JP2017013487A - インクジェットヘッド及びインクジェットプリンタ - Google Patents
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Abstract
【課題】駆動状態に係らずマルチドロップの吐出速度を安定化でき、高品質な印刷が可能なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクが収容される圧力室と、圧力室に対応して設けられるアクチュエータと、圧力室に連通するノズルを有するプレートと、アクチュエータを駆動する駆動回路とを備える。駆動回路は、アクチュエータに、駆動パルス信号として圧力室の容積を拡張させる拡張パルスと圧力室の容積を収縮させる収縮パルスとを印加して当該圧力室に連通する前記ノズルからインク滴を吐出させる前に、ノズルからインク滴が吐出しない程度の拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルス信号をアクチュエータに印加する。
【選択図】 図8
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクが収容される圧力室と、圧力室に対応して設けられるアクチュエータと、圧力室に連通するノズルを有するプレートと、アクチュエータを駆動する駆動回路とを備える。駆動回路は、アクチュエータに、駆動パルス信号として圧力室の容積を拡張させる拡張パルスと圧力室の容積を収縮させる収縮パルスとを印加して当該圧力室に連通する前記ノズルからインク滴を吐出させる前に、ノズルからインク滴が吐出しない程度の拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルス信号をアクチュエータに印加する。
【選択図】 図8
Description
本発明の実施形態は、インクジェットヘッド及びこのヘッドを用いたインクジェットプリンタに関する。
互いに隣接する圧力室の隔壁をアクチュエータとするタイプのインクジェットヘッドがある。このタイプのインクジェットヘッドでは、拡張パルスと収縮パルスとを含む駆動パルス信号がアクチュエータに印加されると、隔壁が圧力室を拡張させる方向または収縮させる方向に変形して、圧力室内に圧力振動が発生する。この圧力振動により圧力室内の容積が変化して、その圧力室に連通するノズルからインク滴が吐出される。
このように、インクジェットヘッドは、圧力室の隔壁を変形させることでノズルからインク滴を吐出させるため、互いに隣接する圧力室にそれぞれ連通した隣り合うノズルからインク滴を同時に吐出することはできない。そこで、インクジェットヘッドは、各圧力室を例えば2個おきの3組に分割し、組毎に駆動パルス信号の位相を変えている。このため、画像パターンによっては、インクを吐出するノズルは1つであり、他のノズルからはインクが吐出されない状態(以下、単ノズル駆動状態と称する)と、インクを吐出するのはいずれか1組に属するノズルであり、他の組に属するノズルからはインクが吐出されない状態(以下、複ノズル同時駆動状態と称する)と、少なくとも2つの組に属するノズルから時分割でインクが吐出される状態(以下、複ノズル連続駆動状態と称する)とが生じる。
インクジェットヘッドは、階調印字を行う場合に1つのノズルから吐出されるインク滴の数を調整するマルチドロップ方式を採用する。マルチドロップ方式を採用した場合、2ドロップ目以降のインク滴は、その直前に吐出したインク滴の残留圧力振動により吐出速度が速まる。しかし、1ドロップ目のインク滴は、メニスカスが静止した状態から圧力振動が付与されるため、2ドロップ目以降と比較して吐出速度が遅い。1滴目を吐出させる駆動パルス信号の前に、圧力室の圧力振動を増幅するための補助パルス信号(ブーストパルス)を加えることで、1滴目の吐出速度を高める技術がある。
複ノズル同時駆動状態のときには、2滴目の吐出速度が1滴目よりも遅くなってしまい、2滴目が1滴目から分離して着弾するという弊害がある。
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、駆動状態に係らずマルチドロップの吐出速度を安定化でき、高品質な印刷が可能なインクジェットヘッド及びこのヘッドを用いたインクジェットプリンタを提供しようとするものである。
一実施形態において、インクジェットヘッドは、インクが収容される圧力室と、圧力室に対応して設けられるアクチュエータと、圧力室に連通するノズルを有するプレートと、アクチュエータを駆動する駆動回路とを備える。駆動回路は、アクチュエータに、駆動パルス信号として圧力室の容積を拡張させる拡張パルスと圧力室の容積を収縮させる収縮パルスとからなる駆動波形を1回乃至連続する複数回を印加して当該圧力室に連通するノズルから1ドロップ乃至連続する複数ドロップのインク滴を吐出させる前に、ノズルからインク滴が吐出しない程度の拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルス信号をアクチュエータに印加し、1ドロップ目を吐出する場合の吐出速度と連続して2ドロップを吐出する場合の2ドロップ目の吐出速度とをほぼ等しくする。
以下、実施形態に係るインクジェットヘッド及びこのヘッドを用いたインクジェットプリンタについて、図面を用いて説明する。因みにこの実施形態では、インクジェットヘッドとしてシェアモード・シェアードウォールタイプのインクジェットヘッド100(図1を参照)を例示する。
はじめに、インクジェットヘッド100(以下、ヘッド100と略称する)の構成について、図1乃至図3を用いて説明する。図1は、ヘッド100の一部を分解して示す斜視図、図2は、ヘッド100の前方部における縦断面図、図3は、ヘッド100の前方部における横断面図である。
ヘッド100は、ベース基板9を有する。ヘッド100は、ベース基板9の前方側の上面に第1の圧電部材1を接合し、この第1の圧電部材1の上に第2の圧電部材2を接合する。接合された第1の圧電部材1と第2の圧電部材2とは、図2の矢印で示すように、板厚方向に沿って互いに相反する方向に分極する。
ベース基板9は、誘電率が小さく、かつ圧電部材1,2との熱膨張率の差が小さい材料を用いて形成する。ベース基板9の材料としては、例えばアルミナ(Al203)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等がよい。一方、圧電部材1,2の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等が用いられる。
ヘッド100は、接合された圧電部材1,2の先端側から後端側に向けて、多数の長尺な溝3を設ける。各溝3は、間隔が一定でありかつ平行である。各溝3は、先端が開口し、後端が上方に傾斜する。
ヘッド100は、各溝3の側壁及び底面に電極4を設ける。電極4は、ニッケル(Ni)と金(Au)との二層構造となっている。電極4は、例えばメッキ法によって各溝3内に均一に成膜される。電極4の形成方法は、メッキ法に限定されない。他に、スパッタ法や蒸着法等を用いることもできる。
ヘッド100は、各溝3の後端から第2の圧電部材2の後部上面に向けて引出し電極10を設ける。引出し電極10は、前記電極4から延出する。
ヘッド100は、天板6とオリフィスプレート7とを備える。天板6は、各溝3の上部を塞ぐ。オリフィスプレート7は、各溝3の先端を塞ぐ。ヘッド100は、天板6とオリフィスプレート7とで囲まれた各溝3によって、複数の圧力室15を形成する。圧力室15は、例えば深さが300μmで幅が80μmの形状を有し、169μmのピッチで平行に配列される。このような圧力室15は、インク室とも称される。
天板6は、その内側後方に共通インク室5を備える。オリフィスプレート7は、各溝3と対向する位置にノズル8を穿設する。ノズル8は、対向する溝3つまりは圧力室15と連通する。ノズル8は、圧力室15側から反対側のインク吐出側に向けて先細りの形状をなす。ノズル8は、隣り合う3つの圧力室15に対応したものを1組とし、溝3の高さ方向(図2の紙面の上下方向)に一定の間隔でずれて形成される。
ヘッド100は、ベース基板9の後方側の上面に、導電パターン13が形成されたプリント基板11を接合する。そしてヘッド100は、このプリント基板11に、後述するヘッド駆動回路101を実装したドライブIC12を搭載する。ドライブIC12は、導電パターン13に接続する。導電パターン13は、各引出し電極10とワイヤボンディングにより導線14で結合する。
ヘッド100が有する圧力室15、電極4及びノズル8のセットをチャネルと称する。すなわちヘッド100は、溝3の数Nだけチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nを有する。
次に、上記の如く構成されたヘッド100の動作原理について、図4A及び図4Bを用いて説明する。
図4Aの(a)は、中央の圧力室15bと、この圧力室15bに隣接する両隣の圧力室15a,15cとの各壁面にそれぞれ配設された電極4の電位がいずれもグラウンド電位GNDである状態を示している。この状態では、互いに隣接する圧力室15a,15bで挟まれた隔壁16a及び同じく隣接する圧力室15b,15cで挟まれた隔壁16bは、いずれも何ら歪み作用を受けない。
図4Aの(a)は、中央の圧力室15bと、この圧力室15bに隣接する両隣の圧力室15a,15cとの各壁面にそれぞれ配設された電極4の電位がいずれもグラウンド電位GNDである状態を示している。この状態では、互いに隣接する圧力室15a,15bで挟まれた隔壁16a及び同じく隣接する圧力室15b,15cで挟まれた隔壁16bは、いずれも何ら歪み作用を受けない。
図4Aの(b)は、中央の圧力室15bの電極4に負極性の電圧−Vが印加され、両隣の圧力室15a,15cの電極4に正極性の電圧+Vが印加された状態を示している。この状態では、各隔壁16a,16bに対して、圧電部材1,2の分極方向と直交する方向に電圧Vの2倍の電界が作用する。この作用により、各隔壁16a,16bは、圧力室15bの容積を拡張するようにそれぞれ外側に変形する。
図4Aの(c)は、中央の圧力室15bの電極4に正極性の電圧+Vが印加され、両隣の圧力室15a,15cの電極4に負極性の電圧−Vが印加された状態を示している。この状態では、各隔壁16a,16bに対して、図4(b)のときとは逆の方向に電圧Vの2倍の電界が作用する。この作用により、各隔壁16a,16bは、圧力室15bの容積を収縮するようにそれぞれ内側に変形する。
圧力室15bの容積が拡張または収縮された場合、圧力室15b内に圧力振動が発生する。この圧力振動により、圧力室15b内の圧力が高まり、圧力室15bに連通するノズル8からインク滴が吐出される。
このように、圧力室15a,15bを隔てる隔壁16aと、圧力室15b,15cを隔てる隔壁16bとは、当該隔壁16a,16bを壁面とする圧力室15bの内部に圧力振動を与えるためのアクチュエータとなる。つまり各圧力室15は、それぞれ隣接する圧力室15とアクチュエータを共有する。このため、ヘッド駆動回路101は、各圧力室15を個別に駆動することができない。ヘッド駆動回路101は、各圧力室15をn(nは2以上の整数)個おきに(n+1)個のグループに分割して駆動する。本実施形態では、ヘッド駆動回路101が、各圧力室15を2つおきに3つの組に分けて分割駆動する、いわゆる3分割駆動の場合を例示する。なお、3分割駆動はあくまでも一例であり、4分割駆動または5分割駆動などであってもよい。
ところで図4Aの(a),(b),(c)では、中央の圧力室15bに対応するノズルからインクを吐出させるために、中央の圧力室15bの電極4と両隣の圧力室15a,15cの電極4とに極性が逆の電圧+V、−Vを与えた。つまり、電圧Vの2倍をアクチュエータの厚さで割った値の電界をアクチュエータに作用させた。中央の圧力室15bに対応するノズルからインクを吐出させる例は、これに限らない。
図4Bの(a),(b),(c)では、両隣の圧力室15a,15cの電極4をグラウンド電位GNDとし、中央の圧力室15bの電極4にのみ−V、+Vを与える。つまり、電圧Vをアクチュエータの厚さで割った値の電界をアクチュエータに作用させる。この場合も、与える電圧Vを2倍にすればアクチュエータの動作は図4Aの場合と全く同じとなる。図4Bの方が説明は簡単になるので以下では図4Bの場合を中心に説明する。
ところで図4Aの(a),(b),(c)では、中央の圧力室15bに対応するノズルからインクを吐出させるために、中央の圧力室15bの電極4と両隣の圧力室15a,15cの電極4とに極性が逆の電圧+V、−Vを与えた。つまり、電圧Vの2倍をアクチュエータの厚さで割った値の電界をアクチュエータに作用させた。中央の圧力室15bに対応するノズルからインクを吐出させる例は、これに限らない。
図4Bの(a),(b),(c)では、両隣の圧力室15a,15cの電極4をグラウンド電位GNDとし、中央の圧力室15bの電極4にのみ−V、+Vを与える。つまり、電圧Vをアクチュエータの厚さで割った値の電界をアクチュエータに作用させる。この場合も、与える電圧Vを2倍にすればアクチュエータの動作は図4Aの場合と全く同じとなる。図4Bの方が説明は簡単になるので以下では図4Bの場合を中心に説明する。
次に、インクジェットプリンタ200(以下、プリンタ200と略称する)の構成について、図5〜図7を用いて説明する。図5は、プリンタ200のハードウェア構成を示すブロック図、図6は、ヘッド駆動回路101の具体的構成を示すブロック図、図7は、ヘッド駆動回路101に含まれるバッファ回路1013とスイッチ回路1014との概略回路図である。プリンタ200は、例えばオフィス用プリンタ、バーコードプリンタ、POS用プリンタ、産業用プリンタ等に適用される。
プリンタ200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、操作パネル204、通信インターフェース205、搬送モータ206、モータ駆動回路207、ポンプ208、ポンプ駆動回路209及びヘッド100を備える。またプリンタ200は、アドレスバス,データバスなどのバスライン211を含む。そしてプリンタ200は、このバスライン211に、CPU201、ROM202、RAM203、操作パネル204、通信インターフェース205、モータ駆動回路207、ポンプ駆動回路209及びヘッド100の駆動回路101をそれぞれ直接あるいは入出力回路を介して接続する。
CPU201は、コンピュータの中枢部分に相当する。CPU201は、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムに従って、プリンタ200としての各種の機能を実現するべく各部を制御する。
ROM202は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。ROM202は、上記のオペレーティングシステムやアプリケーションプログラムを記憶する。ROM202は、CPU201が各部を制御するための処理を実行する上で必要なデータを記憶する場合もある。
RAM203は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。RAM203は、CPU201が処理を実行する上で必要なデータを記憶する。またRAM203は、CPU201によって情報が適宜書き換えられるワークエリアとしても利用される。ワークエリアは、印刷データが展開される画像メモリを含む。
操作パネル204は、操作部と表示部とを有する。操作部は、電源キー、用紙フィードキー、エラー解除キー等のファンクションキーを配置したものである。表示部は、プリンタ200の種々の状態を表示可能なものである。
通信インターフェース205は、LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続されるクライアント端末から印刷データを受信する。通信インターフェース205は、例えばプリンタ200にエラーが発生したとき、エラーを通知する信号をクライアント端末に送信する。
モータ駆動回路207は、搬送モータ206の駆動を制御する。搬送モータ206は、印刷用紙などの記録媒体を搬送する搬送機構の駆動源として機能する。搬送モータ206が駆動すると、搬送機構が記録媒体の搬送を開始する。搬送機構は、記録媒体をヘッド100による印刷位置まで搬送する。搬送機構は、印刷を終えた記録媒体を図示しない排出口からプリンタ200の外部に排出する。
ポンプ駆動回路209は、ポンプ208の駆動を制御する。ポンプ208が駆動すると、図示しないインクタンク内のインクがヘッド100に供給される。
ヘッド駆動回路101は、印刷データに基づきヘッド100のチャネル群102を駆動する。ヘッド駆動回路101は、図6に示すように、パターンジェネレータ1011、ロジック回路1012、バッファ回路1013及びスイッチ回路1014を含む。
パターンジェネレータ1011は、吐出当該波形、吐出両隣波形、非吐出当該波形、非吐出両隣波形等の波形パターンを生成する。パターンジェネレータ1011で生成された波形パターンのデータは、ロジック回路1012に供給される。
ロジック回路1012は、画像メモリから1ラインずつ読み出される印刷データの入力を受け付ける。印刷データが入力されると、ロジック回路1012は、ヘッド100の隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)を1セットとし、そのうちひとつのチャネル、例えば中央のチャネルch.iがインクを吐出する吐出チャネルなのか、インクを吐出しない非吐出チャネルなのかを決定する。そして、チャネルch.iが吐出チャネルの場合、ロジック回路1012は、このチャネルch.iに対して吐出当該波形のパターンデータを出力し、かつ、その両隣のチャネルch.(i-1),ch.(i+1)に対して吐出両隣波形のパターンデータを出力する。チャネルch.iが非吐出チャネルの場合、ロジック回路1012は、このチャネルch.iに対して非吐出当該波形のパターンデータを出力し、かつ、その両隣のチャネルch.(i-1),ch.(i+1)に対して非吐出両隣波形のパターンデータを出力する。ロジック回路1012から出力される各パターンデータは、バッファ回路1013に与えられる。
バッファ回路1013は、正電圧Vccの電源と負電圧−Vの電源とを接続する。またバッファ回路1013は、図7に示すように、ヘッド100のチャネルch.1,ch.2,…, ch.N毎にプリバッファPB1,PB2,…,PBNを備える。なお、図7では、隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)にそれぞれ対応したプリバッファPB(i-1),PBi,PB(i+1)を示す。
各プリバッファPB1,PB2,…,PBNは、それぞれ第1〜第3の3つのバッファB1,B2,B3を有する。各バッファB1,B2,B3は、それぞれ正電圧Vccの電源と負電圧−Vの電源とに接続される。
各プリバッファPB1,PB2,…,PBNにおいて、第1〜第3のバッファB1,B2,B3の出力は、ロジック回路1012から供給されるパターンデータの信号レベルに応じて変化する。ロジック回路1012からは、対応するチャネルch.k(1≦k≦N)が吐出チャネルなのか、非吐出チャネルなのか、吐出チャネルまたは非吐出チャネルに隣接するチャネルなのかによってそれぞれ異なるレベルの信号が供給される。ハイレベル信号が供給された第1〜第3のバッファB1,B2,B3は、正電圧Vccレベルの信号を出力する。ローレベル信号が供給された第1〜第3のバッファB1,B2,B3は、負電圧−Vレベルの信号を出力する。
各プリバッファPB1,PB2,…,PBNの出力、すなわち第1〜第3のバッファB1,B2,B3の出力信号は、スイッチ回路1014に与えられる。
スイッチ回路1014は、正電圧Vccの電源と、正電圧+Vの電源と、負電圧−Vの電源とグラウンド電位GNDとを接続する。正電圧Vccは正電圧+Vよりも高い。その代表的な値としては、正電圧Vccが24ボルトであり、正電圧+Vが15ボルトである。この場合、負電圧−Vは−15ボルトである。
ただし、正電圧及び負電圧の適正値はインクの粘度によって異なる。インクの粘度はインクの種類や使用温度によって異なる。このため、正電圧+V及び負電圧−Vはインクの種類や使用温度に応じて±15ボルト〜±30ボルト程度の範囲で選ばれる。その際、正電圧Vccは正電圧+Vよりも高くなくてはならないので、正電圧+V及び負電圧−Vが最大±30ボルトであれば正電圧Vccは例えば39ボルトとする。
ただし、正電圧及び負電圧の適正値はインクの粘度によって異なる。インクの粘度はインクの種類や使用温度によって異なる。このため、正電圧+V及び負電圧−Vはインクの種類や使用温度に応じて±15ボルト〜±30ボルト程度の範囲で選ばれる。その際、正電圧Vccは正電圧+Vよりも高くなくてはならないので、正電圧+V及び負電圧−Vが最大±30ボルトであれば正電圧Vccは例えば39ボルトとする。
スイッチ回路1014は、図7に示すように、ヘッド100のチャネルch.1,ch.2,…,ch.N毎にドライバDR1,DR2,…,DRNを有する。なお、図7では、隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)にそれぞれ対応したドライバDR (i-1),DRi,DR(i+1)を示す。
各ドライバDR1,DR2,…,DRNは、それぞれPMOSタイプの電界効果トランジスタT1(以下、第1トランジスタT1と称する)と、NMOSタイプの2つの電界効果トランジスタT2,T3(以下、第2トランジスタT2,第3トランジスタT3と称する)とを含む。各ドライバDR1,DR2,…,DRNは、それぞれ正電圧+Vの電源とグラウンド電位GNDとの間に、第1トランジスタT1と第2トランジスタT2との直列回路を接続し、さらにこの第1トランジスタT1と第2トランジスタT2との接続点と負電圧−Vの電源との間に、第3トランジスタT3を接続する。また各ドライバDR1,DR2,…,DRNは、それぞれ第1トランジスタT1のバックゲートを正電圧Vccの電源に接続し、第2トランジスタ及び第3トランジスタのバックゲートをそれぞれ負電圧−Vの電源に接続する。さらに各ドライバDR1,DR2,…,DRNは、それぞれ対応するプリバッファPB1,PB2,…,PBNの第1のバッファB1を第2トランジスタT2のゲートに接続し、第2のバッファB2を第1トランジスタT1のゲートに接続し、第3のバッファB3を第3トランジスタT3のゲートに接続する。そして各ドライバDR1,DR2,…,DRNは、それぞれ第1トランジスタT1と第2トランジスタT2との接続点の電位を、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に印加する。
したがって、第1トランジスタT1は、第2のバッファB2から正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオフし、負電圧−Vレベルの信号が入力されるとオンする。第2トランジスタT2は、第1のバッファB1から正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオンし、負電圧−Vレベルの信号が入力されるとオフする。第3トランジスタT3は、第3のバッファB3から正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオンし、負電圧−Vレベルの信号が入力されるとオフする。
このような構成のドライバDR1,DR2,…,DRNは、第1トランジスタT1がオンし、第2トランジスタT2と第3トランジスタT3とがオフすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に正電圧+Vを印加する。ドライバDR1,DR2,…,DRNは、第1トランジスタT1と第3トランジスタT3とが同時にオフし、第2トランジスタT2がオンすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4の電位をグラウンドGNDレベルとする。ドライバDR1,DR2,…,DRNは、第1トランジスタT1と第2トランジスタT2とが同時にオフし、第3トランジスタT3がオンすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に負電圧−Vを印加する。
図8は、インクを吐出するチャネル(吐出チャネルch.x)の電極4に印加される駆動パルス信号の波形図である。この駆動パルス信号は、ヘッド駆動回路101のパターンジェネレータ1011で生成される吐出当該波形のパターンデータに従ったパルス信号である。図8において、区間T1は、吐出チャネルch.xのノズル8から1滴のインク滴を吐出するためのパルス波形(吐出パルス波形)を示す。吐出パルス波形は、区間Dの拡張パルスEPと、区間Pの収縮パルスCPとを含む。拡張パルスEPと収縮パルスCPとの間の区間Rは、グラウンド電位GNDを維持する。拡張パルスEPの中心と収縮パルスCPの中心との時間間隔は、インクの共振周期2ALと等しい。因みに、マルチドロップ方式で2ドロップ目を吐出する場合には、区間T1に続く区間T2において、区間T1のときと同様の吐出パルス波形が繰り返される。3ドロップ目以降も同様である。
拡張パルスEPは、吐出チャネルch.xの電極4を負電位とする。すなわち、吐出チャネルch.xに対応したドライバDRxに対し、第1トランジスタT1と第2トランジスタT2とが同時にオフし、第3トランジスタT3がオンするように、バッファ回路1013からスイッチ回路1014に出力される信号のレベルが変化する。吐出チャネルch.xの電極4が負電位になることで、吐出チャネルch.xの圧力室15は拡張する。
収縮パルスCPは、吐出チャネルch.xの電極4を正電位とする。すなわち、吐出チャネルch.xに対応したドライバDRxに対し、第1トランジスタT1がオンし、第2トランジスタT2と第3トランジスタT3とがオフするように、バッファ回路1013からスイッチ回路1014に出力される信号のレベルが変化する。吐出チャネルch.xの電極4が正電位になることで、吐出チャネルch.xの圧力室15は収縮する。
拡張パルスEPと収縮パルスCPとの間は、吐出チャネルch.xの電極4がグラウンド電位GNDである。すなわち、吐出チャネルch.xに対応したドライバDRxに対し、第1トランジスタT1と第3トランジスタT3とが同時にオフし、第2トランジスタT2がオンするように、バッファ回路1013からスイッチ回路1014に出力される信号のレベルが変化する。吐出チャネルch.xの電極4がグラウンド電位GNDになることで、拡張または圧縮されていた吐出チャネルch.xの圧力室15は、復元する。
すなわち区間T1において、吐出チャネルch.xの圧力室15は、先ず拡張し、続いて復元し、その後収縮し、再び復元する。このような圧力室15の容積変化により、この圧力室15に連通するノズル8からインク滴が吐出される。区間T2以降についても、区間T1と同様に、拡張、復元、収縮、復元を繰り返すことでノズル8からインク滴が吐出される。
さて本実施形態では、1ドロップ目のインク滴が吐出される区間T1の前に補助パルス信号の出力区間T0を追加する。補助パルス信号は、1ドロップ目の拡張パルスEPの直前に印加される第1の補助パルスSP1と、この第1の補助パルスSP1よりも前に印加される第2の補助パルスSP2とを含む。第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2との間の区間は、グラウンド電位GNDを維持する。第1の補助パルスSP1の中心と第2の補助パルスSP2の中心との時間間隔は、インクの共振周期2ALと等しい。
第1の補助パルスSP1は、拡張パルスEPとは逆極性であり、パルス幅w1を有する。第2の補助パルスSP2は、第1の補助パルスSP1とは逆極性であり、第1の補助パルスSP1と同じパルス幅w1を有する。パルス幅w1は、拡張パルスEPのパルス幅(区間D)及び収縮パルスCPのパルス幅(区間P)と比較して十分に短い。
第2の補助パルスSP2は、吐出チャネルch.xの電極4を負電位とする。吐出チャネルch.xの電極4が負電位になることで、吐出チャネルch.xの圧力室15は拡張する。すなわち第2の補助パルスSP2は、拡張パルスである。
第1の補助パルスSP1は、吐出チャネルch.xの電極4を正電位とする。吐出チャネルch.xの電極4が正電位になることで、吐出チャネルch.xの圧力室15は収縮する。すなわち第1の補助パルスSP1は、収縮パルスである。
このように、補助パルス信号の出力区間T0においても、区間T1と同様に、吐出チャネルch.xの圧力室15は、先ず拡張し、続いて復元し、その後収縮し、再び復元する。しかしながら、第1及び第2の補助パルスSP1,SP2のパルス幅w1は、拡張パルスEPのパルス幅(区間D)及び収縮パルスCPのパルス幅(区間P)と比較して十分に短いため、ノズル8からインク滴が吐出されない。換言すれば、第1及び第2の補助パルスSP1,SP2のパルス幅w1は、ノズル8からインク滴が吐出しない程度の幅に設定されている。
ここで、補助パルス信号を加えたことによる作用効果を説明する前に、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態、複ノズル連続駆動状態について今一度説明する。
本実施形態のヘッド100は、圧力室15の隔壁を隣接するチャネルで共有しており、ノズル8は3列の千鳥配置となっている。そして、各圧力室15を2つおきに3つの組に分けて分割駆動する、いわゆる3分割駆動である。
単ノズル駆動状態とは、いずれか1つのノズル8からしかインクが吐出されない状態をいう。単ノズル駆動状態においては、インクを吐出するチャネルが一つだけである。このため、インクを吐出したチャネルの圧力室15に生じた圧力が周囲のチャネルに伝搬して、圧力室15の挙動としては空間方向に少し複雑な挙動を示す。
複ノズル同時駆動状態とは、いずれか1つの組に属するノズルからインクが吐出され、他の組に属するノズルからはインクが吐出されない状態をいう。複ノズル同時駆動状態においては、ノズル8の並び方向に一定の間隔を開けて配列された複数のチャネルから同時にインクが吐出されるため、全ての圧力室15が均一の挙動となる。このため、圧力室15の挙動としては最もシンプルな挙動となる。
ここで、補助パルス信号を加えたことによる作用効果を説明する前に、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態、複ノズル連続駆動状態について今一度説明する。
本実施形態のヘッド100は、圧力室15の隔壁を隣接するチャネルで共有しており、ノズル8は3列の千鳥配置となっている。そして、各圧力室15を2つおきに3つの組に分けて分割駆動する、いわゆる3分割駆動である。
単ノズル駆動状態とは、いずれか1つのノズル8からしかインクが吐出されない状態をいう。単ノズル駆動状態においては、インクを吐出するチャネルが一つだけである。このため、インクを吐出したチャネルの圧力室15に生じた圧力が周囲のチャネルに伝搬して、圧力室15の挙動としては空間方向に少し複雑な挙動を示す。
複ノズル同時駆動状態とは、いずれか1つの組に属するノズルからインクが吐出され、他の組に属するノズルからはインクが吐出されない状態をいう。複ノズル同時駆動状態においては、ノズル8の並び方向に一定の間隔を開けて配列された複数のチャネルから同時にインクが吐出されるため、全ての圧力室15が均一の挙動となる。このため、圧力室15の挙動としては最もシンプルな挙動となる。
複ノズル連続駆動状態とは、少なくとも2つの組に属するノズルから時分割でインクが吐出される状態をいう。複ノズル連続駆動状態においては、隣接するチャネルからインクが吐出された際に、その隣接チャネルとアクチュエータを共有する当該チャネルで片壁のアクチュエータを駆動した履歴が残る。この履歴が、当該チャネルのアクチュエータの動作に影響を及ぼし、圧力室15の挙動としては時間方向に複雑な挙動を示す。
以上のような理由から、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態、複ノズル連続駆動状態の3つのモードでそれぞれ同一ノズルから1ドロップだけを吐出する場合と2ドロップ以上連続して吐出する場合とで、インク滴の吐出速度を評価する。因みに、同一ノズルからインク滴を連続して吐出してその吐出する数の多少により印刷媒体上のドット径の大小を調節するグレースケール印字方式はマルチドロップ方式と呼ばれる。マルチドロップ方式において、安定した吐出状態を得るためには、連続するインク滴の数による吐出速度の変化は小さいことが望ましい。
以上のような理由から、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態、複ノズル連続駆動状態の3つのモードでそれぞれ同一ノズルから1ドロップだけを吐出する場合と2ドロップ以上連続して吐出する場合とで、インク滴の吐出速度を評価する。因みに、同一ノズルからインク滴を連続して吐出してその吐出する数の多少により印刷媒体上のドット径の大小を調節するグレースケール印字方式はマルチドロップ方式と呼ばれる。マルチドロップ方式において、安定した吐出状態を得るためには、連続するインク滴の数による吐出速度の変化は小さいことが望ましい。
次に、補助パルス信号を加えたことによる作用効果について、図9〜図11を用いて説明する。図9〜図11は、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態において、マルチドロップ方式により1ドロップのみ、または、2〜5ドロップを連続して吐出したときの吐出速度[m/s]の一例を示している。図9〜図11において、横軸の数値“1”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度である。横軸の数値“2”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して2ドロップを吐出したときの2ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“3”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して3ドロップを吐出したときの3ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“4”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して4ドロップを吐出したときの4ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“5”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して5ドロップを吐出したときの5ドロップ目の吐出速度である。そして図9は、補助パルス波形を加えなかったときのグラフであり、図10は、第1の補助パルスSP1だけを加えたときのグラフであり、図11は、第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2とを加えたときのグラフである。各図において、実線のグラフは、単ノズル駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。一点鎖線のグラフは、複ノズル同時駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。破線のグラフは、複ノズル連続駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。
補助パルス波形を加えなかった場合は、図9に示すように、単ノズル駆動状態及び複ノズル連続駆動状態において、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が、連続して2ドロップ以上を吐出したときの最終ドロップの吐出速度よりも遅くなる。特に、複ノズル連続駆動状態のときには、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が極めて遅く、安定した印字品質が得られない。
補助パルス波形として第1の補助パルスSP1だけを加えた場合は、図10に示すように、単ノズル駆動状態及び複ノズル連続駆動状態において、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が速くなるので、連続吐出するドロップの数に依る吐出速度の変化を抑えることができる。複ノズル同時駆動状態においても、第1の補助パルスSP1によって1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が速くなるが、しかし複ノズル同時駆動状態ではそれが必ずしも吐出速度の変化を抑えることにならない。複ノズル同時駆動状態では補助パルスの無い駆動波形を与えたとしても、図9に示したように、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度と連続して2ドロップ吐出したときの2ドロップ目の吐出速度とに元々あまり差がない。このため、第1の補助パルスSP1を入れると相対的に1ドロップ目よりも2ドロップ目の吐出速度が遅くなってかえって速度バランスが崩れる。この状態で連続して2ドロップを吐出すると、遅い2ドロップ目が1ドロップ目に対して分離して着弾し、印字品質を低下させる可能性が高い。
補助パルス波形として第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2とを加えた場合は、図11に示すように、単ノズル駆動状態及び複ノズル連続駆動状態において1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が速くなる。しかし、複ノズル同時駆動状態で1ドロップのみ吐出したときの吐出速度はあまり速くならず、連続して2ドロップを吐出したときの2ドロップ目の吐出速度とほぼ同じとなる。したがって、速度バランスが崩れないため、2ドロップ目が1ドロップ目に対して分離して着弾するようなことはない。
このように本実施形態では、補助パルス信号として、従来のブーストパルスと同様の機能を果たす第1の補助パルスSP1の前に、第1の補助パルスSP1とは逆極性の第2の補助パルスSP2を加える。そうすることによって、単ノズル駆動状態及び複ノズル連続駆動状態だけでなく、複ノズル同時駆動状態のときもマルチドロップの吐出速度を安定化することができ、ひいては高品質な印刷が可能なインクジェットヘッド、及びこのヘッドを用いたインクジェットプリンタを提供できる。
ここで、第1及び第2の補助パルスSP1,SP2のパルス幅w1について、図12〜図16を用いて検証する。なお、第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2とのパルス幅w1は同じ幅とする。また、第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2都のパルス中心間隔は、インクの共振周期2ALと等しくする。
図12〜図16は、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態において、マルチドロップ方式により5ドロップを連続して吐出したときの、ドロップ毎の吐出速度[m/s]の一例を示している。そして図12は、パルス幅w1を0.2μsとしたときのグラフである。図13は、パルス幅w1を0.3μsとしたときのグラフである。図14は、パルス幅w1を0.4μsとしたときのグラフである。図15は、パルス幅w1を0.5μsとしたときのグラフである。図16は、パルス幅w1を0.6μsとしたときのグラフである。各図において、実線は、単ノズル駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。一点鎖線は、複ノズル同時駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。破線は、複ノズル連続駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。
パルス幅が0.2μsのとき、図12に示すように、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態のうち、複ノズル連続駆動状態のときの1ドロップ目の吐出速度が遅く、ばらつきがある。しかも複ノズル連続駆動状態のときには、2ドロップ目と比べて1ドロップ目の吐出速度がまだ遅いため、吐出が不安定である。
パルス幅が0.3μsになると、図13に示すように、複ノズル連続駆動状態においても1ドロップ目の吐出速度が速くなり、2ドロップ目と比べてそれほど大きな差は生じない。また、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態において、1ドロップ目の吐出速度がほぼ同じとなる。このため、いずれの状態においても安定した吐出効果が得られる。
パルス幅が0.4μsになると、図14に示すように、単ノズル駆動状態、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態において、1ドロップ目の吐出速度がほぼ同じである。また、2ドロップ目と比較して1ドロップ目の吐出速度が大きく遅くなることもない。むしろ、複ノズル同時駆動状態のときの1ドロップ目の吐出速度が2ドロップ目よりも若干早くなっているため、速度バランスが崩れかけている。
パルス幅が0.5μsになると、図15に示すように、複ノズル同時駆動状態において、1ドロップ目の吐出速度が2ドロップ目よりも早くなり、速度バランスが崩れる。この点は、図16に示すように、パルス幅が0.6μsになった場合にも顕著である。
したがって、図12〜図16に示した例の場合には、第1及び第2の補助パルスのパルス幅w1は、0.3μsから0.4μsの範囲内において、駆動状態に係らずマルチドロップの吐出速度を安定化できる効果を奏する。
次に、本実施形態の効果が生じる原理について説明する。
背景技術の項で述べたように、インク滴の吐出前にインク滴が吐出しない程度の補助パルス信号、いわゆるブーストパルスを与えて吐出速度の均一化を図ることはすでに行われている。ブーストパルスを与えることにより、メニスカスが静止した状態から圧力振動が付与される場合と、その直前に吐出したインク滴の残留圧力振動が残っている状態で圧力振動が付与される場合との違いを補償する効果がある。しかしこの違いを補償するという理由だけでは第2の補助パルスSP2を第1の補助パルスSP1と併用することによる効果を説明できない。第2の補助パルスSP2の効果を理解するためには、アクチュエータのヒステリシスに起因する履歴現象について理解しておく必要がある。そこで先ず、単ノズル駆動状態及び複ノズル同時駆動状態と複ノズル連続駆動状態との動作の違いについて、補助パルスを持たない単純な駆動波形、すなわち図8の区間T1で示されるDRP波形によるアクチュエータの動作で説明する。
背景技術の項で述べたように、インク滴の吐出前にインク滴が吐出しない程度の補助パルス信号、いわゆるブーストパルスを与えて吐出速度の均一化を図ることはすでに行われている。ブーストパルスを与えることにより、メニスカスが静止した状態から圧力振動が付与される場合と、その直前に吐出したインク滴の残留圧力振動が残っている状態で圧力振動が付与される場合との違いを補償する効果がある。しかしこの違いを補償するという理由だけでは第2の補助パルスSP2を第1の補助パルスSP1と併用することによる効果を説明できない。第2の補助パルスSP2の効果を理解するためには、アクチュエータのヒステリシスに起因する履歴現象について理解しておく必要がある。そこで先ず、単ノズル駆動状態及び複ノズル同時駆動状態と複ノズル連続駆動状態との動作の違いについて、補助パルスを持たない単純な駆動波形、すなわち図8の区間T1で示されるDRP波形によるアクチュエータの動作で説明する。
単ノズル駆動状態及び複ノズル同時駆動状態では、ドット(複数ドロップの集まり)と次のドットとの間で隣接するチャネルからインクが吐出されない。このため、アクチュエータの動作は常に、図4Bにおいて(a)→(b)→(a)→(c)→(a)→(b)→(a)→(c)の繰り返しとなる。この繰り返しの中で、中央の圧力室15bに連通するノズル8からインク滴が2滴吐出される。そして、圧力室15bに対応して設けられるアクチュエータは、拡張パルスEPによって拡張する前は必ず収縮パルスCPによって収縮する動作を行う。
これに対し、複ノズル連続駆動状態では、隣接する圧力室15の動きを考慮する必要がある。
図17は、中央の圧力室15bに連通するノズル8からインク滴を吐出する前に、先ず左隣の圧力室15aに連通するノズル8からインク滴を吐出し、次いで右隣の圧力室15cに連通するノズル8からインク滴を吐出する場合の、各圧力室15a、15b,15cに対応したアクチュエータの動作を示す。
図17は、中央の圧力室15bに連通するノズル8からインク滴を吐出する前に、先ず左隣の圧力室15aに連通するノズル8からインク滴を吐出し、次いで右隣の圧力室15cに連通するノズル8からインク滴を吐出する場合の、各圧力室15a、15b,15cに対応したアクチュエータの動作を示す。
A1〜A4は、左隣の圧力室15aに連通するノズル8からインク滴を吐出する際のアクチュエータの動作であり、連続してインク滴を吐出する場合にはA1〜A4の動作が繰り返される。
A5〜A8は、右隣の圧力室15cに連通するノズル8からインク滴を吐出する際のアクチュエータの動作であり、連続してインク滴を吐出する場合にはA5〜A8の動作が繰り返される。
A9〜A16は、中央の圧力室15bに連通するノズル8からインク滴を吐出する際のアクチュエータの動作であり、A9〜A12が1ドロップ目の動作、A13〜A16が2ドロップ目の動作である。3ドロップ目以降のインク滴を吐出する場合にはA13〜A16の動作が繰り返される。
A5〜A8は、右隣の圧力室15cに連通するノズル8からインク滴を吐出する際のアクチュエータの動作であり、連続してインク滴を吐出する場合にはA5〜A8の動作が繰り返される。
A9〜A16は、中央の圧力室15bに連通するノズル8からインク滴を吐出する際のアクチュエータの動作であり、A9〜A12が1ドロップ目の動作、A13〜A16が2ドロップ目の動作である。3ドロップ目以降のインク滴を吐出する場合にはA13〜A16の動作が繰り返される。
圧力室15bの内部に圧力振動を与えるためのアクチュエータとなる一方の隔壁16aは、A4の動作で図中左方向の履歴を持つ。そしてこの履歴は、A9の動作まで維持される。これに対し、同じアクチュエータとなる他方の隔壁16bは、A8の動作で図中右方向の履歴を持つ。そしてこの履歴は、A9の動作まで維持される。したがって、A10の動作で隔壁16a,16bが広がる向きに変形する際、その変形の向きはそれぞれ履歴と同方向である。
ところが、中央の圧力室15bに連通するノズル8から2ドロップ目以降を吐出する場合はその状況が変わる。一方の隔壁16aは、A12の動作で図中右方向の履歴を持つ。そしてこの履歴は、A13の動作まで維持される。他方の隔壁16bは、A12の動作で図中左方向の履歴を持つ。そしてこの履歴は、A13の動作まで維持される。したがって、A14の動作で隔壁16a,16bが広がる向きに変形する際、その変形の向きはそれぞれ履歴と逆方向となる。
このように、複ノズル連続駆動状態では、アクチュエータが動作する際の履歴の向きが1ドロップ目と2ドロップ目以降とで異なる。この向きの違いが、1ドロップ目で吐出速度が大きく落ち込む原因である。その理由を理解するために、次に、圧電材料1,2として用いられるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のヒステリシス特性について説明する。
このヒステリシス特性の説明に関しては、PZTのテストピースを用いる。テストピースは、高さ10[mm]、幅3[mm]、厚み0.2[mm]の直方体である。そしてこのテストピースを高さ方向で分極し、厚み方向に図18に示す波形の電圧を印加する。電圧は、テストピースの厚みがヘッド100の隔壁の厚みの約2.3倍なので、60[V]とした。
図18に示す波形の電圧を印加してテストピースに注入される充電電荷P1[μC/cm2]とテストピースの変位量d[nm]とを測定すると、図19の結果が得られた。すなわち、アクチュエータが同方向の履歴を持つ場合、60[V]の電圧変化でテストピースに60[nm]の変位があった。これに対して逆方向の履歴を持つ場合には、60[V]の電圧変化でテストピースに80[nm]の変位があった。つまり、逆方向の履歴を持つことにより、同方向の履歴を持つときに対して133%の変位に増大する。このように、テストピースの変位量は、逆方向の履歴を持ったときよりも同方向の履歴を持ったときの方が小さい。したがって、同方向の履歴を持つ複ノズル連続駆動状態の1ドロップ目は、吐出速度が大きく落ち込むと考えられる。
ところで、図19に示すように、変位のプロファイルは充電電荷のプロファイルと類似している。その一方で、ヘッド100を組み立てた状態でアクチュエータの変位を測定することは困難であるが、充電電荷は、電流波形から比較的容易に求めることができる。そこで次に、この充電電荷を利用して、ヘッド100に組み立てられたアクチュエータのヒステリシス特性を調べる。具体的には、ヘッド100に図20の波形V1で示す電圧を印加し、アクチュエータの充電電流を計測する。なお、アクチュエータの静電容量は、隔壁16aと隔壁16bとの並列により約400[pF]である。
充電電流は、図20の波形I1のように測定された。この波形I1の面積S1は、履歴が逆方向のときの充電電荷を表しており、面積S2は、履歴が同方向のときの充電電荷を表している。そこで面積S1,S2から充電電荷を計測すると、面積S1から計測される充電電荷は4.2[nC]であり、面積S2から計測される充電電荷は3.1[nC]であった。つまりアクチュエータは、ヘッド100に組み立てられた状態でも、逆方向の履歴を持つことにより、同方向の履歴を持つときに対して133%の電荷が注入される。
以上の結果から、逆方向の履歴を持ったときよりも同方向の履歴を持ったときの方がアクチュエータの変位が小さいため、同方向の履歴を持つ複ノズル連続駆動状態の1ドロップ目は、吐出速度が大きく落ち込むことがわかる。
このように、本実施形態で圧電部材1,2として用いられるPZTは、このテスト条件で約33%のヒステリシスを持っているといえる。圧電部材1,2のヒステリシスの大きさは、アクチュエータの変位の大きさに直接作用する。アクチュエータの変位の大きさは、インク滴の吐出速度及び吐出量に影響を及ぼす。このため、30%を超える大きさのヒステリシスは、印字品質に対して無視できないものとなる。そこで、30%を超える大きさのヒステリシスを持つ圧電部材を使用する場合には、常に逆方向の履歴を持つように履歴を考慮して制御するとよい。常に逆方向の履歴を持たせることで、インク滴の吐出速度及び吐出量が安定化し、高効率かつ高品質な印刷結果を得ることができる。例えば、機械的品質係数Qmが小さく圧電歪定数(d定数)の大きいソフト材の圧電部材は、一般に大きなヒステリシスを持っている。このようなヒステリシスの大きい圧電部材を使用することをさけようとするのではなく、上述のようにヒステリシスを適切に利用することによって、アクチュエータの変位を大きくでき、かつ安定した変位を得ることが可能となる。
以上の説明により、複ノズル連続駆動状態において、第2の補助パルスSP2を第1の補助パルスSP1と併用することによる効果は以下の通りとなる。
先ず、第1の補助パルスSP1をヘッド100に与えることにより、1ドロップ目の吐出の前に、アクチュエータに逆方向の履歴が加わるので、ヒステリシスを利用したアクチュエータの振幅拡大の効果と、液体に事前の振動が与えられることによる残留圧力振動の効果とを奏する。しかし、アクチュエータに逆方向の履歴を加えることによる効果は、1ドロップ目のみに作用し、2ドロップ目以降には作用しない。一方、残留圧力振動を与えることにより、1ドロップ目終了時の圧力振動が変化する。このため、図10を用いて説明したように、第1の補助パルスSP1だけでは2ドロップ目の速度低下を招いてしまう。
そこで、第1の補助バルスSP1の前に、第2の補助パルスSP2をヘッド100に与える。第2の補助パルスSP2は、第1の補助パルスSP1の1周期前に逆位相の振幅を与えるバルスである。このため、第2の補助パルスSP2を与えることによって、第1の補助パルスSP1によって液体に与えられる事前の振動は減少する。しかし、アクチュエータの履歴に関しては、最後のパルスの向きで決まるため、第2の補助パルスSP2を与えても変わらない。その結果、図11を用いて説明したように、第1の補助パルスS1と第2の補助パルスSP2とを併用することによって、連続して2ドロップを吐出する際の2ドロップ目の吐出速度の落ち込みを改善することができる。
この考え方で、図12乃至図15を用いて説明したように、第1の補助パルスS1と第2の補助パルスSP2とのパルス幅を調整することにより、2ドロップ目の吐出速度の落ち込みを抑えつつ1ドロップ目の吐出速度を高めることが可能となる。
なお、本実施形態では、第1の補助パルスS1と第2の補助パルスSP2とのパルス幅を同一としたが、パルス幅を異ならせて2つの効果のバランスを微調整することも可能である。その最も簡単な例として、液体に事前の振動を与えることなくヒステリシスのキャンセルだけを行う場合の補助バルスSP1、SP2の波形の決め方を説明する。この方法で一旦補助バルスSP1、SP2を仮決めし、ヒステリシスの影響をキャンセルしてからさらに第1の補助パルスSP1を調節して液体に事前の振動を与えることができる。この説明には、圧力室を模擬した等価回路を用いる。
図21は、圧力室を模擬した等価回路150である。等価回路150は、電圧源151の正電圧端子に抵抗R(0.17Ω)の一端を接続し、抵抗Rの他端にコンデンサC(0.83μF)の一端を接続し、コンデンサCの他端にインダクタL(0.7μH)の一端を接続し、インダクタLの他端を電圧源151の負電圧端子に接続してなる。そして、電圧源151の電圧を第1の電圧計152で計測し、インダクタLの両端電圧を第2の電圧計153で計測し、回路電流を電流計154で計測する。電圧源151の電圧は、駆動電圧に相当する。インダクタLの両端電圧は、ノズル付近のインクの圧力に相当する。回路電流は、ノズル付近のインクの流速に相当する。但し、駆動電圧、インクの圧力、インクの流速の各数値は1に正規化されている。
この駆動回路を用いてシミュレーションを行うと、図22に示すように、インク吐出後に圧力振動を残さないように駆動電圧波形を調整することができる。なお、図22において、波形V51は駆動電圧を示し、波形P51はインクの圧力を示し、波形S51はインクの流速を示す。駆動電圧波形V51は、負電位の期間t1が2.4[μs]であり、グランド電位の期間t2が3.25[μs]であり、正電位の期間t3が0.9[μs]である。ヘッド100が有する圧力室の圧力振動周期は、4.8[μs]であるから、負電位の期間t1は、最も効率の良い条件、すなわち圧力振動周期の1/2時間に設定されている。因みに、グランド電位の期間t2と正電位の期間t3とが、負電位の期間t1と異なる理由は、圧力室の損失、つまりは抵抗Rに起因する。
次に、駆動電圧の前に第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2とを入力した場合のシミュレーションを行う。図23に示すように、先ず、負電位の第2の補助パルスSP2を区間t4=0.8[μs]だけ入力する。区間t4は、インクが吐出しない程度に短い任意の値である。ただし、あまり短いと次に入力する第1の補助パルスSP1の区間t6が小さくなりすぎてアクチュエータが応答しないため、0.8[μs]程度が望ましい。
次に、シミュレーションを用いて第1の補助パルスSP1の後のグランド電位の区間t7の残留振動が消えるように、グランド電位の区間t5と正電位の第1の補助パルスSP1の区間t6とを調整する。ここで、区間t7の残留振動が無ければ続く駆動電圧波形によって生じるインクの圧力及び流速の波形は、補助パルスSP1,SP2が無い場合と一致するはずである。図23の場合、区間t4=0.8[μs]、区間t5=4.25[μs]、区間t6=0.45[μs]、区間t7=0.2[μs]、区間t1=2.4[μs]、区間t2=3.25[μs]、区間t3=0.9[μs]である。
次に、シミュレーションを用いて第1の補助パルスSP1の後のグランド電位の区間t7の残留振動が消えるように、グランド電位の区間t5と正電位の第1の補助パルスSP1の区間t6とを調整する。ここで、区間t7の残留振動が無ければ続く駆動電圧波形によって生じるインクの圧力及び流速の波形は、補助パルスSP1,SP2が無い場合と一致するはずである。図23の場合、区間t4=0.8[μs]、区間t5=4.25[μs]、区間t6=0.45[μs]、区間t7=0.2[μs]、区間t1=2.4[μs]、区間t2=3.25[μs]、区間t3=0.9[μs]である。
区間t1〜t7は、区間t7の時点で圧力振動がキャンセルされるように調整している。圧力室の損失(抵抗R)があるために、区間t7の時点で圧力振動がキャンセルされる条件では、「第2の補助パルスSP2」>「第1の補助パルスSP1」となる。このとき、第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2との間隔は、圧力振動周期よりもわずかに長い。そして、補助パルスSP1,SP2以降の波形を見ると、補助パルスSP1,SP2を入れない場合とインクの流速及び圧力がほぼ同一である。この等価回路では、ヒステリシスをシミュレーションしていないが、この波形は区間t7の時点でも区間t3後の時点でも履歴は常に圧力室を収縮させる方向に向いているので、ヒステリシスの影響はキャンセルされている。そのため、この波形を用いて複ノズル連続駆動を行った場合には1ドロップ目の吐出速度が図9のように極端に低下する、といったことが起きない。この波形は液体に事前の振動を与えることが無いため、単ノズル駆動及び複ノズル同時駆動の吐出速度は図9と変わらない。すなわちこの駆動波形は、補助パルスを与えない図9の特性に対して複ノズル連続駆動時の1ドロップ目の吐出速度だけを改善したものになっており、第1の補助パルスSP1と第2の補助パルスSP2とをヒステリシスのキャンセル条件に仮決めした状態である。最適な駆動波形は、これよりもさらにもう少し1ドロップ目を速くすることが望ましい。したがって、ヘッドの駆動波形を決めるには、この波形を基準として吐出観察を行い、区間t4,t5,t6の値を微調整すればよい。例えばこの状態を基準に第1の補助パルスSP1を長くして行けば、液体に事前の振動を与え1ドロップ目の吐出速度を速くすることができる。
ところで、補助パルスSP1,SP2に要する時間は、そのヘッド100が吐出可能な最大駆動周波数を低下させてしまう懸念がある。最大駆動周波数は最大ドロップ数を吐出する場合の所要時間によって制約される。このため、最大ドロップ数の吐出に先だって補助パルスSP1,SP2が付加されていると、補助パルスの所要時間分だけ所要時間が長くなり、最大駆動周波数が落ちてしまう。しかしながらこのような懸念は、次のような工夫をすることで解決できる。
一般に、吐出するドロップ数が多い場合、後から飛翔してくる液滴が先に吐出した液滴と合体するので、最初の方のドロップは遅くても問題ない。一方、アクチュエータのヒステリシスは2ドロップ目以降のインクの吐出には影響しない。また、仮にヒステリシスの影響があったとしても、図9乃至図16に示すように、通常、3〜4ドロップ目以降の吐出速度は安定する。したがって、連続して3〜4ドロップ以上吐出する場合は補助パルスは必要ない。
これらの観点から、1ドロップだけ吐出する場合に限って補助パルスを付加し、連続して2ドロップ以上を吐出する場合には補助パルスを入れない制御方法を採ることができる。そうすることによって1ドロップだけ吐出する場合の吐出速度を上げつつ、かつ2ドロップ以上を吐出する場合には所要時間を増やさないので駆動周波数の上限を下げることが無い。
最大ドロップ数が3以上の場合には、Nドロップ以下のドロップを連続して吐出する場合だけ補助パルスSP1,SP2を付加し、N+1ドロップ以上を連続して吐出する場合は補助をパルスSP1,SP2を付与しないよう制御することで、駆動周波数の高速化を図ることができる。但しNは2以上でかつ(最大ドロップ数−1)以下である。
図24は、最大ドロップ数3でドロップ数1の場合のみ補助パルスを与える例、図25は最大ドロップ数3でドロップ数2以下の場合のみ補助パルスを与える例である。
印刷データから各チャネル毎にこれから吐出するドロップ数を判定して補助パルスの有無を決める機能は、ロジック回路1012内で実現できる。
印刷データから各チャネル毎にこれから吐出するドロップ数を判定して補助パルスの有無を決める機能は、ロジック回路1012内で実現できる。
なお、前記実施形態では、図12〜図16を用いて第1の補助パルスと第2の補助パルスのパルス幅を可変させた場合のドロップ毎の吐出速度を示し、好ましいパルス幅として0.3〜0.4μsとしたが、この値は、あくまでも一例であって、本発明の好ましい値として限定解釈されるものではない。この値は、インクの特性等により代わるものであり、ヘッド100に対して適切な値が設定されるものである。
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
4…電極、7…オリフィスプレート、8…ノズル、15…圧力室、16…隔壁、100…インクジェットヘッド、101…ヘッド駆動回路、200…インクジェットプリンタ。
Claims (7)
- インクが収容される圧力室と、
前記圧力室に対応して設けられるアクチュエータと、
前記圧力室に連通するノズルを有するプレートと、
前記アクチュエータを駆動する駆動回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記アクチュエータに、駆動パルス信号として前記圧力室の容積を拡張させる拡張パルスと前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルスとからなる駆動波形を1回乃至連続する複数回印加して当該圧力室に連通する前記ノズルから1ドロップ乃至連続する複数ドロップのインク滴を吐出させる前に、前記ノズルからインク滴が吐出しない程度の前記拡張パルスと前記収縮パルスとを含む補助パルス信号を前記アクチュエータに印加し、1ドロップ目を吐出する場合の吐出速度と連続して2ドロップを吐出する場合の2ドロップ目の吐出速度とをほぼ等しくするインクジェットヘッド。 - 前記圧力室、前記アクチュエータ及び前記ノズルは複数あって、前記アクチュエータの少なくとも一部分は複数の圧力室に共通に使用され、前記アクチュエータはヒステリシス特性を有する請求項1記載のインクジェットヘッド。
- 前記駆動回路は、前記補助パルス信号として初めに拡張パルスを出力し、その後、間隔を開けて収縮パルスを出力する請求項1または2記載のインクジェットヘッド。
- 前記駆動回路は、前記補助パルス信号の前記拡張パルスと前記収縮パルスとのパルス中心間隔をインクの共振周期とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
- 前記駆動回路は、前記補助パルス信号の前記拡張パルスと前記収縮パルスとのパルス幅を等しくする請求項1乃至4のうちいずれか1記載のインクジェットヘッド。
- 前記補助パルス信号は、前記連続するインク滴の数がN(Nは1以上でかつ「最大ドロップ数−1」以下)以下の場合に付加する請求項1乃至5のうちいずれか1記載のインクジェットヘッド。
- 請求項1乃至6のうちいずれか1に記載のインクジェットヘッドと、
記録媒体を前記インクジェットヘッドによる印刷位置まで搬送する搬送機構と、を具備したことを特徴とするインクジェットプリンタ。
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