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JP3563140B2 - キャピラリーアレイ電気泳動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電気泳動装置に関し、特に蛍光標識DNAの分離分析に好適なキャピラリーアレイ電気泳動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNA塩基配列決定ニーズの高まりと共に、高速・高スループットDNAシーケンサー及びDNA分析装置の開発が望まれている。従来、DNAシーケンシングあるいはDNA分析には、平板状のゲルを分離媒体に用いて蛍光検出する電気泳動装置が用いられていた。しかし、平板状のゲルを用いたのでは高速化、高スループット化に限界があり、ゲルを充填したキャピラリーを多数本並べて計測するキャピラリーアレイ方式の電気泳動装置が提案されている(Nature 359, 167−168, 1992, Nature 361, 565−566, 1993)。
【0003】
前記キャピラリーアレイ方式の電気泳動装置では、計測部のキャピラリーアレイは一直線上に並べられ、光照射を受ける。蛍光標識DNAから発せられた蛍光は、光電子増倍管を具備した検出器をキャピラリーアレイに対して相対的にスキャンしたり、ラインセンサーあるいはエリアセンサーと結像レンズを用いて一直線上に並んだ点状蛍光像を検出器上に結像することによって検出している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
キャピラリーアレイ中のキャピラリーの数は全体のスループットに大きな影響を与えるため、アレイ中のキャピラリー数を増加してスループットの向上を図ることが考えられるが、取り扱い等の実用面からすると50〜100本が限界である。
検出器あるいはキャピラリーをスキャンする方式では、キャピラリーからの背景蛍光を除去するため共焦点蛍光検出器を使用している。このため、スキャン時の検出器と被計測部の間隔を高精度に保つ必要があり、スキャンスピードを速くしにくい難点があり、一度に測定できるキャピラリー数は50本程度と見積もられる。
【0005】
一方、蛍光ライン像をレンズでラインセンサー等の検出器上に結像させる方式では、並んだキャピラリーから溶出する試料をレーザで同時に照射するので前述の方式と異なりスキャンスピードの問題はなくなる。しかし、被計測部の長さがキャピラリー数に比例して長くなると、検出器上に縮小像を結像させる必要があるため、受光量が減少する難点がある。通常、検出器の長さは16mm〜24mmであり、キャピラリー径は0.2mm程度、キャピラリーの中心間隔は0.4mm程度である。受光量を考えると像倍率は1/2程度が限度であり、この時使用できるキャピラリー数は80〜120本である。
本発明は、より多くのキャピラリーを用いて計測できるキャピラリーアレイ電気泳動装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、計測部のキャピラリーの端部を2次元的に配置し、試料を各キャピラリーの端から2次元平面内に溶出させ、光照射し、2次元蛍光画像をエリアセンサーで受光することにより達成される。
すなわち、本発明によるキャピラリーアレイ電気泳動装置は、複数のキャピラリー電気泳動路を有し、その複数のキャピラリー電気泳動路は末端が2次元的に配列され、各キャピラリー電気泳動路で分離された試料に励起光を照射し、発せられた蛍光を2次元検出器で同時に検出することを特徴とする。
【0007】
キャピラリー電気泳動路にはゲル状物質を満たすことができ、励起光はキャピラリーからバッファー液流中に溶出した試料に照射するのが好適である。
複数のキャピラリーの端部を略同一平面上に位置させ、前記平面と平行に励起光を照射する手段、及び前記平面と垂直な方向から2次元蛍光像を結像して検出する手段を備えると好都合である。
【0008】
試料の蛍光検出は、複数のキャピラリーの端部が形成する平面と対向しておかれた光学窓との間にバッファー液流を形成し、そのバッファー液中に溶出した試料を蛍光検出してもよいし、複数のキャピラリーの軸方向にバッファー液を流出せしめてキャピラリーの延長軸方向に流れる層流を形成し、その層流中に励起光を照射して試料を蛍光検出してもよい。その際、複数のキャピラリーの端部が形成する平面とほぼ平行な平面を通過する試料に対して励起光を照射するのが好都合である。
【0009】
より具体的には、本発明によるキャピラリーアレイ電気泳動装置は、バッファー液入口及びバッファー液出口、バッファー液に接する光学窓、及び複数本のキャピラリーの一方の端部を先端を揃えて支持体上に所定間隔で配置して固定したキャピラリーアレイシートを備える計測セルと、励起光照射光学系と、蛍光検出光学系とを含み、キャピラリーアレイシートはキャピラリー先端を光学窓に対向させて複数枚積層され、キャピラリー先端と光学窓の間の空間にキャピラリーアレイシートの積層方向にバッファー液を流し、励起光照射光学系はキャピラリーアレイからバッファー液中に溶出される試料の流れと交差するように各キャピラリーアレイシートのキャピラリー配列方向に励起光を照射し、蛍光検出光学系は試料から発せられた蛍光を計測セルの光学窓を介して2次元検出器で検出することを特徴とする。前記支持体の光学窓と対向する端部は、キャピラリーが配置された面と反対側の面の角を面取り加工するのが好適である。
【0010】
また、本発明によるキャピラリーアレイ電気泳動装置は、バッファー液入口及びバッファー液出口、バッファー液に接する光学窓、及び複数本のキャピラリーの一方の端部を先端を揃えて所定間隔で配置し上部支持体と下部支持体で挟持したキャピラリーアレイシートを備える計測セルと、励起光照射光学系と、蛍光検出光学系とを含み、キャピラリーアレイシートはキャピラリー先端を光学窓に対向させて複数枚積層され、キャピラリーアレイシートの上部支持体及び下部支持体は平坦な端面と該端面から突出する縁部を有すると共に前記端面に開口するバッファー液流路を有し、支持体の縁部は光学窓と接触して各キャピラリーアレイシート毎に隔離した空間を形成し、励起光照射光学系は各キャピラリーアレイシート毎に隔離した空間に励起光を照射し、蛍光検出光学系は試料から発せられた蛍光を計測セルの光学窓を介して2次元検出器で検出することを特徴とする。計測セルのバッファー液入口に連通する上部支持体のバッファー液流路の前記端面における開口部は、隣接するキャピラリー端部のほぼ中間線上に位置するのが好適である。
【0011】
また、本発明によるキャピラリーアレイ電気泳動装置は、バッファー液入口及びバッファー液出口、バッファー液入口とバッファー液出口の間に配置された複数の平行なスリットを有する隔壁部材、隔壁部材に対して略平行に所定の間隔をおいて配置されたバッファー液が接する光学窓、及び複数本のキャピラリーの一方の端部を先端を揃えて支持体上に所定間隔で配置して固定したキャピラリーアレイシートを備える計測セルと、励起光照射光学系と、蛍光検出光学系とを含み、キャピラリーアレイシートはキャピラリー先端を隔壁部材のスリットに挿入して複数枚積層され、バッファー液はバッファー液入口から隔壁部材のスリットを通ってキャピラリー軸方向に流れ次いで隔壁と光学窓の間の空間を通ってバッファー液出口から排出され、励起光照射光学系は隔壁部材のスリット方向に沿って励起光を照射し、蛍光検出光学系は試料から発せられた蛍光を計測セルの光学窓を介して2次元検出器で検出することを特徴とする。
【0012】
励起光は隔壁部材のスリット中を通過させることができる。また、キャピラリーアレイシートは、表面にバッファー液を流通させる溝を有する上部支持体と下部支持体によって挟持し、上部支持体及び下部支持体の先端部分を隔壁のスリットに挿入することができる。バッファー液を流通させる溝はキャピラリーシートの支持体に形成せずに、隔壁の支持体挿入面に形成してもよい。
【0013】
【作用】
キャピラリーアレイの端部を1次元でなく2次元的に配列させることにより、蛍光画像の一辺の長さを大幅に縮小することができる。たとえば中心間隔を0.4mmとして200本のキャピラリーを並べると全体の長さは80mmとなるが、同じ200本のキャピラリーでも1mmの中心間隔で4段重ねにすると4mm×20mm、8段重ねにすると8mm×10mmと小さな像になり、像を縮小せずに大きな受光量で検出することができる。
【0014】
また、キャピラリーを2次元配列したことにより、1つのキャピラリーアレイシート中のキャピラリー数を減らすことができ、取り扱いが容易になる。支持体上に固定したキャピラリーアレイシートを用い、それを複数積層して2次元のキャピラリーアレイを形成することにより、キャピラリーの取り扱いが更に容易になるとともに、キャピラリーの位置精度を上げることができるため、励起光照射を効率的に行うことができる。
【0015】
キャピラリーから溶出した試料をバッファー液の流れに乗せて運ぶことにより、キャピラリーを2次元的に配列したにもかかわらず複数のキャピラリーから溶出する試料を相互の干渉なく測定することができる。バッファー液の流れをキャピラリーの軸方向として各キャピラリーから溶出した試料が混合する前の位置で励起光を照射することにより、あるいはバッファー液を各キャピラリーアレイシート毎に隔離した空間に流して励起光を照射することにより、複数のキャピラリーから溶出する試料同士の干渉を完全に防止することができる。バッファー液をキャピラリーの軸と直交する方向に流す場合にも、キャピラリーアレイシート間の間隔を広めに設定することにより、あるいは隣接するキャピラリーアレイシートの間にバッファー液が滞留する領域を設けて試料の拡散・希釈を促進することによりキャピラリーから溶出した試料同士の干渉を回避することができる。
【0016】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、多数本のキャピラリーを並べてシート状に保持したキャピラリーアレイシート1を示す。キャピラリーは石英製で、内径0.1mm、外径0.2mmのものを使用した。キャピラリーの長さは30cmであり、内部にポリアクリルアミドゲル(5%T、4%C)を詰めてある。キャピラリー内部のゲル組成は、用途により種々変更可能である。キャピラリーの右端側は24本ずつ厚さ1.5mmのステンレス板からなるキャピラリーホルダー2に先端を揃えて保持し、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート製キャピラリーアレイカバー3を載せて接着固定してある。また、キャピラリーホルダー2先端部のキャピラリー保持面と反対側の面の角は、図示のように面取り加工してある。
【0017】
図2は、図1に示したキャピラリーアレイシートを複数枚重ねて2次元アレイとしたキャピラリーアレイ電気泳動装置の概略図である。キャピラリーホルダー2に保持されたキャピラリーアレイシート1は、計測セル17内に3〜5mm間隔で4段の階層状に重ねられ、キャピラリー先端と受光用石英窓6の間の間隔が約0.2mm〜0.3mmとなるようにして固定される。計測セル17の上部にはバッファー液入口4が設けられており、このバッファー液入口から注入されたバッファー液は線速度0.1mm〜0.5mm/秒程度の流速でキャピラリーシートの先端部と受光用石英窓6の間の空間を図中上から下へ流れ、計測セルの下部に設けられたバッファー液出口5から流出する。バッファー液流路中には電極14が設けられている。
【0018】
多種蛍光体でそれぞれ修飾されたDNA試料は、96穴のタイタープレート7の各試料ウエル15に保持され、キャピラリーアレイの各キャピラリーに電界注入される。電界注入は、図2の円内に拡大して示すように、キャピラリーアレイの試料注入端をタイタープレート7の各ウエル15に入れ、ウエル15の底部に設けられた電極13と計測セル17に設けられた電極14を介して、試料16とキャピラリーの他端の間に8kVの電圧を約5秒間加えることによって行う。試料側の電極13は、試料ウエル15の底部に固定せず、キャピラリーの試料注入端と共にタイタープレートの上方から試料ウエル15中に挿入するようにしてもよい。
【0019】
試料注入後は、キャピラリーの試料注入端をタイタープレートから取り出して図示しないバッファー液に浸し、そのバッファー液中に浸漬した電極と計測セル17の電極14の間に100V/cm〜200V/cmの電界強度となるように5kV程度の電圧を印加する。DNA試料はキャピラリー中を図の左から右へ泳動し、長さに応じて分離されたDNA断片はキャピラリー右端から計測セル17のバッファー液中に溶出し、バッファー液流に乗って下方に移動する。
【0020】
キャピラリーホルダー2と石英窓6の間のバッファー液流路には、図3に示すように、液流に対して直角方向(図2では、紙面と交差する方向)からレーザ光が照射されている。発光波長の異なる2個のレーザ光源21,22から出た光は、光反射部と光透過部を交互に有する回転チョッパー23によって同一光路上に交互に通される。レーザ光は計測セル17の側部に設けられた光透過窓26,27を透過し、金蒸着ミラーあるいはプリズム等の光路変更部材24によって折り返されて各キャピラリーアレイ1の下流側0.5〜1mmのところを通過し、最後は光トラップ25によって吸収される。
【0021】
各キャピラリーアレイ1の下流側を通過するレーザ光は、図2に×印で示す励起光照射位置12において蛍光体で標識されたDNAを励起し、蛍光を発生させる。標識蛍光体から発生した蛍光はレンズ8で集光され、励起光除去フィルター29を通り、ダイクロイックミラー9で波長分離された後、レンズ10a,10bによって2次元検出器11a,11b上に結像され、計測される。
【0022】
キャピラリーアレイから溶出したDNA断片はバッファー液流にのって他のキャピラリーアレイの端部の前方を通過することになるが、隣接するキャピラリーアレイの位置に到達するまでにバッファー液中で拡散して十分に希釈されるため、隣接するキャピラリーアレイから溶出するDNA断片の検出を妨害することはない。キャピラリーホルダー2の面取り部に滞留しているバッファー液は、この溶出DNA断片の拡散希釈を助ける作用をする。
【0023】
DNAシーケンシングでは3’末端塩基種が、A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)に応じて4種の異なる蛍光体でDNA断片を標識し、波長分離して計測する。波長選別検出法には種々あるが、ここでは波長488nmのArレーザと波長594nmのHe−Neレーザの2本のレーザ光を交互に照射するのと、図4に示す透過波長特性を有するダイクロイックミラー9及び2個の2次元検出器11a,11bを用いる方法によった。標識蛍光体にはFITC(fluorecein isothiocyanate 、発光波長約520nm)、JOE(商品名、発光波長約545nm)、Sulforhodamine101(発光波長約615nm)及びCy−5(商品名、発光波長約667nm)を用いた。以下、上記蛍光体を発光波長の短波長側からF1,F2,F3,F4と呼ぶことにする。
【0024】
蛍光体F1及びF2はArレーザで効率良く励起でき、蛍光体F3及びF4はHe−Neレーザで励起される。一方、ダイクロイックミラー9はF2及びF3からの蛍光を透過し、F1及びF4からでる光を主として反射する。従って、Arレーザ照射時には、検出器11bにはF1からの光が、検出器11aにはF2からの光が入る。一方、He−Neレーザ照射時には、検出器11bにはF4からの光が、検出器11aにはF3からの光が入る。受光光路上に配置された励起光除去フィルター29は、波長488nmの光線を除去して長波長側の光線を透過する色ガラスフィルターとHe−Neレーザ光を遮断するノッチ型フィルターとすることができる。こうして、キャピラリーアレイの各キャピラリーから溶出するDNA断片を分離して検出することができる。
【0025】
レーザ光源としては発光ダイオードアレイ、面発光型半導体レーザアレイ等を用いることもできる。この場合には、反射ミラー等で光路を折り曲げる必要がない。また、高強度レーザ光源を使用する場合には、レーザ光を複数個のビームスプリッタで順次分割して複数本の平行レーザ光として用いてもよい。
なお、励起光照射方法及び蛍光検出方法は、ここで説明した方法に限らず既知の任意の方法を採用できるのはもちろんである。
【0026】
〔実施例2〕
キャピラリーアレイシートの他の例を図5及び図6に示す。本実施例のキャピラリーアレイシート30は、図5に全体図を示すように、ステンレス製の厚さ2mmの2枚のキャピラリーホルダー31,32の間に内径0.1mm、外径0.2mmのキャピラリーを0.4mmピッチで40本並べて保持したものである。また、図6に、その先端部を拡大して示すように、ホルダー31,32の端面は突出縁部34,35を有し、2つの突出縁部34,35に挟まれた溝状部分にキャピラリーアレイ30の先端部分が露出している。上下のホルダー31,32には、バッファー液流路となる直径0.2mmの孔36,37の列が前記溝状部分に開口するように設けられている。上部ホルダー31に設けられた流路36は全てホルダー内部でキャピラリーアレイの配列方向に形成された1本のバッファー液流入孔38に連通しており、下部ホルダー32に設けられた流路37は同様にキャピラリーアレイの配列方向に形成された1本のバッファー液流出孔39に連通している。
【0027】
図7に示すように、本実施例のキャピラリーアレイシート30は、端面の突出縁部34,35を石英製の光学窓6に密着させて計測セル中に複数枚積層して配置される。多種蛍光体でそれぞれ修飾されたDNA断片試料はキャピラリーアレイの試料注入端に電界注入され、そののち試料注入端を浸したバッファー液中に配置される電極とシースフロー用バッファー槽中に配置した電極との間に電圧を印加することによってキャピラリー中を泳動する。キャピラリーアレイ先端から溶出したDNA断片は、上部ホルダー31に設けられたバッファー液流入孔38から導入されてバッファー液流路36から流れ出るバッファー液の流れにのって移動し、その途中で図3に示したのと同様の励起光照射光学系によってホルダー端部の溝状部分を走るレーザビームの照射を受けて蛍光を発する。発生された蛍光は、光学窓6から計測セル外に取り出され、前記実施例1と同様の蛍光検出光学系で計測される。蛍光測定後の試料は、下部ホルダー32に設けられたバッファー液流路37を通してバッファー液流出孔39から計測セル外に排出される。
【0028】
キャピラリーアレイシート30中の各キャピラリー先端と、上部ホルダー31に形成されるバッファー液流路36及び下部ホルダー32に形成されるバッファー液流路37の位置関係は、図8に示すように、バッファー液流路36の流出口を隣接する2本のキャピラリーの間に位置させ、バッファー液流路37の流入口は各キャピラリーの位置と整列させて配置するのが有利である。この様な配置にすると、バッファー液は孔36から広がるようにして流れ出るため、キャピラリーから溶出する試料はそのキャピラリーの両側から広がってくるバッファー液の流れに閉じこめられて拡散が抑制され、高濃度を保ったまま励起光照射位置に到達することができる。
【0029】
ただし、図8のような配置とすることは有利ではあるが必ずしも必要ではなく、バッファー液流路36,37は、各キャピラリーの位置に整列させて配置してもよいし、各キャピラリーの位置と整列させることなくランダムに配置しても、あるいは上部ホルダー31の全ての流路36の流出口あるいは下部ホルダー32の全ての流路37の流入口を連絡させてスリット状の流入口あるいはスリット状の流出口とすることもできる。
【0030】
また、キャピラリーアレイシート30の端面の突出縁部34,35は、両方設けず一方のみを設けるようにしてもよい。
本実施例によると、1つのキャピラリーアレイシートから溶出する試料が他のキャピラリーアレイシートによる検出に影響を与える可能性を完全に排除して、複数枚のキャピラリーアレイシートから溶出するDNAを同時に計測することができる。
【0031】
〔実施例3〕
次に、試料溶出側のキャピラリー軸方向にバッファー液によるシースフローを形成させた実施例について説明する。図9は、本実施例による2次元キャピラリーアレイ電気泳動計測装置の概略断面図、図10はキャピラリー右端付近の詳細図である。
【0032】
外径0.2mm、内径0.1mmのキャピラリーを0.4mmピッチで40本並べて1mm厚のステンレス製キャピラリーホルダー41上に保持したキャピラリーシート40を計測用セル17中に挿入する。本実施例では8枚のキャピラリーシートを0.5mm離して重ねて用いた。シートのピッチは1.5mmとした。すなわち、16mm×12mmの領域に320本のキャピラリーを収納している。シートピッチは0.5mmにすることもでき、その場合には960本のキャピラリーを収納することとなる。
【0033】
キャピラリー先端部はキャピラリーホルダー41の端部から5mm突出させ、キャピラリーアレイカバーを載せて接着固定してある。シート状になったキャピラリーアレイは、ステンレス製の固定板43に設けられたスリットに挿入される。スリットは幅0.2mm、長さ16mmで、キャピラリーアレイが挿入しやすいようにキャピラリーアレイ側の開口部は三角溝状に広げられている。
【0034】
キャピラリー端から1mm離れた位置に厚さ0.3mmの石英製の中板44が設置されている。この中板44にはキャピラリーの延長線との交点に直径0.2mmの細孔あるいはスリット45が設けられている。更に、この板の外側2mmの位置に厚さ1mmの石英製の光学窓6が設けられている。キャピラリーシートの厚さはキャピラリーアレイカバーを含めて約1.3mmで、シート間の0.2mmの間隔からシース液が流れる。バッファー液入口4から計測セル17中に流入したバッファ液は、中板44に設けられた細孔45からバッファー液排出路47に流出し、バッファ液出口5から計測セル外に排出される。中板44は、各キャピラリーを軸にシースフローを形成する流路形成の役を果たす。
【0035】
シースフローをスムーズにするため各シート40間のキャピラリー端側にシートを区画する石英板48を設けてある。シート区画用石英板48には、各キャピラリーアレイシートに対応した位置にスリット49が設けられている。このシート区画用石英板48と前記固定板43は、単一の石英板から一体化して作製してもよい。
【0036】
励起光照射光源にはレーザを用い、計測セルの側方からシート区画用石英板48に設けられたスリット49内にレーザ光を通した。このとき、図3と同様の光学系によって、1つのキャピラリーシート照射毎にレーザを折り返し、図10に黒丸で示す全てのキャピラリーアレイシート40の溶出端前方0.5〜1mmの位置12を同時に照射した。図11に示すように、光源には発光ダイオードアレイ50や面発光型半導体レーザアレイなどを用いてもよい。
【0037】
励起光照射によって2次元マトリックス状に配列した点状蛍光像が得られるが、前記実施例と同様に光学窓6を通して2個の2次元検出器で検出した。なお、キャピラリーアレイシートの間隔(本実施例では1.5mm)を大きくし、図12に示したような像分割プリズム60で結像位置のズレた2つの2次元点状蛍光像を形成して1個の2次元検出器で受光してもよい。光路上には適当な透過波長帯域を有するフィルター61,62を配置する。
計測セル17は、全体を90°回転させて、石英窓20を下方に向けた配置としても良い。その場合には、計測セル17からキャピラリーシートが出る部分のシールの負担を軽減することができる。
【0038】
上記実施例では、キャピラリーアレイの先端をキャピラリーホルダーから突出させたが、図13に示すように、キャピラリーアレイ70の先端を2枚の面取りしたキャピラリーホルダー71,72で挟む構成とすることもできる。図14に示すように、このキャピラリーアレイシートは固定板43に設けた溝にホルダーの面取りした先端部分を挿入して固定する。このような構造とすると、キャピラリーアレイの先端部分が突出していないため、取扱中にキャピラリーが損傷する危険が少なく、装置組立も簡単になる。バッファー液は、ホルダー表面に設けた溝73,74を通り、固定板43に設けられたスリット76に流入する。なお、ホルダー71,72の表面に溝73,74を設ける代わりに固定板43のホルダー先端挿入溝の表面に細かい溝を設け、その溝を通してバッファー液をスリット76に流通させるようにしてもよい。
【0039】
〔実施例4〕
本発明による2次元キャピラリーアレイ電気泳動計測装置は、単に多数キャピラリーをアレイ化してスループットを上げるだけに留まらない。生体切片にm−RNA等とハイブリダイズする蛍光標識DNAプローブを作用させ、相補配列を持つm−RNAの組織中での分布を見ることは重要である。この場合、従来はもっぱら蛍光顕微鏡が用いられているが、多数のDNAプローブを同時に検出できない。精々蛍光体の色を変化させて数種を観測するだけである。DNAプローブの長さを変えてこれを識別できれば非常に多くのDNAプローブを同時に計測できる。本発明はこのような用途にも有効に活用できる。
【0040】
図15はこの様子を示したものである。前例と異なりキャピラリーアレイ80は垂直に保持されている。内径0.1mm、外径0.2mのキャピラリーの上部は最も緻密に配置されている。キャピラリー下部は相似形に配置されているが、間隔は2倍となっている。これは各キャピラリーからの蛍光信号を区別して計測するためである。キャピラリー上部端面に接してDNAプローブがハイブリダイズした組織切片81をおき、昇温して遊離してくるDNAプローブをキャピラリーアレイ80に電界注入する。電界注入は、組織切片81の上にバッファ液を含浸した濾紙を載せ、その上に電極を重ね、その電極とキャピラリー下端を浸したバッファー液中に設置した電極の間に電圧を印加することによって行う。
【0041】
DNAプローブは組織内でハイブリダイズしていた位置に近いキャピラリー内に注入され、ゲル電気泳動により分離される。DNAプローブは種類に応じてその長さを変化させてあり、泳動時間からその種類を特定でき、二次元蛍光像の位置から組織内でハイブリダイズしていた場所が分かる。計測セル、励起光照射光学系及び蛍光検出光学系には前記実施例で説明したものをいずれも使用することができる。
本実施例によると、2次元的に分布した被計測対象についてその2次元分布情報を保持したまま計測できる。これは2次元状にプローブを配置したオリゴチップ上に捕獲されたDNAの分布測定その他にも応用可能である。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、非常に多くのキャピラリーをアレイ化して電気泳動路を形成し、感度を損なうことなく多数の蛍光標識DNA試料などの分析を行うことができる。すなわち、キャピラリーアレイの配列を2次元的にすることにより、非常に多くの点状蛍光像を像縮小などによる感度低下なく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】キャピラリーアレイシートの一例の斜視図。
【図2】2次元キャピラリーアレイ電気泳動計測装置の説明図。
【図3】蛍光励起光照射光学系の一例の説明図。
【図4】蛍光体及びダイクロイックミラーの発光強度及び透過率特性図。
【図5】キャピラリーアレイシートの他の例の斜視図。
【図6】図5に示したキャピラリーアレイシートの詳細説明図。
【図7】図5に示したキャピラリーアレイシートを用いた計測セルの部分拡大図。
【図8】バッファー液の流れを説明する図。
【図9】2次元キャピラリーアレイ電気泳動計測装置の他の実施例の説明図。
【図10】図9の部分拡大図。
【図11】発光ダイオードアレイを用いた蛍光励起光照射光学系の説明図。
【図12】像分割プリズムを用いた蛍光検出光学系の説明図。
【図13】キャピラリーアレイシートの他の例の説明図。
【図14】図13に示したキャピラリーアレイシートを用いた計測セルの部分拡大図。
【図15】組織切片から直接DNA等をキャピラリーに注入し計測する装置の説明図。
【符号の説明】
1…キャピラリーアレイシート、2…キャピラリーホルダー、3…キャピラリーアレイカバー、4…バッファ液入口、5…バッファ液出口、6…光学窓、7…タイタープレート、8…レンズ、9…ダイクロイックミラー、10a,10b…レンズ、11a,11b…2次元検出器、12…レーザ照射位置、13…電極、14…電極、15…ウェル、16…DNA試料、17…計測セル、21,22…レーザ光源、23…回転チョッパー、24…光路変更部材、25…光トラップ、26,27…光透過窓、29…励起光除去フィルター、30…キャピラリーアレイシート、31,32…ホルダー、34,35…突出縁部、36,37…バッファー液流路、38…バッファー液流入孔、39…バッファー液流出孔、40…キャピラリーアレイシート、43…固定板、44…中板、45…細孔、47…バッファー液排出路、48…シート区画用石英板、49…スリット、50…発光ダイオードアレイ、70…キャピラリーアレイ、73,74…溝、76…スリット、60…像分割プリズム、61,62…光学フィルタ、80…キャピラリーアレイ、81…組織切片

Claims (13)

  1. 複数のキャピラリーの一方の端部が所定の間隔で支持体に固定された複数のキャピラリーアレイシートと、前記複数のキャピラリーアレイシートが重ねられ、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーの一方の端部の外部で試料に照射する励起光を発する光源と、前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、前記各キャピラリーの一方の端部は同一の平面にあり、前記励起光は前記平面に平行に照射され、前記試料は、前記各キャピラリーの一方の端部からバッファー液の流れに溶出し、前記励起光は前記バッファー液中で前記試料を照射し、前記2次元検出器は前記平面に垂直な方向から前記蛍光を検出することを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  2. 複数のキャピラリーの一方の端部が所定の間隔で支持体に固定された複数のキャピラリーアレイシートと、前記複数のキャピラリーアレイシートが重ねられ、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーの一方の端部の外部で試料に照射する励起光を発する光源と、前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、前記試料は、前記各キャピラリーの一方の端部からバッファー液の流れに溶出し、前記励起光は前記バッファー液中で前記試料を照射するものであり、前記バッファー液の流れは、前記各キャピラリーの一方の端部が形成する平面と、前記平面に対向する平板との間に形成され、前記バッファー液は、前記各キャピラリーの一方の端部から前記平板に設けられた細孔又はスリットに流れ、前記試料は前記バッファー液に溶出することを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  3. バッファー液の入口、前記バッファー液の出口、及び前記バッファー液に接する光学窓を備えるセルと、複数のキャピラリーの一方の端部が所定の間隔で支持体に固定された複数のキャピラリーアレイシートとを具備し、前記複数のキャピラリーアレイシートは、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーの一方の端部が前記光学窓に対向するように重ねられ、前記バッファー液は、前記各キャピラリーの一方の端部と前記光学窓との間の空間を流れることを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  4. バッファー液を含み前記バッファー液に接する光学窓を備えるセルと、複数のキャピラリーの一方の端部が所定の間隔で上部ホルダと下部ホルダの間に固定された複数のキャピラリーアレイシートとを具備し、前記複数のキャピラリーアレイシートは、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーの一方の端部が前記光学窓に対向するように重ねられ、前記各キャピラリーアレイシートの前記上部ホルダ及び前記下部ホルダの少なくとも一方の端部は突出縁部を有し、前記上部ホルダと前記下部ホルダの間で前記各キャピラリーの一方の端部が露出し、前記上部ホルダ及び前記下部ホルダの端部に前記バッファー液が流れる開口を具備し、前記突出縁部は前記光学窓に密着することを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  5. 請求項に記載のキャピラリーアレイ電気泳動装置において、前記上部ホルダの端面に形成される前記開口は、隣接する前記キャピラリーの一方の端部の露出部の間に位置することを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  6. バッファー液の入口、前記バッファー液の出口、前記入口と前記出口の間に配置され複数の平行なスリットをもつ区画用板、及び前記区画用板に平行に配置され前記バッファー液に接する光学窓を備えるセルと、複数のキャピラリーの一方の端部が所定の間隔で支持体に固定された複数のキャピラリーアレイシートとを具備し、前記複数のキャピラリーアレイシートは前記区画用板により区画されて配置され、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーの一方の端部は前記区画用板の前記スリットに対応して位置し、前記バッファー液は、前記入口から前記セルに流入し、前記区画用板の前記スリットを通って前記出口から排出されることを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  7. 請求項に記載のキャピラリーアレイ電気泳動装置において、前記各キャピラリーの一方の端部は前記支持体から突出し、突出した端部が挿入される固定板を有することを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  8. 請求項に記載のキャピラリーアレイ電気泳動装置において、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーは、先端が面取りされ溝を備えた上部及び下部ホルダに挟んで固定され、スリットと、面取りされた前記先端が挿入されるホルダ先端挿入溝とが形成される固定板を有し、前記バッファー液は、前記入口から前記セルに流入し、前記上部及び下部ホルダの前記溝、前記固定板のスリット、及び前記区画用板の前記スリットを通って前記出口から排出されることを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  9. 請求項に記載のキャピラリーアレイ電気泳動装置において、前記各キャピラリーアレイシートの前記各キャピラリーは、先端が面取りされた上部及び下部ホルダに挟んで固定され、スリットと、面取りされた前記先端が挿入されるホルダ先端挿入溝とが形成される固定板を有し、前記バッファー液は、前記入口から前記セルに流入し、前記ホルダ先端挿入溝の表面に形成された溝、前記固定板のスリット、及び前記区画用板の前記スリットを通って前記出口から排出されることを特徴とするキャピラリーアレイ電気泳動装置。
  10. 試料が内部で流れ、一方の端部が2次元に配列された複数のキャピラリーと、
    前記試料に照射する励起光を発するための光源と、
    前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、
    前記キャピラリーの一方の端部と前記2次元検出器との間に窓状部材が位置し、
    前記複数のキャピラリーの前記一方の端部は一の2次元平面にあり、
    前記キャピラリーの一方の端部と前記窓状部材との間にバッファー液流路を有し、前記バッファー液流路の中に電極を設置し、
    前記2次元検出器は前記2次元平面に垂直な方向から前記蛍光を検出することを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。
  11. 試料が内部で流れる複数のキャピラリーと、
    前記試料に照射する励起光を発するための光源と、
    前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、
    前記キャピラリーの一方の端部と前記2次元検出器との間に窓状部材が位置し、
    前記キャピラリーの一方の端部と前記窓状部材との間にバッファー液流路を有し、前記バッファー液流路の中に電極を設置し、
    前記2次元検出器はキャピラリーの延長軸方向から前記蛍光を検出することを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。
  12. 試料が内部で流れ、一方の端部が2次元に配列された複数のキャピラリーと、
    前記試料に照射する励起光を発するための光源と、
    前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、
    前記複数のキャピラリーの前記一方の端部は一の2次元平面にあり、
    前記キャピラリーの一方の端部が接するバッファー液を設置し、前記バッファー液は、前記励起光が照射される位置で、前記キャピラリーの延長軸方向に流動し、前記励起光は、前記キャピラリーから前記バッファー液へ溶出された前記試料に照射され、
    前記2次元検出器は前記2次元平面に垂直な方向から前記蛍光を検出することを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。
  13. 試料が内部で流れる複数のキャピラリーと、
    前記試料に照射する励起光を発するための光源と、
    前記試料から発する蛍光を検出する2次元検出器とを有し、
    前記キャピラリーの一方の端部が接するバッファー液を設置し、前記バッファー液は、前記励起光が照射される位置で、前記キャピラリーの延長軸方向に流動し、前記励起光は、前記キャピラリーから前記バッファー液へ溶出された前記試料に照射され、
    前記2次元検出器はキャピラリーの延長軸方向から前記蛍光を検出するとを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。
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