JP3724321B2 - 核酸合成法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は核酸合成法、特に、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction :以下PCRと略す)法による核酸合成法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PCR法は、 DNA鎖の1本鎖への解離、DNA鎖の特定の領域をはさんでプライマーの結合、DNAポリメラーゼの作用によるDNA合成反応を繰り返すことによって、目的のDNA断片を数十万倍にも増幅できる方法である。PCR法は、マリス氏らの発明である特開昭61−274697号に述べられている。
【0003】
PCR法は、種々の試料中の核酸の高感度分析法として使用可能で、特に動物体液由来試料中の核酸の分析法に使用できる。従って、PCR法は、感染症や遺伝病やガンの診断・モニタリング等に利用される。さらに、PCR法は移植や親子鑑定、個人の遺伝子情報に基づいた医療等でのDNAタイピングの検査にも適した方法である。これらの場合末梢血液が検査対象に選ばれる場合が多い。
【0004】
PCR法の1つの欠点は色素、たんぱく、糖類あるいは未知の夾雑物によって反応が阻害されることである。すなわち、代表的な耐熱性DNAポリメラーゼであるThermus aquaticus 由来のTaqDNAポリメラーゼをはじめ、多くのDNAポリメラーゼは、微量の生体由来の夾雑物がPCR反応液中に混在しても、PCRが強く阻害されることが広く知られている。 そこで、PCR法によるDNA増幅に先立つて被験物から細胞、原虫、真菌、細菌、ウィルス等(以下、遺伝子包含体と称する)を分離し、次に、その遺伝子包含体から核酸を抽出する過程が必要となる。その方法としては、酵素、界面活性剤、カオトロピック剤等により遺伝子包含体を分解し、その後、フェノールあるいはフェノール・クロロホルム等を用いて、遺伝子包含体の分解物から核酸を抽出する方法が従来より使用されている。最近では核酸抽出の過程において、イオン交換樹脂、ガラスフィルターあるいはタンパク凝集作用を有する試薬が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの方法を用いて試料中の核酸の精製を行っても、不純物の完全な除去は困難であり、かつ、試料中の核酸の回収量が一定しない場合も多く、このため引き続く核酸合成が、とりわけ試料中の目的とする核酸の含量が少ない場合には、うまくできない場合もある。また、これら精製法は操作が煩雑で時間を要し、また操作中のコンタミネーションの機会が高い。従って、これらの問題点を解決するためには、より簡便で、かつ効果的な試料前処理法が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、核酸合成を阻害する物質を除去して、試料中の核酸を効率よく増幅させる新規な方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
生体試料中の核酸合成阻害物質をポリアニオンの不溶性高分子に接触させることによって除去出来ることを見いだし本発明をなすに至った。
本発明は、上記課題を解決するため、試料中の目的とする核酸を増幅する核酸合成法において、核酸増幅反応の前に試料をポリアニオンの不溶性高分子に接触させることを特徴とする。
【0008】
ここで、ポリアニオンとは、陰イオンを含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物およびその塩をいう。陰イオンとしては、例えば、硫酸基、亜硫酸基、燐酸基、カルボキシル基、チオカルボキシル基などを挙げることができるが、これらに限定されない。特に硫酸基を含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物およびその塩(硫酸化ポリマー)が好ましい。
【0009】
硫酸化ポリマーとしては、硫酸化多糖が好ましく、硫酸化多糖は例えば、ヘパリンおよびその塩、デキストランサルフェイトおよびその塩が好ましいが、これに限定されず、例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、フノラン、硫酸化アガロース、カラギーナン、ポルフィラン、フコイダン、硫酸化カードランなどを用いることができる。
硫酸化ポリマーは、上記以外にポリビニル硫酸およびその塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
なお、その塩は、ナトリウム塩、カリウム塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0010】
ポリアニオンの不溶性高分子は1種でも数種を組み合わせてもよい。またこれら不溶性高分子は均質なものでなくてもよく、ポリアニオンを含む複合型の不溶性高分子や、なんらかの不溶性担体にポリアニオンを結合したものでもよい。
【0011】
試料をあらかじめポリアニオンの不溶性高分子に接触させるには、例えば該不溶性高分子をカラムに詰めたものや該不溶性高分子製のフィルターに試料を通過させたり、容器に該不溶性高分子と試料を入れて混合したのち試料を取り出したり、該不溶性高分子で内壁をコーティングされた容器、またはそれ自体が該不溶性高分子で構成される容器に試料を入れたのち取り出すなどにより行えるが、これらに限定されない。なお、本発明で「あらかじめ」とは、核酸増幅反応前と言う意味で、試料を核酸増幅反応液への添加前にポリアニオンの不溶性高分子に接触させる。
【0012】
本発明において、試料は生体由来試料そのものもしくは、生体由来試料を何らかの方法で処理したものをさし、生体由来試料とは、動植物組織、体液、排泄物等をさす。体液には血液、髄液、唾液、乳が含まれ、排泄物には糞便、尿、汗が含まれるが、これらに限定されるものではない。生体由来試料は、ポリアニオン不溶性高分子に接触させること以外、特別な処理なしに直接核酸増幅反応液に添加することが可能であるが、核酸抽出等の処理と併用てもよく、これに限定されるものではない。
【0013】
核酸増幅反応液は、通常、pH緩衝液並びにMgCl2、KCl等の塩類、プライマー、デオキシリボヌクレオチド類及び核酸合成酵素を含むものである。また、上記の塩類は適宜他の塩類に変更して使用されている。また、ゼラチン、アルブミン等のタンパク、ジメチルスルホキシド、界面活性剤等種々の物質が添加される場合がある。
【0014】
pH緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸の組合せであり、鉱酸の中で望ましいものは塩酸である。また、トリシン、CAPSO(3ーNーCyclohexylamino −2 −hydroxypropanesulfonic acid )あるいはCHES(2ー(Cyclohexylamino )ethanesulfonic acid )と苛性ソーダ、苛性カリとの組み合わせによるpH緩衝液等種々のpH緩衝液が使用され得る。pH調整された緩衝液は、核酸増幅反応液の中で10mMから100mMの間の濃度で使用される。
【0015】
プライマーは、核酸と増幅用試薬等の存在下に合成の開始点として働くオリゴヌクレオチドをいう。プライマーは一本鎖であることが望ましいが、二本鎖も使用できる。もし、プライマーが二本鎖の場合には、増幅反応に先立って一本鎖にすることが望ましい。プライマーは、公知の方法により合成することができるし、また、生物界から単離することもできる。
【0016】
核酸合成酵素は、デオキシリボヌクレオチド類付加により核酸を合成する酵素、あるいはかような化学合成系を意味する。適切な核酸合成酵素としては、E.coliのDNAポリメラーゼI、E.coliのDNAポリメラーゼのクレノーフラグメント、T4DNAポリメラーゼ、TaqDNAポリメラーゼ、T.litoralisDNAポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼそして逆転写酵素などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
また、本発明では核酸増幅反応液のpHを調節することにより、相乗効果が得られる。例えば、pHは、25℃の温度条件下で8.1以上、好ましくは8.5〜9.5である。
また、本発明では、核酸増幅反応液にポリアミンを添加してもよい。
【0017】
なお、本発明の核酸合成法の手順は、試料中の核酸を増幅する前に試料をあらかじめポリアニオン、硫酸化ポリマー、硫酸化多糖不溶性高分子に接触させること以外、通常の方法と何ら変わらない。すなわち、上記の方法で処理した生体由来試料を直接もしくは核酸抽出等の他の処理と併用処理した後に核酸合成の鋳型として使用する。例えば核酸合成法としてPCRを使用する場合においては、先ず、増幅しようとする目的の2本鎖DNA断片を熱変性により、1本鎖のDNAにする(ディナチュレーション工程)。次に増幅させたい領域を挟むプライマーをハイブリダイズさせる(アニーリング工程)。次に4種類のデオキシリボヌクレオチド類(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)の共存下にDNAポリメラーゼを作用させ、プライマーの伸長反応を行う(ポリメライゼーション工程)。
【0018】
【実施例】
硫酸化デキストランゲルDextran beads, sulfated D5650 (SIGMA, Missouri, USA)を詰めたスピンカラムにヒト血清を通過させ、これを硫酸化デキストランゲル処理血清とした。
PCR反応液(50μl)に無処理の血清および硫酸化デキストランゲル処理血清を10〜0μl添加し、PCRを行った。PCRの鋳型としては、GeneAmplimer pAW109RNA(PE Biosystems, foster, USA)5000コピーより逆転写したcDNAを使用した。PCRのプライマーはDM151及びDM152(PE Biosystems, foster, USA )であり、配列は次の通りである。この2種類のプライマーを用いたPCRの結果、308bp の増幅産物を得ることができる。
DM151:配列番号1
5’GTCTCTGAATCAGAAATCCTTCTATC3’
DM152:配列番号2
5’CATGTCAAATTTCACTGCTTCATCC3’
【0019】
PCR反応液には、10mM Tris-HCl, 50mM KCl,1.5mM MgCl2 , 各200 μM のdATP,dCTP,dGTP及びdTTP, 各0.4 μM のprimer, 1.25units/50μl のTaq DNA ポリメラーゼ(TaKaRa Taq: Takara shuzo, Kyoto, Japan)反応液を用いた。
PCRは、94℃、3分間のプレヒーティングの後、94℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 1分間の条件で40サイクル、最後に72℃ 7分間のポリメライゼーションを行った。PCR終了後、反応液5μlを用いて、2.5%アガロースを含む、0.5μg/ ml臭化エチジウム添加TAE(40mM Tris-acetate, 1mM EDTA) 液中で電気泳動を行い検出した。
【0020】
血清をPCR反応液に直接添加して、PCRを行ったときの増幅産物の電気泳動図を図1に示す。図中Mはサイズマーカー(HincIIで切断した250ng のφ X174-RF DNA)、Pはポジティブコントロール(血清無添加のもの)、Nはネガティブコントロール、1、9は血清10μl 添加、2、10は5μl 添加、3、11は2.5μl 添加、4、12は1.25μl 添加、5、13は0.63μl 添加、6、14は0.31μl 添加、7、15は0.16μl 添加、8、16は0.08μl 添加したものを示している。なお1〜8は無処理の血清、9〜16は硫酸化デキストランゲル処理血清を用いた場合である。
結果、無処理の血清は非常に強いPCR阻害を示し、すべての血清添加量でPCR増幅産物が得られないのに対し、硫酸化デキストランゲル処理血清は、すべての血清添加量で良好にPCR増幅産物が得られることがわかる。
【0021】
【発明の効果】
本発明により、血清・血漿等のPCR阻害物質を多く含んだ試料をあらかじめポリアニオンの不溶性高分子に接触させるという簡便な操作をすることによって試料からの核酸の分離・精製の過程を経ずに直接、目的の核酸を効率よく増幅することが可能となった。また、本発明により、簡便、迅速に核酸合成の操作を行えるようになり、コンタミネーションの機会の軽減が可能となった。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】血清をPCR反応液に直接添加して、PCRを行ったときの増幅産物の電気泳動図
Claims (5)
- 試料中の目的とする核酸を増幅する核酸合成法において、核酸合成阻害物質を含む試料を、核酸合成阻害物質を除く目的であらかじめ陰イオンを含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物(polyanion)およびその塩(以下総称してポリアニオンと称する)から選ばれる少なくとも1種の不溶性高分子に接触させることを特徴とする核酸合成法。
- ポリアニオンが、硫酸基を含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物(polysulfate)およびその塩(以下総称して硫酸化ポリマーと称する)である請求項1記載の核酸合成法。
- 硫酸化ポリマーが、硫酸化多糖(sulfated polysaccharide)およびその塩(以下総称して硫酸化多糖と称する)である請求項2記載の核酸合成法。
- 硫酸化多糖が、ヘパリンおよびその塩、デキストランサルフェイトおよびその塩である請求項3記載の核酸合成法。
- 試料が生体由来試料そのものである請求項1〜4に記載の核酸合成法。
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