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JP2017066492A - 疲労特性と成形性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents

疲労特性と成形性に優れた鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP2017066492A JP2015194582A JP2015194582A JP2017066492A JP 2017066492 A JP2017066492 A JP 2017066492A JP 2015194582 A JP2015194582 A JP 2015194582A JP 2015194582 A JP2015194582 A JP 2015194582A JP 2017066492 A JP2017066492 A JP 2017066492A
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Abstract

【課題】本発明は、板厚の薄い鋼板であっても疲労特性と成形性を向上するために、疲労寿命に占めるき裂伝播寿命が短い鋼板においても、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)を向上させることを課題とする。【解決手段】本発明は、TiCとして析出できるTi含有量(Tief)を用いて計算される有効炭素量(Ceff)が、0.002%以上0.050%以下とし、さらに所定の成分を含有した鋼板であって、隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で90%以上含み、硬質相の面積率の和が2%以下であり、さらに、方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20〜200ppmであるとよいことを見出しなしたものである。Tief=[Ti]—48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)【選択図】なし

Description

本発明は、疲労特性と成形性に優れた鋼板に関するものである。
最近、自動車車体の軽量化を目的として、足回り部品または車体の構造用部品の高強度化による薄肉化が進んでいる。しかし、引張強さや耐力を向上しても、自動車において重要な特性である疲労強度は十分に向上せず、また、高強度化は、切欠きや溶接部などの構造的、組織的不連続部からの疲労亀裂伝播抵抗を低下させるなどの問題点があった。
高強度化以外の疲労強度向上技術として、組織を微細化させることが有効であることが知られている。例えば、特許文献1および特許文献2には、熱延のままで平均粒径2μm未満の超微細フェライト粒を有し、第2相としてベイナイト等を有する熱延鋼板が記載されており、この鋼板は、延性、靭性、疲労強度などに優れ、これらの特性の異方性が小さいとされている。
また、疲労き裂は、表面近傍から発生するため、表面近傍の組織を微細化することも有効である。特許文献3には、主相であるポリゴナルフェライトの平均結晶粒径が板厚中心から表層に向かい漸次小さくなる結晶粒径傾斜組織を有し、第2相としてベイナイト等を体積分率で5%以上含む熱延鋼板が記載されている。更に、マルテンサイト組織の細粒化も疲労特性の向上に有効である。特許文献4には、ミクロ組織の面分率の80%以上がマルテンサイトであり、マルテンサイト組織の平均ブロック径が3μm以下であり、かつ最大ブロック径が平均ブロック径の1倍以上3倍以下である機械構造鋼管が記載されている。さらに、特許文献4には、造管前のインゴットの組織を熱延で下部ベイナイト又はマルテンサイトとして炭素を均一に分散することが記載されている。しかし、細粒化は疲労き裂の発生を抑制するが、疲労き裂伝播特性を劣化させる欠点があり、その結果切欠きや溶接欠陥を含む疲労特性を低下させる問題があった。
一方、疲労き裂伝播の抑制については、複合組織化が効果的であることが報告されている。特許文献5では、微細なフェライトを主相とした組織中に硬質なベイナイトまたはマルテンサイトを分散させることで、き裂伝播速度を低減している。特許文献6および7では、複合組織中のマルテンサイトのアスペクト比を上げることで、き裂伝播速度を低減できることが報告されている。しかし、これらは疲労き裂伝播速度を遅くすることについては効果のある方法であるが、き裂が進展しなくなる最小の応力拡大係数範囲である、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)の向上については言及されていない。板厚が薄く、疲労寿命に占めるき裂伝播寿命が短い鋼板においては、き裂の伝播速度よりもΔKthの向上が重要な場合が多い。
特開平11−92859号公報 特開平11−152544号公報 特開2004−211199号公報 特開2010−70789号公報 特開平04−337026号公報 特開2005−320619号公報 特開平07−90478号公報
本発明は上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、疲労特性と成形性に優れた鋼板を提供することを目的とし、板厚が薄く、疲労寿命に占めるき裂伝播寿命が短い鋼板においても、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)の向上させることを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討し、以下の知見を得た。即ち、鋼板の成分及び製造条件を最適化し、鋼板の組織を制御することによって、疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造に成功した。その要旨は以下のとおりである。
(1)
化学組成が、質量%で、
C :0.002〜0.100%、
Si:2.00%以下、
Mn:2.00%以下、
Al:2.000%以下、
N :0.0100%以下、
O :0.0100%以下、
Ti:0.200%以下を含み、
不純物であるPとSは、
P :0.100%以下、
S :0.0300%以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板であって、
下記(式a)から計算されるTiefを用いて、
下記(式b)により計算される有効炭素量Ceffが0.002%以上0.050%以下であり、
隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒を面積率で90%以上含み、
マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以下であり、さらに、前記方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm以上200ppm以下であることを特徴とする疲労特性と成形性に優れた鋼板。
Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
なお、以下に示す更なる添加元素は、前記Feの一部を代替して添加するものである。
(2)
TiCの密度が1.0×1016個/cm以下であることを特徴とする(1)に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
(3)
さらに質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.300%以下、
Cu:1.20%以下、
Ni:0.60%以下、
Cr:2.00%以下、
Mo:1.00%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
(4)
さらに質量%で、
Mg:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
REM:0.1000%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
(5)
さらに質量%で、
B:0.0020%以下、
を含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
(6)
さらに、Sn、Zr、Co、Zn、およびWの1種または2種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
(7)
(1)〜(6)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法であって、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼からなるインゴットを、下記(式c)から計算される温度T1(℃)もしくは1100℃のいずれか大きい方の温度以上、1300℃以下の温度まで加熱する加熱ステップと、
加熱したインゴットを粗圧延し、その後多段の連続圧延による仕上圧延を施し熱延鋼板を得る熱間圧延ステップと、
得られた熱延鋼板を冷却する冷却ステップを有し、
前記多段の連続圧延による仕上圧延で、圧下率5%以上の段のうち最も後段側の段での圧延温度が、下記(式d)で計算されるAr3もしくは1000℃のいずれか低い温度以上の温度であり、
前記冷却ステップにおいて、前記熱延鋼板を、下記(式e)で計算されるAe1に基づいて、
Ae1−30℃以上Ae1+30℃以下の温度域に8秒以上滞留させ、
Ae1−30℃から300℃までの冷却速度を100℃/秒以上とし、
更に、300℃から30℃までの冷却速度を30℃/秒以上にする
ことを特徴とする疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
Ae1(℃)=723−10.7×[Mn]+29.1×[Si]−16.9×[Ni]+16.9×[Cr]+70×[Al]・・・(式e)
ただし、式中の[元素名]は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
本発明によれば、疲労特性と成形性に優れた鋼板を提供することができる。この鋼板を使用すれば、自動車用材料の足回り部品に適用する複雑な形状の部品の疲労寿命を延ばすことが可能となり、産業上の貢献が顕著である。
以下に本発明の内容を詳細に説明する。なお、本発明は板厚12mm以下の鋼板に好適に利用できる。特に板厚が薄ければ薄いほどその効果を発揮する。従って、最終製品の板厚が、好ましくは8mm以下、さらに好ましくは6mm以下、さらに好ましくは3mm以下になる鋼板に適用するとよい。
[鋼板の化学成分]
まず、本発明の鋼板の化学成分の限定理由を説明する。なお、特に断りのない限り、含有量の%は質量%、ppmは質量ppm(0.0001質量%)を示す。
また、本明細書中の各式において用いる[元素名]の表示は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示すものとし、含有していない場合は0%を代入するものとする。例えば[C]はC(炭素)の、[Ti]はTi(チタン)の含有量(質量%)を示す。
(C:0.002%〜0.100%)
Cは本発明において重要な元素の一つである。本発明では、後述するが、結晶粒内の固溶炭素(固溶C)を、所定量に制御することにより、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)を向上させることができる。
そのため、炭素(C)は、0.002%以上添加するとよい。また、加工性を確保するため、炭素(C)の含有量は、0.100%以下にするとよい。
(有効炭素量(Ceff):0.002〜0.050%)
Cは、鋼中にTiが存在するとTiCとして析出するため、炭素(C)として有効に作用することができる有効炭素量(Ceff)は、TiC(Ti炭化物)の量によって変化する。
一方、Ti炭化物は、Ti窒化物やTi硫化物より低温で生成する。このため、鋼中のNやSが多いとTi窒化物やTi硫化物が優先して生成するので、TiCとして析出することができるTi量(Tief)を、以下の(式a)で計算し指標として用いた。
Tiefが0以下(負又は零)の値となるとき、鋼中の全炭素量が、有効炭素量となる。
一方で、Tiefが0より大きい(正の)値となるときには、Cの一部がTiCとして析出するため、有効炭素量は、鋼中の全炭素量よりも、TiCとして析出した分だけ低下する。このような場合には、TiCとして析出するC量を考慮して、有効炭素量を決めるとよい。即ち、有効炭素量Ceffは、(式b)により計算すればよい。
Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
本発明では、後述する、結晶粒内の固溶炭素(固溶C)を、所定量に制御することにより、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)を向上させることができる。ΔKthを向上させる効果を得るためには、有効炭素量を0.002%以上とするとよい。この効果を確実に得るために、有効炭素量の下限は0.003%にすることが好ましく、0.004%であれば更に好ましい。
一方、有効炭素量が0.050%を超えると硬質第二相である低温変態生成物の面積率が増加して穴広げ性が低下する。このため有効炭素量は0.050%以下とする。穴広げ性を確保する観点からは、望ましくは0.040%以下にするとよく、更に望ましくは0.030%以下にするとよい。
以上が本発明の鋼板の基本的な化学成分であるが、さらに下記のような成分を含有することができる。
(Si:2.00%以下)
Siは加工性をそれほど損なわずに引張強さを向上できる元素であるため、添加して良い。しかしながら、2.00%超添加すると靭性や成形性が低下するためSiの含有量は2.00%以下とする。また、0.50%超添加すると著しく表面性状が劣化し、酸洗工程の生産性が極端に悪化するため、Siの含有量は0.50%以下が望ましい。さらに望ましくは0.30%以下にするとよい。
一方、Siは不純物として自然に含まれるため、含有量を0.01%未満にすることはコストの観点から望ましくない。したがって、Si含有量の下限値は、望ましくは0.01%にするとよい。
(Mn:2.00%以下)
Mnは、固溶強化元素として添加してよい。Mn含有量が2.00%超となるように添加すると、鋼板の板厚方向の中心部にМnの偏析帯が生じ、この偏析帯が割れの起点になるため穴広げ率が低下する。従って、Mnの含有量は2.00%以下とする。
一方で、Mnは不純物として自然に含まれるため含有量を0.01%未満とすることはコストの観点から望ましくない。したがって、Mn含有量の下限値は、望ましくは0.01%にするとよい。
(P:0.100%以下)
Pは、溶銑に含まれている不純物であり、粒界に偏析し、含有量の増加に伴い低温靭性を低下させる元素である。このため、P含有量は、少ないほど望ましい。Pを0.100%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.100%以下に制限する。特に、溶接性を考慮すると、P含有量は、0.030%以下に制限することが望ましい。
(S:0.0300%以下)
Sは、溶銑に含まれている不純物であり、含有量が多すぎると、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、穴広げ性を劣化させるMnSなどの介在物を生成させる元素である。このためSの含有量は、極力低減させるべきであるが、0.0300%以下ならば許容できる範囲であるので、0.0300%以下に制限する。ただし、ある程度の穴広げ性を必要とする場合のS含有量は、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下に制限することが望ましい。
(Al:2.000%以下)
Alは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素であり、他の元素の溶鋼歩留を安定させる効果があるため、添加してもよい。この効果を得るため、Al含有量の下限を望ましくは0.010%とするとよい。
一方、Al含有量が2.000%を超えると圧延中に割れが発生することがある。そのため、Al含有量の上限を2.000%にする。また、Al含有量が1.000%を超えると溶接性や靭性などが劣化し始めるので、Al含有量の上限は、望ましくは1.000%とし、より望ましいAl含有量の上限は、0.500%である。
(N:0.0100%以下)
Nは、TiNとして存在することで、インゴット加熱時の結晶粒径の微細化を通じて、低温靭性向上に寄与することから、添加してもよい。ただし、鋼中の窒化物は穴広げ率を低下させるため、0.0100%以下にする必要がある。望ましくは0.0050%以下である。
一方、0.0005%未満とすることは経済的に望ましくないので、0.0005%以上とすることが望ましい。
(O:0.0100%以下)
Oは、酸化物を形成し、成形性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。特に、Oが0.0100%を超えると、この傾向が顕著となることから0.0100%以下にする必要がある。
一方、0.0010%未満とすることは経済的に好ましくないので、0.0010%以上とすることが望ましい。
(Ti:0.200%以下)
TiはTiCとして存在することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与するため、添加してもよい。ただし、0.200%を超えて添加してもこの効果は飽和することに加えて鋳造時のノズル閉塞の原因となるため、Tiの含有量は0〜0.200%とする。
また後述するようにTiの含有量が0.050%超であるとTiCの密度が1.0×1016個/cm以上となり、成形性が低下する。このため、Tiの望ましい含有量は0.050%以下にするとよい。
一方、Tiが0.001%未満では析出強化の効果を十分に得られない場合があるため、0.001%以上添加することが望ましい。析出強化の効果を確実にするためには、0.010%以上添加することがさらに望ましい。
(Nb:0.100%以下)
Nbは、炭窒化物、あるいは、固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延することで、熱延板の粒径を微細化でき、低温靭性を向上させるので添加しても良い。Nb含有量が0.100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。
また、Nb含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。したがって、必要に応じて、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.010%以上とすることが望ましい。
(V:0.300%以下)
Vは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。V含有量が0.300%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Vを含有させる場合、V含有量は0.300%以下であることが望ましい。
また、Vの含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、Vを含有させる場合、V含有量は0.010%以上であることが望ましい。
(Cu:2.00%以下)
Cuは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cu含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Cuを含有させる場合、Cu含有量は2.00%以下であることが望ましい。さらに、Cuの含有量が1.20%超では鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがあるので、Cuは1.20%以下であることが、より望ましい。
また、Cuの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.01%以上であることが望ましい。
(Ni:2.00%以下)
Niは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Ni含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Niを含有させる場合、Ni含有量は2.00%以下であることが望ましい。Niの含有量が0.60%を超えると延性が劣化し始めるので、望ましくはNi含有量は0.60%以下にするとよい。
また、Niの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Niを含有させる場合、Ni含有量は0.01%以上にすることが望ましい。
(Cr:2.00%以下)
Crは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cr含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Siを含有させる場合、Si含有量は2.00%以下であることが望ましい。
また、Crの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Crを含有させる場合、Cr含有量は0.01%以上であることが望ましい。
(Mo:1.00%以下)
Moは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Mo含有量が1.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Moを含有させる場合、Mo含有量は1.00%以下であることが望ましい。
また、Moの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.01%以上であることが望ましい。
(Mg:0.0100%以下)
Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Mgの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Mgを含有させる場合、Mo含有量は1.00%以下であることが望ましい。
また、Mgの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、Mgを含有させる場合、Mg含有量は0.0005%以上にすることが望ましい。
(Ca:0.0100%以下)
Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Caの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0100%以下であることが望ましい。
また、Caの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0005%以上にすることが望ましい。
(REM:0.1000%以下)
REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。REMの含有量が0.1000%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、REMを含有させる場合、REM含有量は0.1000%以下であることが望ましい。
また、REMの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、REMを含有させる場合、REM含有量は0.0005%以上にすることが望ましい。
(B:0.0100%以下)
Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。このことから、添加しても良い。Bの含有量が0.0100%超の添加は、その効果が飽和するばかりでなく、経済性に劣る。従って、Bを含有させる場合、Ca含有量は0.0100%以下であることが望ましい。また、この効果は、鋼板へのB含有量が0.0002%以上とすることで顕著となる。
また、Bは強力な焼き入れ元素であり、0.0020%超を添加した場合、本研究において重要な結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°であるような結晶粒の面積率を減じてしまうことがある。従って、必要に応じて、Bを含有させる場合、B含有量は0.0002%以上にすることが望ましい。
なお、その他の元素について、Sn、Zr、Co、Zn、Wを合計で1%以下含有しても本発明の効果は損なわれないことを確認している。これらの元素のうちSnは、熱間圧延時に疵が発生する恐れがあるので0.05%以下が望ましい。
[鋼板のミクロ組織]
鋼板のミクロ組織について説明する。
本発明の鋼板は、隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で90%以上含むことを特徴とする。結晶粒内の方位差は、結晶方位解析に多く用いられるEBSD法(電子ビーム後方散乱回折パターン解析法)を用いて測定できる。このような結晶粒内の方位差を有する結晶粒は延性が高く変形能が均一で降伏比が低いため、その割合を高めることで、成形性を向上させることができる。
なお、ここで成形性とは、全伸びで表される延性が高いこと、穴広げ率で表わされる伸びフランジ性が高いこと、そして望ましくは降伏比が低いことの3つを示す。
全伸びが小さいとプレス成型時にネッキングによる板厚減少が起こり易く、プレス割れの原因となる。プレス成形性を確保するため、全伸び(El)と引張強さ(TS)との積:(TS)×(El)≧10000MPa%を満たすとよい。ただし、引張強さ(TS)はJIS Z 2241 2011の引張強さ、全伸び(El)はJIS Z 2241 2011の破断時全伸びを表す。
また、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法による穴広げ率を(λ)としたとき、本特許における成形性に優れた鋼板はλ≧150%を満たすとよい。λ≧150%を満たす鋼板であれば、通常の足回り部品の伸びフランジ部は問題無く成型が可能である。
また、降伏比をYRとしたとき、YR≦0.80を満たす鋼板は引張強さの割にプレス荷重が低く、成形性に優れることが多い。
[結晶粒方位の測定方法]
結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の割合は、例えば以下の方法で測定することができる。
鋼板の板幅をWとしたとき、鋼板の幅方向で片端から1/4W(幅)もしくは3/4W(幅)位置において、鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置で、鋼板の幅方向200μm×厚さ方向100μmの矩形領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析する。
ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(例えば、JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(例えば、TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。
また、方位差とは、上記により測定した各測定点の結晶方位情報に基づき、隣接する測定点同士の結晶方位の差を求めたものである。この方位差が15°以上であるとき、隣接する測定点同士の中間を粒界と判断し、この粒界によって囲まれる領域が円相当径で0.3μm以上の場合に、本願ではこれを結晶粒と定義した。この結晶粒内の方位差を単純平均して平均方位差を計算する。そして、結晶粒内の平均方位差が0〜0.5°である結晶粒の面積割合を求める。なお結晶粒の定義や結晶粒内の平均方位差の算出は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「例えば、OIM AnalysisTM」を用いて求めることができる。
[結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で90%以上]
結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で90%未満である場合には延性が悪化し、延性の良い自動車用足回り鋼板の目安である(TS)×(El)≧10000MPa%を満たさなくなる。そのため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で90%以上とするとよい。結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積率が高いほど延性は向上するため、望ましくは面積率で95%以上、更に望ましくは面積率で98%以上にするとよい。
本実施形態における結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒と、光学顕微鏡の観察結果から定義されるフェライトを直接関係するものではない。言い換えれば、例えば、フェライト面積率が90%以上の鋼板があったとしても、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の割合が90%以上であるとは限らない。従って、フェライト面積率を制御しただけでは、本実施形態に係る鋼板に相当する特性を得ることはできない。
[マルテンサイト+焼き戻しマルテンサイト+残留オーステナイト≦2%]
マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相は変形中のボイド発生源となり、穴広げ率(λ)低下の原因となる。硬質相の面積分率が2%超であるとλ≧150%を満たすことができなくなるため、マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの合計の組織は、面積分率で2%以下とするとよい。以上のような本発明の鋼板組織を構成するマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトおよびオーステナイトの面積分率の求め方を以下に示す。
本発明の鋼板組織を構成するマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトの面積分率は、鋼板片端から板幅Wの1/4Wもしくは3/4W位置において、鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、観察面を研磨し、ナイタールエッチングし、板厚の1/4厚、3/8厚、および1/2厚の範囲をFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察して求めた。FE−SEMで観察した際、ラス状(薄くて長い板状)の組織であり、かつ炭化物が析出していないものをマルテンサイトとした。ラス状の組織であり、炭化物が、マルチバリアントで析出(セメンタイトが色々な方向を向いて析出)しているものを焼き戻しマルテンサイトとした。なお、炭化物が、シングルバリアントで析出(セメンタイトが一方向に揃って析出)しているものはベイナイトと判断した。FE−SEMを用いて120μm×100μmの領域を1000倍の倍率で、板厚の1/4厚、3/8厚、および1/2厚の各範囲について、それぞれ10視野測定した。各視野毎に、マルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトの面積分率を求め、それらの平均値をもって、マルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトの代表的な面積分率とした。
残留オーステナイトの面積分率は、マルテンサイトや焼き戻しマルテンサイトと同様に、鋼板片端から板幅Wの1/4Wもしくは3/4W位置において、鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、観察面を研磨し、電解研磨で加工層を取り除いた後にEBSD法(電子ビーム後方散乱回折パターン解析法)を用いて測定した。後方散乱によって得られた6本以上のバンド(結晶面に対応)の全ての組み合わせの角度差を求め、例えば「OIM AnalysisTM」内にあるデータファイル、または適切な試料の測定によって作成したデータファイルと比較し、バンド同士の角度差が、データファイルの結晶粒がフェライトの場合のバンド同士の角度差よりも、データファイルの結晶粒がオーステナイトの場合のバンド同士の角度差に近い場合に、この結晶粒を残留オーステナイトと定義した。EBSD法を用いて、板厚の1/4厚、3/8厚、および1/2厚の各範囲について、それぞれ100μm×100μm以上の領域を観察した。各範囲毎に、残留オーステナイトの面積分率を求め、それらの平均値をもって、残留オーステナイトの代表的な面積分率とした。
[方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20〜200ppm]
次に、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶Cについて述べる。結晶粒内の固溶Cは下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)の向上のために重要である。ΔKthは疲労き裂が停留し、進展しなくなる限界の応力拡大係数範囲を表し、平滑材の疲労限の向上や打ち抜き材、切り欠き材の疲労特性向上に寄与する。疲労き裂が進展するためには、疲労き裂先端で転位が活動する必要がある。発明者らは鋭意検討の結果、結晶粒内の固溶Cが20ppm以上であれば転位の運動が抑制され、ΔKthが向上することを見出した。結晶粒内の固溶Cは多いほどその効果が顕著で、望ましくは50ppm以上、さらに望ましくは100ppm以上あるとよい。固溶Cが転位の運動を抑制する原因は動的ひずみ時効効果にあると考えられる。固溶C量の上限は指定しないが、フェライト中のC溶解度は、溶解度が最大となるAe1温度付近でも200ppm程度であるため、それを上回ることは原理上難しい。
結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶C量を測定する手段は特に指定しないが、例えば3D−AP(三次元アトムプローブ)を用いて測定が可能である。具体的には、測定対象となる結晶粒が測定可能な位置になるように試料を切り出した後に電解研磨を行いつつ、必要に応じて集束イオンビーム加工法による加工を経て針状試料を作成する。次に、作成した針状試料の原子の二次元分布像を三次元アトムプローブによって針状試料の深さ方向に複数取得して、得られた複数の二次元分布像を再構築して実空間での原子の三次元分布像を求め、固溶Cの量を測定する。本検討では、試料の20nm×20nm×50nmの広さの視野を少なくとも10視野以上観察し、1nmの体積の中に炭素原子が合計で5個以上含む場合に、これを集合体(炭素化合物やクラスター)と判断し、観察した領域内の全ての炭素から集合体に含まれる炭素を引いたものを固溶C量とし、観察した領域から集合体を除いた領域中に、この固溶Cが含まれる質量分率を固溶炭素量(固溶C量)と定義した。
[TiCの密度が1.0×1016個/cm以下]
次に、組織中のTiCの量について述べる。TiCは析出物であり、析出強化によって降伏比(YR)を高くする効果がある。YRが低い鋼板はプレス成形時の荷重が小さくなる傾向があるため、プレス時の板押さえ力を小さくでき、プレス成形性に有利である。発明者らの検討によれば、TiCの密度が1.0×1016個/cm超であるとTiCによるYR上昇効果が大きくなりYR>0.80となる。よって、TiCの密度は1.0×1016個/cm以下とすることが望ましい。ただし、本特許で定義するTiCはチタン炭化物だけでなくTi(CN)、(TiNb)C、(TiNb)(CN)などのチタン炭化物に窒素やニオブが化合した複合化合物を含む。
TiCを同定し密度を測定する手段は特に指定しないが、例えば3D−AP(三次元アトムプローブ)を用いて、鋼板中のTiとCの存在位置を測定し、TiとCの存在位置が一致する場合をTiCと定義することで、粒径が小さいTiCについても高精度で個数を測定することができる。試料の20nm×20nm×50nmの広さの視野を少なくとも10視野以上観察し、観察視野の範囲と観察されたTiC個数の関係から、析出物の密度を算出する。
以上のような組織と組成を有する本発明の鋼板は、熱延で製造しても冷延で製造してもよい。また、表面に溶融亜鉛めっき処理による溶融亜鉛めっき層や、さらには、めっき後合金化処理をして合金化亜鉛めっき層を備えたものとすることで、耐食性を向上することができる。また、めっき層は、純亜鉛に限るものでなく、Si、Mg、Al、Fe、Mn、Ca、Zrなどの元素を添加し、更なる耐食性の向上を図ってもよい。このようなめっき層を備えることにより、本発明の優れた打抜き疲労特性及び加工性を損なうものではない。また、有機皮膜形成、フィルムラミネート、有機塩類/無機塩類処理、ノンクロ処理等による表面処理層の何れを有していても本発明の効果が得られる。
[鋼板の製造方法]
成形性本発明に係る鋼板の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法がある。
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行って上述した成分組成となるように調整し、次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップを使用しても構わない。
鋳造したインゴット(スラブ)は、熱間圧延を開始するに当たり所定の温度に加熱される(加熱ステップ)。連続鋳造の場合には一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延しても良いし、特に冷却することなく連続鋳造に引き続いて加熱して熱間圧延しても良い。
Tiが0.001%以上添加されている場合、熱間圧延のインゴット加熱温度は、(式c)で表わされるT1(℃)以上とする。ただしT1が1100℃を下回るか、Tiが添加されていない場合には、インゴット加熱温度を1100℃以上とする。通常の鋳造を行った場合、インゴット温度は鋳造後に一旦Ar3温度以下まで低下するため、Tiが添加されている場合にはTiCが組織中に析出する。インゴット加熱温度がT1未満ではインゴット中に析出したTiCが十分に溶体化せず、固溶C量の制御ができないため、加熱炉の温度はT1以上とする。また、インゴット加熱温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、インゴット表面が酸化してスケールになり経済上好ましくない。このことから、インゴット加熱温度の上限は1300℃以下とすることが望ましい。なお、Ar3とはオーステナイトから冷却した際にフェライト変態が開始する温度のことであり、T1とはTiCが溶体化する温度のことを表す。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
但し、[Ti]、[C]は、それぞれTi、Cの質量%を示す。
加熱ステップ後は、加熱炉より抽出したインゴットに対して熱間圧延の粗圧延工程とその後の仕上圧延工程により、熱延鋼板を得る(熱間圧延ステップ)。仕上圧延は、通常、多段(例えば6段または7段)の連続圧延で行われる。そして、この多段の連続圧延で行われる仕上圧延は、前段側(上流側)ほど後段側(下流側)に比べて圧下率が高く、後段側(下流側)は圧下率を低くして圧延することがある。本発明においては、この多段の連続圧延で行われる仕上圧延において、圧下率が5%以上である仕上圧延の段のうち、最も後段側(下流側)の仕上圧延の段での圧延温度(圧下率5%以上の最終圧延温度ともいう)を、(式d)で表わされるAr3(℃)または1000℃のいずれか低い温度以上とする。Ar3(℃)未満で圧延すると二相域圧延となり、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積分率を90%以上とすることができない。ただし、圧下率5%以上の最終圧延温度が1000℃以上であれば、圧下率5%以上の最終圧延温度がAr3(℃)以下であっても、二相域圧延後のフェライト再結晶により結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積分率を90%以上にすることができる。
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
また、圧下率は、各段ごとに以下の式で求められる。
圧下率=(当該圧延機の入側の板厚−当該圧延機の出側の板厚)/(当該圧延機の入側の板厚)×100%
次に、圧延後の冷却ステップにおいて、(式e)で表わされるAe1±30(℃)の範囲で8秒以上滞留させる。滞留時間は、望ましくは10秒以上、更に望ましくは12秒以上にするとよい。
Ae1(℃)=723−10.7×[Mn]+29.1×[Si]−16.9×[Ni]+16.9×[Cr]+70×[Al]・・・(式e)
なお、Ae1とは平衡状態でのオーステナイトからフェライトとセメンタイトへの共析変態開始温度のことである。
圧延後の温度からAe1+30(℃)まで冷却するときの冷却速度は特に限定しない。この冷却速度が、空冷相当の1℃/s以上、急冷相当の500℃/s以下であれば特性に問題が生じないことを確認している。Ae1±30(℃)の範囲での滞留時間が短いと、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積分率を90%以上とすることができない。
滞留後、Ae1−30(℃)から300℃までの冷却速度を100℃/s以上とし、更に300℃から30℃までの冷却速度を30℃/s以上にする。これらの冷却速度が実現できない場合、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶C量がセメンタイトなどの炭化物として析出するため、固溶C量を20ppm以上とすることができない。望ましくは300℃から30℃までの冷却速度を50℃/s以上にするとよい。
通常の熱延工程に付随する工程である酸洗等の一部を抜いて製造を行ったとしても本発明の効果である優れた疲労特性及び成形性を確保可能である。 また、適切な冷延・焼鈍を行うことで、冷延鋼板においても方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で90%以上含み、マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以下であり、前記方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20〜200ppmである組織を製造することは可能である。
本発明の作用効果を確認するための試験結果について説明する。
表1に試験に供した鋼の成分を示す。
表2に試験に供した試験片の鋼種類とその製造条件を示す。
なお、仕上圧延は、7段式の連続圧延を行なった。
表3に、各試験片の評価結果を示す。
機械的性質のうち引張強度特性(引張強さ、全伸び、降伏比)は、板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取したJIS Z 2241 2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241 2011に準拠して評価した。降伏比に用いる降伏応力は下降伏応力を用いた。穴広げ率は、引張試験片採取位置と同様の位置から試験片を採取し、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。また、本発明における成形性に優れた鋼板とは、(TS)×(El)≧10000MPa%で、(λ)≧150%を満たし、望ましくは(YR)≦0.80を満たす鋼板である。ただし(TS)は引張強さ、(El)は全伸び、(λ)は穴広げ率、(YR)は降伏比である。
本発明において、下限界応力拡大係数範囲を評価するため、引張試験片採取位置と同様の位置から圧延方向に直行する方向がき裂進展方向になるように、ASTM E647−08 A1.に示すCompact specimenを採取し、ASTM E647−08に準拠する方法でき裂伝播試験を行った。応力比を0.01とし、漸減法により応力拡大係数範囲ΔKを下げていった際の疲労き裂伝播速度の低下を測定し、き裂伝播速度が1.0×10−10(m/cycle)、すなわち1.0(Å(オングストローム)/cycle)(=100pm/cycle)となるΔKをΔKthと定義した。このときの他の試験条件は下記のとおりである。
試験方法:電気油圧サーボ式±10トン疲労試験機を使用し、亀裂長さの測定はコンピュータ制御によるコンプライアンス法による荷重漸減法K値減少法(亀裂の進展と共に荷重を自動的に減少させていく方法)によりΔKthを計測
試験環境:室温、大気中
制御方法:荷重制御
応力比:R=0.01
周波数:10〜20Hz
本発明における疲労特性に優れた鋼板とは、ΔKth≧5(MPa・m1/2)となる鋼板のことである。
表3に示すように、本発明例に係る鋼板は、優れた疲労特性及び成形性を有していた。
一方、鋼番27と31は圧下率5%以上の最終圧延温度が(式d)で表わされるAr3℃未満かつ1000℃未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積分率が90%未満となり、(TS)×(El)≧10000MPa%を満たすことができなかった。
鋼番28と32は圧延後の冷却過程において、(式e)で表わされるAe1±30℃の範囲での滞留時間が8秒未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積分率が90%未満となり、(TS)×(El)≧10000MPa%を満たすことができなかった。
鋼番29と33はAe1−30℃から300℃までの冷却速度が100℃/s未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm未満となり、ΔKth≧5(MPa・m1/2)を満たすことができなかった。
鋼番30と34は300℃から30℃までの冷却速度が30℃/s未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm未満となり、ΔKth≧5(MPa・m1/2)を満たすことができなかった。
鋼番35は加熱温度が(式c)で規定されるT1℃以下であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm未満となり、ΔKth≧5(MPa・m1/2)を満たすことができなかった。
鋼番36は(式a)で表されるTiefが負の値となり、Cの含有量が0.050%超であったため、硬質第二相である低温変態生成物の面積率が2%超となり、(λ)≧150%を満たすことができなかった。
鋼番37はCの含有量が0.002%未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm未満となり、ΔKth≧5(MPa・m1/2)を満たすことができなかった。
鋼番37と45は(式a)で表されるTiefが正の値となり、( [C]−12/48×Tief)が0.002%未満であったため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm未満となり、ΔKth≧5(MPa・m1/2)を満たすことができなかった。
鋼番38はSiの含有量が2.00%超であったため、加工性が低下し、(TS)×(El)≧10000MPa%を満たすことができなかった。
鋼番39はMnの含有量が2.00%超であったため、加工性が低下し、(λ)≧150%を満たすことができなかった。
鋼番40はPの含有量が0.100%超であったため加工性が低下し、(TS)×(El)≧10000MPa%を満たすことができなかった。
鋼番41はSの含有量が0.0300%超であったため、圧延中に割れが発生し、熱延板を得ることができなかった。
鋼番42はAlの含有量が2.000%超であったため、圧延中に割れが発生し、熱延板を得ることができなかった。
鋼番43はNの含有量が0.010%超であったため、加工性が低下し、(λ)≧150%を満たすことができなかった。
鋼番44はTiの含有量が0.200%超であったため、鋳造時にノズル閉塞が発生し、熱延板を得ることができなかった。
Figure 2017066492
Figure 2017066492
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本発明は、機械構造用の鋼材として利用することができる。特に、自動車の足回り部品や車体の構造用部品に適用することができる。

Claims (7)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C :0.002%以上0.100%以下、
    Si:2.00%以下、
    Mn:2.00%以下、
    Al:2.000%以下、
    N :0.0100%以下、
    O :0.0100%以下、
    Ti:0.200%以下を含み、
    不純物であるPとSは、
    P :0.100%以下、
    S :0.0300%以下に制限し、
    残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板であって、
    下記(式a)から計算されるTiefを用いて、
    下記(式b)により計算される有効炭素量Ceffが0.002%以上0.050%以下であり、
    隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒を面積率で90%以上含み、
    マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以下であり、さらに、前記方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm以上200ppm以下であることを特徴とする疲労特性と成形性に優れた鋼板。
    Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
    Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
    但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
    また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
  2. TiCの密度が1.0×1016個/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
  3. さらに質量%で、
    Nb:0.100%以下、
    V :0.300%以下、
    Cu:1.20%以下、
    Ni:0.60%以下、
    Cr:2.00%以下、
    Mo:1.00%以下、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
  4. さらに質量%で、
    Mg:0.0100%以下、
    Ca:0.0100%以下、
    REM:0.1000%以下、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
  5. さらに質量%で、
    B:0.0020%以下、
    を含有することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
  6. さらに、Sn、Zr、Co、Zn、およびWの1種または2種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法であって、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼からなるインゴットを、下記(式c)から計算される温度T1(℃)もしくは1100℃のいずれか大きい方の温度以上、1300℃以下の温度まで加熱する加熱ステップと、
    加熱したインゴットを粗圧延し、その後多段の連続圧延による仕上圧延を施し熱延鋼板を得る熱間圧延ステップと、
    得られた熱延鋼板を冷却する冷却ステップを有し、
    前記多段の連続圧延による仕上圧延で、圧下率5%以上の段のうち最も後段側の段での圧延温度が、下記(式d)で計算されるAr3もしくは1000℃のいずれか低い温度以上の温度であり、
    前記冷却ステップにおいて、前記熱延鋼板を、下記(式e)で計算されるAe1に基づいて、
    Ae1−30℃以上Ae1+30℃以下の温度域に8秒以上滞留させ、
    Ae1−30℃から300℃までの冷却速度を100℃/秒以上とし、
    更に、300℃から30℃までの冷却速度を30℃/秒以上にする
    ことを特徴とする疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法。
    T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
    Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
    Ae1(℃)=723−10.7×[Mn]+29.1×[Si]−16.9×[Ni]+16.9×[Cr]+70×[Al]・・・(式e)
    ただし、式中の[元素名]は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
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