JP3793501B2 - レールの補強及び補修工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レールの端部の孔明け面等野切断面の不揃いな形状の表面を処理し、さらに、欠けやすいレール端部の表面硬さを向上させ、且つ、肉盛り溶接により補修したレール部分の表面を平滑化するレールの補強及び補修工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、応力集中が生じやすい不揃いな形状の表面を有する金属部材の耐久性向上のため、不揃いな形状の表面をグラインダーにより平滑にして応力が生じにくい形状とする処理や、ハンマーピンニングにより不揃いな形状の表面に塑性変形を与え表面を平滑化すると共に、圧縮残留応力を与える処理が実施されてきた。
【0003】
【特許文献1】
特開昭54−56953号公報
【特許文献2】
特開昭62−207579号公報
【特許文献3】
特開平10−279273号公報
【非特許文献1】
(Surface Nanocrystallization(SNC)of metallic Materials−Presentaion of the Concept behind a New Approach,J.Master.Sci.Technol.Vol.15 No.3,1999)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
金属部材の疲労向上処理策には大きく分けて2種類あり、まず、疲労が問題となる部分の形状を変えて応力集中を少なくする、グラインディング、TIGドレッシングなどがある。また、疲労が問題となる部分に圧縮残留応力を与えて、実質的な繰り返し応力範囲を小さくする、ハンマーピーニング、ニードルピーニング、ショットピーニングなどがある。このうち、ハンマーピーニングに関しては、応力集中を少なくする効果と圧縮応力を導入する効果の両方を持つとされている。
【0005】
上記の疲労向上処理策のうち、応力集中を少なくする処理策の効果は目に見えて明らかであるが、実際には、疲労が問題となる箇所においてはわずかな傷などが疲労強度をむしろ悪化させる原因となることがあるために、グラインダー処理などに関しては処理に熟練が必要のみならず、作業に時間が必要であり、大きなコスト増加要因となる。
【0006】
一方、圧縮残留応力を導入する処理策であるが、圧縮残留応力は目に見えないために、処理後の影響が測定しにくく、検査によって効果を保証することが困難であるということが問題となり、品質管理上の観点から、判断・診断能力あるエンジニアが立ち会えないような状況では、通常は使われない。
【0007】
また、ハンマーピーニングでは、処理部に大きな塑性変形を与えることができるため、処理の痕跡を大きくし、実施後に処理を特定することはできるが、処理時にできる表面の傷がかえって応力集中をもたらし、疲労強度を低下させることがあるのと、その塑性変形を与えるときの大きな反動のために著しく作業性が悪いために、細かいコントロールが困難であり、品質管理が非常に難しい。
【0008】
また、上記のような圧縮残留応力を導入する疲労向上処理策を特に金属部材の補修に用いる場合、疲労亀裂の発生初期である寸法1mm以下の小さな時点では、浸透探傷試験、磁粉探傷試験、渦流探傷試験などの現在の検査法では検出は不可能であるが、このような亀裂を残している状態で、上記の疲労寿命向上処理策を適用しても、亀裂の進展を止めることができないために、圧縮残留応力導入による疲労寿命向上効果はほとんど無いと考えられる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、応力集中の生じやすいレールの端部の孔明け面等の不揃いな形状の表面、溶接補修としての肉盛溶接部の表面の処理策として、超音波で先端を振幅20μm〜60μm、周波数15kHz〜60kHzで振動させる工具を用いて、不揃い形状の表面を打撃するピーニングを行う超音波衝撃処理を行い、応力集中が生じやすい不揃いな形状の表面の疲労強度を向上させ、且つ、衝撃により欠け等が発生するレールの継目部近傍の表面硬さを向上させるレールの補強及び補修工法を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本第1発明は、前回課題を解決するために、レール端部のボルト孔の切り孔明け面又は切断面の外周面を周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する音波衝撃処理を行って溝を形成することにより、端面形状の粗度を10μm以下に改善することを特徴とする。
【0011】
本第2発明は、前回課題を解決するために、レールの継目部について、長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向にはレールの頭部の上面と側面の範囲について、周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する超音波衝撃処理を行って、硬さを未処理部よりも10Hv以上向上させたことを特徴とする。
【0012】
本第3発明は、前回課題を解決するために、レールの頭部面に亀裂・割れが生じた継目部について、亀裂・割れ損傷部を取除き、その部分に肉盛り溶接した後、グラインダーで平滑化し、長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向にはレールの頭部の上面と側面の範囲について、温度100℃以下で周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する超音波衝撃処理を行って、硬さを未処理部よりも10Hv以上向上させると共に、溶接金属と母材の溶接部をレール下面以外全周について上記超音波衝撃処理を行って溶接界面を平滑化することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
金属部材の疲労破壊の発生は、応力集中と残留応力に大きく影響される。荷重を受ける金属材においては応力集中部に転移がたまり、それがすべり線の蓄積となって亀裂に発展し、亀裂が発生後はそれが進展して行く。残留応力は、通常、溶接部などで引張残留応力として存在し、実効的な繰り返し応力範囲を拡大させて亀裂を発生しやすくするとともに、生成した亀裂の開口を促進すると考えられている。そのため、金属材料の疲労寿命を向上させるには、応力集中を緩和するとともに、残留応力をできるだけ圧縮状態に近づけることが必要となってくる。
【0014】
金属部材の不揃い形状の表面には、表面形状の急変部と不揃い形状の原因である孔明け又は切断時の引っ張り残留応力の両方が存在し、疲労強度的に弱点となる。この表面形状の急変部が切り欠きとして作用し、応力集中部となるために、この応力集中部に塑性変形を与え、平滑な表面を形成することが、応力集中部を緩和することになる。
【0015】
このような、不揃い形状の表面に対する塑性加工を可能とする手段として、超音波で先端を振幅20μm〜60μm、周波数15kHz〜60kHzで振動させる工具を用いて、不揃い形状の表面を打撃するピーニングを行う超音波衝撃処理という処理がある。この手法を用いることによって、不揃い形状の表面に塑性加工を行い、深さ1.5mmほどにまで圧縮残留応力を導入することができる。
【0016】
この超音波衝撃処理という手法は、基本的にはハンマーピーニングと疲労強度向上に関する基本メカニズムは変わらないが、一回一回の打撃のエネルギーを小さい変わりに、1秒間に1万回以上の打撃を与えることによって、同じような塑性変形を実現している。しかも、一回一回の打撃力は小さいために、機器に生じる反動はほとんどまったく無く、ハンマーピーニングと比較して使用性、施工性の面で非常に有利である。
【0017】
また、この超音波衝撃処理という処理は、この金属表面に対し非常に多くの回数の打撃を与えているということで、金属材表面に対して従来のハンマーピーニングには無い効果をもたらしている。また、一回一回の打撃エネルギーがショットピーニングより大きいことで、従来のショットピーニングにも無い効果をもたらしている。
【0018】
まず、回数を多く表面を叩くことで、処理の均一性が得られる。ハンマーピーニングでも数パスを同一線上で実施すればある程度の均一性が得られることは知られているが、超音波衝撃処理の打撃サイクル数は15〜60kHzであり、その得られる均一性はハンマーピーニングと全く異なるレベルにあり、処理スピードが0.5m/分程度であれば、ほとんど不揃い形状の表面を均一に仕上げ、欠陥を全く残すことがない。
【0019】
また、その処理後の表面は著しい平滑さを持つ。超音波衝撃処理による処理後の平滑さは、グラインダー仕上げ後の溶接部表面よりも著しく平滑である。
【0020】
また、処理後の不揃い形状の表面の組織は超音波衝撃を利用して塑性加工を数多く繰り返すことによって、著しく組織が細かくなることがわかっている。(非特許文献1参照)
【0021】
実際、超音波衝撃処理を疲労向上の目的で金属材に使った結果、処理前後で金属材組織は大きく変化している。このような、金属材の組織を細かくする効果は、特に金属材の組織が粗大化する溶接近傍のHAZ部で顕著であり、通常は100μmまで粗大化するHAZの粒径が、超音波衝撃処理の処理後はほとんど粒径が観察できないほどの寸法に小さくなっており、独特な金属材組織が超音波衝撃処理によって達成されている。
【0022】
また、超音波衝撃処理によって金属材の表面での金属材の組織が細かくなるのに伴って、硬さが増す。超音波衝撃処理後の母材部、溶接金属部、HAZ部の硬さの分布は、特に溶接金属材としてよく用いられる高強度の鋼については、硬さが20%以上増している。ほか、材質と処理時間によっては、硬さは最大、処理前の約2倍まで増加することがあるが、ただし、これは固くてもろいマルテンサイとなったわけではなく、主に、細粒化による効果と、転移の蓄積による加工硬化であるため、溶接割れをもたらすような種類の硬さの増加ではない。
【0023】
金属材の疲労破壊は、亀裂の発生と進展から構成される。亀裂発生寿命と亀裂進展寿命の合計が疲労亀裂にいたる全寿命となる。そして、応力集中や、残留応力が厳しい箇所から亀裂が発生する場合が多く、発生した亀裂は、さらに進展を継続して最終的に部材の破断に至る。金属材の疲労破壊の寿命を向上させるためには、疲労亀裂の発生及び疲労亀裂の進展を抑制することが必要である。
【0024】
しかし、通常はいったん金属材に亀裂が発生すると、その亀裂先端での応力集中は極めて大きく、この進行を止めることは極めて困難であるとされている。例えば、先端にストップホールをあけ、その穴を高力ボルトで締め上げても、亀裂先端を残した場合はボルト内部に亀裂が進展して、切断してしまうことすらある。
【0025】
初期の疲労亀裂を観察すると、まわし溶接試験体の疲労試験中のひずみ計測により、発生を検知した時点の亀裂の状態である初期の疲労亀裂を観察すると、この時点でまわし溶接継ぎ手での普通の疲労寿命の約1割が経過しており、残りの9割の寿命は、この亀裂の進展寿命であり、この亀裂を取り除かない限りほとんど決まってしまう状態にある。
【0026】
しかしながら、この状態の亀裂は通常の浸透探傷試験や、磁粉探傷試験では検知することができない。もし、この状態で従来の疲労寿命向上手法であるハンマーピーニングやショットピーニングを行ったとすると、この亀裂を残したまま処理を行ってしまうため、見かけ上は処理面には塑性変形が生じているが、亀裂の進展は止められないために、改善効果は形状改良による応力集中の低減程度しかなく、寿命がほとんど伸びないという状況が考えられる。
【0027】
ところが、この状態でも超音波衝撃処理を行うと、深さ1.5mm程度まで塑性変形による圧縮応力を導入するために、亀裂を叩き潰し、亀裂先端を開口しないようにしてしまうことができる。もちろん、圧縮応力を導入できる深さは、ハンマーピーニングでも同程度以上の深さが可能であるが、ハンマーピーニングは処理効果にむらがあり、亀裂を叩けずに残す部分が多いと考えられ、その点、超音波衝撃処理は前述のように打撃回数が著しく多いために、均一に亀裂の開口を抑制することができる。
【0028】
不揃い形状の表面の処理にあたっては、1処理線での処理回数は1パスでも充分であるが、より均一性を高めたい場合や、よりコントロール性を向上させたり、過大な塑性変形を防止するために、処理1回あたりの入力パワーを押えたい場合は、2回以上の処理を同一線上に対して行うことにより、より確実な疲労寿命向上効果を得ることができる。
【0029】
疲労的な弱点となる金属材の、鋸、せん断、ガス、レーザー、プラズマなどによる孔あけ面や切断面からの疲労に対して、効果的に疲労寿命を得るには、切断端面に対して超音波衝撃処理を行う。これにより、孔あけ、切断に伴って端面に入る過大な引っ張り応力、せん断応力を緩和し、また、圧縮応力を導入すると共に、切断に伴ってできるバリなどの応力集中部を塑性変形により、なだらかな曲面に整形し、また特にガス、レーザー、プラズマなどの熱の入力を伴う切断方法に伴って端面に生じる、極端に硬化した層を無害化することができる。このとき、出力を上げすぎて、端面に有害な変形を与えないように注意することが必要であるが、これは反動が少なく、コントロールが容易な超音波衝撃処理でようやく可能となることであり、従来のハンマーピーニングでは実行不可能であり、ショットピーニングでは効率が上がらなかった。
【0030】
本発明の実施形態を図により説明する。図1(a)(b)に示されるように、レール1の継手部の近傍に、ガス、孔あけ工具等により連結用孔2を形成した場合、連結用孔2の孔明け面3は応力集中が生じやすい不揃い形状面が形成され、その部分から疲労亀裂4が発生しやすい。そのため、図1(c)(d)に示されるように、連結用孔2の孔明け面3の不揃い形状面に、超音波衝撃処理を行い溝を形成し、不揃い面の形状を応力集中が起こらないように改善する。連結用孔2の孔明け面3の不揃い形状面は、超音波衝撃処理によりその粗度が10μm以下に平滑化され、さらに、処理された金属表面の金属組織の変化により、その硬さを増し疲労亀裂の発生が抑制され、レールの耐久性を高める補強工法となる。
【0031】
図2(a)(b)に示すように、レール1の継手部の近傍は、衝撃等によりその表面の亀裂・割れ等が発生する恐れがある。その対策として、レール1の長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向についてレール1の頭部の上面5と側面6の範囲について、超音波衝撃処理を行って、その表面硬さを未処理部よりも10Hv以上向上させる。超音波衝撃処理によりその表面硬さを向上させることができるのは、表面の組織が超音波衝撃による塑性加工を数多く繰り返すことによって、著しく組織が細かくなるからと考えられる。超音波衝撃処理をしたレール1の継手部近傍のレール表面は、その硬さが増加しているので、衝撃による亀裂・割れ等の発生を抑制できる。
【0032】
図3(a)(b)に示すように、レール1の継手部のレール頭部に亀裂・割れ・等が発生した場合、その亀裂・割れ損傷部分を取除き、その部分に肉盛り溶接による補修する。その肉盛り溶接部7の表面をグラインダーで平滑化し、レール1の長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向については、レール頭部の上面5と側面6につて、圧縮残留応力の導入に効果的な温度である100℃以下で超音波衝撃処理を行って、グラインダー処理による小さな傷を叩きつぶし、数多くの打撃による金属表面組織を細かくすることにより、硬さを未処理部よりも10Hv以上増加させ、さらに、溶接金属と母材の肉盛り溶接部7をレール下面以外全周超音波衝撃処理を行って溶接界面を平滑化するので、衝撃によるレール継手部の亀裂・割れ等の発生が抑制される。
【0033】
【発明の効果】
本発明の超音波衝撃処理によりレールの孔明け面等の不揃い形状の表面に1秒間に1万回以上の打撃を与え、一回一回の打撃力が小さいので、衝撃処理により表面に小さい傷を作ることがなく、他のピーニングに比較し使用性、施工性が優れた衝撃処理が可能となり、効率的に応力集中が生じやすい不揃い形状を改善することができ、レールの耐久性を向上させることが可能となる。
【0034】
超音波衝撃処理は、回数を多く不揃い形状の表面を打撃するので、処理の均一性が得られ、処理後の表面の平滑さを得られ、応力集中が生じやすい不揃い形状の表面からの疲労亀裂の発生が抑制され、レールの耐久性を向上させることが可能となる。
【0035】
超音波衝撃処理は、数多くの打撃による塑性加工を繰り返すことにより処理後の金属表面の組織を著しく細かくすることができ、その表面硬さを増加させ疲労亀裂・割れ等の発生を抑制でき、レールの耐久性を向上させることが可能となる。
【0036】
レールの肉盛り溶接による補修部分に対して、グラインダーで平滑化した後、圧縮残留応力の導入に効果的である温度が100℃以下で超音波衝撃処理を行うことにより、グラインダー処理による小さいな傷を叩きつぶし、表面をより平滑化し、表面硬さを増加させ、疲労亀裂・割れ等のはっせいを抑制でき、レールの耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)〜(d)本発明の一実施形態を示す図。
【図2】 (a)(b)本発明の一実施形態を示す図。
【図3】 (a)(b)本発明の一実施形態を示す図。
【符号の説明】
1:レール
2:連結用孔
3:孔明け面
4:疲労亀裂
5:レール頭部の上面
6:レール頭部の下面
7:肉盛り溶接部
Claims (3)
- レール端部のボルト孔の切り孔明け面又は切断面の外周面を周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する音波衝撃処理を行って溝を形成することにより、端面形状の粗度を10μm以下に改善することを特徴とするレールの補強工法。
- レールの継目部について、長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向にはレールの頭部の上面と側面の範囲について、周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する超音波衝撃処理を行って、硬さを未処理部よりも10Hv以上向上させたことを特徴とするレールの補強工法。
- レールの頭部面に亀裂・割れが生じた継目部について、亀裂・割れ損傷部を取除き、その部分に肉盛り溶接した後、グラインダーで平滑化し、長さ方向について端部から100mm〜140mmの範囲について、幅方向にはレールの頭部の上面と側面の範囲について、温度100℃以下で周波数15KHz〜60KHzの打撃により塑性変形を付与する超音波衝撃処理を行って、硬さを未処理部よりも10Hv以上向上させると共に、溶接金属と母材の溶接部をレール下面以外全周について上記超音波衝撃処理を行って溶接界面を平滑化することを特徴とするレールの補修工法。
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