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JP2016017013A - 防曇性ガラス物品 - Google Patents

防曇性ガラス物品 Download PDF

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JP2016017013A JP2014140910A JP2014140910A JP2016017013A JP 2016017013 A JP2016017013 A JP 2016017013A JP 2014140910 A JP2014140910 A JP 2014140910A JP 2014140910 A JP2014140910 A JP 2014140910A JP 2016017013 A JP2016017013 A JP 2016017013A
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森 勇介
Yusuke Mori
勇介 森
阿部 啓介
Keisuke Abe
啓介 阿部
米田 貴重
Takashige Yoneda
貴重 米田
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Abstract

【課題】保冷ショーケース等の高い防曇性が要求される用途に好適な、高い防曇性能を有する防曇性ガラス物品の提供。【解決手段】対向配置した複数枚のガラス板をその周縁部にスペーサを介して封止し対向するガラス板間に中間層を形成した複層ガラスと、前記複層ガラスの少なくとも一方の主面上に配設された、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし、所定の方法で測定される45℃蒸気試験における防曇時間(T45)が40秒以上である吸水層を有する防曇膜と、を有する防曇性ガラス物品。【選択図】図1

Description

本発明は、防曇性ガラス物品に関し、特には、保冷ショーケースドア用に好適な複層ガラス表面に高吸水性の防曇膜を有する防曇性ガラス物品に関する。
ガラスは透明性に優れるため、建築用、車両用、ショーケース等の各種窓用途に用いられているが、ガラス窓においてガラスの表面が露点温度以下になった場合、表面に微細な水滴が付着して透過光を散乱するため、透明性が損なわれ、いわゆる「曇り」の状態となる。
例えば、ガラス窓を有する冷蔵庫や冷凍庫等の保冷ショーケースは、ガラス窓の片側が冷温環境に晒されると、このような曇りが発生することがある。そして、冷温環境が氷点下であると該曇りは凍結されたものとして現れることがあり、ガラス窓の視認性確保は難しいものとなる。
複層ガラス等の複数枚のガラス板が対向してなる多重ガラス構造を有するガラス窓は、単板のガラス窓より断熱性に優れることから、曇りの発生を抑制することに効果を奏する。よって、ガラス窓の片側が冷温環境となる環境下では、ガラス窓として、多重ガラス構造を有するガラス窓が広く採用されている。特に、保冷ショーケースの窓としての使用頻度には特筆すべきものがある。
しかしながら、これらガラス窓は、多くのケースで、可動可能な装置、例えば、扉、蓋、戸等に組み込まれて使用される。このようなケースでは、ガラス窓が開放されたとき、保冷ショーケースの冷温環境に接していたガラス板表面は、冷却された状態で暖温環境にもたらされることになり、該表面には曇りが生じやすくなる。これは、ガラス窓密閉後の視認の妨げをもたらす。
この問題を解決するために、例えば、特許文献1には、保冷ショーケースのガラス窓閉時に冷温環境にさらされるガラス板表面に特定のウレタン樹脂からなる吸水性被膜を設ける技術が記載されている。特許文献1によれば、該吸水性被膜は、ガラス窓が開放された際に曇りの原因となる水分を吸水し、ガラス窓を閉じた際に被膜中に吸水された水を放出するように設計されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、防曇性は十分とは言えなかった。
特開2009−242219号公報
本発明は、上記観点からなされたものであって、保冷ショーケース等の高い防曇性が要求される用途に好適な、高い防曇性能を有する防曇性ガラス物品の提供を目的とする。
本発明は、以下の構成を有する防曇性ガラス物品を提供する。
[1]対向配置した複数枚のガラス板をその周縁部にスペーサを介して封止し対向するガラス板間に中間層を形成した複層ガラスと、前記複層ガラスの少なくとも一方の主面上に配設された、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし、下記方法で測定される45℃蒸気試験における防曇時間(T45)が40秒以上である吸水層を有する防曇膜と、
を有する防曇性ガラス物品。
(防曇時間(T45)の測定方法)
ソーダライムガラス基体の一方の主面に検体となる吸水層を設け、23℃、50%RHの環境下に1時間放置する。次いで、該吸水層の表面における70mm×70mmの方形の領域を45℃の温水浴上に翳し、翳し始めてから目視において曇りが認められるまでの防曇時間(T[秒])を測定する。
[2]前記吸水層は、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を含む吸水層形成用組成物を反応させて得られる層であり、前記第1のポリエポキシド成分は、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上のポリエポキシド(A)をポリエポキシド成分全量に対して90質量%以上含有する[1]に記載の防曇性ガラス物品。
[3]前記第1の重付加型硬化剤が、アミン活性水素を有するポリアミン化合物を含有する、[2]に記載の防曇性ガラス物品。
[4]前記第1のポリエポキシド成分が有するエポキシ基に対する前記第1の重付加型硬化剤が有するアミン活性水素の当量比が0.6〜2.0である、[3]に記載の防曇性ガラス物品。
[5]前記防曇膜が、前記吸水層の前記複層ガラス側にさらに、飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層を有する[1]〜[4]のいずれかに記載の防曇性ガラス物品。
[6]前記下地層が、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤とを含む下地層形成用組成物を反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂を主体としてなる[5]に記載の防曇性ガラス物品。
[7]保冷ショーケースドア用である[1]〜[6]のいずれかに記載の防曇性ガラス物品。
本発明によれば、保冷ショーケース等の高い防曇性が要求される用途に好適な、高い防曇性能を有する防曇性ガラス物品の提供が可能である。
本発明の実施形態の防曇性ガラス物品の一例の断面図である。 図1に示す防曇性ガラス物品における防曇膜を有するガラス板の拡大断面図である。 本発明の実施形態の防曇性ガラス物品の別の一例の断面図である。
以下に本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
図1は、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品の一例の断面図を示し、図2は、図1に示す防曇性ガラス物品における防曇膜を有するガラス板の拡大断面図である。図1および図2に示す防曇性ガラス物品は、例えば、保冷ショーケースのドアに用いられる。
図1に示す防曇性ガラス物品10Aは、互いに対向して配置された2枚のガラス板11、12と該2枚のガラス板11、12の周縁部を封着し、該2枚のガラス板11、12の間に中間層31を形成するように配置されたスペーサ21を有する複層ガラス20Aと、該複層ガラス20Aの一方の主面11a上、すなわち、ガラス板11の中間層31に面しない側の主面11a上に配設された防曇膜41と、を有する。
図2に示すように防曇膜41は、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層41aを有し、吸水層41aの上記方法で測定される45℃蒸気試験における防曇時間(T45)が40秒以上である。上記方法で測定される45℃蒸気試験における防曇時間(T45)を、以下、単に防曇時間(T45)という。図2に示す防曇膜41は、吸水層41aの複層ガラス20A側、すなわちガラス板11の主面11a側にさらに、飽和吸水量が10mg/cm以下と低吸水性の下地層41bを有する。なお、防曇性ガラス物品10Aにおいて防曇膜41は、下地層41bと吸水層41aで構成されるが、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品において下地層は必須の層ではなく、防曇膜は吸水層のみで構成されてもよい。
また、本明細書において、飽和吸水量は以下の方法で測定した単位体積当たりの飽和吸水質量[mg/cm]をいう。
測定に適するサイズ、例えば、3cm×4cm×厚さ2mmのソーダライムガラス基体に検体となる層(以下、「検体層」)を設け、これを10℃、95〜99%RHの環境の恒温恒湿槽に2時間放置し、取り出し後、微量水分計を用いて検体層付き基体全体の水分量(I)を測定する。さらに、上記基体のみについて同様の手順で水分量(II)を測定する。上記水分量(I)から水分量(II)を引いた値を検体層の体積で除した値を飽和吸水量とする。なお、水分量の測定は、微量水分計FM−300(商品名、ケット科学研究所社製)によって次のようにして行う。測定サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの質量変化を水分量として測定する。また、測定の終点は、25秒間当たりの質量変化が0.05mg以下となった時点とする。
ここで、本発明の実施形態における防曇膜が有する吸水層の防曇時間(T45)は40秒以上である。このような吸水層の飽和吸水量は、概ね150mg/cm以上であり、飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層は、吸水層よりも吸水性能が低い層である。
上記低吸水性の下地層は、高吸水性の吸水層が吸水、放水によりある程度、膨張・収縮するのに比べ、膨張・収縮の程度が小さいことから複層ガラスの主面との密着性を向上させる効果を有する。なお、防曇膜は、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし防曇時間(T45)が40秒以上である吸水層を有すれば、下地層を有しなくてもよい。ただし、上記防曇膜の複層ガラスとの密着性の観点から下地層を有することが好ましい。また、下地層は水や水と共に取り込まれる各種イオン成分が、防曇膜が配設される複層ガラスの主面に到達するのを抑制する作用も有する。
複層ガラス20Aにおいて、2枚のガラス板11、12はその周縁部に配設されたスペーサ21を介して隔置されていることから、ガラス板11、12間には中間層31が形成されている。複層ガラス20Aにおいて、その2つの主面は、2枚のガラス板のうちの一方のガラス板11の中間層31に接していない主面11a、および他方のガラス板12の中間層31に接していない主面12aに相当する。
本発明の防曇性ガラス物品は、複層ガラスとその少なくとも一方の主面上に配設された防曇膜を有する。図1に示す防曇性ガラス物品10Aは、複層ガラス20Aの一方の主面11a上に防曇膜41を有し他方の主面12a上には防曇膜を有しない構成である。
このような防曇性ガラス物品10Aを、例えば、保冷ショーケースのドアに用いる場合、ドアの開閉により温度差が生じ曇りが発生しやすいドアの内側、すなわち庫内側に防曇膜41が位置するように用いられる。この場合、庫内側に配された防曇膜41は、ドアが開放された際に曇りの原因となる水分を吸収し、ドアを閉じた際に防曇膜41中に吸水された水を放出することで、曇りの発生を抑制できる。
このような用途において曇りの発生を有効に抑制するためには高吸水性の防曇膜が要求される。本発明の実施形態の防曇性ガラス物品が有する防曇膜は、防曇時間(T45)が40秒以上と高い防曇性を有する吸水層を備えることから、保冷ショーケースのドアの開閉にも十分対応可能である。
防曇性ガラス物品10Aは、複層ガラス20Aの一方の主面に防曇膜41を有する本発明の防曇性ガラス物品の一態様であるが、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品は、複層ガラスの両方の主面に防曇膜を有する態様であってもよい。複層ガラスの両方の主面に防曇膜有する防曇性ガラス物品を、上記同様に、例えば、保冷ショーケースのドアに用いる場合、庫内側の防曇膜は上記同様にドアの開閉時に防曇機能を発揮する。一方、庫外側の防曇膜は、ドアが閉められ庫内が十分に保冷された状態で庫外の温度が上昇した際の庫外側の曇りの発生を抑制するように機能する。
以下、防曇性ガラス物品10Aの各要素について説明する。
[複層ガラス]
防曇性ガラス物品10Aが有する複層ガラス20Aは、互いに対向して配置された2枚のガラス板11、12と、該2枚のガラス板11、12の周縁部を封着し、かつ該2枚のガラス板11、12の間に中間層31を形成するように配置されたスペーサ21を有する。複層ガラスとしては、各種用途に通常用いられる複層ガラスが、特に制限なく使用可能であり、具体的には、以下の構成の複層ガラスが挙げられる。
(ガラス板)
2枚のガラス板11、12を構成するガラスとしては、通常のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等の製造方法によらず使用可能である。紫外線遮蔽ガラス、赤外線遮蔽ガラス、電磁波遮蔽ガラスを用いることも可能である。網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、風冷強化ガラス、化学強化ガラス、合わせガラスを使用できる。
2枚のガラス板11、12の板厚は特に制限されないが、0.1〜10mmが好ましく、特には0.2〜5.0mmが好ましい。なお、2枚のガラス板11、12は、大きさは同一であるが、これらを構成するガラスの材質は必ずしも同一でなくてもよい。板厚も同様に2枚のガラス板11、12が同一でなくてもよい。
(スペーサ)
スペーサ21は対向する2枚のガラス板11、12の周縁部を封着して、スペーサ21と2枚のガラス板11、12で囲まれた密閉空間としての中間層31を形成するために設けられる。中間層31を有することで複層ガラス20Aは単層ガラスに比べて高い断熱性能を有する。
スペーサ21としては、2枚のガラス板11、12の周縁部に配設されて2枚のガラス板11、12に挟持されることで密閉空間としての中間層31を形成できる材料であれば特に制限はなく、具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂等の汎用の樹脂、エンジニアリングプラスチック、金属等が使用可能である。ガラス板11、12とスペーサ21の密着には、通常用いられる接着剤等が適宜使用できる。
スペーサ21の厚みは、得ようとする中間層31の厚みと同等となるように設定される。用途によるが、保冷ショーケースのドアに用いる場合、スペーサ21の厚みは概ね3〜30mm程度とされる。
(中間層31)
中間層31には乾燥空気または窒素ガスが封入される構成が一般的である。中間層31には、熱伝導率が空気より小さい断熱ガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを封入することで断熱性能を高めることができる。
複層ガラス20Aは2枚のガラス板11、12およびガラス板11、12の周縁部に枠状に設けられるスペーサ21を準備し、通常の方法でこれらを接着することで作製可能である。中間層31への不活性ガスの封入も常法により行うことができる。ここで、複層ガラス20Aのガラス板11の中間層31に面しない側の主面11a上に配設される防曇膜41は、複層ガラス20Aを組み立てた後に、ガラス板11の該主面11a上に形成されてもよいが、通常、複層ガラス20Aを組み立てる前にガラス板11の該主面11a上に形成される。
[防曇膜]
防曇性ガラス物品10Aが、複層ガラス20Aにおいてガラス板11の中間層31に面しない側の主面11a上に有する防曇膜41は、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層41aを有し、該吸水層41aの防曇時間(T45)が40秒以上である。防曇性ガラス物品10Aにおいて、防曇膜41は、ガラス板11と吸水層41aとの間に飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層41bをさらに有する。
(吸水層)
防曇膜41が有する吸水層41aは第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする層である。上記のとおり吸水層は、防曇時間(T45)が40秒以上であり、飽和吸水量は概ね150mg/cm以上である。吸水層の防曇時間(T45)は、50秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましい。飽和吸水量は250mg/cm以上が好ましく、300mg/cm以上がより好ましい。一方、防曇膜の耐久性が低くなるのを防ぐ観点から、吸水層の飽和吸水量は、800mg/cm以下が好ましく、600mg/cm以下がより好ましい。
本発明の実施形態の防曇性ガラス物品に係る吸水層の膜厚は、防曇性と耐久性の両立を考慮すれば、3〜50μmが好ましい。吸水層の膜厚は5μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。また、吸水層の膜厚は40μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。
また、防曇膜が下地層を有する場合、防曇膜の耐剥離性、耐久性等が低くなるのを防ぐ観点から、吸水層の厚みは下地層の厚みの2〜12倍であることが好ましい。吸水層の厚みが下地層の厚みの2倍以上であれば、防曇膜の防曇性能は下地層の影響を十分に排除でき吸水層の防曇性能と防曇膜の防曇性能がほぼ等しいと言える。吸水層の厚みが下地層の厚みの12倍以下であれば、防曇膜は十分な耐久性と耐剥離性を獲得できる。
本発明に係る吸水層は、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし、防曇時間(T45)が40秒以上であれば、特に制限されない。第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし、上記防曇時間(T45)を満足する吸水層として具体的には、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上のポリエポキシド(A)をポリエポキシド成分全量に対して90質量%以上含有する第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を含む吸水層形成用組成物を反応させて得られる層が挙げられる。なお、吸水層が第1の硬化エポキシ樹脂を主体とするとは、吸水層全体に占める第1の硬化エポキシ樹脂の割合が80質量%以上であることをいう。
本明細書において、「ポリエポキシド」とは、2個以上のエポキシ基を有する化合物をいう。ポリエポキシドは低分子化合物、オリゴマー、ポリマーを含む。「ポリエポキシド成分」とは、少なくとも1種のポリエポキシドから構成されるポリエポキシドのみからなる成分であり、以下必要に応じてこれを主剤と呼ぶこともある。
また、硬化剤のうちでも、「重付加型硬化剤」とは、ポリエポキシドの有するエポキシ基と反応する反応性基を2個以上有する化合物であって、反応によりポリエポキシドに重付加するタイプの硬化剤をいう。「触媒型硬化剤」とは、ルイス酸等の反応触媒であって、ポリエポキシド同士の重合反応および/またはポリエポキシドと重付加型硬化剤との重付加反応を触媒する硬化剤をいう。なお、触媒型硬化剤には熱硬化型と光硬化型があるがこれらはともに触媒型硬化剤として扱う。
さらに、「硬化エポキシ樹脂」とは、上記主剤と重付加型硬化剤が反応して得られる、ポリエポキシドが重付加型硬化剤により架橋し3次元化した構造、および/または、触媒型硬化剤の働きによりポリエポキシド同士が線状または3次元的に重合した構造を有する硬化物をいう。
硬化エポキシ樹脂は、3次元構造を有することで樹脂内部に保水空間を有し、それにより吸水性が発現するとされる。また、硬化エポキシ樹脂が有する親水基や親水性連鎖(ポリオキシエチレン基等)の存在量も吸水性に寄与する。ここで、硬化エポキシ樹脂が内部に有する保水空間が大きいほど、高い吸水性を有するが、保水空間が必要以上に大きくなると、耐久性の低下を招く。そこで、用途に応じて適宜、硬化エポキシ樹脂の3次元構造が調整される。なお、保水空間は、主剤として用いるポリエポキシドの分子構造にも依存する。
以下、本発明に係る防曇膜が有する防曇時間(T45)が40秒以上という高吸水性の吸水層を主として構成する第1の硬化エポキシ樹脂について説明する。
<第1の硬化エポキシ樹脂>
第1の硬化エポキシ樹脂は、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を反応させて得られる硬化エポキシ樹脂である。
第1のポリエポキシド成分は、得られる第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層が防曇時間(T45)40秒以上を達成できるポリエポキシド成分であれば特に制限されない。第1のポリエポキシド成分として、具体的には、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上であるポリエポキシド(A)を、第1のポリエポキシド成分全量に対して90質量%以上の割合で含有するポリエポキシド成分が挙げられる。
塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上のポリエポキシド(A)は、直鎖状のポリエポキシドである。ポリエポキシドにおいては、通常、分子末端には塩素原子が存在し塩素含有量が少ないと分岐が少ないことを意味する。塩素含有量が2質量%以下のポリエポキシドは直鎖状のポリエポキシドとされる。
また、水溶率とは、水への溶解率を意味し、以下の方法によって測定できる。
水に対する樹脂の割合が10質量%となるように、水に検体となる樹脂を投入して樹脂と水の混合物を準備し、1〜5時間の間撹拌混合を実施する。その後、該混合物を24時間静置した後、不溶の樹脂分を吸い取る。吸い取った不溶樹脂分について質量を測定し、下記式により水溶率(%)を算出する。
水溶率(%)=(投入樹脂量(g)−不溶樹脂量(g))/投入樹脂量(g)×100
ポリエポキシドの水溶率が90%以上である場合、防曇膜の水との親和性が高まり、吸水性能がより高くなる。
第1のポリエポキシド成分中のポリエポキシド(A)の含有量が90質量%以上であれば、防曇時間(T45)が40秒以上の吸水層を得るのに十分な保水空間を有するとともに十分な耐久性を有する第1の硬化エポキシ樹脂が得られる。吸水層により高い防曇性を付与する観点から第1のポリエポキシド成分中のポリエポキシド(A)の含有量は、95質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
ポリエポキシド(A)としては、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上であれば、その他の分子構造は特に制限されない。ポリエポキシド(A)は、脂肪族ポリエポキシド、脂環族ポリエポキシド、芳香族ポリエポキシドのいずれであってもよい。脂肪族ポリエポキシドを用いると、得られる第1の硬化エポキシ樹脂が有する3次元構造は、適度な大きさの空間と柔軟性をもつため高吸水性と耐久性の両立がより高いレベルで可能になると考えられ、好ましい。
ポリエポキシド(A)の分子量は、得られる第1の硬化エポキシ樹脂の高吸水性と耐久性を考慮すれば、600〜3000が好ましく、800〜2000がより好ましい。なお、本明細書において分子量は、特に断りのある場合を除いて、質量平均分子量(Mw)をいう。また、本明細書における質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレンを標準とする質量平均分子量をいう。
ポリエポキシド(A)におけるポリエポキシドの1分子当たりのエポキシ基の数は、平均して2個以上であれば特に制限されないが、2〜10個であることが好ましく、3〜8個がより好ましく、3〜7個がさらに好ましい。ポリエポキシド(A)のエポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数[g/eq]、以下、単位は省略する。)としては、140〜250であることが好ましく、150〜220であることがより好ましい。
ポリエポキシド(A)としては、通常の硬化エポキシ樹脂の原料成分として用いられる、グリシジルエーテル系ポリエポキシド、グリシジルエステル系ポリエポキシド、グリシジルアミン系ポリエポキシド等のポリエポキシドのうち、塩素含有量および水溶率が上記範囲のものを用いることができる。ポリエポキシド(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
以下、化合物の種類についてのみいうが、これらの化合物のうちで塩素含有量および水溶率が上記範囲のものがポリエポキシド(A)として用いられる。
上記グリシジルエーテル系ポリエポキシドは、水酸基を2個以上有するポリオール類の水酸基をグリシジルオキシ基に置換した構造を有するポリエポキシド(またはそのポリエポキシドのオリゴマー)である。グリシジルエステル系ポリエポキシドは、カルボキシル基を2個以上有するポリカルボン酸のカルボキシル基をグリシジルオキシカルボニル基に置換した構造を有するポリエポキシド、グリシジルアミン系ポリエポキシドは、窒素原子に結合した水素原子を2個以上有するアミンの窒素原子に結合した水素原子をグリシジル基に置換した構造を有するポリエポキシドである。
ポリエポキシド(A)としては、脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドが好ましい。脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドとして、具体的には、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレンジオールポリグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレントリオールポリグリシジルエーテル、ポリ(オキシプロピレン・オキシエチレン)トリオールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの脂肪族ポリエポキシドのうちでも、ポリエポキシド(A)としては、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリソルビトールポリグリシジルエーテルのうち塩素含有量および水溶率が上記範囲のものが好ましい。
なお、ポリエポキシド(A)としては市販品を用いることが可能である。このような市販品として、具体的には、ナガセケムテックス社製のいずれも商品名で、脂肪族ポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−1610(塩素含有量;0.5質量%、水溶率;100%、Mw;1130、エポキシ当量;170)、デナコールEX−1410(塩素含有量;0.5質量%、水溶率;100%、Mw;988、エポキシ当量;160)、デナコールEX−610U(塩素含有量;0.5質量%、水溶率;100%、Mw;1408、エポキシ当量;210)等が挙げられる。
第1のポリエポキシド成分が含有するポリエポキシド(A)以外のポリエポキシド(以下、ポリエポキシド(B)ともいう。)としては、通常の硬化エポキシ樹脂の原料成分として用いられる、グリシジルエーテル系ポリエポキシド、グリシジルエステル系ポリエポキシド、グリシジルアミン系ポリエポキシド等のポリエポキシドのうちのポリエポキシド(A)の範疇にないものが特に制限なく使用可能である。
ポリエポキシド(B)としては、ポリエポキシド(A)と同様に脂肪族ポリエポキシドが好ましく、脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドが特に好ましい。
<第1の重付加型硬化剤>
第1の重付加型硬化剤は、上記第1のポリエポキシド成分が有するエポキシ基と反応する反応性基を2個以上有する化合物であって、反応によりポリエポキシドに重付加するタイプの硬化剤であれば特に制限されない。
第1の重付加型硬化剤における、上記エポキシ基と反応する反応性基としては、活性水素を有するアミノ基、カルボキシル基、チオール基等が挙げられる。すなわち、第1の重付加型硬化剤としては、活性水素を有するアミノ基を2個以上有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、2個以上のチオール基を有する化合物が好ましく、より好ましくは活性水素を有するアミノ基を2個以上有する化合物が用いられる。
なお、活性水素を有するアミノ基とは、具体的には、−NHで示される1級アミノ基または>NHで示される2級アミノ基をいう。本明細書において、アミノ基に結合する活性水素を「アミン活性水素」という。また、活性水素を有するアミノ基を有する化合物を、活性水素を有するアミン化合物、活性水素を有するアミノ基を2個以上有する化合物を、活性水素を有するポリアミン化合物という。ここで、N−アミノアルキル置換アミノ基、やヒドラジニル基等の1級アミノ基を末端に有する2級アミノ基は、活性水素を有するアミノ基としては1個と数えられる。さらに、本明細書において、特に断りのない限り、「ポリアミン化合物」とは、活性水素を有するポリアミン化合物をいう。
エポキシ基と反応する反応性基を2個以上有する化合物として、具体的には、ポリアミン化合物、ポリカルボン酸無水物、ポリアミド化合物、ポリチオール化合物等が挙げられる。本発明においては、ポリアミン化合物やポリカルボン酸無水物が好ましく用いられる。第1の重付加型硬化剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
第1の重付加型硬化剤は、脂肪族化合物、脂環族化合物、芳香族化合物のいずれであってもよい。高い吸水性を有する吸水層が得られる観点から、第1の重付加型硬化剤は、芳香環を有しない化合物であることが好ましい。このように第1の硬化エポキシ樹脂は、直鎖状のポリエポキシド(A)を主として含有する第1のポリエポキシド成分が脂肪族化合物であって第1の重付加型硬化剤が芳香環を有しない化合物であることが好ましい。すなわち、第1の硬化エポキシ樹脂は、高い吸水性と耐久性を両立させる観点から分子構造に芳香環を有しないことが好ましい。
第1の重付加型硬化剤は、芳香環を有しないポリアミン化合物やポリチオール類、ポリカルボン酸無水物が好ましく、特に芳香環を有しないポリアミン化合物が好ましい。ポリアミン化合物としては活性水素を有するアミノ基を2〜4個有するポリアミン化合物が好ましい。ポリチオール化合物としてはポリエーテルポリチオールが好ましい。ポリカルボン酸無水物としては、ジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物およびテトラカルボン酸無水物が好ましい。
芳香環を有しないポリアミン化合物としては、脂肪族ポリアミン化合物や脂環式ポリアミン化合物が挙げられる。これらのポリアミン化合物として、具体的には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
上記ポリオキシアルキレンポリアミンは、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基がアミノ基に置換された構造を有するポリアミンであり、例えば、2〜4個の水酸基を有するポリオキシプロピレンポリオールの水酸基を、活性水素を有するアミノ基に置換した構造を有する2〜4個のアミノ基を有する化合物がある。そのアミノ基1個当たりの分子量は1000以下が好ましく、特に500以下が好ましい。
芳香環を有しないポリカルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
第1の重付加型硬化剤は市販品を用いることも可能である。このような市販品として、具体的には、ポリオキシアルキレントリアミンとして、ジェファーミンT403(商品名、ハンツマン社製、Mw:390)等が、ポリエーテルポリチオールとして、ポリチオールQE−340M(商品名、東レファインケミカル社製)等が挙げられる。
本発明に用いる第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分である上記第1のポリエポキシド成分と上記第1の重付加型硬化剤の配合割合は、第1の重付加型硬化剤の反応性基がエポキシ基と1:1の割合で反応する基の場合には、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第1の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が0.6〜2.0になる割合であることが好ましく、0.8〜1.5がより好ましい。エポキシ基と1:1で反応する反応性基を有する第1の重付加型硬化剤を用いる場合、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第1の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が上記範囲であれば、耐摩耗性、耐湿性などの耐久性が低下することなしに上記吸水性を有するように適度に架橋した3次元網目構造を有する硬化エポキシ樹脂が得られる。
本発明において第1の重付加型硬化剤として活性水素を有するポリアミン化合物を用いる場合には、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が0.6〜2.0になる割合となるように用いることが好ましく、0.8〜1.5がより好ましい。上記同様、エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が上記範囲であれば、著しく黄変することなく、耐摩耗性、耐湿性などの耐久性が低下することなしに上記吸水性を有するように適度に架橋した3次元網目構造を有する硬化エポキシ樹脂が得られる。
なお、吸水層形成用組成物が第1のポリエポキシド成分および第1の重付加型硬化剤以外にエポキシ基を有する化合物および/またはアミン活性水素を有する化合物を含有する場合においても、第1の重付加型硬化剤として活性水素を有するポリアミン化合物を用いる場合には、上記同様の理由から、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第1の重付加型硬化剤が有するアミン活性水素の当量比が0.6〜2.0になる割合となるように用いることが好ましい。
また、第1の硬化エポキシ樹脂を、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤との重付加反応により得る際に、必要に応じて、該重付加反応を第1の触媒型硬化剤の存在下に行うことも可能である。
第1の触媒型硬化剤としては、ルイス酸等の反応触媒であって、ポリエポキシド同士の重合反応および/またはポリエポキシドと重付加型硬化剤との重付加反応を触媒する触媒型硬化剤であれば特に制限なく使用できる。
第1の触媒型硬化剤を用いることにより、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤の重付加反応による架橋の速度を加速する効果や、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤により形成される架橋部位に発生する不具合を低減する効果が得られる。
第1の触媒型硬化剤として、具体的には、3級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸類、オニウム塩類、ホスフィン類等の硬化触媒が挙げられる。より具体的には、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、三フッ化ホウ素−アミン錯体、p−トルエンスルホン酸メチル、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。第1の触媒型硬化剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上に例示した、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等のオニウム塩は、紫外線等の光により分解してルイス酸触媒を発生する触媒型硬化剤であり、通常、光硬化性の硬化エポキシ樹脂を与える触媒型硬化剤として用いられる。
本発明に用いる、第1の触媒型硬化剤としては、これらのうちでも、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が好ましい。
第1の触媒型硬化剤は市販品を用いることも可能である。このような市販品として、例えば、光硬化型の触媒型硬化剤であるトリアリールスルホニウム塩として、アデカオプトマーSP152(商品名、ADEKA社製)等が挙げられる。
第1の触媒型硬化剤の使用量は、第1のポリエポキシド成分100質量%に対して6質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。第1のポリエポキシド成分100質量%に対する第1の触媒型硬化剤の使用量が6質量%以下であれば、得られる第1の硬化エポキシ樹脂中に第1の触媒型硬化剤の残渣が存在して硬化エポキシ樹脂が黄変する等の外観上の問題の発生を抑制しやすい。なお、第1の触媒型硬化剤は任意成分であることから使用量の下限は特に限定されない。ただし、硬化反応を促進する観点から第1のポリエポキシド成分100質量%に対して0.5質量%程度を下限として第1の触媒型硬化剤を使用することが好ましい。
<吸水層形成用組成物>
本発明の実施形態の防曇性ガラス物品が有する防曇膜における吸水層は、上記第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を含む吸水層形成用組成物を反応させて得られる第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層である。
吸水層形成用組成物が含有する上記第1のポリエポキシド成分および第1の重付加型硬化剤、ならびに任意に含有する第1の触媒型硬化剤については、用いられる化合物および組合せる際の割合等、好ましい態様を含めて上記の通りである。吸水層形成用組成物は、上記第1のポリエポキシド成分および第1の重付加型硬化剤、ならびに任意に含有する第1の触媒型硬化剤の他に、通常、溶剤を含有する。また、必要に応じて、これら以外にカップリング剤等の反応性添加剤、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤等の非反応性添加剤を含有する。なお、上記反応性添加剤は、第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分の一部として扱う。
通常、吸水層を得るための吸水層形成用組成物における第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤との反応、さらには、これらと任意成分である反応性添加剤との反応は、吸水層形成用組成物として塗布面(複層ガラスの主面上または下地層上)に塗布された後に行われる。吸水層形成用組成物が溶剤を含む場合には、塗布面に塗布する前の組成物中でこれら成分を予めある程度反応させ、その後塗布面に塗布し、乾燥後、さらに反応させてもよい。このように吸水層形成用組成物として溶剤中で、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤等の反応性成分を予めある程度反応させる場合には、予め反応させるときの反応温度は、30℃以上とすれば硬化反応が確実に進行するため好ましい。
(溶剤)
上記吸水層形成用組成物に用いる溶剤としては、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤、およびその他任意成分を含む配合成分についての溶解性が良好な溶剤であり、かつこれらの配合成分に対して不活性な溶剤であれば特に限定されず、具体的には、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、ケトン類、水等が挙げられる。
なお、溶剤としてプロトン性溶剤を用いると、第1のポリエポキシド成分の種類によっては溶剤とエポキシ基とが反応して硬化エポキシ樹脂が形成されにくい場合がある。したがって、プロトン性溶剤を使用する場合は、第1のポリエポキシド成分と反応し難い溶剤を選択することが好ましい。使用可能なプロトン性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等が挙げられる。また、それ以外の溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が好ましい。
これら溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、第1のポリエポキシド成分や第1の重付加型硬化剤、第1の触媒型硬化剤等の配合成分は溶剤との混合物として用意される場合がある。このような場合には、該混合物中に含まれる溶剤をそのまま、吸水層形成用組成物における溶剤として用いてもよく、さらに吸水層形成用組成物にはそれ以外に同種のあるいは他の溶剤を加えてもよい。
また、吸水層形成用組成物における溶剤の量は、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤およびその他任意に配合される各種配合成分における全固形分の合計質量100質量%に対して40〜500質量%であることが好ましく、80〜300質量%がより好ましい。
ここで、吸水層形成用組成物における第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の配合量は、第1のポリエポキシド成分については組成物全量に対して15〜60質量%が好ましく、18〜50質量%がより好ましい。第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の配合量は上記のとおりである。
吸水層形成用組成物が任意に含有する添加剤のうち反応性添加剤としては、アルキルモノアミン等の第1のポリエポキシド成分と反応性の反応性基を1個有する化合物、エポキシ基やアミノ基等の第1のポリエポキシド成分や第1の重付加型硬化剤と反応性の反応性基を有するカップリング剤等が挙げられる。
用いるカップリング剤としては、有機金属系カップリング剤または多官能の有機化合物が好ましく、有機金属系カップリング剤が特に好ましい。有機金属系カップリング剤は、金属原子−炭素原子間の結合を1個以上有する化合物であり、金属原子−炭素原子間の結合は、1個または2個が好ましい。有機金属系カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤(以下、シランカップリング剤という)、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が挙げられ、シランカップリング剤が好ましい。これらカップリング剤は、第1のポリエポキシド成分や第1の重付加型硬化剤が有する反応性基および、複層ガラスまたは後述の下地層の表面に残存する反応性基と反応し得る反応性基を有することが好ましい。なお、このような反応性基を有することで各層間の密着性を向上させる目的以外に、吸水層の物性を調整する目的でも使用できる。
吸水層形成用組成物におけるカップリング剤の配合量は、カップリング剤配合の効果を十分に発揮させるために、吸水層形成用組成物における第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
なお、例えば、シランカップリング剤等のカップリング剤において、エポキシ基や活性アミノ基を有するカップリング剤を用いる場合には、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第1の重付加型硬化剤のアミン活性水素の当量比が0.6〜2.0になる割合となるようにしたうえで、これら成分が有するエポキシ基やアミン活性水素の量を、第1のポリエポキシド成分や第1の重付加型硬化剤が有するエポキシ基やアミン活性水素の量に加えた合計量を、エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比の算出に用いて、上記の当量比の範囲と同様にすることが好ましい。
フィラーとしては、金属酸化物からなるフィラーが好ましい。金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられ、なかでもシリカが好ましい。フィラーの形状としては、平均一次粒子径が300nm以下の粒子状が好ましい。平均一次粒子径は、100nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。平均一次粒子径を300nm以下とすれば、これを含む組成物中で粒子同士の凝集傾向が強まらず、粒子の沈降を回避できる。また、これを含む組成物により吸水層を形成した際に、散乱による曇り(曇価、ヘイズ)の発生を抑制でき、透明性維持の点で上記粒子径とすることが好ましい。なお、平均一次粒子径の下限については特に限定されないが、現在の技術において製造可能な2nm程度の粒子も使用可能である。ここで、粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものをいう。
また、フィラーの配合量は、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%がより好ましい。
赤外線吸収剤としては、Re、Hf、Nb、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Mo等の金属、該金属の酸化物、窒化物、硫化物、ケイ素化合物、またはこれらにSb、F、SnもしくはSbなどのドーパントをドープした無機化合物の粒子からなる赤外線吸収剤や有機色素からなる赤外吸収剤等が挙げられる。赤外線吸収剤として用いる無機化合物粒子における平均一次粒子径は、好適な粒子径を含め上記のフィラーの平均一次粒子径と同様とできる。
吸水層形成用組成物における赤外線吸収剤の配合量は、これを用いて形成される吸水層が本発明の効果を損なわずにかつ十分な赤外線遮蔽による断熱効果を有する点から、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、0.5〜15質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。赤外線吸収剤として無機化合物粒子を配合する場合は、無機化合物粒子は上記フィラーとしての機能も合わせて果たすものである。したがって、その場合、該無機化合物粒子の配合量分だけフィラーの配合量を減ずることが可能である。
酸化防止剤としては、ペルオキシラジカルを捕捉、分解することで樹脂の酸化を抑制するタイプのフェノール系酸化防止剤、過酸化物を分解することで樹脂の酸化を抑制するタイプのリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、本発明においてはフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、従来公知の紫外線吸収剤、具体的には、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤の光の極大吸収波長は、325〜425nmの範囲にあり、概ね325〜390nmの範囲にあるものが好ましい。このように、比較的長波長の紫外線に対しても吸収能を有する紫外線吸収剤が、その特性から好ましく用いられる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン類;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体等が挙げられる。
吸水層形成用組成物における、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、これらを用いて形成される吸水層が本発明の効果を損なわずにかつ各添加剤による機能を十分に発揮できる点から、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、それぞれの添加剤ごとに0.5〜5質量%が好ましく、0.5〜1質量%がより好ましい。
吸水層形成用組成物には、必要に応じて、さらに、成膜性を向上させる観点から、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等を添加することができる。
上記レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサン系表面調整剤、アクリル系共重合物表面調整剤、フッ素変性ポリマー系表面調整剤等が、消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、界面活性剤,ポリエーテル,高級アルコール等の有機系消泡剤等が、粘性調整剤としては、アクリルコポリマー、ポリカルボン酸アマイド、変性ウレア化合物等が挙げられる。各成分はそれぞれに、例示した化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、疎水性基、例えば、ポリフルオロアルキル基や炭素数6〜22の長鎖アルキル基を有する加水分解性シラン化合物等を吸水層形成用組成物に添加してもよい。吸水層形成用組成物中の各種成分の配合量は、それぞれの成分について、第1のポリエポキシド成分、第1の重付加型硬化剤および第1の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、0.001〜10質量%とすることができる。
<吸水層>
本発明の実施形態の防曇性ガラス物品における吸水層は、上記吸水層形成用組成物が含有する上記第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤が反応して得られる、3次元網目構造を有する第1の硬化エポキシ樹脂を主体として構成され、上記説明した第1の硬化エポキシ樹脂の性質により、防曇時間(T45)が40秒以上という高吸水性を有するとともに耐摩耗性、耐湿性等の耐久性とを併せ持つ層である。
なお、吸水層形成用組成物が第1の触媒型硬化剤を含有する場合は、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤の反応は、第1の触媒型硬化剤の存在下に行われる。上記反応の条件については、後述の製造方法において説明する。
また、任意に添加されるシランカップリング剤等の反応性添加剤は、この第1の硬化エポキシ樹脂の3次元網目構造の一部に結合する形で吸水層に存在し、さらに、それ以外に任意に添加される非反応性の添加剤は、上記第1の硬化エポキシ樹脂の3次元網目構造中に均一に分散・包含されて吸水層に存在するものである。
(下地層)
防曇性ガラス物品10Aにおいて、防曇膜41は、ガラス板11と吸水層41aとの間に飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層41bをさらに有する。該下地層は、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品に係る防曇膜においては任意に有する層である。
下地層の飽和吸水量は10mg/cm以下であり、吸水層より吸水性が低く設定される。下地層の飽和吸水量は8mg/cm以下がより好ましい。下地層の飽和吸水量を10mg/cm以下とすることにより、上記説明した通り、複層ガラスと防曇膜、実際には複層ガラスと下地層との接着界面において膨張・収縮の程度差が小さくなり、複層ガラスから防曇膜が剥離するのを防ぐことが可能となる。一方、防曇膜内で下地層と吸水層との膨張・収縮の程度差を小さくする観点から、下地層の飽和吸水量は、1mg/cm以上が好ましく、3mg/cm以上がより好ましい。
下地層の膜厚は、2μm以上であることが好ましく、より好ましくは3μm以上である。下地層の膜厚が2μm以上であれば、基体から防曇膜が剥離するのを防ぐことが可能となる。また、下地層の膜厚は、材料コスト低減と良品率向上の観点から、8μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。なお、防曇性ガラス物品において下地層に求められる耐剥離性は用途により異なるため、求められる性能に即して下地層の設計を適宜変更すればよい。
下地層は、上記のような吸水性能を有すれば特に制限されないが、上記吸水層との密着性を良好にする観点から、吸水層と同種の材料を主体とする層が好ましい。すなわち、下地層は、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤とを含む下地層形成用組成物を反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする層であることが好ましい。下地層が第2の硬化エポキシ樹脂を主体とするとは、上記吸水層と同様に下地層全体に占める第2の硬化エポキシ樹脂の割合が80質量%以上であることをいう。
以下、下地層を主として構成する第2のポリエポキシド成分と、第2の重付加型硬化剤とを反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂について説明する。
<第2のポリエポキシド成分>
第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分である第2のポリエポキシド成分としては、吸水性が上記好ましい範囲となるように、通常、硬化エポキシ樹脂の原料成分として用いられるグリシジルエーテル系ポリエポキシド、グリシジルエステル系ポリエポキシド、グリシジルアミン系ポリエポキシド等から適宜選択したポリエポキシドを用いることが可能である。
第2のポリエポキシド成分として用いるポリエポキシドについて、その分子量は特に制限されないが、これを含有する液状の組成物(塗布液)を基体上に塗布する際の塗布液の濡れ広がりの不足、塗膜の凹凸化などの外観不良回避の観点から、概ね200〜1000程度の分子量のポリエポキシドが好ましい。また、第2のポリエポキシド成分におけるポリエポキシドの1分子当たりのエポキシ基の数は、平均して2個以上であれば特に制限されないが、2〜10個であることが好ましく、2〜8個がより好ましく、2〜4個がさらに好ましい。
第2のポリエポキシド成分としては、脂肪族ポリエポキシド、脂環族ポリエポキシド、芳香族ポリエポキシドのいずれであってもよいが、例えば、芳香族ポリエポキシドを選択することにより、得られる硬化エポキシ樹脂の3次元網目構造を硬く、また空間を小さくすることで吸水性を低くすることが可能である。
上記第2のポリエポキシド成分として使用可能な芳香族ポリエポキシドとして、好ましくは、フェノール性水酸基がグリシジルオキシ基に置換した構造のポリエポキシドが挙げられる。具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビス(4−グリシジルオキシフェニル)等のビスフェノール型ジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック型ジグリシジルエーテル類、クレゾールノボラック型ジグリシジルエーテル類、フタル酸ジグリシジルエステル等の芳香族ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル類等が挙げられる。これらの芳香族ポリエポキシドのうちでは、第2のポリエポキシド成分として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテルが好ましく用いられる。
なお、脂環族ポリエポキシドにおいても、環構造の種類や数によるが環構造の存在により3次元網目構造の空間を小さくして、硬化エポキシ樹脂の吸水性を低くすることが可能である。脂環族ポリエポキシドは、環の隣接した炭素原子間に酸素原子が結合した脂環族炭化水素基(2,3−エポキシシクロヘキシル基等)を有するポリエポキシドであり、具体的には、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等が挙げられる。
また、環構造を有しない脂肪族ポリエポキシドであっても架橋点の数を多くすれば、得られる硬化エポキシ樹脂が緻密な3次元網目構造となり、保水のための空間が小さくなるため吸水性が低くなると考えられる。第2のポリエポキシド成分に用いる脂肪族ポリエポキシドとしては、脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドに分類される、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が好ましい。
第2のポリエポキシド成分において、得られる第2の硬化エポキシ樹脂の架橋点の数を多くして吸水性を低く制御するためには、例えば、第2のポリエポキシド成分が脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドである場合には、そのエポキシ当量は、100〜200であることが好ましく、100〜150であることがより好ましい。
第2のポリエポキシド成分はこれらのポリエポキシドの1種から構成されてもよく、2種以上から構成されてもよい。
なお、上記第2のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドについても、上記第1のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドと同様に市販品を用いることが可能である。このような市販品として、上記第1のポリエポキシド成分において記載した市販品以外に、これらより低分子量の脂肪族ポリエポキシドの市販品、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとして、jER828(商品名、三菱化学社製)、ビスフェノールFジグリシジルエーテルとして、アデカレジンEP4901(商品名、ADEKA社製)等が挙げられる。
<第2の重付加型硬化剤>
下地層を主として構成する第2の硬化エポキシ樹脂は、上記第2のポリエポキシド成分と、第2の重付加型硬化剤とを反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂である。
第2の重付加型硬化剤として使用可能な重付加型硬化剤の種類は、上記第1の重付加型硬化剤と同様である。すなわち、第2の重付加型硬化剤としては、活性水素を有するアミノ基を2個以上有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、2個以上のチオール基を有する化合物が好ましく、より好ましくは活性水素を有するアミノ基を2個以上有する化合物が用いられる。
第2の重付加型硬化剤としては、例えば、上記第1の重付加型硬化剤において、好ましい重付加型硬化剤として選択されていない、芳香環を有する重付加型硬化剤を選択することにより、得られる硬化エポキシ樹脂の吸水性を低くすることが可能である。下地層に求められる吸水性の程度によるが、上記第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤のうち少なくともどちらか一方に芳香環を有する化合物を用いれば、得られる第2の硬化エポキシ樹脂の吸水性を上記所望の範囲とすることができる。
また、第2のポリエポキシド成分として芳香環を有しないポリエポキシドを用い、さらに第2の重付加型硬化剤として芳香環を有しない重付加型硬化剤を用いた場合であっても、上記の通り架橋点が多くなるように組合せる等により、得られる第2の硬化エポキシ樹脂の吸水性を上記所望の範囲とすることができる。さらに、このようにして得られる芳香環を有しない第2の硬化エポキシ樹脂においては、芳香環を有する第2の硬化エポキシ樹脂に比べて耐候性の点で優れている。
上記芳香環を有しない重付加型硬化剤としては、上記第1の重付加型硬化剤において説明した芳香環を有しない重付加型硬化剤と同様な硬化剤を使用できる。また、芳香環を有する重付加型硬化剤としては、芳香環を有するポリアミン化合物、芳香族ポリカルボン酸無水物等が挙げられる。具体的な芳香環を有するポリアミン化合物としては、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、芳香族ポリカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
第2の重付加型硬化剤としては、これらの1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いる第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分である上記第2のポリエポキシド成分と上記第2の重付加型硬化剤の配合割合は、第2の重付加型硬化剤の反応性基がエポキシ基と1:1の割合で反応する基の場合には、第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が0.8〜1.5になる割合が好ましく、0.9〜1.2がより好ましい。エポキシ基と1:1で反応する反応性基を有する第2の重付加型硬化剤を用いる場合、第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が上記範囲であれば、反応温度を上げて重付加反応を加速することなしに室温にて十分に多くの架橋点で架橋して緻密な3次元網目構造を有する、上記第1の硬化エポキシ樹脂と比較して吸水性の低い第2の硬化エポキシ樹脂が得られる。
上記第2の重付加型硬化剤として活性水素を有するポリアミン化合物を用いる場合には、第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が0.8〜1.5になる割合となるように用いることが好ましく、0.9〜1.2になる割合となるように用いることがより好ましい。上記同様、エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が上記範囲であれば、反応温度を上げて重付加反応を加速することなしに十分に多くの架橋点で架橋して緻密な3次元網目構造を有する、上記第1の硬化エポキシ樹脂と比較して吸水性の低い第2の硬化エポキシ樹脂が得られる。なお、エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比は、下地層形成用組成物が含有する全固形分について算出した場合についても、上記と同様の範囲であることが好ましい。また、この場合のエポキシ基に対するアミン活性水素の当量比の算出方法については吸水層形成用組成物の場合と同様にできる。
また、第2のポリエポキシド成分に対する第2の重付加型硬化剤の質量割合が多くなりすぎると得られる第2の硬化エポキシ樹脂の物性が不十分となるおそれがあることから、第2のポリエポキシド成分100質量%に対する第2の重付加型硬化剤の割合は60質量%以下であることが好ましい。
なお、本発明に用いる第2の硬化エポキシ樹脂を、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤との重付加反応により得る際に、必要に応じて、該重付加反応を第2の触媒型硬化剤の存在下に行うことも可能である。第2の硬化エポキシ樹脂に、必要に応じて用いる第2の触媒型硬化剤は、上記第1の硬化エポキシ樹脂において説明した第1の触媒型硬化剤と同様な硬化剤を使用できる。第2の硬化エポキシ樹脂における第2の触媒型硬化剤の配合量についても、第1の硬化エポキシ樹脂における第1の触媒型硬化剤の配合量と同様にできる。
以下、第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地層を形成するために用いる下地層形成用組成物について説明する。
(下地層形成用組成物)
下地層形成用組成物は、上記第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の他に、通常、溶剤を含有する。また、必要に応じて、これら以外の反応性添加剤、非反応性添加剤を含有する。下地層形成用組成物が含有する上記第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤については、用いられる化合物および組合せる際の割合等、好ましい態様を含めて上記のとおりである。
ここで、下地層形成用組成物は上記吸水層形成用組成物と同様、溶剤を含む組成物として塗布面に塗布する前の組成物中で上記第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤を、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の存在下で、予めある程度反応させ、その後塗布面に塗布し、乾燥後、さらに反応させてもよい。予め反応させる際の条件は上記吸水層形成用組成物の場合と同様とできる。
上記下地層形成用組成物に用いる溶剤としては、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤、およびその他任意成分を含む配合成分についての溶解性が良好な溶剤であり、かつこれらの配合成分に対して不活性な溶剤であれば特に限定されず、具体的には、上記吸水層形成用組成物と同様の溶剤が挙げられる。溶剤の好ましい態様についても上記吸水層形成用組成物と同様である。
また、下地層形成用組成物における溶剤の量は、第2のポリエポキシド成分や第2の重付加型硬化剤、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤、およびその他任意に配合される各種配合成分における全固形分の合計質量100質量%に対して200〜950質量%であることが好ましく、400〜950質量%がより好ましい。
ここで、下地層形成用組成物における第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の配合量は、第2のポリエポキシド成分については組成物全量に対して4〜10質量%であることが好ましく、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤については、その合計量が組成物全量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
下地層形成用組成物が任意に含有する反応性添加剤としては、上記吸水層形成用組成物が任意に含有する反応性添加剤と同様の添加剤が挙げられる。反応性添加剤のうちでもカップリング剤は下地層形成用組成物において、下地層と基体との密着性および下地層と吸水層との密着性を向上させる目的で配合される成分であり、配合することが好ましい成分のひとつである。
下地層形成用組成物に任意に配合されるカップリング剤については、用いられる化合物および好ましい態様を含めて、上記吸水層形成用組成物に用いるカップリング剤と同様とすることができる。
また、下地層形成用組成物に配合されるカップリング剤の量については、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、カップリング剤の質量割合が5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
カップリング剤の配合量の上限は、カップリング剤の物性や機能によって制限される。上記第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地層の密着性向上の目的で使用する場合は、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の合計質量に対するカップリング剤の質量割合が、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下がより好ましい。
一方、カップリング剤によって、または、第2の重付加型硬化剤とカップリング剤によって第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地材料の吸水性等の物性を調整する場合は、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対するカップリング剤の質量割合は、40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。カップリング剤の使用量が過剰にならないようにすれば、高温に曝されたときに酸化等により第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地材料が着色するのを防ぐことができる。
なお、下地層形成用組成物全量に対するカップリング剤の配合量としては、例えば、シランカップリング剤を用いた場合には、0.1〜3.0質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%であることがより好ましい。
ここで、シランカップリング剤を含有する上記下地層形成用組成物における、特に好ましい組成について言えば、組成物全量に対して、第2のポリエポキシド成分を4〜10質量%、活性水素を有するポリアミン化合物を0.1〜4.0質量%、シランカップリング剤を0.1〜3.0質量%、および溶剤を70〜95質量%含む組成が挙げられる。
また、下地層形成用組成物がカップリング剤として、活性水素を有するアミノ基を有するカップリング剤やエポキシ基を有するカップリング剤を含有する場合には、上記エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比や、上記エポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤が有する反応性基(活性水素を有するアミノ基以外)が有する活性水素の当量比は、これらを含めて算出したものを用い、これが上記範囲となるように各成分の配合量を調整することが好ましい。
下地層形成用組成物は、さらに任意成分として、テトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマー(すなわち、その部分加水分解縮合物)を含有することが好ましい。テトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマー(以下、テトラアルコキシシラン化合物という)を配合することにより、下地層形成用組成物の粘度が低下し、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の存在下で行われる、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤との重付加反応による架橋を、均一に行うことが可能となる。また、基体および吸水層との反応点が増えて、密着性が一層向上する。これにより、得られる下地層の耐候性を高めることができる。
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシシラン等が挙げられる。これらのうちでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種が併用されてもよい。さらに上記テトラアルコキシシランは、その2〜3個程度が部分加水分解(共)縮合して得られるオリゴマーとして下地層形成用組成物に配合してもよく、テトラアルコキシシランとそのオリゴマーの混合物として下地層形成用組成物に配合してもよい。
下地層形成用組成物に配合されるテトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーの量については、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、酸化物換算で10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
下地層形成用組成物は、さらに任意成分として、得られる下地層の耐候性を高めるために酸化防止剤を含むことが、上記吸水層形成用組成物と同様の理由により好ましい。
下地層形成用組成物に任意に配合される酸化防止剤については、用いられる化合物および好ましい態様を含めて、上記吸水層形成用組成物に用いる酸化防止剤と同様とすることができる。
また、下地層形成用組成物に配合される酸化防止剤の量については、第2のポリエポキシド成分、第2の重付加型硬化剤および必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の合計質量100質量%に対して、0.5〜3質量%であることが好ましく、0.5〜1質量%がより好ましい。
また、下地層形成用組成物についても、必要に応じて、さらに、上記吸水層形成用組成物が含有するのと同様の、フィラー、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の任意成分を同様の量添加することができる。
このような下地層形成用組成物を用いて下地層を形成すれば、該組成物が含有する上記第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤が、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤の存在下に、反応して得られる、3次元網目構造を有する第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層が得られる。なお、上記反応の条件については、後述の製造方法において説明する。
また、任意に添加されるシランカップリング剤等の反応性添加剤は、この第2の硬化エポキシ樹脂の3次元網目構造の一部に結合する形で下地層に存在し、さらに、それ以外に任意に添加される非反応性の添加剤は、上記第2の硬化エポキシ樹脂の3次元網目構造中に均一に分散・包含されて下地層に存在するものである。
以上、本発明において複層ガラスと吸水層の間に任意に設けられる下地層について、第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする場合を例に説明したが、下地層は、飽和吸水量が10mg/cm以下であればよく、これに限定されるものではない。
(防曇膜)
防曇性ガラス物品10Aにおいて防曇膜41は、複層ガラス20Aの一方の主面11a上に形成されている。上に説明したとおり、防曇性ガラス物品10Aは、例えば、保冷ショーケースのドアに用いられる場合、防曇性ガラス物品10Aは、防曇膜41が庫内側に位置するように配設される。庫内側に配された防曇膜41は、防曇時間(T45)が40秒以上と高い防曇性を有する吸水層を備えることから、保冷ショーケースのドアの開閉時における曇りの発生を有効に抑制することができる。
防曇膜41は吸水層41aの有する高吸水性により、その防曇時間(T45)は40秒以上である。本発明の実施形態の防曇性ガラス物品における防曇膜の防曇時間(T45)は、50秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましい。なお、防曇性ガラス物品の求められる防曇性能は用途により異なるため、求められる性能に即して防曇膜の設計を適宜変更すればよい。
なお、防曇加工を行っていないソーダライムガラスは、通常、上記試験で概ね0〜1秒で曇りを生じる。
<防曇膜の形成方法>
防曇膜41は、複層ガラス20Aを組み立てた後に、ガラス板11の主面11a上に形成されてもよいが、通常、複層ガラス20Aを組み立てる前にガラス板11の主面11a上に形成される。防曇膜41は、具体的には以下の(1)または(2)の方法で形成できる。なお、以下の方法は下地層41bおよび吸水層41aを有する防曇膜41の製造方法であるが、吸水層のみからなる防曇膜の場合は、以下の方法から下地層の形成を行わない以外は同様にして、防曇膜の被形成面上に直接吸水層を形成させればよい。
以下の説明において、防曇膜を形成するガラス板を基体ともいう。ガラス板(基体)の防曇膜が形成される主面を被形成面ともいう。
(1)基体の被形成面に下地層形成用組成物を塗布、反応させて下地層を形成し、ついで、下地層表面に吸水層形成用組成物を塗布、反応させて吸水層を形成させて防曇膜を得る方法。
(2)吸水層形成用組成物を反応させて吸水層を得る際にフィルム状に成形し、基体の被形成面と該フィルム(吸水層)とを、下地層形成用組成物を接着剤として用いて、両者の間に接着層である下地層を形成することで結合させて、該被形成面側から下地層と吸水層が積層された防曇膜を得る方法。
なお、(2)の方法においては、フィルム状の吸水層を離型性のある支持体上に形成し、これを支持体から離して、基体の被形成面に下地層形成用組成物を接着剤として用いて貼り合わせることも可能であるが、フィルム状の吸水材料(吸水層)をこの支持体とともに基体の被形成面に下地層形成用組成物を接着剤として用いて貼り付ける方法が好ましい。用いる支持体としては、本発明の効果を損ねないものであれば特に制限されないが、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂のフィルム等が好ましく用いられる。
本発明においてはこれらの防曇膜の形成方法のなかでも、大面積の被形成面に下地層や吸水層を設ける場合や工業的量産の際に良好な外観を維持できることから(1)の方法がより好ましい。また、下地層形成用組成物は、第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地層を形成させるための、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤とを含む下地層形成用組成物を用いることが好ましい。以下、このような下地層形成用組成物を用いた上記(1)の方法による防曇膜の形成方法について説明する。
防曇膜は、例えば、(A)第2のポリエポキシド成分と、第2の重付加型硬化剤とを含む下地層形成用組成物を基体の被形成面に塗布し反応させることにより第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地層を形成する工程と、(B)前記下地層の表面に、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上のポリエポキシド(A)をポリエポキシド成分全量に対して90質量%以上含有する第1のポリエポキシド成分と、第1の重付加型硬化剤を含む吸水層形成用組成物を塗布し反応させることにより第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層を形成する工程と、を有する方法で形成できる。
下地層形成用組成物および吸水層形成用組成物がそれぞれ含有する成分については上述の通りであり、これら成分を通常の方法でそれぞれ混合することで上記2種の組成物が得られる。
上記工程(A)において、基体の被形成面上に下地層を形成するために、上記で得られた下地層形成用組成物を基体の被形成面に塗布する方法としては、特に限定されないが、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法、ダイコート法、ワイプ法等の公知の方法が挙げられる。下地層形成用組成物の塗布厚は、該組成物中の反応成分が反応して最終的に得られる下地層の厚さが上記範囲となるような厚さとする。
基体上に下地層形成用組成物を塗布した後は、必要に応じて乾燥により溶剤を除去し、用いる反応成分に合わせた条件で硬化処理を行い第2の硬化エポキシ樹脂を主体とする下地層とする。乾燥により溶剤を除去する条件として、具体的には、50〜90℃、5〜15分間が挙げられる。また、下地層形成用組成物における反応成分、すなわち、上記第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤との、必要に応じて配合される第2の触媒型硬化剤存在下での反応条件として、具体的には、70〜150℃、1〜60分間程度の熱処理が挙げられる。また、UV硬化性の光硬化性樹脂を用いた場合には、UV硬化装置等で100〜500mJ/cmのUV照射を1〜5秒間行う等の処理が挙げられる。
上記工程(A)により基体の被形成面上に形成された下地層の表面に、工程(B)において吸水層形成用組成物を塗布する方法としては、上記下地層形成用組成物の塗布方法と同様とできる。吸水層形成用組成物の塗布厚は、該組成物中の反応成分が反応して最終的に得られる吸水層の厚さが上記範囲となるような厚さとする。
下地層上に吸水層形成用組成物を塗布した後は、必要に応じて乾燥により溶剤を除去し、用いる反応成分に合わせた条件で硬化処理を行い第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする吸水層とする。乾燥により溶剤を除去する条件として、具体的には、50〜90℃、5〜15分間が挙げられる。また、吸水層形成用組成物における反応成分、すなわち、上記第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤との、必要に応じて配合される第1の触媒型硬化剤存在下での反応条件として、具体的には、50〜120℃、10〜60分間程度の熱処理が挙げられる。また、UV硬化性の光硬化性樹脂を用いた場合には、UV硬化装置等で50〜1000mJ/cmのUV照射を5〜10秒間行う等の処理が挙げられる。
このようにして上記工程(A)、工程(B)を経ることで、基体の被形成面上に上記防曇膜が形成される。
以上、図1に示す、複層ガラス20Aの一方の主面11a上に防曇膜41を有する防曇性ガラス物品10Aについて説明した。本発明の実施形態の防曇性ガラス物品は、また、複層ガラスの両方の主面上に上記所定の防曇性能を有する吸水層を有する防曇膜を備えるものであってもよい。このような、複層ガラスの両方の主面上に上記所定の防曇膜を備える防曇性ガラス物品の一例について、その断面図を図3に示す。
図3に示す防曇性ガラス物品10Bは、複層ガラス20Bの両方の主面11a、13a上に防曇膜41、42を有する。複層ガラス20Bは、その順に対向配置された3枚のガラス板11、12、13を有するとともに、ガラス板11とガラス板12の周縁部を封着するように配されたスペーサ21およびガラス板12とガラス板13の周縁部を封着するように配されたスペーサ22を有する。複層ガラス20Bは、対向配置されたガラス板11とガラス板12の間、およびガラス板12とガラス板13の間にそれぞれ中間層31および中間層32を有する。
防曇性ガラス物品10Bが有する複層ガラス20Bは、防曇性ガラス物品10Aが有する複層ガラス20Aが2枚のガラス板11、12をスペーサ21により隔置させているのに対して、3枚のガラス板11、12、13をスペーサ21、22によりそれぞれ隔置されている点が異なるが、各構成要素については同様にできる。
具体的には、複層ガラス20Bにおける3枚のガラス板11、12、13は、それぞれ複層ガラス20Aにおけるガラス板と同様にできる。3枚のガラス板は厚み、材質等は同じであっても異なってもよい。複層ガラス20Bにおけるスペーサ21、22は、それぞれ複層ガラス20Aにおけるスペーサと同様にできる。スペーサ21およびスペーサ22厚み、材質等は同じであっても異なってもよい。
スペーサ21とガラス板11、12で囲まれた密閉空間としての中間層31、およびスペーサ22とガラス板12、13で囲まれた密閉空間としての中間層32について、封入されるガスについても複層ガラス20Aの場合と同様にできる。
ガラス板やスペーサの厚さ、中間層に封入されるガスの種類等にもよるが、通常、複層ガラス20Bのような3枚のガラス板による複層ガラスの方が複層ガラス20Aのような2枚のガラス板による複層ガラスに比べて高い断熱性が期待できる。
複層ガラス20Bにおいて、その2つの主面は、中間層31、32に接していない主面11a、主面13aに相当する。
複層ガラス20Bは、複層ガラス20Aと同様に、通常の方法で作製可能である。複層ガラス20Bのガラス板11、13のそれぞれ中間層31、32に面していない側の主面11a、13a上に配設される防曇膜41、42は、複層ガラス20Bを組み立てた後に、ガラス板11、13の主面11a、13a上にそれぞれ形成されてもよいが、通常、複層ガラス20Bを組み立てる前にガラス板11の主面11a上、ガラス板13の主面13a上に形成される。
防曇性ガラス物品10Bを、例えば、保冷ショーケースのドアに用いる場合、庫内側の防曇膜41は上記同様にドアの開閉時に防曇機能を発揮する。一方、庫外側の防曇膜42は、ドアが閉められ庫内が十分に保冷された状態で庫外の温度が上昇した際の庫外側の曇りの発生を抑制するように機能する。
防曇性ガラス物品10Bが、複層ガラス20Bの両主面上に有する防曇膜41、42は、防曇性ガラス物品10Aにおける防曇膜41と同様にできる。なお、上記と同様、防曇膜41、42は、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とする防曇時間(T45)が40秒以上である吸水層の単独で構成されてもよく、複層ガラス20Bの主面側から飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層と上記吸水層がその順に積層された構成であってもよい。
複層ガラス20Bの両主面上に配設される防曇膜41、42は、上記特性が維持される限り同一であっても、異なってもよい。
以上、図1〜図3に示す防曇性ガラス物品10A、10Bを例にして本発明の実施の形態を説明したが、本発明の防曇性ガラス物品はこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
例えば、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品における防曇膜は、基体上に形成された吸水層の上または下にさらに、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、各種機能膜を有してもよい。このような機能膜として、具体的には、防曇膜に耐汚染性を付与する防汚層、紫外線遮蔽層、赤外線吸収層等が挙げられる。
さらに、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品における複層ガラスを構成するガラス板は、中間層に面する側の主面に、紫外線遮蔽層、赤外線吸収層等の機能層を有してもよい。例えば、図1に示す防曇性ガラス物品10Aや図3に示す防曇性ガラス物品10Bにおける、ガラス板11の中間層に面する側の主面11bや、ガラス板13の中間層に面する側の主面13b等に、Ag等を誘電膜で挟持した構成を有するLow−E膜等を配設してもよい。また、本発明の実施形態の防曇性ガラス物品が、複層ガラスの一方の主面にのみ防曇膜を有する場合は、他方の主面に紫外線遮蔽層、赤外線吸収層等の機能層を有する構成としてもよい。
本発明の実施形態の防曇性ガラス物品は、保冷ショーケースのドア用として好適に用いられる。その他の用途としては、建築物の窓、洗面化粧台用鏡、車両用窓等が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例1〜15が実施例であり、例16〜21が比較例である。
実施例、比較例に用いた化合物の略号と物性について以下にまとめた。なお、デナコールはナガセケムテックス社の商品名である。
(1)ポリエポキシド
ポリエポキシド(A)
EX1610:デナコールEX−1610(脂肪族ポリグリシジルエーテル;塩素含有量;0.5質量%、水溶率;100%、Mw:1130、エポキシ当量:170)
ポリエポキシド(B)
EX521:デナコールEX−521(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル;塩素含有量;6.4質量%、水溶率;100%、Mw:1294、エポキシ当量:179)
jER828(商品名、三菱化学社製、ビスフェノールAジグリシジルエーテル;塩素含有量;0.1質量%、水溶率;不溶、Mw:340、エポキシ当量:190)
(2)重付加型硬化剤
T403:ジェファーミンT403(商品名、ハンツマン社製、Mw:390、アミン活性水素当量:78)、ポリオキシアルキレントリアミン
(3)触媒型硬化剤
2MZ:2−メチルイミダゾール(四国化成社製)
(4)各種添加剤
KBM903(商品名、信越化学工業社製):3−アミノプロピルトリメトキシシラン
BYK307(商品名、ビックケミー社製):ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン
[例1〜21]
ソーダライムガラス基板上に、以下の方法で下地層形成用組成物を調製して下地層を形成しその上に吸水層形成用組成物を調製して吸水層を形成して、防曇膜付きガラス板を製造した。この防曇膜付きガラス板をサンプルとしてガラス基板上の防曇膜を評価した。防曇膜付きガラス板における防曇膜の性能は、ガラス板が複層ガラスに変わっても同様といえる。
<下地層形成用組成物>
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、1−メトキシ−2−プロパノール(6.00g、大伸化学社製)、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(5.51g、jER828)、ポリオキシアルキレントリアミン(1.59g、ジェファーミンT403、)、アミノシラン(0.78g、KBM903)を入れ、35℃にて120分間撹拌した。次いで、1−メトキシ−2−プロパノール(66.14g、大伸化学社製)を加え、下地層形成用組成物P−1を得た。
<吸水層形成用組成物の調製>
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、メチルエチルケトンの4.71g(大伸化学社製)に、各例において表1〜3に示す仕込み量で脂肪族ポリグリシジルエーテル(デナコールEX−1610)、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル(デナコールEX−521)を入れ溶解させ、次いで、ポリオキシアルキレントリアミン(ジェファーミンT403)、アミノシラン(KBM903)、2−メチルイミダゾールを撹拌しながら添加し、35℃にて120分間撹拌した。次いで、メチルエチルケトンの4.28g(大伸化学社製)、レベリング剤(0.01g、BYK307、ビックケミー社製)を撹拌しながら添加し、吸水層形成用組成物を得た。
<防曇膜付きガラス板の製造>
上記で得られた吸水層形成用組成物で得られた各種組成物を用いて、以下のようにソーダライムガラス基板に防曇膜を形成し、各例における防曇試験用サンプルとして、防曇膜付きガラス板を製造した。なお、各例において、下地層は全て下地層形成用組成物P−1を用いて同一の条件で製造した。
基体として、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(水接触角3度、100mm×100mm×厚さ4mm)を用い、該ガラス基板の表面に、上記で得られた下地層形成用組成物P−1をスピンコート(条件100rpm30秒)によって塗布して、100℃の電気炉で30分間保持し、下地層を形成した。下地層は厚み3.5μmであり、飽和吸水量は、3.2mg/cmであった。この値は、全ての例で共通である。
次いで、形成した下地層表面に、上記各例で得られた吸水層形成用組成物をスピンコート(条件50rpm30秒)によって塗布して、100℃の電気炉で30分間保持して、吸水層を形成し、2層からなる防曇膜を有する防曇膜付きガラス板を得た。
各例における防曇膜付きガラス板の評価は以下のように行った。結果を、各例に用いた吸水層形成用組成物における成分組成とともに表1〜表3に示す。
[膜厚の測定]
防曇膜付きガラス板の断面像を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S4300)で撮影し、下地層および吸水層の各層膜厚を測定した。
[防曇性の評価]
防曇膜について45℃蒸気試験における防曇時間(T45)を上記の方法で測定した。本発明においては、防曇膜の防曇時間(T45)は40秒以上であり、50秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましいものとする。ここで、防曇膜の防曇時間(T45)は吸水層の防曇時間(T45)に相当する。
[保冷ショーケース用ドアとしての評価(RID評価)]
防曇性ガラス物品を保冷ショーケース用ドアとして使用する場合の評価を以下のようにして行った。
各例で得られた防曇膜付きガラス板を防曇膜が庫内側になるようにリーチインドアの庫内側に粘着両面テープを用いて貼りつけた後、ドアを閉めて−25℃に冷却し、1時間放置した。その後、防曇膜付きガラス板の防曇膜表面が−15℃に冷却されたのを確認した後、リーチインドアを開放し、曇るまでの時間を測定した。外部環境条件は25℃、75%RHである。リーチインドアの防曇性としては、上記試験における曇るまでの時間が30秒以上必要であり、好ましくは60秒以上必要である。各例の評価においては、は60秒以上曇らなかった場合を「曇りなし」と評価した。
[初期黄変性の評価]
各例で得られた防曇膜付きガラス板の防曇膜における、黄色味の指標であるYI値を日本電色工業(株)製Spectrophotometer SD6000を用いて測定した。YI値が大きいほど、黄色味が強いことを示している。なお、 通常の、防曇加工を行っていないソーダライムガラスのYI(C光源2度)は、−0.46である。
[耐摩耗性の評価]
ケイエヌテー社製往復式トラバース試験機(摩耗子:フェルト)を用いて、各例で得られた防曇膜付きガラス板の防曇膜表面を4.0N荷重で50回往復摩耗し、摩耗試験前後における曇価変化ΔH(%)を測定した。ΔHは、0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましいものとする。
Figure 2016017013
Figure 2016017013
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本発明の防曇性ガラス物品は、保冷ショーケース等の高い防曇性が要求される用途に好適な、高い防曇性能を有する。保冷ショーケースのドア等に好適であり、さらに自動車等の輸送機器の窓用や家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用として有用である。
10A,10B…防曇性ガラス物品、11,12,13…ガラス板、21,22…スペーサ、31,32…中間層、41,42…防曇膜、41a…吸水層、41b…下地層

Claims (7)

  1. 対向配置した複数枚のガラス板をその周縁部にスペーサを介して封止し対向するガラス板間に中間層を形成した複層ガラスと、
    前記複層ガラスの少なくとも一方の主面上に配設された、第1の硬化エポキシ樹脂を主体とし、下記方法で測定される45℃蒸気試験における防曇時間(T45)が40秒以上である吸水層を有する防曇膜と、
    を有する防曇性ガラス物品。
    (防曇時間(T45)の測定方法)
    ソーダライムガラス基体の一方の主面に検体となる吸水層を設け、23℃、50%RHの環境下に1時間放置する。次いで、該吸水層の表面における70mm×70mmの方形の領域を45℃の温水浴上に翳し、翳し始めてから目視において曇りが認められるまでの防曇時間(T[秒])を測定する。
  2. 前記吸水層は、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を含む吸水層形成用組成物を反応させて得られる層であり、前記第1のポリエポキシド成分は、塩素含有量が2質量%以下、かつ水溶率が90%以上のポリエポキシド(A)をポリエポキシド成分全量に対して90質量%以上含有する請求項1に記載の防曇性ガラス物品。
  3. 前記第1の重付加型硬化剤が、アミン活性水素を有するポリアミン化合物を含有する、請求項2に記載の防曇性ガラス物品。
  4. 前記第1のポリエポキシド成分が有するエポキシ基に対する前記第1の重付加型硬化剤が有するアミン活性水素の当量比が0.6〜2.0である、請求項3に記載の防曇性ガラス物品。
  5. 前記防曇膜が、前記吸水層と前記複層ガラスとの間にさらに、飽和吸水量が10mg/cm以下の下地層を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の防曇性ガラス物品。
  6. 前記下地層が、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤とを含む下地層形成用組成物を反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂を主体としてなる請求項5に記載の防曇性ガラス物品。
  7. 前記防曇ガラス物品は保冷ショーケースドア用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の防曇性ガラス物品。
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