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JP2018119220A - 加工紙 - Google Patents

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JP2018119220A
JP2018119220A JP2017009070A JP2017009070A JP2018119220A JP 2018119220 A JP2018119220 A JP 2018119220A JP 2017009070 A JP2017009070 A JP 2017009070A JP 2017009070 A JP2017009070 A JP 2017009070A JP 2018119220 A JP2018119220 A JP 2018119220A
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絢香 長谷川
Ayaka Hasegawa
絢香 長谷川
萌 福岡
Moe Fukuoka
萌 福岡
正淳 大石
Masatoshi Oishi
正淳 大石
幸司 蜷川
Koji Ninagawa
幸司 蜷川
徹 中谷
Toru Nakatani
徹 中谷
後藤 至誠
Shisei Goto
至誠 後藤
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Nippon Paper Industries Co Ltd
Jujo Paper Co Ltd
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Nippon Paper Industries Co Ltd
Jujo Paper Co Ltd
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Abstract

【課題】本発明の課題は、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙。および、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を、繊維の存在下で、溶液中で無機粒子を合成する工程と、前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有する加工紙を製造する工程、
を含む、加工紙の製造方法。
【選択図】図3

Description

本発明は、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙に関する。
剥離紙、防湿包装紙、壁紙などの加工紙のうち、壁紙は一般住居やホテル、病院等において室内の美麗化のために壁に長期貼付され使用される。壁紙にはビニル壁紙、オレフィン壁紙、織物壁紙、紙壁紙、無機質壁紙等あるが、これら壁紙はビニル層、オレフィン層、織物層、紙層、無機質層等の化粧層と、該化粧層を保持するための原紙により構成されている。
これら壁紙は施工時に澱粉や酢酸ビニル樹脂系の水系の糊によって貼合されるが、糊付け工程で原紙が糊中の水分を吸収するため、壁紙が柔らかくなったり原紙が水分増加により伸びたりすることがある。これらが原因となって壁紙がカールし、壁への貼付作業が困難になったり貼付後に捲れが発生し易くなったりする等の問題が生じた。更に糊が乾燥すると原紙が収縮するために隣接して貼り合わせた壁紙同士の繋ぎ目部分に隙間が生じ(目開き)、施工後の意匠性を損なうなどの問題があった。
原紙の寸法安定性を改善する方法としては、水分による伸縮が少ないガラス繊維等の無機系繊維を配合した原紙(特許文献1、2、3)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の合成樹脂系繊維を配合した原紙(特許文献4、5、6)が開示されている。
これら非セルロース繊維は原紙の寸法安定性の改善に効果があるものの、自己接着性が弱いため配合量を多くすると抄紙時にウェットプレスパート、ドライヤーパート、サイズプレスロール、カンバス、キャレンダーロール等で繊維の脱落が発生したり、合成繊維では乾燥熱での溶融により汚れが発生したりするという操業性の問題がある。そのためより安定した操業を行うには非セルロース繊維は出来るだけ配合率を低くすることが望ましい。
このような現状から非セルロース繊維の配合以外の壁紙用原紙の寸法安定性改善方法が望まれている。
一方、機能性を有する壁紙としては、例えば、ゼオライトを塗着した消臭調湿性壁紙用原紙が知られている(特許文献7)。しかし、壁紙に消臭等の機能性を付与するためには、従来の方法では、無塗工紙に塗着層を設ける必要があるため、製造コストが上昇するという問題があった。そのため、壁紙用原紙に塗着層を設けることなく、機能性を有する壁紙の開発が求められている。
また、セルロース繊維は、(C10で表されるセルロースによって構成される繊維であり、広く一般に使用されている。レーヨンやリヨセル、ニトロセルロースなどはもちろん、パルプや綿などのセルロース繊維は、衣服やフィルム、紙などに広く利用されている。また近年では、セルロースナノファイバーなども注目を集めており、セルロース繊維の利用範囲は極めて広いものである。
セルロース繊維は、その表面の水酸基に基づいて種々の特性を発揮するが、用途によっては表面を改質する必要が生じる場合もあり、これまで、セルロース繊維を表面改質する技術が開発されてきている。
例えば、セルロース繊維上に無機粒子を析出させる技術について、特許文献1には、結晶質の炭酸カルシウムが繊維上に機械的に結合した複合体が記載されている。また、特許文献2には、パルプ懸濁液中で炭酸ガス法により炭酸カルシウムを析出させることによって、パルプと炭酸カルシウムの複合体を製造する技術が記載されている。特許文献3には、紙と板紙用として多量の填料を繊維に加えて古紙繊維の白色度と清浄度を向上させる方法であって、古紙パルプのスラリーを気体−液体接触装置に送って、流れに逆らってアルカリ塩のスラリーを流れの方向にパルプを接解領域において接解させると共に適当な反応性ガスを送り沈降性填料と混ぜることによって繊維表面に填料を付着させる技術が記載されている。
また、特許文献4・5には、繊維ウェブ(湿紙)を形成させる工程において炭酸カルシウムを析出させることによって、炭酸カルシウムが効率的に取り込まれた繊維ウェブを製造する技術が開示されている。
特公平7−122236号公報 特開平8−100394号公報 特公平8−26631号公報 特開平5−59696号公報 特開平5−59698号公報 特開平5−59699号公報 特開2004−218176号公報 特開平06−158585号公報 米国特許第5679220号 米国特許第5665205号 特表2013−521417号公報 米国特許公開第2011/0000633号
本発明の課題は、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙およびその製造方法を提供することである。
本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1)セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有する加工紙。
(2)前記加工紙が、剥離紙、防湿包装、ガラスペーパー、または、壁紙用原紙である、(1)に記載の加工紙。
(3)下記式1に示す水伸びが2.5%以下である、(2)に記載の加工紙。
(式1)
水伸び(%)={(水に2時間浸漬後の長さ)−(水浸漬前の長さ)}/(水浸漬前の長さ)×100
(4)前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体が、セルロース繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、(1)〜(3)のいずれかに記載の加工紙。
(5)セルロース繊維と無機粒子の重量比が5/95〜95/5である、(1)〜(4)のいずれかに記載の加工紙。
(6)無機粒子の少なくとも一部が、カルシウム、ケイ酸、マグネシウム、バリウムまたはアルミニウムの金属塩、あるいはチタン、銅、または亜鉛を含む金属粒子である、(1)〜(5)のいずれかに記載の加工紙。
(7)前記セルロース繊維が、木材由来のセルロース繊維である、(1)〜(6)のいずれかに記載の加工紙。
(8)前記セルロース繊維が、木材由来のパルプ繊維である、(1)〜(7)のいずれかに記載の加工紙。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の加工紙を製造する方法であって、
前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を、繊維の存在下で、溶液中で無機粒子を合成する工程を含む、上記方法。
本発明によれば、寸法安定性を有し、かつ、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体に含まれる無機粒子の特徴を有する加工紙を得ることができる。
すなわち、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体は、例えば、耐火性や不透明性(隠蔽性)、放射線遮蔽性、吸着能や抗菌性を有するため、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有する加工紙は、これらの機能性を付与することが可能になる。
さらに、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体は、無機粒子が繊維に付着していることから、脱水性、乾燥性が良好であり、また、粉落ちが少なく、などの後加工が容易な加工紙を得ることができる。
図1は、サンプル1および2の製造に用いた反応装置を示す概略図である。 図2は、サンプル3を製造するための装置の概略図である(P:ポンプ)。 図3は、サンプル1(炭酸カルシウム微粒子とセルロース繊維との複合体の電子顕微鏡写真である(倍率:左3000倍、右10000倍)。 図4は、サンプル2(炭酸マグネシウム微粒子とセルロース繊維との複合体の電子顕微鏡写真である(倍率:左3000倍、右10000倍)。 図5は、サンプル3(ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合体の電子顕微鏡写真である(倍率:左3000倍、右10000倍)。 図6は、サンプル4(硫酸バリウム粒子とセルロース繊維との複合体の電子顕微鏡写真である(倍率:左3000倍、右10000倍)。 図7は、実施例1で粉落ちの評価をした結果を示す写真である。 図8は、比較例2で粉落ちの評価をした結果を示す写真である。
本発明は、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙(壁紙用原紙)に関する。特に本発明は、セルロース繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されているセルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含む加工紙(壁紙用原紙)およびその製造方法に関する。
本発明の加工紙(壁紙用原紙)は、セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を使用することを特徴とする。
セルロース繊維
繊維複合体を構成する繊維は、セルロース繊維であれば特に制限されないが、例えば、天然のセルロース繊維はもちろん、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。セルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、セルロースナノファイバー、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
木材原料(木質原料)などの天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合体シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに無機粒子の定着促進が期待できる。
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)として使用することもできる。本発明で用いる微粉砕セルロースとしては、一般に粉末セルロースと呼ばれるものと、上記機械粉砕CNFのいずれも含む。粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを未処理のまま機械粉砕したもの、もしくは、酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm以下100μm以下である。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。セルロースナノファイバーとしては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースや酸化セルロース等の化学変性セルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、ないし叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種または複数種類組み合わせてセルロースナノファイバーを製造してもよい。製造したセルロースナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡観察などで確認することができ、例えば5nm〜1000nm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは5nm〜300nmの範囲にある。このセルロースナノファイバーを製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロースナノファイバーと反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシ基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロースナノファイバーの解繊を促進したり、セルロースナノファイバーを使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることができる。
合成繊維とセルロース繊維との複合繊維も本発明において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などとセルロース繊維との複合繊維も使用することができる。
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
好ましい態様において、本発明の複合体を構成する繊維はパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明の炭酸化反応に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
本発明においては、繊維の他にも、炭酸化反応には直接的に関与しないが、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。本発明にいては、パルプ繊維を始めとする繊維を使用するが、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマーなどを含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
複合化するセルロース繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm〜15mm程度とすることができ、1μm〜12mm、100μm〜10mm、500μm〜8mmなどとしてもよい。
また、本発明におけるセルロース繊維の濃度は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは0.1〜3重量%の範囲であることが処理することが好ましい。
無機粒子
本発明において、セルロース繊維と複合化する無機粒子は特に制限されないが、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合体を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
ここで言う無機粒子とは、金属もしくは金属化合物のことを言う。また金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+など)と陰イオン(例えば、O2−、OH、CO 2−、PO 3−、SO 2−、NO−、Si 2−、SiO 2−、Cl、F、S2−など)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものを言う。これら無機粒子の合成法は気液法と液液法のいずれでも良い。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸など)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど)を中和によって反応させさたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸を反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
硫酸バリウム(BaSO)で表されるバリウムイオンと硫酸イオンからなるイオン結晶性の化合物であり、板状あるいは柱状の形態であることが多く、水には難溶性である。純粋な硫酸バリウムは無色の結晶であるが、鉄、マンガン、ストロンチウム、カルシウムなどの不純物を含むと黄褐色または黒灰色を呈し、半透明となる。天然の鉱物としても得られるが、化学反応によって合成することもできる。特に、化学反応による合成品は医薬用(X線造影剤)に用いられるほか、化学的に安定な性質を応用して塗料、プラスチック、蓄電池等に広く使用されている。
本発明においては、繊維の存在下で、溶液中で硫酸バリウムを合成することによって、硫酸バリウムと繊維の複合体を製造することができる。例えば、酸(硫酸など)と塩基を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸もしくは硫酸アルミニウムを反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸塩の含まれる水溶液中に塩化バリウムを加えて硫酸バリウムを沈殿させることができる。硫酸バリウムと繊維との複合体は、放射線遮蔽材として好適に使用することができる。
本発明の複合体は、一つの好ましい態様において、セルロース繊維の存在下で無機粒子を合成することによって得ることができる。セルロース繊維表面が、無機粒子の析出における好適な場となるため、無機粒子とセルロース繊維との複合体を合成しやすいためである。
一つの好ましい態様として、本発明の複合体における無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm以下の無機粒子や平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、さらには平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真から算出することができる。
また、本発明の複合体における無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させることができるし、粉砕によって凝集塊を細かくすることもできる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
本発明によって得られた複合体は、種々の形状で用いることができ、例えば、粉体、ペレット、モールド、水性懸濁液、ペースト、シート、その他の形状にして用いることができる。また、複合体を主成分として他の材料と共にモールドや粒子・ペレットなどの成形体にすることもできる。乾燥して紛体にする場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
本発明によって得られた複合体は、種々の用途に用いることができ、例えば、紙、繊維、セルロース系複合材料、フィルター材料、塗料、プラスチックやその他の樹脂、ゴム、エラストマー、セラミック、ガラス、タイヤ、建築材料(アスファルト、アスベスト、セメント、ボード、コンクリート、れんが、タイル、合板、繊維板など)、各種担体(触媒担体、医薬担体、農薬担体、微生物担体など)、吸着剤(不純物除去、消臭、除湿など)、しわ防止剤、粘土、研磨材、改質剤、補修材、断熱材、防湿材、撥水材、耐水材、遮光材、シーラント、シールド材、防虫剤、接着剤、インキ、化粧料、医用材料、ペースト材料、変色防止剤、食品添加剤、錠剤賦形剤、分散剤、保形剤、保水剤、濾過助材、精油材、油処理剤、油改質剤、電波吸収材、絶縁材、遮音材、防振材、半導体封止材、放射線遮断材、化粧品、肥料、飼料、香料、塗料・接着剤用添加剤、難燃材料、衛生用品(使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁者用パッド、母乳パッドなど)等のあらゆる用途に広く使用することができる。また、前記用途における各種充填剤、コーティング剤などに用いることができる。本発明の複合体は、製紙用途に適用してもよく、例えば、印刷用紙、新聞紙、インクジェット用紙、PPC用紙、クラフト紙、上質紙、コート紙、微塗工紙、包装紙、薄葉紙、色上質紙、キャストコート紙、ノンカーボン紙、ラベル用紙、感熱紙、各種ファンシーペーパー、水溶紙、剥離紙、工程紙、壁紙用原紙、不燃紙、難燃紙、積層板原紙、プリンテッドエレクトロニクス用紙、バッテリー用セパレータ、クッション紙、トレーシングペーパー、含浸紙、ODP用紙、建材用紙、化粧材用紙、封筒用紙、テープ用紙、熱交換用紙、化繊紙、減菌紙、耐水紙、耐油紙、耐熱紙、光触媒紙、化粧紙(脂取り紙など)、各種衛生紙(トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ワイパー、おむつ、生理用品等)、たばこ用紙、板紙(ライナー、中芯原紙、白板紙など)、紙皿原紙、カップ原紙、ベーキング用紙、研磨紙、合成紙などが挙げられる。すなわち、本発明によれば、一次粒子径が小さくかつ粒度分布の狭い無機粒子と繊維との複合体を得ることができるため、1μm超の粒子径を有していた従来の無機填料とは異なった特性を発揮させることができる。更には、単に無機粒子を繊維に単に配合した場合と異なり、無機粒子を繊維と複合体化しておくと、無機粒子がシートに歩留易いだけでなく、凝集せずに均一に分散したシートを得ることができる。本発明における無機粒子は、好ましい態様において、繊維の外表面・ルーメンの内側に定着するだけでなく、ミクロフィブリルの内側にも生成することが電子顕微鏡観察の結果から明らかとなっている。
また、本発明によって得られる複合体を使用する際には、一般に無機填料及び有機填料と呼ばれる粒子や、各種繊維を併用することができる。例えば、無機填料として、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合体、シリカ/二酸化チタン複合体)、白土、ベントナイト、珪藻土、硫酸カルシウム、ゼオライト、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料および再生する過程でシリカや炭酸カルシウムと複合体を形成した無機填料などが挙げられる。炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、炭酸カルシウムおよび/または軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用しても良い。有機填料としては、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合体、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、変性不溶化デンプン、未糊化デンプンなどが挙げられる。繊維としては、セルロースなどの天然繊維はもちろん、石油などの原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)、さらには無機繊維などを制限なく使用することができる。天然繊維としては上記の他にウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維やアルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。セルロース系の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。木材パルプ及び非木材パルプは、未叩解及び叩解のいずれでもよい。また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロースなどの微粉砕セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNF)として使用することもできる。合成繊維としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、アセテートなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などが挙げられる。以上について、これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いても構わない。
本発明の複合体を構成する無機粒子の平均粒子径や形状等は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。さらに、無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさや形状を有する無機粒子を繊維と複合体化することができる。
本発明に係る複合体の製造方法は、繊維を含む溶液において無機粒子を合成することを必須とするものである。例えば、繊維と無機粒子の前駆体を含む溶液を開放型の反応槽中で撹拌、混合して複合体を合成しても良いし、繊維と無機粒子の前駆体を含む水性懸濁液を反応容器内に噴射することによって合成してもよい。後述するが、無機物の前駆体の水性懸濁液を反応容器内に噴射する際に、キャビテーション気泡を発生させ、その存在下で無機粒子を合成してもよい。
無機粒子の前駆体の一方がアルカリ性の場合、あらかじめ繊維をアルカリ性前駆体の溶液に分散させておくと繊維を膨潤させることができるため、効率よく無機粒子と繊維の複合体を得ることができる。混合後15分以上撹拌することで繊維の膨潤を促進してから反応を開始することもできるが、混合後すぐに反応を開始してもよい。また、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等)のようにセルロースと相互作用しやすい物質を無機粒子の前駆体の一部として用いる場合には、硫酸アルミニウム側をあらかじめ繊維と混合しておくことで、無機粒子が繊維に定着する割合を向上させられることもある。
本発明においては、反応容器内にキャビテーション気泡を生じさせるような条件で液体を噴射してもよいし、キャビテーション気泡を生じさせないような条件で噴射してもよい。また、反応容器はいずれの場合においても圧力容器であることが好ましい。なお、本発明における圧力容器とは0.005MPa以上の圧力をかけることのできる容器のことである。キャビテーション気泡を生じさせないような条件の場合、圧力容器内の圧力は、静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下であることが好ましい。
(キャビテーション気泡)
本発明に係る複合体を合成する場合、キャビテーション気泡の存在下で無機粒子を析出させることができる。本発明においてキャビテーションとは、流体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象であり、空洞現象とも言われる。キャビテーションによって生じる気泡(キャビテーション気泡)は、流体の中で圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなったとき、液体中に存在する100ミクロン以下のごく微小な「気泡核」を核として生じる。
本発明においてキャビテーション気泡は、公知の方法によって反応容器内に発生させることができる。例えば、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させること、流体内で高速で攪拌することによってキャビテーションを発生させること、流体内で爆発を生じさせることによってキャビテーションを発生させること、超音波振動子によってキャビテーションを発生させること(バイブトラリー・キャビテーション)などが考えられる。
特に本発明においては、キャビテーション気泡の発生と制御が容易なため、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させることが好ましい。この態様では、ポンプなどを用いて噴射液体を圧縮し高速でノズルなどを介して噴射することによって、ノズル近傍での極めて高いせん断力と急激な減圧による液体自体の膨張と同時にキャビテーション気泡が発生する。流体噴流による方法は、キャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡を発生させることができる。本発明においては、無機粒子を合成する際に制御されたキャビテーション気泡を存在させるものであって、流体機械に自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーション気泡と明らかに異なる。
本発明においては、原料などの反応溶液をそのまま噴射液体として用いてキャビテーションを発生させることもできるし、反応容器内に何らかの流体を噴射してキャビテーション気泡を発生させることもできる。液体噴流が噴流をなす流体は、流動状態であれば液体、気体、粉体やパルプ等の固体の何れでもよく、またそれらの混合物であってもよい。更に必要であれば上記の流体に、新たな流体として、炭酸ガスなど、別の流体を加えることができる。上記流体と新たな流体は、均一に混合して噴射してもよいが、別個に噴射してもよい。
液体噴流とは、液体または液体の中に固体粒子や気体が分散あるいは混在する流体の噴流であり、パルプや無機粒子の原料スラリーや気泡を含む液体噴流のことをいう。ここで云う気体は、キャビテーションによる気泡を含んでいてもよい。
キャビテーションは液体が加速され、局所的な圧力がその液体の蒸気圧より低くなったときに発生するため、流速及び圧力が特に重要となる。このことから、キャビテーション状態を表わす基本的な無次元数、キャビテーション数(Cavitation Number)σは次の数式1のように定義される(加藤洋治編「新版キャビテーション・基礎と最近の進歩」、槇書店、1999年)。
Figure 2018119220
ここで、キャビテーション数が大きいということは、その流れ場がキャビテーションを発生し難い状態にあるということを示す。特にキャビテーション噴流のようなノズルあるいはオリフィス管を通してキャビテーションを発生させる場合は、ノズル上流側圧力p1、ノズル下流側圧力p2、試料水の飽和蒸気圧pvから、キャビテーション数σは下記式(2)のように書きかえることができ、キャビテーション噴流では、p1、p2、pv間の圧力差が大きく、p1≫p2≫pvとなることから、キャビテーション数σはさらに以下の数式2のように近似することができる(H. Soyama, J. Soc. Mat. Sci. Japan, 47(4), 381, 1998)。
Figure 2018119220
本発明におけるキャビテーションの条件は、上述したキャビテーション数σが0.001以上0.5以下であることが望ましく、0.003以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが特に好ましい。キャビテーション数σが0.001未満である場合、キャビテーション気泡が崩壊する時の周囲との圧力差が低いため効果が小さくなり、0.5より大である場合は、流れの圧力差が低くキャビテーションが発生し難くなる。
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上30MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上20MPa以下であることが好ましく、2MPa以上15MPa以下がより好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。一方、容器内の圧力(下流側圧力)は静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下が好ましい。
また、容器内の圧力と噴射液の圧力との比は0.001〜0.5の範囲が好ましい。
本発明において、キャビテーション気泡が発生しないような条件で噴射液を噴射して無機粒子を合成することもできる。具体的には、噴射液の圧力(上流側圧力)を2MPa以下、好ましくは1MPa以下とし、噴射液の圧力(下流側圧力)を開放し、0.05MPa以下とすることがより好ましい。
噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
本発明におけるキャビテーション発生場所は、無機粒子を合成する反応容器内に発生させればよい。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環することもできる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは順列で処理することができる。
キャビテーションを発生させるための液体の噴射は、大気開放の容器の中でなされても良いが、キャビテーションをコントロールするために圧力容器の中でなされるのが好ましい。
液体噴射によってキャビテーションを発生させる場合、反応溶液の固形分濃度は30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましい。このような濃度であると、キャビテーション気泡を反応系に均一に作用させやすくなるためである。また、反応溶液である消石灰の水性懸濁液は、反応効率の点から、固形分濃度が0.1重量%以上であることが好ましい。
本発明において例えば炭酸カルシウムとセルロース繊維との複合体を合成する場合、反応液のpHは、反応開始時は塩基性側であるが炭酸化反応が進行するにしたがって中性に変化する。したがって、反応液のpHをモニターすることによって反応を制御することができる。
本発明では、液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、これに伴って圧力が低下し、より強力なキャビテーションが発生させることができる。また、反応容器内の圧力を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力を大きくすることができる。更には導入する炭酸ガスの溶解と分散を促進することができる。反応温度は0℃以上90℃以下であることが好ましく、特に10℃以上60℃以下であることが好ましい。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水性溶液の場合、50℃前後が好適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。
本発明においては、界面活性剤を添加することでキャビテーションを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。使用する界面活性剤としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これらの単一成分からなるものでも、2種以上の成分の混合物でも良い。添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。
無機粒子とセルロース繊維との複合体の合成
本発明の一つの態様において、セルロース繊維を含む溶液中で無機粒子を合成することによって繊維複合体を合成することができるが、無機粒子の合成方法は、公知の方法によることができる。炭酸カルシウムを合成する場合であれば、例えば、炭酸ガス法、可溶性塩反応法、石灰・ソーダ法、ソーダ法などによって炭酸カルシウムを合成することができ、好ましい態様において、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを合成する。
一般に、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する場合、カルシウム源として石灰(ライム)が使用され、生石灰CaOに水を加えて消石灰Ca(OH)を得る消和工程と、消石灰に炭酸ガスCOを吹き込んで炭酸カルシウムCaCOを得る炭酸化工程とによって炭酸カルシウムが合成される。この際、生石灰に水を加えて調製した消石灰の懸濁液をスクリーンに通して、懸濁液中に含まれる低溶解性の石灰粒を除去してもよい。また、消石灰を直接カルシウム源としてもよい。本発明において炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを合成する場合、キャビテーション気泡の存在下で炭酸化反応を行えばよい。
一般に、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する際の反応容器(炭酸化反応機:カーボネーター)として、ガス吹き込み型カーボネーターと機械攪拌型カーボネーターが知られている。ガス吹き込み型カーボネーターでは、消石灰懸濁液(石灰乳)を入れた炭酸化反応槽に炭酸ガスを吹き込み、消石灰と炭酸ガスとを反応させるが、単純に炭酸ガスを吹き込むだけでは気泡の大きさを均一かつ微細に制御することが難しく、反応効率の点からは制限がある。一方、機械攪拌型カーボネーターでは、カーボネーター内部に攪拌機を設け、その攪拌機の近くに炭酸ガスを導入することによって、炭酸ガスを細かな気泡とし、消石灰と炭酸ガスとの反応効率を向上させている(『セメント・セッコウ・石灰ハンドブック』技報堂出版、1995年、495頁)。
しかし、機械攪拌型カーボネーターのように、炭酸化反応槽内部に設けた攪拌機で攪拌を行う場合、反応液の濃度が高かったり炭酸化反応が進むと反応液の抵抗が大きく十分な攪拌が困難になるため炭酸化反応を的確に制御することが難しかったり、十分な攪拌を行うには攪拌機に相当な負荷がかかりエネルギー的に不利となることがあった。また、ガスの吹込口がカーボネーターの下部にあり、攪拌をよくするために攪拌機の羽根がカーボネーターの底部の近くに設置されている。溶解性が低いライムスクリーン残渣は沈降が速いために、常に底部に滞留しており、ガス吹込口を塞いだり、攪拌機のバランスを崩したりする。さらに、従来の方法では、カーボネーターに加えて、攪拌機や、カーボネーターに炭酸ガスを導入するための設備が必要であり、設備面でもコストがかかるものであった。そして、機械攪拌型カーボネーターでは、攪拌機の近くに供給した炭酸ガスを攪拌機によって細かくすることによって消石灰と炭酸ガスとの反応効率を向上させるものの、反応液の濃度が高い場合などは十分に炭酸ガスを微細化できず、炭酸化反応の面でも、生成する炭酸カルシウムの形態等を正確に制御することが難しいことがあった。本発明においては、キャビテーション気泡の存在下で炭酸カルシウムを合成することによって、効率的に炭酸化反応を進行させ、均一な炭酸カルシウム微粒子を製造することが可能になる。特に噴流キャビテーションを用いることで、羽根などの機械的な攪拌機なしに、十分な攪拌を行うことができる。本発明においては、従来からの公知の反応容器を用いることができ、もちろん、上述したようなガス吹き込み型カーボネーターや機械攪拌型カーボネーターを問題なく使用することができ、これらの容器にノズルなどを用いた噴流キャビテーションを組合せても良い。
炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを合成する場合、消石灰の水性懸濁液の固形分濃度は、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%程度である。固形分濃度が低いと反応効率が低く、製造コストが高くなり、固形分濃度が高すぎると流動性が悪くなり、反応効率が落ちる。本発明においては、キャビテーション気泡の存在下で炭酸カルシウムを合成するため、固形分濃度の高い懸濁液(スラリー)を用いても、反応液と炭酸ガスを好適に混合することができる。
消石灰を含む水性懸濁液としては、炭酸カルシウム合成に一般に用いられるものを使用でき、例えば、消石灰を水に混合して調製したり、生石灰(酸化カルシウム)を水で消和(消化)して調製することができる。消和する際の条件は特に制限されないが、例えば、CaOの濃度は0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、温度は20〜100℃、好ましくは30〜100℃とすることができる。また、消和反応槽(スレーカー)での平均滞留時間も特に制限されないが、例えば、5分〜5時間とすることができ、2時間以内とすることが好ましい。当然であるが、スレーカーはバッチ式であっても連続式であってもよい。なお、本発明においては炭酸化反応槽(カーボネーター)と消和反応槽(スレーカー)とを別々にしてもよく、また、1つの反応槽を炭酸化反応槽および消和反応槽として用いてもよい。
本発明においては、懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、イオン交換水や蒸留水、超純水、工業廃水、炭酸化工程で得られた炭酸カルシウムスラリーを分離・脱水する際に得られる水を好適に用いることできる。
また本発明においては、反応槽の反応液を循環させて使用することができる。このように反応液を循環させて、反応液と炭酸ガスとの接触を増やすことにより、反応効率を上げ、所望の無機粒子を得ることが容易になる。
本発明においては、二酸化炭素(炭酸ガス)などのガスが反応容器に吹き込まれ、反応液と混合することができる。本発明によれば、ファン、ブロワなどの気体供給装置がなくとも炭酸ガスを反応液に供給することができ、しかも、キャビテーション気泡によって炭酸ガスが微細化されるため反応を効率よく行うことができる。
本発明において、二酸化炭素を含む気体の二酸化炭素濃度に特に制限はないが、二酸化炭素濃度が高い方が好ましい。また、インジェクターに導入する炭酸ガスの量に制限はなく適宜選択することができるが、例えば、消石灰1kgあたり100〜10000L/時の流量の炭酸ガスを用いると好ましい。
本発明の二酸化炭素を含む気体は、実質的に純粋な二酸化炭素ガスでもよく、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、二酸化炭素ガスの他に、空気、窒素などの不活性ガスを含む気体を、二酸化炭素を含む気体として用いることができる。また、二酸化炭素を含む気体としては、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)の他、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
本発明の複合体を製造する際には、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を添加することができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのポリヒドロキシカルボン酸、シュウ酸などのジカルボン酸、グルコン酸などの糖酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのアミノポリカルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸などのポリリン酸のアルカリ金属塩、グルタミン酸、アスパラギン酸などのアミノ酸およびこれらのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸アリルなどのケトン類、ショ糖などの糖類、ソルビトールなどのポリオールが挙げられる。また、表面処理剤としてパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、アビエチン酸等の樹脂酸、それらの塩やエステルおよびエーテル、アルコール系活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル類、アミド系やアミン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、長鎖アルキルアミノ酸、アミンオキサイド、アルキルアミン、第四級アンモニウム塩、アミノカルボン酸、ホスホン酸、多価カルボン酸、縮合リン酸などを添加することができる。また、必要に応じ分散剤を用いることもできる。この分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸−マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸−ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸−ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。また、添加のタイミングは合成反応の前でも後でも良い。このような添加剤は、無機粒子に対して、好ましくは0.001〜20%、より好ましくは0.1〜10%の量で添加することができる。
本発明において複合体を合成する場合、反応条件は特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、合成反応の温度は0〜90℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。反応温度は、反応液の温度を温度調節装置によって制御することができ、温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、90℃を超えると粗大な無機粒子が多くなる傾向がある。
また、本発明において反応はバッチ反応とすることもでき、連続反応とすることもできる。一般に、反応後の残存物を排出する便利さから、バッチ反応工程を行うことが好ましい。反応のスケールは特に制限されないが、100L以下のスケールで反応させてもよいし、100L超のスケールで反応させてもよい。反応容器の大きさは、例えば、10L〜100L程度とすることもできるし、100L〜1000L程度としてもよい。
さらに、反応は、例えば、反応液のpHをモニターすることにより制御することができ、反応液のpHプロファイルに応じて、炭酸カルシウムの炭酸化反応であれば、例えばpH9未満、好ましくはpH8未満、より好ましくはpH7のあたりに到達するまで反応を行うことができる。
一方、反応液の電導度をモニターすることにより反応を制御することも出来る。炭酸カルシウムの炭酸化反応であれば、例えば電導度が1mS/cm以下に低下するまで炭酸化反応を行うことが好ましい。
さらにまた、単純に反応時間によって反応を制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、反応槽の反応液を攪拌したり、反応を多段反応とすることによって反応を制御することもできる。
本発明においては、反応生成物である複合体が懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクに貯蔵したり、濃縮、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行うことができる。これらは公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。例えば濃縮・脱水処理は、遠心脱水機、沈降濃縮機などを用いて行われる。この遠心脱水機の例としては、デカンター、スクリューデカンターなどが挙げられる。濾過機や脱水機を用いる場合についてもその種類に特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、ベルトプレス、チューブプレス等の加圧型脱水機、オリバーフィルター等の真空ドラム脱水機などを好適に用いて炭酸カルシウムケーキとすることができる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。分級の方法としては、メッシュ等の篩、アウトワード型もしくはインワード型のスリットもしくは丸穴スクリーン、振動スクリーン、重量異物クリーナー、軽量異物クリーナー、リバースクリーナー、篩分け試験機等が挙げられる。分散の方法としては、高速ディスパーザー、低速ニーダーなどが挙げられる。
本発明によって得られた複合体は、完全に脱水せずに懸濁液の状態で填料や顔料に配合することもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
本発明によって得られる複合体は、公知の方法によって改質することが可能である。例えば、ある態様においては、その表面を疎水化し、樹脂などとの混和性を高めたりすることが可能である。
本発明のセルロース繊維と無機粒子との繊維複合体は、単にセルロース繊維と無機粒子が混在しているのではなく、水素結合等によってある程度セルロース繊維と無機粒子が結着しているので、離解処理によっても無機粒子が脱落することが少ない。複合体におけるセルロース繊維と無機粒子の結着の強さは、例えば、灰分歩留(%)、すなわち、(シートの灰分÷離解前の複合体の灰分)×100といった数値によって評価することができる。具体的には、複合体を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220−1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができ、好ましい態様において灰分歩留は20質量%以上であり、より好ましい態様において灰分歩留は50質量%以上である。
複合化するセルロース繊維は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量で使用すれば特に制限されないが、例えば、セルロース繊維と無機粒子の重量比を、5/95〜95/5とすることができ、10/90〜90/10、20/80〜80/20、30/70〜70/30、40/60〜60/40としてもよい。
本発明に係る繊維複合体は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されており、このような面積率でセルロース繊維表面が被覆されていると無機粒子に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、セルロース繊維表面に起因する特徴が小さくなる。
加工紙
本発明において、加工紙とは、剥離紙、防湿包装、ガラスペーパー、または、壁紙用原紙が挙げられる。このうち、壁紙用原紙が好ましい。
本発明の加工紙は、上記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有するパルプスラリーを抄紙することにより得られる。本発明によって得られた加工紙は、高灰分、かつ、無機粒子の歩留りが良いシートを容易に得ることができる。その際、本発明の加工紙は、一層のシートであっても良いし、多層シートであっても良い。多層シートである場合、多層抄きのどこかの層に一層のみ入れても良いし、一層のシートを抄紙後に、同じシートまたは他のシートと貼合、組み合わせても良い。得られたシートを貼り合せて多層シートとすることもできる。
本発明の加工紙は、上記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体以外に、填料、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤などの化学添加剤、糊が含まれてもよい。さらに、本発明の壁紙用原紙には、抗菌剤、難燃材等の他の機能性物質が含まれてもよい。
本発明の壁紙用原紙には、ガラス繊維及び/または合成繊維等の非セルロース繊維を配合することも可能であるが、その場合に非セルロース繊維の配合率は20重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下である。非セルロース繊維の配合率が増えるほど本発明の目的である非セルロース繊維を多く使用した場合の抄造時の操業性の問題を解決することが出来なくなる。本発明者らの経験では15重量%程度までなら操業性の問題の発生は少ない。例えば、15重量%程度まで合成繊維を配合した壁紙用原紙でも、残りを繊維複合体を配合することにより、操業性を損なうことがなく、より高い寸法安定性が得られる。
このような非セルロース系の繊維として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂繊維、ナイロン等のポリアミド系樹脂繊維、ポリアクリルニトリル等のアクリル系樹脂繊維、ポリウレタン系樹脂繊維、ポリ塩化ビニル等の含ハロゲン系樹脂繊維等の熱可塑性合成繊維が使用可能である。また、上記熱可塑性合成樹脂を共重合させた合成繊維、または芯鞘構造、海島構造等を有する2種以上の異なった熱可塑性合成樹脂を一本の繊維中に含有する複合繊維等も使用することができる。これらの合成繊維は単独で使用しても、複数種類混合して使用してもよい。
本発明の壁紙用原紙には、通常の紙と同様にサイズ剤を内添及び/または外添することができる。サイズ剤は酸性抄きの場合、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、アルファカルボキシルメチル飽和脂肪酸等が使用できる。一方、中性抄きの場合には、中性抄紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、カチオンポリマー系サイズ剤が使用できる。サイズ剤の添加量は特に限定されるものではないが、ステキヒトサイズ度で10秒以上であることが好ましい。また、サイズプレス等の外添においてもロジン系、合成樹脂系等の表面サイズ剤の使用も可能である。
本発明の壁紙用原紙は、表面強度を高めるため水溶性高分子及び/ または水分散性高分子を主成分とする塗工液を少なくとも化粧層を設ける側の表面に塗工することが好ましい。例えば、ビニル壁紙の場合には、壁紙用原紙の表面に塩化ビニルペーストを塗布し、塩化ビニルペーストの硬化後、印刷工程に付されて塩化ビニル層が化粧層となる。このとき壁紙用原紙の表面強度が低い場合には、化粧層の塗工時に紙表面の繊維が毛羽立ちを生じて、硬化後に毛羽立ち部が壁紙表面で突起状となり印刷不良の原因となる。
本発明で使用される水溶性高分子としては、酸化澱粉、酵素変性澱粉等の各種変性澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、カゼイン等を適宜使用することが可能である。また、水分散性高分子としては、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン等を適宜使用することができる。このとき水溶性高分子及び/ または水分散高分子を単独で使用してもよいが、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等の各種顔料と混合して使用することもできる。
水溶性高分子及び/ または水分散性高分子の塗工量は固形分で0.2〜 10g/mとすることが好ましい。塗工量が0.2g/m未満の場合には毛羽立ちが多くなり、10g/m以上であると原紙表面が完全に高分子で覆われるため化粧層と原紙層の間でアンカー効果が低下する。
また、品質に影響のない範囲で定着剤、乾紙紙力剤、湿潤紙力剤、填料、歩留り向上剤
、染料、顔料等を内添薬品として使用できる。更にサイズプレス等で塗工、あるいは含浸
する外添薬品として表面紙力剤、染料、顔料等を使用することができる。
本発明の壁紙用原紙は公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機等が使用される。
本発明の壁紙用原紙の坪量は40g/m以上300g/m以下であることが好ましい。坪量が40g/m未満であると、強度が低く加工時、断紙が発生しやすくなる。また、坪量が300g/mを超えると壁紙に加工した時に硬くなりすぎ、施工が困難となり問題がある。
本発明の壁紙用原紙は、下記式1に示す水伸びが2.5%以下であることが望ましい。
(式1)
水伸び(%)={(水に2時間浸漬後の長さ)−(水浸漬前の長さ)}/(水浸漬前の長さ)×100
具体的には、壁紙用裏打ち紙の短冊状の試験片を23℃、50%R/H雰囲気化で調湿した後の試験片の抄紙横方向の長さと、同試験片を水に1時間浸漬した後に取り出した直後に測定した長さを使用して求められる水伸びが2.5%以下である。
本発明に係る繊維複合体を用いて、加工紙(壁紙用原紙)を製造する。シート製造に用いる抄紙機(抄造機)としては、例えば、長網抄紙機、丸網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機などが挙げられる。抄紙機におけるプレス線圧、後段でカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合体シートの性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成されたシートに対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料およびそれらの混合物を付与しても良い。
シート化の際には湿潤および/または乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合体シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;上記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
また、填料の繊維への定着を促したり、填料や繊維の歩留を向上させるために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などを用いることができる。また歩留剤として、カチオン性またはアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独または組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上3000万ダルトン未満の上記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカなどの無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加材の使用量は特に限定されない。
シート化以外の成形法を用いることも可能であり、例えば、パルプモールドと呼ばれるように鋳型に原料を流し込んで吸引脱水・乾燥させる方法や、樹脂や金属などの成形物の表面に塗り広げて乾燥後、基材から剥離する方法などによって、種々の形状を有する成形物を得ることができる。また、樹脂を混ぜてプラスチック様に成形することや、シリカやアルミナ等の鉱物を添加し、焼成することでセラミック様に成形すること、3Dプリンターにより造形することもできる。以上に示した配合・乾燥・成形において、1種類の複合体のみを用いることもできるし、2種類以上の複合体を混合して用いることもできる。2種類以上の複合体を用いる場合は、予めそれらを混合したものを用いることもできるし、それぞれを配合・乾燥・成形したものを後から混合することもできる。
また、複合体の成形物に後からポリマーなどの各種有機物や顔料などの各種無機物を付与しても良い。
以下、具体的な実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
実験1:複合体の合成
(1)炭酸カルシウム粒子とセルロース繊維との複合体
水酸化カルシウム(消石灰:Ca(OH)、300g)と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、カナダ標準濾水度CSF:460ml、平均繊維長:0.8mm、300g)を含む水性懸濁液30Lを準備した。この水性懸濁液を、45L容の密閉装置に入れ、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んでキャビテーションを発生させ、炭酸ガス法によって炭酸カルシウム微粒子と繊維との複合体を合成し、サンプル1を得た。反応温度は約25℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は12L/minであり、反応液のpHが約7になった段階で反応を停止した(反応前のpHは約12.8)。
複合体の合成においては、図1に示すように反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させ、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
複合体の繊維:無機粒子の重量比は45:55であった。ここで、重量比は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から求めた複合体の灰分に基づいて算出した(JIS P 8251:2003)。
(2)炭酸マグネシウム粒子とセルロース繊維との複合体
水酸化マグネシウム140g(和光純薬)と広葉樹晒クラフトパルプ140g(LBKP、CSF:460ml、平均繊維長:0.8mm)を含む水性懸濁液を準備した。この水性懸濁液14Lを、45L容のキャビテーション装置に入れ、反応溶液を循環させながら、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸マグネシウム微粒子と繊維との複合体を合成した。反応温度は約36℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は4L/minとした。反応液のpHが約7.8になった段階でCOの導入を停止し(反応前のpHは約9.5)、その後30分間、キャビテーションの発生と装置内でのスラリーの循環を続け、サンプル2を得た。
複合体の繊維:無機粒子の重量比は45:55であり、原料(パルプ・水酸化マグネシウム)の仕込み比から計算された理論値(47:53)とほぼ一致した。
(3)ハイドロタルサイトとパルプ繊維の複合体
ハイドロタルサイト(HT)としてMgAl(OH)16CO・4HOを合成するため、アルカリ溶液(A溶液)として、NaCO(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、MgCl(和光純薬)およびAlCl(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、NaCO濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M)
・酸溶液(B溶液、Mg系、MgCl濃度:0.3M、AlCl濃度:0.1M)
複合化する繊維として、セルロース繊維を使用した。具体的には、広葉樹晒クラフトパ
ルプ(LBKP、日本製紙製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙製)を8
:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水
度を390mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長0.8mm)。
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ
繊維濃度:1.56%、pH:約12.4)。この水性懸濁液(パルプ固形分30g)を
10L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液(Mg系)を滴下してハ
イドロタルサイト微粒子と繊維との複合体を合成した。図2に示すような装置を用いて、
反応温度は60℃、滴下速度は15ml/minであり、反応液のpHが約7になった段
階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水
洗して塩を除去することで、サンプル3を得た。
複合体の繊維:無機粒子の重量比は50:50であった。
(4)硫酸バリウム粒子とセルロース繊維との複合体
1%のパルプスラリー(LBKP/NBKP=8/2、CSF=390mL、平均繊維長:約1.3mm、1300g)と水酸化バリウム八水和物(和光純薬、57g)をスリーワンモーター(1000rpm)で混合後、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、77g)ぺリスタ―ポンプで2g/minを滴下した。滴下終了後、そのまま30分間撹拌を継続してサンプル4を得た。
得られた複合体スラリーの繊維:無機粒子の重量比は27:73であった。
<繊維複合体の評価>
得られた複合体サンプルをそれぞれエタノールで洗浄後、電子顕微鏡によって観察をした(図3〜6)。その結果、いずれのサンプルにおいても繊維表面を無機物質が覆い、自己定着している様子が観察された。
図3はサンプル1の電子顕微鏡写真である。一次粒径が30〜90nmの炭酸カルシウムがパルプ繊維表面を覆っている複合体が生じていることを確認できた。複合体においては、図4はサンプル2の電子顕微鏡写真である。繊維表面に多数の炭酸マグネシウム粒子が析出していることが確認できた。炭酸マグネシウムの一次粒子の多くは鱗片状であり、一次粒子径(長軸径)が0.1〜3μm程度であった。図5はサンプル3の電子顕微鏡写真である。繊維表面を覆っているハイドロタルサイトの一次粒子径は40〜60nm程度であった。図6はサンプル4の電子顕微鏡写真である。繊維に定着している硫酸バリウムは板状であり、一次粒子径は50〜1000nmであった。また、複合体における無機粒子の平均一次粒子径は、サンプル1が約0.08μm、サンプル2が約1.0μm、サンプル3が約0.05μm、サンプル4が0.8μmであった。
また、得られた複合体について、繊維表面の被覆率を測定した。被覆率は、電子顕微鏡にて撮影した画像について、無機物が存在する個所を(白)、繊維が存在する個所を(黒)となるように二値化処理し、画像全体に対する白色部分、すなわち無機物が存在する部分の割合(面積率)を算出して測定した。被覆率の測定には、画像処理ソフト(Image J、アメリカ国立衛生研究所)を使用した。
被覆率は、サンプル1が約100%、サンプル2が約100%、サンプル3が約95%、サンプル4が約100%であった。
[実施例1]
サンプル1の複合体スラリー(約0.5%)にカチオン性歩留剤(ND300、ハイモ社製)を100ppm、アニオン性歩留剤(FA230、ハイモ社製)を100ppm添加し、500rpmにて攪拌して懸濁液を調製した。得られた懸濁液からJIS P 8222に基づいて角形手抄き器にて坪量が140〜160g/mのシートを製造した。シートの特性を評価した結果を表1、2に示す。
また、得られたシートの粉落ちの評価をした結果を図7に示す。
<評価方法>
・坪量:JIS P 8124:1998
・厚さ:JIS P 8118:1998
・密度:厚さ、坪量の測定値より算出
・灰分:JIS P 8251:2003
・白色度:JIS P 8212:1998
・不透明度:JIS P 8149:2000
・水伸びおよび収縮率: 試験片を23℃ 、50%R/H雰囲気で調湿し、試験片の抄紙横方向の長さを測定した。その後純水に2 時間浸漬した後取り出し、直ちに抄紙横方向の長さを測定した。次いで、試験片を23℃ 、50%R/H雰囲気で風乾し、抄紙横方向の長さを測定した。下記の式にて、水伸びおよび乾燥収縮率を算出した。
水伸び(%)={(水に1 時間浸漬後の長さ)−(水浸漬前の長さ)}/(水浸漬前の長さ)×100
収縮(%)={( 水浸漬前の長さ)−(水浸・風乾後の長さ)}/(水浸漬前の長さ)×100
・粉落ち:各試験片を短冊状にして1枚のラシャ紙の上に並べ、上部のみ固定してクリアファイルに挟み、一定の力でクリアファイルの曲げ伸ばしを行った後、ラシャ紙への粉落ちを目視で評価した。
○:粉落ちがほとんど見られない
×:粉落ちが見られ、ラシャ紙全体がやや粉っぽい
・消臭評価:SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301、繊維評価技術協議会)の方法に基づいて、ウェット条件におけるアンモニアに対する消臭特性(減少率、%)を評価した。試験片(大きさ100cm2)を20℃、65%RHで24時間以上調湿した後に約1mlの水をピペットで付与し、検知管法によってアンモニア濃度を測定した。
減少率(%) = (1−測定時の濃度/初期濃度)×100
[実施例2]
サンプル2の複合体スラリーを用いた以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。結果を表1、2に示す。
[実施例3]
サンプル3の複合体スラリーを用いた以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。結果を表1、2に示す。
[実施例4]
サンプル4の複合体スラリーを用いた以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。結果を表1、2に示す。
[比較例1]
繊維複合体の代わりに、パルプスラリー(LBKP/NBKP=80/20、CSF:390ml、平均繊維長:1.3mm)を用いた以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。結果を表1、2に示す。
[比較例2]
繊維複合体の代わりに、ロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(Specialty Minerals Inc.社製、商品名:アルバカーLO)とパルプスラリー(LBKP/NBKP=8/2、CSF:390ml、平均繊維長:1.3mm)との重量比が50:50となるよう添加したものを用いた以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。結果を表1、2に示す。
また、得られたシートの粉落ちの評価をした結果を図8に示す。
Figure 2018119220
Figure 2018119220
表2に示されるように、実施例1〜4のセルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有するシートは、比較例1のシートと比較して、白色度、不透明度、寸法安定性が良好であった。また、実施例1〜4のセルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有するシートは、比較例1のシートと比較して、灰分が高いことから、燃焼カロリーが低いと考えられ、難燃性を有しているといえる。さらに、実施例3のセルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有するシートは、比較例1のシートと比較して、消臭効果を有していた。したがって、無機粒子の種類を変えることで、加工を行わなくても様々な機能付与(消臭、抗菌、放射線遮蔽など)が可能となると考えられる。
また、図7、8に示されるように、実施例1のシート(炭酸マグネシウム粒子とセルロース繊維との繊維複合体を含有するシート)は粉落ちが少ない一方、比較例2のシート(炭酸カルシウム粒子とセルロース繊維を含有するシート)は粉落ちが多かった。したがって、繊維複合体を含有させることで無機粒子が高配合でも粉落ちが少なく、後加工適性に優れることがわかる。

Claims (9)

  1. セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有する加工紙。
  2. 前記加工紙が、剥離紙、防湿包装、ガラスペーパー、または、壁紙用原紙である、請求項1に記載の加工紙。
  3. 下記式1に示す水伸びが2.5%以下である、請求項2に記載の加工紙。
    (式1)
    水伸び(%)={(水に2時間浸漬後の長さ)−(水浸漬前の長さ)}/(水浸漬前の長さ)×100
  4. 前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体が、セルロース繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、請求項1〜3のいずれかに記載の加工紙。
  5. セルロース繊維と無機粒子の重量比が5/95〜95/5である、請求項1〜4のいずれかに記載の加工紙。
  6. 無機粒子の少なくとも一部が、カルシウム、ケイ酸、マグネシウム、バリウムまたはアルミニウムの金属塩、あるいはチタン、銅、または亜鉛を含む金属粒子である、請求項1〜5のいずれかに記載の加工紙。
  7. 前記セルロース繊維が、木材由来のセルロース繊維である、請求項1〜6のいずれかに記載の加工紙。
  8. 前記セルロース繊維が、木材由来のパルプ繊維である、請求項1〜7のいずれかに記載の加工紙。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の加工紙を製造する方法であって、
    前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を、繊維の存在下で、溶液中で無機粒子を合成する工程と、
    前記セルロース繊維と無機粒子との繊維複合体を含有する加工紙を製造する工程、
    を含む、上記方法。
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