本発明は、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットに関する。
一般的なかつらは、ネット又は人工皮膚からなるかつらベースに、人工毛又は人毛からなる毛髪が植毛された構成となっている。従来の毛髪の植毛方法としては、例えば、図8(a)〜(d)に示すようなものがあった。
図8(a)は「V植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。V植毛は、合成樹脂製の人工皮膚からなるかつらベースに好適である。V植毛は、かつらベースを構成する合成樹脂製の人工皮膚に、毛髪をV字状に通す植毛方法である。
図8(b)は「シングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。また、図8(c)は「ハーフシングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。シングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛は、合成繊維又は天然繊維を編んだネット製のかつらベースに好適である。シングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛は、かつらベースを構成するネットに、二つ折りにした毛髪を結び付ける植毛方法である。
図8(b)において、シングルノット植毛では、まず、毛髪の途中をU字に曲げて、U字部分を形成する。次いで、毛髪のU字部分を、かつらベースの網目に、表面側、裏面側、表面側の順に通す。その後、毛髪の自由な両端側をU字部分に通すことで、毛髪をネットに結び付ける。一方、図8(c)において、ハーフシングルノット植毛は、毛髪の一端側又は他端側のいずれか一方をU字部分に通すことで、二つ折りにした毛髪をネットに結び付ける。
図8(d)は、「引き抜き植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。引き抜き植毛は、人工皮膚とネットとが上下に重ね合わされた構成のかつらベースに好適である。引き抜き植毛は、下側のネットに毛髪を結び付けた後、上側の人工皮膚から毛髪の自由な両端側を引き出す植毛方法である。
ここで、特許文献1(特許第5093908号公報)には、上述した従来の毛髪の植毛方法とは異なる植毛方法が提案されている。特許文献1の植毛方法は、その図1(A)〜(I)に示されているように、毛髪3をかつらベース2に結着させる際に、毛髪3の結び目3eがかつらベース2の裏面側に位置し、かつ結び目3eに連繋している掛け廻し部分3fがかつらベース2の表面側に位置することを特徴とする。
図8(b)、(c)に示されるシングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛では、毛髪をネットに結び付けていたため、毛髪の根元に結び目の塊ができてしまい、かつらの外観が不自然になってしまう問題があった。特に、黒や茶といった暗色の毛髪の結び目は暗色の塊となり、頭皮を模した明るい肌色のネット上で目立ってしまう。
図8(a)、(d)に示されるV植毛及び引き抜き植毛では、毛髪の結び目がない又は視認できず、上記のような問題は生じない。しかし、V植毛は、人工皮膚に植毛した毛髪が抜けやすいという問題がある。一方、引き抜き植毛は、毛髪の結び目を隠すための人工皮膚が必要である。さらに、下側のネットに結び付けた毛髪を、上側の人工皮膚の所定位置から引き出す作業には熟練した技術を要する。
特許文献1の植毛方法は、毛髪3の結び目3eがかつらベース2の裏面側に位置するので、図8(b)、(c)に示される植毛方法の問題は生じない。また、特許文献1の植毛方法は、特開2006−183215号公報に記載された2枚重ねのかつらベースの問題点を解決するためになされたものであり、図8(d)に示される植毛方法の問題も生じない。
しかし、特許文献1の植毛方法は、その図2(a)に示されるように、毛髪3の掛け廻し部分3fが、かつらベース2の表面側に露呈してしまう。このような掛け廻し部分3fは、自然に生えた自毛の根元に存在するものではなく、かつらベースに植毛された毛髪の根元が不自然な外観となってしまう。特に、毛髪の分け目、つむじ及び生え際は、かつらベースに植毛された毛髪の根元が視認されやすく、特許文献1の植毛方法では、かつらの最も重要な部分において、自毛の生え方と変わらない自然な外観を提供することができないという問題があった。
また、特許文献1の植毛方法では、かつらベース2の表面に、多数の掛け廻し部分3fが形成されるので、櫛やブラシの歯が掛け廻し部分3fに引っ掛かってしまい、スムーズなブラッシングが阻害される問題もあった。さらに、掛け廻し部分3fは、毛髪3の結び目3eに連繋しているので、櫛やブラシの歯が掛け廻し部分3fに引っ掛かると、毛髪3の結び目3eが解けてしまうおそれがあった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットの提供を目的とする。
(1)上記目的を達成するために、本発明のかつらは、人工毛又は人毛からなる毛髪がかつらベースに植毛されたかつらであって、前記毛髪の途中に前記かつらベースとの係止部が設けられ、前記係止部が前記かつらベースの裏面側に位置し、前記毛髪の両端側がそれぞれ前記かつらベースの表面側に位置し、前記毛髪が結着されることなく前記かつらベースに植毛された構成としてある。
上記構成によれば、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるようになる。このような構成からなる本発明のかつらにより、図8(b)、(c)に示されるシングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛の結び目の問題点、及び特許文献1の掛け回し部分の問題点は、いずれも解決される。
また、本発明のかつらでは、毛髪の抜け防止手段としての係止部がかつらベースの裏面側に位置して、毛髪がかつらベースに十分に保持される。この結果、本発明のかつらでは、毛髪を結着することなくかつらベースに植毛することができる。これにより、図8(a)に示されたV植毛の問題点が解決され、さらに、図8(d)に示された引き抜き植毛のような、結び目を隠すための人工皮膚から毛髪を引き出す手間も掛からない。
(2)好ましくは、上記(1)のかつらにおいて、前記係止部が、前記かつらベースの表面側に位置する前記毛髪の両端側よりも大きな断面積を有する構成にするとよい。このような構成によれば、断面積の大きい係止部が、かつらベースの裏面に当接して、毛髪の抜けが防止される。
(3)好ましくは、上記(2)のかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に複数設けられた構成にするとよい。このような構成によれば、仮に、第1の係止部がかつらベースを通過してしまった場合でも、第2、第3・・・の係止部が、かつらベースの裏面に当接して、毛髪の抜けが防止される。
(4)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に形成された結び目である構成にするとよい。このような構成によれば、毛髪の途中に係止部を簡単に設けることができる。毛髪の結び方は、容易に解けないものであれば、特に限定されない。例えば、ひと結び、ふた結び、球結びなど、毛髪の直径よりも大きな断面の幅寸法となる結び方を広く適用することができる。このような毛髪の結び目からなる係止部は、人が手作業によって簡単に形成することができる。また、ミシンの「自動玉止め」や自動結束機の原理を応用して、毛髪の結び目を自動で形成することも可能である。
(5)好ましくは、上記(4)のかつらにおいて、前記結び目が、前記毛髪のループを形成する構成にするとよい。このような構成によれば、毛髪をかつらベースに植毛する際に、結び目によって形成された毛髪のループに植毛針の鈎部を引っ掛けることができる。これにより、植毛針を用いて、結び目をかつらベースの表面側から裏面側へ通すことが可能となり、後述するかつらの製造工程を少なくすることが可能となる。
(6)好ましくは、上記(5)のかつらにおいて、前記毛髪のループ内に、接着剤の膜を保持させた構成にするとよい。
ここで、かつらベースの裏面に一様に接着剤を塗布して、全ての毛髪を一括でかつらベースに接着することが考えられる。しかし、かつらベースの裏面に一様に接着剤を塗布すると、固化した接着剤によってかつらベース全体が硬くなり、かつらの装着感が損なわれてしまう。そこで、かつらベースに植毛された多数の毛髪を個別に接着することが考えられる。しかし、個々の毛髪に微量かつ十分な量の接着剤を確実に塗布することは困難である。
上記(6)のかつらによれば、結び目によって形成された毛髪のループ内に、表面張力で接着剤の膜が保持されるので、毛髪ごとに微量かつ十分な量の接着剤を、容易かつ確実に塗布することができる。また、微量の接着剤が膜状に広がって十分な接着力を得ることが可能である。この結果、多数の毛髪をかつらベースにしっかりと固定することができるとともに、接着剤の固化後もかつらベースの柔軟性を維持することが可能であり、かつらの装着感が良好となる。
(7)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に固着された樹脂材料塊である構成としてもよい。毛髪の途中に設けられる係止部は、結び目に限らず、例えば、樹脂材料塊であってもよい。樹脂材料塊は、例えば、毛髪の途中に天然系又は合成系の接着剤を塗布することで、極めて容易に形成することが可能である。
(8)好ましくは、上記(1)〜(7)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部の断面の幅寸法が、0.1〜2mmである構成にするとよい。このような構成によれば、かつらベースが比較的細かい網目の織布(メッシュ又はネットを含む)である場合に、毛髪の直径を超える係止部が網目に引っ掛かり、毛髪の抜けが防止される。また、かつらベースが合成樹脂製のシートからなる場合は、毛髪の直径を超える係止部が、合成樹脂のシートに開けられた微小孔に引っ掛かり、毛髪の抜けが防止される。係止部の断面の幅寸法の上限については、比較的粗い網目のネットを考慮すると、断面の幅寸法が2mmの係止部で、毛髪の抜け防止が十分に図れるものと考えられる
(9)好ましくは、上記(1)のかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることによって設けられた構成にしてもよい。
(10)例えば、上記(9)のかつらにおいて、前記毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることが、波状にすること、凹凸にすること、縮れさせること又は捻転させることのうちの少なくとも1つであってもよい。
上記(9)及び(10)のかつらによれば、毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることで、かつらベースとの間に摩擦抵抗や引っ掛かりを生じさせ、毛髪の抜け防止手段としての効果を奏することができ、毛髪をかつらベースに十分に保持することが可能となる。
(11)好ましくは、上記(1)〜(10)のいずれかのかつらにおいて、前記かつらベースの少なくとも一部が、上下に重ね合わされた第1及び第2かつらベースからなり、これら第1及び第2かつらベースの間に前記係止部が位置し、前記毛髪が結着されることなく前記第1かつらベースに植毛された構成にするとよい。このような構成によれば、係止部が、上下に重ね合わされた第1及び第2かつらベースの間に位置するので、第1かつらベースに植毛した毛髪が動きにくくなり、抜けにくくなる。
(12)好ましくは、上記(1)〜(11)のいずれかのかつらにおいて、前記かつらベース又は前記第1かつらベースが、2mm以下の網目を有する織布で構成するとよい。
上述のとおり、本発明のかつらは、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観になるという効果を奏する。したがって、本発明のかつらの構成は、特に、毛髪の分け目、つむじ及び生え際など、かつらベースに植毛された毛髪の根元が露呈しやすい部分に適用したときに真価を発揮する。毛髪の分け目、つむじ及び生え際などには、頭皮を模した合成樹脂シート又は織布(メッシュ又はネットを含む)からなる人工皮膚が用いられる。これらのうち、織布を用いる場合は、2mm以下、より好ましくは、2mm未満のより細かい網目の織布を用いることで、織布の外観を頭皮に近似させることができ、本発明のかつらの構成と相俟って、毛髪の根元をより自然な外観に見せることが可能となる。
(13)上記目的を達成するために、本発明の第1のかつらの製造方法は、上記(1)〜(12)のいずれかのかつらの製造方法であって、A)前記毛髪の途中をU字に曲げて、このU字部分を境にして、前記毛髪の一端側に前記係止部が含まれるようにする工程と、B)前記毛髪のU字部分を、前記かつらベースの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む工程と、C)前記毛髪のU字部分を、前記かつらベースの第2位置において裏面側から表面側へ引き出す工程と、D)前記毛髪のU字部分を引っ張って、前記毛髪の他端側を、前記かつらベースの第2位置から表面側へ引き出す工程と、E)前記毛髪の他端側を引っ張って、前記毛髪の一端側に含まれる前記係止部を、前記かつらベースの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む工程と、を含む手順となっている。
上記手順を含む本発明の第1のかつらの製造方法によれば、例えば、鈎針や縫い針といった植毛針を用いて、上記(1)〜(12)のいずれかのかつらを容易に製造することができる。
(14)上記目的を達成するために、本発明の第2のかつらの製造方法は、上記(5)又は(6)のかつらの製造方法であって、a)前記毛髪の途中をU字に曲げて、このU字部分に前記結び目が含まれるようにする工程と、b)前記結び目によって形成された前記ループを引っ張って、前記結び目とともに、前記毛髪のU字部分を、前記かつらベースの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む工程と、c)前記毛髪のU字部分を引っ張って、前記結び目を前記かつらベースの裏面側に位置させつつ、前記毛髪の一端側又は他端側を、前記かつらベースの第2位置における裏面側から表面側へU字状に引き出す工程と、d)前記毛髪の一端側又は他端側のU字状に引き出された部分を引っ張って、前記毛髪の一端側又は他端側を、前記かつらベースの第2位置から表面側へ引き出す工程と、を含む手順となっている。
上記手順を含む本発明の第2のかつらの製造方法によれば、上記b)工程において、係止部である結び目をかつらベースの裏面側に引き込むことができる。これにより、上述した第1のかつらの製造方法における上記E)工程を省略することができ、本発明のかつらをより容易に製造することが可能となる。
(15)上記目的を達成するために、本発明の毛髪セットは、上記(13)又は(14)における第1又は第2のかつらの製造方法に用いられる毛髪セットであって、台紙と、前記台紙に設けられた少なくとも一条の粘着部と、U字に曲げられた状態で、前記粘着部に貼り付けられた複数の前記毛髪と、を備えた構成としてある。
上記構成からなる本発明の毛髪セットによれば、第1又は第2のかつらの製造方法を実施する際に、作業者が毛髪の途中に係止部を設ける手間を省略することができる。また、毛髪がU字に曲げられた状態で台紙に貼り付けられているので、作業者が毛髪をU字に曲げる手間や、指で摘んだ毛髪の係止部の位置合わせの手間を省略することができる。
本発明によれば、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットを提供することが可能となる。
図1は本発明の実施形態に係るかつらの背面図である。
図2(a)は単層構造のかつらベースに植毛した毛髪の状態を示す断面図である。図2(b)は二層構造のかつらベースに植毛した毛髪の状態を示す断面図である。図2(c)は係止部の第1実施形態を示す拡大図である。図2(d)は係止部の第2実施形態を示す拡大図である。図2(e)は係止部の第3実施形態を示す拡大図である。
図3(a)は手作業で毛髪の途中に係止部を設ける工程を示す概略図である。図3(b)は本発明の実施形態に係る毛髪セットを示す正面図である。
図4(a)〜(e)は本発明の第1実施形態に係るかつらの製造方法の各工程を示す概略図である。
図5(a)〜(d)は本発明の第2実施形態に係るかつらの製造方法の各工程を示す概略図である。
図2(d)の毛髪のループの接着状態を示す拡大図である。
図7(a)〜(e)は、結び目以外の構成の係止部を示す概略図である。
従来の植毛方法を説明するための概略図であり、図8(a)はV植毛、図8(b)はシングルノット植毛、図8(c)はハーフシングルノット植毛、図8(d)は引き抜き植毛を示す。
以下、本発明の実施形態に係るかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットについて、図面を参照しつつ説明する。
<かつらの全体構成>
図1において、本実施形態のかつら1は、主として、かつらベース2に、人工毛又は人毛である毛髪3が植毛された構成となっている。かつらベース2は、比較的に網目の粗いネット10と、生え際に対応する箇所に配設された人工皮膚20Aと、分け目及びつむじに対応する箇所に配設された人工皮膚20Bとで構成される。
ここで、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法は、毛髪3の根元を自然な外観に見せるためのものであり、毛髪3の根元が露呈しやすい人工皮膚20A、20Bの部分に適用される。一方、毛髪3の根元が露呈しにくいネット10の部分に、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法を適用することは任意である。
<ネット>
かつらベース2を構成するネット10は、装着者の頭部に合わせた椀状となっている。ネット10は、人工又は天然素材からなる糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成となっている。糸状部材11の素材としては、成型性及び耐熱性等に優れたナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維が好ましい。但し、綿、麻、絹等の天然繊維からなる糸状部材11を用いてネット10を構成してもよい。
糸状部材11は、一本のフィラメント(線状の構造体)であってもよいし、複数本のフィラメントを撚ったマルチフィラメントであってもよい。また、ネット10は、糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成に限定されるものではない。例えば、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法をネット10に適用しない場合、ネット10は、複数本の糸状部材11、11、11…を縦又は横の一方向に平行に配した構成としてもよい。このような構成とした場合は、例えば、従来の植毛構造及び植毛方法をネット10に適用して、糸状部材11に毛髪3を結着させて植毛すればよい。
<人工皮膚>
人工皮膚20A、20Bは、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の合成樹脂からなる肌色のフィルム又はシート、若しくはナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、綿、麻、絹等の天然繊維からなる網目の細かい肌色の織布(メッシュ又はネットを含む)により構成してある。
人工皮膚20A、20Bは、かつら1の生え際、分け目及びつむじの部分を頭皮のように見せる役割を果たす。人工皮膚20A、20Bに、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた場合は、人間の頭皮の質感をリアルに再現することができ、見た目がより自然となる。一方、人工皮膚20A、20Bに、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた場合は、かつら1の通気性が良好となり、耐久性が向上する利点がある。人工皮膚20A、20Bに、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた構成の具体例を、図2(a)に示す。一方、人工皮膚20A、20Bに、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた構成の具体例を、図2(b)に示す。
図2(a)に示すように、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所を切り欠いて、この切欠部10aの周縁部に沿って、人工皮膚20A、20Bを縫着した構成としてもよい。このような構成とした場合、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所は、人工皮膚20A、20Bのみの単層構造となる。
一方、図2(b)に示すように、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所の上に、人工皮膚20A、20Bを積層して縫着した構成としてもよい。このような構成とした場合、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所は、人工皮膚(第1のかつらベース)20A、20Bと、ネット(第2のかつらベース)10との二層構造となる。
<毛髪>
毛髪3は、人工毛又は人毛のいずれを用いてもよい。人工毛の素材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。毛髪3の太さは、例えば、細い毛髪として約0.03又は0.04mm程度、太い毛髪として約0.05〜0.10mm程度のものが用いられる。また、毛髪3の強度の指標としては、例えば、結んでいない直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、結んだ状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。図2(a)〜(c)に示すように、本実施形態の毛髪3の途中には、抜け防止手段としての係止部31が設けられている。この係止部31については、次の<毛髪の植毛構造>において詳述する。
<毛髪の植毛構造>
図2(a)、(b)に示すように、毛髪3は、人工皮膚20A、20BにV字状に植毛される。毛髪3の途中に設けられた係止部31は、人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置する。毛髪3の両端側は、それぞれ人工皮膚20A、20Bの表面側に位置する。毛髪3は、係止部31によって抜け止めされ、どこにも結着されることなく人工皮膚20A、20Bに植毛されている。
図2(c)に示すように、係止部31は、例えば、毛髪3の途中に形成された結び目である。毛髪3の結び方は、容易に解けないものであれば、特に限定されない。例えば、ひと結び、ふた結び、球結びなど、毛髪3の直径よりも大きな断面の幅寸法となる結び方を広く適用することができる。このような毛髪3の結び目からなる係止部31は、人が手作業によって簡単に形成することができる。また、ミシンの「自動玉止め」や自動結束機の原理を応用して、毛髪3の結び目を自動で形成することも可能である。
係止部31の断面の幅寸法は、0.1〜2mm程度の範囲が望ましい。例えば、図2((a)に示すように、人工皮膚20A、20Bが合成樹脂製のシートからなる場合は、毛髪3の直径を超える係止部31が、合成樹脂のシートに開けられた微小孔に引っ掛かり、毛髪3の抜けが防止される。また、図2(b)に示すように、人工皮膚20A、20Bが網目の細かい織布(メッシュ又はネットを含む)からなる場合は、毛髪1の直径を超える係止部31が網目に引っ掛かり、毛髪3の抜けが防止される。係止部31の断面の幅寸法の上限については、例えば、ネット10のような比較的粗い網目のものを考慮すると、断面の幅寸法が2mmの係止部31で、毛髪3の抜け防止が十分に図れるものと考えられる。
図2(d)に示すように、係止部31としての結び目が、毛髪3のループ32を形成する構成としてもよい。このような構成によれば、毛髪3を人工皮膚20A、20Bに植毛する際に、結び目によって形成された毛髪3のループ32に植毛針の鈎部を引っ掛けることができる。これにより、植毛針を用いて、結び目をかつらベースの表面側から裏面側へ通すことが可能となり、後述するかつらの製造工程を少なくすることが可能となる。
図2(e)に示すように、毛髪3の途中に複数の係止部31A、31B、31Cが設けられた構成としてもよい。このような構成によれば、仮に、第1の係止部31Aが人工皮膚20A、20Bを通過してしまった場合でも、第2の係止部31B、第3の係止部31Cが、人工皮膚20A、20Bの裏面に当接して、毛髪3の抜けが防止される。
上記構成からなる本実施形態のかつら1によれば、毛髪3の結び目や掛け回し部分などが、人工皮膚20A、20Bの表面に一切露呈せず、人工皮膚20A、20Bに植毛された毛髪3の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるようになる。
また、本実施形態のかつら1では、毛髪3の抜け防止手段としての係止部31が人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置して、毛髪3が人工皮膚20A、20Bに十分に保持される。この結果、本実施形態のかつら1では、毛髪3を結着することなく人工皮膚20A、20Bに植毛することができる。
<第1のかつらの製造方法>
次に、本発明の第1実施形態に係るかつらの製造方法について、図3及び図4を参照しつつ説明する。
<<前工程>>
上述した本実施形態のかつら1を製造する場合は、毛髪3に予め係止部31を設ける。図3(a)に示すように、人が手作業によって係止部31となる毛髪3の結び目を形成してもよい。また、糸状部材の結束機能を有するミシンや自動結束機を用いて、毛髪3の結び目を自動で形成してもよい。
ここで、図3(b)は、本実施形態に係る毛髪セット4を示すものである。毛髪セット4は、係止部31を設けた多数の毛髪3、3、3・・・を、1つずつ指で摘んで分離可能なように保持する。毛髪セット4は、一条の粘着部42を設けた台紙41を有する。粘着部42には、多数の毛髪3、3、3・・・がU字に曲げられた状態で、横一列に整列して貼り付けられている。粘着部42は、例えば、毛髪3を指で摘んで分離可能な程度の粘着力を有する両面テープ又は粘着剤の層からなる。
係止部31を設けた多数の毛髪3、3、3・・・を予め用意し、図3(b)に示すような毛髪セット4を構成することで、以下に説明する毛髪3の植毛工程を実施する際に、作業者が毛髪3の途中に係止部31を設ける手間を省略することができる。また、毛髪セット4は、毛髪3がU字に曲げられた状態で台紙41に貼り付けられているので、作業者が毛髪3をU字に曲げる手間や、指で摘んだ毛髪3の係止部31の位置合わせの手間を省略することができる。
<<毛髪の植毛工程>>
図4(a)〜(e)は、係止部31を設けた毛髪3を、かつらベース2の人工皮膚20A、20Bに植毛するための各工程を示す。
まず、図4(a)に示すように、植毛を行う作業者は、例えば、左手に毛髪3を持ち、右手に植毛針である鈎針5を持つ。作業者は、毛髪3の途中をU字に曲げて、毛髪3を二つ折りにして持つ。指で把持した毛髪3は、U字部分3aが人工皮膚20A、20Bの方向を向き、一端側3b及び他端側3cが人工皮膚20A、20Bの反対方向を向くようにする。また、U字部分3aを境にして、毛髪3の一端側3bに係止部31を位置させる。このような毛髪3の所定の把持状態は、単に、図3(b)に示す毛髪セット4から毛髪3を指で摘み取ることで実現される。
その一方で、作業者は、鈎針5の先端の鈎部51を、人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側へ差し込み、この差し込み位置(第2位置)とは異なる位置(第1位置)において、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの裏面側から表面側へ差し出す。そして、毛髪3のU字部分3aを鈎部51に引っ掛ける。
次いで、図4(b)に示すように、作業者は、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側に戻し、毛髪3のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。このとき、毛髪3の一端側3bに位置する係止部31は、未だ人工皮膚20A、20Bの裏面側へは引き込まない。
次いで、図4(c)に示すように、作業者は、毛髪のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第2位置において裏面側から表面側へ引き出す。引き続き、図4(d)に示すように、作業者は、毛髪3のU字部分3aを引っ張って、毛髪3の係止部31が設けられていない他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置から表面側へ引き出す。その後、図4(e)に示すように、作業者は、毛髪3の他端側3cを引っ張って、毛髪3の一端側3bに設けられた係止部31を、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。これにより、毛髪3の植毛が完了する。
なお、図示しないが、全ての毛髪3、3、3・・・について、図4(a)〜(e)に示す一連の植毛工程が完了した後、各毛髪3の係止部31を、人工皮膚20A、20Bの裏面に接着してもよい。この場合、人工皮膚20A、20Bに一様に接着剤を塗布して全ての係止部31、31、31・・・を一括で接着するのではなく、個々の係止部31に微量の接着剤を塗布して個別に接着するとよい。係止部31を微量の接着剤で個別に接着することで、接着剤の固化後も人工皮膚20A、20Bの柔軟性が維持され、かつら1の装着感が良好となる。
<第2のかつらの製造方法>
次に、本発明の第2実施形態に係るかつらの製造方法について、図5及び図6を参照しつつ説明する。本実施形態では、図2(d)に示すループ32を有する毛髪3の植毛工程について詳述する。
<<前工程>>
第1実施形態と同様に、人工皮膚20A、20Bに植毛する多数の毛髪3、3、3・・・には、予めループ32付きの係止部31を設ける。毛髪3のループ32付きの結び目は、図3(a)に示すように、人が手作業によって形成してもよいし、糸状部材の結束機能を有するミシンや自動結束機を用いて自動で形成してもよい。また、図3(b)に示すように、ループ32付きの係止部31が設けられた多数の毛髪3、3、3・・・を毛髪セット4に整列配置しておくことが望ましい。
<<毛髪の植毛工程>>
図5(a)〜(d)は、ループ32を有する毛髪3を、かつらベース2の人工皮膚20A、20Bに植毛するための各工程を示す。
まず、図5(a)において、植毛を行う作業者は、例えば、左手に毛髪3を持ち、右手に植毛針である鈎針5を持つ。作業者は、毛髪3の途中をU字に曲げて、毛髪3を二つ折りにして持つ。指で把持した毛髪3は、U字部分3aが人工皮膚20A、20Bの方向を向き、一端側3b及び他端側3cが人工皮膚20A、20Bの反対方向を向くようにする。ここまでは、上述した第1実施形態と同様であるが、図5(a)に示す工程では、第1実施形態と異なり、毛髪3のU字部分3aに係止部31を位置させる。好ましくは、ループ32をU字部分3aの先端付近に位置させると、ループ32に鈎針5の鈎部51を引っ掛けやすくなる。
その一方で、作業者は、鈎針5の鈎部51を、人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側へ差し込み、この差し込み位置(第2位置)とは異なる位置(第1位置)において、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの裏面側から表面側へ差し出す。ここまでは、上述した第1実施形態と同様であるが、図5(a)に示す工程では、第1実施形態と異なり、係止部31によって形成された毛髪3のループ32を鈎部51に引っ掛ける。
次いで、図5(b)に示すように、作業者は、毛髪3のループ32を鈎部51で引っ張り、係止部31とともに、毛髪3のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。
次いで、図5(c)に示すように、作業者は、人工皮膚20A、20Bの裏面側において、鈎部51を、毛髪3のループ32からU字部分3aに掛け替える。そして、毛髪3のU字部分3aを鈎部51で引っ張り、係止部31を人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置させつつ、毛髪3の他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置における裏面側から表面側へU字状に引き出す。
引き続き、図5(d)に示すように、作業者は、毛髪3の他端側3cのU字状に引き出された部分を引っ張って、毛髪3の他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置から表面側へ引き出す。これにより、毛髪3の植毛が完了する。
上述した本実施形態のかつらの製造方法によれば、図5(b)に示す工程において、係止部31である毛髪3の結び目を、人工皮膚20A、20Bの裏面側に引き込むことができる。これにより、上述した第1実施形態のかつらの製造方法における図4(e)に示す工程を省略することができ、本実施形態のかつら1をより容易に製造することが可能となる。
<<毛髪3の接着工程>>
全ての毛髪3、3、3・・・について、図5(a)〜(d)に示す一連の植毛工程が完了した後、個々の毛髪3を接着剤で固定する。ここで、図6に示すように、本実施形態では、係止部31によって形成されたループ32内に、接着剤6の膜を保持させるようにしている。
毛髪3のループ32内に、表面張力で接着剤6の膜が保持されるので、個々の毛髪3ごとに微量かつ十分な量の接着剤6を、容易かつ確実に塗布することができる。また、微量の接着剤6が膜状に広がって十分な接着力を得ることが可能である。この結果、多数の毛髪3、3、3・・・を人工皮膚20A、20Bにしっかりと固定することができるとともに、接着剤6の固化後も人工皮膚20A、20Bの柔軟性を維持することが可能であり、かつら1の装着感が良好となる。
<その他の変更>
本発明のかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットは、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のかつらにおける毛髪の係止部は、毛髪3の結び目(31)に限定されるものではない。毛髪の結び目以外の係止部の具体例を、図7(a)〜(e)に示す。
図7(a)の係止部33は、毛髪3の途中に固着された樹脂材料塊で構成してある。係止部33としての樹脂材料塊は、例えば、毛髪3の途中に天然系又は合成系の接着剤を塗布することで、極めて容易に形成することが可能である。
図7(b)〜(e)に示す係止部34〜37は、いずれも毛髪3の途中に位置する所定領域(図中の鎖線円で囲まれた領域を参照)を変形させることにより設けてある。図7(b)〜(e)に示す毛髪3は、いずれも合成繊維からなる人工毛であり、加熱や薬剤などを利用して、毛髪3の途中に位置する所定領域を変形させている。
図7(b)の係止部34は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「波状」に変形させた構成となっている。図7(C)の係止部35は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「凹凸状」に変形させた構成となっている。図7(d)の係止部36は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「縮れ状」に形成させた構成となっている。図7(e)の係止部37は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「捻転状」に形成させた構成となっている。このような構成の係止部34〜37は、人工皮膚20A、20Bとの間に摩擦抵抗や引っ掛かりを生じさせ、毛髪3の抜け防止手段としての効果を奏することができ、毛髪3を人工皮膚20A、20Bに十分に保持することが可能となる。
その他、上述した実施形態では、かつらベース2の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所に人工皮膚20A、20Bを配設した構成とした(図1を参照)。しかし、かつらベースの全体が、合成樹脂製のフィルム又はシート、若しくは合成繊維又は天然繊維からなる比較的網目の細かい織布からなる場合は、生え際、分け目及びつむじを含むかつらベースの全体に、本発明の植毛構造及び植毛方法を適用することができる。
また、上述したかつらの製造方法の各実施形態は、いずれも植毛針として鈎針5を用いているが、本発明における係止部付きの毛髪は、裁縫針を用いてかつらベースに植毛することもできる。
1 かつら
2 かつらベース
10 ネット
10a 切欠部
20A、20B 人工皮膚
3 毛髪
3a U字部分
31、31A、31B、31C 係止部(結び目)
32 ループ
33 係止部(樹脂材料塊)
34 係止部(波状状)
35 係止部(凹凸状)
36 係止部(縮れ状)
37 係止部(捻転状)
4 毛髪セット
41 台紙
42 粘着部
5 鈎針(植毛針)
51 鈎部
6 接着剤
本発明は、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつらに関する。
一般的なかつらは、ネット又は人工皮膚からなるかつらベースに、人工毛又は人毛からなる毛髪が植毛された構成となっている。従来の毛髪の植毛方法としては、例えば、図8(a)〜(d)に示すようなものがあった。
図8(a)は「V植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。V植毛は、合成樹脂製の人工皮膚からなるかつらベースに好適である。V植毛は、かつらベースを構成する合成樹脂製の人工皮膚に、毛髪をV字状に通す植毛方法である。
図8(b)は「シングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。また、図8(c)は「ハーフシングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。シングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛は、合成繊維又は天然繊維を編んだネット製のかつらベースに好適である。シングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛は、かつらベースを構成するネットに、二つ折りにした毛髪を結び付ける植毛方法である。
図8(b)において、シングルノット植毛では、まず、毛髪の途中をU字に曲げて、U字部分を形成する。次いで、毛髪のU字部分を、かつらベースの網目に、表面側、裏面側、表面側の順に通す。その後、毛髪の自由な両端側をU字部分に通すことで、毛髪をネットに結び付ける。一方、図8(c)において、ハーフシングルノット植毛は、毛髪の一端側又は他端側のいずれか一方をU字部分に通すことで、二つ折りにした毛髪をネットに結び付ける。
図8(d)は、「引き抜き植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。引き抜き植毛は、人工皮膚とネットとが上下に重ね合わされた構成のかつらベースに好適である。引き抜き植毛は、下側のネットに毛髪を結び付けた後、上側の人工皮膚から毛髪の自由な両端側を引き出す植毛方法である。
ここで、特許文献1(特許第5093908号公報)には、上述した従来の毛髪の植毛方法とは異なる植毛方法が提案されている。特許文献1の植毛方法は、その図1(A)〜(I)に示されているように、毛髪3をかつらベース2に結着させる際に、毛髪3の結び目3eがかつらベース2の裏面側に位置し、かつ結び目3eに連繋している掛け廻し部分3fがかつらベース2の表面側に位置することを特徴とする。
図8(b)、(c)に示されるシングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛では、毛髪をネットに結び付けていたため、毛髪の根元に結び目の塊ができてしまい、かつらの外観が不自然になってしまう問題があった。特に、黒や茶といった暗色の毛髪の結び目は暗色の塊となり、頭皮を模した明るい肌色のネット上で目立ってしまう。
図8(a)、(d)に示されるV植毛及び引き抜き植毛では、毛髪の結び目がない又は視認できず、上記のような問題は生じない。しかし、V植毛は、人工皮膚に植毛した毛髪が抜けやすいという問題がある。一方、引き抜き植毛は、毛髪の結び目を隠すための人工皮膚が必要である。さらに、下側のネットに結び付けた毛髪を、上側の人工皮膚の所定位置から引き出す作業には熟練した技術を要する。
特許文献1の植毛方法は、毛髪3の結び目3eがかつらベース2の裏面側に位置するので、図8(b)、(c)に示される植毛方法の問題は生じない。また、特許文献1の植毛方法は、特開2006−183215号公報に記載された2枚重ねのかつらベースの問題点を解決するためになされたものであり、図8(d)に示される植毛方法の問題も生じない。
しかし、特許文献1の植毛方法は、その図2(a)に示されるように、毛髪3の掛け廻し部分3fが、かつらベース2の表面側に露呈してしまう。このような掛け廻し部分3fは、自然に生えた自毛の根元に存在するものではなく、かつらベースに植毛された毛髪の根元が不自然な外観となってしまう。特に、毛髪の分け目、つむじ及び生え際は、かつらベースに植毛された毛髪の根元が視認されやすく、特許文献1の植毛方法では、かつらの最も重要な部分において、自毛の生え方と変わらない自然な外観を提供することができないという問題があった。
また、特許文献1の植毛方法では、かつらベース2の表面に、多数の掛け廻し部分3fが形成されるので、櫛やブラシの歯が掛け廻し部分3fに引っ掛かってしまい、スムーズなブラッシングが阻害される問題もあった。さらに、掛け廻し部分3fは、毛髪3の結び目3eに連繋しているので、櫛やブラシの歯が掛け廻し部分3fに引っ掛かると、毛髪3の結び目3eが解けてしまうおそれがあった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつらの提供を目的とする。
(1)上記目的を達成するために、本発明のかつらは、人工毛又は人毛からなる毛髪がかつらベースに植毛されたかつらであって、前記毛髪の途中に前記かつらベースとの係止部が設けられ、前記係止部が前記かつらベースの裏面側に位置し、前記毛髪の両端側がそれぞれ前記かつらベースの表面側に位置し、前記毛髪が結着されることなく前記かつらベースに植毛され、植毛された各毛髪の個々の前記係止部が前記かつらベースの裏面に個別に接着された構成としてある。
上記構成によれば、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるようになる。このような構成からなる本発明のかつらにより、図8(b)、(c)に示されるシングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛の結び目の問題点、及び特許文献1の掛け回し部分の問題点は、いずれも解決される。
また、本発明のかつらでは、毛髪の抜け防止手段としての係止部がかつらベースの裏面側に位置して、毛髪がかつらベースに十分に保持される。この結果、本発明のかつらでは、毛髪を結着することなくかつらベースに植毛することができる。これにより、図8(a)に示されたV植毛の問題点が解決され、さらに、図8(d)に示された引き抜き植毛のような、結び目を隠すための人工皮膚から毛髪を引き出す手間も掛からない。
(2)好ましくは、上記(1)のかつらにおいて、前記係止部が、前記かつらベースの表面側に位置する前記毛髪の両端側よりも大きな断面積を有する構成にするとよい。このような構成によれば、断面積の大きい係止部が、かつらベースの裏面に当接して、毛髪の抜けが防止される。
(3)好ましくは、上記(2)のかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に複数設けられた構成にするとよい。このような構成によれば、仮に、第1の係止部がかつらベースを通過してしまった場合でも、第2、第3・・・の係止部が、かつらベースの裏面に当接して、毛髪の抜けが防止される。
(4)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に形成された結び目である構成にするとよい。このような構成によれば、毛髪の途中に係止部を簡単に設けることができる。毛髪の結び方は、容易に解けないものであれば、特に限定されない。例えば、ひと結び、ふた結び、球結びなど、毛髪の直径よりも大きな断面の幅寸法となる結び方を広く適用することができる。このような毛髪の結び目からなる係止部は、人が手作業によって簡単に形成することができる。また、ミシンの「自動玉止め」や自動結束機の原理を応用して、毛髪の結び目を自動で形成することも可能である。
(5)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に固着された樹脂材料塊である構成としてもよい。毛髪の途中に設けられる係止部は、結び目に限らず、例えば、樹脂材料塊であってもよい。樹脂材料塊は、例えば、毛髪の途中に天然系又は合成系の接着剤を塗布することで、極めて容易に形成することが可能である。
(6)好ましくは、上記(1)〜(5)のいずれかのかつらにおいて、前記係止部の断面の幅寸法が、0.1〜2mmである構成にするとよい。このような構成によれば、かつらベースが比較的細かい網目の織布(メッシュ又はネットを含む)である場合に、毛髪の直径を超える係止部が網目に引っ掛かり、毛髪の抜けが防止される。また、かつらベースが合成樹脂製のシートからなる場合は、毛髪の直径を超える係止部が、合成樹脂のシートに開けられた微小孔に引っ掛かり、毛髪の抜けが防止される。係止部の断面の幅寸法の上限については、比較的粗い網目のネットを考慮すると、断面の幅寸法が2mmの係止部で、毛髪の抜け防止が十分に図れるものと考えられる
(7)好ましくは、上記(1)のかつらにおいて、前記係止部が、前記毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることによって設けられた構成にしてもよい。
(8)例えば、上記(7)のかつらにおいて、前記毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることが、波状にすること、凹凸にすること、縮れさせること又は捻転させることのうちの少なくとも1つであってもよい。
上記(7)及び(8)のかつらによれば、毛髪の途中に位置する所定領域を変形させることで、かつらベースとの間に摩擦抵抗や引っ掛かりを生じさせ、毛髪の抜け防止手段としての効果を奏することができ、毛髪をかつらベースに十分に保持することが可能となる。
(9)好ましくは、上記(1)〜(8)のいずれかのかつらにおいて、前記かつらベースの少なくとも一部が、上下に重ね合わされた第1及び第2かつらベースからなり、これら第1及び第2かつらベースの間に前記係止部が位置し、前記毛髪が結着されることなく前記第1かつらベースに植毛された構成にするとよい。このような構成によれば、係止部が、上下に重ね合わされた第1及び第2かつらベースの間に位置するので、第1かつらベースに植毛した毛髪が動きにくくなり、抜けにくくなる。
(10)好ましくは、上記(1)〜(9)のいずれかのかつらにおいて、前記かつらベース又は前記第1かつらベースが、2mm以下の網目を有する織布で構成するとよい。
上述のとおり、本発明のかつらは、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観になるという効果を奏する。したがって、本発明のかつらの構成は、特に、毛髪の分け目、つむじ及び生え際など、かつらベースに植毛された毛髪の根元が露呈しやすい部分に適用したときに真価を発揮する。毛髪の分け目、つむじ及び生え際などには、頭皮を模した合成樹脂シート又は織布(メッシュ又はネットを含む)からなる人工皮膚が用いられる。これらのうち、織布を用いる場合は、2mm以下、より好ましくは、2mm未満のより細かい網目の織布を用いることで、織布の外観を頭皮に近似させることができ、本発明のかつらの構成と相俟って、毛髪の根元をより自然な外観に見せることが可能となる。
本発明によれば、毛髪の結び目や掛け回し部分などが、かつらベースの表面に一切露呈せず、かつらベースに植毛された毛髪の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるかつらを提供することが可能となる。
図1は本発明の実施形態に係るかつらの背面図である。
図2(a)は単層構造のかつらベースに植毛した毛髪の状態を示す断面図である。図2(b)は二層構造のかつらベースに植毛した毛髪の状態を示す断面図である。図2(c)は係止部の第1実施形態を示す拡大図である。図2(d)は係止部の第2実施形態を示す拡大図である。図2(e)は係止部の第3実施形態を示す拡大図である。
図3(a)は手作業で毛髪の途中に係止部を設ける工程を示す概略図である。図3(b)は本発明の実施形態に係る毛髪セットを示す正面図である。
図4(a)〜(e)は本発明の第1実施形態に係るかつらの製造方法の各工程を示す概略図である。
図5(a)〜(d)は本発明の第2実施形態に係るかつらの製造方法の各工程を示す概略図である。
図2(d)の毛髪のループの接着状態を示す拡大図である。
図7(a)〜(e)は、結び目以外の構成の係止部を示す概略図である。
従来の植毛方法を説明するための概略図であり、図8(a)はV植毛、図8(b)はシングルノット植毛、図8(c)はハーフシングルノット植毛、図8(d)は引き抜き植毛を示す。
以下、本発明の実施形態に係るかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットについて、図面を参照しつつ説明する。
<かつらの全体構成>
図1において、本実施形態のかつら1は、主として、かつらベース2に、人工毛又は人毛である毛髪3が植毛された構成となっている。かつらベース2は、比較的に網目の粗いネット10と、生え際に対応する箇所に配設された人工皮膚20Aと、分け目及びつむじに対応する箇所に配設された人工皮膚20Bとで構成される。
ここで、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法は、毛髪3の根元を自然な外観に見せるためのものであり、毛髪3の根元が露呈しやすい人工皮膚20A、20Bの部分に適用される。一方、毛髪3の根元が露呈しにくいネット10の部分に、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法を適用することは任意である。
<ネット>
かつらベース2を構成するネット10は、装着者の頭部に合わせた椀状となっている。ネット10は、人工又は天然素材からなる糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成となっている。糸状部材11の素材としては、成型性及び耐熱性等に優れたナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維が好ましい。但し、綿、麻、絹等の天然繊維からなる糸状部材11を用いてネット10を構成してもよい。
糸状部材11は、一本のフィラメント(線状の構造体)であってもよいし、複数本のフィラメントを撚ったマルチフィラメントであってもよい。また、ネット10は、糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成に限定されるものではない。例えば、本発明の特徴的な植毛構造及び植毛方法をネット10に適用しない場合、ネット10は、複数本の糸状部材11、11、11…を縦又は横の一方向に平行に配した構成としてもよい。このような構成とした場合は、例えば、従来の植毛構造及び植毛方法をネット10に適用して、糸状部材11に毛髪3を結着させて植毛すればよい。
<人工皮膚>
人工皮膚20A、20Bは、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の合成樹脂からなる肌色のフィルム又はシート、若しくはナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、綿、麻、絹等の天然繊維からなる網目の細かい肌色の織布(メッシュ又はネットを含む)により構成してある。
人工皮膚20A、20Bは、かつら1の生え際、分け目及びつむじの部分を頭皮のように見せる役割を果たす。人工皮膚20A、20Bに、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた場合は、人間の頭皮の質感をリアルに再現することができ、見た目がより自然となる。一方、人工皮膚20A、20Bに、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた場合は、かつら1の通気性が良好となり、耐久性が向上する利点がある。人工皮膚20A、20Bに、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた構成の具体例を、図2(a)に示す。一方、人工皮膚20A、20Bに、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた構成の具体例を、図2(b)に示す。
図2(a)に示すように、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所を切り欠いて、この切欠部10aの周縁部に沿って、人工皮膚20A、20Bを縫着した構成としてもよい。このような構成とした場合、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所は、人工皮膚20A、20Bのみの単層構造となる。
一方、図2(b)に示すように、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所の上に、人工皮膚20A、20Bを積層して縫着した構成としてもよい。このような構成とした場合、ネット10の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所は、人工皮膚(第1のかつらベース)20A、20Bと、ネット(第2のかつらベース)10との二層構造となる。
<毛髪>
毛髪3は、人工毛又は人毛のいずれを用いてもよい。人工毛の素材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。毛髪3の太さは、例えば、細い毛髪として約0.03又は0.04mm程度、太い毛髪として約0.05〜0.10mm程度のものが用いられる。また、毛髪3の強度の指標としては、例えば、結んでいない直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、結んだ状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。図2(a)〜(c)に示すように、本実施形態の毛髪3の途中には、抜け防止手段としての係止部31が設けられている。この係止部31については、次の<毛髪の植毛構造>において詳述する。
<毛髪の植毛構造>
図2(a)、(b)に示すように、毛髪3は、人工皮膚20A、20BにV字状に植毛される。毛髪3の途中に設けられた係止部31は、人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置する。毛髪3の両端側は、それぞれ人工皮膚20A、20Bの表面側に位置する。毛髪3は、係止部31によって抜け止めされ、どこにも結着されることなく人工皮膚20A、20Bに植毛されている。
図2(c)に示すように、係止部31は、例えば、毛髪3の途中に形成された結び目である。毛髪3の結び方は、容易に解けないものであれば、特に限定されない。例えば、ひと結び、ふた結び、球結びなど、毛髪3の直径よりも大きな断面の幅寸法となる結び方を広く適用することができる。このような毛髪3の結び目からなる係止部31は、人が手作業によって簡単に形成することができる。また、ミシンの「自動玉止め」や自動結束機の原理を応用して、毛髪3の結び目を自動で形成することも可能である。
係止部31の断面の幅寸法は、0.1〜2mm程度の範囲が望ましい。例えば、図2((a)に示すように、人工皮膚20A、20Bが合成樹脂製のシートからなる場合は、毛髪3の直径を超える係止部31が、合成樹脂のシートに開けられた微小孔に引っ掛かり、毛髪3の抜けが防止される。また、図2(b)に示すように、人工皮膚20A、20Bが網目の細かい織布(メッシュ又はネットを含む)からなる場合は、毛髪1の直径を超える係止部31が網目に引っ掛かり、毛髪3の抜けが防止される。係止部31の断面の幅寸法の上限については、例えば、ネット10のような比較的粗い網目のものを考慮すると、断面の幅寸法が2mmの係止部31で、毛髪3の抜け防止が十分に図れるものと考えられる。
図2(d)に示すように、係止部31としての結び目が、毛髪3のループ32を形成する構成としてもよい。このような構成によれば、毛髪3を人工皮膚20A、20Bに植毛する際に、結び目によって形成された毛髪3のループ32に植毛針の鈎部を引っ掛けることができる。これにより、植毛針を用いて、結び目をかつらベースの表面側から裏面側へ通すことが可能となり、後述するかつらの製造工程を少なくすることが可能となる。
図2(e)に示すように、毛髪3の途中に複数の係止部31A、31B、31Cが設けられた構成としてもよい。このような構成によれば、仮に、第1の係止部31Aが人工皮膚20A、20Bを通過してしまった場合でも、第2の係止部31B、第3の係止部31Cが、人工皮膚20A、20Bの裏面に当接して、毛髪3の抜けが防止される。
上記構成からなる本実施形態のかつら1によれば、毛髪3の結び目や掛け回し部分などが、人工皮膚20A、20Bの表面に一切露呈せず、人工皮膚20A、20Bに植毛された毛髪3の根元が自然な外観となり、スムーズなブラッシングが行えるようになる。
また、本実施形態のかつら1では、毛髪3の抜け防止手段としての係止部31が人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置して、毛髪3が人工皮膚20A、20Bに十分に保持される。この結果、本実施形態のかつら1では、毛髪3を結着することなく人工皮膚20A、20Bに植毛することができる。
<第1のかつらの製造方法>
次に、本発明の第1実施形態に係るかつらの製造方法について、図3及び図4を参照しつつ説明する。
<<前工程>>
上述した本実施形態のかつら1を製造する場合は、毛髪3に予め係止部31を設ける。図3(a)に示すように、人が手作業によって係止部31となる毛髪3の結び目を形成してもよい。また、糸状部材の結束機能を有するミシンや自動結束機を用いて、毛髪3の結び目を自動で形成してもよい。
ここで、図3(b)は、本実施形態に係る毛髪セット4を示すものである。毛髪セット4は、係止部31を設けた多数の毛髪3、3、3・・・を、1つずつ指で摘んで分離可能なように保持する。毛髪セット4は、一条の粘着部42を設けた台紙41を有する。粘着部42には、多数の毛髪3、3、3・・・がU字に曲げられた状態で、横一列に整列して貼り付けられている。粘着部42は、例えば、毛髪3を指で摘んで分離可能な程度の粘着力を有する両面テープ又は粘着剤の層からなる。
係止部31を設けた多数の毛髪3、3、3・・・を予め用意し、図3(b)に示すような毛髪セット4を構成することで、以下に説明する毛髪3の植毛工程を実施する際に、作業者が毛髪3の途中に係止部31を設ける手間を省略することができる。また、毛髪セット4は、毛髪3がU字に曲げられた状態で台紙41に貼り付けられているので、作業者が毛髪3をU字に曲げる手間や、指で摘んだ毛髪3の係止部31の位置合わせの手間を省略することができる。
<<毛髪の植毛工程>>
図4(a)〜(e)は、係止部31を設けた毛髪3を、かつらベース2の人工皮膚20A、20Bに植毛するための各工程を示す。
まず、図4(a)に示すように、植毛を行う作業者は、例えば、左手に毛髪3を持ち、右手に植毛針である鈎針5を持つ。作業者は、毛髪3の途中をU字に曲げて、毛髪3を二つ折りにして持つ。指で把持した毛髪3は、U字部分3aが人工皮膚20A、20Bの方向を向き、一端側3b及び他端側3cが人工皮膚20A、20Bの反対方向を向くようにする。また、U字部分3aを境にして、毛髪3の一端側3bに係止部31を位置させる。このような毛髪3の所定の把持状態は、単に、図3(b)に示す毛髪セット4から毛髪3を指で摘み取ることで実現される。
その一方で、作業者は、鈎針5の先端の鈎部51を、人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側へ差し込み、この差し込み位置(第2位置)とは異なる位置(第1位置)において、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの裏面側から表面側へ差し出す。そして、毛髪3のU字部分3aを鈎部51に引っ掛ける。
次いで、図4(b)に示すように、作業者は、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側に戻し、毛髪3のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。このとき、毛髪3の一端側3bに位置する係止部31は、未だ人工皮膚20A、20Bの裏面側へは引き込まない。
次いで、図4(c)に示すように、作業者は、毛髪のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第2位置において裏面側から表面側へ引き出す。引き続き、図4(d)に示すように、作業者は、毛髪3のU字部分3aを引っ張って、毛髪3の係止部31が設けられていない他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置から表面側へ引き出す。その後、図4(e)に示すように、作業者は、毛髪3の他端側3cを引っ張って、毛髪3の一端側3bに設けられた係止部31を、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。これにより、毛髪3の植毛が完了する。
なお、図示しないが、全ての毛髪3、3、3・・・について、図4(a)〜(e)に示す一連の植毛工程が完了した後、各毛髪3の係止部31を、人工皮膚20A、20Bの裏面に接着してもよい。この場合、人工皮膚20A、20Bに一様に接着剤を塗布して全ての係止部31、31、31・・・を一括で接着するのではなく、個々の係止部31に微量の接着剤を塗布して個別に接着するとよい。係止部31を微量の接着剤で個別に接着することで、接着剤の固化後も人工皮膚20A、20Bの柔軟性が維持され、かつら1の装着感が良好となる。
<第2のかつらの製造方法>
次に、本発明の第2実施形態に係るかつらの製造方法について、図5及び図6を参照しつつ説明する。本実施形態では、図2(d)に示すループ32を有する毛髪3の植毛工程について詳述する。
<<前工程>>
第1実施形態と同様に、人工皮膚20A、20Bに植毛する多数の毛髪3、3、3・・・には、予めループ32付きの係止部31を設ける。毛髪3のループ32付きの結び目は、図3(a)に示すように、人が手作業によって形成してもよいし、糸状部材の結束機能を有するミシンや自動結束機を用いて自動で形成してもよい。また、図3(b)に示すように、ループ32付きの係止部31が設けられた多数の毛髪3、3、3・・・を毛髪セット4に整列配置しておくことが望ましい。
<<毛髪の植毛工程>>
図5(a)〜(d)は、ループ32を有する毛髪3を、かつらベース2の人工皮膚20A、20Bに植毛するための各工程を示す。
まず、図5(a)において、植毛を行う作業者は、例えば、左手に毛髪3を持ち、右手に植毛針である鈎針5を持つ。作業者は、毛髪3の途中をU字に曲げて、毛髪3を二つ折りにして持つ。指で把持した毛髪3は、U字部分3aが人工皮膚20A、20Bの方向を向き、一端側3b及び他端側3cが人工皮膚20A、20Bの反対方向を向くようにする。ここまでは、上述した第1実施形態と同様であるが、図5(a)に示す工程では、第1実施形態と異なり、毛髪3のU字部分3aに係止部31を位置させる。好ましくは、ループ32をU字部分3aの先端付近に位置させると、ループ32に鈎針5の鈎部51を引っ掛けやすくなる。
その一方で、作業者は、鈎針5の鈎部51を、人工皮膚20A、20Bの表面側から裏面側へ差し込み、この差し込み位置(第2位置)とは異なる位置(第1位置)において、鈎部51を人工皮膚20A、20Bの裏面側から表面側へ差し出す。ここまでは、上述した第1実施形態と同様であるが、図5(a)に示す工程では、第1実施形態と異なり、係止部31によって形成された毛髪3のループ32を鈎部51に引っ掛ける。
次いで、図5(b)に示すように、作業者は、毛髪3のループ32を鈎部51で引っ張り、係止部31とともに、毛髪3のU字部分3aを、人工皮膚20A、20Bの第1位置において表面側から裏面側へ引き込む。
次いで、図5(c)に示すように、作業者は、人工皮膚20A、20Bの裏面側において、鈎部51を、毛髪3のループ32からU字部分3aに掛け替える。そして、毛髪3のU字部分3aを鈎部51で引っ張り、係止部31を人工皮膚20A、20Bの裏面側に位置させつつ、毛髪3の他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置における裏面側から表面側へU字状に引き出す。
引き続き、図5(d)に示すように、作業者は、毛髪3の他端側3cのU字状に引き出された部分を引っ張って、毛髪3の他端側3cを、人工皮膚20A、20Bの第2位置から表面側へ引き出す。これにより、毛髪3の植毛が完了する。
上述した本実施形態のかつらの製造方法によれば、図5(b)に示す工程において、係止部31である毛髪3の結び目を、人工皮膚20A、20Bの裏面側に引き込むことができる。これにより、上述した第1実施形態のかつらの製造方法における図4(e)に示す工程を省略することができ、本実施形態のかつら1をより容易に製造することが可能となる。
<<毛髪3の接着工程>>
全ての毛髪3、3、3・・・について、図5(a)〜(d)に示す一連の植毛工程が完了した後、個々の毛髪3を接着剤で固定する。ここで、図6に示すように、本実施形態では、係止部31によって形成されたループ32内に、接着剤6の膜を保持させるようにしている。
毛髪3のループ32内に、表面張力で接着剤6の膜が保持されるので、個々の毛髪3ごとに微量かつ十分な量の接着剤6を、容易かつ確実に塗布することができる。また、微量の接着剤6が膜状に広がって十分な接着力を得ることが可能である。この結果、多数の毛髪3、3、3・・・を人工皮膚20A、20Bにしっかりと固定することができるとともに、接着剤6の固化後も人工皮膚20A、20Bの柔軟性を維持することが可能であり、かつら1の装着感が良好となる。
<その他の変更>
本発明のかつら、かつらの製造方法及び毛髪セットは、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のかつらにおける毛髪の係止部は、毛髪3の結び目(31)に限定されるものではない。毛髪の結び目以外の係止部の具体例を、図7(a)〜(e)に示す。
図7(a)の係止部33は、毛髪3の途中に固着された樹脂材料塊で構成してある。係止部33としての樹脂材料塊は、例えば、毛髪3の途中に天然系又は合成系の接着剤を塗布することで、極めて容易に形成することが可能である。
図7(b)〜(e)に示す係止部34〜37は、いずれも毛髪3の途中に位置する所定領域(図中の鎖線円で囲まれた領域を参照)を変形させることにより設けてある。図7(b)〜(e)に示す毛髪3は、いずれも合成繊維からなる人工毛であり、加熱や薬剤などを利用して、毛髪3の途中に位置する所定領域を変形させている。
図7(b)の係止部34は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「波状」に変形させた構成となっている。図7(C)の係止部35は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「凹凸状」に変形させた構成となっている。図7(d)の係止部36は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「縮れ状」に形成させた構成となっている。図7(e)の係止部37は、毛髪3の途中に位置する所定領域を「捻転状」に形成させた構成となっている。このような構成の係止部34〜37は、人工皮膚20A、20Bとの間に摩擦抵抗や引っ掛かりを生じさせ、毛髪3の抜け防止手段としての効果を奏することができ、毛髪3を人工皮膚20A、20Bに十分に保持することが可能となる。
その他、上述した実施形態では、かつらベース2の生え際、分け目及びつむじに対応する箇所に人工皮膚20A、20Bを配設した構成とした(図1を参照)。しかし、かつらベースの全体が、合成樹脂製のフィルム又はシート、若しくは合成繊維又は天然繊維からなる比較的網目の細かい織布からなる場合は、生え際、分け目及びつむじを含むかつらベースの全体に、本発明の植毛構造及び植毛方法を適用することができる。
また、上述したかつらの製造方法の各実施形態は、いずれも植毛針として鈎針5を用いているが、本発明における係止部付きの毛髪は、裁縫針を用いてかつらベースに植毛することもできる。
1 かつら
2 かつらベース
10 ネット
10a 切欠部
20A、20B 人工皮膚
3 毛髪
3a U字部分
31、31A、31B、31C 係止部(結び目)
32 ループ
33 係止部(樹脂材料塊)
34 係止部(波状状)
35 係止部(凹凸状)
36 係止部(縮れ状)
37 係止部(捻転状)
4 毛髪セット
41 台紙
42 粘着部
5 鈎針(植毛針)
51 鈎部
6 接着剤