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JP3779174B2 - 蒸着組成物、それを利用した反射防止膜の形成方法及び光学部材 - Google Patents

蒸着組成物、それを利用した反射防止膜の形成方法及び光学部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蒸着組成物、それを利用した反射防止膜の形成方法及び光学部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
合成樹脂からなる光学部材の表面反射特性を改善するために、合成樹脂の表面上に反射防止膜を施すことは良く知られている。例えば特開昭56―116003号公報には、基板をCR―39(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)樹脂とし、CR―39樹脂上に、基板側から順にSiO2 からなる膜厚が1.5λの下地層と、酸化ジルコニウム(ZrO2)層と二酸化ケイ素(SiO2 )層とによって構成される2層等価膜からなる合計膜厚が約0.25λの第1層と、ZrO2 からなる膜厚が約0.50λの第2層と、SiO2 からなる膜厚が約0.25λの第3層とを有する反射防止膜を設けた光学部材が開示されている。
【0003】
しかしながら、樹脂基板はガラス基板のように蒸着時の基板温度を高くして反射防止膜を成膜することができない。そのため、蒸着により形成された、例えばZrO2 からなる層は耐熱性が十分とは言えない。さらに、ZrO2 からなる層は経時的にもその耐熱性が大きく低下してしまいやすい。このような反射防止膜全体の耐熱性が不充分であり、かつ経時的にも耐熱性が大きく低下する光学部材は、例えば眼鏡レンズとしては実用上問題が生じる場合がある。何故なら、プラスチック製眼鏡フレームは眼鏡レンズ枠入れする際に加熱され、この熱が眼鏡レンズにも伝熱するからである。耐熱性の低い反射防止膜では熱膨張率等の違いによりクラック(ひび割れ)を生じることがある。
【0004】
このような耐熱性の問題を解決するものとして、例えば特開平2―291502号公報には、高屈折率層に、酸化タンタル(Ta25 )、酸化ジルコニウム(ZrO2 )及び酸化イットリウム(Y23 )を含む蒸着膜を用いた反射防止膜を有する光学部材と、Ta25、ZrO2 及びY23 を含む蒸着膜を形成する蒸着組成物が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特開平2―291502号に開示されているTa25、ZrO2 およびY2 3 を含有する蒸着組成物は反射防止膜を形成するのに比較的長い時間を要し、作業効率上好ましくない。
また特に眼鏡分野では、プラスチックレンズを基板とし、耐熱性が極めてよく、かつ耐熱性の低下の程度ができるだけ小さい反射防止膜を有する新たな光学部材が求められている。
【0006】
本発明の第1の目的は、合成樹脂のように低温で蒸着しなければならない材料を基板とし、しかも耐熱性が良好で、且つ経時的に耐熱性が低下する程度が小さい反射防止膜を有する光学部材を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、高屈折率層が本来有する物性を損なうことなく、且つより短い時間で高屈折率層を形成することができる蒸着組成物及び反射防止膜の形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、蒸着組成物として、従来の酸化ジルコニウム及び酸化イットリウムに加えて,酸化ニオブ、或いは更に酸化アルミニウムを含有させ、かかる蒸着組成物を用いて反射防止膜を施すことにより、耐熱性が良好な多層反射防止膜が得られ、蒸着膜の形成を短時間で行えることを見出し,本発明に到達した。
本発明の第1の態様は、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化イットリウム、或いは更に酸化アルミニウムを含有することを特徴とする蒸着組成物である。本発明の第2の態様は、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化イットリウムの粉末、或いは更に酸化アルミニウムを加えた粉末を焼結し、得られた焼結体から混合酸化物の蒸気を発生させ、発生した蒸発物を基板上に析出させることを特徴とする反射防止膜の形成方法である。
本発明の第3の態様は、前記第2の態様の方法より形成された反射防止膜をプラスチック基板に施してなる光学部材である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の蒸着組成物は、酸化ニオブ粉末、酸化ジルコニウム粉末及び酸化ジルコニウム粉末を含む混合粉末、好ましくは、Nb25粉末、ZrO2 粉末およびY23 粉末を含む混合粉末、或いはNb2 5粉末、ZrO2 粉末、Y2 3粉末及びAl23 粉末を含む混合粉末を焼結することによって得られ、従来のZrO2を焼結することによって得られる蒸着組成物と比較して、蒸着膜形成時間が速くなり、高い生産性が得られる。
【0009】
本発明における3成分を混合する意図として、酸化ニオブのみによる蒸着原料には、ペレットを電子銃にて加熱する際のスプラッシュの発生がある。スプラッシュには微粒子をレンズ面に付着させる影響があり、不良品の原因となっている。また、薄膜が着色(吸収)が発生しやすく、耐酸性、耐アルカリ性などの薬品耐性が弱い傾向を改善する為に複数成分を混合する。
酸化ジルコニウム(ZrO2)添加は、酸化ニオブのみのペレットを電子銃で過熱する際の膜ハゲ不良、不純物の付着等の原因となるスプラッシュを低減させる効果があり、安定した品質の蒸着膜を得るのに適している。
また、酸化イットリウム(Y23)添加は、電子銃にて加熱され蒸着される薄膜の酸化状態を変化させ、酸化ニオブのみ、または酸化ニオブと酸化ジルコニウムのみの混合ペレットを蒸着した薄膜において起こる着色(吸収)を抑える効果がある。
【0010】
本発明において以上の3成分を混合することにより、個々の効果を持ち合わせつつ、また得られる反射防止膜は、経時的な耐熱性の低下の程度が著しく小さくなるという予想しえない効果を与える。
以上の効果を活かすための蒸着組成物の混合比率は、蒸着組成物全量を基準にして、酸化ニオブ(Nb25)が60〜90重量%、酸化ジルコニウム(ZrO2)が5〜20重量%、酸化イットリウム(Y23)が5〜35重量%である。Nb25が90重量%を超える場合、或いはZrO2、Y23が各々5重量%未満では、得られる高屈折率層に吸収が生じやすく、また、Y23が50重量%を超えると得られる反射防止膜の耐酸性が低下しやすい。
【0011】
また、3成分蒸着組成物において酸化アルミニウムを含有させることにより、屈折率の調整が行われる。
蒸着組成物における酸化アルミニウム(Al23)の含有量は、Nb25、ZrO2及びY23全量に対して0.3〜7.5重量%の範囲である。0.3重量%未満では屈折率の調整効果が得られず、また7.5重量%を超えると、酸化アルミニウム(Al23 )の特性が強く表れて、得られる反射防止膜の耐アルカリ性が低下し、さらに屈折率が低下しすぎて高屈折率層として使用することが難しくなる。酸化アルミニウム(Al23)は、前述したNb25、ZrO2及びY23の層の特性を損なわずに、層の屈折率を調整することができる。
尚、本発明の蒸着組成物には、上述した効果を損なわない範囲で、酸化タンタル(Ta25)、酸化チタン(TiO2)などの金属酸化物を添加することもできる。
【0012】
本発明における多層反射防止膜の低屈折率層としては、例えば耐熱性の面から二酸化硅素(SiO2 )膜を用いることができる。
本発明における反射防止膜の膜構成は、λ/4・λ/4の2層膜、λ/4・λ/4・λ/4あるいはλ/4・λ/2・λ/4の3層膜などが挙げられるが、4層以上の多層膜であってもよい。なお、基板側から数えて第1層の低屈折率層には、公知の2層等価膜、3層等価膜、あるいはコンポジット層を用いることもできる。
【0013】
本発明の光学部材に用いる合成樹脂基板としては、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0014】
本発明において合成樹脂の上に反射防止膜を設けるに際しては、合成樹脂表面に有機ケイ素重合体を含むハードコート層をディッピング法、スピンコート法等の塗布法により成膜し、このハードコート層上に反射防止膜を設けることが好ましい。また、合成樹脂と反射防止膜との密着性、耐擦傷性等の向上を図るうえで、合成樹脂と反射防止膜との間、あるいは合成樹脂表面に成膜したハードコート層と反射防止膜との間に下地層を介在させることが好ましい。このような下地層としては、例えばケイ素酸化物等の蒸着膜を使用することができる。
【0015】
本発明の3成分蒸着組成物は、酸化ニオブ(Nb25 )粉末、酸化ジルコニウム(ZrO2 )粉末、酸化イットリウム(Y23 )粉末を混合、本発明の4成分蒸着組成物は、酸化ニオブ(Nb25 )粉末、酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末、酸化イットリウム(Y23 )粉末および酸化アルミニウム(Al23 )粉末を混合し(以下、これらの粉末を単に「混合粉末」という場合がある)、加圧プレスしたものを、例えば電子ビームにより加熱して蒸発物を基板上に析出させることにより形成されることが好ましい。また、加圧プレスした後、焼結してペレット状にした焼結体を用いることで、蒸着時間をより短縮することができるので更に好ましい。混合粉末及び焼結体中の各酸化物含有量は、形成する高屈折率層に対応させて適宜変化させることができる。
【0016】
本発明の反射防止膜の形成方法は、以上のように、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化イットリウムの粉末、或いは更に酸化アルミニウムを加えた粉末を焼結し、得られた焼結体から混合酸化物の蒸気を発生させ、発生した蒸発物を基板上に析出させることにより形成されるが、この反射防止膜の形成方法においてイオンアシストを併用することが好ましい。
イオンアシストを併用する利点は、高屈折率層の蒸着時に酸素イオンによるアシスト処理を用いる方法によって、レンズの吸収を更に抑えることが出来る。また、酸素-アルゴンの混合ガスによるイオンアシストを用いることにより耐アルカリ性を向上できる。該混合ガスの組成は,酸素ガス90〜95%、アルゴンガス10〜5%の範囲が望ましい。酸素ガスの割合が少ない場合は、光学性を維持できない。適度なアルゴンガスを用いることで膜密度の向上が可能となる。
【0017】
本発明における蒸着組成物を得るためのプレス成形の加圧は、従来の方法で行われ、例えば200kg/cm2 〜400kg/cm2(19.6〜39.2MPa)の加圧とすることが望ましい。また焼結温度は、各成分の組成比等により変化するが、例えば1000〜1400℃とすることが適当である。焼結時間は焼結温度等により適宜変化させることができ、通常1〜48時間の範囲である。本発明の高屈折率膜は、上記蒸着組成物を蒸着源として真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の方法を用いて通常の条件により形成することができる。即ち、蒸着組成物から混合酸化物の蒸気を発生させ、発生した蒸発物を基板上に析出させる。合成樹脂基板の加熱温度は、かかる合成樹脂の耐熱温度によって異なるが、例えば70〜85℃とすることが適当である。
本発明の方法によれば合成樹脂基板のように蒸着時の基板加熱温度を70〜85℃と低い温度で成膜しなければならない場合でも、耐熱性が良好で、また経時的に耐熱性が低下しにくい反射防止膜を得ることができる。
【0018】
本発明の反射防止膜を有する光学部材は、眼鏡レンズのほか、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、ワードプロセッサーのディスプレイに付設する光学フィルターなどに使用することができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお実施例及び比較例で得られた反射防止膜を有する光学部材は、以下に示す試験方法により、諸物性を測定した。
(1)蒸着組成物の溶融状態:蒸着時の溶融状態を次の基準で判定した。
UA:スプラッシュの発生が無い。A:スプラッシュの発生が少ない。
B:スプラッシュが頻繁に発生する。C:スプラッシュが常時発生する。
(2)微細粒子の付着状態:スプラッシュ等によるレンズ面の微細粒子の付着状態を次の基準で判定した。
UA:全く認められず。A:1〜5箇所以内。B:6〜10箇所。C:11箇所以上。
(3)耐アルカリ性試験:NaOH10wt%水溶液にレンズを入れ、30分後、60分後にその表面の膜ハゲやレンズ面の荒れの発生を以下の基準にて判定した。UA:点状ハゲがほとんどない。A:全体的に小さな0.1mm以下の点状ハゲがある。または直径0.3mm程度の点状ハゲが少しある。B:Aよりもハゲの密度が高く、大き目のハゲの割合が高い。C:全体的に0.3mm程度のハゲが占めるか、小さいハゲの密度が高い。D:一目見て全体が白いと感じる程度にハゲが密に出ている。これ以下は全てDと記する。
(4)耐擦傷性試験:♯0000のスチールウールにより表面を往復回数で10回こすって耐擦傷性を次の基準で判定した。
A:わずかに傷がつく。B:多く傷がつく。C:膜の脹れが生じる。
(5)密着性試験:JIS―Z―1522に従い、ゴバン目を10×10個作りセロファン粘着テープにより剥離試験を3回行い、残ったゴバン目を数えた。
(6)視感反射率:日立製作所製U3410型自記分光光度計を用い、視感反射率を求めた。
(7)視感透過率:日立製作所製U3410型自記分光光度計を用い、視感透過率を求めた。
(8)吸収率:100%より視感透過率と視感反射率を引いた値を吸収率として求めた。
(9)耐熱性試験:蒸着膜形成直後の反射防止膜を有する光学部材をオーブンに1時間入れて加熱し、クラックの発生の有無を調べた。加熱温度は、50℃より始め、5℃づつ上げて、クラックが発生する温度を調べた。
また、経時的な耐熱性試験蒸着膜形成直後の反射防止膜を有する光学部材を2ケ月間屋外暴露し、その後、前記した耐熱性試験と同じ方法により評価を行った。
【0020】
実施例1、実施例4、比較例1および比較例4
まず反射防止膜を設ける合成樹脂として、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを主成分とし、紫外線吸収剤として2―ヒドロキシ―4―n―オクトキシベンゾフェノンを、前者/後者の重量比が99.97/0.03となるように含有する、屈折率が1.499のプラスチックレンズ(CR―39:基板A)を用意した。
ハードコート層(nd1.50)の形成:前記プラスチックレンズを、80モル%のコロイダルシリカと20モル%のγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するコーティング液に浸漬硬化してハードコートA層を設けた。
【0021】
実施例1として、前記ハードコート層を有するプラスチックレンズを80℃に加熱し、前記ハードコート層の上に真空蒸着法(真空度2×10-5Torr)によりSiO2 からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.4875λ(λは500nmである)〕を形成した。次にNb2 5粉末、ZrO2 粉末、Y23 粉末を混合し、300kg/cm2 でプレス加圧し、焼結温度1300℃で焼結して得られた3成分系蒸着組成物A(重量%、Nb2 5:ZrO2:Y23 = 76%:16.6%:7.4%)を電子銃出力電流170mAにて加熱して形成される層(屈折率2.12、膜厚0.0502λ)と、SiO2 層(屈折率1.46、膜厚0.0764λ)よりなる第1の低屈折率層を形成した。この第1の低屈折率層の上に前記蒸着組成物Aにて高屈折率層(屈折率2.12、膜厚0.4952λ)を形成し、さらにその層の上にSiO2からなる第2の低屈折率層(屈折率1.46、膜厚0.2372λ)を形成して反射防止膜を有するプラスチックレンズを得た。なお、前記低屈折率層および高屈折率層は前記下地層を形成した同様の真空蒸着法により形成した。
また、実施例4として、前記の蒸着組成物にAl23を1重量%添加した蒸着組成物Bを高屈折率層に利用し、同様の構成にて設計された反射防止コートを真空蒸着法により形成した。
更に、真空蒸着法を用い、従来型蒸着組成物ZrO2を高屈折率層に利用した反射防止コートを比較例1、酸化ニオブのみの蒸着組成物を使用した反射防止膜を比較例4としてプラスチックレンズを得た。
【0022】
実施例2、実施例5、比較例2および比較例5
ガラス製容器に、有機ケイ素化合物のγ−グリシドキシプロピルメトキシシラン142重量部を加え、撹拌しながら、0.01N塩酸1.4重量部、水32重量部を滴下した。滴下終了後、24時間撹拌を行いγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解溶液を得た。この溶液に、酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾル(メタノール分散、全金属酸化物31.5重量%、平均粒子径10〜15ミリミクロン)460重量部、エチルセロソルブ300重量部、さらに滑剤としてシリコーン系界面活性剤0.7重量部、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート8重量部を加え、充分に撹拌した後、濾過を行ってコーティング液を得た。
ハードコート層の形成:アルカリ水溶液で前処理したプラスチックレンズ基板〔HOYA(株)製、眼鏡用プラスチックレンズ(商品名:EYAS)、屈折率1.60、基板B〕を、前記コーティング液の中に浸漬させ、浸漬終了後、引き上げ速度20cm/分で引き上げたプラスチックレンズを120℃で2時間加熱してハ−ドコ−トB層を形成した。
その後、表に示すように反射防止膜が5層で形成され、2層および4層の高屈折層に蒸着組成物Aを使用した反射防止膜を実施例2、蒸着組成物Bを使用した反射防止膜を実施例5、従来型蒸着組成物ZrO2を使用した反射防止膜を比較例2、酸化ニオブのみの蒸着組成物を使用した反射防止膜を比較例5としてプラスラスチックレンズを得た。
【0023】
実施例3、実施例6、比較例3および比較例6
ガラス製容器に有機ケイ素化合物のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100重量部を加え、撹拌しながら0.01規定塩酸1.4重量部、水23重量部を添加した。その後、24時間撹拌を行いγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を得た。次に微粒子状無機物として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を主体とする複合体微粒子ゾル(メタノール分散、全固形分20重量%、平均粒子径5〜15ミリミクロン、核微粒子の原子比Ti/Si=10、被覆部分の核部分に対する重量比0.25)を用い、その200重量部をエチルセロソルブ100重量部、滑剤としてのシリコーン系界面活性剤0.5重量部、硬化剤としてのアルミニウムアセチルアセトネート3.0重量部と混合した後、前述したγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物に加え、充分に撹拌した後、濾過を行ってコーティング液を作製した。
ハードコート層の形成:アルカリ水溶液で前処理したプラスチックレンズ基材〔HOYA(株)製、眼鏡用プラスチックレンズ(商品名:テスラリッド)、屈折率1.71、基板C〕を、前述の方法で作製したコーティング液の中に浸漬させ、浸漬終了後、引き上げ速度20cm/分で引き上げたプラスチックレンズを120℃で2時間加熱してハードコートC層を形成した。
その後、表に示すように反射防止膜が7層で形成され、2層、4層および6層の高屈折層に蒸着組成物Aを使用した反射防止膜を実施例3、蒸着組成物Bを使用した反射防止膜を実施例6、従来型蒸着組成物ZrO2を使用した反射防止膜を比較例3、酸化ニオブのみを使用した反射防止膜を比較例6としてプラスチックレンズを得た。
【0024】
第1表に各実施例及び比較例において用いたプラスチックレンズ基材とハードコート層、反射防止膜での蒸着組成とその厚さ、及び諸物性の測定結果を示す。なお、各実施例および酸化ニオブのみで高屈折率層に使用した反射防止膜の比較例4〜6において基板のイオン前処理および高屈折率層でのイオンアシストを行った。イオン前処理およびイオンアシストにおいては共に酸素ガスを用い、イオン前処理では加速電圧を150V、電流値を100mA、照射時間を60秒とし、イオンアシストでは加速電圧を100Vとし、加速電流を20mAとした。従来型蒸着組成物ZrO2を高屈折率層に使用した反射防止膜の比較例1〜3では、基板でのイオン前処理および高屈折率層でのイオンアシストを行わなかった。
【0025】
【表1】
Figure 0003779174
【0026】
【表2】
Figure 0003779174
【0027】
実施例1〜6で使用された本発明の蒸着組成物A,Bは、第1表に示すようにスプラッシュが抑えられ、安定した溶融状態で蒸着され、スプラッシュによる微細粒子のレンズ表面の付着は認められず、優れた光学薄膜を得られた。
また、本発明の蒸着組成物A,Bを用いた実施例1〜6の反射防止膜付きプラスチックレンズは、第1表に示すように比較例1〜6で得られた反射防止膜付きプラスチックレンズよりも耐熱性が優れており、経時的な耐熱性の低下の程度も小さいものであった。
【0028】
実施例7〜実施例18
イオンアシストを用いなかった以外は、実施例1〜6と同様にして第2表及び第3表に示す条件で反射防止膜を作製し、性能試験を行った。その結果、第2表及び第3表に示すようにイオンアシストを用いなくても良好な物性が得られた。
【0029】
【表3】
Figure 0003779174
【0030】
【表4】
Figure 0003779174
【0031】
なお、表中に記載されている蒸着組成物A及び蒸着組成物Bとは、蒸着組成物Aまたは蒸着組成物Bを用いて作製した層であることを意味する。
【発明の効果】
以上の実施例からも明らかなように、本発明により、低温で蒸着しなければならない合成樹脂の基板において、耐熱性が良好で、且つ経時的な耐熱性の低下が小さい反射防止膜を有する光学部材が得られる。
また本発明の蒸着組成物および反射防止膜の形成方法では、高屈折率層が本来有する物性を損なうことなく、より短時間で高屈折率層を形成することができるので、高い作業効率が得られる。

Claims (6)

  1. 酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化イットリウムを含有する蒸着組成物であって、蒸着組成物全量を基準にして、酸化ニオブが60〜90重量%、酸化ジルコニウムが5〜20重量%、酸化イットリウムが5〜35重量%である蒸着組成物
  2. 前記蒸着組成物に、酸化アルミニウムを、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化イットリウム合計に対して0.3〜7.5重量%含有する請求項1記載の蒸着組成物。
  3. 請求項1または請求項2記載の蒸着組成物を焼結し、得られた酸化物の蒸気を発生させ、発生した蒸発物をプラスチック基板上に析出させることを特徴とする反射防止膜の形成方法。
  4. イオンアシストを併用する請求項記載の反射防止膜の形成方法。
  5. 二酸化ケイ素からなる層と、請求項または請求項記載の形成方法で形成される層とを交互に積層してなる反射防止膜。
  6. プラスチック基板上にハ−ドコ−ト層を設け、その上に請求項記載の反射防止膜を積層してなる光学部材。
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