JP3723611B2 - 酵母およびこれを含有する養魚飼料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は魚類腸管内の魚病細菌の増殖を抑制する酵母、並びにこの酵母を含有する養魚飼料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、200海里規制による漁場の制限および天然資源の涸渇に伴い、栽培漁業、養殖漁業が盛んになってきており、これに伴い、稚仔魚生産用飼料、成魚育成用配合飼料についての多くの研究がなされている。
【0003】
養魚飼料としては、近年、従来のイワシなどの生餌に代えて、魚粉を主体とした配合飼料が使用されるようになってきた。しかしながら、この配合飼料を投与したのみでは、稚仔魚の餌付きおよび嗜好性の点に問題があり、これを解決するために、最近、ビール酵母やパルプ廃液酵母を配合することが行われているが、これによっても、まだ充分に満足できる効果は得られていない。
さらに近年養殖魚において細菌性、ウイルス性および寄生虫性疾病が多発しており、魚病被害をいかにして軽減するかが大きな問題となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、魚類の嗜好性を高め、しかも生存率を高めることのできる養魚飼料を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
斯かる実情において、本発明者は鋭意研究を行った結果、本発明者によって、鹿児島市の養鱒場に棲息するニジマスの腸管内から分離した酵母が、魚類腸管内の魚病細菌の増殖を抑制すること、従って、これを養魚飼料に配合すると、魚類の生存率が著しく向上すること、さらに、この酵母と糖類を併用して配合すると当該効果がさらに増大することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、後述の特性を有する新規な酵母並びにこの酵母またはこの酵母と糖類を含有する養魚飼料を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の酵母は、ニジマス等の魚類腸管から採取することのできるもので、次のような菌学的性質を有する。
【0008】
(a)各培地における生育状態
(1)バレイショ片寒天培地
栄養細胞の大きさ:3〜5μm
型態:やや丸いだ円形
増殖の形式:出芽
(2)ZAG培地〔ポリペプトン5.00g、酵母エキス1.00g、ブトウ糖20.00g、寒天15.00g、1/6人工海水(NaCl 30.0g、KCl 0.7g、MgCl2 ・6H2O 10.8g、MgSO4 ・7H2O 5.4g、CaCl2 ・2H2O 1.0g、脱イオン水1000ml)、pH7.6、120℃で20分間高圧滅菌〕
白色コロニーを形成し、胞子形成は見られない。
【0009】
(b)子のう胞子の形成:V−8培地〔V−8ジュース(米国キャンベル・スープ・カンパニー・インコーポレーション社製,野菜ジュース)350mlおよび蒸留水10mlにパン酵母5gを入れて攪拌し、これに、寒天14gを蒸留水340mlに溶解したものを加えて混和し、斜面培地とする(pH6.8)〕で、1〜2個の球形ないしだ円形の子のう胞子を形成する。
(c)射出胞子の形成:麦芽エキス寒天培地、YM寒天培地で、射出胞子を形成しない。
(d)生理的性質
(1)至適生育条件:pH7〜8、温度25〜33℃。
(2)生育の範囲:pH2〜9、温度7〜34℃。
(3)硝酸塩の同化:−
(4)脂肪の分解:−
(5)尿素の分解:−
(6)ゼラチンの液化:+
(7)塩化ナトリウム濃度:最適0〜0.5%、最高7%。
(8)カロチノイドの生成:−
(9)顕著な有機酸の生成:+
(10)デンプン様物質の生成:−
(11)ビタミンの要求性:ビオチン要求
【0010】
(e)同化性の有無
D−グルコース(+)発酵、D−マンノース(+)、D−ガラクトース(+)発酵、D−フラクトース(+)、麦芽糖(−)非発酵、ショ糖(+)発酵、乳糖(−)非発酵、メリビオース(−)、セロビオース(−)、トレハロース(+)、ラフィノース(+)、α−メチル−D−グルコシド(−)、可溶性デンプン(−)、イヌリン(+)、イノシット(−)、D−マンニット(−)。
【0011】
以上の菌学的性質を、N.J.W.Kreger−van Rij:“TheYeasts”(1984)Elsevier Science Publishers B.V.およびJ.A.Barnett,R.W.Payne and D.Yarrow:“Yeasts:Characteristicsand identification”2nd edition(1990)Cambridge University Pressを参照して検索した結果、本菌はサッカロミセス・エグジギュース(Saccharomyces exiguus)と同定されたが、本菌は従来既知のサッカロミセス・エグジギュース IFO 1169と表1に示す違いを有する。
【0012】
【表1】
【0013】
従って、本菌は新規な酵母であると判定し、サッカロミセス・エグジギュースNS−1(Saccharomyces exiguus NS−1)と命名し、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−14552として寄託した。
【0014】
本発明の酵母は、例えばニジマスを放血殺し、開腹して腸内容物を絞り出し、生理食塩水で10倍段階希釈し、酵母菌培養用寒天平板培地に塗抹し、25〜33℃で48〜72時間培養して、酵母菌を検出することにより採取することができる。この酵母は、ブドウ糖等の糖分を含む液体または固形培地で、25〜33℃にて培養することにより増殖することができる。
【0015】
本発明の酵母は、次の試験例1に示すように、魚病細菌の増殖を抑制する作用を有する。
【0016】
試験例1
本発明酵母単独、魚病細菌エトワジェラ・タルダ(Edwardsiellatarda;以下E.tardaと略す。)単独および両者をそれぞれ液体培地(ZAG培地成分から寒天を除いたもの)に接種し、28℃で培養し、菌数の推移を経時的に測定した。その結果は図1に示すとおりであり、本発明酵母の存在において魚病細菌の増殖は顕著に抑制された。
【0017】
このように、本発明の酵母は魚病細菌の増殖を抑制する作用を有するので、これを養魚飼料に生菌体として添加して摂餌させることにより魚病の発生を防止・抑制し、魚類の生存率を向上させることができる。なお、従来の酵母は蛋白源等の栄養源として配合されているもので、主に死菌体として添加されていたものである。
【0018】
本発明酵母は何れの養魚飼料にも添加することができる。斯かる飼料としては、イワシ、アジ、サバ、サンマ等の魚肉をそのままあるいは凍結して与える生餌、これらの生餌にブラウンミールやホワイトミール等の魚粉や粘結剤を加えてなるモイストペレット、各種動植物タンパクを原料とするドライペレットやエクスパンデッドペレットなどの配合飼料があり、これにビタミン、無機塩類等を添加してさらに栄養価を高めるのが好ましい。斯かる養魚飼料への本発明酵母生菌体の添加量は、飼料1g当りに酵母103〜107個を含むようにするのが好ましい。
【0019】
また、この酵母と併用される糖類としては、ブドウ糖、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖等の二糖類、デンプン、グリコーゲン、デキストラン、イヌリン、マンナン等の多糖類を挙げることができるが、特に上記単糖類、二糖類が好ましい。そして、これらの糖類は飼料中0.1〜2%、特に0.3〜1%になるように配合するのが好ましい。
【0020】
本発明の飼料は成育状況に応じて1匹当り1日に魚類の体重の1〜20%となるよう与えるのが好ましい。
【0021】
【実施例】
次に実施例を挙げて説明する。
【0022】
実施例1
平均体重60gのニジマスをそれぞれ20尾ずつの試験区および対照区とした。試験区には、XP飼料(日清製粉株式会社製)60gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(1回目は107CFU/ml、2回目は108CFU/ml)10mlを吸着させたものを、また対照区には、上記懸濁液を吸着させない同XP飼料を毎日給餌した。
ニジマスに麻酔をかけ、遠心集菌したレンサ球菌エンテロコッカス・セリオリシダ 野外分離株(Enterococcus seriolicida 野外分離株)の菌液(106 CFU/ml)1mlをカニューレ法により強制経口投与した。その投与前、投与直後およびその後24時間毎に2尾ずつサンプリングし、腸管内容物中のレンサ球菌数(試験区については酵母菌数も)の推移を測定した。
その結果は図2に示すとおりであり、本発明酵母の生菌体を与えた試験区は対照区に比較し、腸管内のレンサ球菌数は48時間早く検出限界以下に達した。
【0023】
実施例2
平均体重55gのマダイをそれぞれ50尾ずつの試験区および対照区とした。試験区には、海産種苗用飼料「おとひめ3号」(日清製粉株式会社製)150gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(10 7CFU/ml)10mlとレンサ球菌(実施例1と同じ)の菌液(105CFU/ml)10mlを吸着させたものを、また対照区には、同量のレンサ球菌のみを吸着させた同海産種苗用飼料を1日(3回)給餌し、その後は正常の上記海産種苗用飼料を給餌した。
上記菌液吸着飼料の1回目の給餌から12、24、36、48時間目および3、4、7および8日目に各区2尾ずつサンプリングし、腸管内容物中のレンサ球菌数(試験区については酵母菌数も)の推移を測定した。その結果は図3に示すとおりである。尚数値は2尾の平均値で示した。
【0024】
実施例3
平均体重80gのヒラメをそれぞれ50尾ずつの試験区および対照区とした。試験区には、海産種苗用飼料「おとひめ4号」(日清製粉株式会社製)200gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(104CFU/ml)10mlとレンサ球菌(実施例1と同じ)の菌液(108CFU/ml)10mlを吸着させたものを、また対照区には、同量のレンサ球菌のみを吸着させた同海産種苗用飼料を1日(3回)給餌し、その後は正常の上記海産種苗用飼料を給餌した。これについて実施例2と同様にして腸管内容物中のレンサ球菌数および酵母菌数を測定し、その結果を図4に示した。また、上記の酵母およびレンサ球菌を吸着した飼料を毎日13日間給餌したときの結果は図5に示すとおりである。
【0025】
実施例4
平均体重180gのモジャコをそれぞれ60尾ずつの試験区および対照区とした。試験区および対照区の両方にレンサ球菌(実施例1と同じ)の菌液(105CFU/ml)20mlを吸着させたモジャコ用飼料「うみさち4号」(日清製粉株式会社製)300gを4日間給餌し、その後、試験区には本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(105CFU/ml)20mlを吸着させた同モジャコ用飼料を、対照区には酵母無吸着の同モジャコ用飼料を給餌した。これについて実施例2と同様にして腸管内容物中のレンサ球菌数および酵母菌数を測定し、その結果を図6に示した。
【0026】
実施例5
平均体重125gのハマチをそれぞれ25尾ずつの2区を準備した。第1区には、おとひめ5号(日清製粉株式会社製)150gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)10mlおよび10%ブドウ糖溶液10mlを吸着させたものを試験開始日のみ、それ以降は上記ブドウ糖溶液のみを吸着させたものを毎日給餌した。一方、第2区には、おとひめ5号(日清製粉株式会社製)150gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)10mlのみを吸着させたものを試験開始日のみ、それ以降はいずれも吸着させないものを毎日給餌した。
試験開始より12時間後、24時間後、2日後、3日後(第2区のみ)および6日後(第1区のみ)に各区3尾ずつサンプリングし、腸管内容物中の酵母菌数の推移を測定した。その結果は第7図に示すとおりである。尚、数値は3尾の平均値で示した。
【0027】
実施例6
平均体重148gのハマチをそれぞれ20尾ずつの2区を準備した。第1区には、おとひめ5号(日清製粉株式会社製)150gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)10mlおよび10%ブドウ糖溶液10mlを吸着させたものを毎日給餌した。一方、第2区には、おとひめ5号(日清製粉株式会社製)150gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)10mlのみを吸着させたものを9日間毎日給餌した。
試験開始より6時間後、24時間後、2日後、3日後、5日後、7日後および9日後に各区2尾ずつサンプリングし、腸管内容物中の酵母菌数の推移を測定した。その結果は第8図に示すとおりである。尚、数値は2尾の平均値で示した。
【0028】
実施例7
平均体重642gのハマチをそれぞれ20尾ずつの2区を準備した。第1区には、おとひめ7号(日清製粉株式会社製)400gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)20ml、レンサ球菌(Enterococcus seriolicida)を生理食塩水に懸濁させた液(105CFU/ml)20mlおよび10%ブドウ糖溶液20mlを吸着させたものを毎日給餌した。一方、第2区には、おとひめ7号(日清製粉株式会社製)400gに本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)20mlおよびレンサ球菌(E.seriolicida)を生理食塩水に懸濁させた液(105CFU/ml)20mlを吸着させたものを8日間毎日給餌した。
試験開始より6時間後、24時間後、2日後、3日後、4日後、6日後および8日後に各区2尾ずつサンプリングし、腸管内容物中のレンサ球菌数の推移を測定した。その結果を第9図に示す。尚、数値は2尾の平均値で示した。
【0029】
実施例8
平均体重150gのウナギをそれぞれ70尾ずつ3区を準備した。第1区には、ウナギニューハウス(日清製粉株式会社製)200gに水200ml、A−オイル(日清製粉株式会社製)20ml、本発明酵母の生菌体(FERM P−14552)を生理食塩水に懸濁させた液(107CFU/ml)10mlおよび10%ショ糖溶液10mlを加え混合して練り餌を製造し、この練り餌を試験開始日に給餌した。それ以降は、ウナギニューハウス(日清製粉株式会社製)200gに水200ml、A−オイル(日清製粉株式会社製)20mlおよび10%ショ糖溶液10mlを加え混合して製造した練り餌を毎日給餌した。第2区は、10%ショ糖溶液に代えて10%果糖溶液を加えたほかは、第1区と同様に給餌した。第3区は、10%ショ糖溶液を加えなかったほかは、第1区と同様に給餌した。
試験開始より6時間後、24時間後、2日後、3日後、および4日後に各区2尾ずつサンプリングし、腸管内容物中の酵母菌数の推移を測定した。その結果を第10図に示す。尚、数値は2尾の平均値で示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明の酵母は魚病細菌の増殖を抑制する作用を有し、この酵母またはこれと糖類を併用して添加した魚類飼料を与えると魚病の発生を防止・抑制し、養魚の生存率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明酵母単独、E.tarda単独および両者を液体培地中で培養したときの、各菌の菌数の経時的変化を示す。
【図2】レンサ球菌を投与したニジマスに酵母配合飼料を給餌したときのニジマス腸管内容物中のレンサ球菌数の経時的変化を示す。
【図3】レンサ球菌を投与したマダイに酵母配合飼料を1日給餌したときのマダイ腸管内容物中のレンサ球菌数の経時的変化を示す。
【図4】レンサ球菌を投与したヒラメに酵母配合飼料を1日給餌したときのヒラメ腸管内容物中のレンサ球菌数の経時的変化を示す。
【図5】レンサ球菌と本発明酵母を吸着した飼料をヒラメに13日間給餌したときのヒラメ腸管内容物中のレンサ球菌数の経時的変化を示す。
【図6】レンサ球菌を投与したモジャコに酵母配合飼料を給餌したときのモジャコ腸管内容物中のレンサ球菌数の経時的変化を示す。
【図7】ハマチに酵母単独または酵母とブドウ糖を配合した飼料を1日給餌したときのハマチ腸管内容物中の酵母菌数の推移を示す。
【図8】ハマチに酵母単独または酵母とブドウ糖を配合した飼料を9日間給餌したときのハマチ腸管内容物中の酵母菌数の推移を示す。
【図9】レンサ球菌を投与したハマチに酵母単独または酵母とブドウ糖を配合した飼料を8日間給餌したときのハマチ腸管内容物中のレンサ球菌数の推移を示す。
【図10】ハマチに酵母単独または酵母とショ糖もしくは果糖を配合した飼料を1日給餌したときのハマチ腸管内容物中の酵母菌数の推移を示す。
Claims (4)
- 魚類腸管から採取することができ、抗魚病細菌性を有するサッカロミセス・エグジギュース。
- サッカロミセス・エグジギュース NS−1(FERM P−14552)。
- 請求項1または2記載のサッカロミセス・エグジギュースの生菌体を含有する養魚飼料。
- 請求項1または2記載のサッカロミセス・エグジギュースの生菌体および糖類を含有する養魚飼料。
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