本発明は、駆動力源としてエンジンおよび電動機を有するハイブリッド車両に好適に適用されるが、駆動力源としてエンジンのみを有するエンジン駆動車両や電動機のみを有する電気自動車にも適用され得る。エンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関で、電動機としては、発電機としても用いることができるモータジェネレータが好適に用いられる。
自動変速機としては、複数の摩擦係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式や平行軸式等の有段の自動変速機が好適に用いられる。ベルト式無段変速機等の無段変速機についても、変速比が異なる複数のギヤ段を設定して有段変速させることができる。アップシフト条件およびダウンシフト条件は、駆動力に関連するパラメータと車速に関連するパラメータとに基づいて定められ、駆動力が大きくなる程変速比が大きい低速側のギヤ段に切り換えられ、車速が低下する程低速側のギヤ段に切り換えられるように定められる。駆動力に関連するパラメータは、例えば第1走行モードの場合はアクセル操作量や駆動力源トルク(エンジンのスロットル弁開度やモータトルクなど)で、第2走行モードの場合は、目標駆動力や、目標加速度、目標トルク、或いはそれ等に応じて制御される駆動力源トルクなどである。アクセル操作量や駆動力源トルクを目標駆動力、目標加速度、目標トルク等に換算し、或いは目標駆動力や目標加速度、目標トルクをアクセル操作量や駆動力源トルクに換算するなどして、走行モードの種類に拘らず共通のアップシフト条件、ダウンシフト条件を設定することが望ましい。車速に関連するパラメータは、車速に対応する出力回転速度でも良いし、エンジン回転速度等の入力回転速度を用いることもできる。
アップシフト条件とダウンシフト条件との間のヒステリシスは、例えば燃費等に応じて定められた最適なギヤ段に切り換える基準変速条件をアップシフト条件とし、そのアップシフト条件に対して高駆動力側、低車速側にずらしてダウンシフト条件を設定することにより設けられるが、ダウンシフト条件を基準変速条件と一致させ、そのダウンシフト条件に対して低駆動力側、高車速側にずらしてアップシフト条件を設定しても良い。また、基準変速条件を挟んで両側にずらしてアップシフト条件およびダウンシフト条件を設定しても良い。
第2走行モードの目標走行状態は、例えば目標車速や目標車間距離、目標加速度、目標トルク、目標駆動力、目標制動力、目標ステアリング角などである。具体的には、運転者が設定した目標車速で走行するように目標駆動力を算出して略一定の車速で定速走行する定速走行モードや、先行車両との間の車間距離に基づいて目標駆動力を算出して予め定められた目標車間距離で追従走行する追従走行モード、或いは走行ルートの道路情報等に基づいて目標車速を逐次設定して目標駆動力を算出するとともにステアリング角を自動的に制御して走行する自動運転走行モードなどで、本発明の実施に際しては何れか一つの第2走行モードが可能であれば良い。目標駆動力ではなく、目標加速度、目標トルクに換算して駆動力制御を行うこともできる。
上記定速走行モードおよび追従走行モードでは、カメラ等で車線を検出してその車線に沿って走行したり車線を切り換えたりするようにステアリング角を自動的に制御する自動操舵システムを採用することが可能で、その場合は自動運転走行モードである。自動運転走行モードとしては、この他に、例えば地図情報および走行ルート情報に基づいて目標車速を逐次自動的に設定し、その目標車速に応じて目標駆動力を算出するとともに、走行ルートに従って走行するようにステアリング角を自動的に制御する場合があるが、地図情報や走行ルート情報が不要な車庫入れや縦列駐車等を運転者の操作無しで行うものでも良い。また、駐車場などから予め定められた走行ルートに従って車両を自動的に玄関先等の所定位置まで呼び出すだけでも良く、種々の態様が可能である。この自動運転走行モードは、運転者等の乗員が乗車している有人自動運転走行モードの他、運転者を含めて乗員が一人もいない無人自動運転走行モードも可能であるが、本発明は少なくとも乗員が乗車している第2走行モードを備えている。
変速抑制部は、例えば駆動力増大時にダウンシフト条件によるダウンシフトの実行のみを抑制し、駆動力減少時のアップシフト条件によるアップシフトの実行はそのまま許容するように定められるが、ダウンシフトの実行はそのまま許容し、アップシフトの実行のみを抑制するものでも良い。また、ダウンシフトおよびアップシフトの両方の実行を抑制するものでも良い。車速変化に伴うダウンシフトおよび/またはアップシフトについても、必要に応じてその実行を抑制することができるし、駆動力変化による変速実行判断か車速変化による変速実行判断かを区別することなく、変速実行判断が為された場合には一律にその変速の実行を抑制しても良いなど、種々の態様が可能である。
変速抑制部はまた、例えば変速実行後の予め定められた変速制限期間の間だけ変速の実行を抑制したり、変速実行判断が為された後に変速指令を出力するまでの遅延時間や判断回数を設けて変速の実行を抑制したりするように構成され、アップシフトおよびダウンシフトを区別することなく次の変速の実行を一律に抑制することもできるが、アップシフトおよびダウンシフトの何れか一方だけその実行を抑制するものでも良い。また、ダウンシフト後のアップシフト、およびアップシフト後のダウンシフトの少なくとも一方の戻り変速についてだけその実行を抑制するものでも良いなど、種々の態様が可能である。何れの場合も、第1走行モード時よりも第2走行モード時の方が変速の実行が抑制されるように、変速制限期間や遅延時間が長くされ、或いは判断回数が多くされる。
第13発明、第15発明では、自動運転走行モードと定速走行モード、追従走行モードとの関係が定められているが、定速走行モードと追従走行モードとの間でも変速条件のヒステリシス量を変更したり変速の実行を抑制する程度を変更したりすることができる。例えば、定速走行モードに比べて追従走行モードの方が駆動力変化が大きくなる可能性が高いため、追従走行モードにおける変速の実行を抑制する程度を小さくするとともに変速条件のヒステリシス量を大きくすることが考えられる。
第1走行モード時には、必ずしも変速抑制部によって変速の実行が抑制される必要はなく、例えば駆動力の変化レートの上限を制限したり、駆動力の上限値を設定したりする必要はない。また、モード別変速判断部によって変速実行判断が為された場合には、直ちにその変速が実行されても良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車用の車両用駆動装置10の骨子図で、制御系統の要部を併せて示した図である。この車両用駆動装置10は、エンジン12、電気式差動部14、および自動変速機16を直列に備えている。エンジン12は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関で、エンジン出力制御装置40によって出力が制御される。エンジン出力制御装置40は、例えば図4に示される電子スロットル弁100、燃料噴射装置102、点火装置104等を備えており、電子制御装置50から供給される制御信号に従ってそれ等の電子スロットル弁100、燃料噴射装置102、点火装置104等がそれぞれ制御されることにより、エンジン出力が電気的に制御される。電気式差動部14は、差動歯車機構としてシングルピニオン型の遊星歯車装置18を備えている。遊星歯車装置18は、エンジン12に連結されたキャリアCA0、第1モータジェネレータMG1に連結されたサンギヤS0、および中間伝達部材20に連結されたリングギヤR0とを差動回転可能に備えており、中間伝達部材20には第2モータジェネレータMG2が連結されている。なお、電気式差動部14および自動変速機16は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、図1の骨子図では下側半分が省略されている。
図2は、電気式差動部14の3つの回転要素S0、CA0、R0の回転速度を直線で結ぶことができる共線図で、サンギヤS0の回転速度Nmg1は第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)、キャリアCA0の回転速度Neはエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)、リングギヤR0の回転速度Nmg2は第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)であり、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の回生トルク制御や力行トルク制御により、差動入力回転速度であるエンジン回転速度Neに対する差動出力回転速度であるMG2回転速度Nmg2を連続的に無段階で変更できる。すなわち、電気式差動部14は、変速比γ0(=Ne/Nmg2)を無段階で変更できる電気式無段変速機として機能する。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、インバータ22を介して充放電可能な蓄電装置24に接続されており、電子制御装置50から供給されるモータ制御信号に従ってそれぞれモータトルクが電気的に制御される。これ等のモータジェネレータMG1およびMG2は、何れも電動機および発電機としての機能を有するもので、第1モータジェネレータMG1は主として発電機として用いられて反力を発生し、第2モータジェネレータMG2は主として電動機として用いられて駆動力を出力する。エンジン12、電気式差動部14、および第2モータジェネレータMG2は、車両用駆動装置10の駆動力源として機能する。なお、本実施例ではエンジン12、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2が、それぞれキャリアCA0、サンギヤS0、リングギヤR0に直接連結されているが、変速歯車やクラッチ等を介在させても良い。
自動変速機16は遊星歯車式の有段変速機で、前記中間伝達部材20の回転を変速して出力軸32から出力する。具体的には、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えているとともに、油圧式摩擦係合装置として2つのクラッチC1、C2、および3つのブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が設けられている。そして、図3の係合作動表に示されるように、それ等のクラッチCおよびブレーキBの何れか2つが係合させられることにより、中間伝達部材20の回転速度Nmg2と出力軸32の回転速度(出力回転速度)Noutとの比である変速比γ1(=Nmg2/Nout)が異なる4つの前進ギヤ段1st〜4thと後進ギヤ段R(リバース)が成立させられ、それ等が総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。クラッチCおよびブレーキBは、油圧制御回路42から油圧が供給されることにより係合させられるようになっており、油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106(図4参照)等が電子制御装置50から供給される変速制御信号に従って電気的に制御されることによって係合、解放制御される。ATソレノイドバルブ106は、例えばクラッチCおよびブレーキBに個別に配置される。上記出力軸32は、終減速装置34を介して左右の駆動輪36に連結されている。
このような車両用駆動装置10においては、電気式差動部14と自動変速機16とによって、全体として無段変速制御を行うことができる。また、電気式差動部14の変速比が一定となるようにMG1回転速度Nmg1等を制御することで、全体として有段変速と同様の変速制御を行うことも可能である。何れの場合も、自動変速機16が変速される際には、その変速が速やかに且つ円滑に行われるようにするため、その変速に伴う中間伝達部材20の回転速度変化に対応して電気式差動部14の各部の回転速度、例えばMG1回転速度Nmg1等が制御される。
本実施例の車両用駆動装置10はまた、自動ブレーキシステム44および自動操舵システム46を備えている。自動ブレーキシステム44は、駆動輪36および図示しない従動輪(非駆動輪)に設けられた各ホイールブレーキ38のブレーキ力すなわちブレーキ油圧を、電子制御装置50から供給されるブレーキ制御信号に従って電気的に制御する。ホイールブレーキ38にはまた、図示しないブレーキペダルが足踏み操作されることにより、ブレーキマスターシリンダを介してブレーキ油圧が供給されるようになっており、そのブレーキ油圧すなわちブレーキ操作力Brkに応じたブレーキ力を機械的に発生する。自動操舵システム46は、電子制御装置50から供給されるステアリング角制御信号に従って電動機等によりステアリング角Φを電気的に制御する。ステアリング角Φは、ステアリングホイールの回転角度でも操舵輪の角度でも良い。
電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、モータジェネレータMG1、MG1のモータトルク制御、自動変速機16の変速制御、自動ブレーキシステム44によるブレーキ力制御、自動操舵システム46によるステアリング制御など、本実施例の車両用駆動装置10の各種の制御を行うコントローラとして機能するもので、CPU、ROM、RAM、および入出力インターフェースなどを有するマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する。必要に応じて、エンジン制御用やモータ制御用、変速制御用等に分けて構成することもできる。
図4は、電子制御装置50に入力される信号及びその電子制御装置50から出力される信号を例示したもので、その一部について具体的に説明すると、エンジン回転速度センサ70、MG1レゾルバ72、MG2レゾルバ74、出力軸回転速度センサ76、フットブレーキセンサ78、アクセル操作量センサ80、ステアリング角センサ82が接続され、それぞれエンジン回転速度Ne、MG1回転速度Nmg1、MG2回転速度Nmg2、出力軸32の回転速度(出力回転速度)Nout、ブレーキペダルの踏込み操作力(ブレーキ操作力)Brk、アクセルペダルの踏込み操作量(アクセル操作量)Acc、ステアリング角Φを表す信号が供給される。また、オートクルーズ設定スイッチ84は、運転者の加減速操作に依存することなく定速走行または追従走行を行うクルーズ走行モードの選択操作や目標車速VtagCの設定、その目標車速VtagCの増減、追従走行時の目標車間距離DtagCの設定などを行う装置で、例えばステアリングホイール等に配設され、その目標車速VtagC、目標車間距離DtagC等を表す信号が電子制御装置50に供給される。このクルーズ走行モードでは、運転者がステアリング操作を行って走行する。ナビゲーションシステム86は、地図情報を備えていて目的地に応じて走行ルートを設定したり、その地図や走行ルートをインストルメントパネル等に配置された表示装置に表示したり、GPS(Global Positioning System ;全地球測位システム)、VICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System;道路交通情報通信システム)、車車間通信、路車間通信等により自車位置や渋滞、道路勾配、高度、法定速度、信号情報、天候などの各種道路交通情報を取得したりするもので、それ等の情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。表示装置やその近傍には、タッチ操作や押圧操作、回転操作などで各種の選択操作、設定操作等を行うことができる操作部材が設けられている。必要に応じてナビゲーションシステム86とは別に外部から情報を受け取る情報通信機器が設けられても良い。レーダー88は、先行車両や後方車両との間の車間距離、付近の通行人、或いは障害物との間の距離を検出するもので、それ等の情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。カメラ90は、車両の前方や後方、側方等に存在する他車両や通行人、障害物、信号機、車線、ガードレール、駐車位置、予め定められた指標などを撮影するムービーカメラ、スチールカメラなどで、その映像情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。
有人自動運転スイッチ92は、運転者や乗員が乗車した状態で、車両の駆動力およびステアリング角Φを自動的に制御して走行する自動運転走行モードを選択するスイッチで、無人自動運転スイッチ94は、運転者や乗員が乗車していない状態で、車両の駆動力およびステアリング角Φを自動的に制御して走行する自動運転走行モードを選択するスイッチである。この無人自動運転スイッチ94は、例えば車両のドアロックを無線で施錠、開錠する無線キー等に組み込まれる。これ等の自動運転は、例えば地図情報や走行ルート情報、各種の道路交通情報等に基づいて目標車速を逐次自動的に設定し、その目標車速に応じて目標駆動力を算出するとともに、走行ルートに従って走行するように道路情報等に基づいてステアリング角Φを自動的に制御するものであるが、地図情報や走行ルート情報が不要な車庫入れや縦列駐車等を運転者の操作無しで行うものでも良い。また、駐車場などから予め定められた走行ルートに従って車両を自動的に玄関先等の所定位置まで呼び出すだけでも良く、種々の態様が可能である。前記クルーズ走行モードにおいて、カメラ90等により車線を検出してその車線に沿って走行したり車線を切り換えたりするようにステアリング角Φを自動的に制御する場合も自動運転走行モードである。カメラ90等によって検出される車線も道路情報である。車庫入れや駐車場からの呼び出しなどは、無人自動運転走行モードが適当である。無人自動運転走行モードはまた、例えば先行する誘導車両に続いて隊列走行(追従走行)する場合にも好適に採用される。これ等の有人自動運転スイッチ92および無人自動運転スイッチ94をナビゲーションシステム86に組み込み、有人自動運転走行モード、無人自動運転走行モードの選択をナビゲーションシステム86で行うことができるようにしても良い。前記オートクルーズ設定スイッチ84についても、一部または全部の機能をナビゲーションシステム86に組み入れることができる。
上記電子制御装置50からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置40(図1参照)に対してエンジン制御信号が出力され、エンジン12の電子スロットル弁100のスロットル弁開度や、燃料噴射装置120による燃料供給量、点火装置104によるエンジン12の点火時期などが電気的に制御される。第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2は、インバータ22にモータ制御信号が出力されることにより、それ等のモータトルクが個別に電気的に制御される。油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106等には変速制御信号が出力され、クラッチCやブレーキBがそれぞれ係合、解放制御されることにより、自動変速機16の所定のギヤ段が電気的に成立させられる。自動ブレーキシステム44にはブレーキ制御信号が出力され、ホイールブレーキ38のブレーキ力が電気的に制御される。自動操舵システム46にはステアリング角制御信号が出力され、電動機等によってステアリング角Φが電気的に制御される。
この電子制御装置50は、図1に示されるように機能的にハイブリッド制御部52、有段変速制御部54、ステアリング制御部56、ブレーキ制御部58、自動運転走行モード制御部60、クルーズ走行モード制御部62、および運転操作走行モード制御部64を備えている。ハイブリッド制御部52は、自動運転走行モード制御部60から供給される目標駆動力Ftag2で車両が駆動されるように、各部の伝達損失、補機負荷、電気式差動部14の変速比γ0、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク、自動変速機16のギヤ段(変速比γ1)等に基づいて目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NeおよびエンジントルクTeとなるように、エンジン出力制御装置40を介してエンジン12を制御する。電気式差動部14の変速比γ0は、エンジン12を効率の良い作動域で作動させるように定められる。目標駆動力Ftag2は、無人または有人の自動運転走行モードの場合、予め定められた走行ルートに従って走行するように、自動運転走行モード制御部60の機能を説明する図15の目標車速演算部112、F/F(フィードフォワード)制御演算部132、F/B(フィードバック)制御演算部134、モード別駆動力制御部138等により、法定速度や道路勾配等の各種の道路交通情報等に基づいて逐次設定される。また、クルーズ走行モードの定速走行時には予め設定された目標車速VtagCで走行し、クルーズ走行モードの追従走行モード時には予め定められた目標車間距離DtagCで追従走行するように、目標駆動力Ftag2が逐次設定される。運転者の加減速操作(アクセル操作やブレーキ操作)に従って駆動力を制御する運転操作走行モード時には、アクセル操作量Accおよび車速V等から目標駆動力FtagMが逐次算出され、その目標駆動力FtagMに基づいて目標駆動力Ftag2が設定される。目標車速VtagC、目標車間距離DtagCは、オートクルーズ設定スイッチ84からの信号に基づいてクルーズ走行モード制御部62により設定され、目標駆動力FtagMは、アクセル操作量Accおよび車速V等に基づいて運転操作走行モード制御部64により逐次算出される。目標車間距離DtagCは、例えば大中小の3段階の中から選択され、それぞれ車速Vに応じて可変設定されるとともに、クルーズ走行モード制御部62ではレーダー88によって検知される先行車両との間の実際の車間距離Dが目標車間距離DtagCとなるようにフィードバック制御等により目標駆動力FtagCを算出し、その目標駆動力FtagCに基づいて目標駆動力Ftag2が設定される。なお、目標駆動力Ftag2が負(マイナス)の場合は、エンジンブレーキや第2モータジェネレータMG2の回生制御によって駆動力源ブレーキを発生させ、ブレーキ制御部58によって制御されるホイールブレーキ38のブレーキ力と合わせて目標駆動力Ftag2が得られるようにする。電子制御装置50は、複数の走行モードで走行することが可能な車両制御装置の機能を備えている。
ハイブリッド制御部52はまた、エンジン効率が比較的悪いとされる低出力トルク域或いは低車速域では、エンジン12を停止又はアイドル状態とし、第2モータジェネレータMG2のみを駆動力源として用いて走行するように、予め定められた駆動力源マップに従って駆動力源を切り換える。図6の左下部分(低駆動力で且つ低車速の領域)に示される細線は駆動力源切換マップの一例で、車速Vおよび駆動力(アクセル操作量Accやスロットル弁開度に対応)に基づいて定められており、低車速で且つ低駆動力の領域がモータ走行領域とされており、エンジン12を始動或いは停止させるなどして駆動力源の切換制御を実行する。図示は省略するが、モータ走行からエンジン走行へ切り換える切換線と、エンジン走行からモータ走行へ切り換える切換線との間には、ビジーシフトを防止するためにヒステリシスが設けられている。また、エンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行時であっても、回生制御される第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置24からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動(力行制御)して駆動輪36にトルクを付与することにより、エンジン12の動力を補助するためのトルクアシストを実行する。すなわち、図6のエンジン走行領域においても、必要に応じて第2モータジェネレータMG2によるトルクアシストが行われる。
有段変速制御部54は、予め定められた変速マップに従って自動変速機16の変速制御を行うもので、変速マップに従って求められた目標ギヤ段Gtagを成立させるように油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106を介してクラッチCおよびブレーキBを係合、解放制御する。この有段変速制御部54は、機能的にモード別変速制御部66および変速制限部68を備えている。モード別変速判断部66は、走行モードに応じて変速マップを設定するとともに、その変速マップに従って目標ギヤ段Gtagを設定するもので、例えば図5のフローチャートのステップQ1〜Q12(以下、単にQ1〜Q12という)に従って信号処理を実行する。
図5のQ1では、自動運転走行モードが選択されているか否かを、有人自動運転スイッチ92および無人自動運転スイッチ94の何れかがON操作されたか否かによって判断する。自動運転走行モードが選択されている場合はQ2を実行し、無人自動運転走行モードが選択されているか否かを、無人自動運転スイッチ94がON操作されたか否かによって判断する。そして、無人自動運転スイッチ94がON操作されている場合は、Q4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定し、無人自動運転スイッチ94がON操作されていない場合はQ5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定する。また、Q1の判断がNO(否定)の場合、すなわち自動運転走行モードが選択されていない場合は、Q3を実行し、クルーズ走行モードが選択されているか否かを、オートクルーズ設定スイッチ84により選択操作されたか否かによって判断する。そして、オートクルーズ設定スイッチ84で選択操作されている場合は、Q6でクルーズ走行モードが選択されていると判定し、オートクルーズ設定スイッチ84で選択操作されていない場合は、Q7で通常の走行モード、すなわち運転者の加減速操作に従って駆動力制御および変速制御が行われるとともに、ステアリング操作に従ってステアリング角Φが変更される運転操作走行モードが選択されていると判定する。上記有人自動運転走行モード、およびクルーズ走行モードは、何れも乗員が乗車した状態で加減速操作に依存することなく目標走行状態(目標車速や目標車間距離、目標駆動力、目標ステアリング角など)を設定して駆動力制御および変速制御を行う第2走行モードであり、運転操作走行モードは、運転者の加減速操作に従って駆動力制御および変速制御を行う第1走行モードである。
そして、Q4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はQ8で変速線1を設定し、Q5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はQ9で変速線2を設定し、Q6でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はQ10で変速線3を設定し、Q7で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はQ11で変速線4を設定する。変速線は変速条件で、図6は変速線としてアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(変速線1〜4)が定められた変速マップの一例であり、車速Vおよび駆動力に基づいて定められており、車速Vが高くなるに従って変速比γ1が小さい高速側のギヤ段に切り換えられ、駆動力が高くなるに従って変速比γ1が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるように定められている。駆動力としては、エンジントルクやモータトルク、自動変速機16のギヤ段等から実際の駆動力を推定することもできるが、本実施例では自動運転走行モード制御部60で算出される目標駆動力Ftag2を用いて判断する。アップシフト線はアップシフト条件に相当し、ダウンシフト線はダウンシフト条件に相当するが、例えば燃費および駆動力性能を両立できるようにエンジン12のトルク特性などに基づいて設定されているとともに、同じギヤ段の間のアップダウンに関するアップシフト線およびダウンシフト線の間には、それぞれビジーシフトによる乗り心地の悪化等を防止するためにヒステリシスが設けられている。すなわち、4→3ダウンシフト線は3→4アップシフト線よりも駆動力が高い方向にずれるとともに車速Vが低い方向へずれるようにヒステリシスが設けられている。3→2ダウンシフト線と2→3アップシフト線との間、2→1ダウンシフト線と1→2アップシフト線との間にも同様のヒステリシスが設けられている。このヒステリシスは、本実施例では最適なギヤ段へ切り換える基準変速条件に従ってアップシフト線が定められ、そのアップシフト線に対してダウンシフト線を低車速側、高駆動力側へずらすことによって設けられている。
Q8〜Q11で設定される変速線1〜4はダウンシフト線で、ビジーシフトに影響するヒステリシス量が相違し、本実施例では共通のアップシフト線に対するヒステリシス量が変速線1<変速線2<変速線3<変速線4の関係を満たすように設定されている。すなわち、ヒステリシス量を大きくすればビジーシフトが抑制されるが、最適なギヤ段での走行時間が短くなって燃費が損なわれる可能性があるため、走行モードに応じてヒステリシス量を必要最小限に抑えるようにしたのである。具体的には、運転者の運転操作に対する寄与度が小さい程、走行ルート等に基づいて車両の加減速を予測して駆動力制御を行うことが可能で、急な駆動力変化が少なくなるため、ヒステリシス量を小さくすることができる。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、有人走行に比較してビジーシフトによる乗り心地の悪化を考慮する必要がないため、ヒステリシス量が小さい変速線1を設定することにより燃費向上を図ることができる。ヒステリシス量をゼロ(アップシフト線と同じ)にすることもできる。乗員がいる有人自動運転走行モードでは、ビジーシフトによる乗り心地の悪化が気になるため、ヒステリシス量が大きい変速線2を設定する必要がある。しかし、走行ルート等に基づいて加減速を予測して駆動力制御を行うことが可能で、急な駆動力変化が少なくなるため、ビジーシフトを抑制しつつ運転操作走行モードに比較してヒステリシス量を小さくすることができる。クルーズ走行モードでは、目標車速Vtagで走行したり目標車間距離Dtagで先行車両に対して追従走行したりするように駆動力制御が行われるため、自動運転走行モードよりも駆動力変化が大きくなる傾向があり、自動運転走行モードよりもヒステリシス量が大きい変速線3が設定される。但し、運転者がリアルタイムで加減速操作する運転操作走行モードに比較して急な駆動力変化の頻度は少ないため、ビジーシフトを抑制しつつ運転操作走行モードよりもヒステリシス量を小さくできる。運転操作走行モードでは、運転者が自ら加減速要求を行うため、急な駆動力変化の頻度が高く、ビジーシフトによる乗り心地の悪化を抑制する上で大きなヒステリシス量の変速線4が設定される。なお、有人自動運転走行モードの変速線2およびクルーズ走行モードの変速線3として共通の変速線を設定しても良い。
そして、次のQ12では、上記Q8〜Q11で走行モードに応じて設定された変速線1〜4の何れかのダウンシフト線と共通のアップシフト線とを用いて、現在の駆動力および車速Vに基づいて変速を行うか否かの変速判断を行う。具体的には、ダウンシフト線またはアップシフト線を跨ぐように駆動力或いは車速Vが変化した場合には、新たな目標ギヤ段Gtagを設定する変速実行判断を行う。変速を行う必要がない場合は、そのまま一連の変速判断処理を終了する。
なお、運転者が自動変速機16のギヤ段を手動操作で切り換えることができるM(マニュアル)変速モードが選択されている場合には、図示しないアップダウンスイッチ等から供給されるアップダウン信号に従って目標ギヤ段Gtagをアップシフトまたはダウンシフトする。また、下り坂や減速時等に目標駆動力Ftag2が負(マイナス)になり駆動輪36側から入力される被駆動時(制動時)には、図7に示す変速マップに従って自動変速機16の目標ギヤ段Gtagが設定される。この被駆動時の変速マップにも、変速条件であるアップシフト線とダウンシフト線との間にヒステリシスが設けられている。
前記変速制限部68は、上記Q12で変速すべき変速実行判断が為された場合に、一定の条件下でその変速の実行を禁止するもので、例えば図8のフローチャートのステップR1〜R13(以下、単にR1〜R13という)に従って信号処理を実行する。この変速制限部68は変速抑制部に相当する。
図8のR1では、上記Q12で変速すべき変速実行判断が為されたか否かを判断し、変速実行判断が為された場合にはR2以下を実行する。R2〜R8では、前記図5のQ1〜Q7と同様にして走行モードを判定する。Q4〜Q7の判定結果を読み込んでも良い。そして、R5で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR9で変速出力遅延1を設定し、R6で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR10で変速出力遅延2を設定し、R7でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はR11で変速出力遅延3を設定し、R8で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はR12で変速出力遅延4を設定する。変速出力遅延1〜4は、変速実行判断が行われた後に実際に目標ギヤ段Gtagに変速する変速指令を出力するまでの遅延時間を定めたもので、その遅延時間が長い程ビジーシフトが抑制される反面、駆動力応答性が損なわれる可能性がある。すなわち、遅延時間の間に変速実行判断が解消した場合には、変速が不要になってビジーシフトが防止されるが、変速実行判断が継続した場合は、遅延時間分だけ変速が遅くなって駆動力応答性が損なわれるのである。このため、ビジーシフトと駆動力応答性との調和を図ることができるように、本実施例では遅延時間が変速出力遅延1<変速出力遅延4<変速出力遅延3<変速出力遅延2の関係を満たすように設定されている。本実施例ではアップシフトおよびダウンシフトの両方に適用されるが、ダウンシフトのみに適用するだけでも良いし、アップシフトのみに適用するだけでも良い。ダウンシフトのみに適用すれば、変速実行判断に従ってアップシフトが速やかに実行されることにより燃費が向上する。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、ビジーシフトによる乗り心地の悪化を気にする必要がないため、変速出力遅延1の遅延時間を短くすることが可能で、遅延時間をゼロ(無し)にすることもできる。有人自動運転走行モードは、乗員はいるものの車両速度、加速度を監視している状態ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は最も高く、変速出力遅延2の遅延時間は最も長い。クルーズ走行モードは、乗員がおり且つ車両速度、加速度を監視している状態ではあるが、運転者が加減速操作する訳ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は運転操作走行モードよりも高く、変速出力遅延3は有人自動運転走行モードに次ぐ長さの遅延時間が設定される。運転操作走行モードは、運転者が自ら加減速要求をリアルタイムで実施するため、優れた駆動力応答性が求められ、変速出力遅延4の遅延時間はクルーズ走行モードよりも短い時間が設定される。図9は、無人自動運転走行モード時の変速判断(破線)と変速出力(実線)との関係を示したタイムチャートの一例で、変速出力遅延1による遅延時間は短く、駆動力変化に応じて速やかにダウンシフトおよびアップシフトが行われる。図10は、有人自動運転走行モード時の変速判断(破線)と変速出力(実線)との関係を示したタイムチャートの一例で、変速出力遅延2による遅延時間は最も長く、その遅延時間内に駆動力が低下してダウンシフト実行判断が解消したため、ダウンシフトが不要になってビジーシフトが防止される。これ等の図9および図10の変速線は、ダウンシフト線およびアップシフト線を兼ねており、ヒステリシスが省略されている。また、これ等の図9、図10における時間t1はダウンシフト実行判断が為された時間で、時間t2はアップシフト実行判断が為された時間である。なお、無人自動運転走行モードおよび運転操作走行モードにおける変速出力遅延1および4の遅延時間を同じにしたり、有人自動運転走行モードおよびクルーズ走行モードにおける変速出力遅延2および3の遅延時間を同じにしたりしても良い。
R13では、上記R9〜R12で走行モード毎に設定された変速出力遅延1〜4による変速指令の出力条件を満たすか否か、すなわち遅延時間が経過しても目標ギヤ段Gtagへの変速実行判断が継続しているか否かを判断する。そして、変速実行判断が継続している場合には、その目標ギヤ段Gtagへ変速するための変速指令を出力し、クラッチCおよびブレーキBの係合解放状態が切り換えられることにより、自動変速機16のギヤ段が目標ギヤ段Gtagに変更される。遅延時間が経過する前に変速実行判断が解消した場合は、変速指令を出力することなく一連の変速制限処理を終了する。
図11は、変速制限部68の別の態様を説明するフローチャートで、前記図8のフローチャートに比較して、R9〜R12の代わりにR9−2〜R12−2が設けられている点が相違する。すなわち、R5で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR9−2で変速間隔1を設定し、R6で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR10−2で変速間隔2を設定し、R7でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はR11−2で変速間隔3を設定し、R8で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はR12−2で変速間隔4を設定する。変速間隔1〜4は、前記変速実行判断が予め定められた待機時間を越えることなく繰り返し行われた場合に、実際に目標ギヤ段Gtagに変速する変速指令を出力するまでの変速実行判断の回数nで、その判断回数nが多い程ビジーシフトが抑制される反面、燃費が損なわれる可能性がある。すなわち、判断回数nに達する前に変速実行判断が解消した場合には、変速が不要になってビジーシフトが防止されるが、変速実行判断が繰り返された場合は、判断回数n分だけ変速が遅くなるため、最適なギヤ段での走行時間が短くなって燃費が損なわれるのである。このため、ビジーシフトと燃費との調和を図ることができるように、本実施例では判断回数nが変速間隔1=変速間隔4<変速間隔3<変速間隔2の関係を満たすように設定されている。本実施例ではアップシフトおよびダウンシフトの両方に適用されるが、ダウンシフトのみに適用するだけでも良いし、アップシフトのみに適用するだけでも良い。ダウンシフトのみに適用すれば、最初の変速実行判断に従って直ちにアップシフトが実行されることにより燃費が向上する。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、ビジーシフトによる乗り心地の悪化を気にする必要がないため、変速間隔1の判断回数nを少なくすることが可能で、本実施例では判断回数n=0であり、最初の変速実行判断に従って直ちに変速指令が出力される。有人自動運転走行モードは、乗員はいるものの車両速度、加速度を監視している状態ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は最も高く、変速間隔2の判断回数nは最も多い。クルーズ走行モードは、乗員がおり且つ車両速度、加速度を監視している状態ではあるが、運転者が加減速操作する訳ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は運転操作走行モードよりも高く、変速間隔3は有人自動運転走行モードに次ぐ数の判断回数nが設定される。運転操作走行モードは、運転者が自ら加減速要求をリアルタイムで実施するため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は低く、変速間隔4の判断回数nはクルーズ走行モードよりも少なくて良く、本実施例では変速間隔1と同じく判断回数n=0であり、最初の変速実行判断に従って直ちに変速指令が出力される。図12は、無人自動運転走行モード時および運転操作走行モード時の変速実行判断(破線)と変速出力(実線)との関係を示したタイムチャートの一例で、変速間隔1および4の判断回数nは0であるため、変速実行判断に従って直ちに変速指令が出力されてダウンシフトおよびアップシフトが繰り返し実行される。図13は、クルーズ走行モード時の変速実行判断(破線)と変速出力(実線)との関係を示したタイムチャートの一例で、変速間隔3の判断回数nが2回の場合であり、ダウンシフト或いはアップシフトの変速実行判断の回数がそれぞれ2回になると変速指令が出力されてダウンシフト或いはアップシフトが行われ、図12に示すように判断回数n=0の場合に比較してビジーシフトが半分に抑制される。これ等の図12および図13の変速線は、ダウンシフト線およびアップシフト線を兼ねており、ヒステリシスが省略されている。なお、有人自動運転走行モードおよびクルーズ走行モードにおける変速間隔2および3の変速実行判断回数を同じにしても良い。
R13では、上記R9−2〜R12−2で走行モード毎に設定された変速間隔1〜4による変速指令の出力条件を満たすか否か、すなわち目標ギヤ段Gtagへ変速する変速実行判断が判断回数nに達したか否かを判断する。そして、判断回数nに達した場合には、その目標ギヤ段Gtagへ変速するための変速指令を出力し、クラッチCおよびブレーキBの係合解放状態が切り換えられることにより、自動変速機16のギヤ段が目標ギヤ段Gtagに変更される。判断回数nに達する前に変速実行判断が解消した場合は、変速指令を出力することなく一連の変速制限処理を終了する。
図14は、変速制限部68の更に別の態様を説明するフローチャートで、前記図8のフローチャートに比較して、R9〜R12の代わりにR9−3〜R12−3が設けられている点が相違する。すなわち、R5で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR9−3で変速制限期間1を設定し、R6で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR10−3で変速制限期間2を設定し、R7でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はR11−3で変速制限期間3を設定し、R8で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はR12−3で変速制限期間4を設定する。変速制限期間1〜4は、変速実行後に連続して変速が行われることを禁止する期間で、前回の変速実行から変速制限期間1〜4が経過するまで変速実行判断をキャンセルし、変速制限期間1〜4が経過した後は変速実行判断に従って目標ギヤ段Gtagへ変速することが許容される。したがって、この変速制限期間が長い程ビジーシフトが抑制される反面、最適なギヤ段での走行時間が短くなって燃費が損なわれる可能性がある。このため、ビジーシフトと燃費との調和を図ることができるように、本実施例では変速制限期間1<変速制限期間4<変速制限期間3<変速制限期間2の関係を満たすように設定されている。本実施例ではアップシフトおよびダウンシフトの両方に適用されるが、ダウンシフトのみに適用するだけでも良いし、アップシフトのみに適用するだけでも良い。ダウンシフトのみに適用すれば、変速実行判断に従ってアップシフトが速やかに実行されることにより燃費が向上する。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、ビジーシフトによる乗り心地の悪化を気にする必要がないため、変速制限期間1を短くすることが可能で、変速制限期間1をゼロ(無し)にすることもできる。有人自動運転走行モードは、乗員はいるものの車両速度、加速度を監視している状態ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は最も高く、変速制限期間2は最も長い。クルーズ走行モードは、乗員がおり且つ車両速度、加速度を監視している状態ではあるが、運転者が加減速操作する訳ではないため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は運転操作走行モードよりも高く、変速制限期間3は有人自動運転走行モードに次ぐ長さが設定される。運転操作走行モードは、運転者が自ら加減速要求をリアルタイムで実施するため、ビジーシフトによる乗り心地の悪化に対する感度は低く、変速制限期間4はクルーズ走行モードよりも短い時間が設定される。なお、無人自動運転走行モードおよび運転操作走行モードにおける変速制限期間1および4を同じ時間に設定したり、有人自動運転走行モードおよびクルーズ走行モードにおける変速制限期間2および3を同じ時間に設定したりしても良い。
R13では、上記R9−3〜R12−3で走行モード毎に設定された変速制限期間1〜4による変速指令の出力条件を満たすか否か、すなわち前回変速からの経過時間が変速制限期間1〜4を越えたか否かを判断する。そして、変速制限期間1〜4を越えている場合には、目標ギヤ段Gtagへ変速するための変速指令を出力し、クラッチCおよびブレーキBの係合解放状態が切り換えられることにより、自動変速機16のギヤ段が目標ギヤ段Gtagに変更される。変速制限期間1〜4を越えていない場合は、変速実行判断をキャンセルし、変速指令を出力することなく一連の変速制限処理を終了する。
ここで、上記図14のR9−3〜R12−3で設定される変速制限期間1〜4による変速制限を、図8のR9〜R12で設定される変速出力遅延1〜4による変速制限、或いは図11のR9−2〜R12−2で設定される変速間隔1〜4による変速制限と併用して実施することも可能である。また、前記図7に示す被駆動側の変速マップについても、走行モード毎にヒステリシス量が異なる変速マップを設定したり、変速出力の遅延時間や変速間隔、変速制限期間による変速制限を行うことができる。それ等の遅延時間や変速間隔、変速制限期間を走行モード毎に設定することもできる。
図1に戻って、ステアリング制御部56は、有人または無人の自動運転走行モードが選択されている場合に、自動運転走行モード制御部60から供給される目標ステアリング角Φtagとなるように自動操舵システム46を制御する。この目標ステアリング角Φtagは、例えば予め定められた走行ルートに従って走行したり、カメラ90によって検出される車線等に沿って走行したり車線を切り換えたり、カメラ90によって検出された駐車位置情報に基づいて車庫入れや縦列駐車を行ったり、或いはレーダー88やカメラ90によって検出された通行人や障害物との接触を回避したりするため、車速Vや駆動力等に応じて適宜設定される。図15は、自動運転走行モード制御部60の駆動系の機能を説明するためのもので、ステアリング制御については省略されている。
ブレーキ制御部58は、有人または無人の自動運転走行モードが選択されている場合に、自動運転走行モード制御部60から供給される目標ブレーキ力Btagでホイールブレーキ38が作動させられるように自動ブレーキシステム44を制御する。この目標ブレーキ力Btagは、予め定められた停止位置で停車したり、カメラ90によって検出するか外部から入力された信号情報(赤信号)に従って停車したり、レーダー88によって検出される先行車両との間の車間距離を確保したり、或いはレーダー88やカメラ90によって検出された通行人や障害物との衝突を回避したりするため、図15に示す目標車間距離演算部116、実車間距離演算部118、車速安全マージン演算部114、目標ブレーキ力演算部140等により所定の減速度で減速するように適宜設定される。自動運転走行モードだけでなく、定速走行や追従走行を行うクルーズ走行モード、運転者の加減速操作に従って駆動力を制御する運転操作走行モードにおいても、衝突回避などの一定の条件下で目標ブレーキ力Btagを設定してホイールブレーキ38を強制的に作動させるようにすることもできる。
自動運転走行モード制御部60は、駆動系に関して図15に示すように走行計画生成部110および走行制御部130を機能的に備えている。走行計画生成部110は、目標車速演算部112、車速安全マージン演算部114、目標車間距離演算部116、実車間距離演算部118を備えており、目標車速演算部112には、ナビゲーションシステム86から車両位置情報、道路、勾配、高度、法定速度等の地図情報、インフラ(インフラストラクチャー)情報、走行ルートおよび進路、天候などの情報が供給される。ナビゲーションシステム86には、運転者によって目的地や走行ルート等が設定される他、自動運転に運転者の操作を加味した協調運転、時間優先、燃費優先、上限車速、希望車速等を設定可能である。インフラ情報は、道路や信号機等に設けられた情報通信機器から供給される情報である。目標車速演算部112は、これ等の情報に基づいて自動運転を行う際のベースとなる目標車速Vtag1を逐次設定する。この目標車速演算部112には、前記クルーズ走行モード制御部62から定速走行時の目標車速VtagCが供給されるようになっており、クルーズ走行モードではその目標車速VtagCを目標車速Vtag1に設定する。
車速安全マージン演算部114は、目標車間距離演算部116で定められた目標車間距離Drefと、実車間距離演算部118でレーダー88からの信号等に基づいて算出された実車間距離Dとの差に応じて車速安全マージンVmを求めるもので、目標車速Vtag1から車速安全マージンVmが減算されることによって目標車速Vtag2が算出される。目標車間距離Drefおよび実車間距離Dは先行車両との間の車間距離で、目標車間距離Drefは先行車両との衝突を回避できる十分な距離が現在車速V等に応じて設定される。目標車間距離Drefよりも実車間距離Dが大きい場合は、不必要に車速Vを上昇させることを防止するため、車速安全マージンVm=0で下限ガードされる。なお、先行車両だけでなく、歩行者や障害物、前方に来ると予測される側方車両との距離に基づいて車速安全マージンVmを求めるようにしても良い。
走行制御部130は、F/F(フィードフォワード)制御演算部132、F/B(フィードバック)制御演算部134、走行抵抗演算部136、モード別駆動力制御部138、および目標ブレーキ力演算部140を備えている。F/F制御演算部132は、目標車速Vtag2で走行するのに必要なFF駆動力値Fffを予め定められたフィードフォワード制御式等に従って算出するもので、F/B制御演算部134は、目標車速Vtag2と現在車速Vとの偏差ΔVに基づいてFB補正値Ffbを予め定められたフィードバック制御式等に従って算出するものである。また、走行抵抗演算部136では、車両のロードロード(R/L)および車両重量(乗車人数など)、道路勾配等に基づいて走行抵抗Frを算出し、上記FF駆動力値FffとFB補正値Ffbと走行抵抗Frとを加算することによりベースの目標駆動力Ftag1を算出する。ロードロードは、予めナビゲーションシステム86等に設定しておいても良いが、通信回線でダウンロードしたり、実駆動力F、道路勾配、車速V等から算出したりすることもできる。
モード別駆動力制御部138は、走行モードに応じてベースの目標駆動力Ftag1を補正するもので、例えば図16のフローチャートのステップS1〜S12(以下、単にS1〜S12という)に従って信号処理を行う。このモード別駆動力制御部138には、前記クルーズ走行モード制御部62から、目標車間距離Dtagで追従走行するように算出された目標駆動力FtagCが供給されるとともに、前記運転操作走行モード制御部64から、アクセル操作量Accおよび車速V等に基づいて算出された目標駆動力FtagMが供給されるようになっており、クルーズ走行モード時および運転操作走行モード時にはそれ等の目標駆動力FtagC、FtagMがベースの目標駆動力Ftag1に設定される。
図16のS1〜S7では、前記図5のQ1〜Q7と同様にして走行モードを判定する。Q4〜Q7の判定結果を読み込んでも良い。そして、S4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS8で駆動力の変化レート1を設定し、S5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS9で駆動力の変化レート2を設定し、S6でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はS10で駆動力の変化レート3を設定し、S7で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はS11で駆動力の変化レート4を設定する。この駆動力変化レート1〜4の設定は、目標駆動力Ftag2の増大時の変化を小さくするためのもので、駆動力変化が緩和されるだけでなく、前記有段変速制御部54によるダウンシフトの実行が抑制されるため、このモード別駆動力制御部138は変速抑制部としても機能する。
上記駆動力変化レート1〜4は、目標駆動力Ftag2の変化レート(変化率)の最大値を規定するもので、運転者の運転操作に対する寄与度が小さい程加速要求に対する駆動力応答性(レスポンス)は要求されないため、燃費と駆動力応答性との調和を図ることができるように、本実施例では駆動力変化レート1<駆動力変化レート2<駆動力変化レート3<駆動力変化レート4の関係で設定されている。駆動力変化レート1〜4は何れも正の値で、目標駆動力Ftag2の増大時の増大量を制限する。ここで、無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、加速要求に対する駆動力応答性は最も要求されないため、燃費を考慮して駆動力変化レート1は最も小さくて良い。有人自動運転走行モードは、乗員はいるものの車両速度、加速度を監視している状態ではないため、駆動力応答性はあまり必要なく、燃費や乗り心地、ビジーシフト等を考慮して駆動力変化レート2は小さくて良い。クルーズ走行モードは、乗員がおり且つ車両速度、加速度を監視している状態ではあるが、運転者が加減速操作する訳ではないため、駆動力変化レート3は自動運転走行モードよりも大きい方が良いものの、運転者が加減速操作する運転操作走行モードよりは小さくて良い。運転操作走行モードは、運転者が自ら加減速要求をリアルタイムで実施するため、優れた駆動力応答性が求められ、駆動力変化レート4を制限する余地は限られる。図17は、ベースの目標駆動力Ftag1の変化が変化レート1および変化レート4で制限された場合を例示したタイムチャートである。これ等の変化レート1〜4はそれぞれ一定値(固定値)であっても良いが、例えば発進時やキックダウン時、車速などの車両の運転条件、運転者の操作条件等に応じて変更可能なものでも良い。なお、運転操作走行モードの変化レート4は、制限無しにすることもできる。また、変化レート1〜3を同じレートとしても良い。
S12では、上記S8〜S11で走行モード毎に設定された変化レート1〜4に基づいてベースの目標駆動力Ftag1の変化を必要に応じて制限(なまし処理)し、最終的な目標駆動力Ftag2を算出する。そして、その目標駆動力Ftag2を目標ブレーキ力演算部140に出力するとともに、前記ハイブリッド制御部52および有段変速制御部54に出力する。
図18は、モード別駆動力制御部138の別の態様を説明するフローチャートで、前記図16のフローチャートに比較して、S8〜S11の代わりにS8−2〜S11−2が設けられている点が相違する。すなわち、S4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS8−2で駆動力制限1を設定し、S5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS9−2で駆動力制限2を設定し、S6でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はS10−2で駆動力制限3を設定し、S7で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はS11−2で駆動力制限4を設定する。駆動力制限1〜4は、ビジーシフトを抑制するためのもので、前回の変速実行時を基準として定められる変速制限期間内だけダウンシフトが制限されるように、前記モード別変速判断部66によって設定されたダウンシフト線(図6の変速線1〜4)に基づいて目標駆動力Ftag2の上限値を制限する。運転者の運転操作に対する寄与度が小さい程加速要求に対する駆動力応答性は要求されないため、ビジーシフトと駆動力応答性との調和を図ることができるように、本実施例では駆動力制限1>駆動力制限2>駆動力制限3>駆動力制限4の関係で設定されている。具体的には、駆動力制限1〜3は、ダウンシフト線よりも低い制限値に目標駆動力Ftag2を制限するとともに、変速制限期間が駆動力制限1>駆動力制限2>駆動力制限3の関係で定められ、駆動力制限4は、ダウンシフト線を越えても良いとともに変速制限期間は最も短い。ダウンシフト時の駆動力制限によってビジーシフトが抑制され、駆動力低下に伴うアップシフトはそのまま許容されるため、燃費的に有利である。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、加速要求に対する駆動力応答性は最も要求されないため、駆動力制限1は最も大きくて良い。有人自動運転走行モードは、乗員はいるものの車両速度、加速度を監視している状態ではないため、乗り心地やビジーシフト等を考慮して駆動力制限2は大きくて良い。クルーズ走行モードは、乗員がおり且つ車両速度、加速度を監視している状態ではあるが、運転者が加減速操作する訳ではないため、駆動力制限3は自動運転走行モードよりも小さい方が良いものの、運転操作走行モードよりは大きくて良い。運転操作走行モードは、運転者が自ら加減速要求をリアルタイムで実施するため、優れた駆動力応答性が求められ、駆動力制限4による制限の余地は限られる。図19は、ベースの目標駆動力Ftag1の変化を駆動力制限1および駆動力制限4で制限した場合を例示したタイムチャートである。なお、運転操作走行モードの駆動力制限4は、制限無しにすることもできる。また、駆動力制限1〜3の変速制限期間および制限値を同じにしても良い。
S12では、上記S8−2〜S11−2で走行モード毎に設定された駆動力制限1〜4に基づいてベースの目標駆動力Ftag1の変化を必要に応じて制限し、最終的な目標駆動力Ftag2を算出する。そして、その目標駆動力Ftag2を目標ブレーキ力演算部140に出力するとともに、前記ハイブリッド制御部52および有段変速制御部54に出力する。
上記図18のS8−2〜S11−2で設定される駆動力制限1〜4による駆動力制限、および図16のS8〜S11で設定される駆動力変化レート1〜4による駆動力制限の何れか一方を実施するだけでも良いが、両者を併用して実施することも可能である。
図15に戻って、前記目標ブレーキ力演算部140は、目標駆動力Ftag2が負(マイナス)の場合に、前記ハイブリッド制御部52によって発生させられる駆動力源ブレーキと合わせて目標駆動力Ftag2が得られるホイールブレーキ38の目標ブレーキ力Btagを算出し、ブレーキ制御部58に出力する。この目標ブレーキ力Btagに従って自動ブレーキシステム44が制御されることにより、ホイールブレーキ38が目標ブレーキ力Btagで作動させられ、ハイブリッド制御部52の制御で得られる駆動力源ブレーキと合わせて目標駆動力Ftag2が得られる。
ここで、本実施例の車両用駆動装置10の電子制御装置50によれば、変速制限部68およびモード別駆動力制御部138により、第2走行モード(クルーズ走行モードおよび有人自動運転走行モード)時には第1走行モード(運転操作走行モード)時よりも変速の実行が抑制されるため、その第2走行モード時における自動変速機16のギヤ段のビジーシフトが抑制されて優れた乗り心地が得られる一方、図6に示すように変速マップのヒステリシス量は第1走行モードに比較して第2走行モードの方が小さいため、第2走行モード時には最適なギヤ段で走行する時間が長くなって燃費が向上する。すなわち、第2走行モードでは、第1走行モードのような加減速操作に対する駆動力応答性が必要ないため、変速の実行を抑制しても運転者に違和感を生じさせる可能性が低い。そのため、変速条件のヒステリシス量を小さくして最適なギヤ段での走行時間が長くなるように変速条件を設定した場合においても、運転者が期待する駆動力応答性を犠牲にすることなく、ビジーシフトの発生を抑制することができる。
また、モード別駆動力制御部138によって目標駆動力Ftag2の変化レート或いは上限値が制限されることにより、第2走行モード時には第1走行モード時よりも目標駆動力Ftag2の増大時の増大量が制限されるため、第2走行モード時には駆動力の急な変化が抑制されて乗り心地が向上するとともに、駆動力の上昇に伴うダウンシフトが抑制されてビジーシフトが発生し難くなる。具体的には、モード別駆動力制御部138が図16のフローチャートに従って信号処理を実行する場合、第2走行モード時の駆動力変化レート2、3が第1走行モード時の駆動力変化レート4に比較して小さいため、駆動力の急な変化が抑制されて乗り心地が向上するとともに、駆動力の上昇に伴うダウンシフトが抑制されてビジーシフトが発生し難くなる。また、変化レート2、3に達するまでは、第1走行モード時と同様に駆動力が変化させられるため、第1走行モードと同程度の駆動力性能が確保される。
モード別駆動力制御部138が図18のフローチャートに従って信号処理を実行する場合、前回の変速実行から所定の変速制限期間内だけ目標駆動力Ftag2の上限値が制限されるが、第2走行モード時の方が第1走行モード時よりも低く制限されるため、ダウンシフトが抑制されてビジーシフトが発生し難くなる。特に、本実施例ではダウンシフトが制限されるように、第2走行モード時にはモード別変速判断部66によって設定されたダウンシフト線(図6の変速線1〜4)よりも低い値に目標駆動力Ftag2の上限値が制限されるため、変速制限期間内は確実にダウシンフトが禁止されてビジーシフトが防止される。
また、有段変速制御部54の変速制限部68は、モード別変速判断部66により第2走行モード時に変速実行判断が為された場合には、一定の条件下でその変速の実行を禁止するため、ビジーシフトが抑制される。すなわち、変速制限部68が図8のフローチャートに従って信号処理を行う場合、上記一定の条件は変速出力の遅延時間で、図11のフローチャートに従って信号処理を行う場合、上記一定の条件は変速判断回数で、図14のフローチャートに従って信号処理を行う場合、上記一定の条件は変速制限期間であり、それ等の遅延時間、変速判断回数、変速制限期間が、第1走行モード時よりも第2走行モード時の方が長く、或いは多くされることにより、第2走行モード時のビジーシフトが適切に抑制される。
また、モード別駆動力制御部138により図16または図18のフローチャートに従って駆動力が制限される場合、ダウンシフトの実行のみが抑制されてアップシフトの実行は許容されるため、ダウンシフトの抑制によってビジーシフトを抑制しつつアップシフトによって燃費を向上させることができる。変速制限部68により図8、図11、または図14のフローチャートに従って変速が制限される場合も、ダウンシフトの実行のみが抑制されてアップシフトの実行は許容されるようにすれば、同様の効果が得られる。
また、第2走行モードとして、運転者による運転操作寄与度が比較的大きいクルーズ走行モード(定速走行モードおよび追従走行モード)と、運転操作寄与度が小さい自動運転走行モードが設けられており、運転操作寄与度が小さい自動運転走行モード時には運転操作寄与度が大きいクルーズ走行モード時よりもヒステリシス量が小さい変速条件に従って変速判断が行われるため、運転操作寄与度が小さい自動運転走行モードではビジーシフトを抑制しつつ最適なギヤ段で走行する時間が更に長くなって燃費が一層向上する。すなわち、ステアリング角Φも自動的に制御する自動運転走行モードの場合、現在地から先の道路状況(カーブやアップダウン等)を見込んで駆動力制御が行われるため、駆動力が一層滑らかに変化させられるようになり、ビジーシフトを抑制しつつヒステリシス量を更に小さくすることができるのである。
また、運転操作寄与度が小さい自動運転走行モード時には運転操作寄与度が大きいクルーズ走行モード時よりも変速の実行を抑制する程度が大きい(変速出力遅延2>変速出力遅延3、変速間隔2>変速間隔3、変速制限期間2>変速制限期間3、駆動力変化レート2<駆動力変化レート3、駆動力制限2>駆動力制限3)ため、運転操作寄与度が小さい自動運転走行モードでヒステリシス量を小さくしてもビジーシフトが適切に抑制される一方、定速走行モード或いは追従走行モードで走行するクルーズ走行モード時には変速の実行を抑制する程度が小さいため、変速の実行により自動運転走行モードよりも優れた駆動力応答性が得られ、運転者の違和感に繋がる車速変化や先行車両との間の車間距離の変化が抑制されるように適切な駆動力応答性を確保できる。
なお、上記実施例において変速抑制部として機能する変速の実行を制限する制御(図8、図11、または図14)、および駆動力を制限する制御(図16または図18)は、何れか一方を実行するだけでも良いが、両方を併用して同時に実行することも可能である。
また、上記実施例では電気式差動部14および前進4段の変速が可能な自動変速機16を有する車両用駆動装置10について説明したが、例えば図20に示す車両用駆動装置200にも適用できるなど、本発明は種々の車両制御装置に適用され得る。図20の車両用駆動装置200は、駆動力源としてエンジン202およびモータジェネレータMGを備えているとともに、前進8速の変速が可能な自動変速機204を有するハイブリッド車両に関するものである。エンジン202は断接クラッチK0を介してモータジェネレータMGのモータ軸206に連結されており、それ等のエンジン202およびモータジェネレータMGの出力は、モータ軸206からトルクコンバータ208を介して自動変速機204の入力軸222に伝達される。トルクコンバータ208のステータ(案内翼車)210は、ステータブレーキBsによって選択的に回転停止させられるようになっている。
自動変速機204は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置212を主体として構成されている第1変速部214と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置216およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置218を主体として構成されている第2変速部220とを共通の軸心上に備えており、入力軸222の回転を変速して出力軸224から出力し、図示しない終減速装置等を介して左右の駆動輪を回転駆動する。第2遊星歯車装置216および第3遊星歯車装置218は、両者のキャリアおよびリングギヤがそれぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置216のピニオンギヤが第3遊星歯車装置218の第2ピニオンギヤ(外側のピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。この自動変速機204は、油圧式摩擦係合装置として4つのクラッチC1〜C4、および2つのブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が設けられており、図21の係合作動表に示されるように、それ等のクラッチCおよびブレーキBの何れか2つが係合させられることにより、前進8速の前進ギヤ段1st〜8thと後進2速の後進ギヤ段Rev1、Rev2が成立させられ、クラッチCおよびブレーキBが総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。
このような車両用駆動装置200においても、前記エンジン出力制御装置40、油圧制御回路42、自動ブレーキシステム44、自動操舵システム46、電子制御装置50等が設けられることにより、運転操作走行モードやクルーズ走行モード、有人自動運転走行モード、無人自動運転走行モードで走行することが可能で、前記有段変速制御部54、モード別駆動力制御部138により走行モード毎に変速制御や駆動力制御が行われることにより、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。