本発明のポリカーボネート樹脂フィルムは、界面重縮合法による直鎖状のポリカーボネート樹脂を使用しているにも関らず、非常に広い分子量分布を持つ点に特徴がある。本発明のような広範な分子量分布を有するポリカーボネート樹脂は、界面重縮合法にて直接合成するのは非常に難しいので、それぞれ別々に合成された高分子量のポリカーボネート樹脂材料と低分子量のポリカーボネート樹脂材料とをブレンドすることによって得られる。平均分子量が大きく異なる2つのポリカーボネート樹脂を、溶融押出成形によるフィルム化の際に、均一にブレンドすることは極めて難しいため、ブレンドを行うタイミングとしては、予め、2つのポリカーボネート樹脂材料を分子レベルでプリブレンドしておく必要がある。平均分子量の大きく異なるポリカーボネート樹脂をプリブレンドする方法としては、2つのポリカーボネート樹脂材料を塩化メチレンのような良溶媒に溶かしてよく撹拌した後、脱気押出を行いながらペレット化する方法等が挙げられる。なお、最も好ましい方法としてはポリカーボネート樹脂重合完了後の樹脂溶液同士をブレンドした後に、固形化及び乾燥を行うことによって、分子量分布の広いポリカーボネート樹脂の粉末を得る方法であり、フィルム製膜までの熱履歴を減らすことができることに加えて、製造コストの大幅削減が可能であるというメリットを有する。
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムに使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記に示すGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定された標準ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した分子量分布(Mw/Mn)が3.0〜6.0の範囲にあり、且つ粘度平均分子量(Mv)が18,000〜50,000の範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂である。より好ましくは分子量分布(Mw/Mn)が3.5〜6.0、更に好ましくは3.8〜6.0であり、粘度平均分子量(Mv)はより好ましくは18,000〜40,000、更に好ましくは26,000〜40,000である。分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満である場合と6.0を超える場合には、溶融もしくは軟化状態における粘性と弾性とのバランスが良くないので、溶融押出成形時における成形加工性と表面賦形性、熱成形時における耐ドローダウン性と熱成形性という相反する特性を両立させることができない。また、粘度平均分子量が18,000未満の場合には、フィルムの材料強度の面から好ましくなく、50,000を超えると溶融押出成形時の製膜性の観点から好ましくない。
分子量分布(Mw/Mn)と粘度平均分子量(Mv)をともに上記範囲内に収めることによって、溶融押出成形時の成形加工性や表面賦形性、熱成形時の形状賦形性や耐ドローダウン性を改善することができる。
ここで、GPCの測定方法は以下の通りである。即ち温度23℃、相対湿度50%の清浄な空気の環境下に置かれたGPC測定装置を用い、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製MIXED−C(長さ300mm、内径7.5mm)、移動相としてクロロホルム、標準物質としてポリマーラボラトリーズ社製イージーキャルPS−2、および検出器として示差屈折率計を用い、展開溶媒としてクロロホルムを使用し、かかるクロロホルム1ml当たり1mgの試料を溶解した溶液を、GPC測定装置に100μl注入し、カラム温度35℃および流量1ml/分の条件によりGPC測定を行う。得られたデータに対してベースラインをチャートの立ち上がり点および収束点を結ぶことで定め、これより重量平均分子量及び数平均分子量を求める。
また、本発明でいう粘度平均分子量Mvは塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηSP)を次式に挿入して求める。
また、本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムは、界面重縮合法にて製造された芳香族ポリカーボネート樹脂を使用している為、分岐化構造や水酸基末端等の不安定構造を殆ど有さないため、溶融押出成形時にゲルやヤケ等の異物が発生し難く、色相及び外観性能の高いフィルムを成形することが可能である。
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムに使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量(Mv)が3,000〜25,000の範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と、粘度平均分子量(Mv)が50,000〜90,000の範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂(b)とを、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と(b)の合計量を100質量%として(a):(b)=99質量%〜50質量%:1質量%〜50質量%の割合でブレンドすることによって製造することができる。即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)の質量百分率をαとしたとき、芳香族ポリカーボネート樹脂(b)の質量百分率βは(100−α)であり、αの値は、上記のとおり、50≦α≦99であり、好ましくは55≦α≦95、より好ましくは60≦α≦90である。本発明では、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(b)と比較してより多く含有することが好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と芳香族ポリカーボネート樹脂(b)とのブレンド体は、前述したように、それぞれの樹脂材料を塩化メチレンのような良溶媒に溶解させておき、その樹脂溶液同士をブレンド・撹拌した後、析出や乾燥等、何らかの方法にて前記良溶媒を除去することによって、作製することが可能である。
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)及び前記芳香族ポリカーボネート樹脂(b)は、単一の原料モノマーを用いて製造されたホモポリマーであっても、少なくとも2種類以上の原料モノマーを用いて製造された共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、所望の性能を損なわない限り、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)及び(b)共に、2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂のブレンド物であってもよい。
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)及び(b)は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]のホモポリマー、もしくはビスフェノールAと以下の式[1]で表される成分との共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。さらに好ましくは、ビスフェノールAと以下の式[1]で表される成分との共重合比率が100質量%〜90質量%:0質量%〜10質量%の範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂を選択することが望ましい。
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(a)は粘度平均分子量(Mv)が小さく、比較的、可塑化が容易であるので、ビスフェノールAのホモポリマーである方が好ましいが、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(b)は粘度平均分子量(Mv)が非常に大きいので、ホモポリマーを選択した場合には可塑化し難く、未溶融物が発生して、フィルムの外観を悪化させることが多々ある。故に、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(b)は、分子鎖構造の均一性を低下させることによって可塑化性の改善を図る方が好ましく、上述したような共重合ポリカーボネート樹脂を選択することが望ましい。
ここで、式[1]中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、各々が置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、または、炭素数7〜17のアラルキル基であり、これらの基の炭素のいずれもが有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、または、炭素数1〜5のアルコキシ基である。
であり、ここで、R5およびR6はそれぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、各々が置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、または、炭素数7〜17のアラルキル基であり、あるいは又、R5およびR6が互いに結合して炭素環または複素環を形成する基であり、これらの基の炭素のいずれもが有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルケニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり;R7およびR8はそれぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、各々が置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、または、炭素数6〜12アリール基であり、これらの基の炭素のいずれもが有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素であり、R9は、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキレン基であり;aは0〜20の整数を表し;およびbは1〜500の整数を表す。
上記式[1]で表される成分の具体例には、1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン[=ビスフェノールC]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、α,ω−ビス[2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル]ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、および4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノールが含まれる。これらの中でも、特に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン[=ビスフェノールC]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンであることが好ましく、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]であることがより好ましい。
また、前記式[1]で表される化合物のほか、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレンなども使用することができる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物についても、単独で用いてもよく、また、共重合体を得るため2種以上を併用してもよい。
<添加剤>
本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムには、少なくとも前記ポリカーボネート樹脂を含み、必要に応じて各種添加剤が配合される。前記添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤及び難燃剤から成る群から選択された少なくとも1種類とすることができる。また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、滑剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、充填材(強化材)等を添加してもよい。
ここで、熱安定剤として、フェノール系やリン系、硫黄系の熱安定剤を挙げることができる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等、第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等を挙げることができる。あるいは又、分子中の少なくとも1つのエステルがフェノール及び/又は炭素数1〜25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物(a)、亜リン酸(b)及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト(c)の群から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。亜リン酸エステル化合物(a)の具体例として、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
有機ホスファイト化合物として、具体的には、例えば、ADEKA社製(商品名、以下同じ)「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・ジャパン社製「イルガフォス168」等を挙げることができる。
また、リン酸エステルとして、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
熱安定剤の添加割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
また、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等を挙げることができる。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等を挙げることができる。フェノール系酸化防止剤として、具体的には、例えば、チバ・ジャパン社製「イルガノックス1010」(登録商標、以下同じ)、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げることができる。
酸化防止剤の添加割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の添加割合が下限値以下の場合、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の添加割合が上限値を超える場合、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
また、紫外線吸収剤として、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物、サリチル酸フェニル系化合物等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物の具体例として、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステル、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]、[メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げることができる。これらの2種以上を併用してもよい。上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例として、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等を挙げることができる。また、サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例として、フェニルサリシレート、4−tert−ブチル−フェニルサリシレート等を挙げることができる。更には、トリアジン系紫外線吸収剤の具体例として、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール等を挙げることができる。また、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例として、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等を挙げることができる。
紫外線吸収剤の添加割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の添加割合が下限値以下の場合、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の添加割合が上限値を超える場合、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
また、離型剤として、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス(ポリオレフィン系)等を挙げることができる。具体的には、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。脂肪族カルボン酸として、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで、脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中でも、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。脂肪族カルボン酸の具体例として、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸として、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとして、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで、脂肪族には脂環式化合物も包含される。アルコールの具体例として、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。尚、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素として、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等を挙げることができる。ここで、脂肪族炭化水素には脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であってもよく、主成分が上記の範囲内であればよい。ポリシロキサン系シリコーンオイルとして、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等を挙げることができる。これらの2種類以上を併用してもよい。離型剤の添加割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、2質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。離型剤の添加割合が下限値以下の場合、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の添加割合が上限値を超える場合、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等が生じる可能性がある。
また、着色剤としての染顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等を挙げることができる。無機顔料として、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等を挙げることができる。また、着色剤としての有機顔料及び有機染料として、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等を挙げることができる。そして、これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系染顔料等が好ましい。尚、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。着色剤の添加割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。着色剤の添加割合が多すぎると耐衝撃性が十分で無くなる可能性がある。
また、難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤(芳香族系、ポリマー型、オリゴマー型など)、リン系難燃剤(赤リン、芳香族リン酸エステル類など)、金属塩系難燃剤(有機スルホン酸金属塩、カルボン酸金属塩、芳香族スルホンイミド金属塩、ホウ酸亜鉛など)などが挙げられる。難燃剤の使用量は、例えば、ポリカーボネート100重量部に対して、0〜50重量部程度の範囲から適宜選択できる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムにおいては、紫外線吸収剤などに基づく黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としてはポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。具体的なブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、一般名Solvent Violet31[CA.No68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、一般名Solvent Violet33[CA.No60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、一般名Solvent Blue94[CA.No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名Solvent Violet36[CA.No68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[商標名 バイエル社製「マクロレックスブルーRR」]および一般名SolventBlue45[CA.No61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社のマクロレックスバイオレットやトリアゾールブルーRLS等があげられる。
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムには、所定の性能を損なわない範囲内で、他の添加剤、例えば補強剤(タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、各種ウイスカーなど)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子など)、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤を配合することも可能である。
<ポリカーボネート樹脂フィルム>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂フィルムは、前記記載の芳香族ポリカーボネート樹脂材料を溶融押出成形法によりフィルム化することによって作製される。溶融押出成形法の採用は、経済性の観点からも非常に好適である。溶融押出成形法としては、Tダイ法、インフレーション法、ブロー法などの何れの方法を用いることもできる。なお、同種又は異種の熱可塑性樹脂を用いて共押出成形を行い、多層フィルムを得ることもできる。更に、フィルムは無延伸であってもよく、また延伸されていてもよい。ここで、本発明におけるフィルムという言葉の概念には、厚みの厚いシートという概念が含まれている。
なお、場合によっては、ソルベントキャスト法等を採用しても構わない。ソルベントキャスト法を採用する場合には、高分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂(a)と低分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂(b)のブレンド溶液から、分子量分布の広い芳香族ポリカーボネート樹脂組成物への固形化操作を省くことができるというメリットを有する。
押出成形する際の成形温度(シリンダー温度)は、例えば240〜340℃、より好ましくは250〜300℃程度の範囲で適宜選択できる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂フィルムは、適度な溶融弾性と溶融粘度を有するため、比較的マイルドな成形条件で製造することができる。押出機のスクリュの長さLと直径Dとの比L/Dは、例えば24〜32程度、圧縮比は、例えば2〜3程度である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みは、特に制限されないが、例えば0.05mm〜0.5mm、好ましくは0.1mm〜0.3mm程度である。
<ポリカーボネート樹脂フィルムの第1の態様>
本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムは、耐ドローダウン性と熱成形性に非常に優れているので、熱成形用フィルムとして好適に使用することができる。また、それ単独でも熱成形用フィルムとして使用できるが、熱成形性を損なわない範囲で、耐薬品性、耐擦傷性、耐指紋性を改善するために、少なくとも1つの表面にハードコート層を設けることも可能である。
前記ハードコート層は、アクリル系、シリコン系、メラミン系、ウレタン系、エポキシ系等公知の架橋皮膜を形成する化合物を使用することができる。また、硬化方法も紫外線硬化、熱硬化、電子線硬化等公知の方法を用いることができる。これらの中で、表面側とする面には、鉛筆硬度H以上と出来るものが好ましく、熱成形性とのバランスからアクリル系が好ましいものとして例示される。
アクリル系の化合物としては、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基及び/またはメタクリロイルオキシ基の意、以下同じ)を有する架橋重合性化合物であって、各(メタ)アクリロイルオキシ基を結合する残基が炭化水素またはその誘導体であり、その分子内にはエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を含むことができる。また、熱賦形性を付与する成分として分子量が千〜数千の長鎖成分を適宜含むことができる。
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムにハードコート層を塗布する方法としては、刷毛、ロール、ディッピング、流し塗り、スプレー、ロールコーター、フローコーターや特開2004−130540号公報(特許文献16)に提案された方法などを適用することができる。ハードコート層の厚さは1〜20μm、好ましくは2〜15μm、更に好ましくは3〜12μmである。ハードコート層の厚さが1μm未満であると表面硬度の改良効果が不十分になりやすく、逆に20μmを超えても表面硬度の改良効果は更には向上し難く、コスト的に不利で、耐衝撃性の低下を招くこともある。
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムの熱成形方法としては、圧空成形、真空成形、圧空真空成形、熱板成形等、ごく一般的な熱成形法を採用することができる。フィルムの予備加熱方法としては、熱板等による直接接触加熱方式とIRヒータ等による非接触加熱方式の2種類があるが、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムの場合には、耐ドローダウン性に優れているため、非接触加熱方式を採用する方が好ましい。本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムの熱成形温度としては、130〜200℃、より好ましくは170〜190℃である。
本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムを熱成形した物品に関しては、そのままの状態で製品として使用することもできるし、射出成形金型の中にインサートしたのち、射出成形樹脂を裏射ちすることによってインモールド成形品として製品化することも可能である。熱成形したポリカーボネート樹脂フィルムをそのままの状態で製品とする場合には、ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みを0.7〜1.5mm、より好ましくは0.8〜1.2mmの範囲に設定することが望ましい。また、インモールド成形品とする場合には、ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みを0.1〜0.5mmの範囲とすることが好ましい。
<ポリカーボネート樹脂フィルムの第2の態様>
本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムは表面賦形性に優れているので、熱インプリント成形によって、少なくとも1つの表面に微細凹凸形状を設けることで、光学フィルムとして好適に使用することができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを溶融押出法にて成形する際に直接、微細凹凸形状を賦与しても構わない。微細凹凸形状としては、マット、プリズム、マイクロレンズなどが挙げられ、その形状に応じて光拡散機能や集光機能を付与することができる。
本発明におけるポリカーボネート樹脂フィルムの少なくとも1つの表面に微細凹凸形状を賦与させる方法としては、完全溶融又は軟化状態にあるポリカーボネート樹脂フィルムを、表面に微細凹凸形状が形成された賦形用冷却ロールと圧着ロールとの間で狭圧して、賦形用冷却ロール表面の微細凹凸形状をフィルム表面側に転写させた後、それを冷却固化することによって達成される。
表面に微細凹凸構造が設けられた賦形用冷却ロールは、鉄芯ロール上にメッキを施した後、ダイヤモンドバイトによる切削加工、砥石による研削加工、選択的に腐食を施すエッチング加工やその他、多くの既存のパターンニング技術を用いて、製作することができる。
前記メッキ種としては、銅メッキ、ニッケルメッキ等が挙げられるが、溶融押出成形の場合には高い線圧がかかるので、耐久性に優れた表面硬度の高いニッケル−リンメッキが最も好ましい。ニッケル−リンメッキの施工方法には、電気メッキ法と無電解メッキ法があるが、どちらを使用しても構わない。この他、セラミックス層や低熱伝導金属材料層を下地層として設け、溶融樹脂の冷却を遅延することにより、微細凹凸形状の転写性を向上させたような特殊な賦形用冷却ロールを使用しても構わない。賦形用冷却ロールの設定温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃である。
なお、圧着ロールとしては、金属剛体ロール、金属弾性ロール、ゴムロール等を適宜使用することができる。圧着ロールの設定温度としては、金属剛体ロール及び金属弾性ロールの場合には、当該ロールに接する方の樹脂のガラス転移温度より5℃から30℃程度、低い温度に設定することが好ましい。ゴムロールの場合には、冷却効率が悪いため、冷媒を用いて、100℃以下に設定するケースもあり得る。
上述したように、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムは、熱成形性や表面賦形性に優れていることから、電子機器筐体、容器蓋体、トレー、自動車用コンソール部材、液晶用光学部材等として好適に使用される。
また、特質すべき物性として、引き裂き強さに優れているので、研磨用フィルム基材として好適に用いることができる。
[発明の効果]
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムは、界面重縮合法によって製造された、分子量分布の広い芳香族ポリカーボネート樹脂を用いて作製されているので、適度な溶融粘性と溶融弾性を有しており、溶融押出成形性、表面賦形性、耐ドローダウン性及び熱成形性に優れており、熱成形用フィルムや表面賦形型光学フィルムの基材として好適である。更には、引き裂き強さが高いという性質を有するので、研磨用フィルム基材として好適である。
[発明の実施の形態]
以下に実施例、比較例を用いて本発明及びその効果を更に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
粘度平均分子量が77,000で、Mw/Mnが4.34のビスフェノールAによるポリカーボネート樹脂ホモポリマー粉末と、粘度平均分子量が15,800で、Mw/Mnが2.61のビスフェノールAによるポリカーボネート樹脂ホモポリマー粉末とを37:63の割合でブレンドし、これを塩化メチレンに溶解させて、ポリカーボネート樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液を50℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去すると同時に固形化物を粉砕して、白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過して、120℃で24時間乾燥することによって、ポリカーボネート樹脂粉末を再度得た。当該ポリカーボネート樹脂粉末の粘度平均分子量測定及びGPC測定を実施したところ、粘度平均分子量が36,700、Mw/Mnが5.62であった。
このポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、熱安定剤としてアデカスタブPEP36(株式会社アデカ製)を0.5重量部、離型剤としてリケマールS−100A(理研ビタミン株式会社製)を0.3重量部添加した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定された幅350mmのTダイでフィルム状に押し出して、金属鏡面ロールで巻き取ることにより、厚みが180μmの単層フィルムを作製した。溶融押出成形自体は何ら問題なく実施することが可能であり、良外観のプレーンフィルムが得られた。
次いで、前記プレーンフィルムの熱成形性評価を行った。前記プレーンフィルムをA4サイズにカットし、金属型枠で四隅を固定しながら、当該フィルムの表面温度が180℃に上昇するまで、IRヒータにて予備加熱を行った。加熱終了後、当該フィルムを120℃に温調された圧空成形金型の中に瞬時に移動させ、2.5MPaの圧縮空気を吹き込んで、圧空成形を実施して箱型成形体を得た。この箱型成形体根元部分のコーナーR部の曲率(外接円半径に相当)を調査した結果、0.2mmと非常に小さく、金型追随性が良好であることが判明した。
比較例1
粘度平均分子量が39,000で、Mw/Mnが2.66のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例1と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚みが180μmの単層フィルムの作製を試みたが、可塑化不良であると考えられる点状欠陥が大量に発生し、良外観のフィルムが得られなかった。Tダイの温度を330℃に設定しても押出状況にあまり変化は見られなかった。
比較例2
粘度平均分子量が27,500で、Mw/Mnが2.83のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例1と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚み180μmの単層プレーンフィルムを作製した。当該プレーンフィルムの熱成形性を実施例1と全く同じ方法にて調査した結果、箱型成形体根元部分のコーナーR部の曲率(外接円半径に相当)は1.0mmであり、金型追随性が低かった。
比較例3
粘度平均分子量が21,400で、Mw/Mnが2.68のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例1と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、270℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚み180μmの単層プレーンフィルムを作製した。当該プレーンフィルムの熱成形性を実施例1と全く同じ方法にて調査しようとしたものの、IRヒータによる予備加熱時にプレーンフィルムがドローダウンし、評価可能な箱型成形体が得られなかった。
粘度平均分子量が77,000で、Mw/Mnが4.34のビスフェノールAによるポリカーボネート樹脂ホモポリマー粉末と、粘度平均分子量が15,800で、Mw/Mnが2.61のビスフェノールAによるポリカーボネート樹脂ホモポリマー粉末とを37:63の割合でブレンドし、これを塩化メチレンに溶解させて、ポリカーボネート樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液を50℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去すると同時に固形化物を粉砕して、白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過して、120℃で24時間乾燥することによって、ポリカーボネート樹脂粉末を再度得た。当該ポリカーボネート樹脂粉末の粘度平均分子量測定及びGPC測定を実施したところ、粘度平均分子量が36,700、Mw/Mnが5.62であった。
このポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、熱安定剤としてアデカスタブPEP36(株式会社アデカ製)を0.5重量部、離型剤としてリケマールS−100A(理研ビタミン株式会社製)を0.3重量部添加した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定された幅350mmのTダイからフィルム状に押し出し、サンドブラスト法により表面にマット柄が付与されたマットロールと、金属弾性ロールとの間で圧着させながら巻き取ることによって、厚みが180μmのマットフィルムを作製した。マットロールの設定温度は135℃、金属弾性ロールの設定温度は120℃であり、ライン速度は7m/minであった。溶融押出成形自体は何ら問題なく実施することが可能であり、良外観のマットフィルムが得られた。当該マットフィルムの表面粗さ(Ra)とマットロール表面の表面粗さ(Ra)の比を取ることによって形状転写性を評価した結果、55%であった。
次に、当該マットフィルムを横76mm、縦63mmの大きさにカットし、それを4枚重ねた状態で長さ20mmの切れ込みを入れた後、エルメンドルフ引裂試験機を用いて、JIS P−8116に準拠して引裂強さを測定した結果、2,120mNであった。
比較例4
粘度平均分子量が39,000で、Mw/Mnが2.66のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例2と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚みが180μmのマットフィルムの作製を試みたが、可塑化不良であると考えられる点状欠陥が大量に発生し、良外観のフィルムが得られなかった。Tダイの温度を330℃に設定しても押出状況にあまり変化は見られなかった。
比較例5
粘度平均分子量が27,500で、Mw/Mnが2.83のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例2と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚み180μmのマットフィルムを作製した。当該マットフィルムの形状転写性を実施例2と全く同じ方法にて評価した結果、50%であった。また、当該マットフィルムの引裂強さを実施例2と同じ方法で測定した結果、2,000mNであった。
比較例6
粘度平均分子量が21,400で、Mw/Mnが2.68のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂粉末100重量部に対して、実施例2と全く同じ添加剤処方を施した後、50mmφの単軸押出機を用いて可塑化し、290℃に設定した幅350mmのTダイにてフィルム状に押し出して、厚み180μmのマットフィルムを作製した。当該マットフィルムの形状転写性を実施例2と全く同じ方法にて評価した結果、68%であった。また、当該マットフィルムの引裂強さを実施例2と同じ方法で測定した結果、1,880mNであった。