本発明は、後述する複合繊維を用いてセシウムを吸着する技術に関する。本発明は1つの態様において、複合繊維を含んでなるセシウム吸着材であり、また別の態様において、複合繊維を含むセシウム吸着材を用いたセシウムの吸着方法である。
本発明に係るセシウム吸着材は、フェロシアン化金属化合物によってその表面が被覆された繊維を含んでなる。ここで言う被覆とは、繊維の表面を無機粒子で覆うことであり、本発明に係る複合繊維は、好ましい態様において、粒子径の小さな無機粒子によって繊維表面が薄く均一に覆われている。また、本発明に係るセシウム吸着材は、その形状は特に制限されるものでなく、後述するように種々の形状に成形することができる。
本発明に係るセシウム吸着材は、好ましい態様において、マット状とすることができる。好ましい態様において、例えば、紙や布などの基材層に複合繊維の層を積層した形のセシウム吸着材とすることができる。一つの態様において、複合繊維の層は、その厚さを0.1〜100mmとすることができ、0.3〜50mm、0.6〜20mm、1〜10mmとしてもよい。
本発明に係るセシウム吸着材を用いてセシウムを吸着する際は、セシウムを含む液体をセシウム吸着材に接触させればよい。好ましい態様において、セシウムを含む液体をセシウム吸着材に通過させて通液させることによって、液体に含まれるセシウムイオンを効率的に吸着材に吸着させることができる。
本発明は、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物によってその表面が被覆された繊維を用いる。特に本発明によれば、好ましい態様において、繊維表面の15%以上がプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物によって被覆されている複合繊維を用いることができる。
また、本発明の複合繊維は、単に繊維とプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物が混在しているのではなく、両者が定着(結着)しているので、水中における離解処理によってもプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物が繊維から脱落することが少ない。結着の強さは、例えば、灰分歩留(%、すなわち、シートの灰分÷離解前の複合繊維の灰分×100)といった数値によって評価することができる。具体的には、複合繊維を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220−1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができ、好ましい態様において灰分歩留は20質量%以上であり、より好ましい態様において灰分歩留は50質量%以上である。
繊維
本発明においては、セルロース繊維やアラミド繊維などの繊維にプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物を定着させる。複合繊維を構成する繊維は、セルロース繊維であることが好ましいが、例えば、天然のセルロース繊維はもちろん、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。セルロース繊維としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、セルロースナノファイバー(CNF)、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類などが例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
木材原料(木質原料)などの天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、適宜選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに無機粒子の定着促進が期待できる。
合成繊維とセルロース繊維との複合繊維も本発明において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などとセルロース繊維との複合繊維も使用することができる。
また、セルロース原料にさらに処理を施した粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)などを、セルロース繊維として使用することもできる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1〜100μmである。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。セルロースナノファイバーとしては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースや酸化セルロース等の化学変性セルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、ないし叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種または複数種類組み合わせてセルロースナノファイバーを製造してもよい。製造したセルロースナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡観察などで確認することができ、例えば5nm〜1000nm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは5nm〜300nmの範囲にある。このセルロースナノファイバーを製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロースナノファイバーと反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシ基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロースナノファイバーの解繊を促進したり、セルロースナノファイバーを使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることができる。
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
好ましい態様において、本発明の複合繊維を構成する繊維はパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合繊維を合成することができる。
本発明においては、繊維の他にも、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。本発明にいては、パルプ繊維を始めとする繊維を使用するが、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマーなどを含む溶液中でプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm〜15mm程度とすることができ、1μm〜12mm、100μm〜10mm、500μm〜8mmなどとしてもよい。
複合化する繊維は、繊維表面の15%以上がプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物で被覆されるような量で使用することが好ましいが、30%以上、50%以上、70%以上の被覆率としてもよい。また、例えば、繊維とプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の重量比を、2/98〜98/2とすることができ、20/80〜94/6、40/60〜93/7、60/40〜92/8、80/20〜91/9としてもよい。
本発明に係る複合繊維は、繊維表面の15%以上がプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物で被覆されており、このような面積率でセルロース繊維表面が被覆されているとプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、繊維表面に起因する特徴が小さくなる。
フェロシアン化金属化合物
本発明において、セルロース繊維などの繊維と複合化するフェロシアン化金属化合物は特に制限されないが、公知の方法で合成することができる。プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の合成は溶液中で行う場合があり、また、複合繊維を水系で使用することもある。
本発明において、セルロース繊維などの繊維と複合化するフェロシアン化金属化合物としては、プルシアンブルー(PB)が好ましいが、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化マンガン、フェロシアン化銅、フェロシアン化亜鉛でもよい。
プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)6]3)は、ヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III)、フェロシアン化鉄(III)、フェロシアン化第二鉄などとも呼ばれる化合物であり、色材として、藍色・紺色の塗料、印刷インキ、絵具などに広く使用される。プルシアンブルーはプルシアンブルー型錯体構造を有し、具体的には、Fe3+イオンが面心立方格子を形成し、その立方体の各辺の中点にFe2+イオン、Fe3+イオンとFe2+イオンの間にCN−イオンが位置する結晶構造を有する。本発明においてプルシアンブルーは、結晶水を含んでいたり、一部の鉄イオンが置換されていたりしてよいが、例えば、Li+、Na+、K+、NH4 +などが挙げられるが、好ましくは、Na+及び/又はK+である。
プルシアンブルーは、セシウムの吸着剤としても利用され、事故などでセシウム137を摂取した場合、プルシアンブルーで治療される。プルシアンブルーはセシウムに結合することが知られており、これを摂取することによってセシウムの体外への排出を促進することができる。また、プルシアンブルーは、酸化還元型のイオン交換能に基づき、放牧飼育される家畜(牛など)の飼料に加えると、乳や肉の汚染を抑えることができるとされる。
フェロシアン化金属化合物と繊維とが定着した複合繊維
本発明においては、溶液中で、繊維、ヘキサシアノ金属酸の無機塩、および、遷移金属を含む無機化合物、を混合することによって、フェロシアン化金属化合物と繊維の複合繊維を製造することができる。例えば、(a)繊維と、ヘキサシアノ金属酸の無機塩とを混合し、(b)工程aで得られた溶液と、遷移金属元素を含む無機化合物とを混合すること、または、(a)繊維と、遷移金属元素を含む無機化合物とを混合し、(b)工程aで得られた溶液と、ヘキサシアノ金属酸の無機塩とを混合すること、によってフェロシアン化金属化合物と繊維の複合繊維を製造することができる。
その際、工程aで得られた溶液に、遷移金属元素を含む無機化合物、または、ヘキサシアノ金属酸の無機塩、の水溶液を1ml/min〜50ml/minで混合することが好ましい。
プルシアンブルーは、例えば、鉄シアノ錯体の水溶液と、2価及び/又は3価の鉄塩化合物の水溶液とを反応させることにより合成することができる。プルシアンブルーの合成反応に用いる鉄シアノ錯体としては、フェロシアン化合物(M4Fe(II)(CN)6)やフェリシアン化合物(M4Fe(III)(CN)6)を好適に例示することができる。鉄シアノ錯体の水溶液は、例えば、濃度を0.01%〜30%とすることができ、好ましくは0.05%〜10%、より好ましくは0.1%〜5%である。2価及び/又は3価の鉄塩化合物の水溶液は、例えば、濃度を0.01%〜20%とすることができ、好ましくは0.5%〜10%、より好ましくは1%〜5%である。
鉄塩化合物の水溶液は、例えば、滴下などにより徐々に添加してもよいし、一度に添加してもよい。
本発明の複合繊維は、一つの好ましい態様において、セルロース繊維などの繊維の存在下でプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物を合成することによって得ることができる。繊維表面が、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の析出における好適な場となるため、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物とセルロース繊維との複合繊維を合成しやすいためである。
一つの好ましい態様として、本発明の複合繊維におけるプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の平均一次粒子径を、例えば、1.5μm以下とすることができるが、平均一次粒子径を1200nm以下や900nm以下にすることもでき、さらには平均一次粒子径が200nm以下や150nm以下にすることもできる。また、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真で測定することができる。
また、本発明の複合繊維におけるプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させることができるし、粉砕によって凝集塊を細かくすることもできる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
本発明の複合繊維を構成するフェロシアン化金属化合物の平均粒子径や形状等は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。さらに、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさや形状を有するフェロシアン化金属化合物を繊維と複合化することができる。
複合繊維
本発明によって得られた複合繊維は、種々の形状で用いることができ、例えば、マット、粉体、ペレット、モールド、水性懸濁液、ペースト、シート、ビーズ、その他の形状にして用いることができる。また、複合繊維を主成分として他の材料と共にモールドや粒子・ペレットなどの成形体にすることもできる。乾燥して紛体にする場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
本発明に係る複合繊維によれば、放射性セシウムを含む汚染水から放射性セシウムを効率良くかつ簡易に除去することができる。本発明の放射性セシウム吸着材では、吸着可能な放射性セシウムの種類は特に限定されず、例えば、放射性セシウム137、放射性セシウム134およびこれらの組み合わせのいずれについても良好な吸着性能を発揮し得る。放射性セシウム吸着材の性状は、特に限定されず、分散液、含水物、乾燥物など、いずれでも良い。
すなわち、本発明によれば、一次粒子径が小さくかつ粒度分布の狭い無機粒子と繊維との複合繊維を得ることができるため、2μm超の粒子径を有していた従来の無機填料とは異なった特性を発揮させることができる。更には、単に無機粒子を繊維に単に配合した場合と異なり、無機粒子を繊維と複合繊維化しておくと、無機粒子がシートに歩留りやすいだけでなく、凝集せずに均一に分散したシートを得ることができる。本発明における無機粒子は、好ましい態様において、粒子径の小さな粒子として繊維表面を薄く均一に被覆しており、これは電子顕微鏡観察によって確認することができる。繊維表面の無機粒子はセシウムイオンと容易に接触できることから、繊維の内部に生成した場合と比較して効率良くセシウムイオンを吸着することができると考えられる。また、無機粒子の粒子径が小さく、担持率が高いことから、セシウムイオン吸着能が高いと推測される。
また、本発明によって得られる複合繊維を使用する際には、一般に無機填料及び有機填料と呼ばれる粒子や、各種繊維を併用することができる。例えば、無機填料として、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合繊維、シリカ/二酸化チタン複合繊維)、白土、ベントナイト、珪藻土、硫酸カルシウム、ゼオライト、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料および再生する過程でシリカや炭酸カルシウムと複合繊維を形成した無機填料などが挙げられる。炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、炭酸カルシウムおよび/または軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用しても良い。有機填料としては、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合繊維、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、変性不溶化デンプン、未糊化デンプンなどが挙げられる。繊維としては、セルロースなどの天然繊維はもちろん、石油などの原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)、さらには無機繊維などを制限なく使用することができる。天然繊維としては上記の他にウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維やアルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。セルロース系の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類などが例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。木材パルプ及び非木材パルプは、未叩解及び叩解のいずれでもよい。また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNF)として使用することもできる。合成繊維としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、アセテートなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などが挙げられる。以上について、これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いても構わない。
複合繊維の合成
本発明の一つの態様において、繊維を含む溶液中でプルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物を合成することによって複合繊維を合成することができるが、フェロシアン化金属化合物の合成方法は、公知の方法によることができる。
本発明においては、原料を混合後(例えば、15分以上)撹拌することで繊維の膨潤を促進してから反応を開始することもできるが、混合後すぐに反応を開始してもよい。本複合繊維を得る上での反応槽の形態や撹拌条件に特に制限はなく、例えば、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の前駆体と繊維を含む溶液を開放型の反応槽中で撹拌、混合して複合繊維を合成しても良いし、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の前駆体と繊維を含む水性懸濁液を反応容器内に噴射することによって合成してもよい。後述するが、プルシアンブルーなどのフェロシアン化金属化合物の前駆体の水性懸濁液を反応容器内に噴射する際に、キャビテーション気泡を発生させ、その存在下で合成してもよい。
本発明においては、懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、イオン交換水や蒸留水、超純水、工業廃水、反応液を分離・脱水する際に得られる水を好適に用いることできる。
また本発明においては、反応槽の反応液を循環させて使用することができる。このように反応液を循環させて、溶液の撹拌を促すことにより、反応効率を上げ、所望の複合繊維を得ることが容易になる。
本発明の複合繊維を製造する際には、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を添加することができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのポリヒドロキシカルボン酸、シュウ酸などのジカルボン酸、グルコン酸などの糖酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのアミノポリカルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸などのポリリン酸のアルカリ金属塩、グルタミン酸、アスパラギン酸などのアミノ酸およびこれらのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸アリルなどのケトン類、ショ糖などの糖類、ソルビトールなどのポリオールが挙げられる。また、表面処理剤としてパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、アビエチン酸等の樹脂酸、それらの塩やエステルおよびエーテル、アルコール系活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル類、アミド系やアミン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、長鎖アルキルアミノ酸、アミンオキサイド、アルキルアミン、第四級アンモニウム塩、アミノカルボン酸、ホスホン酸、多価カルボン酸、縮合リン酸などを添加することができる。また、必要に応じ分散剤を用いることもできる。この分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸−マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸−ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸−ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。また、添加のタイミングは合成反応の前でも後でも良い。このような添加剤は、無機粒子に対して、好ましくは0.001〜20%、より好ましくは0.1〜10%の量で添加することができる。
本発明において複合繊維を合成する場合、反応条件は特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、合成反応の温度は0〜90℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。反応温度は、反応液の温度を温度調節装置によって制御することができ、温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、90℃を超えると粗大な無機粒子が多くなる傾向がある。
また、本発明において反応はバッチ反応とすることもでき、連続反応とすることもできる。一般に、反応後の残存物を排出する便利さから、バッチ反応工程を行うことが好ましい。反応のスケールは特に制限されないが、100L以下のスケールで反応させてもよいし、100L超のスケールで反応させてもよい。反応容器の大きさは、例えば、10L〜100L程度とすることもできるし、100L〜1000L程度としてもよい。
また、反応液の電導度や反応時間によって反応を制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、反応槽の反応液を攪拌したり、反応を多段反応としたりすることによって反応を制御することもできる。
本発明においては、反応生成物である複合繊維が懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクに貯蔵したり、濃縮、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行ったりすることができる。これらは公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。例えば濃縮・脱水処理は、遠心脱水機、沈降濃縮機などを用いて行われる。この遠心脱水機の例としては、デカンター、スクリューデカンターなどが挙げられる。濾過機や脱水機を用いる場合についてもその種類に特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、ベルトプレス、チューブプレス等の加圧型脱水機、オリバーフィルター等の真空ドラム脱水機などを好適に用いて炭酸カルシウムケーキとすることができる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。分級の方法としては、メッシュ等の篩、アウトワード型もしくはインワード型のスリットもしくは丸穴スクリーン、振動スクリーン、重量異物クリーナー、軽量異物クリーナー、リバースクリーナー、篩分け試験機等が挙げられる。分散の方法としては、高速ディスパーザー、低速ニーダーなどが挙げられる。
本発明によって得られた複合繊維は、完全に脱水せずに懸濁液の状態で填料や顔料に配合することもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
本発明によって得られる複合繊維は、公知の方法によって改質することが可能である。例えば、ある態様においては、その表面を疎水化し、樹脂などとの混和性を高めたりすることが可能である。
本発明においては、反応容器内にキャビテーション気泡を生じさせるような条件で液体を噴射してもよいし、キャビテーション気泡を生じさせないような条件で噴射してもよい。また、反応容器はいずれの場合においても圧力容器であることが好ましい。なお、本発明における圧力容器とは0.005MPa以上の圧力をかけることのできる容器のことである。キャビテーション気泡を生じさせないような条件の場合、圧力容器内の圧力は、静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下であることが好ましい。
(キャビテーション気泡)
本発明に係る複合繊維を合成する場合、キャビテーション気泡の存在下でプルシアンブルーを析出させることができる。本発明においてキャビテーションとは、流体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象であり、空洞現象とも言われる。キャビテーションによって生じる気泡(キャビテーション気泡)は、流体の中で圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなったとき、液体中に存在する100ミクロン以下のごく微小な「気泡核」を核として生じる。
本発明においてキャビテーション気泡は、公知の方法によって反応容器内に発生させることができる。例えば、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させること、流体内で高速で攪拌することによってキャビテーションを発生させること、流体内で爆発を生じさせることによってキャビテーションを発生させること、超音波振動子によってキャビテーションを発生させること(バイブトラリー・キャビテーション)などが考えられる。
特に本発明においては、キャビテーション気泡の発生と制御が容易なため、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させることが好ましい。この態様では、ポンプなどを用いて噴射液体を圧縮し高速でノズルなどを介して噴射することによって、ノズル近傍での極めて高いせん断力と急激な減圧による液体自体の膨張と同時にキャビテーション気泡が発生する。流体噴流による方法は、キャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡を発生させることができる。本発明においては、プルシアンブルーを合成する際に制御されたキャビテーション気泡を存在させるものであって、流体機械に自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーション気泡と明らかに異なる。
本発明においては、原料などの反応溶液をそのまま噴射液体として用いてキャビテーションを発生させることもできるし、反応容器内に何らかの流体を噴射してキャビテーション気泡を発生させることもできる。液体噴流が噴流をなす流体は、流動状態であれば液体、気体、粉体やパルプ等の固体の何れでもよく、またそれらの混合物であってもよい。更に必要であれば上記の流体に、新たな流体として、炭酸ガスなど、別の流体を加えることができる。上記流体と新たな流体は、均一に混合して噴射してもよいが、別個に噴射してもよい。
液体噴流とは、液体または液体の中に固体粒子や気体が分散あるいは混在する流体の噴流であり、パルプや無機粒子の原料スラリーや気泡を含む液体噴流のことをいう。ここで云う気体は、キャビテーションによる気泡を含んでいてもよい。
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上30MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上20MPa以下であることが好ましく、2MPa以上15MPa以下がより好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。一方、容器内の圧力(下流側圧力)は静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下が好ましい。
また、容器内の圧力と噴射液の圧力との比は0.001〜0.5の範囲が好ましい。
本発明において、キャビテーション気泡が発生しないような条件で噴射液を噴射して無機粒子を合成することもできる。具体的には、噴射液の圧力(上流側圧力)を2MPa以下、好ましくは1MPa以下とし、噴射液の圧力(下流側圧力)を開放し、0.05MPa以下とすることがより好ましい。
噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
本発明におけるキャビテーション発生場所は、反応容器内に発生させればよい。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環することもできる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは順列で処理することができる。
キャビテーションを発生させるための液体の噴射は、大気開放の容器の中でなされても良いが、キャビテーションをコントロールするために圧力容器の中でなされるのが好ましい。
液体噴射によってキャビテーションを発生させる場合、反応溶液の固形分濃度は30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましい。このような濃度であると、キャビテーション気泡を反応系に均一に作用させやすくなるためである。
本発明において複合繊維を合成する場合、反応液のpHが反応の進行にしたがって変化するようであれば、反応液のpHをモニターすることによって反応を制御することができる。
本発明では、液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、これに伴って圧力が低下し、より強力なキャビテーションが発生させることができる。また、反応容器内の圧力を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力を大きくすることができる。反応温度は0℃以上90℃以下であることが好ましく、特に10℃以上60℃以下であることが好ましい。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水性溶液の場合、50℃前後が好適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。
本発明においては、界面活性剤を添加することでキャビテーションを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。使用する界面活性剤としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これらの単一成分からなるものでも、2種以上の成分の混合物でも良い。添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。
複合繊維を含むセシウム吸着材の成形物
本発明に係る複合繊維を含むセシウム吸着材を用いて、適宜、成形物(体)を製造することも可能である。例えば、本発明によって得られた複合繊維を含むセシウム吸着材をシート化すると、高灰分のシートを容易に得ることができる。また、得られたシートを貼り合せて多層シートとすることもできる。シート製造に用いる抄紙機(抄造機)としては、例えば長網抄紙機、丸網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機などが挙げられる。抄紙機におけるプレス線圧、後段でカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合繊維シートの性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成されたシートに対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料およびそれらの混合物を付与しても良い。
シート化の際には湿潤および/または乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;上記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
また、填料の繊維への定着を促したり、填料や繊維の歩留を向上させるために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などを用いることができる。また歩留剤として、カチオン性またはアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独または組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上3000万ダルトン未満の上記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカなどの無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加材の使用量は特に限定されない。
シートの坪量は、目的に応じて適宜調整できるが、40〜1200g/m2とすると遮蔽効果が高く、また、製造時の乾燥負荷が低いため良好である。また、シートの坪量は、は60〜1000g/m2とすることもでき、100〜600g/m2とすることもできる。
また、本発明によって得られた複合繊維を含むセシウム吸着材の懸濁液を基材状でろ過することによって、フェロシアン化金属化合物を高い割合で含むマットを容易に形成することができ、その厚さなどの性状はろ過時の濃度やろ過速度によって制御することが可能であり、その形状はろ過装置の形状に合わせ、比較的自由である。この時のマットの厚さは0.1〜100mmとすることができ、0.3〜50mm、0.6〜20mm、1〜10mmとしてもよい。また、ろ過助剤を用いて本発明によって得られた複合繊維を含むセシウム吸着材のマットを被覆(プリコート)することも可能である。使用するろ過助剤として、珪藻土、パーライト、セルロース、活性炭などが挙げられる。ろ過助剤は、汚染水の吸着処理前にマットを被覆しても良いし、汚染水に加えてからろ過しても構わない。このろ過助剤の厚さは、0.1〜50mmとすることができ、0.15〜30mm、0.2〜10mmとしても良い。
シート化、マット化以外の成形法を用いることも可能であり、例えば、パルプモールドと呼ばれるように鋳型に原料を流し込んで吸引脱水・乾燥させる方法や、樹脂や金属などの成形物の表面に塗り広げて乾燥後、基材から剥離する方法などによって、種々の形状を有する成形物を得ることができる。また、樹脂を混ぜてプラスチック様に成形することもできるし、シリカやアルミナ等の鉱物を添加し、焼成することでセラミック様に成形することもできる。以上に示した配合・乾燥・成形において、1種類の複合繊維のみを用いることもできるし、2種類以上の複合繊維を混合して用いることもできる。2種類以上の複合繊維を用いる場合は、予めそれらを混合したものを用いることもできるし、それぞれを配合・乾燥・成形したものを後から混合することもできる。
また、複合繊維の成形物に後からポリマーなどの各種有機物や顔料などの各種無機物を付与しても良い。
具体的な実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
実験1:プルシアンブルーとの複合繊維の合成
2.0%のパルプスラリー(LBKP/NBKP:8/2、カナダ標準濾水度CSF:約390mL、平均繊維長:約1mm、4400g)とフェロシアン化カリウム三水和物(和光純薬工業、32.4g)を混合し、室温にてスリーワンモーターで10分間撹拌した。これに、ペリスターポンプを用いて塩化鉄(III)六水和物水溶液(和光純薬工業、3.1%)540gを15g/minで滴下した。滴下終了後、そのまま5分間撹拌を継続してプルシアンブルーとの複合繊維(サンプル1)をスラリーとして得た(紺青色、スラリー濃度1.9%)。
得られた複合繊維をエタノールで洗浄後、電界放射走査顕微鏡(日本電子データム、JSM−6700)によって観察をした。図1に電子顕微鏡写真を示すが、パルプ繊維表面を無機物質が覆い、自己定着している様子が観察された。サンプル1に係る複合繊維は、繊維表面の95%以上がプルシアンブルー(PB)によって被覆されており、繊維とPBの重量比は約85:15、PBの平均粒子径は約70nmだった。
また、複合繊維を濾紙(アドバンテック、定性濾紙No.2)で吸引ろ過し、蒸留水を用いて洗浄した後、乾燥機(ISUZU MDN−19SU、105℃)で乾燥させ、複合繊維のシートを得た(シートの坪量:約100g/m2)。これをX線回折測定装置(PANalytical、Xpert―PRO)を用いて分析した。X線回折の結果を図2に示すが、プルシアンブルーFe4[Fe(CN)6]3のピークが確認され、プルシアンブルーとの複合繊維が得られたことが確認できた。
実験2:セシウムイオン吸着能の評価
実験1で合成した複合繊維(サンプル1)およびパルプ繊維(サンプル2、対照)のセシウムイオン吸着能を評価した。
・サンプル1:実験1で合成した複合繊維
・サンプル2:クラフトパルプ(LBKP/NBKP=8/2、CSF:約390mL、平均繊維長:約1mm、)
(2−1)浸漬法によるセシウム除去
フタ付きのポリ瓶に、下記のセシウム含有溶液50mLおよび試験サンプル0.5gを加え、フタを閉め振とう機(TAITEC、RECIPRO SHAKER SR−II)で30分間振とうした。
振とう後、濾紙(アドバンテック、定量濾紙No.5B)を用いてろ過し、ろ液のセシウムイオン濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC、XSERIES−II)で測定した。
(セシウム含有溶液)
・模擬Cs汚染水: 塩化セシウム(和光純薬工業)12.7mgを蒸留水1Lに溶解させた溶液(セシウムイオン濃度実測値:8206ppb)。
・模擬Cs汚染海水: 塩化セシウム(和光純薬工業)12.7mgおよびダイゴ人工海水SP(日本製薬)37gを蒸留水1Lに溶解させた溶液(セシウムイオン濃度実測値:8682ppb)。
上記の結果から、本発明の複合繊維は、高いセシウムイオン吸着能を有していることが確認された。また、模擬Cs汚染海水を使用した条件でも高いセシウムイオン吸着能を示したことから、各種のカチオンやアニオン共存下でも本吸着材の効果が低減しないことが確認された。
この結果より50cm3の汚染水を通液し、0.2cm×π×(1.5cm)2=1.4cm3のマット(固形分約30%)にセシウムを回収しているため、本発明の複合繊維によるセシウムの濃縮倍率は約35倍である。
(2−2)濾過法によるセシウム除去
エアポンプ(NIPPON JISEI SANGYO、NS−1型)を用いて、試験サンプルの水性スラリー(1.9%)5.3gを基材である濾紙(アドバンテック、定性濾紙No.2)上に堆積させ、マット(厚さ:2mm)を濾紙上に形成した。
このマットの上から下記のセシウム含有溶液5mLを、エアポンプ(NIPPON JISEI SANGYO、NS−1型)を用いて約1.5mL/minの速度で通液させ、濾液を回収した。
得られた濾液のセシウムイオン濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC、XSERIES−II)で測定した。
(セシウム含有溶液)
・模擬Cs汚染水: 塩化セシウム(和光純薬工業)12.7mgを蒸留水1Lに溶解させた溶液(セシウムイオン濃度実測値:8530ppb)。
上記の結果から、本発明の複合繊維は濾過によりセシウムイオン吸着層を容易に形成することが可能であり、これにセシウムイオンを含む水を通液することで効率良くセシウムイオンを吸着できることが確認された。
(2−3)濾過法によるセシウム除去(繰り返し通液)
実験2−2と同様にして、セシウム含有溶液の通液を10回繰り返して実施し、それぞれ濾液を回収した。
得られた濾液のセシウムイオン濃度を、実験2−1および実験2−2と同様にして誘導結合プラズマ質量分析装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC、XSERIES−II)で測定した。
(セシウム含有溶液)
・模擬Cs汚染水: 塩化セシウム(和光純薬工業)12.7mgを蒸留水1Lに溶解させた溶液(セシウムイオン濃度実測値:8530ppb)。
上記の結果から、本発明の複合繊維は濾過によりセシウムイオン吸着層を容易に形成することが可能であり、これにセシウムイオンを含む水を通水することで繰り返しセシウムイオンを吸着できることが確認された。
実験3:セシウム吸着後の焼却処理
実験2−3で使用したセシウムイオン吸着後のマットを回収してから、処理後のマットを加熱処理して、その重量減少を測定した。具体的には、通液方向とは逆向きにエアポンプで空気を送ってマットを装置から取り外し、乾燥機で乾燥させた(105℃、6時間)。
回収したマット(厚さ:約2mm、半径:約15mm、重量:約19.2mg)について、熱重量測定装置(TA instruments、TGA Q50)を用いて525℃に加熱して重量変化を測定したところ、加熱によりマット重量が88.4%減少した。この結果から、本発明に係る複合繊維を濾材としてセシウムイオンを吸着させた後、それを回収して焼却することによって、濾材として使用したマットを減量化することができた。
ここでマットの固形分が約30%であるため、セシウムの濃縮倍率は約3倍である。また、繊維分の焼却による重量減少は約88%であり、灰の密度が繊維よりも大きいと考えられるためセシウムの濃縮倍率は8倍以上であり、汚染水から灰までの最終的なセシウムの濃縮倍率は840倍以上(35×3×8=840)であると推測できる。