JP3623313B2 - 浸炭歯車部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間加工によって成形する浸炭歯車部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
高強度を要する歯車部品には、浸炭処理を施したJIS SCr420、SCM420などの肌焼鋼が多く使用される。これらの歯車部品では、圧延した鋼材から熱間鍛造によって歯車部品の素形材を作り、ホブ加工等の切削加工によって歯部を成形するのが一般的な製造方法である。この製造方法では、切削加工に多くの工数を要し、生産性、コストの面で問題がある。
【0003】
そこで、冷間鍛造などの冷間加工によって歯車部品を形成する試みが行われている。しかし、高精度の加工を要する歯車部分を有する歯車部品の加工に当って、熱間圧延のままで、冷間加工によって歯車の形成が可能な鋼を用いたのでは、強度が不足して高強度歯車用材料には適さないという問題があり、他方、歯車用として十分に高い強度を有する従来の肌焼鋼では、熱間圧延のままでは冷間加工性が十分でないため、冷間加工によって歯車を形成するためには、肌焼鋼の熱間圧延材に球状化焼なまし処理などの軟化熱処理を行う必要があった。
【0004】
肌焼鋼の球状化焼なまし処理は、760℃前後の温度で鋼材を加熱保持して行うが、この熱処理には10〜20時間にわたる長時間の熱処理が必要とされるため、鋼材の製造に時間とコストを要するという問題があった。
以上のように、強度と製造性とを両立して経済的に高強度の浸炭歯車部品を製造する方法は確立されていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、熱間圧延した鋼材を、球状化焼なまし等の軟化のための熱処理を行うことなく、冷間加工によって歯車部品に成形することが可能で、しかも浸炭処理によって高い強度が得られる鋼組成と歯車部品の製造方法とを得ることにより、製造性に優れ、かつ、強度が高い歯車部品を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の浸炭歯車部品は、
(1)鋼に浸炭処理を施してなる浸炭歯車部品であって、前記鋼は、合金成分として質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.15%以下、Mn:0.30〜1.0%、Cr:0.30〜1.50%、B:0.0005〜0.0030%、Nb:0.01〜0.1%、N:0.020%以下、Ti:0.1%以下を含有し、ただし原子%で、Ti/N:3.42〜8.0であって、残部Feおよび不可避的不純物からなり、前記鋼の焼入性指数はJ13mm25〜J13mm33であり、前記鋼の熱間圧延後の硬さは80HRB以下であり、前記浸炭歯車部品は、前記鋼の熱間圧延材から冷間加工によって形成された後浸炭処理され、浸炭処理後の表面硬さは680HV以上、有効浸炭深さは0.5〜1mm、心部硬さは250HV以上であることを特徴とする。
(2)上記(1)記載の浸炭歯車部品において、前記鋼が、上記合金成分に加えて質量%で、Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下のいずれか1種または2種を含有することを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の浸炭歯車部品は、所定の化学組成を有する鋼の熱間圧延材を用いて、これを冷間加工して歯車部品形状に加工し、浸炭処理して製造される。
以下に、本発明の浸炭歯車部品において、鋼の化学組成を規定する理由を説明する。
C:0.10〜0.25%
Cは、部品の強度を維持するために必要な元素であって、そのためには少なくとも0.10%以上を含有する必要がある。しかし、C含有量が過大となると、熱間加工後の硬さが上昇するために冷間加工性、被削性が劣化するので、C含有率の上限を0.25%とする。
Si:0.15%以下
Siは、鋼の溶製時に鋼の脱酸元素として添加する。しかし、過大に添加すれば熱間加工後の鋼の硬さを高め、冷間加工性を低下する。また、浸炭時に結晶粒界における粒界酸化層の生成を助長して強度低下をもたらすので、含有率の上限を0.15%とする。
Mn:0.30〜1.0%
Mnは、Siと同様に鋼の溶製時に鋼の脱酸元素として添加する。また、鋼の焼入性を向上するために添加する。そのためには含有率で0.30%以上を含有する必要がある。しかし、過大に含有すれば熱間加工後の鋼の硬さを高め、冷間加工性を低下するので含有率の上限を1.0%とする。
Cr:0.30〜1.50%
Crは、鋼の焼入性を向上するために0.30%以上を含有させる。しかし、過大に含有すれば鋼の冷間加工性を低下するので含有率の上限を1.50%とする。
B:0.0005〜0.0030%
Bは、鋼の焼入性を高めるために添加する。そのためには少なくとも含有率で0.0005%とすることが必要である。しかし過大に含有するとFeと化合物を形成してむしろ鋼の焼入性を低下するので含有率の上限を0.0030%とする。
Nb:0.01〜0.1%
Nbは、微細な炭化物を形成して鋼の結晶粒の粗大化を防止するために0.01%以上を含有させる。しかし過大に含有しても前記効果が飽和して徒にコストを高めるだけであるから含有率の上限を0.1%とする。
N:0.020%以下
Nは、鋼中に不可避的不純物として存在する。Nは、Bと結合してBの焼入性向上効果を阻害するのでNの含有率は少ないことが好ましいが、経済性を考慮して含有率の上限を0.020%とする。
Ti:0.1%以下、ただし原子%で、Ti/N:3.42〜8.0
Tiは、鋼中のNと結合することによって、NがB効果を低減することを防ぐために添加する。そのためにはTi含有率は、少なくとも原子%でTi/Nを3.42以上とする必要がある。しかしTi含有率が過大であると鋼の冷間加工性を低下し、また、疲労強度を損う。そのためTi含有率は、原子%でTi/Nを8以下とし、Ti含有率の上限を0.1%とする。
Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下
NiおよびMoは、鋼の焼入性を高め、疲労強度を高めるために添加してもよい。しかし、過大に含有すると熱間圧延後の鋼の硬さを高めて冷間加工性を害するのでNiおよびMoの含有率はそれぞれ1.0%を上限とし、それらのいずれか1種または2種を含有するものとする。
【0008】
上記の化学成分を調整することによって、本発明の浸炭歯車部品に用いる鋼は、その焼入性指数をJ13mm25〜J13mm33とする。ここに、焼入性指数は、JIS G 0561に規定する方法によって求めるものとする。焼入性指数がJ13mm25より小さければ浸炭焼入れ時に必要な心部硬さが得られず、またJ13mm33より大きければ熱間圧延後の硬度が高くなり、その後の冷間加工性を低下する。
【0009】
本発明においては、熱間圧延のままの鋼は、その後該鋼の軟化のための熱処理を一切行うことなく、熱間圧延時に生成したスケールの除去、潤滑剤の塗布などの後、冷間加工によって歯車部品の形状に成形される。このとき、熱間圧延された後の鋼が80HRBを超える硬さであると前記冷間加工が困難となる。それゆえ、熱間圧延後の鋼の硬さを80HRB以下とする必要がある。好ましくは78HRB以下の硬さとする。
【0010】
本発明によれば、この種の鋼に対して行う通常の方法によって熱間圧延を行うことにより、熱間圧延後の硬さが80HRB以下の鋼を得ることができる。
本発明の浸炭歯車部品は、前記鋼の熱間圧延材から冷間加工によって形成された後、この種の鋼に対して行う通常の方法によって浸炭処理する。ここにいう浸炭処理には、歯車部品の歯部、その他の所要部分に対する浸炭および焼入れ、焼戻しの各操作を含む。
【0011】
浸炭処理後の表面硬さが低いと摩耗損傷が激しくなるので、表面硬さは680HV以上とする。浸炭硬化層の硬化深さが浅いと耐ピティング性が低下し、深い場合には耐衝撃性が低下するので、硬化深さは、有効浸炭深さとして0.5〜1mmとする。歯車の歯元強度を維持するために心部硬さは250HV以上とする必要がある。
【0012】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、ビレット段階を経て直径30mmの丸棒に熱間圧延した。
JIS G 0561に準拠して前記熱間圧延材から試験片を削り出し、焼入性試験を行って焼入性指数を求めた。その結果を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
前記熱間圧延材の表面についてロックウエル硬度計を用いて硬さを測定した。冷間加工性を評価するため、前記熱間圧延材から切出した直径6mm、高さ12mmの円柱状試験片により圧縮試験を行った。徐々圧縮試験時の真歪み−真応力曲線を求め、真歪み0.8における真応力の値を変形抵抗とし、また、圧縮試験において割れが発生する最大の加工率を割れ発生限界とした。
【0015】
前記熱間圧延材を切削加工し、切削工具の境界摩耗量が0.2mmとなるまでの時間を工具寿命とし、これによって被削性を評価した。切削工具は、超硬とし、その形状は三角形とした。また、切削条件は、切削速度:200mm/分、送り:0.2mm/rev、切込み:2mmとした。
これらの試験結果を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
前記熱間圧延材によって、熱間圧延材→切断・被膜処理→冷間鍛造→バリ部切削→浸炭処理の工程でピニオンギアを製造した。ここに浸炭処理は、920℃×170分浸炭→120℃の油中に焼入れ→150℃×2時間保持後空冷の焼もどしとした。
歯車部品として常用されるJIS SCM420(比較例1)では、熱間圧延材をそのまま冷間鍛造することができなかったので、熱間圧延材に球状化焼なましを施した。球状化焼なましは、780℃×8時間保持後650℃まで10℃/時間で冷却し、その後空冷として行った。以下前記同様な工程によってピニオンギアを製造した。
【0018】
比較例3、5および6は、熱間圧延材ではピニオンギアの冷間鍛造ができなかったので以後の試験を取止めた。
前記ピニオンギアより試験片を採取し、JIS G0557に基づいて硬度測定を行い、有効硬化深さ(550HV深さ)、表面硬さ、心部硬さ(表面から5mm位置の硬さ)を求めて浸炭性の評価を行った。
【0019】
前記ピニオンギアについて、800MPaの歯元曲げ応力を繰返し付与して破断するまでの応力繰返し数を調べた。試験数を5本とし、この平均値によって疲労特性を評価した。
これらの試験結果を表3に示す。
【0020】
【表3】
【0021】
以上の試験結果から明らかなように、従来の常用肌焼鋼である比較例1は、熱間圧延材のままでは、冷間鍛造によりピニオンギアに加工することが困難である。また、熱間圧延材のままで冷間鍛造によりピニオンギアに加工できる比較例2、4、7では浸炭特性、疲労特性が劣る。これに対して本発明の実施例においては、冷間加工性に優れ、熱間圧延材を冷間鍛造することによってピニオンギアの成形が可能であり、浸炭特性、疲労特性においても従来の常用鋼に匹敵する強度を示す。
【0022】
【発明の効果】
上記のように本発明によれば、熱間圧延した鋼材を、球状化焼なまし等の軟化のための熱処理を行うことなく、冷間加工によって歯車部品に成形することが可能で、しかも浸炭処理によって高い強度が得られるので、製造性に優れ、かつ、強度が高い歯車部品を提供することができる。
Claims (2)
- 鋼に浸炭処理を施してなる浸炭歯車部品であって、前記鋼は、合金成分として質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.15%以下、Mn:0.30〜1.0%、Cr:0.30〜1.50%、B:0.0005〜0.0030%、Nb:0.01〜0.1%、N:0.020%以下、Ti:0.1%以下を含有し、ただし原子%で、Ti/N:3.42〜8.0であって、残部Feおよび不可避的不純物からなり、前記鋼の焼入性指数はJ13mm25〜J13mm33であり、前記鋼の熱間圧延後の硬さは80HRB以下であり、前記浸炭歯車部品は、前記鋼の熱間圧延材から冷間加工によって形成された後浸炭処理され、浸炭処理後の表面硬さは680HV以上、有効浸炭深さは0.5〜1mm、心部硬さは250HV以上であることを特徴とする浸炭歯車部品。
- 請求項1記載の浸炭歯車部品において、前記鋼が、上記合金成分に加えて質量%で、Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下のいずれか1種または2種を含有することを特徴とする浸炭歯車部品。
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