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JP2020011526A - 車両のブレーキ制御装置 - Google Patents

車両のブレーキ制御装置 Download PDF

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JP2020011526A JP2018132882A JP2018132882A JP2020011526A JP 2020011526 A JP2020011526 A JP 2020011526A JP 2018132882 A JP2018132882 A JP 2018132882A JP 2018132882 A JP2018132882 A JP 2018132882A JP 2020011526 A JP2020011526 A JP 2020011526A
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braking stiffness
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和晃 吉田
Kazuaki Yoshida
和晃 吉田
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Toyota Motor Corp
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Toyota Motor Corp
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Abstract

【課題】 スリップ率速度に基づいてABS制御を開始する方式のブレーキ制御装置において、スリップ率速度閾値を精度よく設定できるようにする。【解決手段】 ブレーキECUは、荷重の増加傾向にある車輪WHFRについてブレーキングスティフネスBSFRを補正するとともに、加速度変化量(ΔGxFR,ΔGyFR)に対するBSFRの変化量(ΔBSLonFR,ΔBSLatFR)に比であるBS前後補正比BSadjPerGLonFRおよびBS左右補正比BSadjPerGLatFRを演算する。ブレーキECUは、他の3車輪について、それぞれの加速度変化量(ΔGx**,ΔGy**)と、BSadjPerGLonFRおよびBSadjPerGLatFRとに基づいて、ブレーキングスティフネスBS**の補正量を演算する。【選択図】 図13

Description

本発明は、制動時の車輪のロックを防止する制御であるABS制御を実施する車両のブレーキ制御装置に関する。
従来から、制動時に車輪が路面をスリップしないように車輪のロックを防止するシステムであるABS(Antilock Brake System)が知られている。このABSで実施される制動力制御は、ABS制御と呼ばれている。ABS制御は、ブレーキ制御装置(以下、ブレーキECUと呼ぶ)にて実施される。一般に、ブレーキECUは、車輪のスリップ率を検知し、スリップ率がABS開始閾値を上回った場合にABS制御を開始する。ABS制御が開始されると、スリップ率が目標スリップ率に維持されるように、ブレーキキャリパに設けられたホイールシリンダの油圧が制御される。目標スリップ率は、例えば、摩擦係数μが最大になると推定される値(μピークスリップ率と呼ぶ)に設定される。
例えば、特許文献1に提案された装置では、ABS制御を開始するタイミングを決めるためのABS開始閾値として、スリップ率に加えて、スリップ率速度(スリップ率の変化する速度、つまり、スリップ率の単位時間当たりの変化量)を採用している。この装置では、スリップ率速度が予め設定されたスリップ率速度閾値を超えたときに、ABS制御を開始する。
特許第5252118号公報
図7は、タイヤと路面との間に発生する摩擦の度合いを表す摩擦係数μと、車輪のスリップ率Sとの関係を表すグラフ(μ−S特性図)である。μ−S特性に示すように、摩擦係数μは、制動開始当初ではスリップ率Sの増加にほぼ比例して増加する。この摩擦係数μがスリップ率Sにほぼ比例して増加する領域を、線形上昇領域と呼ぶ。
スリップ率Sが線形上昇領域を超えて更に増加した場合には、スリップ率Sと摩擦係数μとの関係が非線形になる。この領域を非線形領域と呼ぶ。スリップ率Sが非線形領域を増加していくと、その途中で摩擦係数μが最大となる。摩擦係数μが最大となるときのスリップ率をμピークスリップ率Speakと呼ぶ。非線形領域においては、μピークスリップ率Speakを挟んで、左側が非線形上昇領域であり、右側が非線形減少領域である。
スリップ率は、線形上昇領域から非線形領域に進入すると、その増加速度(スリップ率速度と呼ぶ)が急に速くなる。
そこで、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間のスリップ率を取得すれば、そのスリップ率に基づいて、μピークスリップ率を推定することができると考えることができる。例えば、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間のスリップ率に、所定値を加算した値を目標スリップ率に設定すれば、μピークスリップ率に近い目標スリップ率を設定することができる。
しかし、上述した特許文献1に提案された装置は、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときにABS制御を開始するものの、スリップ率速度閾値が一定値に固定されているため、ABS制御の開始タイミングが適正とならない。
例えば、ドライバーが素早いブレーキペダル操作を行った場合には、それに応じた速い速度で制動力が変化し、スリップ率速度も制動力の変化する速度にあわせて変化する。このため、特許文献1に提案された装置では、ABS制御が開始されるときのスリップ率にバラツキが生じてしまう。これにより、例えば、目標スリップ率を適正値(μピークスリップ率に近い値)に設定することができず、ABS制御を良好に実施することができないおそれがある。
そこで、本願の発明者は、線形上昇領域における車輪のスリップ率と制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを使ってスリップ率速度閾値を演算し、その演算されたスリップ率速度閾値に基づいてABS制御を開始するタイミングを決定する手法を考えた。この手法では、ABS制御を開始する前のスリップ率が低い段階でブレーキングスティフネスが演算される。この手法を採用すれば、目標スリップ率を適正値(μピークスリップ率に近い値)に設定することができる。
しかし、ブレーキングスティフネスは、車両の荷重移動によって変化する。このため、ABS制御を良好に実施するには、ブレーキングスティフネスの演算後に荷重移動が発生した場合に、そのブレーキングスティフネスを補正する必要がある。制動によって荷重が増加した前輪では、スリップ率と制動力との関係が線形上昇領域内に入っていると考えられるため、最初にブレーキングスティフネスを演算した方法で、荷重増加後のブレーキングスティフネスを算出することができる。一方、荷重が低下した後輪では、スリップ率と制動力との関係が非線形領域内に入っているおそれがあるため、最初にブレーキングスティフネスを演算した方法では、スリップ率速度閾値を演算するために適したブレーキングスティフネスを求めることができない。
制動中においては、前輪の荷重が増加した分だけ、後輪の荷重が減少する。従って、前輪のブレーキングスティフネスの変化量がわかれば、後輪のブレーキングスティフネスの変化量を推定することができる。このため、前輪のブレーキングスティフネスの変化量に基づいて、後輪のブレーキングスティフネスを補正することができる。例えば、前輪のブレーキングスティフネスの増加量だけ、後輪のブレーキングスティフネスを減らすように補正することができる。
しかしながら、最初に前輪のブレーキングスティフネスが算出されたタイミングと、最初に後輪のブレーキングスティフネスが算出されたタイミングとは一致しているわけではない。このため、前輪についての最初にブレーキングスティフネスが算出されたタイミングからブレーキングスティフネスが補正されるまでの期間(荷重変動期間)と、後輪についての最初にブレーキングスティフネスが算出されたタイミングからブレーキングスティフネスが補正されるまでの期間(荷重変動期間)とは一致しない。従って、スリップ率速度閾値を精度よく設定するためには、荷重変動期間を考慮してブレーキングスティフネスの補正を行う必要がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、スリップ率速度に基づいてABS制御を開始する方式のブレーキ制御装置において、スリップ率速度閾値を精度よく設定できるようにすることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の車両のブレーキ制御装置の特徴は、
車輪のスリップ率、および、前記スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出するスリップ検出手段(40,10)と、
前記スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、前記車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力を調整する制御であるABS制御を開始するABS制御手段(10)と、
前記車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における前記車輪のスリップ率と前記車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを、左右前後輪独立して、予め設定された取得条件が成立したタイミング(S22:Yes)で取得するブレーキングスティフネス取得手段(S27)と、
前記ブレーキングスティフネスと、現時点における前記車輪の制動力の変化速度とに基づいて、前記スリップ率速度閾値を演算するスリップ率速度閾値演算手段(S11,S12)と、
前記ブレーキングスティフネス取得手段によって前記ブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミング(S31:Yes)で前記ブレーキングスティフネスを補正するブレーキングスティフネス補正手段(S33,S100,S200)と
を備えた車両のブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキングスティフネス補正手段は、
荷重の増加傾向にある車輪である第1車輪について、現時点における前記制動力と前記スリップ率とを取得して、その取得した前記制動力と前記スリップ率とに基づいて新たな前記ブレーキングスティフネスを演算することにより、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得された前記ブレーキングスティフネスを補正する第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S33)と、
前記第1車輪以外の車輪である第2車輪について、前記第1車輪のブレーキングスティフネスの補正による前記ブレーキングスティフネスの変化量(ΔBSF*)と、前記第1車輪における前記ブレーキングスティフネスが取得されてから補正されるまでの期間の荷重変化量に対応する値(ΔGxF*,ΔGyF*)と、前記第2車輪における前記ブレーキングスティフネスが取得された後の荷重変化量に対応する値(ΔGx**,ΔGy**)とに基づいて、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S100,S200)と
を備えたことにある。
本発明の車両のブレーキ制御装置においては、スリップ検出手段が、車輪のスリップ率、および、スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出する。そして、ABS制御手段が、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力(車輪に付与する制動力)を調整する制御であるABS制御を開始する。
ブレーキ制御装置は、ABS制御を良好に実施するための手段として、ブレーキングスティフネス取得手段、スリップ率速度閾値演算手段、および、ブレーキングスティフネス補正手段を備えている。
ブレーキングスティフネス取得手段は、車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における車輪のスリップ率と車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを、左右前後輪独立して、予め設定された取得条件が成立したタイミングで取得する。この低スリップ率範囲は、車輪のスリップ率と車輪の制動力とが線形の関係を有するとみなすことができる範囲に設定されていればよい。車輪の制動力は、車輪に付与される制動力であって、例えば、油圧式のブレーキ装置であれば、ホイールシリンダの油圧を検出し、その検出した油圧から推定することができる。
スリップ率速度閾値演算手段は、ブレーキングスティフネスと、現時点における車輪の制動力の変化速度とに基づいて、スリップ率速度閾値を演算する。これにより、ドライバーのブレーキペダル操作速度に応じたスリップ率速度閾値を設定することができる。
制動によって車両の荷重移動が発生する。つまり、車両の荷重が前方に移動する。また、荷重の変化によってブレーキングスティフネスは変化する。従って、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する必要がある。そこで、ブレーキングスティフネス補正手段は、ブレーキングスティフネス取得手段によってブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミングで、ブレーキングスティフネスを補正する。この補正条件は、例えば、ブレーキングスティフネスを取得後に所定量以上の荷重移動が発生していると推定される条件にするとよい。
この場合、ブレーキングスティフネス取得手段によってブレーキングスティフネスが取得された後、荷重が増加した車輪については、車輪のスリップ率と制動力との関係は線形領域に入っていると考えられ、現時点における制動力とスリップ率とに基づいてブレーキングスティフネスを精度よく演算することができる。一方、荷重が低下した車輪については、車輪のスリップ率と制動力との関係が非線形領域に入っているおそれがあるため、適正なブレーキングスティフネスを演算できないおそれがある。
そこで、ブレーキングスティフネス補正手段は、第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段と第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段とを備えている。第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段は、荷重の増加傾向にある車輪である第1車輪について、現時点における制動力とスリップ率とを取得して、その取得した制動力とスリップ率とに基づいて新たなブレーキングスティフネスを演算することにより、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する。従って、現時点における制動力とスリップ率とに基づいて演算されたブレーキングスティフネスが、補正されたブレーキングスティフネスBSとなる。例えば、スリップ率速度が予め設定された閾値よりも低下した車輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定するとよい。この場合、その補正条件が成立した車輪を第1車輪とするとよい。また、それに代えて、車輪に働く荷重を検出して、ブレーキングスティフネス取得後の荷重の増加量が閾値を超えた車輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定し、この補正条件が成立した車輪を第1車輪とするようにしてもよい
第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段は、第1車輪以外の車輪である第2車輪について、第1車輪のブレーキングスティフネスの補正によるブレーキングスティフネスの変化量と、第1車輪におけるブレーキングスティフネスが取得されてから補正されるまでの期間の荷重変化量に対応する値と、第2車輪におけるブレーキングスティフネスが取得された後の荷重変化量に対応する値とに基づいて、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する。
例えば、第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段は、「第1車輪におけるブレーキングスティフネスが取得されてから補正されるまでの期間の荷重変化量に対応する値」に対する「第1車輪のブレーキングスティフネスの補正によるブレーキングスティフネスの変化量」の比に、「第2車輪におけるブレーキングスティフネスが取得された後の荷重変化量に対応する値」を乗算して得られる値を、第2車輪のブレーキングスティフネスを補正するための補正量として用いて、第2車輪のブレーキングスティフネスを補正するとよい。
車輪の荷重の変化は、車体の加減速によって発生する。従って、「荷重変化量に対応する値」としては、例えば、「車体の加速度の変化量」を用いるとよい。また、車両が制動中に旋回運動した場合には、左右方向に荷重移動が発生するため、前後方向の荷重変化量に加えて左右方向の荷重変化量を考慮してもよい。
これにより、荷重が低下する車輪においても、適正にブレーキングスティフネスを補正することができる。しかも、ブレーキングスティフネス取得手段によるブレーキングスティフネスを取得するタイミングが各車輪間において異なっていても、ブレーキングスティフネスを取得するタイミングから補正するタイミングまでの荷重変化量に対応したブレーキングスティフネスの補正を行うことができる。スリップ率速度閾値演算手段は、補正されたブレーキングスティフネスと現時点における車輪の制動力の変化速度とに基づいて、スリップ率速度閾値を演算する。
従って、本発明によれば、スリップ率速度閾値を精度よく設定することができ、この結果、ABS制御を良好に実施することができる。
尚、例えば、ブレーキングスティフネス取得手段は、車輪のスリップ率が所定の設定低スリップ率を超えたタイミングにて、車輪のスリップ率と車輪の制動力とを取得し、車輪の制動力を車輪のスリップ率で除算して得られる値に基づいてブレーキングスティフネスを決定するように構成されるとよい。
また、例えば、スリップ率速度閾値演算手段は、車輪の制動力の変化速度をブレーキングスティフネスで除算して得られる値に基づいてスリップ率速度閾値を決定するように構成されるとよい。
また、例えば、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときのスリップ率を取得し、その取得したスリップ率に基づいて目標スリップ率を設定する目標スリップ率設定手段を備えているとよい。
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御装置の概略構成図である。 目標スリップ率演算ルーチンを表すフローチャートである。 BS演算ルーチンを表すフローチャートである。 BS補正比演算ルーチンを表すフローチャートである。 BS補正比を用いたBS補正演算ルーチンを表すフローチャートである。 フラグ設定ルーチンを表すフローチャートである。 スリップ率(横軸)と摩擦係数(縦軸)との関係を表すグラフである。 摩擦係数(横軸)とスリップ率(縦軸)との関係を表すグラフである。 スリップ率(横軸)と制動力(縦軸)との関係を表すグラフである。 荷重の増減に応じて変化する、スリップ率(横軸)と制動力(縦軸)との関係であるブレーキングスティフネスを表すグラフである。 ブレーキングスティフネスの補正原理を説明するために用いるグラフである。 荷重の変化バランスを表す説明図である。 ブレーキングスティフネスの補正方法を表す説明図である。
以下、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御装置1の概略構成を表す。ブレーキ制御装置1は、4輪の車両に適用され、ブレーキECU10と、油圧式摩擦ブレーキ機構20と、ブレーキアクチュエータ30と、車輪速センサ40と、ブレーキストロークセンサ50と、加速度センサ60とを備えている。ブレーキECU10は、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して他のECU(例えば、エンジンECU等)と相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。尚、ECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。
油圧式摩擦ブレーキ機構20は、左前輪WHFL、右前輪WHFR、左後輪WHRL、右後輪WHRRにそれぞれ設けられる。以下、左前輪WHFL、右前輪WHFR、左後輪WHRL、右後輪WHRRを特定する必要がない場合には、それらを車輪WH、あるいは、車輪WH**と総称する。また、左前輪WHFLおよび右前輪WHFRについては、それらを前輪WHF*と総称し、左後輪WHRLおよび右後輪WHRRについては、それらを後輪WHR*と総称する。
油圧式摩擦ブレーキ機構20は、車輪WHに固定されるブレーキディスク21と、車体に固定されるブレーキキャリパ22とを備え、ブレーキアクチュエータ30から供給される作動油の油圧によってブレーキキャリパ22に内蔵されたホイールシリンダ23を作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク21に押し付けて摩擦制動力を発生させる。
ブレーキアクチュエータ30は、ホイールシリンダ23に供給する油圧を、各車輪WHごとに独立して調整する公知のアクチュエータである。このブレーキアクチュエータ30は、例えば、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダからホイールシリンダ23に油圧を供給する踏力油圧回路に加え、ブレーキペダル踏力を用いず制御油圧を各ホイールシリンダ23に独立して供給する制御油圧回路を備えている。制御油圧回路には、昇圧ポンプおよびアキュムレータを有し高圧の油圧を発生する動力油圧発生装置と、動力油圧発生装置の出力する油圧を調整してホイールシリンダ23に供給する制御弁群を備えている。この制御弁群は、動力油圧発生装置の出力する油圧を目標油圧に調整するリニア制御弁、常開式電磁弁であってABS制御における保持モードにおいて閉弁されるABS保持弁、および、常閉式電磁弁であってABS制御における減圧モードにおいて開弁されてホイールシリンダ23とリザーバーとを連通させてホイールシリンダ23を減圧させるABS減圧弁などを備えている。ABS保持弁およびABS減圧弁は、リニア制御弁よりも下流側に設けられ、各ホイールシリンダ23の個々の油圧回路に設けられる。尚、ブレーキアクチュエータ30は、種々の形式のものが知られているため、それらの任意のものを採用することができる。
ブレーキアクチュエータ30は、ホイールシリンダ23の油圧、マスタシリンダの油圧、および、動力油圧発生装置の出力する油圧をそれぞれ検出する油圧センサを備え、各油圧センサの検出信号をブレーキECU10に送信する。
車輪速センサ40は、前後左右輪WHにそれぞれ設けられ、車輪WHの回転速度(車輪速)を表す信号をブレーキECU10に送信する。ブレーキECU10は、4輪の車輪速を用いて、車両の走行速度である車体速を演算する。車体速の演算方式は、種々知られている任意の方式を採用すればよい。演算された車体速を表す情報は、図示しないCANを介して、各種のECUに送信される。ブレーキECU10は、後述するように、車輪速と車体速とに基づいて、車輪WHのスリップ率を演算する。
ブレーキストロークセンサ50は、ブレーキペダルの踏み込み量(操作量)であるペダルストロークを検出し、検出したブレーキペダルストロークを表す信号をブレーキECU10に送信する。
加速度センサ60は、車体の前後方向の加速度である前後加速度Gx、および、車体の左右方向(車幅方向)の加速度である横加速度Gyを検出し、検出した前後加速度Gx、および、横加速度Gyを表す信号をブレーキECU10に送信する。また、前後加速度Gx、および、横加速度Gyは、その符号(正負)によって、その方向が特定される。
ブレーキECU10は、ブレーキペダルストロークに基づいて、ドライバーの要求する制動力である要求制動力を決定し、その要求制動力が油圧式摩擦ブレーキ機構20によって発生するように、ブレーキアクチュエータ30の作動を制御する。
<ABS制御の概要>
次に、ブレーキECU10の実施するABS制御について説明する。ABS制御は、各車輪WHごとに実施される。ABS制御は、油圧式摩擦ブレーキ機構20の作動によって車輪WHがロックするおそれが検出されたときに開始され、スリップ率が、目標スリップ率近傍の範囲に維持されるように、ドライバーのブレーキペダル操作とは無関係に、車輪WHに付与する制動力を調整する制御である。制動力の調整にあたっては、例えば、ブレーキアクチュエータ30に設けられたABS保持弁、および、ABS減圧弁の開閉制御によってホイールシリンダ23の油圧が調整される。
こうしたABS制御については、従来から知られている手法を採用することができる。ABS制御においては、目標スリップ率をμピークスリップ率に近い値に設定することが重要である。μピークスリップ率は、最も高い摩擦係数μが得られるスリップ率である。μピークスリップ率は、路面状態等によって変化する。従って、μピークスリップ率を正しく推定することが重要となる。
図7のμ−S特性に示されるように、摩擦係数μは、制動開始当初ではスリップ率Sの増加にほぼ比例して増加する。この摩擦係数μがスリップ率Sにほぼ比例して増加する領域が線形上昇領域である。摩擦係数μは、制動力が摩擦力を上回っている場合、その差がゼロになるまで上昇する。
スリップ率Sが線形上昇領域を超えて更に増加した場合には、スリップ率Sと摩擦係数μとの関係が非線形になる。スリップ率は、線形上昇領域から非線形上昇領域に進入すると、その増加速度(スリップ率速度)が急に速くなる。このスリップ率が急に速くなるポイントから、更にスリップ率が増加したポイントに摩擦係数μが最大となるμピークμpeakが表れる(μピークスリップ率Speakが存在する)。従って、スリップ率が急に速くなるポイントを見つけることで、そのポイントを基準としてμピークスリップ率Speakを推定することができる。
図8は、横軸を摩擦係数μ、縦軸をスリップ率Sにて表した特性図である。横軸は、タイヤトルクとみなすことができる。ブレーキ操作によって車輪の制動力が増加すると、それに伴ってスリップ率Sが増加する。そして、ポイントP1において、スリップ率Sが急に増加する。このポイントP1を基準として、スリップ率が所定値Spだけ増加したポイントP2に、μピークスリップ率Speakが存在すると推定することができる。従って、スリップ率Sが急に増加するポイントP1を見つけることで、μピークスリップ率Speakを推定することができる。
そこで、ブレーキECU10は、スリップ率速度を常時検出する。スリップ率速度は、スリップ率の変化する速度であって、単位時間当たりのスリップ率の変化量である。ブレーキECU10は、スリップ率速度が予め設定した閾値(スリップ率速度閾値)を超えたタイミングを検出する。このタイミングが、図8におけるポイントP1が検出されるタイミングである。ブレーキECU10は、このポイントP1が検出されたタイミングで、ポイントP1におけるスリップ率S1に所定値Spを加算した値(S1+Sp)を目標スリップ率Stargetに設定して、ABS制御を開始する。この所定値Spは、目標スリップ率Stargetがμピークスリップ率Speakに近い値となるように、実験等によって設定された値である。
スリップ率速度は、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって変化する。例えば、ドライバーが素早いブレーキペダル操作を行った場合には、それに応じた速い速度で制動力が変化し、スリップ率速度も制動力の変化する速度にあわせて速くなる。このため、スリップ率速度閾値を一定値に固定してしまうと、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えるタイミングにばらつきが生じる。つまり、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間におけるスリップ率が、ドライバーのペダル操作の速さに応じてばらついてしまう。このため、目標スリップ率が適正に設定されないおそれがある。
そこで、本実施形態においては、線形上昇領域における車輪のスリップ率と制動力との関係を表すブレーキングスティフネスBSを使って、スリップ率速度閾値を演算し、その演算されたスリップ率速度閾値を使って、ABS制御を開始するタイミングを決定する。ABS制御は、検知されたスリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたタイミングにて開始される。
図9は、車輪のスリップ率と制動力(タイヤ力)との関係を表す特性図である。ブレーキングスティフネスBSは、スリップ率と制動力とが線形の関係を有すると見做すことができる線形上昇領域(低スリップ率範囲)における、スリップ率に対する制動力の比、つまり、図9における制動力の傾きを表す。例えば、線形上昇領域において任意の点(SL,FxL)を通る特性であれば、ブレーキングスティフネスBSは、次式(1)によって演算することができる。
BS=FxL/SL ・・・(1)
式(1)から、スリップ率Sは、制動力FxとブレーキングスティフネスBSとを使って、次式(2)のように表すことができる。
S=Fx/BS ・・・(2)
低スリップ率範囲では、スリップ率Sと制動力Fxとが線形の関係を有すると見做すことができるため、制動力Fxの変化する速度である制動力速度dFx/dtと、スリップ率速度dS/dtとは、一対一に対応する。従って、制動力速度dFx/dtがわかれば、それに対応したスリップ率速度閾値を設定することによって、ABS制御を開始するときのスリップ率がばらつかないようにすることができる。
本実施形態においては、次式(3)に示すように、制動力速度dFx/dtをブレーキングスティフネスBSで除算してスリップ率速度基準値dSref/dtが算出される。
dSref/dt=(dFx/dt)/BS ・・・(3)
そして、このスリップ率速度基準値dSref/dtに基づいて、ABS制御の開始タイミングを決定するスリップ率速度閾値が設定される。
ABS制御は、スリップ率速度がスリップ率速度基準値dSref/dtから急に増加するタイミングで開始するとよい。そのようにするために、スリップ率速度閾値は、スリップ率速度基準値dSref/dtに、所定値dSnを加算した値(dSref/dt+dSn)に設定される。以下、この所定値dSnをスリップ率速度ノイズオフセットdSnと呼ぶ。
スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたタイミングで目標スリップ率が演算され、それと同時に、ABS制御が開始される。目標スリップ率は、ABS制御が開始されるとき(スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたとき)のスリップ率Sに、予め設定された値Sp(μピークスリップ率オフセットと呼ぶ)を加算した値に設定される。
このように、ブレーキングスティフネスBSおよび制動力速度dFx/dtを考慮してスリップ率速度閾値を設定することにより、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって、ABS制御が開始されるときのスリップ率がばらついてしまうことを抑制することができる。その結果、目標スリップ率をμピークスリップ率Speakに近い値に設定することができる。
ブレーキングスティフネスBSは、各車輪別々に、ブレーキングスティフネスBSの演算条件が成立した時(制動開始当初の低スリップ率時)において演算される。一方、ABS制御は、ブレーキングスティフネスBSが演算された後、実際に、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたことが検出されたタイミングで開始される。このため、ブレーキングスティフネスBSが演算されてからABS制御が開始されるまでのあいだに、制動力によって車両の荷重移動が発生した場合には、ブレーキングスティフネスBSが変化する。
制動時においては、車両の荷重は前方に移動する。このため、前輪の荷重は増加し、後輪WHRの荷重は低下する。図10は、荷重変化が発生した場合の、車輪のスリップ率Sと制動力Fxとの関係を表す。図示するように、荷重増加に伴ってブレーキングスティフネスBSは増加する。
ABS制御は、できるだけ最新のブレーキングスティフネスBSを用いて演算されたスリップ率速度閾値にて開始タイミングが決定されることが好ましい。そこで、本実施形態においては、制動開始当初に演算されたブレーキングスティフネスBSを補正する補正処理が行われる。この場合、現時点における制動力Fxcとスリップ率Scとを再度検出し、上記式(1)に示すように、制動力Fxcをスリップ率Scで除算することにより最新のブレーキングスティフネスBSを再取得する方法が考えられる。
荷重が増加した前輪については、車輪のスリップ率は線形領域に入っている(非線形領域に入っていない)と考えられる。このため、上記のように演算された結果(Fxc/Sc)を正しい値として採用することができる。
一方、荷重が低下した後輪については、スリップ率と制動力との関係が非線形領域に入っているおそれがあり、上記のように算出したブレーキングスティフネスBSを、スリップ率速度閾値を決める適正なブレーキングスティフネスBSとして採用することができない。
そこで、荷重が減少した後輪については、前輪におけるブレーキングスティフネスBSの増加した量(ΔBS)を用いて、ブレーキングスティフネスBSの補正量が算出される。例えば、前輪のブレーキングスティフネスBSFがBS1FからBS2Fに増加した場合、後輪のブレーキングスティフネスBSRは、最初に演算されたブレーキングスティフネスBS1Rから、前輪のブレーキングスティフネスBSFの増加量ΔBSF(=BS2F−BS1F)だけ減算した値に設定すればよい(BSR=BS1R−ΔBSF)。
これにより、ブレーキングスティフネスBSは、前輪と後輪との間における荷重移動に対応した適切な値に補正することができる。
ただし、上記のように、前輪のブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSFを使って後輪のブレーキングスティフネスBSRを補正する手法の場合には、前輪と後輪との間で最初にブレーキングスティフネスBSF,BSRが演算されたタイミング(BS取得タイミングと呼ぶ)が異なると、BS取得タイミングからブレーキングスティフネスBSF,BSRを補正するタイミング(BS補正タイミングと呼ぶ)までの時間が共通しないため、後輪のブレーキングスティフネスBSRの補正を高精度に行うことができない。
後述するBS演算ルーチンで分かるように、ブレーキングスティフネスBSは、各輪それぞれ独立して、スリップ率Scが予め設定された低スリップ率SLを超えたと判定されたタイミングで取得(演算)される。
そこで、本実施形態においては、車体の加速度の変化量ΔGを用いて、荷重移動によるブレーキングスティフネスBSの補正量が正規化される。
ここで、ブレーキングスティフネスBSの補正量の正規化について、その原理を説明する。本実施形態においては、前輪についての、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGFに対する、ブレーキングスティフネスBSFの変化量(ΔBSF)の比(ΔBSF/ΔGF)が算出される。この比(ΔBSF/ΔGF)と、後輪についての、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGRがわかれば、後輪のブレーキングスティフネスBSRの変化量ΔBSRを推定することができる。
つまり、後輪のブレーキングスティフネスBSRの変化量ΔBSRは、前輪についての上記比(ΔBSF/ΔGF)に、後輪についての車体の加速度の変化量ΔGRを乗算することにより算出することができる(ΔBSR=(ΔBSF/ΔGF)・ΔGR)。この推定される後輪のブレーキングスティフネスBSRの変化量ΔBSRを補正量として用いることで、後輪のブレーキングスティフネスBSRを補正することができる。
このように、前輪についての、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGFに対する、ブレーキングスティフネスBSFの変化量(ΔBSF)の比(ΔBSF/ΔGF)と、後輪についてのBS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGRとの乗算値によって、後輪のブレーキングスティフネスBSRの補正量を正規化することができる。
更に、本実施形態においては、ブレーキングスティフネスBSの補正にあたり、前後方向(車体前後軸の方向)の荷重移動だけでなく、左右方向(車幅方向)の荷重移動についても考慮される。旋回時には、車両の荷重は旋回外側に移動する。このため、制動しながら旋回した場合には、旋回外側の前輪に最も荷重が移動する。この荷重の増加量が大きい側の前輪が、ブレーキングスティフネスBSの補正を行う基準とされる。以下、荷重の増加量が大きい側の前輪を基準車輪と呼ぶ。
この基準車輪については、BS補正タイミングにおける制動力Fxcとスリップ率Scとに基づいて、ブレーキングスティフネスBSF(=Fxc/Sc)が再演算される。一方、残りの3車輪については、上述したように、基準車輪についての、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGFに対する、ブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSFの比(ΔBSF/ΔGF)と、当該車輪についてのBS取得タイミングからBS補正タイミングまでのあいだの車体の加速度の変化量ΔGRとの乗算によって、ブレーキングスティフネスBSの補正量が算出される。
この場合、基準車輪のブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSFが、前後方向の荷重移動による成分ΔBSLonFと、左右方向の荷重移動による成分ΔBSlatFとに分けられる(ΔBSF=ΔBSLonF+ΔBSlatF)。そして、残り3車輪におけるブレーキングスティフネスBSの補正量は、以下のように算出される。ここでは、一例として、残り3車輪の一つを後輪として説明する。
例えば、図11(a)に示すように、荷重移動によって基準車輪のブレーキングスティフネスBSFが初期ブレーキングスティフネスBS1Fから補正時ブレーキングスティフネスBS2Fに変化した場合、後輪のブレーキングスティフネスBSRは、図11(b)に示すように、初期ブレーキングスティフネスBS1Rから補正時ブレーキングスティフネスBS2Rに補正される。
各車輪のBS取得タイミングにおいては、それぞれ車両の前後加速度Gx1と横加速度Gy1とが検出されて記憶される。また、BS補正タイミングにおいても、車両の前後加速度Gx2と横加速度Gy2とが検出される。ここでは、基準車輪についての、BS取得タイミングでの前後加速度をGx1F、横加速度をGy1Fにて表し、BS補正タイミングでの前後加速度をGx2F、横加速度をGy2Fにて表す。また、残り3車輪についての、BS取得タイミングでの前後加速度をGx1R、横加速度をGy1Rにて表し、BS補正タイミングでの前後加速度をGx2R、横加速度をGy2Rにて表す
基準車輪については、上述したように、BS補正タイミングにおける制動力Fxcとスリップ率Scとに基づいて、ブレーキングスティフネスBS2F(=Fxc/Sc)が演算される。この演算結果が、基準車輪にかかる補正されたブレーキングスティフネスBSFを表している。従って、ブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSFは、このブレーキングスティフネスBS2Fから初期ブレーキングスティフネスBS1Fを減算した値となる(ΔBSF=BS2F−BS1F)。
基準車輪についてのブレーキングスティフネスBSの変化量ΔBSFは、次式(4)に示すように、前後方向の荷重移動分ΔBSLonFと、左右方向の荷重移動分ΔBSLatFとに分けられる。
ΔBSF=ΔBSLonF+ΔBSLatF ・・・(4)
そして、基準車輪についての、前後加速度GxFの変化量ΔGxF(=|Gx1F−Gx2F|)と、横加速度GyFの変化量ΔGyF(=|Gy1F−Gy2F|)とが演算される。更に、次式(5)に示すように、基準車輪についての、前後加速度GxFの変化量ΔGxFに対するブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSLonFの比を表すBS前後補正比BSadjPerGLonFが演算され、次式(6)に示すように、基準車輪についての、横加速度GyFの変化量ΔGyFに対するブレーキングスティフネスBSFの変化量ΔBSLatFの比を表すBS左右補正比BSadjPerGLatFが演算される。
BSadjPerGLonF=ΔBSLonF/ΔGxF ・・・(5)
BSadjPerGLatF=ΔBSLatF/ΔGyF ・・・(6)
基準車輪のブレーキングスティフネスBSFが補正されると、その他の車輪のブレーキングスティフネスBSRも補正される。その他の車輪(ここでは後輪として説明する)のブレーキングスティフネスBSRの補正タイミングにおいても、前後加速度GxRの変化量ΔGxR(=|Gx1R−Gx2R|)と、横加速度GyRの変化量ΔGyR(=|Gy1R−Gy2R|)とが演算される。
そして、後輪のブレーキングスティフネスBSRの前後方向の荷重移動分ΔBSLonRについては、次式(7)に示すように、基準車輪のBS前後補正比BSadjPerGLonFに後輪の前後加速度変化量ΔGxRを乗算することによって算出される。
ΔBSLonR=BSadjPerGLonF・ΔGxR ・・・(7)
また、後輪のブレーキングスティフネスBSRの左右方向の荷重移動分ΔBSLatRについては、次式(8)に示すように、基準車輪のBS左右補正比BSadjPerGLatFに後輪の横加速度変化量ΔGyRを乗算することによって算出される。
ΔBSLatR=BSadjPerGLatF・ΔGyR ・・・(8)
最終的に、後輪のブレーキングスティフネスBSRの補正量は、次式(9)に示すように、前後方向の荷重移動分ΔBSLonRと左右方向の荷重移動分ΔBSLatRとの合計値として算出される。
ΔBSR=ΔBSLonR+ΔBSLatR ・・・(9)
この場合、荷重移動の方向(左右方向、前後方向)を考慮して、残り3車輪におけるΔBSLonRとΔBSLatRとにおける符号(正負)を決定すればよい。
ここで、基準車輪についてのブレーキングスティフネスBSの変化量ΔBSFを、前後方向の荷重移動による成分ΔBSLonFと、左右方向の荷重移動による成分ΔBSLatFとに分ける方法について説明する。一例として、車両が左方向に旋回し、かつ、ブレーキ制動が行われる場合について考える。この場合、図12に示すように、旋回外側前輪である右前輪WHFRの荷重WFRは、直進定速走行時の荷重WFに、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonと、左右方向の荷重移動量ΔWLatとを加算した値に変化する(次式(10))。左前輪WHFLの荷重WFLは、直進定速走行時の荷重WFに、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonを加算し、左右方向の荷重移動量ΔWLatを減算した値に変化する(次式(11))。また、右後輪WHRRの荷重WRRは、直進定速走行時の荷重WRから、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonを減算し、左右方向の荷重移動量ΔWLatを加算した値に変化する(次式(12))。左後輪WHRLの荷重WRLは、直進定速走行時の荷重WRから、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonと、左右方向の荷重移動量ΔWLatとを減算した値に変化する(次式(13))。
WFR=WF+ΔWLon+ΔWLat ・・・(10)
WFL=WF+ΔWLon−ΔWLat ・・・(11)
WRR=WR−ΔWLon+ΔWLat ・・・(12)
WRL=WR−ΔWLon−ΔWLat ・・・(13)
従って、左右前後輪のうち右前輪WHFRの荷重移動量が最も大きくなる。右前輪WHFRにおける荷重移動量ΔWFRは、次式(14)のように表すことができる。
ΔWFR=ΔWLon+ΔWLat
=(M・|Gx|・H/L)+(M・|Gy|・H・φf/D) ・・・(14)
ここで、Mは車両の重量、Hは車両の重心高、Lは車両のホイールベース、Dは車両のトレッド、φfはロール剛性配分比を表す。
重量Mおよび重心高Hに依存しない形で、前後方向の荷重移動量ΔWLonと左右方向の荷重移動量ΔWLatとの比を表現することができる。
荷重移動前後左右比nyxを、次式(15)のように定義する。
ΔWLat/ΔWLon=nyx ・・・(15)
荷重移動前後左右比nyxは、次式(16)のように表すことができる。
nyx=(M・|Gy|・H・φf/D)/(M・|Gx|・H/L)
=(|Gy/Gx|)・(L・φf/D) ・・・(16)
従って、左右方向の荷重移動量ΔWLatは、次式(17)のように表すことができる。
ΔWLat=ΔWFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(17)
また、前後方向の荷重移動量ΔWLatは、次式(18)のように表すことができる。
ΔWlon=ΔWFR−ΔWLat ・・・(18)
これにより、左右前後輪のうちの1輪(この例では、右前輪WHFR)の荷重移動量ΔWFRから、他の車輪の荷重移動量を、前後方向と左右方向の成分に分けて算出することができる。従って、最も荷重移動量の多い右前輪WHFRのブレーキングスティフネスBSの変化量(ΔBSFR)を算出すれば、上述した荷重移動量の比を使って、変化量ΔBSFRを、左右方向と前後方向の成分に分けて他の3輪に配分することにより、他の3輪のブレーキングスティフネスBSの変化量を求めることができる。
例えば、荷重増加量の最も大きい右前輪WHFRのブレーキングスティフネスBSFRが、当初の演算値からΔBSFRだけ増加した場合を考える。この場合、右前輪WHFRのブレーキングスティフネス増加量ΔBSFRは、左右方向の荷重移動による増加成分であるΔBSLatFRと、前後方向の荷重移動による増加成分であるΔBSLonFRとに分けて、次式(19)、(20)のように計算することができる。
ΔBSLatFR=ΔBSFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(19)
ΔBSLonFR=ΔBSFR−ΔBSLatFR ・・・(20)
従って、他の車輪のブレーキングスティフネスBSについては、右前輪WHFRのブレーキングスティフネス増加量ΔBSFR(=ΔBSLonFR+ΔBSLatFR)を、上述した荷重の移動量の比を使って他の3輪に配分することができる。
ただし、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでの時間が、4車輪とも一致しているわけではないため、そのように配分するとブレーキングスティフネスBSの精度が低下する。そのために、ブレーキングスティフネスBSの補正にあたっては、上述したBS前後補正比BSadjPerGLonF、および、BS左右補正比BSadjPerGLatFが用いられる。例えば、図13に示す例では、旋回外側輪である右前輪WHFRが基準車輪に設定され、その基準車輪についてのBS前後補正比BSadjPerGLonFR、および、BS左右補正比BSadjPerGLatFRが用いられる。この場合、左前輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFLの補正量ΔBSFLは、次式(21)により計算され、右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRの補正量ΔBSRRは、次式(22)により計算され、左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRLの補正量ΔBSRLは、次式(23)により計算される。
ΔBSFL=ΔBSLonFL+ΔBSLatFL
=BSadjPerGLonFR・ΔGxFL+BSadjPerGLatFR・ΔGyFL
・・・(21)
ΔBSRR=−ΔBSLonRR+ΔBSLatRR
=−BSadjPerGLonFR・ΔGxRR+BSadjPerGLatFR・ΔGyRR
・・・(22)
ΔBSRL=−ΔBSLonRL−ΔBSLatRL
=−BSadjPerGLonFR・ΔGxRL-BSadjPerGLatFR・ΔGyRL
・・・(23)
これにより、ブレーキングスティフネスBSは、左右前後輪の全てにおいて、前後方向および左右方向の荷重移動、および、BS取得タイミングからBS補正タイミングまでの荷重移動期間の相違に対応した適切な値に補正することができる。
尚、荷重移動量の演算にあたっては、上記の説明では、定速直進走行から旋回および制動が開始されるものとして説明しているため、上記式(16)においては、前後加速度|Gx|、および、横加速後|Gy|をそのまま用いているが、実際には、ブレーキングスティフネスBSが演算された時点から、そのブレーキングスティフネスBSを補正する時点までの前後加速度Gxの変化量|ΔGx|、および、横加速後Gyの変化量|ΔGy|が用いられる。
次に、ブレーキECU10の具体的な処理についてフローチャートを用いて説明する。本実施形態におけるブレーキECU10の実施する特徴的な処理は、ABS制御で用いる目標スリップ率の設定処理(ABS制御を開始するタイミングの設定処理と表現することもできる)である。ABS制御中において行われるホイールシリンダ23の油圧制御については、従来から知られている種々の手法を採用できるため、ここでは、その説明を省略する。尚、ブレーキECU10は、以下に説明する制御ルーチンとは別に、所定の演算周期にて左右前後輪のスリップ率、および、スリップ率速度を演算している。スリップ率速度は、((車体速−車輪速)/車体速)にて算出することができる。また、スリップ率速度は、スリップ率の変化する速度であって、スリップ率を時間で微分することにより算出することができる。
また、以下に説明する各制御ルーチン(目標スリップ率演算ルーチン、BS演算ルーチン、フラグ設定ルーチン)においては、左右前後輪WH**について、それぞれの制御パラメータ等が演算される。そのため、符号の末尾に付された「**」は、その値が、左右前後輪WH**についてそれぞれ設定される値であることを表している。また、左右前輪WHF*についてそれぞれ設定される値を表す場合には、符号の末尾に「F*」が付され、左右後輪WHR*についてそれぞれ設定される値を表す場合には、符号の末尾に「R*」が付される。また、左前輪WHFLについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「FL」が付され、右前輪WHFRについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「FR」が付され、左後輪WHRLについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「RL」が付され、右後輪WHRRについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「RR」が付される。
各制御ルーチンは、所定の短い演算周期にて繰り返し実施されるが、それぞれ4回繰り返すことによって、左右前後輪(4輪)の制御パラメータ等が演算される。例えば、各制御ルーチンは、左前輪WHFLについて実施され(**=FL)、その次に、右前輪WHFLについて実施され(**=FR)、その次に、左後輪WHRLについて実施され(**=RL)、その次に、右後輪WHRLについて実施される(**=RR)。従って、図中における「**」は、所定の演算周期で、順番に「FL」,「FR」,「RL」,「RR」・・・というように切り替わるものと考えればよい。但し、その順番は、上記順番に限るものではない。また、後輪WHR*について制御ルーチンが実施される場合には、「F*」と表されている制御パラメータ等についての演算処理、および、判定処理はスキップされる(判定処理の場合は「No」と判定されればよい)。
<目標スリップ率演算ルーチン>
まず、目標スリップ率の演算処理について説明する。図2は、ブレーキECU10の実施する目標スリップ率演算ルーチンを表す。尚、目標スリップ率演算ルーチンは、後述するBS演算ルーチンおよびフラグ設定ルーチンと並行して実施される。
目標スリップ率演算ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS11において、次式(24)に示すように、4輪のスリップ率速度基準値dSref**/dtを演算する。
dSref**/dt=(dFxc**/dt)/BS** ・・・(24)
dFxc**/dtは、現時点における制動力Fxc**の変化する速度、即ち、制動力速度を表す。例えば、ブレーキECU10は、直近の所定期間における制動力Fxc**を記憶し、この制動力Fxc**の単位時間あたりの変化量に基づいて制動力速度dFxc**/dtを演算する。このようにして、スリップ率速度基準値dSref**/dtは、現時点における制動力速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算することにより算出される。尚、本実施形態においては、ブレーキECU10は、制動力の大きさを、ホイールシリンダ23の油圧によって推定する。
ブレーキングスティフネスBS**は、後述するBS演算ルーチンによって演算される。従って、ブレーキECU10は、BS演算ルーチンによって演算されたブレーキングスティフネスBS**を読み込み、その値を上記式(24)に代入することによって、スリップ率速度基準値dSref**/dtを演算する。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS12において、スリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値((dSref**/dt)+dSn)を算出し、現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)よりも大きいか否かについて判定する。
現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)以下である場合(S12:No)には、ブレーキECU10は、目標スリップ率演算ルーチンを一旦終了する。
ブレーキECU10は、所定の短い演算周期で演算対象となる車輪WH**を順番に切り替えながら目標スリップ率演算ルーチンを繰り返す。ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、スリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)よりも大きいと判定した場合(S12:Yes)、その処理をステップS13に進める。
ブレーキECU10は、ステップS13において、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「0」であるか否かについて判定する。目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**は、目標スリップ率Starget**が設定されているか否かを表すフラグ信号であって、「1」により目標スリップ率Starget**が設定済みであることを表し、「0」により目標スリップ率Starget**が設定されていないことを表す。
目標スリップ率演算ルーチンの起動時においては、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**は「0」に設定されている。従って、ブレーキECU10は、ステップS13において、「Yes」と判定し、その処理をステップS14に進める。ブレーキECU10は、ステップS14において、目標スリップ率Starget**を演算する。目標スリップ率Starget**は、次式(25)に示すように、現時点のスリップ率Sc**に、予め設定されたμピークスリップ率オフセットSpを加算して算出される。
Starget**=Sc**+Sp ・・・(25)
こうして目標スリップ率Starget**が算出されると、ブレーキECU10は、当該車輪WH**のABS制御を開始する。ABS制御が開始されると、スリップ率Sc**が目標スリップ率Starget**に追従するように、ブレーキアクチュエータ30の作動が制御される。
ブレーキECU10は、目標スリップ率Starget**を算出してABS制御を開始すると、ステップS15において、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**を「1」に設定する。これにより、目標スリップ率Starget**が設定済みとされる。
ブレーキECU10は、ステップS15の処理を実施すると、目標スリップ率演算ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、所定の演算周期で、演算対象となる車輪WH**を切り替えながら目標スリップ率演算ルーチンを繰り返す。目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されている車輪WH**については、ステップS13の判定は「No」となり、目標スリップ率Starget**は、変更されない。つまり、スリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)を超えたと最初に判定されたタイミング(S12:Yes)で、目標スリップ率Starget**が算出されてABS制御が開始され、その後は、その目標スリップ率Starget**を使って、ABS制御が継続される。従って、値((dSref**/dt)+dSn)は、ABS制御を開始するか否かを判定するための閾値、つまり、スリップ率速度閾値である。以下、値((dSref**/dt)+dSn)をスリップ率速度閾値と呼ぶこともある。尚、ABS制御が開始された後は、ブレーキングスティフネスBS**は補正されないようになっている。
ABS制御は、予め設定された終了条件が成立するまで継続される。終了条件は、例えば、ブレーキペダル操作に応じて設定されるドライバーの要求制動力が、ブレーキアクチュエータ30によって発生している制動力以下となること等、車輪WH**がロックするおそれがなくなったと判断できる条件に設定されている。また、ABS制御が終了した場合には、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**およびBS検知フラグFlagBS**は、リセットされる(「1」から「0」に切り替えられる)。
<BS演算ルーチン>
次に、ブレーキングスティフネスBSの演算方法について説明する。図3は、ブレーキECU10の実施するBS演算ルーチンを表す。BS演算ルーチンは、目標スリップ率演算ルーチン、および、後述するフラグ設定ルーチンと並行して実施される。
BS演算ルーチンが起動すると、ブレーキECU10は、ステップS21において、BS検知フラグFlagBS**が「1」であるか否かについて判定する。BS検知フラグFlagBS**は、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**を検知済みであるか否かを表すフラグ信号であり、各車輪ごとに設定される。BS検知フラグFlagBS**は、「1」により低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が検知済みであることを表し、「0」により、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が検知済みでないことを表す。
BS演算ルーチンの起動直後においては、BS検知フラグFlagBS**は「0」に設定されている。このため、ブレーキECU10は、その処理をステップS22に進めて、現時点において検出されているスリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいか否かについて判定する。このステップS22で用いられる低スリップ率SL**は、予め設定されたゼロよりも大きなスリップ率の値であって、低スリップ率範囲(スリップ率と制動力とが線形の関係を有する線形上昇領域)に入る値である。
BS演算ルーチンの起動直後においては、車輪WH**のスリップが発生していないため、「No」と判定される。この場合、ブレーキECU10は、その処理をステップS23に進めて、ブレーキングスティフネスBSの値に、予め決められた初期値BSdef**を設定する(BS**←BSdef**)。尚、この初期値BSdef**は、上述したスリップ率速度基準値dSref**/dtの演算上必要とされる仮の値である。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS24において、前輪WHF*のBS検知フラグFlagBSF*が「1」であるか否かについて判定する。この判定処理は、本ルーチンにおける演算対象となる車輪が前輪WHF*の場合において実施されるもので、後輪WHF*について本ルーチンが実施されている場合には、「No」と判定される。
本ルーチンの起動直後においては、前輪WHF*のBS検知フラグFlagBSF*は「0」に設定されているため、ブレーキECU10は、ステップS24において「No」と判定して、その処理をステップS25に進める。ブレーキECU10は、ステップS25において、演算対象となっている当該車輪WH**のBS検知フラグFlagBS**が「1」であるか否かについて判定する。本ルーチンの起動直後においては、「No」と判定される。ブレーキECU10は、ステップS25において「No」と判定すると、BS演算ルーチンを一旦終了する。
ブレーキECU10は、所定の演算周期で、演算対象となる車輪WH**を切り替えながらBS演算ルーチンを繰り返す。従って、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きくなっていない期間においては、上述した処理が繰り返される。そして、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きくなると、ステップS22の判定が「Yes」となり、ブレーキECU10は、その処理をステップS26に進める。
ブレーキECU10は、ステップS26において、演算対象となっている車輪WH**(当該車輪WH**と呼ぶこともある)の現時点のスリップ率Sc**の値を低スリップ率SL**の値に設定し(SL**←Sc**)、現時点の制動力Fxc**の値を低スリップ率時制動力FxL**の値に設定する(FxL**←Fxc**)。低スリップ率時制動力FxL**は、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定されたときの車輪の制動力である。本実施形態においては、ブレーキECU10は、制動力の大きさを、ホイールシリンダ23の油圧によって推定する。
尚、ステップS22において、現時点のスリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定された瞬間においては、その直前まで、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**以下であると判定されているため、現時点のスリップ率Sc**は、低スリップ率SL**よりも僅かに大きい値であって、低スリップ率範囲(線形上昇領域)に存在する値とみなすことができる。換言すれば、低スリップ率SL**は、ステップS22において「Yes」と判定されたときのスリップ率Sc**が必ず低スリップ率範囲に存在する値となるような低い値に設定されている。
ブレーキECU10は、ステップS26の処理を実施すると、続いて、ステップS27において、当該車輪WH**のブレーキングスティフネスBS**を演算する。ブレーキングスティフネスBS**は、スリップ率と制動力との関係を表す値であって、次式(26)に示すように、低スリップ率時制動力FxL**を低スリップ率SL**で除算することによって算出される。
BS**=FxL**/SL** ・・・(26)
このステップS27の処理は、本発明におけるブレーキングスティフネス取得手段に相当する。また、ステップS22の判定条件が、本発明における「予め設定された取得条件」に相当する。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS28において、当該車輪WH**のBS検知フラグFlagBS**を「1」に設定する。これにより、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が「検知済み」とされる。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS29において、上記のように算出した低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**の値を、当該車輪WH**の初回ブレーキングスティフネスBSfirst**として記憶する(BSfirst**←BS**)。この初回ブレーキングスティフネスBSfirst**は、後述するブレーキングスティフネスBS**の補正処理に利用される。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS30において、加速度センサ60により検出される現時点の前後加速度Gxと横加速度Gyとを読み込み、前後加速度Gxの値を当該車輪WH**のBS初回取得時前後加速度Gx1**の値として記憶し、横加速度Gyの値を当該車輪WH**のBS初回取得時横加速度Gy1**の値として記憶する(Gx1**←Gx,Gy1**←Gy)。
続いて、ブレーキECU10は、その処理を上述したステップS24に進める。ブレーキECU10は、ステップS24において、本ルーチンにおける演算対象となる車輪が前輪WHF*であって、かつ、BS検知フラグFlagBSF*が「1」である場合には、ステップS24において「Yes」と判定してその処理をステップS31に進め、そうでない場合には、ステップS24において「No」と判定してその処理をステップS25に進める。
ブレーキECU10は、ステップS31において、当該車輪WHF*(前輪)のスリップ率速度基準値dSrefF*/dtからスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを減算した値((dSrefF*/dt)−dSn)を算出し、現時点の当該車輪WHF*のスリップ率速度dScF*/dtが、値((dSrefF*/dt)−dSn)よりも小さいか否かについて判定する。このスリップ率速度基準値dSrefF*/dtは、上述した目標スリップ率演算ルーチンのステップS11で演算された最新の値を用いればよいが、BS演算ルーチン内で演算してもよい。
ブレーキングスティフネスBSF*が演算された直後においては、その時点におけるスリップ率速度dScF*/dtは、スリップ率速度基準値dSrefF*/dtと等しい値となっているため、「No」と判定される。この場合、ブレーキECU10は、その処理をステップS25に進める。
ブレーキECU10は、ステップS25において「Yes」と判定した場合、その処理をステップS32に進め、BS補正比(BS前後補正比BSadjPerGLonF*、および、BS左右補正比BSadjPerGLatF*)が演算された直後であるか否かについて判定する。このBS補正比は、後述するステップS100において、基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*の補正に伴って演算される値であって、この時点では、まだ演算されていない。このため、ブレーキECU10は、ステップS32において「No」と判定してBS演算ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、所定の短い演算周期で演算対象となる車輪WH**を順番に切り替えながらBS演算ルーチンを繰り返す。
こうした処理が繰り返されることにより、各車輪WH**において、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定されたタイミング(S22:Yes)で、ブレーキングスティフネスBS**が演算される(S27)。このブレーキングスティフネスBS**が演算されるタイミングが、上述したBS取得タイミングである。従って、BS取得タイミングは、車輪WH**ごとに相違する。ブレーキングスティフネスBS**は、ステップS27において演算された後は、ステップS31において「Yes」と判定されない間は、その値が維持される。
制動時には、車両の荷重が前方に移動し、旋回時には、車両の荷重が旋回外側に移動する。荷重が増加した車輪では、スリップ率速度(dSc/dt)が低下する。従って、ステップS31の判定処理は、所定の荷重増加が発生したか否かについて判定する処理である。この場合、所定の荷重増加が発生したと判定された(S31:Yes)車輪、つまり、現時点においてBS演算ルーチンで演算対象となっている前輪WHF*が、荷重増加量(=荷重増加傾向)の大きい側の前輪、つまり、上述した基準車輪である。
荷重が変化した場合には、ブレーキングスティフネスBSも変化する。そこで、前輪WHF*においてスリップ率速度の低下が検出されたとき(荷重増加が検出されたとき)、以下のように各車輪WH**のブレーキングスティフネスBS**の補正が実施される。従って、ステップS31の判定条件は、本発明における「予め設定された補正条件」に相当する。以下、ステップS31において「Yes」と判定されたときの演算対象となっている前輪WHF*を基準車輪WHF*と呼ぶ。
ブレーキECU10は、ステップS31において、スリップ率速度dScF*/dtが、値((dSrefF*/dt)−dSn)よりも小さいと判定した場合、その処理をステップS33に進める。ブレーキECU10は、ステップS33において、所定の荷重増加が検出された基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*を再演算する。基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*は、次式(27)に示すように、現時点における基準車輪WHF*の制動力FxcF*を、現時点における基準車輪WHF*のスリップ率ScF*で除算することにより算出される。
BSF*=FxcF*/ScF* ・・・(27)
このブレーキングスティフネスBSF*は、基準車輪WHF*における補正されたブレーキングスティフネスBSF*を表す。基準車輪WHF*は、本発明における第1車輪に相当し、ステップS33の演算処理は、本発明における第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段に相当する。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS100のBS補正比演算処理を実施する。図4は、ステップS100の処理であるBS補正比演算ルーチンを表す。ブレーキECU10は、BS補正比演算ルーチンを開始すると、ステップS101において、基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*の変化量ΔBSF*を演算する。変化量ΔBSF*は、次式(28)に示すように、今回演算した基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*と、ステップS29で記憶した基準車輪WHF*の初回ブレーキングスティフネスBSfirstF*との差分値(BSF*−BSfirstF*)により求められる。
ΔBSF*=BSF*−BSfirstF* ・・・(28)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS102において、加速度センサ60により検出される現時点の前後加速度Gxと横加速度Gyとを読み込み、前後加速度Gxの値を基準車輪WHF*のBS補正時前後加速度Gx2F*の値に設定し、横加速度Gyの値を基準車輪WHF*のBS補正時横加速度Gy2F*の値に設定する。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS103において、基準車輪WHF*の前後加速度変化量ΔGxF*と横加速度変化量ΔGyF*とを演算する。前後加速度変化量ΔGxF*は、次式(29)に示すように、ステップS30で記憶した基準車輪WHF*のBS初回取得時前後加速度Gx1F*からBS補正時前後加速度Gx2F*を減算して得られた値の絶対値にて求められる。また、横加速度変化量ΔGyF*は、次式(30)に示すように、ステップS30で記憶した基準車輪WHF*のBS初回取得時横加速度Gy1F*からBS補正時横加速度Gy2F*を減算して得られた値の絶対値にて求められる。
ΔGxF*=|Gx1F*−Gx2F*| ・・・(29)
ΔGyF*=|Gy1F*−Gy2F*| ・・・(30)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS104において、荷重移動前後左右比nyxを演算する。荷重移動前後左右比nyxは、前後荷重移動量に対する左右荷重移動量の比(左右荷重移動量/前後荷重移動量)を表すもので、次式(31)に示すように算出される。
nyx=(ΔGyF*/ΔGxF*)・(L・φf/D) ・・・(31)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS105において、左右方向の荷重移動による基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*の変化成分であるBS左右変化量ΔBSLatF*、および、前後方向の荷重移動による基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*の変化成分であるBS前後変化量ΔBSLonF*を演算する。BS左右変化量ΔBSLatF*は、次式(32)に示すように算出され、BS前後変化量ΔBSLonF*は次式(33)に示すように算出される。
ΔBSLatF*=ΔBSF*・(nyx/(1+nyx)) ・・・(32)
ΔBSLonF*=ΔBSF*−ΔBSLatF* ・・・(33)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS106において、基準車輪WHF*における前後加速度変化量ΔGxF*に対するBS前後変化量ΔBSLonF*の比を表すBS前後補正比BSadjPerGLonF*、および、基準車輪WHF*における左右加速度変化量ΔGyF*に対するBS左右変化量ΔBSLatF*の比を表すBS左右補正比BSadjPerGLatF*を演算する。BS前後補正比BSadjPerGLonF*は、次式(34)に示すように算出され、BS左右補正比BSadjPerGLatF*は、次式(35)に示すように算出される。
BSadjPerGLonF*=ΔBSLonF*/ΔGxF* ・・・(34)
BSadjPerGLatF*=ΔBSLatF*/ΔGyF* ・・・(35)
このBS前後補正比BSadjPerGLonF*、および、BS左右変化量ΔBSLatF*を、BS補正比と総称する。ブレーキECU10は、BS補正比を記憶する。
ブレーキECU10は、ステップS106の処理を実施すると、BS演算ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、所定の短い演算周期で演算対象となる車輪WH**を順番に切り替えながらBS演算ルーチンを繰り返す。この場合、BS補正比の演算(S100)が実施された直後においては、ブレーキングスティフネスBS**が演算されている車輪**(FlagBS**=1、ただし、基準車輪WHF*を除く)については、ステップS32において「Yes」と判定される。つまり、ステップS32においては、今回のBS演算ルーチンの演算対象となる車輪WH**についての前回のBS演算ルーチン(4周期前のBS演算ルーチン)の実施時点においては、まだBS補正比の演算が実施されていなく、その後、今回のBS演算ルーチンが実施されるまでの期間において、BS補正比の演算が実施されていた場合に、BS補正比の演算(S100)が実施された直後であると判定される。
ブレーキECU10は、ステップS32において、BS補正比が演算された直後であると判定した場合、その処理をステップS200に進めて、BS補正比を用いたBS補正演算処理を実施する。
図5は、ステップS200の処理であるBS補正比を用いたBS補正演算ルーチンを表す。BS補正比を用いたBS補正演算ルーチンは、基準車輪WHF*を除く車輪WH**であって、ブレーキングスティフネスBS**が演算されている車輪WH**(FlagBS**=1)について、BS演算ルーチンの演算周期にて1輪ずつ順番に実施される。
BS補正比を用いたBS補正演算ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS201において、加速度センサ60により検出される現時点の前後加速度Gxと横加速度Gyとを読み込み、前後加速度Gxの値を、BS補正演算ルーチンにおける演算対象となっている車輪WH**(当該車輪WH**)のBS補正時前後加速度Gx2**の値に設定し、横加速度Gyの値を、当該車輪WH**のBS補正時横加速度Gy2**の値に設定する。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS202において、当該車輪WH**の前後加速度変化量ΔGx**と横加速度変化量ΔGy**とを演算する。前後加速度変化量ΔGx**は、次式(36)に示すように、ステップS30で記憶した当該車輪WH**のBS初回取得時前後加速度Gx1**からBS補正時前後加速度Gx2**を減算して得られた値の絶対値にて求められる。また、横加速度変化量ΔGy**は、次式(37)に示すように、ステップS30で記憶した当該車輪WH**のBS初回取得時横加速度Gy1**からBS補正時横加速度Gy2**を減算して得られた値の絶対値にて求められる。
ΔGx**=|Gx1**−Gx2**| ・・・(36)
ΔGy**=|Gy1**−Gy2**| ・・・(37)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS203において、当該車輪WH**のブレーキングスティフネスBS**の補正量の前後方向成分であるBS前後補正量ΔBSLon**と、左右方向成分であるBS左右補正量ΔBSLat**とを演算する。BS前後補正量ΔBSLon**は、次式(38)に示すように、ステップS106で算出されたBS前後補正比BSadjPerGLonF*に、ステップS202で算出された当該車輪WH**の前後加速度変化量ΔGx**を乗算することにより求められる。また、BS左右補正量ΔBSLat**は、次式(39)に示すように、ステップS106で算出されたBS左右補正比BSadjPerGLatF*に、ステップS202で算出された当該車輪WH**の横加速度変化量ΔGy**を乗算することにより求められる。
ΔBSLon**=BSadjPerGLonF*・ΔGx** ・・・(38)
ΔBSLat**=BSadjPerGLatF*・ΔGy** ・・・(39)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS204において、当該車輪WH**のブレーキングスティフネスBS**を演算する。このブレーキングスティフネスBS**は、補正されたブレーキングスティフネスBS**を表す。ブレーキングスティフネスBS**は、次式(40)に示すように、ステップS29で記憶した当該車輪WH**の初回ブレーキングスティフネスBSfirst**に、BS前後補正量ΔBSLon**とBS左右補正量ΔBSLat**とを加減算して求められる。
BS**=BSfirst**±ΔBSLon**±ΔBSLat** ・・・(40)
この場合、式(40)における右辺第2項の符号は、当該車輪WH**が前輪である場合には、+(正)が設定され、当該車輪WH**が後輪である場合には、−(負)が設定される。また、式(40)における右辺第3項の符号は、当該車輪WH**が基準車輪WHF*と左右同じ側である場合には、+(正)が設定され、当該車輪WH**が基準車輪WHF*と左右反対側である場合には、−(負)が設定される。
ブレーキECU10は、ステップS204の処理を実施するとBS演算ルーチンを一旦終了する。そして、所定の短い演算周期で演算対象となる車輪WH**を順番に切り替えながらBS演算ルーチンを繰り返す。これにより、残りの車輪WH**についても、ブレーキングスティフネスBS**の補正が実施される。
図13は、基準車輪WHF*が右前輪WHFRである場合についての、ブレーキングスティフネスBS**の補正処理を表す。この例では、右前輪WHFRについて、ブレーキングスティフネスBSFRが補正される(式(27)参照)とともに、そのときのBS変化量ΔBSFRが、BS前後変化量ΔBSLonFRとBS左右変化量ΔBSLatFRとに分けられる(式(32)、式(33)参照)。そして、BS前後変化量ΔBSLonFRと前後加速度変化量ΔGxFRとに基づいてBS前後補正比BSadjPerGLonFRが演算され(式(34)参照)、BS左右変化量ΔBSLatFRと左右加速度変化量ΔGyFRとに基づいてBS左右補正比BSadjPerGLatFRが演算される(式(35)参照)。
一方、基準車輪WHFR以外の車輪WH**については、基準車輪WHFRにて算出されたBS前後補正比BSadjPerGLonFR、および、BS左右補正比BSadjPerGLatFRが読み込まれ、BS前後補正比BSadjPerGLonFRと当該車輪WH**の前後加速度変化量ΔGx**とに基づいてBS前後補正量ΔBSLon**が算出され(式(38)参照)、BS左右補正比BSadjPerGLatFRと当該車輪WH**の横加速度変化量ΔGy**とに基づいてBS左右補正量ΔBSLat**が算出される(式(39)参照)。
<フラグ設定ルーチン>
ブレーキECU10は、上記の目標スリップ率演算ルーチンおよびBS演算ルーチンとと並行して、図6に示すフラグ設定ルーチンを所定の短い演算周期にて実施する。ABS制御においては、一旦、目標スリップ率Starget**が設定されると、その目標スリップ率Starget**を継続的に使ってスリップ率が制御される。フラグ設定ルーチンは、ABS制御が実施されている途中で、上述したBS検知フラグFlagBS**、および、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をリセットすることにより、目標スリップ率演算ルーチンで目標スリップ率Starget**が再演算されるようにするための処理である。
フラグ設定ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS301において、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されているか否かについて判定する。つまり、ABS制御が実施されているか否かについて判定する。目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「0」に設定されている場合(S301:No)、ブレーキECU10は、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されていると判定した場合、その処理をステップS32に進める。
ブレーキECU10は、ステップS302において、リセット判定閾値Sreset**を演算する。リセット判定閾値Sressetは、次式(41)に示すように、現時点における目標スリップ率Starget**から予め設定された設定値Sdownだけ減算した値に設定される。
Sreset**=Starget**−Sdown ・・・(41)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS303において、現時点におけるスリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**よりも小さいか否かについて判定する。スリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**以上である場合(S303:No)、ブレーキECU10は、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。
ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、現時点におけるスリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**よりも小さくなったことを検知すると(S303:Yes)、その処理をステップS304に進める。
ブレーキECU10は、ステップS304において、BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をリセットする。つまり、BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をそれぞれ「0」に設定する。ブレーキECU10は、ステップS304の処理を実施すると、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。
BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**がリセットされると、BS演算ルーチン(図3)においては、ステップS21で「No」と判定される。従って、上述したステップS22からの処理が再開される。これにより、新たなブレーキングスティフネスBS**が演算される。また、目標スリップ率演算ルーチン(図2)においては、新たなブレーキングスティフネスBS**と現時点の制動力速度dFxc**/dtとに基づいて、スリップ率速度基準値dSref**/dtが演算される(S11)。これにより、ABS制御の実施中において、目標スリップ率Starget**が更新される。
以上説明した本実施形態の車両のブレーキ制御装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
1.制動力の変化速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算してスリップ率速度基準値dSref**/dtが算出され、このスリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値がスリップ率速度閾値に設定される。そして、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたときに、ABS制御が開始される。従って、ABS制御が開始されるときのスリップ率のバラツキを低減することができる。つまり、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって、ABS制御が開始されるときのスリップ率がばらついてしまうことを抑制することができる。
2.スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたとき、そのときのスリップ率Sc**にμピークスリップ率オフセットSpを加算して目標スリップ率Starget**(=Sc**+Sp)が算出される。従って、μピークスリップ率に近い適正な目標スリップ率Starget**を設定することができる。
3.ブレーキングスティフネスBS**が演算された後、前輪WHF*のスリップ率速度dScF*/dtが所定値(dSrefF*/dt−dSn)よりも低下したときに、4輪のブレーキングスティフネスBS**が補正される。従って、荷重移動後のブレーキングスティフネスBS**を再度取得することができる。そして、補正されたブレーキングスティフネスBS**と現時点の車輪の制動力の変化速度dFxc**/dtとに基づいて、スリップ率速度閾値が再演算される。従って、一層適正なスリップ率速度閾値を演算することができる。
4.ブレーキングスティフネスBS**の補正に際して、荷重増加量の大きい側の前輪である基準車輪については、現時点におけるFxcF*とスリップ率ScF*とに基づいて新たなブレーキングスティフネスBSF*が演算される。一方、基準車輪以外の3車輪については、基準車輪のブレーキングスティフネスBSF*の補正によるブレーキングスティフネスの変化量ΔBSF*と、車両の減速運動による前後方向の加速度変化量ΔGx**と車両の旋回運動による左右方向の加速度変化量ΔGy**とのバランスに応じた配分比とに基づいて、最初に取得されたブレーキングスティフネスBS**が補正される。これにより車両の減速運動および旋回運動の両方を考慮したブレーキングスティフネスBS**の補正を行うことができる。従って、荷重が低下する車輪においても、適正にブレーキングスティフネスBS**を補正することができる。
5.更に、ブレーキングスティフネスBS**の補正に際しては、基準車輪については、BS前後変化量ΔBSLonF*と前後加速度変化量ΔGxF*とに基づいてBS前後補正比BSadjPerGLonF*が演算され、BS左右変化量ΔBSLatF*と左右加速度変化量ΔGyF*とに基づいてBS左右補正比BSadjPerGLatF*が演算される。一方、基準車輪以外の車輪については、BS前後補正比BSadjPerGLonF*と前後加速度変化量ΔGx**とに基づいてBS前後補正量ΔBSLon**が演算され、BS左右補正比BSadjPerGLatF*と横加速度変化量ΔGy**とに基づいてBS左右補正量ΔBSLat**が演算される。
これにより、ブレーキングスティフネスBS**を取得するタイミングが各車輪間において異なっていても、ブレーキングスティフネスBS**を取得するタイミングから補正するタイミングまでの荷重変化量に対応したブレーキングスティフネスBS**の補正を行うことができる。したがって、スリップ率速度閾値を精度よく設定することができ、この結果、ABS制御を良好に実施することができる。
6.ABS制御が開始された後に、予め設定されたリセット条件(Sc**<(Starget**−Sdown))が成立した場合には、再度、ブレーキングスティフネスBS**が演算され、そのブレーキングスティフネスBS**と制動力の変化速度dFxc**/dtとに基づいてスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)が算出される。そして、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたときの、スリップ率Sc**に基づいて目標スリップ率Starget**が再設定される。従って、目標スリップ率Starget**を適正に更新することができる。
以上、本実施形態に係る車両のブレーキ制御装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、ABS制御中に、リセット条件が成立した場合に目標スリップ率を再設定する構成であるが、必ずしもそのようにする必要は無い。つまり、フラグ設定ルーチンを実施しない構成であってもよい。
また、本実施形態においては、ブレーキングスティフネスBSの補正条件は、スリップ率速度が閾値よりも低下すること(S31:Yes)であり、その補正条件が成立した前輪が基準車輪(第1車輪)に設定されるが、必ずしも、そのようにする必要はない。例えば、荷重センサにより車輪に働く荷重を検出して、ブレーキングスティフネス取得後の荷重の増加量が閾値を超えた前輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定し、この補正条件が成立した前輪を基準車輪(第1車輪)とするようにしてもよい。
また、本実施形態においては、ブレーキングスティフネスBSの補正量ΔBSを、前後方向の荷重移動による成分と、左右方向の荷重移動による成分とに分けて演算するが、必ずしも、そのように分けて演算する必要は無く、例えば、左右方向の荷重移動による成分を考慮しない構成(例えば、ΔBSLatF*=0)であってもよい。
1…ブレーキ制御装置、10…ブレーキECU、20…油圧式摩擦ブレーキ機構、30…ブレーキアクチュエータ、40…車輪速センサ、50…ブレーキストロークセンサ、60…加速度センサ、BS…ブレーキングスティフネス、Sc…スリップ率、dSc/dt…スリップ率速度、Sp…ピークスリップ率オフセット、Starget…目標スリップ率、Fxc…制動力、dFxc/dt…制動力速度、W…車輪、μ…摩擦係数、BSadjPerGLatF*…BS左右補正比、BSadjPerGLonF*…BS前後補正比、ΔBSLatF*…BS左右変化量、ΔBSLonF*…BS前後変化量、ΔGyF*…左右加速度変化量、ΔGxF*…前後加速度変化量。

Claims (1)

  1. 車輪のスリップ率、および、前記スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出するスリップ検出手段と、
    前記スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、前記車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力を調整する制御であるABS制御を開始するABS制御手段と、
    前記車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における前記車輪のスリップ率と前記車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを、左右前後輪独立して、予め設定された取得条件が成立したタイミングで取得するブレーキングスティフネス取得手段と、
    前記ブレーキングスティフネスと、現時点における前記車輪の制動力の変化速度とに基づいて、前記スリップ率速度閾値を演算するスリップ率速度閾値演算手段と、
    前記ブレーキングスティフネス取得手段によって前記ブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミングで前記ブレーキングスティフネスを補正するブレーキングスティフネス補正手段と
    を備えた車両のブレーキ制御装置であって、
    前記ブレーキングスティフネス補正手段は、
    荷重の増加傾向にある車輪である第1車輪について、現時点における前記制動力と前記スリップ率とを取得して、その取得した前記制動力と前記スリップ率とに基づいて新たな前記ブレーキングスティフネスを演算することにより、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得された前記ブレーキングスティフネスを補正する第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段と、
    前記第1車輪以外の車輪である第2車輪について、前記第1車輪のブレーキングスティフネスの補正による前記ブレーキングスティフネスの変化量と、前記第1車輪における前記ブレーキングスティフネスが取得されてから補正されるまでの期間の荷重変化量に対応する値と、前記第2車輪における前記ブレーキングスティフネスが取得された後の荷重変化量に対応する値とに基づいて、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段と
    を備えた車両のブレーキ制御装置。
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