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JP3851088B2 - 波長シフト性のプローブ及びプライマー - Google Patents

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JP3851088B2 JP2000562560A JP2000562560A JP3851088B2 JP 3851088 B2 JP3851088 B2 JP 3851088B2 JP 2000562560 A JP2000562560 A JP 2000562560A JP 2000562560 A JP2000562560 A JP 2000562560A JP 3851088 B2 JP3851088 B2 JP 3851088B2
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ザ・パブリック・ヘルス・リサーチ・インスティチュート・オブ・ザ・シティー・オブ・ニューヨーク・インク
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    • C12Q1/68Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions involving nucleic acids
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
連邦補助の研究についての言及
本発明のうちの一部は、国立衛生研究所(National Institute of Health)の補助金HL-43521のもとに行われた。合衆国政府は、本発明についての一定の権利を有する可能性がある。
【0002】
本発明は、核酸ハイブリダイゼーションプローブ、及び増幅プライマー、並びにこれらを利用するキット及びアッセイに関する。
【0003】
【従来の技術】
ヘアピン形成性オリゴヌクレオチドの、相互作用性標識対、特には蛍光標識対及び蛍光体-消光体標識対とのハイブリダイゼーションプローブが知られている。Tyagiら、PCT出願番号W095/13399;Tyagiら、PCT出願番号W097/39008;Tyagi and Kramer (1996) Nature Biotechnology 14:303。これらのプローブの好ましい態様であって、蛍光体及び消光体で標識されたものは「暗い」、即ち溶液中でフリーである場合には蛍光が相対的に小さいか又は全くないが、これらの核酸標的にハイブリダイズした場合には蛍光性であるものである。このような態様を、分子標識プローブと呼ぶ。これらは種々の蛍光体で構築され、そして終点(end-point)アッセイ及びリアルタイム均一アッセイの両方により利用されるが、これには多重アッセイが含まれる。Tyagiら(1998) Nature Biotechnology 16:49; Kostrikisら(1998) Science 279:1228; Piatekら(1998) Nature Biotechnology 16:359。 蛍光体及び消光体で同時に標識されたヘアピン含有プライマーも知られている。Nazarenkoら(1997) Nucleic Acids Research 25:2516。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
単一の刺激波長で動作する蛍光アッセイ装置は、多重刺激波長で動作する装置と比較して、より単純であり、そしてより安価である。ほとんど全てのアッセイ装置であって、数万(米)ドルの洗練された装置を含むものは、たとえ波長が選択できるものであっても単一波長の刺激で動作する。個々の蛍光体には最適の励起波長があるので、そのような光源を有する検出装置に使用する蛍光体の選択には限りがある。ある種の蛍光体は、よく励起されないか、又は当該光源では本質的に全く励起されない。赤色の蛍光体、例えばテトラメチルローダミン(TMR)や、テキサスレッドは、青色の光源によっては最小限にしか励起されない。洗練された高価な装置、例えばApplied BioSystems 7700 PRISMは、青色光源で刺激されたTMRからの蛍光を検出することができるが、テキサスレッドでは検出できない。あまり洗練されてはおらず、より安価な装置ではどちらとも検出できない。異なる色の蛍光体を有する多重ヘアピンプローブ又はプライマーを使用した、多重標識用の多重アッセイにおいては、その放射スペクトルの重なりが限られていて、蛍光体の選択が、単一波長刺激の使用により制限される、4つ又はそれ以上の蛍光体を使用できることが望ましい。また、多重アッセイには、蛍光体の一部の放射強度が、絶対的な意味において、そしてアッセイ中の他の蛍光体との比較においての両方で非常に弱いという欠点がある。また、蛍光体のストークシフト(最適の励起波長と最適の放射波長との間の波長の差異)は、一般に数ナノメートルでしかないので、その蛍光体が、当該励起光源の波長又はそれに非常に近いところで最大放射を有するヘアピンプローブ及びプライマーは、蛍光測定機により検出される光源に由来するバックグラウンドの問題を有する蛍光がある。このことは、より安価でより洗練されていない検出器を使用する場合に、より顕著になる傾向がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の一の態様は、通常のヘアピンプローブ及びプライマーと比較して、その構造変化により、より大きなストローク効果を有する検出可能な蛍光シグナルを作り出すプローブ及びプライマーである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の別の態様は、広い範囲のヘアピン形成性プローブ及びプライマーであって、標的の存在しない場合において効果的に消光される(暗くなる)が、標的の存在下では単色光源によって、よりよく励起するものである。
【0007】
本発明の別の態様は、異なる色の蛍光体を含む一群又は一連のヘアピンプローブ又はプライマーであって、その全てが単一の単色光源により十分に励起されるものである。
【0008】
本発明の別の態様は、付加的なプローブ及びプライマーであって、単一波長の刺激装置で使用するのに適するものであるが、これには現在選択することが非常に限定的である洗練されていない装置を含む。
【0009】
本発明の別の態様は、ヘアピン形成性プローブ及びプライマーであって、光源自体が検出されない結果としてバックグラウンドシグナルが低減されたものである
【0010】
本発明の別の態様は、標的にハイブリダイズすると一の色で蛍光を発するが、ヌクレアーゼで消化されると色が変化するプローブである。
【0011】
本発明の付加的態様は、以下の明細書の記載(特許請求の範囲を含む)から明らかであろう。
【0012】
本発明者らは、閉じている場合に蛍光が抑制されるが、開いている場合に単色光源で十分に励起されて光源の波長〜離れた波長で強力に放射するようにして、ヘアピン形成性プローブ及びプライマーを構築できることを発見した。ある好ましい態様は、閉じている場合に「暗く」(これは、閉じている場合にその全蛍光が、開いている場合の全蛍光の20%未満であることを意味する)、そして開いているときに色の変化を起こさないものである。本発明のプローブは、終点検出アッセイにおいて適し、そして本発明のプローブ及びプライマーは、リアルタイムの増幅アッセイ、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイに適している。終点アッセイ及びリアルタイムアッセイは、多重アッセイであってもよい。このプローブ及びプライマを含むアッセイキットもまた提供される。
【0013】
本発明には、以下のものを含むヘアピン形成性ハイブリダイゼーションプローブ及びプライマーが含まれる:
a)ヘアピン形成性オリゴヌクレオチド配列;
b)当該オリゴヌクレオチド配列に結合した蛍光放射部分であって、当該放射部分が、最大放射波長を有する放射スペクトル及び励起スペクトルを有するものであるもの;
c)当該オリゴヌクレオチド配列に結合した蛍光回収部分であって、当該回収部分は、最大励起波長を含む励起スペクトル有し、当該放射部分の励起スペクトルと重なりあい、最大放射波長を含む放射スペクトルを有する蛍光回収部分であって、当該回収部分のその最大放射波長における放射は、当該回収部分が消光されずにその最大励起波長で刺激された場合に、第一位の強度を有するもの;及び
d)当該放射部分及び当該回収部分のうちの少なくとも1の蛍光を消光することが可能な消光部分、
ここで、当該オリゴヌクレオチドは、閉じた構造を有するものであり、ここで、当該消光部分は、前記の回収部分及び放射部分の少なくとも1に対して消光性の関係にあり、ここで、当該回収部分の最大励起波長で励起される場合、当該回収部分の最大放射波長での放射は、当該第一位の強度に対して実質的に抑制され、そして当該放射部分の最大放射波長での放射は、第二位の強度を有し、そして当該オリゴヌクレオチドは、当該ステム二重鎖を有しない開いた構造を有し、当該消光部分が当該回収部分又は当該放射部分と消光性の関係になく、ここで、当該回収部分の最大励起波長で励起される場合、当該回収部分の最大放射波長での放射は、当該第一の強度に対して実質的に抑制され、エネルギーは、当該回収部分から当該放射部分へと移され、そして当該放射部分の最大放射波長での放射は、当該第二の強度よりも検出可能な位大きい。
【0014】
本発明の修飾された分子標識プローブの場合、このプローブの標的鎖へのハイブリダイゼーションにより、プローブは、閉じた構造から開いた構造へシフトする。
【0015】
特に定義しないかぎり、本願で使用する技術的及び科学的用語の全ては、本発明の属する分野の当業者が普通に理解するのと同じ意味を有する。本願に記載されるものと同じか、又はこれに相当する方法と材料は、本発明の実施や試験において使用することができるが、適切な方法と材料を以下に記載する。本願で参照する全ての刊行物、特許、及び特許出願は、全体を参照することにより組み込む。相反する場合には、本願(定義を含む)が優先される。更に、本願に記載の材料、方法、及び実施例は例示的であるのみで、限定的であることを意図するものではない。
【0016】
本発明により修飾することが可能なヘアピン形成性オリゴヌクレオチドプローブには、分子標識プローブが含まれるが、これらは相互作用的に標識されたヘアピン形成性オリゴヌクレオチであって、ステムアンドループ構造を含んでいる。このループには、当該プローブの標的に対して相補的であるプローブ配列が含まれる。ヌクレオチド配列(「アーム」)は、このプローブ配列を挟み、そして1のアームの配列は、他のアームにおける配列に相補的である。プローブが標的にハイブリダイゼーションしない場合、当該アームは、互いにハイブリダイズしてステムハイブリッドを形成するが、これは時として「ステム二重鎖」と呼ばれる。これは閉じた構造をとる。当該プローブが、その標的にハイブリダイズする場合、プローブ-標的のハイブリッドがより長くてより強力であるものは、ステムハイブリッドを乗り越えてアーム配列を分離する。これが開いた構造である。開いた構造においては、アームは標的にもハイブリダイズする。分子標的プローブは、溶液内でフリーであるか、又は固体表面に対してつなげられることが可能である。ある種の分子標識プローブは、「アリール識別性(allele discriminating)」と呼ばれるが、これらの場合には完全に相補的な鎖のみが、アッセイ条件下でこの変化を引き起こす標的である。他の態様の場合、プローブは、当該標的に関して1又は2,3の内部ミスマッチの存在にも関らず開くであろう。分子標識プローブは、1のアームに結合した蛍光体及び他のアームに結合した消光体を有する。アームが、ステムを形成する場合、消光体は、当該蛍光体の非常に近くにあり、そしてその蛍光を効果的に消光又は抑制し、当該プローブを暗くする。このようなプローブは、係属中の米国特許出願番号08/439,619、及び出願番号08/990,176に記載されているが、これらの両方をその全体を参照することにより本願に組み込む。蛍光体及び消光体、例えば、テトラメチルローダミン及びDABCYLは、FRET対である必要はない。
【0017】
本発明の修飾された分子標識プローブのオリゴヌクレオチド配列は、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、又はこれらの組み合わせとすることができる。修飾されたヌクレオチドには、例えばニトロピロールベースのヌクレオチド、又は2'-O-メチルリボヌクレオチドを含めることができる。修飾された結合、例えばホスホロチオエートも含めることができる。修飾されたヌクレオチド及び修飾された結合も、本発明の波長シフト性プライマー中に導入することができるが、分かるであろうがこれは、1のアーム核酸ポリメラーゼ用のプライマーとして機能することが可能であるということに依存している。
【0018】
本発明のプローブの場合、標的に相補的であるループ配列の長さ、ステムハイブリッドの長さ、そしてこれら二つの関係は、使用するプローブに対するアッセイ条件に従って設計される。標的相補性配列及び特定のアッセイ条件用のステムハイブリッドの長さは、既知の手段により、必要ならば試験及び調整して推定することができる。PCRアッセイで使用される典型的なプローブ配列は、16乃至25ヌクレオチドの範囲である。典型的なステムの長さは3乃至8、より一般的には4乃至7ヌクレオチドの範囲である。ステムハイブリッドの強度は、通常の実験により適度な機能を発揮するように調整する。長さに加えて、ステムハイブリッドの強度は、理解されるであろうが、GC含有量の調整、及び不安定化ミスマッチの導入により調整することができる。1のアームは、一部が、又は完全に標的に対して相補的とすることができる。3’のアームが標的に対して相補的である場合、プローブは、DNAポリメラーゼ用のプライマーとなることができる。また、波長シフト性分子標識プローブは、フリーで浮遊させるのみならず、つなぎ(tethering)によって固体表面に固定化することもできる。
【0019】
広い範囲の蛍光体を、本発明のプローブ及びプライマーにおいて使用することができる。入手可能な蛍光体には、クマリン、フルオレセイン、テトラクロロフルオレセイン、ヘキサクロロフルオレセイン、ルシフェールイエロー(Lucifer yellow)、ローダミン、BODIPY、テトラメチルローダミン、Cy3、Cy5、Cy7、イオシン、テキサスレッド、及びROXが含まれる。組み合わせ蛍光体、例えばフルオレセイン-ローダミンダイマー、例えば、Leeら(1997),Nucleic Acids Research 25:2816に記載されるものもまた適切である。蛍光体は、可視スペクトル又は可視スペクトルの外側、例えば紫外又は赤外の範囲で吸光及び放射するように選択することができる。
【0020】
消光体は、励起した蛍光体の近傍に配置されると、これをほとんど又は全く蛍光を示さないようにする部分である。文献に記載されている適切な消光体には、特にDABCYL及びその変異体、例えばDABSYL、DABMI及びメチルレッドが含まれる。蛍光体も消光体として使用することができるが、それはこれらがある種の他の蛍光体に接触する場合に、蛍光を消光する傾向にあるからである。本願の好ましい消光体は、発色団、例えばDABCYL又はマラカイトグリーン、又はプローブが開いた構造にある場合に、検出範囲では蛍光を示さない蛍光体である。
【0021】
本発明のヘアピン形成性プローブは、検出アッセイにおいて使用することができる。これらは、増幅アッセイ中における検出体として使用することもでき、また、増幅前に添加することもできるが、その場合には、増幅可能な標的の初期濃度についての定量的結果を得ることが可能である。増幅反応には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写介在増幅(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ローリングサークル増幅、及び例えばQ-ベータレプリカーゼ等の酵素で触媒されるRNA-指向性RNA増幅が含まれる。多重標的用の多重プローブは、単一の反応チューブ又は多重アッセイ用の他の容器内で使用することができる。
【0022】
ヘアピン形成性プライマーは、上述の増幅反応であって、1以上のプライマーを含むものの中で使用することができる。これらは本発明により修飾することができ、核酸標的に結合して、ヘアピン含有プライマーが核酸ポリメラーゼにより伸張されるようにするアーム配列を有している。ループ部分は、もともとの標的鎖に対して相補的であってもよいが必ずしもそうでなくてもよい。ヘアピン含有プライマーは、1のアームで蛍光体により、そして他のアームで消光体により標識されたステムを有するが、これは分子標識プローブと同様である。本発明の態様は、主として分子標識検出プローブとの関連において記載される。当業者らは、その概念及び教示事項は、ヘアピンプライマーにも同様に適用されることを理解するであろうし、また、当該概念及び特定の教示事項をヘアピン含有プライマーにどのようにして適用するかも理解するであろう。
【0023】
図1は、二つの蛍光体、フルオレセイン及びテトラメチルローダミン(TMR)の励起スペクトル及び放射スペクトルを示すものである。フルオオレセインは、最大が490nmである吸収スペクトル1を有し、そして最大が515nmである放射スペクトル2を有する。フルオレセインは、ストークシフトを有し、二つの最大値の間の差異は25 nmである。TMRは、最大が555nmである励起スペクトル3を有し、そして最大が575nmである放射スペクトル4を有している。これは20nmのストークシフトを有している。
【0024】
図1は、多くの蛍光体で典型的な、相対的に小さいストークシフトを示す。正常の波長、例えば488nmで刺激光を作り出す装置は、実際にはより長い波長を含む励起スペクトルを有することができ、また、515nmに設定した検出器は、実際にはより短い波長を含む光に応答することができる。このようなより測定される蛍光シグナルには、刺激光からのバックグラウンド値が含まれているであろう。
【0025】
図1はまた、単一の刺激波長を有する装置にはなぜ、非常に実質的な制限が存在するのかを示す。刺激波長が490nmであるならば、これはフルオレセインの励起に最適であるが、TMRを蛍光体として有する分子標識プローブは、560nmの光源によるものと同様に、たった10%しか刺激されない。その放射強度は、対応してより低いものであろう。仮に励起光源を560nmに変えた場合、これはTMRに適するものであるが、フルオレセインは、全く励起されないであろう。従って、うまく機能する異なる蛍光体の数は、どの励起波長を使用するのであれ、制限される。これらの効果は、図2及び図3に例示されているが、これはPCR増幅反応における増幅アンプリコンの検出体としての通常の分子標識プローブデザインを使用した結果を示すものである。このプローブデザインには、ステムアンドループのヘアピン構造であって、末端が蛍光体で標識されていて、そして消光体DABCYLは、ステム二重鎖の反対の位置にある。図2は、蛍光体がフルオレセインであり、励起光源が青色のアルゴンレーザー(408nm)であり、検出体がフルオレセインの放射範囲での蛍光を測定する場合に何が起こるかを示す。図2と、そして図3と図4にも報告される蛍光強度は、Applied Biosystems 7700 PRISM スペクトロフルオレメータ熱サイクラー(The Perkin-Elmer Corporation)を使用して得られたが、これで洗練された蛍光測定ができる。標的分子を含む蛍光強度21が、標的分子を全く含まない試料の蛍光強度22を越えて増大したが、これはPCRのほぼ15サイクル目で始まり、そして約4000単位の差異にまで、30サイクル目までには迅速に増大した。図3は、分子標識プローブの蛍光体が、フルオレセインの代わりにテキサスレッドであり、検出器がテキサスレッドの放射範囲において蛍光を測定するという唯一の差異がある、並行して行った実験中で何が起こるかを示す。ここで再び、標的を含む試料の蛍光強度31は、ほぼ15サイクル目で、標的を含まない対照の蛍光強度32からずれを生じるようになったが、30サイクル目までにはこの差異は、フルオレセインを含む分子標識プローブでの4000単位と比較して、わずかに約200単位であった。テキサスレッドは、刺激光源が、青色の光を放射する場合には有益な蛍光体ではなく、たとえ洗練された蛍光測定ができる高価な装置があってもそうである。
【0026】
図4は、第二の実験との唯一の差異が、図3のテキサスレッドを、本発明の構築物に変えたことである、三番目の並行実験の結果を示す。ここで再び、標的を含む試料の蛍光強度41は、標的を含まない対照の読取値42から、ほぼ15サイクル目でずれ始めたが、30サイクル目までにはこの差異は、ほぼ3000単位になり、これは図2に示される実験で使用した、フルオレセインで標識した通常の分子標識プローブの蛍光強度の約75%の強度であり、図2に示される、テキサスレッドで標識された通常の分子標識プローブの蛍光強度の15倍の強度である。この増大は、蛍光強度42が示すように、標的にハイブリダイズしていない場合に、プローブ自身は本質的に暗いという性質を擬性にすることなく達成された。従って、488nmでの励起光源は、本発明によるテキサスレッドプローブ用の許容される光源であり、逆に、テキサスレッドは、本発明により488nmの励起光源で使用するためのプローブ及びプライマー用の許容される蛍光体である。本発明のプローブにより達成される放射強度は、当該プローブを、例えばApplied Biosystems PRISM等の洗練された検出器での使用のみならず、より安価な装置であって洗練されていない蛍光測定器を有するものでの使用においても適するものとする。
【0027】
修飾した分子標識プローブの構造及び操作、そして本発明のヘアピンプライマーを、図5に概略が示される、好ましいプローブの態様を参照しながら説明する。プローブ51には、分子標識プローブヘアピンオリゴヌクレオチド構造が含まれ、即ち、ループ52、ステム二重鎖53、一端においてDABCYL消光体55、そしてプローブが閉じた構造にある場合にはステムハイブリッドを通って、近傍の消光性の関係にある、当該消光体と反対側の蛍光体54が含まれる。プローブには、フルオレセンを過ぎて、複数のヌクレオチドからなる伸張部57が含まれる。伸張部57は、テキサスレッド蛍光体56に結合したヌクレオチドで終了する。標的鎖58の存在下では、ループ52は標的鎖とともにハイブリッド59を形成し、ステム53を巻き戻し、消光体55をフルオレセイン54とテキサスレッド56から分離する。しかしながら、この開いた構造においては、フルオレセインは、励起光源からのエネルギーを吸収するが、そのエネルギーの顕著な部分、ある場合にはそのエネルギーの主要部分を、テキサスレッド蛍光体へ移してしまう「回収」部分として作用するが、このテキサスレッド蛍光体は、移されたエネルギーを受け取り、そしてこれを特徴的な、より長い波長で放射する「放射」部分として作用する。
【0028】
開いた構造にあるプローブ51の機能は、FRETの規則に従うことが分かっているが、これは二つの蛍光体が適度な距離で分離されていて、そして回収部分の放射スペクトルが、当該放射部分の吸収スペクトルと顕著に重なりあうことを必要とする。図1においては、影をつけた領域5は、スペクトルが示されている二つの蛍光体のスペクトルの重なりあいを示している。プローブ51は、閉じた構造にある場合には、フルオレセインとのFRET対をつくる第二の蛍光体の存在に関らず、本質的に暗いことを発見した。おそらくは、フルオレセインとDABCYLとの組み合わせは、テキサスレッドとのFRET対を作らない。機構がどのようなものであれ、プローブが閉じている場合には610nmでの蛍光はほとんどないか又は全くない。同様に、プローブが閉じている場合には、515nmでの蛍光はほとんどないか又はまったくない。
【0029】
本発明のプローブ及びプライマーは、本願では「波長シフト性」分子標識プローブ、及び「波長シフト性」ヘアピンプライマーと呼ぶが、それらに対応した非修飾物のように、これらはDNA、RNA、PNA.(ペプチド核酸)、又はこれらの組み合わせから調製することができる。修飾済ヌクレオチド及び修飾済ヌクレオチド結合を、天然のヌクレオチド及び結合の代わりに使用することができる。蛍光体及び消光体を、ヌクレオチドの代わりに鎖内に挿入することができる。波長シフト性分子標識プローブのループは、標的に対して相補的であり、そして少なくとも7ヌクレオチド、好ましくは約12乃至約30ヌクレオチドの範囲の長さを有しているが、もっともより長いループも使用が可能である。波長シフト性プライマーは、同様のループを有していてもよいが、これらのループは標的に対して相補的である必要はなく、そしてこれらのループは、3ヌクレオチドの短さであってもよい。アームは少なくとも3ヌクレオチドのステム二重鎖を形成するが、好ましくは3乃至8ヌクレオチドの範囲であり、もっとも、一部の適用においてはより長いステムが適している。
【0030】
プローブ又はプライマーの第一のアームは、消光体で標識される。プローブ又はプライマーは、プローブ又はプライマーが開くことにより消光体が離れて再配置される場合に、エネルギー転移により相互作用が可能な蛍光体の対で標識される。この対のうちの1は、当該プローブが閉じている場合に、消光体と密接な、消光性の関係にある第二のアームに連結される。より波長の短い蛍光体である、「回収体」、又はより波長の長い蛍光体である、「放射体」のいずれかが、消光体に対してその関係を有している。他の蛍光体は、消光体からさらに離れて配置することができる。或いは、消光体は、当該二つの蛍光体に対して中間である他のアーム上の点と反対に位置することも可能である。プローブが、標的に結合するか、又はプライマーが開いている場合には、回収体及び放射体は、蛍光エネルギーの転移に適する距離で離れている。ステム二重鎖中の、消光体と密接な、消光性の関係にない蛍光体は、ステム又はステムの外側の伸張部の領域にある第二のアームに連結することができ、又はある場合にはループに連結することもできる。閉じた構造においては、上述のごとく、消光体、及び回収蛍光体と放射蛍光体のうちの1は、密接な消光性の関係にあるが、これはこれらが互いに十分に密接していて、消光が、蛍光共鳴エネルギー転移を越えることを意味する。最も好ましくは、二つの部分は互いに接触する。しかしながら、ステム二重鎖に沿った1の塩基対による分離は、ほとんど常に満足のゆくものである。より大きな分離さえも多くの場合において可能であり、即ち、2-4塩基対又は5-6塩基対でさえも、スぺーサーである場合には以下に記載されるように利用される。このようなより大きい分離の場合には、ステム二重鎖のら旋性が、部分間の距離に与える影響を考慮しなくてはならない。
【0031】
プローブが閉じている場合に、放射体蛍光体が消光部分と密接な消光性の関係にある態様においては、回収体及び放射体の蛍光体は、適切なFRET距離を有しなくてはならない。
【0032】
回収体蛍光体から放射体蛍光体へのエネルギー転移は、蛍光共鳴エネルギー転移則(Stryer (1979) Ann. Rev. Biochem. 47:819)により制御されるが、これは、本発明のプローブ及びプライマーの設計に使用している。具体的には二つの規則を考慮して、エネルギー転移の効率を最大にしている。まず、放射体の吸収スペクトルと、回収体の放射スペクトルは、重なり合わなくてはならない。次に、この二つの蛍光体は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が起きるようにして、互いに位置づけられている必要がある。放射体蛍光体と回収体蛍光体との間の最適な距離は、二つの相反する効果の関数である。一方では、二つの部分がより離れると、エネルギー転移の効率がより低くなり、励起体から放射体へのエネルギーの転移は1/R6に比例するが、ここでRは、二つの蛍光体の間の距離である。他方では、これらがより接近すると、放射体放射の望ましくない消光能がより大きくなる。二つの蛍光体間の距離は、この二つの蛍光体を分離する鎖中の原子数により決定されるものであるが、これはこれらが連結されている骨格の性質に応じて変動させることができる。これらは、実質的なFRETが存在するように十分に分離すべきであり、そして好ましくは、これらはFRETが消光を越えるのに十分に分離されている。これらの規則は、DNA分子に連結されている場合に、1の蛍光体から他の蛍光体へのエネルギー転移の効率を最適化するために通常利用されるものである(Ju et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:4247; Ju et al. (1995) Anal. Biochem. 231:131; Hung et al. (1998) Anal. Biochem. 252:78; Mathias et al. PCT/US96/13134)。20-60オングストロームの距離が適しているが、これは約6乃至約18のヌクレオチドに相当し、7ヌクレオチドが好ましい分離であり、エネルギー転移量は分離が大きくなるにつれて減少する。例えば回収体蛍光体としてのフルオレセイン、このフルオレセインと反対で接触しているDABCYL消光体と、放射体体蛍光体としてのJOE、TET、TAMRA、ROX、又はテキサスレッドの何れかとを使用すると、二つの蛍光体間の5乃至8ヌクレオチドの分離により、最適な空間が提供される。5ヌクレオチドの分離を使用すると、FRETは実質的なものとなり、そして消光を越えるものとなることがかわった。4ヌクレオチドの分離では、実質的なFRETが存在するが、実質的な消光も生じてしまい、これはより好ましくない。空間におけるヌクレオチドの同一性(アイデンティティー)は、エネルギー転移効率へはほとんど影響を与えない。しかしながら、空間におけるヌクレオチド配列は、回収体蛍光体及び放射体蛍光体を消光性の距離に配置するヘアピンを形成させるべきではない。他の種類のスぺーサー、例えばアルキルスぺーサーも使用することができる。
【0033】
本発明者らは、回収体からの転移によるエネルギーを受け取ることができる放射体の存在にもかかわらず、本発明のプローブ及びプライマーは、閉じている場合に放射を抑制することを発見した。抑制は、消光体が回収体と消光性の関係にある場合に起こることを発見した。また、本発明者らは、消光体が、放射体と消光性の関係にある場合に抑制が起こることも発見した。抑制が起こる機構については不明である。しかしながら、以下の実施例に示すように、回収体の蛍光は、どちらの場合にも実質的に抑制され、そして同時に放射体の蛍光は低いレベルで維持されていて、当該プローブ又はプライマーが開いている場合には、放射体の蛍光が検出できる程度に増大する。
【0034】
入手可能な単色光源の波長範囲において強い吸収を示すどのような蛍光体も、回収体蛍光体として使用することができる。例えば、青色光(488 nm)を放射するアルゴンレーザー、又は青色放射ダイオードを励起光源として使用する場合、フルオレセインは、優れた回収体蛍光体となることができる。青色の範囲において効果的な別の回収体蛍光体は、3-(ε-カルボキシ-ペンチル)-3'-エチル-5,5'-ジメチルオキサカルボシアニン(CYA)[Hing et al. (1996) Anal. Biochem. 243:15]である。これらの回収体蛍光体の場合、放射体蛍光体は、2',7'-ジメトキシ-4',5'-ジクロロ-6-カルボキシ-フルオレセイン(JOE)、テトラクロロフルオレセイン(TET)、N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、テキサスレッド、及びその吸収スペクトルが、フルオレセイン及びCYAの放射スペクトルとの実質的なスペクトルの重なり合いを共有している数多くのシアニド染料とすることができる。異なる波長の光源を使用する場合、蛍光体は、紫外乃至赤外のスペクトルにそった何れかの領域で吸収及び放射するように選択することができる。複合蛍光体(compound fluorophore)、例えばLee et al. (1997)に記載されるものも蛍光体として使用することができる。
【0035】
適切な構成ブロック(例えばデオキシリボヌクレオチド)を官能基化して、蛍光体を、適宜、プローブの形成前に当該構成ブロック上に存在させるか、又は形成後にプローブにこれらを共役させることにより、蛍光体及び消光体を、プローブへ加えることができる。当業者に知られる種々の化学を使用して、二つの蛍光体間の適切な空間が得られるようにすることができる。更に、蛍光体であるホスホロアミダイト、例えば蛍光性ホスホロアミダイトを、ヌクレオチドホスホロアミダイトの代わりに使用することができる。このような置換を含んだヌクレオチド配列は、置換されていることにも関らず、「オリゴヌクレオチド」と見なされるが、この用語はこの開示及び添付の特許請求の範囲において使用される。
【0036】
蛍光体及び消光体は、アルキルスぺーサーを介して、ヌクレオチド上の異なる位置に連結することができる。標識は、通常の入手可能なDNA合成試薬を使用して、オリゴヌクレオチド中の内部又は末端の位置に配置できる。標識はまた、蛍光体部分に連結したヌクレオチドを、合成中に置換することによりオリゴヌクレオチドの内部に配置できる。複数の炭素のアルキル鎖を利用する、通常入手可能なスぺーサー(Glen Research)をうまく使用できるが、消光の程度及びエネルギー転移の程度はスぺーサーの長さを変動させることにより最適化することができる。
【0037】
本発明の波長シフト性の分子標識プローブ及びヘアピンプライマーは、回収体蛍光体のみ又は放射体蛍光体のみを有する、対応した開いた通常の分子標識プローブ又はヘアピンプライマーと、その蛍光を比較することにより特徴づけることができる。波長シフト性プローブ及びプライマーは、閉じている場合、(a)対応する開いた、同様に励起された、回収体のみのプローブ又はプライマーと比較して実質的に抑制された回収体放射を有し、そして(b)放射体の励起最大で励起された、放射体のみのプローブ又はプライマーよりも実施的に低い放射体放射を有する。波長シフト性のプローブ及びプライマーは、開いている場合には、(c)対応する、同様に励起された回収体のみのプローブ又はプライマーと比較して、実質的に抑制された回収体放射をいまだ有し、そして、(d)閉じている場合に、放射体放射よりも実質的に大きく、且つ、回収体の励起最大で励起された、対応する開いた、放射体のみのプローブ又はプライマーよりも実施的に大きい放射体放射を有する。
【0038】
回収体放射の抑制は、回収体及び消光体のみで標識された、対応する通常の分子標識プローブ又はヘアピンプライマーの開いた構造からの放射に対して測定される。或いは、本発明の波長シフト性プローブ又はプライマーは、DNアーゼIでのインキュベーションにより消化することもできるが、これは標識部分を分離し、そして回収体を蛍光性について阻害されていないようにする。これらの何れかを使用して、それに対して回収体抑制が測定される回収部分の大きさ、又は強度を得ることができる。「実質的に抑制された」とは、その放射最大における回収体の蛍光強度が、上記の標準の何れかよりも、少なくとも40%であり、好ましくは少なくとも50%、そしてより好ましくは少なくとも60%低いことを意味する。
【0039】
プローブ又はプライマーが、その閉じた構造にある場合の放射体放射は、放射体-消光体で標識され、当該放射体の励起最大で励起された、対応した通常の分子標識プローブ又はヘアピンプライマーの開いた構造からの放射に対して測定できる。これは実質的により低い必要がある。ここでも再び、「実質的に低い」とは、その放射最大における放射体の蛍光強度が、それに対して測定される標準よりも、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、そしてより好ましくは少なくとも60%低いことを意味する。このことは、当該プローブ又はプライマーが閉じている場合には、放射体は最大又は最大近くでは蛍光を発しなく、当該プローブが開いている場合には検出可能な増大を許容することを保証する。閉じている時には「暗く」、好ましい態様においては、放射体の波長においてはほとんどないしは全く蛍光はないが、これは放射が上記の標準よりも少なくとも80%低いことを意味する。回収体に適する波長で刺激された場合には、プローブ又はプライマーが開いていると、放射体の放射最大における放射が検出できる程度に増大するのは、本発明のプローブ及びプライマーの特徴である。20%の増加は、一般には検出が可能な増加であるが、その増加が少なくとも2倍であることが好ましく、より好ましくは少なくとも4倍である。閉じている場合に「暗い」状態である好ましい態様においては、少なくとも4倍の増加があり、そして最も好ましくは少なくとも8倍の増加がある。この性質、そしてその他の性質であって、特定の適用の場合に魅力的となるものが、以下の実施例に記載されている。
【0040】
【実施例】
構成の異なる、いくつかの波長シフト性分子標識プローブを調製して試験した。以下の合成方法は、これらの実施例に記載のプローブに適用される。
【0041】
通常の分子標識プローブと、本発明の波長シフト性プローブとを合成した。標識を、自動合成中に又は合成反応後の何れかにおいてプローブ配列に結合させたが、これは文献に記載されているものである(Tyagi and Kramer (1996))。消光体を以下の3つの方法の何れかによりオリゴヌクレオチドへ導入した:
制御済孔ガラスカラムを使用して、4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-スルホニル部分(DABSYL)を当該オリゴヌクレオチドの3'末端に、自動合成中に導入する;
結合部位が第1級アミノ基である場合、4-(4'-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)のスクシニミジルエステルを使用する;そして
結合部位がスルフィドリル基である場合、4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4'-マレイミド(DABMI)を使用する。フルオレセインは、ヌクレオチドをフルオレセインで置換するフルオレセインホスホロアミダイトを使用するか、又はスぺーサー経由でチミジンリングにフルオレセイン部分を導入するフルオレセインdTホスホロアミダイトを使用して、DNAの内部に導入した。フルオレセイン部分を末端部に連結するために、ヨードアセトアミドフルオレセインをスルフィドリル基にカップリングした。テトラクロロフルオレセイン(TET)は、自動合成中に、5'-テトラクロロフルオレセイン ホスホロアミダイトを使用して導入した。他の反応性の蛍光体誘導体及びそのそれぞれの結合部位は、アミノ基にカップリングした5'-カルボキシローダミン-6G(RHD)のスクシニミジルエステル;スルフィドリル基にカップリングしたテトラメチルローダミンのヨードアセトアミド;アミノ基にカップリングしたテトラメチルローダミンのイソチオシアネート;又はスルフィドリル基にカップリングしたテキサスレッドのスルホニルクロリドを使用して自動合成中に導入した。これらの多重標識プローブの合成中に、共役したオリゴヌクレオチドを、それぞれのカップリング工程後に高圧液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0042】
(実施例1)
試験プローブ構築物
本実施例に記載される9からなる一連のプローブにおいては、DABSYLを消光体として、フルオレセインを回収体として、そしてTMRを放射体として利用した。このプローブのオリゴヌクレオチド配列を以下に示す。ステム二重鎖の形成に関与する配列には下線をひいてある。内部に配置された蛍光体は、名称のみで示されている。例えば、「フルオレセイン」は、オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドを置換する蛍光部を意味する。内部に配置された蛍光体は、T-名称(T-name)で示されているが、例えば「(T-フルオレセイン)」とは、アルキルスぺーサーを介してチミジンリングに結合した蛍光体を有するチミジンヌクレオチドを意味する。
【0043】
プローブ1
TMR-5'-TTTTT-フルオレセイン-CCACGCTTGTGGGTCAACCCCGTGG-3'-DABSYL
【0044】
プローブ2
TMR-5'-TTTTT-フルオレセイン-CCACGCTTGTGGGTCAACCCCGTGGTTT-3'-DABSYL
【0045】
プローブ3
TMR-5'-CCACGT-フルオレセイン-TCTTGTGGGTCAACCCCGTGG-3'-DABSYL
【0046】
プローブ4
TMR-5'-CCGG(T- フルオレセイン )CCGCTTGTGGGTCAACCCGACCGG-3'-DABSYL
【0047】
プローブ5
TMR-5'-TTCC(T- フルオレセイン )GGCCGCTTGTGGGTCAACCCGCCAGG-3'-DABSYL
【0048】
プローブ6
TMR-5'-TTTT(T- フルオレセイン )GCGGCCGCTTGTGGGTCAACCCGCCGCA- 3'-DABSYL
【0049】
プローブ7
TMR-5'-CACACG(T-フルオレセイン)CCTGCCGCTTGTGGGTCAACCCGCAGG -3'-DABSYL
【0050】
プローブ8
TMR-5'-CAGCACACG(T- フルオレセイン )CGCGCGCTTGTGGGTCAACCCC GCGA-3'-DABSYL
【0051】
プローブ9
5'-(T-フルオレセイン)CAGCACACG(T-TMR)CGCGCGCTTGTGGGTCAACC CCGCGA-3'-DABSYL
【0052】
比較のため、通常のフルオレセイン-DABSYL分子標識プローブも合成して試験した。その配列は以下に示す。
【0053】
プローブ11
フルオレセイン5'-CCACGCTTGTGGGTCAACCCCGTGG-3'-DABSYL
【0054】
これらのプローブは、Photon Technology International Quanta Masterスペクトロフルオロメーター中で、標的なしの場合(閉じた構造)及び過剰の標的が存在する場合(開いた構造)の両方で、491nmの波長を有する励起光源にかけて試験した。放射スペクトルは、500乃至650nmで得られたが、即ち、フルオレセインとTMRの両方の放射を含む領域にわたっている。プローブ1-9の結果は図6-14にそれぞれ示した。それぞれの図には、開いたプローブと閉じたプローブに対する蛍光強度が含まれている。標的なしの試料のスペクトルは、61、71、・・・141であり、そして標識ありの試料のスペクトルは、62、72、・・・142である。
【0055】
プローブ1は、本発明の好ましい態様である。これは消光体を有しているが、本件ではDABSYLであり、1のアームの末端、即ち当該プローブの3'-末端で結合している。これは回収体を有しているが、本件ではフルオレセインであり、反対に位置する5’アーム、即ち本件では正反対にあり、そしてこれはプローブが閉じている場合には消光体を有している。これは消光体を有しているが、本件ではTMRであり、5’アームの末端にあり、当該フルオレセインの5ヌクレオチド先である。これらの5つのヌクレオチドは、ステム二重鎖の先の5‘アームの伸張部である。この態様においては、回収体と消光体は、最も好ましい消光性の関係にあるが、即ち互いに接している。
【0056】
図6は、プローブ1の放射スペクトルである。標的がない場合(トレース61)、フルオレセインの最大(515nm)での蛍光は全くなく、TMRの最大(575nm)では蛍光はほとんどない。即ち、このプローブは、閉じている場合には非常に暗かった。標的が存在する場合(トレース62)、575nmでは18倍の蛍光の増大が生じた。図6はまた、対応する分子標識プローブ11の放射スペクトルであるトレース63をも含む。フルオレセインは他の蛍光体に比べて強く放射するため、図6の縦軸のスケールは、途切れている。515nmでのトレース51、及び52を、その波長でのトレース63(プローブ11)と比較すると、フルオレセインの放射は、プローブ1の両方の構造において非常に抑制されていることがわかるが、これはたとえ開いた構造でのフルオレセインの放射量が中程度であってもそうである。閉じた構造においては、回収体の抑制は、99%よりも大きく、開いた構造においては、90%よりも大きい。スペクトル62の形状は、スペクトル61の形状と同等である。これらの結果は、プローブ11と比較すると、プローブ1により放射が、赤色側へシフトしたことを証明している。
【0057】
図7-14は、図6とは異なり、標準化されている。プローブが開いている場合の最大放射を、縦軸上で1.0に設定する。残りのピークは、その放射の画分である。図7-14には、対応するフルオレセインで標識した分子標識プローブのトレースは含まれていない。しかしながら、図6を参照することにより、フルオレセインで標識した分子標識プローブは、開いている場合には、図7-14の縦軸のスケール上で3.0乃至6.0であろう放射強度を有していることが分かるであろう。実質的な回収体抑制は、プローブの何れかが開いている場合にフルオレセインのピークが放射体のピーク強度の2倍でさえあるという事実から分かる。
【0058】
図7は、プローブ2の放射スペクトルを示す。プローブ2は、プローブ1とは、プローブが閉じている場合にDABSYLの位置において異なる。プローブ2においては、プローブの3’末端がステムの先に3ヌクレオチド伸張されていて、消光体を、他のアーム上にある二つの蛍光体の中間点にまで移動させている。開いた構造では、トレース72のスペクトルは、予想されたように、プローブ1のものと本質的に同じである。閉じた構造の、トレース7で1は、515nm又は575nmでの蛍光は、プローブ1よりもかすかに大きいものも、ほとんど無かった。プローブ2は、閉じている場合には非常に効果的に消光し、そしてほぼ暗かった。プローブの効果的な消光は、FRETによるものではない。
【0059】
図8は、プローブ3の放射スペクトルを示す。プローブ3は、プローブが閉じている場合に、放射体である5’末端TMRが、ステム二重鎖上のDABSYLとは正反対にあるという点で、プローブ1とは逆になっている。フルオレセインは、ステム二重鎖から内側に位置する。二つの蛍光体間には6ヌクレオチドの距離がある。スペクトル81と82は、開いている場合にプローブ3が色の反転を呈したことを示しているが、これは特定の適用において有益であるかもしれない。標的がない場合、515nmにおいて、ある程度の蛍光があったが(もっとも、実質的に抑制されているが)、これは575nmでの蛍光の2倍以上である。しかしながらプローブ3が開いている場合、逆のことがおきた。すなわち、515nmでの蛍光は半分になり、一方、575nmでの蛍光は4.8倍に増加した。従って、プローブの蛍光色は、標的の存在によって変化した。プローブ3は、閉じている場合には暗かった。
【0060】
図9は、プローブ4の放射スペクトルを示すが、これはTMR部及びDABSYL部が、ステムの末端の配置にあるプローブ3と同様である。フルオレセインは、TMRの内側に位置しているが、ステム内に位置し、そしてチミジンヌクレオチドに結合している。閉じた構造においては、プローブ4は、プローブ3よりも515nmにおいてよりよく消光し、そして575nmにおいてより蛍光が少なかった。しかしながら、プローブ4の蛍光強度は、開いている時には515nmで減少しなかった。中程度の、抑制されたフルオレセインの放射が持続した。閉じている時には575nmではプローブ3と比較して蛍光が小さいので、開いた時の575nmでの増加分は3-4倍、すなわち16.0倍になる。
【0061】
図10-13は、それぞれプローブ5-8の放射スペクトルを示す。これらの構築物は、閉じている場合には全て515nmで実質的に消光し、そして575nmではシグナルが小さい。開いているときは、それぞれのものは575nmでの強度が8倍増加した。開いている時は、それぞれのものは観察できるものの、実質的に抑制されたフルオレセイン放射を有していた。閉じている場合には、すべて暗かった。
【0062】
図14は、プローブ9の放射スペクトルを示す。プローブ9が閉じている場合、フルオレセインの放射は、実施的にかなり抑制された。開いている場合、575nmでの蛍光は、8倍を越える増加を示したが、フルオレセインの抑制は、実質的にわずかなものでしかなかった。プローブ9は、開いているときには開いているプローブ8と同等の放射スペクトルを有することが予想されるが、フルオレセインとTMRのピークの相対的強度における差異が見つかった。プローブ9には、フルオレセインと比較して小さなTMRのピークがあった。このことは、フルオレセインとTMRとの間のFRETの効率が、プローブ9において悪いことを意味している。なぜ、プローブ9がよりよい消光体であったのかは不明である。おそらくは、TMRの性質が、閉じた構造においてDABSYLと連結することにより変化したためであろう。
【0063】
(実施例2)
アッセイ
以下のように更に二つのプローブを調製した。
【0064】
プローブ12
テキサスレッド-5'-CCACGCTTGTGGGTCAACCCCGTGG-3'-DABSYL
【0065】
プローブ13
テキサスレッド-5'-TTTTT-フルオレセイン-CCACGCTTGTGGGTCAACCCC GTGG-3'-DABSYL
【0066】
プローブ12は、末端がテキサスレッド及びDABSYLで標識された通常の分子標識プローブである。これはプローブ11と同じヌクレオチド配列を有し、末端がフルオレセイン及びDABSYLで標識された通常の分子標識プローブである。他方でプローブ13は、好ましい構成の波長シフト性の分子標識プローブである(プローブ1と同様に)。プローブ11、プローブ12、又はプローブ13の何れかを、PCR反応の開始時に試料及び対照に添加した。試験した試料を、標的とともにイニシエートした。標的なしでイニシエートした反応を、それぞれの場合に対照とした。それぞれの増幅は、Applied Biosystems 7700 PRISM分光蛍光測定熱サイクラー中でのPCRサイクルをおこなった。この装置内の光源は、488nmの波長を有するアルゴンレーザーであった。通常のそれぞれの分子標識プローブの放射は、その蛍光体、即ちフルオレセイン(プローブ11)又はテキサスレッド(プローブ12)の放射領域内においてそれぞおれのサイクルのアニーリングフェーズ中に測定した。波長シフト性の分子標識プローブであるプローブ13の放射は、放射体傾向体であるテキサスレッドの放射領域内で測定した。結果を図2-4に示しているが、これは本願の最初のほうで検討している。
【0067】
本発明の波長シフト性プローブは、原位置及びインビボ、即ち生細胞内での検出に使用することができる。回収体の励起最大と、放射体の放射最大との間の波長の差異、プローブのストロークシフトは、通常のプローブのものよりも大きい。このことは、生物学的試料中の核酸をモニターするのに顕微鏡を使用する場合に、特に有益な検出である。まず、顕微鏡は典型的には正確な単一波長の光源ではなく、ブロードな波長を利用する。次に、生物学的試料は、小さいストロークシフトにより特徴づけられる天然の自己蛍光を有している。これらの特徴の両方が、バックグラウンドとなるが、これは波長シフト性プローブによって防止される。ある種のアッセイにおいては、プローブは分解性のヌクレアーゼに遭遇するかもしれない。プローブ1は、そのような状況での波長シフト性プローブ特有の利点を例示している。プローブ1が標的に結合すると、赤い蛍光が生じる。しかしながら、プローブ1が分解すると、緑色の蛍光が生じる。図6からは、回収体を放射体から分離することによって、分解が蛍光ピーク63を回復するであろうことがわかるが、これはTMRのピーク62よりもより強力である。従って、蛍光により、分解が生じているか否かがわかる。
【0068】
本発明の多くのプローブ、例えばプローブ13が、増幅中にポリメラーゼにより開裂されるか否かは、開裂が回収体と放射体との間で生じない限りは取るに足らないことであることに気づく。開裂が増幅中に生じたことが分かった場合、仮に回収部分及び放射部分の二つの間で開裂がかなり生じることが分かっているならば、回収部分及び放射部分の何れか又は両方が、プローブ-標的ハイブリッドである態様を使用することを避けることが可能であろう。修飾済のヌクレオチド、例えば2'-O-メチルリボヌクレオチドを使用することもできる。
【0069】
(実施例3)
多重アッセイ
多重アッセイとは、少なくとも二つのプローブを使用して、同じ試料中にある少なくとも二つの潜在的な標的について試験するものである。異なる標的用の本発明の多重プローブを使用することができるが、これらは他のプローブとの混合物中において使用できる。本実施例は、原理を考察するものであり、そしてアリール識別を考察するものでもある。波長シフト性分子標識プローブ13を1のプローブとして使用した。他のプローブであるプローブ14は、以下の第二のプローブとして使用するために合成した。
【0070】
プローブ14
フルオレセイン-5'-CCACGCTTGTCGGTCAACCCCGTGG-3'-DABSYL
【0071】
プローブ14は、末端がフルオレセイン及びDABSYLで標識された通常の分子標識プローブである。プローブ14のヌクレオチド配列は、プローブ13のヌクレオチド配列とは、ループ中の標的相補性配列中の単一のヌクレオチドにおいて異なっている。完全に相補的な標的を、それぞれのプローブに対して合成した。プローブ14に対する完全な標的は、プローブ13に対する完全な標的とは、単一のヌクレオチドにより異なっている。
【0072】
両方のプローブを4つのPCR反応:標的を含まない陰性対照、プローブ14に完全に相補的な標的を含む試料、プローブ13に対して完全に相補的な標的を含む試料、そして両方の標的を等量で含む試料へ添加した。何れかの標的が存在するそれぞれの場合には、標的の全体量は、同じであり、約200,000コピーであった。
【0073】
熱サイクル及び蛍光放射の読取値については実施例2に記載したとおりである。結果を図15(標的なし)、図16(プローブ14に対して完全に相補的な標的)、及び図17(プローブ13に対して完全に相補的な標的)、及び図18(両方の標的)に示す。フルオレセイン領域での放射、トレース151、161、171、及び181を、点線で示し、そしてテキサスレッド領域での放射、トレース152、162、172、及び182を実線で示した。
【0074】
図15は、標的がないと蛍光が全く生じないこと、即ち両方のプローブが標的にハイブリダイズしない場合には暗いことを示す。図16はまた、フルオレセインで標識された通常の分子標識プローブであるプローブ14に対して完全にマッチする標的による、フルオレセイン領域での高い蛍光を示す。図16はまた、テキサスレッド領域では蛍光が全くないことを示すものであるが、これはプローブ13が、単一の塩基対ミスマッチにも感受性であるアリール識別プローブであることを証明する。図17は、波長シフト性分子標識プローブであるプローブ13に対して完全にマッチした標的による、テキサスレッド領域での中程度の蛍光を示す。図17はまた、フルオレセイン領域で蛍光が全く無いことを示すものであり、これはプローブ14が、単一の塩基対ミスマッチにも感受性である、アリール識別プローブであることを証明する。図18は、両方の領域において中程度の蛍光を示すものであるが、これはそれぞれの標的が全体量の2分の1であるために生じるものである。図18においては、テキサスレッド領域での放射レベルは、フルオレセイン領域におけるレベルの76%であった。これは、テキサスレッドで標識し、488nmで刺激された通常の分子標識プローブで生じるはずのものと比較してかなり改善されているが、これは図3が示すところであり、テキサスレッド領域でのシグナルは、フルオレセイン領域における放射のたった3%であろうからである。テキサスレッドの通常の分子標識は、一般にはフルオレセインで標識した通常の分子標識と複合体化するのには適さないが、テキサスレッド放射体を有する波長シフト性分子標識は、このような多重複合体化には非常に満足ゆくものである。
【0075】
(実施例4)
波長シフト性ローブの特徴の測定
プローブ1は、TMRを有する、本発明の波長シフト性分子標識プローブであるが、これを放射体蛍光体以外が同一である、複数のプローブと比較した。他の3つの蛍光体である、テトラクロロフルオレセイン(TET)、ローダミン6G(RHD)、及びテキサスレッドを使用した。488nmの励起光源を使用して、これらに対応する通常の分子標識と比較すると、開いた構造にある波長シフト性プローブの蛍光は、対応した通常の分子標識プローブが、仮にその最大励起波長で刺激された場合に、開いた状態において達成されるものよりも、最大の蛍光強度についてより高い割合であった。488nmで刺激された通常の分子標識プローブが最大値に対して3分の1以下であったのに対して、波長シフト性プローブは、3分の2以上であった。
【0076】
これらのプローブの放射スペクトルは、図19に示してあるが、これは、蛍光体の放射体の蛍光色が装置の刺激波長からだんだんと離れる場合の本発明の影響を例示するものである。蛍光強度は標準化したが、即ち、放射体をその最大励起波長で直接的に刺激することにより達成される蛍光の割合で表示した。カーブ191及び192はそれぞれ、TETで標識した通常の分子標識プローブ、及び放射体としてTETを有する対応した波長シフト性分子標識プローブの標準化された放射スペクトルである。カーブ193及び194はそれぞれ、RHDで標識した通常の分子標識プローブ、及び放射体として、RHDを有する対応した波長シフト性分子標識プローブの標準化された放射スペクトルである。カーブ195及び196はTMRを使用する場合の類似のカーブであり、そしてカーブ197及び198は、テキサスレッドを使用する場合の類似のカーブである。全ての場合において、フルオレセインが回収体である。
【0077】
通常の分子標識プローブの場合のカーブ、即ち、カーブ191、193、195、及び197は、いくつかのことを示している。まず、標識が、TETから、RHDへ、これからTMRへ、これからテキサスレッドへと変化するにつれて放射最大が、より長い波長側へ劇的にシフトしている。次に、最も短い波長の蛍光体であるTETの場合においてさえ、488nmでの励起は、522nmであるTETの最大吸収波長により達成される放射の、わずかに約3分の1しか生じていない。その次には、蛍光体の蛍光色が赤色側、即ち長波長側へとシフトするにつれて、相対的放射強度が3分の1からさらに低下する。TMRの場合、これは放射最大が575nmであるが、達成可能な最大蛍光のわずかに10%でしかない。テキサスレッドの場合、この割合は3%にまで低下する。たとえ洗練された放射検出を備えた高価な装置、例えばApplied Biosystems 7700 PRISMを使用しても、488nmの刺激光源でTMRを使用することは困難であり、テキサスレッドを使用することは不可能である。洗練されていない検出を有する安価名装置では、TMR又はテキサスレッドの何れも、使用することはできないであろう。このことは、多重複合体化の可能性とオプション、即ち、近接した放射最大、即ち分光することがより困難であるものを有する蛍光体を使用することを必要とするものをかなり限定するものである。
【0078】
本発明の波長シフト性プローブのカーブ、即ちカーブ192、194、196、及び198はまた、複数のことを示している。まず、対応する通常の分子標識プローブと比較して放射強度が何れの場合にも増大している。次に、テキサスレッドへと完全に移っても、相対的強度は約65%の非常に高いレベルのままである。これらのプローブはいずれも、洗練されていない、より安価な装置で使用するのに適している。その次には、対応する通常の分子標識プローブに対しての改善の度合いは、最も長波長の放射体の場合、即ちTMRと、特にテキサスレッドの場合に最大である。このような顕著な改善は、洗練された検出を有する高価な装置での使用の場合に顕著である。更にその次には、フルオレセインの放射がかなり抑制されている。図6を見ると、フルオレセインはおそらく最も明るい蛍光体であり、本発明の波長シフト性プローブであるプローブ1のほぼ5倍明るい。対応する通常のフルオレセイン分子標識プローブの放射は、図19のスケールからはずれるであろう。その強度は、縦軸の最大である「1.0」の少なくとも3倍であろう。
【0079】
本発明のプローブが変更された性質は、その励起スペクトルを考慮することによりグラフ的に例示されている。図20は、この実施例中で上に記載されているテキサスレッドの波長シフト性分子標識プローブの励起スペクトルと、対応するテキサスレッドの通常の分子標識プローブの励起スペクトルとを比較している。励起スペクトルを得るために、分光蛍光器は、400から600nmへと前進的に励起波長を増大させて、テキサスレッドの最大値である610nmでの放射を測定できるように設定した。通常のプローブについてのカーブ201は、励起波長が590nmに達したときの強い放射を示すものであるが、これはテキサスレッドの励起最大である。488nmでの励起は、放射はほとんど起きない。他方、波長シフト性の場合のカーブ202では、590nmでのピークのみならず、488nmでの第二のピークもが示されている。このプローブには二つの励起領域があるが、これらの両方ともに、610nmの波長での放射が生じる。
【0080】
(実施例5)
波長シフト性プライマー
上に述べたように、その3’アーム配列が、標的に相補的である波長シフト性分子標識プローブをプライマーとして使用できる。しかしながら、ヘアピンプライマーのループが標的に相補的である必要はないが、これは特異性は3’アームの伸張部であって、プライミング領域を作り出すものを介して得られるからである。PCR用の通常のヘアピンプライマーを合成して、例えばNazarenko et al. (1997)の方法により使用することができる。これらを本発明に準じて修飾することもできる。Nazarenkoらが記載のプライマーFは以下の配列を有する。
【0081】
5'-6-フルオレセイン-CACCTTCACCCTCAGAAGG(T-DABCYL)GACC AAGTTCAT-3'
【0082】
プライマーFにおいては、6-フルオレセインホスホロアミダイトを合成中に使用して、6-フルオレセインを取り込んだ。このT-DABCYLヌクレオチドは、AminoModifier C6dT (Glen Research)で合成し、そしてDABCYLをアミノ基へ連結して得た。3’末端から少なくとも最初の18ヌクレオチドは、ヒト前立腺特異性光源cDNAの172塩基対の断片である標的に相補的であった。
【0083】
本発明のプライマーの態様は、プライマーFの配列を、いくつかの点で修飾して調製する。まずDNA鎖の中に挿入できるフルオレセインのホスホロアミダイト(Glen Research)を、使用して、回収体部分を導入する。次に、6のチミジン残基を回収体の先の5’末端へと付加する。その次に、テキサスレッド部分を、スルフィドリル官能基を介して導入する。本発明のプライマーは以下の配列を有していて、ここでステム二重鎖を形成する部分には下線を引いてある。
【0084】
テキサスレッド-5'-TTTTT-フルオレセイン-CACCTTCACCCTAGAAGG(T-DABCYL)GACCAAGTTCAT-3'
【0085】
閉じた構造においては、このプライマーは、ステム二重鎖上のフルオレセインと反対に位置しているDABCYL(1のヌクレオチドのオフセットを有する)を有し、テキサスレッドが伸張部にある。この構築物は、実施例1のプローブ1に類似する。開いた構造においては、DABCYLは、蛍光体から離れていて、二つの蛍光体(回収体のフルオレセインと放射体のテキサスレッド)は、7ヌクレオチド離れているが、これは作動可能なFRET距離である。30サイクルのPCR増幅は、このプライマーを増幅プライマーの1として使用して実行する。この構築物は、波長シフト性ヘアピンプライマーとして機能する。異なる色の波長シフト性ヘアピンプライマーは、増幅反応において多重複合体化できる。Nazarenko らは、「非exo型(exo-minus)」DNAポリメラーゼであるpfuexo-DNAポリメラーゼ(Stratagems、USA)を使用し、これにより増幅中の開裂の可能性を避けた。本発明のプライマーを使用した特定の増幅反応中に開裂が生じる場合には、回収体部分と放射体部分との間の開裂は、実施例2に記載されるようにして防げる。
【0086】
これらの実施例は、例示を目的としているが、限定するためのものではない。更なる態様は、当業者らには明らかであるが、これらは本願の特許請求の範囲内にあるものであり、これは本発明の限界を意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この図は、二つの蛍光体、フルオレセインとテトラメチルローダミン(TMR)の吸収スペクトル及び放射スペクトルのグラフである。
【図2】 この図は、通常の、フルオレセイン含有分子標識プローブの、PCR熱サイクル中における蛍光のグラフである。
【図3】 この図は、通常の、テキサスレッド含有分子標識プローブの、熱サイクル中における蛍光のグラフである。
【図4】 この図は、本発明の、テキサスレッド含有波長シフト性分子標識プローブの、熱サイクル中における蛍光のグラフである。
【図5】 この図は、本発明の好ましいプローブと、標的との相互作用を概略的に表すものである。
【図6】 この図は、本発明のプローブ1、及びフルオレセイン標識の通常の分子標識プローブの蛍光のグラフである。
【図7】 この図は、本発明のプローブ2の蛍光のグラフである。
【図8】 この図は、本発明のプローブ3の蛍光のグラフである。
【図9】 この図は、本発明のプローブ4の蛍光のグラフである。
【図10】 この図は、本発明のプローブ5の蛍光のグラフである。
【図11】 この図は、本発明のプローブ6の蛍光のグラフである。
【図12】 この図は、本発明のプローブ7の蛍光のグラフである。
【図13】 この図は、本発明のプローブ8の蛍光のグラフである。
【図14】 この図は、本発明のプローブ9の蛍光のグラフである。
【図15】 この図は、通常の分子標識プローブであるのプローブ14、及び本発明の波長シフト性プローブの、PCR増幅中の蛍光のグラフであるが、ここで何れのプローブについても標識は存在していない。
【図16】 この図は、プローブ14及びプローブ13の、PCR増幅中の蛍光のグラフであるが、ここで、プローブ14に対する標的が増幅されている。
【図17】 この図は、プローブ14及びプローブ13の、PCR増幅中の蛍光のグラフであるが、ここで、プローブ13に対する標的が増幅されている。
【図18】 この図は、プローブ14及びプローブ13の、PCR増幅中の蛍光のグラフであるが、ここで、プローブ14とプローブ13に対する標的が増幅されている。
【図19】 この図は、プローブ1、及び放射体の蛍光体が異なっている以外はプローブ1と同等の他の3つのプローブの蛍光のグラフである。
【図20】 この図は、テキサスレッド放射体で置換したプローブ1の蛍光を、610nmで測定し、励起波長に対する関数でプロットしたグラフである。

Claims (20)

  1. a)最大放射波長を含む放射スペクトル及び励起スペクトルを有する蛍光放射部分;
    b)最大励起波長を含む励起スペクトル有し、当該放射部分の励起スペクトルと重なりあい、最大放射波長を含む放射スペクトルを有する蛍光回収部分であって、当該回収部分のその最大放射波長における放射は、当該回収部分が消光されずにその最大励起波長で刺激された場合に、第一位の強度を有するもの;そして
    c)当該放射部分及び当該回収部分のうちの少なくとも1の蛍光を消光することが可能な消光部分を含む蛍光標識済ヘアピン形成性オリゴヌクレオチドであって、
    当該オリゴヌクレオチドが標的鎖とハイブリダイズしていない場合は、当該オリゴヌクレオチドは、一本鎖ループ及びステム二重鎖を含む閉じた構造を有するものであり、ここで、 当該消光部分は、前記の回収部分及び放射部分の少なくとも1に対して消光性の関係にあり、ここで、 当該回収部分の最大励起波長で励起される場合、当該回収部分の最大放射波長での放射は、当該第一位の強度に対して実質的に抑制され、そして当該放射部分の最大放射波長での放射は、第二位の強度を有し、
    そして、当該オリゴヌクレオチドが標的鎖とハイブリダイズしている場合は、当該オリゴヌクレオチドは、当該ステム二重鎖を有しない開いた構造を有し、当該二重鎖においては、当該消光部分が当該回収部分又は当該放射部分と消光性の関係になく、ここで、 当該回収部分の最大励起波長で励起される場合、当該回収部分の最大放射波長での放射は、当該第一位の強度に対して実質的に抑制され、エネルギーは、当該回収部分から当該放射部分へと移され、そして当該放射部分の最大放射波長での放射は、当該第二位の強度よりも検出可能な位大きいことを特徴とするオリゴヌクレオチド。
  2. 標的配列に対する前記ループのハイブリダイゼーションによって、前記のオリゴヌクレオチドに開いた構造をとらせることを特徴とする請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
  3. 前記のオリゴヌクレオチドが閉じた構造にある場合に、前記の放射部分が、当該オリゴヌクレオチド上で、前記ステム二重鎖に対して末端に位置し、前記の消光部分及び回収部分が、当該オリゴヌクレオチド上の当該ステム二重鎖中に位置し、そして当該回収部分及び消光部分が、消光性の関係にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチド。
  4. 前記のオリゴヌクレオチドが開いた構造にある場合に、前記の放射部分の最大放射波長での放射が、前記の第二位の強度の少なくとも4倍大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド。
  5. 前記の、回収部分、放射部分、及び消光部分の少なくとも1が、アルキルリンカーを介して前記のオリゴヌクレオチドに連結されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド。
  6. 前記のオリゴヌクレオチドが、修飾済ヌクレオチド基及び修飾済結合の群の少なくとも1を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド。
  7. 前記のステム二重鎖のうちの一の鎖が、前記の標的鎖に対して相補的であり、これによって前記のオリゴヌクレオチドが、DNAポリメラーゼ用のプライマーとなることが可能であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド。
  8. 前記のオリゴヌクレオチドが閉じた構造にある場合に、前記のオリゴヌクレオチドが、DNAポリメラーゼ用のプライミング領域となることが可能な末端伸張部を含むことを特徴とする請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
  9. 前記の放射部分が、前記の末端伸張部上に位置し、そして前記の消光部分及び回収部分が、前記のオリゴヌクレオチド上の、前記のステム二重鎖中に位置することを特徴とする請求項8に記載のオリゴヌクレオチド。
  10. 核酸増幅用の成分、請求項2〜6のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドである検出プローブ、及び当該増幅反応を実行するための説明書を含む試薬キット。
  11. 前記の増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、転写介在増幅(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、ローリングサークル増幅、及びRNA指向性RNAポリメラーゼによるRNA増幅からなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載のキット。
  12. 前記のオリゴヌクレオチドが、完全に相補的な標的配列に対してはハイブリダイズするが、それから少なくとも1のヌクレオチドで異なっている配列に対しては顕著にハイブリダイズしないことを特徴とする請求項10又は11に記載のキット。
  13. 前記の増幅アッセイ用の成分、及び当該増幅アッセイを実行するための説明書を含む、少なくとも1のプライマーを含んだ増幅反応用の試薬キットであって、当該少なくとも1のプライマーが、請求項8に記載のオリゴヌクレオチドであることを特徴とするキット。
  14. 前記の増幅反応が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、転写介在増幅(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、ローリングサークル増幅、及びRNA指向性RNAポリメラーゼによるRNA増幅からなる群より選択されることを特徴とする請求項13に記載のキット。
  15. 標的鎖を含むかもしれない試料に対して、請求項2〜6のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドである少なくとも1の検出プローブを添加し、そして当該少なくとも1のプローブの放射部分からの蛍光放射を検出することを含む検出方法。
  16. 前記の少なくとも1のプローブの回収部分からの蛍光放射を検出することを更に含むことを特徴とする請求項15に記載の検出方法。
  17. 前記の少なくとも1のプローブが、少なくとも2のプローブであって、それぞれが異なる放射部分を有するものを含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の検出方法。
  18. 標的鎖を含むかもしれない試料に対して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、転写介在増幅(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、ローリングサークル増幅、及びRNA指向性RNAポリメラーゼによるRNA増幅からなる群より選択される増幅反応を行うための試薬と、請求項2〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1の検出プローブとを添加し、そして前記の少なくとも1のプローブの放射部分からの蛍光放射を検出することを含む増幅検出方法。
  19. 少なくとも1のプライマーを含む増幅反応を備えた増幅検出方法であって、標的鎖を含むかもしれない試料に対して、当該増幅反応を行う試薬を添加する工程であって、当該試薬が、請求項7又は8に記載の少なくとも1のプライマーを含む工程、そして前記の放射部分の蛍光を検出する工程を含むことを特徴とする増幅検出方法。
  20. 請求項7又は8に記載の前記の少なくとも1のプライマーが、少なくとも2のプライマーを含むことを特徴とする請求項19に記載の増幅検出方法
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