[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る方向性結合器の回路構成について説明する。図1に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1は、第1のポート11と、第2のポート12と、第3のポート13と、第4のポート14とを備えている。第3のポート13と第4のポート14の一方は、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗を介して接地される。
方向性結合器1は、更に、第1のポート11と第2のポート12を接続する主線路10と、それぞれ、主線路10に対して電磁界結合する線路からなるN個の副線路部と、(N−1)個の整合部と、第1ないし第4のポート11〜14、主線路10、N個の副線路部および(N−1)個の整合部を一体化するための積層体とを備えている。
Nは、2以上の整数である。本実施の形態では特に、Nは4である。すなわち、方向性結合器1は、第1の副線路部20A、第2の副線路部20B、第3の副線路部20C、第4の副線路部20D、第1の整合部30A、第2の整合部30Bおよび第3の整合部30Cを備えている。
第1の副線路部20Aは、互いに反対側に位置する第1の端部20A1および第2の端部20A2を有している。第2の副線路部20Bは、互いに反対側に位置する第1の端部20B1および第2の端部20B2を有している。第3の副線路部20Cは、互いに反対側に位置する第1の端部20C1および第2の端部20C2を有している。第4の副線路部20Dは、互いに反対側に位置する第1の端部20D1および第2の端部20D2を有している。第1の整合部30Aは、互いに反対側に位置する第1の端部30A1および第2の端部30A2を有している。第2の整合部30Bは、互いに反対側に位置する第1の端部30B1および第2の端部30B2を有している。第3の整合部30Cは、互いに反対側に位置する第1の端部30C1および第2の端部30C2を有している。
第1の副線路部20Aの第1の端部20A1は、第3のポート13に接続されている。第1の整合部30Aは、第1の副線路部20Aの第2の端部20A2と第3の副線路部20Cの第1の端部20C1との間に設けられている。第1の整合部30Aの第1の端部30A1は、第1の副線路部20Aの第2の端部20A2に接続されている。第3の副線路部20Cの第1の端部20C1は、第1の整合部30Aの第2の端部30A2に接続されている。
第2の副線路部20Bの第1の端部20B1は、第4のポート14に接続されている。第2の整合部30Bは、第2の副線路部20Bの第2の端部20B2と第4の副線路部20Dの第1の端部20D1との間に設けられている。第2の整合部30Bの第1の端部30B1は、第2の副線路部20Bの第2の端部20B2に接続されている。第4の副線路部20Dの第1の端部20D1は、第2の整合部30Bの第2の端部30B2に接続されている。
第3の整合部30Cは、第3の副線路部20Cの第2の端部20C2と第4の副線路部20Dの第2の端部20D2との間に設けられている。本実施の形態では、第3の整合部30Cは、線路である。第3の整合部30Cの第1の端部30C1は、第3の副線路部20Cの第2の端部20C2に接続されている。第3の整合部30Cの第2の端部30C2は、第4の副線路部20Dの第2の端部20D2に接続されている。
第1の整合部30Aは、その第1の端部30A1と第2の端部30A2とを接続する第1の経路31Aと、第1の経路31Aとグランドとを接続する第2の経路32Aとを有している。第1の経路31Aは、第1のインダクタL1Aを含んでいる。第1のインダクタL1Aは、互いに反対側に位置する第1の端部L1A1および第2の端部L1A2を有している。ここでは、第1の副線路部20A側の第1のインダクタL1Aの端部を第1の端部L1A1とし、第3の副線路部20C側の第1のインダクタL1Aの端部を第2の端部L1A2とする。
第2の経路32Aは、直列に接続された第1のキャパシタC1Aと第2のインダクタL2Aとを含んでいる。第2のインダクタL2Aは、回路構成上、第1の経路31Aに最も近い第1の端部L2A1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L2A2とを有している。第1のキャパシタC1Aは、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路32Aは、更に、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられた第2のキャパシタC2Aを有している。第2のインダクタL2Aは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL2Aのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
第2の整合部30Bの回路構成は、第1の整合部30Aと同様である。すなわち、第2の整合部30Bは、その第1の端部30B1と第2の端部30B2とを接続する第1の経路31Bと、第1の経路31Bとグランドとを接続する第2の経路32Bとを有している。第1の経路31Bは、第1のインダクタL1Bを含んでいる。第1のインダクタL1Bは、互いに反対側に位置する第1の端部L1B1および第2の端部L1B2を有している。ここでは、第2の副線路部20B側の第1のインダクタL1Bの端部を第1の端部L1B1とし、第4の副線路部20D側の第1のインダクタL1Bの端部を第2の端部L1B2とする。
第2の経路32Bは、直列に接続された第1のキャパシタC1Bと第2のインダクタL2Bとを含んでいる。第2のインダクタL2Bは、回路構成上、第1の経路31Bに最も近い第1の端部L2B1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L2B2とを有している。第1のキャパシタC1Bは、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路32Bは、更に、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられた第2のキャパシタC2Bを有している。第2のインダクタL2Bは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL2Bのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
ここで、主線路10と第1の副線路部20Aの互いに結合する部分を第1の結合部40Aと言う。また、主線路10と第2の副線路部20Bの互いに結合する部分を第2の結合部40Bと言う。また、主線路10と第3の副線路部20Cの互いに結合する部分を第3の結合部40Cと言う。また、主線路10と第4の副線路部20Dの互いに結合する部分を第4の結合部40Dと言う。
また、第1ないし第4の結合部40A,40B,40C,40Dの結合の強さを、それぞれ以下のように定義する。第1の結合部40Aの結合の強さは、主線路10に対する第1の副線路部20Aの結合の強さである。第1の結合部40Aの結合の強さは、第1の結合部40Aの単独の結合度で表すことができる。第1の結合部40Aの単独の結合度が大きいほど、第1の結合部40Aの結合の強さが大きい。
第2の結合部40Bの結合の強さは、主線路10に対する第2の副線路部20Bの結合の強さである。第2の結合部40Bの結合の強さは、第2の結合部40Bの単独の結合度で表すことができる。第2の結合部40Bの単独の結合度が大きいほど、第2の結合部40Bの結合の強さが大きい。
第3の結合部40Cの結合の強さは、主線路10に対する第3の副線路部20Cの結合の強さである。第3の結合部40Cの結合の強さは、第3の結合部40Cの単独の結合度で表すことができる。第3の結合部40Cの単独の結合度が大きいほど、第3の結合部40Cの結合の強さが大きい。
第4の結合部40Dの結合の強さは、主線路10に対する第4の副線路部20Dの結合の強さである。第4の結合部40Dの結合の強さは、第4の結合部40Dの単独の結合度で表すことができる。第4の結合部40Dの単独の結合度が大きいほど、第4の結合部40Dの結合の強さが大きい。
本実施の形態では、第3および第4の副線路部20C,20Dは、第1および第2の副線路部20A,20Bに比べて、主線路10に対する結合の強さが大きい。すなわち、第3および第4の結合部40C,40Dの各々の結合の強さは、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の結合の強さよりも大きい。
第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cは、第3のポート13と第4のポート14の一方が、負荷である終端抵抗を介して接地され、この終端抵抗の抵抗値(例えば50Ω)と等しい出力インピーダンスを有する信号源が第3のポート13と第4のポート14の他方に接続された場合を想定して、信号源と負荷との間のインピーダンス整合を行う回路である。第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cは、上記の場合を想定して、方向性結合器1の使用周波数帯域において、第3のポート13と第4のポート14の一方から他方側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になるように設計される。第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cの各々は、そこを通過する信号に対して位相の変化を生じさせる。本実施の形態では、第3の整合部30Cは、第1および第2の整合部30A,30Bに比べて、同じ周波数の信号に対して生じさせる位相の変化が小さい。
方向性結合器1の回路構成は、第3の整合部30Cを中心として、素子定数も含めて対称であることが好ましい。ただし、方向性結合器1の回路構成は、完全に対称ではなくても、対称に近ければよい。
以下、方向性結合器1の回路構成が対称である場合について説明する。この場合、第2の結合部40Bの結合の強さは、第1の結合部40Aの結合の強さと等しく、第4の結合部40Dの結合の強さは、第3の結合部40Cの結合の強さと等しい。また、第1および第2の整合部30A,30Bは、第3の整合部30Cを中心として、素子定数も含めて互いに対称な回路構成を有している。具体的に説明すると、対となる第1のインダクタL1A,L1Bのインダクタンスは互いに実質的に等しく、対となる第2のインダクタL2A,L2Bのインダクタンスは互いに実質的に等しく、対となる第1のキャパシタC1A,C1Bのキャパシタンスは互いに実質的に等しく、対となる第2のキャパシタC2A,C2Bのキャパシタンスは互いに実質的に等しい。第1および第2の整合部30A,30Bは、同じ周波数の信号がそれらを通過する際に、その信号に対して同じ大きさの位相の変化を生じさせる。方向性結合器1は、第3の整合部30Cを中心として対称な回路構成を有しているため、双方向性を有している。なお、対となる2つのインダクタのインダクタンスや、対となる2つのキャパシタのキャパシタンスが「互いに実質的に等しい」というのは、インダクタやキャパシタの製造上のばらつきによって生じるインダクタンスやキャパシタンスの誤差を許容するという意味である。
なお、図1に示した第1の整合部30Aでは、第1のキャパシタC1Aが、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Aが、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられている。また、図1に示した第2の整合部30Bでは、第1のキャパシタC1Bが、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Bが、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられている。しかし、第1の整合部30Aにおける第1および第2のキャパシタC1A,C2Aの回路構成上の配置と、第2の整合部30Bにおける第1および第2のキャパシタC1B,C2Bの回路構成上の配置は、それぞれ、図1に示した例とは逆になっていてもよい。すなわち、第1の整合部30Aでは、第1のキャパシタC1Aが、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Aが、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられていてもよい。この場合、第2の整合部30Bでは、第1のキャパシタC1Bが、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Bが、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられる。
次に、本実施の形態に係る方向性結合器1の作用について説明する。方向性結合器1は、以下の第1および第2の使用態様で使用可能である。第1の使用態様では、第1のポート11を入力ポートとし、第2のポート12を出力ポートとし、第3のポート13を結合ポートとし、第4のポート14を終端ポートとする。第1の使用態様では、第4のポート14が、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗を介して接地される。第2の使用態様では、第2のポート12を入力ポートとし、第1のポート11を出力ポートとし、第4のポート14を結合ポートとし、第3のポート13を終端ポートとする。第2の使用態様では、第3のポート13が、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗を介して接地される。
第1の使用態様では、第1のポート11に高周波信号が入力され、この高周波信号は第2のポート12から出力される。第3のポート13からは、第1のポート11に入力された高周波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。
第1の使用態様では、入力ポートとなる第1のポート11と結合ポートとなる第3のポート13の間には、第1の結合部40Aを経由する第1の信号経路と、第3の結合部40Cおよび第1の整合部30Aを経由する第2の信号経路と、第4の結合部40D、第3の整合部30Cおよび第1の整合部30Aを経由する第3の信号経路と、第2の結合部40B、第2の整合部30B、第3の整合部30Cおよび第1の整合部30Aを経由する第4の信号経路が形成される。第1のポート11に高周波信号が入力されたとき、第3のポート13から出力される結合信号は、それぞれ第1ないし第4の信号経路を通過した信号が合成されて得られる信号である。第1の使用態様における方向性結合器1の結合度は、第1ないし第4の結合部40A,40B,40C,40Dのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第1ないし第4の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第1の使用態様において、出力ポートとなる第2のポート12と結合ポートとなる第3のポート13の間には、第1の結合部40Aを経由する第5の信号経路と、第3の結合部40Cおよび第1の整合部30Aを経由する第6の信号経路と、第4の結合部40D、第3の整合部30Cおよび第1の整合部30Aを経由する第7の信号経路と、第2の結合部40B、第2の整合部30B、第3の整合部30Cおよび第1の整合部30Aを経由する第8の信号経路が形成される。第1の使用態様における方向性結合器1のアイソレーションは、第1ないし第4の結合部40A,40B,40C,40Dのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第5ないし第8の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第2の使用態様では、第2のポート12に高周波信号が入力され、この高周波信号は第1のポート11から出力される。第4のポート14からは、第2のポート12に入力された高周波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。
第2の使用態様では、入力ポートとなる第2のポート12と結合ポートとなる第4のポート14の間には、第2の結合部40Bを経由する第9の信号経路と、第4の結合部40Dおよび第2の整合部30Bを経由する第10の信号経路と、第3の結合部40C、第3の整合部30Cおよび第2の整合部30Bを経由する第11の信号経路と、第1の結合部40A、第1の整合部30A、第3の整合部30Cおよび第2の整合部30Bを経由する第12の信号経路が形成される。第2のポート12に高周波信号が入力されたとき、第4のポート14から出力される結合信号は、それぞれ第9ないし第12の信号経路を通過した信号が合成されて得られる信号である。第2の使用態様における方向性結合器1の結合度は、第1ないし第4の結合部40A,40B,40C,40Dのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第9ないし第12の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第2の使用態様において、出力ポートとなる第1のポート11と結合ポートとなる第4のポート14の間には、第2の結合部40Bを経由する第13の信号経路と、第4の結合部40Dおよび第2の整合部30Bを経由する第14の信号経路と、第3の結合部40C、第3の整合部30Cおよび第2の整合部30Bを経由する第15の信号経路と、第1の結合部40A、第1の整合部30A、第3の整合部30Cおよび第2の整合部30Bを経由する第16の信号経路が形成される。第2の使用態様における方向性結合器1のアイソレーションは、第1ないし第4の結合部40A,40B,40C,40Dのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第13ないし第16の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
ここで、図2を参照して、第1および第2の使用態様で使用される場合の方向性結合器1の使用例について説明する。図2は、方向性結合器1の使用例を示す回路図である。図2は、方向性結合器1を含む送信系回路を示している。図2に示した送信系回路は、方向性結合器1の他に、電力増幅器2と、自動出力制御回路(以下、APC回路と言う。)3と、インピーダンス整合素子5とを備えている。
電力増幅器2は、入力端と出力端とゲイン制御端とを有している。電力増幅器2の入力端には、高周波信号である送信信号が入力されるようになっている。電力増幅器2の出力端は、方向性結合器1の第1のポート11に接続されている。
APC回路3は、入力端と出力端とを有している。APC回路3の入力端は、方向性結合器1の第3のポート13に接続されている。APC回路3の出力端は、電力増幅器2のゲイン制御端に接続されている。
方向性結合器1の第2のポート12は、インピーダンス整合素子5を介してアンテナ4に接続されている。インピーダンス整合素子5は、送信信号がアンテナ4で反射して生じた反射波信号のレベルを十分に小さくするために、送信系回路とアンテナ4との間のインピーダンス整合を行う素子である。方向性結合器1の第4のポート14は、終端抵抗15を介して接地されている。
次に、図2に示した送信系回路における方向性結合器1の第1の使用態様について説明する。第1の使用態様では、電力増幅器2によって増幅された送信信号は、第1のポート11に入力されて第2のポート12から出力され、第3のポート13からは、第1のポート11に入力された送信信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。第2のポート12から出力された送信信号は、インピーダンス整合素子5を経て、アンテナ4から発信される。第3のポート13から出力された結合信号は、APC回路3に入力される。APC回路3は、第3のポート13から出力される結合信号のレベルに応じて、電力増幅器2の出力信号のレベルがほぼ一定になるように、電力増幅器2のゲインを制御する。
次に、図2に示した送信系回路における方向性結合器1の第2の使用態様について説明する。第2の使用態様における方向性結合器1は、送信信号がアンテナ4で反射して生じた反射波信号のレベルを検出するために用いられる。第2の使用態様では、反射波信号が、方向性結合器1に入力される高周波信号である。反射波信号は、第2のポート12に入力されて第1のポート11から出力される。従って、第2の使用態様では、第2のポート12が入力ポートとなり、第1のポート11が出力ポートとなり、第4のポート14が結合ポートとなり、第3のポート13が終端ポートとなる。第2の使用態様では、第3のポート13は、終端抵抗を介して接地される。第4のポート14には、図示しない電力検出器が接続される。第4のポート14からは、第2のポート12に入力された反射波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。そして、この結合信号のレベルが、図示しない電力検出器によって検出される。この結合信号のレベルの情報は、反射波信号のレベルが十分に小さくなるようにインピーダンス整合素子5の特性を調整するために利用される。
方向性結合器1に入力される反射波信号のレベルは、方向性結合器1に入力される送信信号のレベルに比べて小さい。そのため、第1および第2の使用態様で使用される方向性結合器1には、第1の使用態様のみならず、第2の使用態様においても、十分な大きさのアイソレーションが必要である。
本実施の形態に係る方向性結合器1は、前述のように、第3の整合部30Cを中心として、対称または対称に近い回路構成を有し、その結果、双方向性を有している。従って、方向性結合器1は、第1および第2の使用態様で使用可能であると共に、第1の使用態様と第2の使用態様とで同様な特性が得られる。
次に、方向性結合器1の構造の一例について説明する。図3は、方向性結合器1の斜視図である。図3に示した方向性結合器1は、第1ないし第4のポート11〜14、主線路10、第1ないし第4の副線路部20A,20B,20C,20Dおよび第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cを一体化するための積層体50を備えている。後で詳しく説明するが、積層体50は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。そして、インダクタL1A,L1Bの各々は、積層体50の複数の導体層のうちの1つ以上の導体層である1つ以上のインダクタ構成層を用いて構成されている。また、インダクタL2A,L2Bの各々は、積層体50の複数の誘電体層に形成された複数のスルーホールを用いて構成されている。また、キャパシタC1A,C2A,C1B,C2Bの各々は、複数の導体層のうちの2つ以上の導体層を用いて構成されている。
積層体50は、外周部を有する直方体形状をなしている。積層体50の外周部は、上面50Aと、底面50Bと、4つの側面50C〜50Fとを含んでいる。上面50Aと底面50Bは互いに反対側を向き、側面50C,50Dも互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C〜50Fは、上面50Aおよび底面50Bに対して垂直になっている。積層体50において、上面50Aおよび底面50Bに垂直な方向が、複数の誘電体層および複数の導体層の積層方向である。図3では、この積層方向を、記号Tを付した矢印で示している。上面50Aと底面50Bは、積層方向Tの両端に位置する。
図3に示した方向性結合器1は、第1の端子111と、第2の端子112と、第3の端子113と、第4の端子114と、2つのグランド端子115,116を備えている。第1ないし第4の端子111,112,113,114は、それぞれ、図1に示した第1ないし第4のポート11,12,13,14に対応している。グランド端子115,116は、グランドに接続される。端子111〜116は、積層体50の底面50Bに配置されている。
次に、図4ないし図11を参照して、積層体50について詳しく説明する。積層体50は、積層された23層の誘電体層を有している。以下、この23層の誘電体層を、下から順に1層目ないし23層目の誘電体層と呼ぶ。図4は、積層体50の内部を示す斜視図である。図5は、積層体50の断面図である。図6において(a)〜(d)は、それぞれ、1層目ないし4層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図7において(a)〜(d)は、それぞれ、5層目ないし8層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図8において(a)〜(d)は、それぞれ、9層目ないし12層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図9において(a)〜(d)は、それぞれ、13層目ないし16層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図10において(a)〜(d)は、それぞれ、17層目ないし20層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図11において(a)〜(c)は、それぞれ、21層目ないし23層目の誘電体層の上面を示している。
図6(a)に示したように、1層目の誘電体層51のパターン形成面には、第1ないし第4の端子111,112,113,114と、グランド端子115,116とが形成されている。また、誘電体層51には、それぞれ端子111,112,113,114,115,116に接続されたスルーホール51T1,51T2,51T3,51T4,51T5,51T6が形成されている。
図6(b)に示したように、2層目の誘電体層52のパターン形成面には、グランド用導体層521が形成されている。また、誘電体層52には、スルーホール52T1,52T2,52T3,52T4,52T5,52T6,52T13,52T14,52T15,52T16,52T17,52T18,52T19が形成されている。スルーホール52T1〜52T4には、それぞれ図6(a)に示したスルーホール51T1〜51T4が接続されている。スルーホール52T5,52T6,52T13〜52T19と、図6(a)に示したスルーホール51T5,51T6は、導体層521に接続されている。
図6(c)に示したように、3層目の誘電体層53のパターン形成面には、グランド用導体層531が形成されている。また、誘電体層53には、スルーホール53T1,53T2,53T3,53T4,53T13,53T14,53T15が形成されている。スルーホール53T1〜53T4には、それぞれ図6(b)に示したスルーホール52T1〜52T4が接続されている。スルーホール53T13〜53T15と、図6(b)に示したスルーホール52T5,52T6,52T13〜52T19は、導体層531に接続されている。
図6(d)に示したように、4層目の誘電体層54には、スルーホール54T1,54T2,54T3,54T4,54T13,54T14,54T15が形成されている。スルーホール54T1〜54T4,54T13〜54T15には、それぞれ図6(c)に示したスルーホール53T1〜53T4,53T13〜53T15が接続されている。
図7(a)に示したように、5層目の誘電体層55のパターン形成面には、第1の副線路部20Aを構成するために用いられる導体層551と、第2の副線路部20Bを構成するために用いられる導体層552とが形成されている。導体層551,552の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層55には、スルーホール55T1,55T2,55T3,55T4,55T13,55T14,55T15が形成されている。スルーホール55T1,55T2,55T13〜55T15には、それぞれ図6(d)に示したスルーホール54T1,54T2,54T13〜54T15が接続されている。スルーホール55T3は、導体層551における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール55T4は、導体層552における第1端の近傍部分に接続されている。図6(d)に示したスルーホール54T3は、導体層551における第2端の近傍部分に接続されている。図6(d)に示したスルーホール54T4は、導体層552における第2端の近傍部分に接続されている。
図7(b)に示したように、6層目の誘電体層56には、スルーホール56T1,56T2,56T3,56T4,56T13,56T14,56T15が形成されている。スルーホール56T1〜56T4,56T13〜56T15には、それぞれ図7(a)に示したスルーホール55T1〜55T4,55T13〜55T15が接続されている。
図7(c)に示したように、7層目の誘電体層57には、スルーホール57T1,57T2,57T3,57T4,57T13,57T14,57T15が形成されている。スルーホール57T1〜57T4,57T13〜57T15には、それぞれ図7(b)に示したスルーホール56T1〜56T4,56T13〜56T15が接続されている。
図7(d)に示したように、8層目の誘電体層58のパターン形成面には、主線路10を構成するために用いられる導体層581が形成されている。導体層581は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層58には、スルーホール58T3,58T4,58T13,58T14,58T15が形成されている。スルーホール58T3,58T4,58T13〜58T15には、それぞれ図7(c)に示したスルーホール57T3,57T4,57T13〜57T15が接続されている。図7(c)に示したスルーホール57T1は、導体層581における第1端の近傍部分に接続されている。図7(c)に示したスルーホール57T2は、導体層581における第2端の近傍部分に接続されている。
図8(a)に示したように、9層目の誘電体層59には、スルーホール59T3,59T4,59T13,59T14,59T15が形成されている。スルーホール59T3,59T4,59T13〜59T15には、それぞれ図7(d)に示したスルーホール58T3,58T4,58T13〜58T15が接続されている。
図8(b)に示したように、10層目の誘電体層60には、スルーホール60T3,60T4,60T13,60T14,60T15が形成されている。スルーホール60T3,60T4,60T13〜60T15には、それぞれ図8(a)に示したスルーホール59T3,59T4,59T13〜59T15が接続されている。
図8(c)に示したように、11層目の誘電体層61のパターン形成面には、第3の副線路部20Cを構成するために用いられる導体層611と、第4の副線路部20Dを構成するために用いられる導体層612とが形成されている。導体層611,612の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層61には、スルーホール61T3,61T4,61T7,61T8,61T9,61T10,61T13,61T14,61T15が形成されている。スルーホール61T3,61T4,61T13〜61T15には、それぞれ図8(b)に示したスルーホール60T3,60T4,60T13〜60T15が接続されている。スルーホール61T7は、導体層611における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール61T8は、導体層612における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール61T9は、導体層611における第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール61T10は、導体層612における第2端の近傍部分に接続されている。
図8(d)に示したように、12層目の誘電体層62には、スルーホール62T3,62T4,62T7,62T8,62T9,62T10,62T13,62T14,62T15が形成されている。スルーホール62T3,62T4,62T7〜62T10,62T13〜62T15には、それぞれ図8(c)に示したスルーホール61T3,61T4,61T7〜61T10,61T13〜61T15が接続されている。
図9(a)に示したように、13層目の誘電体層63には、スルーホール63T3,63T4,63T7,63T8,63T9,63T10,63T13,63T14,63T15が形成されている。スルーホール63T3,63T4,63T7〜63T10,63T13〜63T15には、それぞれ図8(d)に示したスルーホール62T3,62T4,62T7〜62T10,62T13〜62T15が接続されている。
図9(b)に示したように、14層目の誘電体層64のパターン形成面には、グランド用導体層641と、導体層642,643とが形成されている。導体層642,643の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層64には、スルーホール64T3,64T4,64T7,64T8,64T9,64T10と、インダクタL2Aを構成するために用いられるスルーホール64T11と、インダクタL2Bを構成するために用いられるスルーホール64T12とが形成されている。スルーホール64T3,64T4,64T7,64T8には、それぞれ図9(a)に示したスルーホール63T3,63T4,63T7,63T8が接続されている。スルーホール64T9は、導体層642における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール64T10は、導体層643における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール64T11,64T12と、図9(a)に示したスルーホール63T13〜63T15は、導体層641に接続されている。図9(a)に示したスルーホール63T9は、導体層642における第2端の近傍部分に接続されている。図9(a)に示したスルーホール63T10は、導体層643における第2端の近傍部分に接続されている。
図9(c)に示したように、15層目の誘電体層65には、スルーホール65T3,65T4,65T7,65T8,65T9,65T10と、インダクタL2Aを構成するために用いられるスルーホール65T11と、インダクタL2Bを構成するために用いられるスルーホール65T12とが形成されている。スルーホール65T3,65T4,65T7〜65T12には、それぞれ図9(b)に示したスルーホール64T3,64T4,64T7〜64T12が接続されている。
図9(d)に示したように、16層目の誘電体層66のパターン形成面には、キャパシタC2Aを構成するために用いられる導体層661と、キャパシタC2Bを構成するために用いられる導体層662とが形成されている。また、誘電体層66には、スルーホール66T3,66T4,66T7,66T8,66T9,66T10と、インダクタL2Aを構成するために用いられるスルーホール66T11と、インダクタL2Bを構成するために用いられるスルーホール66T12とが形成されている。スルーホール66T3,66T4,66T9〜66T12には、それぞれ図9(c)に示したスルーホール65T3,65T4,65T9〜65T12が接続されている。スルーホール66T7は、導体層661と図9(c)に示したスルーホール65T7に接続されている。スルーホール66T8は、導体層662と図9(c)に示したスルーホール65T8に接続されている。
図10(a)に示したように、17層目の誘電体層67のパターン形成面には、キャパシタC1A,C2Aを構成するために用いられる導体層671と、キャパシタC1B,C2Bを構成するために用いられる導体層672とが形成されている。また、誘電体層67には、スルーホール67T3,67T4,67T7,67T8,67T9,67T10が形成されている。スルーホール67T3,67T4,67T7〜67T10には、それぞれ図9(d)に示したスルーホール66T3,66T4,66T7〜66T10が接続されている。図9(d)に示したスルーホール66T11は、導体層671に接続されている。図9(d)に示したスルーホール66T12は、導体層672に接続されている。
図10(b)に示したように、18層目の誘電体層68のパターン形成面には、キャパシタC1Aを構成するために用いられる導体層681と、キャパシタC1Bを構成するために用いられる導体層682とが形成されている。また、誘電体層68には、スルーホール68T3,68T4,68T7,68T8,68T9,68T10が形成されている。スルーホール68T3と、図10(a)に示したスルーホール67T3は、導体層681に接続されている。スルーホール68T4と、図10(a)に示したスルーホール67T4は、導体層682に接続されている。スルーホール68T7〜68T10には、それぞれ図10(a)に示したスルーホール67T7〜67T10が接続されている。
図10(c)に示したように、19層目の誘電体層69には、スルーホール69T3,69T4,69T7,69T8,69T9,69T10が形成されている。スルーホール69T3,69T4,69T7〜69T10には、それぞれ図10(b)に示したスルーホール68T3,68T4,68T7〜68T10が接続されている。
図10(d)に示したように、20層目の誘電体層70には、スルーホール70T3,70T4,70T7,70T8,70T9,70T1が形成されている。スルーホール70T3,70T4,70T7〜70T10には、それぞれ図10(c)に示したスルーホール69T3,69T4,69T7〜69T10が接続されている。
図11(a)に示したように、21層目の誘電体層71には、スルーホール71T3,71T4,71T7,71T8,71T9,71T10が形成されている。スルーホール71T3,71T4,71T7〜71T10には、それぞれ図10(d)に示したスルーホール70T3,70T4,70T7〜70T10が接続されている。
図11(b)に示したように、22層目の誘電体層72のパターン形成面には、インダクタL1Aを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層721と、インダクタL1Bを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層722と、第3の整合部30Cを構成するために用いられる導体層723とが形成されている。導体層723は、第1端と第2端を有している。
ここで、インダクタ構成層721,722について詳しく説明する。インダクタ構成層721,722の各々は、それぞれ他の要素との電気的接続部分のための2つの接続部分と、2つの接続部分を接続する線路部分とを含んでいる。以下、インダクタ構成層721の2つの接続部分を符号721s,721eで表し、インダクタ構成層721の線路部分を符号721Lで表す。また、インダクタ構成層722の2つの接続部分を符号722s,722eで表し、インダクタ構成層722の線路部分を符号722Lで表す。インダクタ構成層721,722は、それぞれ、渦巻き形状を有している。
図11(a)に示したスルーホール71T3は、インダクタ構成層721の接続部分721sに接続されている。図11(a)に示したスルーホール71T4は、インダクタ構成層722の接続部分722sに接続されている。図11(a)に示したスルーホール71T7は、インダクタ構成層721の接続部分721eに接続されている。図11(a)に示したスルーホール71T8は、インダクタ構成層722の接続部分722eに接続されている。図11(a)に示したスルーホール71T9は、導体層723における第1端の近傍部分に接続されている。図11(a)に示したスルーホール71T10は、導体層723における第2端の近傍部分に接続されている。
図11(c)に示したように、23層目の誘電体層73のパターン形成面には、マーク731が形成されている。
図3に示した積層体50は、1層目の誘電体層51の素子形成面が積層体50の底面50Bになるように、1層目ないし23層目の誘電体層51〜73が積層されて構成される。
図4は、積層体50の内部を示している。図5は、側面50D側から見た積層体50の断面を示している。
以下、図1に示した方向性結合器1の回路の構成要素と、図6ないし図11に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。主線路10は、図7(d)に示した導体層581によって構成されている。導体層581は、誘電体層58の素子形成面と同じ方向に向いた第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有している。導体層581の第1の面は、第1の部分と第2の部分とを含んでいる。導体層581の第2の面は、第3の部分と第4の部分とを含んでいる。
図7(a)に示した導体層551の一部は、誘電体層55〜57を介して、導体層581の第1の面の第1の部分に対向している。図7(a)に示した導体層552の一部は、誘電体層55〜57を介して、導体層581の第1の面の第2の部分に対向している。第1の副線路部20Aは、上記の導体層551の一部によって構成されている。第2の副線路部20Bは、上記の導体層552の一部によって構成されている。
図8(c)に示した導体層611の一部は、誘電体層58〜60を介して、導体層581の第2の面の第3の部分に対向している。図8(c)に示した導体層612の一部は、誘電体層58〜60を介して、導体層581の第2の面の第3の部分に対向している。第3の副線路部20Cは、上記の導体層611の一部によって構成されている。第4の副線路部20Dは、上記の導体層612の一部によって構成されている。
第1の整合部30AのインダクタL1Aは、図11(b)に示したインダクタ構成層721のみによって構成されている。インダクタ構成層721の接続部分721sは、スルーホール55T3,56T3,57T3,58T3,59T3,60T3,61T3,62T3,63T3,64T3,65T3,66T3,67T3、導体層681およびスルーホール68T3,69T3,70T3,71T3を介して、第1の副線路部20Aを構成する導体層551に接続されている。インダクタ構成層721の接続部分721eは、スルーホール61T7,62T7,63T7,64T7,65T7,66T7,67T7,68T7,69T7,70T7,71T7を介して、第3の副線路部20Cを構成する導体層611に接続されている。
第1の整合部30AのキャパシタC1Aは、図10(a),(b)に示した導体層671,681と、導体層671,681の間の誘電体層67とによって構成されている。導体層681は、スルーホール55T3,56T3,57T3,58T3,59T3,60T3,61T3,62T3,63T3,64T3,65T3,66T3,67T3を介して、第1の副線路部20Aを構成する導体層551に接続されている。
第1の整合部30AのキャパシタC2Aは、図9(d)および図10(a)に示した導体層661,671と、導体層661,671の間の誘電体層66とによって構成されている。導体層661は、スルーホール61T7,62T7,63T7,64T7,65T7を介して、第3の副線路部20Cを構成する導体層611に接続されている。
第1の整合部30AのインダクタL2Aは、図9(b)〜(d)に示したスルーホール64T11,65T11,66T11によって構成されている。スルーホール66T11は、図10(a)に示した導体層671に接続されている。スルーホール64T11は、グランド用導体層641に接続されている。
第2の整合部30BのインダクタL1Bは、図11(b)に示したインダクタ構成層722のみによって構成されている。インダクタ構成層722の接続部分722sは、スルーホール55T4,56T4,57T4,58T4,59T4,60T4,61T4,62T4,63T4,64T4,65T4,66T4,67T4、導体層682およびスルーホール68T4,69T4,70T4,71T4を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層552に接続されている。インダクタ構成層722の接続部分722eは、スルーホール61T8,62T8,63T8,64T8,65T8,66T8,67T8,68T8,69T8,70T8,71T8を介して、第4の副線路部20Dを構成する導体層612に接続されている。
第2の整合部30BのキャパシタC1Bは、図10(a),(b)に示した導体層672,682と、導体層672,682の間の誘電体層67とによって構成されている。導体層682は、スルーホール55T4,56T4,57T4,58T4,59T4,60T4,61T4,62T4,63T4,64T4,65T4,66T4,67T4を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層552に接続されている。
第2の整合部30BのキャパシタC2Bは、図9(d)および図10(a)に示した導体層662,672と、導体層662,672の間の誘電体層66とによって構成されている。導体層662は、スルーホール61T8,62T8,63T8,64T8,65T8を介して、第4の副線路部20Dを構成する導体層612に接続されている。
第2の整合部30BのインダクタL2Bは、図9(b)〜(d)に示したスルーホール64T12,65T12,66T12によって構成されている。スルーホール66T12は、図10(a)に示した導体層672に接続されている。スルーホール64T12は、グランド用導体層641に接続されている。
第3の整合部30Cは、図11(b)に示した導体層723によって構成されている。導体層723における第1端の近傍部分は、スルーホール61T9,62T9,63T9、導体層642およびスルーホール64T9,65T9,66T9,67T9,68T9,69T9,70T9,71T9を介して、第3の副線路部20Cを構成する導体層611に接続されている。導体層723における第2端の近傍部分は、スルーホール61T10,62T10,63T10、導体層643およびスルーホール64T10,65T10,66T10,67T10,68T10,69T10,70T10,71T10を介して、第4の副線路部20Dを構成する導体層612に接続されている。
積層体50において、第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cを構成する複数の導体層と、主線路10を構成する導体層681の間には、グランドに接続されたグランド用導体層641が介在している。そのため、第1ないし第3の整合部30A,30B,30Cは、主線路10に対して電磁界結合しない。
図6(c)に示したグランド用導体層531は、第1および第2の副線路部20A,20Bのインピーダンスを所望の値に調整する作用を有する。図9(b)に示したグランド用導体層641は、第3および第4の副線路部20C,20Dのインピーダンスを所望の値に調整する作用を有する。
以下、積層体50における第1および第2の整合部30A,30Bの構造上の特徴について説明する。積層体50の複数の導体層には、第1の整合部30Aの第1のインダクタL1Aを構成する1つ以上の導体層である1つ以上のインダクタ構成層と、第2の整合部30Bの第1のインダクタL1Bを構成する1つ以上の導体層である1つ以上のインダクタ構成層が含まれている。本実施の形態では特に、第1のインダクタL1Aは、渦巻き形状の1つのインダクタ構成層721のみによって構成され、第1のインダクタL1Bは、渦巻き形状の1つのインダクタ構成層722のみによって構成されている。
インダクタ構成層721は、それぞれ他の要素との電気的接続のための2つの接続部分721s,721eと、2つの接続部分721s,721eを接続する線路部分721Lとを含んでいる。同様に、インダクタ構成層722は、それぞれ他の要素との電気的接続のための2つの接続部分722s,722eと、2つの接続部分722s,722eを接続する線路部分722Lとを含んでいる。
接続部分721s,721eを除く第1のインダクタL1Aの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。同様に、接続部分722s,722eを除く第1のインダクタL1Bの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。
また、第1のインダクタL1Aは、第1および第2のキャパシタC1A,C2A、第2のインダクタL2A、主線路10および副線路部20A,20B,20C,20Dに比べて、上面50Aにより近い位置にある。第2のインダクタL2Aは、第1および第2のキャパシタC1A,C2Aに比べて、底面50Bにより近い位置にある。
同様に、第1のインダクタL1Bは、第1および第2のキャパシタC1B,C2B、第2のインダクタL2B、主線路10および副線路部20A,20B,20C,20Dに比べて、上面50Aにより近い位置にある。第2のインダクタL2Bは、第1および第2のキャパシタC1B,C2Bに比べて、底面50Bにより近い位置にある。
本実施の形態に係る方向性結合器1によれば、広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制することが可能になる。以下、これについて詳しく説明する。
方向性結合器1のうち、第3の結合部40C、第4の結合部40Dおよび第3の整合部30Cからなる部分は、2つの結合部と1つの整合部からなる方向性結合器を構成していると言える。以下の説明では、第3の結合部40C、第4の結合部40Dおよび第3の整合部30Cからなる部分を、結合器部分と言う。方向性結合器1は、大きく分けて、結合器部分と、第1および第2の結合部40A,40Bと、第1および第2の整合部30A,30Bを備えていると言える。以下、これらの特性について説明する。
図12は、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の単独の結合度の周波数特性を示している。図12において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。図12に示したように、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の単独の結合度は、周波数が高くなるほど大きくなる。図示しないが、第3および第4の結合部40C,40Dの各々の単独の結合度も、周波数が高くなるほど大きくなる。第3および第4の結合部40C,40Dの各々の単独の結合度は、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の単独の結合度よりも大きい。周波数2000MHzにおいて、第3および第4の結合部40C,40Dの各々の単独の結合度は、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の単独の結合度よりも、5dB以上大きいことが好ましい。
ここで、整合部30A,30B,30Cの各々が、そこを通過する信号に対して生じさせる位相の変化量を、位相変化量と言う。整合部30A,30B,30Cは、いずれも、そこを通過する信号の位相を遅らせるため、位相変化量は負の値で表される。整合部30A,30B,30Cの各々において、位相変化量の絶対値が大きいほど、そこを通過する信号に対して生じさせる位相の変化が大きいと言える。
第1および第2の整合部30A,30Bの各々は、第1および第2のインダクタと、第1および第2のキャパシタを用いて構成されている。この第1および第2の整合部30A,30Bは、ローパスフィルタに比べて広い周波数帯域において、高周波信号を通過させることができる。
ここで、第1のインダクタが寄生容量を有する場合について考える。積層体を用いてインダクタを構成する方法としては、特許文献1に記載されているように、積層方向の異なる位置にある複数の導体層を、1つ以上のスルーホールを介して直列に接続して、インダクタを構成する方法がある。この方法でインダクタを構成する場合、一般的には、複数の導体層は、積層方向から見てオーバーラップするように配置される。この場合、複数の導体層間に容量が生じ、その結果、インダクタは大きな寄生容量を有することになる。また、インダクタを構成する1つ以上の導体層の近くに、比較的大きな他の導体層が存在する場合にも、インダクタは大きな寄生容量を有することになる。
第1および第2の整合部30A,30Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有すると、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の特性が、所望の特性と異なってしまう。このことを、図13ないし図16を参照して説明する。
図13は、第1の比較例の整合部を示している。第1の比較例の整合部は、第1の整合部30Aに、第1のインダクタL1Aの寄生容量C11Aを付加した構成である。寄生容量C11Aは、第1のインダクタL1Aに並列に接続されている。
図14は、第1の整合部30Aと第1の比較例の整合部の位相変化量の周波数特性を示している。図14において、横軸は周波数、縦軸は位相変化量である。また、図14において、実線は第1の整合部30Aの特性を示し、破線は第1の比較例の整合部の特性を示している。
図15は、第1の整合部30Aと第1の比較例の整合部の反射損失の周波数特性を示している。図15において、横軸は周波数、縦軸は反射損失である。また、図15において、実線は第1の整合部30Aの特性を示し、破線は第1の比較例の整合部の特性を示している。
図16は、第1の整合部30Aと第1の比較例の整合部の挿入損失の周波数特性を示している。図16において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。また、図16において、実線は第1の整合部30Aの特性を示し、破線は第1の比較例の整合部の特性を示している。
第1のインダクタL1Aが寄生容量C11Aを有すると、第1の整合部30Aの特性が、図14ないし図16において実線で示した所望の特性から、図14ないし図16において破線で示した第1の比較例の整合部の特性に変化してしまう。第1のインダクタL1Aが寄生容量C11Aを有することによって特に問題となるのは、第1の整合部30Aの位相変化量の周波数特性が以下のように変化してしまうことである。図14に示したように、第1のインダクタL1Aが寄生容量C11Aを有すると、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも低い周波数領域では、位相変化量の絶対値が所望の値よりも小さくなり、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも高い周波数領域では、位相変化量の絶対値が所望の値よりも大きくなる。
第2の整合部30Bの特性は、第1の整合部30Aの特性と同じかほぼ同じである。第1の整合部30Aと同様に、第2の整合部30Bでも、第1のインダクタL1Bが寄生容量を有すると、第2の整合部30Bの特性が、所望の特性から第1の比較例の整合部の特性に変化してしまう。後で示すが、第1および第2の整合部30A,30Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有すると、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制できるという方向性結合器1の効果が低減する。
図17は、第3の整合部30Cの位相変化量の周波数特性を示している。図17において、横軸は周波数、縦軸は位相変化量である。図14および図17に示したように、第3の整合部30Cは、第1および第2の整合部30A,30Bに比べて、同じ周波数の信号に対して生じさせる位相の変化が小さい。言い換えると、第3の整合部30Cは、第1および第2の整合部30A,30Bに比べて、位相変化量の絶対値が180度になる周波数が高い。図14に示した例では、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値が180度になる周波数は、約3800MHzである。図14に示した例では、第3の整合部30Cの位相変化量の絶対値が180度になる周波数は、5000MHzを超えている。周波数2000MHzにおいて、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値と第3の整合部30Cの位相変化量の絶対値との差は、10度以上であることが好ましい。
図18は、第3の結合部40C、第4の結合部40Dおよび第3の整合部30Cからなる前述の結合器部分の結合度の周波数特性を示している。図18において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。第1の使用態様において、結合器部分では、入力ポートとなる第1のポート11と結合ポートとなる第3の副線路部20Cの第1の端部20C1の間には、第3の結合部40Cを経由する信号経路と、第4の結合部40Dおよび第3の整合部30Cを経由する信号経路とが形成される。
図18に示したように、結合器部分の結合度は、約3000MHzまでは周波数が高くなるほど大きくなるが、約3000MHzから5000MHzまでの範囲では周波数が高くなるほど小さくなっている。これは、図18の横軸に示した周波数範囲において、周波数が高くなるほど、第3および第4の結合部40C,40Dの各々の単独の結合度は大きくなるが、第3の整合部30Cの位相変化量の絶対値が180度に近づくためである。第3の整合部30Cの位相変化量の絶対値が180度に近づくほど、第3の結合部40Cを経由する信号経路を通過した信号と、第4の結合部40Dおよび第3の整合部30Cを経由する信号経路を通過した信号が打ち消し合う度合いが大きくなる。このようにして、周波数の変化に伴う結合器部分の結合度の変化が抑制される。
ここで、方向性結合器1における第1および第2の整合部30A,30Bの各々において第1のインダクタの寄生容量を付加した構成の方向性結合器を、第1の比較例の方向性結合器と言う。
図19ないし図21に、本実施の形態に係る方向性結合器1と第1の比較例の方向性結合器の特性の一例を示す。図19ないし図21に示した例では、方向性結合器1の使用周波数帯域を700〜3800MHzとしている。図19において、この使用周波数帯域の下限と上限を2本の点線で示している。図19ないし図21に示した特性は、シミュレーションによって求めたものである。図19ないし図21において、実線は第1の使用態様で使用した場合の方向性結合器1の特性を示し、破線は第1の使用態様で使用した場合の第1の比較例の方向性結合器の特性を示している。シミュレーションでは、第2の使用態様で使用した場合の方向性結合器1の特性は、第1の使用態様で使用した場合の方向性結合器1の特性と同じであり、第2の使用態様で使用した場合の第1の比較例の方向性結合器の特性は、第1の使用態様で使用した場合の第1の比較例の方向性結合器の特性と同じである。
図19は、方向性結合器1および第1の比較例の方向性結合器の結合度の周波数特性を示している。図19において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。結合度を−c(dB)と表すと、方向性結合器1では、使用周波数帯域において、cの値は、20以上の十分な大きさである。
図20は、方向性結合器1および第1の比較例の方向性結合器のアイソレーションの周波数特性を示している。図20において、横軸は周波数、縦軸はアイソレーションである。アイソレーションを−i(dB)と表すと、方向性結合器1では、使用周波数帯域において、iの値は、45以上の十分な大きさである。
図21は、方向性結合器1および第1の比較例の方向性結合器の結合ポートの反射損失の周波数特性を示している。図21において、横軸は周波数、縦軸は結合ポートの反射損失である。結合ポートの反射損失を−r(dB)と表すと、方向性結合器1では、使用周波数帯域において、rの値は、20以上の十分な大きさである。これは、使用周波数帯域において、第3のポート13と第4のポート14の一方から他方側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になっていることを意味している。
図19において実線で示したように、方向性結合器1の結合度の周波数特性では、広い周波数範囲において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されている。これに対し、図19において破線で示した第1の比較例の方向性結合器の結合度の周波数特性では、方向性結合器1の結合度の周波数特性に比べて、周波数の変化に伴う結合度の変化が大きくなっている。その原因は、第1および第2の整合部30A,30Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有することである。
以下、本実施の形態に係る方向性結合器1によれば、広い周波数範囲において、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制できる理由について、概念的に説明する。方向性結合器1では、前述のように、第3および第4の結合部40C,40Dの各々の単独の結合度は、第1および第2の結合部40A,40Bの各々の単独の結合度よりも大きい。そのため、方向性結合器1の結合度の周波数特性は、図18に示した結合器部分の結合度の周波数特性に大きく依存する。
方向性結合器1では、結合器部分を経由した信号に対して、第1の結合部40Aを経由した信号と第2の結合部40Bを経由した信号が、それぞれ第1の整合部30Aと第2の整合部30Bで決まる位相の関係の下で合成されて、結合信号が形成される。第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値が180度に近づくほど、第1の結合部40Aを経由した信号と第2の結合部40Bを経由した信号が、結合器部分を経由した信号を打ち消す合う度合いが大きくなる。このような作用により、方向性結合器1の結合度の周波数特性は、図18に示した結合器部分の結合度の周波数特性に比べて、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されたものとなる。
また、第3の整合部30Cは、第1および第2の整合部30A,30Bに比べて、位相変化量の絶対値が180度になる周波数が高い。これにより、図18に示したように、結合器部分の結合度の周波数特性として、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値が180度となる周波数を超えた周波数範囲において周波数の変化に伴う結合度の変化が抑えられた特性が得られる。その結果、方向性結合器1によれば、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値が180度となる周波数を超えた周波数範囲においても、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制することができる。このような作用により、方向性結合器1によれば、広い周波数範囲において、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制することができる。
ここで、第1および第2の整合部30A,30Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有すると、図14に示したように、第1および第2の整合部30A,30Bの各々の位相変化量の絶対値は、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも低い周波数領域と高い周波数領域の両方において、所望の値に比べて、180度から遠ざかる。これは、第1の結合部40Aを経由した信号と第2の結合部40Bを経由した信号が、結合器部分を経由した信号を打ち消す合う度合いが小さくなることを意味する。その結果、図19において破線で示したように、周波数の変化に伴う結合度の変化が大きくなってしまう。
前述のように、積層体を用いてインダクタを構成する場合にインダクタが大きな寄生容量を有する場合としては、インダクタを構成する複数の導体層が積層方向から見てオーバーラップするように配置される場合や、インダクタを構成する1つ以上の導体層の近くに比較的大きな他の導体層が存在する場合がある。
本実施の形態では、接続部分721s,721eを除く第1のインダクタL1Aの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。同様に、接続部分722s,722eを除く第1のインダクタL1Bの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。これらのことから、本実施の形態によれば、第1のインダクタL1A,L1Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
また、本実施の形態では、第1のインダクタL1Aは、第1および第2のキャパシタC1A,C2A、第2のインダクタL2A、主線路10および副線路部20A,20B,20C,20Dに比べて、上面50Aにより近い位置にある。同様に、第1のインダクタL1Bは、第1および第2のキャパシタC1B,C2B、第2のインダクタL2B、主線路10および副線路部20A,20B,20C,20Dに比べて、上面50Aにより近い位置にある。言い換えると、第1のインダクタL1A,L1Bの上方には、方向性結合器1を構成するために用いられる導体層は存在しない。これによっても、本実施の形態によれば、第1のインダクタL1A,L1Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
また、本実施の形態では、第2のインダクタL2Aは、第1および第2のキャパシタC1A,C2Aに比べて、底面50Bにより近い位置にある。同様に、第2のインダクタL2Bは、第1および第2のキャパシタC1B,C2Bに比べて、底面50Bにより近い位置にある。これらのことから、本実施の形態によれば、第1のインダクタL1Aと第2のインダクタL2Aとの間の距離と、第1のインダクタL1Bと第2のインダクタL2Bとの間の距離を、それぞれ大きくすることができる。これによっても、本実施の形態によれば、第1のインダクタL1A,L1Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
このように、本実施の形態によれば、第1のインダクタL1A,L1Bが大きな寄生容量を有することを防止でき、その結果、周波数の変化に伴う方向性結合器1の結合度の変化をより一層抑制することが可能になる。
以上のことから、本実施の形態によれば、広帯域で使用可能な方向性結合器1を実現することができる。本実施の形態に係る方向性結合器1は、例えば、CAで用いられる複数の周波数帯域の複数の信号について利用することが可能である。
また、前述のように、方向性結合器1は、対称または対称に近い回路構成にすることができる。これにより、本実施の形態によれば、双方向性を有する方向性結合器1を実現することができる。
また、本実施の形態では、第3の整合部30Cは、第1および第2の整合部30A,30Bに比べて、同じ周波数の信号に対して生じさせる位相の変化が小さい。そのため、第3の整合部30Cは、比較的短い線路によって簡単に構成することができる。これにより、第3の整合部30Cを、第1および第2の整合部30A,30Bのように複数のインダクタおよび複数のキャパシタを用いて構成する場合に比べて、方向性結合器1の構成を簡単にすることができる。
また、本実施の形態では、第1のインダクタL1A,L1Bの上方には、第1のインダクタL1A,L1Bが発生する磁束の通過を妨げるような導体層は存在しない。そのため、第1のインダクタL1A,L1Bは、サイズが小さくても十分な大きさのインダクタンスを有することが可能である。これにより、方向性結合器1の小型化が可能になる。
なお、第1の整合部30A内の第2のインダクタL2Aと第2の整合部30B内の第2のインダクタL2Bは、いずれも、前述のように、0.1nH以上のインダクタンスを有している。一般的に、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、電子部品を構成するために用いられる積層体において、グランドに接続される導体層が有する寄生インダクタンスは、0.1nH未満である。従って、第2のインダクタL2A,L2Bが有する0.1nH以上のインダクタンスは、寄生インダクタンスとは明らかに区別される。
本実施の形態では、方向性結合器1の回路構成は、完全に対称ではなくても、対称に近ければよい。この場合にも、広帯域で使用可能であると共に双方向性を有する方向性結合器1を実現することができる。方向性結合器1の回路構成が対称に近いという要件を満たすために必要な要件および好ましい要件は、具体的には、例えば以下の通りである。
周波数2000MHzにおける第1の結合部40Aと第2の結合部40Bの結合度の差は、2dB以下である必要があり、1dB以下であることが好ましい。周波数2000MHzにおける第1の整合部30Aと第2の整合部30Bの位相変化量の差は、20度以下である必要があり、10度以下であることが好ましく、5度以下であることがより好ましい。また、周波数2000MHzにおける第3の結合部40Cと第4の結合部40Dの結合度の差は、2dB以下である必要があり、1dB以下であることが好ましい。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。始めに、図22を参照して、本実施の形態に係る方向性結合器の回路構成について説明する。図22に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器101は、第1のポート11と、第2のポート12と、第3のポート13と、第4のポート14とを備えている。第3のポート13と第4のポート14の一方は、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗を介して接地される。
方向性結合器101は、更に、第1のポート11と第2のポート12を接続する主線路110と、それぞれ、主線路110に対して電磁界結合する線路からなるN個の副線路部と、(N−1)個の整合部と、第1ないし第4のポート11〜14、主線路110、N個の副線路部および(N−1)個の整合部を一体化するための積層体とを備えている。
Nは、2以上の整数である。本実施の形態では特に、Nは3である。すなわち、方向性結合器101は、第1の副線路部120A、第2の副線路部120B、第3の副線路部120C、第1の整合部130Aおよび第2の整合部130Bを備えている。
第1の副線路部120Aは、互いに反対側に位置する第1の端部120A1および第2の端部120A2を有している。第2の副線路部120Bは、互いに反対側に位置する第1の端部120B1および第2の端部120B2を有している。第3の副線路部120Cは、互いに反対側に位置する第1の端部120C1および第2の端部120C2を有している。第1の整合部130Aは、互いに反対側に位置する第1の端部130A1および第2の端部130A2を有している。第2の整合部130Bは、互いに反対側に位置する第1の端部130B1および第2の端部130B2を有している。
第1の副線路部120Aの第1の端部120A1は、第3のポート13に接続されている。第1の整合部130Aは、第1の副線路部120Aの第2の端部120A2と第3の副線路部120Cの第1の端部120C1との間に設けられている。第1の整合部130Aの第1の端部130A1は、第1の副線路部120Aの第2の端部120A2に接続されている。第3の副線路部120Cの第1の端部120C1は、第1の整合部130Aの第2の端部130A2に接続されている。
第2の副線路部120Bの第1の端部120B1は、第4のポート14に接続されている。第2の整合部130Bは、第2の副線路部120Bの第2の端部120B2と第3の副線路部120Cの第2の端部120C2との間に設けられている。第2の整合部130Bの第1の端部130B1は、第2の副線路部120Bの第2の端部120B2に接続されている。第3の副線路部120Cの第2の端部120C1は、第2の整合部130Bの第2の端部130B2に接続されている。
第1の整合部130Aは、その第1の端部130A1と第2の端部130A2とを接続する第1の経路131Aと、第1の経路131Aとグランドとを接続する第2の経路132Aとを有している。第1の経路131Aは、第1のインダクタL101Aを含んでいる。第1のインダクタL101Aは、互いに反対側に位置する第1の端部L101A1および第2の端部L101A2を有している。ここでは、第1の副線路部120A側の第1のインダクタL101Aの端部を第1の端部L101A1とし、第3の副線路部120C側の第1のインダクタL101Aの端部を第2の端部L101A2とする。
第2の経路132Aは、直列に接続された第1のキャパシタC101Aと第2のインダクタL102Aとを含んでいる。第2のインダクタL102Aは、回路構成上、第1の経路131Aに最も近い第1の端部L102A1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L102A2とを有している。第1のキャパシタC101Aは、第1のインダクタL101Aの第1の端部L101A1と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路132Aは、更に、第1のインダクタL101Aの第2の端部L101A2と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられた第2のキャパシタC102Aを有している。第2のインダクタL102Aは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL102Aのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
第2の整合部130Bの回路構成は、第1の整合部130Aと同様である。すなわち、第2の整合部130Bは、その第1の端部130B1と第2の端部130B2とを接続する第1の経路131Bと、第1の経路131Bとグランドとを接続する第2の経路132Bとを有している。第1の経路131Bは、第1のインダクタL101Bを含んでいる。第1のインダクタL101Bは、互いに反対側に位置する第1の端部L101B1および第2の端部L101B2を有している。ここでは、第2の副線路部120B側の第1のインダクタL101Bの端部を第1の端部L101B1とし、第3の副線路部120C側の第1のインダクタL101Bの端部を第2の端部L101B2とする。
第2の経路132Bは、直列に接続された第1のキャパシタC101Bと第2のインダクタL102Bとを含んでいる。第2のインダクタL102Bは、回路構成上、第1の経路131Bに最も近い第1の端部L102B1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L102B2とを有している。第1のキャパシタC101Bは、第1のインダクタL101Bの第1の端部L101B1と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路132Bは、更に、第1のインダクタL101Bの第2の端部L101B2と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられた第2のキャパシタC102Bを有している。第2のインダクタL102Bは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL102Bのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
ここで、主線路110と第1の副線路部120Aの互いに結合する部分を第1の結合部140Aと言う。また、主線路110と第2の副線路部120Bの互いに結合する部分を第2の結合部140Bと言う。また、主線路110と第3の副線路部120Cの互いに結合する部分を第3の結合部140Cと言う。
また、第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cの結合の強さを、それぞれ以下のように定義する。第1の結合部140Aの結合の強さは、主線路110に対する第1の副線路部120Aの結合の強さである。第1の結合部140Aの結合の強さは、第1の結合部140Aの単独の結合度で表すことができる。第1の結合部140Aの単独の結合度が大きいほど、第1の結合部140Aの結合の強さが大きい。
第2の結合部140Bの結合の強さは、主線路110に対する第2の副線路部120Bの結合の強さである。第2の結合部140Bの結合の強さは、第2の結合部140Bの単独の結合度で表すことができる。第2の結合部140Bの単独の結合度が大きいほど、第2の結合部140Bの結合の強さが大きい。
第3の結合部140Cの結合の強さは、主線路110に対する第3の副線路部120Cの結合の強さである。第3の結合部140Cの結合の強さは、第3の結合部140Cの単独の結合度で表すことができる。第3の結合部140Cの単独の結合度が大きいほど、第3の結合部140Cの結合の強さが大きい。
本実施の形態では、第3の副線路部120Cは、第1および第2の副線路部120A,120Bに比べて、主線路110に対する結合の強さが大きい。すなわち、第3の結合部140Cの結合の強さは、第1および第2の結合部140A,140Bの各々の結合の強さよりも大きい。
第1および第2の整合部130A,130Bは、第3のポート13と第4のポート14の一方が、負荷である終端抵抗を介して接地され、この終端抵抗の抵抗値(例えば50Ω)と等しい出力インピーダンスを有する信号源が第3のポート13と第4のポート14の他方に接続された場合を想定して、信号源と負荷との間のインピーダンス整合を行う回路である。第1および第2の整合部130A,130Bは、上記の場合を想定して、方向性結合器101の使用周波数帯域において、第3のポート13と第4のポート14の一方から他方側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になるように設計される。第1および第2の整合部130A,130Bの各々は、そこを通過する信号に対して位相の変化を生じさせる。
方向性結合器101の回路構成は、第3の結合部140Cを中心として、素子定数も含めて対称であることが好ましい。ただし、方向性結合器101の回路構成は、完全に対称ではなくても、対称に近ければよい。
以下、方向性結合器101の回路構成が対称である場合について説明する。この場合、第2の結合部140Bの結合の強さは、第1の結合部140Aの結合の強さと等しい。また、第1および第2の整合部130A,130Bは、第3の結合部140Cを中心として、素子定数も含めて互いに対称な回路構成を有している。具体的に説明すると、対となる第1のインダクタL101A,L101Bのインダクタンスは互いに実質的に等しく、対となる第2のインダクタL102A,L102Bのインダクタンスは互いに実質的に等しく、対となる第1のキャパシタC101A,C101Bのキャパシタンスは互いに実質的に等しく、対となる第2のキャパシタC102A,C102Bのキャパシタンスは互いに実質的に等しい。第1および第2の整合部130A,130Bは、同じ周波数の信号がそれらを通過する際に、その信号に対して同じ大きさの位相の変化を生じさせる。方向性結合器101は、第3の結合部140Cを中心として対称な回路構成を有しているため、双方向性を有している。
なお、図22に示した第1の整合部130Aでは、第1のキャパシタC101Aが、第1のインダクタL101Aの第1の端部L101A1と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられ、第2のキャパシタC102Aが、第1のインダクタL101Aの第2の端部L101A2と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられている。また、図22に示した第2の整合部130Bでは、第1のキャパシタC101Bが、第1のインダクタL101Bの第1の端部L101B1と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられ、第2のキャパシタC102Bが、第1のインダクタL101Bの第2の端部L101B2と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられている。しかし、第1の整合部130Aにおける第1および第2のキャパシタC101A,C102Aの回路構成上の配置と、第2の整合部130Bにおける第1および第2のキャパシタC101B,C102Bの回路構成上の配置は、それぞれ、図22に示した例とは逆になっていてもよい。すなわち、第1の整合部130Aでは、第1のキャパシタC101Aが、第1のインダクタL101Aの第2の端部L101A2と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられ、第2のキャパシタC102Aが、第1のインダクタL101Aの第1の端部L101A1と第2のインダクタL102Aの第1の端部L102A1との間に設けられていてもよい。この場合、第2の整合部130Bでは、第1のキャパシタC101Bが、第1のインダクタL101Bの第2の端部L101B2と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられ、第2のキャパシタC102Bが、第1のインダクタL101Bの第1の端部L101B1と第2のインダクタL102Bの第1の端部L102B1との間に設けられる。
次に、本実施の形態に係る方向性結合器101の作用について説明する。方向性結合器101は、第1の実施の形態で説明した第1および第2の使用態様で使用可能である。
第1の使用態様では、第1のポート11に高周波信号が入力され、この高周波信号は第2のポート12から出力される。第3のポート13からは、第1のポート11に入力された高周波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。
第1の使用態様では、入力ポートとなる第1のポート11と結合ポートとなる第3のポート13の間には、第1の結合部140Aを経由する第1の信号経路と、第3の結合部140Cおよび第1の整合部130Aを経由する第2の信号経路と、第2の結合部140B、第2の整合部130Bおよび第1の整合部130Aを経由する第3の信号経路とが形成される。第1のポート11に高周波信号が入力されたとき、第3のポート13から出力される結合信号は、それぞれ第1ないし第3の信号経路を通過した信号が合成されて得られる信号である。第1の使用態様における方向性結合器101の結合度は、第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第1ないし第3の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第1の使用態様において、出力ポートとなる第2のポート12と結合ポートとなる第3のポート13の間には、第1の結合部140Aを経由する第4の信号経路と、第3の結合部140Cおよび第1の整合部130Aを経由する第5の信号経路と、第2の結合部140B、第2の整合部130Bおよび第1の整合部130Aを経由する第6の信号経路とが形成される。第1の使用態様における方向性結合器101のアイソレーションは、第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第4ないし第6の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第2の使用態様では、第2のポート12に高周波信号が入力され、この高周波信号は第1のポート11から出力される。第4のポート14からは、第2のポート12に入力された高周波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。
第2の使用態様では、入力ポートとなる第2のポート12と結合ポートとなる第4のポート14の間には、第2の結合部140Bを経由する第7の信号経路と、第3の結合部140Cおよび第2の整合部130Bを経由する第8の信号経路と、第1の結合部140A、第1の整合部130Aおよび第2の整合部130Bを経由する第9の信号経路とが形成される。第2のポート12に高周波信号が入力されたとき、第4のポート14から出力される結合信号は、それぞれ第7ないし第9の信号経路を通過した信号が合成されて得られる信号である。第2の使用態様における方向性結合器101の結合度は、第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第7ないし第9の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
第2の使用態様において、出力ポートとなる第1のポート11と結合ポートとなる第4のポート14の間には、第2の結合部140Bを経由する第10の信号経路と、第3の結合部140Cおよび第2の整合部130Bを経由する第11の信号経路と、第1の結合部140A、第1の整合部130Aおよび第2の整合部130Bを経由する第12の信号経路とが形成される。第2の使用態様における方向性結合器101のアイソレーションは、第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cのそれぞれの結合の強さと、それぞれ第10ないし第12の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
次に、方向性結合器101の構造の一例について説明する。図23は、方向性結合器101の斜視図である。図23に示した方向性結合器101は、第1ないし第4のポート11〜14、主線路110、第1ないし第3の副線路部120A,120B,120Cおよび第1および第2の整合部130A,130Bを一体化するための積層体150を備えている。後で詳しく説明するが、積層体150は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。そして、インダクタL101A,L102A,L101B,L102Bの各々は、積層体150の複数の導体層のうちの1つ以上の導体層である1つ以上のインダクタ構成層を用いて構成されている。また、キャパシタC101A,C102A,C101B,C102Bの各々は、複数の導体層のうちの2つ以上の導体層を用いて構成されている。
積層体150の形状は、第1の実施の形態における積層体50の形状と同様である。すなわち、積層体150は、外周部を有する直方体形状をなしている。積層体150の外周部は、上面150Aと、底面150Bと、4つの側面150C〜150Fとを含んでいる。上面150Aと底面150Bは互いに反対側を向き、側面150C,150Dも互いに反対側を向き、側面150E,150Fも互いに反対側を向いている。側面150C〜150Fは、上面150Aおよび底面150Bに対して垂直になっている。積層体150において、上面150Aおよび底面150Bに垂直な方向が、複数の誘電体層および複数の導体層の積層方向である。図23では、この積層方向を、記号Tを付した矢印で示している。上面150Aと底面150Bは、積層方向Tの両端に位置する。
図23に示した方向性結合器101は、第1の実施の形態における図3に示した方向性結合器1と同様に、第1の端子111と、第2の端子112と、第3の端子113と、第4の端子114と、2つのグランド端子115,116を備えている。第1ないし第4の端子111,112,113,114は、それぞれ、図22に示した第1ないし第4のポート11,12,13,14に対応している。グランド端子115,116は、グランドに接続される。本実施の形態では、端子111〜116は、積層体150の外周部に配置されている。端子111,112,115は、上面150Aから側面150Cを経由して底面150Bにかけて配置されている。また、端子113,114,116は、上面150Aから側面150Dを経由して底面150Bにかけて配置されている。
次に、図24ないし図31を参照して、積層体150について詳しく説明する。積層体150は、積層された25層の誘電体層を有している。以下、この25層の誘電体層を、上から順に1層目ないし25層目の誘電体層と呼ぶ。図24は、積層体150の内部を示す斜視図である。図25は、積層体150の断面図である。図26において(a)〜(d)は、それぞれ、1層目ないし4層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図27において(a)〜(d)は、それぞれ、5層目ないし8層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図28において(a)〜(d)は、それぞれ、9層目ないし12層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図29において(a)〜(d)は、それぞれ、13層目ないし16層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図30において(a)〜(d)は、それぞれ、17層目ないし20層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図31において(a)〜(e)は、それぞれ、21層目ないし25層目の誘電体層のパターン形成面を示している。
図26(a)に示したように、1層目の誘電体層151のパターン形成面には、マーク1511が形成されている。図26(b)に示したように、2層目の誘電体層152のパターン形成面には、インダクタL101Aを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1521と、インダクタL101Bを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1522とが形成されている。
ここで、インダクタ構成層1521,1522について詳しく説明する。インダクタ構成層1521,1522の各々は、それぞれ他の要素との電気的接続部分のための2つの接続部分と、2つの接続部分を接続する線路部分とを含んでいる。以下、インダクタ構成層1521の2つの接続部分を符号1521s,1521eで表し、インダクタ構成層1521の線路部分を符号1521Lで表す。また、インダクタ構成層1522の2つの接続部分を符号1522s,1522eで表し、インダクタ構成層1522の線路部分を符号1522Lで表す。
また、誘電体層152には、スルーホール152T3,152T4,152T5,152T6が形成されている。スルーホール152T3は、インダクタ構成層1521の接続部分1521sに接続されている。スルーホール152T4は、インダクタ構成層1522の接続部分1522sに接続されている。スルーホール152T5は、インダクタ構成層1521の接続部分1521eに接続されている。スルーホール152T6は、インダクタ構成層1522の接続部分1522eに接続されている。
図26(c)に示したように、3層目の誘電体層153のパターン形成面には、インダクタL101Aを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1531と、インダクタL101Bを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1532とが形成されている。インダクタ構成層1531,1532の各々は、インダクタ構成層1521,1522と同様に、2つの接続部分と線路部分とを含んでいる。以下、インダクタ構成層1531の2つの接続部分を符号1531s,1531eで表し、インダクタ構成層1531の線路部分を符号1531Lで表す。また、インダクタ構成層1532の2つの接続部分を符号1532s,1532eで表し、インダクタ構成層1532の線路部分を符号1532Lで表す。
また、誘電体層153には、スルーホール153T3,153T4,153T5,153T6が形成されている。スルーホール153T3は、インダクタ構成層1531の接続部分1531sに接続されている。スルーホール153T4は、インダクタ構成層1532の接続部分1532sに接続されている。スルーホール153T5,153T6には、それぞれ図26(b)に示したスルーホール152T5,152T6が接続されている。図26(b)に示したスルーホール152T3は、インダクタ構成層1531の接続部分1531eに接続されている。図26(b)に示したスルーホール152T4は、インダクタ構成層1532の接続部分1532eに接続されている。
図26(d)に示したように、4層目の誘電体層154のパターン形成面には、インダクタL101Aを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1541と、インダクタL101Bを構成するために用いられる導体層であるインダクタ構成層1542とが形成されている。インダクタ構成層1541,1542の各々は、インダクタ構成層1521,1522と同様に、2つの接続部分と線路部分とを含んでいる。以下、インダクタ構成層1541の2つの接続部分を符号1541s,1541eで表し、インダクタ構成層1541の線路部分を符号1541Lで表す。また、インダクタ構成層1542の2つの接続部分を符号1542s,1542eで表し、インダクタ構成層1542の線路部分を符号1542Lで表す。
また、誘電体層154には、スルーホール154T3,154T4,154T5,154T6が形成されている。スルーホール154T3は、インダクタ構成層1541の接続部分1541sに接続されている。スルーホール154T4は、インダクタ構成層1542の接続部分1542sに接続されている。スルーホール154T5,154T6には、それぞれ図26(c)に示したスルーホール153T5,153T6が接続されている。図26(c)に示したスルーホール153T3は、インダクタ構成層1541の接続部分1541eに接続されている。図26(c)に示したスルーホール153T4は、インダクタ構成層1542の接続部分1542eに接続されている。
図27(a)に示したように、5層目の誘電体層155には、スルーホール155T3,155T4,155T5,155T6が形成されている。スルーホール155T3〜155T6には、それぞれ図26(d)に示したスルーホール154T3〜154T6が接続されている。
図27(b)に示したように、6層目の誘電体層156のパターン形成面には、キャパシタC102Aを構成するために用いられる導体層1561と、キャパシタC102Bを構成するために用いられる導体層1562とが形成されている。また、誘電体層156には、スルーホール156T3,156T4,156T5,156T6,156T7,156T8が形成されている。スルーホール156T3〜156T6には、それぞれ図27(a)に示したスルーホール155T3〜155T6が接続されている。スルーホール156T7は、導体層1561に接続されている。スルーホール156T8は、導体層1562に接続されている。
図27(c)に示したように、7層目の誘電体層157のパターン形成面には、キャパシタC102Aを構成するために用いられる導体層1571と、キャパシタC102Bを構成するために用いられる導体層1572とが形成されている。また、誘電体層157には、スルーホール157T3,157T4,157T5,157T6,157T7,157T8が形成されている。スルーホール157T3,157T4,157T7,157T8には、それぞれ図27(b)に示したスルーホール156T3,156T4,156T7,156T8が接続されている。スルーホール157T5は、導体層1571に接続されている。スルーホール157T6は、導体層1572に接続されている。
図27(d)に示したように、8層目の誘電体層158のパターン形成面には、キャパシタC101A,C102Aを構成するために用いられる導体層1581と、キャパシタC101B,C102Bを構成するために用いられる導体層1582とが形成されている。また、誘電体層158には、スルーホール158T3,158T4,158T5,158T6,158T7,158T8が形成されている。スルーホール158T3〜158T6には、それぞれ図27(c)に示したスルーホール157T3〜157T6が接続されている。スルーホール158T7は、導体層1581と図27(c)に示したスルーホール157T7に接続されている。スルーホール158T8は、導体層1582と図27(c)に示したスルーホール157T8に接続されている。
図28(a)に示したように、9層目の誘電体層159のパターン形成面には、キャパシタC101Aを構成するために用いられる導体層1591と、キャパシタC101Bを構成するために用いられる導体層1592とが形成されている。また、誘電体層159には、スルーホール159T3,159T4,159T5,159T6,159T7,159T8が形成されている。スルーホール159T3は、導体層1591と図27(d)に示したスルーホール158T3に接続されている。スルーホール159T4は、導体層1592と図27(d)に示したスルーホール158T4に接続されている。スルーホール159T5〜159T8には、それぞれ図27(d)に示したスルーホール158T5〜158T8が接続されている。
図28(b)に示したように、10層目の誘電体層160のパターン形成面には、キャパシタC101Aを構成するために用いられる導体層1601と、キャパシタC101Bを構成するために用いられる導体層1602とが形成されている。また、誘電体層160には、スルーホール160T3,160T4,160T5,160T6,160T7,160T8が形成されている。スルーホール160T3〜160T6には、それぞれ図28(a)に示したスルーホール159T3〜159T6が接続されている。スルーホール160T7と、図28(a)に示したスルーホール159T7は、導体層1601に接続されている。スルーホール160T8と、図28(a)に示したスルーホール159T8は、導体層1602に接続されている。
図28(c)に示したように、11層目の誘電体層161には、スルーホール161T3,161T4,161T5,161T6,161T7,161T8が形成されている。スルーホール161T3〜161T8には、それぞれ図28(b)に示したスルーホール160T3〜160T8が接続されている。
図28(d)に示したように、12層目の誘電体層162のパターン形成面には、導体層1621が形成されている。導体層1621は、インダクタL102Aを構成する線路部分1621Aと、インダクタL102Bを構成する線路部分1621Bと、線路部分1621A,1621Bを接続する接続部分1621Cとを有している。線路部分1621A,1621Bの各々は、第1端と第2端を有している。線路部分1621Aの第1端と線路部分1621Bの第1端は、接続部分1621Cに接続されている。また、誘電体層162には、スルーホール162T3,162T4,162T5,162T6,162T9が形成されている。スルーホール162T3〜161T6には、それぞれ図28(c)に示したスルーホール161T3〜161T6が接続されている。スルーホール162T9は、導体層1621の接続部分1621Cに接続されている。図28(c)に示したスルーホール161T7は、線路部分1621Aにおける第2端の近傍部分に接続されている。図28(c)に示したスルーホール161T8は、線路部分1621Bにおける第2端の近傍部分に接続されている。
図29(a)に示したように、13層目の誘電体層163のパターン形成面には、グランド用導体層1631が形成されている。導体層1631は、図23に示したグランド端子115,116に接続されている。また、誘電体層163には、スルーホール163T3,163T4,163T5,163T6が形成されている。スルーホール163T3〜163T6には、それぞれ図28(d)に示したスルーホール162T3〜162T6が接続されている。図28(d)に示したスルーホール162T9は、導体層1631に接続されている。
図29(b)に示したように、14層目の誘電体層164には、スルーホール164T3,164T4,164T5,164T6が形成されている。スルーホール164T3〜164T6には、それぞれ図29(a)に示したスルーホール163T3〜163T6が接続されている。
図29(c)に示したように、15層目の誘電体層165には、スルーホール165T3,165T4,165T5,165T6が形成されている。スルーホール165T3〜165T6には、それぞれ図29(b)に示したスルーホール164T3〜164T6が接続されている。
図29(d)に示したように、16層目の誘電体層166には、スルーホール166T3,166T4,166T5,166T6が形成されている。スルーホール166T3〜166T6には、それぞれ図29(c)に示したスルーホール165T3〜165T6が接続されている。
図30(a)に示したように、17層目の誘電体層167のパターン形成面には、第3の副線路部120Cを構成するために用いられる導体層1671,1672が形成されている。導体層1671,1672の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層167には、スルーホール167T3,167T4,167T5,167T6が形成されている。スルーホール167T3,167T4には、それぞれ図29(d)に示したスルーホール166T3,166T4が接続されている。スルーホール167T5は、導体層1671における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール167T6は、導体層1672における第1端の近傍部分に接続されている。図29(d)に示したスルーホール166T5は、導体層1671における第2端の近傍部分に接続されている。図29(d)に示したスルーホール166T6は、導体層1672における第2端の近傍部分に接続されている。
図30(b)に示したように、18層目の誘電体層168のパターン形成面には、導体層1681,1682が形成されている。導体層1681は、図23に示した第1の端子111に接続されている。導体層1682は、図23に示した第2の端子112に接続されている。また、誘電体層168には、スルーホール168T1,168T2,168T3,168T4,168T5,168T6が形成されている。スルーホール168T1は、導体層1681に接続されている。スルーホール168T2は、導体層1682に接続されている。スルーホール168T3〜168T6には、それぞれ図30(a)に示したスルーホール167T3〜167T6が接続されている。
図30(c)に示したように、19層目の誘電体層169のパターン形成面には、主線路110を構成するために用いられる導体層1691が形成されている。導体層1691は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層169には、スルーホール169T3,169T4,169T5,169T6が形成されている。スルーホール169T3〜169T6には、それぞれ図30(b)に示したスルーホール168T3〜168T6が接続されている。図30(b)に示したスルーホール168T1は、導体層1691における第1端の近傍部分に接続されている。図30(b)に示したスルーホール168T2は、導体層1691における第2端の近傍部分に接続されている。
図30(d)に示したように、20層目の誘電体層170には、スルーホール170T3,170T4,170T5,170T6が形成されている。スルーホール170T3〜170T6には、それぞれ図30(c)に示したスルーホール169T3〜169T6が接続されている。
図31(a)に示したように、21層目の誘電体層171のパターン形成面には、第3の副線路部120Cを構成するために用いられる導体層1711が形成されている。導体層1711は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層171には、スルーホール171T3,171T4が形成されている。スルーホール171T3,171T4には、それぞれ図30(d)に示したスルーホール170T3,170T4が接続されている。図30(d)に示したスルーホール170T5は、導体層1711における第1端の近傍部分に接続されている。図30(d)に示したスルーホール170T6は、導体層1711における第2端の近傍部分に接続されている。
図31(b)に示したように、22層目の誘電体層172のパターン形成面には、第1の副線路部120Aを構成するために用いられる導体層1721と、第2の副線路部120Bを構成するために用いられる導体層1722とが形成されている。導体層1721,1722の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層172には、導体層1721における第1端の近傍部分に接続されたスルーホール172T3と、導体層1722における第1端の近傍部分に接続されたスルーホール172T4とが形成されている。図31(a)に示したスルーホール171T3は、導体層1721における第2端の近傍部分に接続されている。図31(a)に示したスルーホール171T4は、導体層1722における第2端の近傍部分に接続されている。
図31(c)に示したように、23層目の誘電体層173のパターン形成面には、導体層1731,1732が形成されている。導体層1731は、図23に示した第3の端子113に接続されている。導体層1732は、図23に示した第4の端子114に接続されている。図31(b)に示したスルーホール172T3は、導体層1731に接続されている。図31(b)に示したスルーホール172T4は、導体層1732に接続されている。
図31(d)に示したように、24層目の誘電体層174のパターン形成面には、導体層は形成されていない。図31(e)に示したように、25層目の誘電体層175のパターン形成面には、グランド用導体層1751が形成されている。導体層1751は、図23に示したグランド端子115,116に接続されている。
図23に示した積層体150は、1層目の誘電体層151のパターン形成面が積層体150の上面150Aになるように、1層目ないし25層目の誘電体層151〜175が積層されて構成される。そして、この積層体150の外周部に対して端子111〜116が形成されて、図23に示した方向性結合器101が完成する。
図24は、積層体150の内部を示している。図25は、側面150C側から見た積層体150の断面を示している。
以下、図22に示した方向性結合器101の回路の構成要素と、図26ないし図31に示した積層体150の内部の構成要素との対応関係について説明する。主線路110は、図30(c)に示した導体層1691によって構成されている。導体層1691は、誘電体層169の素子形成面と同じ方向に向いた第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有している。導体層1691の第1の面は、第1の部分と第2の部分とを含んでいる。導体層1691の第2の面は、第3の部分と第4の部分と第5の部分とを含んでいる。
図31(b)に示した導体層1721の一部は、誘電体層169,170,171を介して、導体層1691の第2の面の第3の部分に対向している。第1の副線路部120Aは、上記の導体層1721の一部によって構成されている。
図31(b)に示した導体層1722の一部は、誘電体層169,170,171を介して、導体層1691の第2の面の第4の部分に対向している。第2の副線路部120Bは、上記の導体層1722の一部によって構成されている。
第3の副線路部120Cは、以下のように構成されている。図30(a)に示した導体層1671における第1端の近傍部分は、スルーホール167T5,168T5,169T5,170T5を介して、図31(a)に示した導体層1711における第1端の近傍部分に接続されている。図30(a)に示した導体層1672における第1端の近傍部分は、スルーホール167T6,168T6,169T6,170T6を介して、導体層1711における第2端の近傍部分に接続されている。導体層1671の一部は、誘電体層167,168を介して、導体層1691の第1の面の第1の部分に対向している。導体層1672の一部は、誘電体層167,168を介して、導体層1691の第1の面の第2の部分に対向している。導体層1711の一部は、誘電体層169,170を介して、導体層1691の第2の面の第5の部分に対向している。第3の副線路部120Cは、上記の導体層1671の一部、導体層1672の一部および導体層1711の一部によって構成されている。
第1の整合部130AのインダクタL101Aは、以下のように構成されている。図26(b)〜(d)に示したインダクタ構成層1521,1531,1541は、スルーホール152T3,153T3を介して直列に接続されている。インダクタL101Aは、これらのインダクタ構成層1521,1531,1541と、これらを接続する2つのスルーホール152T3,153T3とによって構成されている。インダクタ構成層1541は、スルーホール154T3,155T3,156T3,157T3,158T3,159T3,160T3,161T3,162T3,163T3,164T3,165T3,166T3,167T3,168T3,169T3,170T3,171T3を介して、第1の副線路部120Aを構成する導体層1721に接続されている。インダクタ構成層1521は、スルーホール152T5,153T5,154T5,155T5,156T5,157T5,158T5,159T5,160T5,161T5,162T5,163T5,164T5,165T5,166T5を介して、第3の副線路部120Cを構成する導体層1671に接続されている。
第1の整合部130AのキャパシタC101Aは、図27(d)および図28(a),(b)に示した導体層1581,1591,1601と、導体層1581,1591の間の誘電体層158と、導体層1591,1601の間の誘電体層159とによって構成されている。導体層1591は、スルーホール159T3,160T3,161T3,162T3,163T3,164T3,165T3,166T3,167T3,168T3,169T3,170T3,171T3を介して、第1の副線路部120Aを構成する導体層1721に接続されている。
第1の整合部130AのキャパシタC102Aは図27(b)〜(d)に示した導体層1561,1571,1581と、導体層1561,1571の間の誘電体層156と、導体層1571,1581の間の誘電体層157とによって構成されている。導体層1571は、スルーホール157T5,158T5,159T5,160T5,161T5,162T5,163T5,164T5,165T5,166T5を介して、第3の副線路部120Cを構成する導体層1671に接続されている。
第1の整合部130AのインダクタL102Aは、図28(d)に示した導体層1621の線路部分1621Aによって構成されている。線路部分1621Aにおける第1端は、接続部分1621Cとスルーホール162T9を介して、図29(a)に示したグランド用導体層1631に接続されている。線路部分1621Aにおける第2端の近傍部分は、スルーホール160T7,161T7を介して、図28(b)に示した導体層1601に接続されていると共に、スルーホール156T7,157T7,158T7,159T7、導体層1601およびスルーホール160T7,161T7を介して、図27(b),(d)に示した導体層1561,1581に接続されている。
第2の整合部130BのインダクタL101Bは、以下のように構成されている。図26(b)〜(d)に示したインダクタ構成層1522,1532,1542は、スルーホール152T4,153T4を介して直列に接続されている。インダクタL101Bは、これらのインダクタ構成層1522,1532,1542と、これらを接続する2つのスルーホール152T4,153T4とによって構成されている。インダクタ構成層1542は、スルーホール154T4,155T4,156T4,157T4,158T4,159T4,160T4,161T4,162T4,163T4,164T4,165T4,166T4,167T4,168T4,169T4,170T4,171T4を介して、第2の副線路部120Bを構成する導体層1722に接続されている。インダクタ構成層1522は、スルーホール152T6,153T6,154T6,155T6,156T6,157T6,158T6,159T6,160T6,161T6,162T6,163T6,164T6,165T6,166T6を介して、第3の副線路部120Cを構成する導体層1672に接続されている。
第2の整合部130BのキャパシタC101Bは、図27(d)および図28(a),(b)に示した導体層1582,1592,1602と、導体層1582,1592の間の誘電体層158と、導体層1592,1602の間の誘電体層159とによって構成されている。導体層1592は、スルーホール159T4,160T4,161T4,162T4,163T4,164T4,165T4,166T4,167T4,168T4,169T4,170T4,171T4を介して、第2の副線路部120Bを構成する導体層1722に接続されている。
第2の整合部130BのキャパシタC102Bは、図27(b)〜(d)に示した導体層1562,1572,1582と、導体層1562,1572の間の誘電体層156と、導体層1572,1582の間の誘電体層157とによって構成されている。導体層1572は、スルーホール157T6,158T6,159T6,160T6,161T6,162T6,163T6,164T6,165T6,166T6を介して、第3の副線路部120Cを構成する導体層1672に接続されている。
第2の整合部130BのインダクタL102Bは、図28(d)に示した導体層1621の線路部分1621Bによって構成されている。線路部分1621Bにおける第1端は、接続部分1621Cとスルーホール162T9を介して、図29(a)に示したグランド用導体層1631に接続されている。線路部分1621Bにおける第2端の近傍部分は、スルーホール160T8,161T8を介して、図28(b)に示した導体層1602に接続されていると共に、スルーホール156T8,157T8,158T8,159T8、導体層1602およびスルーホール160T8,161T8を介して、図27(b),(d)に示した導体層1562,1582に接続されている。
積層体150において、第1および第2の整合部130A,130Bを構成する複数の導体層と、主線路110を構成する導体層1691の間には、グランドに接続されたグランド用導体層1631が介在している。そのため、第1および第2の整合部130A,130Bは、主線路110に対して電磁界結合しない。
図31(e)に示したグランド用導体層1751は、第1および第2の副線路部120A,120Bのインピーダンスを所望の値に調整する作用を有する。
以下、積層体150における第1および第2の整合部130A,130Bの構造上の特徴について説明する。積層体150の複数の導体層には、第1の整合部130Aの第1のインダクタL101Aを構成する複数の導体層である複数のインダクタ構成層と、第2の整合部130Bの第1のインダクタL101Bを構成する複数の導体層である複数のインダクタ構成層が含まれている。本実施の形態では特に、第1のインダクタL101Aは、直列に接続された3つのインダクタ構成層1521,1531,1541によって構成され、第1のインダクタL101Bは、直列に接続された3つのインダクタ構成層1522,1532,1542によって構成されている。
インダクタ構成層1521,1531,1541の各々は、それぞれ他の要素との電気的接続のための2つの接続部分と、2つの接続部分を接続する線路部分とを含んでいる。同様に、インダクタ構成層1522,1532,1542の各々は、それぞれ他の要素との電気的接続のための2つの接続部分と、2つの接続部分を接続する線路部分とを含んでいる。
第1のインダクタL101Aを構成するインダクタ構成層1521,1531,1541は、それらの線路部分同士が積層方向Tから見てオーバーラップしないように配置されている。従って、接続部分を除く第1のインダクタL101Aの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。積層方向Tから見た第1のインダクタL101Aの全体の形状は、渦巻き形状である。立体的な第1のインダクタL101Aの全体の形状は、四角錐台に似ている。
同様に、第1のインダクタL101Bを構成するインダクタ構成層1522,1532,1542は、それらの線路部分同士が積層方向Tから見てオーバーラップしないように配置されている。従って、接続部分を除く第1のインダクタL101Bの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。積層方向Tから見た第1のインダクタL101Bの全体の形状は、渦巻き形状である。立体的な第1のインダクタL101Bの全体の形状は、四角錐台に似ている。
また、第1のインダクタL101Aは、第1および第2のキャパシタC101A,C102A、第2のインダクタL102A、主線路110および副線路部120A,120B,120Cに比べて、上面150Aにより近い位置にある。第2のインダクタL102Aは、第1および第2のキャパシタC101A,C102Aに比べて、底面150Bにより近い位置にある。
同様に、第1のインダクタL101Bは、第1および第2のキャパシタC101B,C102B、第2のインダクタL102B、主線路110および副線路部120A,120B,120Cに比べて、上面150Aにより近い位置にある。第2のインダクタL102Bは、第1および第2のキャパシタC101B,C102Bに比べて、底面150Bにより近い位置にある。
本実施の形態に係る方向性結合器101によれば、広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制することが可能になる。以下、これについて詳しく説明する。
第1ないし第3の結合部140A,140B,140Cの各々の単独の結合度は、周波数が高くなるほど大きくなる。第3の結合部140Cの単独の結合度は、第1および第2の結合部140A,140Bの各々の単独の結合度よりも大きい。
ここで、第1および第2の整合部130A,130Bの各々が、そこを通過する信号に対して生じさせる位相の変化量を、位相変化量と言う。整合部130A,130Bは、いずれも、そこを通過する信号の位相を遅らせるため、位相変化量は負の値で表される。整合部130A,130Bの各々において、位相変化量の絶対値が大きいほど、そこを通過する信号に対して生じさせる位相の変化が大きいと言える。
整合部130A,130Bの構成は、それぞれ第1の実施の形態における整合部30A,30Bと同様である。ここで、第1の整合部130Aに、第1のインダクタL101Aの寄生容量を付加した構成の整合部を、第2の比較例の整合部と言う。寄生容量は、第1のインダクタL101Aに並列に接続されている。
図32は、第1の整合部130Aと第2の比較例の整合部の位相変化量の周波数特性を示している。図32において、横軸は周波数、縦軸は位相変化量である。また、図32において、実線は第1の整合部130Aの特性を示し、破線は第2の比較例の整合部の特性を示している。
図33は、第1の整合部130Aと第2の比較例の整合部の反射損失の周波数特性を示している。図33において、横軸は周波数、縦軸は反射損失である。また、図33において、実線は第1の整合部130Aの特性を示し、破線は第2の比較例の整合部の特性を示している。
図34は、第1の整合部130Aと第2の比較例の整合部の挿入損失の周波数特性を示している。図34において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。また、図34において、実線は第1の整合部130Aの特性を示し、破線は第2の比較例の整合部の特性を示している。
第1のインダクタL101Aが寄生容量を有すると、第1の整合部130Aの特性が、図32ないし図34において実線で示した所望の特性から、図32ないし図34において破線で示した第2の比較例の整合部の特性に変化してしまう。第1のインダクタL101Aが寄生容量を有することによって特に問題となるのは、第1の整合部130Aの位相変化量の周波数特性が以下のように変化してしまうことである。図32に示したように、第1のインダクタL101Aが寄生容量を有すると、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも低い周波数領域では、位相変化量の絶対値が所望の値よりも小さくなり、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも高い周波数領域では、位相変化量の絶対値が所望の値よりも大きくなる。
第2の整合部130Bの特性は、第1の整合部130Aの特性と同じかほぼ同じである。第1の整合部130Aと同様に、第2の整合部130Bでも、第1のインダクタL101Bが寄生容量を有すると、第2の整合部130Bの特性が、所望の特性から第2の比較例の整合部の特性に変化してしまう。後で示すが、第1および第2の整合部130A,130Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有すると、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制できるという方向性結合器101の効果が低減する。
ここで、方向性結合器101における第1および第2の整合部130A,130Bの各々において第1のインダクタの寄生容量を付加した構成の方向性結合器を第2の比較例の方向性結合器と言う。
図35ないし図37に、本実施の形態に係る方向性結合器101と第2の比較例の方向性結合器の特性の一例を示す。図35ないし図37に示した例では、方向性結合器101の使用周波数帯域を700〜2700MHzとしている。図35において、この使用周波数帯域の下限と上限を2本の点線で示している。図35ないし図37に示した特性は、シミュレーションによって求めたものである。図35ないし図37において、実線は第1の使用態様で使用した場合の方向性結合器101の特性を示し、破線は第1の使用態様で使用した場合の第2の比較例の方向性結合器の特性を示している。シミュレーションでは、第2の使用態様で使用した場合の方向性結合器101の特性は、第1の使用態様で使用した場合の方向性結合器101の特性と同じであり、第2の使用態様で使用した場合の第2の比較例の方向性結合器の特性は、第1の使用態様で使用した場合の第2の比較例の方向性結合器の特性と同じである。
図35は、方向性結合器101および第2の比較例の方向性結合器の結合度の周波数特性を示している。図35において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。結合度を−c(dB)と表すと、方向性結合器101では、使用周波数帯域において、cの値は、20以上の十分な大きさである。
図36は、方向性結合器101および第2の比較例の方向性結合器のアイソレーションの周波数特性を示している。図36において、横軸は周波数、縦軸はアイソレーションである。アイソレーションを−i(dB)と表すと、方向性結合器101では、使用周波数帯域において、iの値は、45以上の十分な大きさである。
図37は、方向性結合器101および第2の比較例の方向性結合器の結合ポートの反射損失の周波数特性を示している。図37において、横軸は周波数、縦軸は結合ポートの反射損失である。結合ポートの反射損失を−r(dB)と表すと、方向性結合器101では、使用周波数帯域において、rの値は、25以上の十分な大きさである。これは、使用周波数帯域において、第3のポート13と第4のポート14の一方から他方側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になっていることを意味している。
図35において実線で示したように、方向性結合器101の結合度の周波数特性では、広い周波数範囲において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されている。これに対し、図35において破線で示した第2の比較例の方向性結合器の結合度の周波数特性では、方向性結合器101の結合度の周波数特性に比べて、周波数の変化に伴う結合度の変化が大きくなっている。その原因は、第1および第2の整合部130A,130Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有することである。
以下、本実施の形態に係る方向性結合器101によれば、広い周波数範囲において、周波数の変化に伴う結合度の変化を抑制できる理由について、概念的に説明する。方向性結合器101では、前述のように、第3の結合部140Cの単独の結合度は、第1および第2の結合部140A,140Bの各々の単独の結合度よりも大きい。方向性結合器101では、第3の結合部140Cを経由した信号に対して、第1の結合部140Aを経由した信号と第2の結合部140Bを経由した信号が、それぞれ第1の整合部130Aと第2の整合部130Bで決まる位相の関係の下で合成されて、結合信号が形成される。第1および第2の整合部130A,130Bの各々の位相変化量の絶対値が180度に近づくほど、第1の結合部140Aを経由した信号と第2の結合部140Bを経由した信号が、第3の結合部140Cを経由した信号を打ち消す合う度合いが大きくなる。このような作用により、方向性結合器101の結合度の周波数特性は、第3の結合部140Cの単独の結合度の周波数特性に比べて、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されたものとなる。
ここで、第1および第2の整合部130A,130Bの各々において、第1のインダクタが寄生容量を有すると、図32に示したように、第1および第2の整合部130A,130Bの各々の位相変化量の絶対値は、位相変化量の絶対値が180度になる周波数よりも低い周波数領域と高い周波数領域の両方において、所望の値に比べて、180度から遠ざかる。これは、第1の結合部140Aを経由した信号と第2の結合部140Bを経由した信号が、第3の結合部140Cを経由した信号を打ち消す合う度合いが小さくなることを意味する。その結果、図35において破線で示したように、周波数の変化に伴う結合度の変化が大きくなってしまう。
本実施の形態では、接続部分を除く第1のインダクタL101Aの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。同様に、接続部分を除く第1のインダクタL101Bの全体は、積層方向Tから見て互いに重なる複数の部分を含んでいない。これらのことから、本実施の形態によれば、第1のインダクタL101A,L101Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
また、本実施の形態では、第1のインダクタL101Aは、第1および第2のキャパシタC101A,C102A、第2のインダクタL102A、主線路110および副線路部120A,120B,120Cに比べて、上面150Aにより近い位置にある。同様に、第1のインダクタL101Bは、第1および第2のキャパシタC101B,C102B、第2のインダクタL102B、主線路110および副線路部120A,120B,120Cに比べて、上面150Aにより近い位置にある。言い換えると、第1のインダクタL101A,L101Bの上方には、方向性結合器101を構成するために用いられる導体層は存在しない。これによっても、本実施の形態によれば、第1のインダクタL101A,L101Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
また、本実施の形態では、第2のインダクタL102Aは、第1および第2のキャパシタC101A,C102Aに比べて、底面150Bにより近い位置にある。同様に、第2のインダクタL102Bは、第1および第2のキャパシタC101B,C102Bに比べて、底面150Bにより近い位置にある。これらのことから、本実施の形態によれば、第1のインダクタL101Aと第2のインダクタL102Aとの間の距離と、第1のインダクタL101Bと第2のインダクタL102Bとの間の距離を、それぞれ大きくすることができる。これによっても、本実施の形態によれば、第1のインダクタL101A,L101Bが大きな寄生容量を有することを防止することができる。
このように、本実施の形態によれば、第1のインダクタL101A,L101Bが大きな寄生容量を有することを防止でき、その結果、周波数の変化に伴う方向性結合器101の結合度の変化をより一層抑制することが可能になる。
以上のことから、本実施の形態によれば、広帯域で使用可能な方向性結合器101を実現することができる。また、前述のように、方向性結合器101は、対称または対称に近い回路構成にすることができる。これにより、本実施の形態によれば、双方向性を有する方向性結合器101を実現することができる。
また、本実施の形態では、第1のインダクタL101A,L101Bの上方には、第1のインダクタL101A,L101Bが発生する磁束の通過を妨げるような導体層は存在しない。そのため、第1のインダクタL101A,L101Bは、サイズが小さくても十分な大きさのインダクタンスを有することが可能である。これにより、方向性結合器101の小型化が可能になる。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、第1の実施の形態において、第3の整合部30Cは、素子定数を除いて、第1および第2の整合部30A,30Bと同様の構成であってもよい。
また、本発明において、副線路部の数であるNは、2以上の整数であればよい。Nが2の場合には、方向性結合器は、第1の副線路部と、第2の副線路部と、1つの整合部とを備え、1つの整合部が、特許請求の範囲における(N−1)個の整合部のうちの少なくとも1つに関する要件を満たすように構成される。Nが3以上の場合には、少なくとも1つの整合部が、特許請求の範囲における(N−1)個の整合部のうちの少なくとも1つに関する要件を満たすように構成されていればよい。
また、本発明において、第2のインダクタは、第1のキャパシタ、主線路およびN個の副線路部に比べて、積層体の底面により近い位置に配置されていてもよい。