JP2015221933A - 金型用鋼及び金型 - Google Patents
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Abstract
Description
高温強度の求められる金型用の材料として、従来、熱間金型用工具鋼の代表鋼種であるJIS SKD61,或いはSUS420J2やマルエージング鋼等が広く用いられている。
但しそのようにすると、冷却回路と成形面との間の距離が短くなることにより、また発生する熱応力が大きくなることにより金型が水冷孔割れ(水冷孔から成形面にまで到る貫通した割れ)を生じ易くなり、型寿命が短寿命化する原因となる。
従って冷却回路を成形面に近づけるにしても、そこには自ずと限界がある。
金型の熱伝導率が高ければ、同一の冷却回路,冷却条件の下でも金型の温度低下を加速することができ、冷却効率を高めることが可能である。
熱伝導率の高さは、金型における熱応力の低減による疲労亀裂(いわゆるヒートチェック)の抑制や速やかな温度低下により焼付きを軽減する等のためにも必要である。
但し従来の金型の製造方法は、一般に鋼を溶製してインゴットを造り、その後鍛造や圧延を施してブロックや平角材を造り、それを機械加工で削って金型の形状とし、その後に焼入れ,焼戻し等の熱処理を施して金型を製造するものであり、そのような製造方法の下で、金型内部で縦横無尽に複雑に曲りくねった形状の冷却回路を加工形成するといったことは現実には困難である。
積層造形法は、3次元モデルデータを材料の付着によって実体化する加工法で、この積層造形法では、先ず3次元CADデータで表現される形状を、予め定められた軸に直交する多数の面でスライスして生じる薄片の断面形状を計算して、その薄片を実際に作製及びこれを積み重ね、貼り合せることで計算機表現された形状を実体化する。
粉末を用いる方法では、粉末を層状(一層の厚みは例えば数十μm)に敷き均し、ある領域に熱エネルギー照射、例えばレーザービームや電子ビーム照射して粉末層を溶融凝固或いは焼結させ、そしてこれを一層一層積み重ねて行くことで全体の形状を造形する。
例えばこの種積層造形法にて金型を製造する例が、下記特許文献1,特許文献2に開示されている。
また当然に、積層造形によらず、従来一般の製造方法で金型を製造した場合には、冷却(熱交換)の効率は更に不十分となる。
しかしながらこれらの鋼は高温強度が低く、金型となったときの寿命が短い問題がある。
即ち、積層造形法にて金型を造形する、しないに拘らず、金型となったときに高温強度及び熱伝導性能ともに十分な性能を実現することのできる金型用鋼は従来提供されていなかった。
-0.05814×[Cr]+0.4326<Mn<-0.2907×[Cr]+2.4628・・式(1)
(但し式(1)中[Cr]はCrの含有質量%を表す)
0.72<Mo<1.60,0.20<V<0.61,残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
詳しくは、本発明では金型用鋼を粉末若しくは板状となしておき、これら材料を用いて積層造形法で金型を造形することができる。
積層造形法、特に粉末を用いた積層造形法では、粉末を敷き並べた層に熱エネルギーを加えて粉末を固める際に、これを溶融凝固又は焼結させる。
その際に粉末は溶融状態等の高温状態から急速冷却され、焼入れが自動的に行われる。その際の焼入れは速い冷却速度の下で急速に行われる。即ち焼入れが粉末の積層成形過程で逐次的に同時に行われて行く。
但し本発明の金型用鋼は、積層造形用の材料として好適に用い得るものであるが、鋼の塊から機械加工による切削にて金型形状を造形し金型製造を行う場合の材料としても使用可能である。このときには含有元素に応じて焼入れ等の熱処理条件を定めれば良い。
尚各化学成分の値は何れも質量%である。
1)<請求項1の化学成分について>
0.15<C<0.43
0.15<Cであることによって、溶製材から切削加工による造形で製造した金型を熱処理すると、金型に必要な硬さ30〜57HRCを得ることができる。また、積層造形で製造したままの金型においても30〜57HRCが得られる。更に積層造形後の金型を熱処理した場合においても30〜57HRCが得られる。これら何れの製法においても、C≦0.15では硬さが不足する。一方0.43≦Cでは熱伝導率が低下する。
Si≦0.20では被削性の劣化が著しい。また、Si≦0.20では硬さ(すなわち強度)の確保が困難である。一方0.52≦Siでは熱伝導率の低下が著しい。特に好ましい範囲は0.28<Si<0.52である。
Cr≦5.32では耐食性が不足する。更に、Cr≦5.32では、溶製材からの切削加工による造形で製造した金型を焼入れる場合の、あるいは積層造形で製造した金型を焼入れる場合の焼入性が不足する。一方5.72≦Crでは熱伝導率が低下する。
Mn≦-0.05814×[Cr]+0.4326では焼入性が不足する。焼入性の不足は、特にCrが低い場合に著しい。-0.2907×[Cr]+2.4628≦Mnでは熱伝導率が低下する。熱伝導率の低下は特にCrが高い場合に著しい。Mn量の下限に関しては、特に好ましい範囲は0.19<Mnである。
0.32C-0.50Si-1.25Mo-0.58Vを基本成分とする鋼のCrとMnを変化させた場合の熱伝導率を調査した。これらの鋼のブロックを溶製によって製造し、そこから切り出したφ11mm×100mmの円柱を1030℃から20℃/minの冷却速度で焼入れ、550〜620℃での焼戻しによって43HRCに調整した。調質された円柱からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用の試験片を作成した。熱伝導率の測定はレーザーフラッシュ法により、25℃において測定した。そして、熱伝導率が24.0W/m/K未満を×、24.0W/m/K以上を○、として熱伝導率を評価した。
衝撃値は25℃において測定した。そして、衝撃値が20J/cm2未満を×、20J/cm2以上を○、として評価を行った。
Mo≦0.72では、焼戻した際の2次硬化による硬さ確保が難しく、高温強度も不十分となる。一方1.60≦Moでは破壊靭性値の低下が大きい。好ましい範囲は0.72<Mo<1.51である。更に好ましい範囲は1.10<Mo<1.51である。
V≦0.20では、焼入れがある場合のオーステナイト結晶粒の粗大化が問題となる。また、V≦0.20では焼戻した際の2次硬化による硬さ確保が難しく、高温強度も不十分となる。
一方0.61≦Vでは上記の効果が飽和傾向であるうえ、コスト上昇を招く。また、0.61≦Vでは、通常の製法(溶解→精錬→鋳造→熱間加工)で製造した場合に、凝固時に晶出する粗大なVCが多くなり、金型となった場合の破壊の起点となる恐れが増す。特に好ましい範囲は、0.32<V<0.61である。
N≦0.05
P≦0.05
S≦0.003
Cu≦0.30
Ni≦0.30
Al≦0.10
W≦0.10
O≦0.01
Co≦0.10
Nb≦0.004
Ta≦0.004
Ti≦0.004
Zr≦0.004
B≦0.0001
Ca≦0.0005
Se≦0.03
Te≦0.005
Bi≦0.01
Pb≦0.03
Mg≦0.02
本発明鋼は、積層造形後に焼入れを受ける場合がある。焼入れ時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制するため
0.10<Al<1.20
を含有させることが出来る。
AlはNと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒界の移動(すなわち粒成長)を抑制する効果を有する。
また、Alは鋼中で窒化物を形成して析出強化に寄与するため、窒化処理された鋼材の表面硬さを高くする作用も有する。より高い耐摩耗性を求めて窒化処理をする金型(金型の一部を構成している部品も含む)には、Alを含む鋼材を使う事が有効である。
近年、金型部品の大型化や一体化によって、金型のサイズは大きくなる傾向にある。大きな金型は冷却され難い。このため、焼入れ性が低い鋼材の大きな金型を焼入れると、焼入れ中にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出して各種特性が劣化する。そのような懸念に対しては、Cu-Niを選択的に添加して焼入れ性を高めて対応すればよい。具体的には、
0.30<Ni≦3.5
0.30<Cu≦1.5
の少なくとも1種を含有させれば良い。
NiにはAlと結合して金属間化合物を析出し、硬度を高める効果もある。Cuには、時効析出で硬度を高める効果もある。好適な範囲は、
0.50≦Ni≦3.0
0.50≦Cu≦1.2
である。いずれの元素も、所定量を越えると偏析が顕著となり,鏡面研磨性の低下を招く。
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には必要に応じて
0.0001<B≦0.0050
を含有させる。
なお、BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、Nb,Ta,Ti,Zrなどがある。これらの元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては後述する請求項6の範囲で添加すると良い場合がある。
本発明鋼はSi量が少ないため、機械加工性がやや悪い。加工性の改善策として、以下のS,Ca,Se,Te,Bi,Pbを選択的に添加すれば良い。具体的には、
0.003<S≦0.250
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb,Ta,Ti,Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
高強度化にはC増量が有効であるが、過度のC増量は炭化物の増加による特性(衝撃値や機械疲労特性)の劣化を招く。このような不具合を招くことなく高強度化するには、WやCoを選択的に添加すればよい。
Wは、炭化物の微細析出によって強度を上げる。Coは、母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。好適な範囲は、
0.30≦W≦3.00
0.30≦Co≦2.00
である。
表1に示す化学組成の34種の鋼の粉末をガスアトマイズ法にて製造し、この粉末を用いてレーザー照射による3次元積層造形法で図2に示すダイカスト金型10の一部である部分型としてのスプールコア12を製造した。このスプールコア12には冷却回路14が内部に形成されている。ここで冷却回路14は螺旋状の3次元的に複雑な形状をなしている。
尚、表1中の各発明例には不可避量の不純物成分が含まれることがあるが、表中には記載していない。
上記スプールコア12は、プランジャ26とともに鋳造品の最終凝固位置である円筒状のビスケット部28を挟む位置に配置されている。湯道22は、このビスケット部28から延び出している。
スプールコア12には溝が形成されており、この溝にて湯道22の一部が形成されている。
その後、機械加工で最終の金型形状に仕上げた。金型は、135tonダイカストマシンのスプールコア12である。金型構造に占めるスプールコア12の位置が図2に示してある。ここで図2はダイカストの金型構造を横から見た断面図である。
まず、可動型18が固定型16に接触して型締め状態となる。この時、製品の成形空間としてのキャビティ20が形成される。その状態でスリーブ30にラドルでアルミニウム合金(以下アルミ合金とする)の溶湯を注ぎ、その溶湯を高速で移動するプランジャ26で射出する。
射出された溶湯は湯道22を通って移動し、湯口24から液状・粒状・霧状になってキャビティ20内へ流入する。水鉄砲や霧吹きをイメージすれば理解し易い。やがて、溶湯でキャビティ20が充填される。そして、キャビティ20を満たした溶湯に圧力をかけて固化するまで待つ。
ビスケット部28の形状はφ50×40mm、スプールコア12の冷却回路14の水冷孔と表面との距離は15mmである。溶湯は730℃のADC12で、鋳造品の質量は660gである。また、10000ショット鋳造後のスプールコア12に顕著な摩耗が認められるかどうかも評価した。高温強度が不足すると、湯流れによる摩耗が顕著となり、金型寿命が確保できない。
比較例1〜比較例3のダイタイマーは12〜14[秒]と長い。これは、熱伝導率が24.0[W/m/K]未満と低く、熱交換が行われ難いためである。
その一方で、10000ショット鋳造後のスプールコア12には顕著な摩耗は無かった。これは充分な高温強度を有するためである。
ダイタイマーは表2の発明例と同等まで短縮された。水冷孔を表面に近接させる金型構造は、ダイタイマーの短縮に極めて有効である。
熱伝導率と高温強度の高さを両立した本発明鋼は、ダイカストの金型以外にも樹脂の射出成形の金型用としても好適である。また、鋼板のホットプレス(ホットスタンプやダイクエンチとも呼ばれる)の金型等としても高い性能を発揮する。その際、積層造形ではなく、通常の機械加工と熱処理によって本発明鋼を金型製造に適用しても、同様の製法で作られた同一形状の従来鋼の金型より、型寿命確保とサイクル短縮に有効である。
さらに、本発明鋼による金型を表面改質(ショットブラスト,サンドブラスト,窒化,PVD,CVD,メッキ,など)と組合せることも有効である。
また、本発明鋼は、棒材や線材の状態の溶接材として使用することもできる。具体的には、本発明にかかる金型用鋼の溶接材を用い、積層造形法により製造した金型に、あるいはインゴットを加工して得た材料に対し機械加工による切削にて製造した金型に、溶接補修することも可能である。この場合、補修される金型の化学成分は、本発明鋼の範囲とは異なっても良いし、本発明鋼の範囲内であっても良い。いずれにせよ、本発明鋼の溶接材で補修された部分は、本発明鋼の成分で発揮される高い高温強度と高い熱伝導率を有する。
その他本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
12 スプールコア
14 冷却回路
Claims (11)
- 質量%で
0.15<C<0.43
0.20<Si<0.52
5.32<Cr<5.72
-0.05814×[Cr]+0.4326<Mn<-0.2907×[Cr]+2.4628・・式(1)
(但し式(1)中[Cr]はCrの含有質量%を表す)
0.72<Mo<1.60
0.20<V<0.61
残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする金型用鋼。 - 質量%で
0.10<Al<1.20
を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の金型用鋼。 - 質量%で
0.30<Ni≦3.5
0.30<Cu≦1.5
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする請求項1,2の何れかに記載の金型用鋼。 - 質量%で
0.0001<B≦0.0050
を更に含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の金型用鋼。 - 質量%で
0.003<S≦0.250
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金型用鋼。 - 質量%で
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の金型用鋼。 - 質量%で
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の金型用鋼。 - レーザーフラッシュ法によって評価した25℃における熱伝導率が24.0W/m/K以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の金型用鋼。
- 積層造形法によって金型を造形するための材料として用いられることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の金型用鋼。
- 前記材料が粉末若しくは板であることを特徴とする請求項9に記載の金型用鋼。
- 請求項9,10の何れかに記載の材料を用いた積層造形法により製造して成る金型。
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