JP3684269B2 - 消臭性繊維製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンモニアガス等の塩基性ガスと共に酸やアルデヒド含有ガスを含む悪臭成分を効率よく吸収して消臭することができ、あるいは更に抗菌・殺菌活性も備えた消臭性繊維製品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、生活様式の変化、居住空間の高密度化や気密化が進むにつれて、生活雰囲気中の悪臭や異臭排除に対する要望が高まってきており、その代表的なものは、トイレで発生するアンモニア臭、喫煙に由来するアンモニア、酢酸、アルデヒド臭等である。また空調機器等においては、塵に含まれる雑菌が原因となって生じる黴や臭気も問題となっている。
【0003】
これらの臭気を吸収除去する消臭剤についても既に多くの研究が進められており、実用化されているものも多数見られる。それら公知の消臭剤の中で代表的なものは、活性炭等の吸着性物質の物理的吸着活性を利用した消臭剤であるが、最近、例えば不織布等の繊維状物に吸着性物質を消臭成分として含浸付着させたシート状もしくはマット状物が空調器用フィルター等として広く普及してきており、また繊維マット等に抗菌・殺菌剤を付着させることによって抗菌・殺菌活性を与えて臭気発生を防止するものも実用化されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上記の様な繊維状物に吸着性物質を含浸付着させたもので、アンモニア等の塩基性ガスと共に酸やアルデヒド等の酸性ガスを含む混合ガスを効率よく吸着除去することは難しい。しかして、塩基性ガスに対する吸着活性を有する塩基吸着性物質は酸性であり、一方、酸性ガスに対する吸着活性を有する酸吸着性物質は塩基性であるため、これらの吸着性物質を同時に含浸付着させると、塩基吸着性物質と酸吸着物質が相互に中和されて両方の吸着活性が失われてしまうからである。
【0005】
そこで、酸吸着活性と塩基吸着活性を兼備させるには、酸吸着性物質と塩基吸着性物質を夫々別々の繊維シート等に含浸付着させ、これらを積層した多層構造としなければならず、また抗菌・殺菌活性を与えるには、更に抗菌・殺菌性物質を含浸付着させた繊維シート等を積層しなければならず、個別に行なわれる吸着剤の含浸や積層、更にはそれらの固定等が極めて煩雑で手数を要する。
【0006】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、基本的には単層状の繊維マットもしくはシート状であって、酸性ガスと塩基性ガスを共に効率よく吸着除去する機能を備え、あるいは更に抗菌・殺菌性能も兼ね備え消臭性繊維製品を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る消臭性繊維製品とは、分子中に酸性基を有する塩基性ガス吸収性アクリル系繊維と、分子中に塩基性基を有する酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維とを含有するところに要旨が存在する。この消臭性繊維製品には、更に抗菌・殺菌性繊維を含有させることによって抗菌・殺菌性を付与することも極めて有効である。
【0008】
上記本発明で用いられる塩基性ガス吸収性アクリル系繊維としては、ヒドラジン架橋されたアクリロニトリル系重合体を含み、酸性基がカルボキシル基であるものが好ましく、中でも、アクリロニトリル系重合体中の窒素含有量を100重量部としたとき、ヒドラジン架橋されたアクリロニトリル系重合体中の窒素含有量が101〜108重量部であり、且つ2〜6ミリモル/gのカルボキシル基が導入されたものを使用し、また酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維としては、アクリロニトリル系重合体をヒドラジン処理することにより塩基性基が導入されたものを使用することによって、優れた強度特性と消臭性能を兼ね備えた繊維製品を得ることができるので好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
上記の様に本発明の消臭性繊維製品は、分子中に酸性基を有する塩基性ガス吸収性アクリル系繊維と、分子中に塩基性基を有する酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維とを含有させることによって、臭気成分の主体となるアンモニア等の塩基性ガス成分と、酢酸やアルデヒドを含めた酸性ガス成分を同時に吸収除去し、あるいは更に抗菌・殺菌性繊維を含有させることによって、塵埃等に付着している細菌などに対し抗菌・殺菌作用を兼備させたものであり、不織布等に活性炭その他の吸着性物質を含浸付着させた従来タイプの消臭製品に指摘される前述の様な欠点を排除し、基本的には単層構造で塩基性ガス成分と酸性ガス成分を同時に効率よく吸着して優れた消臭性能を発揮し得るものとなる。
【0010】
本発明で用いられる塩基性ガス吸収性アクリル系繊維としては、分子中に、塩基性ガスを吸収し中和除去する作用をもった酸性基、例えばカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基などが導入されたものであればすべて有効に活用できるが、繊維製品として十分な強度を確保しつつ優れた塩基性ガス吸収作用を発揮し得る様なアクリル系繊維について種々研究を行なったところによると、アクリロニトリル系重合体をベースとし、これをヒドラジン架橋することによって強度を高めると共に、残存するニトリル基を加水分解することによってカルボキシル基を導入したものは、塩基性ガス吸収性アクリル系繊維として極めて優れた効果を発揮することが確認された。
【0011】
ここで用いられる好ましいアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル(以下、ANと略記する)を40重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体であり、AN系単独重合体の他、ANと他の共重合性モノマーを共重合させたものであっても構わない。使用可能な共重合性モノマーとしては、ハロゲン化ビニルやハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル[尚(メタ)の表記は、該メタの語のついたもの及び付かないものの両方を表わす];メタクリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸含有モノマー及びその塩;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が例示される。
これらAN系重合体よりなる繊維の製造手段は特に制限がなく、基本的には公知の方法をそのまま適用して製造すればよい。
【0012】
該AN系重合体よりなる繊維にヒドラジン架橋を導入するに当たっては、最終的に得られる繊維に対して実用上満足し得る物性を与えるため、該ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加量が1〜8重量%(即ちヒドラジン架橋前のAN系重合体中の窒素含有量を100重量部としたとき、架橋後の窒素含有量が101〜108重量部)の範囲となる様に制御するのがよく、AN系重合体繊維に対してこの様な範囲のヒドラジン架橋を施すには、ヒドラジン濃度6〜80重量%の水溶液を使用し、温度50〜120℃、1〜5時間程度の範囲で適宜条件を調整すればよい。
【0013】
この時、ヒドラジン架橋による窒素増加量が1重量%未満では、最終的に得られる繊維の強度が十分に上がらず、一方8重量%を超えると、AN系重合体中の残存ニトリル基の量が少なくなり、ひいてはその加水分解によって導入されるカルボキシル基の量が不足することになって満足のいく塩基性ガス吸収作用が得られにくくなる。
【0014】
従ってヒドラジン架橋を行なうに当たっては、ヒドラジン水溶液濃度や反応温度、時間等の反応要因と窒素増加量との関係を予備実験で予め明らかにしておき、最適のヒドラジン架橋量が得られる様に反応条件を設定すればよい。ここで用いられるヒドラジンとしては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジンなどが例示される。
【0015】
上記ヒドラジン架橋の後は、塩基性ガス吸収性能を与えるための手段として、ヒドラジン架橋されずに残存しているニトリル基を加水分解することによってカルボキシル基に変える。この時の加水分解条件によっては、ニトリル基の一部がアミド基の状態で止まることもあるので、好ましくは最終的に得られる加水分解生成物中のカルボキシル基含有量が2.0〜6.0ミリモル/gの範囲に納まる様な条件設定を行なうことによって、優れた塩基性ガス吸収作用を持ったアクリル系繊維とすることができる。
【0016】
ニトリル基をカルボキシル基に変えるための加水分解法は特に限定されないが、通常は、アルカリ金属水酸化物やアンモニア等の塩基性水溶液あるいは硝酸、硫酸、塩酸等の酸水溶液と共に原料繊維を加熱処理する方法が採用される。そして、加水分解時の温度、アルカリもしくは酸濃度、処理時間などの反応因子と導入されるカルボキシル基の量との関係を予備実験で予め明らかにしておき、最適のカルボキシル基導入量が得られる様に加水分解条件を設定すればよい。尚この加水分解反応は、前述したヒドラジン架橋反応と同時並行的に行なうことも可能であるが、好ましいのは逐次的に行なう方法である。
【0017】
尚塩基で加水分解を行なった場合は、これを塩基性ガス吸収性に変えるため酸型にする必要があり、そのための手段としては、加水分解を終えた繊維を硫酸、硝酸、塩酸、酢酸等の水溶液で処理する方法を採用すればよい。加水分解に酸を使用した場合は、この様な後処理は全く不要である。
【0018】
次に、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維は、酸もしくはアルデヒドと反応して吸収することのできる塩基性基を分子中に有するものであれば全て実用可能であるが、繊維製品として十分な強度を確保しつつ優れた酸やアルデヒドを効率よく吸収し得る様なアクリル系繊維についても併せて研究を行なったところによると、前述した塩基性ガス吸収性アクリル繊維と同様にアクリロニトリル系重合体をベースとし、これをヒドラジン処理したものは、そのままで十分な強度を有すると共に、酸やアルデヒドに対して優れた吸収作用を発揮することが確認された。
【0019】
ここで用いられるアクリロニトリル系重合体も、前述した塩基性ガス吸収性アクリル系繊維の場合と同様にAN量が40重量%以上、より好ましくは50重量%以上であるAN系重合体が好ましく、AN系単独重合体の他、ANと前述の様な共重合性モノマーとの共重合体を使用することも有効であり、該AN系重合体よりなる繊維の製造手段も前記と本質的に変わりがない。
【0020】
またAN系重合体よりなる繊維にヒドラジン架橋を導入する方法も、前記塩基性ガス吸収性アクリル系繊維の好ましい製法として例示した方法をそのまま利用することができ、即ち、最終的に得られる繊維に対し実用上満足し得る物性を与えるには、ヒドラジン処理による窒素含有量の増加量を1重量%以上(即ちヒドラジン架橋前のAN系重合体中の窒素含有量を100重量部としたとき、架橋後の窒素含有量が101重量部以上)とすることが望ましい。しかして酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維とする場合も、ヒドラジン処理による窒素増加量が1重量%未満では、最終的に得られる繊維の強度が十分に上がらないからである。
【0021】
但し、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維とする場合、ヒドラジン処理による窒素増加量の上限はかなり高めに設定することが可能である。なぜならば、AN系重合体をヒドラジン処理すると、前述の如くヒドラジン架橋を起こすと同時に該架橋構造内にアミノ基が導入され、該アミノ基がそのまま酸アルデヒド吸収性能を発揮するからである。しかも塩基性ガス吸収性アクリル系繊維を製造する際には、前述の如く相当量のニトリル基を未反応状態で残しておき、その後残存ニトリルを加水分解することによってカルボキシル基に変えて塩基性ガス吸収活性を与える必要があるが、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維の場合は未反応のニトリル基を残しておく必要がなく、むしろヒドラジン処理を高めに制御した方がアミノ基の導入量も多くなって酸もしくはアルデヒド吸収活性も高まるからである。
【0022】
そして該ヒドラジン処理を行なう際にも、ヒドラジン水溶液濃度や反応温度、時間等の反応要因と窒素増加量との関係を予備実験で予め明らかにしておき、最適の窒素増加量が得られる様に反応条件を設定すればよい。
【0023】
該ヒドラジン処理の際に、ニトリル基の加水分解によって生成したカルボン酸とイオン結合している疑いのあるヒドラジンが問題となる場合は、これを除去するために酸処理を行なうのがよい。その方法としては、ヒドラジン処理繊維を塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の希酸水溶液で処理する方法が挙げられる。そして該酸処理の後、水蒸気処理や乾熱処理等を施せば、酸処理によって低下した酸・アルデヒド吸収能力を容易に回復させることができる。
【0024】
更に、前記塩基性ガス吸収性アクリル系繊維および酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維と共に必要により複合することのできる抗菌・殺菌性繊維については一切制限がなく、例えば銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンの如き抗菌・殺菌活性を有する金属イオンを付与した公知の様々の繊維を使用することができ、例えば特開昭52−92000号や特開平3−199418号公報などに記載されている様にスルホン酸基、カルボキシル基、水酸基などのイオン交換性基を有するアクリル系繊維の該イオン交換性基の一部もしくは全部に前述の様な金属を付与した抗菌・殺菌性繊維、
あるいは特公昭58−10510号公報に記載されている様に、ジオール成分の一部または全部に、第3級アミノ基を分子中に有する2価アルコールを用いてポリエステル系またはポリウレタン系繊維を製造し、次いでハロゲン化炭化水素を反応させて繊維中に第4級アンモニウム塩基を導入して抗菌活性を持たせた抗菌・殺菌性繊維、
更には、カチオン染料可染性アクリロニトリル系繊維中の金属塩型カチオン染料可染性基の金属イオンとイオン交換し得る抗菌・殺菌性金属イオンを有する金属化合物、例えば、銀、銅、亜鉛等の塩(ピロりん酸、ポリりん酸、アルミン酸、タングステン酸、バナジン酸、モリブデン酸、アンチモン酸、塩素酸、臭素酸、沃素酸、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、チオシアン酸、炭酸、しゅう酸、安息香酸、フタル酸、石炭酸等の塩など)を付着せしめた抗菌・殺菌性繊維
等が全て使用可能である。
【0025】
本発明の消臭性繊維製品は、前述した塩基性ガス吸収性アクリル系繊維と酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維、更には必要により抗菌・殺菌性繊維を使用し、これらを不織布状、織物状、編物状などとすることによって製品化されるもので、それら繊維の好ましい配合比率は用途によって若干変わってくるが、標準的な配合割合は、塩基性ガス吸収性アクリル系繊維:5〜90重量部、より一般的には10〜80重量部に対し、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維:5〜90重量部、より一般的には10〜80重量部の範囲である。また抗菌・殺菌性繊維を複合する場合は、複合繊維全量中に占める該抗菌・殺菌性繊維の含有量で5〜40重量%、より一般的には10〜30重量%の範囲で配合するのがよい。尚、繊維製品の要求特性等によっては、上記塩基性ガス吸収性アクリル系繊維および酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維、あるいは更に抗菌・殺菌性繊維と共に、それらの各特性を有効に活かし得る範囲で通常の繊維を複合することも勿論可能である。
【0026】
また本発明に係る消臭性繊維製品の形態は、その用途に応じて各繊維を混繊状態で複合した不織布状のシートやマット、あるいは各繊維を混紡し織物もしくは編物状としたもの等が例示される。尚不織布状マットとする際には、各繊維と共に適量の熱融着性繊維を配合し、マット状に成形した後に加熱処理して熱融着性繊維を加熱溶融させ、保形性を有する繊維マットとしたものも好ましい製品形態として推奨される。また本発明の基本形態は単層状であるが、必要により積層構造としたり、あるいは任意の補強材を併用して形態安定化を図ることも勿論可能である。
【0027】
かくして得られる本発明の消臭性繊維製品は、優れた消臭性能、更には抗菌・殺菌性能を生かして幅広い用途に利用することができ、例えばエアコン、空気清浄器、空調機器等のフィルターやエレメント、クリーンルーム用フィルター、生ごみ処理設備等の浄化設備用フィルター、家庭や車輛等の悪臭発生部(トイレ等)の脱臭フィルター等の他、更には失禁ショーツ、パッド、マスク等、更には寝装寝具やクッション、カーテン、自動車や車輛用シート材料などに適用し、その優れた消臭性能、更には抗菌・殺菌性能を有効に活用することができる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0029】
各繊維の製造例
[塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(1)の製造]
アクリロニトリル(AN)90重量%およびアクリル酸メチル(MA)10重量%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10重量部を48重量%のロダンソーダ水溶液90重量部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥(工程収縮率:14%)して単繊維繊度1.5dの原料繊維を得た。
【0030】
この原料繊維に、35重量%濃度のヒドラジン水溶液を使用し、103℃で3時間のヒドラジン架橋処理を施した。この処理による窒素含有量の増加量は4.2重量%であった。この架橋処理繊維を、10%苛性ソーダ水溶液を用いて90℃で2時間加水分解を行なった後、1Nの塩酸水溶液に30分間浸漬して酸処理を行ない、その後脱水、水洗、乾燥して塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(1)を得た。この繊維のカルボキシル基量は、4.8ミリモル/g、引張強度は1.7g/dであった。
【0031】
[塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(2)の製造]
上記製造例で得た原料繊維に、7重量%濃度のヒドラジン水溶液を用いて110℃で5時間のヒドラジン架橋処理を施した。この処理による窒素含有量の増加量は2.3重量%であった。この架橋処理繊維を5%苛性ソーダ水溶液を用いて90℃で2時間加水分解を行なった後、1Nの塩酸水溶液に30分間浸漬して酸処理を行ない、その後脱水、水洗、乾燥して塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(2)を得た。この繊維のカルボキシル基量は4.2ミリモル/g、引張強度は1.0g/dであった。
【0032】
[酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維(3)の製造]
上記塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(1)の製造における前半で得た原料繊維に、70重量%濃度のヒドラジン水溶液を使用し、120℃で3時間のヒドラジン架橋処理を施した後、水洗、乾燥して酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維を得た。この処理による窒素含有量の増加量は7.8重量%であった。
【0033】
[酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維(4)の製造]
上記アクリル系繊維(3)の製造において、ヒドラジン水溶液を35重量%濃度にし、処理条件を103℃で3時間に変更した以外は製造例3と同様にして酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維(4)を得た。この処理による窒素含有量の増加量は4.2重量%であった。
【0034】
[抗菌・殺菌性繊維(5)の製造]
上記塩基性ガス吸収性アクリル系繊維の製造における前半で得た原料繊維に、1.2重量%濃度の硝酸銀水溶液を使用し、100℃で30分間の処理を施した後、水洗、乾燥して抗菌・殺菌性繊維(5)を得た。この処理による銀の付着量は0.7重量%であった。
【0035】
実施例1
上記で得た塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(1)20重量%、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維(3)20重量%、抗菌・殺菌性繊維(5)10重量%、およびポリエステル系繊維よりなる熱融着性繊維50重量%を用いてこれらを均一に混繊し、厚さが0.2mmとなる様に加圧した状態で130℃に加熱して熱融着繊維を溶融させ、その後直ちに冷却して目付20g/m2 のマット状繊維製品を得た。
【0036】
得られたマット状繊維製品から10cm×20cmのサンプルを3個採取し、これを容量5リットルのバッグ内へそれぞれ挿入した後、各バッグ内にアンモニアガス(400ppm)、酢酸ガス(30ppm)およびアセトアルデヒドガス(30ppm)を夫々含むガス3リットルを吹き込んで密封し、23℃で30分間放置した後、各バッグ内のガス濃度を測定することにより、酸性ガスおよび塩基性ガスの吸収能を調べた。
【0037】
また、各マット状繊維製品から採取した供試材に、黄色葡萄状球菌(Staphylococcus aureus IFO 12732 )のブイヨン懸濁液を注加し、密閉容器中、37℃で18時間培養した後の生菌数を計測して植菌数に対する増減値を求め、下記式により求められる菌の増減値および増減差によって抗菌・殺菌能を評価した。
菌増減値=log C−log A
菌増減値差=(log B−log A)−(log C−log A)
但し、Aは植菌数、Bは無加工布を用いた培養後の菌数、Cは供試材を用いた培養後の菌数を表わす。
【0038】
結果を表1に示す。尚表1には、比較材としてAN系繊維にりんご酸を添着した塩基性ガス吸着用繊維(りんご酸添着量:1重量%)、AN系繊維に水酸化ナトリウムを添着した酸性ガス吸着用繊維(水酸化ナトリウム添着量:1重量%)および、AN系繊維に抗菌剤として2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール0.5重量%を添着した市販の抗菌・殺菌性繊維をそれぞれ使用した以外は上記と同じ条件で実験を行なった結果も併記した。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2
上記で得た塩基性ガス吸収性アクリル系繊維(2)10重量%、酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維(4)10重量%、抗菌・殺菌性繊維(5)10重量%、ポリオレフィン系繊維よりなる熱融着性繊維70重量%を用いて、厚さが0.5mmとなる様に加圧した状態で130℃に加熱して熱融着繊維を溶融させ、その後冷却して目付50g/m2 のマット状繊維製品を得た。
【0041】
得られたマット状繊維製品を前記実施例1と同様にして評価したところ、アンモニアは0.3ppm、酢酸ガスは0.3ppm、アセトアルデヒドは0.4ppmであり、菌増減値差は5.0であった。
【0042】
上記結果からも明らかである様に、本発明の要件を満足する繊維マットを用いた実施例では、アンモニア、酢酸、アセトアルデヒドの何れについても高い除去効果を示し、且つ抗菌・殺菌性も非常に良好な結果が得られている。これに対し、比較材のうち、りんご酸を添着した塩基性ガス吸着用繊維では、酢酸およびアセトアルデヒドの除去効果が乏しく、水酸化ナトリウムを添着した酸性ガス吸着用繊維では、アンモニアガスの除去効果が乏しい。また、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾールを添着した抗菌・殺菌性繊維マットは、抗菌・殺菌活性は良好であるものの、アンモニア、酢酸、アセトアルデヒドの何れについても除去効果が乏しい。また、AN系繊維布に対し、りんご酸、水酸化ナトリウムおよび2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾールを含浸法によって順次添着したものについて同様の実験を行なったところ、酸性ガス、塩基性ガスの何れについても満足のいく除去活性は得られず、また抗菌・殺菌活性も更に低下することが確認された。
【0043】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、アクリル系重合体分子中に塩基性基および酸性基を導入した塩基性ガス吸収性アクリル系繊維および酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維を混繊状態で含有させることによって、酸性ガスや酸・アルデヒドの有臭成分を効率よく吸収除去することができ、基本的には単層状態で優れた消臭能を有する繊維製品を提供し得ることになった。また上記繊維と共に抗菌・殺菌性繊維を複合してやれば、併せて抗菌・殺菌活性を与えることができ、各種フィルターを初めとする様々の用途に幅広く活用することができる。
Claims (4)
- 酸性ガスと塩基性ガスを共に吸着除去できる繊維製品であって、
分子中に酸性基を有する塩基性ガス吸収性アクリル系繊維と、
分子中に塩基性基を有する酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維と、
抗菌・殺菌性繊維、および、
熱融着性繊維
を含有することを特徴とする気体臭気消臭用繊維製品。 - 塩基性ガス吸収性アクリル系繊維が、ヒドラジン架橋されたアクリロニトリル系重合体を含み、酸性基がカルボキシル基である請求項1に記載の消臭用繊維製品。
- アクリロニトリル系重合体中の窒素含有量を100重量部としたとき、ヒドラジン架橋されたアクリロニトリル系重合体中の窒素含有量が101〜108重量部であり、且つ2〜6ミリモル/gのカルボキシル基が導入されたものである請求項2に記載の消臭用繊維製品。
- 酸もしくはアルデヒド吸収性アクリル系繊維が、アクリロニトリル系重合体をヒドラジン処理することにより塩基性基が導入されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の消臭用繊維製品。
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1996
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