JP3649652B2 - リチウムイオン電池の容量推定方法および劣化判定装置ならびにリチウムイオン電池パック - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン電池の容量推定方法および劣化判定装置ならびにリチウムイオン電池パックに関するものである。
【0002】
ここに、「電池パック」とは、単電池(以下、セルと称す)あるいは複数個のセルを直列接続、並列接続、あるいは両者の併用によって接続したものを、安全制御回路あるいは充放電制御回路と一体化して「自立電源としての二次電池」としたものを意味する。
【0003】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小型化、高性能化、携帯型化によって、電池の需要が高まっている。それに応じて電池の改良、開発はますます活発化している。また、電池の新しい適用領域も拡大してきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
電池の普及とともに、これら搭載された電池の信頼性向上の要求も高くなってきている。特に、従来の鉛電池やニッケルカドミウム電池(以下、Ni/Cd電池と称す)に比べて体積当たり、あるいは重量当たり大幅な高エネルギー密度を有するニッケル水素電池(以下、Ni/MH電池と称す)やリチウムイオン電池(以下、Liイオン電池と称す)では、その内部に蓄えられているエネルギーが大きいため、電池の異常に伴って起こる事故による被害の程度もより深刻となりうるので、信頼性の確保が重要な課題となっている。
【0005】
上記のLiイオン電池は、正極活物質にリチウムを挿入脱離できる金属酸化物、負極にリチウムを挿入脱離できる炭素化合物、電解液にリチウム塩を溶質とし非水有機化合物をそれぞれ用いて構成される。
【0006】
また、鉛電池、Ni/Cd電池、およびNi/MH電池が過充電による副反応で発生するガスを吸収する反応機構を有するのに対して、Liイオン電池には過充電により発生するガスの吸収反応を持たない、など安全性維持の点で大きな制約がある。さらに、複数のLiイオン電池を直列に配置して使用する場合には、電池の劣化が進行すると個々の電池特性のアンバランスが過充電や過放電をもたらし、安全性の点で大きな不安要素となりうる。
【0007】
信頼性確保手段のひとつとして、搭載電池の的確な劣化状態の把握とタイムリーな電池の交換が挙げられる。Ni/MH電池やLiイオン電池の高エネルギー密度電池に関しては、1994年に提唱されたスマートバッテリーシステム(SBS)が充電制御、残存容量判定などを含めたバッテリーマネジメントシステムとして、改良を加えながら普及してきている(www.sbs-forum.org 参照)。これらの電池制御・管理は、製造メーカ、電池種類などの情報の他、常時電池の電流、電圧、温度などをモニタする膨大な情報データ管理に基づく方法が採用されているのみであり、このような方式は極めて高価な方式であり、製品価格の高騰を来していた。
【0008】
また、安全性維持の点で重要となる電池の劣化状態の監視については、Liイオン電池搭載の機器のモデルチェンジが頻繁に実施されていることもあって、使用時間の確保と監視を重視する余り、なおざりにされている傾向がある。
【0009】
特に、SBSは電池の充電制御、残存容量などの制御・管理の手段であり、電池の劣化状態まで把握する機能は有しておらず、電池、または電池パックの交換は使用者の勘に頼っているのが現状であった。
【0010】
SBSとは別に、ビデオカメラに搭載するLiイオン電池の制御・管理方式などが提案されているが、その方式においては、電池の劣化は、すでに測定された容量の表示から判断されるのみであり、充電の後に使用される電池が劣化しているか否かを正しく判定することは必ずしも可能でない。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その課題は、Liイオン電池の容量を推定する簡便な方法、Liイオン電池の劣化を判定する簡便な装置、ならびに、電池の容量を推定する機能を備えたLiイオン電池パックを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明においては、請求項1に記載したように、
リチウムイオン電池の容量推定方法であり、リチウムイオン電池を定電流定電圧方式によって充電する際に、該リチウムイオン電池の公称容量をC0としたときの充電電流をC0/(20時間)以下とし、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間tを求め、該電池の推定比容量Ce/C0(ここに、Ceはこの電池の推定容量である)を関係式、
Ce/C0=At+B (1)
(ここに、AおよびBは該電池、電圧Vs、電圧Vcおよび該定電流充電中の充電電流によって定まる正値定数である)によって算出するリチウムイオン電池の容量推定方法であって、容量推定の対象となるリチウムイオン電池と同一種類のリチウムイオン電池を用い、1回の全充電時間が3日以上30日以下であり、該リチウムイオン電池の公称容量をC 0 としたときの充電電流がC 0 /( 20時間)以下である定電流定電圧方式による充電期間と、放電電流がC 0 /( 5時間)以上C 0 /( 0.5時間)以下であり放電終止電圧がVdである放電期間と、必要に応じて該充電期間と該放電期間との間に設けられる休止期間とを有する充放電サイクルを3回以上繰り返して、各サイクルにおいて、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間t n (ここに、nは各サイクルに付した番号である)と、各サイクルごとに放電電流を時間に関して積分して得られる放電容量C n とを記録し、記録された該時間t n と該放電容量C n とから、上記関係式(1)におけるAおよびBの値を確定することを特徴とするリチウムイオン電池の容量推定方法を構成する。
【0014】
また、本発明においては、請求項2に記載したように、
リチウムイオン電池の劣化判定装置であって、請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路と、該推定比容量Ce/C0の値に基づいて該リチウムイオン電池の劣化状態を判定する判定演算回路と、該判定演算回路による判定結果を表示する手段あるいは該判定結果に基づき、必要に応じて、該リチウムイオン電池の劣化を警告する警告音を発する手段とを備えていることを特徴とするリチウムイオン電池の劣化判定装置を構成する。
【0015】
また、本発明においては、請求項3に記載したように、
ICを内蔵した充放電制御手段を備えたリチウムイオン電池パックにおいて、該ICあるいは該ICに付設して増設されたICが、該リチウムイオン電池パック中のリチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0 を請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって推定する際に用いる数値を記憶するメモリと、該数値が該メモリに記憶された場合に、請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路と、該演算回路が算出した該推定比容量Ce/C0算出結果を出力する手段とを有していることを特徴とするリチウムイオン電池パックを構成する。
【0016】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法においては、
リチウムイオン電池を定電流定電圧方式によって充電する際に、該リチウムイオン電池の公称容量をC0としたときの充電電流をC0/(20時間)以下とし、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間tを求め、該電池の推定比容量Ce/C0(ここに、Ceはこの電池の推定容量である)を関係式、
Ce/C0=At+B (1)
(ここに、AおよびBは該電池、電圧Vs、電圧Vcおよび該定電流充電中の充電電流によって定まる正値定数である)によって算出することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法を図面を用いてさらに詳しく説明する。
【0018】
図1は、Liイオン電池を定電流定電圧(CC-CV)方式によって充電した場合の充電電圧(図中、電池電圧と表示)と充電電流との経時変化を示した図である。
【0019】
図1において、Liイオン電池または電池パック中のLiイオン電池(以下、これらをLiイオン電池と総称する)を、まず、定電流(CC)モードによって、所定の一定電流Icで、あらかじめ設定された上限電圧Vc(通常は4.1V/セル、または4.2V/セルである)まで充電し、充電電圧が上限電圧Vcに到達した後、定電圧(CV)モードの充電が開始され、充電電圧(図1においては電池電圧と表示)はVcで一定のまま、充電電流が時間とともに減衰する。
【0020】
本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法においては、上記CC-CV方式による充電において、定電流(CC)モードの充電中、放電終止電圧Vd以上、上記上限電圧Vc以下に設定された電圧Vsに充電電圧が到達してから、定電流モード充電が終了する(すなわち、充電電圧がVcに達する)までの経過時間tをモニタし、この時間tを用い、このLiイオン電池の上記推定比容量Ce/C0を上記関係式(1)によって算出することを特徴とする。
【0021】
この場合に、上記電池の容量の推定を精度よく行えるように、上記CC-CV方式による充電における上記一定電流IcをC0/(20時間)以下とする。これを超える電流で充電を行うと、上記関係式(1)による容量の推定における誤差が大きくなる。
【0022】
以下、一般に、電池電流がC0/(T時間)である場合に、この電流を(1/T)CmAと表す。たとえば、C0/(20時間)は0.05CmAと表わされる。
【0023】
また、本発明における容量推定の実施対象となるLiイオン電池は、1回当たりの充電時間が30日以下であるような使用条件で使用されるものであることが好ましい。1回の充電時間が30日を超えるような長期の充電時間では、過充電による劣化の程度が異なったり、電池構成材料の経時劣化が顕著となり、大きな容量推定誤差を生じるおそれがあり好ましくない。
【0024】
さらに、容量推定の実施において、時間計測開始時の充電電圧Vsは放電終止電圧Vd以上、充電上限電圧Vcより少なくとも0.2V低い電圧とすることが好ましい。時間計測開始電圧Vsが充電上限電圧Vcより0.2V未満の差の電圧範囲内にあるときは、計測する所要時間tが短くなりすぎて大きな推定誤差を生じるおそれがあり好ましくない。
【0025】
本発明における容量推定のための関係式の適用は電池の劣化が、満充電状態から放電終止電圧Vdまで放電したときの放電容量C(これは放電電流を時間に関して積分して得られる)が公称容量C0の50%以上の範囲にある場合に限定される。50%未満に電池の比容量C/C0が低下するような大きく劣化した場合には、所要時間tと比容量C/C0の間に上記関係式(1)で示されるような直線関係(式の左辺を比容量C/C0で置き換えて考える)が成立しなくなり、該関係式を使用して容量を推定したときの誤差が大きくなって好ましくない。
【0026】
上記関係式(1)は、これを適用するLiイオン電池の搭載機器、または充電器の充電条件における定電流(CC)モード充電所要時間tと、その条件下における比容量C/C0との関係であることを前提としている。もし、上記関係式(1)を作成したときのCCモードの充電電流値と、搭載機器、または充電器のCCモードの充電電流値が異なる場合には、あらかじめ別途、それぞれの充電条件におけるCCモード充電所要時間を求めておき、該関係式(1)作成時の条件における所要時間teと搭載装置、または充電器に相当する条件での所要時間tmとの比te/tmを上記関係式(1)のtに乗じて換算する必要がある。
【0027】
なぜならば、CCモード充電における充電率(全充電期間におけるCCモード充電の充電割合)は電流値が小さいほど大きくなる、すなわち、電流値が小さいほど充電達成率が大きくなるからである。また、その割合は、電池サイズ、電池形状、製造メーカ、電池構成材料などによって異なるため、別途、実際に試験を実施して電流値の影響を把握する必要がある。
上記のようにして、Liイオン電池の容量を推定するためには、上記関係式(1)を、あらかじめ作成しておかなければならない。そのためには、関係式(1)中の定数AおよびBの値を決定しなければならない。その場合に、容量推定の対象となるLiイオン電池と同種類の電池、または電池パックを試験して上記定数AおよびBを決定するのが最も妥当である。なぜならば、市販のLiイオン電池は、使用する正極活汚物質、負極カーボンおよび電解液の種類が多様であり、電池の劣化に伴う充電電圧挙動の変化だけでなく、初期の電池の充電挙動も異なっているからである。
【0028】
そこで、本発明においては、
容量推定の対象となるリチウムイオン電池と同一種類のリチウムイオン電池を用い、
1回の全充電時間が3日以上10日以下であり、該リチウムイオン電池の公称容量をC0としたときの充電電流がC0/(20時間)以下である定電流定電圧方式による充電期間と、放電電流がC0/(5時間)以上C0/(0.5時間)以下であり放電終止電圧がVdである放電期間と、必要に応じて該充電期間と該放電期間との間に設けられる休止期間とを有する充放電サイクルを3回以上繰り返して、
各サイクルにおいて、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間tn(ここに、nは各サイクルに付した番号である)と、各サイクルごとに放電電流を時間に関して積分して得られる放電容量Cnとを記録し、記録された該時間tnと該放電容量Cnとから、上記関係式(1)におけるAおよびBの値を確定する。
【0029】
上記の操作をさらに詳細に説明すると、
本発明における容量推定実施の対象となるLiイオン電池と同種の電池を用い、実施対象となる電池の使用条件と同様に、0.05CmA以下(C0/(20時間)以下)の充電電流値の定電流(CC)充電によって上限電圧Vcまで充電し、電池、または電池パックの電圧が上限電圧Vcに到達した後、定電圧(CV)充電によって充電を継続する定電流定電圧(CC−CV)方式による充電を行い、充電時間は3日以上30日以下に設定し、
放電は0.2CmA以上2.0CmA以下(C0/(5時間)以上、C0/(0.5時間)以下)の電流値と該電池の使用条件と同様の放電終止電圧Vdに設定し、必要ならばこれらの充電と放電の間に一定の休止時間を設けて、このような充放電サイクルを3回以上実施して、
各充放電サイクルにおける、充電上限電圧Vcと放電終止電圧Vdの間の、Vd以上(Vc−0.2V)以下の任意の電圧Vsに充電電圧が到達してから定電流(CC)モードの充電が完了する(充電電圧が充電上限電圧Vcに到達する)までに要した時間tn(ここに、nは各サイクルに付した番号である)と、各サイクルごとに放電電流を時間に関して積分して得られる放電容量Cnとを記録し、記録された該時間tnと該放電容量Cnとから、上記関係式(1)におけるAおよびBの値を確定する。すなわち、関係式(1)の左辺をCn/C0で置き換え、右辺におけるtをtnで置き換えた関係式が、Cn/C0とtnとの関係を最もよく表すように、AおよびBの値を確定する。
【0030】
1サイクル当たりの充電時間は3日以上30日以下とする。充電時間を3日以上10日以下に設定することにより、サイクルごとの電池の劣化が適度に進み、精度の良い関係式(1)を作成するために必要なデータを効率的に取得できる。1サイクル当たりの充電時間が30日を超える長期間であると、過充電による劣化の程度が大きくなり、また電池構成材料の経時劣化が顕著となり、所要時間tnと比容量Cn/C0の間に上記関係式(1)で示される直線関係(式の左辺を比容量Cn/C0で置き換え、右辺におけるtをtnで置き換えて考える)が成り立たなくなることにより、これらのデータから決定した定数AおよびBを使用した関係式では大きな誤差を生じる恐れがあり好ましくない。
【0031】
また、1サイクル当たりの充電時間を30日より長く設定すると1サイクル当たりの経過時間が長くなり、データ取得に時間がかかって同様に好ましくない。
【0032】
一方、1サイクル当たりの充電時間を3日未満に設定すると、充放電サイクルによる電極の劣化が顕著となり、逆に過充電による劣化の程度は小さくなり、この場合に決定した定数AおよびBを適用した上記関係式(1)を用いた容量推定では、頻繁に充放電するような限定された使用方法を除き、放電と充電が毎回異なるような実使用では、容量推定誤差が大きくなって好ましくない。
【0033】
上記充放電サイクル試験における放電電流値は、0.2CmA以上2.0CmA以下に設定する。1.0CmA以上2.0CmA以下に設定すればさらに効率のよいデータ取得が可能となる。0.2CmA未満の低放電電流の場合、完全放電に時間がかかり好ましくない。また、2.0CmAより大きな放電電流では、放電時間自体が短くなりすぎ、放電容量の測定値にばらつきが生じたり、劣化が進むと、容量が急激に低下して精度の良い関係式(1)を作成することができなくなるため好ましくない。
【0034】
上記充放電サイクル試験の実施に当たっては、装置の設定の制約などにより、必要ならば充電と放電との間に一定時間の休止を設定することができる。
【0035】
上記関係式(1)を作成するために実施する充放電サイクル試験においては、各サイクルごとに、充電の定電流(CC)モードにおける放電終止電圧Vd以上充電上限電圧Vcより0.2V低い(Vc−0.2V)以下の使用電圧範囲内の任意の電圧VsからCCモードが終了するまでの時間tと、引き続く放電の充電比容量Cn/C0を各充放電サイクルごとに測定する。測定した時間tと比容量Cn/C0とをプロットし、関係式(1)に適用して定数AおよびBを決定する。
【0036】
上記充放電サイクル試験は、容量推定結果Ceが実容量Cの±20%以内の範囲にあるように高精度とするために必要な時間tnと比容量Cn/C0のデータを充足するため、3サイクル以上充放電を実施する。
【0037】
サイクルが2サイクルのみであると、上記関係式(1)の定数AおよびBの決定に対してわずか2ポイントのデータとなり高精度の容量推定が不可能となって好ましくない。
【0038】
なお、上記関係式(1)の定数AおよびBを決定するために実施する上記充放電サイクル試験の環境温度は特に規定されないが、Liイオン電池の使用温度範囲として製造メーカが推奨する温度範囲内で、好ましくは実際に使用する環境温度と同様の温度で実施することが好ましい。もし、上記充放電サイクル試験を実施する環境温度が、容量推定を行う実使用上の環境温度と大きく異なる場合は、放電容量の温度依存性のデータから容量を補正して定数AおよびBを決定する。
(実施の形態2)
本発明に係るLiイオン電池の劣化判定装置においては、
リチウムイオン電池を定電流定電圧方式によって充電する際の上記時間tを求める手段と、該時間tを用い実施の形態1において作成された上記関係式(1)によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路と、該演算回路によって算出された該推定比容量Ce/C0の値を表示する手段あるいは該推定比容量Ce/C0の値に基づく該リチウムイオン電池の劣化状態の判定結果を表示する手段あるいは該判定結果に基づき、必要に応じて、該リチウムイオン電池の劣化を警告する警告音を発する手段とを備えていることを特徴とする。
【0039】
図2は、Liイオン電池を搭載する装置であって、本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法の機能と、該容量推定の結果に基づいて該リチウムイオン電池の劣化状態を判定する機能とを備えた装置の一構成概念を示したものである。
【0040】
図2において、1は電源部であり、電源部1には、Liイオン電池2a、2b、2cが搭載され、これらの電池2a、2b、2cは電源部1内の電池制御部3で充放電、安全に関する制御がなされる。4は電源部1内の充電器であり、電池制御部3で制御をうけて電池2a、2b、2cを充電する。5は論理部であり、論理部5には、インターフェイス6とCPU7とメモリ8とキーボードコントローラ9とがあり、電池制御部3はインターフェイス6を介してCPU7と繋がり、搭載電池2a、2b、2cに関する情報や制御の実施の指示を受け、逆に、電池制御に関するデータをCPU7に送出する。論理部5内において、CPU7とメモリ8とは、制御の指示、データの演算、電池の制御に関する情報の蓄積、データの記憶などを行う。電池2a、2b、2cのID入力などはキーボードコントローラ9を介して行う。キーボードコントローラ9にはデータ送出のための配線10が接続されている。
【0041】
本発明における上記関係式(1)はCPU7の空きメモリなどにあらかじめ入力されるか、あるいは必要ならばCPU7に加えてメモリチップを増設して入力される。さらに、論理部5内には、関係式(1)によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路および該推定比容量Ce/C0の値に基づいて該リチウムイオン電池の劣化状態を判定する判定演算回路が組み込まれており、論理部5内において該判定演算回路による判定結果が形成される。CPU7は、電池制御部3に、定電流(CC)モード充電における充電電圧が、使用電圧範囲内の電圧Vsに達してからCCモード充電がCVモード充電に切り替えられるまでの時間tを測定する指示を行い、逆に、電池制御部3から充電時間tのデータを受け取る。さらに、CPU7は、受け取った時間tを関係式(1)に代入して演算を行い、推定比容量Ce/C0の値を算出し、さらに該推定比容量Ce/C0の値に基づいて該リチウムイオン電池の劣化状態を判定するする。すなわち、論理部5は、本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法および劣化状態判定の機能をも備えている。必要ならば、この推定比容量Ce/C0の値をメモリ8に記憶させる。
【0042】
本発明に係るLiイオン電池の劣化判定装置は、図2に示された装置を、配線10を介して、該リチウムイオン電池の劣化状態の判定結果を表示する手段あるいは該判定結果に基づき、必要に応じて、該リチウムイオン電池の劣化を警告する警告音を発する手段を備えた装置と連結することによって構成される。配線10を介して、図2に示された装置と連結される上記装置が、上記演算回路によって算出された推定比容量Ce/C0の値を表示する手段をも備えていれば該リチウムイオン電池の劣化を定量的に把握することができて好都合である。
【0043】
このようにして、本発明に係るLiイオン電池の劣化判定装置を構成することができる。ただし、本発明は、上記概念になるLiイオン電池の劣化判定装置が構成できれば、何ら上記の構成に限定されることはない。
(実施の形態3)
本発明におけるLiイオン電池の容量推定方法は、またLiイオン電池のパック内の制御用マイコン、あるいは必要ならば簡単な増設メモリをパック内に付与することによって電池パックに適用することができる。本発明におけるLiイオン電池の容量推定方法、すなわち、実施の形態1に記載したLiイオン電池の容量推定方法を電池パックに適用して、本発明に係るLiイオン電池パックを構成する具体的一構成例を図3に示す。
【0044】
図3はLiイオン電池パックの一般的な回路構成を示した図であり、Liイオン電池(12-1、12-2、12-3)を3セル直列にして搭載した場合を示している。
【0045】
図3において、11は電池パック本体であり、12-1、12-2、12-3はLiイオン電池である。13は保護用ICであり、電圧、電流、温度などのモニタ、ソフト的な安全制御を行う。14-A、14-B、14-C、14-1、14-2、14-3はパック本体11内、および各電池の充電電流制御を目的とするFETであり、15は温度ヒューズであるPTC素子、16は電流ヒューズであり、それぞれ温度上昇時、異常大電流時に電流を遮断する役目を負う。17はプラス端子、18はマイナス端子であり、19は情報出力、コントロールのための端子である。
【0046】
図3において、上記安全機構の保護用IC13内にタイマーを搭載し、空きメモリに上記関係式(1)をあらかじめ入力し、推定比容量Ce/C0を算出する演算回路を形成しておく。
【0047】
本Liイオン電池パックが充電装置に搭載され、定電流定電圧(CC−CV)方式による充電が行われる場合に、図3におけるLiイオン電池12-1、12-2、12-3の両端の電圧を保護用IC13がモニタし、充電の定電流(CC)モード充電における充電電圧が、放電終止電圧Vd以上で充電上限電圧Vcよりも小となるようにあらかじめ設定された任意の開始電圧Vsに達してからCCモード充電がCVモード充電に切り替えられるまでの経過時間tをカウントし、この測定された時間tの値を関係式(1)に代入、演算して推定比容量Ce/C0を算出する。必要ならば、保護用IC13とは別にパック内の適当な位置に増設ICを設けることもできる。
【0048】
演算結果は、端子19を通して、適当なディスプレイに表示したり、あるいは警告音などを発出するために充電装置本体に出力される。
【0049】
このように、既存のLiイオン電池パックの最小限の変更によって、本発明に係るLiイオン電池パックを構成することができる。ただし、本発明は、上記概念になるLiイオン電池の容量推定が実施できれば何ら上記の構成に限定されることはない。
【0050】
本発明におけるLiイオン電池の容量推定方法、および該容量推定機能を具備したLiイオン電池パックの適用としては、特にバックアップ電源など高信頼性を必要とする機器が考えられ、該容量推定によって的確な電池の劣化状態を把握しタイムリーな電池の交換を実現することによって、機器のトラブルを回避する。しかしながら、Liイオン電池を搭載する機器であれば何ら該容量推定の方法、および容量推定機能を具備したLiイオン電池パックを採用することに問題はなく、しかもムダのない電池交換を実現することができるため使用する利点はきわめて大きい。
【0051】
【実施例】
以下に、本発明に係るLiイオン電池の容量推定方法および劣化判定装置ならびにLiイオン電池パックについて、具体的実施例によって説明するが、本発明は何らこれに限定されることはない。
(実施例1)
円筒型Liイオン電池(18650型、公称容量1350mAh)について、データ収集・保管機能を有する電池充放電自動試験装置を用いて、試験温度を25℃に設定し、充電電流値45mA(0.033CmA)、充電上限電圧4.1V、充電時間30日間の定電流定電圧(CC−CV)方式による充電と、放電電流値1350mAh(1.0CmA)、放電終止電圧2.75Vの放電と、充電と放電との間に休止を1時間はさんだ充放電サイクル試験を5サイクル実施し、各サイクルにおける充電開始時からCCモード充電完了までの経過時間t(hr)と、放電電流を時間に関して積分して得た放電容量Cの公称容量C0に対する比容量C/C0を求めた。
【0052】
求めたデータを図4に示す。図4は、上記充放電サイクル試験の結果を示した経過時間tと比容量C/C0の関係を示した図であり、図中の○は上記充放電サイクル試験で求めたデータであり、これらのデータから、推定比容量Ce/C0を時間tの関数として表す上記関係式(1)における定数AおよびBを求め、下記の関係式(2)を作成した。
【0053】
Ce/C0=0.0263×t+0.207 (2)
上式(2)におけるtは、厳密には、t/(1時間)、すなわち、時間を単位として、tを無次元数で表したものでなければならないが、これを、便宜上、単にtで表す。以下の式においても同様とする。
【0054】
上記関係式(2)を図4の直線で示す。
【0055】
これとは別に、同種の円筒型Liイオン電池(公称容量1350mAh)を用意し、充電電流45mA(0.033CmA)、充電上限電圧4.1V、充電時間30日間の定電流定電圧(CC−CV)方式による充電と、放電電流1350mA(1.0CmA)、放電終止電圧2.75Vの放電と、充電・放電の間に10分間の休止をはさんだ充放電サイクルを実施して、各サイクルごとのCCモード充電の所要時間t(hr)と放電容量Cの公称容量C0(1350mAh)に対する比容量C/C0とを記録し、上記に示した関係式(2)の妥当性を検討した。
【0056】
結果を図4中の黒四角で示す。
【0057】
図4に示したように、黒四角で示したデータは直線で示した関係式(2)の値に極めて近く、優れた容量推定結果を示しうることが判る。
【0058】
一方、上記検討とは別に、比較例として、関係式を作成する際に、上記の関係式と同種のLiイオン電池を用い、充電電流値を135mA(0.1CmA)とした以外は同じ条件の試験によって関係式作成を試みた。取得した比容量C/C0とCCモード充電完了までの所要時間tとの関係を図5に示した。
【0059】
図5は、本発明の容量推定法における比較例として、関係式作成のために充電電流値を0.1CmAに変更して取得した比容量C/C0とCCモード充電完了までの所要時間tの関係を示した図であり、図中の●印が取得データを示す。図5より明らかなように、充電電流値を0.05CmAより大きくした場合、比容量C/C0と時間tとの間には直線関係は成り立たず、精度の高い関係式の作成は不可能であることがわかる。
(実施例2)
角形Liイオン電池(公称容量600mAh)4個を用いて、充電電流値20mA(0.033CmA)、放電電流値600mA(1.0CmA)、充電時間を、2.5日、3日、30日、35日間とした以外は実施例1と同一条件で最大5サイクルまでの充放電サイクル試験を行い、実施例1に示したと同様の手順で153日間の間にそれぞれの関係式を作成した。
【0060】
その結果、充電時間を2.5日で試験した電池から求めた関係式は
Ce/C0=0.00961×t+0.704 (3)
であり、充電時間3日で試験した電池から求めた関係式は
Ce/C0=0.0167×t+0.485 (4)
であり、充電時間30日で試験した電池から求めた関係式は
Ce/C0=0.0180×t+0.447 (5)
であった。充電時間を35日とした場合、充放電サイクルは2回のみであったが、この2サイクルのデータから関係式を作成したところ
Ce/C0=0.00627×t+0.801 (6)
が得られた。
【0061】
これら、得られた関係式を用いた推定精度を評価するため、携帯電話に搭載されていた角形Liイオン電池(公称容量600mAh)を脱着し、正極端子、負極端子に結線して電池充放電自動試験装置に設置し、充電電流20mA(0.033CmA)、充電上限電圧4.1V、総充電時間1日間、定電流定電圧(CC−CV)方式の充電をし、1時間の休止の後、放電電流600mA(1.0CmA)、放電終止電圧2.75Vで放電し、定電流(CC)充電に要した時間t(hr)と放電容量Cの公称容量に対する比容量C/C0を求めた。その結果、CC充電時間tは15.31時間、比容量C/C0は63.5%であった。
【0062】
求めたCC充電時間t、すなわちt=15.31(hr)を、得られた各関係式(3)、(4)、(5)および(6)に代入して、それぞれの推定比容量Ce/C0と、推定誤差Err=C/C0−Ce/C0=0.635−Ce/C0を求めた。
【0063】
その結果、充電時間が3日間以上30日以下である、充電時間3日とした試験で得られた関係式(4)、および充電時間を30日とした試験で得られた関係式(5)では、それぞれ、推定比容量Ce/C0が74.1%、72.3%であり、推定誤差Errは−10.6%、−8.8%でいずれも±20%以内で良好な推定を行えることがわかった。
【0064】
これに対して、充電時間を2.5日とした試験で得られた関係式(3)を用いると推定比容量85.1%、推定誤差−21.6%となり、また、充電時間を35日とした試験で得られた関係式(6)を用いると比容量89.7%、推定誤差26.2%となり、いずれも誤差が大きく関係式としては用いられないことがわかった。
【0065】
比較のため、上記関係式を求めた試験のうち、充電時間を3日間とした場合の試験で得られた初期の2サイクルのデータのみから関係式を作成すると
Ce/C0=0.00579×t+0.819 (7)
が得られ、これに同様にしてt=15.31を代入して推定比容量Ce/C0と推定誤差Errを算出したところ、推定比容量90.8%、推定誤差−27.3%となり、関係式を作成するためには2サイクルのみのデータでは良好な関係式を提供できないことも明らかになった。
(実施例3)
実施例1と同様の円筒型Liイオン電池(18650型、公称容量1350mAh)4個を用い、放電電流値を135mA(0.1CmA)、270mA(0.2CmA)、2700mA(2.0CmA)、および3000mA(2.2CmA)とした以外は実施例1と同一の装置、試験条件によって充放電サイクル試験を行い、実施例1と同様の手順で関係式を求めた。
【0066】
結果を図6に示す。図6は、本実施例における関係式を求めるために実施した充放電サイクル試験の結果を示した図であり、図中6−1は、充電電流値を0.1CmAとした試験から求めた関係式
Ce/C0=0.00918×t+0.727 (8)
を示す直線であり、6−2は、充電電流値を0.2CmAとした試験から求めた関係式
Ce/C0=0.0242×t+0.255 (9)
を示す直線であり、6−3は充電電流値を2.0CmAとした試験から求めた関係式
Ce/C0=0.0205×t+0.372 (10)
を示す直線であり、6−4は充電電流値を2.2CmAとした試験から求めた関係式
Ce/C0=0.0521×t−0.552 (11)
を示す直線である。
【0067】
これとは別に、ラップトップコンピュータに使用されていたLiイオン電池パックを解体し、その中の1本の円筒型Liイオン電池(18650型、公称容量1350mAh)を取り出し、正極端子と電池側面(負極)にリード線を半田付けし、これを電池充放電自動試験装置に設置し、充電電流値45mA(0.033CmA)、充電上限電圧4.1V、総充電時間1日間の定電流定電圧(CC−CV)方式による充電を行い、1時間の休止を行った後、放電電流値1350mAh(1.0CmA)、放電終止電圧2.75Vの放電を行い、定電流(CC)モード充電の所要時間t(hr)と放電容量Cの公称容量C0に対する比容量C/C0を求め、t=19.34、C/C0=0.671を得た。得られた値t=19.34を上記に示した関係式(8)、(9)、(10)および(11)に代入して推定比容量Ce/C0を算出し、推定誤差Err=C/C0−Ce/C0=0.671−Ce/C0を求めて容量推定精度を評価した。
【0068】
その結果、放電電流値を0.2CmAとした試験から求めた関係式(9)では、推定比容量72.3%、推定誤差−5.2%であり、放電電流値を2.0CmAとした試験から求めた関係式(10)では推定比容量76.8%、推定誤差−9.7%であり、本発明における関係式を求めるための試験の放電電流値が0.2CmA以上2.0CmA以下の範囲内のこれらの場合には、いずれも良好な推定結果が得られた。これに対して、本発明における関係式を求めるための条件が、上記の放電電流値の範囲からはずれる、放電電流値が0.1CmAの試験で求めた関係式(8)では、推定比容量90.5%、推定誤差−23.4%であり、また同じく上記範囲からはずれる放電電流値が2.2CmAの試験で求めた関係式(11)では、推定比容量45.6%、推定誤差+21.5%であり、いずれも推定誤差が大きく、精度の良いLiイオン電池の容量推定は困難であることが明らかになった。
(実施例4)
円筒型Liイオン電池(18650型、公称容量1350mAh)3本直列の電池パックの充電のため、充電上限電圧12.3V、充電電流値45mA(0.033CmA)、総充電時間3日間とした定電流定電圧(CC−CV)方式で充電し、充電時に該電池パックの劣化判定を行う機能を有する充電器を作製した。
【0069】
作製した充電器の構成概念を図7に示す。すなわち、図7は本実施例において作製した充電器の構成を示した図であり、図中、20は本実施例において作製した本発明の充電器であり、充電器20は商用電源21に端子22、および23で接続される。また、充電器20に対し、Liイオン電池パック24が充電のために端子25および26に接続され装着されるようにした。
【0070】
充電器20は、商用電源20から供給される電気をAC/DCコンバータ27によって直流に変換し、充電電流、パック電圧をモニタし、またサーミスタ28により温度モニタを行いながら、電源マイコン29、充電制御用マイコン30により上述の充電条件と、過充電、過放電、異常大電流、異常電池温度上昇など危険状態を検知し回避をするための制御を行い電池パック24を充電する。充電はスイッチ31により、充電完了時、あるいは異常を検知した時、充電を停止する。充電の完了、何らかの異常は制御用マイコン30から表示部32に表示するようにした。
【0071】
本充電器における劣化判定は、充電制御用マイコン30に、実施例1において作成した関係式(2)と、図8に示したフロー手順をプログラムしてあらかじめ入力しておき、電池電圧のモニタリングを利用しながら内蔵タイマによりCC充電時間tを測定し、上記関係式(2)に適用して、Liイオン電池パックの容量を推定し、その結果に基づいて劣化判定を行い、表示部32に判定結果を表示するようにした。
【0072】
表示部32は、充電関係の表示を行うLED(赤:充電中、緑:充電完了)と、劣化判定結果を表示するしED(赤:電池取りかえ、黄:まもなく電池取りかえ、緑:電池は取りかえ不要)と、劣化判定結果の数値表示、異常の表示を行うLCDとから構成されている。
【0073】
充電関係のLEDでは、充電完了の場合のみ緑のLEDが点灯し、充電中は赤のLEDが点灯し、それ以外の異常を示す場合には両方とも点灯しない。
【0074】
劣化判定結果を示すLEDでは、容量推定結果である推定比容量の値が60%未満の場合は赤のLEDが点灯し、直ちに新しい電池パックに交換すべきであることを示す。また、比容量が60%以上70%未満の場合には、まもなく、すなわち使用条件にもよるが、数カ月以内に電池パックを交換すべきであるため黄のLEDを点灯させる。さらに比容量が70%以上の場合は、電池パックは新品か、相当長期間使用が可能で取りかえる必要がないため、緑のLEDを点灯させる。
【0075】
LCDは文字による情報を表示させることを目的として設置している。電池パックの装着不良をはじめ、安全性に関わる警告情報など、正常に充電を行うことが困難であることを示したり、劣化判定結果を数値で示したりする。また、商用電源の突然の停止の場合には、装着した電池パックの電圧が8.25Vより高い場合のみ、装着電池パックから電流を供給して電源切れを表示するようにしてある。
【0076】
なお、本実施例の充電器の場合、充電は必ずしも完全放電後に行われるとは限らないため、充電制御用マイコン内にあらかじめ充電電圧の時間変化のデータを入力しておき、充電開始時の電池パック電圧をモニタし、8.25V(2.75V/セル)以上11.7V(3.9V/セル、上限電圧4.1V/セルより0.2V/セル低い値)以下の1.15Vきざみの電圧、すなわち
8.25V、9.40V、10.55V、11.70V、
で示される4つの電圧のうち、充電開始電圧より高く、この開始電圧に最も近い値から時間計測を開始し、充電上限電圧12.3Vに到達しCCモード充電が完了するまでの時間t”を計測して、上記入力データと比較演算を行って8.25Vから12.3VまでのCCモード充電所要時間tに換算して劣化判定を行うようにした。
【0077】
図8に示した、充電制御用マイコン30に入力した劣化判定手順フローは以下の通りである。すなわち、
手順A:充電器に電池パックを装着して充電を開始し、パック電圧をモニタし、
パック電圧Vが
V=8.25、9.40V、10.55V、11.70V
を満たす値に到達したかどうかを電圧モニタで監視
手順B:上記のいずれかの値にパック電圧Vが到達したら時間計測を開始し、
タイマカウンタを充電上限電圧12.3Vまで継続する
手順C:パック電圧Vが充電上限電圧12.3Vに到達したら時間計測終了し、充電開始電圧が放電終止電圧8.25Vの場合はそのまま、この時間tを劣化
判定に用いる
手順D:充電開始電圧が8.25Vより高かった場合、計測した時間は、あらかじめ内蔵しておいた充電電圧の時間変化のデータと比較演算して、8.25Vから12.3VまでのCCモード充電所要時間に換算し、この値をtとして劣化判定に用いる。求めた時間tを関係式(2)に代入して、推定比容量Ce/C0を算出する
手順E:算出された結果をLCDとLEDに表示する。推定結果である推定比容量の値に応じて、上述したように赤、黄、緑のいずれかのLEDを点灯させ、同時にLCDに推定比容量の数値を表示する。LCD表示は30秒間、LED
は充電器が商用電源に接続されている間点灯させる。
【0078】
このようにして構成される充電器を用い、使用済みの同タイプの電池パックを装着し、充電した。充電開始後15.7時間で劣化判定結果が表示され、LCDには(推定)比容量62.0%と表示され、黄色のLEDが点灯した。
【0079】
充電された上記電池パックを電池充放電自動試験装置に設置し、放電電流値1350mA(1.0CmA)、放電終止電圧8.25Vに設定して定電流放電を実施し、放電容量を求めたところ、860.0mAhであった。これは、比容量にすると63.7%となり、上記の推定比容量の誤差は約1.7%であった。
【0080】
以上の通り、本発明に係る上記のLiイオン電池の劣化判定装置を用いて、精度の高い劣化判定を行うことが可能であることが明らかになった。
(実施例5)
充電上限電圧12.3V、充電電流45mA(0.033CmA)、総充電時間3日間の条件で定電流定電圧(CC−CV)モード充電を行う機能を有したラップトップコンピュータに搭載する、図3に示す構成のLiイオン電池パックを作製した。上記電池パックは円筒型セル(公称容量1350mAh)12−1、12−2、および12−3の3セル直列のパックであり、保護用ICに関係式(2)と、実施例4で示したのと同様に、充電電圧の時間変化の基礎テータをあらかじめ入力して、放電終止電圧8.25Vより高いパック電圧から充電された場合でも、8.25Vから12.3Vまでの定電流(CC)モード充電所要時間を算出可能とするようにしてある。
【0081】
また、図3に示す構成の上記電池パック内の保護用IC13のメモリには、Liイオン電池12−1、12−2、12−3各セルの両端の電圧をモニタし、CCモード充電における放電終止電圧Vd以上充電上限電圧Vc以下のあらかじめ設定された任意の開始電圧Vsから、該Vsより高い
充電電圧=8.25V、9.40V、10.55V、11.70V
を満たす最も近い充電電圧からCCモード充電が完了する充電上限電圧12.3Vに到達するまでの経過時間tをカウントし、この測定された時間tの値を上記関係式(2)に代入、演算して推定比容量Ce/C0を算出するプログラムがあらかじめ入力してある。
【0082】
演算した結果は端子19を通して上記電池パックを搭載する機器本体の液晶ディスプレイに表示するために装置本体に出力する機構になっている。
【0083】
液晶ディスプレイには、演算結果である数値がパーセントで表示されるとともに、バーの長さのパーセント数値に相当する割合が塗りつぶしで示されるようになっている。
【0084】
劣化判定の指示は、上記機器本体から充電開始と同時に発出される。劣化判定実施のための手順フローは、図8において、結果の表示が機器本体のディスプレイに表示されるために本体に結果を送出する以外は図8と同様である。
【0085】
このような構成になる電池パックを機器に装着し、1時間使用した後、商用電源に接続して充電を開始し、充電開始後に表示されたディスプレイを見たところ、上記電池パックの比容量推定結果は73%と表示された。充電完了のサインがディスプレイ上に現れたのを確認して、この機器をOFFにし、上記電池パックを脱着し、適当な接続コードを用いて、電池充放電自動試験装置に接続し、放電電流1350mA(1.0CmA)、放電終止電圧8.25Vで放電させ容量を測定した。その結果、放電容量は1093.5mAh、比容量にして81.0%であった。
【0086】
従って、本発明になる電池パックに搭載した比容量推定機能による比容量推定結果は誤差−8.0%と優れた推定精度を示すことが明らかになった。
【0087】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の実施によって、Liイオン電池の容量を推定する簡便な方法、Liイオン電池の劣化を判定する簡便な装置、ならびに、電池の容量を推定する機能を備えたLiイオン電池パックを提供することが可能になり、Liイオン電池の管理においてきわめて大きな貢献を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Liイオン電池の一般的な充電方法である定電流定電圧(CC-CV)方式充電における充電電圧(電池電圧)と充電電流値の時間的変化の概念を説明した図である。
【図2】本発明におけるLiイオン電池の容量推定方法を具体的に適用するLiイオン電池搭載装置の一般的な電源部周辺の一構成概念を示した図である。
【図3】本発明における容量推定機能を具備したLiイオン電池パックの一般的な回路構成例を示した図である。
【図4】本発明の実施例1における充放電サイクル試験の結果を示した経過時間tと比容量の関係を示した図である。
【図5】本発明の実施例1における比較例として充電電流値を0.1CmAにして充放電サイクルで求めたCCモード充電の所要時間tと比容量との関係を示した図である。
【図6】本発明の実施例3において実施したCCモード充電の所要時間tと比容量との関係を示した図であり、求めた関係式を示した図である。
【図7】本発明の実施例4において作製した充電器の構成を示した図である。
【図8】本発明の実施例4において実施した劣化判定手順を示したフロー図である。
【符号の説明】
1…電源部、2a、2b、2c…Liイオン電池、3…電池制御部、4…充電器、5…論理部、6…インターフェイス、7…CPU、8…メモリ、9…キーボードコントローラ、10…配線、11…電池パック本体、12-1、12-2、12-3…Liイオン電池、13…保護用IC、14-A、14-B、14-C、14-1、14-2、14-3…FET、15…PTC素子、16…電流ヒューズ、17…プラス端子、18…マイナス端子、19…情報出力、コントロールのための端子、20…充電器、21…商用電源、22、23…商用電源と充電器とを接続する端子、24…Liイオン電池パック、25、26…充電器と電池パックとを接続する端子、27…AC/DCコンバータ、28…サーミスタ、29…電源マイコン、30…充電制御用マイコン、31…スイツチ、32…表示部。
Claims (3)
- リチウムイオン電池の容量推定方法であり、
リチウムイオン電池を定電流定電圧方式によって充電する際に、該リチウムイオン電池の公称容量をC0としたときの充電電流をC0/(20時間)以下とし、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間tを求め、該電池の推定比容量Ce/C0(ここに、Ceはこの電池の推定容量である)を関係式、
Ce/C0=At+B (1)
(ここに、AおよびBは該電池、電圧Vs、電圧Vcおよび該定電流充電中の充電電流によって定まる正値定数である)によって算出するリチウムイオン電池の容量推定方法であって、
容量推定の対象となるリチウムイオン電池と同一種類のリチウムイオン電池を用い、
1回の全充電時間が3日以上30日以下であり、該リチウムイオン電池の公称容量をC 0 としたときの充電電流がC 0 /( 20時間)以下である定電流定電圧方式による充電期間と、放電電流がC 0 /( 5時間)以上C 0 /( 0.5時間)以下であり放電終止電圧がVdである放電期間と、必要に応じて該充電期間と該放電期間との間に設けられる休止期間とを有する充放電サイクルを3回以上繰り返して、
各サイクルにおいて、定電流充電中の充電電圧があらかじめ設定された電圧Vsに達してから充電上限電圧Vcに達するまでの時間t n (ここに、nは各サイクルに付した番号である)と、各サイクルごとに放電電流を時間に関して積分して得られる放電容量C n とを記録し、記録された該時間t n と該放電容量C n とから、上記関係式(1)におけるAおよびBの値を確定することを特徴とするリチウムイオン電池の容量推定方法。 - リチウムイオン電池の劣化判定装置であって、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路と、該推定比容量Ce/C0の値に基づいて該リチウムイオン電池の劣化状態を判定する判定演算回路と、該判定演算回路による判定結果を表示する手段あるいは該判定結果に基づき、必要に応じて、該リチウムイオン電池の劣化を警告する警告音を発する手段とを備えていることを特徴とするリチウムイオン電池の劣化判定装置。 - ICを内蔵した充放電制御手段を備えたリチウムイオン電池パックにおいて、該ICあるいは該ICに付設して増設されたICが、該リチウムイオン電池パック中のリチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0 を請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって推定する際に用いる数値を記憶するメモリと、該数値が該メモリに記憶された場合に、請求項1に記載のリチウムイオン電池の容量推定方法によって該リチウムイオン電池の推定比容量Ce/C0を算出する演算回路と、該演算回路が算出した該推定比容量Ce/C0算出結果を出力する手段とを有していることを特徴とするリチウムイオン電池パック。
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