JP2016031854A - 遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、およびそれを用いた非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、モーター駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
これは、粒径が大きく比表面積が低い材料を使用すると、電解液との反応面積が十分に確保できず、反応抵抗が上昇して高出力の電池が得られないことによる。また、粒度分布が広い材料を使用すると、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることで、充放電を繰り返すと微粒子が選択的に劣化し、容量が低下してしまうためである。
したがって、正極材料の性能を向上させるためには、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物について、比表面積が大きく、かつ粒径が均一で適度な粒径を有する粒子となるように製造することが重要となる。
つまり、正極材料の性能を向上させて、最終製品である高性能の非水系電解質二次電池を製造する上では、正極材料を形成するリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体となる複合水酸化物として、粒子構造や粒度分布が最適化された粒子からなる複合水酸化物を使用することが必要である。
さらに、本発明は、このような優れた特性を有する遷移金属複合水酸化物および正極活物質の工業的な製造方法を提供することも目的としている。
また、このリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質は、非水系二次電池に用いた場合に高容量でサイクル特性が良好で、高出力を可能とするものであり、該正極活物質を含む正極で構成された非水系二次電池は、優れた電池特性を備えたものとなる。
さらに、本発明が提供する上記遷移金属複合水酸化物粒子および正極活物質の製造方法は、いずれも容易で大規模生産に適したものであり、その工業的価値はきわめて大きい。
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子であって、ポリマー粒子からなる中心部と中心部の外側に遷移金属複合酸化物の一次粒子からなる外殻部分で構成された二次粒子からなり、粒度分布の広がりを示す粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であることを特徴とする。
本発明の複合水酸化物粒子は、略球状の粒子である。
具体的には、図1に例示されるように、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子である。さらに詳細には、粒子内部はポリマー粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に板状一次粒子からなる外殻部を有する構造を備えている。
さらに、外殻部は板状一次粒子からなっているため、外殻部内へのリチウムの拡散が十分に行われるためから、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が得られる。
さらに、ランダムな方向に凝集していることで、上記焼成工程における外殻部の収縮も均等に生じることから、中心部の空間が維持され正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができ、好ましい。
本発明の複合水酸化物を原料として得られる正極活物質は、中空構造を有し、粒子径に対する外殻部の厚みの比率は、複合水酸化物の二次粒子における比率が概ね維持される。
したがって、この二次粒子径に対するポリマー粒子の平均粒径の比率を上記範囲とすることで、正極活物質を形成する粒子に十分な中空部を形成することができる。
ポリマー粒子の平均粒径が、二次粒子の粒径に対する比率で10%未満であると、十分な大きさの中心部が形成されないなどの問題を生ずる場合がある。一方、90%を超えると、正極活物質の製造時の焼成工程において、複合水酸化物粒子の収縮が大きくなり、かつ、正極活物質の粒子間に焼結が生じて、正極活物質の粒度分布が悪化することがある。
本発明の複合水酸化物粒子は、その平均粒径(MV)が、3〜20μm、好ましくは3μm〜10μm、より好ましくは3μm〜8μmである。
平均粒径を3〜20μmとすることで、本発明の複合水酸化物粒子を原料として得られる正極活物質を所定の平均粒径(3〜20μm)に調整することができる。このように、複合水酸化物粒子の粒径は、得られる正極活物質の粒径と相関するため、この正極活物質を正極材料に用いた電池の特性に影響するものである。
本発明の複合水酸化物粒子は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.60以下、好ましくは0.55以下となるように調整されている。
正極活物質の粒度分布は、原料である複合水酸化物粒子の影響を強く受けるため、複合水酸化物粒子に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも同様の粒子が存在するようになる。すなわち、「(d90−d10)/平均粒径」が0.60を超え、粒度分布が広い状態であると、正極活物質にも微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、たとえば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
本発明の複合水酸化物粒子は、その組成比(M:N)が、得られる正極活物質においても維持される。
したがって、複合水酸化物粒子の組成は、得ようとする正極活物質に同様に調整される。本発明の複合水酸化物粒子は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物であれば適用することが可能であるが、遷移金属複合水酸化物粒子を下記一般式で表されるように調整することが好ましい。
このような組成の複合水酸化物粒子を用いて正極活物質を製造すれば、この正極活物質からなる正極を電池に用いた場合に、電池の正極抵抗の値を低くできるとともに、電池性能を良好なものとすることができる。
(0≦x≦0.1、MはNi、Co、Mnから選択される1種以上の元素、NはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法であって、ポリマー粒子と水を混合してスラリー化した反応液を形成し、その反応液のpH値を、液温25℃基準で10.5〜12.0となるように制御しながら、遷移金属を含有する金属化合物を反応液に供給して、ポリマー粒子の外周部に遷移金属複合酸化物を生成させることを特徴とするものである。
そこで、本発明の製造方法では、ポリマー粒子の表面に晶析反応によって遷移金属複合酸化物生成させるため、一次粒子の大きさを厳密に制御する必要がなく、工業的生産においても容易で安定性にも優れている。
使用するポリマー粒子は、焼成時に消失させる必要があるため、酸化性雰囲気中の焼成温度にて残渣が残留せず、かつ不純物となる元素を含まないポリマーを用いることが好ましい。例えば、メタクリル酸メチル、スチレンなどの疎水性ビニルモノマーが好ましく用いられる。
粒径が小さい、例えば、0.3μm以下のポリマー粒子は、水とスラリー化する際に適度に凝集して、焼成の際に適度な中空部が得られる大きさのポリマー粒子となって複合水酸化物粒子中に内包される。
一方、ポリマー粒子の平均粒径が0.1μm未満になると、凝集が顕著になり、また、凝集後の粒度分布も広くなるため、粒度分布が狭く中空度(粒子径に対する中空部の比率)が安定した正極活物質が得られないことがある。
即ち、〔(d90−d10)/平均粒径〕が、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下である。このような、粒度分布が狭いポリマー粒子は、分級することにより容易に得られる。また市販されているポリマー粒子で、粒度分布を満たすものを用いてもよい。
親水性の官能基を修飾するために用いられる表面処理剤は、特に限定されるものではないが、焼成後に有害な不純物が在留しないものが好ましい。また、市販のポリマー粒子で親水性化処理済みのものを用いることもできる。
pH値を上記範囲とすることにより、核の生成反応よりもポリマー粒子の表面における晶析の方が優先して生じるから、新たな核生成を抑制して、ポリマー粒子の表面に遷移金属複合酸化物が晶析して、ポリマー粒子を内包し所定の粒子径を有する複合水酸化物粒子が形成される。
(反応雰囲気)
反応槽内の空間の雰囲気を、好ましくは酸素濃度が2容量%以下、より好ましくは1容量%以下となるように、酸素と不活性ガスの混合ガス雰囲気に制御する。反応槽内空間の酸素濃度を2容量%以下にして晶析させることで、粒子の不要な酸化を抑制し、一次粒子の成長を促して、平均粒径0.3〜3μmの一次粒子径で粒度が揃った、緻密で高密度の外殻部を有する二次粒子を得ることができる。
上述のように、本発明の製造方法においては、反応液のpH値が、液温25℃基準で10.5〜12.0、好ましくは10.5〜11.6の範囲となるように制御する必要がある。
pH値が12.0を超える場合、あらたに生成される核が多くなり、微細二次粒子が生成するため、粒径分布が良好な複合水酸化物粒子が得られず、ポリマー粒子を内包しない複合水酸化物粒子が増加する。また、pH値が10.5未満では、アンモニアイオンによる溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため、生産効率が悪化する。
すなわち、上述の範囲に反応液のpH値を制御することで、微細二次粒子の生成を抑制し、ポリマー粒子表面への晶析を促進することができ、得られる複合水酸化物粒子を粒度分布の範囲が狭くポリマー粒子を内包したものとすることができる。
ポリマー粒子の粒径は、得ようとする複合水酸化物粒子の中心部の大きさと同等となる。したがって、複合水酸化物粒子の中心部の大きさにより決定すればよい。
また、ポリマー粒子の体積としての添加量は、複合水酸化物粒子の中心部の体積の合計と同等となる。したがって、複合水酸化物粒子の中心部の粒径に対する比率により決定すればよい。
上記複合水酸化物粒子の粒径は、ポリマー粒子の粒径、ポリマー粒子の個数、晶析条件により任意の大きさに制御することができる。晶析時間を長くして晶析量を多くすれば、粒径が大きく、粒径に対する中心部の大きさの比率が小さい複合水酸化物粒子が得られる。また、ポリマー粒子の粒径を小さく個数を多くすれば、複合水酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。
金属化合物としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。
使用する化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などがあげられる。たとえば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトが好ましく用いられる。
添加元素N(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、上記複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/L、好ましくは1.5〜2.2mol/Lとすることが好ましい。混合水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。
一方、混合水溶液の塩濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、たとえば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
晶析物濃度が30g/L未満の場合には、一次粒子の凝集が不十分になることがあり、200g/Lを超える場合には、添加する混合水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく、ポリマー粒子への晶析に偏りが生じることがある。
したがって、上記液体成分の増加を抑制するため、晶析の途中で、反応液中の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。
反応水溶液中のアンモニア濃度は、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは5〜20g/Lの範囲内で一定値に保持する。
アンモニアは錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、形状および粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。たとえば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
反応槽内において、反応液の温度は、好ましくは20℃以上、特に好ましくは20〜60℃に設定する。反応液の温度が20℃未満の場合、溶解度が低いため微細二次粒子が発生しやすく制御が難しくなる。一方、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進されるため、所定のアンモニア濃度を保つために、過剰のアンモニウムイオン供給体を添加しなければならならず、コスト高となる。
反応液中のpHを調整するアルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物を添加する場合、直接、反応液中に供給してもよいが、反応槽内における反応液のpH制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
また、アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法についても、特に限定されるものではなく、反応液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いることが好ましい。たとえば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。このような装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、ポリマー粒子への晶析中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることが容易にできる。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に正極活物質の製造方法という)は、中空構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質の製造方法であって、遷移金属複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を形成する混合工程と、混合工程で形成されたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中において800℃〜1100℃の温度で焼成する焼成工程とを備えることを特徴とするものである。
熱処理工程は、複合水酸化物粒子を酸化性雰囲気中において105〜850℃、好ましくは300〜400℃の温度に加熱して熱処理する工程で、複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去している。
この熱処理工程を行うことによって、粒子中に焼成工程まで残留している水分を一定量まで減少させることができる。これにより、得られる製造される正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
熱処理工程は、上記ばらつきを抑制することが目的であるため、水分量の管理などによりばらつきを抑制することができれば、省略することができる。
熱処理条件による複合水酸化物粒子中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との比を決めておくことで、上記ばらつきを抑制することができる。
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、酸化性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
混合工程は、複合水酸化物粒子、もしくは熱処理工程において熱処理された複合水酸化物粒子(以下、「熱処理粒子」という)と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
ここで、上記熱処理粒子には、熱処理工程において残留水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程で酸化物に転換された複合酸化物粒子、もしくはこれらの混合粒子も含まれる。
すなわち、焼成工程前後でLi/Meは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合する。
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない間などの問題が生じる可能性がある。
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、複合水酸化物粒子もしくは熱処理粒子に、リチウムを含有する物質中のリチウムが拡散するので、リチウム遷移金属複合酸化物が形成される。また、ポリマー粒子を消失させていない複合水酸化物粒子では、リチウム遷移金属複合酸化物の形成と同時に、ポリマー粒子が消失して中空構造が形成される。
リチウム混合物の焼成は、650〜1100℃で、より好ましくは700〜1000℃で行われる。
焼成温度が650℃未満であると、複合水酸化物粒子や熱処理粒子中へのリチウムの拡散が十分に行われず、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、電池に用いられた場合に十分な電池特性が得られない。
また、焼成温度が1100℃を超えると、リチウム遷移金属複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性があり、このため、焼成後の粒子が粗大となって粒子形態(後述する球状二次粒子の形態)を保持できなくなる可能性がある。このような正極活物質は、比表面積が低下するため、電池に用いた場合、正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。
焼成時間のうち、所定温度での保持時間は、少なくとも2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、4〜24時間である。2時間未満では、リチウム遷移金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
特に、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、焼成する前に、焼成温度より低く、かつ、350〜800℃、好ましくは450〜780℃の温度で1〜10時間程度、好ましくは3〜6時間、保持して仮焼することが好ましい。
即ち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと熱処理粒子の反応温度において仮焼することが好ましい。この場合、水酸化リチウムや炭酸リチウムの上記反応温度付近で保持すれば、複合水酸化物粒子や熱処理粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18〜100容量%の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることがより好ましい。
即ち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶性が十分でない状態になる可能性がある。
焼成によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、つまり、本発明の正極活物質を得ることができる。
なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、上記正極活物質の製造方法によって得られるものであって、粒度分布が狭く粒径が均一で、中空構造を有するものである。このため、正極として電池に用いた際には、高い電池容量と出力特性、サイクル特性が得られ、優れた電池特性を有するものとなる。
本発明の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子からなるものであり、その組成は、非水系電解質二次電池用正極活物質となるリチウム遷移金属複合酸化物に適用されるが、優れた電池特性を得るためには、以下の一般式で表されるように調整されることが好ましい。
一般式:Li1+uM1−xNx(OH)2
(−0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.1、MはNi、Co、Mnから選択される1種以上の元素、NはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)
一般式:Li1+uNixCoyMnzNtO2
(−0.05≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.4、0.1≦z≦0.4、0.0003≦t≦0.05、Nは、Ca、Mg、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の元素)
一方、リチウムの過剰量uが0.50を超える場合、上記正極活物質を電池の正極に用いた場合の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加することがある。リチウムの過剰量uは、電池特性をより向上させるためには、0.35以下とすることが好ましく、0.20以下とすることがより好ましい。
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で上記効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。
さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
本発明の正極活物質は、平均粒径が3〜20μmであることが好ましい。
平均粒径が3μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下することがある。一方、平均粒径が20μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下することがある。
本発明の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.3〜0.45であり、均質性が高いリチウム遷移金属複合酸化物粒子により構成される。
粒度分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。
本発明の正極活物質は、二次粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有する。このような中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
この中空部の比率が10%未満になると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなることから、正極抵抗が上昇し、十分な出力特性が得られないことがある。一方、中空部の比率が90%を超えると、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の強度が低下して、粉体取扱時および電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生し、特性を悪化させることがある。なお、二次粒子径に対する中空部の比率は、上記複合水酸化物粒子と同様にして求めることができる。
本発明の非水系電解質二次電池は、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料に用いた正極を採用したものである。まず、本発明の非水系電解質二次電池の構造を説明する。
具体的には、本発明の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有している。より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本発明の二次電池は形成される。
なお、本発明の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
まず、本発明の二次電池の特徴である正極について説明する。
正極は、シート状の部材であり、本発明の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成されている。
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。この導電材は、特に限定されないが、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質、導電材および活性炭などを結着剤中に分散させるものである。この溶剤は特に限定されないが、たとえば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。この負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材などは異なるものの、実質的に前記正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に、必要に応じて各種処理が行われる。
負極活物質は、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。
用いるセパレータは、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を、単独で、あるいは2種以上を混合して、用いることができる。
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
本発明の非水系電解質二次電池は、上記材料により構成され、さらに本発明の正極活物質を用いた正極を有しているので、高い初期放電容量、低い正極抵抗が得られ、高容量で高出力となる。しかも、従来の正極活物質との比較においても、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
本発明の二次電池は、上記性質を有するので、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
また、本発明の二次電池は、高出力が要求されるモーター駆動用電源としての電池にも好適である。電池は、大型化すると安全性の確保が困難になり、高価な保護回路が必要不可欠であるが、本発明の二次電池は、優れた安全性を有しているため、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできる。そして、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける輸送機器用の電源として好適である。
この反応槽内の水に、球状ポリマー粒子、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準でpH値が11.6となるように調整して反応液を作製した。
作製した反応液に、この混合水溶液を25%水酸化ナトリウム水溶液と共に供給し、上記pH値を維持したまま、2時間晶析を継続しポリマーを核として、そのポリマー外殻に、複水酸化物粒子の成長を行った。
この晶析の操作により得られた複合水酸化物粒子を、ICP発光分光法により分析したところ、一般式:(Ni0.33Co0.33Mn0.33)0.993Zr0.002W0.005(OH)2+α(0≦α≦0.5)で表されるものであることを確認した。
得られたポリマー内包複水酸化物粒子の断面SEM写真を図1に示した。
次に、得られたポリマー内包複合水酸化物粒子に対して、大気雰囲気中、300℃で12時間の熱処理を行って、内包するポリマーを消失させる共に複合酸化物粒子に転換させて回収した。
混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
上記リチウム混合物を、950℃の焼成温度により空気(酸素:21容量%)気流中にて、室温(28℃)から650℃までを2.7時間、650℃から950℃までを1.3時間で一定速度により昇温し、950℃で4.5時間保持する熱処理プロフィールにより焼成処理して、リチウム複合酸化物粒子を作製した。その平均昇温速度は3.8℃/分であった。
その後、このリチウム複合酸化物粒子を冷却し、解砕することにより、非水電解質二次電池用正極活物質を得た。
得られた正極活物質のSEM写真を図2に示した。
この正極活物質の比表面積を、窒素吸着式BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製、カンタソーブQS−10)により測定した結果、1.6m2/gであった。
Claims (10)
- 非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子であって、
ポリマー粒子からなる中心部と、前記中心部の外側に遷移金属複合酸化物の一次粒子からなる外殻部分とから構成された二次粒子からなり、
粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.60以下であることを特徴とする遷移金属複合水酸化物粒子。 - 前記平均粒径が、レーザー光回折散乱法による体積基準の平均粒径で、3〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物粒子。
- 前記ポリマー粒子の平均粒径が、前記二次粒子の粒径に対する比率で10〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載の遷移金属複合水酸化物粒子。
- 前記遷移金属複合水酸化物が、一般式:M1−xNx(OH)2(0≦x≦0.1、MはNi、Co、Mnから選択される1種以上の元素、NはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遷移金属複合水酸化物粒子。
- 請求項1〜4の非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法であって、
ポリマー粒子と水を混合してスラリー化した反応液を形成した後、前記反応液のpH値を、液温25℃基準で10.5〜12.0となるように制御しながら、遷移金属を含有する金属化合物を前記反応液に供給して、前記反応液に含まれるポリマー粒子の外周部に遷移金属複合水酸化物を生成させることを特徴とする遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。 - 前記ポリマー粒子が、スラリー化前に前記ポリマー粒子表面に、親水性の官能基を修飾された親水性ポリマー粒子であることを特徴とする請求項5に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
- 前記遷移金属複合水酸化物を生成させる際の雰囲気が、酸素濃度2容量%以下の酸素と不活性ガスの混合ガス雰囲気であることを特徴とする請求項5または6に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
- 中空構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質の製造方法であって、
請求項1〜4に記載の遷移金属複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を形成する混合工程と、
前記混合工程で形成された前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中において650〜1100℃の温度で焼成してリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得る焼成工程と、
を備えることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。 - 前記混合工程の前に、酸化性雰囲気中において105〜850℃の温度で、前記遷移金属複合水酸化物粒子を熱処理することを特徴とする請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
- 前記焼成工程において、焼成前に予め350〜800℃、かつ焼成温度より低い温度で仮焼を行うことを特徴とする請求項8または9に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
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