以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
図1A〜図12Cは、本発明の一実施の形態を説明するための図である。以下の実施の形態およびその変形例では、有機EL表示装置を製造する際に有機材料を所望のパターンで基板上にパターニングするために用いられる蒸着マスクの製造方法を例にあげて説明する。ただし、このような適用に限定されることなく、種々の用途に用いられる蒸着マスクの製造方法に対し、本発明を適用することができる。
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「板」はシートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。
また、「板面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、板状(シート状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材の板面(シート面、フィルム面)に対する法線方向のことを指す。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件および物理的特性並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」、「同等」等の用語や長さや角度並びに物理的特性の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
(蒸着装置)
まず、対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着処理を実施する蒸着装置90について、図1Aを参照して説明する。図1Aに示すように、蒸着装置90は、蒸着源(例えばるつぼ94)、ヒータ96、及び蒸着マスク装置10を備える。るつぼ94は、有機発光材料などの蒸着材料98を収容する。ヒータ96は、るつぼ94を加熱して蒸着材料98を蒸発させる。蒸着マスク装置10は、るつぼ94と対向するよう配置されている。
(蒸着マスク装置)
以下、蒸着マスク装置10について説明する。図1Aに示すように、蒸着マスク装置10は、蒸着マスク20と、蒸着マスク20を支持するフレーム15と、を備える。フレーム15は、蒸着マスク20が撓んでしまうことがないように、蒸着マスク20をその面方向に引っ張った状態で支持する。蒸着マスク装置10は、図1Aに示すように、蒸着マスク20が、蒸着材料98を付着させる対象物である基板、例えば有機EL基板92に対面するよう、蒸着装置90内に配置される。以下の説明において、蒸着マスク20の面のうち、有機EL基板92側の面を第1面20aと称し、第1面20aの反対側に位置する面を第2面20bと称する。このうち蒸着マスク20の第2面20bにフレーム15が面している。
蒸着マスク装置10は、図1Aに示すように、有機EL基板92の、蒸着マスク20と反対の側の面に配置された磁石93を備えていてもよい。磁石93を設けることにより、磁力によって蒸着マスク20を磁石93側に引き寄せて、蒸着マスク20を有機EL基板92に密着させることができる。
図2は、蒸着マスク装置10を蒸着マスク20の第1面20a側から見た場合を示す平面図である。図2に示すように、蒸着マスク装置10は、平面視において略矩形状の形状を有する複数の蒸着マスク20を備え、各蒸着マスク20は、蒸着マスク20の長手方向における一対の端部20eにおいて、フレーム15に固定されている。
蒸着マスク20は、蒸着マスク20を貫通する複数の貫通孔25を含む。るつぼ94から蒸発して蒸着マスク装置10に到達した蒸着材料98は、蒸着マスク20の貫通孔25を通って有機EL基板92に付着する。これによって、蒸着マスク20の貫通孔25の位置に対応した所望のパターンで、蒸着材料98を有機EL基板92の表面に成膜することができる。
図1Bは、図1Aの蒸着装置90を用いて製造した有機EL表示装置100を示す断面図である。有機EL表示装置100は、有機EL基板92と、パターン状に設けられた蒸着材料98を含む画素と、を備える。
なお、複数の色によるカラー表示を行いたい場合には、各色に対応する蒸着マスク20が搭載された蒸着装置90をそれぞれ準備し、有機EL基板92を各蒸着装置90に順に投入する。これによって、例えば、赤色用の有機発光材料、緑色用の有機発光材料および青色用の有機発光材料を順に有機EL基板92に蒸着させることができる。
ところで、蒸着処理は、高温雰囲気となる蒸着装置90の内部で実施される場合がある。この場合、蒸着処理の間、蒸着装置90の内部に保持される蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92も加熱される。この際、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92は、各々の熱膨張係数に基づいた寸法変化の挙動を示すことになる。この場合、蒸着マスク20やフレーム15と有機EL基板92の熱膨張係数が大きく異なっていると、それらの寸法変化の差異に起因した位置ずれが生じ、この結果、有機EL基板92上に付着する蒸着材料の寸法精度や位置精度が低下してしまう。
このような課題を解決するため、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数が、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値であることが好ましい。例えば、有機EL基板92としてガラス基板が用いられる場合、蒸着マスク20およびフレーム15の主要な材料として、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。例えば、蒸着マスク20を構成する金属板の材料として、30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を用いることができる。ニッケルを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、48質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe−Ni系めっき合金などを挙げることができる。
なお蒸着処理の際に、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92の温度が高温には達しない場合は、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数を、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値にする必要は特にない。この場合、蒸着マスク20を構成する材料として、上述の鉄合金以外の材料を用いてもよい。例えば、クロムを含む鉄合金など、上述のニッケルを含む鉄合金以外の鉄合金を用いてもよい。クロムを含む鉄合金としては、例えば、いわゆるステンレスと称される鉄合金を用いることができる。また、ニッケルやニッケル−コバルト合金など、鉄合金以外の合金を用いてもよい。
(蒸着マスク)
次に、蒸着マスク20について詳細に説明する。図2に示すように、蒸着マスク20は、蒸着マスク20の長手方向における一対の端部20eを構成する一対の耳部17と、一対の耳部17の間に位置する中間部18と、を備えている。
(耳部)
まず、耳部17について詳細に説明する。耳部17は、蒸着マスク20のうちフレーム15に固定される部分である。本実施の形態において、耳部17は、第2面20b側において溶接によってフレーム15に固定される。以下の説明において、耳部17及びフレーム15のうち溶接によって互いに接合されている部分のことを、接合部19と称する。
図3は、蒸着マスク装置10の耳部17及びその周辺部分を拡大して示す平面図である。耳部17に形成される接合部19は、溶接痕19aを含む。溶接痕19aとは、蒸着マスク20の第2面20bをフレーム15に溶接したことに起因して、蒸着マスク20及びフレーム15の一部に形成された痕跡である。例えば、図3に示すように、接合部19は、蒸着マスク20の幅方向に沿って並ぶ複数の点状の溶接痕19aを含む。このような複数の点状の溶接痕19aは、例えば、蒸着マスク20の幅方向に沿う各位置において耳部17にレーザー光を間欠的に点状に照射することによって形成される。
なお、平面視における溶接痕19aの配置や形状が特に限られることはない。例えば、図4に示すように、溶接痕19aは、蒸着マスク20の幅方向に沿って線状に延びていてもよい。このような溶接痕19aは、例えば、蒸着マスク20の幅方向に沿う各位置において耳部17にレーザー光を連続的に線状に照射することによって形成される。
図5は、図3の蒸着マスク装置をV−V方向から見た断面図である。図5に示すように、溶接痕19aは、耳部17の第1面20aから第2面20bを介してフレーム15に至っている。溶接痕19aは、蒸着マスク20の耳部17及びフレーム15のうち、溶接時に溶融した部分(溶融領域19f)が固化した部分であり、耳部17の第1面20aから第2面20bに至る部分及びフレーム15の一部を含んでいる。この溶接痕19aは、蒸着マスク20の耳部17とフレーム15とを互いに接合している。溶接痕19aにおいては、溶接の後に溶融領域19fの温度が低下して溶融領域19fが固化する際に、材料の結晶化が生じている。例えば、溶接痕19aは、耳部17及びフレーム15に跨る結晶粒を含む。
本実施の形態による溶接痕19aは、後述する図12Cに示すように、平坦状に形成された上端面19dと、上端面19dの周囲に形成された凹部19cと、を含んでいる。ここで、上端面19dとは、蒸着マスク20の第2面20bから最も遠い位置に形成された面を意味しており、より具体的には、図12Cに示すように、フレーム15を下側にするとともに蒸着マスク20を上側にした姿勢で見た場合における溶接痕19aの最も上側に形成される面を意味している。凹部19cは、このような上端面19dの周囲に形成されており、当該上端面19dよりも第2面20b側へ窪んだ部分である。上端面19dと凹部19cについての詳細は後述する。
図5において、蒸着処理の際に蒸着マスク20に密着する有機EL基板92を、点線で表す。図5に示すように、有機EL基板92は、蒸着マスク20のうち接合部19が形成される部分にまで延在していることがある。
(中間部)
次に、中間部18について説明する。図2、図3及び図5に示すように、中間部18は、第1面20aから第2面20bに至る貫通孔25が形成された有効領域22と、有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含む。周囲領域23は、有効領域22を支持するための領域であり、有機EL基板92へ蒸着されることを意図された蒸着材料が通過する領域ではない。例えば、有効領域22は、蒸着マスク20のうち、有機EL基板92の表示領域に対面する領域である。
図2に示すように、周囲領域23は、例えば、平面視において略四角形形状、さらに正確には平面視において略矩形状の輪郭を有する。なお図示はしないが、各有効領域22は、有機EL基板92の表示領域の形状に応じて、様々な形状の輪郭を有することができる。例えば各有効領域22は、円形状の輪郭を有していてもよい。
図2に示すように、中間部18は、蒸着マスク20の長手方向に沿って所定の間隔を空けて配列された複数の周囲領域23を含む。一つの有効領域22は、一つの有機EL表示装置100の表示領域に対応する。このため、図1に示す蒸着マスク装置10によれば、有機EL表示装置100の多面付蒸着が可能である。
以下、中間部18について詳細に説明する。図6は、中間部18を拡大して示す平面図であり、図7は、図6の中間部18をVII−VII方向から見た断面図である。図6に示すように、複数の貫通孔25は、有効領域22において、互いに直交する二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで規則的に配列される。
以下、貫通孔25及びその周囲の部分の形状について詳細に説明する。ここでは、蒸着マスク20がめっき処理によって形成される場合の、貫通孔25及びその周囲の部分の形状について説明する。
図7に示すように、中間部18は、第1面20aを構成する第1金属層32と、第2面20bを構成する第2金属層37と、を備える。第1金属層32には、所定のパターンで第1開口部30が設けられており、また、第2金属層37には、所定のパターンで第2開口部35が設けられている。中間部18においては、第1開口部30と第2開口部35とが互いに連通することにより、蒸着マスク20の第1面20aから第2面20bに至る貫通孔25が構成されている。
図6に示すように、貫通孔25を構成する第1開口部30や第2開口部35は、平面視において略多角形状になっていてもよい。ここでは第1開口部30および第2開口部35が、略四角形状、より具体的には略正方形状になっている例が示されている。また、図示はしないが、第1開口部30や第2開口部35は、略六角形状や略八角形状など、その他の略多角形状になっていてもよい。なお「略多角形状」とは、多角形の角部が丸められている形状を含む概念である。また図示はしないが、第1開口部30や第2開口部35は、円形状になっていてもよい。また、平面視において第2開口部35が第1開口部30を囲う輪郭を有する限りにおいて、第1開口部30の形状と第2開口部35の形状が相似形になっている必要はない。
図7において、符号41は、第1金属層32と第2金属層37とが接続される接続部を表している。また符号S0は、第1金属層32と第2金属層37との接続部41における貫通孔25の寸法を表している。なお図7においては、第1金属層32と第2金属層37とが接している例を示したが、これに限られることはなく、第1金属層32と第2金属層37との間にその他の層が介在されていてもよい。例えば、第1金属層32と第2金属層37との間に、第1金属層32上における第2金属層37の析出を促進させるための触媒層が設けられていてもよい。
図8は、図7の第1金属層32および第2金属層37の一部を拡大して示す図である。図8に示すように、蒸着マスク20の第2面20bにおける第2金属層37の幅M2は、蒸着マスク20の第1面20aにおける第1金属層32の幅M1よりも小さくなっている。言い換えると、第2面20bにおける貫通孔25(第2開口部35)の開口寸法S2は、第1面20aにおける貫通孔25(第1開口部30)の開口寸法S1よりも大きくなっている。以下、このように第1金属層32および第2金属層37を構成することの利点について説明する。
蒸着マスク20の第2面20b側から飛来する蒸着材料98は、貫通孔25の第2開口部35および第1開口部30を順に通って有機EL基板92に付着する。有機EL基板92のうち蒸着材料98が付着する領域は、第1面20aにおける貫通孔25の開口寸法S1や開口形状によって主に定められる。ところで、図7及び図8において第2面20b側から第1面20aへ向かう矢印L1で示すように、蒸着材料98は、るつぼ94から有機EL基板92に向けて蒸着マスク20の法線方向Nに沿って移動するだけでなく、蒸着マスク20の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動することもある。ここで、仮に第2面20bにおける貫通孔25の開口寸法S2が第1面20aにおける貫通孔25の開口寸法S1と同一であるとすると、蒸着マスク20の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動する蒸着材料98の多くは、貫通孔25を通って有機EL基板92に到達するよりも前に、貫通孔25の第2開口部35の壁面36に到達して付着してしまう。従って、蒸着材料98の利用効率を高めるためには、第2開口部35の開口寸法S2を大きくすること、すなわち第2金属層37の幅M2を小さくすることが好ましいと言える。
図7において、第2金属層37の壁面36及び第2金属層37の壁面31に接する直線L1が、蒸着マスク20の法線方向Nに対してなす最小角度が、符号θ1で表されている。斜めに移動する蒸着材料98を、可能な限り有機EL基板92に到達させるためには、角度θ1を大きくすることが有利となる。例えば、角度θ1を45°以上にすることが好ましい。
角度θ1を大きくする上では、第1金属層32の幅M1に比べて第2金属層37の幅M2を小さくすることが有効である。また、図から明らかなように、角度θ1を大きくする上では、第1金属層32の厚みT1や第2金属層37の厚みT2を小さくすることも有効である。なお、第2金属層37の幅M2、第1金属層32の厚みT1や第2金属層37の厚みT2を過剰に小さくしてしまうと、蒸着マスク20の強度が低下し、このため搬送時や使用時に蒸着マスク20が破損してしまうことが考えられる。例えば、蒸着マスク20をフレーム15に張設する際に蒸着マスク20に加えられる引張り応力によって、蒸着マスク20が破損してしまうことが考えられる。これらの点を考慮すると、第1金属層32および第2金属層37の寸法が以下の範囲に設定されることが好ましいと言える。これによって、上述の角度θ1を例えば45°以上にすることができる。
・第1金属層32の幅M1:5μm以上且つ25μm以下
・第2金属層37の幅M2:2μm以上且つ20μm以下
・蒸着マスク20の厚みT0:5μm以上且つ50μm以下、より好ましくは3μm以上且つ50μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ30μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ25μm以下
・第1金属層32の厚みT1:5μm以下
・第2金属層37の厚みT2:2μm以上且つ50μm以下、より好ましくは3μm以上且つ50μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ30μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ25μm以下
なお、本実施の形態において、蒸着マスク20の厚みT0は、耳部17及び中間部18のいずれにおいても同一である。
上述の開口寸法S0,S1,S2は、有機EL表示装置の画素密度や上述の角度θ1の所望値などを考慮して、適切に設定される。例えば、400ppi以上の画素密度の有機EL表示装置を作製する場合、接続部41における貫通孔25の開口寸法S0は、15μm以上且つ60μm以下に設定され得る。また、第1面20aにおける第1開口部30の開口寸法S1は、10μm以上且つ50μm以下に設定され、第2面20bにおける第2開口部35の開口寸法S2は、15μm以上且つ60μm以下に設定され得る。
図8に示すように、第1金属層32によって構成される蒸着マスク20の第1面20aには、窪み部34が形成されていてもよい。窪み部34は、めっき処理によって蒸着マスク20を製造する場合に、後述するパターン基板50の導電性パターン52に対応して形成される。窪み部34の深さDは、例えば50nm以上且つ500nm以下である。好ましくは、第1金属層32に形成される窪み部34の外縁34eは、第1金属層32の端部33と接続部41との間に位置する。
次に、蒸着マスク装置10を製造する方法について説明する。まず、蒸着マスク装置10の蒸着マスク20を製造する方法について説明する。ここでは、めっき処理によって蒸着マスク20を製造する例について説明する。
(蒸着マスクの製造方法)
図9A乃至図9Dは、蒸着マスク20の製造方法を説明する図である。
〔パターン基板準備工程〕
まず、図9Aに示すパターン基板50を準備する。パターン基板50は、絶縁性を有する基材51と、基材51上に形成された導電性パターン52と、を有する。導電性パターン52は、第1金属層32に対応するパターンを有する。
絶縁性および適切な強度を有する限りにおいて基材51を構成する材料や基材51の厚みが特に限られることはない。例えば基材51を構成する材料として、ガラスや合成樹脂などを用いることができる。
導電性パターン52を構成する材料としては、金属材料や酸化物導電性材料等の、導電性を有する材料が適宜用いられる。金属材料の例としては、例えばクロムや銅などを挙げることができる。導電性パターン52の厚みは、例えば50nm以上且つ500nm以下である。
なお、蒸着マスク20をパターン基板50から分離させる後述する分離工程を容易化するため、パターン基板50に離型処理を施しておいてもよい。
例えば、まず、パターン基板50の表面の油分を除去する脱脂処理を実施する。例えば、酸性の脱脂液を用いて、パターン基板50の導電性パターン52の表面の油分を除去する。
次に、導電性パターン52の表面を活性化する活性化処理を実施する。例えば、後述する第1めっき処理工程において用いられる第1めっき液に含まれる酸性溶液と同一の酸性溶液を、導電性パターン52の表面に接触させる。例えば、第1めっき液がスルファミン酸ニッケルを含む場合、スルファミン酸を導電性パターン52の表面に接触させる。
次に、導電性パターン52の表面に有機物の膜を形成する有機膜形成処理を実施する。例えば、有機物を含む離型剤を導電性パターン52の表面に接触させる。この際、有機膜の厚みを、有機膜の電気抵抗が、電解めっきによる第1金属層32の析出が有機膜によって阻害されない程度に薄く設定する。離型剤は、硫黄成分を含んでいてもよい。
なお、脱脂処理、活性化処理および有機膜形成処理の後には、パターン基板50を水で洗浄する水洗処理をそれぞれ実施する。
〔第1めっき処理工程〕
次に、導電性パターン52が形成された基材51上に第1めっき液を供給して、導電性パターン52上に第1金属層32を析出させる第1めっき処理工程を実施する。例えば、導電性パターン52が形成された基材51を、第1めっき液が充填されためっき槽に浸す。これによって、図9Bに示すように、パターン基板50上に、所定のパターンで第1開口部30が設けられた第1金属層32を得ることができる。
なお、めっき処理の特性上、図9Bに示すように、第1金属層32は、基材51の法線方向に沿って見た場合に導電性パターン52と重なる部分だけでなく、導電性パターン52と重ならない部分にも形成され得る。これは、導電性パターン52の端部54と重なる部分に析出した第1金属層32の表面にさらに第1金属層32が析出するためである。この結果、図9Bに示すように、第1開口部30の端部33は、基材51の法線方向に沿って見た場合に導電性パターン52と重ならない部分に位置するようになり得る。また、第1金属層32のうち導電性パターン52と接する側の面には、導電性パターン52の厚みに対応する上述の窪み部34が形成される。
図9Bにおいて、第1金属層32のうち導電性パターン52と重ならない部分(すなわち窪み部34が形成されない部分)の幅が符号wで表されている。幅wは、例えば0.5μm以上且つ5.0μm以下になる。導電性パターン52の寸法は、この幅wを考慮して設定される。
導電性パターン52上に第1金属層32を析出させることができる限りにおいて、第1めっき処理工程の具体的な方法が特に限られることはない。例えば、第1めっき処理工程は、導電性パターン52に電流を流すことによって導電性パターン52上に第1金属層32を析出させる、いわゆる電解めっき処理工程として実施されてもよい。若しくは、第1めっき処理工程は、無電解めっき処理工程であってもよい。なお、第1めっき処理工程が無電解めっき処理工程である場合、導電性パターン52上には適切な触媒層が設けられていてもよい。若しくは、導電性パターン52が、触媒層として機能するよう構成されていてもよい。電解めっき処理工程が実施される場合にも、導電性パターン52上に触媒層が設けられていてもよい。
用いられる第1めっき液の成分は、第1金属層32に求められる特性に応じて適宜定められる。例えば第1金属層32が、ニッケルを含む鉄合金によって構成される場合、第1めっき液として、ニッケル化合物を含む溶液と、鉄化合物を含む溶液との混合溶液を用いることができる。例えば、スルファミン酸ニッケルや臭化ニッケルを含む溶液と、スルファミン酸第一鉄を含む溶液との混合溶液を用いることができる。めっき液には、様々な添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、ホウ酸などのpH緩衝剤、サッカリンナトリウなどの一次光沢剤、ブチンジオール、プロパギルアルコール、クマリン、ホルマリン、チオ尿素などの二次光沢剤や、酸化防止剤などが用いられ得る。一次光沢剤は、硫黄成分を含んでいてもよい。
〔レジスト形成工程〕
次に、基材51上および第1金属層32上に、所定の隙間56を空けてレジストパターン55を形成するレジスト形成工程を実施する。図9Cは、基材51上に形成されたレジストパターン55を示す断面図である。図9Cに示すように、レジスト形成工程は、第1金属層32の第1開口部30がレジストパターン55によって覆われるとともに、レジストパターン55の隙間56が第1金属層32上に位置するように実施される。
以下、レジスト形成工程の一例について説明する。はじめに、基材51上および第1金属層32上にドライフィルムを貼り付けることによって、ネガ型のレジスト膜を形成する。ドライフィルムとは、基材51などの対象物の上にレジスト膜を形成するために対象物に貼り付けられるフィルムのことである。ドライフィルムは、PETなどからなるベースフィルムと、ベースフィルムに積層され、感光性を有する感光層と、を少なくとも含む。感光層は、アクリル系光硬化性樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、スチレン系樹脂などの感光性材料を含む。なお、レジストパターン55用の材料を基材51上に塗布し、その後に必要に応じて焼成を実施することにより、レジスト膜を形成してもよい。
次に、レジスト膜のうち隙間56となるべき領域に光を透過させないようにした露光マスクを準備し、露光マスクをレジスト膜上に配置する。その後、真空密着によって露光マスクをレジスト膜に十分に密着させる。その後、レジスト膜を露光マスク越しに露光する。さらに、露光されたレジスト膜に像を形成するためにレジスト膜を現像する。以上のようにして、図9Cに示すように、第1金属層32上に位置する隙間56が設けられるとともに第1金属層32の第1開口部30を覆うレジストパターン55を形成することができる。なお、レジストパターン55を基材51および第1金属層32に対してより強固に密着させるため、現像工程の後にレジストパターン55を加熱する熱処理工程を実施してもよい。
なお、レジスト膜として、ポジ型のものが用いられてもよい。この場合、露光マスクとして、レジスト膜のうちの除去したい領域に光を透過させるようにした露光マスクが用いられる。
〔第2めっき処理工程〕
次に、レジストパターン55の隙間56に第2めっき液を供給して、第1金属層32上に第2金属層37を析出させる第2めっき処理工程を実施する。例えば、第1金属層32が形成された基材51を、第2めっき液が充填されためっき槽に浸す。これによって、図9Dに示すように、第1金属層32上に第2金属層37を形成することができる。
第1金属層32上に第2金属層37を析出させることができる限りにおいて、第2めっき処理工程の具体的な方法が特に限られることとはない。例えば、第2めっき処理工程は、第1金属層32に電流を流すことによって第1金属層32上に第2金属層37を析出させる、いわゆる電解めっき処理工程として実施されてもよい。若しくは、第2めっき処理工程は、無電解めっき処理工程であってもよい。なお第2めっき処理工程が無電解めっき処理工程である場合、第1金属層32上には適切な触媒層が設けられていてもよい。電解めっき処理工程が実施される場合にも、第1金属層32上に触媒層が設けられていてもよい。
第2めっき液としては、上述の第1めっき液と同一のめっき液が用いられてもよい。若しくは、第1めっき液とは異なるめっき液が第2めっき液として用いられてもよい。第1めっき液の組成と第2めっき液の組成とが同一である場合、第1金属層32を構成する金属の組成と、第2金属層37を構成する金属の組成も同一になる。
なお、図9Dにおいては、レジストパターン55の上面と第2金属層37の上面とが一致するようになるまで第2めっき処理工程が継続される例を示したが、これに限られることはない。第2金属層37の上面がレジストパターン55の上面よりも下方に位置する状態で、第2めっき処理工程が停止されてもよい。
〔レジスト除去工程〕
その後、レジストパターン55を除去するレジスト除去工程を実施する。例えばアルカリ系剥離液を用いることによって、レジストパターン55を基材51、第1金属層32や第2金属層37から剥離させることができる。
〔分離工程〕
次に、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体を基材51から分離させる分離工程を実施する。これによって、所定のパターンで第1開口部30が設けられた第1金属層32と、第1開口部30に連通する第2開口部35が設けられた第2金属層37と、を備えた蒸着マスク20を得ることができる。
以下、分離工程の一例について詳細に説明する。はじめに、粘着性を有する物質が塗工などによって設けられているフィルムを、基材51上に形成された第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体に貼り付ける。次に、フィルムを引き上げたり巻き取ったりすることにより、フィルムを基材51から引き離し、これによって、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体をパターン基板50の基材51から分離させる。その後、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体からフィルムを剥がす。
その他にも、分離工程においては、はじめに、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体と基材51との間に、分離のきっかけとなる間隙を形成し、次に、この間隙にエアを吹き付け、これによって分離工程を促進してもよい。
なお、粘着性を有する物質としては、UVなどの光を照射されることによって、または加熱されることによって粘着性を喪失する物質を使用してもよい。この場合、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体を基材51から分離させた後、フィルムに光を照射する工程やフィルムを加熱する工程を実施する。これによって、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体からフィルムを剥がす工程を容易化することができる。例えば、フィルムと第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体とを可能な限り互いに平行な状態に維持した状態で、フィルムを剥がすことができる。これによって、フィルムを剥がす際に第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体が湾曲することを抑制することができ、このことにより、蒸着マスク20に湾曲などの変形のくせがついてしまうことを抑制することができる。
(蒸着マスクの溶接工程)
次に、上述のようにして得られた蒸着マスク20をフレーム15に溶接する溶接工程を実施する。これによって、蒸着マスク20及びフレーム15を備える蒸着マスク装置10を得ることができる。
(従来の溶接工程)
ところで、本件発明者らが鋭意研究を重ねたところ、めっき処理によって製造された蒸着マスク20は、圧延によって得られた金属板をエッチングして貫通孔を形成することによって製造された蒸着マスク20に比べて、接合部19の溶接強度が低くなることを見出した。以下、めっき処理によって製造された蒸着マスク20をフレーム15に溶接した場合に見られた現象について、図10A及び図10Bを参照して説明する。
まず、図10Aに示すように、蒸着マスク20を、耳部17の第2面20bがフレーム15に面するようにフレーム15上に配置した。次に、図10Aに示すように、第1面20a側から耳部17にレーザー光Lを照射して、耳部17の一部を加熱した。図10Aにおいて、符号Sは、耳部17に照射されたレーザー光Lのスポット径を表している。スポット径Sは、例えば100μm以上且つ300μm以下である。
耳部17を加熱すると、図10Bに示すように、耳部17及びフレーム15が溶融して、耳部17及びフレーム15に跨る溶融領域19fが形成された。その後、溶融領域19fの温度が低下して溶融領域19fが固化することによって溶接痕19aとなり、蒸着マスク20の耳部17が溶接痕19aによってフレーム15に対して固定された。なお、フレーム15の厚みT(図5参照)が大きい場合、溶融領域19fは、フレーム15のうち蒸着マスク20に接合される面の反対側に位置する面にまでは広がらない。フレーム15の厚みTは、例えば5mm以上且つ30mm以下である。
図10Bに示すように、耳部17をフレーム15に溶接することによって耳部17およびフレーム15の一部に形成された溶接痕19aは、第1面20a側に形成された凹部19c及び凸部19bを含んでいた。
このうち凹部19cは、第2面20b側へ窪んだ部分である。凹部19cは、耳部17のうちレーザー光Lが照射された部分とレーザー光Lが照射されなかった部分との境界の近傍に形成された。言い換えると、凹部19cは、スポット径Sによって表されるレーザー光Lの外縁の近傍に形成された。
凸部19bは、第1面20aから上方へ突出した部分である。凸部19bは、凹部19cよりも溶接痕19aの中心側に形成された。
図10Bに示すように、耳部17のうち第1面20aに凹部19cが形成された部分においては、凹部19cの深さの分だけ耳部17の厚みT0が局所的に小さくなり、接合部19の溶接強度が小さくなる。また、めっき処理によって製造された蒸着マスク20の耳部17の厚みT0は、圧延を経て製造された蒸着マスク20の耳部17の厚みT0よりも一般に小さい。このため、蒸着マスク20がめっき処理によって製造された場合、溶接痕19aを含む接合部19の溶接強度は、凹部19cの影響を大きく受けてしまう。この結果、めっき処理によって製造された蒸着マスク20は、圧延を経て製造された蒸着マスク20に比べて、接合部19の溶接強度が低くなったと考えられる。
なお、溶接強度とは、接合部19によってフレーム15に溶接された蒸着マスク20の耳部17をフレーム15から剥がすために要する力の大きさである。図11に、接合部19の溶接強度を測定する方法の一例を示す。溶接強度の測定工程においては、まず、蒸着マスク20の耳部17の一部を切り出すことによって得られたサンプル17Sを、フレーム15に溶接する。次に、図11に示すように、サンプル11Sの長手方向における端部に、フレーム15の法線方向に沿う方向における引っ張り力Eを加える。この場合、サンプル17Sが破断する、又はサンプル17Sがフレーム15から剥がれるときの引っ張り力Eが、接合部19の溶接強度である。
以下、めっき処理によって製造された蒸着マスク20において、溶接痕19aに上述の凸部19b及び凹部19cが形成された理由について考察する。めっき処理によって蒸着マスク20を製造する場合、蒸着マスク20の内部には、析出によって層が形成される過程で生じる歪に起因する応力が生じる。その後、溶接時に蒸着マスク20を加熱することによって溶融領域19fが形成されると、内部応力が緩和される。ここで、レーザー光Lにおいては、通常、そのスポット径の中心部の強度の方が、スポット径の外縁部の強度よりも高くなる。例えば、レーザー光Lは、ガウス分布に近い強度分布を有する。このため、溶融領域19fにおける内部応力の緩和は、溶融領域19fの周縁部よりも溶融領域19fの中央部において進行し易い。この結果、図10Aにおいて矢印Fで示すように、溶融領域19fにおいて、周縁部から中央部に向かう材料の流動が生じ、中央部の材料が上昇して盛り上がり、この結果、凸部19b及び凹部19cが形成されたと考えられる。また、溶融領域19fの上面から溶融材料が飛散することによっても、凹部19cが形成されると考えられる。なお、上述の凸部19b及び凹部19cが形成された理由が、上述の理由に限られることはない。
(本実施の形態による溶接工程)
従来の溶接工程における上述の課題を解決するため、本実施の形態においては、ガラス板60を利用して溶接工程を実施することを提案する。以下、本実施の形態による溶接工程について、図12A乃至図12Cを参照して説明する。
〔配置工程〕
まず、図12Aに示すように、蒸着マスク20の耳部17を、第2面20bがフレーム15に面するようにフレーム15上に配置する。次に、第1面20aの法線方向に沿って蒸着マスク20を見た場合に蒸着マスク20の耳部17の第1面20aのうち少なくともフレーム15と重なる部分にガラス板60を配置する。ガラス板60は、第1面60aと、第1面60aの反対側に位置する第2面60bと、を有しており、第1面60aおよび第2面60bはいずれも平坦状に形成されており、このうちの第2面60bが、耳部17の第1面20aに面する。本実施の形態では、ガラス板60は、蒸着マスク20の耳部17上に載置されている。ガラス板60には、その自重による力以外では、耳部17に押し付けるための押付力は付与されていない。なお、耳部17上にガラス板60を配置した後、耳部17をフレーム15上に配置してもよい。
ガラス板60は、耳部17をフレーム15に溶接する時に、溶融領域19fの盛り上がりを防止するための部材である。例えば、1.1mmの厚みを有するガラス板60は、後述するYAGレーザー光が355nmの波長を有する第3高調波355nmである場合に50%以上の透過率を有していることが好ましい。この場合、ガラス板60を透過するレーザー光Lの減衰を抑制できる。また、ガラス板60の材料は、特に限られることはないが、例えば、ホウケイ酸ガラスからなっていてもよい。ホウケイ酸ガラスからなるガラス板60の一例としては、コーニング社製のイーグル(EAGLE)ガラスが挙げられる。
図12Aに示すように、ガラス板60は、蒸着マスク20の第1面20aが延びる方向において、少なくとも、溶接工程において用いられるレーザー光Lのスポット径Sよりも大きな寸法を有する。好ましくは、ガラス板60は、蒸着マスク20の長手方向における両端部に設けられた耳部17に重なる大きさを有しており、更に好ましくは、フレーム15に支持された複数の蒸着マスク20の各耳部17に重なる大きさを有している。この場合、図2に示すようにフレーム15に支持された複数の蒸着マスク20の各耳部17を単一のガラス板60で覆うことができ、ガラス板60の配置作業性を向上させることができる。ガラス板60の厚みT3は、溶融領域19fの盛り上がりを防止するとともに取り扱い時の破損を防止する程度の強度を確保する上では、好ましくは0.5mm以上である。一方、作業性の向上を目的として軽量化を図る上では、ガラス板60の厚みT3は、好ましくは1.1mm以下である。
〔照射工程〕
次に、図12Aに示すように、ガラス板60の第1面60a側からレーザー光Lを照射する照射工程を実施する。これによって、レーザー光Lがガラス板60を透過し、図12Bに示すように、蒸着マスク20の耳部17の一部及びフレーム15の一部が溶融して、耳部17の第1面20aから第2面20bを介してフレーム15に至る溶融領域19fが形成される。この溶融領域19fは、耳部17及びフレーム15に跨っている。
レーザー光Lとしては、例えば、YAGレーザー装置によって生成されるYAGレーザー光を用いることができる。YAGレーザー装置としては、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)にNd(ネオジム)を添加した結晶を発振用媒質として備えたものを用いることができる。この場合、基本波として、波長が約1064nmのレーザー光が生成される。また、基本波を非線形光学結晶に通すことによって、波長が約532nmの第2高調波が生成される。また、基本波および第2高調波を非線形光学結晶に通すことによって、波長が約355nmの第3高調波が生成される。
YAGレーザー光の第3高調波は、ニッケルを含む鉄合金に吸収され易い。従って、蒸着マスク20の耳部17およびフレーム15の一部を効率良く溶融させるためにはレーザー光LがYAGレーザー光の第3高調波を含むことが好ましい。
レーザー光Lが照射されている間、溶融領域19fにおいて、周縁部から中央部に向かう材料の流動が生じ、中央部の材料が上昇する。しかしながら、本実施の形態によれば、図12Bに示すように、蒸着マスク20の耳部17上に、ガラス板60が配置されている。このことにより、溶融領域19fがガラス板60によって覆われ、中央部で上昇した溶融材料の盛り上がりがガラス板60によって規制され、当該溶融材料を周縁方向に向かわせることができる。このため、溶融領域19fの上部に平坦状の上端面19dが形成される。また、溶融領域19fがガラス板60で覆われるため、溶融領域19fの上面から溶融材料が飛散することを抑制できる。
ところで、本実施の形態では、ガラス板60は、上述したように蒸着マスク20の耳部17上に載置されており、ガラス板60の自重による力以外に、ガラス板60を耳部17に押し付ける押付力は付与されていない。このことにより、ガラス板60の厚みによっては、溶融材料の上昇によりガラス板60が若干持ち上げられる場合がある。この場合、中央部で上昇した溶融材料は、第1面20aよりも若干上方まで盛り上がるが、ガラス板60によって規制されて周縁方向に向かうようになる。このため、溶融領域19fの上部に平坦状の上端面19dを形成することができる。形成された上端面19dは、第1面20aよりも若干上方の位置(第1面20aよりも第2面20bから遠い側の位置)に形成される。また、ガラス板60が若干持ち上げられる場合には、溶融領域19fの上面から溶融材料が若干飛散し得る。このことにより、形成される上端面19dの周囲に、図12Bに示すような凹部19cが形成され得る。しかしながら、ガラス板60によって溶融材料の盛り上がりが規制されるため、上端面19dの平面面積が大きくなり、形成される凹部19cの平面面積は小さくなる。この結果、凹部19cの深さを浅くすることができる。なお、図12Bおよび図12Cにおいては、上端面19dは、蒸着マスク20の第1面20aの延長上に形成されている例を示している。
レーザー光Lの照射が終了すると、溶融領域19fの温度が低下し、溶融領域19fが固化して溶接痕19aとなる。このことにより、蒸着マスク20の耳部17とフレーム15とが溶接痕19aによって互いに接合される。溶融領域19fの温度が低下している間においても、蒸着マスク20の耳部17上にガラス板60が配置されている。このため、溶融領域19fが固化されてなる溶接痕19aは、上述した上端面19dと凹部19cとを有する形状となる。このうち上端面19dの形状は平坦状に維持される。また、上述したように、上端面19dの周囲に形成される凹部19cが小さくなるため、この溶融領域19fから得られる溶接痕19aにおいても、凹部19cの深さを浅くすることができる。
〔ガラス板除去工程〕
次に、図12Cに示すように、ガラス板60を除去するガラス板除去工程を実施する。このようにして、フレーム15と、接合部19によってフレーム15に接合された蒸着マスク20と、を備える蒸着マスク装置10を得ることができる。
本実施の形態によれば、耳部17上にガラス板60を配置して溶接工程を実施することにより、レーザー光Lの照射によって耳部17及びフレーム15に跨がる溶融領域19fが、耳部17上に配置されたガラス板60によって覆われる。このことにより、溶融領域19fの中央部において溶融材料が盛り上がることを規制することができる。また、溶融領域19fの上面から溶融材料が飛散することを抑制できる。このため、溶融領域19fの上部に平坦状の上端面19dを形成することができるとともに、当該上端面19dの周囲に形成される凹部19cを小さくすることができる。この結果、接合部19において蒸着マスク20の厚みが局所的に低減することを抑制し、蒸着マスク20の接合部19の溶接強度を高めることができる。とりわけ、めっき処理によって製造された厚みが小さい蒸着マスク20であっても、接合部19において蒸着マスク20の厚みが局所的に低減することを防止できるため、厚みの小さい蒸着マスク20の接合部19の溶接強度を効果的に高めることができる。
ところで、上述の図5に示すように、有機EL基板92は、蒸着マスク20のうち接合部19が形成される部分にまで延在していることがある。この場合、接合部19の表面に凸部19bが形成されていると、蒸着マスク20を有機EL基板92に密着させて蒸着処理を実施するときに、凸部19bが有機EL基板92に接触して有機EL基板92の表面が傷ついてしまうことが考えられる。
また、蒸着マスク20を有機EL基板92に密着させる密着工程を実施する前に、有機EL基板92の面方向における蒸着マスク20の位置を調整する位置調整工程を実施することがある。位置調整工程においては、例えば、有機EL基板92と蒸着マスク20の第1面20aとの間に所定の間隔を空けた状態で蒸着マスク20を有機EL基板92の面方向に沿って移動させて、蒸着マスク20の位置を調整する。このとき、蒸着マスク20の位置調整の誤差に起因して、凸部19bが有機EL基板92に接触することも考えられる。
これに対して本実施の形態によれば、溶接痕19aの上端面19dは、平坦状に形成されている。このことにより、溶接痕19aによって有機EL基板92に接触して有機EL基板92の表面が傷ついてしまうことを抑制することができる。例えば、有機EL基板92に予め形成されている配線や電極が傷つくことを抑制することができる。
また、本実施の形態によれば、蒸着マスク20の中間部18の第1面20aに窪み部34が形成されている。このため、有機EL基板92の面方向における蒸着マスク20の位置を調整する位置調整工程の際に、蒸着マスク20の位置調整の誤差や蒸着マスク20のたわみが生じた場合であっても、有機EL基板92に接触する蒸着マスク20の面積を低減することができる。このことにより、有機EL基板92の表面が傷つくことを抑制することができる。
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、必要に応じて図面を参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述した実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
(蒸着マスクの製造方法の第1の変形例)
上述の本実施の形態においては、蒸着マスク20が、第1金属層32および第2金属層37という、少なくとも2つの金属層を積層させることによって構成される場合について説明した。しかしながら、これに限られることはなく、蒸着マスク20は、所定のパターンで複数の貫通孔25が形成された1つの金属層27によって構成されていてもよい。以下、図13A〜図14を参照して、蒸着マスク20が1つの金属層27を備える例について説明する。なお、本変形例においては、蒸着マスク20の第1面20aから第2面20bに至る貫通孔25のうち第1面20a上に位置する部分を第1開口部30と称し、貫通孔25のうち第2面20b上に位置する部分を第2開口部35と称する。
はじめに、本変形例による蒸着マスク20を製造する方法について説明する。
まず、所定の導電性パターン52が形成された基材51を準備する。次に図13Aに示すように、基材51上に、所定の隙間56を空けてレジストパターン55を形成するレジスト形成工程を実施する。好ましくは、レジストパターン55の隙間56を画成するレジストパターン55の側面57の間の間隔は、基材51から遠ざかるにつれて狭くなっている。すなわち、レジストパターン55が、基材51から遠ざかるにつれてレジストパターン55の幅が広くなる形状、いわゆる逆テーパ形状を有している。
このようなレジストパターン55を形成する方法の一例について説明する。例えば、はじめに、基材51の面のうち導電性パターン52が形成された側の面上に、光硬化性樹脂を含むレジスト膜を設ける。次に、基材51のうちレジスト膜が設けられている側とは反対の側から基材51に入射させた露光光をレジスト膜に照射して、レジスト膜を露光する。その後、レジスト膜を現像する。この場合、露光光の回り込み(回折)に基づいて、図13Aに示すような逆テーパ形状を有するレジストパターン55を得ることができる。
次に図13Bに示すように、レジストパターン55の隙間56にめっき液を供給して、導電性パターン52上に金属層27を析出させるめっき処理工程を実施する。その後、上述のレジスト除去工程および分離工程を実施することにより、図14に示すように、所定のパターンで貫通孔25が設けられた金属層27を備えた蒸着マスク20を得ることができる。
(蒸着マスクの製造方法の第2の変形例)
上述の本実施の形態および変形例においては、めっき処理によって蒸着マスク20を作製する例について説明した。しかしながら、蒸着マスク20を作製するために採用される方法が、めっき処理に限られることはない。例えば、上述の特許文献1に開示されているように、エッチングによって金属板21に貫通孔25を形成することによって蒸着マスク20を作製してもよい。
(耳部の変形例)
上述の本実施の形態及び変形例においては、蒸着マスク20の耳部17の厚みと中間部18の厚みとが同一である例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、耳部17の厚みと中間部18の厚みとが異なっていてもよい。
(ガラス板の変形例)
上述の本実施の形態及び変形例においては、単一のガラス板60が、フレーム15に支持された複数の蒸着マスク20の各耳部17を覆う例を示した。しかしながら、耳部17上に配置されたガラス板60をレーザー光Lが透過して耳部17をフレーム15に溶接することができる限りにおいて、金属板60の形状が特に限られることはない。例えば、ガラス板60は、耳部17のうちフレーム15と重なる部分を覆うことができればよく、各蒸着マスク20の耳部17毎に、別体の部材であってもよい。
(ガラス板の配置工程の変形例)
ガラス板60が蒸着マスク20の耳部17の第1面20a上に配置される配置工程において、ガラス板60は、蒸着マスク20の耳部17に押圧されるようにしてもよい。ここで、押圧という用語は、ガラス板60の自重による力以外の押付力を受けて、ガラス板60が耳部17に押し付けられるという意味で用いている。
例えば、図15に示すように、ガラス板60上に、磁石61を配置することにより、この磁石61の磁力によって、蒸着マスク20およびフレーム15が磁石61側に引き寄せられ、ガラス板60を蒸着マスク20に押圧させることができる。なお、磁石61には、レーザー光Lを照射するための開口61aが設けられていることが好適である。
このようにガラス板60を耳部17に押圧することにより、ガラス板60を耳部17に密着させることができる。この場合、溶融領域19fの中央部で上昇した溶融材料が盛り上がることをより一層確実に規制できる。このため、溶融領域19fの上部に形成される上端面19dを、蒸着マスク20の第1面20aの延長上に(すなわち、第1面20aと面一に)形成することができる。この場合、溶接痕19aによって有機EL基板92に接触して有機EL基板92の表面が傷ついてしまうことをより一層抑制できる。
また、ガラス板60を耳部17に密着させることができるため、溶融材料の上昇によってガラス板60が持ち上がることを防止し、溶融領域19fの上面から溶融材料が飛散することを防止できる。このため、上端面19dの周囲に図12B等に示すような凹部19cが形成されることを防止でき、接合部19における蒸着マスク20の厚みが局所的に低減することをより一層防止できる。この場合、接合部19においても、蒸着マスク20の厚みを均一化でき、接合部19の溶接強度をより一層高めることができる。