が得られるように圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0035】
また、流路形成基板10の他方面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤によって接合されている。このノズルプレート20は、シリコン単結晶基板からなり、ノズル開口21はシリコン単結晶基板をドライエッチングすることによって形成されている。なお、本実施形態では、ノズル開口21は、インク滴が吐出されるノズル部21aと、ノズル部21aよりも大きい径で形成されノズル部21aと圧力発生室12とを連通するノズル連通部21bとからなる。
【0036】
ここで、ノズル開口21のノズル部21aの大きさと圧力発生室12の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数等に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル部21aは数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0037】
ここで、このノズルプレート20と流路形成基板10とは、本実施形態では、酸化シリコン膜100を介して接合されている。すなわち、ノズルプレート20と流路形成基板10とは、接着剤を用いて接着するのではなく、酸化シリコン膜100によって一体構造となっている。また、本実施形態では、この酸化シリコン膜内には、流路形成基板10の接合面からノズルプレートの接合面まで突出する突起部55が埋設されている。なお、これら流路形成基板10とノズルプレート20との接合方法については、詳しく後述する。
【0038】
また、流路形成基板10に形成された各圧力発生室12の内面、ノズルプレート20に穿設されたノズル開口21の内面及びノズルプレート20の表面にも、酸化シリコン膜100が連続的に形成されている。
【0039】
一方、流路形成基板10に設けられた第2の弾性膜51の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜3μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0040】
なお、各圧電素子300の個別電極である上電極膜80は、圧電素子300の長手方向端部から周壁上に延設されたリード電極90を介して図示しない外部配線と接続されている。
【0041】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3及び図4を参照して説明する。なお、図3及び図4は、圧力発生室12の幅方向の断面図である。
【0042】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10の一方面に第1の弾性膜50を形成すると共に、他方面に保護膜52を形成する。すなわち、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板を約1100℃の拡散炉で熱酸化することにより、流路形成基板10の表面にそれぞれ酸化シリコンからなる第1の弾性膜50及び保護膜52が形成される。
【0043】
次に、図3(b)に示すように、第1の弾性膜50上にジルコニウム層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウムからなる第2の弾性膜51を形成する。
【0044】
次いで、図3(c)に示すように、保護膜52をパターニングして、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14が形成される領域に開口部52aを形成し、その後、この開口部52aを介して流路形成基板10をエッチングして圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。
【0045】
次いで、図4(a)に示すように、保護膜52をさらにパターニングすることにより、流路形成基板10の表面に複数の突起部55を形成する。これら突起部55は、後述する工程で流路形成基板10とノズルプレート20とを接合する際に、両者の間に空間を保持するためのものであり、各突起部55の大きさ、形状等は特に限定されないが、高さが略同一であることが好ましい。また、この突起部55の数及び形成位置は、特に限定されないが、流路形成基板10の全面に略一定の間隔で設けることが好ましい。
【0046】
次に、図4(b)に示すように、流路形成基板10とノズルプレート20との間に所定間隔を空けた状態で両者を熱酸化することによって両者を接合する。具体的には、流路形成基板10の表面に形成された突起部55をノズルプレート20の表面に当接させ、流路形成基板10とノズルプレート20との間に空間を確保した状態で、約1100℃に加熱して流路形成基板10及びノズルプレート20を熱酸化する。これにより、流路形成基板10とノズルプレート20とのそれぞれの表面に酸化シリコン膜100が形成されていき、この酸化シリコン膜100が一体化することにより両者が接合される。すなわち、流路形成基板10とノズルプレート20とが一体構造となる。
【0047】
なお、このとき、圧力発生室12の内面、ノズル開口21の内面及びノズルプレート20の表面にも、同時に酸化シリコン膜100が連続的に形成される。
【0048】
ここで、本実施形態では、突起部55が流路形成基板10の全面に略一定の間隔で形成されているため、これらの突起部55をノズルプレート20の表面に当接させることにより、流路形成基板10とノズルプレート20との間には略均一な幅で空間が画成される。したがって、流路形成基板10とノズルプレート20とを熱酸化することにより、酸化シリコン膜100が均一に形成されて流路形成基板10とノズルプレート20とが良好に接合される。
【0049】
また、本実施形態では、流路形成基板10とノズルプレート20とを接着剤を用いることなく酸化シリコン膜100によって接合しているので、圧力発生室12等に接着剤が流れ込むことがないため、ノズル詰まりや振動板が拘束されることによる特性劣化を防止できる。
【0050】
また、接着剤を使用していないため、例えば、後述する圧電体層70の焼成等、高温プロセスに対応できる。したがって、圧電素子300を形成する前に流路形成基板10とノズルプレート20とを接合しておくことができる。これにより、流路形成基板10の剛性が向上するため、製造過程で流路形成基板10にクラックが発生するのを防止することができる。さらに、比較的厚さの薄い流路形成基板10を用いても、ノズルプレート20を接合することにより剛性が向上するため、クラックの発生等を防止できると共に取り扱いが容易となる。
【0051】
さらに、流路形成基板10とノズルプレート20との接合時に、圧力発生室12の内面等に酸化シリコン膜100が連続的に形成されるため、圧力発生室12等のインク流路となる部分の親水性が向上し、インク吐出特性が向上する。
【0052】
また、ノズルプレート20が流路形成基板10と同一材料で形成されているため、流路形成基板10との接着時の熱工程や実装時の後工程の熱工程で、反りや反応の発生がなく、流路形成基板10あるいはノズルプレート20に割れが発生することがない。
【0053】
なお、本実施形態では、流路形成基板10の接合面に、複数の突起部55を設けるようにしたが、これに限定されず、勿論、ノズルプレート20の接合面に設けるようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、流路形成基板10とノズルプレート20との間に突起部55によって所定の空間を保持した状態で両者を熱酸化することにより、これらの表面に形成される酸化シリコン膜100によって両者を接合するようにしたが、これら流路形成基板10とノズルプレート20との接合方法はこれに限定されない。例えば、流路形成基板10に形成された酸化シリコンからなる保護膜52にノズルプレート20を当接させた状態、すなわち、保護膜55を介して流路形成基板10とノズルプレート20との間に所定間隔を空けた状態で、約1600℃に加熱することによっても両者を良好に接合することができる。また、勿論、ノズルプレート20の表面に、別途、酸化シリコン膜を設けるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0055】
また、このように流路形成基板10とノズルプレート20との接合後は、流路形成基板10のノズルプレート20との接合面とは反対面側に、各圧力発生室12に対応して圧電素子300を形成する。
【0056】
具体的には、まず、図4(c)に示すように、第2の弾性膜51の全面にスパッタリングで下電極膜60を形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0057】
次に、図5(a)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0058】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0059】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0060】
次に、図5(b)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0061】
次に、図5(c)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0062】
なお、その後、例えば、金(Au)等からなる金属層を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングしてリード電極90を形成する。
【0063】
なお、実際には、このような一連の膜形成及び異方性エッチングによって、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、後述するリザーバ形成基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0064】
すなわち、図1及び図2に示すように、圧力発生室12等が形成された流路形成基板10の圧電素子300側には、リザーバ31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。このリザーバ31は、本実施形態では、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されている。そして、このリザーバ部31は、第1及び第2の弾性膜50,51及び下電極膜60を貫通して設けられる貫通孔57を介して流路形成基板10の連通部13と連通されている。
【0065】
また、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部33が設けらている。そして、圧電素子300の少なくとも圧電体能動部320は、この圧電素子保持部33内に密封され、大気中の水分等の外部環境に起因する圧電素子300の破壊を防止している。
【0066】
このリザーバ形成基板30としては、例えば、ガラス、セラミック材料等の流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。これにより、上述のノズルプレート20の場合と同様に、両者を熱硬化性の接着剤を用いた高温での接着であっても両者を確実に接着することができる。したがって、製造工程を簡略化することができる。
【0067】
さらに、このリザーバ形成基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンスルフィド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ31に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ31の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止され、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部32となっている。
【0068】
また、このリザーバ31の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ31にインクを供給するためのインク導入口35が形成されている。さらに、リザーバ形成基板30には、インク導入口35とリザーバ31の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0069】
このように構成したインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口35からインクを取り込み、リザーバ31からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、上電極膜80と下電極膜60との間に電圧を印加し、第1及び第2の弾性膜50,52、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0070】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0071】
例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10上に、第1及び第2の弾性膜50及び51を設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、第1の弾性膜50又は第2の弾性膜51の何れか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0072】
また、例えば、上述した実施形態は、成膜及びリソグラフィプロセスを応用することにより製造できる薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、基板を積層して圧力発生室を形成するもの、あるいはグリーンシートを貼付もしくはスクリーン印刷等により圧電体層を形成するもの、又は水熱法等の結晶成長により圧電体層を形成するもの等、各種の構造のインクジェット式記録ヘッドに本発明を採用することができる。
【0073】
このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。
【0074】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0075】
図6に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0076】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモータの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、流路形成基板とノズルプレートとを接着剤を介することなく酸化シリコン膜を介して接合するようにしたので、製造工程において、高温プロセスを必要とする圧電素子の形成工程前に、流路形成基板とノズルプレートとを接合して一体構造とすることができる。これにより、比較的厚さの薄い流路形成基板を用いても流路形成基板の剛性が保持され、製造過程での破損を防止することができる。また、比較的厚さの薄い流路形成基板を用いることにより、隔壁の剛性が向上するため圧力発生室を比較的高密度に配列してもクロストークを防止することができる。
【0078】
さらに、流路形成基板とノズルプレートとの接合に接着剤を用いていないため、圧力発生室等に接着剤が流れ込むことによる特性劣化がなく、信頼性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
11 隔壁
12 圧力発生室
20 ノズルプレート
21 ノズル開口
50 第1の弾性膜
51 第2の弾性膜
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
90 リード電極
100 酸化シリコン膜
300 圧電素子
Claims (7)
- ノズル開口が穿設されたノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が画成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に対応する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記ノズルプレートと前記流路形成基板とが単結晶シリコンからなり、これらが接着剤を用いることなく酸化シリコン膜を介して接合され、且つ前記酸化シリコン膜内には、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの何れか一方の接合面から他方の接合面まで突出する複数の突起部が埋設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 請求項1において、前記圧力発生室及び前記ノズル開口の内面に前記酸化シリコン膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1又は2において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜3の何れかのインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
- 単結晶シリコンからなりノズル開口が穿設されたノズルプレートと、単結晶シリコンからなり前記ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、この圧力発生室の一部を構成する振動板を介して前記圧力発生室に対応する領域に形成された圧電素子とを備えたインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、
前記流路形成基板の一方面に前記振動板の少なくとも一部を構成する弾性膜を形成する第1の工程と、前記流路形成基板の他方面側からエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する第2の工程と、前記流路形成基板の開口面側と前記ノズルプレートとを所定の間隔を空けた状態で前記流路形成基板と前記ノズルプレートとを熱酸化して両者を酸化シリコン膜によって接合する第3の工程と、前記圧電素子を形成する第4の工程とを有し、且つ前記第3の工程は、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの少なくとも何れか一方の接合面に、一定の高さで突出する複数の突起部を形成する工程を含み、前記突起部を他方の接合面と当接させることにより前記流路形成基板と前記ノズルプレートとの間に空間を確保した状態で両者を熱酸化して接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。 - 請求項5において、前記第3の工程では、前記流路形成基板又は前記ノズルプレートの何れか一方の表面に一体的に形成された酸化シリコン膜に他方の接合面を当接させた状態で熱酸化して両者を接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
- 請求項6において、前記第2の工程では、前記流路形成基板の表面に形成された酸化シリコン膜をマスクとして前記流路形成基板のエッチングを行い、前記第3の工程では、前記ノズルプレートの接合面をマスクとして用いた酸化シリコン膜に当接させた状態で熱酸化して両者を接合することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
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