以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施形態にかかるポンプ装置を適用した車両用ブレーキ装置の基本構成について説明する。ここでは前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の液圧回路を構成する車両に本発明による車両用ブレーキ装置を適用した例について説明するが、前後配管などの車両にも適用可能である。
図1に示されるように、車両用ブレーキ装置1には、ブレーキ操作部材となるブレーキペダル11と、倍力装置12と、M/C(マスタシリンダ)13と、W/C(ホイールシリンダ)14、15、34、35と、ブレーキ液圧制御用のアクチュエータ50とが備えられている。また、アクチュエータ50にはブレーキECU70が組み付けられ、このブレーキECU70にて、車両用ブレーキ装置1が発生させる制動力を制御している。
ブレーキペダル11は、倍力装置12およびM/C13に接続されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込んで操作すると、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、マスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生させられる。このM/C13に発生させられるM/C圧が、液圧経路を構成するアクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
また、M/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通された通路を有するマスタリザーバ13eが接続されている。マスタリザーバ13eは、M/C13内にブレーキ液を供給したり、M/C13内の余剰のブレーキ液を貯留したりする。
アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する系統、第2配管系統50bは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御する系統とされる。
以下、第1、第2配管系統50a、50bについて説明するが、第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては第1配管系統50aを参照する。
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を右前輪FRに備えられたW/C14および左後輪RLに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備えている。この管路Aを通じて各W/C14、15それぞれにW/C圧が発生させられることで、制動力が発生させられる。
管路Aには、連通状態と差圧状態に制御できる差圧制御弁16が備えられている。この差圧制御弁16は、ドライバによるブレーキペダル11の操作に対応した制動力を発生させる通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されている。そして、差圧制御弁16は、差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。この差圧制御弁16が差圧状態とされていると、W/C圧がM/C圧よりも差圧量分高くなるようにブレーキ液の流動が規制される。
管路Aは、この差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁18が備えられている。
増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。増圧制御弁17、18は、増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルに制御電流が流されない非通電時には連通状態、ソレノイドコイルに制御電流が流される通電時には遮断状態に制御されるノーマルオープン型とされている。
管路Aにおける増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、減圧制御弁21と減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら減圧制御弁21、22は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成され、非通電時に遮断状態となるノーマルクローズ型とされている。
調圧リザーバ20と管路Aとの間には、還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するように、モータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横滑り防止制御やトラクション制御などの運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、制御対象輪のW/C圧を加圧する。
一方、上述したように、第2配管系統50bは、第1配管系統50aにおける構成と略同様となっている。具体的には、差圧制御弁16は、差圧制御弁36に対応する。増圧制御弁17、18は、それぞれ増圧制御弁37、38に対応し、減圧制御弁21、22は、それぞれ減圧制御弁41、42に対応する。調圧リザーバ20は、調圧リザーバ40に対応する。ポンプ19は、ポンプ39に対応する。また、管路A、管路B、管路C、管路Dは、それぞれ管路E、管路F、管路G、管路Hに対応する。以上のようにして、車両用ブレーキ装置1の液圧回路が構成されており、ポンプ装置は、これらのうちのポンプ19、39を一体化したものである。ポンプ装置の詳細構造については後述する。
ブレーキECU70は、車両用ブレーキ装置1の制御系を司るもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成される。ブレーキECU70は、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、ABS制御や横滑り防止制御等の車両運動制御を実行する。具体的には、ブレーキECU70は、図示しないセンサ類の検出に基づいて各種物理量を演算し、その演算結果に基づいて車両運動制御を実行するか否かを判定する。そして、ブレーキECU70は、車両運動制御を実行する際には、制御対象輪に対する制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60を制御することで、制御対象輪のW/C圧が制御され、車両運動制御が行われる。
例えば、トラクション制御や横滑り防止制御のようにM/C13に圧力が発生させられていないときには、ポンプ19、39を駆動すると共に、差圧制御弁16、36を差圧状態にする。これにより、管路D、Hを通じてブレーキ液を差圧制御弁16、36の下流側、つまりW/C14、15、34、35側に供給する。そして、増圧制御弁17、18、37、38や減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御することで制御対象輪のW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
また、ABS制御時には、増圧制御弁17、18、37、38や減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御すると共に、ポンプ19、39を駆動することでW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
次に、上記のように構成される車両用ブレーキ装置におけるポンプ装置について、図2〜図6を参照して説明する。これらの図は、ポンプ装置80およびモータ60をアクチュエータ50のハウジング51に組付けたときの状態を示している。
上述したように、車両用ブレーキ装置は、第1配管系統50aと第2配管系統50bの2系統から構成されているため、ポンプ装置80には第1配管系統用のポンプ19と第2配管系統用のポンプ39の2つが備えられている。以下、第1配管系統用のポンプ19を第1ポンプ19という。また、第2配管系統用のポンプ39を、第2ポンプ39という。なお、後述するように、第1ポンプ19および第2ポンプ39は、ボールと吸入弁と吐出弁とを主要構成要素とするポンプ機構を、それぞれ4つ備えている。
図2に示すように、ハウジング51は、ハウジング51の一端面に開口部を有するポンプ挿入孔511、およびハウジング51の他端面に開口部を有しポンプ挿入孔511に接続されたプラグ挿入孔512を備えている。ポンプ挿入孔511およびプラグ挿入孔512は、いずれも円柱孔形状であり、同軸状に配置されている。
また、ハウジング51には、図1における管路Cに相当する第1吸入用管路513および第1吐出用管路514と、図1における管路Gに相当する第2吸入用管路515および第2吐出用管路516が形成されている。
ハウジング51におけるポンプ挿入孔511の壁面には、後述するポンプ装置80の第2スリーブ81bに対向する部位に、第1吐出用管路514と連通する環状の第1吐出溝517が形成されている。
また、ハウジング51におけるポンプ挿入孔511の壁面には、後述するポンプ装置80の第3スリーブ81cに対向する部位に、第2吐出用管路516と連通する環状の第2吐出溝518が形成されている。
ハウジング51の一端面には、ポンプ挿入孔511の開口部を塞ぐプレート52がボルト(図示せず)にて固定されている。より詳細には、プレート52の小径円柱部521がポンプ挿入孔511に挿入され、プレート52のフランジ部522がハウジング51の一端面に当接している。また、プレート52の小径円柱部521の外周部には、ポンプ挿入孔511とハウジング51の外部とを遮断するOリング101が装着されている。
プレート52の小径円柱部521の端面には、環状の端面吸入溝523、およびこの端面吸入溝523と第1吸入用管路513とを連通させる複数の吸入連通孔524が形成されている。
ハウジング51の他端面には、プラグ挿入孔512の開口部を塞ぐプラグ53がボルト533にて固定されている。より詳細には、プラグ53の小径円柱部531がプラグ挿入孔512に挿入され、プラグ53のフランジ部532がハウジング51の他端面に当接している。また、プラグ53の小径円柱部531の外周部には、プラグ挿入孔512とハウジング51の外部とを遮断するOリング102が装着されている。
ポンプ装置80は、円柱状のポンプハウジング81の外周側に、第1〜第4スリーブ81a〜81dが液密に嵌合されている。そして、ポンプ装置80は、ポンプ挿入孔511に挿入され、ポンプ挿入孔511の底部とプレート52の小径円柱部521との間に挟持されている。
ポンプハウジング81には、その中心部に段付き円柱孔形状の駆動軸収容孔811が形成されている。また、プレート52にも、その中心部に段付き円柱孔形状の駆動軸収容孔525が形成されている。そして、駆動軸収容孔525、811に、モータ60にて駆動される駆動軸54が配置されている。
駆動軸54は、プレート52の駆動軸収容孔525に配置されたベアリング55およびポンプハウジング81の駆動軸収容孔811に配置されたベアリング56にて回転自在に支持されている。
プレート52の駆動軸収容孔525内には、ポンプ挿入孔511とハウジング51の外部とを遮断するオイルシール103およびシール部材104が配置されている。
駆動軸54には、第1カム57および第2カム58が一体的に結合されている。この第1カム57および第2カム58の外周面の形状は、駆動軸54の軸線に沿って見たときに真円である。また、第1カム57および第2カム58は、駆動軸54の軸線(すなわち回転中心)に対して偏心したカムである。また、第1カム57と第2カム58の位相は、駆動軸54の回転方向に180°ずれている。
ポンプハウジング81の駆動軸収容孔811内で、且つ2個のカム57の間には、ポンプ内シール部材105が配置されている。このポンプ内シール部材105は、ポンプハウジング81の駆動軸収容孔811の内部空間を、第1液溜まり812と第2液溜まり813とに区画している。具体的には、第1液溜まり812は、ポンプ内シール部材105よりもプレート52側に位置する空間であり、第2液溜まり813は、ポンプ内シール部材105よりもプラグ53側に位置する空間である。
第1液溜まり812は、ポンプハウジング81とプレート52の小径円柱部521との隙間を介して、吸入経路としての端面吸入溝523に連通されている。また、第2液溜まり813は、ベアリング56内の隙間を介して、吸入経路としての第2吸入用管路515に連通されている。
次に、第1ポンプ19について説明する。図2、図3に示すように、ポンプハウジング81には、円柱孔形状の4個の第1シリンダ孔814が、駆動軸54の回転方向Rに沿って駆動軸54の周りに等間隔に設けられている。この第1シリンダ孔814は、ポンプハウジング81の外周面から第1液溜まり812まで貫通している。そして、第1シリンダ孔814の外周側開口部は、第2スリーブ81bにて塞がれている。
駆動軸54の軸線に沿って見たときに、各第1シリンダ孔814の軸線は、いずれも駆動軸54の軸線に対して所定寸法ΔLずれている。換言すると、各第1シリンダ孔814の軸線は、駆動軸54の軸線と交差しない。
また、駆動軸54の軸線に沿って見たときに、各第1シリンダ孔814の軸線は、いずれも同じ方向にずれている。より詳細には、各々の第1シリンダ孔814の軸線に平行で且つ駆動軸54の軸線と交差する線をシリンダ孔仮想軸線としたとき、各々の第1シリンダ孔814の軸線は、各々のシリンダ孔仮想軸線よりも、駆動軸54の回転方向Rとは反対方向側(すなわち、回転方向R後方側)に僅かにずれている。なお、各々の第1シリンダ孔814の軸線が、各々のシリンダ孔仮想軸線よりも、駆動軸54の回転方向R側(すなわち、回転方向R前方側)に僅かにずれていてもよい。
第1シリンダ孔814には、往復動部材としての球形状の第1ボール84が挿入されている。この第1ボール84は、ブレーキ液が吸入・吐出される第1ポンプ室85を第1シリンダ孔814内に区画形成する。また、第1ボール84は、第1ポンプ室85に配置された第1スプリング86により、第1カム57に向かって付勢されている。換言すると、第1ボール84は、一端側の面(すなわち半球状の面)によって第1ポンプ室85を区画形成するとともに、他端側の面が第1カム57に当接している。
そして、第1ボール84は、第1カム57が駆動軸54とともに回転することにより往復動し、その往復動により第1ポンプ室85の容積を変化させるようになっている。
ポンプハウジング81には、端面吸入溝523と各第1ポンプ室85とを連通させる第1吸入通路815が4個形成されている。この第1吸入通路815は、駆動軸54の軸線と平行方向に延びる円柱孔形状である。また、第1吸入通路815は、第1シリンダ孔814に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。より詳細には、第1吸入通路815は、駆動軸54の軸線に沿って見たときに、第1シリンダ孔814と重なる位置に配置されている。
各第1吸入通路815には、端面吸入溝523から第1ポンプ室85に向かうブレーキ液の流れのみを許容する第1吸入弁87が配置されている。換言すると、第1吸入弁87は、第1シリンダ孔814に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。また、第1吸入弁87の軸線は、駆動軸54と平行である。
図5に示すように、第1吸入弁87は、第1吸入通路815に圧入された円筒状の吸入弁バルブシート871、吸入弁バルブシート871に接離して第1吸入通路815を開閉する球形状の吸入弁体872、および、吸入弁体872を吸入弁バルブシート871に向かって付勢する吸入弁スプリング873とを備えている。
図2、図3に示すように、ポンプハウジング81には、一端側が各第1ポンプ室85に連通する第1吐出通路816が4個形成されている。この第1吐出通路816は、第2スリーブ81bに形成された第1吐出連通孔811b、および第1吐出溝517を介して、第1吐出用管路514に連通されている。
また、第1吐出通路816は、駆動軸54の軸線に対して直交する方向に延びる段付き円柱孔形状である。さらに、第1シリンダ孔814の軸線に対して、当該第1シリンダ孔814内の第1ポンプ室85に連通する第1吐出通路816の軸線は、直交する方向に延びている。
各第1吐出通路816には、第1ポンプ室85から第1吐出連通孔811bに向かうブレーキ液の流れのみを許容する第1吐出弁88が配置されている。
より詳細には、第1吐出弁88は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第1シリンダ孔814間に配置されている。また、第1吐出弁88と第1シリンダ孔814は、駆動軸54の軸線に対して直交する一つの断面上に配置されるとともに、駆動軸54の回転方向Rに沿って交互に配置されている。さらに、第1吐出弁88は、第1吸入弁87に対して、駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。
図6に示すように、ポンプハウジング81には、テーパ状の吐出弁シート部817が形成されている。第1吐出弁88は、吐出弁シート部817に接離して第1吐出通路816を開閉する球形状の吐出弁体881、吐出弁体881を吐出弁シート部817に向かって付勢する吐出弁スプリング882、および、第1吐出通路816に圧入されて吐出弁スプリング882の一端を受ける吐出弁スプリングシート883とを備えている。
ところで、ポンプ装置を多気筒化する場合、吸入弁および吐出弁がともに隣接するシリンダ孔間に配置される構成にすると、吸入弁と吐出弁の干渉を避けるために大きなスペースを確保する必要が生じ、駆動軸の軸線に沿って見たときのポンプハウジングの投影面積が大きくなってしまう。
これに対し、本実施形態では、第1吐出弁88は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第1シリンダ孔814間に配置され、第1吸入弁87は、第1シリンダ孔814および第1吐出弁88に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。このため、大きなスペースを確保しなくても、すなわち駆動軸54の軸線に沿って見たときのポンプハウジング81の投影面積を大きくしなくても、第1吸入弁87と第1吐出弁88の干渉を避けることができる。
なお、ポンプハウジング81は、多数の制御弁を搭載するためのスペースが必要であり、駆動軸54の軸線方向寸法が長くなっているため、第1シリンダ孔814に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置は、通常デッドスペースになる。したがって、このデッドスペースに第1吸入弁87を配置することにより、ポンプハウジング81の大型化を回避しつつ、ポンプ装置80の多気筒化を図ることができる。
次に、第2ポンプ39について説明する。図2、図4に示すように、ポンプハウジング81には、円柱孔形状の4個の第2シリンダ孔824が、駆動軸54の回転方向Rに沿って駆動軸54の周りに等間隔に設けられている。この第2シリンダ孔824は、ポンプハウジング81の外周面から第2液溜まり813まで貫通している。そして、第2シリンダ孔824の外周側開口部は、第3スリーブ81cにて塞がれている。
駆動軸54の軸線に沿って見たときに、各第2シリンダ孔824の軸線は、いずれも駆動軸54の軸線に対して所定寸法ΔLずれている。換言すると、各第2シリンダ孔824の軸線は、駆動軸54の軸線と交差しない。
また、駆動軸54の軸線に沿って見たときに、各第2シリンダ孔824の軸線は、いずれも同じ方向にずれている。より詳細には、各々の第2シリンダ孔824の軸線に平行で且つ駆動軸54の軸線と交差する線をシリンダ孔仮想軸線としたとき、各々の第2シリンダ孔824の軸線は、各々のシリンダ孔仮想軸線よりも、駆動軸54の回転方向Rとは反対方向側(すなわち、回転方向R後方側)に僅かにずれている。なお、各々の第2シリンダ孔824の軸線が、各々のシリンダ孔仮想軸線よりも、駆動軸54の回転方向R側(すなわち、回転方向R前方側)に僅かにずれていてもよい。
第2シリンダ孔824には、往復動部材としての球形状の第2ボール94が挿入されている。この第2ボール94は、ブレーキ液が吸入・吐出される第2ポンプ室95を第2シリンダ孔824内に区画形成する。また、第2ボール94は、第2ポンプ室95に配置された第2スプリング96により、第2カム58に向かって付勢されている。換言すると、第2ボール94は、一端側の面(すなわち半球状の面)によって第2ポンプ室95を区画形成するとともに、他端側の面が第2カム58に当接している。
そして、第2ボール94は、第2カム58が駆動軸54とともに回転することにより往復動し、その往復動により第2ポンプ室95の容積を変化させるようになっている。
ポンプハウジング81には、第2吸入用管路515と各第2ポンプ室95とを連通させる第2吸入通路818が4個形成されている。この第2吸入通路818は、駆動軸54の軸線と平行方向に延びる円柱孔形状である。また、第2吸入通路818は、第2シリンダ孔824に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。より詳細には、第2吸入通路818は、駆動軸54の軸線に沿って見たときに、第2シリンダ孔824と重なる位置に配置されている。
各第2吸入通路818には、第2吸入用管路515から第2ポンプ室95に向かうブレーキ液の流れのみを許容する第2吸入弁97が配置されている。この第2吸入弁97は、第2シリンダ孔824に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。また、第2吸入弁97の軸線は、駆動軸54と平行である。なお、第2吸入弁97の具体的な構成は第1吸入弁87と実質的に同一である。
ポンプハウジング81には、一端側が各第2ポンプ室95に連通する第2吐出通路819が4個形成されている。この第2吐出通路819は、第3スリーブ81cに形成された第2吐出連通孔811c、および第2吐出溝518を介して、第2吐出用管路516に連通されている。
また、第2吐出通路819は、駆動軸54の軸線の軸線に対して直交する方向に延びる段付き円柱孔形状である。さらに、第2シリンダ孔824の軸線に対して、当該第2シリンダ孔824内の第2ポンプ室95に連通する第2吐出通路819の軸線は、直交する方向に延びている。
各第2吐出通路819には、第2ポンプ室95から第2吐出連通孔811cに向かうブレーキ液の流れのみを許容する第2吐出弁98が配置されている。
より詳細には、第2吐出弁98は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第2シリンダ孔824間に配置されている。また、第2吐出弁98と第2シリンダ孔824は、駆動軸54の軸線に対して直交する一つの断面上に配置されるとともに、駆動軸54の回転方向Rに沿って交互に配置されている。さらに、第2吐出弁98は、第2吸入弁97に対して、駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。なお、第2吐出弁98の具体的な構成は第1吐出弁88と実質的に同一である。
そして、本実施形態では、第2吐出弁98は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第2シリンダ孔824間に配置され、第2吸入弁97は、第2シリンダ孔824および第2吐出弁98に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。このため、大きなスペースを確保しなくても、すなわち駆動軸54の軸線に沿って見たときのポンプハウジング81の投影面積を大きくしなくても、第2吸入弁97と第2吐出弁98の干渉を避けることができる。
ポンプハウジング81の外周部には、3つのOリング106〜108が装着されている。具体的には、Oリング106は、ポンプ挿入孔511におけるプレート52の小径円柱部521が挿入された部位と第1吐出溝517との間を遮断している。Oリング107は、第1吐出溝517と第2吐出溝518との間を遮断している。Oリング108は、第2吐出溝518と第1吸入用管路513との間を遮断している。
次に、第1ポンプ19の作動について説明する。図2、図3に示すように、駆動軸54および第1カム57がモータ60によって駆動されることにより、第1ボール84が第1シリンダ孔814で往復動する。
そして、第1ボール84が第1スプリング86により第1カム57側に向かって押し戻される吸入行程では、第1ポンプ室85の圧力が低下して第1吸入弁87が開弁し、第1吸入用管路513、吸入連通孔524、端面吸入溝523、および第1吸入通路815を介して、第1ポンプ室85にブレーキ液が吸入される。
一方、第1ボール84が第1カム57により押し出される吐出行程では、第1ポンプ室85の圧力が上昇して第1吐出弁88が開弁し、第1ポンプ室85の高圧化されたブレーキ液は、第1吐出通路816、第1吐出連通孔811b、および第1吐出溝517を介して、第1吐出用管路514に吐出される。
ここで、この第1ポンプ19の作動時に、微量のブレーキ液が第1ボール84と第1シリンダ孔814の壁面との隙間を介して第1液溜まり812へ洩れてしまう。第1液溜まり812へ洩れてきたブレーキ液は、ポンプハウジング81とプレート52の小径円柱部521との隙間を介して端面吸入溝523に戻され、吸入行程において第1ポンプ室85に再び吸入される。従って、第1ボール84と第1シリンダ孔814の壁面との隙間からのブレーキ液の微少洩れは許容される。
また、第1ポンプ19の作動時に、第1ボール84を回転させようとする力は、第1カム57と第1ボール84との間の摩擦力である。一方、第1ボール84の回転を阻止しようとする力は、第1シリンダ孔814の壁面と第1ボール84との間の摩擦力である。そして、吐出時のブレーキ液圧の上昇に伴って、そのブレーキ液圧が第1ボール84に与える力が上昇し、第1ボール84が第1カム57を押し付ける力が上昇することにより第1カム57と第1ボール84との間の摩擦力が漸増し、第1シリンダ孔814の壁面と第1ボール84との間の摩擦力よりも大きくなる。したがって、吐出時には第1カム57に対して第1ボール84が転動し、第1カム57および第1ボール84の摩耗が減少する。
また、第1スプリング86の付勢力または第1ポンプ室85のブレーキ液の圧力によって第1ボール84が第1カム57に押し付けられるとともに、第1カム57側から第1ボール84に反力が作用するが、第1シリンダ孔814の軸線が駆動軸54の軸線と交差する構成の場合、第1カム57側から第1ボール84に作用する反力の向きが安定しない。
具体的には、第1ボール84に対する反力の向きが、回転方向R前方側と回転方向R後方側に変化する。このため、第1ボール84は、第1シリンダ孔814の壁面のうち回転方向R前方側の面と回転方向R後方側の面に交互に衝突し、すなわち振動し、音が発生してしまう。
これに対し、本実施形態の第1ポンプ19は、第1シリンダ孔814の軸線が駆動軸54の軸線に対して所定寸法ΔLずれているため、第1ボール84に対する反力の向きは一定となる。より詳細には、第1ボール84に対する反力の向きは、常に回転方向R後方側になる。したがって、第1ボール84は、第1シリンダ孔814の壁面のうち常に回転方向R後方側の面に接触した状態になり、すなわち振動しなくなり、衝突音は発生しない。
なお、第1ポンプ19は、第1ボール84と第1吸入弁87と第1吐出弁88とを主要構成要素とするポンプ機構を4つ備えており、それらのポンプ機構は、90°ずつ位相がずれてブレーキ液の吸入・吐出を行う。
次に、第2ポンプ39の作動について説明する。図2、図4に示すように、駆動軸54および第2カム58がモータ60によって駆動されることにより、第2ボール94が第2シリンダ孔824で往復動する。
そして、第2ボール94が第2スプリング96により第2カム58側に向かって押し戻される吸入行程では、第2ポンプ室95の圧力が低下して第2吸入弁97が開弁し、第2吸入用管路515、および第2吸入通路818を介して、第2ポンプ室95にブレーキ液が吸入される。
一方、第2ボール94が第2カム58により押し出される吐出行程では、第2ポンプ室95の圧力が上昇して第2吐出弁98が開弁し、第2ポンプ室95の高圧化されたブレーキ液は、第2吐出通路819、第2吐出連通孔811c、および第2吐出溝518を介して、第2吐出用管路516に吐出される。
ここで、この第2ポンプ39の作動時に、微量のブレーキ液が第2ボール94と第2シリンダ孔824の壁面との隙間を介して第2液溜まり813へ洩れてしまう。第2液溜まり813へ洩れてきたブレーキ液は、ベアリング56の隙間を通り、第2吸入用管路515に戻され、吸入行程において第2ポンプ室95に再び吸入される。従って、第2ボール94と第2シリンダ孔824の壁面との隙間からのブレーキ液の微少洩れは許容される。
また、吐出時のブレーキ液圧の上昇に伴って第2カム58と第2ボール94との間の摩擦力が漸増し、第2シリンダ孔824の壁面と第2ボール94との間の摩擦力よりも大きくなる。したがって、吐出時には第2カム58に対して第2ボール94が転動し、第2カム58および第2ボール94の摩耗が減少する。
また、第2シリンダ孔824の軸線が駆動軸54の軸線に対して所定寸法ΔLずれているため、第2ボール94に対する反力の向きは一定となる。より詳細には、第2ボール94に対する反力の向きは、常に回転方向R後方側になる。したがって、第2ボール94は、第2シリンダ孔824の壁面のうち常に回転方向R後方側の面に接触した状態になり、すなわち振動しなくなり、衝突音は発生しない。
なお、第2ポンプ39は、第2ボール94と第2吸入弁97と第2吐出弁98とを主要構成要素とするポンプ機構を4つ備えており、それらのポンプ機構は、90°ずつ位相がずれてブレーキ液の吸入・吐出を行う。
図1に戻り、ブレーキECU70は、横滑り防止制御やトラクション制御もしくはABS制御などの車両運動制御を実行する際に、モータ60を駆動することによってポンプ19、39を駆動する。これによりポンプ装置80内では、ポンプ19、39が吸入用管路を通じてブレーキ液を吸入し、吐出用管路を通じてブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ作動が行われる。
具体的には、横すべり防止制御やトラクション制御等のように、M/C13内にM/C圧が発生させられていないときには、ブレーキ液が管路D、Hを通じてポンプ19、39によって吸入され、管路A、Eに供給される。これにより、W/C14、15、34、35が加圧される。また、ABS制御のように、ロック傾向に至るような過剰なW/C圧が発生しているときには、管路B、Fを通じてリザーバ20、40に逃がされたブレーキ液をポンプ19、39にて吸入吐出する。これにより、リザーバ20、40内がブレーキ液で満たされないようにし、適正スリップ率となるようにW/C圧を増減圧させる。このようにして、車両用ブレーキ装置およびポンプ19、39が作動する。
以上説明したように、本実施形態では、従来のポンプ装置におけるピストンエレメントに相当する部品は、ボール84、94のみであるため、部品点数を少なくしてポンプ装置の簡素化を図ることができる。
また、カム57、58とボール84、94との間の摩擦力にて、吐出時にはカム57、58に対してボール84、94を転動させて、カム57、58およびボール84、94の摩耗を減少させることができる。
また、シリンダ孔814、824の軸線が駆動軸54の軸線に対して所定寸法ΔLずれているため、ボール84、94に対する反力の向きは一定となり、振動が防止されて衝突音の発生が防止される。
また、第1吐出弁88は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第1シリンダ孔814間に配置され、第1吸入弁87は、第1シリンダ孔814および第1吐出弁88に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。
同様に、第2吐出弁98は、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第2シリンダ孔824間に配置され、第2吸入弁97は、第2シリンダ孔824および第2吐出弁98に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置されている。
このような構成により、大きなスペースを確保しなくても、第1吸入弁87と第1吐出弁88の干渉および第2吸入弁97と第2吐出弁98の干渉を避けることができる。したがって、大型化を回避しつつ、ポンプ装置80の多気筒化を図ることができる。
なお、上記実施形態においては、第1吐出弁88を、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第1シリンダ孔814間に配置し、第1吸入弁87を、第1シリンダ孔814および第1吐出弁88に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置したが、第1吸入弁87を、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第1シリンダ孔814間に配置し、第1吐出弁88を、第1シリンダ孔814および第1吸入弁87に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置してもよい。この際、第1吸入弁87と第1シリンダ孔814は、駆動軸54の軸線に対して直交する一つの断面上に配置される。このようにしても、大きなスペースを確保しなくても、第1吸入弁87と第1吐出弁88の干渉を避けることができる。
また、上記実施形態においては、第2吐出弁98を、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第2シリンダ孔824間に配置し、第2吸入弁97を、第2シリンダ孔824および第2吐出弁98に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置したが、第2吸入弁97を、駆動軸54の回転方向Rに隣接する第2シリンダ孔824間に配置し、第2吐出弁98を、第2シリンダ孔824および第2吸入弁97に対して駆動軸54の軸方向にずれた位置に配置してもよい。この際、第2吸入弁97と第2シリンダ孔824は、駆動軸54の軸線に対して直交する一つの断面上に配置される。このようにしても、大きなスペースを確保しなくても、第2吸入弁97と第2吐出弁98の干渉を避けることができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、本発明のポンプ装置を車両用ブレーキ装置に適用したが、本発明のポンプ装置は車両用ブレーキ装置以外にも適用することができる。
また、上記実施形態においては、往復動部材としてボール84、94を用いたが、特許文献1に記載されたポンプ装置のように、往復動部材として円柱状のピストンを用いてもよい。
また、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
また、上記実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
また、上記実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
また、上記実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。