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JP2021091898A - ポリアミド樹脂組成物およびそれを含む成形品 - Google Patents

ポリアミド樹脂組成物およびそれを含む成形品 Download PDF

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JP2021091898A
JP2021091898A JP2020203112A JP2020203112A JP2021091898A JP 2021091898 A JP2021091898 A JP 2021091898A JP 2020203112 A JP2020203112 A JP 2020203112A JP 2020203112 A JP2020203112 A JP 2020203112A JP 2021091898 A JP2021091898 A JP 2021091898A
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mol
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健 小宮
Takeshi Komiya
健 小宮
玉井 晃義
Akiyoshi Tamai
晃義 玉井
梅津 秀之
Hideyuki Umezu
秀之 梅津
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Abstract

【課題】成形サイクル性を向上させ、得られる成形品の靱性も向上させることのできるポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
下記成分(A)、および成分(B)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、下記式(1)で表されるΔηが1.0以上5.0以下であり、かつ、融点+20℃における貯蔵弾性率G’が200Pa以上1000Pa以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
成分(A):ポリアミド樹脂
成分(B):酸無水物由来の構造単位を有する樹脂
式(1) Δη = η / η
(η :前記成分(A)の融点+20℃における複素粘度、η :前記ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃における複素粘度)
【選択図】なし

Description

本発明は、成形性に優れるポリアミド樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、成形サイクル時間を大幅に短縮して成形可能であり、かつ、得られた成形品が靭性に優れるポリアミド樹脂組成物に関するものである。
ポリアミド樹脂は、機械的特性や耐熱性に優れているため、自動車や電気製品などの部品として幅広く利用されている。近年、ポリアミド樹脂をはじめ、エンジニアリングプラスチックでは高生産性の要求が強まり、より短時間でより多くの成形品を得ることができる高成形サイクル性の材料が望まれている。
ポリアミド樹脂の射出成形において、1サイクルの時間を短縮する方法として、タルク、カオリンなどの結晶核剤を添加して金型内での結晶化(固化)を促進する方法(特許文献1)や、有機系離型剤を添加する方法(特許文献2、3)などが提案されている。
また、ポリアミド樹脂は水素結合に由来した優れた機械特性を有することから、耐衝撃性が必要とされる部材に多く用いられている。成形品の靱性を向上させる方法としては、一般的にはエラストマーを添加する方法(特許文献4)や耐衝撃改良剤や架橋剤を添加する方法(特許文献5)などが知られている。
特開平7−41669号公報 特開昭61-188457号公報特表 特開昭61-188458号公報特表 特開2007−297581号公報特表 特願2012−507028号公報特表
しかしながら、特許文献1のようにタルク、カオリンなどの結晶核剤を添加してしまうと得られる成形品の靱性が低下してしまうことが知られており、ポリアミド樹脂の特色が損なわれてしまうという課題があった。また、特許文献2,3のような有機系離型剤の添加では、結晶核剤ほどの成形性向上効果はなく、また、添加することで得られる成形品の物性が低下してしまう課題もあった。
また、特許文献4のようにエラストマーの添加では、成形品の靱性は向上する一方、結晶性は低下し、成形サイクル性は向上されない。特許文献5のように、耐衝撃改良剤や架橋剤の添加では、成形品の靱性は向上する一方、高粘度化により流動性が悪化し、成形サイクル性は低下するという課題があった。
そこで本発明は、これら従来技術の課題に鑑み、結晶核剤を用いることなく、成形サイクル性を向上させ、得られる成形品の靱性も向上させることのできるポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
すなわち、本発明は、主として以下の構成を有する。
[1]下記成分(A)、および(B)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、下記式(1)で表されるΔηが1.0以上5.0以下であり、かつ、融点+20℃における貯蔵弾性率G’が200Pa以上1000Pa以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
成分(A):ポリアミド樹脂
成分(B):酸無水物由来の構造単位を有する樹脂
式(1) Δη = η / η
(η :前記成分(A)の融点+20℃における複素粘度、η :前記ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃における複素粘度)
[2]前記成分(B)の全量100モル%に対し、酸無水物由来の構造単位が10.3モル%以上20.6モル%以下である、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記成分(B)が、(B−a)酸無水物由来の構造単位10.3〜20.6モル%と、(B−b)下記化学式(1)で表される構造単位79.4〜89.7モル%との共重合体である、[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
Figure 2021091898
(式中、R1は炭素原子1〜8個を有するアルキル基を表し、かつnは0、1、2もしくは3の値を有する。また、R2は炭素原子1〜8個を有するアルキル基または水素原子であり、かつmは700〜1700の値を有する。)
[4]前記成分(B)の(B−a)酸無水物由来の構造単位が無水マレイン酸由来の構造単位である、[3]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]前記成分(B)の重量平均分子量が100,000以上200,000未満である、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6]前記成分(B)の添加量が、前記成分(A)100重量部に対して、0.1〜5.9重量部である、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7]下記成分(C)を含有する、[1]〜[6]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
成分(C):アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む有機酸金属塩化合物
[8]ポリアミド樹脂組成物中に、前記成分(C)の金属元素を1〜100ppm含有する、[7]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
以下、本発明について、実施形態とともに詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、下記成分(A)、および成分(B)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、下記式(1)で表される複素粘度変化率Δηが1.0以上5.0以下であり、かつ、融点+20℃における貯蔵弾性率G’が200Pa以上1000Pa以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
成分(A):ポリアミド樹脂
成分(B):酸無水物由来の構造単位を有する樹脂
式(1) Δη = η / η
(η :前記成分(A)の融点+20℃における複素粘度、η :前記ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃における複素粘度)
一般的に、ポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性向上手段としては、上述した結晶核剤などを用いて結晶化速度を速める方法が知られている。これに対し、成形のメカニズムに着目し、金型からピンで成形品を押出す際のポリアミド樹脂組成物の剛性を向上させることで成形性を向上できると着想した。しかし、一般的に剛性を向上すると粘度も上昇し、逆に成形性が低下する傾向にある。
そこで、本願発明者らは、成分(A)ポリアミド樹脂に、成分(B)を配合し、ポリアミド樹脂組成物の複素粘度変化率Δηと貯蔵弾性率G’を特定の範囲とすることにより、上述のトレードオフを解消し、成形サイクル性の向上、および得られる成形品の靱性を向上させられることを見出し、本発明に至った。
本発明においては、ポリアミド樹脂組成物を特定の条件で測定した際の、前記式(1)で表される複素粘度変化率Δηが1.0以上5.0以下である。Δηが1.0未満の場合、ポリアミド鎖の分解の進行などにより、ポリアミド鎖の絡まりが損なわれ、成形時の成形サイクル性は低下する。また、得られる成形品の靱性も低下する。Δηは1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましい。一方、Δηが5.0を超える場合、粘度が高くなりすぎ、成形時により高温、もしくは、より高圧で成形を行う必要ができ、成形サイクル性は極端に低下し、多くの場合成形自体が難しくなる。Δηは4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましい。
本発明の成分(A)ポリアミド樹脂、およびポリアミド樹脂組成物における複素粘度η、および後述の貯蔵弾性率G’は、動的粘弾性測定装置(以下、レオメーターと略する場合もある。)を使用して測定した数値より同時に求められる。具体的には、試料をパラレルプレートに付着させた後、周波数1Hzで300℃から150℃まで10℃/minで降温しながら測定した際の、融点+20℃での複素粘度η、および後述の貯蔵弾性率G’の値が求められる。また、求めた複素粘度ηを用いて、前記式(1)よりΔηを算出できる。
また、本発明の成分(A)ポリアミド樹脂、およびポリアミド樹脂組成物における融点は、示差走査熱量計(以下、DSCと略する場合もある。)の昇温過程における結晶化ピークトップ温度より算出できる。具体的には、試料約10mgをDSCにおいて、A)50℃から300℃まで昇温(昇温速度20℃/min)、B)300℃で1min保持、C)300℃から50℃まで降温(降温速度20℃/min)、D)50℃で1min保持、E)50℃から300℃まで昇温(昇温速度20℃/min)の条件で測定し、E)で観測される吸熱ピークトップ温度を融点として求めることができる。
本発明においては、ポリアミド樹脂組成物を特定の条件で測定した際の貯蔵弾性率G’が、200Pa以上1000Pa以下である。G’が200Pa未満では、金型からピンで成形品を押出す際に成形品形状を保てず、成形サイクル性は低下する。G’は250Pa以上が好ましく、300Pa以上がより好ましい。一方、G’が1000Paを超えると、ポリアミド樹脂組成物の分子鎖の絡み合いが強くなりすぎ、金型内での固化(結晶化)に時間を要してしまうため、成形サイクル性が低下する。G’は900Pa以下が好ましく、800Pa以下がより好ましく、700Pa以下がさらに好ましく、600Pa以下がいっそう好ましく、500Pa以下がことさらに好ましい。
以下、ポリアミド樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
<成分(A)>
成分(A)に用いるポリアミド樹脂とは、(i)アミノ酸、(ii)ラクタムあるいは(iii)ジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするポリアミドである。成分(A)の原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどdsの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明において、ポリアミド樹脂の原料として、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはポリアミドコポリマーを2種以上配合してもよい。
ポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンカンアミドコポリマー(ナイロン6T/11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)などが挙げられる。また、ポリアミド樹脂の具体例としては、これらの混合物や共重合体なども挙げられる。ここで、「/」を含むポリアミド樹脂は共重合体を示し、共重合体を構成する成分を記号「/」の前後に記載した。以下、共重合体については同様の表記とする。
成分(A)に用いるポリアミド樹脂の重合度としては、特に制限はないが、複素粘度η が50Pa・s以上900Pa・s以下が好ましい。η が50Pa・s以上であれば、ポリアミド樹脂組成物の貯蔵弾性率G’が好ましい範囲となり、成形サイクル性、および得られた成形品の靱性が優れる傾向にある。一方、η が900Pa・s以下であれば、ポリアミド樹脂組成物の複素粘度η や前記式(1)のΔηが高くなりすぎず、成形サイクル性が向上するため好ましい。成形サイクル性向上の観点から、η は700Pa・s以下がより好ましく、500Pa・s以下がさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成分(A)のアミン末端基と成分(B)の酸無水物由来の構造単位が反応することで成形サイクル性が向上し、得られる成形品の靱性が向上する。これより、成分(A)のアミン末端基は、ポリアミド樹脂組成物のΔη、およびG’が本願規定の範囲に入れば特に制限はないが、2.0×10−5mol/g以上10.0×10−5mol/g以下であることが好ましい。アミン末端基が2.0×10−5mol/g以上では、成分(B)との反応が十分に進行し、ポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性が向上し、得られる成形品の靱性も向上する傾向にある。より好ましくは、2.5×10−5mol/g以上であり、3.0×10−5mol/g以上がさらに好ましい。一方、アミン末端基が10.0×10−5mol/g以下では、成分(B)との過剰反応によるポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性低下を抑制できるため好ましい。より好ましくは、8.0×10−5mol/g以下であり、6.0×10−5mol/g以下がさらに好ましい。
成分(A)のアミン末端基量は、例えば、一般的な滴定により算出することができる。具体的には、ポリアミド樹脂をフェノールに60℃で溶解させた後、エタノールおよび純水を加え、三菱化学株式会社製電位差滴定装置GT−06を用い、0.01N−HClで滴定し求めることができる。
<成分(B)>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成分(B)を配合し、特定の条件で測定した際のポリアミド樹脂組成物のΔη、およびG’を特定の範囲にすることで、成形サイクル性が向上し、得られる成形品の靱性も向上させることができる。
成分(B)は、酸無水物由来の構造単位を有する樹脂である。成分(B)は、成分(A)のアミン末端基と反応し分岐構造を形成する。本発明におけるΔη、およびG’の範囲となるように、成分(A)と成分(B)が反応することで、成形サイクル性が向上し、また、得られる成形品の靱性も向上する。そのメカニズムは詳しくはわからないが、成分(A)のアミン末端基と反応し、成分(B)の側鎖に成分(A)がグラフトされたような櫛状分岐構造が形成されることで、分子鎖の運動性を確保しながら半溶融状態での貯蔵弾性率を向上させることができると考えられる。
成分(B)は、(B−a)酸無水物由来の構造単位を有する樹脂であるが、成分(B)の構造単位の全量100モル%に対して、(B−a)酸無水物由来の構造単位を10.3モル%以上20.6モル%以下含有する樹脂が好ましい。10.3モル%以上では、成分(A)と十分に反応が進行し、ポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性が向上し、また、得られる成形品の靱性も向上する場合がある。成分(B)の構造単位の全量100モル%に対して、11モル%以上がより好ましく、12モル%以上がさらに好ましい。一方、20.6モル%以下では、成分(A)との過剰な反応による成形サイクル性の低下が抑制されるため好ましい。成形サイクル性向上の観点から、19モル%以下がより好ましい。
具体的な成分(B)の(B−a)酸無水物由来の構造単位と共重合する(B−b)の成分としては、例えば、スチレン系樹脂、フェニレンエーテル系樹脂、カーボネート系樹脂、イミド系樹脂、アミドイミド系樹脂、エーテルイミド系樹脂、アリレート系樹脂、スルホン系樹脂、エーテルスルホン系樹脂、エーテルエーテルケトン系樹脂などが挙げられる。この中で、好ましい成分(B−b)としては、スチレン系樹脂、カーボネート系樹脂、アリレート系樹脂を挙げることができ、特に、スチレン系樹脂が好ましい。また、これらの構造単位を複数含むことも好ましい。
本発明の成分(B)として、より好ましくは、(B−a)として酸無水物由来の構造単位、および(B−b)として下記化学式(1)で表される構造単位をふくむ共重合体である。成分(B)は、成分(B)の構造単位の全量100モル%に対して、(B−a)酸無水物由来の構造単位を10.3モル%以上20.6モル%以下と、(B−b)下記化学式(1)で表される構造単位79.4モル%以上89.7モル%以下を含むコポリマーが挙げられる。
Figure 2021091898
式中、R1は炭素原子1〜8個を有するアルキル基を表し、かつnは0、1、2もしくは3の値を有する。また、R2は炭素原子1〜8個を有するアルキル基または水素原子であり、かつmは700〜1700の値を有する。
化学式(1)中の好ましいR1基は、メチル基またはエチル基が挙げられる。また、好ましいR2基としては、メチル基、エチル基または水素が挙げられる。好ましい(B−b)成分としては、スチレンもしくはα―メチルスチレンまたはこれらの混合物が挙げられる。
化学式(1)中のmについて、上述の(B−b)構造単位の含有量の範囲であれば特に制限はないが、ポリアミド樹脂組成物のG’が向上し、成形サイクル性が向上する観点から700以上が好ましく、900以上がより好ましく、1100以上がさらに好ましい。また、成分(A)との反応性が向上し、成形サイクル性が向上する観点から1700以下が好ましく、1600以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましい。
成分(B−a)酸無水物由来の構造単位として、特に限定はないが、好ましくはコハク酸無水物、フタル酸無水物、マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、イタコン酸無水物、またはこれらの混合物から誘導された構造単位が挙げられる。中でも、(B−a)としてマレイン酸無水物由来の構造単位と、(B−b)として化学式(1)で示されるスチレン由来の構造単位との共重合体が好ましい。
さらに、成分(B)は(B−a)酸無水物由来の構造単位と(B−b)上記化学式(1)で表される構造単位以外の構造単位(B−c)として、より成形サイクル性が向上し、得られる成形品の靱性もより向上させる観点で、より剛直な構造を有する構造単位を有することが好ましい。中でも、マレイミド由来の構造単位が好ましく、メチルマレイミド由来の構造単位、エチルマレイミド由来の構造単位、フェニルマレイミド由来の構造単位が好ましい。これらのより剛直な構造を有する構造単位(B−c)を有する場合、成分(B)の含有量が少量であっても、成形サイクル性を向上でき、得られる成形品の靱性も向上できるため好ましい。成分(B)中の(B−c)構造単位は、成分(B)の構造単位全量100モル%に対して、0〜15モル%が好ましく、0〜10モル%がより好ましく、0〜5モル%がさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物のΔη、およびG’を特定の範囲にするために、成分(B)の重量平均分子量、および酸価が特定の値を有することが好ましい。本発明のポリアミド樹脂組成物では、上述のように、成分(B)の側鎖に成分(A)がグラフトされた様な櫛状分岐構造を形成する。成分(B)が、後述する好ましい重量平均分子量、および酸価であることで、ポリアミド樹脂組成物は、複素粘度を確保したまま、高い貯蔵弾性率G’を有する、特異的な挙動を示すと考えられるため好ましい。
成分(B)の重量平均分子量(以下、Mwと略する場合もある)は、ポリアミド樹脂組成物が本願規定のΔη、およびG’を示せば特に制限はないが、100,000以上200,000未満であることが好ましい。Mwが100,000以上では、櫛状分岐構造の主鎖が長くなることで、ポリアミド樹脂組成物のG’が向上し、成形サイクル性が向上する傾向にある。また、ポリアミド樹脂組成物の絡み合いが強くなることにより、得られた成形品の靱性も向上する傾向にある。成形サイクル性、得られる成形品の靱性向上の観点から、Mwは110,000以上がより好ましく、Mwは120,000以上がさらに好ましい。一方、Mwが200,000未満では、成分(A)との混練性が向上し、Δηが適切な範囲を示すことで成形サイクル性が向上する傾向にあるため好ましい。成形サイクル性向上の観点から、Mwは190,000以下がより好ましい。
重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出することができる。具体的には、化合物が溶解する溶媒、例えばヘキサフルオロイソプロパノールを移動相として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準物質として用い、カラムは溶媒に合わせ、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノールを使用した場合には、島津ジーエルシー(株)製の「Shodex GPC HFIP−806M」および/または「Shodex GPC HFIP−LG」を用いて、検出器として示差屈折率計を用いて重量平均分子量を測定することができる。
成分(B)の含有量は、前記の通り成分(A)のアミン末端基と成分(B)の酸無水物由来の構造単位が反応することより、成分(A)のアミン末端基量と成分(B)の酸価によって変動するため一概には定義できないが、好ましい範囲として成分(A)100重量部に対して、0.1重量部以上5.9重量部以下が例示できる。0.1重量部以上では、成分(A)と反応し、成形サイクル性向上に十分な分岐構造を導入できるため好ましい。成形サイクル性向上の観点から、0.5重量部以上がより好ましく、1.0重量部以上がさらに好ましい。一方、5.9重量部以下では、成分(A)との過剰な反応が起こらず、Δηが適切な範囲となり、成形サイクル性が向上する傾向にある。成形サイクル性向上の観点から、5.0重量部以下がより好ましく、4.0重量部以下がさらに好ましく、3.0重量部以下がことさら好ましい。
成分(B)の酸価は、ポリアミド樹脂組成物が本願規定のΔη、およびG’を示せば特に制限はないが、100×10−5mol/g以上200×10−5mol/g以下が好ましい。酸価が100×10−5mol/g以上では、成分(A)との反応が進行しやすく、櫛状分岐構造を十分に形成でき、ポリアミド樹脂組成物のΔη、およびG’が向上し、成形サイクル性が向上するため好ましい。また、ポリアミド樹脂組成物の絡み合いが強くなることにより、得られる成形品の靱性も向上する傾向にある。成形サイクル性、成形品の靱性向上の観点から、酸価は110×10−5mol/g以上がより好ましく、120×10−5mol/g以上がさらに好ましい。一方、酸価が200×10−5mol/g以下では、成分(A)との過剰な反応が抑制され、成形時のポリアミド樹脂組成物の流動性を保つことができるため成形サイクル性が向上する傾向にある。成形サイクル性向上の観点から、酸価は190×10−5mol/g以下がより好ましく、180×10−5mol/g以下がさらに好ましい。
酸価は、例えば、以下の方法によって測定することが出来る。250ml三角フラスコに、成分(B)を約0.2g採取し、重量を測定し、次いで20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1N(規定)の水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し求めることで算出できる。
成分(A)ポリアミド樹脂等は、融点+10〜50℃で溶融加工されることが多い。さらに、ポリアミド樹脂の溶融加工温度の上限は、350℃近傍でアミド結合が切れ分解するため、この温度以下での溶融加工が望まれる。成分(A)との混練性の観点から、成分(B)のガラス転移点(以下、Tgと呼ぶ場合がある)は100℃以上200℃以下であることが好ましい。100℃以上の場合、ポリアミド樹脂組成物のG’が向上する傾向にあり、成形サイクル性が向上するため好ましい。成形サイクル性向上の観点から、Tgは110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。一方、200℃以下の場合には、成形時温度が高くなりすぎず、成分(A)の熱分解を抑制できるため、成形サイクル性が向上し、得られる成形品の靱性が向上するため好ましい。190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。
ガラス転移点は、例えば、DSCを用いて求めることができる。具体的には、試料をDSCにおいて、温度変調モードにて、室温から300℃まで1℃/minの昇温速度で測定した際に現れる階段状の吸熱ピークの中点の温度(ガラス転移点)から求めることができる。
成分(B)の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、溶液重合法、および溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
成分(B)の各構造単位の含有量は、その測定方法に特に制限がなく、通常の分析方法(例えば、NMR、FT−IR、GC−MS等の組み合わせ)により、各構造単位を定量し、その比より求めることができる。
<成分(C):アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む有機酸金属塩化合物>
本発明のポリアミド樹脂組成物では、その効果を損なわない範囲で、成分(C)アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む有機酸金属塩化合物を含有することが好ましい。成分(C)は、成分(A)および成分(B)とも配位し、ポリアミド樹脂組成物の溶融時の分子鎖の絡み合いを適度に低減し、成形サイクル性を向上する傾向にある。
成分(C)に含まれる、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素は、ポリアミド樹脂組成物中に、1ppm以上100ppm以下が好ましい。1ppm以上では、成分(C)の金属元素が成分(A)および成分(B)に配位することによる、成形サイクル性の向上が見込めるため好ましい。成形サイクル性向上の観点より、20ppm以上がより好ましく、40ppm以上がさらに好ましい。一方、100ppm以下では、金属元素が成分(A)および成分(B)に過剰配位により起こる、ポリアミド樹脂組成物のG’の低下の抑制ができるため好ましい。また、得られる成形品の靱性の低下も抑制できる。より好ましくは95ppm以下で、90ppm以下がさらに好ましい。成分(C)として、複数の化合物を用いる場合は、その合計の元素量で計算する。
成分(C)のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素量は、例えば、原子吸光を用いた検量線法により求めることができる。ポリアミド樹脂組成物のペレットを550℃の電気炉で24時間灰化させ、その灰化物に濃硫酸を加えて加熱して湿式分解し、分解液を希釈する。その希釈液を原子吸光分析計((株)島津製作所製AA−6300)を用いて、原子吸光分析(検量線法)することにより金属元素量を求め、この値をポリアミド樹脂組成物の重量で割ることで、ポリアミド樹脂組成物に対する金属元素量を求めることができる。
成分(C)として用いられる有機酸金属塩化合物としては、例えば、ステアリン酸金属塩化合物、モンタン酸金属塩化合物、ベヘン酸金属塩化合物、ラウリン酸金属塩化合物、パルミチン酸金属塩化合物、酢酸金属塩化合物、ギ酸金属塩化合物、炭酸金属塩化合物、硫酸金属塩化合物、硝酸金属塩化合物、シュウ酸金属塩化合物等が挙げられる。
成分(C)として用いられるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウムカルシウム等が挙げられる。
<その他添加剤>
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物では、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を配合することが可能である。添加剤としては、例えば、以下の各種添加剤を含有することができる。ポリエステル樹脂、ポリケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂など成分(A)もしくは成分(B)以外の樹脂。オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコン系ゴム、フッ素系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマーなどのエラストマー。フェノール系化合物、硫黄系化合物、アミン系化合物、リン系化合物などの安定剤。イソシアネート系化合物。有機シラン系化合物。有機チタネート系化合物。有機ボラン系化合物。可塑剤。離型剤。滑剤。紫外線防止剤。着色剤。発泡剤。ただし、得られるポリアミド樹脂組成物の成形品の靱性を損なうことから、無機系の充填剤は好ましくない。
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が使用でき、反応性向上の点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練やニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましい。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上使用できるが、混練性、反応性、生産性の向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく、二軸押出機を用いた溶融混練による方法が最も好ましい。
混練方法としては、
1)成分(A)、成分(B)、成分(C)、およびその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練する方法(一括混練法)、
2)成分(A)および成分(B)を元込めフィーダーから投入して混練した後、必要であれば成分(C)、およびその他の添加剤をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、
3)I)成分(A)と成分(C)および/またはその他の添加剤、または、II)成分(B)と成分(C)および/またはその他の添加物、III)成分(A)とその他の添加剤を、それぞれ高濃度に含む高濃度予備混合物(マスターペレット)を作製し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを成分(A)や成分(B)と混練する方法(マスターペレット法)、などが例示される。
<ポリアミド樹脂組成物の成形品>
かくして得られる本発明のポリアミド樹脂組成物は、公知の方法で成形することができ、ポリアミド樹脂組成物からシート、フィルム、繊維などの各種成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。中でも薄肉成形品や成形品の多数取りに適していることから、射出成形が好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物およびその成形品は、その優れた特性を活かし、自動車用部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物およびその成形品は、とりわけ、薄肉成形品や成形品の多数取りに適しており、成形品の靱性に優れることから、自動車部品、電気電子関連部品に適している。
次に、実施例を挙げて本発明のポリアミド樹脂組成物と成形品について、さらに具体的に説明する。特性評価は、下記の方法に従って行った。
[ポリアミド樹脂の融点]
成分(A)、およびポリアミド樹脂組成物を約5mg採取し、窒素雰囲気下で、セイコーインスツルメント社製ロボットDSC(示差走査熱量計)RDC220を用いて、次の条件で融点を測定した。A)50℃から300℃まで昇温(昇温速度20℃/min)、B)300℃で1min保持、C)300℃から50℃まで降温(降温速度20℃/min)、D)50℃で1min保持、E)50℃から300℃まで昇温(昇温速度20℃/min)の条件で測定し、E)で観測される吸熱ピークトップ温度より融点を求めた。
[酸価]
250ml三角フラスコに、成分(B)を約0.2g採取し、重量を測定した。次いで20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1N(規定)の水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、酸価[mol/g]を算出した。
[ポリアミド樹脂のアミン末端量測定]
成分(A)ポリアミド樹脂2gをフェノール50mLに60℃で溶解させた後、40mLのエタノールおよび純水10mLを加え、三菱化学株式会社製電位差滴定装置GT−06を用い、0.01N−HClで滴定し求めた。
[アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素量]
ポリアミド樹脂組成物のペレットを減圧乾燥する。そのペレットを550℃の電気炉で24時間灰化させ、その灰化物に濃硫酸を加えて加熱して湿式分解し、分解液を希釈する。その希釈液を原子吸光分析計((株)島津製作所製AA−6300)を用いて、原子吸光分析(検量線法)することにより、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素量を求め、この値をポリアミド樹脂組成物の重量で割ることで、ポリアミド樹脂組成物に対するアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属元素量を求めた。
[複素粘度変化率Δη、および貯蔵弾性率G’]
本発明の成分(A)ポリアミド樹脂、およびポリアミド樹脂組成物における複素粘度η、および貯蔵弾性率G’は、レオメーターを使用して下記の条件にて同時に測定した。試料をパラレルプレートに付着させた後、周波数1Hzで300℃から150℃まで10℃/minで降温しながら測定した際の、融点+20℃での値をそれぞれ、複素粘度η 、η 、および貯蔵弾性率G’として求めた。また、求めたη 、η の値を用いて、下記式(1)よりΔηを算出した。
・装置:Anton Paar製 Physica MCR501
・測定治具:パラレルプレート(PP25、φ25mm)
・測定位置:1.0mm
・周波数:1Hz
・温度条件:300℃から150℃まで10℃/minで降温
式(1) Δη = η / η
(η :前記成分(A)の融点+20℃における複素粘度、η :前記ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃における複素粘度)
[成形サイクル性評価]
ポリアミド樹脂組成物のペレットを減圧乾燥する。そのペレットを、射出成形機(Sodick製TR30EHA)を用いて、下記条件にて評価を行った。まず、冷却時間20sに固定し、保圧(充填圧60%)を0sから0.1sずつ上昇し、成形品重量が変わらなくなる保圧時間を算出し、これをゲートシール時間とした。次に、ゲートシール時間にて、冷却時間を減らしていき、300ショット連続自動成形ができる冷却時間を確認した。こうして求めたゲートシール時間と冷却時間の合計を成形サイクル性の指標として算出した。算出した合計時間が短いほど成形サイクル性は優れることを示している。
・射速:60mm/sec
・計量 :20mm
・背圧:1.0MPa
・サックバッ:0mm
・スクリュー回転数:370rpm
・成形品取り :角板(0.5mmt)
[成形品の靭性評価]
ポリアミド樹脂組成物のペレットを減圧乾燥する。そのペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG75H−DUZ)を用いて、シリンダー温度:成分(A)の融点+20℃、金型温度:80℃、保圧時間/冷却時間:10/10秒、スクリュー回転数:70rpm、射出速度:50mm/秒の条件で射出成形することにより、ASTM 4号ダンベル片(1mmt)を得た。この試験片について、−40℃の冷凍室にて1時間恒温化させた。その後、試験片の両端を合わせて中央部で折り曲げ、開いて再度反対側に折り曲げる動作を1セットとして、10セットを1評価とした。各水準について30本の試験片で評価を行い、割れなかった本数を成形品の靱性の指標とした。割れなかった本数が多いほど、成形品の靱性に優れることを示している。
<参考例>
参考例1(A)−1
70リットルのオートクレーブに、ε−カプロラクタム20kgと安息香酸4.32g、イオン交換水0.4kgを仕込み、重合槽内を窒素置換した後、常圧、窒素フロー下で攪拌しながら最終到達温度250℃とし8時間反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で15時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で24時間真空乾燥して、融点226℃、アミン末端基量4.84×10−5mol/g、複素粘度124Pa・sのポリアミド6樹脂を得た。
参考例2(A)−2
70リットルのオートクレーブに、ε−カプロラクタム20kgと安息香酸4.32g、イオン交換水0.4kgを仕込み、重合槽内を窒素置換した後、常圧、窒素フロー下で攪拌しながら最終到達温度250℃とし12時間反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で15時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で24時間真空乾燥して、融点225℃、アミン末端基量6.16×10−5mol/g、複素粘度667Pa・sのポリアミド6樹脂を得た。
参考例3(A)−3
70リットルのオートクレーブに、ε−カプロラクタム20kgと安息香酸4.32g、イオン交換水0.4kgを仕込み、重合槽内を窒素置換した後、常圧、窒素フロー下で攪拌しながら最終到達温度250℃とし16時間反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で15時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で24時間真空乾燥して、融点225℃、アミン末端基量4.55×10−5mol/g、複素粘度897Pa・sのポリアミド6樹脂を得た。
参考例4(A)−4
70リットルのオートクレーブに、1,6−ヘキサンジアミンとセバシン酸の等モル塩の50質量%水溶液17.6kg、1,6−ヘキサンジアミン63.8gを仕込み、重合槽内を窒素置換した後、220℃まで加熱し、この温度で反応系内が均一な状態になるように攪拌した。次いで、重合槽内温度を265℃まで昇温させ、槽内圧力を1.7MPaに調圧しながら、2時間攪拌下に重合した。その後、約2時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、次いで、53kPaまで減圧し、減圧下において3時間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、融点225℃、アミン末端基量3.17×10−5mol/g、複素粘度95Pa・sのポリアミド610樹脂を得た。
参考例5(B)−2
攪拌機、温度計、及び還流冷却管を備えた1000mlの四つ口フラスコにスチレン90g、無水マレイン酸10g、ジオキサン350ml及びナイパーBW(日本油脂製過酸化ベンゾイルペースト品)0.15gを入れ、油浴で加熱して還流下、6時間反応した。この反応液をヘキサン1500mlの中に入れ樹脂を析出し、ろ過、乾燥し、重量平均分子量110,000、酸価105.3×10−5mol/g、スチレン構造単位89.1モル%、無水マレイン酸構造単位10.9モル%のスチレン―無水マレイン酸共重合体を得た。
参考例6(B)−3
攪拌機、温度計、及び還流冷却管を備えた1000mlの四つ口フラスコにスチレン80g、無水マレイン酸20g、ジオキサン350ml及びナイパーBW(日本油脂製過酸化ベンゾイルペースト品)0.15gを入れ、油浴で加熱して還流下、6時間反応した。この反応液をヘキサン1500mlの中に入れ樹脂を析出し、ろ過、乾燥し、重量平均分子量120,000、酸価190.2×10−5mol/g、スチレン構造単位80.5モル%、無水マレイン酸構造単位19.5モル%のスチレン―無水マレイン酸共重合体を得た。
参考例7(B)−4
攪拌機、温度計、及び還流冷却管を備えた1000mlの四つ口フラスコにスチレン80g、無水マレイン酸20g、トルエン70ml、アセトン280ml及びナイパーBW(日本油脂製過酸化ベンゾイルペースト品)1gを入れ、油浴で加熱して還流下、6時間反応した。この反応液を水350gに水酸化ナトリウム27gを溶解した水溶液に加えに加えて60℃で5時間加水分解後、15℃以下に冷却して樹脂部分を沈降させた。これをろ過、乾燥することで、重量平均分子量180,000、酸価110.4×10−5mol/g、スチレン構造単位88.6モル%、無水マレイン酸構造単位11.4モル%のスチレン―無水マレイン酸共重合体を得た。
参考例8(B)−5
攪拌機、温度計、及び還流冷却管を備えた1000mlの四つ口フラスコにスチレン90g、無水マレイン酸10g、トルエン70ml、アセトン280ml及びナイパーBW(日本油脂製過酸化ベンゾイルペースト品)1gを入れ、油浴で加熱して還流下、6時間反応した。この反応液を水350gに水酸化ナトリウム27gを溶解した水溶液に加えに加えて60℃で5時間加水分解後、15℃以下に冷却して樹脂部分を沈降させた。これをろ過、乾燥することで、重量平均分子量190,000、酸価180.1×10−5mol/g、スチレン構造単位81.5モル%、無水マレイン酸構造単位18.5モル%のスチレン―無水マレイン酸共重合体を得た。
参考例9(B)−8
攪拌機、温度計、及び還流冷却管を備えた1000mlの四つ口フラスコにスチレン99g、無水マレイン酸1g、トルエン350ml及びナイパ―BW(日本油脂製過酸化ベンゾイルペースト品)1gを入れ、油浴で加熱して還流下、6時間反応した。この反応液に水350gに水酸化ナトリウム27gを溶解した水溶液を加えて60℃で5時間加水分解後、水蒸気蒸留でトルエンを除去し、これをろ過、乾燥することで、重量平均分子量60,000、酸価1.0×10−5mol/g、スチレン構造単位99.9モル%、無水マレイン酸構造単位0.1モル%のスチレン―無水マレイン酸共重合体を得た。
参考例10(B)−13
1リットルのオートクレーブに、(B)−1(スチレン―無水マレイン酸共重合体)200gおよびシクロヘキサノン(関東化学製)130gを仕込み、100℃に加熱した。温度を100℃に維持したまま、生じた混合物にアニリン(東京化成工業製)8gを添加し、160℃で12時間反応させた。反応後、室温に冷却した。これをろ過、乾燥することで、重量平均分子量は180,000、酸価113.0×10−5mol/g、スチレン構造単位84モル%、無水マレイン酸構造単位12モル%、フェニルマレイミド構造単位4モル%のスチレン―無水マレイン酸−フェニルマレイミド共重合体を得た。
(B)−1:スチレン―無水マレイン酸共重合体(Polyscope社製“XIBOND140”)、重量平均分子量180,000、酸価151.5×10−5mol/g、スチレン構造単位84モル%、無水マレイン酸構造単位16モル%
(B)−6:スチレン―無水マレイン酸共重合体(アーコケミカル社製“Dylark232”)、重量平均分子量224,000、酸価81.6×10−5mol/g、スチレン構造単位92モル%、無水マレイン酸構造単位8モル%
(B)−7:スチレン―無水マレイン酸共重合体(アーコケミカル社製“Dylark332”)、重量平均分子量200,000、酸価142.9×10−5mol/g、スチレン構造単位86モル%、無水マレイン酸構造単位14モル%
(B)−9:スチレン―無水マレイン酸共重合体(エルフ・アトケム社製“SMA1000”)、重量平均分子量550、酸価427.7×10−5mol/g、スチレン構造単位58.1モル%、無水マレイン酸構造単位41.9モル%
(B)−10:スチレン―無水マレイン酸共重合体(荒川化学製“アラスター700”)、重量平均分子量10,000、酸価189.1×10−5mol/g、スチレン構造単位82.7モル%、無水マレイン酸構造単位17.3モル%
(B)−11:スチレン―無水マレイン酸共重合体(DSM社製“Stapron SZ28110”)、重量平均分子量110,000、酸価285.7×10−5mol/g、スチレン構造単位82.7モル%、無水マレイン酸構造単位17.3モル%
(B)−12:エチレン―無水マレイン酸共重合体(ExxonMobile社製、Exxelor VA1803)、エチレン構造単位99.3モル%、無水マレイン酸構造単位0.7モル%
(C)−1:モンタン酸リチウム(ヘキストインダストリー(株)製)、分子量430.4
その他成分:スチレン―エチレン―メタクリル酸グリシジル共重合体(日油(株)製、モディパーA4100)、スチレン構造単位30重量部、エチレン―メタクリル酸グリシジル構造単位70重量部
その他成分:ノボラックフェノール型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EPPN−201)、エポキシ当量180〜200g/eq
その他成分:結晶核剤(林化成(株)製、ミクロンホワイト#5000A)
その他成分:塩化リチウム(関東化学(株)製)、分子量42.39
その他成分:マレイン酸(ナカライテスク(株)製)、分子量116.1
(実施例1〜17、比較例1〜18)
各表に示す成分(A)、(B)、(C)、およびその他成分を予備混合した後、シリンダー設定温度をポリアミド樹脂の融点+25℃、供給量20kg/h、スクリュー回転数を200rpmに設定した(株)日本製鋼所製TEX30型2軸押出機(L/D=45)のメインフィーダーから2軸押出機に供給し、溶融混練した。このメインフィーダーはスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て0の位置、つまりスクリューセグメントの上流側の端部の位置に接続されていた。ダイから吐出されるガットを即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。各実施例および比較例の評価結果を表1〜4に示す。
Figure 2021091898
Figure 2021091898
Figure 2021091898
Figure 2021091898
実施例1〜17は、比較例1〜18と比較して、特定の成分(B)、および成分(C)を含有することで、ポリアミド樹脂組成物の複素粘度変化率Δηと貯蔵弾性率G’が本願規定の領域に制御され、成形サイクル性、および得られる成形品の靱性が優れることがわかった。これは、成分(A)と成分(B)が櫛状の微架橋構造を形成することで、ポリアミド樹脂組成物の分子運動性を確保しつつも、高い貯蔵弾性率G’を有することに由来する。成分(C)を、ポリアミド樹脂組成物中に成分(C)の金属元素で1〜100ppm含有することで、分子運動性を確保がより向上されるため、ポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性は向上することがわかった。
比較例2の従来の成形性改良技術は、実施例1〜14と比較して成形サイクル性は向上するものの、得られる成形品の靭性が低いことがわかった。比較例6では、成分(B)適正量以上添加したため、ポリアミド樹脂組成物がゲル化し、測定および成形が不可となることがわかった。比較例9のエポキシ樹脂のように成分(B)以外による架橋では、貯蔵弾性率G’は向上するが、粘度が高くなりすぎてしまうため、成形ができなくなってしまうことがわかった。これらより、特定の成分(B)を用いることでのみ、本願規定のポリアミド樹脂組成物の複素粘度変化率Δηと貯蔵弾性率G’を満たし、成形サイクル性を向上させつつ、得られる成形品の靱性も向上させることができるとわかった。

Claims (9)

  1. 下記成分(A)、および成分(B)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、下記式(1)で表されるΔηが1.0以上5.0以下であり、かつ、融点+20℃における貯蔵弾性率G’が200Pa以上1000Pa以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
    成分(A):ポリアミド樹脂
    成分(B):酸無水物由来の構造単位を有する樹脂
    式(1) Δη = η / η
    (η :前記成分(A)の融点+20℃における複素粘度、η :前記ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃における複素粘度)
  2. 前記成分(B)の全量100モル%に対し、酸無水物由来の構造単位が10.3モル%以上20.6モル%以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. 前記成分(B)が、成分(B)の全量100モル%に対し、(B−a)酸無水物由来の構造単位10.3〜20.6モル%と、(B−b)下記化学式(1)で表される構造単位79.4〜89.7モル%との共重合体である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
    Figure 2021091898
    (式中、R1は炭素原子1〜8個を有するアルキル基を表し、かつnは0、1、2もしくは3の値を有する。また、R2は炭素原子1〜8個を有するアルキル基または水素原子であり、かつmは700〜1700の値を有する。)
  4. 前記成分(B)の(B−a)酸無水物由来の構造単位が無水マレイン酸由来の構造単位である、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. 前記成分(B)の重量平均分子量が100,000以上200,000未満である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 前記成分(B)の添加量が、前記成分(A)100重量部に対して、0.1〜5.9重量部である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  7. 下記成分(C)を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
    成分(C):アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む有機酸金属塩化合物
  8. ポリアミド樹脂組成物中に、前記成分(C)の金属元素を1〜100ppm含有する、請求項7に記載のポリアミド樹脂組成物。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
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