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JP3760535B2 - 耐粗粒化肌焼鋼及び強度と靱性に優れた表面硬化部品並びにその製造方法 - Google Patents

耐粗粒化肌焼鋼及び強度と靱性に優れた表面硬化部品並びにその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肌焼鋼及び表面硬化部品と、その表面硬化部品の製造方法に関し、より詳しくは、耐粗粒化肌焼鋼及び強度と靭性に優れた表面硬化部品並びにその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用や産業機械用などの各種機械構造部品、特に歯車を代表とする表面硬化部品は、肌焼鋼を母材としてこれを熱間鍛造や冷間鍛造、更には機械加工により所望の形状に成形加工した後、耐磨耗性及び疲労強度を向上させる目的で部品表面に浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面硬化処理を施してから使用に供されている。
【0003】
表面硬化部品の母材となる機械構造用肌焼鋼としては、従来、JIS G 4106に規定された機械構造用マンガン鋼(SMn鋼)及びマンガンクロム鋼(SMnC鋼)、JIS G 4105に規定されたクロムモリブデン鋼(SCM鋼)、JIS G 4104に規定されたクロム鋼(SCr鋼)、JIS G 4103に規定されたニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM鋼)、JIS G 4102に規定されたニッケルクロム鋼(SNC鋼)などが用いられてきた。
【0004】
しかし、前記のJIS規格鋼を母材として所定の部品形状に加工された鋼材の場合には、浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面硬化処理時に900〜950℃の温度に加熱されると結晶粒の粗大化や異常粒成長(以下、結晶粒の粗大化と異常粒成長をまとめて「粗粒化」という)が生じ易い。このため、焼入れ時の歪み発生や強度や靭性など材料特性の低下が生ずるという問題がある。
【0005】
このため、従来のJIS規格鋼に代わって、Nbを添加した鋼、例えば、特開昭60−21359号公報に記載のNb添加鋼などが浸炭部品の母材となる肌焼鋼として重用されてきた。こうした鋼は、Nbの添加によって析出した微細なNbCのピン止め効果を利用することで、浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面硬化処理における加熱時のオーステナイト粒の粗粒化を防止しようとするものである。既に述べたように、従来の浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面硬化処理は900〜950℃程度の温度で行われていたために、NbCのピン止め効果によって粗粒化を防止することが可能であった。しかしながら、単にNbを添加しただけの鋼の場合には鋼塊(ここでいう「鋼塊」にはJIS G 0203に規定されているように連鋳鋼片(鋳片)を含む)の表面性状が悪いという問題がある。したがって、鋼片や各種の鋼材に加工した後に疵が生じるので、疵の手入れをしなければならず、この疵手入れのために歩留りが低下するとともにコストが嵩んでいた。
【0006】
近年、表面硬化処理の能率を大幅に向上させるために、所謂「プラズマ浸炭処理」など高温での表面硬化処理が採用されるようになってきた。上記の「プラズマ浸炭処理」は、1050℃もの高温で浸炭処理を行うものであり、こうした高温に加熱される場合には、前記の単にNbを添加しただけの鋼では粗粒化を防止することは不可能である。すなわち、1050℃でのプラズマ浸炭処理時には、従来の900〜950℃程度の処理の場合には粗粒化防止に有効であったNbCが凝集・粗大化してしまい、ピン止め効果を充分に発揮することができないからである。
【0007】
そこで、例えば特開平4−176816号公報に記載されているような、Nbと、Ti及び/又はVとを複合添加した浸炭用鋼が提案されている。しかし、前記公報に記載されているような単に、Nbと、Ti及び/又はVとを複合添加しただけの浸炭用鋼の場合には、浸炭時に粗粒化が生じてしまう場合もあった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、充分な強度−靭性バランスを有して、過酷な環境下での使用に充分耐え得る表面硬化部品及びその母材となる耐粗粒化肌焼鋼と、その表面硬化部品の製造方法を提供することを目的とする。なかでも、本発明は、鋼材表面の温度が1050℃にも到るようなプラズマ浸炭処理を初めとする高い温度での表面硬化処理を受ける場合にも粗粒化を生ずることがなく、熱処理歪の小さい高強度・高靭性の表面硬化部品と、その母材となる鋼塊の表面性状が優れた耐粗粒化肌焼鋼及びその表面硬化部品の製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明でいう「耐粗粒化鋼」とは、「オーステナイト結晶粒度番号5以上の整細粒鋼」のことを指す。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)に示す化学組成を有する耐粗粒化肌焼鋼、(2)に示す強度と靭性に優れた表面硬化部品及び(3)、(4)に示す強度と靭性に優れた表面硬化部品の製造方法にある。
【0010】
(1)重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.005〜0.10%、N:0.002〜0.05%、Al:0.005〜0.10%を含有するとともに、{Nb(%)+2Ti(%)}<(4/7){(14C(%)+12N(%)}、0.02%≦Nb(%)+2Ti(%)≦0.25%及び0.85%<(4/7){(14C(%)+12N(%)}<2.6%を満たし、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.03%以下、Sは0.04%以下であることを特徴とする耐粗粒化肌焼鋼。
【0011】
(2)母材が、上記(1)に記載の鋼であって、表面硬化処理後にHv300以上の芯部硬度と20J/cm2 以上の衝撃値を有することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品。
【0012】
(3)上記(1)に記載の鋼を、表面硬化処理に先立って1150℃以上の温度に加熱してから熱間鍛造することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品の製造方法。
【0013】
(4)上記(1)に記載の鋼を、分塊、圧延及び熱処理の少なくとも1つの工程を1150℃以上の温度に加熱して行い、その後鍛造し表面硬化処理することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品の製造方法。
【0014】
なお、表面硬化処理後の芯部とは表面硬化されていない部分のことをいう。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、プラズマ浸炭処理を初めとする高い温度での表面硬化処理時にも粗粒化を防止することができるように、1050℃でも成長・凝集せず微細に分散している析出物を調査した。その結果、NbとTiの複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕が1050℃でも成長・凝集せず、微細に分散している場合があることを見いだした。
【0016】
そこで、NbとTiを複合添加した各種の鋼を溶製し、凝固時に析出する合金炭化物、窒化物及び炭窒化物について調査した。その結果、下記(1)の事項が判明し
【0017】
(1)NbとTiを複合添加した鋼において、凝固時に析出するのはNbC、TiC、NbN、TiN、Nb(CN)及びTi(CN)といった単独合金による炭化物、窒化物や炭窒化物ではなく、NbとTiの複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕である。しかし、凝固時に析出した複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕は粗大であるので、粗粒化防止のためのピン止め作用を有しない。
【0018】
各種鋼板の母材となるNb添加鋼にTiを複合添加して鋼塊の表面性状を改善し、コストアップの要因となる表面手入れを行うことなく製品鋼板の表面性状を高めることは良く知られた技術である。そこで、本発明者らは、次に、NbとTiとを複合添加して単に鋼塊の表面性状を優れたものにするだけではなく、凝固時に粗大に析出した〔NbTi(CN)〕を固溶させるとともに〔NbTi(CN)〕を微細に再析出させることがことができ、しかも1050℃でも前記の再析出した〔NbTi(CN)〕を凝集・粗大化させずに安定して微細に分散させておき、粗粒化を防止することが可能な鋼の化学組成と加熱温度条件に関して種々検討した。
【0019】
その結果、母材の化学組成が特定の範囲にあり、且つ、Nb、Ti、C及びNが特定の関係式を満足する組み合わせの時に、再析出したNbとTiの複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕が1050℃でも凝集・粗大化せず、微細に分散していることがわかった。
【0020】
更に、母材の化学組成が特定の範囲にあり、且つ、Nb、Ti、C及びNが特定の関係式を満足する組み合わせの時、NbとTiの複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕の固溶と加熱温度(T)の関係は、以下の通りであることもわかった。
【0021】
(イ)T<1150℃の場合には、上記の複合炭窒化物は鋼中で安定して存在する。
【0022】
(ロ)1150℃≦T≦1350℃の場合には、上記の複合炭窒化物中のNbが優先的に固溶して、Tiが濃化する。
【0023】
(ハ)1350℃<Tの場合には、上記の複合炭窒化物はほぼ完全に固溶する(Tiも固溶する)。
【0024】
そして、鋼材が上記(ロ)及び(ハ)のようにNbとTiの複合炭窒化物が固溶する温度域に加熱された場合、母材の化学組成が特定の範囲にあって、しかも、Nb、Ti、C及びNの含有量が特定の関係式を満足する組み合わせの時には、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程での前の〔NbTi(CN)〕が微細に再析出する。なお、複合炭窒化物が完全に固溶しなくても、複合炭窒化物中のNbが優先的に固溶しさえすれば、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程で〔NbTi(CN)〕が微細に再析出する。
【0025】
すなわち、下記(2)の重要な事項が判明した。
【0026】
(2)母材の化学組成が特定の範囲にあり、且つ、Nb、Ti、C及びNが特定の関係式を満足する組み合わせの時、表面硬化処理の前に母材及び/又は表面硬化部品が1150℃以上の温度域に加熱されると、凝固時に析出した粗大な〔NbTi(CN)〕が固溶するとともに、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程で〔NbTi(CN)〕が微細に再析出し、そのピン止め効果で表面硬化処理時の異常粒成長を防止することができる。
【0027】
更に、母材の化学組成が特定の範囲にあり、且つ、Nb、Ti、C及びNが特定の関係式を満足する組み合わせの表面硬化処理後の部品について調査したところ、下記(3)が明らかになった。
【0028】
(3)表面硬化処理後、Hv300以上の芯部硬度と20J/cm2以上の衝撃値を有すれば、その表面硬化部品は自動車や産業機械が使用される過酷な環境においても充分な耐久性を示す。
【0029】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0030】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0031】
(A)化学組成
C:0.10〜0.30%
Cは鋼の静的強度を確保するとともに複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を形成させるために添加するが、その含有量が0.10%未満では添加効果に乏しく、一方、0.30%を超えて含有すると鋼の靭性が低下することになるので、その含有量を0.10〜0.30%とした。
【0032】
Si:0.01〜0.50%
Siは、鋼の焼入れ性の向上、静的強度の向上及び高温での表面酸化の防止に有効な元素である。しかし、その含有量が0.01%未満では所望の静的強度が確保できないことに加えて高温での表面の耐酸化性が劣化する。一方、0.50%を超えると靭性の劣化を招くこととなる。したがって、Siの含有量を0.01〜0.50%とした。
【0033】
Mn:0.6〜2.0%
Mnは、鋼の焼入れ性向上及び熱間延性向上の作用を有する。しかし、その含有量が0.6%未満では充分な焼入れ性が得られず、2.0%を超えて含有させると偏析を起こし、却って熱間延性が低下するようになる。したがって、Mnの含有量を0.6〜2.0%とした。
【0034】
Cr:0.05〜2.0%
Crは加すれば鋼の焼入れ性が向上するとともに、浸炭処理などの表面硬化処理時にCと結合して複合炭化物を形成するので耐摩耗性が向上する効果がある。この効果を確実に得るには、Crは0.05%以上の含有量とする必要がある。しかし、その含有量が2.0%を超えると靭性が劣化する。したがって、Cr含有量を0.05〜2.0%とした。
【0035】
Mo:0.05〜1.0%
Moは、加すれば鋼の焼入れ性が向上するとともに、表面硬化処理後の芯部硬度を上げる作用がある。この効果を確実に得るには、Moは0.05%以上の含有量とする必要がある。しかし、その含有量が1.0%を超えると被削性が大幅に劣化するようになるので、Mo含有量を0.05〜1.0%とした。
【0036】
Nb:0.005〜0.10%
Nbは、Tiとともに複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を形成し、鋼の結晶粒を微細にして靭性を向上させるとともに、表面硬化処理のための加熱時の粗粒化を防止するのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しく、一方、0.10%を超えて含有させても前記の効果が飽和して経済性を損なうばかりであるし、変形抵抗が上昇して冷間鍛造性や熱間鍛造性が劣化するようにもなる。したがって、Nbの含有量を0.005〜0.10%とした。
【0037】
Ti:0.005〜0.10%
Tiは、Nbとともに複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を形成し、鋼の結晶粒を微細にして靭性を向上させるとともに、表面硬化処理のための加熱時の粗粒化を防止するのに有効な元素である。更に、Tiには、Nb添加鋼の鋼塊の表面性状を改善する作用もある。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しく、一方、0.10%を超えて含有させても前記の効果が飽和して経済性を損なうばかりであるし、変形抵抗が上昇して冷間鍛造性や熱間鍛造性が劣化するようにもなる。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.10%とした。
【0038】
N:0.002〜0.05%
Nは、Nb、Ti及びCと結合して複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を形成し、鋼の結晶粒を微細にして靭性を向上させるとともに、表面硬化処理のための加熱時の粗粒化を防止するのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.002%未満では添加効果に乏しい。一方、0.05%を超えて含有させると冷間鍛造性や熱間鍛造性の著しい劣化を招くし、前記した効果が飽和してしまう。このため、Nの含有量を0.002〜0.05%とした。
【0039】
Al:0.005〜0.10%
Alは加すれば鋼の脱酸の安定化及び均質化を図る作用がある。この効果を確実に得るには、Alは0.005%以上の含有量とする必要がある。しかし、その含有量が0.10%を超えると前記効果が飽和することに加えて靭性が劣化するようになる。したがって、Alの含有量を0.005〜0.10%とした。
【0040】
Nb(%)+2Ti(%)<(4/7){(14C(%)+12N(%)}
凝固時に析出した粗大な複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕の高温での安定性は、鋼中のNb、Ti、C及びNの含有量によって左右される。そして、鋼中のNb及びTiの含有量に関するNb(%)+2Ti(%)の値が、鋼中のC及びNの含有量に関する(4/7){(14C(%)+12N(%)}の値以上になった場合に、前記の複合炭窒化物は非常に安定となって固溶温度が極めて高くなる。つまり、鋼を高温に加熱しても凝固時に析出した粗大な複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕が安定して存在し、既に述べたように粗粒化防止のためのピン止め効果が得られない。したがって、Nb(%)+2Ti(%)<(4/7){(14C(%)+12N(%)}とした。
【0041】
0.02%≦Nb(%)+2Ti(%)≦0.25%
粗粒化防止に有効な、微細な複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕の実質的な再析出量は、鋼中のNb及びTiの含有量に関するNb(%)+2Ti(%)の値によって決定される。Nb(%)+2Ti(%)の値が0.02%未満の場合には、微細な複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕の再析出量が少なく、所望の粗粒化防止効果が得られない。一方、Nb(%)+2Ti(%)の値が0.25%を超えるNbとTiを含有させても粗粒化防止効果は飽和し、コストが嵩むばかりとなる。したがって、0.02%≦Nb(%)+2Ti(%)≦0.25%とした。
【0042】
0.85%<(4/7){(14C(%)+12N(%)}<2.6%
微細に再析出した複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕の安定性は、鋼中のC及びNの含有量によって左右される。そして、鋼中のC及びNの含有量に関する(4/7){(14C(%)+12N(%)}の値が0.85%を超える場合に、前記の複合炭窒化物は1050℃でも凝集・粗大化しない。したがって、鋼材表面の温度が1050℃にも到るようなプラズマ浸炭処理を初めとする高い温度での表面硬化処理を受ける場合にも粗粒化を生ずることがない。一方、(4/7){(14C(%)+12N(%)}の値が2.6%を超えるCとNを含有させた場合には粗粒化防止効果が飽和することに加えて靭性や冷間鍛造性が劣化する。したがって、0.85%<(4/7){(14C(%)+12N(%)}<2.6%とした。
【0043】
不純物元素P及びSはその含有量を次のとおり制限する。
【0044】
P :0.03%以下
Pは鋼の靭性を劣化させるとともに、冷間及び熱間鍛造性を低下させ、特にその含有量が0.03%を超えると靭性及び冷間・熱間鍛造性の劣化が著しくなる。したがって、不純物元素としてのPの含有量の上限を0.03%とした。
【0045】
S :0.04%以下
Sは表面硬化層の靭性を劣化させるばかりか、冷間及び熱間鍛造性を低下させ、特にその含有量が0.04%を超えると靭性劣化、冷間及び熱間鍛造性の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのSの含有量の上限を0.04%とした。
【0046】
上記の化学組成を有する母材は、例えば熱間で分塊されて鋼片となり、次いで熱間で圧延された後、熱間あるいは冷間で鍛造され、必要に応じて焼準や機械加工を施されて所定の表面硬化部品の形状に加工される。そして最終的に表面硬化処理を施されることとなる。
【0047】
(B)熱間鍛造、分塊、圧延及び熱処理
本発明は、1050℃にも到る高温での表面硬化処理の加熱時に、複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を微細に析出させておき、そのピン止め効果により表面硬化処理時の粗粒化の発生を抑制しようとするものである。そして、表面硬化処理の加熱時に、複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を微細に析出させておくためには、溶製後の凝固時に粗大に析出した複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を、表面硬化処理の前段階で一旦鋼中に固溶させ、微細な〔NbTi(CN)〕析出の素地を作っておく必要がある。このためには、表面硬化処理の前工程で、一旦高温に加熱しておけば良い。
【0048】
既に述べたように、前記(A)に記載の化学組成を有する肌焼鋼においては、表面硬化処理の前に母材及び/又は表面硬化部品が1150℃以上の温度域に加熱されると、凝固時に析出した粗大な〔NbTi(CN)〕が固溶するとともに、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程で〔NbTi(CN)〕が微細に再析出する。そして、そのピン止め効果で表面硬化処理時の異常粒成長を防止することができる。したがって、本発明においては、表面硬化処理の前工程で一旦1150℃以上の温度に加熱する。
【0049】
そこで、表面硬化部品への加工工程に熱間鍛造が含まれる場合には、少なくともこの熱間鍛造における加熱温度を1150℃以上として粗大な〔NbTi(CN)〕を固溶させるとともに、その後の冷却過程、あるいは浸炭処理前の加熱過程で〔NbTi(CN)〕を微細に再析出させれば良いことになる(請求項3の発明)。
【0050】
あるいは、既に述べた表面硬化処理の前工程のうち、熱間鍛造以外で「加熱」処理を伴うものは分塊、圧延及び所謂「熱処理」であるため、これら分塊、圧延及び熱処理の少なくとも1つの工程において加熱温度を1150℃以上として粗大な〔NbTi(CN)〕を固溶させるとともに、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程で〔NbTi(CN)〕を微細に再析出させれば良いことになる(請求項4の発明)。
【0051】
なお、上記した請求項3の発明及び同4の発明における加熱温度の上限は、加熱時の表面酸化を低減するために1350℃とするのが良い。前記(A)に記載の化学組成を有する肌焼鋼においては、1350℃を超える温度に加熱して粗大な複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を完全に固溶させなくとも、1150℃以上の温度域での加熱で複合炭窒化物中のNbを優先的に固溶させさえすれば、その後の冷却過程、あるいは冷却後に行われる処理の加熱過程で〔NbTi(CN)〕を微細に再析出させることができるからである。
【0052】
プラズマ浸炭処理を初めとする高い温度での表面硬化処理のための加熱時に、NbとTiの複合炭窒化物〔NbTi(CN)〕を微細に析出させておくためには、上記した請求項3の発明及び請求項4の発明において、1150℃以上の温度に加熱した後の冷却速度を0.2℃/s以上とすることが望ましい。
【0053】
(C)表面硬化処理
本発明が対象とする表面硬化処理は、処理の能率を大幅に高めることができる「プラズマ浸炭処理」を初めとする高温での表面硬化処理である。この表面硬化処理は、所定の表面硬化部品の表面を硬化させ、製品として必要な耐摩耗性や疲労強度を確保するのに必要不可欠の処理である。この処理方法は特に規定されるものではなく、通常の方法で行えば良い。なお、当然のことながら、本発明は、表面硬化処理が900〜950℃の温度に加熱される従来の浸炭処理や浸炭窒化処理などの場合にも適用できる。
【0054】
(D)表面硬化処理後の表面硬化部品の芯部硬度と靭性
表面硬化部品が、自動車や産業機械が使用される過酷な環境においても充分な耐久性を発揮するためには、表面硬化処理後、Hv300以上の芯部硬度と20J/cm2 以上の衝撃値を有することが必要である。これらの一方及び/又は両方から外れる場合には、表面硬化部品の実環境での耐久性は極めて劣化したものとなってしまう。したがって、表面硬化部品の芯部硬度はHv300以上、且つ、衝撃値は20J/cm2 以上とした。
【0055】
(E)焼戻し
低温で焼戻しを行うと表面硬度の大きな低下を伴うことなく靭性を改善できるので、本発明の表面硬化部品は、表面硬化処理の後、必要に応じて焼戻しを実施したものであっても良い。焼戻しする場合は、表面硬度を確保するためにその温度を150〜200℃とするのが望ましい。
【0056】
【実施例】
(実施例1)
表1、表2に示す化学組成の鋼を通常の方法によって70t転炉を用いて溶製した。表1における鋼B、C及びHは化学組成が本発明で規定する範囲内の鋼(以下、本発明鋼という)、表2における鋼I〜Tは成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた鋼(以下、比較鋼という)である。比較鋼において、鋼R、鋼S及び鋼TはそれぞれJISのSMn420、SCr420及びSCM420に相当する鋼である。
【0057】
【表1】
Figure 0003760535
【0058】
【表2】
Figure 0003760535
【0059】
次いで、これらの鋼を1140℃に加熱した後に通常の方法によって鋼片とし、更に1100℃に加熱して、1100〜1000℃の温度で直径30mmの丸棒に熱間鍛造した。なお、鋼片に加工した後一部のものについては表面の手入れを行った。この表面の手入れの有無を表1、表2に併せて示す。
【0060】
上記のようにして得られた熱間鍛造後の丸棒から8mm直径×12mm長さの粗粒化測定試験片を切り出し、この試験片を用いて下記の4条件の加工熱処理試験を行い、粗粒化の発生率を光学顕微鏡観察によって調査した。
【0061】
(条件1)真空中で、試験片を1100℃、1175℃及び1250℃の温度でそれぞれ15分間加熱した後、圧縮加工により30%の変形量を与えて常温(室温)まで1.0℃/sの冷却速度で冷却した。この後、1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れした。
【0062】
(条件2)真空中で、試験片を1100℃で15分間加熱し、続いて圧縮加工により30%の変形量を与え、一旦常温まで2.0℃/sの冷却速度で冷却した。この後、更に、1100℃、1175℃及び1250℃の温度で15分間加熱した後、常温まで1.0℃/sの冷却速度で冷却した。次いで、1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れした。
【0063】
(条件3)大気中で、試験片に常温で圧縮加工により30%の変形量を与えた。次いで、真空中で、1100℃、1175℃及び1250℃の温度でそれぞれ15分間加熱した後、常温まで1.0℃/sの冷却速度で冷却した。この後、1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れした。
【0064】
(条件4)真空中で、試験片を1100℃、1175℃及び1250℃の温度でそれぞれ15分間加熱した後、一旦常温まで1.0℃/sの冷却速度で冷却した。次いで、真空中で1100℃で15分間加熱し、更に、圧縮加工により30%の変形量を与え、常温まで2.0℃/sの冷却速度で冷却した。この後、1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れした。
【0065】
表3に、粗粒化発生率の調査結果を示す。なお、粗粒化の発生率は100倍の倍率で10視野検鏡した場合の面積割合で表示した。
【0066】
【表3】
Figure 0003760535
【0067】
表3から本発明鋼である鋼B、C及びHと比較鋼のうちの鋼L、鋼O及び鋼Pだけが本発明で規定した条件で加熱処理した場合に粗粒化を生じないことが明らかである。
【0068】
(実施例2)
前記の実施例1で作製した鋼B、C及びH〜Tの鋼片を1190℃に加熱してから、1190〜1000℃の温度で直径30mmの丸棒に熱間鍛造した。こうして得られた熱間鍛造後の丸棒の中心部からJIS3号シャルピー衝撃試験片を切り出し、表面硬化処理として1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れし、更に、160℃で焼戻しを行った。次いで、常温での衝撃試験とともに試験片中心部すなわち芯部の硬度測定を行った。
【0069】
表4に試験結果を示す。表4から本発明鋼である鋼B、C及びHはHv300以上の芯部硬度と20J/cm2以上の衝撃値を有し、これらの鋼を母材とする表面硬化部品は自動車や産業機械が使用される過酷な環境においても充分な耐久性を発揮できることがわかる。一方、前記実施例1において本発明で規定した条件で加熱処理した場合に粗粒化を生じなかった比較鋼の鋼L、鋼O及び鋼Pは芯部硬さと衝撃値のいずれかが低く、表面硬化部品の実環境での耐久性は極めて劣化したものとなってしまう。
【0070】
【表4】
Figure 0003760535
【0071】
(実施例3)
前記の実施例1で作製した鋼B、C及びH〜Tの鋼片を1180℃で真空中の熱処理を行い、一旦常温まで0.25℃/sの冷却速度で冷却した。その後、1100℃に加熱してから、1100〜1000℃の温度で直径30mmの丸棒に熱間鍛造し、更に、こうして得られた熱間鍛造後の丸棒の中心部からJIS3号シャルピ−衝撃試験片を切り出し、表面硬化処理として1050℃×4hr(炭素ポテンシャル:0.8%)の浸炭処理を行った後油焼入れし、更に、170℃で焼戻しを行った。次いで、常温での衝撃試験とともに試験片中心部硬度すなわち芯部硬度の測定を行った。
【0072】
表5に試験結果を示す。表5から本発明鋼である鋼B、C及びHはHv300以上の芯部硬度と20J/cm2以上の衝撃値を有し、これらの鋼を素材とする表面硬化部品は自動車や産業機械が使用される過酷な環境においても充分な耐久性を発揮できることがわかる。一方、前記実施例1において本発明で規定した条件で加熱処理した場合に粗粒化を生じなかった比較鋼の鋼L、鋼O及び鋼Pは芯部硬さと衝撃値のいずれかが低く、表面硬化部品の実環境での耐久性は極めて劣化したものとなってしまう。
【0073】
【表5】
Figure 0003760535
【0074】
【発明の効果】
本発明による表面硬化部品は強度と靭性に優れ、粗粒化も生じないので、自動車や産業機械などの各種機械構造部品、特に歯車を代表とする表面硬化部品として利用することができる。この表面硬化部品は、本発明の耐粗粒化肌焼鋼を素材とし、これに本発明方法を適用することによって、比較的容易に製造することができる。

Claims (4)

  1. 重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.005〜0.10%、N:0.002〜0.05%、Al:0.005〜0.10%を含有するとともに、{Nb(%)+2Ti(%)}<(4/7){(14C(%)+12N(%)}、0.02%≦Nb(%)+2Ti(%)≦0.25%及び0.85%<(4/7){(14C(%)+12N(%)}<2.6%を満たし、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.03%以下、Sは0.04%以下であることを特徴とする耐粗粒化肌焼鋼。
  2. 母材が、請求項1に記載の鋼であって、表面硬化処理後にHv300以上の芯部硬度と20J/cm2以上の衝撃値を有することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品。
  3. 請求項1に記載の鋼を、表面硬化処理に先立って1150℃以上の温度に加熱してから熱間鍛造することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品の製造方法。
  4. 請求項1に記載の鋼を、分塊、圧延及び熱処理の少なくとも1つの工程を、1150℃以上の温度に加熱して行い、その後鍛造し表面硬化処理することを特徴とする強度と靭性に優れた表面硬化部品の製造方法。
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