以下、本実施形態に係る車両用駆動装置3を、図1乃至図5に沿って説明する。尚、本明細書中で駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、あるいはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
本実施形態の車両用駆動装置3を備える車両1の概略構成について図1に沿って説明する。車両1は、内燃エンジン2と、車両用駆動装置3と、車輪4等とを備えている。内燃エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、車両用駆動装置3に連結されている。車両用駆動装置3は、自動変速機10と、ECU(制御装置)20と、油圧制御装置30と、機械式オイルポンプ(MOP)40と、電動オイルポンプ(EOP)50と、ミッションケース(ケース)60とを備えている。
自動変速機10は、前進6速段及び後進1速段を形成可能になっており(図2参照)、自動変速機10の入力軸11と、発進装置12と、変速機構(自動変速機構)14の入力軸(入力部材)13と、変速機構14と、出力軸(出力部材)15とを、同一軸線上に並べて備えている。自動変速機10の入力軸11は、内燃エンジン2に接続されている。
発進装置12は、トルクコンバータ(流体伝動装置)16と、それをロックアップし得るロックアップクラッチ17とを備えている。トルクコンバータ16は、自動変速機10の入力軸11に接続されたポンプインペラ16aと、作動流体である油を介してポンプインペラ16aの回転が伝達されるタービンランナ16bと、それらの間に配置されると共にワンウェイクラッチ16dにより一方向に回転が規制されたステータ16cとを有している。タービンランナ16bは、変速機構14の入力軸13に接続されている。ロックアップクラッチ17は、係合によりフロントカバー17aと変速機構14の入力軸13とを直接係合し、トルクコンバータ16をロックアップした状態にする。
変速機構14は、ケース60に収容され、入力軸13側から順に、第1プラネタリギヤ(入力プラネタリギヤ)SP1と、第2及び第3プラネタリギヤSP2,SP3を有するプラネタリギヤセット(出力プラネタリギヤ)PSと、を備えている。第1〜第3プラネタリギヤSP1〜SP3は、いずれもシングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。
第1プラネタリギヤSP1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、それら第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1に噛合する第1ピニオンP1を回転自在に支持する第1キャリヤCR1と、を有している。
第1サンギヤS1は、変速機構14の入力軸13に常時駆動連結されている。また、第1リングギヤR1は、第1ブレーキ(停止用係合要素)B1によりケース60に対して係止(固定)自在となっている。そして、第1キャリヤCR1は、後述の第2プラネタリギヤSP2の第2リングギヤR2に駆動連結されていると共に、第2ブレーキ(停止用係合要素)B2によりケース60に対して係止(固定)自在となっている。
プラネタリギヤセットPSは、所謂シンプソンタイプからなり、第2プラネタリギヤSP2と、第3プラネタリギヤSP3とを有している。第2プラネタリギヤSP2は、第2サンギヤS2と、第1キャリヤCR1に駆動連結された第2リングギヤR2と、それら第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に噛合する第2ピニオンP2を回転自在に支持する第2キャリヤCR2と、を有している。なお、第2プラネタリギヤSP2において、第2リングギヤR2はプラネタリギヤセットPSの第1回転要素、第2キャリヤCR2はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素、第2サンギヤS2はプラネタリギヤセットPSの第4回転要素にそれぞれ相当する(図3参照)。
また、第3プラネタリギヤSP3は、第2サンギヤS2に駆動連結された第3サンギヤS3と、第2キャリヤCR2に駆動連結された第3リングギヤR3と、それら第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3に噛合する第3ピニオンP3を回転自在に支持する第3キャリヤCR3と、を有している。なお、第3プラネタリギヤSP3において、第3リングギヤR3はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素、第3キャリヤCR3はプラネタリギヤセットPSの第3回転要素、第3サンギヤS3はプラネタリギヤセットPSの第4回転要素にそれぞれ相当する(図3参照)。
プラネタリギヤセットPSにおける第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3は、変速機構14の入力軸13との間に介在された第1クラッチC1に接続されており、つまり第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3には、第1クラッチC1を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得る。
プラネタリギヤセットPSにおける第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3は、変速機構14の入力軸13との間に介在された第2クラッチC2に接続されていると共に、ケース60に対して回転を係止し得る第4ブレーキ(係合要素)B4に接続され、かつケース60に対して回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF3に接続されている。つまり、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3には、第2クラッチC2を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得ると共に、その回転がワンウェイクラッチF3により内燃エンジン2からの回転方向に対して許容され、かつ逆の回転方向に対して規制(駆動力出力状態で係合)され、更に、その回転が第4ブレーキB4により係止し得る。
プラネタリギヤセットPSにおける第2リングギヤR2は、上述した第1キャリヤCR1を介してケース60に対して回転を係止し得る第2ブレーキB2に接続されており、かつ第1リングギヤR1は、ケース60に対して回転を係止し得る第1ブレーキB1に接続されており、つまり第2リングギヤR2は、第2ブレーキB2を解放して第1ブレーキB1が係止することで、第1キャリヤCR1から減速回転が入力し得ると共に、第1ブレーキB1を解放して第2ブレーキB2が係止されることで、その回転が係止し得る。
プラネタリギヤセットPSにおける第3キャリヤCR3は、出力軸15に接続されており、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3、及び第2リングギヤR2の回転状態により定まる回転を、出力軸15を介して車輪4に出力する。
ここで、プラネタリギヤセットPSにおける第2サンギヤ及び第3サンギヤは、第1クラッチC1を介して入力軸13に連結され、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3は、第2クラッチC2を介して入力軸13に連結されている。したがって、これら第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、プラネタリギヤセットPSの一回転要素を入力軸13に係脱するものであり、本実施形態ではこれらを入力クラッチとする。
即ち、本実施形態では、変速機構14は、内燃エンジン2に駆動連結された入力軸13と、車輪4に駆動連結された出力軸15と、入力軸13から出力軸15までの動力伝達経路上に設けられ入力軸13に駆動連結された第1プラネタリギヤSP1と、複数のプラネタリギヤSP2,SP3の組合せからなり、速度線図上での並び順に従い第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、動力伝達経路上の第1プラネタリギヤSP1よりも出力軸15側に設けられ、第3回転要素である第3キャリヤCR3が出力軸15に駆動連結されたプラネタリギヤセットPSと、油圧の給排により係脱し、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素C1,C2,B1,B2,B4と、を有している。
ECU20は、例えば、CPUと、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備えており、油圧制御装置30の各ソレノイドバルブへの制御信号等、各種の信号を出力ポートから出力する。また、ECU20には、アクセル開度を検知するアクセル開度センサ71と、入力軸13の回転速度を検知する入力軸回転速度センサ72と、出力軸15の回転速度を検知する出力軸回転速度センサ73と、が接続されている。
ECU20は、油圧制御装置30を電気的に制御する。ECU20は、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応じたアクセル開度センサ71からの出力信号に基づいて、アクセル開度を演算する。ECU20は、出力軸回転速度センサ73からの出力信号に応じて得られた回転速度に基づいて、車速を演算する。また、ECU20は、アクセル開度と、車速と、入力軸回転速度センサ72により検知された入力軸13の回転速度と、等に基づいて、車両1の走行停止状態や運転者による加速要求(始動要求)を判断し、自動変速機10の変速段を適宜切り換える。
油圧制御装置30は、例えばバルブボディにより構成されており、機械式オイルポンプ40又は電動オイルポンプ50から供給された油圧からライン圧等を生成し、ECU20からの制御信号に基づいて第1及び第2クラッチC1,C2と、第1、第2、及び第4ブレーキB1,B2,B4とをそれぞれ制御するための油圧を給排可能になっている。
機械式オイルポンプ40は、例えば、ポンプインペラ16aに駆動連結されており、入力軸11を介して内燃エンジン2に連動されるように駆動連結されている。尚、機械式オイルポンプ40と内燃エンジン2とは、スプロケット及びチェーンの組み合わせ、あるいはギヤ列等により適宜連結することができ、回転速度比は駆動連結の構成によって設定される。機械式オイルポンプ40は、内燃エンジン2により駆動され、油圧制御装置30に元圧を供給可能になっており、電動オイルポンプ50は、機械式オイルポンプ40とは独立して電動で駆動するようになっており、ECU20により制御される。電動オイルポンプ50は、内燃エンジン2の停止時に、少なくとも一部の係合要素を係合するためのライン圧を生成するための元圧を生成して供給する。
以上のように構成された車両用駆動装置3は、図1のスケルトンに示す各第1及び第2クラッチC1,C2、第1、第2、及び第4ブレーキB1,B2,B4、ワンウェイクラッチF3が、図2の係合表に示す組み合わせで作動されることにより、図3の速度線図に従って前進1速段(1st)〜前進6速段(6th)、及び後進段(Rev)が達成される。
上述した車両1において、走行中に内燃エンジン2を停止して、変速機構14をニュートラル状態にして惰性走行を行う場合は、惰性走行中に第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のみを係合するようにする。即ち、ECU20は、内燃エンジン2を停止してニュートラル状態にして惰性走行を行う際に、残りの係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)の全てを係合する。この場合、第1リングギヤR1及び第1キャリヤCR1が回転固定されるので、第2リングギヤR2も回転固定される。これにより、第2及び第3サンギヤS2,S3は、高速走行時であっても、前進6速段である時と同等の回転速度に抑えられるので、過回転してしまうことを防止できる。
なお、惰性走行中は、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の両方を係合することには限られず、第1ブレーキB1のみを係合したり、あるいは第2ブレーキB2のみを係合するようにしてもよい。即ち、停止用係合要素B1,B2は複数であり、ECU20は、惰性走行中に停止用係合要素B1,B2のうちの少なくとも一部を係合し、第1プラネタリギヤSP1の回転を停止状態にする。また、停止用係合要素は第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の複数であり、ECU20は、惰性走行中に第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のうちの少なくとも一部を係合し、第1プラネタリギヤSP1の回転を停止状態にする。
ここで、上述した車両1において、惰性走行中に運転者によりアクセルペダルが踏み込まれて、通常走行に復帰する場合について説明する。この場合、惰性走行中に運転者によりアクセルペダルが踏み込まれると(図5のt1)、ECU20は、内燃エンジン2に燃料を供給し始動する。そして、ECU20は、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択する。ECU20が、例えば前進5速段を選択した場合は、第1ブレーキB1を係合したまま、第2ブレーキB2を解放する(図5のt1)。このとき、このままでは内燃エンジン2に変速機構14の負荷が掛かっていないことから、車速及びアクセル開度に基づいて通常の負荷が掛かっているものとして設定した目標同期回転速度(例えばN5)よりもエンジン回転速度Neaが大きく上回る吹き上がりを生じてしまう虞がある。吹き上がりを生じてしまうと、同期回転速度N5に落ち着くまでに時間を要したり、あるいは前進5速段を形成できず低速側の変速段に変更したりするために、変速段形成の応答性が遅れてしまう。
このため、本実施形態では、ECU20は、エンジン回転速度Neが目標変速段(例えば前進5速段)の同期回転速度N5を基準とする第1の閾値Nθ1を超えた場合に(図5のt5)、第2ブレーキB2のトルク容量を増加する。即ち、ECU20は、内燃エンジン2が停止した状態での惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があり(図5のt1)、エンジン回転速度Neが目標変速段の同期回転速度N5を基準とする第1の閾値Nθ1を超えた場合に(図5のt5)、第2ブレーキB2を係合(例えば滑り係合)する。これにより、第2ブレーキB2の滑り係合により入力プラネタリギヤが減速され、入力軸13を介してエンジン回転速度Neの減速度が大きくなることにより、第2ブレーキB2のトルク容量が増加されない場合に比べて、エンジン回転速度Neの吹き上がりが軽減される。なお、第2ブレーキB2の係合としては、トルク容量が発生する滑り係合から完全係合までを含むものとする。
また、ECU20は、内燃エンジン2の始動要求があった場合に(図5のt1)、第2ブレーキB2に対して、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給して待機状態にし、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えた場合に(図5のt5)、待機状態にある第2ブレーキB2を滑り係合する。そして、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、目標変速段の同期回転速度N5を基準とする第2の閾値未満Nθ2になった場合に(図5のt6)、第2ブレーキB2を解放する(図5のt7)。
また、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、第2の閾値Nθ2未満になった場合に(図5のt6)、複数の係合要素C1,C2,B1,B2,B4のうち目標変速段(例えば前進5速段)の形成に用いられる係合要素(例えば、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1)を係合する。ECU20は、内燃エンジン2の始動要求後(図5のt1)、第2ブレーキB2の係合前に、(図5のt5)、目標変速段の形成に用いられる解放された係合要素(例えば第2クラッチC2)に対して、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給してストローク待機状態にする。尚、ECU20は、エンジン回転速度Neが500rpmを超えた時(図5のt2)、第2クラッチC2に供給するライン圧(油圧)を機械式オイルポンプ40から供給される元圧の利用により供給する。このようにして、ECU20は、エンジン回転速度Neを同期回転速度N5の近傍に安定させ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1のみを係合し、目標変速段である前進5速段で通常走行することができる。
次に、車両用駆動装置3の動作について、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートに沿って説明する。ここでは、内燃エンジン2を停止した惰性走行中に、運転者によりアクセルペダルが踏み込まれて通常走行に復帰する場合の動作について説明する。また、ここでは、惰性走行中に第2ブレーキB2及び第1ブレーキB1を係合及び保持する場合について説明している。図5中、N5は前進5速段での同期回転速度であり、油圧はECU20から油圧制御装置30への指令値を示す。更に、ここでは、ロックアップクラッチ17は係合状態であり、エンジン回転速度Neは入力軸13の回転速度と同じであるものとする。
ECU20は、惰性走行中に、エンジン始動指令がオンされたか否かを判断している(図4のステップS1)。ここでのエンジン始動指令は、例えば、アクセル開度が所定値以上になる等の条件が満たされた場合にオンされるものとしている。ECU20が、エンジン始動指令がオンされていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
運転者によりアクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度が所定値以上のオン状態になると共に他の所定の条件も具備されると(図5のt1)、ECU20はエンジン始動指令がオンされたと判断し、内燃エンジン2を始動する(図4のステップS2)。ECU20は、その時点での車速とアクセル開度に基づいて、その状況で適した変速段を設定する(図4のステップS3)。ここで、本実施形態では第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2が係合していることから、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択して形成するようにしてもよい。
尚、ECU20による変速段の設定は、本実施形態では便宜上ステップS3で実行するものとしているが、実際には内燃エンジン2の始動直後だけでなく他のステップの処理と並行して走行時は常に行われており、車速やアクセル開度の変化に応じて変速段も適宜変更されるものとしている。
ECU20は、変速段の設定後、その変速段を形成するために、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を解放する(図4のステップS4)。ここでは、ECU20は、前進5速段を形成するものとし、第2ブレーキB2を解放するようにしている(図5のt1)。また、ECU20は、第2ブレーキB2を完全解放せずに、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給した待機状態にまで解放する。なお、第1ブレーキB1は、前進5速段が形成されるまで係合されたままになっている。
ECU20は、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度、例えば500rpmを超えたか否かを判断する(図4のステップS5)。ECU20が、機械式オイルポンプ40の回転速度はライン圧生成可能回転速度を超えていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。ECU20が、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えたと判断した場合は(図5のt2)、電動オイルポンプ50を停止する(図4のステップS6)。機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えた場合に電動オイルポンプ50を停止するのは、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えていれば機械式オイルポンプ40から吐出された油によってライン圧を生成可能になるからであり、そのようなライン圧を生成可能になる回転速度であれば500rpmには限られず、内燃エンジン2のアイドリング回転速度より小さい回転速度に設定することができる。また、この時点から、ECU20は、機械式オイルポンプ40から供給された元圧を油圧制御装置30に供給して各係合要素を係合させる係合圧を生成する。
続いて、ECU20は、第1クラッチC1又は第2クラッチC2をストローク待機状態にする(図4のステップS7)。ここでは、前進5速段を形成するので、第2クラッチC2を待機状態にするために、ECU20は、第2クラッチC2に高圧の油圧を供給するファストフィル動作を実行する。即ち、ECU20は、内燃エンジン2の始動要求後、第2ブレーキB2の係合前に、解放された第2クラッチC2に対して、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給して待機状態にする。
ECU20は、同期差回転の絶対値を演算し、同期差回転の絶対値が50rpmより小さいか否かを判断する(図4のステップS8)。ここで、同期差回転とは、エンジン回転速度Neと、その時の目標変速段の同期回転速度N5との差とする。即ち、ECU20は、NeがN5−50〜N5+50の範囲に入っているか否かを判断する。また、ここでの判断は、ECU20はタイマを設定することで、所定時間Δtの間、同期差回転の絶対値が50rpmより小さい状態を維持しているか否かを確実に判断する。
ECU20が、同期差回転の絶対値は50rpmより小さくないと判断した場合は、同期差回転を演算し、同期差回転が100rpmより大きいか否かを判断する(図4のステップS9)。即ち、ECU20は、Neが第1の閾値Nθ1(N5+100)より大きいか否かを判断する。ECU20が、同期差回転は100rpmより大きくないと判断した場合は、再度、同期差回転を演算してステップS8の処理を実行する。尚、上述したように、ECU20による変速段の設定処理は、内燃エンジン2の始動直後だけでなく他のステップの処理と並行して行われているので、ECU20が同期差回転を算出する際にも変速段の設定処理は実行されている。このため、同期差回転が余りにも大きくなってしまった場合等は、適宜変速段を再設定する。
ECU20が、同期差回転は100rpmより大きいと判断した場合は(図5のt5)、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2のトルク容量を増加する(図4のステップ10)。ここでは、第2ブレーキB2が待機状態になっているので、第2ブレーキB2のトルク容量を増加する。トルク容量の増加量は、エンジン回転速度Neの目標とする減速度や、内燃エンジン2のイナーシャの大きさ等に基づいて、適宜設定する。ここでは、第2ブレーキB2が滑り係合する程度に、トルク容量を増加するものとしている。但し、これには限られず、例えば第2ブレーキB2が完全係合するように、トルク容量を増加するようにしてもよい。即ち、ECU20は、内燃エンジン2が停止した状態での惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があり、エンジン回転速度Neが前進5速段の同期回転速度N5を基準とする第1の閾値Nθ1を超えた場合に、第2ブレーキB2を係合(滑り係合〜完全係合を含む)する。
このように第2ブレーキB2のトルク容量が増加されることにより、第1プラネタリギヤSP1が減速され、入力軸13を介してエンジン回転速度Neの減速度が大きくなることにより、第2ブレーキB2のトルク容量が増加されない場合に比べて、エンジン回転速度Neの吹き上がりが軽減される。このため、エンジン回転速度Neは、第1の閾値Nθ1を超えてから一旦加速するものの、すぐに減速して同期回転速度N5に接近していく。ここで、第1の閾値Nθ1をN5+100rpmとしたのは、同期差回転が100rpmより大きければエンジン回転速度Neが吹き上がってしまう可能性が高いと推測されるからであり(図5のNea参照)、そのような吹き上がりを軽減できる第1の閾値Nθ1であればN5+100rpmには限られない。第1の閾値Nθ1としては、例えば、N5+50rpmとしたり、N5と同じにしたり、あるいはN5より小さい値であってもよい。
また、図4のステップS8において、ECU20が、同期差回転の絶対値は50rpmより小さいと判断した場合、即ち、エンジン回転速度Neが第2の閾値Nθ2(N5+50)より小さいと判断した場合は(図5のt6)、第1クラッチC1又は第2クラッチC2を係合して保持する(図4のステップS11、図5のt7)。また、ここでの判断は、ECU20はタイマを設定することで、エンジン回転速度Neが第2の閾値Nθ2より小さくなった時(図5のt6)から所定時間Δtが経過するまでの間、エンジン回転速度Neが第2の閾値Nθ2より小さい状態を維持しているか否かを確実に判断する。尚、図5のt7は、t6からΔt経過後の時点である。また、同期差回転の絶対値が50rpmより小さい場合に第1クラッチC1又は第2クラッチC2を係合するのは、同期差回転の絶対値が例えば50rpmより小さければ各クラッチC1,C2を円滑に係合可能になるからであり、そのような各クラッチC1,C2を係合可能になる回転速度であれば50rpmには限られない。
ここでは、ECU20は、前進5速段を形成するので、第2クラッチC2を係合して保持する。即ち、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、第2の閾値Nθ2未満になった場合に、複数の係合要素C1,C2,B1,B2,B4のうち前進5速段の形成に用いられる第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を完全係合した状態にする。
更に、ECU20は、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を解放する(図4のステップS12、図5のt7)。ここでは、ECU20は、前進5速段を形成するので、第2ブレーキB2を解放する。即ち、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、前進5速段の同期回転速度N5を基準とする第2の閾値Nθ2未満になった場合に、第2ブレーキB2を解放する。ここで、図5のt7のタイミングにおいて、第2クラッチC2の係合と第2ブレーキB2の解放とが同時に行われる。これにより、エンジン回転速度Neは、第2ブレーキB2の解放による加速度の増加と第2クラッチC2の係合による減速度の増加とが相殺して、同期回転速度N5を維持したまま変速段の形成を行うことができる。
ECU20が第1ブレーキB1及び第2クラッチC2を係合することにより、変速機構14は、図2に示す係合表のように係脱され、図3に示す速度線図に基づいて、前進5速段を形成して通常走行に復帰するようになる。
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置3によると、惰性走行中に第2ブレーキB2の係合により第1プラネタリギヤSP1が減速され、入力軸13を介してエンジン回転速度Neの減速度が大きくなることにより、第2ブレーキB2を係合しない場合に比べて、エンジン回転速度Neの吹き上がりが軽減される。これにより、惰性走行から通常走行に復帰する際のエンジン回転速度Neの吹き上がりによる応答性の遅れを軽減することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、ECU20は、内燃エンジン2の始動要求があった場合に、第2ブレーキB2を待機状態にし、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えた場合に、待機状態にある第2ブレーキB2を係合する。このため、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えて第2ブレーキB2のトルク容量を増加する際に、第2ブレーキB2を完全解放した場合に比べて、応答性を向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、第2の閾値Nθ2未満になった場合に、第2ブレーキB2を解放する。このため、目標変速段である前進5速段で係合しない第2ブレーキB2を解放することで、前進5速段を速やかに形成可能になる。
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、ECU20は、エンジン回転速度Neが第1の閾値Nθ1を超えてから減速し、第2の閾値Nθ2未満になった場合に、前進5速段の形成に用いられる第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を係合状態にする。ここで、第1ブレーキB1は惰性走行中から係合されているので、この時点では第2クラッチC2のみが係合動作を実行される。これにより、目標変速段である前進5速段が形成される。
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、ECU20は、内燃エンジン2の始動要求後、第2ブレーキB2の係合前に、解放されている第2クラッチC2を待機状態にするようファストフィル動作を実行する。このため、第2クラッチC2のファストフィルと第2ブレーキB2のトルク容量の増加とを同時に行うことを回避できるので、油圧を安定して供給することができ、動作の安定性を向上できると共に、後に第2クラッチC2を係合する際に、第2クラッチC2を完全解放した状態から係合する場合に比べて、応答性を向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、内燃エンジン2により駆動され、油圧制御装置30に元圧を供給可能な機械式オイルポンプ40を備えると共に、ECU20は第2クラッチC2に供給する油圧を機械式オイルポンプ40からの元圧の利用により供給する。即ち、機械式オイルポンプ40はエンジン回転速度Neが500rpm以上のときに作動するので、エンジン回転速度Neが500rpmを超えてから第2クラッチC2のファストフィルを実行することで、機械式オイルポンプ40から供給された元圧を利用して第2クラッチC2を動作させることができる。これにより、第2クラッチC2のファストフィルに関しては電動オイルポンプ50を利用しなくて済むので、燃費を向上することができる。
尚、上述した本実施形態では、ECU20はエンジン回転速度Neが500rpmにまで上がった場合に第1クラッチC1又は第2クラッチC2を待機状態にする場合について説明したが(図4のステップS7)、これには限られない。これらのクラッチを待機状態にするタイミングは、始動要求後であれば500rpmにまで上がる前でもよく、あるいは、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2のトルク容量を増加する直前であってもよい。
また、上述した本実施形態では、車両用駆動装置3は内燃エンジン2を停止しての惰性走行時に第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の両方を係合する場合について説明したが、これには限られない。例えば、惰性走行時に、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の一方のみを係合するようにしてもよい。いずれの場合も、ECU20は、始動要求があったときに目標変速段を設定し、その目標変速段に利用する方のブレーキを完全係合し、利用しない方のブレーキを待機状態にする。
また、上述した本実施形態では、車両用駆動装置3が有する自動変速機10として、前進6速段及び後進1速段を形成可能な自動変速機10を適用した場合について説明したが、これには限られない。例えば、車両用駆動装置3が有する自動変速機110として、前進8速段及び後進2速段を形成可能な自動変速機110を適用してもよい。
この場合、図6乃至図8に示すように、変速機構114は、ケース60に収容され、入力軸13側から順に、第1プラネタリギヤ(入力プラネタリギヤ)DP1と、第2及び第3プラネタリギヤSP2,DP3を有するプラネタリギヤセット(出力プラネタリギヤ)PSと、を備えたものとする。
第1プラネタリギヤDP1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、それら第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1に噛合する第1ピニオンP1及び第2ピニオンP2を回転自在に支持する第1キャリヤCR1と、を有している。第1サンギヤS1は、ケース60に対して固定されている。第1リングギヤR1は、第1クラッチ(係合要素)C1及び第3クラッチ(停止用係合要素)C3に駆動連結されている。第1キャリヤCR1は、変速機構114の入力軸13に常時駆動連結されると共に、第4クラッチ(停止用係合要素)C4に駆動連結されている。
プラネタリギヤセットPSは、第2プラネタリギヤSP2と、第3プラネタリギヤDP3とを有している。第2プラネタリギヤSP2は、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキ(停止用係合要素)B1に駆動連結された第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2及び後述する第3リングギヤR3に噛合する第3ピニオンP3を回転自在に支持する第2キャリヤCR2と、を有している。これら、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1は、停止用係合要素に相当する。また、第3プラネタリギヤDP3は、第1クラッチC1に駆動連結された第3サンギヤS3と、出力軸15に駆動連結された第3リングギヤR3と、第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3に噛合する第4ピニオンP4及び第5ピニオンP5を回転自在に支持する第3キャリヤCR3と、を有している。
プラネタリギヤセットPSにおいて、第3ピニオンP3と第5ピニオンP5とは1つのロングピニオンにより構成されている。プラネタリギヤセットPSにおける第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、変速機構114の入力軸13との間に介在された第2クラッチ(係合要素)C2に接続されていると共に、ケース60に対して回転を係止し得る第2ブレーキ(係合要素)B2に接続され、かつケース60に対して回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF1に接続されている。つまり、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3には、第2クラッチC2を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得ると共に、その回転がワンウェイクラッチF1により内燃エンジン2からの回転方向に対して許容され、かつ逆の回転方向に対して規制(駆動力出力状態で係合)され、更に、その回転が第2ブレーキB2により係止し得る。
プラネタリギヤセットPSにおける第3リングギヤR3は、出力軸15に接続されており、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3の回転状態により定まる回転を、出力軸15を介して車輪4に出力する。
ここで、プラネタリギヤセットPSにおける第3サンギヤS3は、入力軸13に駆動連結された第1キャリヤCR1に対して所定の減速比で駆動連結された第1リングギヤR1に、第1クラッチC1を介して連結され、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、第2クラッチC2を介して入力軸13に連結されている。
以上のように構成された車両用駆動装置3は、図6のスケルトンに示す各第1〜第4クラッチC1〜C4、第1及び第2ブレーキB1,B2、ワンウェイクラッチF1が、図7の係合表に示す組み合わせで作動されることにより、図8の速度線図に従って前進1速段(1st)〜前進8速段(8th)、後進1速段(Rev1)及び後進2速段(Rev2)が達成される。
この車両用駆動装置3を搭載した車両1において、走行中に内燃エンジン2を停止して、ニュートラル状態にして惰性走行を行う場合、例えば、惰性走行中に第1ブレーキB1と、第3クラッチC3及び第4クラッチC4とを係合するようにする。そして、ECU20は、始動要求があった場合に、目標変速段が例えば前進7速段であれば、第3クラッチC3は係合したままで、第4クラッチC4及び第1ブレーキB1を待機状態にする。そして、エンジン回転速度Neが前進7速段の同期回転速度を基準とする第1の閾値を超えた場合に、第4クラッチC4及び第1ブレーキB1を順に滑り係合する。これにより、惰性走行中に第4クラッチC4及び第1ブレーキB1の係合により第1プラネタリギヤSP1が減速され、入力軸13を介してエンジン回転速度Neの減速度が大きくなることにより、エンジン回転速度Neの吹き上がりが軽減される。したがって、8速用の自動変速機110においても、惰性走行から通常走行に復帰する際のエンジン回転速度Neの吹き上がりによる応答性の遅れを軽減することができる。
また、上述した本実施形態では、車両用駆動装置3は自動変速機10を有する場合について説明したが、これには限られない。例えば、車両用駆動装置3が第1電動機MG1と、第2電動機MG2と、動力分配機構と、を有するものとして、所謂スプリット方式のハイブリッド車に適用するようにしてもよい。この場合、惰性走行から通常走行に復帰する際のエンジン回転速度Neの吹き上がりによる回生の遅れを軽減することができる。
尚、本実施形態は、以下の構成を少なくとも備える。本実施形態の車両用駆動装置(3)は、内燃エンジン(2)に駆動連結された入力部材(13)と、車輪(4)に駆動連結された出力部材(15)と、前記入力部材(13)から前記出力部材(15)までの動力伝達経路上に設けられた複数のプラネタリギヤ(SP1,PS、DP1,PS)と、前記出力部材(15)に駆動連結され、油圧の給排により係脱し、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素と、を有する自動変速機構(14,114)と、前記係合要素に対して油圧を給排可能な油圧制御装置(30)と、前記油圧制御装置(30)を電気的に制御する制御装置(20)と、を備え、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)が停止した状態での惰性走行中に前記内燃エンジン(2)の始動要求があり、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が目標変速段(5th)の同期回転速度(N5)を基準とする第1の閾値(Nθ1)を超えた場合に、前記複数の係合要素のうち、前記入力部材(13)の回転を停止可能な停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を係合して、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)を低減する。この構成によれば、停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)の係合により入力部材(13)が減速され、入力部材(13)を介してエンジン回転速度(Ne)の減速度が大きくなることにより、停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を係合しない場合に比べて、エンジン回転速度(Ne)の吹き上がりが軽減される。これにより、惰性走行から通常走行に復帰する際のエンジン回転速度(Ne)の吹き上がりによる応答性の遅れを軽減することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)の始動要求があった場合に、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)に対して、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給して待機状態にし、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が前記第1の閾値(Nθ1)を超えた場合に、前記待機状態にある前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)のトルク容量を増大して前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を滑り係合させる。この構成によれば、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を待機状態にしておくことで、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を滑り係合する際に、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を完全解放しておく場合に比べて、応答性を向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が前記第1の閾値(Nθ1)を超えてから減速し、前記目標変速段(5th)の同期回転速度(N5)を基準とする第2の閾値(Nθ2)未満になった場合に、前記停止用係合要素(B2)を解放する。この構成によれば、目標変速段(5th)で係合しない停止用係合要素(B2)を解放することで、目標変速段(5th)を速やかに形成することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が前記第1の閾値(Nθ1)を超えてから減速し、前記第2の閾値(Nθ2)未満になった場合に、前記複数の係合要素のうち目標変速段(5th)の形成に用いられる係合要素(B1)を係合して、目標変速段(5th)を形成する。この構成によれば、目標変速段(5th)を速やかに形成することができ、通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)の前記始動要求後、前記停止用係合要素(B2)の係合前に、前記目標変速段(5th)の形成に用いられる解放された係合要素(C2)に対して、トルク容量を生ずる直前まで油圧を供給して待機状態にする。この構成によれば、目標変速段(5th)の形成に用いられる解放された係合要素(C2)を待機状態にすること(例えばファストフィル)と、停止用係合要素(B2)の係合とを同時に行うことを回避できるので、油圧を安定して供給することができ、動作の安定性を向上できる。また、目標変速段(5th)の形成に用いられる解放された係合要素(C2)を後に完全係合する際に、目標変速段(5th)の形成に用いられる解放された係合要素(C2)を完全解放した状態から係合する場合に比べて、応答性を向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記複数のプラネタリギヤ(SP1,PS、DP1,PS)は、前記入力部材(13)から前記出力部材(15)までの動力伝達経路上に設けられ前記入力部材(13)に駆動連結された入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)と、前記出力部材(15)に駆動連結された出力プラネタリギヤ(PS、PS)とを含み、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)は、前記入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)に連結されると共に前記入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)の回転を停止可能であって、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)が停止した状態での惰性走行中に前記内燃エンジン(2)の始動要求があり、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が目標変速段(5th)の同期回転速度(N5)を基準とする第1の閾値(Nθ1)を超えた場合に、前記複数の係合要素のうち、前記出力プラネタリギヤ(PS、PS)に連結された前記入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)と前記出力部材(15)との動力伝達を切断可能な係合要素を解放した状態で、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を係合して、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)を低減する。この構成によれば、入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)及び出力プラネタリギヤ(PS、PS)を有する車両用駆動装置(3)においても、エンジン回転速度(Ne)の吹き上がりが軽減されるので、惰性走行から通常走行に復帰する際のエンジン回転速度(Ne)の吹き上がりによる応答性の遅れを軽減することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)は前記入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)に連結された少なくとも2つの係合要素であり、前記制御装置(20)は、前記惰性走行中に前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)のうちの少なくとも2つを係合し、前記入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)の回転を停止状態にする。この構成によれば、停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)のうちの少なくとも2つの停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)の係合により、入力プラネタリギヤ(SP1、DP1)の回転を停止状態にすることで、入力部材(13)の回転を停止状態にできるので、内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)を低減できる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)の始動要求があった場合に、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)の一方を完全係合し、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)のうち他方のトルク容量を生ずる直前まで油圧を供給して待機状態にし、前記内燃エンジン(2)の回転速度(Ne)が前記第1の閾値(Nθ1)を超えた場合に、前記待機状態にある前記他方の停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)のトルク容量を増大させて前記他方の停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を滑り係合させる。この構成によれば、惰性走行から通常走行に復帰する際に、完全係合している停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を利用する変速段である変速段の形成を容易にすることができる。このため、通常走行に復帰する際の応答性を向上した変速段の選択肢が増え、選択肢が少ない場合に比べてドライバビリティを向上することができる。
また、本実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記出力プラネタリギヤ(PS、PS)は、複数のプラネタリギヤ(SP2,SP3、SP2,DP3)の組合せからなり、ギヤ比に対応して順番に並ぶ第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、前記第3回転要素(CR3、R3)が前記出力部材(15)に駆動連結されたプラネタリギヤセット(PS、PS)であり、前記制御装置(20)は、前記内燃エンジン(2)を停止して惰性走行を行う際に、前記第2回転要素(R3,CR2、CR3,CR2)又は前記第4回転要素(S3,S2、S3)を停止させる全ての係合要素を解放し、前記停止用係合要素(B1,B2、C3,C4,B1)を含む残りの係合要素のうちの少なくとも一部の係合要素を係合する。この構成によれば、速度線図上で大きな出力となる第3回転要素(CR3、R3)に対して、隣接する第2回転要素(R3,CR2、CR3,CR2)及び第4回転要素(S3,S2、S3)のいずれも出力が0にならないので、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことが抑制される。即ち、速度線図上で、第3回転要素(CR3、R3)と、それに隣接する第2回転要素(R3,CR2、CR3,CR2)及び第4回転要素(S3,S2、S3)との間で大きな高低差ができてしまうことを抑制することができ、これらの間での速度線を急勾配にしてしまうことがなく、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことを抑制できる。よって、内燃エンジン(2)を停止してニュートラル状態で惰性走行可能な自動変速機構(14、114)を有しながら、惰性走行中の回転要素の過回転を抑制することができるようになる。