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JP2017095780A - 複合粒子、銅ペースト組成物とその製造方法、および、導電体 - Google Patents

複合粒子、銅ペースト組成物とその製造方法、および、導電体 Download PDF

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JP2017095780A JP2015231261A JP2015231261A JP2017095780A JP 2017095780 A JP2017095780 A JP 2017095780A JP 2015231261 A JP2015231261 A JP 2015231261A JP 2015231261 A JP2015231261 A JP 2015231261A JP 2017095780 A JP2017095780 A JP 2017095780A
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Abstract

【課題】導電性ペースト組成物に焼結剤として添加することができ、耐酸化性が良好で、導電性ペースト組成物の印刷特性と焼結性を向上することが可能な複合粒子を提供する。【解決手段】複合粒子20は、銅核粒子21と、銅核粒子21の表面に1nm2当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子22と、親水基および疎水基を有し、複数の脂肪族カルボン酸分子22と相互作用する複数の極性有機低分子23とを含む。【選択図】図1B

Description

本発明は、銅核粒子を含む複合粒子、銅ペースト組成物とその製造方法、および、銅ペースト組成物を用いて製造される導電体に関するものである。
近年、配線および導電体層等の導電体のパターン形成方法として、工程数の多いフォトリソグラフィ法に代わり、金属粉と焼結剤と媒体とを含む導電性ペースト組成物を直接パターン印刷する印刷法が注目されている。印刷法としては、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、およびディスペンス印刷法等が挙げられる
導電性ペースト組成物の焼結剤としては、金属粉よりも粒子径の小さい金属粒子が好ましく用いられる。焼結剤用の金属粒子の粒子径は好ましくは、0.02μm(20nm)〜5.0μm程度である。
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子径」は一次粒子径を意味するものとする。
従来、一般的に、焼結剤用の金属粒子としては、金粒子または銀粒子が用いられている。しかしながら、金粒子は高コストである。銀粒子は、マイグレーション(ここで言う「マイグレーション」には、イオンマイグレーションおよびエレクトロマイグレーションが含まれる)、および硫化ガス等による腐食の課題がある。
近年、焼結剤用の金属粒子として、高導電性を有し、マイグレーションの問題を生じにくく、耐蝕性に優れることから、銅粒子が検討されている。
しかしながら、貴金属である金および銀に比して、もともと銅は比較的酸化されやすく、表面に酸化皮膜が形成されやすい傾向がある。
焼結剤用の粒子径の小さい銅粒子は、単位質量当たりの比表面積が大きく、個々の粒子に占める酸化皮膜の割合が大きくなる傾向がある。
特に粒子径が200nm以下の銅粒子を用いる場合、粒子表面の活性が非常に高く、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下での加熱においても、雰囲気中に存在する微量の酸素で酸化が進行して、導電性ペースト組成物の焼結が阻害される恐れがある。
導電性ペースト組成物の加熱焼成の最終段階で水素ガス等を用いて還元焼成を行うことが考えられる。しかしながら、個々の粒子に占める酸化皮膜の割合が大きい場合、還元時の体積収縮が大きく、焼結後に密度低下が生じてしまう。
本発明者らは、特許文献1において、銅核粒子と、長鎖脂肪族アミンを主成分とする被覆層とを含む被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1、請求項4等)。この被覆銅粒子は、耐酸化性と焼結性のバランスに優れる([発明の効果]の項等)。
本発明者らはまた、特願2014−112794号(本件出願時において未公開)および特願2014−203242号(本件出願時において未公開)において、耐酸化性に優れた被覆銅粒子とその製造方法に関する発明を出願している。
特開2014−001443号公報
印刷法に用いられる導電性ペースト組成物では、良好な印刷特性を有することが重要である。具体的には、塗工速度等の塗工条件によらず、金属粉および焼結剤としての金属粒子が均一に分散した状態で、導電性ペースト組成物が均一な厚みで塗工されることが好ましい。これにより、媒体の乾燥後に金属粉および焼結剤としての金属粒子が最密充填した均一層が形成され、これを焼結することで、高密度な導電体を形成することができる。
金属粉および焼結剤としての金属粒子の分散性およびペースト組成物のレベリング性が良好となることから、導電性ペースト組成物は、粘性と弾性を兼ね備えること、すなわち、粘弾性を有することが好ましい。
粘弾性特性は、動的粘弾性測定装置を用いたレオロジー測定によって、評価することができる。例えば、レオロジー測定を実施して、周波数に対する、複素粘度(complex viscosity)、貯蔵弾性率(storage modulus)、損失弾性率(loss modulus)、および損失係数(tanΔ、tan(delta))の変化を測定することができる。
上記測定項目のうち、貯蔵弾性率(storage modulus)のデータが、周波数に対する弾性特性を示し、損失弾性率(loss modulus)が周波数に対する粘性特性を示す。
周波数の変化は温度変化に対応しており、周波数の相対的に低い側の特性が相対的に高温側の特性、周波数の相対的に高い側の特性が相対的に低温側の特性に対応している。
金属粉および焼結剤としての金属粒子の分散性およびペースト組成物のレベリング性が良好となることから、導電性ペースト組成物は、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)と損失弾性率(loss modulus)とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))がほぼ一定であることが好ましい。また、周波数を変化させても、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)が損失弾性率(loss modulus)を上回ることが好ましい。
また、塗工時の液垂れ防止および均一塗工の観点から、導電性ペースト組成物は、せん断応力がかからない状態で粘度が相対的に高く、せん断応力がかかることで粘度が相対的に下がるチキソトロピー性を有することが好ましい。
本明細書において、「液垂れ」とは、導電性ペースト組成物を所定のパターンで印刷する際に、印刷された部分の端部の肩部の液が垂れて、本来の印刷領域の外側に液が広がってしまうことを指す。
例えば、ペースト組成物に高分子ポリマー分散剤を添加することで、金属粉および金属粒子の粒子間相互作用を高め、均一分散性およびレベリング性を向上させることができる。
例えば、ペースト組成物に高分子ポリマー増粘剤を添加することで、せん断応力がかからない状態でのペースト組成物の粘度を上げ、チキソトロピー性を発現させることができる。
しかしながら、配線または導電体層等の導電体を形成するデバイス等の製造では、プロセス温度に制限がある場合がある。この場合、導電性ペースト組成物は、比較的低温、例えば450℃以下または350℃以下で焼結する必要がある。このような低温焼結条件では、分散剤または増粘剤として添加された高分子ポリマーが完全に熱分解されずに、導電体中に残存してしまう恐れがある。
導電体中に高分子ポリマーが残存した場合、導電体と、各種基材、各種部材、または各種層等との密着性が低下する恐れがある。また、温度変化あるいは水分膨潤等による体積変化により、導電体にクラックが発生する恐れもある
そのため、導電性ペースト組成物に対する高分子ポリマーの総添加量は少ないことが好ましく、高分子ポリマーを添加しないことがより好ましい。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、導電性ペースト組成物に焼結剤として添加することができ、耐酸化性が良好で、導電性ペースト組成物の印刷特性と焼結性を向上することが可能な、銅核粒子を含む複合粒子を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、印刷特性と焼結性が良好で、低温焼結においても高導電性の導電体を形成することが可能な銅ペースト組成物とその製造方法を提供することを目的とするものである。
なお、本明細書においては、特に明記しない限り、「低温焼結」の焼結温度は450℃以下と定義する。
本発明の複合粒子は、
銅核粒子と、
前記銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子と、
親水基および疎水基を有し、前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子とを含むものである。
本発明の銅ペースト組成物は、
銅粉と、
前記銅粉よりも粒子径の小さい銅核粒子、および、当該銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子を含む被覆銅粒子と、
親水基および疎水基を有し、前記被覆銅粒子の前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子と、
媒体とを含むものである。
本発明の銅ペースト組成物の製造方法は、
上記の本発明の銅ペースト組成物の製造方法であって、
前記銅粉よりも粒子径の小さい前記銅核粒子と、当該銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した前記複数の脂肪族カルボン酸分子とを含む前記被覆銅粒子を用意する工程(1)と、
前記銅粉と、前記被覆銅粒子と、親水基および疎水基を有し、前記被覆銅粒子の前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する前記複数の極性有機低分子と、前記媒体とを含む複数種の原料を混合する工程(2)とを有し、
工程(1)は、媒体中で、脂肪族カルボン酸銅錯体を熱分解する工程を含むものである。
本発明の導電体は、上記の本発明の銅ペースト組成物を焼結してなるものである。
本発明の導電体としては、配線および導電体層等が挙げられる。
本明細書において、特に明記しない限り、「極性有機低分子」は、疎水基の炭素数が20以下の極性有機分子と定義する。
「ギ酸銅」
本明細書において、特に明記しない限り、「ギ酸銅」には水和物と無水物とが含まれるものとする。
本明細書において、「ギ酸銅無水物」は、含水率が5質量%以下のギ酸銅と定義する。
「ギ酸銅の含水率と銅含有率」
本明細書において、特に明記しない限り、「ギ酸銅の含水率と銅含有率」は熱重量・示差熱(TG−DTA)分析にて測定するものとする。
測定条件は以下の通りとする。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25〜600℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
「粒子(銅核粒子、被覆銅粒子、または複合粒子)の平均一次粒子径および粒子径変動率」
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子の平均一次粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められる、任意の20個の粒子(銅核粒子、被覆銅粒子、または複合粒子)の一次粒子径の算術平均値(DSEM)である。
なお、銅核粒子の平均一次粒子径と、銅核粒子を含む被覆銅粒子または複合粒子の平均一次粒子径とは、実質的に同一とみなすことができる。
「粒子径変動率」は、SEM観察により求められる、任意の20個の粒子(銅核粒子、被覆銅粒子、または複合粒子)の一次粒子径の標準偏差(SD)/平均一次粒子径(DSEM)の値である。
「被覆銅粒子の有機成分量」
本明細書において、特に明記しない限り、「被覆銅粒子の有機成分量」は、熱重量・示差熱(TG−DTA)分析にて測定するものとする。
測定条件は以下の通りとする。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25〜600℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
上記TG−DTA分析において、加熱減量を有機成分量として求める。
「脂肪族カルボン酸分子の被覆密度」
本明細書において、特に明記しない限り、銅核粒子の表面における「脂肪族カルボン酸分子の被覆密度」は、以下の方法により算出するものとする。
特開2012−88242号公報に記載の方法に準拠し、液体クロマトグラフィ(LC)を用いて被覆銅粒子の表面に付着している有機成分を抽出し、成分分析を行う。
測定装置としては、Waters社製「ACQUITY UPLC H−Class System」を用いる。測定条件は以下の通りとする。
カラム:ACQUITY UPLC(R)BEH C18 1.7μm 2.1×50mm、
測定温度:50℃、
測定媒体:水/アセトニトリル、
流量:0.8mL/min。
LC測定用のサンプルは以下のようにして調製する。
サンプル瓶内に、被覆銅粒子1gとアセトニトリル9mLとを入れる。これに、0.36質量%塩酸水溶液1mLを加える。内容物に対して、超音波を30分間照射して、攪拌混合する。次いで、得られたスラリー液を静置して固液分離した後、上澄み液を採取する。この上澄み液を0.2μm径のフィルターでろ過し、LC測定用のサンプルとする。
上記方法により、熱重量・示差熱(TG−DTA)を行い、被覆銅粒子に含まれる有機成分量を測定する。
LCの分析結果とTG−DTA分析結果と合わせて、被覆銅粒子に含まれる脂肪族カルボン酸分子量を算出する。
上記方法により、銅核粒子の平均一次粒子径を測定する。
被覆銅核粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子の分子数は、下記式(a)で表される。
[脂肪族カルボン酸分子の分子数]=Macid/(Mw/NA) ・・・(a)
ここで、Macidは被覆銅粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量(g)であり、Mwは脂肪族カルボン酸分子の分子量(g/mol)であり、NAはアボガドロ定数である。
銅核粒子の形状を球状と近似して、被覆銅粒子の質量から有機成分量を差し引いて、銅核粒子量MCu(g)を求める。
銅核粒子量MCu(g)から、被覆銅粒子1g中の銅核粒子数は、下式(b)で表される。
[被覆銅粒子1g中の銅核粒子数]=MCu/[(4πr3/3)×d×10−21] ・・・(b)
ここで、MCuは被覆銅粒子1gに含まれる銅核粒子量(g)であり、rはSEM画像観察により算出した銅核粒子の一次粒子径の半径(nm)であり、dは銅の密度である(d=8.94(g/cm))。
被覆銅粒子1gに含まれる銅核粒子の表面積は式(b)から、下式(c)で表される。
[被覆銅粒子1gに含まれる銅核粒子の表面積(nm)]=[銅核粒子数]×4πr ・・・(c)
脂肪族カルボン酸分子による銅核粒子の被覆密度(分子/nm)は、(a)式および(c)式を用いて、下記式(d)で算出される。
[被覆密度(分子/nm)]=[脂肪族カルボン酸分子の分子数]/[銅核粒子表面積] ・・・(d)
本発明によれば、導電性ペースト組成物に焼結剤として添加することができ、耐酸化性が良好で、導電性ペースト組成物の印刷特性と焼結性を向上することが可能な、銅核粒子を含む複合粒子を提供することができる。
また、本発明によれば、印刷特性と焼結性が良好で、低温焼結においても高導電性の導電体を形成することが可能な銅ペースト組成物とその製造方法を提供することができる。
本発明に係る一実施形態の銅ペースト組成物の模式図を示す。 本発明に係る一実施形態の被覆銅粒子の模式図を示す。 製造例1で得られたギ酸銅無水物のTG曲線である。 製造例1で得られたギ酸銅無水物のXRDパターンである。 製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)のSEM写真である。 製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)のTG曲線である。 実施例1で得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を示すグラフである。 比較例1で得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を示すグラフである。 実施例1で得られた導電体層のレーザ顕微鏡表面写真である。 比較例2で得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を示すグラフである。 実施例2−1で得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を示すグラフである。 実施例2−2で得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を示すグラフである。 実施例3における積層体の製造方法を示す工程図である。 実施例3における積層体の製造方法を示す工程図である。 実施例3で得られた積層体のSEM断面写真である。
以下、本発明について詳細に説明する。
「複合粒子」
本発明の複合粒子は、
銅核粒子と、
上記銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子と、
親水基および疎水基を有し、上記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子とを含むものである。
本発明の複合粒子は、銅粒子が用いられる用途に、銅粒子として、単独でまたは他の銅粒子(銅粉)と組み合わせて、用いることができる。
本発明の複合粒子は例えば、上記銅核粒子よりも粒子径の大きい銅粉と組み合わせて用いることができる。この場合、本発明の複合粒子は、銅粉の焼結剤として用いることができる。
本発明の複合粒子を上記銅核粒子よりも粒子径の大きい銅粉の焼結剤として用いる場合、本発明の複合粒子と銅粉との質量比(本発明の複合粒子:銅粉)は特に制限されず、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40である。
「銅ペースト組成物」
本発明の銅ペースト組成物は、
銅粉と、
上記銅粉よりも粒子径の小さい銅核粒子、および、この銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子を含む被覆銅粒子と、
親水基および疎水基を有し、上記被覆銅粒子の複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子と、
媒体とを含むものである。
本発明の銅ペースト組成物中において、被覆銅粒子、および、この被覆銅粒子の複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子が、上記の本発明の複合粒子を形成することができる。
図1Aに、本発明に係る一実施形態の銅ペースト組成物の模式図を示す。
図1Bに、本発明に係る一実施形態の複合粒子の模式図を示す。
図1Bにおいて、右下図に示すように、「親水基」は丸、疎水基は棒で模式的に図示してある。
図1Aに示すように、本実施形態の銅ペースト組成物1は、銅粉10と複合粒子20と媒体(図示略)とを含む。
図中、銅粉10の各粒子および複合粒子20の各粒子の形状、粒子径、および分布等は、模式的なものである。
銅粉10としては、公知の導電性ペースト組成物用の銅粉を用いることができる。
銅粉10としては、平均一次粒子径の異なる複数種の銅粉を用いることが好ましい。平均一次粒子径の異なる複数種の銅粉を用いることで、平均一次粒子径の比較的大きい銅粉の隙間に、平均一次粒子径の比較的小さい銅粉が入り込み、銅粉の充填密度を向上させることができる。
図1Aでは、銅粉10は、平均一次粒子径の比較的大きい第1の銅粉11と、平均一次粒子径の比較的小さい第2の銅粉12とを含む場合について、図示してある。
平均一次粒子径の比較的大きい第1の銅粉11の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。
平均一次粒子径の比較的小さい第2の銅粉12の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは0.2〜10μm、より好ましくは0.2〜5μmである。
本実施形態の銅ペースト組成物1は、焼結剤として作用する複合粒子20を含む。
図1Bに示すように、
複合粒子20は、
銅粉10よりも粒子径の小さい銅核粒子21と、
銅核粒子21の表面を被覆する複数の脂肪族カルボン酸分子22と、
親水基および疎水基を有し、複数の脂肪族カルボン酸分子22と相互作用する複数の極性有機低分子23とを含む。
図中、脂肪族カルボン酸分子22および極性有機低分子23のサイズ、数、および分布等は、模式的なものである。
図中、符号30は、必要に応じて添加される高分子ポリマー分散剤の主鎖と側鎖を模式的に示すものである。
図示するように、高分子ポリマー分散剤30の側鎖は、親水基と疎水基を含むことができる。
高分子ポリマー分散剤30としては特に制限されず、ポリエステル系分散剤およびポリアクリル酸系分散剤等が挙げられる。
本実施形態において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銅核粒子21の表面に対して吸着している。
吸着の態様としては特に制限されず、物理吸着およびイオン吸着等が挙げられる。
一態様において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銅核粒子21の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銅核粒子21側にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成することができる。
脂肪族カルボン酸分子22が銅核粒子21の表面に物理吸着していることは、被覆銅粒子20Xの表面組成分析により確認できる。
例えば、被覆銅粒子20Xについて、Tof−SIMS分析(飛行時間型二次イオン質量分析)を行うことができる。
脂肪族カルボン酸分子22が銅核粒子21の表面に物理吸着していることは、Tof−SIMSスペクトルにおいて、脂肪族カルボン酸分子として実質的に遊離の脂肪族カルボン酸分子のみが検出され、63Cuまたは65Cuと結合している脂肪族カルボン酸分子が実質的に検出されないことで、確認することができる。
ここで、「63Cuまたは65Cuと結合している脂肪族カルボン酸分子が実質的に検出されない」とは、これらの検出量が遊離の脂肪族カルボン酸分子の検出量に対して、5%以下であること意味する。これらの検出量は、遊離の脂肪族カルボン酸分子の検出量に対して、好ましくは1%以下である。
被覆銅粒子20Xについて、赤外吸収分析(IR分析)を行うことができる。
脂肪族カルボン酸分子22が銅核粒子21の表面に物理吸着していることは、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)において、実質的にカルボン酸−金属塩由来の伸縮振動ピークのみが観測され、遊離のカルボン酸に由来する伸縮振動ピークが実質的に観測されないことで、確認することができる。
銅核粒子21が複数の脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銅粒子20Xは、最表面に脂肪族カルボン酸分子22の脂肪族基(疎水基)が存在する。
上記構造の被覆銅粒子20Xは、耐酸化性に優れる。
媒体中において、被覆銅粒子20Xの疎水基同士が相互作用して、被覆銅粒子20X同士の凝集が抑制される。そのため、上記構造の被覆銅粒子20Xは、良好な分散性を発現することができる。
本発明者が検討したところ、銅粉10と被覆銅粒子20Xと媒体とからなる銅ペースト組成物は、粘性を有するが弾性の低い粘性流体であることが分かった。
本実施形態の複合粒子20は、上記構造の被覆銅粒子20Xを基本構成とするため、耐酸化性に優れる。
本実施形態の複合粒子20ではさらに、上記構造の被覆銅粒子20Xの周りに、親水基および疎水基を有し、被覆銅粒子20Xと相互作用する複数の極性有機低分子23を配置させている。
図示するように、脂肪族カルボン酸分子22の疎水基である脂肪族基と極性有機低分子23の疎水基とが相互作用すると考えられる。この場合、本実施形態の複合粒子20の最表面には、極性有機低分子23の親水基が存在する。この極性有機低分子23の親水基と高分子ポリマー分散剤30の側鎖の親水基とが相互作用(水素結合)することができる。極性有機低分子23と高分子ポリマー分散剤30との相互作用(水素結合)により、高分子ポリマー分散剤30の添加量を少なくしても、銅ペースト組成物1は良好な粘弾性特性を発現することができると考えられる。
また、極性有機低分子23の親水基同士が相互作用(水素結合)することができる。複合粒子20同士の相互作用により、高分子ポリマー分散剤30を添加しなくても、銅ペースト組成物1は良好な粘弾性特性を発現することができると考えられる。
すなわち、本実施形態の銅ペースト組成物1では、高分子ポリマー分散剤30の添加量を0(ゼロ)またはそれに近い量とすることが可能である。
上記のように、高分子ポリマー分散剤30の添加量は、一般的な導電性ペースト組成物の高分子ポリマー分散剤の量よりも低減することができる。
本実施形態の銅ペースト組成物1中の高分子ポリマー分散剤30の含有量は、1質量%以下とすることができ、0質量%とすることも可能である。
本実施形態の銅ペースト組成物1中の高分子ポリマー分散剤および高分子ポリマー増粘剤を含む高分子ポリマーの総含有量は、1質量%以下とすることができ、0質量%とすることも可能である。
脂肪族カルボン酸分子22は、銅核粒子21に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銅核粒子21から容易に脱離することができる。脂肪族カルボン酸分子22は、高分子ポリマーよりも炭素数の少ない有機低分子であるので、沸点が比較的低く、例えば450℃以下または350℃以下の低温焼結条件でも、容易に熱分解され得る。
同様に、極性有機低分子23は、脂肪族カルボン酸分子22に対して単に相互作用しているので、焼結時には、脂肪族カルボン酸分子22から容易に脱離することができる。極性有機低分子23は、高分子ポリマーよりも炭素数の少ない有機低分子であるので、沸点が比較的低く、例えば450℃以下または350℃以下の低温焼結条件でも、容易に熱分解され得る。
上記のように、本実施形態の複合粒子20では、銅核粒子21の表面に複数の脂肪族カルボン酸分子22からなる被覆層が形成され、さらに、複数の脂肪族カルボン酸分子22の周りに複数の極性有機低分子23が配置されている。本実施形態では、かかる二重被覆構造を採用することで、焼結性に影響を与えることなく、媒体中での粒子分散性とペースト組成物のレオロジー特性とを好適化している。
上記構造の複合粒子20を含む本実施形態の銅ペースト組成物1は、銅粉10および焼結剤として作用する複合粒子20の粒子分散性が良好である。また、本実施形態の銅ペースト組成物1は、良好な粘弾性特性を有するため、レベリング性も良好である。
本実施形態の銅ペースト組成物1を用いて印刷を行うと、塗工速度等の塗工条件によらず、銅粉10および複合粒子20が均一に分散した状態で、銅ペースト組成物1を均一な厚みで塗工することができる。これにより、媒体の乾燥後に銅粉10および複合粒子20が最密充填した、またはそれに近い状態の均一層が形成され、これを焼結することで、高密度な導電体を形成することができる。
上記作用効果は、高分子ポリマー分散剤30の添加量が少なくても発現することができ、高分子ポリマー分散剤30を添加しなくても発現することができる。
一般的に、高分子ポリマーは、例えば450℃以下または350℃以下の低温焼結条件では、完全に熱分解されずに、導電体中に残存してしまう恐れがある。
導電体中に高分子ポリマーが残存した場合、導電体と、各種基材、各種部材、または各種層等との密着性が低下する恐れがある。また、温度変化あるいは水分膨潤等による体積変化により、導電体にクラックが発生する恐れもある。
そのため、導電性ペースト組成物に対する高分子ポリマーの添加量は少ないことが好ましく、高分子ポリマーを添加しないことがより好ましい。
本実施形態では、有機残存物が低減され、各種基材、各種部材、または各種層等との密着性が良好で、クラックがなく、高導電性の導電体を形成することができる。
本実施形態の銅ペースト組成物1は、せん断応力がかからない状態で粘度が相対的に高く、せん断応力がかかることで粘度が相対的に下がるチキソトロピー性を有することができる。そのため、本実施形態の銅ペースト組成物1は、均一塗工性が良好で、かつ、銅ペースト組成物を所定のパターンで印刷する際に、印刷された部分の端部の肩部の液が垂れて、本来の印刷領域の外側に液が広がってしまう液垂れも生じにくい。
以上説明したように、本実施形態によれば、銅ペースト組成物等の導電性ペースト組成物に焼結剤として添加することができ、耐酸化性が良好で、導電性ペースト組成物の印刷特性と焼結性を向上することが可能な、銅核粒子を含む複合粒子20を提供することができる。
また、本実施形態によれば、粒子分散性、均一塗工性、レベリング性、および液垂れ防止性等の印刷特性が良好で、焼結性が良好で、450℃以下または350℃以下の低温焼結においても高導電性の導電体を形成することが可能な銅ペースト組成物1を提供することができる。
以下、銅粉を除く銅ペースト組成物の各成分について、詳述する。
(銅核粒子)
銅核粒子の平均一次粒子径は特に制限されず、焼結剤として好適な範囲内であればよい。
銅核粒子の平均一次粒子径は、好ましくは0.02μm(20nm)〜5.0μm、より好ましくは0.02μm(20nm)〜1.0μm、さらに好ましくは0.02μm(20nm)〜0.5μm、特に好ましくは0.02μm(20nm)〜0.2μmである。
平均一次粒子径が0.02μm(20nm)未満では粒子の製造が困難であり、5.0μm超では充填効果が不充分となる恐れがある。
銅核粒子の純度は特に制限されず、高導電性の導電体が得られることから、高い方が好ましい。銅核粒子の純度は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上である。
銅核粒子に含まれる銅酸化物および銅水酸化物の総含有率は特に制限されず、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
なお、本明細書において、特に明記しない限り、「銅酸化物」には、酸化銅(II)および亜酸化銅が含まれるものとする。
(脂肪族カルボン酸分子)
銅核粒子の表面を被覆する脂肪族カルボン酸分子の種類は、特に制限されない。
脂肪族カルボン酸分子に含まれるカルボキシ基の数は特に制限されず、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。
脂肪族カルボン酸分子は、飽和脂肪族カルボン酸分子であっても、不飽和脂肪族カルボン酸分子であってもよい。
脂肪族カルボン酸分子が不飽和脂肪族カルボン酸分子である場合、不飽和脂肪族基に含まれる不飽和結合の数は、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2である。
脂肪族カルボン酸分子に含まれる脂肪族基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
粒子径の揃った被覆銅粒子を効率良く製造でき、被覆銅粒子の耐酸化性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数は、好ましくは5以上である。
以下、脂肪族基の炭素数が5以上の脂肪族カルボン酸は、「長鎖カルボン酸」ともいう。
脂肪族基の炭素数が5以上であると、被覆銅粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。一般的に、炭素鎖の長さは、会合力を左右するファンデルワールス力の大きさと相関性が高い。炭素鎖の長いカルボン酸は、会合力が強く、後記製造方法において、ミクロ反応場であるWater−in−oil Emulsion類似の相安定化に寄与することができる。これによって、粒子径の揃った被覆銅粒子を効率良く製造できると考えられる。
脂肪族基の炭素数が増す程、沸点が上昇し、焼結時の熱分解性が低下する傾向がある。
粒子径の揃った被覆銅粒子を効率良く製造でき、被覆銅粒子の耐酸化性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族基の炭素数は、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
脂肪族カルボン酸分子の沸点は、後記製造方法における、脂肪族カルボン酸銅錯体の熱分解温度よりも高いことが好ましい。
具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
脂肪族カルボン酸分子としては、
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸分子;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸分子が挙げられる。
脂肪族カルボン酸分子は、1種または2種以上用いることができる。
被覆銅粒子の耐酸化性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、銅核粒子の表面に対する複数の脂肪族カルボン酸分子の被覆密度は、2.5〜5.2分子/nm、好ましくは3.0〜5.2分子/nm、より好ましくは3.5〜5.2分子/nmである。
(極性有機低分子)
極性有機低分子は、親水基および疎水基を有し、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基と極性有機低分子の疎水基とが良好に相互作用するものであれば、特に制限されない。
極性有機低分子の親水基は、アミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、チオアミド基、エーテル基、およびアミノ基からなる群より選ばれた1種または2種以上の基を含むことが好ましい。
極性有機低分子の親水基は、1種または2種以上用いることができる。
極性有機低分子は、被覆銅粒子中の脂肪族カルボン酸分子と同種または異種の脂肪族カルボン酸分子でもよい。
脂肪族カルボン酸分子と良好に相互作用できることから、極性有機低分子の疎水基の炭素数は、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数と同一またはそれに近いことが好ましい。
具体的には、極性有機低分子の疎水基の炭素数は、好ましくは5以上である。
脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数と同様、極性有機低分子の疎水基の炭素数が増す程、沸点が上昇し、焼結時の熱分解性が低下する傾向がある。
脂肪族カルボン酸分子と良好に相互作用でき、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、極性有機低分子の疎水基の炭素数は、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
極性有機低分子の例は、[化1]、[化2]、[表4]に示す。
[化1]、[化2]には、各極性有機低分子について、名称、化学構造式、分子量、および化学式を示してある。
[表4]には、各極性有機低分子について、名称、分子量、分解気化温度、および脂肪族基の炭素数を示してある。
極性有機低分子は、1種または2種以上用いることができる。
(媒体)
媒体としては、一般的な導電性ペースト組成物に用いられる公知の媒体を用いることができる。
媒体としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール系溶剤、セロソルブ、およびセロソルブアセテート系溶剤等が挙げられる。
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
銅ペースト組成物の固形分濃度は特に制限されず、印刷法に応じて選択され、例えば、10〜99質量%、好ましくは40〜95質量%である。
(任意成分)
本発明の銅ペースト組成物は、必要に応じて1種または2種以上の任意成分を含むことができる。
<分散剤>
上記したように、本発明の銅ペースト組成物では、分散剤を添加せずとも、銅粉および複合粒子の媒体中での粒子分散性が良好であり、銅ペースト組成物のレオロジー特性が良好で印刷特性が良好である。
ただし、分散剤を添加することは差し支えない。分散剤を添加する場合も、その添加量は従来一般的な導電性ペースト組成物よりも低減することができる。
分散剤としては、ポリエステル系分散剤およびポリアクリル酸系分散剤等の公知の高分子ポリマー分散剤を用いることができる。
分散剤は、1種または2種以上用いることができる。
<増粘剤>
本発明の銅ペースト組成物は必要に応じて、1種または2種以上の増粘剤を含むことができる。
増粘剤としては、ポリメタクリル酸系増粘剤等の公知の高分子ポリマー増粘剤を用いることができる。
増粘剤は、1種または2種以上用いることができる。
<その他の任意成分>
その他の任意成分としては、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤等のカップリング剤等が挙げられる。
[銅ペースト組成物の製造方法]
本発明の銅ペースト組成物は好ましくは、以下の本発明の銅ペースト組成物の製造方法により製造することができる。
本発明の銅ペースト組成物の製造方法は、
銅粉(10)よりも粒子径の小さい銅核粒子(21)と、銅核粒子(21)の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子(22)とを含む被覆銅粒子(20X)を用意する工程(1)と、
銅粉(10)と、被覆銅粒子(20X)と、親水基および疎水基を有し、被覆銅粒子(20X)の複数の脂肪族カルボン酸分子(22)と相互作用する複数の極性有機低分子(23)と、媒体とを含む複数種の原料を混合する工程(2)とを有する
(各成分の符号は、図1Aおよび図1Bを参照されたい。)。
(工程(1))
工程(1)は、媒体中で、脂肪族カルボン酸銅錯体を熱分解する工程を含むことが好ましい。
脂肪族カルボン酸銅錯体を熱分解処理することで、銅核粒子と脂肪族カルボン酸とが生成され、生成された1個の銅核粒子の表面に対して複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)する。これにより、銅核粒子の表面に所定の被覆密度で複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)した被覆銅粒子(20X)が形成される。
脂肪族カルボン酸銅錯体中の脂肪族カルボン酸の種類等によっては、脂肪族カルボン酸銅錯体の熱分解工程において、銅イオンが還元され、還元銅核粒子が生成される。
一態様において、
工程(1)は、
カルボン酸銅と、脂肪族カルボン酸と、媒体とを含む反応液を用意する工程と、
上記反応液を加熱して反応させる工程とを含むことができる。
この方法では、上記反応液の加熱反応過程において、脂肪族カルボン酸銅錯体の生成と熱分解とが起こる。
上記態様において、反応液はさらに、錯化剤を含むことが好ましい。
上記態様において、脱水処理なしの条件で、上記反応液を加熱して反応させることが好ましい。
すなわち、
工程(1)は、
カルボン酸銅と、脂肪族カルボン酸と、錯化剤と、媒体とを含む反応液を用意する工程と、
脱水処理なしの条件で、上記反応液を加熱して反応させる工程とを含むことが好ましい
以下、反応液の各成分について、説明する。
<カルボン酸銅>
原料のカルボン酸銅としては特に制限されず、銅イオンの還元性、原料の入手容易性、および原料の製造容易性等の観点から、ギ酸銅およびシュウ酸銅等が好ましい。
ギ酸銅は、1モルの2価の銅イオンと、2モルのギ酸イオンとから構成される。
ギ酸銅は、無水物であっても水和物であってもよく、好ましくは無水物である。
ギ酸銅は、市販品を用いてもよく、公知方法により製造して用いてもよい。
ギ酸は還元性を有するので、ギ酸銅を熱分解処理すると、2価の銅イオンが還元され、還元銅粒子が生成される(特公昭61−19682号公報等を参照されたい。)。
反応液中のギ酸銅の含有量は特に制限されず、製造効率等の観点から、好ましくは1.0〜2.5mol/L、より好ましくは1.5〜2.5mol/L、特に好ましくは2.0〜2.5mol/Lである。
<脂肪族カルボン酸>
原料の脂肪族カルボン酸は特に制限されず、所望の被覆銅粒子中の脂肪族カルボン酸分子の構造に合わせて選定される。
原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、所望の被覆銅粒子中の脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数と一致する。
粒子径の揃った被覆銅粒子を効率良く製造でき、被覆銅粒子の耐酸化性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは5以上である。
粒子径の揃った被覆銅粒子を効率良く製造でき、被覆銅粒子の耐酸化性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
原料の脂肪族カルボン酸の沸点は、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
被覆銅粒子中の脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
原料の脂肪族カルボン酸としては、
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸が挙げられる。
原料の脂肪族カルボン酸は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量は特に制限されず、好ましくは2.5〜25mol%、より好ましくは5.0〜15mol%である。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が2.5mol%以上であると、充分な反応速度が得られ生産性が向上する傾向があり、被覆銅粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が25mol%以下であると、反応系の粘度上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
<錯化剤>
錯化剤としては特に制限されず、アミノアルコール等が好ましい。
反応液中にアミノアルコール等の錯化剤が存在することで、ギ酸銅から錯化合物が効果的に生成される。
錯化合物は、媒体中に容易に可溶化する。
アミノアルコールは、少なくとも1つのアミノ基を有するアルコール化合物である。
アミノ基の数は特に制限されず、1つが好ましい。
すなわち、アミノアルコールとしては、モノアミノモノアルコールが好ましい。
中でも、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール、および、単座配位性のモノアミノモノアルコールが好ましい。
アミノアルコールの沸点は特に制限されず、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、アミノアルコールの沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
アミノアルコールの沸点は、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下である。
媒体に対する溶解性と沸点が反応に適することから、アミノアルコールのSP値は、好ましくは11.0以上、より好ましくは12.0以上、特に好ましくは13.0以上である。
アミノアルコールのSP値は、好ましくは18.0以下、より好ましくは17.0以下である。
本明細書において、特に明記しない限り、「SP値」とは、Hildebrandの定義による溶解パラメータ(Solubility Parameter)であり、25℃における試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1の平方根である。
本明細書において、特に明記しない限り、「SP値」は、下記ホームページに記載の方法
に準拠して、求めるものとする。
公益社団法人石油学会ホームページ
(http://sekiyu-gakkai.or.jp/jp/dictionary/petdicsolvent.html#solubility2)
SP値は、具体的には以下のようにして算出される。
分子間結合エネルギーE1は、蒸発潜熱Hbから気体エネルギーを差し引いた値である。
試料の沸点Tbから、蒸発潜熱Hbが下式で求められる。
Hb = 21×(273+Tb)
蒸発潜熱Hbから、25℃におけるモル蒸発潜熱H25が下式で求められる。
H25 = Hb×[1+0.175×(Tb−25)/100]
モル蒸発潜熱H25から、試料総量の分子間結合エネルギーEが下式より求められる。
E = H25−596
試料総量の分子間結合エネルギーEから、試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1が下式により求められる。
E1 = E×D/Mw
(上記式中、Dは試料の密度、Mwは試料の分子量である。)
試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1から、SP値が下式により求められる。
SP =(E1)1/2
なお、OH基を含む試料は、OH基1基につき+1の補正が必要である(三菱石油技資、No.42,p3,p11(1989)を参照)。
アミノアルコールとしては、
2−アミノエタノール(沸点:170℃、SP値:14.54)、
3−アミノ−1−プロパノール(沸点:187℃、SP値:13.45)、
5−アミノ−1−ペンタノール(沸点:245℃、SP値:12.78)、
DL−1−アミノ−2−プロパノール(沸点:160℃、SP値:12.74)、
および、
N−メチルジエタノールアミン(沸点:247℃、SP値:13.26)等が挙げられる。
これらは1種または2種以上用いることができる。
反応液中のアミノアルコールの含有量は特に制限されず、反応液中の銅イオンに対して、好ましくは1.5〜4.0倍モル、より好ましくは1.5〜3.0倍モルである。
アミノアルコールの含有量が銅イオンに対して1.5倍モル以上であると、ギ酸銅の溶解性が良好となり、反応時間を短縮することができる。
アミノアルコールの含有量が銅イオンに対して4.0倍モル以下であると、生成される被覆銅粒子に対する不要なアミノアルコールの付着を抑制することができる。
<媒体>
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
媒体としては、一般的に化学反応に用いられる有機媒体から1種または2種以上を選択することができる。
媒体としては、ギ酸による銅イオンの還元反応を阻害せず、かつ、アミノアルコールのSP値と媒体のSP値との差であるΔSP値が4.2以上を充足する媒体が好ましい。
ΔSP値が4.2以上であると、生成される被覆銅粒子の粒度分布の幅が狭くなり、粒子径の揃った被覆銅粒子が得られる傾向がある。
反応場の形成性と被覆銅粒子の品質の観点から、ΔSP値は、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上、特に好ましくは7.0以上である。
ΔSP値は、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下である。
媒体のSP値は、アミノアルコールよりも小さいことが好ましい。
2種以上の媒体を用いる場合、媒体のSP値は、媒体に含まれる各媒体のSP値とモル分率とを考慮した平均SP値により定義されるものとする。
例えば、媒体1と媒体2の2種の媒体を用いる場合、平均SP値は、下式により算出される。
δ3=(V1×δ1+V2×δ2)/(V1+V2)
(上記式中、各記号は以下の意味を示す。
δ3:混合媒体の平均SP値、
δ1:媒体1のSP値、
V1:媒体1のモル容積、
δ2:媒体2のSP値、
V2:媒体2のモル容積。)
媒体は、少なくともアミノアルコールと相溶しない媒体(以下、「主媒体」と呼ぶ)を含むことが好ましい。
媒体としては、アミノアルコールと相溶しない媒体(主媒体)と、アミノアルコールと相溶する媒体(以下、「補助媒体」と呼ぶ)を併用することが好ましい。
以下、主媒体の好ましい態様について、説明する。
主媒体の沸点は、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、主媒体の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
主媒体の沸点は、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下である。
主媒体としては、水と共沸混合物を形成可能なものが好ましい。水と共沸混合物を形成可能であると、反応液の加熱工程において、反応系に生成される水を容易に除去することができる。
主媒体としては、エチルシクロへキサン(沸点:132℃、SP値:8.18)、C9アルキルシクロヘキサン混合物[例えば、ゴードー社製「スワクリーン150」(沸点:149℃、SP値:7.99)、およびn−オクタン(沸点:125℃、SP値:7.54)等が挙げられる。
主媒体は、1種または2種以上用いることができる。
以下、必要に応じて用いられる補助媒体の好ましい態様について、説明する。
補助媒体の好ましい沸点は、主媒体と同様である。
補助媒体のSP値は主媒体をよりも大きいことが好ましく、アミノアルコールと相溶する程度に大きいことがより好ましい。
補助媒体としては、エチレングリコール(EO)系グリコールエーテル、プロピレングリコール(PO)系グリコールエーテル、およびジアルキルグリコールエーテル等が挙げられる。
EO系グリコールエーテルとしては、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、およびブチルグリコール等が挙げられる。
PO系グリコールエーテルとしては、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、およびブチルプロピレングリコール等が挙げられる。
ジアルキルグリコールエーテルとしては、ジメチルジグリコール等が挙げられる。
なお、これらの補助媒体は、いずれも日本乳化剤(株)等より入手可能である。
補助媒体は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の媒体量は、銅イオン濃度が好ましくは1.0〜2.5mol/L、より好ましくは1.5〜2.5mol/Lとなる量に調整される。
反応液中の銅イオン濃度が1.0mol/L以上であると、生産性が向上する。
反応液中の銅イオン濃度が2.5mol/L以下であると、反応液の粘度の上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
<任意成分>
反応液は、必要に応じて、上記以外の任意成分を1種または2種以上含むことができる。
<錯化合物>
ギ酸銅、脂肪族カルボン酸(好ましくは長鎖カルボン酸)、および媒体を含む反応液中には、ギ酸銅に由来する1種または2種以上の錯化合物(脂肪族カルボン酸銅錯体)が生成される。
錯化合物の構造は特に限定されない。
反応液中の錯化合物は、反応の進行に伴って、構造が変化してもよい。
錯化合物は、銅イオン、および配位子としてのギ酸イオンを含むことができる。
錯化剤としてアミノアルコールを用いる場合、錯化合物は、銅イオン、配位子としてのギ酸イオン、および、配位子としてのアミノアルコールを含むことができる。
錯化合物が配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する傾向がある。
錯化合物としては、
1個の銅イオンに対して2個のギ酸イオンと2分子のアミノアルコールとが配位した錯化合物;
1個の銅イオンに対して1個のギ酸イオンと1分子の脂肪族カルボン酸と2分子のアミノアルコールとが配位した錯化合物、
1個の銅イオンに対して2個のギ酸イオンと1分子のアミノアルコールとが配位した錯化合物、
1個の銅イオンに対して1個のギ酸イオンと1分子の脂肪族カルボン酸と1分子のアミノアルコールとがそれぞれ二座配位した錯化合物、
および、
上記の各錯化合物に対してさらに1分子のアミノアルコールが単座配位した錯化合物等が挙げられる。
反応液中に生成した錯化合物は、熱分解処理によって銅核粒子を生成することができる。熱分解処理の温度は、錯化合物の構造等に応じて適宜選択される。
一般的に、ギ酸銅の熱分解温度は210〜250℃程度とされている。
しかしながら、ギ酸銅がアミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、ギ酸銅の熱分解温度は110〜120℃程度に低下することができる(特開2008-013466号公報等を参照されたい。)。
したがって、錯化剤としてアミノアルコールを用いた反応液の加熱温度(熱分解処理温度)は、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。
錯化剤としてアミノアルコールを用い、熱分解処理温度が好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃、特に好ましくは115〜125℃であり、熱分解処理時に脱水処理を実施しない方法では、脂肪族カルボン酸とアミノアルコールとの脱水反応による酸アミド化合物の生成が抑制され、酸アミド化合物の含有量の少ない被覆銅粒子が得られる。この方法で得られる被覆銅粒子の酸アミド含有量は、例えば0.5質量%以下であり、通常0質量%である。
酸アミド化合物は、極性有機低分子の1種である。
酸アミド化合物の含有量の少ない、あるいは酸アミド化合物を実質的に含まない被覆銅粒子を用いることで、最終的に製造される銅ペースト組成物中の極性有機低分子の量を好適な範囲に制御しやすい。
錯化合物の熱分解処理により銅核粒子が生成し、生成された銅核粒子の表面に脂肪族カルボン酸が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)することで、銅核粒子の表面が複数の脂肪族カルボン酸分子で被覆された被覆銅粒子を得ることができる。
熱分解処理の時間は、熱分解処理の温度に応じて適宜選択することができ、例えば30〜180分間が好ましい。
銅核粒子の酸化防止の観点から、熱分解処理の雰囲気は、窒素雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。
被覆銅粒子の製造方法において、被覆銅粒子の粒度分布は、脂肪族カルボン酸の種類と添加量、ギ酸銅錯体の濃度、および混合媒体の比率(主媒体/補助媒体)等を調整することで、狭い範囲に調整することができる。
被覆銅粒子の大きさは、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
被覆銅粒子の製造方法においては、粒度分布が狭い被覆銅粒子が得られる。これは、例えば、以下のように考えることができる。
ギ酸銅を反応媒体に可溶化するための錯化剤としてのアミノアルコールと媒体とのSP値の差であるΔSP値を好ましくは4.2以上とする。この場合、錯体(ギ酸銅アミノアルコール錯体、またはギ酸の1分子が脂肪族カルボン酸で置換されたギ酸銅アミノアルコール錯体)は、反応液中に溶解することができるが、錯体が熱分解されて錯化剤であるアミノアルコールが遊離すると、遊離したアミノアルコールは媒体とは相溶できず、2相を形成し始める。
遊離したアミノアルコールは、ギ酸銅およびギ酸銅アミノアルコール錯体との親和性が高く、ギ酸銅の新たなる錯化剤または媒体として振る舞うことができる。これにより、遊離したアミノアルコールは極性の高い内核(液滴)を形成し、その外側を極性の低い媒体が取り囲むことで、Water in oil Emulsion類似の2相構造が形成される。これがマイクロ反応場として機能すると推定される。
上記マイクロ反応場には、反応系中の水、および、脂肪族カルボン酸の置換により脱離したギ酸もが存在する。
マイクロ反応場では、
金属核およびその成長粒子;
金属核の発生源であるギ酸銅アミノアルコール錯体、またはギ酸の1分子が脂肪族カルボン酸で置換されたギ酸銅アミノアルコール錯体;
水;
およびギ酸が、
媒体からアミノプロパノール層に隔離されて、反応が進行すると考えられる。
以下、アミノアルコールがプロパノールアミンであり、脂肪族カルボン酸がラウリン酸である場合を例として反応式を示しながら、反応機構について、説明する。
反応初期では、ギ酸銅錯体の熱分解が下記反応式1〜4で進行すると考えられる。
(反応式1)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+C1123COOH
→(C1123COO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+HCOOH、
(反応式2)
(C1123COO)(HCOO)Cu2++2(HNCOH)→(C1123COO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)
(反応式3)
(C1123COO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)→Cu:C1123COOH+2HNCOH+CO
(反応式4)
Cu:C1123COOH
↑↓
Cu+C1123COOH
反応が進んで脂肪族カルボン酸が銅核粒子の被覆材となり、反応液中の脂肪族カルボン酸の量が減少するにつれて、下記反応式5の反応が進行し、発生ガス成分が変化してくると考えられる。
(反応式5)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)
→Cu+2HNCOH+H+2CO
マイクロ反応場では、下記反応式6に示すように、水によるギ酸銅アミノアルコール錯体の加水分解でCuOが生成するが、反応式7または反応式8の反応を経由して、CuOは還元される。これにより、亜酸化銅および酸化銅を含まない還元銅粒子が生成されると考えられる。また、マイクロ反応場に含まれる銅原子数は限定されるため、銅核粒子の粒子径は一定に制御されると考えられる。
(反応式6)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+H
→CuO+2HNCOH+2HCOOH
(反応式7)
2CuO+2HCOOH→CuO+HCOOH+HO+CO
→2Cu+2HO+2CO
(反応式8)
CuO+2HCOOH→(HCOO)(HCOO)Cu2++H
反応式1〜8は上記したように一例に過ぎず、アミノアルコールと脂肪族カルボン酸との組合せに応じて変化する。
マイクロ反応場には、表面に酸化銅が形成されていない還元銅粒子が生成するため、マイクロ反応場に存在する脂肪族カルボン酸が吸着しやすい。その結果、粒子径が揃い、耐酸化性および焼結性に優れる被覆銅粒子が効率的に得られると考えられる。
被覆銅粒子の製造方法は必要に応じて、熱分解処理工程後に、被覆銅粒子の洗浄工程、分離工程、および乾燥工程等の後工程をさらに有していてもよい。
これら後工程には、公知方法を適用できる。
洗浄工程は例えば、有機媒体を用いて実施することができる。洗浄工程に用いる有機媒体としては特に制限されず、メタノール等のアルコール媒体、アセトン等のケトン媒体等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
[導電体]
本発明の導電体は、上記の本発明の銅ペースト組成物を焼結してなる。
導電体としては特に制限されず、配線および導電体層等が挙げられる。
導電体層としては、電極層および接合層等が挙げられる。
接合層としては、基材とIC(Integrated Circuit)チップ等の半導体素子とを接合する接合層等が挙げられる。
本発明の導電体は、銅を主成分とするので、高導電性を有し、マイグレーションの問題を生じにくく、耐蝕性に優れる。
本発明の導電体の厚みは特に制限されず、例えば1〜100μm程度が好ましい。
本発明の導電体は、
基材上に上記の本発明の銅ペースト組成物を塗工する工程と、
塗工された銅ペースト組成物を焼結する工程とを有する製造方法により、
製造することができる。
配線および導電体層等の本発明の導電体は、各種基材上に形成することができる。
本発明の銅ペースト組成物は比較的低温でも焼結可能であるので、基材の選択自由度が大きい。
基材は、少なくとも基材本体を含み、必要に応じて基材本体の上に形成された層および部材等の1種または2種以上の要素を含むことができる。
基材本体は例えば、
ポリイミド等の樹脂;
ガラス;
シリカおよびアルミナ等のセラミックス;
ステンレス、銅、およびチタン等の金属;
シリコン等の半導体等を含む。
基材本体は、複合材料からなるものでもよい。
半導体部品および電子機器等の用途では、基材本体としては、リードフレームおよび基板等が好ましく用いられる。基板の厚みは例えば0.01〜5mm程度が好ましい。
塗工方法は特に制限されず、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、およびディスペンス印刷法等の公知印刷法を採用することができる。
本発明の銅ペースト組成物は、上記印刷法によってパターン印刷することができる。
本発明の銅ペースト組成物は、印刷特性が良好であるので、所望の厚みおよびパターンで、精度良くパターン印刷を行うことができる。
塗工厚みは、媒体量と最終的に製造される導電体の所望厚みとから、求められる。
銅ペースト組成物の焼結温度は例えば200〜600℃、好ましくは200〜450℃である。
本発明の銅ペースト組成物は、450℃以下または350℃以下の低温焼結が可能である。
焼結時間は焼結温度に応じて選択され、例えば1〜120分間、好ましくは1〜60分間である。
焼結工程においては、必要に応じて、加圧焼結を行ってもよい。
加圧力は特に制限されず、好ましくは0.1〜100MPa、より好ましくは0.1〜50MPaである。
銅の酸化防止の観点から、焼結雰囲気は、好ましくは酸素濃度の低い不活性雰囲気である。酸素濃度の低い不活性雰囲気としては、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気、および減圧雰囲気等が挙げられる。雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
以下、本発明に係る製造例、実施例および比較例について、説明する。
[製造例1]「ギ酸銅無水物の製造例」
1000mLガラス製四ツ口フラスコに、ギ酸83gおよびイオン交換水123gを仕込んだ。フラスコの内容物を均一に攪拌しながら、塩基性炭酸銅100gを少しずつ加えた。この際、発生した炭酸ガスを水トラップに導いて、炭酸ガス生成の様子を確認した。
炭酸ガスの流出がほとんどなくなったのを確認した後、イオン交換水160gを添加し、43℃で4時間反応を継続した。
反応液が濃青色透明液となり、炭酸ガスの流出が完全になくなったことを確認して、反応を終了した。
エバポレータを用いてフラスコの内容物を減圧濃縮することで、水を120g留去した。これにより、析出結晶を含むスラリーが得られた。
上記スラリーを室温(20〜25℃)まで自然冷却した後、ろ過し、アセトン200mLで洗浄した。これにより、緑青色の結晶が得られた。
次いで、得られた結晶を減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥条件は、粉体の温度50℃以下、圧力7kPa以下とした。
以上のようにして、淡青色結晶のギ酸銅無水物110gが得られた。
(分析)
得られたギ酸銅無水物について、以下の分析を実施した。
<熱重量・示差熱(TG−DTA)分析>
測定装置として、リガク社製「TG8120」を
用いて、熱重量・示差熱(TG−DTA)分析を実施した。
測定条件は以下の通りとした。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25〜600℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
TG曲線を図2に示す。
横軸は温度(℃)を示し、縦軸は初期重量を0重量%としたときの重量の増減率(重量%)を示す。
常温から190℃付近まで緩やかな重量減少が見られた。この緩やかな重量減少は水分蒸発分に相当する。ギ酸銅無水物の含水率として、この緩やかな重量減少率を求めたところ、0.9質量%であった。
190℃付近から230℃付近の間で大きな重量減少が見られた。この大きな重量減少は、ギ酸蒸発分に相当する。測定終了時の重量減少率は、58.0重量%であった。
ギ酸銅無水物の銅含有率を下記式により求めたところ、41.1質量%であった。
[ギ酸銅無水物の銅含有率(質量%)]=100−[測定終了時の重量減少率(重量%)]+[含水率(質量%)]
<粉末X線回折(PXRD)分析>
測定装置として島津製作所社製「XRD−6100」を用いて粉末X線回折(PXRD)分析を実施して、結晶構造を同定した。
測定条件は以下の通りとした。
ターゲット:Cu、
管電圧:40KV、
管電流:30.0mA。
ギ酸銅無水物のXRDパターンを図3に示す。
[製造例2]「被覆銅粒子(CuP1)の製造」
攪拌機、温度計、還流冷却管、および窒素導入管を備えた3000mLガラス製四ツ口フラスコを150℃のオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、
製造例1で得られた含水率0.9質量%のギ酸銅無水物484g(3.1モル)と、
ラウリン酸(関東化学社製)77.5g(0.12当量/ギ酸銅無水物)と、
媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製、沸点:242℃、SP値:9.20)188g(0.29当量/ギ酸銅無水物)と、
媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」、沸点:149℃、SP値:7.99)702g(1.78当量/ギ酸銅無水物)とを仕込んだ。
窒素雰囲気下、上記フラスコ内の内容物をオイルバスで加温しながら、液温度が50℃になるまで、200rpmで攪拌しながら、混合した。
上記混合物に対して、錯化剤としての3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)712g(3.02当量/ギ酸銅無水物)をゆっくり滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物をオイルバスで加温して、約3.7℃/minの昇温速度で液温度が120℃付近になるまで、340rpmで攪拌しながら、混合した。
液温度の上昇に伴って、反応液は濃青色から茶褐色に変化し、炭酸ガスの発泡が生じた。
炭酸ガスの発泡が収まった時点を反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで自然冷却した。
室温まで冷却した上記反応液に対して、メタノール(関東化学社製)550gを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)550gと、アセトン(関東化学社製)300gとを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
得られた沈殿物を、メタノール(関東化学社製)550gを用いて共洗いしながら500mLナスフラスコに移した。これを30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションした。
得られた沈殿物に対して、メチルシクロヘキサン77gおよびイソ酪酸3−ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチル15gを添加し、混合した。その後、ナスフラスコを回転式エバポレータに設置し、内容物を40℃、1kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)した。
減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。
以上のようにして、204gの茶褐色の被覆銅粒子(CuP1)を得た。
得られた被覆銅粒子(CuP1)は、後記の実施例1および比較例1の銅ペースト組成物の製造に使用した。
なお、被覆銅粒子(CuP1)の表面物性評価用サンプルについては、メチルシクロヘキサンおよびイソ酪酸3−ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチルの添加操作は省略した。
(分析)
得られた被覆銅粒子(CuP1)について、以下の分析を実施した。
<SEM観察>
得られた被覆銅粒子(CuP1)について、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を実施した。
SEMとしては、日本電子社製「FE−EPMA JXA−8510F」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
加速電圧 :6KVまたは15KV、
観察倍率:10,000〜75,000倍。
得られたSEM写真を図4に示す。
SEM観察から、平均一次粒子径を求めたところ、90.4nmであった。
粒子径変動率を測定したところ、9.6%であり、粒子径の揃った被覆銅粒子(CuP1)が得られた。
<粉体X線回折(PXRD)分析>
製造例1で得られた被覆銅粒子(CuP1)について、粉体X線回折(PXRD)分析を実施した。
測定装置としては、島津製作所製「XRD−6100」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
ターゲット:Cu、
管電圧 40KV、
管電流 30.0mA。
得られたXRDパターンでは、還元銅由来のピーク(2θ=43.3°付近)が検出され、酸化銅由来のピーク(2θ=35.5°および38.7°)、および、亜酸化銅由来のピーク(2θ=37.0°付近)は検出されなかった。この結果から、製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)は還元銅粒子を核とし、酸化物を実質的に含まないことが分かった。
また、被覆銅粒子(CuP1)を室温(20〜25℃)で12ヶ月保存しても、XRDパターンに酸化銅由来のピーク、および、亜酸化銅由来のピークは検出されず、被覆銅粒子(CuP1)は耐酸化性が良好であった。
<Tof−SIMS分析(飛行時間型二次イオン質量分析)>
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)について、Tof−SIMS分析(飛行時間型二次イオン質量分析)を実施した。
測定装置としては、ULVAC−PHI社製「PHI TRIFT IV 型」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
1次イオン種:Au、
加速電圧:30KV。
得られたTof−SIMSスペクトルでは、脂肪族カルボン酸としてフリーのラウリン酸のみが検出され、63Cuまたは65Cuと結合しているラウリン酸は検出されなかった。このことから、被覆銅粒子(CuP1)の表面に存在するのは、物理吸着したラウリン酸であることが確認された。
<赤外吸収分析(IR分析)>
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)について、赤外吸収分析(IR分析)を実施した。
測定装置としては、パーキンエルマー社製「AutoIMAGE FT−IR Microscope」を用いた。
得られた赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)においては、実質的にカルボン酸−金属塩由来の伸縮振動ピークのみが観測され、遊離のカルボン酸に由来する伸縮振動ピークが実質的に観測されなかった。このことから、脂肪族カルボン酸分子(本実施例ではラウリン酸分子)が、カルボキシ基で銅核粒子の表面に物理吸着していることが確認された。
<熱重量・示差熱(TG−DTA)分析>
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)について、熱重量・示差熱(TG−DTA)分析を実施して、有機成分量を測定した。
測定装置としては、リガク社製「TG8120」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25℃〜600℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
TG曲線を図5に示す。
横軸は温度(℃)を示し、縦軸は初期重量を0重量%としたときの重量の増減率(重量%)を示す。
スラリー状態で測定を行ったため、150℃程度までの重量減少率は溶媒蒸発分に相当する。
150℃程度から350℃程度の範囲(ラウリン酸の沸点付近)の重量減少率が、被覆層蒸発分に相当する。この温度範囲の重量減少率は0.9質量%であった。すなわち、製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)の有機成分量は、0.9質量%であった。
製造例2では、反応液の熱分解処理の温度を酸アミド脱水縮合反応が生じにくい120℃付近とした。また、反応液の熱分解処理時に脱水処理を実施しなかった。この場合、脂肪族カルボン酸とアミノアルコールとの脱水縮合反応による酸アミド化合物の生成が抑制され、酸アミド化合物を実質的に含まない被覆銅粒子(CuP1)が得られたと考えられる。
TG−DTA測定結果と製造条件とから、製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)の上記有機成分量は実質的に、ラウリン酸の量に相当すると考えられる。
また、TG−DTA測定結果からも、ラウリン酸が物理吸着していることが示された。
<液体クロマトグラフィ(LC)分析>
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)に含まれる有機成分について、液体クロマトグラフィ(LC)分析を実施した。
測定装置としては、Waters社製「ACQUITY UPLC H−Class System」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
カラム:ACQUITY UPLC(R)BEH C18 1.7μm 2.1×50mm、
測定温度:50℃、
測定媒体:水/アセトニトリル、
流量:0.8mL/min。
LC分析用のサンプルは以下のように調製した。
サンプル瓶内に、被覆銅粒子1gとアセトニトリル9mLとを入れた。そこに、0.36質量%の塩酸水溶液1mLを加えた。得られた溶液に対して、30分間、超音波を印加して攪拌混合した。次いで、得られたスラリー液を静置して固液分離した後、上澄み液を採取した。この上澄み液を0.2μmフィルターでろ過し、LC分析用のサンプルとした。
LC分析において、有機成分としてはラウリン酸が主として検出された。
<脂肪族カルボン酸の被覆密度の測定>
[課題を解決するための手段]の項に記載の方法にて、銅核粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸の被覆密度を求めたところ、3.68分子/nmであった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める−実験値と計算値−』では、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00分子/nmである。この理論値から、被覆銅粒子(CuP1)は比較的高密度にラウリン酸が銅核粒子の表面に吸着していることが推測される。この濃密な被覆効果により、被覆銅粒子(CuP1)は耐酸化性を効果的に発現すると考えられる。
(評価結果)
製造例2における主な製造条件および評価結果を、表1に示す。
[実施例1]
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)を用いて、銅ペースト組成物を製造した。
平均粒子径の比較的大きい第1の銅粉として、平均粒子径が2.0μmの湿式銅粉(三井金属社製「1200N」)を用意した。
平均粒子径の比較的小さい第2の銅粉として、平均粒子径が0.8μmの湿式銅粉(三井金属社製「1050Y」)を用意した。
高分子ポリマー分散剤として、ポリアクリル酸系分散剤(日油社製「マリアリム」)を用意した。
高分子ポリマー増粘剤として、ポリメタクリル酸系増粘剤(日油社製「KC1100」)を用意した。
極性有機低分子として、酸アミド化合物であるラウリン酸3プロパノールアミド(C1531NOを用意した。
ラウリン酸3プロパノールアミドの化学構造式および分子量等については、[化1]、[表4]を参照されたい。
媒体として、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(NHネオケム社製「キョーワノールM」)を用意した。
製造例2で得られた被覆銅粒子(CuP1)と、上記の第1の銅粉と、上記の第2の銅粉と、上記の高分子ポリマー分散剤と、上記の高分子ポリマー増粘剤と、上記の極性有機低分子と、上記の媒体とを、表2で示す組成で配合した。
自動ライカイ装置を用いてこれらを分散混練して、銅ペースト組成物を得た。
分散剤と増粘剤とを合わせた高分子ポリマーの総量は、0.5質量%であった。
なお、高分子ポリマー分散剤の使用量は、一般的な導電性ペースト組成物における分散剤の使用量の1/4程度であった。
[比較例1]
極性有機低分子を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、表2に示す組成の銅ペースト組成物を得た。
(評価)
<レオロジー測定>
実施例1および比較例1の各例において得られた銅ペースト組成物について、レオロジー測定を実施した。周波数に対する、複素粘度(complex viscosity)、貯蔵弾性率(storage modulus)G'、損失弾性率(loss modulus)G''、および損失係数(tanΔ、tan(delta))の変化を測定した。
上記測定項目のうち、貯蔵弾性率(storage modulus)G'のデータが、周波数に対する弾性特性を示し、損失弾性率(loss modulus)G''が周波数に対する粘性特性を示す。
周波数の変化は温度変化に対応しており、周波数の相対的に低い側の特性が相対的に高温側の特性、周波数の相対的に高い側の特性が相対的に低温側の特性に対応している。
測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメント(TA Instruments Inc.)社製の動的粘弾性測定装置「ARES−G2」を用いた。
測定条件は以下の通りとした。
測定温度:常温(20〜25℃)、
周波数:1.0×10−1〜1.0×10[rad/s]。
<レーザ顕微鏡観察>
実施例1において得られた銅ペースト組成物について、得られた銅ペースト組成物を用いて、導電体層を成膜した。
ステンレス(SUS)基板上に、9mm角の正方形状の開口部を有する50μm厚の金属マスクを載置した後、銅ペースト組成物をスクリ]ーン印刷した。
これにより、上記金属マスクの開口部内に、9mm角の正方形状パターンを有する50μm厚の銅ペースト組成物の塗工膜を形成した。
次いで、上記塗工膜を150℃、1.0Paの条件で減圧加熱乾燥(真空加熱乾燥)して、導電体層を得た。
得られた導電体層の表面を、レーザ顕微鏡を用いて観察した。
レーザ顕微鏡としては、OLYMPUS社製「LEXT」を用いた。
(評価結果)
<レオロジーの評価結果>
実施例1および比較例1の各例において得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を、図6A、図6Bに示す。
実施例1では、銅ペースト組成物に極性有機低分子である酸アミド化合物を添加した。
図6Aに示すように、実施例1で得られた銅ペースト組成物では、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)G'と損失弾性率(loss modulus)G''とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))はほぼ一定であった。また、周波数を変化させても、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)G'が損失弾性率(loss modulus)G''を上回っていた。
実施例1で得られた銅ペースト組成物では、銅核粒子の表面が複数の脂肪族カルボン酸分子により被覆された被覆銅粒子(CuP1)の周りに、複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の酸アミド化合物分子(極性有機低分子)が配置した複合粒子が生成されたと考えられる。
この複合粒子の最表面には、酸アミド化合物分子(極性有機低分子)の親水基が存在する。この酸アミド化合物分子(極性有機低分子)の親水基と分散剤としての高分子ポリマーの側鎖の親水基とが相互作用(水素結合)することができると考えられる。酸アミド化合物分子(極性有機低分子)と分散剤としての高分子ポリマーとの相互作用(水素結合)により、分散剤としての高分子ポリマーの添加量を少なくしても、銅ペースト組成物は良好な粘弾性特性を発現することができると考えられる。
なお、酸アミド化合物分子(極性有機低分子)の親水基同士が相互作用(水素結合)することで、複合粒子同士の相互作用も強くなるので、分散剤としての高分子ポリマーを添加しなくても、銅ペースト組成物は良好な粘弾性特性を発現することができると考えられる。
比較例1では、銅ペースト組成物に極性有機低分子を添加しなかった。
図6Bに示すように、比較例1で得られた銅ペースト組成物では、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)G'と損失弾性率(loss modulus)G''とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))はほぼ一定であった。しかしながら、実施例1とは異なり、周波数を変化させたとき、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)G'が損失弾性率(loss modulus)G''を下回っていた。かかる粘弾性特性では、塗工時に液垂れが生じやすく、レベリング性も劣る傾向がある。
<レーザ顕微鏡観察の結果>
実施例1で得られた銅ペースト組成物を用いた導電体層のレーザ顕微鏡表面写真を、図7に示す。
図7に示すように、実施例1で得られた銅ペースト組成物は印刷特性が良好であり、銅粉および複合粒子の粒子分散性が良好で、全面に渡ってクラック等の見られない良質な導電体層を成膜することができた。
[比較例2]
配合組成を表3に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、銅ペースト組成物を得た。この例では、極性有機低分子の添加を実施しなかった。
[実施例2−1]
配合組成を表3に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、銅ペースト組成物を得た。
[実施例2−2]
配合組成を表3に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、銅ペースト組成物を得た。この例では、極性有機低分子として、酸アミド化合物の代わりに、脂肪族カルボン酸であるラウリン酸を添加した。
(評価)
<レオロジー測定>
比較例2、実施例2−1、2−2の各例において得られた銅ペースト組成物について、実施例1と同様に、レオロジー測定を実施した。周波数に対する、複素粘度(complex viscosity)、貯蔵弾性率(storage modulus)G'、損失弾性率(loss modulus)G''、および損失係数(tanΔ、tan(delta))の変化を測定した。
<液垂れ有無とレベリング性の評価>
比較例2、実施例2−1、2−2の各例において、得られた銅ペースト組成物を用いて、導電体層を成膜した。
ステンレス(SUS)基板上に、9mm角の正方形状の開口部を有する50μm厚の金属マスクを載置した後、銅ペースト組成物をスクリーン印刷した。
これにより、上記金属マスクの開口部内に、9mm角の正方形状パターンを有する50μm厚の銅ペースト組成物の塗工膜を形成した。
次いで、上記塗工膜を150℃、1.0Paの条件で減圧加熱乾燥(真空加熱乾燥)して、導電体層を得た。
OLYMPUS社製のレーザ顕微鏡「LEXT」を用いて、得られた積層体(導電体層/SUS基板)の表面の輝度分布を測定した。この測定では、高さと輝度の分布が色分布で表示される。したがって、本来の導電体層の形成領域(マスクの開口領域)の周りに銅ペースト組成物の液垂れが生じた場合には、基板の露出面と液垂れ部分と導電体層とが異なる色で表示され、液垂れの有無を評価することができる。
実施例2−1、2−2の各例においては、レベリング性の評価として、OLYMPUS社製のレーザ顕微鏡「LEXT」用いて、得られた導電体層の表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定した。
(評価結果)
<レオロジーの評価結果>
比較例2、実施例2−1、2−2の各例において得られた銅ペースト組成物のレオロジーの測定結果を、図8A〜図8Cに示す。
比較例2では、銅ペースト組成物に極性有機低分子を添加しなかった。
図8Aに示すように、比較例2で得られた銅ペースト組成物では、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)G'と損失弾性率(loss modulus)G''とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))はほぼ一定であった。しかしながら、周波数を変化させたとき、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)G'が損失弾性率(loss modulus)G''を下回っていた。
比較例2で得られた銅ペースト組成物は、比較例1と同様、印刷特性が不良であった。
実施例2−1では、銅ペースト組成物に極性有機低分子である酸アミド化合物を添加した。
図8Bに示すように、実施例2−1で得られた銅ペースト組成物では、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)G'と損失弾性率(loss modulus)G''とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))に大きな変化はなかった。また、周波数を変化させても、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)G'が損失弾性率(loss modulus)G''を上回っていた。
実施例2−1で得られた銅ペースト組成物は、実施例1と同様、印刷特性が良好であった。
実施例2−2では、銅ペースト組成物極性有機低分子である脂肪族カルボン酸を添加した。
図8Cに示すように、実施例2−2で得られた銅ペースト組成物では、周波数に対して、貯蔵弾性率(storage modulus)G'と損失弾性率(loss modulus)G''とが同様の挙動を示し、周波数を変化させても損失係数(tanΔ、tan(delta))に大きな変化はなかった。また、周波数を変化させても、常に、貯蔵弾性率(storage modulus)G'が損失弾性率(loss modulus)G''を上回っていた。
実施例2−2で得られた銅ペースト組成物は、実施例1と同様、印刷特性が良好であった。
<液垂れ有無とレベリング性の評価結果>
極性有機低分子を添加しなかった比較例2で得られた銅ペースト組成物は、印刷性が不良であった。そのため、SUS基板上に塗工した際に、液垂れが見られた。
極性有機低分子である酸アミド化合物を添加した実施例2−1で得られた銅ペースト組成物は、印刷性が良好であった。そのため、SUS基板上に塗工した際に、液垂れは見られなかった。
また、銅ペースト組成物はレベリング性が良好であったため、得られた導電体層は表面粗さ(算術平均粗さRa)が2.5μmであり、表面平滑性が良好であった。
極性有機低分子である脂肪族カルボン酸を添加した実施例2−2で得られた銅ペースト組成物印刷性が良好であった。そのため、SUS基板上に塗工した際に、液垂れは見られなかった。
また、銅ペースト組成物はレベリング性が良好であったため、得られた導電体層は表面粗さ(算術平均粗さRa)が3.0μmであり、表面平滑性が良好であった。
[実施例3]「接合層の形成」
基材として、表面に銀メッキが施された銅製のリードフレーム(銀メッキリードフレーム)を用意した。
マスクを用いたスクリーン印刷法により、上記リードフレームのチップ搭載部(平面視9mm角の正方形状)上に、実施例1で得られた銅ペースト組成物を9mm角の正方形状パターンで50μm厚塗工した。
別途、シリコンウエハを基板とし、表面にバリア層として銀メッキが施されたIC(Integrated Circuit)チップを用意した。
ホットステージと、このホットステージに対向配置され、ICチップを吸着保持するボンディングヘッドとを備えたチップボンディング装置を用いて、チップボンディングを実施した。
図9Aに示すように、ホットステージとボンディングヘッドとを充分に離間させた状態で、ホットステージ上に銅ペースト組成物を塗工した上記の銀メッキリードフレームを載置し、ボンディングヘッドの下面に上記の銀メッキICチップを吸着保持させた。
次に図9Bに示すように、ボンディングヘッドを降下させ、銅ペースト組成物の塗工膜を加圧焼結して、銅接合層(接合用の導電体層)を形成した。
加圧焼結の条件は、以下の通りとした。
焼結温度:350℃、
加圧力:30MPa、
加熱および加圧の時間:10分間。
以上のようにして、ICチップ/バリア層(銀メッキ層)/銅接合層/銀メッキ層/リードフレームからなる積層体を得た。
図9Aおよび図9Bは、模式断面図である。
これらの図中の各符号は、以下の構成要素を示す。
100:チップボンディング装置、
101:ホットステージ、
102:ボンディングヘッド、
201:リードフレーム、
202:銀メッキ層、
203X:塗工膜、
203:銅接合層、
204:バリア層(銀メッキ層)、
205:ICチップ、
200:積層体。
得られた積層体のSEM断面観察を実施した。
SEM断面写真を図10に示す。
図10に示すように、得られた積層体の銅接合層は、緻密で均一性の高い導電体層であった。
[実施例4]「導電体層の形成」
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上に実施例1で得られた銅ペースト組成物を9mm角の正方形状パターンで10μm厚塗工した。
次いで、上記塗工膜を窒素雰囲気下にて350℃で1時間加熱して、導電体層を得た。
得られた導電体層の体積固有抵抗値を測定したところ、5μΩ・cmであり、Cuバルク体と同レベルの高導電性を有していた。

1:銅ペースト組成物
10:銅粉
11:第1の銅粉
12:第2の銅粉
20:複合粒子
20X:被覆銅粒子
21:銅核粒子
22:脂肪族カルボン酸分子
23:極性有機低分子
30:高分子ポリマー分散剤
100:チップボンディング装置
101:ホットステージ
102:ボンディングヘッド
201:リードフレーム
202:銀メッキ層
203X:塗工膜
203:銅接合層(導電体層)
204:バリア層(銀メッキ層)
205:ICチップ
200:積層体

Claims (10)

  1. 銅核粒子と、
    前記銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子と、
    親水基および疎水基を有し、前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子とを含む、
    複合粒子。
  2. 銅粉と、
    前記銅粉よりも粒子径の小さい銅核粒子、および、当該銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した複数の脂肪族カルボン酸分子を含む被覆銅粒子と、
    親水基および疎水基を有し、前記被覆銅粒子の前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する複数の極性有機低分子と、
    媒体とを含む、
    銅ペースト組成物。
  3. 高分子ポリマーの総含有量が、1質量%以下である、
    請求項2に記載の銅ペースト組成物。
  4. 前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5〜20であり、
    前記極性有機分子の前記疎水基の炭素数が5〜20である、
    請求項2または3に記載の銅ペースト組成物。
  5. 前記極性有機分子の前記親水基は、アミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基、チオカルボニル基、チオアミド基、エーテル基、およびアミノ基からなる群より選ばれた1種または2種以上の基を含む、
    請求項2〜4のいずれかに記載に記載の銅ペースト組成物。
  6. 前記銅核粒子の平均一次粒子径が0.02〜5.0μmである、
    請求項2〜5のいずれかに記載の銅ペースト組成物。
  7. 銅酸化物および銅水酸化物の総含有率が5質量%以下である、
    請求項2〜6のいずれかに記載の銅ペースト組成物。
  8. 請求項2〜7のいずれかに記載の銅ペースト組成物の製造方法であって、
    前記銅粉よりも粒子径の小さい前記銅核粒子と、当該銅核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で吸着した前記複数の脂肪族カルボン酸分子とを含む前記被覆銅粒子を用意する工程(1)と、
    前記銅粉と、前記被覆銅粒子と、親水基および疎水基を有し、前記被覆銅粒子の前記複数の脂肪族カルボン酸分子と相互作用する前記複数の極性有機低分子と、前記媒体とを含む複数種の原料を混合する工程(2)とを有し、
    工程(1)は、媒体中で、脂肪族カルボン酸銅錯体を熱分解する工程を含む、
    銅ペースト組成物の製造方法。
  9. 工程(1)は、
    カルボン酸銅と、脂肪酸と、媒体とを含む反応液を用意する工程と、
    前記反応液を加熱して反応させる工程とを含む、
    請求項8に記載の銅ペースト組成物の製造方法。
  10. 請求項2〜7のいずれかに記載の銅ペースト組成物を焼結してなる導電体。
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