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JP2015203141A - Cu−Co−Si合金及びその製造方法 - Google Patents

Cu−Co−Si合金及びその製造方法 Download PDF

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JP2015203141A JP2014083389A JP2014083389A JP2015203141A JP 2015203141 A JP2015203141 A JP 2015203141A JP 2014083389 A JP2014083389 A JP 2014083389A JP 2014083389 A JP2014083389 A JP 2014083389A JP 2015203141 A JP2015203141 A JP 2015203141A
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啓 三枝
Kei Saegusa
啓 三枝
貴之 見持
Takayuki Kenmochi
貴之 見持
伊藤 武文
Takefumi Ito
武文 伊藤
由実子 岩下
Yumiko Iwashita
由実子 岩下
勇士 吉田
Yushi Yoshida
勇士 吉田
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Abstract

【課題】良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有する銅合金を提供する。具体的には、引張強さが700N/mm2以上であり、導電率が60%IACS以上であり、且つJIS Z2248に規定される180?曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0であるCu−Co−Si合金を提供する。【解決手段】本発明のCu−Co−Si合金は、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する。また、本発明のCu−Co−Si合金は、EBSD測定による結晶方位解析において、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が20%以下、及びS方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が40〜70%であり、引張強さが700N/mm2以上であり、導電率が60%IACS以上であり、JIS Z2248に規定される180?曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0である。【選択図】なし

Description

本発明は、コネクタ、リレー、スイッチ、ジャックなどの電気・電子機器用部品に用いられるCu−Co−Si合金及びその製造方法に関する。
コネクタ、リレー、スイッチ、ジャックなどの電気・電子機器用部品に用いられる銅合金として、強度と導電性とを兼ね備えた3元系銅合金であるCu−Ni−Si合金が広く用いられている。Cu−Ni−Si合金は、溶体化処理後の時効処理において、微細なNiSi金属間化合物を分散析出させることで強度が向上する。また、合金母材の組成が純銅に近くなることで導電率が向上する。
しかしながら、Cu−Ni−Si合金は、時効処理の条件を最適化したとしても、NiSi金属間化合物が合金母材中に部分的に固溶するために、十分に分散析出させることが難しい。実際、Cu−Ni−Si合金の導電率は50%IACS程度が限界である。
そこで、導電率をより一層向上させることが可能な銅合金として、時効処理によってCoSi金属間化合物を分散析出させたCu−Co−Si合金が提案されている。Cu−Co−Si合金は、CoSi金属間化合物がNiSi金属間化合物に比べて合金母材に対する溶解度が低いため、50%IACSを超える導電率を達成することができる。
他方、昨今の電気・電子機器の軽薄短小化に伴い、電気・電子機器用部品に用いられる銅合金には、より過酷且つ複雑な曲げ加工が必要となってきた。そのため、銅合金には、曲げ加工性の向上が要求されている。一般に、銅合金の曲げ加工性は、銅合金の強度とトレードオフの関係にあるため、銅合金の強度を低下させることによって曲げ加工性を向上させることができる。例えば、銅合金の強度は、最終加工率(例えば、仕上げ冷間圧延の加工率)を小さくすることによって低下させることができる。
しかしながら、銅合金の強度を低下させると、部品の組み立て時、及び電気・電子機器の作動時に発生する応力に耐えることができないため、銅合金の強度を単純に低下させることは好ましくない。そのため、銅合金の強度を維持しつつ銅合金の曲げ加工性を向上させる必要がある。
Cu−Co−Si合金の曲げ加工性を向上させる方法としては、金属の延性を向上させる微量元素を添加する方法が考えられる。しかしながら、微量元素の添加は、銅合金の導電率が低下する原因となる。そのため、この方法では、銅合金の導電率を維持しつつ銅合金の曲げ加工性を向上させることができない。
近年、銅合金の強度及び導電率を維持しつつ曲げ加工性を向上させる方法として、銅合金の結晶方位を制御する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、Cube方位及びS方位の面積率を制御した銅合金(Cu−Ni−Si合金、Cu−Ni−Co−Si合金、Cu−Co−Si合金)が提案されている。
国際公開第2009/148101号明細書
しかしながら、特許文献1の銅合金は、良好な強度及び導電率を有しているものの、曲げ加工性が依然として十分でないという問題がある。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有する銅合金及びその製造方法、具体的には、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上、且つJIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0であるCu−Co−Si合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記のような問題を解決すべく、Cu−Co−Si合金の結晶方位と強度、導電率及び曲げ加工性との関係について鋭意研究した結果、現時点において詳細なメカニズムはわかっていないものの、Cu−Co−Si合金の組成を制御すると同時に、Cube方位の面積率を20%以下の低割合、且つS方位の面積率を40〜70%の高割合に制御することで、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、EBSD測定による結晶方位解析において、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が20%以下、及びS方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が40〜70%であり、引張強さが700N/mm以上であり、導電率が60%IACS以上であり、JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0であることを特徴とするCu−Co−Si合金である。
また、本発明は、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる鋳塊を冷間圧延、溶体化処理、時効処理、及び仕上げ冷間圧延の順で行うCu−Co−Si合金の製造方法であって、前記冷間圧延の加工率が70%以上、前記溶体化処理の加熱温度が700〜1000℃、前記溶体化処理の加熱時間が1〜30分、及び前記仕上げ冷間圧延の加工率が25%以下であることを特徴とするCu−Co−Si合金の製造方法である。
本発明によれば、良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有する銅合金及びその製造方法、具体的には、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上、且つJIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0であるCu−Co−Si合金及びその製造方法を提供することができる。
実施の形態2のCu−Co−Si合金の製造方法のフロー図である。
実施の形態1.
(Cu−Co−Si合金)
本実施の形態に係るCu−Co−Si合金は、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する。Coの含有量が0.8質量%未満であるか、又はSiの含有量が0.16質量%未満であると、CoSi金属間化合物が十分に析出せず、Cu−Co−Si合金の強度と導電率とを同時に向上させることができない。一方、Coの含有量が1.8質量%を超えるか、又はSiの含有量が0.6質量%を超えると、CoSi金属間化合物以外の金属間化合物(例えば、Co−Si金属間化合物、Cu−Co−Si金属間化合物など)が多く析出してしまい、Cu−Co−Si合金の強度と導電率とを両立させることができない。
CoとSiとの質量比(Co/Si)は、特に限定されないが、好ましくは1.0〜9.0、より好ましくは2.0〜7.0、最も好ましくは3.0〜5.0である。Co/Siが1.0未満であるか又は9.0よりも高いと、CoSi金属間化合物以外の金属間化合物が多く析出してしまい、Cu−Co−Si合金の強度と導電率とを同時に向上させることができない。
なお、本明細書において「不可避的不純物」とは、通常の地金中に含まれる不純物又は銅合金の製造中に混入する不純物を意味し、例えば、As、Sb、Bi、Pb、S、Fe、O及びHなどが挙げられる。
本実施の形態に係るCu−Co−Si合金は、強度、導電率及び曲げ加工性の全てを向上させる観点から、EBSD測定による結晶方位解析において、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が20%以下、及びS方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が40〜70%である。Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率及びS方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が上記の範囲外であると、Cu−Co−Si合金の強度、導電率及び曲げ加工性のいずれかの特性が低下する。
ここで、本明細書において「EBSD」とは、電子後方散乱解析(Electron Back-Scatter Diffraction)のことを意味し、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線解析を利用した結晶方位解析である。具体的には、この解析方法は、SEM画面上に表れる個々の結晶粒に電子ビームを照射し、後方散乱電子が回折して形成される菊池パターンから個々の結晶方位を同定する方法である。また、この解析方法では、Cu−Co−Si合金の圧延方向(RD)をX軸、板幅方向(TD)をY軸、圧延法線方向(ND)をZ軸とする直角座標系を取り、Cu−Co−Si合金中の各方位は、Z軸に垂直(圧延面に平行)な結晶面の指数{h k l}と、X軸に垂直な結晶面の指数<u v w>とを用いて、{h k l}<u v w>と一般に表される。この方法によると、Cube方位は{0 0 1}<1 0 0>、S方位は{2 3 1}<3 4 6>と表される。
本明細書において「Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率」とは、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率の理想方位から±10°以内の面積の全測定面積に対する割合のことを意味する。また、「S方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率」とは、S方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率の理想方位から±10°以内の面積の全測定面積に対する割合のことを意味する。
本実施の形態に係るCu−Co−Si合金は、メッキ密着性などの特性を向上させる観点から、Znをさらに含有することができる。Znは、Snメッキ及びSn合金メッキ後の経時変化による界面剥離を抑制する効果を有する。
Cu−Co−Si合金におけるZnの含有量は、特に限定されないが、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。このような範囲であれば、Cu−Co−Si合金の強度、導電率及び曲げ加工性を損なうことなく、メッキ密着性を向上させることができる。Znの含有量が0.1質量%未満であると、Znの添加によるメッキ密着性の向上効果が得られないことがある。一方、Znの含有量が1.0質量%を超えると、Cu−Co−Si合金の導電率が低下することがある。
本実施の形態に係るCu−Co−Si合金は、強度を向上させる観点から、Fe、Ni、P、Sn、Mg、Zr、Cr及びMnからなる群から選択される1種以上の元素をさらに含有することができる。
Cu−Co−Si合金における上記元素の含有量は、特に限定されないが、総量で0.01〜0.2質量%であることが好ましい。上記元素の含有量が0.01質量%未満であると、上記元素の添加による強度向上効果が十分に得られないことがある。一方、上記元素の含有量が0.2質量%を超えると、Cu−Co−Si合金の導電率が低下することがある。
本実施の形態に係るCu−Co−Si合金は、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上、JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0である。このような引張強さ、導電率及び曲げ加工性を有するCu−Co−Si合金であれば、電気・電子機器の軽薄短小化に伴う要求を満足させることができる。
ここで、本明細書において「引張強さ」とは、JIS Z2241に準拠して室温にて測定される値のことを意味する。
また、本明細書において「導電率」とは、JIS H0505に準拠して室温にて測定される値のことを意味する。
また、本明細書において「JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0である」とは、JIS Z2248に準拠し、曲げ軸が圧延方向に直角となるように180°密着曲げを行った場合(GW:Good Way)、及び曲げ軸が圧延方向に平行となるように180°密着曲げを行った場合(BW:Bad Way)のいずれにおいても、曲げ部にクラックが発生しないことを意味する。
実施の形態2.
(Cu−Co−Si合金の製造方法)
金属間化合物を析出させる一般的な銅合金は、鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、及び仕上げ冷間圧延の順で処理を行うことによって製造される。ここで、銅合金の結晶方位は、冷間圧延、溶体化処理及び仕上げ冷間圧延の条件を調整することによって制御されている。Cu−Co−Si合金においても、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>(以下、「Cube方位」と略す。)及びS方位{2 3 1}<3 4 6>(以下、「S方位」と略す。)の面積率は、溶体化処理で生成したCube方位の結晶を、仕上げ冷間圧延によってS方位に変化させることで制御されている。
ところが、上記の方法では、Cube方位の面積率が低く且つS方位の面積率が高いCu−Co−Si合金を製造する場合、仕上げ冷間圧延の加工率を高くしなければならない。その結果、Cu−Co−Si合金の強度が高くなり、曲げ加工性が低下してしまう。
一方、本発明者らは、良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有するCu−Co−Si合金を製造するために、製造工程の見直し、工程の入れ替え、条件変更などを行った結果、鋳塊を熱間圧延する代わりに、加工率が70%以上の冷間圧延を行なうことで、S方位の面積率が90%程度まで急激に上昇することを見出した。さらに、所定の条件で溶体化処理及び仕上げ冷間圧延を行なうことにより、S方位が他の方位(Cube方位、Goss方位、Copper方位など)に変化し、最終的にS方位の面積率が40〜70%、Cube方位の面積率が20%以下となり、このような結晶方位を有するCu−Co−Si合金が良好な強度及び導電率に加えて、優れた曲げ加工性を有することを見出した。
すなわち、本実施の形態のCu−Co−Si合金の製造方法は、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる鋳塊を冷間圧延、溶体化処理、時効処理、及び仕上げ冷間圧延の順で行われ、冷間圧延の加工率が70%以上、溶体化処理の加熱温度が700〜1000℃、溶体化処理の加熱時間が1〜30分、及び仕上げ冷間圧延の加工率が25%以下であることを特徴とする。
以下、本実施の形態のCu−Co−Si合金の製造方法について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態のCu−Co−Si合金の製造方法のフロー図である。
まず、0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる合金原料を溶解して鋳造することによって鋳塊を得る(ステップS1)。
ステップS1の鋳造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、高周波誘導加熱炉、シャフト炉などの公知の装置を用い、合金原料を融点以上の温度に加熱して鋳造すればよい。
合金原料には、Cu−Co−Si合金のメッキ密着性を向上させる観点から0.1〜1.0質量%のZnをさらに配合してもよい。また、Cu−Co−Si合金の強度を向上させる観点から、Fe、Ni、P、Sn、Mg、Zr、Cr及びMnからなる群から選択される1種以上の元素を0.01〜0.2質量%配合してもよい。
次に、ステップS1で得られた鋳塊を70%以上の加工率で冷間圧延する(ステップS2)。このような加工率で鋳塊を冷間圧延することにより、S方位の面積率を高めることができる。
加工率が70%未満であると、S方位の面積率が十分に向上しない。ここで、本明細書において「加工率」とは、(t−t)/(t)×100によって算出される割合のことを意味する。なお、tは加工前の板厚、tは加工後の板厚である。
また、従来の方法のように熱間圧延を行なうと、圧延と同時に再結晶が行われるため、複数の結晶方位(Cube方位、S方位、Goss方位、Copper方位など)が含まれる複雑な組織となり、S方位の面積率を高めることができない。
冷間圧延の方法としては、加工率が70%以上であれば特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
冷間圧延は、一般に、冷間圧延機への通板を繰り返すことによって、所望の加工率を有する圧延材を得ることができる。このとき、1パスあたりの加工率は、5%以下であることが好ましい。1パスあたりの加工率が5%以上であると、圧延材に割れが生じることがある。
冷間圧延のその他の条件(冷間圧延機のロール径など)は、特に限定されず、鋳塊の大きさなどに応じて適宜調整すればよい。一般には、500〜650mmφのロール径を有するロールを用いて冷間圧延を行なえばよい。
次に、必要に応じて、ステップS2の冷間圧延で生じた圧延材内部の応力を除去し、後の加工を容易にする観点から、焼鈍を行う(ステップS3)。
焼鈍の条件は、特に限定されず、鋳塊の組成などに応じて適宜調整すればよい。一般には、焼鈍温度が500〜800℃、保持時間が1〜4時間である。
また、焼鈍の方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
次に、必要に応じて、ステップS3の焼鈍で生じた圧延材表面の酸化膜を除去する観点から、面削を行う(ステップS4)。
面削の方法としては、特に制限されることはなく、公知の方法に準じて行うことができる。
次に、必要に応じて、所望の板厚とする観点から、ステップS4で得られた圧延材を冷間圧延する(ステップS5)。
ステップS5の冷間圧延における加工率は、特に限定されないが、好ましくは10〜50%である。冷間圧延のその他の条件(冷間圧延機のロール径など)は、特に限定されず、圧延材の大きさなどに応じて適宜調整すればよい。一般には、200〜300mmφのロール径を有するロールを用いて冷間圧延を行なえばよい。
次に、必要に応じて、ステップS5の冷間圧延で生じた圧延材内部の応力を除去し、後の加工を容易にする観点から、焼鈍を行う(ステップS6)。
焼鈍の条件は、特に限定されず、鋳塊の組成などに応じて適宜調整すればよい。一般には、焼鈍温度が500〜800℃、保持時間が1〜4時間である。
また、焼鈍の方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
次に、必要に応じて、所望の板厚とする観点から、ステップS6で得られた圧延材を冷間圧延する(ステップS7)。ステップS7の冷間圧延における加工率は、特に限定されないが、好ましくは10〜50%である。冷間圧延のその他の条件(冷間圧延機のロール径など)は、特に限定されず、圧延材の大きさなどに応じて適宜調整すればよい。一般には、30〜40mmφのロール径を有するロールを用いて冷間圧延を行なえばよい。
ステップS3及びS6の焼鈍によってS方位がCube方位などに変化するが、ステップS5及びS7の冷間圧延によってCube方位をS方位に変化させることができるため、S方位の面積率の低下を少なくすることができる。
次に、ステップS7で得られた圧延材を700〜1000℃の加熱温度で1〜30分間加熱した後に、水中で急冷する溶体化処理を行う(ステップS8)。
上記のような加熱温度及び加熱時間に制御することにより、CoSi金属間化合物を十分に固溶させることができる。加熱温度が700℃未満又は加熱時間が1分未満であると、CoSi金属間化合物が十分に固溶せず、Cu−Co−Si合金の強度及び導電率を向上させることができない。一方、加熱温度が100℃超過又は加熱時間が30分超過であると、S方位の大部分がCube方位に変化し、S方位を高めることができない。その結果、良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有するCu−Co−Si合金を得ることができない。
ステップS8の溶体化処理における加熱及び急冷の方法は、特に制限されることはなく、公知の方法に準じて行うことができる。
次に、ステップS8で得られた圧延材を時効処理する(ステップS9)。
時効処理の条件としては、特に限定されず、圧延材の種類に応じて適宜調整すればよい。一般には、加熱温度を400〜600℃、加熱時間を2〜8時間として時効処理を行う。このような加熱温度及び加熱時間に制御することにより、微細なCoSi金属間化合物をCu母材中に分散析出させることができる。
また、時効処理の冷却速度は、少なくとも380℃まで10〜50℃/hの冷却速度で行うことが好ましい。時効処理の冷却速度によって結晶方位が変化することはないが、冷却速度が10℃/h未満であると、CoSi金属間化合物が粗大化し、Cu−Co−Si合金の強度及び曲げ加工性が低下する場合がある。一方、冷却速度が50℃/hを超えると、Cu−Co−Si合金に残留応力が残り、この応力によってCoSi金属間化合物の析出量が少なくなる場合がある。その結果、Co及びSiが固溶状態を保持するため、Cu−Co−Si合金の強度及び導電率が向上しないことがある。
ステップS9の時効処理における加熱方法は、特に制限されることはなく、公知の方法に準じて行うことができる。
次に、ステップS9で得られた圧延材を25%以下の加工率で仕上げ冷間圧延する(ステップS10)。このような加工率で圧延材を仕上げ冷間圧延することにより、Cu−Co−Si合金の強度が過度に高くならず、Cu−Co−Si合金の曲げ加工性を向上させることができる。仕上げ冷間圧延の加工率が25%を超えると、Cu−Co−Si合金の強度が過度に高くなり、Cu−Co−Si合金の曲げ加工性が低下する。
ステップS10の仕上げ冷間圧延におけるその他の条件(冷間圧延機のロール径など)は、特に限定されず、圧延材の大きさなどに応じて適宜調整すればよい。一般には、30〜40mmφのロール径を有するロールを用いて仕上げ冷間圧延を行なえばよい。
次に、必要に応じて、ステップS10の仕上げ冷間圧延で生じた圧延材内部の残留応力を除去する観点から、低温で焼鈍を行う(ステップS6)。
焼鈍の条件は、特に限定されず、圧延材の種類などに応じて適宜調整すればよい。一般には、焼鈍温度が200〜450℃、保持時間が2〜8時間である。
また、焼鈍の方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
上記のようにして製造されるCu−Co−Si合金は、特定の組成を有すると共に、S方位の面積率が40〜70%、Cube方位の面積率が20%以下である結晶方位を有するため、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上、JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0となる。
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で得られたCu−Co−Si合金の各特性は、次の手順に従って評価した。
(1)Cube方位及びS方位の面積率
EBSD法を用い、結晶粒を100個以上含む250μm四方の測定面積に対し、0.5μmのステップでスキャンすることによって結晶方位の測定を行った。測定試料は、Cu−Co−Si合金をエポキシ樹脂に包埋し、コロイダルシリカを用いて表面を研磨することによって調製した。なお、各方位の理想方位から±10°以内の面積を各方位の面積とし、全測定面積に対する各方位の面積の割合を各方位の面積率とした。
(2)引張強さ
引張強さの評価は、JIS Z2241に準拠して室温にて行った。
(3)導電率
導電率の評価は、JIS H0505に準拠して室温にて行った。
(4)メッキ密着性
メッキ密着性の評価は、Cu−Co−Si合金に厚さ3μmの電気Snメッキを施し、10時間の加熱を行った後、180度の折り曲げ、曲げ戻し試験を行い、試料表面を目視で観察することによって行った。この評価では、メッキ膜が全く損傷していないものを○、メッキ膜が剥離していないものの、損傷が認められるものを△、メッキ膜が剥離したものを×として表す。
(5)曲げ加工性
曲げ加工性の評価は、JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性の評価方法に準拠して行った。この評価において、Cu−Co−Si合金の曲げ軸が圧延方向に直角となるように180°密着曲げを行った場合をGW、Cu−Co−Si合金の曲げ軸が圧延方向に平行となるように180°密着曲げを行った場合をBWとし、曲げ部の表面を光学顕微鏡で観察することによってクラックの有無を評価した。なお、クラックが微細であり、評価が難しい場合は、曲げ後のCu−Co−Si合金を樹脂に包埋し、研磨した後に光学顕微鏡によってクラックの有無を評価した。クラックが発生しなかったものを○、クラックが発生したものを×として表す。
(実施例1−1〜1−9及び比較例1−1〜1−6)
表1に示す組成、並びにCube方位及びS方位の面積率を有するCu−Co−Si合金を図1のフローチャートに従って製造した。なお、Cu−Co−Si合金中のCuの含有量については明示していないが、示された他の成分の量から算出することが容易であることは言うまでもない。以下に、図1のフローチャートを用いてCu−Co−Si合金の製造方法を具体的に説明する。
まず、表1に示す組成を満たす合金原料(Cu、Co、Si)を準備し、これらの合金原料を高周波溶解炉で溶解した後、板状の鋳塊に鋳造した(ステップS1)。
次に、ステップS1で得られた鋳塊を70%の加工率で冷間圧延した(ステップS2)。
次に、ステップS2で得られた圧延板を800℃で2時間焼鈍した(ステップS3)。
次に、ステップS3で得られた圧延板を面削した(ステップS4)。
次に、ステップS4で得られた圧延板を40%の加工率で冷間圧延した(ステップS5)。
次に、ステップS5で得られた圧延板を800℃で2時間焼鈍した(ステップS6)。
次に、ステップS6で得られた圧延板を40%の加工率で冷間圧延した(ステップS7)。
次に、ステップS7で得られた圧延板を850℃で5分間加熱した後に水中で急冷する溶体化処理を行った(ステップS8)。
次に、ステップS8で得られた圧延板を500℃で4時間加熱し、30℃/hの冷却速度で380℃まで冷却する時効処理を行った(ステップS9)。
次に、ステップS9で得られた圧延板を10%の加工率で仕上げ冷間圧延した(ステップS10)。
次に、ステップS10で得られた圧延板を300℃で4時間焼鈍した(ステップS11)。
(実施例2−1〜2−3及び比較例2−1〜2−3)
実施例2−1〜2−3及び比較例2−1〜2−3では、ステップ2の冷間圧延における加工率を表1に示す割合に変更してCu−Co−Si合金を作製した。ステップ2の冷間圧延における加工率以外の製造条件は、実施例1−1〜1−9と同じである。
(実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−4)
実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−4では、ステップ8の溶体化処理における加熱温度及び加熱時間を表1の通りに変更してCu−Co−Si合金を作製した。ステップ8の溶体化処理における加熱温度及び加熱時間以外の製造条件は、実施例1−1〜1−9と同じである。
(実施例4−1〜4−4及び比較例4−1〜4−2)
実施例4−1〜4−4及び比較例4−1〜4−2では、ステップ10の仕上げ冷間圧延における加工率を表1に示す割合に変更してCu−Co−Si合金を作製した。ステップ10の仕上げ冷間圧延における加工率以外の製造条件は、実施例1−1〜1−9と同じである。
上記の実施例及び比較例で得られたCu−Co−Si合金について、(1)Cube方位及びS方位の面積率、(2)引張強さ、(3)導電率、及び(5)曲げ加工性の評価を行った。その結果を表1に示す。
Figure 2015203141
表1に示すように、実施例で得られたCu−Co−Si合金は、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上であり、且つ曲げ加工性も良好であった。
これに対して比較例で得られたCu−Co−Si合金は、引張強さ、導電率又は曲げ加工率が十分でなかった。
以下、上記の実験結果について検討する。
Cu−Co−Si合金の組成に関し、Coの含有量が0.8〜1.8質量%、Siの含有量が0.16〜0.6質量%の範囲外であると、引張強さが向上しない上、導電率も低下することがある(比較例1−1〜1−6の結果参照)。
ステップ2の冷間圧延における加工率に関し、加工率が大きくなるほど、S方位の面積率が増加し、引張強さが向上する傾向にある(実施例2−1〜2−3の結果参照)。また、加工率が70%未満であると、S方位の面積率が減少し、曲げ加工性が低下する(比較例2−1〜2−3の結果参照)。
ステップ8の溶体化処理における加熱温度及び加熱時間に関し、加熱温度及び加熱時間が増加すると、Cube方位の面積率が増加する傾向があるが、引張強さ、導電率及び曲げ加工率にはあまり変化がない(実施例3−1〜3−4)。また、加熱温度が1000℃を超えるか又は加熱時間が30分を超えると、S方位の面積率が著しく減少し、曲げ加工性が低下する(比較例3−2及び3−4の結果参照)。一方、加熱温度が700℃未満又は加熱時間が1分未満であると、S方位の面積率は高いままであるが、CoSi金属間化合物が十分に固溶しないために、引張強さ及び導電率が十分に向上しない。
ステップ10の仕上げ冷間圧延における加工率に関し、加工率が大きくなるほど、S方位の面積率が増加し、引張強さが向上する傾向にある(実施例4−1〜4−4の結果参照)。ただし、加工率が25%を超えると、引張強さが過度に高くなり、曲げ加工性が低下する(比較例4−1〜4−2参照)。
(実施例5−1〜13−5)
実施例5−1〜13−5では、任意成分であるZn、Fe、Ni、P、Sn、Mg、Zr、Cr又はMnを更に含む組成を有するCu−Co−Si合金を実施例1−1〜1−9と同じ製造条件で製造した。
上記の実施例で得られたCu−Co−Si合金について、(1)Cube方位及びS方位の面積率、(2)引張強さ、(3)導電率、(4)メッキ密着性及び(5)曲げ加工性の評価を行った。その結果を表2及び3に示す。なお、表2及び3では、Co及びSiの含有量及び製造条件が本実施例と同一である実施例1−6について同様の評価を行った結果を参考として示す。
Figure 2015203141
Figure 2015203141
表2及び3に示すように、実施例5−1〜13−5で得られたCu−Co−Si合金はいずれも、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上であり、且つ曲げ加工性も良好であった。
また、Znを0.1〜1.0質量%の範囲で含むCu−Co−Si合金は、良好なメッキ密着性を有していた(実施例5−1〜5−5の結果参照)。
さらに、Fe、Ni、P、Sn、Mg、Zr、Cr又はMnを0.01〜0.2質量%の範囲で含むCu−Co−Si合金は、引張強さがやや向上する傾向にあった(実施例6−1〜13−5の結果参照)。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、良好な強度、導電率を維持し、優れた曲げ加工性を有する銅合金及びその製造方法、具体的には、引張強さが700N/mm以上、導電率が60%IACS以上、且つJIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0であるCu−Co−Si合金及びその製造方法を提供することができる。

Claims (4)

  1. 0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、
    EBSD測定による結晶方位解析において、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が20%以下、及びS方位{2 3 1}<3 4 6>の面積率が40〜70%であり、
    引張強さが700N/mm以上であり、
    導電率が60%IACS以上であり、
    JIS Z2248に規定される180°曲げ試験による曲げ加工性(R/t)が0である
    ことを特徴とするCu−Co−Si合金。
  2. 0.1〜1.0質量%のZnをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のCu−Co−Si合金。
  3. Fe、Ni、P、Sn、Mg、Zr、Cr及びMnからなる群から選択される1種以上の元素を総量で0.01〜0.2質量%さらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のCu−Co−Si合金。
  4. 0.8〜1.8質量%のCo及び0.16〜0.6質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる鋳塊を冷間圧延、溶体化処理、時効処理、及び仕上げ冷間圧延の順で行うCu−Co−Si合金の製造方法であって、
    前記冷間圧延の加工率が70%以上、前記溶体化処理の加熱温度が700〜1000℃、前記溶体化処理の加熱時間が1〜30分、及び前記仕上げ冷間圧延の加工率が25%以下であることを特徴とするCu−Co−Si合金の製造方法。
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