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JP2017147324A - 赤外線検出器およびその製造方法 - Google Patents

赤外線検出器およびその製造方法 Download PDF

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JP2017147324A JP2016027912A JP2016027912A JP2017147324A JP 2017147324 A JP2017147324 A JP 2017147324A JP 2016027912 A JP2016027912 A JP 2016027912A JP 2016027912 A JP2016027912 A JP 2016027912A JP 2017147324 A JP2017147324 A JP 2017147324A
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昌之 白根
Masayuki Shirane
昌之 白根
俊介 大河内
Shunsuke Okochi
俊介 大河内
惣太 各務
Sota Kagami
惣太 各務
雅弘 角田
Masahiro Tsunoda
雅弘 角田
克之 渡邉
Katsuyuki Watanabe
克之 渡邉
荒川 泰彦
Yasuhiko Arakawa
泰彦 荒川
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Abstract

【課題】広い検出波長帯域を有する赤外線検出器を提供する。
【解決手段】赤外線検出器は、複数の量子ドットを含む量子ドット層13と、第1、第2の量子井戸層12、14と、第1、第2の障壁層11、15と、中間層10とを有し、検出対象光に基づく電子17の量子ドットにおける準位間遷移を利用する。第1、第2の量子井戸層12、14、第1、第2の障壁層11、15ならびに量子ドット層13の少なくとも一つは、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきが付与されている。これにより、量子ドットそれぞれの電子17の励起準位EL1に、所望の検出帯域幅に応じたばらつきを有している。
【選択図】図4

Description

本発明は、量子ドット型赤外線検出器およびその製造方法に関する。
近年、熱検出や二酸化炭素や大気汚染物質などの濃度測定を目的として、赤外線検出器に対する需要が高まっている。赤外線検出器の材料や構造の候補は複数あり、その1つが光吸収層に半導体量子ドットを含む、量子ドット型赤外線検出器(Quantum Dot Infrared Photodetector:QDIP)である。
QDIPは、量子ドットの周囲が、量子ドットを構成する材料よりも大きなバンドギャップをもつ半導体で3次元的に囲まれた構造を有している。量子ドットの領域(典型的には数十nmの大きさ)には、電子および正孔が強く閉じ込められている。その結果、量子ドット中に離散的なエネルギー準位が形成される。QDIPは、それらの準位のうち、伝導帯の複数の電子サブバンド準位を利用し、サブバンド間エネルギー差に相当するエネルギーを持つ赤外線を検出することができる。
QDIPは、離散的なサブバンド間遷移を利用するため、個々の量子ドットでは離散的な検出波長帯域である。しかし、実際上は、検出器には多数の量子ドットが含まれているため、検出波長帯域は、量子ドットの大きさや形状の不可避なばらつき(不均一広がり)に相当する程度の広がりをもつ。例えば、1cmあたり量子ドットが1011個あり、検出器の受光面が300μm角(面積は9×10−4cm)であるとすると、そこには9×10個の量子ドットが含まれる。この不均一広がりが検出器全体としての検出波長帯域に反映される。
ところで、QDIPをも含む赤外線検出器の性能指標として、比検出能がある。比検出能Dは、次の式1により定義される。
Figure 2017147324
ここで、Rは受光感度(単位はA/W)、Sは受光面積、Δfは帯域幅、inは単位帯域幅(1Hz)当たりのノイズ電流密度(単位はA/√Hz)である。
比検出能Dは、1Wの光入力があったときの交流的なS/Nがどれだけあるかを示すものである。式1から明らかなように、比検出能Dは、受光面積と帯域幅で規格化されているため、異なる素子で比較することができる。比検出能Dが高いほど、優れた性能の赤外線検出器であると言える。
比検出能Dを高くする手法として、量子ドット層(およびそれを取り囲む量子井戸層)の上下を、それらよりもバンドギャップの広いAlAsやAlGaAsから成る障壁層によって挟んだ構造が知られている(特許文献1、非特許文献1)。この構造によれば、電子が量子ドットによって強く閉じ込められ、電子の遷移確率が上昇する。その結果、高い比検出能Dが得られる。例えば、非特許文献1には、実際の構造において、近接障壁層が無い場合と比較して比検出能Dが10倍程度大きくなることを示している。
障壁層を有する量子ドット型赤外線検出器は、特許文献1、非特許文献1以外にも、例えば、特許文献2〜4に開示されている。
特開2009−065142号公報 特開2012−195333号公報 特開2012−109434号公報 特開2012−023307号公報
A.V.Barveほか、Applied Physics Letters 99巻、2号、191110-1頁〜191110-3頁 (2011年発行) A.Gomyoほか、Phys. Rev. Lett.72 pp.673-676 (1994)
QDIPの特徴の1つは、検出波長が狭帯域である点である。そして、QDIPの検出中心波長は、光吸収層に含まれる量子ドットまたはその周辺構造を変えることによって所望の値に設定できることが知られている。
しかし、赤外線検出器の用途によっては、検出波長が広帯域である方が好ましい場合もある。しかし、広い検出波長帯域を得るための手法は、十分に研究されているとは言い難い実状にある。
それ故、本発明の目的は、広い検出波長帯域を有する赤外線検出器およびその製造方法を提供することである。
本発明の一態様によれば、複数の量子ドットを含む量子ドット層と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層と、前記対の障壁層を挟む対の中間層とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器であって、前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つは、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきが付与され、それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする赤外線検出器が得られる。
本発明の他の態様によれば、複数の量子ドットを含む量子ドット層を形成する工程と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層を形成する工程と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層を形成する工程と、前記対の障壁層を挟む対の中間層を形成する工程とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器の製造方法であって、前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つに対して、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきを付与することにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを持たせることを特徴とする赤外線検出器の製造方法が得られる。
本発明によれば、広い検出波長帯域を有する赤外線検出器が得られる。
本発明の実施形態1〜5による赤外線検出器の基本的な構造を示す断面図である。 本発明の実施形態1〜5による赤外線検出器の要部の基本的な構造を示す断面図である。 本発明の実施形態1〜5による赤外線検出器の動作を説明するためのエネルギーバンド図である。 本発明の実施形態1、2による赤外線検出器を説明するための図であり、(a)はエネルギーバンド図、(b)は検出波長帯域に対する感度を示す図である。 本発明の実施形態1による赤外線検出器の波長応答スペクトルの測定例を示す図である。 本発明の実施形態3、4による赤外線検出器を説明するための図であり、(a)はエネルギーバンド図、(b)は検出波長帯域に対する感度を示す図である。 量子ドット層からのフォトルミネッセンス発光特性を表す図であり、(a)は比較例による赤外線検出器の特性を示し、(b)は本発明の実施形態3による赤外線検出器の特性を示す。 本発明の実施形態3による赤外線検出器における量子ドットの高さのばらつきを模式的に表した図である。 本発明の実施形態5による赤外線検出器の受光特性を表す模式図である。 本発明の実施形態1〜5を組み合わせた変形例による赤外線検出器を説明するための図であり、(a)はエネルギーバンド図、(b)は検出波長帯域に対する感度を示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る赤外線検出器100の構造を示す断面図である。また、図2は、図1に示された赤外線検出器100における光吸収層4の構造を示す断面図である。尚、これらの図において、各層の厚さ寸法の比率や、量子ドットの径寸法の比率などは、説明の便宜上、正確には描いていない。
図1に示されるように、半導体基板1の上に緩衝層2が形成されている。緩衝層2は、半導体基板1と同じ半導体材料から構成されている。また、緩衝層2の上に下部コンタクト層3が形成されている。下部コンタクト層3は、n型半導体を主材料として構成されている。尚、下部コンタクト層3は、半導体基板1上に、緩衝層2を介さず直接形成されていてもよい。また、下部コンタクト層3の上に光吸収層4及び下部電極7が形成されている。
尚、半導体基板1がn型である場合には、半導体基板1と接触するように下部電極7を形成しても構わない。また、光吸収層4に量子ドット層13が含まれているが、詳細は後ほど図2を参照して説明する。
光吸収層4の上には上部コンタクト層5が形成されている。上部コンタクト層5は、n型半導体を主材料として構成されている。光吸収層4と上部コンタクト層5は、エッチングプロセス等によりその一部が取り除かれており、上部コンタクト層5の一部分が上部電極6で覆われている。
上部電極6と下部電極7との間に適切な電圧を印加した条件下で、矢印で示すように紙面上部から赤外線Xが入射されると、光吸収層4において構造に応じた波長の赤外線を吸収して電子を励起し、その結果上部電極6と下部電極7との間に光電流が流れる。
図1および図2を併せ参照すると、光吸収層4は、複数の量子ドット131と、埋込層132とから成る量子ドット層13と、量子ドット層13を挟み、量子ドット層13よりもバンドギャップエネルギーが大きい第1の量子井戸層12および第2の量子井戸層14と、第1の量子井戸層12および第2の量子井戸層14を挟み、第1の量子井戸層12および第2の量子井戸層14よりもバンドギャップエネルギーが大きい第1の障壁層11および第2の障壁層15と、第1の障壁層11および第2の障壁層15を挟む対の中間層10とを有している。
さらに、本例では、上記の一連の積層体が、10回程度繰り返し積層されている。これにより、光吸収層4における赤外線の吸収効率が向上するようにしている。ただし、図1においては、図示を簡略化して3回の繰り返し積層を示している。
[原理]
図3は、本実施形態の動作原理を説明するためのエネルギーバンド図であり、赤外線検出器100のバイアス印加時の伝導帯エネルギーを示している。図3中、図1の上下方向は、左右方向に対応しており、図1の上側は図3の右側に対応している。尚、厳密には量子ドットの電子エネルギーバンドは3次元構造であるが、近似として1次元で表している。
図3から明らかなように、量子ドット層13のエネルギーが最も低く、第1の量子井戸層12と第2の量子井戸層14よりも中間層10のエネルギーが高く、第1の障壁層11と第2の障壁層15のエネルギーが最も高い。このような構造により、量子ドット層を中心とする領域に閉じ込められた電子16の基底準位EL1と励起準位EL2が形成される。
基底準位EL1に電子16が在る状態で励起準位EL2と基底準位EL1とのエネルギー差に相当する赤外線が入射すると、赤外線のエネルギーを吸収して電子16が基底準位EL1から励起準位EL2へ励起される。上部電極6と下部電極7との間にはバイアス電圧が印加されており、これにより電子16は第2の障壁層15をトンネルし、電流の変化として赤外線を検出できる。
図3では、1つの量子ドットに対するバンド構造を示しているが、本実施形態をも含め、1つの赤外線検出器中には多数の量子ドットが含まれている。それらの量子ドットの大きさや形状は、ある幅でばらついており、これは不均一広がりとも呼ばれる。この不均一広がりによって量子ドットの基底準位EL1および励起準位EL2がばらつき、これらのばらつきにより、赤外線検出器の検出波長帯域が決まる。
一般に、良質な量子ドットを形成しようとすると、結果として大きさや形状は揃う傾向にあるため、不均一広がりを意図的に大きくすることは難しい。結果として、赤外線検出器は狭帯域動作となり、QDIPの主な特徴の一つとなっている。
[実施形態1]
[構成]
本発明の実施形態1に係る赤外線検出器は、基本的には、図1および図2を参照して前述した構造を有している(赤外線検出器100)。
ただし、本実施形態では、意図的に、第1の障壁層11および第2の障壁層15に構造に関するばらつきが付与され、その結果として、複数の量子ドット131それぞれの電子の励起準位にばらつきが付与されている。以下、図4(a)および(b)をも参照して、このことを、説明する。
第1の障壁層11および第2の障壁層15の厚さは、1nm程度の厚さ(平均値)に設定されている。通常、ナノメータオーダーでの厚さの制御が必要な半導体薄膜層は有機金属気相成長法や分子線エピタキシャル法等を用いて製造される。しかし、これらの精密な製造手法を用いたとしても完全に均一な原子層レベルで平坦な膜厚を有する半導体層を製造することは困難であり、少なくとも1原子層程度のばらつきが必ず存在している。
この不可避な厚さのばらつきは、AlGaAs層が本実施形態の様に薄い場合は、無視できないほど大きな厚さのばらつきになる。このことは、ウエハ上で厚さが厚い領域と薄い領域を有する障壁層が形成されることを意味している。結果として、本実施形態による赤外線検出器は、量子ドットの励起準位EL2にばらつきが付与される。
例えば、本実施形態の場合、第1の障壁層11および第2の障壁層15は、AlGaAsであり、1原子層の厚さは0.3nm程度であるため、障壁層の厚さは少なくとも±30%ばらついている。
また、障壁層が結晶成長によって形成される場合、障壁層が薄いことは、更なる表面段差の発生を引き起こす効果がある。通常、異種材料の接合成長界面では、その異種材料の接合に起因する結晶構造の不連続が発生し、転位やステップ(段差)が発生する場合がある。ただし、成長層厚が厚い場合は、成長層厚の増加と共にこれらの転位やステップは解消して平坦性が復活する。
これに対し、本実施形態のごとく成長層厚が薄い場合は、この薄い厚さに到達するまでの成長層の成長過程では表面の平坦性が十分には回復しない。よって、障壁層の厚さにばらつきが付与されることになる。その結果、励起準位EL2にばらつきが付与される。
さらに、成長時に結晶成長を破綻させない範囲で基板温度を降下させるか、あるいは、Asの圧力を下げることによっても、成長層表面の段差、即ち、第1の障壁層11および第2の障壁層15の厚さのばらつきを増大させることができる。その結果、励起準位EL2にさらに大きなばらつきを付与することができる。
ところで、基底準位EL1の波動関数は、量子ドットに強く閉じ込められているため、量子ドットの外側の影響は受け難い。つまり、障壁層の厚さのばらつきの影響は小さく、基底準位EL1のばらつきは、量子ドットのばらつきで決まる値と変わらない。一方、励起準位EL2は障壁層周辺まで波動関数が広がっているため、障壁層の厚さのばらつきの影響を大きく受ける。結果として、図4(b)の下のグラフに示されるように、励起準位EL2は量子ドットのばらつきで決まる量よりもずっと広がる。
図4(b)は、赤外線検出器の波長応答を模式的に示したものである。図4(b)中、上のグラフの破線で示すスペクトルは、比較例による赤外線検出器の波長応答を示している。この比較例は、障壁層が2nmの厚さで、かつ、厚さのばらつきが±15%の場合である。一方、図4(b)中、下のグラフの実線で示すスペクトルは、本実施形態による赤外線検出器100の波長応答を示している。上述したように、本実施形態による赤外線検出器100は、障壁層が1nmの厚さで、かつ、厚さのばらつきが±30%の場合である。図4(b)から明らかなように、本実施形態による赤外線検出器100は、比較例に比べ、励起準位EL2のばらつきが大きくなることにより、検出波長帯域が広がっている。
続いて、本実施形態による赤外線検出器100のより具体的な構造を説明する。
図2を参照すると、中間層10は、AlGa1−yAsから成っている。中間層10の上には、平均の厚さd(nm)のAlGa1−xAsから成る第1の障壁層11が形成されている。第1の障壁層11の上には、平均の厚さ1〜2nm程度のGaAsから成る第1の量子井戸層12が形成されている。第1の量子井戸層12の上には、厚さ5nm程度の量子ドット層13が形成されている。量子ドット層13は、高さ4nm程度のInAsから成る複数の量子ドット131と、複数の量子ドット131間を満たす厚さ5nm程度のIn0.15Ga0.85Asから成る埋込層132とによって構成されている。尚、埋込層132は、必ずしも本例のごとく量子ドット131の高さよりも厚くなくてもよく、量子ドット131の高さと等しい厚さであってもよい。
量子ドット層13の上には、平均の厚さ1〜2nm程度のGaAsから成る第2の量子井戸層14が形成されている。第2の量子井戸層14の上には、平均の厚さd(nm)のAlGa1−xAsから成る第2の障壁層15が形成されている。第2の障壁層15の上には、AlGa1−yAsから成る中間層10が形成されている。この一連の積層構造が例えば10回繰り返して積層されることにより、図1に示された光吸収層4が構成されている。
図5は、中間層10(組成AlGa1−yAs)、第1の障壁層11、第2の障壁層15(組成AlGa1−xAs、厚さd(nm))について、x=0.18、y=0.03にそれぞれ設定し、かつ、厚さd=1nmに設定した比較例としての構造Aと、厚さd=2nmに設定した本実施形態による構造Bの波長応答スペクトルの測定結果を示す。
比較例としての構造Aでは、5.5μm付近に検出ピーク波長があり、半値全幅は1.2μm程度である。一方、本実施形態による構造Bは、構造Aに比べて長波長側に対しても感度を持ち、半値全幅が約2μmに広がっている。また、本実施形態による構造Bの非検出能Dのピーク値は、構造Aに比べて低下してはいるものの、約20%の低下にとどまっている。
この結果から、以下のことが分かる。即ち、比較例としての、障壁層の厚さが2nmの構造Aでは、原子層レベルでの障壁層の厚さのばらつきが、量子ドットが元来持っている不均一広がりと同程度か、それ以下である。このため、検出波長帯域の広がりとして見えていないと考えられる。一方、本実施形態による、障壁層の厚さが1nmの構造Bでは、1原子層の厚さに対するばらつきが、構造Aの2倍になる。これに伴って、励起準位EL2のばらつきが大きくなる。その結果、検出波長帯域が広がったと考えられる。
尚、本実施形態のごとく量子ドット層がInAsから成り、障壁層がAlGaAsから成り、また、量子井戸層がGaAsから成る場合、障壁層および量子井戸層の少なくとも一方の平均の厚さは、量子ドットの高さの1/4以下であることが好ましい。
また、AlGa1−xAsから成る障壁層のAl組成x、AlGa1−yAsから成る中間層のAl組成yについては、障壁層のAl組成xが大き過ぎると、量子ドットに電子が強く閉じ込められてしまうと共に、結晶品質が低下するため、赤外線検出器の動作には適していない。よって、障壁層のAl組成xは、0.20以下であることが好ましい。尚、図5の構造Bでは、障壁層の厚さ1nm、Al組成x=0.18である。また、障壁層のAl組成xに中間層のAl組成yが近過ぎると、厚さの薄い障壁層としての効果が低減してしまう。よって、障壁層のAl組成xと中間層のAl組成yとの差は0.1以上であることが望ましい(x−y≧0.1)。図5の構造Bでは、y=0.03である。
このように、障壁層を1nm程度の厚さとすると共に、中間層や障壁層の組成を変えることにより、比検出能Dの低減を抑えつつ、量子ドット型赤外線検出器の所望の検出波長帯域を得ることが可能となる。
本発明においては、障壁層および量子井戸層の少なくとも一方の平均の厚さが1nm以下であることが好ましい。尚、障壁層および量子井戸層の少なくとも一方の平均の厚さを1nm以下にしない場合には、厚さのばらつきの平均値が4原子層以上であることが好ましい。
[製造方法]
次に、図1、図2を参照して、本発明の実施形態1による赤外線検出器の製造方法を説明する。
半導体基板1として、面方位が(001)面のGaAs基板を用意し、分子線エピタキシャル装置内へ導入する。基板表面の薄い自然酸化膜を除去後、半導体基板1と同じGaAsから成る緩衝層2を厚さ500nm程度積層する。結晶成長時のAsの圧力は、1×10−5Torrの条件で行った。
引き続き、厚さが500nmでSi原子を濃度2×1018cm−3程度ドーピングしたGaAsから成るn型の下部コンタクト層3、そして厚さ50nmのAly0.03Ga0.97Asから成るi型の中間層10を積層する。
さらに、平均の厚さ1〜2nm程度のAl0.18Ga0.82Asから成る第1の障壁層11、平均の厚さ1〜2nm程度のGaAsから成る第1の量子井戸層12、複数の量子ドット131と埋込層132とから成る量子ドット層13の順に積層する。
複数の量子ドット131は、厚さが2〜3原子層程度に相当する分のInAsを供給することによって形成される。この時、InAsとその直下にあるGaAsとの格子定数の違いから発生する歪みにより、InAsが島状に3次元的に結晶成長し、量子ドット131が形成される。この結晶成長様式は、SK(Stranski-Krastanov)モードと呼ばれる。SKモードでは、材料を供給するだけで複数の量子ドット131形成されるため、SKモードで形成される量子ドットは、自己形成量子ドットとも呼ばれる。
尚、各量子ドット131の直径は20〜30nm程度、高さは4nm程度、また、1平方センチメートルあたりの数密度は5×1010程度である。
赤外線検出器として動作させるため、各量子ドット131には、予め電子が1個入っている必要がある。これを満たすため、n型の不純物であるSiを量子ドットと同程度の面密度でドープする。
続いて、厚さ5nm程度のIn0.15Ga0.85Asから成る埋込層132を形成することにより、量子ドット層13を形成する。尚、必要に応じて、インジウムフラッシュ法と呼ばれる工程により、量子ドット131の頭頂部を蒸発させ、量子ドット131の高さを埋込層132の厚さ以下にすることにより、複数の量子ドット131が第2の量子井戸層14にまで飛び出ないように揃えてもよい。
その後、平均の厚さ1〜2nm程度のGaAsから成る第2の量子井戸層14を積層する。
続いて、平均の厚さ1〜2nm程度のAl0.18Ga0.82Asから成る第2の障壁層15を積層し、さらに厚さが50nmのi型のAly0.03Ga0.97Asから成る中間層10を再び積層する。
上記の手順にしたがって第1の障壁層11、第1の量子井戸層12、量子ドット層13、第2の量子井戸層14、第2の障壁層15、中間層10を10回程度繰り返し積層し、光吸収層4を形成する。
最後に、厚さが200nmでSi原子を濃度2×1018cm−3程度ドーピングしたGaAsから成るn型の上部コンタクト層5を積層する。
上記製造方法において、量子ドットや量子井戸およびそれらの周辺構造をMBE法によって形成しているが、この方法に限定されるものではなく、有機金属気相成長法等の他の結晶成長方法を用いてもよい。
続いて、紫外線リソグラフィー、ウエットエッチングまたはドライエッチング技術を利用して上部コンタクト層5、光吸収層4および下部コンタクト層3の一部を選択的にエッチングする。これにより下部コンタクト層3の表面の一部が露出する。
この選択エッチングによって分離された構造が赤外線検出器100になる。尚、検出素子の受光面の大きさは、用途によって異なるが、典型的には、20μm角〜500μm角程度である。赤外線検出器はこの1素子のみで構成されてもよいし、このような素子を1列に、あるいは2次元的に配列させたアレイであってもよい。
次いで、上部コンタクト層5および下部コンタクト層3にAuGe/Ni/Auからなる上部電極6および下部電極7をそれぞれリフトオフ法によって形成する。リフトオフ法は、リソグラフィー、金属蒸着、レジスト剥離などの工程を含んでいる。
以上の工程により、本発明の実施形態1である赤外線検出器の基本構成が完成する。
[実施形態2]
次に、本発明の実施形態2について説明する。
実施形態1では、障壁層や量子井戸層の平均の厚さを1nm程度以下とすることにより、相対的に、厚さのばらつきが無視できない構造を障壁層や量子井戸層に付与することにより、障壁層や量子井戸層の実効的な厚さのばらつきを意図的に作り出した。これによって、励起準位のばらつきを作り出し、その結果、赤外線検出器の検出波長帯域の広帯域化を、実施形態1では実現した。これに対し、本実施形態においては、同様の効果を、第1、第2の量子井戸層12、14(図2)ならびに第1、第2の障壁層11、15(図2)の少なくとも一方の組成のばらつきを意図的に作り出すことにより、赤外線検出器の検出波長帯域の広帯域化を実現する。
実施形態1でも述べたが、通常、ナノメータオーダーでの厚さの制御が必要な半導体薄膜層は、有機金属気相成長法や分子線エピタキシャル法等を用いて製造される。これらの手法で通常の条件で結晶成長をさせた場合、製造された成長層の組成は、成長層の厚さが薄くなったとしてもほぼ均一である。
ところが、複数のIII族元素で構成されている化合物半導体の場合は、結晶成長時のV族の圧力を大きくしたり、成長温度を通常より大幅に下げたりすることにより、複数種のIII族元素が規則的に配列することが知られている(非特許文献2)。
第1のIII族元素をIIIA、第2のIII族元素をIIIBとすると、通常、III族元素は、例えば、「・・・IIIA・IIIA・IIIB・IIIA・IIIB・IIIB・・・」の様に、III族のサイトにランダムに入るので規則性はない。
しかし、上記の条件、即ち、結晶成長時のV族の圧力を大きくしたり、成長温度を通常より大幅に下げたりすることを伴って製造すると、例えば「・・・IIIA・IIIB・IIIA・IIIB・IIIA・IIIB・・・」の様に、IIIAとIIIBとが交互に規則的に配列する。
また、このIII族元素の規則的な配列構造は、特に分子線エピタキシャル成長法を用いて行った場合には、成長層の面内全域に亘って均一に形成されることはなく、局所的に形成される。
また、III族元素が規則的に配列すると、通常の場合に比べてバンドギャップエネルギーが低下する現象がある。つまり、III族元素が局所的に規則的に配列されることにより、障壁層や量子井戸層のバンドギャップエネルギーにばらつきが発生する。その結果、量子ドットの励起準位のばらつきを引き起こすことができる。
さらに、このIII族元素の規則的な配列構造は、結晶成長層の表面の原子ステップ(段差)を形成核として発生する傾向がある。このため、実施形態1で述べた様な、原子オーダーのステップが多く存在している表面上に、十分に薄い障壁層や量子井戸層を結晶成長させた場合、より多くの箇所でIII族元素の規則的な配列構造が形成される。その結果、より大きな励起準位のばらつきを引き起こすことができる。
具体的には、以下の工程にしたがい赤外線検出器用の半導体ウエハを製造する。製造工程は、障壁層もしくは量子井戸層の結晶成長工程以外は、実施形態1で述べた工程と同じである。このため、以下では、量子井戸層の製造条件のみについて述べる。
InGaAsから成る第1の量子井戸層12(図2)の結晶成長前までの工程、ならびに、同じくInGaAsから成る第2の量子井戸層14(図2)の結晶成長よりも後の工程は、実施形態1と同様に行い、半導体ウエハの結晶成長を行った。
さて、第1の量子井戸層12、第2の量子井戸層14の各成長直前には、Asの圧力を2.5×10−5Torrに上昇させ、基板温度を370℃に下降させた後に、第1の量子井戸層12、第2の量子井戸層14の各結晶成長を行った。
第1の量子井戸層12、第2の量子井戸層14の各成長後は、第1の量子井戸層12、第2の量子井戸層14の各成長前の成長条件に戻してから、結晶成長を続行した。
尚、第1、第2の量子井戸層12、14以外の成長は、実施形態1と同様の工程にしたがい、赤外線検出器の製造を行った。
以上説明した工程により製造された赤外線検出器の波長応答は、図4(b)の下のグラフに模式的に示したものと同様に、検出波長帯域の広帯域化が確認された。これは、量子井戸層の面内に局所的に形成されたIII族元素の規則的な配列構造、換言すれば、量子井戸層に複数種類の組成の分布を付与することにより、励起準位EL2のばらつきが発生したためである。
尚、III族元素の規則的な配列構造による赤外線検出器の広帯域化は、この配列構造を本実施形態で述べたごとく量子井戸層に具備させた場合に効果が大きい。ただし、この配列構造を障壁層に具備させてもよい。
また、量子井戸層や障壁層の材料についても、InGaAs以外に、AlGaAs、InGaP、AlInAs等であっても構わない。さらに、III族元素の種類も、2種類に留まることなく、AlGaInAs等の3種類以上であっても構わない。さらにまた、III族元素だけではなく、GaAsSbの様なV族元素に関しても同様に規則的な配列構造、即ち、複数種類の組成の分布を付与することにより、赤外線検出器の広帯域化を図ることができる。
[実施形態3]
実施形態1、2では、励起準位EL2に注目し、障壁層もしくは量子井戸層に厚さもしくは組成のばらつきを付与して励起準位のばらつきを持たせることによって検出波長帯域を広帯域化させた。
実施形態3では、基底準位エネルギーのばらつきを利用した検出波長帯域の広帯域化の手法に関する。
赤外線検出器の検出波長は、量子ドットの電子の励起準位と基底準位とのエネルギー差で決定されるため、励起準位ばらつきのみならず、基底準位のばらつきによっても広帯域化が可能である。
基底準位のばらつきは、主に、量子ドット層の構造を制御することによって実現可能である。本実施形態では、量子ドット層に含まれる複数の量子ドットの高さに意図的に原子層単位のばらつきを付与することにより、図6(a)に示すように基底準位EL1にばらつきを持たせることを特徴とする。
本実施形態においては、意図的に量子ドットの高さに原子層単位のばらつきを付与している。通常、量子ドットの大きさや形状は、ある幅でばらついており、これは不均一広がりと呼ばれる。この不均一広がりにより、量子ドットの基底準位がばらつく。この基底準位のばらつきが、赤外線検出器の検出波長帯域を決める要素の一つとなる。
ところで、量子ドットの高さのばらつきを減らす手法として、インジウムフラッシュ法と呼ばれる手法がある。インジウムフラッシュ法は、量子ドットの結晶成長後、量子ドットの高さよりも低い所定の高さ(厚さ)の部分キャップ層としての埋込層を結晶成長させ、部分キャップ層から量子ドットの頭頂部の一部を露出させ、さらに連続して熱処理を行うことにより、量子ドットの部分キャップ層から飛び出た頭頂部を蒸発させる手法である。通常、部分キャップ層の成長は、量子ドットの成長温度と同程度の温度で行われ、成長層の厚さは数nm程度であり、その後の熱処理は量子ドットの成長温度以上、好ましくはインジウムが完全に蒸発する500℃以上まで加熱が行われる。その結果、量子ドットの実効的な高さは揃えられる。その結果、基底準位のばらつきが抑制される。即ち、インジウムフラッシュ法工程に際し、上記工程にしたがうと、均一な高さの量子ドットを製造可能である。
これに対し、本願発明においては、インジウムフラッシュ法工程に際し、部分キャップ層の成長温度ならびに熱処理温度を通常よりも大幅に下げて製造することにより、量子ドットの高さに原子オーダーのばらつきを意図的に付与する。
具体的には、以下のようにして、量子ドットを形成した。
まず、実施形態1の製造方法と同じ工程にしたがい、GaAsから成る半導体基板1(図1)上に、分子線エピタキシャル法により、緩衝層2(図1)、下部コンタクト層3(図1)、中間層10(図2)、第1の障壁層11(図2)、第1の量子井戸層12(図2)までの結晶成長工程を行う。
さらに、第1の量子井戸層12上に複数の量子ドット131を形成する。量子ドット131は、InAsを2.6原子層厚分、基板温度約480℃で供給することによって自己形成される。典型的な量子ドットの直径は20〜30nm程度、高さ4nm程度であり、1平方センチメートルあたりの数密度は5×1010程度である。
その後、基板温度を420℃まで降下させ、厚さ2nmのGaAsから成る部分キャップ層としての埋込層132を結晶成長させる。
その後、基板温度を量子ドット131(図2)の成長温度である480℃まで上昇させ、連続して、第2の量子井戸層14(図2)、第2の障壁層15(図2)、中間層10(図2)を成長させ、これらの工程を繰り返すことにより、光吸収層4(図1)を製造し、以後は実施形態1と同様にして、赤外線検出器を製造する。
本実施形態においては、部分キャップ層としての埋込層の成長温度を、量子ドットの成長温度よりも50℃以上下げると共に、熱処理温度を高くても量子ドットの成長温度程度までに留めることにより、量子ドットの高さを原子オーダーでばらつかせることに成功した。その結果、基底準位のばらつきを増大させることができた。
図7(a)に、通常の工程にしたがって製造された比較例における量子ドット層からのフォトルミネッセンス発光特性を示す。一方、図7(b)に、本実施形態にしたがって製造された量子ドット層13からのフォトルミネッセンス発光特性を示す。
本実施形態の工程にしたがい量子ドットを結晶成長させることにより、量子ドットの基底準位のばらつきを示す指標であるフォトルミネッセンス発光の半値幅は、通常工程にしたがって製造された比較例における量子ドット層が30〜40meV程度のばらつきであった(図7(a))のに対し、70〜80meV程度のばらつきであった(図7(b))。即ち、本実施形態により製造された量子ドット層の基底準位のばらつきは、比較例の2倍程度に広がった。
本発明において、量子ドットそれぞれの電子の基底準位のばらつきを示すバンド間遷移エネルギーは、60meV以上であることが好ましい。
ところで、図7(b)に示すフォトルミネッセンス発光特性を見ると、半値幅が比較例(図7(a))の約2倍に広がっているが、そのスペクトル形状を詳細に見ると、図7(b)中、矢印で示される複数のピークを有する発光の重ね合わせであることが分かる。
これらの複数の発光ピークは、約30meV間隔であり、これは概ね、それぞれ複数の量子ドットを含み、高さが原子層単位で異なる量子ドット群からの発光に相当する。このような量子ドット群の例を、図8に模式的に示す。
図8に模式的に示された4種類の量子ドット群131−1〜131−4は、それぞれ複数の量子ドットを含み、かつ、各高さ(HQ1〜HQ4)が原子層単位で相互に異なっており、量子ドット層の面内に分布している。
通常の手法にしたがって形成された量子ドットの高さのばらつきは、単一の高さを中心に揃う傾向にある。これに対し、インジウムフラッシュ法を利用して形成した本実施形態による量子ドットは、図8に模式的に示すように、高さが原子層単位で相互に異なる量子ドット群131−1〜131−4の分布となっている。このような量子ドット群における量子ドットの発光波長は、主にその高さ(厚さ)の違いに応じて変化する。このため、大きい分布、即ち、相互に異なる高さの量子ドット群の種類が多いほど、基底準位に広いばらつきを持たせる。その結果、赤外線検出器の検出波長帯域を広帯域化せしめる効果を奏する。
量子ドットの基底準位のばらつきが増大した場合の電子の基底準位と励起準位の状態は、図6(a)に模式的に示すものとなる。つまり、実施形態1、2の場合は、励起準位EL2がばらつくことによって赤外線検出波長帯域が広帯域化したが、本実施形態の場合は、量子ドットの基底準位がばらつくことにより、図6(b)の下のグラフに示すように赤外線検出波長帯域が広帯域化する。
[実施形態4]
本実施形態では、実施形態3と同様に、量子ドット層の構造を特別な形状にすることによって量子ドットの基底準位にばらつきを持たせたことを特徴とする。そのために、量子ドットを形成した直後に連続して短時間の熱処理を行うことにより、量子ドットの高さにばらつきを付与している。
本発明の実施形態において形成する量子ドットは、熱によって拡散し易い特性を有している。特に、量子ドットの結晶成長直後に量子ドット成長時の基板温度以上に基板温度を上昇せしめると、量子ドットを構成する原子が周辺に拡散し、量子ドットの形状が崩れてくる。
通常は、高さを含む形状が均一な量子ドットが必要であるため、量子ドットの成長後は、数10秒程度、量子ドットの成長温度で保持することにより、表面に存在している余分な供給原料を十分に拡散させ、既に形成済みの量子ドットに取り込ませる。これにより、高さの揃った均一な量子ドットを得ている。
しかし、本実施形態においては、量子ドット131(図2)の結晶成長後、直ちに基板(図2)温度を量子ドット成長時よりも少し上昇せしめ、意図的に量子ドット131の形状を崩壊させ、量子ドット131の高さにばらつきを付与する。ただし、あまり基板温度を上げ過ぎると、量子ドット131が全て崩壊してしまう。このため、上昇させる温度は5℃以内程度、温度上昇させている時間は10秒以内程度が好ましい。
この熱処理を伴って形成された複数の量子ドット131を含む量子ドット層13(図2)を形成した後は、実施形態1と同様に、第2の量子井戸層14(図2)、第2の障壁層15(図2)、中間層10(図2)等を結晶成長させ、赤外線検出器用のウエハを完成する。
[実施形態5]
本実施形態では、量子ドット層の構造を特別な形状にすることにより、実施形態3、4と同様に、量子ドットの基底準位にばらつきを持たせたことを特徴とする。そのために、赤外線検出器用のウエハに対して急速熱処理を施すことにより、量子ドットの高さのばらつきを作り出している。
通常、量子ドットに用いられている材料であるInAsの場合、急速熱処理、即ち、量子ドットの結晶成長温度よりも高い温度まで短時間に加熱すると、III族元素であるInが量子ドット中の本来の位置から周囲へ拡散して量子ドット層とそれに接する層との界面がぼやけた構造となり、閉じ込め効率が減少する。その結果、急速熱処理を施していない場合に比べ、基底準位のばらつきが増大する。
具体的には、次のような工程にしたがい、赤外線検出器用半導体ウエハを製造する。
まず、実施形態1の製造方法と同じ工程にしたがい、GaAsから成る半導体基板1(図1)上に、分子線エピタキシャル法により、緩衝層2(図1)、下部コンタクト層3(図1)、中間層10(図2)、第1の障壁層11(図2)、第1の量子井戸層12(図2)までの結晶成長工程を行い、さらにInAsから成る量子ドット層13(図2)を積層する。
量子ドット層13は、InAsを2.6原子層分、基板温度約480℃で供給することによって自己形成される。典型的な量子ドット131(図2)の直径は20〜30nm程度、高さは4nm程度であり、1平方センチメートルあたりの数密度は5×1010程度である。
量子ドット131の結晶成長後、実施形態4と同様に、直ちに基板温度を3℃上昇させ、10秒間そのまま保持した。この工程により、量子ドットの高さに大きなばらつきを付与することができる。
この熱処理を伴って形成された複数の量子ドット131を含む量子ドット層13(図2)を形成した後は、実施形態1と同様に、第2の量子井戸層14(図2)、第2の障壁層15(図2)、中間層10(図2)等を結晶成長させ、赤外線検出器用のウエハを完成する。
次に、急速熱処理を行う。結晶成長後の赤外線検出器用のウエハを、窒素で満たしたチャンバ中に導入し、赤外線加熱ランプによって急速に加熱し、その後急速に冷却する。
加熱温度は、結晶成長時の最高到達温度である600℃以上が望ましいが、それ以下でも同様の効果は期待できる。また、上限温度は、構成V族元素であるAsが結晶サイトから加熱によって脱離しない温度までが好ましい。実際には、短時間であれば、800℃程度までの加熱が可能である。
ウエハの急速熱処理を伴って製造する赤外線検出器である試料(本実施形態)と、ウエハの急速熱処理を伴わずに製造する赤外線検出器である試料(比較例)とを製造し、それらの赤外線検出特性を測定した。図9に、測定結果を模式的に表したものを示す。
図9(a)は急速熱処理を施していない試料(比較例)の特性を示し、図9(b)は800℃で2分間の急速熱処理を施した試料(本実施形態)の特性を示し、図9(c)は800℃で4分の急速熱処理を施した試料(本実施形態)の特性を示している。
図9(a)〜(c)から、感度特性として、光応答性の最大値を中心に如何程の波長範囲(Δλ)に亘って赤外線検出器としての光応答性があるのかが分かる。即ち、急速熱処理を行っていない比較例(図9(a))、800℃で2分間の急速熱処理を施した本実施形態(図9(b))、800℃で4分の急速熱処理を施した本実施形態(図9(c))の順に、赤外線検出感度帯域の広帯域化が確認された。
[変形例]
以上、本発明の実施形態1〜5について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内であれば、種々の変形が可能である。
例えば、各々の実施形態1〜5に記載されている手法は単独でも効果があるが、複数を組み合わせることにより、更に大きな効果を奏する。即ち、少なくとも、実施形態1および2の少なくとも一方と、実施形態3〜5の少なくとも1つとを組み合わせることにより、図10(a)に示すように、量子ドットの基底準位EL1および励起準位EL2双方のばらつきを拡大することができる。その結果として、図10(b)の上のグラフに示した比較例としての通常の赤外線検出器に比べ、図10(b)の下のグラフに示すように、検出波長帯域の大幅な広帯域化を実現可能である。
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
(付記1)複数の量子ドットを含む量子ドット層と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層と、前記対の障壁層を挟む対の中間層とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器であって、
前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つは、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきが付与され、
それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする赤外線検出器。
(付記2)前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に、
平均の厚さが前記量子ドットの高さの1/4以下であること、
厚さのばらつきが所定の大きさ以上であること、ならびに、
構成元素組成が空間的にばらついていること
のうちの少なくとも1つが付与され、
それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記3)前記障壁層および前記量子井戸層の少なくとも一方に、
平均の厚さが1nm以下であること、もしくは、
厚さのばらつきの平均値が4原子層以上であること
が付与され、
それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記4)前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に、当該面内で複数種類の組成の分布が付与され、
それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記5)前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に付与された組成分布は、該量子井戸層および該障壁層の少なくとも一方の面内に形成された複数種類のIII族元素が規則的に配列した構造によって構成されることを特徴とする付記4に記載の赤外線検出器。
(付記6)前記量子ドット層に含まれる前記複数の量子ドットに、所定の大きさ以上の高さのばらつきが付与され、
それにより、該量子ドットそれぞれの電子の基底準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記7)前記複数の量子ドットに付与された高さのばらつきは、それぞれ複数の量子ドットを含み、原子層単位で高さが相互に異なる複数の量子ドット群の分布によって構成されることを特徴とする付記6に記載の赤外線検出器。
(付記8)前記量子ドットそれぞれの電子の基底準位のばらつきを示すバンド間遷移エネルギーが、60meV以上であることを特徴とする付記6乃至7のいずれかに記載の赤外線検出器。
(付記9)前記量子ドットは、InAsまたはInGaAsから成り、
前記量子井戸層は、InGaAsまたはGaAsから成り、
前記障壁層は、AlAsまたはAlGaAsから成ることを特徴とする付記1乃至8のいずれかに記載の赤外線検出器。
(付記10)複数の量子ドットを含む量子ドット層を形成する工程と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層を形成する工程と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層を形成する工程と、前記対の障壁層を挟む対の中間層を形成する工程とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器の製造方法であって、
前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つに対して、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきを付与することにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを持たせることを特徴とする赤外線検出器の製造方法。
(付記11)前記量子ドット層からのフォトルミネッセンス発光が、前記複数の量子ドット群それぞれの高さに起因するマルチピーク発光を示すことを特徴とする付記7に記載の赤外線検出器。
本発明は、中波長赤外線および長波長赤外線(概ね3〜14μm)領域における、熱検出やガス検出などの環境計測に用いられる赤外線検出器に利用可能である。
1 半導体基板
2 緩衝層
3 下部コンタクト層
4 光吸収層
5 上部コンタクト層
6 上部電極
7 下部電極
10 中間層
11 第1の障壁層
12 第1の量子井戸層
13 量子ドット層
131 量子ドット
132 埋込層
131−1〜131−4 量子ドット群
14 第2の量子井戸層
15 第2の障壁層
16 電子
X 励起光(検出対象光)

Claims (10)

  1. 複数の量子ドットを含む量子ドット層と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層と、前記対の障壁層を挟む対の中間層とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器であって、
    前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つは、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきが付与され、
    それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする赤外線検出器。
  2. 前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に、
    平均の厚さが前記量子ドットの高さの1/4以下であること、
    厚さのばらつきが所定の大きさ以上であること、ならびに、
    構成元素組成が空間的にばらついていること
    のうちの少なくとも1つが付与され、
    それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線検出器。
  3. 前記障壁層および前記量子井戸層の少なくとも一方に、
    平均の厚さが1nm以下であること、もしくは、
    厚さのばらつきの平均値が4原子層以上であること
    が付与され、
    それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線検出器。
  4. 前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に、当該面内で複数種類の組成の分布が付与され、
    それにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線検出器。
  5. 前記量子井戸層および前記障壁層の少なくとも一方に付与された組成分布は、該量子井戸層および該障壁層の少なくとも一方の面内に形成された複数種類のIII族元素が規則的に配列した構造によって構成されることを特徴とする請求項4に記載の赤外線検出器。
  6. 前記量子ドット層に含まれる前記複数の量子ドットに、所定の大きさ以上の高さのばらつきが付与され、
    それにより、該量子ドットそれぞれの電子の基底準位が、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線検出器。
  7. 前記複数の量子ドットに付与された高さのばらつきは、それぞれ複数の量子ドットを含み、原子層単位で高さが相互に異なる複数の量子ドット群の分布によって構成されることを特徴とする請求項6に記載の赤外線検出器。
  8. 前記量子ドットそれぞれの電子の基底準位のばらつきを示すバンド間遷移エネルギーが、60meV以上であることを特徴とする請求項6乃至7のいずれか一項に記載の赤外線検出器。
  9. 前記量子ドットは、InAsまたはInGaAsから成り、
    前記量子井戸層は、InGaAsまたはGaAsから成り、
    前記障壁層は、AlAsまたはAlGaAsから成ることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の赤外線検出器。
  10. 複数の量子ドットを含む量子ドット層を形成する工程と、前記量子ドット層を挟み、前記量子ドット層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の量子井戸層を形成する工程と、前記対の量子井戸層を挟み、前記対の量子井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい対の障壁層を形成する工程と、前記対の障壁層を挟む対の中間層を形成する工程とを有し、検出対象光である励起光に基づく電子の前記量子ドットにおける基底準位と励起準位との間の遷移を利用する赤外線検出器の製造方法であって、
    前記量子井戸層、前記障壁層および前記量子ドット層の少なくとも一つに対して、その構造および組成の少なくとも一方にばらつきを付与することにより、前記量子ドットそれぞれの電子の励起準位および基底準位の少なくとも一方に、所望の検出帯域幅に応じた大きさのばらつきを持たせることを特徴とする赤外線検出器の製造方法。
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