しかしながら、従来装置においては、先読み横加加速度をベースとした加減速制御量が演算されるため、加減速がハンチングして乗り心地が悪化する。また、不要な減速が行われることがある。以下、その理由について説明する。
例えば、プレビューポイントにおけるカーブの曲率Cpは、現在の曲率Cc(自車両の現在位置の曲率)と、曲率変化率dと、自車両位置からプレビューポイントまでの距離ΔL(先読み距離と呼ぶ)とを用いれば、次式(1)にて計算される。
Cp=Cc+dΔL ・・・(1)
従って、先読み横加速度Gypは、次式(2)にて計算され、先読み横加加速度Jypは、次式(3)にて計算される。Vは、自車両の車速である。
Gyp=(Cc+dΔL)・V2 ・・・(2)
Jyp=(Cc+dΔL)・V2−Cc・V2=dΔL・V2・・・(3)
従って、先読み横加加速度Jypは、dΔL・V2がベースとされる。しかし、曲率変化率dは、道路の白線認識によって求められるものであり、図10に示すように、ノイズが大きい。このため、加減速制御量は、図11に示すようにハンチングする。
また、自車両がレーンチェンジをするときには、車体が道路の形成方向に対して斜めに偏向するため、図12の太線にて示すように、直線道路であるにもかかわらず、カメラの撮像した白線がカーブした形状として認識されることがある。この場合には、曲率変化率dが真値に比べて大きくなり、加減速制御量の大きさが過剰になる(減速度が過剰になる)。この結果、必要でもない減速が行われてしまう。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、減速度のハンチングを低減して乗り心地を向上させること、および、不要な減速が行われることを低減することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、
自車両がカーブ路を走行する際に減速制御量(A)を演算し、前記減速制御量に従って自車両を減速させる車両用運転支援装置(1)において、
車線情報に基づいて自車両の走行位置における道路の曲率である現在曲率(Cc)、および、自車両から所定距離前方位置における道路の曲率である先読み曲率(Cp)を取得する曲率取得手段(S12,S13)と、
前記現在曲率が現在曲率閾値以下であり、かつ、前記先読み曲率が先読み曲率閾値以上であるという道路曲率条件が成立するか否かを判定する曲率条件判定手段(S15,S21)と、
自車両のウインカーが作動している状況でもなく、自車両がレーンチェンジを行っている状況でもないという運転条件が成立するか否かを判定する運転条件判定手段(S17,S22)と、
前記道路曲率条件と前記運転条件との両方が成立する場合に(S15:Yes,S17:Yes,S21:No,S22:No)、自車両の現在の車速に応じて、前記車速が高くなるにしたがって減速度の大きさが増加するベース減速制御量(Abase)を演算するベース制御量演算手段(S19)と、
前記先読み曲率が大きくなるにしたがって低くなるように設定された目標車速から自車両の現在の車速を減算した車速偏差が大きいほど、前記ベース減速制御量の大きさを小さくするように補正して前記減速制御量(A)を算出する減速制御量演算手段(S21)と
を備えたことにある。
本発明の車両用運転支援装置は、自車両がカーブ路を走行する際に減速制御量(要求減速度)を演算し、その減速制御量に従って自車両を減速させることにより、ドライバーの運転操作(ペダル操作)を支援する。例えば、この車両用運転支援装置は、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の実施中において、自車両がカーブ路を走行する際の減速制御量である要求減速度を演算して、その要求減速度で自車両を減速させる。
車両用運転支援装置は、曲率取得手段と、曲率条件判定手段と、運転条件判定手段と、ベース制御量演算手段と、減速制御量演算手段とを備えている。
曲率取得手段は、車線情報に基づいて自車両の走行位置における道路の曲率である現在曲率、および、自車両から所定距離前方位置における道路の曲率である先読み曲率を取得する。例えば、曲率取得手段は、自車両の前方を撮影するカメラの画像を用いて白線を認識し、この白線に基づいて現在曲率、および、先読み曲率を取得する。この場合、例えば、自車両の車速が高いほど、所定距離が大きくなるように調整されることが好ましい。
曲率条件判定手段は、現在曲率が現在曲率閾値以下であり、かつ、先読み曲率が先読み曲率閾値以上であるという道路曲率条件が成立するか否かを判定する。この場合、例えば、現在曲率閾値は、自車両の車速が高いほど、大きくなるように調整されることが好ましく、先読み曲率閾値は、自車両の車速が高いほど、小さくなるように調整されることが好ましい。
運転条件判定手段は、自車両のウインカーが作動している状況でもなく、自車両がレーンチェンジを行っている状況でもないという運転条件が成立するか否かを判定する。例えば、自車両が白線(自車レーンと隣接レーンとの境界を形成する白線)を跨いだ時点から所定時間経過するまでの期間を、自車両がレーンチェンジを行っている状況であるとすればよい。
ベース制御量演算手段は、道路曲率条件と運転条件との両方が成立する場合に、自車両の現在の車速に応じて、車速が高くなるにしたがって減速度の大きさ(絶対値)が増加するベース減速制御量を演算する。
減速制御量演算手段は、先読み曲率が大きくなるにしたがって低くなるように設定された目標車速から自車両の現在の車速を減算した車速偏差が大きいほど、ベース減速制御量の大きさを小さくするように補正して減速制御量を算出する。
従って、曲率変化率にノイズが生じていても、車速に応じたベース減速制御量が演算されるため、ベース減速制御量については、その曲率変化率に含まれるノイズの影響を受けない。また、先読み曲率が大きくなるにしたがって目標車速が低くなるように設定され、この目標車速から自車両の現在の車速を減算した車速偏差が大きいほど、ベース減速制御量が、その大きさが小さくなるように補正される。この補正されたベース減速制御量が減速制御量として用いられる。
このため、先読みポイントにおけるカーブが急な場合、および、車速が高い場合には、減速度の大きな(減速度の絶対値の大きな)減速制御量が演算され、早めに適正な減速を行うことができる。また、先読みポイントにおけるカーブが緩い場合、および、車速が低い場合には、減速度の小さな(減速度の絶対値の小さな)減速制御量が演算され、過剰な減速が行われないようにすることができる。
また、ベース減速制御量を補正して減速制御量を算出するにあたって、先読み曲率が用いられるが、先読み曲率は、現在曲率と、曲率変化率に所定距離を乗算した値との和で求められるため、曲率変化分の占める割合は少ない。従って、曲率変化率に含まれるノイズが減速制御量の演算に与える影響は少ない。このため、減速制御量のハンチングを抑制することができる。
また、レーンチェンジが行われている状況において道路の誤った曲率が取得されたとしても、誤った曲率に基づいて減速制御量が算出されない。このため、レーンチェンジ時に不要な減速を抑制することができる。
この結果、本発明によれば、減速度のハンチングを抑制して乗り心地を向上させるとともに、不要な減速が行われることを抑制することができる。
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の車両用運転支援装置1の概略システム構成図である。
本実施形態の車両用運転支援装置1は、車両VAに搭載される。以下、この車両用運転支援装置1を搭載した車両VAについて、他車両と区別する必要がある場合には、自車両VAと呼ぶこともある。
運転支援ECU10、エンジンECU20、ブレーキECU30、および、メータECU40を備える。これらのECUは、図示しないCAN(Controller Area Network)を介してデータ交換可能(通信可能)に互いに接続されている。
ECUは、エレクトロニックコントロールユニットの略称であり、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御回路である。CPUは、メモリ(ROM)に格納されたインストラクション(ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。これらのECUは、一つのECUに統合されてもよい。
車両用運転支援装置1は、車輪速センサ11、ヨーレートセンサ12、カメラ装置13、ミリ波レーダ装置14、加速度センサ15、および、ACCスイッチ16を備える。これらは運転支援ECU10に接続されている。
車輪速センサ11は、各車輪毎に設けられる。各車輪速センサ11は、対応する車輪が所定角度回転する毎に一つのパルス信号(車輪パルス信号)を発生させる。運転支援ECU10は、各車輪速センサ11から送信されてくる車輪パルス信号の単位時間におけるパルス数を計測し、その計測したパルス数に基づいて各車輪の回転速度(車輪速度)を取得する。運転支援ECU10は、各車輪の車輪速度に基づいて車両VAの速度を示す車速Vsを取得する。一例として、運転支援ECU10は、四つの車輪の車輪速度の平均値を車速Vsとして取得する。尚、車速Vsは、必ずしも運転支援ECU10で演算される必要は無く、例えば、ブレーキECU30によって演算されてもよい。その場合には、ブレーキECU30は、車輪速度に基づいて車速Vsを演算し、その演算結果である車速Vsを表す情報を、運転支援ECU10を含む他のECUに対して送信する。
ヨーレートセンサ12は、車両VAに作用するヨーレートYrを検出し、検出したヨーレートYrを表す信号(以下、ヨーレート信号と呼ぶ)を出力する。
カメラ装置13は、車室内のフロントウインドの上部に配設されている。カメラ装置13は、車両VAの前方領域の画像(カメラ画像)を取得し、その画像から物体情報(物体までの距離及び物体の方位等)、および、車両が走行している車線を区画する白線に関する車線情報を取得する。
ミリ波レーダ装置14は、ミリ波送受信部と処理部とを備えている。ミリ波レーダ装置14は、車両VAの前端部且つ車幅方向の中央部に配設されている。ミリ波送受信部は、車両VAの直進前方向に伸びる中心軸を有する。更に、ミリ波送受信部は、この中心軸から左方向及び右方向にそれぞれ所定の角度の広がりをもって伝播するミリ波を発信する。そのミリ波は、物体(例えば、他の車両、歩行者及び二輪車等)により反射される。ミリ波送受信部はこの反射波を受信する。処理部は、受信した反射波に基づいて、物体までの距離、物体の車両VAに対する相対速度、及び物体の車両VAに対する方位等の物体情報を演算により取得する。
なお、運転支援ECU10は、ミリ波レーダ装置14が取得する物体情報をカメラ装置13が取得する物体情報に基づいて修正することにより、後述するACCに用いる最終的な物体情報を取得する。
加速度センサ15は、車両VAの縦方向(前後方向)の加速度、車両VAの横方向(車幅方向)の加速度、および、車両VAの高さ方向の加速度を検出し、これらの加速度を表す検出信号を運転支援ECU10に送信する。
ACCスイッチ16は、運転者がアダプティブ・クルーズ・コントロール(以下、ACCと呼ぶ)の開始を望む場合、および、ACCの設定を行う場合に操作するスイッチである。ACCスイッチ16は、以下の操作信号を運転支援ECU10に送信する。
(1)運転支援機能のオン/オフ
(2)定速制御モードと追従制御モードとの切り替え
(3)定速走行用の車速(セット車速)の設定
(4)追従制御モードにおける車間距離の設定(長・中・短)
ここでACCについて説明する。運転支援ECU10は、ACCスイッチ16によってACC運転支援がオンに設定されている場合にACCを実施する。運転支援ECU10は、ACCの実施に当たって、ACCスイッチ16によって定速制御モードが選択されている場合には、ACCスイッチ16によって設定されたセット車速にて自車両VAを定速走行させる制御である定速制御を実施する。また、運転支援ECU10は、ACCスイッチ16によって追従制御モードが選択されている場合であって、自車両VAの前方を走行する先行車両が存在する場合には、先行車両情報に基づいて、先行車両と自車両との車間距離を車速に応じた適切な距離に維持しながら自車両VAを先行車両に追従させる制御である追従制御を実施する。一方、自車両VAの前方を走行する先行車両が存在しない場合には、運転支援ECU10は、上記の定速制御を実施する。
運転支援ECU10は、ACC(定速制御あるいは追従制御)を実施しているあいだ、定速制御および追従制御で必要とされる加減速度(要求加減速度)を表す指令をエンジンECU20およびブレーキECU30に送信する。これにより、ドライバーのペダル操作は不要となる。加減速度は、その符号によって加速度と減速度とが区別され、正の値であれば加速度、負の値であれば減速度を表す。尚、加速度が大きい(小さい)、減速度が大きい(小さい)という表現は、その絶対値が大きい(小さい)ことを表す。
また、運転支援ECU10は、ACCの実施中に、自車両VAがカーブ路を走行するときの車速を適切にするための制御であるスピードマネジメント制御(以下、SPM制御と呼ぶ)を実施する。運転支援ECU10は、定速制御で要求される要求加減速度と、追従制御で要求される要求加減速度と、SPM制御で要求される要求加減速度とを並行して演算し、それらのうちの最も小さい要求加減速度を選択して、その選択された要求加減速度を使って自車両VAの加減速度を制御する。従って、運転支援ECU10は、SPM制御を実施する必要がない状況においては、SPM制御用の要求加減速度を正の無限大に近い値(無効値と呼ぶ)に設定して、SPM制御が実施されないようにする。
エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ22、および、エンジンセンサ24と接続され、これらのセンサの検出信号を受け取る。
アクセルペダル操作量センサ22は、車両VAのアクセルペダルの操作量を示すアクセルペダル操作量を検出する。運転者がアクセルペダルを操作していない場合のアクセルペダル操作量は「0」である。エンジンセンサ24は、車両VAの駆動源であるエンジン(例えば、内燃機関)の運転状態量を検出するセンサであって、例えば、スロットル弁開度センサ、機関回転速度センサ、および、吸入空気量センサ等である。
更に、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ26(例えば、スロットル弁アクチュエータ、燃料噴射弁等)と接続されている。エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ26を駆動することによってエンジンが発生するトルクを変更し、これにより、車両VAの駆動力を調整する。エンジンECU20は、スロットル弁の開度が目標スロットル弁開度に一致するようにスロットル弁アクチュエータを駆動する。
ACCが実施されていない通常の運転時においては、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量が大きくなるほど目標スロットル弁開度が大きくなるように目標スロットル弁開度を決定する。
これに対し、ACCが実施されている場合、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量が「0」である場合、運転支援ECU10から送信される加減速度指令に対応するスロットル弁開度を目標スロットル弁開度に決定する。また、ACCが実施されている場合であって、アクセルペダル操作量が「0」よりも大きい場合(即ち、運転者がアクセルペダルを操作している場合)、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量に基づくスロットル弁開度を目標スロットル弁開度に決定する。このようなACCの実施中におけるアクセルペダル操作量による車両VAの加速を「アクセルオーバーライド」と呼ぶ。
ブレーキECU30は、車輪速センサ11、および、ブレーキペダル操作量センサ32と接続され、これらのセンサの検出信号を受け取る。
ブレーキペダル操作量センサ32は、車両VAのブレーキペダル(不図示)の操作量を示すブレーキペダル操作量を検出する。ブレーキペダルが操作されていない場合のブレーキペダル操作量は「0」である。
ブレーキECU30は、運転支援ECU10と同様に、車輪速センサ11からの車輪パルス信号に基づいて、各車輪の回転速度及び車速Vsを取得する。なお、ブレーキECU30は、運転支援ECU10が取得した各車輪の回転速度、および、車速Vsを運転支援ECU10から取得してもよい。この場合、ブレーキECU30は車輪速センサ11に接続されなくてもよい。
更に、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ34と接続されている。ブレーキアクチュエータ34は油圧制御アクチュエータである。ブレーキアクチュエータ34は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダと、各車輪に設けられる周知のホイールシリンダを含む摩擦ブレーキ装置と、の間の油圧回路(何れも、図示略)に配設される。ブレーキアクチュエータ34はホイールシリンダに供給する油圧を調整する。
ブレーキECU30は、目標減速度に基づいてブレーキアクチュエータ34を駆動することによりホイールシリンダに供給される作動油の油圧を制御する。その結果、各車輪に調整された制動力(摩擦制動力)が発生し、以て、車両VAの減速度が目標減速度に一致させられる。
ACCの実施中において、運転支援ECU10は、所定時間が経過する毎に要求加減速度を演算している。運転支援ECU10は、要求加減速度が負の値である場合(即ち、加減速度が減速度である場合)、この要求加減速度を表す制動指令をブレーキECU30に送信する。ブレーキECU30は、運転支援ECU10から制動指令を受信した場合、その制動指令で表される要求加減速度(減速度)、および、ブレーキペダル操作量に対応する要求減速度のうち絶対値が大きい方の減速度を選択し、その選択した要求減速度を、最終的な目標減速度に設定する。ブレーキECU30は、加速度センサ15によって検出される減速度が目標減速度に一致するようにブレーキアクチュエータ34の作動を制御する。
メータECU40は、表示器41、および、左右のウインカー42(ウインカーランプを意味する。ターンランプと呼ばれることもある)に接続されている。表示器41は、例えば、運転席の正面に設けられたマルチインフォーメーションディスプレイであって、車速等のメータ類の計測値の表示に加えて、各種の情報を表示する。例えば、メータECU40は、運転支援ECU10から運転支援状態に応じた表示指令を受信すると、その表示指令で指定された画面を表示器41に表示させる。
また、メータECU40は、ウインカー駆動回路(図示略)を備えており、CANを介してウインカー点滅指令を受信した場合には、ウインカー点滅指令で指定された方向(右、左)のウインカー42を点滅させる。また、メータECU40は、ウインカー42を点滅させている間、ウインカー42が点滅状態であることを表すウインカー点滅情報を運転支援ECU10に送信する。従って、運転支援ECU10は、ウインカー42の点滅状態(作動状態)を把握することができる。
<SPM制御ルーチン>
次に、運転支援ECU10の実施するSPM制御処理について説明する。図2は、SPM制御ルーチンを表す。SPM制御ルーチンは、ACCスイッチ16によってACCの実施が選択されている場合に、所定の演算周期にて繰り返し実施される。尚、アクセルオーバーライドが検出されている場合、SPM制御ルーチンは実施されない。
SPM制御ルーチンにおいて用いられる車速Vsおよび車線情報などの検出値は、その演算時における値、つまり、最新値である。
運転支援ECU10は、SPM制御ルーチンを開始すると、まず、ステップS11において、カメラ装置13の出力する車線情報に基づいて、自車両VAの走行している車線(自車レーンと呼ぶ)の左側白線および右側白線を認識する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS12において、現在曲率Ccを演算によって取得する。現在曲率Ccは、自車両の現在位置における自車レーンの曲率[1/m]を表す。この場合、運転支援ECU10は、自車レーンの左側白線と右側白線との間の中央を通る仮想線(中央線)の曲率を演算するが、何れか一方の白線しか認識できていない状況においては、その一方の白線に基づいて中央線を推定し、その中央線の曲率を演算してもよいし、認識できている一方の白線の曲率を演算してもよい。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS13において、先読み曲率Cpを演算によって取得する。この先読み曲率Cpは、自車両の現在位置から所定距離(先読み距離ΔLと呼ぶ)前方における位置の自車レーンの曲率を表す。従って、先読み曲率Cpは、自車両が先読み距離ΔLだけ走行した位置における自車レーンの曲率を表す。運転支援ECU10は、先読み曲率Cpの演算にあたって、現在位置における曲率変化率(単位距離当たりの曲率の変化量[1/m2]、以下、曲率変化率dと呼ぶ)を演算する。そして、この曲率変化率dと、現在曲率Ccと、先読み距離ΔLとを使って、次式(4)にて先読み曲率Cpを演算する。
Cp=Cc+dΔL ・・・(4)
尚、先読み距離ΔLは、車速Vsが高いほど長くなるように設定されるとよい。例えば、運転支援ECU10は、図3に示すような車速Vsと先読み距離ΔLとを関係付けた関係付けデータ(マップ等)を記憶しており、この関係付けデータを参照して車速Vsに応じた先読み距離ΔLを設定し、この先読み距離ΔLを使って上記式(4)にて先読み曲率Cpを演算する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS14において、SPM開始フラグFが「0」であるか否かについて判定する。このSPM開始フラグFは、SPM制御の開始条件が成立したときに「1」に設定され、SPM制御の終了条件が成立したときに「0」に設定される。また、SPM開始フラグFは、その初期値が「0」であって、ACCが開始されるときに「0」にリセットされる。
SPM開始フラグFが「0」である場合、運転支援ECU10は、その処理をステップS15に進める。運転支援ECU10は、ステップS15において、先読み曲率Cpが先読み曲率閾値C1以上であり、かつ、現在曲率Ccが現在曲率閾値C2以下であるか否かについて判定する。現在曲率閾値C2は、先読み曲率閾値C1よりも小さな値に設定されている。このステップS15の処理は、自車両VAが直線路を走行中に、減速が必要なカーブが前方に検出されたか否かについて判定する処理である。
この2つの曲率条件は、SPM開始条件の1つである。運転支援ECU10は、この2つの曲率条件のうちの1つでも成立しない場合、つまり、先読み曲率Cpが先読み曲率閾値C1未満である、あるいは、現在曲率Ccが現在曲率閾値C2を超えている場合、「No」と判定してその処理をステップS16に進める。
自車両VAの前方に減速の必要なカーブが存在してなく、ステップS15において「No」と判定された場合、運転支援ECU10は、ステップS16において、要求加減速度Aを無効値に設定して、SPM制御が実施されないようにする。上述したように、ACCの実施中においては、定速制御で要求される要求加減速度と、追従制御で要求される要求加減速度と、SPM制御で要求される要求加減速度とのうちの最も小さな値が選択され、その選択された要求加減速度で自車両VAの加減速度が制御される。ステップS16では、SPM制御で要求される要求加減速度が選択されることのないように、SPM制御用の要求加減速度Aが正の無限大に近い値である無効値に設定される。これにより、SPM制御が実施されない。このSPM制御ルーチンでは、要求加減速度Aとして減速度が演算されるため、以下、要求加減速度Aを要求減速度Aと呼ぶ。
尚、ステップS15において用いる先読み曲率閾値C1および現在曲率閾値C2については、車速Vsに応じた値に設定されるとよい。例えば、運転支援ECU10は、図4に示すような車速Vsと、先読み曲率閾値C1および現在曲率閾値C2とを関係付けた関係付けデータ(マップ等)を記憶しており、この関係付けデータを参照して車速に応じた先読み曲率閾値C1および現在曲率閾値C2を設定する。この場合、先読み曲率閾値C1は、車速Vsが高いほど小さくなる値に設定される。また、現在曲率閾値C2は、車速Vsが高いほど大きくなる値に設定される。
運転支援ECU10は、ステップS16の処理を実施するとSPM制御ルーチンを一旦終了する。運転支援ECU10は、所定の演算周期でSPM制御ルーチンを繰り返し、ステップS15において「Yes」、つまり、2つの曲率条件が成立した場合(減速が必要なカーブが前方に検出された場合)、その処理をステップS17に進める。
運転支援ECU10は、ステップS17において、ウインカー42が作動している状況でもなく、自車両VAがレーンチェンジを行っている状況でもないか否かについて判定する。この判定は、例えば、図5に示すように、ウインカー42の作動(点滅)期間と、自車両VAがレーンチェンジを行っている期間との両方において、「No」と判定される。従って、ウインカー42の作動が検知されている場合、および、自車両VAがレーンチェンジを行っていることが検知されている場合の何れにおいても、「No」と判定される。
この場合、運転支援ECU10は、メータECU40から送信されるウインカー点滅情報を読み込んで、ウインカー42が作動している状況か否かについて判定する。また、運転支援ECU10は、自車両が自車レーンの左右何れかの白線を跨いだか否かを判定し、自車両が白線を跨いだと判定した時点から一定時間経過するまでの期間をレーンチェンジが行われている期間と認定する。この場合、自車両の特定位置(例えば、車体の中心位置)と白線との距離(道路幅方向の距離)を算出し、特定位置から白線までの距離が所定値(例えば、0メートル)未満にまで低下したときに、自車両が白線を跨いだと判定すればよい。
運転支援ECU10は、ステップS17において「Yes」と判定した場合、SPM制御の開始条件が成立したと判定して、その処理をステップS18に進めて、SPM開始フラグFを「1」に設定する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS19において、ベース減速制御量Abase[1/m2]を演算する。このベース減速制御量Abaseは、要求減速度Aを決めるベースとなる制御量(減速度)であって、現時点の車速Vsに応じた値に設定される。運転支援ECU10は、図6に示すように、車速Vsとベース減速制御量Abaseとを関係付けた関係付けデータ(マップ等)を記憶し、この関係付けデータを参照して、車速Vsに応じたベース減速制御量Abaseを演算する。この関係付けデータは、車速Vsが高くなるにしたがって、ベース減速制御量Abaseの大きさ(絶対値)が大きくなる特性を有している。従って、運転支援ECU10は、車速Vsに基づいて、車速Vsが高いほど、その大きさが増加するベース減速制御量Abaseを算出する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS20において、ゲインGaを演算する。このゲインGaを演算するにあたって、運転支援ECU10は、先読み曲率Cpに応じた目標車速Vpを算出する。運転支援ECU10は、図7に示すように、先読み曲率Cpと目標車速Vpとを関係付けた関係付けデータ(マップ等)を記憶し、この関係付けデータを参照して、先読み曲率Cpに応じた目標車速Vpを演算する。この関係付けデータは、先読み曲率Cpが大きくなる(カーブが急になる)にしたがって、目標車速Vpが低くなる特性を有している。従って、運転支援ECU10は、先読み曲率Cpに基づいて、先読み曲率Cpが大きいほど低くなる目標車速Vpを算出する。
運転支援ECU10は、算出した目標車速Vpから自車両VAの車速Vsを減算した値である車速偏差ΔV(=Vp−Vs)を演算し、この車速偏差ΔVに基づいて、ゲインGaを演算する。運転支援ECU10は、図8に示すように、車速偏差ΔVとゲインGaとを関係付けた関係付けデータ(マップ等)を記憶し、この関係付けデータを参照して、車速偏差ΔVに応じたゲインGaを演算する。この関係付けデータは、車速偏差ΔVが負の値である場合には、ゲインGaの値を「1」に設定し(Ga=1)、車速偏差ΔVが正の値である場合には、車速偏差ΔVが大きいほど、ゲインGaの値を「1」から「0」の間で小さくする特性を有している。車速偏差ΔVが所定値よりも大きい場合には、ゲインGaの値は「0」に設定される。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS21において、ベース減速制御量AbaseにゲインGaを乗算して要求減速度Aを算出する(A=Abase・Ga)。この要求減速度Aが、最終的に自車両VAを減速させるための制御量である減速制御量に相当する。
運転支援ECU10は、要求減速度Aを算出すると、その要求減速度Aを表す制動指令をブレーキECU30に送信する。ブレーキECU30は、運転支援ECU10から制動指令を受信した場合、その制動指令で表される要求減速度A、および、ブレーキペダル操作量に対応する要求減速度のうち絶対値が大きい方の減速度を選択し、その選択した要求減速度を、最終的な目標減速度に設定する。これにより、自車両VAの減速度が目標減速度に追従するようにホイールシリンダの油圧が調整される。
運転支援ECU10は、ステップS21の処理を実施するとSPM制御ルーチンを一旦終了する。運転支援ECU10は、所定の演算周期でSPM制御ルーチンを繰り返す。この場合、SPM開始フラグFが「1」に設定されているため、運転支援ECU10は、ステップS14において「No」と判定し、その処理をステップS21に進める。
運転支援ECU10は、ステップS21において、先読み曲率Cpが先読み曲率閾値C3以下である、あるいは、現在曲率Ccが現在曲率閾値C4以上であるか否かについて判定する。運転支援ECU10は、「No」と判定した場合、続くステップS22において、ウインカー42が作動している状況である、あるいは、自車両VAがレーンチェンジを行っている状況であるか否かについて判定する。
先読み曲率閾値C3は、先読み曲率閾値C1よりも小さな値に設定されている。また、現在曲率閾値C4は、現在曲率閾値C2よりも大きな値に設定されている。この先読み曲率閾値C3および現在曲率閾値C4についても、先読み曲率閾値C1および現在曲率閾値C2と同様な特性で、車速Vsに応じて設定されるとよい。
このステップS21およびステップS22は、SPM制御の終了条件の成立を判定する処理である。従って、運転支援ECU10は、ステップS21およびステップS22において「No」と判定されているあいだは、その処理をステップS19に進めて、上述した演算手法で要求減速度Aを演算して、車両VAを減速させる。
運転支援ECU10は、こうした処理を繰り返し、SPM制御の終了条件が成立すると(S21またはS22:Yes)、その処理をステップS23に進めて、SPM開始フラグFを「0」に設定する(「1」→「0」)。続いて、運転支援ECU10は、その処理をステップS16に進めて、要求加減速度Aを無効値に設定して、SPM制御が実施されないようにする。
例えば、自車両VAがカーブ路に到達した場合に、SPM制御が終了する。また、自車両がレーンチェンジを開始した場合、あるいは、レーンチェンジを開始しようとした場合に、SPM制御が終了する。
このSPM制御ルーチンでは、自車両VAがカーブ路に到着した場合(Cc≧C4)、SPM制御を終了するが、これは、先読み曲率Cpに基づく減速制御を終了するのであって、このSPM制御ルーチンとは別に、自車両VAの実際の旋回挙動(例えば、横加加速度)に基づいて減速制御を実施することができるからである。つまり、自車両VAの実際の旋回挙動(例えば、ヨーレート)に基づけば、カメラ装置13よって認識される自車レーンの曲率に基づく減速制御よりも、確実性の高い減速制御を実施できるからである。
以上説明した本実施形態の車両用運転支援装置によれば、現時点の車速Vsに応じたベース減速制御量Abaseが演算され、このベース減速制御量Abaseをベースとして要求減速度Aが演算される。従って、ノイズの多く含まれる曲率変化率dがベース減速制御量Abaseの演算に用いられない。このため、ベース減速制御量Abaseをベースとして演算される要求減速度Aのハンチングを抑制することができる。
図9は、従来装置の要求減速度と、本実施形態における要求減速度Aとを比較したグラフである。従来装置においては、ベース減速制御量として先読み横加加速度が演算されるが、この先読み横加加速度は、曲率変化率に比例した値に設定される。このため、従来装置の要求減速度は、曲率変化率dに含まれるノイズの影響が大きくなってハンチングする。一方、本実施形態では、ベース減速制御量Abaseの演算には、車速Vsに応じて決まる値が使用され、曲率変化率dは使用されない。このため、要求減速度Aのハンチングが抑制される。
また、先読みポイントにおけるカーブが急な場合、および、車速Vsが高い場合には、大きな(絶対値の大きな)要求減速度Aが演算されるため、早めに適正な減速を行うことができる。また、先読みポイントにおけるカーブが緩い場合、および、車速Vsが低い場合には、小さな(絶対値の小さな)要求減速度Aが演算されるため、過剰な減速が行われないようにすることができる。
また、本実施形態においては、ベース減速制御量Abaseを補正して要求減速度Aを算出するにあたって、先読み曲率Cpが用いられるが、先読み曲率Cpは、現在曲率Ccと、曲率変化率dに先読み距離ΔLを乗算した値dΔL(Cc+dΔL)との和で求められるため、曲率変化率dの占める割合は少ない。従って、曲率変化率dに含まれるノイズが要求減速度Aの演算に与える影響は少ない。このため、要求減速度Aのハンチングを抑制することができる。
また、本実施形態においては、ウインカー42が作動しているとき、および、レーンチェンジが行われているときには、SPM制御が実施されないため、レーンチェンジ時に不要な減速を抑制することができる。
この結果、本実施形態によれば、車両VAの減速度のハンチングを抑制して乗り心地を向上させるとともに、不要な減速が行われることを抑制することができる。
また、本実施形態においては、先読み距離ΔLは、車速Vsが高いほど長くなる値に設定される。また、先読み曲率閾値C1は、車速Vsが高いほど小さくなる値に設定される。このため、車速Vsが高いほど、早くSPM制御を開始することができる。従って、SPM制御の開始タイミングを適切に設定することができる。
以上、本実施形態に係る車両用運転支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態ではカメラ装置13から得られる白線情報に基づいて車線情報が取得されるが、それに代えて、カメラ装置13およびミリ波レーダ装置14から得られる他車両の移動軌跡を表す情報に基づいて車線情報を取得することもできる。
また、例えば、本実施形態の運転支援装置の適用される車両は、走行用駆動源として内燃機関を備えた車両であるが、それに限定されるものではなく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車など他の車両にも適用できる。