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JP3608823B2 - 真菌の検出および真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチド - Google Patents

真菌の検出および真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチド Download PDF

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JP3608823B2 JP23533994A JP23533994A JP3608823B2 JP 3608823 B2 JP3608823 B2 JP 3608823B2 JP 23533994 A JP23533994 A JP 23533994A JP 23533994 A JP23533994 A JP 23533994A JP 3608823 B2 JP3608823 B2 JP 3608823B2
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▲そう▼明 村山
浩一 槙村
英世 山口
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株式会社東洋紡ジーンアナリシス
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は真菌症の検出・診断に有効なオリゴヌクレオチドに関する。更に詳しくは、臨床診断上、カンジダ症、アスペルギルス症等の病原真菌を迅速、確実かつ簡便に検出するための、および病原真菌を同定するためのオリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチドを用いて病原真菌を検出する方法、ならびに病原真菌の検出・同定のための試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
高度医療の普及に伴い、易感染患者は増加の一途をたどっている。カンジダ症およびアスペルギルス症をはじめとする深在性(全身性)真菌症は、易感染患者が高率に罹患する重要な感染症として医療上の問題となっている。真菌症の治療には、様々な抗真菌剤が開発されている。しかし、真菌剤は開発されていても、真菌症であると診断するための迅速かつ確実な方法は未だ開発されていないのが現状である。現在使用されている深在性真菌症の診断法としては、病原真菌の検出、病原真菌の抗原またはこれに対する抗体を免疫学的に検出する方法、病原真菌の菌体成分または代謝産物を生化学的に検出する方法などがある。例えば、カンジダ症の診断には、カンジダ抗原またはこれに対する抗体を検出する方法がある。しかし、病理学的に真菌感染が認められない患者(健康人を含む)をも検出するという擬陽性の問題があり、また感度の点でも臨床的な要請に十分答えていない。
【0003】
アスペルギルス症の診断は、臨床検体から得られた培養、同定によって行われるが、たとえ病理学的にアスペルギルスの感染が明かな症例であったとしても、患者の検体からアスペルギルスが培養される割合(陽性率)は低く、さらに培養が出来たとしてもアスペルギルス属の同定の根拠となる分生子頭が形成されるまでに2週間以上かかるのが普通であり、このことがアスペルギルス症の発症前診断を困難にしている。現在のところ、アスペルギルス症の診断キットとして現在までに認可されているものはなく、実験室的な診断法としてアスペルギルス抗原またはこれに対する抗体を免疫学的に検出する方法、アスペルギルスの菌体成分または代謝産物を生化学的に検出する方法があるが、いずれの方法も、病理学的に真菌感染が認められない患者(健康人を含む)をも検出してしまう欠点がある。
【0004】
カンジダ症およびアスペルギルス症のほかにも、クリプトコッカス症およびカリニ原虫による感染症はAIDSおよび移植患者などの易感染性宿主における重要な病原微生物による疾患である。クリプトコッカス症の診断には、免疫凝集反応を用いる方法があるが、この方法はトリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)が病原と考えられる夏型過敏性肺臓炎の患者をも検出して擬陽性反応を示すことがあり、更に鑑別が必要となっている。また、カリニ原虫の培養は一般的には不可能であり、グロコット染色により虫体を顕微鏡で検出する方法に頼っている。さらに虫体総数の大部分を占めるトロフォゾイトを染めることは難しく、確実な診断のためには多量の虫体を必要としているのが現状である。
【0005】
さらに、広範囲の深在性病原性真菌を迅速、確実に検出する事の重要性は深在性真菌症に対する薬剤の開発とも密接に関係する。病原真菌の菌種によって抗菌剤を選択する必要があるからである。そのために、病原真菌の同定が必要とされる場合が少なくない。従って、直接的で簡便、迅速かつ確実な真菌の検出および真菌の菌種の同定の方法が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、直接的で簡便、迅速かつ確実な真菌の検出および真菌の菌種の同定の方法と、それに用いる新規のオリゴヌクレオチド、ならびにその検出用試薬を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題解決のため真菌およびその他の生物の18SリボゾームRNA(以下18SrRNAという)遺伝子に関して種々の検討を重ねた結果、真菌の検出および真菌の菌種の同定に適当な核酸配列を得、それを用いた検出方法を確立して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、真菌の18SrRNA遺伝子の核酸配列とハイブリダイズする、真菌の検出および真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチドである。
【0009】
本発明における真菌とは、カンジダ属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、トリコスポロン属、クリプトコッカス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、ブラストマイセス属、コクシジオイデス属、ニュウモシスチス属、マラセジア属およびデバリオマイセス属を含む。上記オリゴヌレオチドは、好ましくは、配列番号1に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する(以下、核酸配列を示す場合に、Aはアデニン、Cはシトシン、Gはグアニン、Tはチミンを表す。また、いずれの位置のTがウラシル(U)と置換されていてもよい)。以下、核酸配列の一部は、少なくとも5塩基以上、好ましくは10塩基以上、さらに好ましくは20塩基以上の長さを有する。
【0010】
好ましい実施態様においては、オリゴヌクレオチドは、配列番号1に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0011】
さらに好ましい実施態様においては、オリゴヌクレオチドは配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはそれらの相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0012】
また本発明は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。
【0013】
好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドが配列番号6に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0014】
また本発明は、カンジダ・ルシタニエ(Candida lusitaniae)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。 好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号7に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0015】
また本発明は、カンジダ・クルゼイ(Candida krusei)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。
好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号8に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0016】
また本発明は、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。 好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号9に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0017】
また本発明は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。
好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号10に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0018】
また本発明は、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。
好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号5または配列番号11に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0019】
また本発明は、ニュウモシスチス・カリニ(Pneumocistis carinii)の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドである。
好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドは配列番号12に記載の核酸配列の一部または全部、あるいはその相補配列の一部または全部、から選択される配列を含有する。
【0020】
また本発明は、真菌の18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズする、オリゴヌクレオチドであり、好ましい実施態様においては、そのオリゴヌクレオチドが配列番号1に記載の核酸配列の一部、あるいはその相補配列の一部を、真菌の菌種に応じて改変した配列を含有する。
【0021】
また本発明は、上記オリゴヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして使用する真菌の検出および真菌の菌種同定方法である。
さらに本発明は、上記オリゴヌクレオチドを含有する標識プローブである。
さらに本発明は、上記オリゴヌクレオチドを含有する核酸プライマーである。
本発明は、上記標識プローブを含む、真菌の検出および真菌の菌種同定用試薬キットである。
さらに本発明は、上記核酸プライマーを含む、真菌の検出および真菌の菌種同定用試薬キットである。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明者らは、現在までに決定された真菌およびその他の生物の遺伝子配列データバンク(GenBank)に登録されている18SrRNA遺伝子配列を参考にして各属および種間の遺伝子配列の相同性の理論的検証と実験的検証を重ねた結果、配列番号1に記載の1位から687位までの687塩基対の核酸配列に相当する部分が、真菌の検出および真菌の菌種の同定に関して適当な核酸配列であることを見い出した。この687塩基対の領域に相当する部分(カンジダ・アルビカンスでは673塩基対であるが、他の属では長さが異なる場合がある)は、真菌種間で保存されている相同性の高い部分(以下、真菌共通領域という)と、真菌科内でも属または種によって配列が大きく異なる部分(以下、属または種特異的領域という)とからなり、本発明者らはこれらの領域の配列を検出することで真菌の検出および真菌の菌種の同定を可能にした。
【0024】
上記の真菌共通領域は、真菌種内ではよく保存されているが他の生物とは配列に相違があり、本発明者らはこの領域の真菌に共通する配列を検出して真菌の存在を検出し得ることを実験的に確認した。具体的には、例えば、この真菌共通領域内の核酸配列またはその相補配列である、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5に記載の核酸配列の一部または全部を含有するオリゴヌクレオチドを核酸プライマーまたは標識プローブとして使用して真菌を検出する。これにより、1回の測定で全ての真菌を検出し得る。しかし、この測定のみでは真菌属および真菌の菌種を同定し得ない。
【0025】
上記の種特異的領域は、真菌属間でも、そして属内の真菌の菌種間でも配列の相違があり、本発明者らはこの領域の特定の真菌種に特有の配列を検出することで、その真菌の存在を検出し得ることを実験的に確認した。具体的には、例えば、カンジダ・アルビカンスの種特異的領域内の核酸配列またはその相補配列である、配列番号6に記載の核酸配列の一部または全部を含有するオリゴヌクレオチドを核酸プライマーおよび標識プローブとして使用して、カンジダ・アルビカンスを検出する。
【0026】
真菌の他の菌種についても、それぞれの菌種に特有の配列を検出してカンジダ・アルビカンスと同様に検出し得る。例えば、カンジダ・アルビカンスの場合配列番号6に記載の核酸配列の領域に相当する配列は、カンジダ・ルシタニエ(Candida lusitaniae)では配列番号7に記載の核酸配列であり、カンジダ・クルゼイ(Candida krusei)では配列番号8に記載の核酸配列であり、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)では配列番号9に記載の核酸配列であり、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)では配列番号10に記載の核酸配列であり、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)では配列番号11に記載の核酸配列であり、ニュウモシスチス・カリニ(Pneumocistis carinii)では配列番号12に記載の核酸配列である。
【0027】
従って、配列番号6から配列番号12のいずれかに記載の核酸配列の一部または全部を含有するオリゴヌクレオチドを核酸プライマーまたは標識プローブとして使用すれば、それぞれ、カンジダ・アルビカンス(配列番号6)、カンジダ・ルシタニエ(配列番号7)、カンジダ・クルゼイ(配列番号8)、カンジダ・グラブラータ(配列番号9)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(配列番号10)、アスペルギルス・フミガタス(配列番号11)、およびニュウモシスチス・カリニ(配列番号12)を検出し得る。
【0028】
本発明におけるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号1の1位のAから687位のAまでの核酸配列の一部、あるいはその相補配列の一部を、真菌の菌種に応じて改変した配列を含有する。ここで一部の改変とは1または2以上のDNAの欠失・挿入・置換などをいい、部位特異的点突然変異、あるいは欠失突然変異などを含む。
【0029】
本発明における検出には、上記の18SrRNAの遺伝子配列を検出して、血液、喀痰などのような各種臨床検体中に含まれる真菌および真菌の種を検出すること以外に、単離および培養された菌体の真菌種を判定することなども含まれることはいうまでもない。また、本発明における試料には、上記各種臨床検体、上記単離、培養菌体、およびこれらから単離、精製された核酸なども含まれる。また、増幅された核酸も含まれ得る。
【0030】
本発明はまた、標識プローブに関する。標識プローブとして使用するオリゴヌクレオチドは、配列表に記載の配列またはその相補配列の全域を使用する必要はなく、使用する核酸ハイブリダイゼーション条件に合わせて解離温度(Tm値)などを計算し、適当な領域を適当な長さで使用し得る。しかし、十分な特異性を有するプローブは、望ましくは10塩基以上、さらに望ましくは20塩基以上の長さが適当である。本発明の核酸プライマーとして使用するオリゴヌクレオチドも、配列またはその相補配列から、適当な長さの配列を用いて作製し得る。また、使用する条件および目的などに応じて、オリゴヌクレオチド中に、ある程度の改変を行い得ることは容易に予想できる。
【0031】
本発明のオリゴヌクレオチドは化学合成により調製し得るので、クローン化したオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドに比べて、容易に、大量にかつ安価に一定品質のオリゴヌクレオチドが得られ得る。本発明のオリゴヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のいずれでもあり得る。リボ核酸の場合はチミジン残基(T)をウリジン残基(U)と読み替えることは言うまでもない。あるいは任意の位置のTをUに変えて合成を行ったウリジン残基を含むDNAでもあり得る。同様に任意の位置のUをTに変えたチミジン残基を含むRNAでもあり得る。さらにオリゴヌクレオチド中に欠失、挿入または置換のような点突然変異、あるいは改変ヌクレオチドがあり得る。
【0032】
本発明の標識プローブとしての標識は放射性物質、酵素、蛍光物質、または発光物質など公知の標識物が用いられ得る。標識の方法は末端標識または配列中の標識のいずれでもあり得る。あるいは糖、リン酸基、または塩基部分への標識もあり得る。例えば、リンカーアームを有するヌクレオチドを配列中のオリゴヌクレオチドと置換して酵素標識し得る(Nucleic Acids Res.; 14巻6115頁1986年)。5位にリンカーアームを有するウリジンを、特開昭60−500717号公報に開示された合成法によりデオキシウリジンから化学合成し、上記オリゴヌクレオチドに導入し得る。
【0033】
本発明のオリゴヌクレオチドは固相担体に結合して、捕捉プローブとしても用いられ得る。この場合、捕捉プローブと標識プローブとの組合せでサンドイッチアッセイ(特開昭58−40099号公報参照)を行い得る。あるいは、標的核酸を標識して捕捉する方法(特開昭62−265999 号公報参照)も用いられ得る。あるいは、オリゴヌクレオチドをビオチンで標識し、ハイブリダイゼーション後にアビジン結合担体で捕捉する方法も用いられ得る。
【0034】
本発明は更に核酸プライマーに関する。オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用する場合、DNAポリメラーゼなどによる核酸増幅(例えばPCR;特開昭60−281号公報参照)を行い、真菌のみについて共通の領域の核酸配列の増幅またはカンジダ・アルビカンスなど特定の菌種に特有の配列のみの増幅がされ得る。PCR反応時に放射性標識ヌクレオチドを取り込ませる方法またはPCR増幅産物を電気泳動により分画して特有のバンドを検出する方法で、容易に18SrRNA遺伝子の核酸配列を検出し得る。あるいは、上記標識オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて増幅産物を直接検出し得る。
【0035】
本発明はまた、真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行う方法である。
【0036】
上記真菌共通領域の配列を利用する真菌の検出と、上記種特異的領域の特定の真菌種に特有の配列を利用する特定の真菌種の検出とは、それぞれのみでも臨床診断上有用であるが、これらを有機的に組み合わせることによりさらにその有用性を高め得る。例えば、配列番号2または配列番号3に記載の核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて臨床検体についてPCRを行えば、真菌についてのみ、18SrRNAの遺伝子配列の一部を有するDNAが増幅される。このDNAを、アガロースゲル電気泳動,または真菌に共通する配列である配列番号4に記載の核酸配列を有する標識プローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイにより検出し、各種真菌の存在を検出し得る。さらに、この増幅したDNAは菌種によって配列が異なる部分を含有しているので、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11および配列番号12などに記載の核酸配列を含む標識プローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイによりこれらのDNAを検出し、臨床検体中の真菌の菌種を同定し得る。更に真菌に共通の配列を有するオリゴヌクレオチドと菌種に特異的な配列を有するオリゴヌクレオチドとを同時に用いることにより真菌の検出と菌種の同定が同時に行われ得る。
【0037】
この方法により、長時間を要する従来の培養法に比べて極めて短時間(1日以内)に真菌の検出および真菌の菌種の同定を行い得る。具体的には、易感染性患者などの臨床検体などを配列番号2または配列番号3に記載の核酸配列を含有する核酸プライマーを用いてDNAを増幅し、18SrRNAの遺伝子配列の一部を有するDNAの増幅により真菌の存在が証明される。さらに、この増幅されたDNAがハイブリダイゼーションアッセイにおいて配列番号6に記載の核酸配列を含む標識プローブとの反応により、カンジダ・アルビカンスの存在が証明され、病原体として疑われる。反応しない場合、別の真菌が病原体として疑われる。この真菌の菌種は、増幅したDNAをさらに別の標識プローブで調べて同定し得る。
【0038】
従来、rRNAそのものをハイブリダイゼーションアッセイで検出して真菌の菌種を同定する方法(特表平1−503356号公報参照)などが開発されているが、やはり感度が低く、培養を必要とする。さらにRNAは分解し易いため菌体から抽出する操作が難しく、しかもそのRNAサンプルは保存および扱いが難しい。このため再現性に問題がある。本発明は、18SrRNAの遺伝子DNAを検出し得る。DNAは極めて安定であり、簡単な操作で抽出し得、保存性もよくDNA増幅も容易である。
【0039】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を例示して、本発明の効果をより一層明確にする。
【0040】
(実施例1)
(1)真菌検出用PCRプライマーの合成
DNAシンセサイザー392型(ABI社製)を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号2に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、真菌プライマーFという)および配列番号3に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、真菌プライマーRという)を合成した。手法はABI社のマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。精製はHPLC(ベックマン社製)を用いて逆相カラムにて実施した。
【0041】
(2)試料の調製
以下に示すDNAをPCRの試料として使用した。カンジダ・アルビカンスの培養、そのスフェロプラストの調製およびゲノムDNAの調製は、阿部らの方法[昭和62年11月10日、(株)ソフトサイエンス社発行、口野嘉幸ほか2名編「遺伝子・タンパク質・実験操作ブロッティング法」(初版)]に従って行った。その他の細菌および生物試料については、それぞれのDNA抽出および精製の常法に従って調製したものを、最終1ng/μl濃度となるようにPCR反応液に加えた。
【0042】
Figure 0003608823
Figure 0003608823
(3)PCR
反応液の組成は、それぞれ1μMのプライマーFおよびプライマーR、10mM Tris−HCl(pH8.9)、1.5mM MgCl、80mM KCl、500μg/ml BSA、0.1%コール酸ナトリウム、0.1% TritonX−100、それぞれ0.2mMのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、ならびに耐熱性のTth DNAポリメラーゼ(東洋紡製)40単位/ml である。反応条件は次の通りである。
熱変性: 94℃、1分
アニーリング:55℃、2分
重合反応: 72℃、1分
上記操作をDNAサーマルサイクラー(Perkin−Elmer/Cetus社製)を用いて25回行った。
【0043】
(4)検出
5μlの反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、紫外線による蛍光を検出した。泳動は、100vの定電圧で30分間行った。操作方法および他の条件は、ManiatisらのMolecular Cloning(1982年)に記載の方法に従った。反応液と同時に分子量マーカーも泳動し、相対移動度を比較して、検出されたDNA断片の長さを算出した。
【0044】
(5)結果
アガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後に紫外線で687塩基対の蛍光バンドが確認されたものを陽性とする。この結果、真菌の試料はすべてバンドが確認され、陽性と判定されたのに対して、その他の細菌および生物試料はいずれもバンドがみとめられず、陰性と判定された。
【0045】
従って、本発明のオリゴヌクレオチドをPCRに用いて、真菌を特異的に検出し得ると判明した。さらにPCRなどのような核酸増幅による検出は高感度が期待できるため、真菌を単離する前の臨床検体などから直接検出し得、従来の培養に必要な時間(数週間)が不要になると考えられる。
【0046】
(実施例2)
(1)リンカーアームを有する真菌の検出および真菌の菌種同定用オリゴヌクレオチドの合成
DNAシンセサイザー392型(ABI社製)を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号6に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ1という)、配列番号7に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ2という)、配列番号8に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ3という)、配列番号9に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ4という)、配列番号10に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ5という)、配列番号11に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ6という)、および配列番号12に記載の配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プローブ7という)を合成した。この合成においては、5位にリンカーアームを有するウリジンを、上記オリゴヌクレオチドに導入した。5位にリンカーアームを有するウリジンは、特表昭60−500717号公報に開示された合成法によりデオキシウリジンから化学合成して調製した。このウリジンはオリゴヌクレオチド内の任意のTを置換し得るが、この実施例では5’末端のTを置換した。合成リンカーオリゴヌクレオチドはアンモニア水で50℃、一夜脱保護処理した後、HPLC(ベックマン社製)の逆相カラムを用いて精製した。
【0047】
(2)リンカーオリゴヌクレオチドの酵素(アルカリ性ホスファターゼ)による標識
上記リンカーオリゴヌクレオチドと、そのリンカーアームを介するアルカリ性ホスファターゼとの結合を、文献 (Nucleic Acids Res.; 14巻6115頁1986年)に従って行った。
【0048】
リンカーオリゴヌクレオチド1.5 A260を0.2M NaHCO 12.5μlに溶解し、次いで10mg/mlスベリン酸ジスクシニミジル(DSS)25μlを加えて室温で2分間反応させた。反応液を1mM CHCOONa(pH5.0)で平衡化したSephadex G−25(ファルマシア社製)カラム(1cmφx30cm)でゲル濾過して過剰のDSSを除去した。
【0049】
末端のアミノ基が活性化されたリンカーオリゴヌクレオチドを、さらにモル比で2倍量のアルカリ性ホスファターゼ(ベーリンガーマンハイム社製、100mM NaHCO、3M NaClに溶解したもの)と室温で16時間反応させてアルカリ性ホスファターゼ標識プローブを得た。
得られた標識プローブは、FPLC(ファルマシア社製)で陰イオン交換カラムを用いて精製した。標識プローブを含む画分を集め、セントリコン30K(アミコン社製)を用いて限外濾過法により濃縮した。
【0050】
(3)試料の調製
実施例1の(1)〜(3)の操作で得られたPCR反応液(真菌プライマーFおよび真菌プライマーRによるPCR産物)を使用した。
【0051】
(4)ドットブロットハイブリダイゼーション
実施例1の(1)〜(3)の操作で得られたPCR反応液をナイロン膜(Hybond N+ 、アマシャム社製)に滴下し、0.4N NaOHで核酸を変性させてナイロン膜に固定した。この膜を中和後、ハイブリダイゼーションバック(BRL社製) に移し、上記各アルカリ性ホスファターゼ標識核酸プローブ液(プロ−ブ1〜7)をそれぞれ含むハイブリダイゼーションバッファー(5xSSC、0.5%ウシ血清アルブミン、0.5%ポリビニルピロリドン、1%ドデシル硫酸ナトリウム)を加えてポリシーラーでシールし、プローブ6は50℃で、他のプローブは42℃で15分間ハイブリダイゼーションを行った。
【0052】
それぞれの膜をハイブリダイゼーションバッグから取り出し、洗浄液1(2xSSC、1%ドデシル硫酸ナトリウム)で50℃、10分間振盪して洗浄した。更に洗浄液2(1xSSC、0.5% TritonX−100)で室温、10分間振盪して洗浄した。最後に洗浄液3(1xSSC)で室温、5分間振盪して洗浄した。
【0053】
膜を新しいハイブリダイゼーションバッグに移し、基質液(0.1M Tris−HCl、0.1M NaCl、0.1M MgCl、0.3mg/mlニトロブルーテトラゾリウム、0.3mg/mlブロムクロロインドフェリルホスフェート(pH7.5))を加えてポリシーラーでシールし、37℃で1時間インキュベートした。
【0054】
(4)結果
アルカリ性ホスファターゼにより生じる紫色色素のスポットを目視判定した。スポットが確認できたものを陽性とした。
【0055】
この結果、プローブ1はカンジダ・アルビカンス、プローブ2はカンジダ・ルシタニエ、プロ−ブ3はカンジダ・クルゼイ、プローブ5はクリプトコッカス・ネオフォルマンス、そしてプローブ7はニュウモシスチス・カリニと特異的に反応して同程度の紫色色素のスポットが確認され、陽性と判定されたのに対して、その他の真菌はいずれもスポットが見られず、すべて陰性と判定された。
【0056】
次に、プロ−ブ4はカンジダ・グラブラータおよびサッカロマイセス・セレビシエと特異的に反応した。また、プローブ6はアスペルギルス属およびペニシリウム属と反応し陽性と判定された。
【0057】
従って、本発明のオリゴヌクレオチドを標識プローブに用いて、真菌の検出や真菌の菌種の同定が可能であることが判明した。さらに、実施例1の(1)〜(3)の操作で得られるPCR反応液1種類で、その後のハイブリダイゼーション操作により多種類の真菌の菌種を同定し得る。これは、高価な試薬および酵素が必要なPCR反応を、各菌種毎ではなく1回で行えることを意味し、検査費用の低減とさらなる検査時間の短縮を可能にする。この方法により、従来、培養などで数日から数週間かかっていた真菌の検出および真菌の菌種の同定を1日以内に終わらせ得る。
【0058】
【発明の効果】
本発明により、直接的で簡便、迅速かつ確実な真菌の検出および真菌の菌種の同定が可能となった。本発明の配列またはその相補配列の一部または全部を有するオリゴヌクレオチドをDNA増幅反応のプライマーまたは直接検出用のプローブ、あるいはその組合せとして用い、従来、数日から数週間かかっていた培養およびその後の生化学的試験などに比べて、時間を大幅に短縮し、簡便で、かつ再現性のある確実な結果が得られ、さらに核酸増幅などにより、血液および喀痰などの臨床検体から直接検出し得るので、その臨床的意義は大きい。
【0059】
【配列表】
【0060】
【配列番号:1】
Figure 0003608823
【0061】
【配列番号:2】
Figure 0003608823
【0062】
【配列番号:3】
Figure 0003608823
【0063】
【配列番号:4】
Figure 0003608823
【0064】
【配列番号:5】
Figure 0003608823
【0065】
【配列番号:6】
Figure 0003608823
【0066】
【配列番号:7】
Figure 0003608823
【0067】
【配列番号:8】
Figure 0003608823
【0068】
【配列番号:9】
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【0069】
【配列番号:10】
Figure 0003608823
【0070】
【配列番号:11】
Figure 0003608823
【0071】
【配列番号:12】
Figure 0003608823

Claims (13)

  1. カンジダ・ルシタニエ(Candida lusitaniae)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列がAGCAATAAGA GGAGGACTGT(配列番号7)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、カンジダ・ルシタニエの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  2. カンジダ・クルゼイ(Candida krusei)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列TATGGTAAGC ACTGTTGCGG(配列番号8)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、カンジダ・クルゼイの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  3. カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列CAAGTCCTTG TGGCTTGGCG(配列番号9)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、カンジダ・グラブラータの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  4. クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列GTGGTCCTGT ATGCTCTTTA(配列番号10)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  5. アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列ATGGCCTTCA CTGGCTGTGG(配列番号11)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、アスペルギルス・フミガタスの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  6. ニュウモシスチス・カリニ(Pneumocistiscarinii)を検出および同定するオリゴヌクレオチドであって、その核酸配列GAAGTTGTGT GCACTGGCGC(配列番号12)あるいはその相補鎖から選択される配列を含有し、ニュウモシスチス・カリニの18SrRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
  7. 請求項1から請求項6のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを含有する標識プローブ。
  8. 請求項1から請求項6のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを含有する核酸プライマー。
  9. 真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行う方法であって
    (1)請求項1から請求項8のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを標識プローブとして、1または2以上選択する工程;
    (2)該標識プローブとして用いたオリゴヌクレオチドと試料とをハイブリダイズさせる工程;
    (3)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドを検出する工程、
    を含む方法
  10. 真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行うための試薬キットであって、請求項7に記載の標識プローブを含む、キット。
  11. 真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行うための試薬キットであって、請求項8に記載の核酸プライマーを含む、キット。
  12. 真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行うための試薬キットであって、請求項7に記載の標識プローブおよび請求項8に記載の核酸プライマーを含む、キット。
  13. 真菌の検出、真菌の菌種の同定、あるいは真菌の検出と菌種の同定とを行う方法であって、
    (1)請求項1から請求項8のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして、1つ選択する工程;
    (2)(1)で選択したオリゴヌクレオチドが記載通りの配列の場合は配列番号3に記載のオリゴヌクレオチドと、相補配列の場合は配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドとを組み合わせ、ペアにする工程;
    (3)(2)で組み合わせたペアのオリゴヌクレオチド一組を用い、試料を鋳型として核酸を増幅する工程;
    (4)増幅した核酸を検出する工程;
    を含む方法。
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